51: 2014/06/21(土) 23:09:07.37 ID:0yh0jj9y0
艦娘(子供の頃、よく親に連れられて天体観測をした)

艦娘(その時だけ夜更かししてもいい、というのもあったかも知れないけれど。星を見るのが好きだった)

艦娘(色んな色に輝く、光の強さも、大きさも、目では殆ど見えない星まであって、色んな瞬きを見上げるのは夢のようだった)

艦娘(やがて、星への憧れは、宇宙への憧れへと変わった)

艦娘(小学校の自由研究は天体観測で、読書感想文も宇宙に関する本で)

艦娘(私の将来の夢は、宇宙飛行士です――――誰もが憧れるその言葉は、いつしか本当へと変わった)

艦娘(猛勉強に励んで、幾つも積み重ねて。子供の頃の私を動かし続けたのは宇宙への情熱)

艦娘(中学校卒業と同時に、私は宇宙飛行士になる夢をかなえるべく、一般公募の試験を受けた)

艦娘(何百倍もの倍率、大学生すらも頭を悩ませる難問の数々、体力測定に、心理テスト)

艦娘(だけど私は、どんな困難にもぶつかってきた。それだけ、宇宙を夢見ていた)

試験官「あなたが最年少ですよ。まだ、高校も卒業していない子が試験を受けにくるのも、前代未聞です」

試験官「とても、優秀な子ですね」

艦娘「ありがとうございます」

試験官「何故、宇宙飛行士の道に?」

艦娘「宇宙は一つのフロンティアだと思うからです」

試験官「……」

艦娘(この答えを告げた時、何人かの試験官が顔を見合わせた。やはり子供らしい答えだと思われたのだろう)

試験官B「続けたまえ」

艦娘(そんな窮地を救うかのように、一人の試験官が声を張り上げて続きを促した)

艦娘「子供の頃から、ずっと星が好きで。色んな星に、何があるんだろう。それが切っ掛けでした」

艦娘「勉強を続けていくうちに、地球には無いレアメタルや、無重力でしか出来ない実験、人口爆発で来る移住地開発や、食料開発とかにも興味を持ちました」

試験官B「なるほど。それで西部開拓時代に例えて。フロンティアかね?」

艦娘「はい。今はまだ、私が挙げた全ては実験段階だというのは承知です。実験段階だから、です」

試験官B「つまり?」

艦娘「私が、それらを進めたいと考えているからです。この地球が抱える問題を、宇宙から少しでも解決する手助けをしたいのです」

艦娘「それが、私の宇宙飛行士としての夢です」
Model Graphix ARCHIVES 艦隊これくしょん 「艦これ」2
52: 2014/06/21(土) 23:12:28.36 ID:0yh0jj9y0
艦娘(調べていく上でぶつかる数々の、問題)

艦娘(この地球が抱える問題を、私一人ではどうにも出来るかどうかは解らない。でも)

艦娘(宇宙開発という舞台ならば、或いはもっと大きな舞台ならば―――助けたい、という私の夢は叶うはずなのだ)

艦娘(そして、運命の結果発表の日)

艦娘(私は――――晴れて宇宙飛行士としての候補生に選ばれた。史上最年少という快挙で)

艦娘「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

艦娘(なにせ高校受験すらもせずにいたのだ。自宅で狂喜乱舞し、両親や近所の人まで巻き込んでちょっとした宴を開いたものだ)

艦娘(私の人生で最高の瞬間の一つだった。この当時は)

艦娘(そしてもう一つ、あの時、私に続きを促した試験官が…)

センター長「私がセンター長です」

艦娘(宇宙開発の、いわゆる現場責任者的な人だった。私の合格は彼の後押しがあったからだ)

センター長「合格おめでとう。最年少という快挙と共に、若さを生かして頑張ってくれ」

艦娘(訓練が始まった)

艦娘(大人でも音を上げる多くの訓練。厳しいもの。厳しい倍率を生き残った候補生も、更に絞られていく)

艦娘(私は最年少だろうと特別扱いされない。当たり前だ。宇宙飛行士とは、必ずしも何かのスペシャリストでもあるのだ)

艦娘(学者や技術者に混じって、単なる女子高生と同じ年代の私は、そういった点では大きく劣っていても、だ)

艦娘(だから私は必氏に猛勉強した。厳しい訓練に勉強だらけの日々。当然のように疲労が蓄積して、眠れない日々も続いた)

艦娘(でも辛くは無かった。宇宙飛行士としての道を歩めるのだ、なんともないぞと思いながら)

艦娘(或いは、多くのスペシャリスト達と同じラインに立たなきゃ生き残れない、と言い聞かせながら)

艦娘(辛いよりも頑張ろうという気持ちだけが、私を動かしていた。そんなある日の事だ)

センター長「君は良く頑張っているな。大したものだ」

艦娘「ありがとうござます」

センター長「でも無理をしてはいけないよ? 少し眠そうじゃないか?」

艦娘「すみません、昨日どうしても勉強が終わらなくて」

53: 2014/06/21(土) 23:13:36.11 ID:0yh0jj9y0
艦娘「他の人たちは、皆すごい人たちです。尊敬する人が両手両足の指全部使ってもまだ数え切れないぐらいですよ」

艦娘「そんな中で一緒に訓練するんですから、その人たちぐらいの位置に立たないと、スタートラインに立ったとは言えません」

センター長「おいおい、きみきみ」

センター長「君も他の候補生達も、何百倍もの倍率を勝ち抜いてきた。それぞれが色々なもののスペシャリストではある」

センター長「でも彼らはそれに辿りつくまでにも、君よりも長い時間積み重ねてきた」

センター長「でも、それはそれぞれが持っている分野での話だ。宇宙飛行士、という点では彼らも君も同じスタートラインに立っている」

センター長「だから君は、君だけが持つスペシャリストとして、スタートラインに立っているんだよ」

艦娘「私だけが? でも、私、ただの女子高生でしか――――」

センター長「いいや、違うとも。その年でここに辿り付ける程のものを君は持っている)

センター長「そうだとも。君が持っているのは―――掲げた夢を実現させようとする、歩む力だよ」

艦娘(その時の言葉は、今も胸に残っている)

艦娘(掲げた夢を実現させようとする、歩む力)

艦娘(一見。誰もが持っているものだと思う。その通り、誰もが持っているものなのだ)

艦娘(でもそれは、案外容易な事ではないのだ。何故なら)

艦娘(私と同じく、宇宙に憧れながら、私よりも年上の、私よりもスペシャルな人たちが何人も脱落していく)

艦娘(ほんの一握りのトップガンが、決して諦めなかった人たちだけが、宇宙飛行士として宇宙を目指せるのだ)

艦娘(そう…決して、諦めなかった人たちだけが……)

艦娘(あの頃と言えば、こんな人の事をいつも思い出す)

候補生「しっかしすげぇなあ。お前さん、また一番じゃないか。オレ、またギリギリだったよ…」

艦娘「え? 筆記試験の合格点って450点以上でしたよね?」

候補生「うん。452点だった!」

艦娘(決して歳は近くない。既に三十路に近く、私より一回りは上のこの候補生は、明るい性格で話しやすい人だった)

候補生「ま、合格してるし、問題ねぇよな! 体力試験で割とカバーできてたし!」

艦娘(ポジティブといえばポジティブなのだが、時々調子に乗ることがある)

54: 2014/06/21(土) 23:15:35.66 ID:0yh0jj9y0
訓練官「えー。今日は水中で月面車の訓練やりまーす」

候補生「質問です! 時速何キロまで出ますか?」

訓練官「水中と月面で環境違うでしょうけど、爆走するほどは出ませんよ」

艦娘「えーと、アンテナを立てて、バッテリーをセットして…」

候補生「よし、タイヤも装着完了! 水中で動くかな?」

艦娘「私はアンテナの設置やりますので、月面車の方をお願いしますね」

候補生「了解」

艦娘「えーと、アンテナはこっち…」

候補生「やっべ! ハンドルの固定が忘れてたー!」

艦娘「へ? きゃあああああ!!!!」

訓練官「ダメだこりゃ」

艦娘(衝突事故こそ免れたものの、当然のように私達は大目玉を喰らった)

候補生「たははは、本当にゴメンな」

艦娘「酷い目に遭いました…本当に怖かったんですよ?」

候補生「悪かったって! まあ、上手く回避してくれたお陰で大事故には繋がらずに済んだしな」

艦娘「充分回避出来る時間はあったので…実際はどうなるか解らないから、油断は禁物ですよ?」

候補生「…だな。でも、あそこまで素早く反応できるのは、大したもんだよ」

艦娘「こんなことで大怪我なんてしてられません。夢がありますから」

候補生「…だろうな。俺もだよ。宇宙から見た地球は蒼いって言うけど、それだけじゃないと思うしな」

艦娘「確かに。ただ蒼いだけじゃない地球って、どんなんでしょうね」

候補生「それは見ないと解らないだろうなあ」

候補生「だけど、きっと一言じゃ言い表せないぐらい。すごいんだと思う」

候補生「それをガキの頃からずっと夢見てきたんだ。君も、そうだろ?」

艦娘「…はい!」

艦娘(共に夢を持つ仲間がいる事は、私にとって幸せだった)

艦娘(だからこそ、どんな辛い訓練にも耐えられたのだと思う)

艦娘(そして当時はまだ夢のある時代だった。私の事を取材しにきたテレビだの記者だのもいて)

艦娘(最年少で宇宙飛行士候補になった私に憧れている、なんて手紙も届いた時は嬉しかった)

艦娘(そう、嬉しかった…)

55: 2014/06/21(土) 23:18:56.34 ID:0yh0jj9y0
センター長「あー、皆に発表がある」

センター長「米国でただいま新規の有人宇宙飛行機のプロジェクトがあって、その搭乗員に日本からも数人、選ばれるそうだ」

センター長「とは言ったものの、NASAの方でも選抜を行いたいらしいから、全員アメリカ行きが決定しましたー!」

候補生's「「「「「おおおおおおー!!」」」」

センター長「あ、出発なんだけどこの日ね」

艦娘(候補生のほぼ全員と、多くのスタッフ。それらが皆アメリカに行く)

艦娘(確率はわからないけれど、宇宙にいける可能性が本当に目の前にやってきたのだ)

艦娘(だけど、その日。私はそのアメリカ行きの飛行機に乗ることは無かった)

艦娘(祖母の悲報が届いたからだ―――――センター長をはじめとするスタッフは、私のアメリカ行きを一日遅らせるという措置を取った)

艦娘(私も訓練を耐え抜いてきたのだ。だが、その一日が)

艦娘(全ての運命を分けてしまうなんて思わなかった)

艦娘(実家から東京へと戻る電車の中で流れてきたニュースだった)

アナウンサー『続いてのニュースです。深海棲艦による襲撃で、最悪の事故が起こりました』

アナウンサー『東京発ヒューストン行き9999便が、太平洋上で深海棲艦の艦載機による攻撃を受け、墜落しました』

アナウンサー『乗客乗員、全員の生存が絶望視されており、この中には宇宙飛行士候補生が含まれ――――』

艦娘「嘘……」

艦娘「嘘でしょ…!?」

艦娘(同じ訓練をした仲間たち、支えてくれたスタッフ、職員たち)

艦娘(優しくて、時に厳しくて、皆で笑いあったりして)

艦娘(同じ夢を掲げた、大切なひとたち…なのに。もう二度と…会えないかも知れない?)

艦娘「どうして…なんで……!」

艦娘(どうにか東京に戻り、その足でセンターまで向かって。とにかく続報を求めた)

艦娘(何日経っても、生存者の話は無くて。そして一人だけ生き残った私の元へ、政府の人がやってきた)

役人「君が最後の候補生か」

56: 2014/06/21(土) 23:21:08.91 ID:0yh0jj9y0
艦娘「はい」

役人「これは明日発表することだが、君は知っておくべきだと思っている」

役人「我が国の宇宙開発計画は無期限中止となる。深海棲艦と戦っている時勢だ、もう一度組織を立て直す余力が無い)

艦娘「え…ちょ、ちょっと待ってください! アメリカでの有人宇宙―――」

役人「我が国の人間でなくても、アメリカが自国でなんとかするだろう。アメリカの計画だ」

艦娘(私にとって、最悪の氏刑宣告だった)

艦娘(宇宙開発計画が無期限中止――私の、宇宙への夢が、絶たれた瞬間だった)

艦娘「…ぁ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

艦娘(その場で人目も憚らずに泣き崩れて、家に戻って、また泣いて)

艦娘(泣いて泣いて、色んな人たちの事を思い出して、子供の頃の夢を思い出して、また泣いて)

艦娘(宇宙だけを夢見ていたから―――その全てが終わったことに気付いて、また泣いて)

艦娘(そして何日も経った頃―――涙も涸れ果てた私は、氏体のようになった)

艦娘(同じ夢を掲げた仲間達もいない。支えてくれる人もいない。何よりも夢はもう、終わってしまった)

艦娘(緩やかに、氏を迎えようとしていた―――肉体はどうかも解らないが、私の心はほぼ氏んでいた)

艦娘(そこへ――――)

役人「失礼する」

艦娘(私に氏刑宣告をした、あの政府の人がやってきた)

役人「君に話があってきた。会ってくれないだろうか?」

艦娘「………」

役人「酷い顔だ。まるで氏人のようだ」

艦娘「帰ってください。私に話はありません」

役人「私達の方に話がある。君は多くの訓練で優秀な成績を収めた。まだ若く、将来もある」

艦娘「でももう、何の意味も無い」

役人「あるとも」

艦娘「ありません! 宇宙をずっと目指して! その為に子供の頃から、色々努力してっ、勉強も重ねて、訓練して…宇宙に飛びたかったから…!」

艦娘「その為にどんなことにだって頑張ってきたのに…その夢が…もう……」

艦娘(思えば、全てを吐き出していた。その全てを、叩きつけていた)

57: 2014/06/21(土) 23:23:34.20 ID:0yh0jj9y0
役人「そう。無期限中止だ。再開がいつになるか解らない」

役人「これを見てご覧。ニュースだ」

艦娘(彼が点けたテレビのニュース。そこには抗議デモのようなものが映っていた)

艦娘(じきにそれは―――宇宙開発計画を中止しないで欲しい、という願いだと解った)

艦娘(そしてそのデモのようなことをしているのは、子供達だった。私よりも幼い。子供達)

役人「……いつか再開しなければならない計画だ。だが、今すぐに再開は出来ない」

艦娘「……」

役人「深海棲艦という敵がいる限り、宇宙開発に向ける余力が出来るほどまで、この国を回復させなければならない」

役人「君と同じだ。あの子達も、宇宙への夢を持っているのだ」

艦娘「なにが、言いたいんですか」

役人「君に、彼らの夢を取り戻して欲しい。いや――君自身の夢も、取り戻して欲しい」

役人「だから君のような優れた人材が欲しい! 深海棲艦から全てを取り戻す為に、艦娘となる人が欲しい!」

艦娘「スカウト、ですか」

役人「ああ、そうだ。君ならば偉大な艦娘になれる! あれほどの努力を重ね、あれほどの訓練を耐え抜いてきた君ならば!」

艦娘「夢を……」

艦娘(宇宙を夢見てきたのは私だけじゃない)

艦娘(あの明るい候補生も、今テレビに映る子供たちも、皆同じなのだ)

艦娘(その夢を奪った深海棲艦と戦う、鑑娘――――)

艦娘「―――わかりました」

艦娘「私は、艦娘になります」

艦娘「深海棲艦から一人でも多くの人を守れるように、そして」

艦娘「私たちの夢を、取り戻すために!」

艦娘(奪い去られた夢を、多くの人の願いを、深海棲艦から取り戻す為に)

艦娘(私は、戦う事を選んだ)

58: 2014/06/21(土) 23:26:38.52 ID:0yh0jj9y0
鎮守府 縁側

武蔵「意外だな。大和が星に詳しいだなんて」

長門「星見酒とはいいものだが、一つ一つその名と由来を知るのもいいものだ」

大和「あら、そう?」

霧島「人には意外な一面というものが一つはありますからね」

比叡「霧島が姉妹で一番腕相撲強いとか」

霧島「比叡姉様っ!」

大和「ああ、霧島は暴れない暴れない…。おっと」

武蔵「大和、こぼさないようにな」

大和「ええ。解ってます」

大和(こうして星を見ていると、やはり宇宙に飛んでみたかったなと思う)

大和(だけど、時代がそれを許さなかった。私は艦娘として、その夢を取り戻す為に戦っている)

大和(それが何時になるかは解らない。だけれど、私よりも未来の世代たちの夢だけは、守り通したいと願う)

武蔵「…大和?」

大和「……武蔵。武蔵は子供の頃の夢って、覚えてますか?」

武蔵「…いや、あんまり覚えてないな…大和は?」

大和「……私は覚えてます。しっかりと」

武蔵「ほう。どんな夢だった?」

大和「今は秘密です。この海が平和になったら、教えますよ」

武蔵「なんだ、教えてくれたっていいじゃないか」

大和「今はまだ、ですよ」

大和(そう、今は、まだ……平和じゃないこの海を、多くの人の夢を、取り戻してから)

大和(私の夢を、いつか、もう一度)

59: 2014/06/21(土) 23:29:04.10 ID:0yh0jj9y0
投下完了、と。
大和さんをお迎えしたいけれど資源がなさ過ぎるので大型建造回せないことが悩みです。
大型回したら一航戦の人たちの食事が無くなる気ががが

引用: 艦娘「艦娘になった理由」