93: 2014/08/06(水) 23:27:56.43 ID:Ge1pxIXG0
艦娘(私の人生は、ドラマチックに非ず)

艦娘(『拝啓、ご両親様。私は今日も元気です』そんな書き出しから始まる手紙は何百通に上ったか)

艦娘(まあ、兎にも角にも私が今、何故艦娘として鎮守府にいるか?)

艦娘(もう一度言おう、私の人生はドラマチックに非ず)

艦娘(私の実家は、医者だった。決して大きいとは言えないが、非常に腕の良い医師の両親とそれを支えるスタッフ達)

艦娘(家中に転がる医学書と人体の解剖書その他。それらを読んで育った私の興味は人体へと向かった)

艦娘(医学でなくて人体というのがミソだ。そう、人体である)

艦娘「…おお。人体の神秘展…」

艦娘(夏休みなどの大型休みともなれば、よく博物館だので行われる人体模型やらホルマリンやらの展示会に好んで行くような子である)

艦娘(まあ、浮いている子であるのは事実だ。否定はしない。女の子が一人でそんな展示会にやってくるというのも、あまりある事でない)

艦娘「大たい骨…これは綺麗だなー」

学者「骨が好きかね?」

艦娘「骨以外にも色々。好きというよりも、興味かも」

学者「ほう」

艦娘(その日、私は奇妙な学者に出会った。その時の私はこれが人生を変える出会いになるとは知らなかったけれど)

学者「面白い子供だな。どんな興味がある?」

艦娘「構造とか、働きとか…骨が中空なのに強度があるとかね」

学者「確かに。中身がしっかり詰まっているほうが、強度があるようにも思える。しかし実際は中空の方が、重さなどにも強い」

学者「他にも、肉体とは不思議なものだな。全力を出すと壊れてしまう、というな」

艦娘(この学者は色々な事を知っていた。その時はお互いに名乗らず、ただ興味が尽きるまで話しただけだった)
Model Graphix ARCHIVES 艦隊これくしょん 「艦これ」2
94: 2014/08/06(水) 23:29:49.73 ID:Ge1pxIXG0
艦娘(しかし数日後、とある講演会に足を運んだ時に再会してしまった)

艦娘「おっそろしい程ガラガラ……」

艦娘(この日はオカルトやら陰謀論やらの与太話大好きな友人に連れられ、その手の学者の講演会に誘われたのである)

友人「エヌ先生は荒唐無稽だって思われてるからねぇ」

学者「うぅむ、マスコミ着てないのか。ま、いいか」

艦娘「あれ、いつかの学者さんだ」

学者「えー、皆さん。本日発表するのは深海棲艦と人間の関連性についてでして…」

艦娘「深海棲艦?」

友人「へー、あの怪物について?」

学者「多くの資料から検証するに、深海棲艦というのは未発見の人類の亜種ではないかと考えられます」

学者「人を含む全ての生物は海から生まれました。類人猿から進化した我々人類がいるように、魚類から発達し、何らかの形で人の遺伝子を取り込んだ…」

憲兵「異議有り!!!」

学者「な、なにやつ!?」

憲兵「なんなんだこの理論は! 配布されたレジュメに目を通したが、どうだろうか。人間の遺伝子が何らかの形で魚類に流出したというと、深海棲艦は新たなキメラ扱いではないか!」

憲兵「これでは我々人類に非があるように思える! 我々人類があんな悪魔を生み出したとでも言うのかね!」

学者「な、何を言う! あくまでもこれは研究成果であってそう仮定できるという点だ! しかし、それがなんだというのだ!」

学者「海軍をはじめ、多くの人が深海棲艦との戦いに明け暮れているのは、否定できない事実であり、それに感謝はしねばなかろう!」

憲兵「……ふむ」

学者「そしてなにより深海棲艦の出所を知るところで、彼らへ対抗策も生まれるというもの!」

学者「さて……魚類から新たな進化を経た深海棲艦は、人間のような進化を辿るならば、意志を持つ可能性もある」

学者「ここに高い知性を示したというデータもあるのは否定できない!」

艦娘「そのデータは、どこから?」

学者「うむ。これをご覧アレ。実際に戦う艦娘から…」

憲兵「軍事機密漏洩の現行犯! 確保ー!」

学者「な、なにをするきさまー!」

友人「ああ、先生が!」

艦娘「…あれ、もしかして悪いこと聞いた?」

友人「そうかも」

艦娘(なお、その日のうちに釈放されたそうな)

95: 2014/08/06(水) 23:33:15.09 ID:Ge1pxIXG0
艦娘(数日後、本を読んで住所を知ったその学者の家を、私は訪ねた)

艦娘(具体的に言うと余計な事を聞いたせいだろ、と親に怒られて謝って来いという事である)

学者「む? ああ、この前のかね?」

艦娘「この前はすみませんでしたー」

学者「よくある事だ、問題ない」

艦娘「それより前に人体の不思議展で会いましたね」

学者「ああ、そう言えば」

艦娘「あの時は魚類からの進化云々で、人を見に来たんですか?」

学者「ああ。これをご覧。駆逐イ級と呼ばれる生態の剥製だよ」

艦娘「大きいですね」

学者「見事だろう? これが人や船を襲うというものだから驚きだ。大砲や魚雷まで背負ってね」

艦娘「…大砲も魚雷も、人が作った武器ですよね? 進化したとはいえ、魚が備えられるものですか?」

学者「鉄砲に近いものならテッポウウオというのがあるがね。これが解らんのだよ」

学者「この謎が解明できれば、更に理解できるものだろうが…」

艦娘「理解、ですか?」

学者「うむ。知能うんぬんの話は仕掛けたな? その続きをしてみようか」

学者「深海棲艦は高い知能を持っている。それは人に近い形をしているだけでなく、行動にも現れているんだ」

学者「襲撃対象も貨物船の方が多い。氏者も出ない訳ではないが、救命ボートを好んで襲っているかというとそうでもない。割と見逃されがちだ」

学者「まあ貨物船だけでなく客船も多く襲われているといればそうだが」

艦娘「資源の方を狙う? でも、この国みたいな島国以外じゃ資源を運ぶ船を襲われても…」

学者「島国は干上がるし、そうでなくても連絡手段が絶たれるときついものがある。軍事的な協力として兵器の融通とかもある」

艦娘「すると、こちらを攻撃したい、困らせたい、と考えているって事ですかね?」

学者「恐らく、それぐらいの知能はある。だが、それには戦力が足りないのが現状、であるな。海岸付近に稀に上陸する事例がある」

学者「しかし陸地深くまで侵攻することはあまりない。陸地にあがる能力はあるのだよ、深海棲艦には」

学者「では何故進まないかというと、戦力面ではないかとしか考えられん」

艦娘(学者の話は興味深く、面白かった)

96: 2014/08/06(水) 23:35:39.39 ID:Ge1pxIXG0
艦娘(深海棲艦の生態や目的、その他に関する考察。様々な資料には軍事機密に関わりそうなものもあっただろう)

艦娘(だけどそれは私の興味を引くには充分で、私は度々学者の家を訪れた)

艦娘「今日は何故、彼らが艦艇という姿をとるのかを聞きたいんですが」

学者「これも詳しいことは解らないが、泳ぎ易いのと防御形態ではないかな?」

学者「艦艇にはいわゆるダメコンというシステムがある。それを自然的に体内に導入したのだろうね」

艦娘「えーと、ダメージを受けてもすぐに沈まないように?」

学者「うむ。まあ、これも人が作り上げたシステムだが自然的には難しいな」

学者「だが、人に取り込めないシステムではない。だから深海棲艦は人に近いのかも知れない」

艦娘「ダメコンが人に取り込める? どういう事です?」

学者「艦娘、だよ」

艦娘「艦娘、ですか」

学者「彼らは人間でありながら、艦艇の力を持つ。その誕生には諸説あるが、艦娘として艤装を装備した時点で肉体構造が大きく変革するらしい」

学者「この艤装についてもまだよく解っていないが…もしかしたら深海棲艦に…」

艦娘「そんなバカな」

憲兵「軍事機密漏洩罪だ!」バターン

艦娘「また!?」

憲兵「ばかもーん! 貴様も逮捕だー!」

艦娘(何の因果か、十代にして私は逮捕されるという憂き目に遭った)

艦娘(取調べそのものは普通で、どういう話を聞いたのかとかそういう話ばかり。まあ、子供だから当然だったかも知れないが)

憲兵「……ふむ、興味を持って、か」

艦娘「別に悪用するとか、スパイとかそういうつもりは毛頭ないです」

憲兵「ふむ」

艦娘(ここで憲兵は何を思ったのか、学者を連れてきた)

97: 2014/08/06(水) 23:38:15.66 ID:Ge1pxIXG0
憲兵「おい。研究記録を見させてもらったが、理論上は深海棲艦との意思疎通も不可能ではないとかあったな」

学者「その為のデータは必要だし、実験もいるだろうがな」

艦娘(それはそうだ。なにせ、学者の立てたものは全て仮説。それを証明する術が無ければ解らない)

艦娘(憲兵だってそれをわかっている筈。そう考えていた時だった)

憲兵「まあ、いつまで続くか解らん戦争だ。それを考えるのも変ではない」

憲兵「だから貴様に告げるべきことはただ一つだ。お前が艦娘となり、試してみろ」

憲兵「そうだ、お前がな」

艦娘「…私?」

艦娘(全ての矛先は私に向けられた。逮捕された私に拒否権は無かった)

艦娘(だがしかし、私はこれを不幸な出来事と思ったことはない)

艦娘(艦娘になった事で、知る事が出来たのは山ほどあるし、数多の実験を繰り返すのも悪くないと思ったからだ)

艦娘(私が艦娘になったのは、そんな理由。決してドラマチックでもなんでもない)

鎮守府 食堂

艦娘(ただ一つ思う事があるとすれば…)

球磨「クマー。飲みすぎたクマー」

多摩「ニャー」

木曾「ああ、どいつもこいつも飲みすぎだ! 北上、大井は…」

大井「北上さん北上さん北上さん」スリスリ

北上「実験なんてろくに出来もしないって事かなー」

木曾「?」

北上(そう。憲兵の監視もあまり届かないし。そもそも学者が時折手紙で知らせてくる実験内容に関しても、命令にそぐわなければ提督が止めてしまう)

北上(そんな状況の私に出来る事は、深海棲艦と戦いながらこの日々を楽しむだけ)

北上(まあ、決して悪い生活ではない。だけど)

北上「もうちょっと満たされたいかなー」

大井「北上さん私じゃ不満?」

北上「いや、まあ、そういう訳じゃないけど…」

北上(こればっかりは大井っちにもどうにも出来ないもんなー)

北上(未だに深海棲艦への興味は尽きない。そしてそれと関わる仕事という面での)

北上(艦娘として生きるのも悪くない。まったく、ドラマチックではないけれども)

北上(たぶん、艦娘という存在であることは嬉しいんだろうな)

98: 2014/08/06(水) 23:41:00.93 ID:Ge1pxIXG0
8話目は皆の大好きな雷巡の北上様でした
どこかダウナー系なのが堪らなく好きだ。

引用: 艦娘「艦娘になった理由」