120: 2014/11/03(月) 22:09:46.61 ID:aepsw8cs0
艦娘(爆撃と銃声が子守歌。砂と廃墟と灰だらけの世界を、幼い頃から彷徨っていた)

艦娘(父親も母親も、気がついたら私の側にいなくて、他の肉親は解らない)

艦娘(どっかで誰かが殺されてて、どっかで誰かが頃しに来る。それが戦争なんだって事しか知らない)

艦娘(来る日も来る日も逃げ惑って、来る日も来る日もお腹を空かせて喉が渇いて)

艦娘(苦しみながら氏んで行く人を見た。血と内臓なんて見慣れてた。私にはどうにも出来なかった)

艦娘(ずっと生きていた。一人ぼっちで。誰も助けてくれなかった。ただ、その日を生きる為に生きていた)

艦娘(だから私は、この世界で一人なんだとずっと思ってた。あの日まで)

艦娘(ある夜、空腹に耐えかねた私は夜の砂漠を彷徨っていて、幾らかの建物を見つけた)

艦娘(明かりが灯っている場所は人がいる。明かりを避けて近づき、倉庫を探せば食べ物があるかも知れない。そう思って足音を忍ばせた)

艦娘(だから夜の砂漠である事に気付かなかった。そこには毒を持つ生き物がたくさんいた)

艦娘(素足だった私は、夜闇に潜んでいた毒蛇を知らずに踏んづけて、そして噛まれた)

艦娘(夜に私の絶叫が響いた。同時に騒がしくなる建物。人が集まる。そう思って、逃げようとした)

艦娘(蛇に噛まれた足がどうなっているのかわからぬまま、逃れようとする私を光が照らした)

艦娘(氏を覚悟して、目を瞑った)

艦娘(銃弾は飛んでこなかった。いつまで経っても。そしてしばらく経った直後、人々は騒ぎ始めた)

艦娘(そしてそのまま抱えあげられて建物の中に運ばれた。何がなんだか解らなくて、私は手足で暴れた)

艦娘(その時だった。優しい手が、私を撫でてくれた)

艦娘(きっとお母さん以外に初めてだろう。私を撫でてくれたのは)

医師「大丈夫よ」

艦娘(彼女の治療もあってか、私は一命をとりとめた。そこは海外からの支援で出来た病院だった)

医師「あなた、家族はどうしたの?」

艦娘「わからない」

医師「名前とか解る?」

艦娘「おぼえてない。幾つなのかも解らない」
Model Graphix ARCHIVES 艦隊これくしょん 「艦これ」2
121: 2014/11/03(月) 22:11:49.39 ID:aepsw8cs0
艦娘(家族も名前も、何もない私を、彼女を含めた医療スタッフたちは痛く心配してくれた)

艦娘(行き先のない私を手伝いとして雇ってくれたのだ。それも医療支援だけでなく、色々な支援の取り組みのところに連れて行ってくれた)

艦娘(洗濯や水汲みに始まり、井戸掘りの手伝いに木を植えたりするのも、色々あった)

艦娘(そんあある日。病院の近くの道を走る人に出会った)

艦娘「なんで走ってるの?」

男「足が速くなれば、それだけ評価される。評価されればお金が貰える。そして皆助かるようになる」

艦娘「はやいって、いいことなの?」

男「そうだよ」

艦娘(彼はそう言って、私を見た)

男「君も走らないか? 迷ったり、哀しかったり、辛かったりしたら走るんだ」

男「走っていると苦しいかも知れない。だけど、早く走っているだけで、世界は変わって見えてくる」

男「走っている間だけは、人は一人だ。でも、本当の孤独じゃない」

男「走った先に、待っている人はきっといる」

艦娘(短い会話の後、彼は走り出した)

艦娘(その姿に、どこか心が震えた。私は彼の後を追うようにして走り出した)

艦娘(走っている間は確かに一人ぼっちだった。だけど、当てもなく彷徨っていたあの頃とは違う)

艦娘(辿り着いた先で待ってる誰かを目指して走るのだ)

艦娘(走って、走って、また走る。私に打ち込めるものが出来た、とスタッフ達は微笑ましく見守ってくれた)

艦娘(走ることを教えてくれた人がいて、私の命を救ってくれた人がいて、私は一人じゃないんだって思い始めた)

医師「ねぇ。別の国で、走る大会があるんだけど、行ってみない?」

男「僕も出るんだ。子供の部もあるんだが、君も試してみるかい?」

艦娘「わかった。がんばる」

艦娘(そして私は、初めて国の外に出た。船で一度近くの国に行き、そこから飛行機で行くという旅)

艦娘「おおきい…」

艦娘(初めて海を見た。綺麗で青くて、どこまでも広くて先が見えない)

122: 2014/11/03(月) 22:15:09.32 ID:aepsw8cs0
医師「ここは内海だから安全よ。深海棲艦も来ない」

艦娘「しんかいせんかん?」

医師「ええ。海から来る怪物でね」

艦娘(そこで医師は色々な話をした。深海棲艦が海の道を壊し、船や飛行機を沈めてしまう事で、資源を輸入したり物資を運んだり出来なくなった事)

艦娘(それで私たちの国への支援が難儀になり、結果的に内戦に発展。解決策の一つとして、今の私たちの国そのものに産業を造ったりするしかない)

艦娘(その資金源の為にも、男や私に走る事が期待されているのだ)

男「綺麗だ。こんなに綺麗な海があるなんて…」

艦娘「すごいね」

艦娘(海の広さと、その怖さに考えさせられていた、その時だった)

男「あれはなんだ?」

医師「……深海棲艦!?」

艦娘(現れたのは、魚の怪物だった)

船長「メイデイメイデイメイデイ! こちらはコスタリカ船籍の石油タンカー、ピースウォーカー号! 深海棲艦を目視で確認!」

船長「砲撃で攻撃してきている! 救助を頼む! メイデイメイデイメイデイ!」

艦娘(叫び、逃げ惑う船員達。救命ボートに逃げ込んでも、助かるとは思えない状況)

艦娘(深海棲艦はタンカーよりも遥かに小さくて、小さい漁船ぐらいの大きさが数隻。それでも大きな被害を出すという)

医師「神様…この子たちをお守り下さい…」

艦娘「……」

艦娘(衝撃音。魚雷が突き刺さった瞬間だった)

船長「機関長! どこに被弾した!」

機関長『あーあー。機関室よりブリッジ。機関室は無事だ』

航海長『航海長よりブリッジ! どうやらオイル保管庫に被弾したようですぜオーバー!』

船長「浸水はあるか?」

航海長『今のところはありません! しかし、さしでやったら負ける相手ですぜ! チビの癖に!」

123: 2014/11/03(月) 22:17:23.58 ID:aepsw8cs0
艦娘(告げられる状況はよく解らない。だが、震えていた私たちの耳に、通信が届いた)

???『ピースウォーカー号、聞こえますか?』

船長「…救援か!」

Z3『こちらは多国籍軍アフリカ連合艦隊に派遣中、ドイツ海軍の艦娘、駆逐艦マックス・シュルツ』

Z3『本艦だけでなく、アメリカ海軍、イギリス海軍の艦娘もそちらに向かっている。諦めないで』

船長「本船の現在位置はここだ! 急いでくれ!」

Z3『全速で向かう。アメリカ艦隊が近い。急がせる』

艦娘(海の方に視線を向けると、遠くの方に海を走る人影がいた)

艦娘「走ってる! 海を!」

艦娘(それが初めて見た艦娘の姿)

米艦娘A「標的はっけーん! 米帝プレイの恐ろしさを教えてあげる! 喰らえ、愛と憎しみの…」

米艦娘B「5インチれんそーほー、発射」

艦娘(強烈な砲撃。だが、それが合図のようだった)

米艦娘A「クソ、増援だ!」

艦娘(数隻だった深海棲艦は数を増やして十数ほどにもなっていた。その攻撃は、こちらにも届く)

医師「ひいっ!」

船長「増援はまだか!」

機関長『右スクリューに魚雷直撃! プロペラが全部折れました!』

船長「取り舵いっぱい! バランスを保て!」

航海士『船倉に浸水が始まりました! 防水区画でまだ防げるレベルです!』

船長「どうにか持たせろ!」

艦娘(ひしひしと、絶望的な状況に傾くのが解っていた。なにせ敵は海中から襲ってくるのだ)

米艦娘A「ぐへぇっ!」

米艦娘B「っ! まずい…」

甲板員「おい! 艤装から火を噴いてるぞ!」

航海士「ボートを下ろせ! 救助しろ! 自衛用の銃を使え! 少しはましだ!」

医師「人手が足りないわ。私たちもロープを引っ張りましょう」

艦娘(ロープを使って被弾した艦娘たちを救助する。だが、その間無防備な船目掛けて深海棲艦は一気に迫った)

124: 2014/11/03(月) 22:19:28.58 ID:aepsw8cs0
米艦娘A「こ、これを…」

艦娘(医師たちが駆け寄り、私も傷口を抑えて治療の手伝いをしていると、彼女は私にその武装を差し出した)

艦娘「え?」

米艦娘A「真ん中の星をアイツらに合わせて引き金を引く、だ。近ければ近いほど当てやすい……」

米艦娘A「真ん中の星を合わせて引く、合わせて、引く」

艦娘「でも…」

米艦娘「艦娘ぐらいの歳でしか、使えないんだ」

艦娘(渡された連装砲は、とても重かった)

艦娘(銃を怖いものだと思っていた。生氏をさまよいながら生きていた)

艦娘(だけど私は、それでも戦うしかなかった。助けが来るまでの間、戦えるのは)

艦娘「星を合わせて…引く」

艦娘(重たい音。火薬の匂い。だけどそれでも、敵を貫いた)

艦娘「おそい」

艦娘(一度当ててコツを覚えれば、難しくない。守る為の戦いであり、そして素早くやるこ)

艦娘「おっそーい!」

Z3「遅くなった、すまない…ってあの子は誰?」

英艦娘「艦娘でもないのに深海棲艦を連装砲で撃退してる…」

艦娘(救援が間に合い、私達は無事に陸地に戻ってくることが出来た)

艦娘(だけどその直後、私は大使館に呼ばれた。その医師が元々いた国の大使館だ)

艦娘(そこで、私は……)

大使「君には立派な艦娘の素質がある」

大使「その力を役立ててみてはくれないか?」

大使「君が望むなら、だが」

艦娘(すぐには判断できなかった。走ることへの未練があったし、何よりもあれだけ戦争で荒れ果てても、そこは私の故国)

艦娘(だけど、私の命は他国の人に救われた)

125: 2014/11/03(月) 22:21:58.25 ID:aepsw8cs0
医師「嫌なら、断ってもいいのよ」

艦娘「ううん」

艦娘「嫌じゃない。深海棲艦がいなくなれば、支援はまた再開できる」

艦娘「だから……」

大使「そうか。ありがとう。これからも頼む」

大使「君を、世界の海の平和に役立ててくれ」

鎮守府

島風(そして私は遠く離れたこの国で、艦娘になった)

島風(故国のニュースを聞くと、まだ戦争が続いているようで辛くなる)

雪風「島風はどうして外国ニュースを見てるんですか?」

響「しかも英文そのままだよ。金剛さんなら読めるんじゃないかな」

Z3「あれは、島風の故国のニュース」

陽炎「へ? 島風の故国って…」

Z3「あの子、この国の生まれじゃないの。だから私やレーべと話す時、いつも英語よ」

雪風「え!? ホントですか!?」

島風「うん。レーべは英語もそこまでって感じだけどー」

Z3「まあ、母語じゃないからしょうがないけど」

島風(寂しいと思う時もあるし、辛いときもたくさんある)

島風(だけど、外国で頑張ってる人たちはたくさんいる。私も、レーべもマックスも、それは同じ)

島風「……よーし、がんばるぞー」

島風(走ることへの魅力は、まだ続いてる。だって)

島風「海の上を誰よりも早く走れるなんて、普通は考えられない世界だもんね」

島風(だから私は走り続ける)

島風(いつか、遠い故国へ未来を届ける為に)

126: 2014/11/03(月) 22:27:58.74 ID:aepsw8cs0
投下完了。
という訳で今回は皆がホイホイされたぜかましちゃんでした。

イラストもあるかも知れないけど、ぜかましちゃんって結構等身高いですよね。
マックスかわいいよマックス。

んな訳で次回がラストになります。

引用: 艦娘「艦娘になった理由」