129: 2014/12/03(水) 22:50:50.03 ID:/SF9hwFA0
艦娘(私は、海とは無縁の、山のある村で生まれた)

艦娘(ごく普通の農家の娘で、過疎化が進む土地で生まれた数少ない子供)

艦娘(同年代の友達なんてまずいないし、通っていた学校も小中学校合同で、幾らかの学年で一クラスが当たり前)

艦娘(使っている鉄道だって一両しかなくて、一日に両手で数え切れる本数しか来ない)

艦娘(穏やかで緩やか、だけど内心つまらないと思う日々)

艦娘(私はこれからどうするのか。思春期の子供が誰もが一度は本気を出して考えること)

艦娘(流れ行く日々の中で、私はそれを考え続けていた)

女の子「おねーちゃん、どうしたの?」

艦娘「ん? ああ、なんでもないよ」

女の子「じゅぎょーちゅーだよ」

先生「…艦娘さん、この問題を」

艦娘「わかりませんえん」

先生「出席簿を攻撃表示で召喚! プレイヤーにダイレクトアタック!」

艦娘「リバースカード、回避!」

先生「んな訳ないでしょ!」べしっ

艦娘「ふべえ!」

艦娘(ちなみに私は成績は普通なほうだ。結構授業を聞いてたりもしている)

艦娘(実は真面目な姿勢が後に縁に繋がるというのも変な話だが)

艦娘(もう一つあるとすれば、私は昔から意地っ張りなところがあるぐらいか)

男の子「わわっ!」

男の子「助けてー!」崖の窪みで辛うじて引っかかってる

女の子「大変! よしひこが崖の変な窪みから降りられない!」

艦娘「お姉ちゃんが助けてあげる! 今行くから!」

艦娘(崖、とはいっても断崖絶壁ではない、山から足を滑らせて、辛うじて狭い足場に男の子はいる状態)

艦娘(もちろん高いが、それでも私は山登りは得意にしていたから助けに行った)
Model Graphix ARCHIVES 艦隊これくしょん 「艦これ」2
130: 2014/12/03(水) 22:54:01.90 ID:/SF9hwFA0
艦娘「もう大丈夫だよ! すぐ行くからね!」

男の子「うん、ゆっくり降りてきて…へへ」

艦娘「なんで笑って…あ! ちょっと! パンツ、パンツ、見ないでったら!」

艦娘(当然だがこの子には後でゲンコツをかましたが…とにかく足場まで降りて、その子を押しながら上る)

艦娘「大丈夫だから、ね? お姉ちゃんが背中抑えてるから」

男の子「うん…」

艦娘「よっと…結構重…うわ、わわわ!?」

艦娘(そして間抜けにも私は足を滑らせて転落。そのまま下まで転げ落ちたが、転げ落ちたお陰が、そこら中に痣と擦り傷、そして手首を折るだけで済んだ)

艦娘(ギブスで固めた腕で男の子にゲンコツしたせいで完治まで時間がかかったけれど)

艦娘(とにかく私は、少しアグレッシブな子供時代を送っていた)

艦娘(怪我をするのもしょっちゅうで、その度に艦娘は強い子とか無鉄砲な子とか、色々言われる)

艦娘(強いといわれるのは悪くない気持ちだけど、でもこんな平和な村で出来る事はたかが知れている)

艦娘(それは本当に強さなのかな? 小さな社会で完結してるんじゃないかな?)

艦娘(本気出して考えてみることにそれが加わり、私はこの村でのなんともいえない気持ちを覚えている)

艦娘(世間では海からやってくる深海棲艦の暗いニュースばっかり。だけど、ここは別世界)

艦娘(平和で、穏やかな世界。だからこそ、人々は平和を謳歌し、平和を好む)

艦娘(村の外をまるで外の世界のように話して、切り離されている)

艦娘(それが幸せなんだと思っている。きっと両親は今でもそう思っている。それは否定しない。否定できない)

艦娘(出来ることなら誰も傷つきたくないし、傷つけられないのは解りきった事だ)

艦娘(でもそれがどこか言い様のない虚しさを感じていたのは、私だけなのかな)

艦娘(平和すぎる村の中で、一つの風がやってきた)

艦娘(村の最果てに、一人の男性が引っ越してきた。普通ならば畑仕事や林業がこの村の常、でもその人はどちらもやっていなさそうだった)

艦娘(彼は時折、若い少女に視線を向けては時に遠い目をしていた。決して若くはなく、仕事もしていないのに生活に困っている様子はない)

艦娘(村人達は不気味な余所者とあまり関わらないようにしていた。でも、私はそんな彼の存在が不快には見えなかった)

131: 2014/12/03(水) 22:57:07.95 ID:/SF9hwFA0
男「ん?」

艦娘「こんにちは」

艦娘(その人は、私の事も見ていたのだから)

男「ああ、いいものだな」

艦娘「よく、そうしてますね」

男「ああ。少し前まで、君と同じぐらいの子達がたくさんいる環境だったからな」

艦娘「へぇ、すごいですね。先生をしていたんですか?」

男「似たようなものさ」

艦娘(はっきりとは答えなかったが、それ以来、私は彼をセンセーと呼ぶことにした)

艦娘(本当の先生ではないが、こんにちはセンセー!とか声をかけるのは案外楽しいものだ)

艦娘(村の人や家族、歳の離れた友達と話すのとはまた違う新鮮さもあった)

センセー「南の国に行っていた時期があるんだ」

センセー「海は綺麗だけど何も無くてね。ああ、ヤシの木ジュースは飲み放題だったけど」

艦娘「あれって美味しいんですかねぇ」

センセー「毎日飲むと飽きる。だけどそれしかないから飲み続けると美味しくなる。時々飲みたくなる」

艦娘「そこで色んな子供に囲まれてたんですか?」

センセー「まあね。その頃は片手で数えるぐらいしかいなかったが。缶詰料理が上手くなったよ」

センセー「ランチョンミートとは案外美味しいものさ。鍋にしても合うしね」

艦娘「南の方で鍋を? 暑くないですか?」

センセー「ベトナムで鍋を食べた人の記録があるから、暑気払いにもいいさ」

艦娘(後日、本当にヤシの木ジュースを頂いた。確かに慣れれば病み付きになりそうな味だった)

132: 2014/12/03(水) 22:59:12.93 ID:/SF9hwFA0
艦娘(こんなこともあった)

センセー「ふぅん、崖に落ちかけた子供をねぇ」

センセー「まあ、子供は背伸びしたがりなものさ。よく解るよ。そういう時は、むげに否定しないのが大人というものさ」

艦娘「少し恥ずかしいですね、今思えば」

センセー「そうだな。後で恥ずかしくなるのはわかるさ。でも、いい思い出になる筈だよ」

センセー「ところでその時君は何色を履いていたんだい?」

艦娘「ああ、それは…センセー!」

センセー「ごめんごめん」

艦娘(考えてみれば教師という割にはセクハラとスキンシップが多かったので、違うと気付くべきだったかも知れない)

艦娘(センセーは色々な話をしてくれた。その殆どが海に関する話題だと気付いたのは、センセーと出会ってからしばらく経ってから)

艦娘(そして、私はその理由をあるものを見た事で知ってしまうことになる)

センセー「ふぅ、手紙か…まあ、いい。後で読もう。お茶を淹れて来るよ」

艦娘「おかまいなく…人の手紙を盗み見なんて趣味悪いよね。テーブルに置いとこ」

艦娘「ん?」

艦娘(その時に見たのは、退役軍人局という文字と、海軍の文字)

艦娘(センセーの正体を想像するには難しくなかった。元海軍の軍人)

艦娘(それで女の子がたくさんいたという事は、艦娘に近い人だった、という事か)

艦娘「センセー」

艦娘「艦娘って、どういう存在なんですか?」

艦娘(今までテレビや新聞の中でしか知らない艦娘について、私はストレートに聞いた)

センセー「………」

センセー「ああ、彼女達は誇り高い戦士であり、君達と同じ女の子だ。優しくて、可憐な」

艦娘(輝いて見えた。その言葉、一つ一つが)

艦娘(平和だけどつまらない日常。それは約束された平和で、鳥籠の中の国)

艦娘(外にあるのは荒波だ。戦士たちの闘い。氏と隣り合わせ)

133: 2014/12/03(水) 23:01:17.50 ID:/SF9hwFA0
艦娘「怖がってる子も、いるんですか」

センセー「もちろんだ。優しい子なんていくらでもいる。それでも大切なものの為に戦っている」

センセー「彼女達はみんな、大切なものを持っている」

センセー「君は何を持っている?」

艦娘「私は…」

艦娘(この平和な国で、私は何を守りたいのだろう。世界の荒波にもまれても、命を賭けても守りたいもの)

艦娘「それは……それは…」

センセー「すぐに答えは出ない筈だよ。それでいいんだ」

センセー「甘くない世界だからね」

艦娘(それが精一杯の優しさだと、今でも痛々しいぐらいに解る)

艦娘(でも、一度でも示されてしまった、その美しい運命を)

艦娘(一度でも見てしまった、外の世界への魅力を、私は抑え切れない)

艦娘(ある日、私はセンセーの元を訪ねた)

センセー「やあ」

艦娘「私にとって大切なものが何か。それはまだ、解りません」

センセー「そうか」

艦娘「だけど。私は、私が出来る事をやります! それが、世界の誰かの、希望に繋がるなら!」

センセー「……」

艦娘「私、艦娘になります!」

艦娘「誰かの希望に繋がるならば、それは私の希望にもなるんだから!」

艦娘(ある雪の日に、降り続く雪の中で私は誓う)

センセー「……ああ! 頼もう!」

艦娘(雪の日に、私は艦娘になる事を誓った)

艦娘(誰かの希望を、誰かの未来を守る為に。自分につなげる為に)

艦娘(私が出来る、やり方の一つなんだ)

艦娘(そして、今日……)

同時刻 鎮守府

提督「……お? 誰かいるな」

艦娘(来た!)

吹雪「提督が鎮守府に着任しました! これより、艦隊の指揮を執ります!」

吹雪「特型駆逐艦、吹雪です! よろしくお願いします!」

吹雪(私は頑張り続ける。あの雪の日の誓いを掲げて)

吹雪(たとえこの命尽きようとも、私は希望の為に闘い続けよう。この荒海の中で)

吹雪(ようこそ、世界の荒海へ)

134: 2014/12/03(水) 23:06:55.64 ID:/SF9hwFA0
アンカーを飾るのは、アニメ艦これでも主人公の吹雪さんです!
やっぱり彼女とぜかましちゃんは外せないかなーと思ってました。

ちなみに私の初期艦は漣です。嫁は叢雲ですが。

と、いう事で長きに渡ってスレを展開したけど、今回が最後です。
嫁艦出なかった人ごめんなさい、それでは、どっかのスレでまた会うかも。

135: 2014/12/04(木) 00:26:08.56 ID:MjDbpTQfO
終わってしまうのは寂しいけども
完走お疲れさまでした

136: 2014/12/05(金) 09:41:05.73 ID:njYfKeQqO
よく練られてて面白かった
お疲れ様

引用: 艦娘「艦娘になった理由」