1: 2012/04/05(木) 22:57:59.52 ID:Xq3XQl0J0
 春の嵐も縮みあがるほどの暴風雨が列島を襲った日、俺は嵐の中を例の女と共にずぶ濡れになりながら走っていた。

ヒデノリ「ゼェ、ハァ、ハァ……!」タッタッ

文学少女「クッ、ハッ、こ、この曲がり角、どっち?」

ヒデノリ「左に曲がれば、もうすぐ、だから」

ヒデノリ(相変わらず速いなおい! 女子に二連敗とか形無しだぜ……)

文学少女「そう、わかった……あっ」ズルッ

ヒデノリ「げっ!」ガシッ

 雨で滑りそうになったところをどうにか抱えあげると、彼女の体が密着して……といいたいところだが、

お互いがずぶ濡れであるからにはそんな感興などまるでなく、ヌメっとしたいやな感触しか残らなかった。

文学少女「あ、ありがとう……///」

ヒデノリ(印象は悪くない、のか?)

ヒデノリ「ほら、あそこの青い屋根だから。もう急ぐ必要はないし慎重に行こう」

文学少女「う、うん」

7: 2012/04/05(木) 23:03:05.98 ID:Xq3XQl0J0
 事の発端は暴風到来による休校が決まったことをあの担任が連絡し忘れたために、

幾人かのクラスメートと共に学校でダベっていた時だった。

ヨシタケ「天気が悪いんじゃ出歩くわけにもいかねーしなあ、誰かの家に入り浸るか?」

ヒデノリ「俺は家に帰るよ。母親が旅行に行ってるし、父親も会社に寝泊りするかもしれないっていってたし」

ヒデノリ「兄貴はどうなるかわからないけど、どのみち家を離れるのも心もとないしな」

ヨシタケ「そうかぁ、モトハルは?」

モトハル「さっき姉ちゃんからメールがあって、いつもの皆と家で遊ぶからお前も来いって……」

ヨシタケ「あぁ……生きて帰って来いよ……ん、てことは俺んちにも姉ちゃんいないのか」

ヨシタケ「しょうがない、今日は一人でシャイニングスコーピオンでもクリアするか」

ミツオ「懐かしいなあ、やっぱりマシンの特典込み?」

ヨシタケ「組み立てたはいいけど、もったいなくてまともに走らせないままプラモデル状態になってるよ」

ミツオ「あー、わかるわかる。俺は遊戯王のレアカードがそんな感じだった」

12: 2012/04/05(木) 23:09:20.25 ID:Xq3XQl0J0
ガラッ

唐沢「なんだ、お前ら来てたのか」

モトハル「唐沢も連絡来なかったのか?」

唐沢「休校は知っていたんだがな、生徒会室に忘れ物があったから今日のうちに来ることにした」

唐沢「見たところもう帰るつもりみたいだな」

ヨシタケ「ああ、誰かの家に遊びに行こうかって思ったんだけど、皆家に誰もいないから出かけるわけにもいかない、ってことでさ」

唐沢「そうか。そういえばモトハル、お前通学するのに河原を通るって言ってたな」

モトハル「あぁ、それが?」

唐沢「あそこの川は水深がそれほどでもないから簡単に氾濫するって親が言っててな、帰るときは気をつけたほうがいいぞ」

モトハル「そうか、サンキュー」

ヨシタケ「それ以上に気をつけなきゃならんことがあるけどな」

モトハル「思い出させないでくれ……」

ヒデノリ「……?」

13: 2012/04/05(木) 23:13:44.72 ID:Xq3XQl0J0
ヨシタケ「でさー、ステルスレイダーがさー」

ミツオ「そうそう! マイがいいんだよね~」

ヒデノリ「……」

ヒデノリ(何か引っかかるな、河原……)

ヒデノリ(そうか思い出した! あのメルヘンな女といつも鉢合わせになるところじゃないか!)

「あそこの川は水深がそれほどでもないから簡単に氾濫するって――」

ヒデノリ(……まさか、な)

唐沢「じゃ、俺こっちだから」

モトハル「おう、じゃあな」

15: 2012/04/05(木) 23:19:20.22 ID:Xq3XQl0J0
ビュオォ……

ヒデノリ(結局来てしまった。吹きさらしはつらいなあ、早い所確認だけでもして帰らないと……)

ヒデノリ「いつものところには……いるわけない、か。やれやれ、とんだピ工口になっちまった」

ポツポツ……

ヒデノリ「ん、雨か」バサッ

通りすがり「そこの君、こんなところで何してるんだ。急いで帰りなさい、こんな風だと一気に天気が変わるから」

ヒデノリ「あぁ、すいません。実は友達がここの様子を見にいってくるとかふざけてたもんですから」

通りすがり「あぁ、あれはそうだったのか。まったく最近の学生は……もっとも年寄りも人のことは言えないが」

ヒデノリ「え、あれはって……」

通りすがり「さっき女の子がボーっと立ってるところに出くわしてね。君みたいに注意したら、逃げるようにどこかへ行っちゃったよ」

ヒデノリ(おいおい……)

16: 2012/04/05(木) 23:26:12.12 ID:Xq3XQl0J0
ビュオォ……

ヒデノリ(帰ったなら帰ったでかまわないし、そっちのほうがいいんだが)

ヒデノリ『その子、どっちに行きました?』

通りすがり『西のほうに行ったね。でもあっちは見てのとおりまだまだ道が続いてるし……』

ヒデノリ(なこと言われたらなあ。ったく、お人よしになるのもつらいぜ)

ヒデノリ(それにしても傘がまるで役に立たん。これなら開き直ってずぶ濡れになったほうがすがすがしい)カチッ

ヒデノリ「橋か。だいぶ来ちまったな。となるともう帰ったとみても……ん?」

文学少女「……」ガクガク ブルブル

ヒデノリ(いるー!?)

ヒデノリ(何であの子橋の下に隠れて震えてるの!? あ、傘が折れたの? だから雨宿り?)

ヒデノリ(強風が吹きすさんでんだから意味ねーよ! ホームレスだって選択肢にいれねえよ!)

文学少女「……あっ」ブルブル

ヒデノリ(やっぱりこの子脳のどっかをいじってるわ。こんな子に付き合う俺も大概だけど)

17: 2012/04/05(木) 23:32:05.72 ID:Xq3XQl0J0
ヒデノリ「なんで……」

ヒデノリ(いや待てよ、ここで状況を説明させてしまったらこの子はどう思うだろう)

ヒデノリ(明らかに彼女の失策でこんな状況に至っているというのに、自ら認めてしまえばプライドはズタボロだ)

ヒデノリ(ここはユーモアで場を和ませれば笑い話で済むかもしれない)

ヒデノリ「きょ、今日は風が悲鳴を上げているな……」

文学少女「……」キョトン

ヒデノリ(やっちまったぁー!)

ヒデノリ(いや、まだだ。まだなんとかなるはずだ)

ヒデノリ「きっと苦しんでいるんだろう、自らに背負わされた運命の重みに耐えかねて……」

文学少女「プッ、くくっ、ふふっ……」プルプル

ヒデノリ(違う意味で震えさせちゃったよ! チクショウ、もうどうにでもなれ!)

ヒデノリ「だがこの危機を越えた先には晴天が待っている。この空の新生という晴天が……」

文学少女「あっ、アハハッ、も、もうやめ、てっ、ふ、ふふっ」バンバン

ヒデノリ(すべての苦しみは俺が引き受けよう……)

20: 2012/04/05(木) 23:38:17.18 ID:Xq3XQl0J0
ヒデノリ「はぁ、ふと俺のことが心配になって来てみました、と」

文学少女「うん……」

ヒデノリ「……もしかして毎日ここに?」

文学少女「う、ううん、まさか毎日は来たりしない! たまに来るだけ、たまに……」

ヒデノリ「たまに、ねえ」

ヒデノリ(なんにせよ理由が同じでタイミングもぴったりってすげえなオイ)

ヒデノリ(漫画なら「つながってるね(ハァト」なんていっちゃってキスで終わるご都合展開だよ)

ヒデノリ(しかし我々を取り巻いている状況はといえば……)

ビュウゥゥ…… ザザァザザァ……

ヒデノリ(現実は非情である)

23: 2012/04/05(木) 23:46:23.65 ID:Xq3XQl0J0


ヒデノリ「ここ、氾濫するのがあっという間なんだって。とりあえずここからは出よう」

文学少女「けれど、どこへ」

ヒデノリ(それなんだよなあ、この辺は見てのとおり吹きさらし。あるとしても一軒家が時折きまぐれのようにポツン、とだけ)

ヒデノリ(ここを抜けても住宅地があるだけで、仮に店があったとしてもお互いこの格好じゃあ、なあ)

ヒデノリ「俺は帰り道に寄っただけだから、少し歩けば家に着くけど……」

文学少女「私の家は結構遠い……」

ヒデノリ・文学少女「……」

ヒデノリ(連れ込むしかないのか!?)

26: 2012/04/05(木) 23:51:20.36 ID:Xq3XQl0J0
ザバァザバァ、ビシャビシャ……

ヒデノリ(ここぞとばかりに雨が強くなってやがる。仕方ない、送り狼と思われても本心では親切のために行動しよう)

ヒデノリ「あのさ、もし良かったらだけど、うちに来ない?」

文学少女「へえぇ!?///」

ヒデノリ「せ、せめて雨宿りくらいにはなると思うし、それなりのサービスはするし、嵐がやんだら送っていけるかもしれないし」

文学少女「い、いやじゃないけど、でも物事には段階ってものがあって、なによりその……」ゴニョゴニョ

ヒデノリ(完全に送り狼と思われてるな、これ)

ヒデノリ(まあ思春期の男女がそうなってもおかしくはないですよ? でもね、アンフェア。あまりにもアンフェアすぎる)

ヒデノリ(そんなの後々の良心が悲鳴を上げちゃう。なによりアンタじゃ……)

文学少女「うぅ~……///」

 ぬれた髪、赤らんだ頬、張り付いた制服、そこから控えめに張り出した胸、スカートからのぞく腿……

ヒデノリ(いかんいかん! あくまで本心では親切のためって言ったばっかりじゃねえか!)

29: 2012/04/05(木) 23:58:57.21 ID:Xq3XQl0J0
文学少女「や、やっぱり私の家に帰る! 走れば20分くらいだしっ」

ヒデノリ「20分っていってもやっぱり相当……」

文学少女「じゃあね!」ダッ

ヒデノリ「おい、ちょっと!」

文学少女「あっ」ズルッ バシャアッ

ヒデノリ「……」

文学少女「……」グスッ

ヒデノリ「心配なんで、うちに寄ってください」

文学少女「よ、よろしくお願いします」グスグス

31: 2012/04/06(金) 00:03:20.91 ID:lXqr6IEJ0
 そんなこんなで俺の家に至るのであった。

ヒデノリ「シャワー、先に浴びていいよ。着替えも準備しておくし」

文学少女「え、いいの?」

ヒデノリ「もちろん。その制服もなんとかしたいけど……」

文学少女「て、手洗いでなんとかなる、と思う。いざとなったら洗濯機を借りる、かも」

ヒデノリ「じゃあ浴室はそこだから」

文学少女「うん」キョロキョロ

ヒデノリ(入ったことのない家に来れば興味がわくだろうけど、あんまり見られるのもなあ)

32: 2012/04/06(金) 00:09:40.51 ID:qqdX/ERJ0

ヒデノリ「さて、と。母ちゃんの部屋からジャージと下着を借りて……」

ヒデノリ「ん、ジャージはあるけど下着はないな……この辺にあるはずなんだが……」

ヒデノリ(まさか洗濯し忘れたのか? しょうがない、一旦洗面所に確認に行こうか)

シャアァ……

 洗濯機を置いている洗面所は浴室に隣接しているため、シャワーの音が体に染み渡るように聞こえてきた。

ヒデノリ(こんなに生々しいものなのか……くそっ早い所確認だけでも……)

ヒデノリ(あれ、こんなに少ないのか? あ、そうか! 旅行に行くのに持っていったのか!)

ヒデノリ(まずいな、女の子のシャワーの音を聞きながら母親の下着を漁ってるってだけでもいろいろとまずいってのに)

ヒデノリ(いっそ兄貴の……それはそれでいやだなあ、なにか良い手は……)

ヒデノリ(そぉだお隣さんだ! あんまりしゃべったことはないし、あのベランダの出来事以来距離を置かれているが)

ヒデノリ(きっと事情を話せばなんとかなるだろう。よし、そうと決まれば)

36: 2012/04/06(金) 00:14:21.73 ID:qqdX/ERJ0
ヒデノリ「下着を貸してもらえないでしょうか?」

隣の女子高生「……」

ガチャッ

ヒデノリ(いろいろ言葉が足りねえー!)

ヒデノリ「あの、違うんです! 実は女友達がびしょ濡れになっちゃって、でも俺の下着を貸すわけにも行かないから……」

ガチャッ

隣の女子高生「近所の人には何も言いません。そのかわり二度と私に話しかけないでください」

ガチャッ ガチャガチャ

ザアァァ……

ヒデノリ(やっちまった……こんな苦しみは引き受けた覚えがない……)

37: 2012/04/06(金) 00:18:54.93 ID:qqdX/ERJ0
ヒデノリ(はぁ~どおすっかなあ~……ともかく家に帰ろう。そして申し訳ないが下着は俺のを使ってもらおう)

ガチャッ

ヒデノリ(たしか中学のときのトランクスがあるし、それならサイズが……)

文学少女「あっ」

 はじめは目の前に真っ白なものが立ちはだかっていると見えるだけで、物体の正体はわからなかった。

それが人であると認識したのは長く黒い髪のおかげだった。まもなくそれがバスタオルを体に巻いた女の子だと認識できたときには、

文学少女「き、きゃあぁぁ!!!!」

 悲鳴が上がった。外で唸っている風の音も突き抜ける甲高い声だった。

41: 2012/04/06(金) 00:22:52.39 ID:qqdX/ERJ0
 浴室に閉じこもってしまった彼女に下着とジャージを渡し、出てくるのを待った後、ようやくシャワーを浴びることが出来た。

シャンプーやソープの残り香があったわけだが、そんなものにこだわっている余裕はなく、

そもそもなぜ彼女はバスタオル姿でいたのだろう、ああ、着替えを用意していなかったからだな、

いったいなぜこんな目にあわなければならないのだろう、ひょっとして俺は風の能力でも会得して

不幸を吸い寄せる力でも身に着けてしまったのだろうか、などと愚にもつかぬ自己問答をしながらシャワーを終えたのであった。

ヒデノリ「……」

文学少女「……」

 リビングで二人で座っていても空気は重いままだった。本来なら俺がホストであるわけだから、

なにかしらのサービスでもてなす必要はあるわけだが、なにかすればまたとんでもない目に合いそうで怖かった。

ましてや例のキザなセリフを吐く余裕などもう残っていない。

 こんなときなにか言ってくれればな、と情けなくもすがってみるのだが、彼女は目を合わせてくれなかった。

44: 2012/04/06(金) 00:24:12.49 ID:qqdX/ERJ0
それはごもっともだけどオレの考えは違った(震え声)

49: 2012/04/06(金) 00:26:30.77 ID:qqdX/ERJ0
ヒデノリ(まあ下着の件はストーブで乾かしてるし何とかなるだろう、問題はこの空気だ)

ヒデノリ「……あ、あったかい飲み物でも淹れてこようか? たしか、コーヒーならあるんだ」

文学少女「あ、うん」

ヒデノリ「じゃ、ちょっと待ってて……」

ヒデノリ(気まずい。ただでさえ話題のない二人だけど、輪をかけて気まずい)

ヒデノリ「お待たせ、砂糖とミルクは自由に取っていいから」

文学少女「ありがとう……あちっ」

ヒデノリ「猫舌?」

文学少女「うん、まあ」

ヒデノリ「ブラックでもいけるんだ」

文学少女「むしろブラックじゃないとダメ」

ヒデノリ「俺は無理だな、うん」

文学少女「……(苦い……)」

ヒデノリ(致命的に会話が弾まない……)

50: 2012/04/06(金) 00:31:22.61 ID:qqdX/ERJ0
ヒデノリ(話術もそうだが、顔を合わせてくれないからどこまで踏み込んでいいかわからないんだよなあ)

ヒデノリ(せめてきっかけだけでもいいから何か……)

ヒデノリ「さっきは、ごめんね」

文学少女「え? ああ、うん……大丈夫、私もうかつだった……」

ヒデノリ「その、スタイル良いんだね」

文学少女「へっ!?///」

ヒデノリ「見かけによらずっていうか足も速いし、部活やってる?」

文学少女「ぶ、部活は何もやってない。体を動かすのは好きだけど」

ヒデノリ「俺も。今もたまにクラスメートと缶けりとかやるんだよね」

文学少女「そ、そうなんだ……」

ヒデノリ(なおさら顔をそらされた気がする……)

52: 2012/04/06(金) 00:35:02.42 ID:qqdX/ERJ0
ヒデノリ(限界だ。この手は望ましくないんだろうが救助隊を呼ぶしかないな)

ヒデノリ(といっても呼べるのは男くらいしかいないし、出来るなら女子もセットで……)

ヒデノリ(そうか、タダクニだ! あいつと妹に来てもらおう!)

ヒデノリ「ちょっと席外すね」

文学少女「うん」

54: 2012/04/06(金) 00:38:04.18 ID:qqdX/ERJ0
プルルル プルルル

タダクニ『おう、どうしたヒデノリ?』

ヒデノリ「俺んちに遊びに来ないか? なんなら妹も来て良い」

タダクニ『はぁ? どうしたんだよいきなり?』

ヒデノリ「いろいろとややこしいんだが……実はあの河原で会った女の子がうちに来てるんだ」

タダクニ『なんだよそれ!? 見せ付けるつもりか? 二人でしっぽりとやってろよ!』

ヒデノリ「ま、待て! 話せばわかる!」

タダクニ『どっちみち、うちは親が共働きだから二人とも出て行ったら留守になるんだよ、じゃあな』

ブツッ ツーツーツー……

ヒデノリ「お、おのれ……」

58: 2012/04/06(金) 00:41:28.39 ID:qqdX/ERJ0
妹「誰?」

タダクニ「ヒデノリ。お前も連れてうちに来ないか、だってよ」

妹「あぁ~……どっちみちパスだな。ほら、うどん煮立ってる」

タダクニ「あぁ、うん。よし出来た。食おうか」

妹「いただきます」

タダクニ「いただきます」

妹「チュルチュル……ん、おいしい」

タダクニ「そうか、よかった」モグモグ

妹「モグモグ……ズズッ」

『暴風は明日にかけて続くと見られ……』

タダクニ「明日も休校かなあ」

妹「……どうだろうな」

62: 2012/04/06(金) 00:45:17.48 ID:qqdX/ERJ0
ヒデノリ(ちくしょう……他に誰か……女がいて事情を話しても怒らないでくれるヤツ……)

ヒデノリ(唐沢、確かあいつ近所につるんでる女子がいるとかいってたな)

ヒデノリ(微妙な線だが仮に一人でもあいつなら……)

オルスバンサービスニセツゾクシマシタ。ハッシンオンノアトニ……

ヒデノリ「ちっ、メールに残しておくか」

『ちょっと込み入った用事なんだ、電話で返してくれ』

ヒデノリ(よし、戻るか)

63: 2012/04/06(金) 00:49:39.87 ID:qqdX/ERJ0
『春の甲子園は決勝が中止になり……』

ヒデノリ(テレビ点けてる。あぁ、もう失格っていわれたようなもんだなぁ)

ヒデノリ「ごめんね、なんか」

文学少女「ううん」

ヒデノリ「……」ズズッ

文学少女「……」ゴクッ

ダンシコウコウセイノニチジョーアァオッ!

ヒデノリ(来たか!)

『すまん、俺も立て込んでるんだ。悪いが後にしてくれ』

ヒデノリ(くっ、万策尽きたか……)

65: 2012/04/06(金) 00:54:31.13 ID:qqdX/ERJ0
数分前……

ヤナギン「ん、としゆきのケータイに電話が」

生島「げ、どーする?」

ヤナギン「別に出なくてもいいだろ……今度はメールか。なになに~? 電話しろってかぁ」

生島「電話は出来ないよねえ」

ヤナギン「あいつの文体模写なら簡単だし、メールで適当にあしらっておこうか」カチカチ

ヤナギン「これを怪しまれないように後で送って、っと。邪魔されるわけにはいかないしねえ」

生島「としゆき大丈夫かなあ。羽原も心配だけど、色々と懸念が多すぎるよ」

ヤナギン「どーにかなるでしょ。どーにかなってもらわないとあたしたちも困るし」

70: 2012/04/06(金) 00:58:34.77 ID:qqdX/ERJ0
羽原「としゆき君、鍋お願い」

唐沢「わかった……」

唐沢(なんでコイツと二人きりになってるんだ……あいつらはどこへいった? ケータイもなくなってるし……)

羽原(としゆきと二人で料理。これってなんか……って早い早い、何考えてるの私!)

羽原「としゆき君、そっちの食器取って」

唐沢「ん、どれだ?」

羽原「その幅が大きいの……いいや私が」

ピタッ

唐沢・羽原「!!(て、手が!)」

唐沢「!」スクッ

羽原「と、としゆき君、なんで直立不動に?///」

唐沢「いや、条件反射というか、防衛本能というか……」

唐沢(俺は氏ぬんだろうか……)

71: 2012/04/06(金) 01:02:11.86 ID:qqdX/ERJ0
さかのぼること一時間前……

ヤナギン「休校だな」

生島「休校だ」

ヤナギン「いつもの三人だな」

生島「いつもの三人だ」

ヤナギン「相変わらず夢がないな!」

生島「夢がない!」

ヤナギン「それもこれもアンタに男っ気がないせいだ、羽原!」

生島「そーだそーだ!」

羽原「えぇ!? なんで!?」

75: 2012/04/06(金) 01:06:11.28 ID:qqdX/ERJ0
ヤナギン「フツー女子高生が休校ってなったら男の家にあがりこんでねっとりと一日中ヤっちゃうところでしょーが」

ヤナギン「裸の上に男の大きめのシャツをまとったりなんかして、初めはいじらしくその匂いを堪能するものの」

ヤナギン「その後に待ち受ける更なる匂いを求めて、乾けば濡れて、濡れれば乾いて……」

生島「そんなんがあるのは漫画の世界だけだよ」

ヤナギン「それが、女三人、いつものメンツでダベってるばっかり」

ヤナギン「恥ずかしくないのか、華の女子高生が!」

羽原「えぇ~……で、でもぉ」

生島「まぁ、ねえ」

ヤナギン「そんなんだからアンタは……良い機会だ、としゆきを呼ぼう」

羽原「えっ!?」

生島「おお、ヤれヤれー!」

羽原「ちょ、ちょっと!///」

80: 2012/04/06(金) 01:11:14.60 ID:qqdX/ERJ0
ヤナギン「まあ待ちなよ、なにも下半身に任せてお盛んにやれってわけじゃないわ」

ヤナギン「そもそもアンタに男っ気がないのは過去のせいよね。男共もアンタにトラウマをうえつけられてるし」

ヤナギン「アンタ自身も後ろめたい気持ちのせいで異性に対してなかなか踏み込めないでいる」

ヤナギン「おそらく過去のことを断ち切れない限り、アンタは一生処Oのまま……」

生島「どっかの層には受けるかもしれないけど耐え切れんわな、そりゃ」

羽原「うぅ……」

ヤナギン「そこで、だ。としゆきとしっかりと和解しよう。としゆきはアンタに対してのトラウマが一番根深いし」

ヤナギン「アンタが一番罪悪感を抱いてる人間でもある。この難しい関係を修復できたとしたら他はもう解決したも同然だ」

ヤナギン「そしてそれを糧にしてきっとこれからは異性と良い関係を築けるようになるんじゃない、かな」

ヤナギン「なによりアークデーモン、そんな汚名から立ち直って正真正銘の新しい人格になれるって利益もあるしね」

羽原「そ、そうかも」

生島「良いこというなー」

ヤナギン(まあそれは建前で、としゆきと面白おかしくやってくれるだけでいいんだけどね)

81: 2012/04/06(金) 01:15:53.19 ID:qqdX/ERJ0
生島「風に負けない声で叫ぶよ、としゆきくーん!」

唐沢(なんで窓が開けられないのに窓越しに呼ぶんだ……)

ヤナギン「こっちにこない限りアンタのことをいつまでも呼び続けるよ、としゆきくーん!」

生島「あぁとしゆき、どうしてあなたはとしゆきなの、としゆき!」

唐沢「はぁ……」イライラ

羽原宅

唐沢「で、なんだ」

ヤナギン「羽原は料理できるけどアタシと生島は出来ないんだよ、手伝ったげて」

生島「どうせなら夜の分まで作ってけよ」

唐沢(こいつら……)

ヤナギン「それに羽原んち誰もいないんだよ。あたしらが泊まっても女三人じゃ心細くてねえ」

唐沢「そのセリフをお前らが言うか」

86: 2012/04/06(金) 01:19:41.66 ID:qqdX/ERJ0
生島「まーさすがに一緒に寝ろとは言わないからさー、としゆきがまんざらでもないなら別だけど」

唐沢「全力でNo!」

羽原「と、としゆき君、やっぱり迷惑だよね、ごめんね……」

唐沢「っ!(もし逆らったら……)」

羽原(トシユキ視点)『迷惑? お前にそんなこと言える資格があるのか? お高くとまるようになったなぁ……』

唐沢「……」ブルッ

唐沢「……夕方までだぞ」

ヤナギン・生島(よしっ!)

羽原「……///」

89: 2012/04/06(金) 01:24:36.41 ID:qqdX/ERJ0
時は戻る……

ヤナギン『それじゃー、アタシらは生島んちに行くから』

生島『結果報告を楽しみに待ってるよー』

羽原(せっかくのチャンス……がんばるよ、二人とも)グッ

唐沢(なんだあの握りこぶしは……)ゾクッ

羽原「ふ、二人ともどこ行っちゃったんだろうね」モグモグ

唐沢「さあな……」

羽原「シチューはあっためられるし、夜の分も取っておこうか」モグモグ

唐沢「ああ……」

唐沢(口がメシを受け付けない……)

93: 2012/04/06(金) 01:29:35.69 ID:qqdX/ERJ0

ヒデノリ宅

クゥ~

文学少女「!」

ヒデノリ「(今のって……)ああ、もう昼時か」

文学少女「///」

ヒデノリ「なんか作る? といっても簡単なものしか出来ないけど」

文学少女「大丈夫。お弁当あるし」

ヒデノリ「あ、俺もだ。途中で休校になったの?」

文学少女「ううん、最初から休校。でも昨日のうちに連絡されたこと忘れちゃって……」

ヒデノリ「うちは担任が連絡するのを忘れたんだってさ」

文学少女「へぇ。(カパッ)あっ、グチャグチャ……」

ヒデノリ「走った拍子にか……俺の分けようか?」

文学少女「……食べられなくもないから、大丈夫だと思う」

110: 2012/04/06(金) 02:05:40.18 ID:qqdX/ERJ0
文学少女「ところで、うちの人は?」モグモグ

ヒデノリ「母親は旅行に行ってて、父親は会社。兄貴は大学の友達と遊び」モグモグ

文学少女「そっか、ってそれって……///」ゴニョゴニョ

ヒデノリ「そっちは家に連絡しなくて大丈夫?」

文学少女「あ、忘れてた……ちょっと電話してくる」

ヒデノリ(面と向かって食べるしかないからか、なんとなく打ち解けてきた気がするな)

ヒデノリ(嵐がやむまでの辛抱だと思ってたが、その心配はなくなりそうだ)

 ビュオォォォ…… オォォォ……

ヒデノリ(にしても改めて聞くとすげえな、上空で滞ってるんだか、天井がにじりよってくるみてえだ)

113: 2012/04/06(金) 02:09:51.20 ID:qqdX/ERJ0


文学少女「友達の家に泊まるかも、って連絡してきた」

ヒデノリ「そう……えっ泊まるの!?」

文学少女「えっ!? あ、あくまで方便、方便だから!」

ヒデノリ「あっ、方便ね、うん」

文学少女「もっともこの嵐がやまないと帰れないけれど……」

ビュウゥゥ……

ヒデノリ(……安請け合いしちゃったかなあ)

115: 2012/04/06(金) 02:14:33.20 ID:qqdX/ERJ0
ヒデノリ「ごちそうさま」

文学少女「ごちそうさま。洗い物、しようか?」

ヒデノリ「ん? あぁ構わない構わない、もともとこっちが無理やりつれてきたみたいなもんなんだから」

ヒデノリ「むしろこっちになんでもやらせてよ」

文学少女「あ、じゃあお願いします」

ジャー キュッキュッ

ヒデノリ「~♪」

文学少女「あなたって本当にやさしいね」

ヒデノリ「んん!?」ガタッ

文学少女「わっ、大丈夫!?」

ヒデノリ「割れ物じゃないし……そ、それよりやさしいって、そんなことはないでございますよ?」

文学少女「ううん、やさしいのは本当……」

ヒデノリ「あ、ありがとう、でいいのか?」

文学少女「たぶん」

117: 2012/04/06(金) 02:17:57.90 ID:qqdX/ERJ0

キュッキュッ

ヒデノリ「……」

文学少女「……」

『徹子の部屋、今日のゲストは岩崎良美さんです……』

ヒデノリ(ど、どんな反応をすればよかったんだ……やさしい、なあ、うーん……)

ヒデノリ(そうなれるのは本望だけど、いざ言われてみるとこっ恥ずかしいなあ)

文学少女「あ、この漫画、私も読んでる」

ヒデノリ「ん? あぁ、面白いよねそれ」

文学少女「ロビンソンがファニーを崖から落としたけれどトビウオに打ち上げられたところは最高だったよね」

ヒデノリ「そこもいいけどベックが刑務所でトイレの神様の変え歌を皆で合唱したところも面白い」

118: 2012/04/06(金) 02:20:57.61 ID:qqdX/ERJ0
ヒデノリ「でさ、世界が逆立ちしちゃってさ」

文学少女「あはは、そうそう!」

ヒデノリ(案外気さくに笑う子なんだな。てっきり内面メルヘンで表面は暗い子だと思ってたけど)

ヒデノリ「それに笑うとかわいいし」ボソッ

文学少女「ほあぁっ!?///」

ヒデノリ「え? あぁ、いやあその、つい声に出ちゃったというか、まあ本音というか」

文学少女「あ、ありがとう、でいいの?///」

ヒデノリ「た、たぶん」

120: 2012/04/06(金) 02:26:48.68 ID:qqdX/ERJ0
ヒデノリ「結構しゃべるんだ。今までまともにしゃべったことなかったからそう思うんだろうけど」

文学少女「うん、他の人とはちゃんとしゃべれるんだけど、あなたといるとなぜか……」

ヒデノリ「でもこの風……」

文学少女「あ、あれはもうやめて///」

ヒデノリ「まあ俺もそうしないとまずいのかな、って気が置けるところあるけど」

ヒデノリ「ああいうの、好きなんだ」

文学少女「わ、悪い?」

ヒデノリ「いやあ、悪いってことはないけど、やってて恥ずかしくはある」

文学少女「だよね、見てたほうがやっぱりかっこいいし。でもあこがれる……」

ヒデノリ「俺もヒーローにあこがれたりはしたけどなあ」

121: 2012/04/06(金) 02:30:48.44 ID:qqdX/ERJ0
ヒデノリ「ああいうの、どっから仕入れてるの? 自作小説とか」

文学少女「アニメとかライトノベルとか」

ヒデノリ「それ見て書きたくなったりするのか」

文学少女「ありえない世界を本当にあるものかのように作れるってすごいなって思うし」

ヒデノリ「他の友達に見せたりする?」

文学少女「たまに……一度見せたら生暖かい目で見られたけど、最近はいいねって言われることもある」

文学少女「見せない友達のほうが多いけど。でも特に不満は感じてないかな。あくまで趣味でやってるだけだし」

ヒデノリ(現実が嫌だからってわけでもないのか。子供のころの名残がそのまま残ってるってだけなのかもしれん)

122: 2012/04/06(金) 02:36:55.38 ID:qqdX/ERJ0
ヒデノリ「ていうか、なんで俺は根暗なオタクだと思われたんだ?」

文学少女「あ、あれはごめん。でも河原で一人でいるってことはそういうことだと思って」

ヒデノリ「まあおかしくはない、か。でもその後は……」

文学少女「その次はまたああいうことが出来たらな、って、恥ずかしかったけど行ってみることにしたの」

文学少女「するとあなたがいて、でもそこで失礼なことしちゃったから次は……」

ヒデノリ「ああ、あれはもういいよ、うん」

文学少女「で、今回は学校で休校だってわかった時に頭に浮かんだの。きっと大丈夫ってわかってても、頭から離れなくて」

ヒデノリ(とことんシンクロしてるな。前世のつながりとか言われても信じるわ、これは)

127: 2012/04/06(金) 02:43:41.76 ID:qqdX/ERJ0

ヒデノリ「じゃあ俺相手にしどろもどろだったのは……」

文学少女「第一印象、かな。あんなセリフとあんないざこざがあったし」

文学少女「会いたいとは思ったけれど、実際面と向かってみると、うまく話せなくて」

ヒデノリ「なるほどなぁ」

文学少女「あそこを通るときは色々考えるんだけどね、話すのはむしろ好きなほうだし」

ヒデノリ「ああいうスカしたセリフを考えるの? 俺は君の脳内でかっこよくなってたりして?」

文学少女「もうっ、からかわないで///」

ヒデノリ「はははっ」

128: 2012/04/06(金) 02:47:52.52 ID:qqdX/ERJ0
ヒデノリ「てことは俺そんなに悪い印象は持たれてなかったんだ、なんか安心した」

文学少女「うん、全然。制服貸してくれたりしたし、むしろ私があなたに嫌われてないかな、って思うくらいで」

ヒデノリ「あぁ、最初は少しあったよ。あそこ行きたくないなあ、とか」

文学少女「や、やっぱり」

ヒデノリ「でも今日で普通に話せる子なんだな、ってわかったし」

文学少女「そう、よかった」ニコッ

ヒデノリ(何より、なんだかんだであそこに足を向けるってことは……)

129: 2012/04/06(金) 02:53:27.13 ID:qqdX/ERJ0
ダンシコウコウセイノニチジョ-アァオッ!

ヒデノリ「ん、兄貴から電話か。ちょっと待ってて」

文学少女「うん」

ユウスケ『おう、ヒデノリか。お前今日家にずっといるか?』

ヒデノリ「いるけど」

ユウスケ『ちょうど良かった。サークルの人の家に泊まっていくから、悪いけど一人で留守番しててくれ』

ヒデノリ「あぁ、やっぱり……」

ユウスケ『やっぱり?』

ヒデノリ「ううん、こっちの話」

ユウスケ『まあいいや、頼むぞ、それじゃ』ガチャッ

131: 2012/04/06(金) 02:57:54.42 ID:qqdX/ERJ0
ヒデノリ「えーと、兄貴が家に帰ってこないようです」

文学少女「そ、それって……」

ヒデノリ「……まあ、嵐がやむのを待つしか」

文学少女「でもさっきのニュースで明日まで続くって言ってたよ?」

ヒデノリ「……」

 オォォウゥゥ…… バシャバシャ……

ヒデノリ「や、やっぱり泊まっていく?」

文学少女「迷惑なら本当は帰りたいくらいなんだけど……」

ヒデノリ「いや、迷惑ってことはないさ。乗りかかった船だし。でも、まあ」

文学少女「で、出来るだけ間違いは犯さないように?」

ヒデノリ(むしろ安請け合いさせちゃったのかあ?)

133: 2012/04/06(金) 03:02:49.87 ID:qqdX/ERJ0

ヒデノリ「漫画ならあるけど、暇つぶしになりそう?」

文学少女「うん」

ヒデノリ「じゃあ俺の部屋で選んでいって。ちょうど掃除したばっかりだったし、見苦しくはないと思うから」

ガチャッ

ヒデノリ(あっ! そういえば机の上に漫画の原稿をおきっぱなしに……)

ヒデノリ「そ、そっちに本棚あるから」

文学少女「ふぅん」キョロキョロ クンクン

文学少女「? それって……」

ヒデノリ「そぉいやぁ!」ガサッ

134: 2012/04/06(金) 03:08:21.49 ID:qqdX/ERJ0

文学少女「!? い、今何を……」

ヒデノリ「ん? あぁこれ? うん、テストの答案。俺バカだからさ、点数悪くて」

文学少女「そ、そうなんだ……あ、私勉強なら得意だから教えられるよ?」

ヒデノリ「んん~? あ、ありがたいなあ、それなら早速リビングで……」

文学少女「答案、見せてくれない? 笑わないから、絶対」

ヒデノリ(そんな純粋な目を向けるなぁー!)

135: 2012/04/06(金) 03:15:00.57 ID:qqdX/ERJ0

文学少女「へぇ……」キラキラ

ヒデノリ(ヒデノリ君の必氏の隠蔽も実らず結局見つかりましたとさ、めでたしめでたし)

文学少女「ふふっ、ここ面白いね、『ロビンソンとファニーの日常』に出てくるギャグみたい」

ヒデノリ「そ、そう? そこはオマージュ受けたんだよなあ」

文学少女「いくつかそんな感じのところあるよね、とんでもないことやってるけれど無理やり押し通す、みたいな」

文学少女「ここのヨシアキから借りたお金が回りまわって国を動かす騒ぎとか、好き」

ヒデノリ「そ、そう?(あ、あれ?)」

文学少女「でも『ロビファニの日常』に出てこなさそうなネタは、うん……」

ヒデノリ「ですよねえ……」

137: 2012/04/06(金) 03:23:44.16 ID:qqdX/ERJ0
文学少女「ねえ、私と一緒にネタ考えない? ていうか良いテーマが思いついた」

ヒデノリ「えっ?」

文学少女「スカしたセリフを吐き散らすけれどことごとく滑ってて、でも全然ダメージを受けない図太い主人公のギャグ漫画、とか」

ヒデノリ「あぁ~面白そうだけどどっかでやってそうだなぁ」

ヒデノリ「……ていうか、笑わないんだな。ネタの良し悪しはともかく、マンガ描いてるなんて」

文学少女「笑わないよ。だって私自身楽しいもん。楽しいことは、やりたくなるじゃん」

文学少女「あなたも描いてて楽しかったよね? だから面白いんだと思う」

ヒデノリ(ま、まぶしい……)

139: 2012/04/06(金) 03:27:25.26 ID:qqdX/ERJ0
文学少女「じゃあ考えてみようか」ウデマクリッ

ヒデノリ「あぁ……といってもなあ、あれはあの面白空間にいたからこそ思い浮かんだものだし」

文学少女「それなら任せて、キザな言葉なら簡単に思い浮かぶから。あなたはそれをギャグに移し変えればいいの」

ヒデノリ(この子ノリ出したら止まらんわ……)

文学少女「この風が私の心を洗うの。だからこのままでいさせて……」

ヒデノリ「ブッ、ハハッ」

文学少女「風がやんだ時きっと私は生まれ変われる。青空を無垢な心で受け止められる澄んだ心に変わって……」

ヒデノリ「や、やめろっ、頃す気、かっ」ジタジタ

文学少女「ふふっ、なんだこういう方法もあったんだぁ」

140: 2012/04/06(金) 03:32:58.99 ID:qqdX/ERJ0
 それからというもの、俺たちは漫画のネタ作りに没頭した。彼女がネタを出して、俺がそれをストーリーに仕立てる。

主人公はメルヘンにあこがれる箱入り娘。彼女は成人すると同時に家を出る。

昔物語で読んだような理想の国がきっとどこかにあると信じて、からかわれたり叱られたり、

時には暖かく迎えられながら旅を続けていく。途中から旅中の出来事を客観的に見られる役を出したほうがいい、

との話になって、男の召使を出したほうが良いのでは、と俺が言うと彼女は快く採用してくれた。

 話はまるで尽きず時計を見ることさえも忘れていたのだが、途中で彼女が不意に、

「これってドン・キホーテだね」というと、合点が行って一気に力が抜けた。

どこかでやったことがあるだろうと思っていたのは、ちゃんとした兆候だったらしい。

けれど、いつも男友達とやるバカ話をしているようで楽しかった。

同時に彼女もいつもどおり話せていたようで、満足そうだった。

142: 2012/04/06(金) 03:37:18.14 ID:qqdX/ERJ0
クゥ~

文学少女「!」

ヒデノリ「うわ、もう6時か、あっという間だな」

文学少女「夕食は私が作るよ?」

ヒデノリ「でも……」

文学少女「腕前なら任せておいて。お弁当もいつも作ってるくらいだし、それにお礼もしたいし」

ヒデノリ「あぁ、じゃあよろしく」

文学少女「うん」ニコッ

ヒデノリ(いいなあ、あの笑顔)

144: 2012/04/06(金) 03:45:17.89 ID:qqdX/ERJ0
ヒデノリ(そういや親父……)

プルルル プルルル

ヒデノリ「噂をすれば」

父親『ん? なんだ、開口一番にふさわしくないことをいうな、このメガネは』

ヒデノリ「あぁはいはい、ごめんごめん」

父親『いつまでたっても成長しないヤツめ。そんなんじゃ、あの空中楼閣ではやっていけんぞ』

ヒデノリ「なんだよそれ」

父親『比喩だよ比喩。仕事を戦場とするようなものだ』

ヒデノリ「説明するなよ。で? やっぱり帰ってこれないの?」

父親『ほう、先読みをするようになったとは成長したな。見積もりが甘かったようだ』

ヒデノリ「へーへー」ガチャッ

146: 2012/04/06(金) 03:52:40.48 ID:qqdX/ERJ0
ヒデノリ「ええと、父上が帰ってこれないようです」

文学少女「なんとなく察しはついてたけどね。それに」

ビュゥゥゥ……オォォ!! バキッバキッ

文学少女「私もとうてい帰れそうにないし」

ヒデノリ「そうだなぁ。ところで何作って……ど、ドリア? すげえな」

文学少女「ホワイトソースとチーズがあったし。オーブンで焼くのに時間がかかっちゃうけど、まあ簡単だよ」

ヒデノリ「はぁ~こんなんなら作ってもらって正解だったわ。俺うどんくらいしか出来ないし」

文学少女「しょうがないよ、男の子って料理しないし」

ヒデノリ「でも料理は出来るようになりたいよなあ、MOCO’sキッチンとか笑えるけどうらやましかったし」

文学少女「今度簡単な料理教える?」

ヒデノリ「頼むよ」

文学少女「それじゃこれをオーブンにいれて、っと。あ、ケータイしばらく見てなかったな……」

148: 2012/04/06(金) 03:55:44.84 ID:qqdX/ERJ0
文学少女「羽原ちゃんからメールあったのか……」

『やっさんに相談。打ち解けられない男の子とどうしたら仲良くなれるかな?』

文学少女「へぇ、さっきまでの私と一緒……でも3時のメールか……」

文学少女「どうしよっかな……うん、送ってみよう」

『返信遅れてごめんね。もしかしたらもう解決してるかもしれないけど、打ち解けられないってことは会話は出来てるんだよね?』

『となると、その人も打ち解けたいと思ってるんじゃないかな』

『だから、そういうのがお互いにわかれば楽になれると思うよ。それにはその人のことを信じてあげること。

『こっちが不安に思ってるとあっちにも伝染しちゃうからね。それさえなくなればきっと仲良くなれるよ。がんばって!』

149: 2012/04/06(金) 04:01:09.83 ID:qqdX/ERJ0
文学少女「ねえ、打ち解けられない人と接するときって、どうする?」

ヒデノリ「何をまたいきなり。そうだなぁ……っていうか、それって俺達のことじゃん」

文学少女「ふふ、そうだね」

ヒデノリ「ううん……相手のことを慮ってるから打ち解けられないって思うんだろうな」

ヒデノリ「何にも考えてないなら、そもそも何にも感じないだろうし」

文学少女「そうだよね」

ヒデノリ「でも、相手のことを考えすぎてもダメだし。程よく考えて、程よく考えなくて」

ヒデノリ「そんな風に相手のことをそのままに受け止めるバランスが大事なんだろうな」

文学少女「うんうん」

150: 2012/04/06(金) 04:04:12.46 ID:qqdX/ERJ0
文学少女「相手のことを考えれば考えるほど、不確定な部分が増えちゃって不安になっちゃうんだよね」

ヒデノリ「そうそう」

文学少女「うんうん……」

チーン

文学少女「出来たみたい」

ヒデノリ「おお、見栄えも完璧」

文学少女「ふふ、ありがとう。じゃあいただきます」

ヒデノリ「いただきます」

151: 2012/04/06(金) 04:06:02.39 ID:qqdX/ERJ0
羽原宅

ジョシコウセイハイジョウーフゥ-!

羽原(あ、やっさんからメール)

羽原(そっかぁ、相手のことを信じてあげる、かぁ……)

羽原(よしっ、この調子でどんどんとしゆきと打ち解けよう!)

羽原「としゆき君、そろそろご飯にしない? シチューあっためなおそうか」

唐沢「ん、ああ……」

羽原(としゆきは優しいなあ、私が何言ってもうなずいてくれるし)

唐沢(おかしいな、何も食べてないはずなのに腹が何も訴えかけてこない……)ゲッソリ

153: 2012/04/06(金) 04:08:00.36 ID:qqdX/ERJ0
ヒデノリ「デデッデデデッデデデッデデデッデデーンデン おきのどくですが>>1のかきためはつきてしまいました」

おやすみ

193: 2012/04/06(金) 10:18:29.46 ID:rLKiSyAa0
三時間前……

羽原(いざ二人きりになったはものの何をすれば……)

羽原(うぅ~としゆきとは遠慮なしに話せるけれど、いざ意識してみると……)

唐沢「……」ブツブツ

羽原(うーん……そうだ、誰かにメールしてどうすればいいか訊いてみよう! まずはやっさんに……)

数分後……

羽原(あれ? 返事来ないな。忙しいのかな……)

唐沢(そうか、メールか……いや、逃げられないだろうな、どうせ)

196: 2012/04/06(金) 10:28:33.69 ID:rLKiSyAa0
羽原(いや、ヤナギンと生島に背中を押してもらったんだ。誰かに手伝ってもらっちゃ私自身が変わったことにはならないよね)

羽原「としゆき君、人生ゲームで遊ばない?」

唐沢「あ、ああ」

羽原「昔遊んだよね、たかひろ君とかと一緒に」

唐沢「……」

199: 2012/04/06(金) 10:40:53.92 ID:rLKiSyAa0
幼少時代……

アークデーモン「……」ゴゴゴゴゴ……

唐沢(これ、勝ったら負けだよな……)

たかひろ(だが手加減したのがバレようものなら……)

アークデーモン「回すか」カラカラ

唐沢・たかひろ(ふ、不幸マス!)

唐沢「あっ、シルバーデビルが!」

アークデーモン「あ゛?」

たかひろ(よしっ!)

200: 2012/04/06(金) 10:48:39.28 ID:rLKiSyAa0
アークデーモン「いないじゃないか」

唐沢「おかしいなあ……あれだ、きっと逃げ足が速いんだよ、うん……」

アークデーモン「ちっ、やれやれ……転職マスか。ほう、プロ野球選手か、ククク……」

現在……

唐沢(何か他にもかんばしくない思い出があったはずだが、思い出すことさえも拒んでいる……)

羽原「それじゃやろっか」カラカラ

羽原「あ、としゆき君と結婚……///」

唐沢「!?」ドクンッ

唐沢(思い出した……だが掘り返すと心臓が、持たん……)パクパク

203: 2012/04/06(金) 11:01:06.73 ID:rLKiSyAa0
二時間前……

羽原「人生ゲーム、終わっちゃったね」

唐沢(なんでこんなにもつらい思い出ばかり……)ズキッズキッ

羽原(よくよく考えてみると人生ゲームは良い思い出しかないんだよなあ。そっか、これをきっかけに……)

羽原「あのさ、としゆき君、私まだ怖いところあるかな?」

唐沢「ん? ん、ん~?(どう答えればいいんだ……)」

羽原「私、ヤナギンとか生島に今でもからかわれるんだよね、力持ちとか、物怖じしないとか」

羽原「でも、私は私なりに変わってるつもりだし、それに昔だってあながち良いところがなかったってわけでもないはずだし……」

羽原「そういうところ、昔から付き合ってるとしゆき君ならわかってくれてるんじゃないかな、って思って」

唐沢(きょ、脅迫なのか?)

205: 2012/04/06(金) 11:10:51.74 ID:rLKiSyAa0
唐沢「まあお前は見た目は人畜無害の女子だよ」

羽原「あ、よかったぁ」

唐沢(見た目はな……)

唐沢「それに性格も今は柳や生島相手のブレーキ役をやってるみたいだしな」

唐沢「あいにく、昔の思い出はかんばしくないものしか残ってないからわからないが」

羽原「そ、そっかぁ。やっぱり変われてるんだ、私」

唐沢(それもあくまで表面だけで、根本は昔のままなんだがな……)

207: 2012/04/06(金) 11:18:23.27 ID:rLKiSyAa0
羽原「次はゲームでもやろっか。鉄拳? バイオハザード?」

唐沢(女子高生が持ってるゲームじゃないな……まあ羽原とやった記憶はないしこれなら……)

唐沢「そうだな、バイオでもやるか」

数分後

羽原「うひゃー、爽快爽快」ケラケラ

唐沢(俺がなんにもしてないのにSランク……?)

羽原「やっぱり楽しいね、バイオは。ゾンビだから遠慮なく殺せるし。人はちょっと、遠慮が出ちゃうけど」ニコニコ

唐沢「……」ガタガタ

210: 2012/04/06(金) 11:29:58.21 ID:rLKiSyAa0
一時間前……

羽原「ふぅ、こんなもんか……」

ビュウゥゥ…… ドサッドサッ

羽原「風、やまないね。すごいや」

唐沢(お前のほうが恐ろしいよ……)

唐沢(やはり本質は変わっていない。他人を思いやったりする理性は身につけたんだろう)

唐沢(だがそれもあくまで利益になるから採用しているに過ぎない。本人に自覚はないのだろうが……)

羽原「明日も休校かなあ……としゆき君、明日も来てくれる?」

唐沢「えっ。う、うん、休校だったら、な」

羽原「そっか、よかったぁ」

唐沢(それに他人を思いやっている、というのもあくまでコイツの狭い感覚の中の出来事でしかいないんだ……)

215: 2012/04/06(金) 11:38:54.48 ID:rLKiSyAa0
羽原「としゆき君は生徒会に入ってるんだよね、どんな人達がいるの?」

唐沢「軟派というかおちゃらけてるというか、あまり仕事をしない生徒会長に」

唐沢「ヤンキー上がりの副会長とクラスメート、片方の見た目はそのまま強面で、もう一方はそれほどでもないな」

羽原「そ、そうなんだ、なんかすごいところだね……」

唐沢「まああくまで見た目は、だ。会長は面倒見もいいし、副会長もクラスメートも根はいいやつだよ」

唐沢「時折男女問わず部外者がやってきて頼りにくるくらいだから、外見を取っ払えば良い人間だと思われているんだろう」

羽原「えっ、女の子もくるの? 男子校なのに?」

唐沢「安請け合いしていたら評判が広まったらしくてな」

217: 2012/04/06(金) 11:46:10.13 ID:rLKiSyAa0
羽原「へ、へぇ~……」

羽原「と、としゆき君、今度そっちに遊びに行ってもいいかな?」

唐沢「えっ」

羽原「ま、頼ることは特にないんだけどね……でも、その生徒会の人たちにも興味わいたし」

唐沢「……」ダラダラ

唐沢「あ、あまりにも部外者がやってくるってことで職員からも注意を受けてたりするから、正直」

羽原「そっかぁ、じゃあどうしても頼らざるをえないことが出来たら、だね。そのときは覚えておいてよ」

唐沢「ああ……」

218: 2012/04/06(金) 11:55:21.78 ID:rLKiSyAa0
会長「へっきし! んん~?」

副会長「どうしました、風邪ですか?」

会長「いやぁ~? どっかのカワイイ子が俺のうわさをしてるんだと思うよ? 楽しみだなあ、うん」

副会長「はぁ……」

会長「あ、もしかしてりんごちゃんが怖がってたりするのかなあ、いっちょ電話してみるかぁ」

会長「あ、りんごちゃん? 風邪強いよねえ、怖くない? なんなら今から俺が……」

りんごちゃん『余計なお世話よ!!!!』ブチッ

会長「いってぇ……」ジンジン

副会長(しかし……さっきの悪寒はなんだったんだ……? 風邪かな)

222: 2012/04/06(金) 12:04:45.04 ID:rLKiSyAa0
モトハル「うわぁぁ! やめてくれえぇぇ!!」

姉「いいじゃない、これからあったかくなるんだし坊主でも」

ヨシタケ姉「やっぱり心残りがないように真ん中からばっさりとやっちゃったほうが良いよねえ?」

友人1「ははは! 行け行けー!」

友人2「後頭部はまかせろー」バリバリ

モトハル「ぎゃあぁぁ!!」

226: 2012/04/06(金) 12:11:22.22 ID:rLKiSyAa0
羽原宅

羽原「と、としゆき君、うちに泊まっていく?」モグモグ

唐沢「……は?」

羽原「きょ、今日私一人だけだし、やっぱり怖いし、布団ならお兄ちゃんのがあるし……」

唐沢「……うん、うん」

羽原「と、泊まっていける?」

唐沢「うん、うん……」

唐沢(地獄っていうのは知らず知らず足を踏み入れてしまうところらしい……)

232: 2012/04/06(金) 12:20:48.54 ID:rLKiSyAa0
唐沢「俺、着替え取りに家に戻るよ」

羽原「うん、お風呂沸かしてるね」

唐沢(逃げるなら今しかない、考えろ、考えるんだ)

ビュウゥオォォ

羽原「あ、としゆき君、私も行っていい?」

唐沢「!?」

羽原「としゆき君の家DVD揃ってるから何か面白そうなのあったら持って行きたいし」

唐沢「そ、それくらいなら俺が選んでいくよ」

羽原「それにこの風の中だと、ちょっと心配だし……」

唐沢「どうせすぐそこだし……」

羽原「わ、私が心配なんだ。ごめんね、わがままで。でもいっしょに行かせて? お願い」

唐沢(終わった……)

235: 2012/04/06(金) 12:34:45.35 ID:rLKiSyAa0
ヒデノリ宅

文学少女「お風呂、ありがとう。入っていいよ」

ヒデノリ「ああ、布団は母親の部屋にもう敷いてあるから」

文学少女「うん、でももう少し起きてようかな」

ヒデノリ「そうか、じゃ支度してっと」

浴室

ヒデノリ「はぁ~……」

ヒデノリ(一時はどうなることかと思ったが案外どうにかなるもんだ)

ヒデノリ(安心したら一気に疲れが……おっと寝たらいかん)

ヒデノリ(ん、思えばこのお湯ってさっき……)

ヒデノリ「やれやれ、男子高校生の性だな……」

236: 2012/04/06(金) 12:43:20.78 ID:rLKiSyAa0
リビング

『強風の影響で氏傷者も……』

文学少女「……」

 湯上りの彼女の肌は、元々の素質もあるのだろうが艶めいているのが遠巻きにでもうかがえた。

黒い髪がそれとうまく対称を作ってお互いを引き立たせる。遠いほうを見るようなぼんやりとした瞳が、今日は魅力的に見えた。

ヒデノリ(綺麗な女の子が泊まっていくんだよなあ……理性が働く内に部屋を分けておいてよかった……)

ヒデノリ「はい、カルピス」

文学少女「うん、ありがとう」

ヒデノリ「いつまで起きてる?」

文学少女「うーん、出来るなら長く起きていたいけど」

文学少女「今日はすごく疲れちゃったし」

ヒデノリ「俺も。ほどほどにしたほうがいいかもね」

文学少女「うん、それに話ならこれからも出来るし」

238: 2012/04/06(金) 12:49:54.36 ID:rLKiSyAa0
文学少女「あ、あのさ……今日はとっても楽しかった。」

文学少女「ずっと仲良くなりたいと思ってたあなたと一緒にいられただけじゃなくて」

文学少女「こんな風に遠慮なく話せたし」

ヒデノリ(あ、あれ?)

文学少女「それでね、私実は……」

 彼女はソファから立って俺のほうへ歩み寄ってきた。

ヒデノリ(ま、待て、待て! 覚悟が出来てない! いや、覚悟って知らず知らずのうちに決めるものなのか?)

 彼女からシャンプーやソープの匂いが感じられた。俺と変わらないものを使っているはずなのに、なぜか違う感覚があった。

『プロ野球は巨人が広島に負けて最下位……』

 テレビの音がお互いの空白を埋めるが、かえって気まずい空気が浮き彫りになるだけな気がした。

文学少女「私、その……」ドキドキ

ヒデノリ「な、なに……?」ドキドキ

244: 2012/04/06(金) 12:58:24.58 ID:rLKiSyAa0
 ブツッ

ヒデノリ・文学少女「!?」

 突然、部屋が真っ暗になった。テレビの音も消え、外から伝わってくる風の音がモロに家を取り巻く。

ヒデノリ「て、停電!?」

文学少女「わっわっ!」

ヒデノリ「うちだけじゃ……ないみたいだな。あちゃー……」

文学少女「ど、どうしよう……」

ヒデノリ「あー……まずは懐中電灯だな。それから……あ、母親の部屋に非常用のライトスタンドがあったはずだ」

文学少女「お、お母さんの部屋って二階だよね?」

ヒデノリ「ああ、いっちょ探しにいってくるか。懐中電灯……よしあった」

文学少女「わ、私も行く……」ギュッ

ヒデノリ「お、おう……(腕を……)」

245: 2012/04/06(金) 13:05:43.95 ID:rLKiSyAa0
 ビュウゥゥ……

 トッ、トッ

ヒデノリ(あ、歩きづらい……)

文学少女「うぅ゛~……」ギューッ

ヒデノリ(もしかしてこの子……)

 ガラッ

ヒデノリ「確かこの辺に……」

文学少女「は、早く……」

 ガタッ

文学少女「ひぃっ!?」ギューッ!

ヒデノリ「うおっ!?(たとえ力は強くても感触はあくまでやわらかっ!)」

247: 2012/04/06(金) 13:11:11.45 ID:rLKiSyAa0
ヒデノリ「……なんだ、掃除機が倒れたのか」

文学少女「」ガクガクブルブル

ヒデノリ「ライトスタンド……あった! ひとまずリビングに戻ろうか」

文学少女「」ガクガクブルブル

ヒデノリ「あ、歩けるか?」

文学少女「なんとか……」

250: 2012/04/06(金) 13:15:35.97 ID:rLKiSyAa0
ヒデノリ(毛布やらなにやらを抱えながらやっとのことで戻ってこれたわけだが)

文学少女「」ガクガクカタカタ

ヒデノリ(この子暗所恐怖症なのか……そういや橋の下でも震えてたな)

ヒデノリ「物置に去年買った石油ストーブがあるんだけど……」

文学少女「い、いやっ! もう歩けない、一人にしないで!」

ヒデノリ(さっきまでの威勢はどこにいったんだよ)

 ビュゴォォォ!! オォォォ!!

ヒデノリ「でもまだ春先だし、なしじゃちょっと……」

文学少女「く、空間移動くらい出来ないの? おかしいわ、今の時代必須じゃない」

ヒデノリ「落ち着けよ」

255: 2012/04/06(金) 13:22:52.52 ID:rLKiSyAa0
ヒデノリ(半ば引きずるような形で石油ストーブを持ってきた。あったかい。腕だけじゃなく全身がポカポカする……)

文学少女「ととと東電はなにやってるのよ、本当に使えない、さっさとつぶしなさいよあそこ」ブルブル

ヒデノリ「不満を言いたくなるのはわかるがお前一人の事情じゃどうしようもねえよ」

ヒデノリ「そんなんで夜とかどうしてるの、いつも」

文学少女「じ、自分の部屋なら大丈夫、でも他人の部屋はダメ、真っ暗で手探りしてもわからない状況はダメなの」ブルブル

ヒデノリ「まあ暗闇なんて好きになるものじゃないけど……」

ヒデノリ「なんか、あったの?」

文学少女「知らない、気づいたらこうだった」ブルブル

ヒデノリ(原因不明ってのは一番厄介だな)

257: 2012/04/06(金) 13:29:10.72 ID:rLKiSyAa0
 オォワァァア!!

 カタッカタッ

ヒデノリ(うおお、家が軋んでやがる……ん、待てよ、こんな時こそユーモアの出番だな)

ヒデノリ「今日は、禍々しい風だな……」

文学少女「そうね、でも少し優しさも感じるわ」

文学少女「きっと堕天使なんでしょうね、神に愛されたもののいつしか憎しみを持ってしか返せなくなった堕天使……」

文学少女「ふふっ、可愛い、その体を抱きしめられるなら抱きしめてあげたいわ、そうすればきっと……」ブツブツ

ヒデノリ(ダメだこりゃ)

260: 2012/04/06(金) 13:36:21.96 ID:rLKiSyAa0
ヒデノリ(現実逃避してる以上はそれを無理に引き離しちゃダメなんだろうがなあ)

文学少女「そうだ、消防署に電話しよう。きっとこの闇を洗い流してくれる……」ブツブツ

ヒデノリ(こっちが付き合いきれねえよ)

ヒデノリ(はぁ……やれやれ、一か八かかあ? いやしかし……)

ヒデノリ(迷ってても仕方ないか、ええい、ままよ!)ギュッ

文学少女「ふあっ!?///」

ヒデノリ「た、確かに俺の家はきたばっかで右も左もわからないだろうけど」

ヒデノリ「俺といるのは不安、かな?」

文学少女「あ、ぁ、そ、んなことはな、い……///」

265: 2012/04/06(金) 13:46:27.65 ID:rLKiSyAa0
ヒデノリ「こ、怖いよな、俺も子供のころはそうだったし」

ヒデノリ「でも、俺はずっと隣にいるから」ギュッ

文学少女「う、んっ……///」

ヒデノリ(うわぁぁ! ハズカシイィィィ!///)

ヒデノリ(なんだこれ、少女漫画かよ!? いや読んだことはないけど。『僕らがいた』とか映画で見る程度だけど)

ヒデノリ(なに、手つないで「つながってるね(ハァト」とかやってもいいの?)

ヒデノリ(こんなシチュエーションが与えられた時点でこうしなきゃいけなかったの?)

ヒデノリ(やだー! イヤじゃないけどやだー! 耐え切れない!)

269: 2012/04/06(金) 13:58:10.40 ID:rLKiSyAa0
 ゴォゥゥァェ……

 ガタガタ

ヒデノリ「……」ドキドキバクバク

文学少女「……」

ヒデノリ(あれだよな、停電前に言いかけたことってそうなんだよな?)

ヒデノリ(だとしたらもういいんじゃない? それに受け入れてるからオーケーじゃない?)

ヒデノリ(うわぁでもなあ、なんでこんなに緊張するんだろう。童Oだから? いや童Oじゃなくても緊張するって)

ヒデノリ(童Oじゃなきゃ緊張しないっておかしいよ、劇的すぎるじゃん。ニュータイプにでも目覚めちゃったの?)

ヒデノリ(こんなときは素数だ、素数。神父は偉大だなあ、聖職者の発明はまさに神の恩寵だぜ!)

ヒデノリ(0、1、1、2、3、5、813、21、34、55、89、144、233、377、610、987……)

ヒデノリ(古来、数学は音楽や天文学とも連動している神の摂理を読むため学問であった……)

ヒデノリ(覚悟は決まった)

272: 2012/04/06(金) 14:07:21.49 ID:rLKiSyAa0
ヒデノリ「……お、おい」

文学少女「……」

ヒデノリ「あのさ、停電前になにか言いかけてたじゃん? あれ、なんとなく察しがついたんだ」

ヒデノリ「うん、皆まで言わなくても、ちゃんと伝わってる。伝わってるつもりだ」

ヒデノリ「こんな状況で言うのもなんだけど、その、ええと……」

ヒデノリ「俺、君のことが……す、す……」

文学少女「すぅ、すぅ……」

ヒデノリ「すぅ、すぅ……」

ヒデノリ(寝てるやなうぃかいいっ!!)

273: 2012/04/06(金) 14:12:33.06 ID:rLKiSyAa0
ヒデノリ「あぁ、なんだったんだ、もう……」フラァ

文学少女「……ムニュムニャ」スゥ、スゥ

ヒデノリ「寝顔も可愛いなあ、このやろう。でも台無しだよ」

文学少女「んんっ……」ギュッ

ヒデノリ(起きない、か。疲れがたまってたところにさらにのしかかって、一旦安心したらプツン、ってところか)

ヒデノリ(それなら結構、か。やれやれ、現実なんてこんなもんだよなあ、夢のような恋愛、なんてありゃしない)

ヒデノリ(むしろ恋愛なんて……いかん、俺も眠気が……)

289: 2012/04/06(金) 14:52:08.05 ID:rLKiSyAa0
一時間前……

羽原宅

ブツッ

唐沢「うおっ」

羽原「わっ、停電?」

唐沢「みたい、だな。懐中電灯はどこにある?」

羽原「どこにあったっけ……居間のどこかに置いたはずなんだけど」

唐沢「ケータイのライトでもなんとかわかるだろう、って俺のはどこかにやったんだったな」

羽原「あぁ、そうだね。えっと……」

唐沢(薄明かりでもなんとか見分けはつくな)

293: 2012/04/06(金) 15:02:46.62 ID:rLKiSyAa0
唐沢(ん、あれは)

羽原「あ、あった」

ピタッ

唐沢・羽原「!(手、手が!)」

唐沢「」スクッ

羽原「と、としゆき君、あったよ。懐中電灯///」

唐沢(暗闇の中に猛獣が潜んでいる……)

301: 2012/04/06(金) 15:10:55.53 ID:rLKiSyAa0
羽原「よかったね、石油ストーブ備えてあって」

唐沢「ああ……」

唐沢(あ、まだ逃げ場があるな)

唐沢「ちょっと、家の様子見に行ってくるよ。親がいるから大丈夫だと思うけど」

羽原「う、うん」

羽原(あっ、そういえば……女の子が暗闇の中で男の子の腕にしがみつくと好感度が否応なくあがるって先輩が言ってたな)

羽原(それに怖がりな女の子は守りたくなるって言ってたし……よ、よしっ)ギュッ

唐沢「!?」

羽原「と、としゆき君、やっぱり私も行っていいかな?」ギュゥゥゥゥ

唐沢(痛い痛いイタイイタイ!!)ミシミシ

309: 2012/04/06(金) 15:21:18.55 ID:rLKiSyAa0
羽原「よかったね、お父さんもお母さんも無事で」ギュゥゥゥ

唐沢(……俺は無事じゃないけどな……っ!)ミシミシ

羽原(こ、ここまではいい感じ。でも勝負はここから)

羽原(停電はマイナスだけど、こういう状況にいられることは悪いことじゃない、むしろチャンス!)ギュゥゥウ

唐沢(パワーがまだあがる……? そんなバカな……!)ミシミシィ!

312: 2012/04/06(金) 15:27:18.59 ID:rLKiSyAa0
羽原「あのさ、としゆき君、私さっきの停電で眠気一気に吹っ飛んじゃったんだ」

羽原「だから、しばらくそばに、いてくれる?///」ギュッゥゥゥ!

唐沢(いっそ一思いにやってくれ……)ミシィ!

羽原(お互いの体も密着してるし、としゆきの心臓の音も……あっ、今私のと重なった///)ドキドキ

唐沢「うっ、おぉ……」バクッバクッ

320: 2012/04/06(金) 15:34:05.94 ID:rLKiSyAa0
羽原「そのね、としゆき君、私としゆき君に言いたいことがあってね」

唐沢「な、なんだ?」

羽原「わ、笑わないでね、ちゃんと聞いてね?」

唐沢(俺の意識が飛ばなければな……)

羽原「ホ、ホントに大丈夫かな」

羽原(うん、いっちゃえ!)

羽原「えいっ」ダキッ

唐沢「!?(正面から抱きつかれて、く、食われ、あっ……)」クラァッ ドサァ

羽原(わっ、お、押し倒しちゃった! ああもうどうにでもなれっ)

326: 2012/04/06(金) 15:42:07.75 ID:rLKiSyAa0
羽原「としゆき君、私としゆき君のことが好きなんだ」

羽原「昔のことはあるし、としゆき君は私のこと、まだ嫌いかもしれないけれど、私一生懸命変わろうとしたんだよ?」

羽原「まだ変われてないところがあるなら、私がんばるから。としゆきに許してもらうために、私がんばるから」

唐沢「……」

羽原「と、としゆきぃっ」グスッ

唐沢「……」

羽原(ど、どうすれば……気まずいよぉ……耐え切れないよぉ)

羽原(そうだ、先輩が確か何か……)

先輩『男の脳と眼球はここに――』

羽原(そ、そういうことだよね? あぁ……///)

羽原「えいっ」ぬがしっ

唐沢「」ビクッ

329: 2012/04/06(金) 15:50:54.48 ID:rLKiSyAa0
羽原(ま、まだ上半身だけだ、あせるな私)

羽原(暗闇じゃわかんないけど、触ればわかる。としゆきの傷だらけの体……)

羽原(私のせいなんだよね、昔の私の……)

羽原「ぺろっ……ちゅっ、ぱっ」

羽原(こんなことでお詫びになるわけもないけど……)

羽原「はむ、ふぅ、ちゅっ」

唐沢「」ビクビク

354: 2012/04/06(金) 16:18:06.71 ID:rLKiSyAa0
翌朝

ユウスケ「おえっ、きっつい、二日酔い……」

ユウスケ「停電だからってヤケ酒はないよなあ」

ユウスケ「サークルの皆と遊ぶのは楽しいけど、酒だけは勘弁してほしいぜ……」

ユウスケ「父さんは泊り込みだろうし、ヒデノリ、うまくやってたかなあ」

 ガチャッ

ユウスケ「ただいまー……」

ユウスケ「寝てるよな、まだ6時だし」

ユウスケ「うぅ~水、水……おっ、ヒデノリじゃないか、そっか停電だからリビングで……」

ヒデノリ「zzz...」

文学少女「zzz...」

ユウスケ「……」

ユウスケ「か、母さーん! ヒデノリが、ヒデノリが大人の階段を怒涛の勢いでー!」

359: 2012/04/06(金) 16:26:11.50 ID:rLKiSyAa0

 停電は未明のうちに復旧したらしいが、強風はいまだ止まなかったため学校は連日の休校となった。

兄貴に事情を話した後、彼女は兄貴の友達の車によって自宅まで送り届けられることとなった。

事情を話して以降、俺と顔を合わせるたび、兄貴は後ろめたそうな表情を浮かべて顔を背けるようになった。

 一日置いて学校へ行くと、モトハルが頭にタオルを巻いて学校に来ていた。

皆でタオルをひったくって坊主になった素性が明らかになると大爆笑が巻き起こったが、

事情を察したヨシタケが口を開いたことで、それ以上触れないことにした。

 他の話題はといえば、その週唐沢は学校に来なかった。立て込んでいるとの返信を思い出して

改めてメールを送ってみると、しばらく学校には行けない、との返信が来た。

見舞いに行ったヨシタケによると震えてまともにしゃべることも出来なかったらしい。

なんとか来週中には学校にいってみせるとのことだが、相当のことに巻き込まれたのだろうか。

363: 2012/04/06(金) 16:32:01.16 ID:rLKiSyAa0
ヤナギン「あーあ、としゆきが気絶するとはねえ」

生島「だから私は心配だっていったんだよ、トラウマでゲロるくらいのとしゆきが羽原と一緒にいられるわけないんだって」

ヤナギン「でも羽原は落ち込んでないみたいだけどね、どうしてだろう?」

生島「さあねえ」

ヤナギン「ま、これでまたとしゆきのトラウマが増えたわけだ、どうすんべ」

生島「本当に一生処Oで終わるのかな、羽原……私の身近じゃ春が来た子がいるってのに……」

ヤナギン「へえ」

ジョシコウセイハイジョウーフゥー!

生島「お、うわさをすれば。なになにー、ふんふん。なにっ、勝負にでるのかやっさん!」

ヤナギン「どれどれ~何の話だい~?」

365: 2012/04/06(金) 16:39:15.49 ID:rLKiSyAa0
羽原「し、失礼します!」

モトハル「落ち込んでるときにまた部外者が……しかも唐沢がいないのに……」

副会長「ええと、まず確認したいんですか、うちは依頼減少のために依頼金を取っておりまして……」

羽原「あっ、知ってます! 1500円ですよね?」

副会長「ああ、ご依頼が達成したときに後払いでいいですよ。あと依頼金は適切な機関を通して寄付が行われ……」

モトハル「そんなことより」

副会長「前置きは必要なんだよ。それでご用件は?」

羽原「はい、恋愛相談にやってきたんですけど……」

モトハル・副会長「……は?」

367: 2012/04/06(金) 16:45:18.95 ID:rLKiSyAa0
河原

ビュウゥゥ……

ヒデノリ「……」バサバサッ

ヒデノリ(爆弾低気圧が去ってもここの風は強いねえ)

ヒデノリ「……」

文学少女「……」

ビュウゥゥ……

文学少女「この間は、ありがとう。本当に助かった」

ヒデノリ「ん、いいよ、べつに」

文学少女「先に色々お礼をしたいんだけど……その前に、言いたいことがあって」

ヒデノリ「うん」

368: 2012/04/06(金) 16:49:58.98 ID:rLKiSyAa0
ビュウゥゥ……

文学少女「……」

ヒデノリ「……」

ヒデノリ(今日も風が泣いてるな……)

END

374: 2012/04/06(金) 16:55:01.85 ID:rLKiSyAa0
恵まれた設定をことごとく空振りしたって自覚はあるけど続きません、おわりです。
男子高校生の日常はSSが少ないのでもっと増えてほしいです、そして恵まれた設定を生かしてほしいです

保守してくれた人、支援してくれた人、お疲れ様、そしてありがとうございました。

引用: ヒデノリ「今日は風が騒がしいな」文学少女「でも少しこの風ビュゴォォ!