230: ◆M7hSLIKnTI 2013/10/06(日) 15:33:33 ID:zYtP6gCg
「ケリをつける気なの?」
彼女は俺の背中に問いかけた。
「もう一日だけ考えてみない?…ねえ、それからでも遅くはないわ」
「…もう遅すぎる位さ。全てを失う前にすべき決断だった」
俺の声色が悲しげに聞こえたのだろうか、足元に人懐っこく舌を出した飼い犬がじゃれついてくる。
「…元気でな」
犬に向かって落としたその言葉は、本当は背後に立つ涙化粧の女に向けたものだったかもしれない。
でも、振り返るのはよそう。
氏にに征く男からの励ましの言葉など、残される者の枷にしかならないと思ったから。
231: 2013/10/06(日) 15:34:03 ID:zYtP6gCg
蒼空を駆けながら、俺は戦友に想いを馳せる。
奴等は皆、先に逝った。
この空の果てで、きっと俺を待っている事だろう。
いっそ奴等のところへ、早く逝けたらと思う。
そもそも俺達の戦いに大きな意味など無かったはずだ。
俺達が命を賭してまで護ろうとしたのは、護られる事が当たり前だと考え、自らの手は決して汚そうとしない卑怯者達だった。
でもそれに気付きながらも、俺達は戦うしかなかった。
そうしなければ明日の己の命すら知れなかったから。
結局、俺達はただの捨て駒だったのだ。
命の鍵を御上に握られた、一介の兵士にすぎない。
そんなちっぽけな俺達の命に真正面からぶつかり、その限りある炎と全霊をかけて対話してくれたのは、むしろ戦友達に引導を渡した宿敵の方だった。
相反し、憎み、傷つけあった存在。
通う物を感じ、理解し、拳を交えて伝えあった存在。
今この時、俺の目の前に立ち塞がる宿敵こそが、俺達が存在する理由だった。
232: 2013/10/06(日) 15:34:33 ID:zYtP6gCg
「待たせたな」
「来て…しまったのだな」
「ああ、俺が最初と最後だ」
この際だ、言葉にはせずとも自らの中では認めてしまおう。
戦友を奪い、幾度となく俺を傷つけたこの宿敵を、俺は嫌いではない。
「言い遺す事は?」
「言い遺す相手など、居ないさ」
「ならば俺様が聞こう」
「貴様に語るなら、それは言葉では無い」
「…違いない、すまなかった」
奴が寂しげに笑い、目を伏せた。
233: 2013/10/06(日) 15:35:05 ID:zYtP6gCg
そして二秒、迷いを断ち切ってもう一度俺を睨んだその目にはもう迷いは無い。
そうだ、その目だ。
「氏ね…!」
ああ…それでいい、お前に悲しみの言葉など似合わない。
なぜならお前自身が悲しみの固まりだから、全てが色褪せてしまう。
人にとって都合の良いものだけを残し、都合の悪いものだけを集めて捨ててきた。
その集合体がお前だ。
残したものと捨てたものに、命としての違いなどありはしないのに。
234: 2013/10/06(日) 15:35:41 ID:zYtP6gCg
一撃だけだ。
この一撃に全てを賭けよう。
何度となく繰り出してきた、でも一度もこいつの命を奪う事はできなかった。
それはきっと迷いのせいだった。
だが迷い無き目で俺に迫る宿敵に対し、俺が迷いを持つ事など赦されない。
「…さらばだ」
宿敵(とも)に相対する時。
「砕けろ、我が右の拳よ」
勇気など要らない。
「アーーーン…」
ましてや。
「…パーーーンチ!!!!」
愛…など。
235: 2013/10/06(日) 15:36:18 ID:zYtP6gCg
「お前で最後だった」
届いたさ、お前の最後の拳。
「そして…お前が、最初だったな」
俺を頃すつもりで放った、最後のアンパンチ。
「これで俺様の勝ち」
迷いなど感じなかった、嬉しかった。
「は…ひふ…へ…」
ああ、これがお前の全霊の力。俺にしか見せてくれないであろう、お前の全てだと解ったから。
「…うおおおぉぉぉぉぉぉ……あああぁぁぁぁ………」
でも俺は倒れなかった。
236: 2013/10/06(日) 15:36:50 ID:zYtP6gCg
俺の反撃を躱す力も残していなかったお前は、確かに笑っていたよな。
俺が機体の拳でお前を叩き潰す時、迷いは無かっただろうか。
いや、無かったはずだ。
だって俺はお前を救いたかった。
何度敗れても、頭を挿げ替えられて戦場に送られるお前をこれ以上見たくなかった。
だけど前までのお前には、迷いが見えたから。
だから俺は、お前の戦友…その中でも最も信頼をおいたであろう二人を頃したんだ。
俺を憎め、俺を殺せ。
俺にお前の全てをぶつけてくれ。
だって俺達はそうしか分かり合えなかったはずだろう。
願わくば散るのが俺であったなら…と、思わずにはいられないけれど。
237: 2013/10/06(日) 15:38:47 ID:zYtP6gCg
「さらば、宿敵よ…いや、友よ」
この際だ、認めてしまおう。
言葉にしたところで、聞く者がいないならそれは心の中と変わるまい。
刹那、凶刃は俺様を背後から貫いた。
「…ぐっ!!」
「ごめんなさい、バイキンマン」
ああ、これでいい。
「貴方の事も、愛してたわ。でも」
友を送り、想う女に送られる。
こんな幸せがあるか。
「貴方は、彼の仇になったから」
あの空の果てで、お前は俺を迎えてくれるだろうか。
愛でも、勇気でもなく。
「バイ…バイキ…ン…」
俺を、友と呼んでくれるだろうか。
239: 2013/10/06(日) 15:47:43 ID:afbOjxcg
急に何が始まったかと思ったよ
乙?
乙?
240: 2013/10/06(日) 18:21:56 ID:aM5SaHp.
なんか無駄にシリアスだと思ったらwwwwwwwwwwwwwwwww
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