1: 2013/10/31(木) 23:24:45.34 ID:zf0e8pjLo
初めまして。艦これのSS書かせていただきます。
注意事項
・雪風メイン…の予定。
・俺設定満載
・雪風がよく泣く
・思いついたネタ不定期に投げると思われます。投稿速度はあまり期待しないでね
・地の文つき
それでも良いという方はお進みください。
注意事項
・雪風メイン…の予定。
・俺設定満載
・雪風がよく泣く
・思いついたネタ不定期に投げると思われます。投稿速度はあまり期待しないでね
・地の文つき
それでも良いという方はお進みください。
2: 2013/10/31(木) 23:26:38.29 ID:zf0e8pjLo
序
時は20XX年。
人類の敵は人類以外にないと誰もが思う時代。
だが、その矢先に、新たな敵が現れた。
深海棲艦である。
彼女らは海流を支配し、通りがかる船舶に無差別に砲撃を繰り返した。
漁船や旅客船、タンカーなど、通りがかったあらゆる船が彼女たちの餌食となった。
各国はすぐさま軍を出動させたが、何度戦果を挙げてもしばらくするとまた現れた。
幾度繰り返しても無駄であった。軍事費の無駄遣いと非難されるようになった。
かくして、海の通商はずたずたになり、漁もろくにできない有様となった。
また、海底資源の取得も困難となった。
人々は、この謎の存在たちに恐怖した。海はもはや安全ではなくなった。
時は20XX年。
人類の敵は人類以外にないと誰もが思う時代。
だが、その矢先に、新たな敵が現れた。
深海棲艦である。
彼女らは海流を支配し、通りがかる船舶に無差別に砲撃を繰り返した。
漁船や旅客船、タンカーなど、通りがかったあらゆる船が彼女たちの餌食となった。
各国はすぐさま軍を出動させたが、何度戦果を挙げてもしばらくするとまた現れた。
幾度繰り返しても無駄であった。軍事費の無駄遣いと非難されるようになった。
かくして、海の通商はずたずたになり、漁もろくにできない有様となった。
また、海底資源の取得も困難となった。
人々は、この謎の存在たちに恐怖した。海はもはや安全ではなくなった。
3: 2013/10/31(木) 23:29:14.50 ID:zf0e8pjLo
「まったくよー。あいつらどうにかなんねーかなー」
そういって男は桟橋から海に石を投げる。ぼちゃん、という音が遠くに響く。
彼は漁師であった。深海棲艦が現れるまでは。
年は三十路半ば、漁で生活を営んでいた。
だが、深海棲艦によってその生活は破壊され、仲間も三々五々と散っていった。
港をひとつ丸ごと持つほどの大地主であったが、深海棲艦が跳梁跋扈する現状、ただの無駄な土地である。
「どこぞの巨人じゃないが深海棲艦どもを一匹残らず駆逐したいなー、マジで」
「本当に、駆逐したいですか?」
「あぁ、そうだな。って誰だよお前は」
彼が振り向くとそこには猫の前足を握って吊るしている少女が一人。
「私ですか? そうですね、猫吊るしとでも呼んでください」
「名前とかはどうでもいい。今、深海棲艦をどうにかできる口ぶりだったな?」
「はい」
「その言に嘘偽りはないな?」
「あなたが私の話を信じれば」
「突然胡散臭くなったな」
「信じないならそれでいいです。別の見込みありそうな人探すだけですし」
「…まぁいい。話を聞こうか」
男は桟橋に腰掛ける。猫吊るしも隣に座る。
そういって男は桟橋から海に石を投げる。ぼちゃん、という音が遠くに響く。
彼は漁師であった。深海棲艦が現れるまでは。
年は三十路半ば、漁で生活を営んでいた。
だが、深海棲艦によってその生活は破壊され、仲間も三々五々と散っていった。
港をひとつ丸ごと持つほどの大地主であったが、深海棲艦が跳梁跋扈する現状、ただの無駄な土地である。
「どこぞの巨人じゃないが深海棲艦どもを一匹残らず駆逐したいなー、マジで」
「本当に、駆逐したいですか?」
「あぁ、そうだな。って誰だよお前は」
彼が振り向くとそこには猫の前足を握って吊るしている少女が一人。
「私ですか? そうですね、猫吊るしとでも呼んでください」
「名前とかはどうでもいい。今、深海棲艦をどうにかできる口ぶりだったな?」
「はい」
「その言に嘘偽りはないな?」
「あなたが私の話を信じれば」
「突然胡散臭くなったな」
「信じないならそれでいいです。別の見込みありそうな人探すだけですし」
「…まぁいい。話を聞こうか」
男は桟橋に腰掛ける。猫吊るしも隣に座る。
4: 2013/10/31(木) 23:31:56.06 ID:zf0e8pjLo
「で、どうすりゃいいんだ」
「そうですね。人を指揮した経験は?」
「まぁ漁をしてたころは船長だったし、あるといっていいだろうな」
「いいですね。これから貴方には、艦隊を指揮してもらいます」
「艦隊だぁ? 軍でも率いるつもりか?」
「まぁありていに言えばそうですね」
「このご時勢、船を出すこと自体が自殺行為だろうに」
「ふふふ、何も船そのものを出すわけではないのですよ。こちらへ来て下さい」
そういうと猫吊るしは立ち上げると、猫を振り回しながらどこかへ歩き出していった。
「ちょっと待てよ。どこへ行くつもりだ」
「倉庫をひとつお借りしましてね。そこで準備を」
「この港の倉庫は全部うちのなんだが」
「そうそう、港ごと全部政府が接収しました」
さらりと言われた一言に男は足を止める。
「おいぃ? 許可を出した覚えがないんだが?」
「最近施工された法律でしてね。深海棲艦が襲ってくる恐れのある港は政府が保障する代わりに接収するという」
「ふざけんなよ!?」
「法律立てたの私じゃないですし?」
猫吊るしは片手で猫をぶら下げながら肩をすくめる。
「そうですね。人を指揮した経験は?」
「まぁ漁をしてたころは船長だったし、あるといっていいだろうな」
「いいですね。これから貴方には、艦隊を指揮してもらいます」
「艦隊だぁ? 軍でも率いるつもりか?」
「まぁありていに言えばそうですね」
「このご時勢、船を出すこと自体が自殺行為だろうに」
「ふふふ、何も船そのものを出すわけではないのですよ。こちらへ来て下さい」
そういうと猫吊るしは立ち上げると、猫を振り回しながらどこかへ歩き出していった。
「ちょっと待てよ。どこへ行くつもりだ」
「倉庫をひとつお借りしましてね。そこで準備を」
「この港の倉庫は全部うちのなんだが」
「そうそう、港ごと全部政府が接収しました」
さらりと言われた一言に男は足を止める。
「おいぃ? 許可を出した覚えがないんだが?」
「最近施工された法律でしてね。深海棲艦が襲ってくる恐れのある港は政府が保障する代わりに接収するという」
「ふざけんなよ!?」
「法律立てたの私じゃないですし?」
猫吊るしは片手で猫をぶら下げながら肩をすくめる。
5: 2013/10/31(木) 23:34:00.61 ID:zf0e8pjLo
そうこうしているうちに立ち並ぶ倉庫のひとつにたどり着く。
「で、何をするつもりだ。」
「貴方が指揮する艦船を造るのですよ」
シャッターが開く。そこには山と積まれた鋼鉄、ドラム缶、弾薬、ボーキサイト、そして…
「何だこりゃ?」
そこらをうろつきまわる小人たち。
「妖精さんですよ」
「は?」
「妖精さん」
「そうじゃなくてだな」
「この程度で驚いてたらこの先が思いやられますよ」
「何があるってんだよ」
「これから貴方には艦娘を造ってもらいます。実際作るのは妖精さんですが」
「カンムスぅ?」
「簡単に言えば、戦時の艦船の霊魂を宿した少女です。主に燃料と鋼鉄と弾薬とボーキからできます」
「…帰っていい?」
「ダメです」
「頭おかしい、というか頭おかしくなりそうなんだけど」
「大丈夫、頭がおかしくなることを代償に海の平和を取り戻せるなら安いものです」
「大丈夫じゃねーよ」
男の言を聞き流し、猫吊るしは白い海軍帽を取り出す。
「あ、後この帽子をどうぞ。軍服は後で調達しますので」
「…いや、さらりとスルーすんなよ」
「これで貴方は提督です」
「何でだよ」
「軍というのは上からの命令に絶対服従ですので偉い肩書きは艦娘に言うことを聞かせるには必要不可欠かと」
「偏見甚だしいな」
「まぁセクハラしたら手首の一つや二つは落ちますが」
「なにそれこわい」
「で、何をするつもりだ。」
「貴方が指揮する艦船を造るのですよ」
シャッターが開く。そこには山と積まれた鋼鉄、ドラム缶、弾薬、ボーキサイト、そして…
「何だこりゃ?」
そこらをうろつきまわる小人たち。
「妖精さんですよ」
「は?」
「妖精さん」
「そうじゃなくてだな」
「この程度で驚いてたらこの先が思いやられますよ」
「何があるってんだよ」
「これから貴方には艦娘を造ってもらいます。実際作るのは妖精さんですが」
「カンムスぅ?」
「簡単に言えば、戦時の艦船の霊魂を宿した少女です。主に燃料と鋼鉄と弾薬とボーキからできます」
「…帰っていい?」
「ダメです」
「頭おかしい、というか頭おかしくなりそうなんだけど」
「大丈夫、頭がおかしくなることを代償に海の平和を取り戻せるなら安いものです」
「大丈夫じゃねーよ」
男の言を聞き流し、猫吊るしは白い海軍帽を取り出す。
「あ、後この帽子をどうぞ。軍服は後で調達しますので」
「…いや、さらりとスルーすんなよ」
「これで貴方は提督です」
「何でだよ」
「軍というのは上からの命令に絶対服従ですので偉い肩書きは艦娘に言うことを聞かせるには必要不可欠かと」
「偏見甚だしいな」
「まぁセクハラしたら手首の一つや二つは落ちますが」
「なにそれこわい」
6: 2013/10/31(木) 23:36:02.60 ID:zf0e8pjLo
そこらをうろつきまわっていた妖精さんたちが整列する。
「あ、建造の準備が整ったみたいですね」
「ふーん。どうやって造るんだ?」
「まぁいろいろと。あそこの資材を元に配分を決めるんですよ」
猫吊るしが指を差した先には数字が書かれた四つのドラムがついた得体の知れない装置があった。
「多けりゃいいってもんだよな」
「そんなことはないですが」
「テキトーでいいだろテキトーで」
そういいながら言葉通り適当にドラムを回す男。
「ところで、ボーキサイトって何だ?」
「精製するとジュラルミンの元となるアルミニウムになるんですよ。主に航空機とかの材料」
「飛行機作るわけじゃねーんだからこれは最小限でいいか。そーれ、ぽちっとな」
建造開始ボタンが押されると同時に妖精さんたちが一斉に動き出す。
「…で、どのくらい時間がかかるんだ?」
「えーと…24分ですね」
「わかるものなのか」
「えぇ。さっきも話したとおり太平洋戦争で活躍した艦船の霊魂を取り込んで形作ります。
どのようなのが来るかは資材投入時点で大体わかるんですよ」
「あ、建造の準備が整ったみたいですね」
「ふーん。どうやって造るんだ?」
「まぁいろいろと。あそこの資材を元に配分を決めるんですよ」
猫吊るしが指を差した先には数字が書かれた四つのドラムがついた得体の知れない装置があった。
「多けりゃいいってもんだよな」
「そんなことはないですが」
「テキトーでいいだろテキトーで」
そういいながら言葉通り適当にドラムを回す男。
「ところで、ボーキサイトって何だ?」
「精製するとジュラルミンの元となるアルミニウムになるんですよ。主に航空機とかの材料」
「飛行機作るわけじゃねーんだからこれは最小限でいいか。そーれ、ぽちっとな」
建造開始ボタンが押されると同時に妖精さんたちが一斉に動き出す。
「…で、どのくらい時間がかかるんだ?」
「えーと…24分ですね」
「わかるものなのか」
「えぇ。さっきも話したとおり太平洋戦争で活躍した艦船の霊魂を取り込んで形作ります。
どのようなのが来るかは資材投入時点で大体わかるんですよ」
7: 2013/10/31(木) 23:39:17.26 ID:zf0e8pjLo
「…で、どのくらい時間がかかるんだ?」
「えーと…24分ですね」
「わかるものなのか」
「えぇ。さっきも話したとおり太平洋戦争で活躍した艦船の霊魂を取り込んで形作ります。
どのようなのが来るかは資材投入時点で大体わかるんですよ」
「で、それの目安が建造時間ってわけか。24分ってどんなのがくるんだ? やけに中途半端だが」
「陽炎型駆逐艦ですね」
「俺は軍史には疎いんだ。もっと具体的にかつわかりやすく話せ。強いとか速いとか」
「むちゃくちゃ言いますね。簡単に言えば割と後のほうで作られた都合上、駆逐艦の中では性能高めですよ」
「ほー。強かったのか。戦争でも活躍したのか?」
「することはしましたが、大体戦中に沈んでますね。一隻をのぞいて」
「その一隻とは?」
「陽炎型八番艦、雪風」
「しらねーよ。つーかどんな活躍したんだよ」
「説明は長くなるんで省きますが、幸運の女神がついているとするなら彼女以外ありえないといわれるほどの奇跡の艦ですね。
太平洋戦争の主だった戦闘に参加し続けたにもかかわらずほとんど無傷だったといわれてます。
敵だった連合国も最優秀艦と太鼓判を押すほどの。興味があったら資料あさってみてください。
彼女に限らず、あのころの艦船のエピソードは調べてみるといろいろ興味深いですよ」
「説明が面倒くさいから丸投げしようとしてるだろ」
「だって詳しく説明してたらまる一日つぶれちゃいますし?」
それを聞いて男はため息をつく。
「勉強ってのは大嫌いなんだよ」
「知らなくても運用はできますからご安心を」
「全く、ありがたいこった。…艦娘を造って、それからどうするつもりだ?」
「そうですね。本当は数隻造って艦隊をつくってから出撃、といいたいところですが、
何か疑ってるようなのでテスト航海がてら造った艦娘の実力をお目にかけましょう」
「自信満々だな」
「そりゃそうですよ。深海棲艦が出てこの方政府が秘密裏に対策を…おっと失言」
その一言に、男の目が険しくなる。
「えーと…24分ですね」
「わかるものなのか」
「えぇ。さっきも話したとおり太平洋戦争で活躍した艦船の霊魂を取り込んで形作ります。
どのようなのが来るかは資材投入時点で大体わかるんですよ」
「で、それの目安が建造時間ってわけか。24分ってどんなのがくるんだ? やけに中途半端だが」
「陽炎型駆逐艦ですね」
「俺は軍史には疎いんだ。もっと具体的にかつわかりやすく話せ。強いとか速いとか」
「むちゃくちゃ言いますね。簡単に言えば割と後のほうで作られた都合上、駆逐艦の中では性能高めですよ」
「ほー。強かったのか。戦争でも活躍したのか?」
「することはしましたが、大体戦中に沈んでますね。一隻をのぞいて」
「その一隻とは?」
「陽炎型八番艦、雪風」
「しらねーよ。つーかどんな活躍したんだよ」
「説明は長くなるんで省きますが、幸運の女神がついているとするなら彼女以外ありえないといわれるほどの奇跡の艦ですね。
太平洋戦争の主だった戦闘に参加し続けたにもかかわらずほとんど無傷だったといわれてます。
敵だった連合国も最優秀艦と太鼓判を押すほどの。興味があったら資料あさってみてください。
彼女に限らず、あのころの艦船のエピソードは調べてみるといろいろ興味深いですよ」
「説明が面倒くさいから丸投げしようとしてるだろ」
「だって詳しく説明してたらまる一日つぶれちゃいますし?」
それを聞いて男はため息をつく。
「勉強ってのは大嫌いなんだよ」
「知らなくても運用はできますからご安心を」
「全く、ありがたいこった。…艦娘を造って、それからどうするつもりだ?」
「そうですね。本当は数隻造って艦隊をつくってから出撃、といいたいところですが、
何か疑ってるようなのでテスト航海がてら造った艦娘の実力をお目にかけましょう」
「自信満々だな」
「そりゃそうですよ。深海棲艦が出てこの方政府が秘密裏に対策を…おっと失言」
その一言に、男の目が険しくなる。
8: 2013/10/31(木) 23:41:30.33 ID:zf0e8pjLo
「…おい」
「何でしょう?」
「話せ」
「いやですよ。この猫手放したらすぐにどっかいっちゃいますし」
そういって猫吊るしは手にぶら下げてる猫を掲げる。
「放せ、じゃねーよ!! かなり隠してることがあるだろ!! 全部洗いざらい話せって言ってんだよ!!
港を勝手に接収する法律が通るとか正気の沙汰じゃねーぞ!?」
「その内話しますよ。政府のお墨付きだからそこらへんの心配はしなくていいって事だけ覚えてください」
「いや今すぐ話せよ! それになんで俺なんだよ!!」
「知らぬが仏という言葉もありますし」
「ご・ま・か・す・な!」
男が声を張り上げたその直後、妖精さんの一人が近づいて
「できたよー」
と元気な声を上げる。
「あ、建造が完了したみたいですね。早速見てみましょう」
「ちょっと待て。まだ話は終わって…」
目を向けた先には少女が一人。
栗色の髪に砲を乗せ、左右にはレーダーを模した髪飾り。
首に双眼鏡を提げ、肩にはバッグを模した連装砲を引っ掛け。
魚雷を背負って前開きのセーラー服型ワンピースを着た女の子。
「陽炎型八番艦の雪風です! どうぞよろしくお願いします!」
「あ、あぁ。よろしくな」
ほぅ、と猫吊るしが感嘆のため息を漏らす。
「大当たりですね」
「さっき話してたのがこいつか? だいぶ印象と違うような。どう見ても歴戦を潜り抜けてきたって感じじゃないだろ」
「そういうもんです」
「何でしょう?」
「話せ」
「いやですよ。この猫手放したらすぐにどっかいっちゃいますし」
そういって猫吊るしは手にぶら下げてる猫を掲げる。
「放せ、じゃねーよ!! かなり隠してることがあるだろ!! 全部洗いざらい話せって言ってんだよ!!
港を勝手に接収する法律が通るとか正気の沙汰じゃねーぞ!?」
「その内話しますよ。政府のお墨付きだからそこらへんの心配はしなくていいって事だけ覚えてください」
「いや今すぐ話せよ! それになんで俺なんだよ!!」
「知らぬが仏という言葉もありますし」
「ご・ま・か・す・な!」
男が声を張り上げたその直後、妖精さんの一人が近づいて
「できたよー」
と元気な声を上げる。
「あ、建造が完了したみたいですね。早速見てみましょう」
「ちょっと待て。まだ話は終わって…」
目を向けた先には少女が一人。
栗色の髪に砲を乗せ、左右にはレーダーを模した髪飾り。
首に双眼鏡を提げ、肩にはバッグを模した連装砲を引っ掛け。
魚雷を背負って前開きのセーラー服型ワンピースを着た女の子。
「陽炎型八番艦の雪風です! どうぞよろしくお願いします!」
「あ、あぁ。よろしくな」
ほぅ、と猫吊るしが感嘆のため息を漏らす。
「大当たりですね」
「さっき話してたのがこいつか? だいぶ印象と違うような。どう見ても歴戦を潜り抜けてきたって感じじゃないだろ」
「そういうもんです」
9: 2013/10/31(木) 23:43:59.10 ID:zf0e8pjLo
一方雪風はというと辺りをきょろきょろ見回している。
「どうしたんだ?」
「あのぅ…仲間は…?」
「いないぞ」
「えっ…そんな…」
「ん?」
「雪風が…雪風がみんなを…」
「何を言って…」
「うぁぁぁぁぁん!!!」
堰を切ったように泣き出す雪風。
「な、何だってんだよ!? 落ち着け、落ち着けって! どうなってんだよ猫吊るし!!」
振り向くと猫吊るしは床に転がって猫と戯れていた。
「あー、有名ですよ。氏神雪風。
僚艦が沈んでもほとんど無傷で生還することから、仲間を次々喰らう艦として内外の乗員から見られてたそうです」
「ふぇぇぇぇん」
「あぁもう。他のやつらはまだ来てないだけだから泣き止めって。な?」
「ひっく…ぐしゅ…本当ですか?」
「本当だとも。なぁ猫吊るし?」
男は雪風を宥めながら猫吊るしの方を向く。
「どうしたんだ?」
「あのぅ…仲間は…?」
「いないぞ」
「えっ…そんな…」
「ん?」
「雪風が…雪風がみんなを…」
「何を言って…」
「うぁぁぁぁぁん!!!」
堰を切ったように泣き出す雪風。
「な、何だってんだよ!? 落ち着け、落ち着けって! どうなってんだよ猫吊るし!!」
振り向くと猫吊るしは床に転がって猫と戯れていた。
「あー、有名ですよ。氏神雪風。
僚艦が沈んでもほとんど無傷で生還することから、仲間を次々喰らう艦として内外の乗員から見られてたそうです」
「ふぇぇぇぇん」
「あぁもう。他のやつらはまだ来てないだけだから泣き止めって。な?」
「ひっく…ぐしゅ…本当ですか?」
「本当だとも。なぁ猫吊るし?」
男は雪風を宥めながら猫吊るしの方を向く。
10: 2013/10/31(木) 23:46:55.53 ID:zf0e8pjLo
だが猫吊るしは素知らぬ顔をして話を続ける。
「あと味方を犠牲にした例としては雪風が発見した潜水艦を天津風が見に行ったときとか、比叡の雷撃処分とか、
あと雪風が触った回数機雷に触れてやられた初霜の話も忘れちゃいけませんね」
「!!」
猫吊るしの言葉に、雪風は耳をふさいで縮こまった。
「ゃ…ぁ…ぃゃ…」
男は猫吊るしを睨み付ける。
「おい、猫吊るし」
「おっと失言でしたね」
「わざとか?」
「ちょっとお耳を」
「あぁ?」
猫吊るしが背伸びして男に耳打ちする。
「私があえて悪役になることによって彼女から貴方への好感度を上げようという策略ですよ」
「ゲスいな。そこまでして汚れ役する必要あるのか?」
「まぁ長い付き合いとなるでしょうしね。それに私じゃなくて貴方が指揮するのですから」
とにかく慰めてあげてください。落ち着いたら出撃しましょう」
「こんな子を戦闘に出すとか、鬼か?」
「猫吊るしです」
「全く…」
「あと味方を犠牲にした例としては雪風が発見した潜水艦を天津風が見に行ったときとか、比叡の雷撃処分とか、
あと雪風が触った回数機雷に触れてやられた初霜の話も忘れちゃいけませんね」
「!!」
猫吊るしの言葉に、雪風は耳をふさいで縮こまった。
「ゃ…ぁ…ぃゃ…」
男は猫吊るしを睨み付ける。
「おい、猫吊るし」
「おっと失言でしたね」
「わざとか?」
「ちょっとお耳を」
「あぁ?」
猫吊るしが背伸びして男に耳打ちする。
「私があえて悪役になることによって彼女から貴方への好感度を上げようという策略ですよ」
「ゲスいな。そこまでして汚れ役する必要あるのか?」
「まぁ長い付き合いとなるでしょうしね。それに私じゃなくて貴方が指揮するのですから」
とにかく慰めてあげてください。落ち着いたら出撃しましょう」
「こんな子を戦闘に出すとか、鬼か?」
「猫吊るしです」
「全く…」
11: 2013/10/31(木) 23:51:46.74 ID:zf0e8pjLo
男は踵を返し、雪風と一緒にしゃがみこむ。
「ひぐっ、ひぐっ…」
「よしよし、大丈夫だ、雪風。そんなことさせやしないからな」
そういって雪風の頭をなでる。それにあわせて泣き声も小さくなる。
「ぐしゅ…しれぇ、雪風、見苦しいところをお見せしちゃいました…」
「気にすんな。それよか涙で顔がぐしゃぐしゃだぞ。ハンカチ貸してやるから拭いとけ」
「しれぇ…ありがとうございまふ…」
男から借りたハンカチで顔を拭う雪風。
「ところで…『しれぇ』って何だよ」
「司令官ってやつです。英語で言うコマンダーのことですね」
返事をしたのは猫吊るし。
「司令、か。司令って人じゃなく命令とかそういうものを指すもんだと思ったが」
「細かいこと気にしてたらハゲますよ」
「うっせ。ハゲるにはまだ早ぇーよ」
「しれぇ」
男の服の袖を引っ張り呼びかける
「ん、何だ雪風」
「ハンカチ汚れちゃったので、後で雪風が洗って返しますね」
「そのままでも別にいいんだが…まぁ、好きにしな」
「はい! がんばります!」
再び猫吊るしのほうへ振り向く。
「……猫吊るしよ」
「何でしょう?」
「先行きが不安なんだが」
「え? 私はこれほどツイてるんだからもう深海棲艦の命運は尽きたものと思ってますが」
「ポジティブだなおい」
こうして元漁師の男は、提督業をはじめることになったのであった。
「ひぐっ、ひぐっ…」
「よしよし、大丈夫だ、雪風。そんなことさせやしないからな」
そういって雪風の頭をなでる。それにあわせて泣き声も小さくなる。
「ぐしゅ…しれぇ、雪風、見苦しいところをお見せしちゃいました…」
「気にすんな。それよか涙で顔がぐしゃぐしゃだぞ。ハンカチ貸してやるから拭いとけ」
「しれぇ…ありがとうございまふ…」
男から借りたハンカチで顔を拭う雪風。
「ところで…『しれぇ』って何だよ」
「司令官ってやつです。英語で言うコマンダーのことですね」
返事をしたのは猫吊るし。
「司令、か。司令って人じゃなく命令とかそういうものを指すもんだと思ったが」
「細かいこと気にしてたらハゲますよ」
「うっせ。ハゲるにはまだ早ぇーよ」
「しれぇ」
男の服の袖を引っ張り呼びかける
「ん、何だ雪風」
「ハンカチ汚れちゃったので、後で雪風が洗って返しますね」
「そのままでも別にいいんだが…まぁ、好きにしな」
「はい! がんばります!」
再び猫吊るしのほうへ振り向く。
「……猫吊るしよ」
「何でしょう?」
「先行きが不安なんだが」
「え? 私はこれほどツイてるんだからもう深海棲艦の命運は尽きたものと思ってますが」
「ポジティブだなおい」
こうして元漁師の男は、提督業をはじめることになったのであった。
12: 2013/10/31(木) 23:55:31.68 ID:zf0e8pjLo
第一話、完!!
書けたら第二話投下したり突然の小ネタ投下したり
時系列がキングクリムゾンするかもしれませんがよろしくお願いします
書けたら第二話投下したり突然の小ネタ投下したり
時系列がキングクリムゾンするかもしれませんがよろしくお願いします
19: 2013/11/01(金) 21:32:41.11 ID:i5TQDEZTo
提督「艦娘ってのもつくづく謎だよなぁ。燃料、弾薬、鋼鉄、ボーキから造られるわけで」
ここは工廠の資材庫。元は倉庫だったのだがいつの間にやら改築された。
提督「魂部分は艦船のそれ、というけどここらへんオカルトチックだよなぁ」
ぶつぶつつぶやきながら燃料の入っているドラム缶に近づく。
提督「ぷかぷか丸は別途燃料入れてるけど何でこっちの燃料じゃだめなんだ?」
ドラム缶の口を開ける。甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
提督「……?」
どう考えても燃料のにおいではない。
事実を確かめるため、備え付けのポンプでくみ出す。
そして、指で一掬いして舐めてみる。
提督「ココアだこれ!?」
提督「ってことは弾薬も…」
外側はスナック、中身は最後までチョコたっぷり!!
提督「鋼鉄も!?」
銀紙に包まれた板チョコ!!
提督「ボーキも!?」
チョコチップクッキー!!
ここは工廠の資材庫。元は倉庫だったのだがいつの間にやら改築された。
提督「魂部分は艦船のそれ、というけどここらへんオカルトチックだよなぁ」
ぶつぶつつぶやきながら燃料の入っているドラム缶に近づく。
提督「ぷかぷか丸は別途燃料入れてるけど何でこっちの燃料じゃだめなんだ?」
ドラム缶の口を開ける。甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
提督「……?」
どう考えても燃料のにおいではない。
事実を確かめるため、備え付けのポンプでくみ出す。
そして、指で一掬いして舐めてみる。
提督「ココアだこれ!?」
提督「ってことは弾薬も…」
外側はスナック、中身は最後までチョコたっぷり!!
提督「鋼鉄も!?」
銀紙に包まれた板チョコ!!
提督「ボーキも!?」
チョコチップクッキー!!
20: 2013/11/01(金) 21:34:58.06 ID:i5TQDEZTo
提督「……えー、全部チョコ?」
コニチハ、カカオデス
提督「幻聴は引っ込め畜生」
??「ふふふ、知ってしまいましたね…」
提督「誰だ」
猫吊「みんながあたしを待っている! 妖怪猫吊るしです! 妹の猫土下座もよろしくね!」
提督「妖怪だったのか」
猫吊「みんなそう呼ぶんですよ。失礼しちゃいますね」
提督「自称してたぞ」
猫吊「そんなことはどうでもいいのです」
提督「確かにどうでもいいがあのチョコ菓子の山は何だよ」
猫吊「女の子はみんな砂糖やスパイス、素敵な事柄で出来ているのです」
提督「ケミカルXも入ってんのか? ん?」
猫吊「もちろん艦娘も例外ではありません」
提督「空母連中はどちらかといえばご飯大盛りで食うイメージだが」
猫吊「というわけで記憶を消さねばなりません」
提督「ちょっと待てや」
猫吊「大丈夫。ものすごく痛いけどすぐ気を失って感じなくなりますよ」
提督「駄目だろ。それに、お前どうやって攻撃するつもりだ」
提督と猫吊るしは5~6mは離れており、しかも猫吊るしは例によって猫を吊るしている。
猫吊「私にかかれば、距離も、時間も、すべてが無意味なのですよ」
提督「!?」
彼女が猫を掲げた瞬間、提督の視界が揺らぎ、霞み、激痛とともに白く、白く染められていく…
提督「ぐ、ぐあぁぁぁぁあ!?」
21: 2013/11/01(金) 21:35:54.94 ID:i5TQDEZTo
提督「あ"あ"あ"あ"っ"!?」
反射的に体を起こす。
気づけば執務室兼自室。簡易ベッドの上。ふと横を見ると心配そうにこちらを見つめる雪風の姿。
雪風「しれぇ、大丈夫ですか…?」
提督「あ、あぁ、何か悪い夢を見ていたようだ…。
着替えたら、ちょっと資材の備蓄を見に行くか…その後演習を行うから雪風は演習の準備をしてくれ」
雪風「了解しました!」
そして>>19へ…
……無限ループって、こわくね?
反射的に体を起こす。
気づけば執務室兼自室。簡易ベッドの上。ふと横を見ると心配そうにこちらを見つめる雪風の姿。
雪風「しれぇ、大丈夫ですか…?」
提督「あ、あぁ、何か悪い夢を見ていたようだ…。
着替えたら、ちょっと資材の備蓄を見に行くか…その後演習を行うから雪風は演習の準備をしてくれ」
雪風「了解しました!」
そして>>19へ…
……無限ループって、こわくね?
22: 2013/11/01(金) 23:29:26.60 ID:J21mptRYo
確かに怖いけどさぁwwwwww
でも確かに製造法はパワパフ式やんな
でも確かに製造法はパワパフ式やんな
引用: 【艦これ】泣き虫雪風と釣り人提督
26: 2013/11/03(日) 20:41:47.93 ID:x7ljvqTOo
「で、だ」
港に戻った3人。元漁師の提督と、猫吊るしと、雪風である。
「どうやって力を見せるつもりだ? まさかここから砲撃するわけでもあるまい」
「やだなぁ、敵の砲撃を掻い潜っての砲雷撃戦に決まってるじゃありませんか」
「ものすごく危なくないか?」
「えてして前近代的な戦術が有効なものです」
「大丈夫かなぁ」
「それにこれがあるから大丈夫です」
そういって猫吊るしは懐から花を模した黄色いバッジを取り出す。
「これは?」
「旗艦バッジです。これをつけている艦娘はどれだけ痛めつけられても絶対沈みません」
「…言いたい事はいろいろあるがそれは後だ」
猫吊るしからバッジを受け取る。何の変哲もない、安全ピンで留めるバッジにしか見えない。
「これを雪風につければいいんだな?」
「ええ。どこでも構いませんよ」
「じゃ、雪風、ちょっとじっとしてろ」
「はい!」
そういうと男は雪風の左胸にバッジを取り付けた。
「よーし、これでいい」
「雪風、がんばります!」
港に戻った3人。元漁師の提督と、猫吊るしと、雪風である。
「どうやって力を見せるつもりだ? まさかここから砲撃するわけでもあるまい」
「やだなぁ、敵の砲撃を掻い潜っての砲雷撃戦に決まってるじゃありませんか」
「ものすごく危なくないか?」
「えてして前近代的な戦術が有効なものです」
「大丈夫かなぁ」
「それにこれがあるから大丈夫です」
そういって猫吊るしは懐から花を模した黄色いバッジを取り出す。
「これは?」
「旗艦バッジです。これをつけている艦娘はどれだけ痛めつけられても絶対沈みません」
「…言いたい事はいろいろあるがそれは後だ」
猫吊るしからバッジを受け取る。何の変哲もない、安全ピンで留めるバッジにしか見えない。
「これを雪風につければいいんだな?」
「ええ。どこでも構いませんよ」
「じゃ、雪風、ちょっとじっとしてろ」
「はい!」
そういうと男は雪風の左胸にバッジを取り付けた。
「よーし、これでいい」
「雪風、がんばります!」
27: 2013/11/03(日) 20:44:54.53 ID:x7ljvqTOo
「さてと…これで、どうするんだ?」
猫吊るしのほうを向き、再びたずねる。
「近頃、この近海に深海棲艦の偵察艦の存在が確認されています。それを撃沈…いや鹵獲しましょう」
「へぇ、大きく出たもんだな」
「その近くまでは、すでに用意してある船で行きます。どこら辺まで近づくかは指示しますのでご安心を」
桟橋を見ると軽く10人は乗れそうな船がすでに待機していた。先ほどはなかったはずだが…。
「ありがたいこった」
「近くまで来たら艦娘の出番です。後は仕上げをごろうじろ。ってね」
そう言うと、彼女は船へ乗り込んでいった。男も後に続く。
「しれぇ」
雪風から声がかかる。
「なんだ?」
「雪風が、お守りします!」
「あー、はいはい」
「むー」
提督のつれない返事に雪風は不満げにふくれっつらをする。
「さーて、ぷかぷか丸、出航しますよ!」
やけにテンション高く猫吊るしが叫ぶ。
「何だそれは」
「この船の名前ですよ」
ともあれ彼らは深海棲艦退治に出発したのであった。
猫吊るしのほうを向き、再びたずねる。
「近頃、この近海に深海棲艦の偵察艦の存在が確認されています。それを撃沈…いや鹵獲しましょう」
「へぇ、大きく出たもんだな」
「その近くまでは、すでに用意してある船で行きます。どこら辺まで近づくかは指示しますのでご安心を」
桟橋を見ると軽く10人は乗れそうな船がすでに待機していた。先ほどはなかったはずだが…。
「ありがたいこった」
「近くまで来たら艦娘の出番です。後は仕上げをごろうじろ。ってね」
そう言うと、彼女は船へ乗り込んでいった。男も後に続く。
「しれぇ」
雪風から声がかかる。
「なんだ?」
「雪風が、お守りします!」
「あー、はいはい」
「むー」
提督のつれない返事に雪風は不満げにふくれっつらをする。
「さーて、ぷかぷか丸、出航しますよ!」
やけにテンション高く猫吊るしが叫ぶ。
「何だそれは」
「この船の名前ですよ」
ともあれ彼らは深海棲艦退治に出発したのであった。
28: 2013/11/03(日) 20:47:13.97 ID:x7ljvqTOo
「猫吊るしよ」
操舵しながら男が尋ねる。
「なんです?」
「旗艦バッジとか言う便利なものがあるなら艦娘とやらを片っ端から造って全員につければいいんじゃないか?」
「近くに旗艦バッジが複数あるとなんか相互干渉起こして沈んじゃうようになるみたいです。
あと沈まないだけでボロボロの艦娘なんて置物に毛が生えた程度の戦力しかありません。浮き砲台の方がましです」
「世の中うまくはいかないもんだな」
「まぁ全員未帰還にならないだけでも儲けものです…おっと、この辺でストップ」
「あいよ」
船を停止させる。甲板へ出ると雪風が双眼鏡で水平線を見ていた。
「何か面白いものでも見つかったか?」
「敵艦、発見しました!」
「ほぅ?」
男が目を凝らすと確かに水平線の向こうに黒い盛り上がりが見える。
「あれは、駆逐イ級ですね」
同じく出てきた猫吊るしが断言する。
「クチクイキュウ?」
「駆逐艦クラスのイ級です。発見された順にイロハ順で級をつけていっています」
「へぇ、強いのか?」
「深海棲艦の尖兵、いわば下っ端ですね」
「でも砲撃とかするんだろ?」
「魚雷らしきものも積んでます」
「そこで雪風の出番というわけか」
雪風のほうを振り向く。彼女はすでに準備万端のようだ。
「しれぇ、出撃命令を!」
操舵しながら男が尋ねる。
「なんです?」
「旗艦バッジとか言う便利なものがあるなら艦娘とやらを片っ端から造って全員につければいいんじゃないか?」
「近くに旗艦バッジが複数あるとなんか相互干渉起こして沈んじゃうようになるみたいです。
あと沈まないだけでボロボロの艦娘なんて置物に毛が生えた程度の戦力しかありません。浮き砲台の方がましです」
「世の中うまくはいかないもんだな」
「まぁ全員未帰還にならないだけでも儲けものです…おっと、この辺でストップ」
「あいよ」
船を停止させる。甲板へ出ると雪風が双眼鏡で水平線を見ていた。
「何か面白いものでも見つかったか?」
「敵艦、発見しました!」
「ほぅ?」
男が目を凝らすと確かに水平線の向こうに黒い盛り上がりが見える。
「あれは、駆逐イ級ですね」
同じく出てきた猫吊るしが断言する。
「クチクイキュウ?」
「駆逐艦クラスのイ級です。発見された順にイロハ順で級をつけていっています」
「へぇ、強いのか?」
「深海棲艦の尖兵、いわば下っ端ですね」
「でも砲撃とかするんだろ?」
「魚雷らしきものも積んでます」
「そこで雪風の出番というわけか」
雪風のほうを振り向く。彼女はすでに準備万端のようだ。
「しれぇ、出撃命令を!」
29: 2013/11/03(日) 20:49:09.06 ID:x7ljvqTOo
「…そうだな、よし。出撃だ」
その言葉を聞くや否や、雪風は船から飛び降り、そのまま滑るように海面を突き進んでいった。
「うぉ!? 意外と速いな!?」
そのままイ級の横を通りすがりさまに、手に持ったバック型の連装砲で砲撃を浴びせていく。
イ級も反撃するものの掠りすらしない。
雪風は反転しながら背負っていた魚雷発射装置を構える。
「魚雷装填! 発射します!」
バシュゥン、と言う音ともに魚雷が発射され、深海棲艦に突き進んでいく。
次の瞬間、ドゥン!! と水柱が盛大に上がった。
「おー、こいつぁすげーなー…」
男は感嘆の声を上げる。
「でしょう?」
「何でお前がドヤ顔してるんだよ」
雪風はイ級の船尾部分にロープをくくりつけると、それを引っ張るようにして提督たちのほうに戻っていった。
「雪風、敵駆逐艦を鹵獲してきました!」
「おう、お疲れさん」
引き上げたイ級を検分する。見ようによっては大物の魚にも見えなくはない。
その言葉を聞くや否や、雪風は船から飛び降り、そのまま滑るように海面を突き進んでいった。
「うぉ!? 意外と速いな!?」
そのままイ級の横を通りすがりさまに、手に持ったバック型の連装砲で砲撃を浴びせていく。
イ級も反撃するものの掠りすらしない。
雪風は反転しながら背負っていた魚雷発射装置を構える。
「魚雷装填! 発射します!」
バシュゥン、と言う音ともに魚雷が発射され、深海棲艦に突き進んでいく。
次の瞬間、ドゥン!! と水柱が盛大に上がった。
「おー、こいつぁすげーなー…」
男は感嘆の声を上げる。
「でしょう?」
「何でお前がドヤ顔してるんだよ」
雪風はイ級の船尾部分にロープをくくりつけると、それを引っ張るようにして提督たちのほうに戻っていった。
「雪風、敵駆逐艦を鹵獲してきました!」
「おう、お疲れさん」
引き上げたイ級を検分する。見ようによっては大物の魚にも見えなくはない。
30: 2013/11/03(日) 20:52:04.66 ID:x7ljvqTOo
「…で、どうすんだよこれ」
「解体します」
「これを、か?」
「マグロの解体みたいなもんですよ」
事も無げにそう答える猫吊るし。両手にはいつも吊るしている猫ではなく巨大な肉切り包丁。
猫はというと雪風にじゃれ付いていた。
「いきますよー…どりゃ!」
掛け声とともに包丁が振り下ろされる。だが体の半ばで刃は止まってしまった。
「威勢の割にたいしたことねーな。代わってやろうか?」
「あ、代わってくれます? 今切って止まったところの周辺を切り開いてください。『雫』がありました。取り出しましょう」
「液状物体が何で硬いんだよ」
「便宜上の呼び名です。周りはバラしてもいいけど海には捨てないでくださいね。後で使うので」
「わけがわからないよ」
「帰ればわかりますって」
適当に切り開くと中から丸い結晶状の物体が出てきた。
「これか?」
「それが『雫』ですね。周りごと先ほどの倉庫に運びましょう」
「もっと水滴状のものかと思ったが、これはまるででかい飴玉だな」
「解体します」
「これを、か?」
「マグロの解体みたいなもんですよ」
事も無げにそう答える猫吊るし。両手にはいつも吊るしている猫ではなく巨大な肉切り包丁。
猫はというと雪風にじゃれ付いていた。
「いきますよー…どりゃ!」
掛け声とともに包丁が振り下ろされる。だが体の半ばで刃は止まってしまった。
「威勢の割にたいしたことねーな。代わってやろうか?」
「あ、代わってくれます? 今切って止まったところの周辺を切り開いてください。『雫』がありました。取り出しましょう」
「液状物体が何で硬いんだよ」
「便宜上の呼び名です。周りはバラしてもいいけど海には捨てないでくださいね。後で使うので」
「わけがわからないよ」
「帰ればわかりますって」
適当に切り開くと中から丸い結晶状の物体が出てきた。
「これか?」
「それが『雫』ですね。周りごと先ほどの倉庫に運びましょう」
「もっと水滴状のものかと思ったが、これはまるででかい飴玉だな」
31: 2013/11/03(日) 20:55:45.16 ID:x7ljvqTOo
なんだかんだで帰投した提督一行。
イ級だったものは雪風が押す台車に乗せて運ばれている。
「で、この雫とやらとイ級だったグロ物体どうするんだよ」
「建造担当の妖精さんに渡してください」
先ほどの倉庫前にはすでに妖精さんが待機していた
「はーい、艦娘にするよー」
「…ん? 艦娘にする?」
「ちょちょいのちょいで」
ぼふんっ、という微妙にファンシーな音とともに少女の姿が現れた。
「早っ!?」
「雫の中身は艦娘の霊魂ですからね。呼ぶ時間は省略できます」
「あぁ、なるほど」
その少女の髪は黒く、右腕に連装砲、左腕に単装砲、腰に魚雷発射管を装備し、機関を背負っている。
「初春型四番艦、初霜です。皆さん、よろしくお願いします!」
「はつ…しも…?」
その名前に雪風が震え出す。
「あ…あぁ…」
「初霜って確か…」
提督が思い出すより早く
「うわぁぁあぁぁぁん!!」
泣き出す雪風。
「あぁ、もう。なんで艦娘見ただけで泣き出すんだよ」
初霜はそんな雪風にそっと近づく。
「あの事、気にしてたの?」
「ごめんなざい、はづじもざん、ごめんなざい…」
「私は気にしてないから、雪風も気にしないで。ね?」
謝り続ける雪風の頭をそっと撫でる。
「ひっく、ひぐっ…」
「……あの事ってさっき猫吊るしが言ってた回数機雷の件か……?」
「そうですね。もう何十年も前のことなのに」
「ぐずっ、ぐずっ……」
イ級だったものは雪風が押す台車に乗せて運ばれている。
「で、この雫とやらとイ級だったグロ物体どうするんだよ」
「建造担当の妖精さんに渡してください」
先ほどの倉庫前にはすでに妖精さんが待機していた
「はーい、艦娘にするよー」
「…ん? 艦娘にする?」
「ちょちょいのちょいで」
ぼふんっ、という微妙にファンシーな音とともに少女の姿が現れた。
「早っ!?」
「雫の中身は艦娘の霊魂ですからね。呼ぶ時間は省略できます」
「あぁ、なるほど」
その少女の髪は黒く、右腕に連装砲、左腕に単装砲、腰に魚雷発射管を装備し、機関を背負っている。
「初春型四番艦、初霜です。皆さん、よろしくお願いします!」
「はつ…しも…?」
その名前に雪風が震え出す。
「あ…あぁ…」
「初霜って確か…」
提督が思い出すより早く
「うわぁぁあぁぁぁん!!」
泣き出す雪風。
「あぁ、もう。なんで艦娘見ただけで泣き出すんだよ」
初霜はそんな雪風にそっと近づく。
「あの事、気にしてたの?」
「ごめんなざい、はづじもざん、ごめんなざい…」
「私は気にしてないから、雪風も気にしないで。ね?」
謝り続ける雪風の頭をそっと撫でる。
「ひっく、ひぐっ…」
「……あの事ってさっき猫吊るしが言ってた回数機雷の件か……?」
「そうですね。もう何十年も前のことなのに」
「ぐずっ、ぐずっ……」
32: 2013/11/03(日) 20:57:32.60 ID:x7ljvqTOo
ぐずる雪風を何とか慰めた後…
「初霜と言ったか。そういうわけで今のところ俺と雪風の二人しかいないがよろしく頼む」
「おまかせ下さい提督。皆をお守りします!」
「…雪風に抱きつかれた状態で決め台詞言われてもあまり締まらんな」
「一隻でも一人でも、救えるなら私は、それで満足なの。悲しむ子たちの泣き顔に笑顔を取り戻すために!」
そう言って初霜は雪風を抱きしめ返す。
「むぎゅぅ」
「そうだな。深海棲艦とやらを撃滅して、海に平和を取り戻すとしようか!」
第二話、完!!
「初霜と言ったか。そういうわけで今のところ俺と雪風の二人しかいないがよろしく頼む」
「おまかせ下さい提督。皆をお守りします!」
「…雪風に抱きつかれた状態で決め台詞言われてもあまり締まらんな」
「一隻でも一人でも、救えるなら私は、それで満足なの。悲しむ子たちの泣き顔に笑顔を取り戻すために!」
そう言って初霜は雪風を抱きしめ返す。
「むぎゅぅ」
「そうだな。深海棲艦とやらを撃滅して、海に平和を取り戻すとしようか!」
第二話、完!!
39: 2013/11/05(火) 00:16:09.82 ID:EvoRb8FRo
昨日はE-4攻略出来てとても気分がイイのでだいぶ時系列キングクリムゾンした話投下しようそうしよう
40: 2013/11/05(火) 00:17:55.25 ID:EvoRb8FRo
時には拗れることもある
切欠は些細なことだった。
新海域の攻略、新人の育成、新兵装の開発…。
そういったことにかまけてて、雪風がすねてしまったのだ。
さらに悪いことに攻略はうまくいかず、育成は進まず、開発もろくに出来ず。
そういうイライラを、そんな雪風にぶつけてしまったのだ。
結果? 惨憺たる有様さ…
切欠は些細なことだった。
新海域の攻略、新人の育成、新兵装の開発…。
そういったことにかまけてて、雪風がすねてしまったのだ。
さらに悪いことに攻略はうまくいかず、育成は進まず、開発もろくに出来ず。
そういうイライラを、そんな雪風にぶつけてしまったのだ。
結果? 惨憺たる有様さ…
41: 2013/11/05(火) 00:19:46.33 ID:EvoRb8FRo
「もぉ、しれぇなんて知りません!」
執務室のドアを後ろ手に閉め、泣きながら駆け出していく雪風。
入れ違いに翔鶴が入ってくる。
提督は両手で頭を支えるように俯いており、この上なく調子が悪そうに見えた。
「…あぁ、翔鶴か」
「今、雪風ちゃんが泣きながら出て行くのを見かけましたが…どうかなさったのですか?」
「あぁ、ちょっと喧嘩してしまってな…」
「追いかけなくて、いいのですか?」
「ちょっと頭を冷やしたい。今もう一度顔を突き合わせてもろくなことにならん」
「それもそうかもしれませんね…」
「うむ」
そこまで言うと提督は顔を上げた。心なしか目が虚ろである。
「それで、何か報告かね。確か今日の開発担当は翔鶴だったはずだ」
「はい。今日の開発は、彗星一二型甲、紫電改二、流星改、彩雲が出来上がりました」
「……そうか」
流星改。待ち望んでいた装備のひとつである。だが返ってきたのは生返事。
「あの…提督、よろしいでしょうか?」
「何だ」
「その…ちょっと調子がよろしくないようですし、休まれてはいかがでしょうか…?」
「……そうだな。今日は、何もする気が起きん。雪風が帰ってくるまで寝よう。帰ってきたら起こしてくれ。
出撃も中止だ。遠征組も今日は帰って補給したら一日自由行動。そう通達してくれ」
「今回の艦載機はどうしましょう?」
「あぁ…瑞鶴に配備してくれ。彩雲は4スロだ」
「了解しました。それでは、お休みなさいませ」
翔鶴が去り、扉が閉まる。残すは静寂のみ。
「……寝るか」
提督は誰にともなくつぶやくと。簡易ベッドの上に身を横たえた。
執務室のドアを後ろ手に閉め、泣きながら駆け出していく雪風。
入れ違いに翔鶴が入ってくる。
提督は両手で頭を支えるように俯いており、この上なく調子が悪そうに見えた。
「…あぁ、翔鶴か」
「今、雪風ちゃんが泣きながら出て行くのを見かけましたが…どうかなさったのですか?」
「あぁ、ちょっと喧嘩してしまってな…」
「追いかけなくて、いいのですか?」
「ちょっと頭を冷やしたい。今もう一度顔を突き合わせてもろくなことにならん」
「それもそうかもしれませんね…」
「うむ」
そこまで言うと提督は顔を上げた。心なしか目が虚ろである。
「それで、何か報告かね。確か今日の開発担当は翔鶴だったはずだ」
「はい。今日の開発は、彗星一二型甲、紫電改二、流星改、彩雲が出来上がりました」
「……そうか」
流星改。待ち望んでいた装備のひとつである。だが返ってきたのは生返事。
「あの…提督、よろしいでしょうか?」
「何だ」
「その…ちょっと調子がよろしくないようですし、休まれてはいかがでしょうか…?」
「……そうだな。今日は、何もする気が起きん。雪風が帰ってくるまで寝よう。帰ってきたら起こしてくれ。
出撃も中止だ。遠征組も今日は帰って補給したら一日自由行動。そう通達してくれ」
「今回の艦載機はどうしましょう?」
「あぁ…瑞鶴に配備してくれ。彩雲は4スロだ」
「了解しました。それでは、お休みなさいませ」
翔鶴が去り、扉が閉まる。残すは静寂のみ。
「……寝るか」
提督は誰にともなくつぶやくと。簡易ベッドの上に身を横たえた。
42: 2013/11/05(火) 00:21:13.16 ID:EvoRb8FRo
キィーコ…キィーコ…
夕暮れ時の公園にブランコの揺れる音が鳴り響く。
「しれぇも言いすぎです。雪風が運を吸い取ってるからだ、なんて…ぐすっ
…雪風も、ひどい事言っちゃいましたけど…」
キィーコ…キィーコ…
艤装を外した状態で出て行ったので傍目普通の家出少女である。
「ぐすっ…ひっく…しれぇ、まだ怒ってるかなぁ…」
キィーコ…キィーコ…
そして日は落ちていく。
夕暮れ時の公園にブランコの揺れる音が鳴り響く。
「しれぇも言いすぎです。雪風が運を吸い取ってるからだ、なんて…ぐすっ
…雪風も、ひどい事言っちゃいましたけど…」
キィーコ…キィーコ…
艤装を外した状態で出て行ったので傍目普通の家出少女である。
「ぐすっ…ひっく…しれぇ、まだ怒ってるかなぁ…」
キィーコ…キィーコ…
そして日は落ちていく。
43: 2013/11/05(火) 00:23:29.41 ID:EvoRb8FRo
「…きてください、起きてください、提督」
「んぁ…、翔鶴か…雪風が戻ってきたか?」
翔鶴に呼ばれ、寝ぼけ眼をこすりながら身を起こす。
翔鶴の顔には焦燥感が漂っている。
「まだ…まだ帰ってないんです!」
「…今何時だ?」
「ヒトハチマルゴー、もう六時を回ってます」
「確か俺が雪風と喧嘩したのは昼の三時過ぎだ」
ちらり、と整頓されて置いてある雪風の艤装に目を向ける。
「艤装を置いている以上、海のほうに行くのは自殺行為以外の何物でもない。という事は陸…鎮守府の近くにいるはず。
雪風が本気で怒っているか、それとも雪風の身に何かあったか、だが…」
「あの時私が引き止めておけば…」
「いや、お前の責任じゃねーって」
「私が探してきます!」
翔鶴がそう言うや否や踵を返して廊下を駆け出す。
「あ、待てコラ! …行っちまいやがった」
ベッドに腰を下ろし背伸びをする。
「んぐぐ…っと。追うしかないか…」
ぼやきながら立ち上がり、執務室を出る。
「…いやちょっと待てよ」
向かうは外ではなく、艦娘たちの住まう寮。
「んぁ…、翔鶴か…雪風が戻ってきたか?」
翔鶴に呼ばれ、寝ぼけ眼をこすりながら身を起こす。
翔鶴の顔には焦燥感が漂っている。
「まだ…まだ帰ってないんです!」
「…今何時だ?」
「ヒトハチマルゴー、もう六時を回ってます」
「確か俺が雪風と喧嘩したのは昼の三時過ぎだ」
ちらり、と整頓されて置いてある雪風の艤装に目を向ける。
「艤装を置いている以上、海のほうに行くのは自殺行為以外の何物でもない。という事は陸…鎮守府の近くにいるはず。
雪風が本気で怒っているか、それとも雪風の身に何かあったか、だが…」
「あの時私が引き止めておけば…」
「いや、お前の責任じゃねーって」
「私が探してきます!」
翔鶴がそう言うや否や踵を返して廊下を駆け出す。
「あ、待てコラ! …行っちまいやがった」
ベッドに腰を下ろし背伸びをする。
「んぐぐ…っと。追うしかないか…」
ぼやきながら立ち上がり、執務室を出る。
「…いやちょっと待てよ」
向かうは外ではなく、艦娘たちの住まう寮。
44: 2013/11/05(火) 00:23:58.76 ID:EvoRb8FRo
「……」
うつむいてブランコに座ったままの雪風。
「お腹が空きました…」
くぅ、と鳴る腹の虫の音。
「…しれぇ、まだ怒ってるでしょうか…」
じわっ、と涙が零れる。
「しれぇ…やっぱり、一人は寂しいです…」
雪風はブランコから立ち上がり、とぼとぼと家へ、鎮守府へ向かって歩き出す。
うつむいてブランコに座ったままの雪風。
「お腹が空きました…」
くぅ、と鳴る腹の虫の音。
「…しれぇ、まだ怒ってるでしょうか…」
じわっ、と涙が零れる。
「しれぇ…やっぱり、一人は寂しいです…」
雪風はブランコから立ち上がり、とぼとぼと家へ、鎮守府へ向かって歩き出す。
45: 2013/11/05(火) 00:25:27.73 ID:EvoRb8FRo
艦娘寮へ入る。提督は基本的に用事のない時は立ち入らないが、事は急を要する。
(…艦娘たちの視線が痛いな)
おそらく雪風と喧嘩した件については全員周知なのだろう。
無言の非難を浴びながら、向かうは空母寮の奥。翔鶴と瑞鶴の部屋。
コン、コン。
「俺だ、提督だ。瑞鶴は居るか?」
「今開けまーす」
ドアが開き、ひょっこり顔を出す瑞鶴。
「あれ、姉さんは?」
「俺を起こした後、雪風探しに行くと言って引き止める間もなく飛び出しちまったよ」
「何で追いかけなかったんですか!?」
「無闇に探し回るのは嫌だからな。それに…」
「それに?」
「なーんか嫌な予感がする。瑞鶴、艦載機の発進の準備を」
「え、夜の飛行はいろいろと危ないから禁止されているのでは」
「夜の海は暗いからな。だが今回は街中だ。ある程度の明るさはある。着陸も中庭の照明で照らせば何とかなるだろ」
「そんな無茶な…」
「彩雲を先行させて翔鶴の位置を確認してくれ。あとは通信機で連携を取る」
ポケットから旧式のトランシーバーを取り出し、瑞鶴に手渡す。
「先行って他の艦載機も…?」
「飛ばせ。なんせあいつは屈指の被害担当艦だ。念には念を入れる」
「…確かに心配になってきたわ」
「翔鶴とっ捕まえたら雪風を探して連れ帰る。まぁイージーワークだ。うまくいけば他の三機は飛ばすだけで済む」
「だといいけど」
「さて、俺も追っかけるから偵察よろしくなー。連れ帰ったらお前ら姉妹に間宮アイス奢るから、な!」
その言葉を残して提督は艦娘寮の廊下を駆け出していった。
「…仕方ないわね」
瑞鶴は半ばあきらめたようにドアを閉め、艦載機発進の準備をすることにした。
(…艦娘たちの視線が痛いな)
おそらく雪風と喧嘩した件については全員周知なのだろう。
無言の非難を浴びながら、向かうは空母寮の奥。翔鶴と瑞鶴の部屋。
コン、コン。
「俺だ、提督だ。瑞鶴は居るか?」
「今開けまーす」
ドアが開き、ひょっこり顔を出す瑞鶴。
「あれ、姉さんは?」
「俺を起こした後、雪風探しに行くと言って引き止める間もなく飛び出しちまったよ」
「何で追いかけなかったんですか!?」
「無闇に探し回るのは嫌だからな。それに…」
「それに?」
「なーんか嫌な予感がする。瑞鶴、艦載機の発進の準備を」
「え、夜の飛行はいろいろと危ないから禁止されているのでは」
「夜の海は暗いからな。だが今回は街中だ。ある程度の明るさはある。着陸も中庭の照明で照らせば何とかなるだろ」
「そんな無茶な…」
「彩雲を先行させて翔鶴の位置を確認してくれ。あとは通信機で連携を取る」
ポケットから旧式のトランシーバーを取り出し、瑞鶴に手渡す。
「先行って他の艦載機も…?」
「飛ばせ。なんせあいつは屈指の被害担当艦だ。念には念を入れる」
「…確かに心配になってきたわ」
「翔鶴とっ捕まえたら雪風を探して連れ帰る。まぁイージーワークだ。うまくいけば他の三機は飛ばすだけで済む」
「だといいけど」
「さて、俺も追っかけるから偵察よろしくなー。連れ帰ったらお前ら姉妹に間宮アイス奢るから、な!」
その言葉を残して提督は艦娘寮の廊下を駆け出していった。
「…仕方ないわね」
瑞鶴は半ばあきらめたようにドアを閉め、艦載機発進の準備をすることにした。
46: 2013/11/05(火) 00:28:35.37 ID:EvoRb8FRo
鎮守府近くの大通り。街灯もあって日が暮れてもそこそこ明るい。思えばそれが油断の元だったのかもしれない。
「しれぇ、心配してるかなぁ…それとも…」
考え事をしている雪風に、路地から魔の手が伸びたのだ。
引っ張られたと思った次の瞬間、雪風は壁に叩きつけられていた。
「あうぅ…」
朦朧とする頭で、状況を把握しようとする。視界にはいかにもチンピラな男が二人。
「そんなに強く叩きつけて大丈夫ですかい、アニキ?」
「なぁに、何回もやってんだ。よっこらせっと」
無理やり体を引き起こされる。喉元にナイフが突きつけられる。
「おっと、声を上げるなよ? 声を上げたら、こうだからな?」
ふつり、と双眼鏡の革紐が切られ、ごとり、と地面に落ちる。
「あっ…! 雪風の双眼鏡が…!」
「黙れつってんだよ」
雪風の頭にナイフの柄が振り下ろされる。
「あぐっ…」
「全く手間かけさせやがって」
雪風を殴った男は雪風の口をふさぐように彼女を抱えなおす。
「通りのほうから足音が聞こえるっす」
もう一人の男が伝える。
「ちっ、しばらく隠れるぞ」
「了解」
物陰に身を潜める二人。
男たちに完全に捕らえられてしまった雪風。
(しれぇ…助けて…)
涙ぐみながら、そうつぶやくのが精一杯だった。
「しれぇ、心配してるかなぁ…それとも…」
考え事をしている雪風に、路地から魔の手が伸びたのだ。
引っ張られたと思った次の瞬間、雪風は壁に叩きつけられていた。
「あうぅ…」
朦朧とする頭で、状況を把握しようとする。視界にはいかにもチンピラな男が二人。
「そんなに強く叩きつけて大丈夫ですかい、アニキ?」
「なぁに、何回もやってんだ。よっこらせっと」
無理やり体を引き起こされる。喉元にナイフが突きつけられる。
「おっと、声を上げるなよ? 声を上げたら、こうだからな?」
ふつり、と双眼鏡の革紐が切られ、ごとり、と地面に落ちる。
「あっ…! 雪風の双眼鏡が…!」
「黙れつってんだよ」
雪風の頭にナイフの柄が振り下ろされる。
「あぐっ…」
「全く手間かけさせやがって」
雪風を殴った男は雪風の口をふさぐように彼女を抱えなおす。
「通りのほうから足音が聞こえるっす」
もう一人の男が伝える。
「ちっ、しばらく隠れるぞ」
「了解」
物陰に身を潜める二人。
男たちに完全に捕らえられてしまった雪風。
(しれぇ…助けて…)
涙ぐみながら、そうつぶやくのが精一杯だった。
47: 2013/11/05(火) 00:29:31.81 ID:EvoRb8FRo
カッ、カッ、カッ。
ある路地の前で、足音が止まる。
足音の主は、翔鶴。
「ここら辺で雪風ちゃんの声が聞こえたような…」
路地のほうに目を向けると、見覚えのある双眼鏡。
路地に入って拾い上げる。
「紐が切れてるけど…確かに雪風ちゃんの…きゃっ!?」
見張っていたほうののチンピラが双眼鏡を検分していた翔鶴に体当たりし、そのまま組み伏せる。
「いったい何を…!!」
組み伏せられた翔鶴が顔を上げると、そこには雪風と彼女を捕らえた男の姿が。
「雪風っ…!」
「ほぅ、この子と知り合いなのかい、お嬢さん」
余裕ありげに笑みを浮かべるチンピラ。
「わ、私はどうなってもいいからその」
ガスッ。最後まで言うことなく後ろのチンピラに頭を掴まれ地べたと接吻させられた。
「あ…ああ…」
怯える雪風。
「家出か迷子か知らんが、お前の行動が元で、あいつはあんな目にあってるわけだ。な?」
「やだ…やぁ…」
ある路地の前で、足音が止まる。
足音の主は、翔鶴。
「ここら辺で雪風ちゃんの声が聞こえたような…」
路地のほうに目を向けると、見覚えのある双眼鏡。
路地に入って拾い上げる。
「紐が切れてるけど…確かに雪風ちゃんの…きゃっ!?」
見張っていたほうののチンピラが双眼鏡を検分していた翔鶴に体当たりし、そのまま組み伏せる。
「いったい何を…!!」
組み伏せられた翔鶴が顔を上げると、そこには雪風と彼女を捕らえた男の姿が。
「雪風っ…!」
「ほぅ、この子と知り合いなのかい、お嬢さん」
余裕ありげに笑みを浮かべるチンピラ。
「わ、私はどうなってもいいからその」
ガスッ。最後まで言うことなく後ろのチンピラに頭を掴まれ地べたと接吻させられた。
「あ…ああ…」
怯える雪風。
「家出か迷子か知らんが、お前の行動が元で、あいつはあんな目にあってるわけだ。な?」
「やだ…やぁ…」
49: 2013/11/05(火) 00:32:14.69 ID:EvoRb8FRo
ほぼ同じ頃
『あっ、翔鶴姉はっけーん』
トランシーバーから瑞鶴の明るい声が聞こえる。
「よし、今どこら辺に居る?」
『えぇと、三丁目のぼろビル団地の路地に…あら、奥に入ってっちゃった?』
「んー? まぁ位置はわかったから急行する。しばらく監視を…」
『あ、翔鶴姉!?』
「どうした瑞鶴?」
『急いで! 翔鶴姉が暴漢に!』
その言葉を聞き、提督は足を速める。
「全く、嫌な予感ってのは当たるもんだな!」
『ちょっと私も行くわ!』
トランシーバーの向こうからドタドタバタン、と慌しい音が聞こえる。
「そうか、なら早く来い。手遅れになる前に」
『そっちこそ早くしないと手遅れになっちゃう!』
「もうすぐ例の路地裏だ。他に何が見える?」
『奥のほうで雪風も捕まってる!』
「全く…ブツブツ…」
この状況に口の中で悪態をつく。
「瑞鶴、走りながらでいいから聞け」
『何?』
「その路地にたどり着いたら俺が雪風たちを捕まえてる奴らの気を引く。
そしたら後ろから爆撃、奴らの耳と目を塞いでやれ」
『爆音と爆煙で隠すわけね。…こっちからも見えなくなりそうだけど大丈夫なの?』
「事前に知ってるかどうかでだいぶ違う。合図は…そうだな。俺が耳を掻いたらだ。そのまま耳を塞ぐから遠慮なくやれ。
続けざまの爆撃で向こうの不意をつく。後は仕上げをごろうじろ、だ」
『直接撃っちゃだめ?』
「相手は人間だしさすがにまずいだろ」
『翔鶴姉捕まえてる奴撃ちたいんだけど』
「気持ちはわかるがとりあえず機銃での威嚇射撃ぐらいに抑えておけ」
『はーい…』
「そろそろ例の路地だ。通信を切るぞ。俺の挙動に目を配っておけ」
『了解』
トランシーバーを懐にしまい、提督は路地へと急ぐ。
『あっ、翔鶴姉はっけーん』
トランシーバーから瑞鶴の明るい声が聞こえる。
「よし、今どこら辺に居る?」
『えぇと、三丁目のぼろビル団地の路地に…あら、奥に入ってっちゃった?』
「んー? まぁ位置はわかったから急行する。しばらく監視を…」
『あ、翔鶴姉!?』
「どうした瑞鶴?」
『急いで! 翔鶴姉が暴漢に!』
その言葉を聞き、提督は足を速める。
「全く、嫌な予感ってのは当たるもんだな!」
『ちょっと私も行くわ!』
トランシーバーの向こうからドタドタバタン、と慌しい音が聞こえる。
「そうか、なら早く来い。手遅れになる前に」
『そっちこそ早くしないと手遅れになっちゃう!』
「もうすぐ例の路地裏だ。他に何が見える?」
『奥のほうで雪風も捕まってる!』
「全く…ブツブツ…」
この状況に口の中で悪態をつく。
「瑞鶴、走りながらでいいから聞け」
『何?』
「その路地にたどり着いたら俺が雪風たちを捕まえてる奴らの気を引く。
そしたら後ろから爆撃、奴らの耳と目を塞いでやれ」
『爆音と爆煙で隠すわけね。…こっちからも見えなくなりそうだけど大丈夫なの?』
「事前に知ってるかどうかでだいぶ違う。合図は…そうだな。俺が耳を掻いたらだ。そのまま耳を塞ぐから遠慮なくやれ。
続けざまの爆撃で向こうの不意をつく。後は仕上げをごろうじろ、だ」
『直接撃っちゃだめ?』
「相手は人間だしさすがにまずいだろ」
『翔鶴姉捕まえてる奴撃ちたいんだけど』
「気持ちはわかるがとりあえず機銃での威嚇射撃ぐらいに抑えておけ」
『はーい…』
「そろそろ例の路地だ。通信を切るぞ。俺の挙動に目を配っておけ」
『了解』
トランシーバーを懐にしまい、提督は路地へと急ぐ。
50: 2013/11/05(火) 00:33:55.97 ID:EvoRb8FRo
「夜道を歩くときは十分回りに注意することだ。まぁその教訓を生かす機会はもう無いんだけどな」
チンピラの一人が雪風の頬にナイフを当てながらつぶやく。
「や…やだ…翔鶴さ…ぁぁ…」
声に鳴らない声を上げながら雪風は涙をこぼす。
一方の翔鶴は、地面に何度も顔を叩きつけられ、完全に気を失っている。
「ちょ~っとやりすぎちまったかなぁ?」
「こんなもんだろ。突然声を上げられても困るからな」
「それもそっすね、アニキ」
そう言いながらもう一人のチンピラが翔鶴の体を引き上げる。
「助け…しれぇ…たすけ…て…」
雪風は半ば祈るように助けを求める言葉をこぼす
「お前を助けてくれる奴なんかいねぇよ」
「そいつはどうかな」
通りの方からかかる声。
提督が、そこにいた。
「誰だ!?」
「しれぇ!!」
チンピラの誰何と雪風の呼びかけが同時に路地に響く。
「お前らのようなゲスどもに名乗る名前なんかねーよ」
数歩進んで、雪風の双眼鏡を拾い上げる。
「怪我したくなけりゃとっとと彼女らを放して帰りやがれ」
「何だてめぇは! こいつらの知り合いか!?」
「そうだ」
「けっ、下手に動くと手が滑っちまうかも知れねぇぞ?」
男は雪風の首元にナイフをちらつかせる。
「おい、サブ、お前もやるんだよ」
「すんませんアニキ、ちょっと忘れてきてしまいまして」
「じゃあとりあえず首絞めとけ」
「へい」
サブと呼ばれた男が翔鶴の首を拘束する。
「う、ぐっ…」
翔鶴が苦しそうに身悶えする。
「さぁ、こいつらの命が惜しければ回れ右して全てを忘れることだ!」
アニキと呼ばれたほうが脅し言葉をかける。
チンピラの一人が雪風の頬にナイフを当てながらつぶやく。
「や…やだ…翔鶴さ…ぁぁ…」
声に鳴らない声を上げながら雪風は涙をこぼす。
一方の翔鶴は、地面に何度も顔を叩きつけられ、完全に気を失っている。
「ちょ~っとやりすぎちまったかなぁ?」
「こんなもんだろ。突然声を上げられても困るからな」
「それもそっすね、アニキ」
そう言いながらもう一人のチンピラが翔鶴の体を引き上げる。
「助け…しれぇ…たすけ…て…」
雪風は半ば祈るように助けを求める言葉をこぼす
「お前を助けてくれる奴なんかいねぇよ」
「そいつはどうかな」
通りの方からかかる声。
提督が、そこにいた。
「誰だ!?」
「しれぇ!!」
チンピラの誰何と雪風の呼びかけが同時に路地に響く。
「お前らのようなゲスどもに名乗る名前なんかねーよ」
数歩進んで、雪風の双眼鏡を拾い上げる。
「怪我したくなけりゃとっとと彼女らを放して帰りやがれ」
「何だてめぇは! こいつらの知り合いか!?」
「そうだ」
「けっ、下手に動くと手が滑っちまうかも知れねぇぞ?」
男は雪風の首元にナイフをちらつかせる。
「おい、サブ、お前もやるんだよ」
「すんませんアニキ、ちょっと忘れてきてしまいまして」
「じゃあとりあえず首絞めとけ」
「へい」
サブと呼ばれた男が翔鶴の首を拘束する。
「う、ぐっ…」
翔鶴が苦しそうに身悶えする。
「さぁ、こいつらの命が惜しければ回れ右して全てを忘れることだ!」
アニキと呼ばれたほうが脅し言葉をかける。
51: 2013/11/05(火) 00:35:09.77 ID:EvoRb8FRo
「さぁて、どうしたもんかねぇ」
提督は困ったように耳を掻く。そのまま反対側の耳も同時に掻き始める。
「早くしねぇと」
アニキが言えたのはそこまでだった。
ドゥン、と響く爆音。さらに続けざまに路地にばら撒かれる爆弾。
「ゲホッ、ゴホッ!!」
「アニキ、何が起こったんゲホゴッホッ!!」
その一瞬の隙を見逃す提督ではない。
「雪風を…」
腕を振り上げ、雪風を捕まえていた男へ走る。
「返せボケェ!!」
「ガァッ!?」
振り抜かれる拳。吹っ飛ぶ男
そのまま雪風の腕を掴み、もう一人の男のほうへ反転する。
「ゴホッ、アニキ!?」
「翔鶴を離せダラズ!!」
返す拳でサブと呼ばれた男の横っ面をしたたか殴りつける。
「アガッ!!」
表通りから聞こえるもう一人の声。
「翔鶴姉! 提督! こっち!」
「瑞鶴も来たか! 急ぐぞ!」
翔鶴は朦朧とした意識を振り払うように頭を振る
「ううっ…提督?」
「二人とも、もう大丈夫だ!」
表通りまで駆け戻り、瑞鶴と合流する。
「しれぇ、しれぇ…」
「翔鶴姉…よかったぁ…!!」
提督と翔鶴に抱きつき涙を流す雪風と瑞鶴。
「感傷に浸るのは後だ。あいつ等が起きる前にここを離れるぞ!」
「了解です!」
提督は雪風を抱き上げ、翔鶴と瑞鶴は手と手を取り合って鎮守府へ向かって走り出した。
提督は困ったように耳を掻く。そのまま反対側の耳も同時に掻き始める。
「早くしねぇと」
アニキが言えたのはそこまでだった。
ドゥン、と響く爆音。さらに続けざまに路地にばら撒かれる爆弾。
「ゲホッ、ゴホッ!!」
「アニキ、何が起こったんゲホゴッホッ!!」
その一瞬の隙を見逃す提督ではない。
「雪風を…」
腕を振り上げ、雪風を捕まえていた男へ走る。
「返せボケェ!!」
「ガァッ!?」
振り抜かれる拳。吹っ飛ぶ男
そのまま雪風の腕を掴み、もう一人の男のほうへ反転する。
「ゴホッ、アニキ!?」
「翔鶴を離せダラズ!!」
返す拳でサブと呼ばれた男の横っ面をしたたか殴りつける。
「アガッ!!」
表通りから聞こえるもう一人の声。
「翔鶴姉! 提督! こっち!」
「瑞鶴も来たか! 急ぐぞ!」
翔鶴は朦朧とした意識を振り払うように頭を振る
「ううっ…提督?」
「二人とも、もう大丈夫だ!」
表通りまで駆け戻り、瑞鶴と合流する。
「しれぇ、しれぇ…」
「翔鶴姉…よかったぁ…!!」
提督と翔鶴に抱きつき涙を流す雪風と瑞鶴。
「感傷に浸るのは後だ。あいつ等が起きる前にここを離れるぞ!」
「了解です!」
提督は雪風を抱き上げ、翔鶴と瑞鶴は手と手を取り合って鎮守府へ向かって走り出した。
52: 2013/11/05(火) 00:37:30.83 ID:EvoRb8FRo
鎮守府正門前。
「ふぃ~、ここまでくれば大丈夫だな」
瑞鶴は緊張の糸が切れたかのようにぺたりと座り込む。
「よかったぁ…翔鶴姉も、雪風も無事で…ぐすっ」
「瑞鶴、お前が泣いてちゃさまにならんだろ」
提督が苦笑する。
「翔鶴、瑞鶴。今日はいろいろ迷惑をかけたな。すまない。そして、ありがとう。それと…」
雪風を抱きしめ、耳元でささやくように、
「雪風、ごめんな」
「うっ…ぐす…うわぁぁあぁん! 雪風も、雪風も、悪がっだでず、ごべんなざい…!!」
堰を切ったように泣き出す雪風。
「よしよし。さぁ、うちへ帰ろう」
「仲直りできたようで、よかったです」
翔鶴が微笑む。
「そうだな…翔鶴」
「何でしょうか?」
「帰ったら雪風と瑞鶴と一緒に風呂入って来い。せっかくの美人さんが台無しだぜ」
「もー提督、何どさくさ紛れに姉さんを口説こうとしてるんですか!」
突っかかる瑞鶴を無視してもう一言付け足す。
「風呂上がったら俺のところへ来い。間宮さんのアイスを奢ろう」
「そうだった! 翔鶴姉、急ごう!」
「あっ、瑞鶴慌てないで」
翔鶴が引きとめようとするも、瑞鶴はもう遥か先。
「仕方ない子ね、もう…」
「じゃ、俺たちも後を追いますか」
「ふぃ~、ここまでくれば大丈夫だな」
瑞鶴は緊張の糸が切れたかのようにぺたりと座り込む。
「よかったぁ…翔鶴姉も、雪風も無事で…ぐすっ」
「瑞鶴、お前が泣いてちゃさまにならんだろ」
提督が苦笑する。
「翔鶴、瑞鶴。今日はいろいろ迷惑をかけたな。すまない。そして、ありがとう。それと…」
雪風を抱きしめ、耳元でささやくように、
「雪風、ごめんな」
「うっ…ぐす…うわぁぁあぁん! 雪風も、雪風も、悪がっだでず、ごべんなざい…!!」
堰を切ったように泣き出す雪風。
「よしよし。さぁ、うちへ帰ろう」
「仲直りできたようで、よかったです」
翔鶴が微笑む。
「そうだな…翔鶴」
「何でしょうか?」
「帰ったら雪風と瑞鶴と一緒に風呂入って来い。せっかくの美人さんが台無しだぜ」
「もー提督、何どさくさ紛れに姉さんを口説こうとしてるんですか!」
突っかかる瑞鶴を無視してもう一言付け足す。
「風呂上がったら俺のところへ来い。間宮さんのアイスを奢ろう」
「そうだった! 翔鶴姉、急ごう!」
「あっ、瑞鶴慌てないで」
翔鶴が引きとめようとするも、瑞鶴はもう遥か先。
「仕方ない子ね、もう…」
「じゃ、俺たちも後を追いますか」
53: 2013/11/05(火) 00:40:17.64 ID:EvoRb8FRo
深夜。ほとんどの艦娘が寝静まるころ。
提督は未だ起きていた。
「あー、日課はサボるもんじゃねーなー。こっちの書類に判を押して、
この書類には『海軍としては陸軍の案には断固反対である』と記して、と…」
コン、コン、と控えめなドアのノックの音。
「開いてるぞ」
そっとドアが開き、雪風が入ってきた。
「しれぇ…」
その瞳は潤み、体は小刻みに震えている。
「どうした、雪風」
「怖くて…一人じゃ、眠れないです…」
「…そうか、今日は辛かったもんな…。おいで」
雪風は、提督に手招かれで近づき、そのまま体を預けるように倒れこむ。
「ぐすっ、ぐすっ…」
しばし、執務室に雪風の泣き声のみが響く。
「…落ち着いたか?」
雪風の頭をなで、提督が優しく問いかける。
「ひっく…ひっく…うん…」
雪風は力なくうなずくものの、大丈夫そうには見えない。
簡易ベッドをちらりと見る。
(二人だと少々狭いが、まぁ密着すれば大丈夫だろ)
そっと雪風を持ち上げ、ベッドのところまで運ぶ。
「ちょっと布団の中で待ってろ。寝巻きに着替えてくる」
「うん…」
雪風の体を包むように布団を掛け、提督は寝巻きに着替えることにした。
「狭いけど、我慢してくれよ」
そう言って提督は雪風のいる布団にもぐりこんだ。
「しれぇ…」
雪風は提督の体を離すまいとするようにしがみつく。
「助けてくれて…ありがとう…ござい、ます…ぐしゅ」
「気にするな。ほら、枕はお前が使え」
その言葉に、雪風はふるふると首を振る。
「枕は、しれぇが使ってください…。雪風は…こっちのほうがいいです…」
雪風はそう言うと、提督の二の腕に頭をもたせかけた。
「まったく…他のヤツ、特に青葉に見つかったら大問題だぜ?」
そう言いながらもまんざらでもない表情で、雪風の背に、枕にされてないほうの腕を回す。
「んぅ…」
雪風がわずかに身じろぎ、より強く提督に抱きつく。
「しれぇ…」
「なんだ?」
「こんな、泣き虫で我侭な雪風、嫌いですか…?」
「そんなことは無いさ。というか、皆の中では一番好きだな」
「…うっ、しれぇ…しれぇ…ゆきかぜも、しれぇが…だ、い…すき…ぐしゅ」
「そんなに慌てなくても、逃げやしないから大丈夫、大丈夫」
雪風の背中をやさしく叩く。
「は、はい…」
「辛かったり、苦しかったりしたら泣いていい。
泣いて、泣いて、涙と一緒に悲しいことを押し流せ。
泣くための胸ならいつだって貸してあげるから」
「しれぇ…うっ……ぐす…うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」
今までこらえていたものをすべて出すかのように、雪風は泣いた。
「よしよし…」
提督は未だ起きていた。
「あー、日課はサボるもんじゃねーなー。こっちの書類に判を押して、
この書類には『海軍としては陸軍の案には断固反対である』と記して、と…」
コン、コン、と控えめなドアのノックの音。
「開いてるぞ」
そっとドアが開き、雪風が入ってきた。
「しれぇ…」
その瞳は潤み、体は小刻みに震えている。
「どうした、雪風」
「怖くて…一人じゃ、眠れないです…」
「…そうか、今日は辛かったもんな…。おいで」
雪風は、提督に手招かれで近づき、そのまま体を預けるように倒れこむ。
「ぐすっ、ぐすっ…」
しばし、執務室に雪風の泣き声のみが響く。
「…落ち着いたか?」
雪風の頭をなで、提督が優しく問いかける。
「ひっく…ひっく…うん…」
雪風は力なくうなずくものの、大丈夫そうには見えない。
簡易ベッドをちらりと見る。
(二人だと少々狭いが、まぁ密着すれば大丈夫だろ)
そっと雪風を持ち上げ、ベッドのところまで運ぶ。
「ちょっと布団の中で待ってろ。寝巻きに着替えてくる」
「うん…」
雪風の体を包むように布団を掛け、提督は寝巻きに着替えることにした。
「狭いけど、我慢してくれよ」
そう言って提督は雪風のいる布団にもぐりこんだ。
「しれぇ…」
雪風は提督の体を離すまいとするようにしがみつく。
「助けてくれて…ありがとう…ござい、ます…ぐしゅ」
「気にするな。ほら、枕はお前が使え」
その言葉に、雪風はふるふると首を振る。
「枕は、しれぇが使ってください…。雪風は…こっちのほうがいいです…」
雪風はそう言うと、提督の二の腕に頭をもたせかけた。
「まったく…他のヤツ、特に青葉に見つかったら大問題だぜ?」
そう言いながらもまんざらでもない表情で、雪風の背に、枕にされてないほうの腕を回す。
「んぅ…」
雪風がわずかに身じろぎ、より強く提督に抱きつく。
「しれぇ…」
「なんだ?」
「こんな、泣き虫で我侭な雪風、嫌いですか…?」
「そんなことは無いさ。というか、皆の中では一番好きだな」
「…うっ、しれぇ…しれぇ…ゆきかぜも、しれぇが…だ、い…すき…ぐしゅ」
「そんなに慌てなくても、逃げやしないから大丈夫、大丈夫」
雪風の背中をやさしく叩く。
「は、はい…」
「辛かったり、苦しかったりしたら泣いていい。
泣いて、泣いて、涙と一緒に悲しいことを押し流せ。
泣くための胸ならいつだって貸してあげるから」
「しれぇ…うっ……ぐす…うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」
今までこらえていたものをすべて出すかのように、雪風は泣いた。
「よしよし…」
54: 2013/11/05(火) 00:41:36.40 ID:EvoRb8FRo
しばらくして。
「ぐす……ひっく……Zzz」
泣き声は収まり、いつしか寝息に変わっていった。
「泣き疲れて眠ったか…」
服の袖で雪風の涙の跡を拭う。
「しっかし、俺も駄目な提督だな」
雪風の安らかな寝顔を見ながら一人ごちる。
「こんなに慕ってくれてる子に対してつっけんどんな態度をとったり泣かしたり」
「しれぇ…すきぃ…」
雪風の寝言。
「これでまだ好きだっていえるんだからたいしたタマだよこいつぁ」
上に向き直り、目を閉じる。
「…今日は疲れたな」
皆が皆、どう思っているかはわからない。
終わりの見えない戦いだ。辛いこともあるだろう。苦しいこともあるだろう。
それでも、皆ついてくると言うのなら。
彼女らの想いに応え、導き進まねばならない。
それが自分の役割なのだから。
「ぐす……ひっく……Zzz」
泣き声は収まり、いつしか寝息に変わっていった。
「泣き疲れて眠ったか…」
服の袖で雪風の涙の跡を拭う。
「しっかし、俺も駄目な提督だな」
雪風の安らかな寝顔を見ながら一人ごちる。
「こんなに慕ってくれてる子に対してつっけんどんな態度をとったり泣かしたり」
「しれぇ…すきぃ…」
雪風の寝言。
「これでまだ好きだっていえるんだからたいしたタマだよこいつぁ」
上に向き直り、目を閉じる。
「…今日は疲れたな」
皆が皆、どう思っているかはわからない。
終わりの見えない戦いだ。辛いこともあるだろう。苦しいこともあるだろう。
それでも、皆ついてくると言うのなら。
彼女らの想いに応え、導き進まねばならない。
それが自分の役割なのだから。
55: 2013/11/05(火) 00:43:50.15 ID:EvoRb8FRo
「……もう朝「…青葉、見ちゃいました!!」
目覚めるとドアの向こうに青葉の姿。
自分の横には腕枕した状態で抱きついている雪風。
どう見ても最悪の状況です本当にありがとうございました。
「青葉ぁ…? 何故ここにいる?」
「いやですねぇ。今日は青葉を旗艦にして練度を上げる予定だったじゃないですか。サブ島攻略のために」
「あぁ、確か予定はしてた」
「で、秘書艦の仕事も兼ねて起こしにいったら、ねぇ?」
「今見たことは忘れろ」
「こんな面白いスキャンダル、青葉一人の胸のうちにしまっておくなんて出来ません!」
ドアを閉めて遁走する青葉。
「くっそ、待ちやが やべ腕しびれてる というか雪風を無理やり剥がすわけにも…はぁ」
溜息を付き、雪風の頭を撫でる。その顔は微笑みを浮かべていた。
今日も鎮守府は平和です
おわり
目覚めるとドアの向こうに青葉の姿。
自分の横には腕枕した状態で抱きついている雪風。
どう見ても最悪の状況です本当にありがとうございました。
「青葉ぁ…? 何故ここにいる?」
「いやですねぇ。今日は青葉を旗艦にして練度を上げる予定だったじゃないですか。サブ島攻略のために」
「あぁ、確か予定はしてた」
「で、秘書艦の仕事も兼ねて起こしにいったら、ねぇ?」
「今見たことは忘れろ」
「こんな面白いスキャンダル、青葉一人の胸のうちにしまっておくなんて出来ません!」
ドアを閉めて遁走する青葉。
「くっそ、待ちやが やべ腕しびれてる というか雪風を無理やり剥がすわけにも…はぁ」
溜息を付き、雪風の頭を撫でる。その顔は微笑みを浮かべていた。
今日も鎮守府は平和です
おわり
56: 2013/11/05(火) 00:48:03.36 ID:EvoRb8FRo
「描けば出る」ならぬ「書けば出る」というのは本当にあったんですね。
この話書いてからE-3で瑞鶴拾ったし!!
この話書いてからE-3で瑞鶴拾ったし!!
57: 2013/11/05(火) 07:36:48.32 ID:SEJFN/45o
引用: 【艦これ】泣き虫雪風と釣り人提督
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