149: 2013/10/12(土) 20:45:29 ID:s6Pvob0M
【天使】
僕が天使を見つけたのは、春の雨に濡れた路地でのことだった。
自分の家に食料がなくなったことに気づき、一週間ぶりに外に出かけた日の帰り道のこと。
両手に大量のカップラーメンが入ったコンビニ袋を抱え、
今日は何をして時間をつぶそうか、
明日は何をして過ごそうか、などニート特有の堕落的な考え事をしていた。
そうだ。子供のころ挫折してしまったゲームをしよう
我ながらいい暇つぶしを見つけたと感心してしまう。
そんなことをぼんやり考えていると、僕は電柱の影でモゾモゾと動く物体を発見した。
150: 2013/10/12(土) 20:46:28 ID:s6Pvob0M
ばっちりと目が合う。
長いまつ毛がピクピクと上下に動いて、その奥の瞳を遮っている。
猫ではない。少女である。
これこそ漫画に出てくるようなシュチュエイション。
普通であれば、ここで優しく手を取りハニカミながら「家の家においでよ」と囁くのが正解なのであろう。
しかも、一見アイドルのような顔立ち、いわゆる美少女である。
雨上がりなので服と髪がしっとりと濡れている。
滴る水分によって露骨に主張されたボディラインとおっOいラインが艶めかしい。
肩まで伸びた髪の毛を伝い落ちる水滴が、少女の首筋を撫でている。
僕は目を反らし、早足にその場を走り去った。
151: 2013/10/12(土) 20:48:36 ID:s6Pvob0M
ご先祖様、僕にはちょっと荷が重すぎたようです。
玄関で息を整えながら、僕は必氏に現実と向き合っていた。
一週間誰とも会話をしていなかった人間に、いや一般的常識を持ち合わせた人間が、
路上でひとりうずくまっている女性を見て気軽に声をかけられるだろうか。
この20年間、冷たい社会の風に翻弄され続けた僕にはわかる。
もし僕が路上で物欲しそうな顔をして待ち続けたとしても、誰も手を差しのばしてくれる人はいない。
そう、これは仕方のないことなのだ。普通の人間ならば、当然の反応なのだ。
152: 2013/10/12(土) 20:50:35 ID:s6Pvob0M
いや、まてよ。
この場合、一人でうずくまる女性を助けないほうが常識的に考えて駄目なのではないか。
僕の場合はそりゃ声はかからないだろう。しかし、あれは麗しき女性。
一般的紳士ならば、一言大丈夫ですかと声をかけるべきではなかったのか。
そう考えてくると、自分が最低な人間だと思えてくる。
なにもしない結果、社会不適合者の烙印を押された僕だが
おばあちゃんから言われ続けてきた「本当は優しい」という唯一の長所がなくなろうとしている。
153: 2013/10/12(土) 20:51:33 ID:s6Pvob0M
これ以上、僕から誇る部分を削り取られては堪ったものではない。
生きる粗大ゴミになってしまう。
僕は、焦りからか大量のカップ麺をなぜか冷蔵庫に押し込み、先ほどの捨て猫少女(仮)のもとへと再び走り出した。
154: 2013/10/12(土) 20:53:09 ID:s6Pvob0M
僕のアパートから捨て少女?のところまで、走って5分ほどの距離。
少女のいた場所に戻る頃、僕は彼女以上にみすぼらしい姿になっていた。
その原因は、家を出る際に間違えてサンダルを履いてしまったこと、
そのせいで水たまりに2回転んだこと、
走っている途中から雨が降り出したこと、
その他体力的理由である。
「……」
捨て少女は隣に置いてあった段ボールをうまく使い、傘の代わりにしている。
途中から走れなくなった僕は、ずっと雨の中歩いていたため息は整っていた。
これで息が上がっていたら、興奮しながら少女に滲みよる気味の悪い不審者に思われたであろう。
155: 2013/10/12(土) 20:54:06 ID:s6Pvob0M
さて、どうしたものか。
生まれてこの方、女性に話しかけたことがない。
正確にはあるのかもしれないが、少なからず記憶には残っていないので、ないと言って構わないだろう。
草食系ならぬ断食系男子である。いや、意味が分からない。
というか、なんて声をかけるのが正解なのだろう。
156: 2013/10/12(土) 20:55:57 ID:s6Pvob0M
「うち来る?」という昼番組みたいなノリで行けばいいのだろうか。
そもそも僕の家はゴミと無残に捨てられたティッシュの山で溢れかえっているので家に呼ぶのは無理だ。
それとも、紳士的に「大丈夫ですか?」だろうか。
どちらかというと僕のほうが大丈夫ではない状況なので説得力がない。
もう本当に誰か僕を助けてくれ!!
少女がこちらをジ口リとみる。やばい、これは不審者を見る目だ。
何とかして一言声をかけなければいけない。
157: 2013/10/12(土) 20:56:27 ID:s6Pvob0M
僕は人生の大半をゲームとオXXーに費やしてきたことを恥じた。
もっと頑張って経験を積めばよかったのだ。
そのとき、走馬灯のように頭の中を閃きが駆け抜けた。
紳士的かつ、丁寧な一言。
158: 2013/10/12(土) 20:57:40 ID:s6Pvob0M
「きゃ、きゃんないへるぷゅー?」
それ中学生時代、英語の時間に隣の席と会話練習をする際、用いられる一言である。
僕が中学生の頃、緊張のあまりこの英文を叫び、唾を大量に顔にかけ、練習相手だった隣の席の女の子を泣かせてしまったことがある。
以後、なぜか隣の席の人は後ろの席の人と練習をし、僕は先生と練習をした。
159: 2013/10/12(土) 20:59:03 ID:s6Pvob0M
なにはともあれ、僕はなにを言っているのだろうか。
お手伝いしましょうかって何だよ、しかも英語って。
こういう時ツッコミをしてくれる友達が欲しいと何度思ったか。
僕はこのようなつまらなく、くだらないボケをひとりで考えているのである。
なんと不毛な愚行であろうか。いや、意外と楽しいから困る。
160: 2013/10/12(土) 21:00:04 ID:s6Pvob0M
少女がきょとんとした顔でこちらを見てくる。
段ボールを頭の上に載せて、ちょこんと座り、こちらを上目で見ている。
(畜生!不覚にも萌えてしまう!!)
僕は、今までの人生を悔いた。
というかさっきの一言を悔いた。
大人しく家に閉じこもってオXXーでもしていればよかったのだ。
普段と違うことをするということは、それなりの傷を受ける覚悟をしなければいけないということだったのだ。
161: 2013/10/12(土) 21:00:45 ID:s6Pvob0M
僕は、恥ずかしさと罪悪感から逃げるため帰り道へと向きを変えた。
雨で濡れて汗と涙が目立たなかったのが不幸中の幸いである。
さらば少女。こんな情けない屑ではなく、爽やかなサラリーマンに助けを求めてくれ。
僕の小指ほどしかない優しさは雨と一緒に下水道へと流されていった気がしたが、あえて流しておくことにする。
162: 2013/10/12(土) 21:01:21 ID:s6Pvob0M
少女があっと声をだし、救いとも呼べる声を発した。
「な、なんで英語やねーん…」
不覚。
背中越しに受けるツッコミに僕は震撼した。
なぜだか僕は溢れる涙をこらえきれなかった。この少女はきっと天使であろう。
僕は振り返り叫ぶ。
「なんで関西弁なんだよ!!」
【おしまい】
163: 2013/10/12(土) 21:05:27 ID:s6Pvob0M
さむいギャグでも、書ききるのが大事だとおもうのです。
みなさんが書いたもの、もっと見たいです
みなさんが書いたもの、もっと見たいです
引用: ショートショート深夜VIP



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