魔女「……んー？……ああお前か。すまないが見ての通り今は忙しい。後で頭を撫でてやるから今は大人しくしておけ。」

魔女「チッ……なんなんだ、喧しいやつだな。忙しいと言ってるのが分からないのか、まったく…。…………で、どうした？」

魔女「はあ？別にするつもりなんてないぞ、お前を強くなんて。……なにを今さら驚いた顔をしているんだ。初めに言ったはずなんだがな。」

魔女「いいか？お前は私の弟子などでは決してない。ゆえに、お前を鍛えるつもりなど毛頭ない。つまり、お前のためにあれこれしてやる義理など私にはないということだ。」

魔女「たしかにあのときお前の命を拾ってはやったが、それは弟子なんてものが欲しくてしたわけじゃない。言うなれば、そうだな……」

魔女「……まあ、“玩具”というのが一番適切な表現かもしれん。長い人生のうちの、ほんの些細な遊びだよ。フフフッ…。」

魔女「ああ、お前は本当に面白い玩具だよ。見ていて飽きない。魔法の才能がないくせに根拠の無い自信を持ったり、私との上下関係などとうに分かりきってるはずなのに噛み付いてきたり…。」

魔女「まるで駄犬を飼っているようだよ。キャンキャンうるさく吠えまわって、飼い主を困らせる馬鹿犬……フフフ、馬鹿犬か……なんとも適当な表現するじゃないか。クククッ♪」

魔女「さあ馬鹿犬。ご主人様は今とても忙しいんだ。だから少しのあいだ、あっちで一人で遊んでいてくれるかな？裏庭にあるものなら好きに使ってくれていいから。」

魔女「まさか……これしきのことすら聞き入れられないような冗談じゃすまないほどの馬鹿犬では……ないよね？」

魔女「……フフッ、よしよしいい子だ。あとでたくさん、遊んでやるからな……よしよし、フフフッ…！」

魔女「遅い。たかだかパンを買ってくるだけなのにどれだけかかっているんだ。フン、これでは小間使いすら失格だな。」

魔女「……で、なにかあったか？まさか道で転んで泣きはらすほどガキでもあるまい。それに……心なしか、顔がほころんでいるようだが？」

魔女「……ほう？パン屋の娘と。ふふん、なかなかやるじゃないか坊や。てっきり性根と一緒にシモの部分まで腐っていると思っていたが。」

魔女「だが、そんなお前の勝手な都合で私の用事を蔑ろにしたのはなかなか度し難い。覚悟は出来ているか？」

魔女「フン、なにを言うか。お前が鼻の下を伸ばして娘とデレデレしていたあいだ、私は腹を空かせてお前の帰りを待っていたんだぞ？……まあ、お前というよりパンを、だが。」

魔女「つまり、お前はひもじい思いをしている可憐で淑やかな私のことよりも、己の醜い欲望を優先したわけだ。これは当然、何らかの罰が下されなければならん。」

魔女「なぁに心配はいらん。今日のところはごくごく微々たるお前の甲斐性に免じて、下級氷魔法で許してやる。こいつで少しは頭を冷やすんだな。……ふッ！」

魔女「フフッ、因果応報だ。この世の理は万物の流転。良き行いのあとには良い施しを受けるが、逆もまた然りということだ。」

魔女「少しは反省するんだな、坊や。ふんっ。」

魔女「……やっとまともにセンテンスを唱えられるようになったと思ったら、これか…。…………はぁ。」

魔女「……だが、フフッ。まあ、童Ｏの坊やにはこの程度が想像力の限界なのか。いや、悲しいものだね。」

魔女「しかし、それを世話になった者に対してというのはいかがなものかな？……もしかして、普段から私のことをそんなふしだらな目で…？」

魔女「…………まあ、いずれにせよ。罰は与えなくてはね。……ねぇ？」



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