102: 2014/08/15(金) 20:04:56.89 ID:Lw8rjO6Lo


前回:泣き虫雪風と釣り人提督【その12】
最初から:泣き虫雪風と釣り人提督

提督「あれが敵の泊地か……」

隼鷹「ダッチハーバーのあったあたりかな」

提督「んじゃ艦隊編成変更、山城アウト、木曾イン」


ぷかぷか丸、甲板

山城「なんか編成外された……不幸だわ……」

提督「いや編成が重いとと羅針盤狂うからさぁ……おっ、通信がはいった」

木曾『あー、敵艦隊は沈めたけど飛鷹中破、隼鷹大破。たこ焼きが飛んできたかと思ったらこれだ』

提督「たこ焼きぃ?」

木曾『衣笠の観測機から資料が送られてくるはずだ』

提督「おっ、来た来た。……なんでこんなのが空を飛ぶのかわからないよ」

艦載機と思しき浮遊物体、それは牙の生えた白いたこ焼き(爆弾付き)としか言いようのないものだった


ネオアリューシャン凍結 ウェルカム・トゥ・ザ・ノースポイント #2


提督「というわけで、レーベとマックスを連れてきた」

レーベ「艦隊決戦かぁ……よし、やるぞ!」

提督「通商破壊でも艦隊決戦でもないぞ!! 泊地の撃滅だ! 一大作戦だぜ!!」

マックス「ふぅん……そう」

提督「ちったぁ興味を持ってくれよ大事な作戦なんだから」


提督「今回、戦艦及び正規空母を投入できない都合上、明らかに火力不足だ。そこで……」

夕立「夕立たちの出番っぽい?」

提督「道中、何食わぬ顔して支援したってくれ。他には時雨とちとちよをつける」

夕立「了解っぽい!」
海の画集 -「艦これ」公式イラスト集-
103: 2014/08/15(金) 20:07:17.74 ID:Lw8rjO6Lo
提督「ここ、フラ軽空か潜水艦隊の二択なんだよなぁ……」

衣笠『意見具申、その場合は輪形陣で対応しましょ』

提督「よし、各位輪形陣をとれ!」

レーベ『敵潜水艦隊、発見しました!』

提督「あまり構うな、魚雷に直撃しなけりゃいい」


夕立「支援攻撃するっぽい?」ダダダダダダ

miss
miss
miss
miss

提督「潜水艦相手に何やってんですかお前ら」

~~~~~~

北方棲姫「ゼロ…置いてけ……」

提督「ゼロってゼロ戦か? ゼロ戦どころか紫電改二すら持ってきてないし」

北方棲姫「……(図鑑ペラペラ)烈風置いてけ……」

提督「いやわざわざ調べんでも」

~~~~~~

提督「さてと、あと一回かな」

艦娘戦闘中……


那智「……まだ動いてるな」

提督「仕留め損ねたか。まぁいい。もう一回やるまでだ」


艦娘戦闘中……すること十数回……


北方棲姫「……帰れ!! しつこい!!」

提督「俺だって帰りたいんだよさっさとおっ氏ね!!」

このあと衣笠さんがキメてくれました

104: 2014/08/15(金) 20:09:04.26 ID:Lw8rjO6Lo
―― ??? ――

??「もうすぐ故郷に戻れるんだ…」

??「久しぶりに昔の服を着てみたけど…なんだか懐かしい気持ち」

??「…皆は、もういないけど…」

??「帰ったらお参りに行こうかな」

??「私は立派に成長しました、って」

??「今はもう引退した身だけど…」

??「―姉様がいたら褒めてもらえるかな…?」

??「……え、何、嵐…!? 早く帰らな…きゃ…あっ、嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」

105: 2014/08/15(金) 20:09:50.44 ID:Lw8rjO6Lo
次回予告!!

「いよいよMI作戦ですね!!」
「期待してるところ悪いが、今回メンツから外す」
「えっ」

外される者!!

「私の艤装が届きました。MI作戦はお任せください」
「いや練度ないだろお前」

自らを過剰にアッピルする者!!

「ノコノコとまた来たのか……」
「初めてなんだが」
「私にとっては……初めてじゃない」

初めてじゃない宣言をする者!!!

「ここは……あの世?」
「ここが氏人の世界に見えるのか?」

そして……

北太平洋殺伐海域 デス・フロム・アバヴ・ミッドウェイ #1

「大丈夫か心配になってきた。ネタ的に」
「海域攻略の心配しましょうよ!?」

112: 2014/08/18(月) 22:44:38.48 ID:CW5QJHHlo
―― インターミッション・2 二人のユキカゼ ――

世界が長く続けば、こういうこともある。

そう思えば、何があっても驚かない。

大事なことは、それを許容できるかどうかである。

113: 2014/08/18(月) 22:45:51.43 ID:CW5QJHHlo
「ご注文は震電改ですか? イヤーッ!!」「ンアーッ!?」「ご注文は震電改ですか? イヤーッ!!」「ンアーッ!?」

アリューシャン列島、ダッチハーバーの急造泊地。提督一行はここを拠点とする北方棲姫を撃破し、AL作戦を成功させた。

「いい加減そのへんにしてあげたら? さすがに可哀想になってきたよ」

北方棲姫のマウントをとって殴り続けていた提督を隼鷹がとめる。

「こいつなんか戦闘機持ってただろ? 殴れば震電改が出るんじゃないか?」

「悪いけどそれ、ゼロ戦だよ。しっかし、アクタン・ゼロまで再現するとかホント、過去の怨霊かもしれないねぇ」

そう言って隼鷹は徳利から酒を注いでグイ、と呷る。

「まぁ敵の正体はどうでもいいんだ。震電改くれれば。で、住民受け入れの準備は整ったのか?」

「そうそう、それを伝えに来たんだ。受け入れや移送の警護準備も整ったよ。飛鷹のおかげで」

「お前も働けよ。まぁよし、ここらの安全確保は頼んだぞ。俺は支援艦隊とともに鎮守府に戻ってMI作戦だ」

「いよいよかぁ。勝算は?」

「あるかどうかじゃない。勝つ。それだけだ」

「言うねぇ」

114: 2014/08/18(月) 22:49:03.26 ID:CW5QJHHlo
ぷかぷか丸、作戦室。

決戦の支援艦隊には大和が来ていた。北方棲姫撃滅のために、演習で調子の上がっていた大和を呼びつけたのだ。

他にも、雪風、加賀、飛龍、霧島、島風が来ている。海を駆けるのが好きな島風を除いて、甲板や室内で思い思いに休憩している。

分厚い作戦資料を読んでいる提督に、大和が声をかける。

「提督、AL作戦成功おめでとうございます」

「大したこたぁない、といいたいところだが割と苦戦したからな。ありがとな。つーかやったのは衣笠たちだろう」

「彼女たちには出港前にねぎらいましたから。いよいよMI作戦ですね」

「ミッドウェーか……。本来なら大和と武蔵を前線に出して温存がクソだということを証明したかったがな……」

顔を顰めながら提督は作戦資料の横の小冊子を開く。

「がら空きにすれば攻めてくる、といったがどのくらい有り得るか説を補強したくてな。東急遠征の子らにちょっと偵察を頼んでたんだ」

「これが、その資料ですか」

資料内容には、MIから南西方面に、夜闇にまぎれて移動するワ級の船団の姿や海路などが記されていた。

「ここらへんは拠点が築きにくく、抑え切れてない海域だ。遠回りしてまで撮った長良たちには感謝しないとな」

「つまり、来るんですね?」

大和の問いかけに頷く提督。

「あぁ、ほぼ確実にな。それも、大量に資材を必要とする……すなわち、奴らの真の主力が、だ」

115: 2014/08/18(月) 22:50:57.99 ID:CW5QJHHlo
ジリリリリン。ジリリリリン。

黒電話式の通信機が鳴り響く。見た目黒電話なのは提督の趣味である。受話器をとり、通信をつなぐ。

『おぅっ』

「島風か。敵の潜水艦でも発見したか?」

『ちっがーう、じゃなくて。なんか女の子が浮いてるの』

「はい? この夏でも寒い北海に?」

『うん。ちょっと引き上げてみたけど、意識を失ってるみたい』

「他には?」

『何か私たちの艤装みたいなのつけてる』

「それで浮いてたって? ……その子連れてこっちまで戻って来い。全速力でだ」

『おぅっ!』

提督は受話器を放り投げた。チン、という音とともに受話器が元の位置に納まり通信が途切れる。

「大和、布団と暖房の準備。あと念のため艤装修理装置の起動。俺は救命準備を整えてくる」

「了解しました」

~~~~~~

甲板に出る頃には既に島風は戻っており、雪風が少女の背中を押して水を吐かせていた。

「全く早いもんだ。容態はどうだ?」

「水は大体吐かせました。意識は……ちょっと呻いてまた失っちゃいました」

「担架で運んだほうがいいだろうな」

ちら、と島風のほうに目をやると、少女の艤装と思しき物を立てかけていた。

「それはあとで簡易ドックに運んでおこう。艦娘のと一緒かどうかはわからんが妖精さんがナントカするだろ」

棒と布で即席の担架を作り、三人で少女を部屋まで運ぶ。

「服の着替えは……俺が脱がすわけにもいかんし、雪風頼む。サイズ的に駆逐艦娘の寝巻きで大丈夫だろ」

116: 2014/08/18(月) 22:52:48.13 ID:CW5QJHHlo
少女を布団に押し込みしばらくして。

「まったく、何者なんだ? 大本営から渡された資料に載ってる艦娘については、少なくとも見た目は全部把握しているがその誰とも違う」

一人ごちる提督。

「でも、なんだか雪風と同じ匂い……というか雰囲気がします」

「そうかぁ? 確かにあの艤装、陽炎型っぽいところがあったが」

「う、うぅ~ん……」

「あ、目を覚ましそうです、しれぇ!」

布団の中の少女が身じろぎし、目を覚ます。きょときょと見回し、口を開く。

「ここは……あの世?」

「ここが氏人の世界に見えるのか?」

「嵐に巻き込まれてさすがに氏んだかなー、と思って」

てへへ、と少女は笑う。

「まぁ危うく氏に掛けてたが」

はた、と何か気づいたような顔をする。

「……あれ、言葉が通じてる? 大東日の人?」

「大東日? 知らんな」

「えっ? じゃあ、ここは?」

「北方海域だよ。アリューシャンあたりから戻るとこだ。雪風、ちょっと地図をとってきてくれ」

「はい、しれぇ」

雪風が返事をして部屋を出る一方で、少女がびっくりしたような顔をしていた。

「ん、どうした? 雪風の名に何か心当たりでも?」

「心当たりというか、その……」

「ほれ、言ってみろ」

言葉を濁す少女にその先を促す。

「私の名前、いまは丹陽って言うんですが…」

今度は提督が目を丸くする番である。その言葉を引き継ぐように、

「元は雪風という名前でした、というんだろ?」

「は、はい。そうです!」

「……これはいったいどういうことだ……?」

117: 2014/08/18(月) 22:54:52.83 ID:CW5QJHHlo
あごを掻きながら思案しているところに、雪風が戻ってきた。

「しれぇ、地図をお持ちしました!」

「さんきゅ。おらよっと」

近くのテーブルの上に地図を広げ、北海の一点にピンを立てる。

「我々は今ここらを航海中だ。お前はどこら辺にいた?」

丹陽と名乗る少女にピンを渡す。少し思案した後、台湾近海にピンを立てる。

「この近くで航行してたんだけど、嵐に巻き込まれて……」

「……ちょっと待て」

「?」

「それが起きたのは、何年だ?」

「? 今何年かって事ですよね?」

少し間を置き、丹陽と提督が同時に口を開く。

「「1969年」」

しばしの沈黙。最初に口を開いたのは丹陽だった。

「な、何で訊いたんです?」

「今はとっくのとうに21世紀だからだよ」

「えっ!? 私、タイムスリップしちゃったんですか!?」

「時間軸だけならいいんだがな……。さっき大東日とか言ったか? この地図を見て心当たりのある国名はあるか?」

そう言われて丹陽は地図に目を通す。巻かれて見えていなかった西欧の部分も広げて確認していた。

「……ありません」

「だろうな。時間軸どころか空間もすっ飛ばされてるぞ。多分」

その言葉に目に見えて動揺する丹陽。

「ど、ど、ど、どうしよう!? 戻れないの!?」

「俺は知らん。あきらめろ。……と言いたい所だが一つだけ心当たりがある。とりあえず鎮守府に戻ってからだな」

~~~~~

「そうだ、自己紹介がまだだったな。俺はここの鎮守府の提督だ。まぁ司令とかなんとかいろいろ呼ばれてるが提督でいいや」

地図の鎮守府のあたりを指差しながら語る。

「で、このちっこいのが雪風だ。そりゃ同じ雰囲気するわな。世界線が違えど同じ雪風なんだから」

びし、と敬礼をしていた雪風が目を丸くする。

「え、この子も雪風なんですか、しれぇ?」

「どうもそのようだ。が、両方雪風だと頭がおかしくなって氏ぬので彼女は丹陽と呼ぼう」

「丹陽ちゃん、よろしくです」

「よろしくね、雪風」

そう言って二人は握手した。

122: 2014/08/19(火) 22:28:40.12 ID:Io7vssReo
その後、現在の世界情勢と艦娘について話し、大和たちに丹陽を紹介した。

「この方がこの世界の大和さん……」

丹陽は目を輝かせている。何か思うことがあるのだろう。

飛龍と顔を合わせたときは泣き出した。曰く、自分たちの師であり、ミッドウェーで雷撃処分を行ったとのこと。

「たしか介錯したのは巻雲だったはずだよな?」

「えぇ……その筈ですが」

「世界線が変わると細かい点も変わるのかねぇ」


程なくして、鎮守府に帰還。埠頭には大淀がフル艤装装備で待っていた。

「AL作戦成功、おめでとうございます。大本営から私の艤装が届きました。MI作戦はお任せください」

「いや練度ないだろお前」

「ふふ、このカタログスペックを見ても同じことが言えますか?」

自信満々に言う大淀から資料を受け取る。

「雷装低いな?」

「まぁもともと積んではいませんでしたから。それより改造後のスペックですよ」

「んん、搭載機数12の……4スロ!?」

「はい、今ならおまけに司令部施設までついてきます」

「ぐぬぬ、育てるしかないというのか……?」

123: 2014/08/19(火) 22:30:58.62 ID:Io7vssReo


太平洋殺伐海域 デス・フロム・アバヴ・ミッドウェイ #1


鎮守府、埠頭。アリューシャンに出向している艦娘を除き、全員集まっている。

「こんなにたくさん……ミッドウェー前みたい」

「そうだ。ミッドウェーだ」

丹陽の呟きに提督が首肯する。

「え、でも、ミッドウェーって……」

「そう、そこでの大敗が元になって戦況は一気に悪化したといわれている。まぁ勝った所でどっかで躓いてただろうという話もあるが」

だが、と提督は言葉を続ける。

「昔は昔、今は今だ。敗北した理由と原因を一つ一つ潰して行けば残るのは勝利のみ。ましてや練度も装備も違う」


提督は埠頭前に積んだドラム缶の上に載る。

「気をつけぇーい!! 休め。えー、これよりMI作戦のために連合艦隊を結成する。呼ばれた艦娘は前に出ること」

「いよいよMI作戦ですね……!!」

赤城が一番気合が入っている。だが悲しいかな。

「第一艦隊旗艦、比叡。随伴艦は金剛、利根、加賀、青龍、飛龍。第二艦隊旗艦、大淀、随伴艦は雪風、島風、ヴェールヌイ、摩耶、筑摩」

「!? なんで!? 私抜きナンデ!?」

赤城が思わず叫び声をあげる。

「赤城が入っていない理由だが……どうも空母3+αでルートを固定できるらしくてな。すまんな。後の作戦に出撃できると思うからそれまで我慢してくれ」

「うう……ぐすん」

しょぼくれる赤城。

「というわけで装備と心身整えておけぃ!! 解散!」

124: 2014/08/19(火) 22:39:11.51 ID:Io7vssReo
「そういえば旗艦は大和さんじゃないんですか?」

「確かに連合艦隊総旗艦にふさわしい風格と強さはあるんだが……こっちでやることが残ってるからな」

「???」

頭に疑問符を浮かべる丹陽。

「さて、次はお前についてだが猫吊るしは」

「不可能を可能にするこの猫吊るしにお任せあれ」

「うひゃ!?」

猫吊るしと呟いた瞬間どこからともなく白い猫を持つ少女が湧いてきた。

「客人が驚いてるではないかこのファッk……猫吊るし」

「なるほどなるほど要するにこの子が異世界から来たから元に戻す手はないかということですね」

「まだ何も言ってないがあってる」

相変わらずどこで情報を得たかわからないレベルで話が早い。

「この七つの海を統べるアンリ・マユと呼ばれたこの私にまっかせなさーい! 開発妖精ちょっと借りるね」

「アンリ・マユは確かゾロアスターかなんかの破壊神の名前だったと思うがどこのダークドメ」

突っ込みを入れたときには猫吊るしは既に去ったあとだった。

「……えーと、今の人は?」

「……俺にもよくわかってないが何かとにかくすごい。向こうは事情把握してるみたいだし、信じるしかない」

「それより呼びかけるとき何か言いかけたような」

「忘れなさい」

125: 2014/08/19(火) 22:42:32.46 ID:Io7vssReo
鎮守府、工廠。

先ほど呼ばれた艦娘が集まって装備の換装を行っている。

「ここで艦娘達の砲や艦載機を積むわけだ」

「ほへ~……。ゼロ戦とか九九艦爆とか積むわけですね!」

その丹陽の言葉を打ち消すように提督は手を振る。

「甘い甘い。その程度ではこの先生きのこれない」

「じゃあ彗星とか……天山とか?」

「半分正解だな」

問答しながら三人の空母に近づく。

「あら、提督。その子が飛龍が話してた子ね。確かに、どことなく似た感じがするわ」

「よろしくねっ!」

「こ、こんにちはっ!」

初対面の加賀・蒼龍と挨拶を交わす。

「そうそう、AL出征組みに貸与していた艦載機返すぞ」

提督は懐から三機の艦載機を取り出す。

「蒼龍の江草彗星、飛龍の友永天山、そして加賀には現状最高の艦戦、烈風改」

「確かに受け取りました」

各々艦載機を受け取り、矢に変じて格納庫に仕舞いこむ。

「艦載機が、矢になっちゃいました?」

「あいつらの発艦はすごいぞー。明日から嫌って程見られるからな」


水上艦のほうへ目を向ける。そちらも大体準備が終わったようだ。

「そっちの準備は大体出来たか?」

「あぁ、あとは水偵と電探ぐらいだ」

摩耶が返事をする。

「向こうから回収してきた夜偵と水観だ。これを使え。あと駆逐用の電探もな。おーい、雪風」

雪風を呼び、頭部の22号電探を外し、22号改四に付け替える。見た目はそう変わらないものの、性能は段違いである。

「しれぇ、ありがとうございます!」

「んじゃ今度は島風だな」

「おうっ」

島風に33号電探を取り付けてると、丹陽が声をかけてきた。

「こっちの世界の私…雪風は活躍してるのかな?」

「そりゃなぁ? 一大決戦の最前線に出して恥じぬレベルだし。な、雪風?」

「もちろんです! 明日はいいとこ見せちゃいます!」

126: 2014/08/19(火) 22:46:11.74 ID:Io7vssReo
翌朝!! 北太平洋!! ミッドウェー付近!!

「まさか空母型のぷかぷか丸を作ってあったとはな……」

猫吊るしがいつの間にか用意した連合艦隊用母艦、ぷかぷか丸改二。

二艦隊が存分に休めるよう部屋の数も倍以上に拡張されている。

『司令! これより敵領海内に入ります!! 出撃命令を!』

比叡からの通信。全員準備は万全である。

「おーけい。連合艦隊、出撃せよ!!」

『気合! 入れて!! 行きます!!!』

「敵機動部隊は輪形陣にて凌げ。目標は敵主力空母、発見し次第戦闘隊形をとり、撃滅せよ!」


「おっ、敵機動部隊と交戦するぞ」

「あれが深海棲艦……」

ヲ級が艦載機を飛ばしてくる。アリューシャンで見かけた新型だ。

「な、何あの白いの!?」

「連中の新型艦載機だ。今までのとは比べモンにならん。だが……」

時を同じくして、加賀たちが矢を放つ。一の矢、二の矢、三の矢。

放たれた矢は艦載機に変じ、敵艦載機を撃ち落していく。

「まだ、制空権を奪われるほどではない」

容赦ない爆撃に随伴艦を次々と沈められ、敵艦隊はすごすごと撤退していく。

『第一、第二艦隊とも損傷軽微。まだいけます!』

「よし、敵主力はミッドウェー近辺にいるはずだ。索敵を怠るな」

『こちら加賀、敵主力をミッドウェー北にて発見』

「……ミッドウェーの近くを通ることになるな。島からの艦載機を警戒せよ!」

『了解』

127: 2014/08/19(火) 22:50:47.48 ID:Io7vssReo
ミッドウェー島付近

「あれが、ミッドウェー……」

甲板で島を見ていた丹陽が震えながら声を絞り出す。

島周辺は紅くて昏いオーラが漂っている。強力な深海棲艦が居る証拠である。

慣れていない者にとってはそれだけで畏れを抱き、最終的に発狂するとまで言われている。

確たる証拠はないものの、戦争の傷痕が具体的な形を成し人類に牙を剥いている、といわれる所以である。

『……ミッドウェーのほうから通信が入っています! つなぎますか?』

「よし、比叡。繋げ」

ザザッ、という雑音のあと、幽鬼の如き女性の声が通信機から響いてきた。

『ノコノコと、また来たのか……』

「俺はここらへん来るのは初めてなんだが」

『私にとっては……初めてじゃない。そして、あいつ等も……』

「加賀たちのことか」

『……? 一隻、足りないようだな……?』

「奥の手は最後までとっておくもんだ」

『出し惜しみして慢心して……沈め』

その言葉を最後に通信が途切れる。

「敵艦載機、来るぞ! 構いすぎるな!」

128: 2014/08/19(火) 22:52:33.73 ID:Io7vssReo
『何とか凌ぎきりました。まだ新型艦載機は全艦には配備されてないようですね』

「だが敵主力には配備されているだろう。気を抜くなよ」

『こちら飛龍、敵主力確認しました! 現在接近中!』

「おーし、全艦、戦闘隊形を取れ!!」

敵主力に近づく。敵の輪形陣中央に、空母型艤装の上に乗っている、女性の姿があった。

「こいつが、空母棲鬼……!!」

「空気がぴりぴりしてる……」

飛び交う艦載機。投下される爆弾や魚雷。だが互いに致命打に至ることはない。

『航空優勢です。あの艦載機量はさすがの鬼クラスですね』

淡々と通信を送る加賀。

大淀率いる第二艦隊が砲撃と魚雷で露払いを行い、比叡たち第一艦隊にて半壊した艦隊に止めを刺す。わかりやすい戦術である。

『気合! 入れて! 行きます!!』『全砲門……Fire!!』

金剛姉妹の砲撃が敵空母や戦艦を次々と打ち抜く。

「金剛型って……35.6cmだったような……小さくなってるとはいえあの威力って……」

感嘆のため息を漏らす丹陽。

「まぁ大和の46cm砲積んであるからな」

「えっ」

「さすがに本人ほどの火力は出ないがそこらの戦艦くらいなら持ってけるからな。だが……」

海の向こうを見やる。空母棲鬼は次々と艦載機からの爆弾や艦砲射撃を浴びているが、案外けろりとしている。

「嘘でしょ……?」

「鬼や姫クラスは、バカみたいに固いんだよ。こんなもんに背後から襲われたら速攻全滅だ」

「あんなの、どうやって倒すの?」

「闇夜に乗じた、至近からの砲雷撃戦」

丹陽への疑問に答えると同時に、空が夜の帳に包まれる。

「な、何!? さっきまでお日様出てたよね!?」

「連中の煙幕みたいなもんだ」

慌てることなく提督は通信機を取る。

「第二艦隊、旗艦大淀および各艦に告ぐ。敵を追撃し、確実に止めを刺せ」

『了解しました』

通信終了と同時に摩耶から夜偵が飛ぶ。逃げる鬼を六隻が確実に追い詰めていく。もはや鬼の逆転した鬼ごっこ。

「何度でも、沈んで、いきなさい……!」

空母棲鬼は悪あがきとばかりに残りの艦載機を飛ばすが、水柱を上げるのみ。

「沈むわけには!」

雪風の10cm高角砲が火を吹く。

「行きません!!」

返す刀でもう一撃。

バイタルパートを撃ち抜かれた空母棲鬼は大爆発を起こし、深い海の底へと沈んでいった。

129: 2014/08/19(火) 22:54:10.61 ID:Io7vssReo
次回予告!!

「今度こそ私の出番ですね!!」
「旗艦はあきつ丸だ。やっぱり出番はないぞ」
「あっ、あっ、あっ」
「……へっ!? 自分でありますか!?」

陸軍に出番を奪われる艦娘!!

「島風、雪風をつれて戻るんだ!」
「おうっ!」

「あれ、提督? ミッドウェーは?」
「羅針盤に邪魔された」

無慈悲な羅針盤!!

「この日のためにカタパルトを修理したのじゃ!」
「でもそれ三式弾だよね」

陸上特効!!

北太平洋殺伐海域 デス・フロム・アバヴ・ミッドウェイ #2 ~ライズ・オブ・ミッドウェイ・プリンセス~

「あれ、あきつ丸MVP?」
「第二艦隊が活躍すると第一艦隊は自動的に旗艦MVPになる仕様であります」
「わけがわからないよ」

134: 2014/08/20(水) 22:44:40.73 ID:bpKRnVxWo
鎮守府、埠頭。

「敵主力空母は我が連合艦隊の働きにより撃滅した。これで心置きなくミッドウェーを攻め落とせる。そこで、面子を入れ替える」

「今度こそ私の出番ですね!!」

期待を胸に拳を握る赤城。しかし……

「摩耶と入れ替えであきつ丸。ちなみに第一艦隊旗艦」

「……へっ、自分でありますか!?」

思っても見ない展開に驚くあきつ丸。

「あっ、あっ、あっ……」

その横で赤城は瀕氏!!

「この作戦は強襲揚陸が必要になる作戦だからな」

「……本当の理由は何でありますか?」

ちらり、と倒れた赤城に目をやった後あきつ丸が核心を問うた。

「最初の羅針盤固定」

「羅針盤は強敵であります……」

納得してうなずくあきつ丸。

「一航戦の誇り、こんなところで失うわけには……」

その横で赤城は瀕氏!!

135: 2014/08/20(水) 22:48:24.65 ID:bpKRnVxWo


北太平洋殺伐海域 デス・フロム・アバヴ・ミッドウェイ #2 ~ライズ・オブ・ミッドウェイ・プリンセス~


ミッドウェー近海、ぷかぷか丸改二。

「さて、やるべきことは簡単だ。島まで近づいたのち随伴の要塞などを掃討し、ありったけの三式弾をあのウィキペディア姫にぶち込む。それだけだ。総員、出撃!」

12名の精鋭が次々と海に飛び出す。

「ま、何とかなるだろ」

丹陽が提督の背中をつつく。

「あの……」

「ん、なんだ?」

「そういえば、何で私も付いていってるんでしょう?」

当然の疑問である。

「この作戦、誰もが知ってるとはいえ軍機聞いた者をほったらかすほどうちのセキュリティ体制甘くないよ?」

「えっ」

「悲しいけど、これ戦争なのよね。向こうへの外交ルートないから開戦するとかの手続きとってないけど」

鎮守府は一応軍組織の一部ということにはなっている。裁量権は割と広いが。

「というわけで軍機を知ってしまった貴方には目の届くところにいてもらったほうが都合が良いのだ」

「ええ……」

「勝手にうろついて深海棲艦に撃ち殺された、とか洒落にならないしねぇ。ま、艦内施設使い放題だしゆっくりしていってね!」

136: 2014/08/20(水) 22:49:07.72 ID:bpKRnVxWo
あきつ丸から通信が入る。

『敵潜水艦を発見! であります!』

「対潜陣形だな」

『了解であります! 各位、対潜陣形用意!』

「あいつも板についてきてるなぁ……」

通信機を下ろし、遠眼鏡で敵艦隊を見る。

「んん? 金色の……ソ級!? もう完成していたのかフラソ! あっ雪風危ない」

程なくして通信機が鳴る。

『雪風殿が大破したであります! 随伴艦をつけての帰投、意見具申するであります!』

「駆逐は他にヴェルと島風だったな。島風は無事か?」

『問題ないようであります』

「じゃあ島風、雪風をつれて戻るんだ!」

『おうっ!』

~~~~~

「じれ゙ぇ゙、ごべん゙な゙ざい゙……」

島風に肩を借りて戻ってきた雪風は開口一番、泣きながら謝った。

「いや、謝ることはない。無事でよかった」

小柄な体をぎゅう、と抱きしめる。

「まずはドック入って休憩だ。島風、調子はどうだ?」

「傷とかは全然平気だけど、疲れたぁ……」

「弾と燃料補充したらしばらく体やすめとけ。相手はミッドウェーだ。そう簡単に攻略できるモンでもない」

「はーい……」

ふらふらと自室に戻る島風。

137: 2014/08/20(水) 22:50:49.61 ID:bpKRnVxWo
「激戦ね……」

呟く丹陽。

「雪風は被弾のほとんどない幸運艦として有名だが深海棲艦はそんなこと知ったこっちゃないとばかりに当ててくるからな……」

「私もほとんど当たった覚えないけど……」

「もし海に出ようものなら連中は遠慮なく当ててくるだろうな。

 オカルト方面の話になるが、占いや風水の見地から深海棲艦を調べたとか言う資料があって、強力な深海棲艦は運がいいらしい。豪運すらひっくり返すほどにな」

「へぇ……」

「まぁそれでも俺達は勝ってるし、どこまで信じていいものやら」

肩をすくめて話を切った所で通信機が再び鳴る。

「敵艦隊に遭遇したか?」

『海流に流されてミッドウェーの北東沖まで出てしまったであります。敵機動部隊が手ぐすね引いて待っているであります』

「……そいつら捌いて撤退せよ」

チン、と受話器を下ろす。

「皆が帰投したら俺も休もう……」


自室に戻るために廊下を歩いていると島風と遭遇した。

「あれ、提督? ミッドウェーは?」

「羅針盤に邪魔された」

「おうっ……」

138: 2014/08/20(水) 22:52:31.89 ID:bpKRnVxWo
休憩してしばし後。艦隊は防衛ラインを突破し、島の目の前までたどり着いた。

「誘爆して……沈んでいけ……」

「よーし、その言葉、熨斗つけて返してやろう!! 全艦隊、突撃ぃ!!」

「この日のためにカタパルトを修理したのじゃ!」

自信満々の利根。

「でもそれ三式弾だよね」

「着弾観測に使うのじゃ……、ん、あれ、晴嵐からの通信が聞き取りづらいぞ?」

「おいぃ!?」


「さて、あきつ丸は暇してないかn……あれ」

第一艦隊の旗艦のいるべき位置に彼女の姿はなかった。

戦場を見回すと、中間棲姫の懐までもぐりこみ、姫本体に向かってシャベルを振り下ろしていた!!

「えいっ、やぁっ、こなくそっであります!!」

意外と効いている様だ。

「Hey!! 三式弾いくよ! あきつ丸、離れてクダサーイ!」

ヒット・アンド・アウェイによる容赦ない攻撃が続く。

「変わらない……限り……!!」

「悪いが、俺らは変わったんでね。昔の怨み持って愚痴愚痴言い続けるお前らに勝ち目など、ない!!」

利根の三式弾が、中間棲姫の艤装と身体を焼き尽くす。

「そんな……私が……堕ちると、言うの…?」

その一言が、中間棲姫の最期の言葉であった。

~~~~~~

同時刻鎮守府、一航戦の部屋

「!!」

ふて寝をしていた赤城が何かを感じて目を覚ます。

頬に手を当てると、頬が濡れているのを感じる。

「……どうして、かしら」

139: 2014/08/20(水) 22:53:23.17 ID:bpKRnVxWo
次回予告!!

「赤城、今こそお前の出番だ」
「本当ですか!?」

ついに一航戦、二航戦揃い踏み!!

「夜戦か……」
「南側ぐるりと回れば避けられそうですよ」

待ち伏せの回避!!

「火の塊となって……沈んでしまえ!!」
「それはこっちの台詞だ!!」

増派部隊との決戦!!

北太平洋殺伐海域 デス・フロム・アバヴ・ミッドウェイ #3 ~ナグモ・サンダーボルト~

「しれぇ↑」
「しれー↓」
「あぁ脳みそがとろける……」

148: 2014/08/21(木) 22:54:51.72 ID:EWTQI7I3o
―― インターミッション・12月の革命者 ――

ぷかぷか丸改二、飛行甲板。今はミッドウェーにて停泊している。

「さて、ミッドウェー確保、と。敵は奪還しに来るかな。こっちの主力の釘付けのために」

東の水平線を眺めながら提督は一人ごちる。その時、後ろから声がかかる。

「司令官」

「どうした、ヴェル」

「丹陽は、その、別世界の雪風なんだよね」

「まぁ彼女が嘘ついてる様子も理由もないし、発言内容からするとそうっぽいし、何よりあのファッキンスカム猫吊るしビXチが一目見ただけでわかったようだしな」

「えげつなく罵る割には猫吊るしの言うことは信用してるんだね」

その問いに提督はふん、と鼻を鳴らす。

「大事なこと抜かしたり理不尽なこと言ったり訳わからなかったりはするが嘘吐きではないからな。で、それがどうした」

「別世界の私も、こっちに紛れ込んでくることがあるのかな、ってふと思ったのさ」

「そうかもなぁ。有り得ないとは言い切れないなぁ」

「呼びました?」

突如割り込んでくる第三の声。猫吊るしである。

「……鎮守府で転移装置の開発してたんじゃなかったのか。いつの間に乗り込んでたんだ」

「たかだか4000キロちょい程度ですしこの程度私一人なら造作もないことですよ」

相変わらず無茶苦茶なことを言う猫吊るし。だが実際ポータルで作戦海域近海まで行き来しているので信じられないとはいえない。

「あと響には悪いけど可能性は低いかなぁと思うんですよ。別の世界っていうのは人々の思いから生まれるわけでそれをいえばこの世界もそうといえるけど
 こう別世界を渡るには人々の思いが重要でとにかくソ連に渡った後の響の情報が少なくて」

聞かれもしないのにべらべら喋り続ける猫吊るし。

「ヴェル、行こうか。そろそろ基地のテレビ電話の準備が整ったはずだ。暁たちと話せるだろう」

「今ならライブチャットと言った方がいいんじゃないかな、司令官」

そそくさとその場を去る二人。残された猫吊るし。

「まぁ要するに別世界の大和が宇宙戦艦とかになって紛れ込んでくることも十分ありうるわけです。……あれ、いない」

149: 2014/08/21(木) 22:56:00.71 ID:EWTQI7I3o
鎮守府空母寮、一航戦の部屋。

ここにいるのは赤城のみ。加賀はミッドウェーに出航中。

その赤城は虚ろな目をして机に突っ伏している。

一航戦の誇りとはなんだったのか。ピーコック島攻略の栄光はいまや昔。

編成の都合で置いてけぼりである。

……だが訓練なくして前線を張ることはできない。

体を起こして背を伸ばし、装備を整え、扉を開く。

「よぉ」

そこには提督が立っていた。

「迎えに来たぜ。赤城、今こそお前の出番だ」

「本当ですか!?」

「当然だ!」

「南雲機動部隊、出撃いたします!!」

150: 2014/08/21(木) 22:57:48.51 ID:EWTQI7I3o


北太平洋殺伐海域 デス・フロム・アバヴ・ミッドウェイ #3 ~ナグモ・サンダーボルト~


ミッドウェー急造泊地。加賀が東の空を見つめている。彩雲を飛ばして偵察をしているのだろう。

「よし、赤城を連れて戻った。ポータル便利すぎでしょう?」

「おかえりなさい。そのポータル、制約も多いですけどね」

加賀が振り向き、言葉を返す。

鎮守府付近としかつながらない、行き先に装置を用意する、など不便な点もあるが、この技術により迅速な行動が取れる。

「それで加賀、敵部隊の様子はどうだ?」

「そうね。ミッドウェー東に布陣しているわ。ちょっと地図をとってもらえるかしら?」

ミッドウェー近海の地図を広げる。

「敵主力がここ。それと最短ルートに暗夜煙幕を張った水上打撃部隊が待ち伏せているわ」

「夜戦か……だるいねぇ」

川内がここにいたら猛烈な抗議を受けたことだろう。

「加賀さん、遠回りは出来ないかしら? 南側ぐるりと回れば避けられそうですよ」

赤城が打撃部隊を避けるように南側に弧を描く。

「敵もそれを考えて外周には機動部隊を張っているわ。それと……」

「それと?」

「近海に多数の潜水艦部隊を張り巡らせているようね。まずはここを突破しないと」

「ふむ……」

「どうします、提督?」

「中央ルートは避けて南から攻めよう。お前たちなら並大抵の機動部隊は大した被害なしに追い散らせるはずだ」

151: 2014/08/21(木) 22:58:21.47 ID:EWTQI7I3o
ミッドウェー東。

「うーん、敵潜水艦は何か数集まると雷撃がへちょくなるんだよなぁ。我が水雷戦隊の敵ではない」

『こちら比叡。敵潜水艦隊、突破しました! 進撃しますか?』

「戻ろう。この海流だと敵の待ち伏せに遭遇するだろう」

『なんか気勢削がれますね……』

「意気揚々と出て魚雷喰らって大破するよりはマシだろう」

『了解しました……』

~~~~~~

「よしよし、あれが敵主力か……」

水平線の先に見える、ひときわ目立つ深海棲艦。遠くからでもわかるオーラ。ボロボロになった服と半壊した艤装。空母棲姫。

「あれって……ミッドウェーを攻める前に沈めたはずじゃあ……?」

丹陽が震え声で訊ねる。

「あぁ、確かにな。だが連中は再生力にも定評があるうえ、余計なものをパージしたぶん復活した今のほうが強いといえるだろう」

連合艦隊が接敵準備に入る。提督は通信機を取り、吼える。

「各位、準備はいいかぁ!? 戦闘隊形、全艦隊、突撃ぃ!!」

『敵艦載機、来ます! 第一次攻撃隊、発艦始め!!」

激しい航空戦が繰り広げられる。敵の白い艦載機は、母艦の半壊した滑走路を無視して次々と飛び出してくる。

「火の塊となって……沈んでしまえ!!」

『頭にきました』

「どうした加賀、被弾したか?」

『いえ、嫌な事思い出させられたので』

加賀はかつてミッドウェーの折に爆撃を喰らい、艦の大部分が炎上した末に沈没したという。

「昔は昔だ。今とは違う。どっちが血だるまに、いや火だるまになるか思い知らせてやれぃ!!」

152: 2014/08/21(木) 23:01:32.28 ID:EWTQI7I3o
とは言うものの、敵もさるもの。

『飛行甲板に直撃。そんな……馬鹿な』

『やられたっ…誘爆を防いで!』

「加賀に飛龍大破……くそ、艦載機の練度がフラヲ連中とは比べ物にならんな」

「ひっ、飛龍先生が!」

うろたえる丹陽。

提督は宥めるように彼女の頭を撫でる。

「大丈夫だ。赤城と蒼龍がカバーに入ってるし。……やはり決着は夜戦か。第二艦隊、追撃せよ!!」

魚雷と砲弾の雨あられ。

程なくして、空母棲姫は炎の中に消えていった。

「静かな…気持ちに…そうか…だから私は……」


ぷかぷか丸改二、司令室。帰還した艦娘から戦況の報告を受ける。

「やりました……けほっ」

「皆、よくやってくれた。これで敵もミッドウェーに手出しは出来まい。今はゆっくり休め」

ふと、加賀の顔を見ると、目から一筋の涙が流れている。

「加賀、泣いてるようだがどこか痛むのか?」

「いえ、そんなはずは」

いいながら目元を手の甲で拭う。確かに涙の跡が付いている。

「……なんででしょう。空母棲姫が沈んでいくとき、ちょっと心が痛みましたが泣くほどでは……」

(やはり、沈んだ艦の怨念が形をとったものなのか……?)

153: 2014/08/21(木) 23:02:26.27 ID:EWTQI7I3o
次回予告!!

「私、何も恩返しできてません……」
「別に気にすることはないぞ」

MI作戦の成功。それが地獄への門の鍵。

「敵艦隊、来襲! 深海棲艦が七分、海が三分!」
「警官の銃はニューナンブ、ってかぁ?」

主力不在を狙う敵艦隊!!

「ついに艦隊決戦か!! 胸が熱くなるな!!」
「敵艦隊、ロストしました」

史上最大の艦隊決戦!!

「大和、武蔵、大鳳、翔鶴、瑞鶴、そして旗艦は……」
「えっ、大和さんが旗艦じゃないんですか!?」

ついに動き出す大和型。そして……

「あと少し、力があれば……!!」
「武蔵よ、力が、欲しいか……!?」

武蔵の闇堕ち……!?

「私……また逝くのね…」
「総員、飛行甲板…」
「翔鶴、瑞鶴ー!!」

五航戦の壊滅……!?

 ディープスレイヤー
「深海頃しの銛、また使うことになるだろうな……」

地獄の釜の蓋が、今、開く!!


2014 Summer AL/MI Operation Final Chapter ホンド・ヘル・オン・アース ~キリング・ウェル・イズ・ザ・ベスト・リヴェンジ~


「分身する戦艦棲姫の心臓。これをとってきてください」
「何を言ってるんだお前は」

155: 2014/08/22(金) 22:16:54.44 ID:GEN9HnKmo
―― インターミッション4・鎮守府の空母寮にて ――

時は遡り、MI作戦突入前。提督と雪風は、丹陽を連れて鎮守府内の『旅行』を行っていた。

鎮守府、空母寮裏にて。

「空母道場……?」

丹陽の疑問に提督が答える。

「空母は特殊だからな。発着艦の動作とかをここでみっちりと訓練するわけだ。」

そう言って提督は引き戸を蹴り開ける。

「邪魔するぜー」

ざっと道場を見回す。

「一、二、五航戦に大鳳、全員揃ってるのか」

「えぇ。最終調整中です」

そう言って加賀は弓を引き、矢を放った。ビィン、と響く弦の音。その矢は、的の中心を射抜いていた。

「お見事」

ぱちぱちと手を叩き加賀をねぎらう。

「私はこの通り万全ですが、赤城さんが……」

そう言われて赤城のほうに目をやる。椅子に座って休憩中かと思ったが、よく見ると目が氏んでいた。

「あかんこれ」

156: 2014/08/22(金) 22:17:33.10 ID:GEN9HnKmo
一方、二航戦。丹陽は飛龍に懐いていた。かつて元の世界で師事していたことと関係があるのだろう。

「艦載機、矢になっちゃったけど飛龍先生はどうやって発艦してるの?」

「そうね……、実際飛ばすとこ見たほうが早いか。蒼龍、クレー射撃準備、5発分お願い」

「おっけー。ちょっと待ってね」

飛龍の頼みで蒼龍が手元の装置を操作する。

飛龍は烈風の翼を模した矢羽を持つ矢を手に取り、弓を引く。

蒼龍がボタンを押す。風切り音とともに的となる皿が空を舞う。

矢が弓引く手から放たれ、虚空で数機の烈風へと変じる。

交錯したあと、皿は全てバラバラに砕け、烈風は悠々と飛龍の構えた甲板へと帰還し、再び矢に戻る。

「ひー、ふー、みー、しー、ご。よし、全機帰還、と」

「すごーい!!」

「加賀さんとかもっとすごいよ? 私も負けてられないけど」

矢を矢筒にしまい、丹陽に笑いかける。

「今度は私がやろうかな。飛龍、お願いー」

「はーい」

157: 2014/08/22(金) 22:18:28.77 ID:GEN9HnKmo
五航戦&大鳳。彼女らは、速射の練習を行っていた。

次々と起き上がる的に矢が刺さっていく。図星、とまでは行かないが、外した矢は見受けられない。

「ふぇぇ……いつ見てもすごいです…」

雪風が驚嘆のため息を漏らす。

矢を一通り撃ち終え、鶴姉妹は残心し、大鳳は甲板からカートリッジを取り出し、ボウガンにリロードする。

「提督さんの言う通りなら、敵を近づけさせるわけには行かないもんね」

矢を再び補充しながら瑞鶴が言う。

「こちらの防衛は私たちと、大和さんたちにお任せください」

ガチャリ、とカートリッジをセットした大鳳が後に続く。

「雪風ちゃん、提督のこと頼みましたよ?」

翔鶴はそう言いながら雪風の頭を撫でる。

「はい! 雪風がお守りします!」

五航戦の二人は再び矢を補充し、弓を構える。

「なんか敵空母が新しい艦載機を積んできたみたいだけど、昔とは違う。練度も、艦載機も十二分にある。今度は負けないわ!」

瑞鶴のその宣言とともに、一射目が的のど真ん中に叩き込まれた。


いずれもやる気充分、十二分。だがしかし、来襲したのは予想をはるかに上回る恐ろしい敵だった……!!

166: 2014/08/24(日) 23:03:11.14 ID:eWsYCmbTo
―― インターミッション・寝床 ――

これはMI作戦前のお話。二人の雪風を連れての旅行も、そろそろおしまいである。

「そして、ここが執務室だ」

ドアを開けると、執務机。

その後ろには『深海棲艦氏すべし慈悲はない』『つぎも許せない』『きるぜむおーる』などと威圧的な字体で書かれた掛け軸が吊ってあった。

「しれぇ、これって……」

「今回の心意気を示すために一筆とったんだ。いいだろう」

雪風に問われてドヤ顔する提督。

「提督さんっていつもこんな感じなの?」

「しれぇ、たまに突拍子もない事しますからね……」


「うーむ、しかしどうしたものやら」

自分の椅子に座り、考え事をする提督。

「どうしたんですか、しれぇ?」

「いや、何。丹陽の寝床をどうするかと思ってな」

そう言って窓から艦娘寮を見やる。新規着任艦娘のために現在絶賛大規模改築中である。

「向こうはあの通り改築中だしな。……そうだ」

何を思いついたか提督は押入れを開け何かを取り出す。

「しれぇ、それは……」

「煎餅布団だ。大きめだし雪風たち二人入るには十分だろ」

「しれぇはどこで休むんですか?」

「ぷかぷか丸にハンモック吊って寝るさ。まぁ風呂は入渠ドック使ってくれや」

手をふりふり、執務室から出て行く提督。

「雪風、あとは任せたぞ~」

「あっ、しれぇ……」

バタム、と閉まる扉。

「しれぇなりに気を使ったんでしょうけど、雪風、ちょっと寂しいです……」


夜も更け、煎餅布団の中。寝間着については雪風のを借り受けた。

「いよいよ明日からミッドウェーです……」

「ミッドウェーって……その……」

「そうです。深海棲艦は何かに惹かれるようにあの戦いの主要な戦地を拠点にしてきてます。雪風は、護れなかった皆のことを思うと、心苦しいです…」

涙目になる雪風を丹陽は優しく抱きしめる。

「こっちの世界に迷い込んじゃった私が言うのも何だけど、今度こそ護れればいいんじゃないかな?」

「……うん」

ぐしゅ、と一泣きしたあと、雪風は丹陽の胸に顔を埋めた。

~~~~~

「へぶしゅ」

一方の提督。ハンモックの上で星空を見上げながらつぶやく。

「……ミッドウェーか。ハ! 深海棲艦の連中が歴史を再現しようというなら、それを蹂躙するまでよ!!」

172: 2014/08/25(月) 22:47:59.97 ID:F4nO+DiKo
ミッドウェー臨時司令部執務室。

敵増援部隊は壊滅した。ミッドウェー確保は成った。

「だが、銃後が大事なのだ。ハワイなどへの物資の輸送、北太平洋海域の哨戒、取り戻した拠点の引渡し……。

 そもそも二箇所も深海棲艦に占拠されてんじゃねーよメリケンめブツブツ」

うだうだ文句を言いながらも書類にサインをしていく提督。

「しれぇ。お茶入りました」

「あんがとよ、雪風。こっちも、書類書き終わったところだ」

湯飲みを受け取り茶を啜る。

「しれぇは……鎮守府へ戻っちゃうんですか?」

「あぁ。まだひと悶着あるはずだしな。……心配すんな。ちゃっちゃと片付けて迎えに戻るさ」

「しれぇ、行く前に雪風を抱っこしてください」

「お安い御用だ。よっと」

雪風を軽々と抱き上げる提督。

「幸運の女神のキスです!」

持ち上げられた雪風はその状態から提督に抱きつき、口付けをした。

「んんっ」

その時、丹陽が司令室に入ってきた。

「提督さん、いつごろ出発でs……!?」

結果思いっきりキスシーンを目撃することに。

「あわわわわわへぶっ」

視線に気づいた雪風は慌てて身をよじって抜け出し、床に転がる。

「動揺しすぎだ、雪風」

ぐい、と雪風の身体を引き起こす提督。

「え? え? え?」

丹陽はまだ脳の処理が追いついてないらしい。

「あー、なんだ。その。俺と雪風は夫婦関係だから問題ないし、幼な妻と思えばインモラル要素は何もない。いいね?」

「アッハイ」

「というわけでヒトフタマルマル出航だ。あと二時間半か……」

そそくさと話を流す提督。

173: 2014/08/25(月) 22:48:56.22 ID:F4nO+DiKo
ぷかぷか丸改二前。もうすぐ出航時間である。

「というわけで俺は鎮守府に戻るが……何か言伝とかはあるか?」

「はい」

加賀が手を挙げる。テレビ電話もといライブチャットがあるし、赤城もいるから特に無いかと思ってたが意外である。

「誰に伝えるんだ?」

「えぇ。五航戦の子達に『私たちが帰ってきたときに鎮守府が壊滅してたら決して許さないから全力で護りなさい』と」

「直接言えばよくね?」

「直接言ったら余計な勘違いを生み出しかねませんから」

「そんなもんかね」

気恥ずかしいのか、という個人的意見はすんでの所で飲み込んだ。

「それじゃ、後のことは頼んだぞ」

174: 2014/08/25(月) 22:50:04.08 ID:F4nO+DiKo




2014 Summer AL/MI Operation Final Chapter ホンド・ヘル・オン・アース ~キリング・ウェル・イズ・ザ・ベスト・リヴェンジ~ 前編




175: 2014/08/25(月) 22:52:11.80 ID:F4nO+DiKo
鎮守府、埠頭。ちょうど龍驤が彩雲を着艦させているところだった。

「深海棲艦の様子はどうだ?」

「まだ来ぃへんな。でも……海が静か過ぎるんや。こりゃ南西諸島のほうから来るで」

「今のうちに準備整えた方がいいだろうな。続けて監視頼む。ポータルの接続もやっといてくれ」

「了ー解」

工廠のほうへ向かう提督。あとを追う丹陽。

「さーて、猫吊るしの様子見て工廠の奴らに装備準備整えさせて、と。お前が帰れる日もそう遠くない」

「私、何も恩返しできてません……」

「別に気にすることはないぞ」

問題ない、というように手をひらひらと振る。

「そういえば私の装備は……」

「それなら明石のとこだろう。工廠の隣だ。そろそろ直ってるんじゃないか?」

「ちょっと見てきます!」

そう言って丹陽はとてとてと駆け出す。

176: 2014/08/25(月) 22:54:15.64 ID:F4nO+DiKo
工廠内部。なにやら怪しい装置の前で猫吊るしが作業の監督を行っていた。

「どうだ、出来上がったか?」

「九分通り完成です。ただ、一つ材料が足りなくてですね」

珍しく困ったような顔をする猫吊るし。

「何だよ」

「分身する戦艦棲姫の心臓。これをとってきてください」

唐突にわけのわからないオーダーを出される。

「何を言ってるんだお前は。世界樹かなんかの依頼じゃねぇんだぞ」

「これコアに使わないと装置が耐え切れないんですよ」

「だいたいそんなやつ見たこともないし実在するかもわからないしもしそんなやつがいたら世界の制海権は終わりだ」

~~~~~~

明石の修理用工廠。明石が艤装を積んでからは艤装の修理などはこちらで行うようになった。

「はい、丹陽さん。修理できましたよ。だいぶ年季入ってるけど航行には問題ないわ」

「ありがとうございます、明石さん。……ちょっと試運転してきますね」

「そうね。行ってらっしゃい」

桟橋に出る。呼吸を整え、集中する。

「艤鎧……装着!!」

着水し、装備を確認する。稼働状況は全く問題ない。

ポータルの近くには龍驤のみ。そして彼女は彩雲と交信しているのか空を仰ぎ見ている。

丹陽はそっと、ポータルに身体を潜らせる。

「砲はなくとも、偵察ぐらいなら……!」

178: 2014/08/25(月) 23:00:30.34 ID:F4nO+DiKo
南西諸島ポータル付近。

「ひ~ん」

命からがら逃げてきた丹陽。幸運にも、被弾などは一切なかった。せいぜい塩水をかぶった程度である。

「もうこんなところまで来てるなんて……早く知らせないと……!?」

急ブレーキをかける丹陽。すぐ先に、深海棲艦がいるのだ。戦艦タ級フラグシップ。

ミッドウェーで数度見かけたが、身体の大きさに見合わぬ破壊力と、高速機動性、そして弾着精度を兼ね備えた鬼神、そう言い表すのがふさわしい相手。

つまりは気づかれてはいけない相手であるが、既に手遅れである。丹陽のほうに近づきながら砲塔を調整している。その顔は獲物を見つけたときの肉食獣の如く笑っている。

前に進めば氏、後ろに戻れば氏、左右に振ってもいずれ追いつかれ氏は免れ得ない。

(あ……ああ……)

提督の言っていたことを思い出す。

『勝手にうろついて深海棲艦に撃ち殺された、とか洒落にならないしねぇ』

(ごめんなさい……)

後悔の念とともに目を瞑り、しゃがみこむ。ガシャリ、と砲弾の装填音が聞こえる。


砲弾の放たれる轟音。

179: 2014/08/25(月) 23:01:18.82 ID:F4nO+DiKo


一秒。


二秒。


三秒。


……痛みはない。身体も動く。瞑っていた目を開け、ゆっくり立ち上がる。

水平線の向こうには、艤装を大きく打ち抜かれ、傾斜するタ級。そして……。

「あ、あれは……!!」

「戦艦大和、推して参ります!!」

再びの轟音。46cm三連装砲から放たれたその一撃はタ級の上半身を丸ごと吹き飛ばしていた。

180: 2014/08/25(月) 23:01:54.75 ID:F4nO+DiKo
ぷかぷか丸、甲板。

「まーったく。何してんだよお前は。あいつらは危険だってわかるだろうが」

「ごめんなさい……」

「何はともあれ無事でよかった。即座に大和を送れたのは僥倖だった」

ぽんぽん、と丹陽の頭を撫でる。

「それで、敵陣容はどうだ?」

龍驤に尋ねる提督。

「水上打撃部隊中心の構成や。例の煙幕張ってて、回避するならぐるりと回りこまなあかん」

「あ、あと、あのミッドウェーの東で見かけた大きいのがいました!」

龍驤の報告に割り込む丹陽。

「ミッドウェー東というと、空母棲姫か?」

「多分それです!」

「クソッタレ……ヤツが総旗艦か?」

「いや、そうやない」

提督の推測を龍驤が否定する。

「海流の終端に戦艦棲姫がおった。……なんか前に見たのと感じが違うけど大将はこいつやろな」

「となると、総力戦だな……」

「もう面子は決まってるんやろ?」

「まぁな。大和、武蔵、大鳳、翔鶴、瑞鶴、そして旗艦は……」

「えっ、大和さんが旗艦じゃないんですか!?」

驚きの声を上げる丹陽。龍驤はさもありなん、といった顔をしている。

「重雷装巡洋艦、北上」

「ほーい」

間延びした返事とともに現れたのは、腕や足に大量の酸素魚雷発射管を装備した、白いセーラー服を着たお下げの少女だった。

「とぼけた顔してるけどあれ見た目だけやで。この鎮守府随一の大物頃し(ジャイアントキリング)や」

丹陽に囁く龍驤。本人はさほど気にした様子もなく、弾の装填を行っている。

全員準備を終え、一列に並ぶ。

「さて、準備はいいな? 我々の目標はただ一つ、敵を完膚なきまでに叩きのめし、この海が連中のモノでないことを思い知らせることだ!! 出撃し、敵を撃滅せよ!!」

提督の声とともに、鎮守府の奥の手たちは、一斉に海に飛び出した。

184: 2014/08/26(火) 22:51:20.87 ID:XKSSHWDXo
「んー、やはり大和型は圧倒的だなぁ」

大和と武蔵の艤装にずらり並んだ46cm三連装砲。そこから放たれる九一式徹鋼弾が次々と敵を貫いていく。

金剛たちにも46cm三連装砲の搭載は出来るが、敵の艤装がひしゃげるのと、敵が艤装ごと丸い穴を開けて消失するのとではだいぶ違う。

敵の砲撃も雨粒の如く弾き返す。まさに海を往く暴君である。

「こんなにすごいのに、どうして……」

これほどのものがありながら何故勝てなかったか

「お銭(ぜぜ)も資源も有限だからだよ。そっちの世界は知らんが、あいつら常用してたら速攻枯れるレベルでコストかかるんだよ……」

前世でもコストかかりすぎてまともに運用できなかったし、物量の前には無意味だしな、と付け加える。

「大体うちは戦艦ってだけなら長門、陸奥、霧島、榛名、伊勢、日向、ビスマルクとそうそうたる面子が残ってるんだよ。そこらの連中ならこれでも過剰火力だ」

「それでもあえて大和さんたちを出す……ということは」

「そう、出さざるを得ない相手だ、ってことだ」

185: 2014/08/26(火) 22:51:58.57 ID:XKSSHWDXo




2014 Summer AL/MI Operation Final Chapter ホンド・ヘル・オン・アース ~キリング・ウェル・イズ・ザ・ベスト・リヴェンジ~ 中編





186: 2014/08/26(火) 22:52:56.16 ID:XKSSHWDXo
『提督、暗夜煙幕張られてるけど正面から突っ込む? 回り込む?』

北上から通信が入る。

「回り込んだら空母棲姫だろ。危険度はどっちもどっちだな。潮目はどうなってる?」

『あぁ~……思いっきり煙幕のほうだよ』

「仕方ないな。突っ込むしかねぇ。敵には余り構うな」

『構うな、といわれてもねぇ……向こう、殺る気まんまんだよ?』

「なるべく一撃で黙らせるしかないな。特に駆逐」

『こっち空母3だからなぁ……まぁやれるだけやるけど』


だが、敵艦隊は想像以上に悪辣だった。

大量の後期駆逐。夜間では艦載機の発艦も出来ず、次々と魚雷が発射される。狙われたのは、五航戦の二人。

『もうっ、私がここまで被弾するなんて!』

『やられました! 艦載機、発着艦困難です!』

海域を抜ける頃には二人はズタボロであった。

『こちら北上。海域抜けたけど瑞鶴、翔鶴大破。撤退します?』

二人ともボロボロで、今にも倒れて海の底へ真っ逆さまに落ちてしまいそうである。

しかし、提督は眉一つ動かさず、命を下した。

「いんや、進軍だ」

北上は大破した二人をちらり、と横目に見る。

大破状態で進めば艦娘と言えど沈むのは世の道理。だが、この非情な通信を聞いても、鶴姉妹の表情は変わらない。

矢折れ刀尽きるとも最期まで闘う、と言う意志に満ちた瞳。

「……ここで、やらなきゃ、加賀さんに嗤われちゃうわ……」

瑞鶴がかすれた声で呟く。

「それに……敵主力が、もうそこまで来てます」

翔鶴が震える手で指した先には、巨大な腕と砲の生えた艤装を背にした、角の生えた黒髪の女性。戦艦棲姫である。

187: 2014/08/26(火) 22:53:48.90 ID:XKSSHWDXo
随伴艦のヲ級が新型艦載機を飛ばしてくるのが見える。

「敵艦載機を、なるべく落とします! 皆さんは残りを!!」

弦の切れた弓を応急修理し、烈風を次々と放つ。正確さは二の次。物量で落とす。

大鳳も烈風改、江草彗星、友永天山を続けざまに飛ばす。

「敵艦載機、撃墜!」

「駆逐一隻撃沈!」

航空戦を優位に運ぶ。さらに……

『綾波、敵主力捕捉しました!』

「よし、全弾ぶちまけろ!!」

『主砲、斉射、始めぇ!!』

綾波を筆頭に、夕立、霧島、榛名、千歳、千代田の支援艦隊が、敵艦隊に砲弾の雨を降らせた。

「ル級2、駆逐1落ちたか。よしよし」

『甲標的魚雷命中。ヲ級も落ちたよ』

北上からの通信。接敵前からもはや丸裸である。

「莫迦な……莫迦な!!」

戦艦棲姫との対決など幾度となく行ってきた。もはやイージーワークなのだ……!!

「武蔵、行くわよ! 一つ! 二つ!!」

「三つ!! 四つ!!」

大和姉妹の砲撃は、戦艦棲姫を跡形なく消滅させた。

188: 2014/08/26(火) 22:57:47.59 ID:XKSSHWDXo
『こちら北上、敵旗艦、撃沈……したのかなぁ?』

撃沈の様子を確認したにもかかわらず、疑問を呈する北上。

「ああ。いくら大和型投入したからってこんなにあっさり決着が付くとは思えない。大和、やったと思えるか?」

念を入れて尋ねる提督。

『……おかしいわね。観測機からは一切の残骸が見えないとの報告が来てるわ』

深海棲艦と言えど、破壊されれば残骸やら中の体液やらが浮かび上がるはずである。それが一切ないのだ。

すると突然、巨大な渦巻きが発生し始めた。それも二つ!!

様子を見守っていると、それぞれの渦の中心から、再び戦艦棲姫が現れたではないか!!

「ふふん。今のは私の、質量を持った残像よ。でもさすがに遠隔コントロールは難しいわね」

そう言いながら何の前触れもなく、二隻の戦艦棲姫は砲撃を行った。


着弾点には、翔鶴、そして瑞鶴。一瞬の出来事だった。

「私……また逝くのね…」
「総員、飛行甲板…」

「翔鶴、瑞鶴ー!!」

提督の叫びも虚しく、16インチの弾丸は、彼女らを深い海の底へと誘った……。

189: 2014/08/26(火) 23:00:40.37 ID:XKSSHWDXo
また長くなってしまった…

191: 2014/08/26(火) 23:40:38.04 ID:iuEhsgY+o
乙です

次回:泣き虫雪風と釣り人提督【その14】


引用: 【艦これ】泣き虫雪風と釣り人提督 Part2