805: 2015/01/24(土) 07:43:15.99 ID:IYb1zeS0o
二周目一回目は由良から了解ー

前回:泣き虫雪風と釣り人提督【その19】
最初から:泣き虫雪風と釣り人提督


806: 2015/01/26(月) 22:57:58.85 ID:XveryyuAo
――― 世界で一番柔らかいカタパルト ―――

由良「私のカタパルトって…邪魔、かなぁ?」

提督「カタパルトって川内とかが腕につけてる、偵察機飛ばすあれだろ?」

由良「はい」

提督「どこにもないように見えるが」

由良「ありますよ」

そう言うと懐から水上偵察機を取り出し、ポニーテールの根元部分に慎重に取り付けた。

由良「妖精通信システムオールグリーン、カタパルト準備よし。発艦まで5……4……」

カウントダウンと同時に由良の長いポニーテールが風もないのにたなびき始めた。

由良「3……2……1……0!」

ポニーテールの毛先からまっすぐ飛び立つ水偵。空中を二、三度旋回した後、偵察に向かっていった。

提督「そこだったのかよ!!」

由良「邪魔かなぁ?」

提督「いや、大丈夫なんじゃね?」
海の画集 -「艦これ」公式イラスト集-
811: 2015/01/28(水) 22:35:34.92 ID:OP+q6Ag6o
――― 別にインモラルな要素はない。いいね? ―――

深夜の鎮守府。一部の艦娘は24時間寝なくても大丈夫というが、心と体が有る以上、睡眠は必要なのである。

煎餅布団。ハネムーン記念に獲得した家具。

提督になる前から使っていたベッドはあるが、使わないのは勿体無いということで提督は布団を貰って以来コレを使っている。

提督「さて、寝るか。雪風おいで」

雪風「はーい」

ベッドは一人分なので少々手狭だが、この煎餅布団は二人で同衾することを念頭にデザインされている。

雪風は布団の中でもぞもぞ動き、提督の胸元まで潜り込む。

雪風「しーれぇっ。えへへっ」

提督「よしよし」

雪風の頭を優しく撫でる。それにあわせて雪風がぎゅっと抱きついてくる。

コレをやらないと翌朝胸の辺りが涙まみれになるのだ。

雪風「しれぇ」

提督「なんだ?」

雪風「大好き……」

提督「俺も雪風のこと好きだよ」

雪風「はふ……」

艦船の魂から創りだされた存在とはいえ、艦娘も一皮むけば普通の少女なのだ。

ぎゅぅ、と抱きしめると心臓の鼓動を感じる。

提督(雪風が悲しまないで済むようにしないとな。そのためにこの戦にケリをつける。話はそれからだ)

戦いはまだまだ続く。提督の目的が果たされる日はいつになるやら。

817: 2015/01/29(木) 20:55:06.29 ID:iXhDxQ1oo
――― 当初は秋月型が出る前に畳まれる可能性を考えていたと思しき点 ―――

秋月「秋月型防空駆逐艦、一番艦、秋月。ここに推参致しました。お任せください!」

提督「これは、10cm連装高角砲か……」

秋月「はい、長10cm砲ちゃんです! 12.7cm連装砲と違って、対空性能が高いんですよ!」

提督「うむ、知ってるぞ。うちの駆逐艦の皆、標準装備だからな」

秋月「えっ」

提督「ほれ、見てみぃ」

提督が指差す先には談笑しながら歩く吹雪と白雪。その手には10cm連装高角砲!!

秋月「ホントだ……」

そこに来る遠征帰りの駆逐隊。

初霜「艦隊、帰投しました!」

提督「初霜か。おつかれさん。これで東急7回だから補給したら休め」

初霜「了解したわ!」

睦月「睦月、補給感激ぃ~」

ぞろぞろと去っていく艦娘たち。その手に持っている砲は……長10cm砲!!

秋月「まさか睦月型にまで実装してるなんて……」

提督「ふふーん」

そんな二人の横をビュン、と駆け抜ける一陣の風。

島風「おっそーいー!」

天津風「ちょっと待ってよー! というか連装砲ちゃん達、置いてけぼりでいいの!?」

島風「後からついてくるからだいじょーぶ!」

二人の艦娘と三基の連装砲はあっという間に遠ざかる。

秋月「その……あの子たちも……」

提督「妖精の技術って凄いよなぁ。頭部だけ長10cm砲にとっかえちまうなんてな」

そう、連装砲ちゃんたちも連装砲くんも、長10cm砲カスタムが施されていたのだ!!

秋月「……ま、まぁ私は高射装置つきですし」

その声は震えていた。

823: 2015/01/30(金) 21:27:51.50 ID:Uk/+Ecclo
――― 抑止力 ―――

提督「うーむ」

響「どうしたんだい、司令官?」

提督「いや、ちょっと疑問に思うことがあってな」

響「?」

提督「そもそも艦娘は深海棲艦から国を守る為に現世に降ろされたわけだが、反乱起こしたら既存の政府なんて容易に制圧できるんじゃないのか?」

響「過激だね」

提督「こーんな考えようによっては危ない集団、一介の民間人に……いや今の立場上は軍属なんだろうけど、まぁその、任せていいのかと」

響「そもそも、私たちの武器は人に向けてもゴムボール軽くぶつけた程度の威力しか出ないよ」

提督「え? 深海棲艦には穴あけたり爆散したりするレベルで効いてるけど。下手すれば近代兵器以上に効いてるし」

響「深海棲艦には、ね」

提督「??」

響「あの猫吊るしてる子が言ってたけど艦娘の存在と妖精さんの力が合わさって、深海棲艦に致命打を与えるとか」

提督「……んん? いつだったか艦娘用の装備ガン積みで一人出撃したことがあったが、妖精降ろした後でも普通に攻撃通ってたぞ」

響「ぷかぷか丸にも艦魂はあるはずだし、整備している妖精さんの力はすぐに消えるもんじゃない。それに、女神も乗ってたはず」

提督「そうか……」

響「ところで、どうして反乱とか物騒な話を?」

提督「響見てたらデカブリストって単語を思い出してな。革命→反乱ってわけさ」

響「……司令官、ちょっと手を貸してくれないか」

提督「いいけど」

提督が差し出した手の親指付け根と人差し指付け根の中間点をぎゅっと挟み込む。実際痛いので試してみよう!

提督「ん゙に゙ゃ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」

響「司令官はちょっと短絡的過ぎる」

833: 2015/02/02(月) 21:39:02.43 ID:2ddnESafo
――― 部屋割り ―――

鎮守府、執務室

いつも通り書類仕事に精を出す提督

提督「うーん、コレがこうだからブツブツ」

そこにノック音。

朝潮「駆逐艦、朝潮です! 遠征任務の報告書をお持ちしました!」

提督「あぁ、開いてるから入っていいぞ」

朝潮「失礼します」

ちらり、と朝潮の手にある報告書の束を確認すると再び作業に戻る。

提督「書類はそこ置いといてくれ」

朝潮「ここですね」

山と詰まれた書類に慎重に積み重ねる。ふと、提督の書類に目をやると……

朝潮「駆逐隊について……?」

提督「そうそう。うちの寮の部屋割り。新しい子が来たら配置換えをする必要が出てくるからなぁ。特に駆逐艦娘」

朝潮「固定じゃなかったんですね」

提督「まぁ基本駆逐隊ごとに2~4人1組で部屋振ってるからなぁ。朝潮たちは第八駆逐隊だから固定だけど途中参入とかでひとりあまった場合どこに突っ込むかとか考えるわけよ」

朝潮「なるほど……」

提督「16駆なんかだと雪風が俺の部屋で寝るようになったから代わりに島風入れたりとかな。天津風いるし」

朝潮「じゃあ山雲が来たときに喜んでたのは……」

提督「あぁ、朝雲と一緒の部屋にすればいいし、舞風の再来にならなくてすんだのもある」

839: 2015/02/03(火) 21:53:22.07 ID:rC6jict3o
――― 壁ドン ―――

如月「司令官、ちょっとお願いがあるの」

提督「なんだ?」

如月「如月に『壁ドン』を……やってほしいの」


壁ドン。女を口説くときの手管の一つであり、乙女は強気押しにドキドキ来るとかそういうもんらしい。


提督「ふーん? まぁいいけど。んじゃそこの壁際にたって」

如月「えぇ」

提督「歯ぁ食いしばって」

如月「え?」

戸惑う如月をよそに提督は掌を構え、腕を後ろに引く。

提督「発剄用意……」

その手の延長線上は如月の顔の横ではなく、鳩尾。

如月「!!」

ドンッ

如月が横に飛び退くのとほぼ同時に、提督の腕が強く突き出された。

如月「し、司令……官……?」

提督「ん? 壁ドンして欲しかったのでは?」

如月「思ってたのとちょっと違うかなぁ……って」

提督「えぇ? 対象を壁に叩き付ける事でダメージを倍化させるアレじゃないの?」

如月「違うわよぉ」

提督「じゃあ隣がうるさいときに不快感を露骨に示す……」

如月「それも違うわ……」

提督「まぁ知っててやってるんだけどな。だいたい……」

ドンッ

提督「俺の女になれよ」

如月「!!」

提督「……な~んてやってるところを雪風に見られたら誤か……い……」

ふと横を見るとそこには雪風が!!

雪風「じれ゙ぇ゙の゙ゔわ゙ぎも゙の゙ー!!」ダッ

提督「誤解されたー!! おい追うぞ如月! ……如月?」

如月「」ポヤーン

提督「うあああああ!!」


この後誤解をとくのに四苦八苦したがそれはまた別の話

844: 2015/02/04(水) 22:16:41.68 ID:vkbqBAZGo
――― 多分艦娘中一番長い ―――

五月雨「五月雨っていいます! よろしくお願いします。護衛任務はお任せください!」

提督「よろしく」

五月雨「もうドジっ子なんて言わせませんから!」

提督(超長い髪、そしてドジっ子宣言……絶対フラグ立つぞこれ)

~~~

鎮守府南西海域、実戦訓練中……

提督「雷撃距離まで接近! トドメヲサセー!!」

駆逐艦による一斉雷撃。五月雨も背中の魚雷発射管を傾け、雷撃体勢に入る。

五月雨「たぁー!!」

発射される魚雷。だがそのうちの一つのスクリューが五月雨の髪に引っかかり……

五月雨「あっ!?」

提督「あやや?」

雪風「五月雨ちゃん!?」

そのまま五月雨ごと敵に突貫していく魚雷!!

五月雨「助けてぇ~~!!」

そのまま敵艦に直撃し、上がる火柱。

五月雨「もうっ! ……なんでぇ!?」


大破状態で発見された五月雨はそのままドックに直行することになった。

長くてきれいな髪の毛も酷い状態である。

五月雨「もうだめぇ……。ちょっとお休みしますね……」

数分後、完全に治った五月雨の姿が! 髪の毛も元に戻ってる!!

提督「何でもう治ってるんだ……」

851: 2015/02/05(木) 22:21:55.38 ID:84LvYgMAo
「ふーん、トラック泊地ねぇ」

資料を繰りながら流し読みする提督。

「ちょっと詳しそうな子に話聞いてみっか」

手元の資料から艦娘として着任している艦の名をざっとメモし、執務室を出る。


Avengers Of Truk Anchorage ~Prologue~


埠頭に出ると那珂が歌の練習をしていた。寮でやられても困るので晴れの日は大体外で歌っている。

「いつも元気なこったな。おーい、那珂ちゃーん」

「キラーン☆ 提督、お仕事ですか?」

「そうだ。トラック泊地襲撃についてなんだが」

トラック泊地襲撃。その言葉を引き金に那珂の顔から感情というものが抜け落ちた。

「あのね、提督。アイドルにも思い出したくない過去ってあるの。わかってね?」

「お、おう」

それだけ言うと寮のほうに引っ込んでいってしまった。

「ぬぅ」

852: 2015/02/05(木) 22:22:22.63 ID:84LvYgMAo
しばらく後……

「ぐぬぅ。舞風も文月も脈無しだった。おまけに野分と長月にめっちゃ怒られた」

駆逐艦寮から出てくる提督。舞風は顔色が急激に悪化し、文月は堰を切ったように泣き出した。

「トラック泊地にいったい何が……」

「あ、提督さんみーっけ」

そこに駆け寄ってくるのは阿賀野。

「おお、こっちもちょうど阿賀野の事探してたんだ」

「その前にちょっと帽子取ってくれる?」

「ん? あぁ、ほれ」

帽子を脱ぐ、と同時に

「えいっ☆」

顔面に手刀を叩き込まれた

「あべしっ」

「むー、頭まで届かなかったー」

「何だよ、いきなり」

帽子を被り直しながら尋ねる。

「神通さんから聞いたよ。トラック泊地のこと聞いて回ってる、って」

「うむ。それで阿賀野に用があったんだが」

「いーい? よく聞いてよ」

そういう阿賀野にいつもの暢気さはなく、真剣な表情をしていた。

853: 2015/02/05(木) 22:22:51.22 ID:84LvYgMAo
「……と、言うわけなのよ」

「実に酷い話だな……」

阿賀野の話は実に悲壮なものだった。

「全く、こういう話を軽々しく聞こうだなんて。阿賀野も怒っちゃうよ?」

「そうだな。二の舞にはしたくないもんだな」

「ところで提督さん、何でわざわざ聞こうと思ったの?」

「理由は言ったさ。二の舞にならないように、って」

その一言で阿賀野の眉間にしわが寄る。

「まさかあいつら、トラック泊地を狙ってるというの!?」

「そうだ。あの辺の制海権はもはや取られたも同然、間一髪で臨時のポータル設置が間に合ったから接続作業が終わり次第反攻に出る」

いったん言葉を切る。

「そう、反攻だ。昔と今とは違うこと、そして俺たちに喧嘩を売ることがいかに高くつくか、わかるまで何度でも思い知らせてやる。覚悟はいいか?」

「……今度こそ、阿賀野型の本領、発揮しちゃうんだから!」

かくして、トラック泊地をめぐる攻防戦の火蓋は切って落とされた……。

857: 2015/02/09(月) 22:41:29.83 ID:UwADsjIio
東京急行組の天龍からの報告書に曰く、深海棲艦の挙動がおかしい。

「まー、おかしいって言うか連中は拠点を失うと自縛霊みたいに決まったところ回遊するだけだろ?」

「うむ、そうだな。おかげでキス島での実戦訓練が捗る」

「ここ最近、南方の港にちょっかい掛けてくるヤツらが増えてる。それに、偵察と思しき潜水艦も増えてる」

「そいつは不味いな。具体的にはどこら辺だ?」

机の上に南方の海図を広げる。諸島の多い南方でシーレーンを断たれれば大問題である。

「そうだな……ピン借りるぞ。ここと、ここと……」

己の記憶を元に、次々とピンを立てていく。

「で、攻撃されてるところは?」

「そうだな、ラバウルとか……あとこの辺だな」

言いながら×マークのコマを置いていく。刳り貫くように孤立する諸島。

「……ここは……」

「トラック諸島、だな」

トラック諸島。南方海域における要衝の一つ。ここを乗っ取られることがあれば南方海域のシーレーンの喉元に刃を突きつけられるも当然。

「既存の南方ポータルからはちょっと遠いな……。猫吊るしに相談しとくか。天龍、南方遠征組に今回のこと周知しとけ。動きがあったら報告だ」

「了解。しっかし……」

「なんだ?」

「元は漁師だろう? 提督業も板についてきたもんだな、と」

「……元の職業のこと忘れそうだよ、うん」

858: 2015/02/09(月) 22:43:41.42 ID:UwADsjIio
Avengers Of Truk Anchorage ~Episode 0~


数週間後。埠頭に艦娘が集結している。

整列したのを確認し、提督は咳払いをする。

「えー、おほん。我々はこれより、トラック泊地にポータルから乗り込み、そこを拠点として深海棲艦どもの掃討を行なう」

大淀がホワイトボードを押してくる。ホワイトボードにはトラック諸島周辺の地図が張られている。

「まず第一段階として、トラック周辺の潜水艦どもに海底の土をなめさせる。連中の指揮を張ってるヤツを仕留めれば後は烏合の衆だ」

トラック北東に鬼の顔をしたコマを張り、ぐりん、ぐりん、と矢印を引く。

「ま、ここらへんにいるって話だ。そこに向かってついでに道中の潜水艦とかも始末する」

「潜水艦に囲まれてるなんて、まるであの時の再現じゃない……」

那珂が呟く。その声にいつもの明るさはない。

「だが昔は昔、今は今、だ。今は対抗できるだけの力がきっちりあるわけで」

そう言いながら東のほうにもう一つ鬼のコマを張る。

「潜水艦を片付けたら、次は空襲しようと目論む連中をわからせる。物理的に」

張ったコマのほうにぐいっと矢印を引く。

「その先はどうなるの?」

阿賀野が真剣な表情で問う。

「空襲部隊だけで終わるわけがない。連中の主力をぶっ潰すまでだ」

工廠から妖精が三式ソナー・爆雷を次々と運んでくる。

「まずは周囲の安全の確保、次に空襲部隊の撃滅。そして本隊を捻り潰す。簡単な話だ。

 雪風、那珂、阿賀野、島風、舞風、野分。第一次作戦はこの面子で行く。抜錨せよ!!」

その言葉とともにポータル開放ボタンを押す。埠頭の先にポータルが開……かない!!

「……あれ?」

何度かボタンを押しなおしても反応なし。そこにやってくる猫吊るし。

「あー、向こうの避難民の誘導が終わるまで待ってね」

「入れた気合どうしてくれんだよ!?」

「提督が殴るわけでもないでしょ。ゆっくり待ってね!」

結局避難が終わるまで2時間かかった。

859: 2015/02/09(月) 22:47:08.68 ID:UwADsjIio
次回予告!

「あれが補給用のワ級か……」
「破壊します?」
「対潜用装備でいっぱいいっぱいだ。それに沈めてもまた補充してくるだろ」

「この陣形……単縦だと!?」

「これ以上……やらせはしない!」

次回、Avengers Of Truk Anchorage ~Episode 1~

まぁ多分イベント終わるまでには完結します(震え声)

863: 2015/02/12(木) 22:07:26.26 ID:vfLTSHoEo
「だいぶ時間がかかったがやっとトラック泊地に着いたか」

ポータルを抜けるとそこは閑散とした港。人っ子一人いない。

「……まぁ避難済みならしょうがないわな」

雪風たちは出撃に向けて最終調整をしている。爆雷の装填、ソナーの動作確認。

野分は一足先に着水して耳を澄ませている。

「……司令」

「どうした、野分?」

「潜水艦、うようよ居ますよ。近海に回遊している奴らの比じゃない位に」

「音紋の特定は行けるか?」

「静かに。ちょっと待ってください」

目を瞑り、耳を澄ます野分。

「……聞き慣れない音がします。ソ級、でしょうか」

「ま、誰だろうがやることは変わらん。全部まとめて水底に叩き付けてやれ! 抜錨!」

864: 2015/02/12(木) 22:09:32.41 ID:vfLTSHoEo


Avengers Of Truk Anchorage ~Episode 1~ サブマリン・スイーパーズ


「うわぁ、うようよいるぅ……」

トラック泊地から一歩出ればそこは深海棲艦の領域。ソナーのピンを打つまでもなく、そこらかしこに連中が息を潜めていることが感じられる。

「島風ちゃん、つらいかもしれないけどここは急いだら危ないからね」

「うー……」

不満そうにしながらもゆっくりと進んでいく。

「那珂ちゃんは聴く方じゃなくて聴かせるほうなんだけどなぁ」

などと文句を言いながらもソナーでスクリュー音に耳を傾ける。

「……! 十時の方向、雷撃きます!」

野分の警告に全員が反応し、回避行動を取る。

「あっぶな~!」

阿賀野のすぐそばを魚雷が通り過ぎていく。

くるり、と踊るように舞風が戻ってくる。

「野分、今の魚雷、普通のより速くなかった?」

「確かに普通の潜水艦より殺意にあふれていたような……」

「敵艦隊はっけ~ん……嘘、単縦組んでる!?」

単縦陣。隊列の組み方は艦娘や深海棲艦の砲雷撃、対空、対潜などに影響するという。

一定の陣を組むことで呪術的影響を及ぼすという話だが、「単縦は砲雷撃戦の威力が安定する」など直感的にわかること以上の効果は明らかにされていない。

「みんな、単横陣組んで! 爆雷投擲用意~!」

那珂の一声で隊列を組みなおし、次々と魚雷の発射点付近に爆雷を打ち込む。

「それ、ワン、ツー!」

「五連装酸素魚雷、いっちゃってー!」

「島風ちゃん魚雷投げちゃダメー!」

程なくして、深海棲艦の残骸が浮かび上がる。

「よーし、次いくよー!」

865: 2015/02/12(木) 22:21:00.82 ID:vfLTSHoEo
「あれ、水上艦がいるわね?」

偵察機を飛ばしていた阿賀野が呟く。

『敵編成はどんなもんだ?』

「輸送艦とその護衛ね」

『まったく、ご苦労なこった』

「やっちゃう?」

おつまみを一品追加するかの様な気軽さで問う阿賀野。だがここで無駄に損耗してもいいことはない。

『護衛は適当に片付けとけ。護衛補充の間に引き返している間に潜水艦殲滅すればいい』


「全く、MI後の奇襲といい、今回のトラック襲撃といい、敵の動きもどんどん人間味を帯びてきてやがる……」

水平線の向こうに見える砲火。金色に輝くワ級を沈めることは容易ではない。対潜特化装備の状況下ではなおさらである。

そうこうしているうちに敵艦隊撤退の報せが入る。

『敵主力、発見しましたー』

「よしよし。全艦突撃ぃ!」

866: 2015/02/12(木) 22:21:34.13 ID:vfLTSHoEo
「ここらへんだったよね、阿賀野ちゃん」

「じゃ、ピン打ってみましょ」

三式水中探信儀から放たれる音紋が、敵艦隊を捉える。

「ひぃ、ふぅ、みぃ、し……11時の方向に四隻発見、魚雷装填音! みんな気をつけて、来るわよ!」

幾つもの雷跡が艦娘達の間を掠めていく。

「先ほどのに比べれば然したることはないですね」

「さ、みんな! ライブの前にお邪魔虫を片付けちゃおう!」

那珂の号令とともに次々と爆雷が放たれる。

浮かび上がる金色――今は輝きを失って黄土色に見えるが――のソ級。この潜水艦たちを束ねていると思しき、いわば総旗艦。

「そのまま浮いてくるの、珍しいわね……」

「雪風が鹵獲してきます!」

そう言うと雪風はそっと浮上したソ級のもとへと近づく。反応はない。ただ、空気が泡となり海面に浮かんでいく音のみ。


シャッ

867: 2015/02/12(木) 22:24:41.33 ID:vfLTSHoEo
「!!」

微かな異音を聞いた野分は連装砲を雪風のほうへと向ける。

「ど、どうしたの野分!?」

舞風の問いへの答えは、砲撃音だった。

炸裂音とともに雪風の目の前で上がる水柱。

「ひゃぶっ!?」

まともに塩水の洗礼を受ける雪風。


「まだ魚雷を発射する余力を残してたなんて……間に合ってよかった」

「びっくりしたぁ……。それならそうと早く言ってよー」

そう言って舞風は大げさに安堵のため息をついた。


「はふ、ソ級は……いない?」

海水を振り払ってもう一度見直すと、ソ級は既に姿を消していた。

ソナーに耳を澄ますと、大きな塊が沈んでいくのを感じ取れた。

「先ほどの爆発の余波で沈んだんでしょうか……」

ともあれ、これでトラック周辺の海域の対潜掃討は完了である。

次は……敵の空襲部隊である。下地は整った。反撃の時は来たれり。

868: 2015/02/12(木) 22:27:27.34 ID:vfLTSHoEo
次回予告!

「ちょっと様子見で行くか?」
「ル級、Flagship、Two! 真っ向からの勝負ネー!」

無慈悲な道中のル級!

「どうしたものか……」
「那珂ちゃんにおまかせ!」

アイドルの奇策……!

「夜戦でも、止めを刺しきれません……」
「ノーカラテ、ノーカンムスだ。この本にもそうある」

夜戦の極意……!

次回、Avengers Of Truk Anchorage ~Episode 2~ 弾幕の嵐を抜けて
乞うご期待!

873: 2015/02/14(土) 21:16:33.67 ID:fQPVyyVno
――― バンバンバンバンバレンタイン ―――

「しーれぇっ、えへへ」

屈託のない笑みを浮かべながら執務室に雪風が入ってくる。手は後ろに隠している。

「どーした雪風」

予測はつくが一応訊く。

「艦娘みんなを代表して、バレンタインのチョコレートです!」

そう言って雪風は後ろ手にして隠していたチョコを差し出す。

「ありがとう。あとでみんなにもお礼を言わんとな。……ところで、代表といったがやっぱ秘書艦だからか?」

「じゃんけんで決めました! 最後は雪風と初霜ちゃんとの一騎打ちでした!」

「……艦娘においては甚だ不平等な決め方じゃないかなそれ」

雪風に聞こえないようポツリと呟く。

「? なんか言いましたか、しれぇ?」

「んーん、なんでもない。それより雪風、ちょっとおいで」

「なんでしょう?」

トコトコ近づいてくる雪風。その小さな体をぎゅっと抱きしめる。

「わわっ、しれぇ!?」

「今日は確かにバレンタインデーだが、もう一つ大事なことを忘れちゃいないか?」

「? ……そうだ! しれぇとケッコンして今日で一周年です!」

「はい、正解」

雪風を抱き上げて口づけをする。

「はふ……」

「こういう機会でもないとこう、照れちゃって言いづらいけど……雪風、愛してるよ」

「しれぇ、雪風もです……」

878: 2015/02/16(月) 22:47:32.59 ID:zYupIrM3o
トラック泊地周辺の潜水艦は駆逐した。足元を気にしながら上空への注意を払うことは困難である。

つまりは、敵の襲撃前に潜水艦を始末することは必須といってもいい。

防波堤に腰掛けて空を見ている少女が一人。

「龍驤、敵の様子はどうだ?」

「潜水艦のほうは大人しゅうなったけど、東のほうからぎょうさん来てるで」

「機動部隊か」

「せやな。潜水艦追っ払ったぐらいで止めるつもりはないみたいや」

「んじゃ、ちょっと様子見で行くか? 龍驤は敵の監視を続けてくれ」

「わかったで。……っと、戻ってきたみたいやな」

龍驤は巻物を広げ、彩雲と指揮連絡機を着艦させる。紙に戻った式をしまい、新たな偵察機を飛ばす。

「手馴れたもんだな」

「いやいや、まだまだやで」

879: 2015/02/16(月) 22:50:26.89 ID:zYupIrM3o


Avengers Of Truk Anchorage ~Episode 2~ 弾幕の嵐を抜けて


『ル級、Flagship、Two! 真っ向からの勝負ネー!』

金剛から入る報告。フラ戦との殴り合いはもはや日常茶飯事レベルである。

アウトレンジからの航空攻撃、甲標的による雷撃、46cm砲による先制攻撃。殺られる前に殺れ、はもはや基本方針である。

「しかし可能なら避けては通りたいもんだよなぁ」

練度を幾ら上げようが当ててくるときは当ててくるのが深海棲艦である。

『敵本隊を発見。これより交戦に入ります』

「様子見とはいえ、手加減する必要はない。可能な限り叩き潰せ。オーバー」


「けほっ……」

「おかえり雪風」

雪風が大破、大井、北上が小破した他は損害軽微。そこまではよかった。

~~~~

『敵艦隊、撃滅しました……嘘、援軍!?』

本隊を沈めたものの、新たな艦隊が向かってくるのを大鳳が発見し、撤退することになったのだ。

~~~~

「こちらの艦載機もだいぶ落とされました。撤退はやむを得ませんね」

加賀が残りの戦闘機を着艦させながら呟く。

「回遊タイプでなく目的を持ってる以上、有限ではあるはず……」

「じゃ、どうすんのさ?」

北上の疑問。

「決まってるだろ。向こうの大将を引きずり出して、潰す」

880: 2015/02/16(月) 22:52:35.01 ID:zYupIrM3o
トラック泊地、臨時鎮守府。

ポータルですぐ行き来できるとは言え、当然泊地側に置いたほうが即応しやすいということで作戦中は基本的にトラック側で執務を行なっている。

「……面倒くせぇなぁ」

海図を見ながら愚痴る提督。支援艦隊を送る場合、主力への到達率が重要になるが、フラ戦に追い払われたら元も子もないのだ。

「南側に行ければいいんだが、どうしたものか……」

偵察によると水上打撃部隊が主で航空戦力が少ないらしい。だが海流は北東へ流れている。

どうしたものかと悩んでいると、ノック音がする。

「開いてるぞ」

「失礼しまぁす!」

部屋に飛び込んで来たのは那珂。

「どうした?」

「提督さん、ルートに悩んでるようだけど、そこは那珂ちゃんにおまかせ!」

そう言って手渡してきたのは数枚の資料と一枚のメモ紙。

資料には羅針盤制御の検証が、メモには那珂が書いたと思しき艦隊編成の具申が綴られていた。

「軽巡1、駆逐3か……。戦艦と航巡はいいとして雪風と……秋月と吹雪?」

「ほら、この構成だと主力とぶつかるとき厳しくなりそうでしょ? だから対空に優れる子がいいかなー、って」

「物は試しだ。やってみるか!」


具申通りの艦隊を組んだ結果、羅針盤の妖精たちは嘘のように大人しく南を指し示し始めた。

羅針盤妖精たちは艦隊編成と海流を考慮に入れて舳先を向けるべき方角を決めているという。

「さぁ、かかってらっしゃい!」

「その艦、貰ったぁ!」

水上打撃部隊同士の交戦において、制空権を確保できる航空巡洋艦の有無は、戦況の明暗を分ける。

哨戒線を突破し、艦娘たちは南側からの進撃ルートを切り拓いた。

肝心の敵機動部隊との交戦も、支援艦隊からの砲撃と夜戦によって突破していった。そして……。

881: 2015/02/16(月) 22:55:58.32 ID:zYupIrM3o
「敵艦隊、見ゆ! ヲ級の……改じゃ!」

『敵大将のお出ましだな。ヤツの首を取れば勝ちだ!』

だが、敵もさるもの。背水の陣とばかりに旗艦を守りに来る。

「くっ……仲間を盾にしてまで生き残るとはの!」

大型艦の攻撃を凌ぎ、撤退に入るヲ級改。そこに追随する吹雪。

「当たってぇ!」

懐に飛び込んだ吹雪の攻撃を、その身体ごと杖で薙ぎ払う。

「きゃぁっ!?」

海面を数度跳ねた後、急いで体勢を立て直すが、既に交戦可能距離から遠くに逃れた後であった。


トラック泊地。艤装の修理と燃料弾薬の補充で、出張してきた妖精さんたちは大わらわである。

「うぅ~、すみません司令官……」

せっかくのチャンスを生かせなかったことを悔やんでか、頭を下げる吹雪。

「まぁトドメを刺し損ねたのは仕方ない。次やればいい。が……夜偵使えないのは厳しいよなぁ」

「夜戦、どうすれば決められるでしょうか……」

「……ノーカラテ、ノーカンムスだ。この本にもそうある」

そう言いながら提督は読んでいた本を振る。表紙には【完全無計画】【与太話】などと威圧的な字体で書かれている。

「あの……それフィクションですよね?」

「この世界のフィクションは別世界線の真実だ。って猫吊るしが言ってた」

ぽん、と本を閉じる。

「ともかく、極限まで接近して絶対ぶっ頃すレベルの強い意志を以ってすれば大体殺せると思うよ。至近砲撃ぶっぱした俺が言うんだから間違いない」

「あれは無茶すぎます!」

882: 2015/02/16(月) 22:57:54.36 ID:zYupIrM3o
再度の出撃。道中は全く問題にならず、敵本隊も夜戦まで持ち込んだ。

雪風やビスマルクたちの砲撃を僚艦を盾にして防ぎ、撤退しようとするところも同じである。

奇しくも、再び逃げるヲ級を吹雪が追う構図となった。

「今度こそ……!」

敵のバイタルパートに長10cm砲の狙いをつける。ヲ級の青く燃える左目が吹雪を睨む。

ぎりぎりまで近づく。発砲。先ほどと同じく振るわれる杖。

だが、杖から伝わるのは砲弾を弾いた感触のみ。直後、喉元に突きつけられる砲身。

「私が、やっつけちゃうんだから……!」

接射。深海棲艦といえど、至近距離から艦娘の砲撃を喰らって生きていられる可能性は無に等しい。

吹雪の一撃を受け、ヲ級改の首から上は粉みじんに吹き飛んだ。

「……はぁ、はぁ……」

トリガを引く瞬間の、ヲ級の怯えたような目。自らの弾が頭部を砕く音。遠距離での砲撃とも、雷撃とも違う感触。

元は艦船――それも敵を沈めるための――だったというのに、動悸が止まらない。何か、自分が別のもの、なってはいけないものに変質していくようなどす黒い感情。

心配そうな顔をしながら雪風が近づいてくる。

「吹雪ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫、ちょっと、疲れただけだから……」

息切れを隠し切れない吹雪に、ぎゅっ、と抱きつく雪風。

「……吹雪ちゃん、帰ろう?」

「……うん!」

883: 2015/02/16(月) 22:59:22.31 ID:zYupIrM3o
次回予告!

連合艦隊、出撃する!

「機動部隊でいいか」

復活する戦艦棲姫!

「いい加減にしろよ……」

そして奥に潜むモノは……!?

「あの髪型は……!」

次回、Avengers Of Truk Anchorage ~Episode 3~ 敵の主力を打ち砕け!!

「ところでクリア後のこの一番右の、E-5のやつじゃね?」

887: 2015/02/18(水) 22:42:47.34 ID:mWCK5U00o
トラック泊地、埠頭。機動部隊撃滅の報から一夜明け、次なる作戦のブリーフィングを行なっている。

「足場は確保した、頭の上のハエも追っ払った」

すなわち、トラック空襲の悲劇を防いだことになる。が……。

「だがソレで終わりではない。後に控える後詰めを片付けるまでが仕事だ。そうだろう?」

ホワイトボードに張られた海図には、緑の矢印と、先が砕けた赤の矢印が描かれている。

「龍驤、説明を」

「任せとき」

提督からレーザーポインタを受け取り、説明を始める。

「ウチらはこのトラック周辺の制海権と制空権を確保した。だけど敵部隊はあれだけやなかった」

泊地から真東の方向にいくつかのコマを貼り付ける。

「彩雲の報告によると、強力な水上打撃部隊を用意しとるみたいや。未確認の新型もおるらしいで。多分それが総旗艦や」

「そいつらを沈めなければ再びトラックは火の海となるだろう。これを連合艦隊で迎え撃つ!!」

888: 2015/02/18(水) 22:46:17.63 ID:mWCK5U00o


Avengers Of Truk Anchorage ~Episode 3~ 敵の主力を打ち砕け!!


「編成はまぁ……機動部隊でいいか。第一艦隊は金剛霧島に、とねちく、加賀・大鳳。第二艦隊は雪風、島風、ビスマルクに那珂に秋月、後羽黒」

手早く編成を決め、出撃準備を整える。

「もはや何も言うことはあるまい。暁の水平線に勝利を刻めぃ!!」


歴戦の艦娘たちにとってもはやそこらのフラグシップの寄せ集め程度の敵前衛艦隊など敵ではない。だが、しかし。

「敵艦隊発見……あれは……戦艦棲姫」

幾度となく対峙して来た黒き巨塔。

『また行く手を阻むか……いい加減にしろよ……』

「だけど、みんなの力を合わせれば敵わない相手じゃない! 第一次攻撃隊、発艦始め!」

大鳳のボウガンの引き金が引かれるとともに、戦闘が始まった。


結果から言うと、大勝であった。よくよく考えれば渾作戦にて連合艦隊で打ち砕いているのだ。苦戦する道理はない。

「やりました」

戦艦棲姫の撃沈を確認し、艦載機の着艦シークエンスに入る加賀。

「これなら何がきてもNo Problemネー!」

意気揚々と最深部に突き進む。

889: 2015/02/18(水) 22:47:14.47 ID:mWCK5U00o
「報告ー! 敵旗艦に那珂ちゃんがいまーす……ってえぇ!?」

偵察機を飛ばして敵編成を確認していた那珂が素っ頓狂な声をあげる。

『んな莫迦な、とも言えんな。渾作戦のときに春雨そっくりの深海棲艦がいただろう。おそらく、その亜種だ」

更に接近。偵察機から送られてくる映像は、凶悪な面構えをした那珂そのものであった。

『おそらくは、ここで沈んだ那珂やその乗員の負の感情を練りこんで作ったもんだろうな。春雨の件といい、雪風攫って来た時より進歩してやがるぜ』

「うぇ~。なんか嫌な感じー……」

『文句言ったところで詮無いわな。来るぞ、戦闘隊形用意!』


胸像めいた上半身、深海棲艦の禍々しさをもつ下半身。軽巡棲鬼は不気味な笑みを浮かべながら砲撃を撃ちこんでくる。

それに呼応して随伴艦もいっせいに動き出す。

砲弾が飛び交い、魚雷が走る。艦載機から爆弾が降り注ぎ、高角砲が空を穿つ。

敵味方入り乱れる大乱戦。単純戦力で倍の相手に一歩も引けを取らない。

「Burning...Looooooove!!」

金剛の徹甲弾が軽巡棲鬼に直撃、炸裂する。

「……まさか、そんな!? あの角度、直撃したはず……!!」

レーダー反応を見て霧島が驚愕する。軽巡棲鬼のシニョンが解け、胸元の服らしき部分は大きく損傷したものの、それだけであった。

『その程度か……』

憎しみと侮蔑の込み入ったような声。肉食の魚を模したと思しき下部ユニットの顎が更に開かれる。

『二度と浮上できない……深海に……沈めッ!!』

軽巡棲鬼が吼え猛ると同時、暗夜煙幕が辺りを包み込む!!

890: 2015/02/18(水) 22:49:19.10 ID:mWCK5U00o

「那珂ちゃんセンター! 一番の見せ場です! みんな、カバーよろしくね!」

それを迎え撃つように那珂が立ちふさがる。アイドルを自認しているとはいえ、川内型の血は争えない。近距離での激しい砲撃が繰り広げられる。

一方、カバーに入る雪風たちの前にはヲ級とタ級が立ちふさがる。

決断するは羽黒。

「雪風ちゃんと秋月ちゃんはヲ級を! ビスマルクさんと島風ちゃんはタ級をお願い! その隙に私が突破します!」

「Ja!! 任せといて!」

闇夜を飛び回る艦載機を高角砲で制し、戦艦とその護衛艦で同じ戦艦に当たる。砲火が暗闇の中で瞬く。

那珂と軽巡棲鬼は更に距離を狭めて撃ち合っていた。

「これで、決めちゃうんだから!!」

至近距離からの魚雷。普通なら逃れる術もなし。普通なら。

加速。那珂の予想を遥かに上回る速さで接近、魚雷が広がる前に側面へ回りこみ、左右の連装砲の照準を合わせる。

「やっちゃった……!?」

急いで振り向くが、迎撃には間に合わない!!



「私が、護ります!」


二度の、砲撃音。



下部ユニットを砲塔ごと砕かれ、炎に包まれて沈み往く鬼の姿がそこにあった。

「間に合いました……」

「ふぅ~羽黒ちゃん、ありがとー!」

『やれやれ、これでトラックも平和になるか……。全艦、帰投せよ』

通信を聞き、安堵する提督。


『進むが……いいさ……その、先には……』


891: 2015/02/18(水) 22:55:24.00 ID:mWCK5U00o
次回予告!

「なんかすごいのが来とるでぇ……」

新たなる機動部隊!!

「ここは一つ私達が何とかしないと……!」

独断専行!!

「火の塊となって……沈んでしまえ!!」

蘇る悪夢……!!

次回、Avengers Of Truk Anchorage ~Episode 4~ 先に待つのはさらなる地獄!!

「あれ、これ第二"破"になってやがる」

892: 2015/02/18(水) 22:55:54.11 ID:mWCK5U00o
雑談スレに誤爆った……うぐぐ

894: 2015/02/18(水) 23:47:18.52 ID:zmGyuXgSO
乙ですよwww

次回:泣き虫雪風と釣り人提督【その21】


引用: 【艦これ】泣き虫雪風と釣り人提督 Part2