899: 2015/02/23(月) 22:34:24.36 ID:eGWLfevro


前回:泣き虫雪風と釣り人提督【その20】
最初から:泣き虫雪風と釣り人提督

トラック沖にて軽巡棲鬼率いる艦隊を撃破。これでトラックにも平和が戻る。誰もがそう思った。

……一通の通信が来るまでは。


「よーし、帰るとするか」

艦隊を収容し、ぷかぷか丸の舳先をトラック泊地に向ける。

艦娘たちは全員艤装を解除し、思い思いに休憩を取っている。

「んぁ~。今回も何とかなったな、雪風」

「頑張りました!」

雪風がふと空を見上げると偵察機が一機、ぷかぷか丸を追うように飛んでいることに気づいた。

「しれぇ、彩雲が来てます!」

「加賀か大鳳の収容し損ないか? どっちでもいいからちょっと飛行甲板持って来るよう言ってきてくれ」

「わかりました!」


飛行甲板を持ってデッキに上がった加賀が、はぐれ彩雲を収容する。妖精が降りると機体が式紙に変わった。

「この機体……龍驤のね。どうしたのかしら」

紙切れになった彩雲を丸めると、懐からメモを取り出して加賀に渡した。

「龍驤も回りくどいな。無線封鎖下じゃあるまいし」

「……これは」

提督は軽口を叩いていたが、メモに目を通した加賀の目つきが鋭くなる。

「提督。可能な限り速やかに泊地に戻り、艦隊の再編成を」

加賀が提督に見せた文面。それは加賀の意見具申が正しいと断言できるものであった。


『更ナル敵ノ後続部隊ヲ確認セリ。空母棲姫含ム多数ノ機動部隊、東北東ヨリ接近中』
海の画集 -「艦これ」公式イラスト集-
900: 2015/02/23(月) 22:35:08.82 ID:eGWLfevro


Avengers Of Truk Anchorage ~Episode 4~ 先に待つのはさらなる地獄!!


トラック泊地、埠頭。猫吊るしが両手に書類を抱え、龍驤とともに待っていた。

「その顔、ウチの連絡は見てくれたようやな」

「まぁな。敵陣はどんな感じだ?」

「フラヲやフラヌのペアを基幹とした連中がぎょうさんうろついとる。艦載機が新型でない分マシやけどな。それに、なんかすごいのが来とるでぇ……」

「空母棲姫も来ているとか」

その言葉に龍驤は深くうなずく。

「ふーむ、猫吊るし、潮目はどうなんだ?」

「こちらの資料をどうぞ」

渡された資料には駆逐2隻と低速戦艦を軸にすれば正面突破が可能であることを示していた。

「……雪風と、防空に秋月と加賀、主火力に扶桑山城、そして決定打を浴びせるための北上で行くか。……支援砲撃も欲しいところだな」

ちら、と西の空を見る。明日も好天であることを示すかのように、夕日が眩しい。

日が暮れると艦載機はほとんど役に立たなくなる。それに、大きな戦の後で疲れもある。

「出撃は明日だな……」

901: 2015/02/23(月) 22:36:12.86 ID:eGWLfevro
翌朝!

「補給用資材よし、バケツの積み込みよし。あとは……」

ぷかぷか丸に資材を積み込んでいく。

「徹甲弾は九一式でいいのでしょうか……?」

「そうだな……。扶桑、大和と武蔵が一式を受け取って山城と一緒に装填しとけ」

「わかりました」


「加賀、彩雲を下ろして爆戦だ。後は烈風601と烈風改を積もう。空母棲姫に対抗するならこのぐらいやらんとな」

「いい判断ね」


「雪風、秋月。秋月砲の準備はいいか?」

「ばっちりです、しれぇ!」

「予備の砲身も十分そろえました!」


「提督、こっちも準備できたよ」

「よっしゃ、全員乗り込め! 出撃だ!!」

902: 2015/02/23(月) 22:37:57.79 ID:eGWLfevro
トラック泊地、埠頭。ぷかぷか丸を見送るは那珂。明るい声で頑張ってと声援をひとしきり送った後。

「あ~あ、今日はオフかなぁ……」

一抹の寂しさとともに待機所へ戻ろうとしたところに突如肩を掴まれる!

振り向くと歯をむき出しにし、口の端をつり上げた、長髪の少女の顔が!

「ひゃぁ、け、軽巡棲鬼!?」

身を翻し、距離をとり、戦闘態勢をとる。

「ちょ、ちょっと待ってよ阿賀野よ。あ・が・の」

腕をばたばた振って止める。その手には何か紙が一枚握られている。

「ふぅ~、びっくりしたぁ。どうしたの、阿賀野ちゃん?」

「そうそう、せっかくのトラック泊地の防衛なのに、あたしたち活躍出来てないでしょ? ここは一つ私達が何とかしないと……!」

そう言って持っていた紙をバッと開く。トラック諸島東の海流図。

「南回り見てよ、ほらここ」

南を大回りして敵補給線を通過して敵主力に当たるルート。その分岐条件は……。

「トラック泊地に縁ある者……?」

その一文と一緒に走り書きで、阿賀野・那珂・野分&舞風、と記されていた。

903: 2015/02/23(月) 22:38:36.06 ID:eGWLfevro
「うーん、行きたいのは山々だけど、いいのかなぁ……」

腕を組み、悩む那珂。

「ふふーん。これでも最新鋭けーじゅんなのよ? 言質も抜かりないわ」

マイクレコーダーを取り出し、再生する。

『あぁ? ワ級潰し? イージーワークスだろ。そっちの判断に任せるぜ』

「うわぁ……確かに補給線にワ級はいるけど。あと旗艦バッジは?」

「そこも抜かりなし!」

胸元から取り出す第三艦隊の旗艦バッジ。

「遠征終わったところだしちょっと借りちゃった」

「あとはメンバーだけど……私たちじゃちょっと火力不足じゃない?」

那珂の疑問に応えるよう、物陰からひょいと顔を出す二人の航巡、利根と筑摩。

「そうでもないですよ?」

「我輩たちに任せるがよいぞ!」

ふふん、と腰に手を当てて胸をそらす阿賀野。

「ちゃーんと説得してきたんだから!」

904: 2015/02/23(月) 22:40:01.31 ID:eGWLfevro
一方その頃、トラック沖では……。

『火の塊となって……沈んでしまえ!!』

「着弾観測……いけるかしら」

「敵艦載機は私が抑えます。雪風、秋月。迎撃準備を」

「はい!」
「了解です!」

「んー、ヌ級落としたよ。でも前衛が厄介だねぇ……」

一進一退の攻防を繰り広げていた。

「姉様、さすがに硬すぎません?」

「実際対面するのはこれが初めてだけど……見た目半壊してるのにピンピンしてるわね」

「これは夜戦に持ち込むしかないかな……」

北上の呟きとともに、辺りが暗くなり始める。

905: 2015/02/23(月) 22:42:35.48 ID:eGWLfevro
「夜でも遠慮無く艦載機を飛ばしてくるなんて……!」

「こんなに暗くては対空砲火も難しいです!」

「あれ本当に艦載機何ですか姉様? 生き物だったりしません?」

艦載機を飛ばして牽制しながら徐々に離脱していく空母棲姫。

「うー、至近に飛び込もうにもあの丸いのが邪魔だよぅ」

「雪風の方も厳しいです……。なんとか足止めできればいいんですが……あれ、あの艦隊は……?」

空母棲姫の更に向こうから、艦隊が近づいてくる。識別灯から艦娘のものと分かる。

戸惑った空母棲姫に向かって砲火。水柱が夾叉する。

「此処から先は通行止めじゃ! 大人しく深海の底へ沈むが良い!」

「那珂ちゃんセンター! みんな、派手にいっくよー!!」

姫の進行方向に降り注ぐ弾の嵐、嵐、嵐。

その足止めがあれば十分だった。

「酸素魚雷、装填よし。全門ぶちかますよー!」

闇夜の海中を奔る酸素魚雷。もはや空母棲姫に逃げ場はない。

そして雪風もまた狙う。空母棲姫の心臓めがけて砲を撃つ!!


大爆発。


北上の魚雷の起爆と、雪風の砲弾が空母棲姫の胸を貫いたのはほぼ同時刻であった。

906: 2015/02/23(月) 22:48:12.80 ID:eGWLfevro
次回予告!!

「何でお前らここにいるんだよ」
「補給艦任務のもののついでですー」

苦しい言い訳!!

「なんだありゃぁ……」

さらなる強敵!!

「勲章などいらん。やれるならやってみろよ」
「そんなに私の力が見たいのですか」

非情なる決断!!


Avengers Of Truk Anchorage ~Final Episode~ この悪夢に決着を!!

913: 2015/02/24(火) 22:45:03.96 ID:ENVUBoTbo
――― 隼鷹←わかる 武蔵←まぁわかる イク・加古・朝霜←ファッ!? ―――

鎮守府、執務室。この部屋からの眺めはとてもよいと評判である。

提督「どうせ家具コイン余ってるからと那智や千歳にせっつかれて勢いで設置してしまったがこれは……」

バーカウンターと、所狭しと並ぶ酒、酒、酒。

提督「俺、酒呑まねぇんだけどなぁ……」

そこに入ってくる加古。

加古「提督ー、新しい書類だよー、って……おぉぉ……どしたんだいこれ?」

提督「いやぁ、模様替えにちょっとな。……何人かちゃっかりボトルキープまでしてやがるぞ」

加古「いいねぇ、これ。ちょっと呑んでっていい?」

提督「別にいいけど他人のボトル呑んでいざこざ起こすなよ。名前書いてないのは自由に呑んでいいから」

加古「ふぁ~い」


21時

加古「いやぁ、旨いねぇ」

提督「まだ呑んでるのか……」


23時

加古「んんっ、ぷはぁ~」

提督「まだ呑んでる……」


1時

提督「いやもういい加減帰れよ」

加古「……Zzzz」

提督「ね……眠りながら酒注いで呑んでる!!」

914: 2015/02/24(火) 22:49:34.87 ID:ENVUBoTbo
――― 稀に美味しい菱餅 ―――

提督「いやぁ、大漁大漁。これが菱餅ってヤツだな」

赤城「提督が深海棲艦から菱餅を奪うサマ……もはや追い剥ぎなのでは?」

提督「そりゃ新装備貰えるとなったら多少必氏になっても仕方ないだろう? お前らこそ何でここにいるんだよ」

赤城「菱餅が食べられると思って」

加賀「気分が高揚します」

提督「まぁいいや。とりあえず食うか。ほれ雪風も食おうぜ」

雪風「はい!」

提督「じゃ、いっただきまーす」

パクッ

雪風「美味しいですね、しれぇ。……しれぇ?」

提督「まずい」

加賀「まずいわ」

赤城「まずいです」

雪風「……?」

提督「ちょっと雪風の食わせてくれ」

雪風「あ、はい」

提督「……こっちは美味しい」


提督「……まさか」

運営電文:(中略)稀に美味しい【菱餅】を回収することが可能となります。(後略)

提督「稀に美味しい菱餅ってそういうことかよ!!」

920: 2015/03/01(日) 22:35:33.96 ID:kvzryjO+o
トラック沖。ぷかぷか丸甲板。

「何でお前らここにいるんだよ」

「補給艦任務のもののついでですー」

詰問する提督にすっとぼけたように応える阿賀野。

「バシーに行ってるか潜水艦をオリョールに送ってるもんだと思ったが」

「トラック沖の南にもいたのよ。補給線断てば皆への援護になるし」

「で、もののついででこっちまで来たってことかよ。クッソ危険な敵領海の最前線に。えぇ?」

「それについてはその……ごめんなさい」

しゅんとうなだれる阿賀野。

「……まぁ、あのアシストもあって主標的たる空母棲姫は沈められたし、今回は不問にしよう」

「もし沈められてなかったらどうなったんだろう……」

「アイドルが続けられない身になるレベルの懲罰が待ってたろうな」

「ヒッ」

那珂の呟きを耳ざとく捉えて付け足す。

921: 2015/03/01(日) 22:36:55.65 ID:kvzryjO+o


Avengers Of Truk Anchorage ~Final Episode~ この悪夢に決着を!!


トラック泊地に戻ると龍驤と猫吊るしが待っていた。猫吊るしはいつもの通りだが、龍驤は眉間に皺を寄せていた。

「どうした、龍驤。空母棲姫なら黙らせてきたぞ。それとも昼に食ったたこ焼きの中身がイカだったか?」

「……冗談言う気分やない。そろそろ彩雲が帰ってくる頃やから、実際キミに見てもらわんとな」

龍驤の後ろで猫吊るしがモニタの準備を整えていた。

「敵の援軍か?」

「せや。十中八九間違いないで」

帰還した彩雲を巻物に着艦させ、モニタからケーブルを彩雲につなぐ。映し出される深海棲艦の艦隊。

多くの深海棲艦。その奥に映る戦艦棲姫。それも二体。だが、それだけではない。

「なんだありゃぁ……」

戦艦棲姫より更に一回り、いや二回りはある新型の深海棲艦。

「戦艦水鬼ですね」

提督の頭の上に乗ってこともなげに言い放つ猫吊るし。

「資料はあんのか?」

「えぇ、主砲が20インチ、戦艦棲姫と違い昼夜連撃仕様、火力も装甲も耐久も戦艦棲姫を凌駕するとんでもないヤツですよ」

「あんなんどうすりゃえぇねん……」

頭を抱えてうずくまる龍驤。

「俺も同じ気持ちだよ……どうすりゃいいんだよ……」

922: 2015/03/01(日) 22:38:23.29 ID:kvzryjO+o
「ひとつ、手がなくもないですが」

ぼそりと呟く猫吊るし。

「あるのか!?」

「実はここまで頑張ったあなたのために勲章を造ったんですけどね。非常時に資源と資材に変えられる凄いの」

「いやそれはどうでもいいよ!!」

「どうでもいいならなおさら話が早いです。私がこれのパワーを解放することでトラック沖海域全体に特殊な結界を張って敵の力を弱めることが出来るのです」

「何で今までやらなかったんだよ」

「そりゃパワー練りこむのに時間かかりますし、やれといわれてポンポン撃てるようなもんでもないですし。それに勲章ですよ? 欲しくないです? 一生モンの名誉ですよ?」

「勲章などいらん。やれるならやってみろよ」

「そんなに私の力が見たいのですか」

そう言い放つと猫吊るしは猫を提督のほうに放り投げる。

「うぉっと!?」

そのまま桟橋の先まで歩いていき、手にした勲章を掲げ、握り潰す。

みしり、メキ、という船底がへし折れるような音。先ほどまで晴れ渡っていた空が暗雲に包まれる。風もないのに逆巻く波。

「サーバーエラーガハッセイシマシタオテスウデスガ……」

猫吊るしの言葉を最後まで聞き取る前に、衝撃波によって意識ごと吹っ飛ばされた。

923: 2015/03/01(日) 22:41:23.45 ID:kvzryjO+o
「……しれぇ、大丈夫ですか、しれぇ!?」

目を開けるとそこには涙目の雪風。

「あ、あぁ」

半ば引き起こされるようにして立ち上がる。何か後頭部が痛い。

「えーと、何で倒れてたんだっけ」

「深海棲艦弱体化させたところですよ。ほらさっさと退治してきなさい」

いつの間にかいた猫吊るしにどやされる。

「本当に弱ったのか?」

「もちろんですとも。敵艦隊の大半が弱体化、総旗艦も2割ぐらいスペックダウンしてるはずです」

「はずってのが気にかかるが……まぁいい。艦隊の選定に取り掛かろう」


「第一艦隊は金剛に、大和、武蔵、霧島、利根、大鳳。金剛に司令部載せて大鳳は対空重視。他は効率よく火力を出せるように」

工廠から必要な装備を持ってきて最終チェックを行なう。

「第二艦隊は雪風に、吹雪、ビスマルク、大井、北上、大淀。夜戦に突入したら大淀が探照灯と夜偵で援護する。逃さず仕留めろ」

念には念を入れる。相手が弱くなったからとて手加減をする道理はない。

924: 2015/03/01(日) 22:41:58.41 ID:kvzryjO+o
「主砲、斉射、撃てーッ!!」

大和の砲撃が、復活した軽巡棲鬼の腹、いや胴体に大穴を開ける。残った部分も折れ曲がり、上半身が下半身と泣き分かれになる。

「全く歯応えがない」

武蔵の放った主砲が、ル級の掲げた砲塔ごと本体を打ち砕く。フラ戦の群れを相手取っても全く進軍速度は衰えない。

「油断は禁物ネー! DemonClassが近づいてるヨ!」

「霧島偵察機3番、空母棲鬼を確認!」

「制空権、取りきれません!!」

「なぁに、あの頃より我輩たちの練度も上がっておる。一気呵成に攻め立てようぞ!」

幾重にも渡る深海棲艦の輪を突破していく艦娘たち。

最終防衛ラインであろう空母棲鬼も難なくすり潰して抜ける。

「敵主力、発見しました! 報告のあった戦艦棲姫は……見当たりません!」

『どういう仕組みだよ……。あいつ何やったんだよ……』

「あれが……戦艦水鬼!」

大鳳の敵旗艦の確認と同時に、無線に割り込む声。

『忌々しい……ガラクタどもめ……!!』

「何か返答しますか?」

『そうだな』

顎に手を当てしばし思案する。

『誰が真のガラクタかわからせてやろう! その憎悪ごと水底に還してやれ! 全艦、突撃!!』

925: 2015/03/01(日) 22:43:54.58 ID:kvzryjO+o
戦艦水鬼の力を二割ほど弱めた、と猫吊るしはのたまった。だが、それの真偽が付かないレベルの強さを誇っていた。

「51cm砲を……防いだ!?」

大和の渾身の一撃すら背部艤装にある巨大な右腕で防御。本体へのダメージを最小限にとどめた。

「あの衝撃を喰らってなお、立っていられるとはの……」

「だが何度も浴びせれば貫けるはずだ。撃てーっ!」

次々と砲火を浴びせる。だが防御した姿勢のまま、20インチの砲を艦娘たちに向ける。


鈍い重低音。音が届いたときには既に大和が吹っ飛ばされていた。

艤装の重さなど知ったことかとばかりに体を海面に叩きつけられながらすっころがる。

「大和を一撃で……!?」

「うっへぇ、ほんとに弱体化してんの?」

驚愕するビスマルクに呆れる北上。

「今こそチャンスじゃ! 第一艦隊に照準を合わせているうちに懐に飛び込んで、ケリをつけるのじゃ!!」

「……はい! 第二艦隊、追撃します!!」

雪風を先頭に、第二艦隊の面々が戦艦水鬼へと突進する。

「Feuer!!」

「お願い、当たって!」

「海の藻屑となりなさいな!」

「40門の酸素魚雷、二回行きますよー」

「そう、これが本当の大淀型の力よ!」

ありったけの砲雷撃を叩きこむも、両腕を振り回して致命打を与えさせない。

そうこうするうちに戦艦水鬼が煙幕を出して逃走を始める。

926: 2015/03/01(日) 22:46:33.44 ID:kvzryjO+o
「でも、あれだけやればあたしと大井っちの夜戦距離での連携で沈められるはずだよ」

「その前に私が沈めちゃうかもね」

「そういうことは沈めてから言いなさいな」

軽口を叩き合うビスマルクとハイパーズ。


「大淀さん、探照灯の準備はいいですか?」

「えぇ。夜偵のデータリンクも準備完了です」

「さぁ吹雪ちゃん。行きましょう」

「……はい!」

「砲雷撃戦……続行します!」

雪風の号令とともに大淀の探照灯が闇を引き裂き、戦艦水鬼を照らしだす。

そのまま牽制の砲撃を放ちながら右へ左へと翻弄し、狙いを定めさせない。

「雪風たちで戦艦水鬼の防御をこじ開けましょう!」

その言葉に吹雪はコクリと頷く。

照らしだされる戦艦水鬼の姿。左腕で大淀の砲撃をいなしていく。二人の駆逐艦はその側面に回りこむ。

「……行きますよ」

そう言うと雪風は頭上から魚雷を呼び出す。

53cm艦首酸素魚雷。直径こそいつも使っている61cm酸素魚雷より小さいが、火薬の量では上回る最強の艦娘用汎用魚雷。

「沈むわけには、行きません!!」

戦艦水鬼に航跡もなく近づく魚雷。これで決まるかと思われた瞬間、艤装の右腕が僅かに振り上げられた。

「そんな、気づかれた!?」

海面に腕を思い切り叩きつけ、魚雷を防御! 上がる水柱。焦げる手の甲。殺意の籠もった眼差しで攻撃者の方を見る。

「本当に、忌々しい……!!」

20インチの砲塔を雪風の方に向け、照準を合わせる。

その一瞬の隙、振り下ろした艤装右腕の陰から何者かが飛び出す。

10cm連装高角砲を両手で握り、砲身の先を戦艦水鬼本体の胸に向ける。

「お願い! 当たってください!!」


上がる火柱。沈む巨影。

「……あら、沈んじゃってる?」

「ホントだ。全く駆逐艦ときたら……」

「他の子にトドメ持ってかれるの、コレで何度目かしら……」

927: 2015/03/01(日) 22:47:33.86 ID:kvzryjO+o
次回、Avengers Of Truk Anchorage ~Epilogue~ そして菱餅へ…… に続く。

だいぶ長引いてしまった……

931: 2015/03/03(火) 21:09:17.40 ID:uOlb5I9ao
――― 鶴翼の絆4巻では舞風が活躍していました ―――

鎮守府沖。見渡す限りの水平線。そこに金髪まばゆい一人の少女が立っていた。

舞風「提督ぅー、こんなところまで連れ出して何するんですか?」

提督「特別訓練、略して特訓だ!!」

舞風「特訓??」

提督「実は別世界線での艦娘の話の続きがあってな。そこでは舞風が艦戦を指揮して」

舞風「私が旗艦に?」

提督「あ、船のほうの艦船じゃないぞ。戦闘機のほうな。艦戦を指揮して舞い躍るように敵航空機を迎撃してたんだ」

舞風「素敵ですね」

提督「ということであっちから正規空母が一人平均50*9でざっと450機の烈風を飛ばしてくるから、向こうから飛んでくる軽空母隊の流星改や彗星や烈風をナントカ捌いてね」

舞風「えっ」

提督「んじゃ俺は戦闘区域から退避する。頑張れ!!」

舞風「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ!?」

提督「もう双方発艦済みらしいから無理!!」



舞風「」プシュー(黒こげ)

提督「Oh...」


この後無茶苦茶ボーキ減った

937: 2015/03/05(木) 22:40:44.73 ID:SyRkZX8go
鎮守府、執務室。

戦艦水鬼の撃沈後、深海棲艦は嘘のように大人しくなり、トラック泊地の危機は去った。

新たに着任した艦娘たちの練度を上げ、いつもの日常に戻る。……そう思っていた矢先。

「菱餅とは何ぞや……?」

提督が読んでいた資料にでかでかと描かれている菱餅。確かに桃の節句は近いし時節物だが。

要するに一部の深海棲艦から菱餅というものを得られるということであるらしい。

「ネジと交換できるといってもなぁ……」

だが、提督は見てしまった。

「3つ集めれば家具職人、10個で熟練見張員……!?」


Avengers Of Truk Anchorage ~Epilogue~ そして菱餅へ……

938: 2015/03/05(木) 22:42:53.31 ID:SyRkZX8go
鎮守府近海、南西諸島防衛線。

「月初めぐらいしかあいつ等来ないからヒマだわー」

ヌ級の頭上に座ってボヤくヲ級。そんな彼女の元に届く通信。

「あら、哨戒部隊から? はーい」

『ず、瑞雲が! 瑞雲の群れが!!』

「は? 航空巡洋艦でも出してきたの? 敵艦隊構成は?」

『いません! 瑞雲しか見えnうわぁぁぁ』

爆音とともに通信が途切れる。瑞雲。艦娘の使う水上爆撃機。基本的に航空巡洋艦や航空戦艦が用いる機体。

遠くから飛ばすにしろ、重巡クラス以上の相手の姿が見えないということは有り得ないはず。

間をおかず、再び通信が入る。護衛空母部隊からのものだ。

『こちら瑞雲部隊と交戦、敵艦の姿は見えず』

「そんな莫迦な。もっとよく探してみなさい」

返ってきたのはやはり爆音。

「……明らかに近づいてるわね。全艦戦闘準備」

ヌ級の頭から飛び降りて着水し、艦載機を飛ばしてあたりを探る。

「……おかしいわね。西から来てるならここらへんを通るはず」

艦載機の進路を南に向けたその刹那。突然十数機の瑞雲が水面から飛び出した!!

「なっ、海中から!?」

慌てて艦載機に戻るよう指示を出すが、遅い。駆逐艦は瑞雲の爆撃で沈められ、随伴艦のヌ・ヘ・リ級も爆沈。

無論、瑞雲にこれほどの威力の爆弾を積んでいるはずもなし。

「て、撤退しなきゃ……!!」

ほうほうのていで逃げ出すヲ級。だがそこは既に魚雷の射線上であった。

939: 2015/03/05(木) 22:45:56.47 ID:SyRkZX8go
「はっちゃん、やっちゃった?」

「ワァオ!! 大漁、大漁!」

「うーん、持ってないでち」

「残念ですね、でっち」

「でっちじゃないでち!」

「せーらんさん持っていきたかったなぁ」

「次、いくのー!」


沈み逝くヲ級はスク水姿の少女たちに散々体をまさぐられた挙句、深海へ投棄された。

940: 2015/03/05(木) 22:47:36.78 ID:SyRkZX8go
北方海域、アルフォンシーノ方面。四隻の正規空母が敵艦隊に雨霰と爆撃を行なう。

仕留め損ねは木曾の魚雷とビスマルクの徹甲弾が沈めていく。

「提督さーん、ヲ級鹵獲したわよ」

「よーし、よくやった瑞鶴」

鹵獲したヲ級をいつも通り吊るして、

「オラッ、菱餅出せ!!」

過激なことを言いながら頭部の艦載機格納部分を切り開く。艦載機に混じってちょこんと置かれている三段のひし形。

「あったあった」

菱餅を慎重に取り出し、ヲ級の拘束を解いて海に投げ捨てる。キャッチアンドリリースである。

「なんだか残酷なような気がします……」

「なぁに、別世界じゃ北方棲姫をボコボコにして奪うのがトレンドらしいしこれぐらいやさしいもんだ」

「正直あまり変わらないような……」

翔鶴の突っ込みを無視して羅針盤を回す。向きは北東。

「よし、次行くぞ!!」


こうして、二つの海域は特に理由もなく無慈悲な艦隊によって荒らされたのであった。とっぴんぱらりのぷう。

943: 2015/03/10(火) 22:21:43.54 ID:CiF/pi5uo
――― かげばつも早5巻か…… ―――

提督「『陽炎、抜錨します!』も早5巻か……」

陽炎「またどっかの海域行くの?」

提督「そうだな。5巻はキス島らしい。駆逐艦オンリー艦隊にはお誂え向きの場所だ」

陽炎「えー、エリ戦凌がなきゃならないんでしょ?」

提督「羅針盤もあるしな。まぁ潮改二になってるし、皐月も長月もいつの間にやらそこらの改二基準レベル以上になってるし大丈夫だろ」


~~~艦娘招集中……~~~


提督「……うん、四人しかいないな」

霰「うん……」

潮「あの……」

曙「皐月も長月も東京急行に行ってていないでしょ!! ちゃんと把握しときなさいよこのクソ提督!!」

提督「てへぺろ」

陽炎「じゃあキス島出撃は」

提督「無期限延期」

947: 2015/03/12(木) 22:49:59.98 ID:si2lXzfGo
提督「んがぐぎぎぎ……たまには散歩して体ほぐすか」

鎮守府、艦娘空母寮。今日はなんか騒がしい。隼鷹が酒を飲んで暴れてるというわけでもなさそうである。

提督「何だ何だどうした」

飛鷹「あっ、提督。見てよこの子たち」

飛鷹の指差す方には大量の妖精たち。

提督「あれは紫電改二と彗星と流星の妖精だな。他のも混ざってるが」

飛鷹「出番がなくて暇だからってみんなして談話室の机やソファを占領しちゃって」

妖精たちは「出番よこせ」「役立ちたい」「アンタイセイ」などという札を持って何かを訴えている。
問題は各々言っていることに統一性がないので何を言ってるかよくわからないことだが。

提督「まぁよくもこんなに」

飛鷹「そもそも使ってないのに何でこんなに溜め込んでるのよ」

提督「ほら、艦載機の改修が来たら使うかもしれないし……」

しかしそれで妖精たちがへそを曲げてる現状、何とかしなければならない。

提督「……そうだ」


~~~~~~~~~~~~~


隼鷹「んん? 提督が談話室にいるなんて珍しいじゃん」

提督「まぁな」

飛鷹「ちょっと暇を持て余した妖精たちの有効活用をね」

隼鷹「ふーん?」

提督と飛鷹の間には盤があり、その上に多数の妖精が並べられている。ふむ、と呟いたあと、提督は二人の妖精の頭をつついた。
最初につつかれた妖精が二番目につつかれた妖精に近づく。ぽん、とハイタッチしたあと最初の妖精が盤から降りた。

提督「ぐぬぬ」

飛鷹「ふふーん、じゃあ私の番ね」

隼鷹「へぇ、軍人将棋?」

提督「まぁな。妖精も軍人みたいなもんだし」

隼鷹「軍人将棋って陸軍じゃなかったっけ? あたしたちがやっていいのかなぁ?」

提督「あきつ丸とかもいるし何を今更。細かいことは」

飛鷹「この子をこっちに、っと」

提督「あっそこはだめぇ!?」

954: 2015/03/15(日) 20:45:14.72 ID:Tw3SyunCo
――― 妖精たちのインフラストラクチャー ―――

熊野「17時。熊野はエステの予約がありますの。そろそろ失礼させてもらっていいかしら?」

提督「ん、あぁもうそんな時間か。もうあがりだな。いってらっしゃい」


提督「……待てよ、そもそもこのへんにエステサロンなんてあったか?」

非常口(窓)から外へ出て、気付かれないように熊野の後を追うことにする。


熊野「ふんふふ~ん♪」


提督「……おかしい。そっちは倉庫以外なにもないぞ。街の方へ行くんじゃなかったのか……?」

今は使われていないはずの倉庫群のある方へと熊野は向かっていく。

提督「ヤクの密売とかしてんじゃないだろうな。刑事ドラマではよくある話だ」

冗談交じりに呟きながら後を追う。


結論から言うと、倉庫群ではなくなっていた。

提督「どうしてこうなった……」

駅前のアーケードの模倣みたいになっていた。倉庫の一つ一つが何らかの店になっている。

店は妖精たちがやっているようだ。倉庫と倉庫の間を多数の妖精たちがせわしなく駆けまわっている。

艦娘の姿も少ないながら見かける。そして熊野も倉庫……だったものの一つに入っていく。

提督「ここに入ったか……」

入り口の上の看板には「え す て さ ろ ん」と大書してある。

提督「つーか本当にエステサロンなのか……?」

建物の中にそっと体を滑り込ませる。

受付の妖精には「提督として視察しに来た」と言いくるめて熊野のいる部屋をそっと覗いてみた。


そこにはクラシックをBGMにマッサージ椅子に座ってゆったりくつろいでる熊野の姿が!!

熊野「ん゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~」

提督「……めっちゃリラックスしてる」

よく見ると妖精がマッサージ椅子のリモコンを操作している。

提督は何も言わず扉をそっと閉じ、今回のことは自分だけの胸に秘めておくことにしたのであった。

だが彼は知らなかった。鎮守府にいる艦娘の大半がここのお世話になっていることを……!!

958: 2015/03/16(月) 22:19:46.53 ID:GZJq4Gh4o
――― 後継が手強過ぎる ―――

提督「改二も来た。ケッコンカッコカリもした」

扶桑「そうですね……」

提督「火力も戦艦時代超えてるし艦載機配分も按配よくなった」

扶桑「はい、それでも……」

提督「それでも?」

扶桑「伊勢、日向には負けたくないの……!」

提督「運も大幅に上昇したじゃないか」

扶桑「伊勢たちはまだ改二じゃないのよ。追い越されるのも時間の問題です……!」

提督「いやしばらく来ないとは思うけど。来るなら夏かなぁ……」

扶桑「それに運も全然追いつけてないの……!」

提督「そこらへんはまぁ、うん」

964: 2015/03/17(火) 22:14:47.83 ID:I2ojxF1qo
――― 自分ちが勝手に改造されていく感覚 ―――

山雲「夕食は、山雲が作りますねー。家庭菜園で作った、自家製野菜のカレーよー。おいしーのー♪」

雪風「山雲ちゃんのカレー楽しみですね、しれぇ!」

提督「……一点気になることがあるんだが」

山雲「なんでしょー?」

提督「この辺に家庭菜園できるような土地があったか?」

山雲「ありますよー。お野菜取りに行くから司令さんも一緒にご覧になりますー?」

提督「そうだな」


~~~艦娘移動中……~~~


駆逐寮裏の広場。

山雲「ここでーす」

山雲が手を広げて指し示す先にはそこそこの面積の畑が出来ていた。

提督「……おかしい。渾作戦の頃にはこんなのはなかったはずだが」

山雲「収穫しましょー。雪風ちゃん、手伝ってくれるー?」

雪風「はい、頑張ります!」

提督「……というかここつい最近までコンクリだったはずだろ!? どうして畑になってんだよっつーかもう野菜生えてるとかどういうことだよ一体!?」


なおカレーはとても美味しかった。

968: 2015/03/18(水) 22:56:03.39 ID:oPKezlq8o
――― ジュウコンも楽じゃない ―――

鎮守府、執務室

提督「艦娘の練度向上も順調。次は誰を育てるか……」

??「ひえぇぇぇぇぇぇぇぇ~!!」

奇声とともに執務室に飛び込んできたのは金剛型の二番艦、比叡。

比叡「し、し、司令、金剛お姉様とケ、ケ、ケッコンするって本当ですか!?」

提督「ケッコンカッコカリだろ」

比叡「雪風ちゃんというものがありながらそんな!?」

提督「それはゴーヤと北上のケッコンカッコカリの時点で指摘しような?」

比叡「じゅ、ジュウコン!? そんな破廉恥な!?」

提督「何を勘違いしてるかは手に取るようにわかるがお前も指輪もらえる練度だからな? ほれ指輪だ」

比叡「で、でも……私の心は……お姉様にっ!」

提督「というかさっきの質問だが。『する』じゃなくて『した』だからな」

比叡「!?」

提督「入れ違いになってたのかね。さっきめっちゃテンションMAXで出て行ったんだが」

比叡「い、いつの間に!?」

提督「だからさっきだってば」

比叡「結婚式とか披露宴とかも!?」

提督「いや普通に指輪渡しただけだ。というかお前もつけろって」

比叡「薬指はお姉様のためにとって」

提督「はまればどこだっていいよ。明石によると左薬指のサイズに合わせてるそうだが」

比叡「おお……力がわいてきます!」

提督「よし、用事は以上だ。退室したまえ」

比叡「はいっ!」


比叡が退室して数秒後。再び駆け足で飛び込んできた。


提督「どうした忘れ物などないだろう」

比叡「ごまかされませんよ司令! 金剛お姉様の話はまだ済んでません!」


この後金剛が仲裁に入るまでまでめっちゃもめた。

975: 2015/03/23(月) 22:30:20.55 ID:nW+cNm+Uo
――― 改二艦のゆううつ ―――

吹雪「ついに改二です! 深海棲艦なんて私がやっつけちゃうんだから!」

??「ちょっといいかい」

吹雪「!? あぁなんだВер…」

響「響でいいよ。今の名前だと声の妖精さんが過剰反応しそうだし」

吹雪「またメタな……それで、どうしたの?」

響「改二になった駆逐艦娘は必ず来なければならない場所があってね」

吹雪「?」

響「こっちだよ」

招かれるままついていくとそこは廊下の袋小路。物置ぐらいしかなく本来来る用事もない場所。

響「ここの壁を押すと」

くるりと壁が回転し、響が壁の向こうに吸い込まれていった。吹雪が目を丸くしていると壁が再び半回転し、響が手招きする。

響「ほら早く、見つからないうちに」

吹雪「何これ……」

中に入ると通廊になっており、しばらく進むと下り階段。降りた先にはドアが一つ。響がノックすると扉からの問いかけ。

??「暗証番号をどうぞ」

響「13Nov09」

??「認証確認ー」

ガチャリ、と錠前が外れ、ドアが内側に開く。

響「声紋と暗証番号を組み合わせた二重のセキュリティ。この隠し通路に気づいても選ばれた者以外は入れない。機械によるハッキングも不可能」

扉を閉めた吹雪がドアノブに目をやると、妖精さんがぶら下がっていた。

吹雪「原始的……」

976: 2015/03/23(月) 22:31:35.69 ID:nW+cNm+Uo
部屋の中には大きな机が一つ、十数脚の椅子。天井には裸電球。そして幾人かの艦娘。

綾波と潮はお茶を飲みながら雑談し、初春と初霜は花札に興じている。

夕立と時雨はレーベ、マックスと一緒にトランプをしている。

そして吹雪と彼女をここまで連れてきたヴェールヌイ。

皆、駆逐艦の中でも相当の熟練者だ。

吹雪「こ、ここは……?」

時雨「改二駆逐用の談話室さ」

吹雪の疑問に答えるは時雨。

吹雪「いつの間にこんな部屋が……」

時雨「遠征は練度向上を兼ねてるから、改二まで底上げされた僕たちにはお呼びがかからない」

響「そこで、姉妹艦が遠征でいないときに気兼ねなく話せる場所を作ろうってことで用意したのさ」

吹雪「司令官にも内緒で……?」

夕立「提督さんも多分気づいてないっぽい?」

時雨「明石さんの妖精買収して造ってもらったから知ってるのは彼女たちと僕たちだけさ」

吹雪「いいの、それ……?」

時雨「女の子にも秘密は必要なんだよ。それに改二になって変わった所とかの相談も乗ってるよ」

普通に談話室でやればいいと思う吹雪であったが口には出さなかった。

986: 2015/03/24(火) 22:14:02.57 ID:8AEWnvxao
――― 今日は何の日? ―――

鎮守府、執務室。

提督「北方任務と東方任務面倒だなぁ……せめて羅針盤固定させてくれよブツブツ」

そこに入ってくるは提督の秘書艦、雪風。

雪風「しーれぇっ、えへへっ」

提督に近づいて胸に飛び込む。

雪風「しれぇ、今日は何の日かわかりますか?」

そのまま肩を抱き寄せ問いかける。

提督「子の日かな?」

雪風「しれぇ~」

頬を膨らませて提督の顔を軽くはたく。

提督「冗談冗談。んじゃ今日は二人で出かけるとするか」

雪風「はい!」

提督「その前に準備が必要だな……」

~~~~~~

重巡寮、青葉型の部屋。

青葉「……今日は3月の24日……。青葉、いい事思いついちゃいました!」

衣笠(青葉がなんかフラグ立ててる……)

青葉「青葉取z…出gいややっぱ取材に行ってきます!」

衣笠「いってらっしゃーい。お土産よろしくねー」

987: 2015/03/24(火) 22:15:29.32 ID:8AEWnvxao
鎮守府近くの市街地。

青葉「ふふーん、駆逐艦の子たちから司令官と雪風が二人でデートに出かけるという情報の裏は取りました!」

艤装を解除しローファーに履き替えれば傍目普通の女子高生である。念のため髪の結び方も変えて、一目で青葉と気づかれないよう工夫を凝らしている。

青葉「デートスポットになりそうな場所もそう多くないですし、あの身長差カップルなら見逃すこともないでしょう」

あくまで自然に振る舞い、ばれないようにを心がける。

青葉「あの司令官のプライベートを記録するまたとないチャンス! いい記事になりそう!」

思わず顔がにやける。

青葉「おっと、いけないいけい平常心平常心。さーって司令官はどっこかなぁ~」

~~~~~~~

所変わって鎮守府海域、ぷかぷか丸。

提督「さーて、釣るぞー」

雪風「しれぇ、さっき駆逐寮に寄ったのは何故ですか?」

提督「ミスディレクション。青葉辺り嗅ぎ付けてくるかもしれないから念のため」

雪風「ふむぅ」

提督「雪風も釣ってみるか? ほれ、釣竿」

雪風「これ、しれぇの、使っていいんですか?」

提督「あぁ。昔使ってた竿がもういっちょあったはずだ。俺はそれ使うよ」

取り出したるは原始的な、竿に針のついた糸をつけたもの。

提督「……まぁ大丈夫だろ」

~~~~~~~

青葉「あれぇ……? 司令官も雪風ちゃんも見当たりません……行き違えたかなぁ?」

988: 2015/03/24(火) 22:16:17.77 ID:8AEWnvxao
提督「ぬぅ。全く魚がかからぬ……」

唸る提督と比べて雪風は、

雪風「わわわっ、また来ました!」

提督「よし、慎重に引いてけ」

がっぽがっぽ釣れている。

提督「全く、この調子だとクーラーボックスが先に埋まってしまうかもしれんな。5個ぐらいあったと思うが」

雪風「雪風、お腹空いちゃいました」

提督「んじゃおにぎり食うか」

~~~~~~~~

青葉「うーん、こっちの店にもいない……。お昼時なのに……間宮さんのところに戻ったのかなぁ……?」

989: 2015/03/24(火) 22:17:30.59 ID:8AEWnvxao
青葉「くっ騙されました! まさか海の方に出ているだなんて!」

昼食がてら鎮守府の食堂に戻り、ついでに聞き込みをした結果、『出撃予定ないのにぷかぷか丸が港にない』という情報を得た青葉。

港を見ればわかるのだが、『デートしに行った(市街地に行くとはいってない)』という情報に騙されたのだ。先見性がなく不憫である。

青葉「そうと決まれば取zいや出撃です!」

艤装を身に纏い、埠頭から着水、そのまま水平線に向けて加速する。まさに執念。

~~~~~~~~

提督「坊主過ぎる」

昼下がりになっても状況は変わらず。

雪風「また当たりました!」

提督「俺の立場ないなぁ……」

---

青葉(そーっと、そーっと)

ぷかぷか丸から降ろされた錨の鎖を慎重に登る青葉。立てる音を最小限に。まるでスパイ映画のエージェントの如く。

二人の後ろ、氏角になる場所からそっと顔をのぞかせる。

青葉(ちょっと出遅れましたがばっちり記事にしちゃいますよ!)

---

提督「んじゃ、気を取り直してっと」

雪風の釣った魚をクーラーボックスにいれ、自分の竿を握り締め、勢いよく振り降ろす。

ビン、と糸が張り詰める。だが着水していない。

提督「……?」

そもそも糸が海の方へ向かっていない。ぐい、と竿を引っ張る。


青葉「痛っ!?」

後ろから聞こえる声。糸を辿ると針が引っかかって転んでいる青葉の姿。

雪風「あれ、青葉さん?」

提督「……青葉がこんなところで何をしているのかなぁ?」

青葉「……青葉、見られちゃいました」(テヘペロ

提督「……」

指を鳴らしながらゆっくり近寄る提督。

尻餅をつきながら後ずさる青葉。


<アオバワレェ!!

<ワレアオバァ!!


雪風「青葉さんも取材するならするといえばいいのに……」

990: 2015/03/24(火) 22:18:35.25 ID:8AEWnvxao
青葉「きゅぅ……」

提督「さて、そろそろ帰るか。これだけ獲れば間宮さんたちも喜ぶだろう」

雪風「今日はしれぇと一緒にいられて楽しかったです!」

提督「ま、雪風の進水日だしな」

雪風「ところで」

提督「ん? なんだ?」

雪風「那珂ちゃんと羽黒さんも同じ進水日なこと、ご存知でしたか?」

提督「……あっ」


この後帰ってめちゃくちゃ祝った

991: 2015/03/24(火) 22:25:06.60 ID:8AEWnvxao
というわけで今日は雪風・那珂・羽黒の進水日です。あと次スレ。


次回:泣き虫雪風と釣り人提督【その22】


引用: 【艦これ】泣き虫雪風と釣り人提督 Part2