602: 2015/11/11(水) 22:37:26.98 ID:nxObUJVyo


前回:泣き虫雪風と釣り人提督【その27】
最初から:泣き虫雪風と釣り人提督

――― 余った秋刀魚は美味しくいただきました ―――


提督「秋刀魚2尾ほど余ったけど今更もう1尾取りに行くのもなぁ」

多摩「」ピクッ


~~~エラー娘メンテ中……~~~


提督「いつの間にか秋刀魚がなくなっている」

多摩「知らないにゃ」

提督「……ほう」

多摩「本当にゃ」

提督「ところで猫が秋刀魚を食べると旨さのあまり尻尾がピンと張るというが」

多摩「!?」

提督「何ケツ確認してんだよお前猫じゃねーだろというかやっぱ食ったんじゃねーか!」

多摩「そこは『間抜けは見つかったようだな』にゃ」

提督「いや本当に確認するとは思わなかったし」
海の画集 -「艦これ」公式イラスト集-
606: 2015/11/17(火) 22:52:28.31 ID:xtNrOUp3o
――― 巨人頃し ―――

第二次SN作戦、緒戦。駆逐棲姫に引導を渡したのは菊月であった。

提督「菊月が姫を仕留めたか……巨人頃し(ジャイアントキリング)だな」

菊月「既に大破していたしな。威張れることじゃない」

提督「それでも止めを刺したのは事実だろう」

菊月「まぁ、そうだが」

提督「つまり、船団護衛だけじゃなく、敵艦との戦闘でも活躍できるんだってお前自ら証明したってコトだろう。もっと胸を張ってもいいんだぞ」

菊月「そうか……」


後日……

睦月「提督、あれから菊月ちゃんがこう、明るくなった気がするのです!」

提督「えぇ? あいつが明るいところ想像できんが」

睦月「うーん、テンションは変わらないけど、なんか機嫌がよくなったかにゃー、って」

提督「まぁ、それならそれでいいんじゃないか」


提督(やっぱり嬉しいのか……)

607: 2015/11/17(火) 22:53:23.09 ID:xtNrOUp3o
「11月か……。またぞろ連中が活発になる頃だな」

「御明察」

鎮守府、執務室。椅子に背を預け、行儀悪く机に足を乗せている男と、部屋の中央で猫を持って仁王立ちしている少女。

鎮守府のトップ2である提督と猫吊るしである。

「で、次はどこだ?」

「南方です。物資輸送路の安全確保がてら敵を殲滅していただきます」

スクリーンに映し出される南方海域。幾度となく激戦を繰り広げてきた場所である。

「作戦名は」

「【突入!海上輸送作戦】で」

608: 2015/11/17(火) 22:55:21.05 ID:xtNrOUp3o


突入!海上輸送作戦 Episode0 ~ 彼の海に娘の亡骸 ~


まんまじゃねーか、と突っ込もうとしたところで、ノック音が鳴った。

一呼吸置き、激情を鎮める。

「入って構わんぞ」

「失礼します」

部屋に入るは川内型軽巡洋艦が次女、神通。

「作戦会議中でしたか」

「あぁ。南方海域での作戦になる。物資輸送もあるらしいから神通に指揮を任せる場面もあるだろう」

「これまでの鍛錬の成果を見せるときですね」

神通から資料を受け取り、頷く提督。

「そうだな。猫吊るしよ、主な戦線はどこになりそうだ?」

「そうですね……この辺りになりますかね」

猫吊るしが指し示すは円形の小島。それを見た神通の目つきが変わる。

「コ…ン……バ…ガラ……」

「ん? どうした?」

「……いえ。用事は済みましたので失礼いたします」

そそくさと執務室を後にする神通。

「どうしたんだ一体?」

それを見て猫吊るしは呆れたように肩をすくめる。

「全く、ここがどこだかわからないんですか?」

「海外の地理には疎いんでな」

「太平洋戦争の戦地ぐらいいい加減覚えなさいよ。ここは……」



「コロンバンガラ……」

後ろ手に扉を閉めた神通はその地の名を呟く。

コロンバンガラ沖の夜戦にて神通は壮絶に戦い、没した。

「私の番、ということですね……」

拳を握る神通。いかなる地獄が待っていようとも切り抜ける。その覚悟を胸にして。

616: 2015/11/24(火) 22:39:07.26 ID:V61qAYxKo
鎮守府、執務室。提督の机には山と積まれた資料。

「そうそう、こうでなくっちゃな」

満足そうに頷く提督。資料に手を付ける様子は無い。

「この書類の山がなければ連中との戦いが始まった気がしない」

「しれぇ、読まないんですか?」

不安げに声をかける雪風。

「あぁ、いいんだいいんだ。ここにあるのは九割がた連中に遭遇したヤツラの愚痴やら所感やらだ。必要なのは」

書類の山からジェンガのピースを抜くように紙束を引っこ抜く。

「別世界の提督の戦果だ」

617: 2015/11/24(火) 22:39:57.29 ID:V61qAYxKo


突入!海上輸送作戦 Episode1 ~ 力を以て尊しと為す ~


しばし後、埠頭にて。提督直々に先鋒を務める艦娘が呼び出される。

「水雷が旗艦球磨、睦月に如月、衣笠に古鷹、そして木曾。主力が千歳に千代田、高雄に愛宕。そして……イタリアとローマ」

どよめきの声。イタリアとローマは着任してから半年以上実戦に出ていない。つまり、この作戦が実質初陣である。

「戦艦ふたりは実戦に出るのは初めてだと思うが、まぁ所詮はただの深海棲艦だ。気楽に……」

ここまで行ってふと気づく。ローマの衣装と艤装が普通で無いことに。

「まって。こんな装備で大丈夫か?」

「あ、いや、これはその」

うろたえるローマ。ハロウィンの魔女衣装のままであった。381mmの三連装砲もかぼちゃのデコレーションが施されている。

「……まぁ、弾は出るよな?」

「出ますが……」

「うん、ならいいや。変更なし」

夏の時期、イタリアが物凄い軽装で演習を行っていたがいつもと変わらぬ調子で敵艦を撃沈していたのを思い出して首を振る。

「とりあえず、敵艦隊を片付けて輸送路を確保する。皆の健闘を祈る」

618: 2015/11/24(火) 22:41:40.14 ID:V61qAYxKo
戦闘そのものについてはなんら苦労するところは無かった。

「イタリアの本当の力、お見せします!」

「食らいなさぁい」

「馬鹿め、といって差し上げますわ!」

ちとちよの航空攻撃、木曾の先制雷撃からの砲撃の嵐。並み居る敵艦は次々と海の底に還される。

「三連装主砲は、玩具じゃないのよ!」

『どう見ても玩具だろそれ』

「黙ってて」

などと莫迦な掛け合いをしている間に敵旗艦のネ級が沈み、

「ローマには負けてられないわね」

イタリアが残った駆逐棲姫を沈める。

「睦月たちの出番がないです……」

「ま、敵艦隊への警戒も俺たちの仕事だからな」

619: 2015/11/24(火) 22:48:09.55 ID:V61qAYxKo
鎮守府、執務室。提督は新たな敵戦力の資料に目を通していた。

「新たな姫クラス軽巡洋艦の深海棲艦か……」

そこに入ってくる艦娘が一人。

「失礼します」

「神通か。どうした?」

「単刀直入に訊きます。次の作戦はコロンバンガラへの輸送作戦だとか」

「まぁコロネハイカラとなってるが……実質は、そうだな」

資料を手に取り、ひらひらさせる。内容は軽巡を旗艦とし、駆逐艦による反復輸送作戦。

「この作戦、私に委細任せていただけますか?」

「……恐ろしくは無いのか? お前が沈んだ場所だろう?」

「だからこそ、です。この作戦、私の、いえ、私たちの手で乗り越えなくてはならないでしょう」

「たち、か。随伴艦も考えているのか」

「はい。提督に別のお考えがあるならそちらに従いますが」

「……よし、この作戦、神通に任そう。随伴艦の希望は?」

「皐月、三日月、浜風、谷風、そして……雪風」

「いいだろう。各艦娘の通達はこちらで行う。工廠にて出撃準備だ」

「ありがとうございます」

一礼して部屋を辞する神通。

「……さて前世の軛とやらめ、覚悟しておけ。今は昔ではないということをもう一度叩き込まれるが良い」

622: 2015/11/29(日) 22:29:44.50 ID:z1GNgFXEo
鎮守府、工廠。集うは二水戦。

戦闘用の艤装のほか、輸送用のドラム缶が用意されている。

「さて、ブリーフィングを始めるぞ」

提督が手を叩き、注目を向ける。壁にコロンバンガラ島周辺の地図が広げられる。

「今回の主目的は暗号名コロネハイカラ……まぁぶっちゃけコロンバンガラだが。そこへの輸送作戦だ」

コロンバンガラ島南部に緑の旗を立て、周辺に赤いコマをいくつも貼り付けながら説明を続ける。

「最近この周辺に大量の深海棲艦がわき、物資が不足している。無論、通常の船を送るのは論外だし、ここらの地形は複雑で戦艦、空母クラスの艦娘を出すのも困難だ」

「そこで出てくるのが、戦闘と輸送の両方をこなせる水雷戦隊というわけですね」

「そうだ、神通。高練度の水雷戦隊を以って周囲の深海棲艦を撃退しながら輸送し、敵の後詰めが輸送した物資を台無しにするのを防ぐ」

ドン、とひときわ大きなコマをコロンバンガラ北東部に貼り付ける。

「これを打ち払って輸送作戦の橋頭堡を作る。健闘を祈る」

623: 2015/11/29(日) 22:30:57.28 ID:z1GNgFXEo


突入!海上輸送作戦 Episode2 ~ コロンバンガラに血の雨 ~


「コロンバンガラかぁ、懐かしいねぇ」

「遠征で何度も近くは通ってるけど……」

ピクニック気分で航行しながらおしゃべりする皐月と三日月。

「主な敵艦隊は先鋒が撃退したとはいえ、油断できません。警戒を怠らないように」

「下は谷風さんに任せときな。浜風は水上艦を頼むよ!」

敵艦隊を警戒する浜風と谷風。

「……」

「神通さん……」

そして出航してから最低限の指示を除き黙ったままの神通、それを心配する雪風。

「! 敵艦隊、発見しました! 駆逐艦隊による警戒部隊と思われます!」

「……全艦、単縦陣。突撃します」

浜風の報せに即座に指示を下す神通。その声には威圧感があった。

「今日の神通さん、いつもよりおっかないよ……」

「無様な戦いは見せられませんね!」

624: 2015/11/29(日) 22:32:23.93 ID:z1GNgFXEo
コロンバンガラ島、物資輸送地点。運んだ物資を次々と下ろしていく。

「ぷかぷか丸がここまで来られればよかったんだけどね」

「岩礁とか危険ですし、それに深海棲艦のリスポーンもだいぶ間隔が短いですから仕方ないですね」

ぷかぷか丸は普通の船と違い、艦娘と同等の対深海棲艦装甲があるとはいえ、碌に舵のきかない場所で敵中に飛び込むのは自殺行為。

故に寄れるだけ寄った後に艦娘の手で小分けして運搬するしかないのだ。

「提督、もう少しで輸送完了いたします」

『オーケイ。手の開いた駆逐艦を送ってくれ。決戦用の装備を渡す』

「了解しました」

神通が通信を切ると、輸送した物資にもたれかかって休んでいる皐月と三日月に声をかける。

「二人とも」

「はっ、はい!!」

「な、なんでしょうか!?」

慌てて立ち上がる二人。

「もう一度ぷかぷか丸に戻って提督から装備を貰ってきてください」

「了解です!」

「いってきます!」

いうや否や海に向かって駆け出していく。

「神通さん」

「雪風、どうしました?」

「今日の神通さん、とてもピリピリしてます……」

「そうですね……。やはり、自分の過去が近づいてくるとなると……」

そう言って神通は海の向こうに目をやる。浜風と谷風が哨戒を行っているのが見える。

「過去、ですか……」

「あなたも覚えているでしょう。この海で起きた夜戦を。そして私の最期を」

「はい……」

「それが、近づいています」

「おーい、電探と、神通さんに探照灯持ってきたよ!」

「司令官、いつの間にか改修してたんですね……」

そこに戻ってくる皐月と三日月。

「では装備を換装し、浜風達と合流して決着を付けましょう」

625: 2015/11/29(日) 22:33:34.17 ID:z1GNgFXEo
海の向こうに見えるは傍目、駆逐艦を率いる、漆黒に染まった川内型の軽巡洋艦娘。

だがその顔の上半分は角の生えた覆面に覆われ、異常に肥大化した左腕艤装には単装砲、魚雷、そして探照灯がこれでもかといわんばかりに載っている。

『あれが、軽巡棲姫だ』

「条件はほぼ同等ですね」

『は? 向こうは軽巡3だぞ? しかも一隻は姫クラスだぞ? こっちはお前以外巡洋艦いないぞ?』

「提督は自らの部下を信じられないのですか?」

『いやそういうわけじゃないが』

「私は私の、そして二水戦の皆の力を信じます」

そこまで言って神通は首を振る。

「いえ、信じるというのもおかしいですね。これまでの訓練のことを考えれば勝って当然です」

『お、追っ払うだけでいいんだぞ?』

「そろそろ接敵します。二水戦、全艦突撃!!」

626: 2015/11/29(日) 22:35:30.79 ID:z1GNgFXEo
水雷戦隊はスピード勝負。いかに敵を突き崩し、魚雷を叩き込み、夜戦距離に持ち込むかである。

「敵旗艦は私が抑えます! 雪風たちは随伴艦を!」

「了解しました!」

飛び交う砲弾、走る魚雷。その只中を神通と軽巡棲姫は撃ちあう。

「この程度、あの時と比べれば!」

一進一退の攻防。どちらも致命打を与えるに至らない。

「こちら雪風、敵大破2、撃沈3。大勢は決しました!」

「了解です。魚雷発射後、再装填。再突入準備!」

「はい!」

通信終了とともに辺りが闇に包まれる。だが、いつもとは一点違う点があった。

探照灯。軽巡棲姫の青白い光が神通を照らしだす。

「いいでしょう……探照灯照射。二水戦旗艦神通、推して参ります!」

負けじと白熱灯が軽巡棲姫を照らしだす。そのまま互いに衝突コースで直進。

「貴女ノ……帰リ途ハ……無イノ……。 モウ…無イノヨォ……!」

「無いというなら、塞ぐというのなら……押し通るまでです!!」

200m、100m、50m、両者とも全くコースを変える気がない。

軽巡棲姫が左腕を振り上げ、そのまま神通を轢き潰すコースで腕を薙ぎ払う。

だが、手応えはない。

更に加速した神通が左拳を腹に打ち込む。

「油断しましたね。次発、装填済みです」

拳を撃ち込んだ反動で体をひねり右拳を握る。

「これで……終わりです!」

渾身の右ストレートが軽巡棲姫の顔面に刺さる。神通の影から力が抜け、あっけなく海の底に沈んでいく。

己の拳を見て、沈んだ跡を見て、再び拳を見る。

「……さぁ、みなさん。作戦は成功です。帰りましょう」

630: 2015/11/30(月) 22:50:10.19 ID:FUxppl1Ao
鎮守府、執務室。室内は暗く、プロジェクターからコロンバンガラ周辺の海図がスクリーンに映し出されている。

つまりはブリーフィングの真っ最中。提督は話す側ではなく、聞く側である。説明するのは猫吊るし。

「二水戦の活躍により、敵艦隊は退けられ、本格的に物資を輸送する準備が整いました」

「なんかまたぷかぷか丸に手を加えていたな」

「連合艦隊の準備です」

「今度は戦艦や空母に運ばせようってのか?」

「いえ、今回は駆逐艦主軸の艦隊となります。その名も輸送護衛部隊!」

「輸送護衛部隊」

「ぷかぷか丸も専用のになります」

「専用」

631: 2015/11/30(月) 22:52:11.14 ID:FUxppl1Ao


突入!海上輸送作戦 Episode3 ~ 小さき艦の大きな作戦 ~


「……というわけでこのメンツで輸送護衛部隊を編成する」

鎮守府、工廠。呼ばれたのは前作戦の駆逐5名に綾波、夕立、巡洋艦に利根、鳥海、妙高、大淀、そしてあきつ丸。

「あきつ丸と利根で頭上の安全を確保し、護衛艦隊に巡洋艦や火力の高い駆逐艦を配することで前方の安全を確保する」

「あれ、神通さんは?」

疑問の声を上げる皐月。

「水上機使った上でドラム缶積めるの、大淀ぐらいだからなぁ。仕方ない」

「艦載機の格納庫はドラム缶置き場ではないのですが……」

ため息をつく大淀。

「しょうがないだろ。こっちの人員に制限がある以上手早く輸送を終えるには一人当たりの数を増やすしかない」

「それでもボクたちにドラム缶ガン積みはやりすぎじゃない?」

「前衛がなんとかしてくれることを祈れ」

632: 2015/11/30(月) 22:54:35.41 ID:FUxppl1Ao
コロンバンガラ沖。輸送護衛艦隊用となったぷかぷか丸には資材をたんまり積み込んである。

「敵艦隊、掃討完了じゃ。これより資材の揚陸を行う」

『オーケイ。敵増援が来る前に出荷を済ませるんだ。降ろしたら迎撃に向かえ』

「了解なのじゃ」

利根は通信を切り、手早く指示を下す。

「鳥海、妙高は敵艦隊の警戒、雪風たちは資材の輸送、あきつ丸は敵艦載機を警戒しながら大発で輸送の援護じゃ」

手早く指示を下し、利根も資材輸送に回る。

さしたる敵の妨害もなく、ほぼ荷降ろしが完了した頃、哨戒中の妙高から通信が入る。

「北東方向から敵接近中、ル級FSを含む水上打撃艦隊、更にその奥に水母棲姫を含む艦隊……!」

『やはり来たか……。全艦に告ぐ。艦隊を再編成し、敵艦隊を撃退せよ。深追いはする必要ないぞ』

次々聞こえる了解の返答。無線からは再編成の指示、そして進撃の合図。

「近くまで寄れないのが、辛いな……」

魚雷艇型の深海棲艦が付近を回遊しているとの情報もある。迂闊に動けば餌食である。

「信じて待つしかない、か……」

******

「作戦終了、艦隊帰投したのじゃ……」

駆逐艦を中心に、輸送艦隊も護衛艦隊もボロボロである。

「水母のヤツは取り逃がしたが、資材は守れたのじゃ……」

「よし、お疲れ様だ」

「しれぇ~……」

ボロボロの雪風がよたよたと提督に近づき、すがりつくようにもたれかかる。

「雪風もよく頑張ったな」

他の艦娘たちも上がってくる。

「よーし、輸送作戦は完了だ! 今はゆっくり休めぃ!」

634: 2015/12/02(水) 22:35:44.58 ID:FGTO77yao
「西方への出撃だぁ?」

「はい」

鎮守府、執務室。提督の不服そうな声にも平然とした声で返事をする猫吊るし。

「春にボコって夏にもっかいやっただろ。またやんのか?」

「というかリランカの港湾放置してるじゃないですか」

痛いところを突かれてしばし押し黙る提督。

「で、何でまた行くことに?」

「夏の作戦の後、秘密裏にドイツで新艦娘を喚ぶ為の研究をしてましてね。そろそろ完成予定なのでシーレーン確保ついでに迎えに行ってください」

「そういえば海外の大型艦がどうこう言ってたな。シャルンホルストか? ティルピッツか?」

「いいえ、戦艦ではありません。空母です」

「ん? 空母? ドイツに空母ってあったか?」

「それは見てのお楽しみです」

635: 2015/12/02(水) 22:37:36.65 ID:FGTO77yao


突入!海上輸送作戦 Episode4 ~ 西方深海姫退治 ~


ぷかぷか丸、艦橋。一面見渡す限りの海。カレー洋からステビア海に至る西方海域のシーレーン。またぞろ深海棲艦の活動が活発化しているという。

「全く、毎季ごとにこっち来てるような気がするぜ……」

「まー、涌いちゃったなら仕方ないよねぇ」

提督のぼやきに北上が答える。

「で、次の相手は誰? 陸のだったらあたしらじゃお手上げだよ?」

「何でも姫クラスの潜水艦を投入してきたらしい。それがマスターだろう」

「へぇ。昔から出るんじゃないかって恐れられてたヤツじゃん」

潜水棲姫。アイアンボトムサウンドの氏闘以来、出るのではないかと事あるごとに言われてきた空想上の存在だった。だが今は確実に存在する。

「そっちは雪風や大淀たちに対潜装備がっつり載せて対処するから、お前と大井は甲標的による水上艦の処理と残敵の掃討だな」

「ま、大井っちもいるし大船に乗ったつもりで任せてよ。というかあたしら重雷装巡洋艦だしね」

手を振り振り艦橋から降りる北上。気負うところは全く無い。

「さて……」

今回送り出すは長門型とビスマルクを軸にした水上打撃部隊。

「軽空母のアウトレンジ、雷巡の甲標的、戦艦の砲撃。この三重の先制打撃によって第二艦隊を温存し、潜水棲姫に致命打を与えられるようにする」

艦橋から見下ろせばぷかぷか丸から次々と出撃する艦娘達。

「しっかし、噂だけだった存在が本当に出てくるとはなぁ……」

636: 2015/12/02(水) 22:39:16.86 ID:FGTO77yao
「敵潜水艦、撃沈確認しました」

敵艦の残骸が浮かび上がる。綾波の投下した爆雷が直撃した証拠だ。

「これで最後じゃな。皆、被雷はないな? 先を急ぐぞ」

引き続き連合艦隊の旗艦を務める利根が進軍の合図を下す。

長門が「何故この長門が旗艦ではないのだ」と提督に直談判しにいったが、「司令部積んだら徹甲弾積めないじゃん」との理由であえなく却下された。

「しかし提督も心配性だな。徹甲弾などなくともそこらの戦艦や空母など一撃で沈めて見せるというのに」

「ふぅん」

「なんだ、陸奥よ。長門型の強さはお前もよく知っているだろう」

「でも、あれは徹甲弾なしじゃちょっと厳しいんじゃないかしら?」

陸奥が指差す先。そこに佇むは戦艦棲姫。

「……提督はこれを予期していたのか」

「またなの? あの顔、毎回見ている気がするわね」

呆れ顔で呟くビスマルク。

「随伴艦は……二隻? 少なくない?」

「水面下に更に三隻、うち一隻が普通のじゃないね」

陸奥の疑問に隼鷹がこたえる。

「ま、随伴はあたしと千歳が片付けるからむっちゃんらは戦艦棲姫だけに集中しなよ」

言いながら偵察に飛ばしていた彩雲を着艦させる。

「よし、全艦第一警戒序列! 目標、潜水棲姫の撃沈じゃ!」

637: 2015/12/02(水) 22:40:00.53 ID:FGTO77yao
その後の戦闘は一方的なものだった。

航空攻撃と先制雷撃により敵随伴駆逐が沈み、戦艦の観測射撃により一方的に戦艦棲姫が沈められる。

後は軽空母と水雷戦隊による爆雷の雨霰である。

「痛イ……止メテヨォ……!!」

潜水棲姫の悲痛な叫び。

「なんだかちょっと可哀想ですね……」

「んー、でもまぁほっといたら普通の船襲われちゃうから仕方ないんじゃない?」

そうこうしている間に爆雷でボロボロに砕けた潜水棲姫の艤装が次々と浮かび上がってきた。

「深海棲艦の反応、海底へ沈んでいきます。艤装部分の大半は砕きましたし自然沈降でしょう。戻るまでにはしばらく時間がかかるはずです」

大淀が聴音機を耳に敵の撃沈を確認する。

******

こうして、西方海域のクリアリングは完了した。帰投する艦娘達の姿を見て、提督は満足げに頷いた。

「あとはドイツからの来訪を待つのみだ……ん?」

通信機から呼出が入る。猫吊るしからだ。

『悪いニュースが二つあります。どちらから聞きますか?』

「どちらもクソもあるか。どっちでもいいからはよ言え」

『ひとつ。ドイツ空母くるのもうちょっと後だったわ♪』

「ふざけんなよテメェ」

『てへぺろ』

ドスの聞いた提督の声にも全く悪びれない猫吊るし。

「で、もう一つはなんだよ。ふざけた案件だったらケツの穴に手ぇ突っ込んで奥歯がたがた言わせッぞ」

『コロンバンガラですが、水鬼クラスを旗艦とした伏撃部隊に取り囲まれ、ピンチです』

「は!?」

先ほどのふざけた口調は完全に消えている。つまりは冗談抜きでまずい自体であるということだ。

『駆逐艦より更に小型の深海棲艦の群れを引き連れてて、艦娘なくては手のうちようが無いです』

「どういうことだよ……」

『詳細はまとめてこちらで話します。一刻も早く帰還願います』

「了解だ」

通信を切る。

「さて、水鬼クラスが来たとなると、いよいよ最終決戦か……」

640: 2015/12/07(月) 22:49:56.34 ID:NyFszRGgo
鎮守府、埠頭。そこには書類の束を抱えた猫吊るしが待っていた。猫は彼女の帽子の上で丸くなっている。

「やれやれです。ハメられましたね」

「感想はいいから状況を説明しろ」

「いいでしょう。こちらの地図、コロンバンガラ周辺ですね」

倉庫の壁に張り付けられている地図を指しながら説明を始める。

「コロンバンガラ島沿岸の七割から八割が暗夜煙幕に覆われました。残るは北東部ぐらいですね」

「それってまずいんじゃないの」

「えぇ、まずいです。更に不味い事に連中は水鬼のほかにも新たな兵を投入したようです」

壁に貼り付けられる、駆逐艦クラスの深海棲艦を更に一回り小さくしたような三つ子の写真。

「大本営はこれをPT小鬼群と名づけました。雷撃に特化された艦で、中・大口径主砲による攻撃がほとんど通用しません」

「どうすんだよ」

「副砲や小口径主砲なら通るのでそれで何とか。幸い耐久力は低いのでまともに当たれば一発でおちます」

「ふーむ」

思案するように顎を掻く提督。

「で、肝心の作戦ですが軽巡を旗艦とした水雷戦隊を送ります。駆逐のうち一隻は巡洋艦でも構いません」

「また輸送でもすんのか?」

「えぇ、医療用品や食料などですね。そして輸送が終わったら敵の大ボスを叩きます」

「いい加減、無駄だってことをわからせてやらんとな……」

641: 2015/12/07(月) 22:52:05.83 ID:NyFszRGgo


突入!海上輸送作戦 Episode5 ~ 倶に海を戴かずとも ~



鎮守府、執務室。資料を慌しく捲りながら編成や装備の考慮を行う。

「ルート的に夜戦中心になるだろうな……」

「何、夜戦!?」

提督の呟きに反応して室内に闖入するは川内型の長女、三水戦旗艦川内である。

「夜戦なら任せといて!!」

「いや阿武隈あたり投入しようかと」

その言葉に対し川内はチッチッチ、と舌打ちしながら指を振る。顔が近い。

「ベラ湾通るんでしょ? ここで戦ったことあるからねぇ。時雨と、江風と……」

途中まで喋ったところで何かを思い出すかのように顔をしかめ、振り払うように頭を振る。

「ま、ともかくそこらへんの地理詳しいし連れて行って損は無いよ」

642: 2015/12/07(月) 22:53:03.58 ID:NyFszRGgo
南方海域、ベラ湾付近。作戦暗号ではバニラ湾となっている。

「よーし、こっから先は暗夜煙幕に覆われていてぷかぷか丸では近づけん。敵の排除と輸送頼むぞ」

「任せといて!」

言うや否やくびきを解かれた犬のように飛び出す川内。

「私が一番速いんだから!」

「この江風も負けてらんないね!」

負けじと島風、江風も後に続く。

「まったく、江風ったら僕の妹ながらなんと言うか……」

「無鉄砲?」

「そこまで言わなくてもいいと思うけど、提督」

「ま、呉の雪風、佐世保の時雨と幸運艦が揃ってるんだ。安心して攻められるってモンだろう」

「そうだといいけど」

着水し、三人の後を追う時雨。

「全く、皆せっかちだねぇ」

「ま、夜戦だからなんかが滾るんでしょ」

「夜戦って面倒くさいんだよねぇ」

「夜戦最強の座にいるお前が言うか?」

提督の言に手をパタパタ振る北上。

「そういうのは鳥海さんか妙高さんに譲ったげてよ。じゃ、出撃しますかぁ」

提督の返事を待たず海面に飛び降り、航行する。

「後は……雪風」

「はい!」

「みんなを頼むぞ」

長年の相方に多くの言葉など要らない。海に飛び出す小柄な少女の後姿を見て、提督は勝ちを確信していた。

643: 2015/12/07(月) 22:54:20.25 ID:NyFszRGgo
「そこだっ!」

川内の放つオートメラーラ製152mm砲が小鬼群を貫く。

「本当、敵多いよね。江風、魚雷に気をつけてよ」

「大丈夫、時雨の姉貴。同じ轍は踏まないって」

うじゃうじゃいる駆逐や小鬼を蹴散らしながら上陸地点へ到達する。

前二回の輸送と違って人がいる。陣地の構築やらなんやらで慌しい。

「あー、人を送ったところで分断されたのか……そりゃ急を要するよねぇ」

急造の陣地を見て北上がつぶやく。

「早く運びましょう」

「あたしは周辺警戒しとくよ。雪風たちと違ってドラム缶持ってきてないしね」

「お願いします」

「しっかし暗いと見づらいねぇ」

ぶつぶつ呟きながら哨戒へ向かう北上。

「さて、雪風たちも頑張りましょう!」

******

一通り輸送も終わり、艦娘たちは準備を整える。

「こっちが電探で、こっちが照明弾ですね」

「夜偵は?」

「制空取れないので今回はないですね」

「まぁ、しょうがないか」

いつもの夜偵の代わりに照明弾を装填する川内。

「雪風、今回は追加の魚雷はなしかな?」

「無いですね。砲撃戦のうちに魚雷艇を片付けろ、とのことです」

「時雨姉貴の魚雷攻撃、見たかったなぁ」

「いつか演習の時にでも見せてあげるよ」

時雨たちも電探を積み、微調整を行う。

「はやくー! 待ちくたびれたー!!」

一足先に準備を済ませた島風は、装備を換装しなくていい北上と一足先に沖で待っていた。

「敵は北東部だっけね。向こうももう待ちくたびれてるんじゃないかな?」

「んじゃ、準備も整ったし行こっか! 三水戦、川内抜錨!」

644: 2015/12/07(月) 22:55:42.09 ID:NyFszRGgo
暗夜煙幕を抜けた先、そこには多数の小鬼群、そして戦艦棲姫の後ろの両腕をひと回り小さくしたような艤装をつけた少女型の姿……。

「雪風、あれが駆逐水鬼かな?」

「きっとそうですね」

「ここらへんも夜にしてくれれば楽しいのに」

川内のその言葉に反応するかのように駆逐水鬼が口を開く。

『本当ハ…夜ハネェ……? トォッ…テモ……怖イノヨ…?』

「ふーん……。残念だけど、その意見には賛同できないなぁ」

「川内さんならそう言うと思ったよ」

茶々を入れる江風。

「あんなに楽しいのに、夜を怖れる理由がわかんないよ。皆、準備はいい?」

それぞれの返事が返ってくる。

「全艦、砲雷撃戦、用意! ってーっ!!」

******

迂闊に近寄れば魚雷艇の餌食。かといって遠くからでは水鬼を捉えることなどできない。

「まずは小鬼から潰すしかないかなー、って川内ちょっと待って飛び出しすぎ」

「私が撹乱するからその間に小鬼潰して! そっちは任せたよ!」

北上の呼びかけを無視して敵陣に突っ込む川内。

「全く、しょうがないねぇ」

駆逐艦に声をかけようと辺りを見回すと既にいない。既に川内の後を追っている。

「もー、これだから駆逐艦は……」

言いながら放った砲弾は、小鬼に直撃せしめ、海の底へ還していった。

645: 2015/12/07(月) 22:57:04.05 ID:NyFszRGgo
「よしよし、数は順調に減ってるね」

駆逐水鬼と撃ち合いながらちらりと後方の確認をする川内。

魚雷も何射かされたが悉く回避。

「そこだっ!」

川内の砲弾が駆逐水鬼の頭部を打ち抜く。帽子のようなパーツが吹き飛び、海中に落ちる。

それと同時に、駆逐水鬼の体から闇が広がり始める。

『夜ノ…夜ノ闇ハ……。 怖クテ…怖クテ……フフフ…!』

それを見て指をポキポキと鳴らす川内。

「いいね、いいねぇ。さぁ、私と夜戦しよ!!」

******

闇が辺りを包み込み、一寸先すら見えなくなる。動くは僅かな影のみ。

『何モ……何モ、見エナイママ…沈ンデ逝ケ!』

駆逐水鬼の艤装腕から射出される砲弾と魚雷の嵐。

真正面の影にこれでもかとばかりに叩き込まれるが、動じる様子がない。

影から何かが射出される。

暗闇の中でも駆逐水鬼には飛んでくるものが見える。砲弾のような何か。最小限の動きで回避運動を行おうとした刹那。

それはまばゆい光を放った。照明弾である。

『キャアァーッ!オノレ……ッ、オノレェェーッ!』

目が眩んだ一瞬。それは致命的な隙。

「つっかまえた、っと」

喉首に手がかかる。艤装腕の弾は再装填中。

「離……セ……!!」

川内の左腕を掴み引き剥がそうとするもがっちり掴まれている。

川内は右腕を後ろに引く。

「ヤメ……テ……!!」

「ここまで付きあわせちゃって悪いね。夜の闇は怖いんでしょ? 今、終わらせるからね」

限界まで引き絞った腕を突き出す。その手は駆逐水鬼の胸を貫き、"雫"を掴んだ」

「暗クテ、冷タクテ、淋シクテ、苦シクテ…南ノ海ニ、沈ンデイタノニ……。 ワタシ…見える、あなたが……」

「……萩風!」

腕を引き抜く。直後、駆逐水鬼の体は力を失い、崩れ行きながら水底へ沈んでいった……。

648: 2015/12/08(火) 22:37:07.16 ID:4LMSFBdmo
コロンバンガラ島を覆っていた闇が晴れる。すなわち、艦娘達がうまくやったことの証拠である。

それから間もなく、川内を先頭に艦隊がぷかぷか丸に帰投した。

「いやぁ、満足満足」

「夜戦しまくって満足したか、川内」

「もちろん! あ、これ水鬼から獲った"雫"ね。大切に扱ってよ?」

提督の手にしっかりと雫を持たせ、船内へ入る川内。次に上がってきた北上も雫を持っている。

「お前もか、北上」

「なんか駆逐が魚雷艇の中に一隻混ざっててねぇ。しかもしぶといのなんの。致命打与えても必氏に食らいついてくるから持ってきちゃった」

そう言って提督の開いた手に押し付ける。どちらも手触り的に初めての感触。

「さてさて、誰が来るやら……」

649: 2015/12/08(火) 22:39:25.93 ID:4LMSFBdmo


突入!海上輸送作戦 EpisodeEx ~ 未確認独国航空母艦 ~


鎮守府、工廠。深海棲艦からもぎ取った雫を艦娘にするのもこの施設の大事な役割である。

「よーし、新しいの二つだ。頼んだぞ」

「お任せください、提督さん」

淀みない動作で雫を受け取り、建造ドックの妖精に回すは銀髪ツインテールの、香取によく似た服を着た少女。

「……って誰!?」

「申し遅れました。香取型練習巡洋艦二番艦、妹の鹿島です。コロンバンガラへの輸送作戦成功時に着任したのですが提督さんはお忙しいようでしたので……」

思えば西方に行って取って返してすぐさまコロンバンガラに行く多忙なスケジュールであった。

「あぁ、まぁ、そうだったな。これからよろしくな」

などと話していると工廠の扉が開く音。そこには舞風と野分。

「どうした? なんか急用か?」

「いえ、サプライズなプレゼントがあるからあたしたち二人で工廠に行って、って川内さんに言われて……」

「ふーむ?」

舞風の返事に首を傾げる提督。見回したところ川内がいる様子はない。どこかに隠れているのかもしれないが見た感じそういう気配も無い。

「提督さん、新しい船がご挨拶したいんですって。うふっ♪」

鹿島が艦娘の建造完了を告げる。

「出来上がったか。誰だ?」

建造ドックを見やると二人の駆逐艦娘の姿。服装から一目見て陽炎型とわかる。

「陽炎型駆逐艦、十六番艦、嵐だ! 司令、よろしくな!」

「陽炎型駆逐艦十七番艦、萩風、まいりました」

ふと舞風たちの方を見ると舞風が駆け出し、二人に抱きついていた。

「嵐! 萩風! 会いたかったよ!」

「舞風、はしゃぎ過ぎですよ」

「まぁまぁ、せっかくの第四駆逐隊集結だ」

「ほらのわっちも早くー!」

650: 2015/12/08(火) 22:41:36.17 ID:4LMSFBdmo
川内には誰だか判っていたのだろう。そう納得し、積もる話もあるだろうと工廠を出たところで猫吊るしと遭遇した。

「提督」

「なんだ?」

「我々が何故西方に向かったか覚えていますか?」

「シーレーンの解放だろ」

「50点」

「あと友軍との接触。日付間違えよってからに」

ため息をつく提督のうんざりした表情を無視して猫吊るしは言葉をつむぐ。

「えぇ、実際の日付がわかりました」

「明日か?」

「今日です」

「ふざけんなよテメェ」

提督は頭をつかもうと腕を伸ばすが、既に猫吊るしは手の届かないところへ後退済み。

「さ、今すぐ行かないと遅れますよ。またぞろぼちぼち敵艦が回遊し始めてるのでついでに片付けましょう」

651: 2015/12/08(火) 22:46:45.34 ID:4LMSFBdmo
西方海域、ステビア海。道中の敵を片付け、ランデブー地点に到達。

「痛イ……止メテヨォ……」

潜水棲姫は鹵獲され、解体されていた。

「こいつ、艤装部分と肉体部分のどっちが本体だかわかりゃしねぇな。どっちを刺しても痛がるし」

「しれぇ……」

どう見ても猫吊るしとの会話でたまった鬱憤の解消だが深くは追求しない。

「そろそろ時間ですし片付けたほうがいいのでは」

「そうだな」

潜水棲姫をフックから降ろし、甲板から直に海に放り込む。

「ほれ、土産だもってけ」

潜水棲姫の後を追うように降り注ぐ爆雷。

「土産は土産でも冥土の土産だがなぁぁぁぁっ!!」

上がる水柱。これでしばらく復活することはない。

「しれぇ……気は晴れましたか?」

「ちょっとは」

ふと空を見ると見慣れない艦載機。

「深海棲艦の機体じゃなさそうですね……」

二度、三度とぷかぷか丸上空を旋回すると、海の方へ戻っていった。

艦載機が向かう先には海面を滑る様に進む影。

「あれは……」

雪風は双眼鏡を手に取り、その姿を確認する。

「航空甲板……ビスマルクさんたちが被っているような帽子……きっとあの人です!」

652: 2015/12/08(火) 22:50:52.88 ID:4LMSFBdmo
まもなくその空母艦娘はぷかぷか丸にたどり着いた。

「私が航空母艦、グラーフ・ツェッペリンだ。貴方がこの艦隊を預かる提督なのだな。そうか……了解だ」

「よろしく。しかし、ドイツに空母があったとはな……」

「進水はしてたんだが、竣工前に建造中止命令が下されてな……だが」

懐からカードを取り出すツェッペリン。それには先ほど見かけた艦載機が描かれていた。

「今は艤装も整って艦載機も稼動できる。それに……」

「それに?」

「夜戦距離での砲撃戦も可能だ。発艦できない状況でも戦える」

ほぅ、と感嘆のため息を漏らす提督。

「まぁ判らんことがあったら大体は俺か雪風に聞けばいい。艦載機等については空母の艦娘に聞けばいい」

「了解した」

ふと気づいたか

「……ところで」

「なんだ?」

「先ほど母艦の近くで水柱が上がっていたが……攻撃を受けていたのか? 何があったのかとメッサーシュミットを飛ばしたが」

「あ、あぁ。潜水艦が近寄ってたから爆雷をな」

「そうか……」

嘘ではない。

******


鎮守府、執務室。提督は深々と自らの椅子に腰を下ろす。

「はー……。今回も何とかなったな、雪風」

「皆無事で、本当によかったです。妹二人も着任しましたし」

「さてさて、次はどんな任務が押し付けられるやら。楽なのだといいけど」

「全くしれぇってば」

「お前らに苦労は掛けたくないからな……って、礼号作戦!?」


深海棲艦との戦いは続く。戦力を増強すれば向こうも新たな艦を持ち出してくる。それはまるで終わりのないイタチごっこ。

この争いに終止符を打つ日は、まだまだ先である……。

655: 2015/12/09(水) 22:40:36.14 ID:vYBdR3qFo
――― 風雲も秋雲も十駆 ―――

鎮守府、執務室。今日も今日とて提督は資料の山とにらめっこ。そこにノックも無しに飛びいる駆逐艦。

提督「どうした、風雲。そんなに慌てて」

風雲「提督、ちょっと匿って! 説明は後でするから!」

提督「……じゃあちょっと狭いが机の下にでも隠れてろ」

風雲「恩に着るわ」

もぞもぞと潜り込む風雲。間もなくもう一人駆逐艦がスケッチブック片手に執務室に飛び込んだ。

秋雲「提督、風雲見なかった?」

提督(なるほどね)

どういうことか大体察した提督は一計を案じた。

提督「そこの窓から飛び降りて逃げたぞ」

秋雲「必氏だねぇ」

提督「俺の部屋は駆逐艦用の抜け道じゃねぇんだぞ全く……」

秋雲「じゃ、秋雲さんは普通に降りまーす。提督、ありがとねー」

バタン、と扉が閉まる音を確認して這い出る風雲。

風雲「提督、ありがとう」

提督「いいってことよ」

再び開く扉。そこには秋雲。

風雲「なっ、ばっ、そんな!?」

秋雲「この秋雲さんをなめちゃいけないよぉ?」

提督「くっ」

秋雲「こりゃぁ提督も風雲と一緒にモデルになってもらうしかないねぇ」

提督「風雲、逃げるぞ!」

風雲「でも出口は秋雲が塞いでるし、どこから!?」

提督「窓からに決まってんだろ!」

そう言うや否や風雲を引っ掴み窓から身を投げ出す提督。

秋雲「うわ、本当に飛び降りちゃったよ。早く追っかけないと」


この日は昼下がりを秋雲との追いかけっこで潰す羽目になったのだった。

659: 2015/12/10(木) 22:21:55.88 ID:PQ4yfon+o
――― いすゞのトラック ―――

提督「なんか作戦を終了して掛け軸がもらえるらしい」

五十鈴「ふーん?」

提督「そのうち一つはトラックがらみらしい」

五十鈴「それで、それと五十鈴を呼んだことに何の関係が?」

提督「担当が五十鈴なんじゃないかと思ってな」

五十鈴「違うけど……なんでそう思ったのよ?」

提督「いすゞのトラック」

五十鈴「バカね、何いってんのよ。それだったら扶桑さんの可能性もあるじゃない」

提督「扶桑はまぁ以前書いたことあったし……」


数日後、掛け軸が配送される。

提督「これがお詫び掛け軸か。こっちは江風で……これはまた神通か。前にも書いてたはずだが」

五十鈴「扶桑さんの可能性出てきたわね」

提督「で、これがトラックので……四季七曜……? で、押印は【文】……?」

五十鈴「文月ちゃんね。……なるほどねぇ」

提督「風流だがどこら辺がトラックだかわけがわからねぇ。五十鈴はわかるのか?」

五十鈴「本人に訊いたら? 私はこれから防空演習だし」

******

提督「――というわけでこれどういう意味だ?」

文月「それはねぇ。日本がトラック諸島まで勢力を伸ばしてたときに、そこの島々に四季や曜日を冠した名前をつけてたの」

提督「そういうわけか……」

663: 2015/12/11(金) 22:43:58.70 ID:MT6STfjZo
――― 奈良県で見た ―――

谷風「提督、谷風さんのこのクリスマス衣装、どうだい?」

提督「いいんじゃないか?」

谷風「へへーん」

提督「しかしどこかで見たような。ちょっと右手を下ろして斜めにしてみて」

谷風「こうかい?」

提督「……そうだ、思い出した。せんt」

谷風「おっとそれ以上は思い出さないほうが賢明だね?」

提督「止めろ義兄の喉にスコップだかシャベルだか突きつけて脅すのは止めろ」

664: 2015/12/11(金) 22:45:43.52 ID:MT6STfjZo
――― >>390参照 ―――

提督「おう、初風もクリスマス衣装か……」

初風「メリークリスマス、って何よその顔」

提督「なんかいつもと艤装が違うな。背負い魚雷管といい脚部艤装といい他の十六駆に近いデザインだ」

初風「その、天津風がくれたのよ」

提督「しかし、この調子だと初風の改二は他の十六駆にあわせたデザインになりそうだな?」

初風「来てみるまではわからないわよ?」

668: 2015/12/14(月) 22:46:14.77 ID:kqM1UWLfo
――― 弥生の次くらい ―――

鎮守府でもクリスマスのパーティーは行われる。

彼女たちが現役だったあの頃にそんな習慣あったかと疑問に思う提督であったがなんだかんだで楽しんでるようなのでそれ以上の追求はやめた。

提督「なんか大半がケーキと七面鳥を食う祭りだと思ってるんじゃないか。まぁ楽しんでるならいいか」

不知火「……(もぐもぐ)」

提督「おお、不知火、クリスマス楽しんでるか?」

不知火「まあまあ。まあまあですね。クリスマス、悪くはないかと思います(もぐもぐ)」

提督「そうか……」

陽炎「不知火は……意外と楽しそうね♪」

提督「えっ」

陽炎「ほんとほんと。本人に聞いても否定するだろうけどあれで楽しんでるわよ」

提督「マジで」

念のため他の姉妹にも聞いてみたが皆「不知火は楽しんでる」との回答だった。

提督「マジで……」

雪風「不知火姉さん、あまりこういう感情表に出しませんから」

672: 2015/12/16(水) 22:56:00.96 ID:jniwtoJSo
――― 礼号作戦の話 ―――

提督「礼号作戦だ? ずっと前にやった気がするんだが?」

水上反撃部隊の任務が実装されたのは去年の12月、足柄改二が実装された頃の話である。

雪風「今度は編成が固定みたいです。霞ちゃん旗艦、随伴に足柄さん、大淀さん、あと朝霜ちゃん、清霜ちゃんですね」

提督「だっるーい……。でもまぁいい機会だ。水上反撃と構成一緒だし一緒に報酬貰おう。一挙両得だ」

雪風「残りの随伴は誰にしますか、しれぇ?」

提督「索敵厳しいしなぁ。高練度の駆逐が必要だな。雪風、頼むぞ」

雪風「了解です!」


******


沖ノ島沖、敵主力艦隊西地点


霞「艦隊被害状況報告。旗艦霞中破、他目立った損傷なしよ」

提督『よし、進撃し敵主力艦隊に引導を渡せ』

霞「了解。通信切るわよ」

朝霜「霞、大丈夫か?」

霞「ふん、このぐらいで弱音吐いてられないわよ。敵編成を確認しましょうか」

足柄「いつも通りならフラタを旗艦にエリル2、フラホ1、エリニが2。毎月行ってるから覚えちゃったわ」

霞「ありがと。大淀さん、敵艦隊捕捉できた?」

大淀「……敵艦隊発見。ここより東南東の方角です!」

霞「ガンガン行くわよ! ついてらっしゃい!」

673: 2015/12/16(水) 22:57:36.00 ID:jniwtoJSo
個々の練度が上がったとしても、艦種の違いは覆しがたい。特に遠距離での戦となる砲撃戦では装甲の違いが如実に現れる。

敵戦艦の砲撃でまず雪風が中破、続いて大淀が大破。残りで小型艦を片付けるものの清霜も中破。

霞「結構やられたわね……。敵は残りが戦艦3、任務は敵艦隊の撃滅……。追撃するしかないわね」

足柄「こんなので帰すなんてありえないわよね。突撃よ、突撃!」

朝霜「夜戦かぁ……いいねぇ、思い出すねぇ……!」

清霜「ほんと、あの夜思い出しちゃう」

雪風「雪風も、いけます……!」

霞「あぁ、もう、馬鹿ばっかり! 大淀さんは一歩引いて! 他動ける艦は私に続いて!」

大淀「すみません、退避します。御武運を……!」


******


霞「氏ねばいいのに!!」

足柄「十門の主砲は伊達じゃないのよ!」

霞がル級の片割れの首を吹き飛ばし、足柄がタ級をゼロ距離からの全門斉射で屠る。

だがもう片方のル級は残る駆逐艦に狙いを定めていた。

雪風「! 朝霜ちゃん、危ない!」

朝霜「んなっ……!?」

雪風が朝霜を突き飛ばした直後、巨大な水柱が雪風を包み込んだ。

朝霜「っ……無茶しやがって。清霜、雪風を頼む! アイツはあたいが殺る!」

清霜「あ、うん!」

体勢を立て直して砲撃の弾源に向かって突っ走る朝霜。

清霜は横倒しに倒れてる雪風を引き起こす。

清霜「雪風、大丈夫!?」

雪風「げほっ、ごほっ……雪風は、沈みませんから……」

そう言うと清霜にもたれかかるように気を失った。

清霜「あわわわわ」

それとほぼ同時に、残るル級を朝霜が撃沈。

朝霜「ざっとこんなもんだ!」

674: 2015/12/16(水) 22:59:31.51 ID:jniwtoJSo
霞「全く、雪風ときたら無茶しすぎよ」

清霜「あわわわ、雪風動かなくなっちゃったどうしよう」

霞「清霜、うろたえない! ちょっと貸しなさい」

動揺する清霜から半ば強引に雪風を奪い、呼吸と脈を確かめる。

霞「……単に気絶してるだけよ。雪風はこのまま私が曳航するわ」

清霜「わかった。……あれ、足柄さんは?」

霞「一足先に大淀さん連れて戻ったわ」

そこにドヤ顔で寄ってくる朝霜。

朝霜「どうだ、見たかい霞ぃ!」

霞「あれで仕留め損ねてたらどうしてやろうかと思うところだったわ。さ、帰るわよ」


******


ぷかぷか丸に帰投した霞たち。

提督「おう、お疲れさん。大淀たちは先に憩ってるぞ」

霞「そんなことよりほら、雪風が大破してるわ。ドックに連れてってあげなさいな」

提督「お前も中破してるじゃねーか」

霞「このくらいどうってことないわよ」

提督「ともかくお前もドック入りだ。あと清霜も中破してたな?」

清霜「うん」

提督「よし、朝霜、清霜。霞をドックまで連れてけ。その後、清霜も入れ」

清霜「おっけー!」

朝霜「あいあいさー!」

霞「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

朝霜「いやぁ、提督命令だから仕方ないねぇ」

清霜「うんうん」

霞「覚えてなさいよこの独裁者! クズ! #$%&!!」

提督「いってらっしゃーい」

雪風「んぅ……ここは……」

提督「ぷかぷか丸だ。作戦は成功したぞ」

雪風「よかった……」

提督「歩けるか?」

雪風「んーん……。雪風、今日は疲れちゃいました……」

提督「じゃ、俺がドックまで運ぼう。今日はお疲れ様。ゆっくり休め」

雪風「はい……」

675: 2015/12/16(水) 23:00:40.45 ID:jniwtoJSo
霞「水上反撃にこだわらなきゃこんなに苦労しないで済んだのよ。航空戦艦使えるでしょ」
提督「その手があったか」
霞「あーもう! 馬鹿ばっか!!」

というわけで雷は次回に。ちなみに実際のプレイでは雪風は夜戦突入時点で大破してました

677: 2015/12/17(木) 22:37:42.19 ID:fhmHJdyOo
――― 雷ちゃんは頼られたい ―――

暁型駆逐艦三番艦、雷。彼女は今、未曾有の危機に瀕していた。

雷「しれいかんが、頼ってくれない……」

マグロのような目をして暁型の部屋にて横たわっている。

雷「電たちは一線級の練度になってるのに私はまだ遠征組……」

暁「困ったわね」←既に改二

響「私たちで何とかしないと」←既にヴェールヌイ

電「なのです」←初期艦組の流れで改二が来ると思われて底上げされた

雷「う゛ぁ゛~……」

響「といっても、どうすればいいやら……」

暁「ふふん、いい考えがあるわ」

響「それ失敗フラグ」

暁「失礼ね! これを見て!」

電「任務の書類ですか……?」

『海上突入部隊、進発せよ!』

暁「これよ、これ! この任務は完全に艦隊編成固定、そしてその中にあか…雷も含まれてるのよ!」

響「今、自分の名前を挙げようとしなかったかい」

暁「この任務を成功させて頼れるところを見せれば司令官もきっと見直してくれるわ!」

雷「!! ホント!?」

暁「よし、それじゃ行くわよ!」

電「なのです!」

響「いってらっしゃい」


響(……この任務、なんか理由があって消化してなかった気がするけどなんだったっけ。……まぁ、いいか)

678: 2015/12/17(木) 22:38:18.68 ID:fhmHJdyOo
艦娘寮、廊下

雷「♪~♪♪~」

霧島「あら、雷に暁に電じゃない。雷、最近元気がなかったようだけど今日は機嫌がよさそうね」

暁「司令官にこれから作戦任務の書類届けて、出撃するのよ!」

電「霧島さんも出撃メンバーに入っているのでその時はよろしくお願いするのです」

霧島「なるほど……」

雷「さ、早く行きましょ!」


霧島「……しかし、あの三人に私が必要となる任務、この霧島の予測ではこのままだと確実に却下されますね。ちょっと手を打っておきましょう」

679: 2015/12/17(木) 22:38:54.73 ID:fhmHJdyOo
鎮守府、執務室

雷「司令官! 出撃任務の書類よ!」

提督「ふむ」

提督は受け取った書類をちらりと見るなり八つ折にして暖炉へ放り込んだ。あっという間に焼け落ちる書類。

突然のことに呆然とする駆逐艦三人。一番最初に正気を取り戻したのは雷だった。

雷「ちょ、ちょっと!? ちゃんと読んだの!?」

提督「『海上突』まで読んだ。労多くして益少なしというか重巡2なしで南方行けとかお上は頭おかしいんじゃねぇの」

海上突入任務に重巡を入れる枠など無い。

暁「というか燃やしちゃって大丈夫なの!?」

提督「どうせ明日には猫吊るしが気づいて再度張り出すから大丈夫だろ」

などといっている間に雷が電を引きずって退室しようとしていた。

雷「電、明石さんに頼んで重巡洋艦にしてもらうわよ。私と電が重巡になればもっと頼ってもらえるわ」

既に雷の目には光が無い。

電「無理なのです! 無茶言わないで欲しいのです!」


そこにバン、と扉を開けて雪風が入ってきた。

雪風「しれぇ!」

言うなり最短距離で机を飛び越し提督の背中に乗っかる。

提督「うわ、なんだよ雪風」

雪風「話は聞きました! そんな投げやりな心構えでは雷ちゃんがだめになってしまいますし他の艦娘たちにも示しがつきません!」

提督「でも資材がなぁ」

雪風「資材庫から溢れるほど余らせてるのに何言ってるんですかしれぇ!」

提督「ぐぁぁ揺さぶるな雪風」

雪風「ほら暁ちゃん達も揺さぶるの手伝ってください!」

暁「あ、うん」

雷「わかったわ!」

電「仕方ないのです」

提督「ヤメロー! ヤメロー!」


霧島(よしよし、うまくいきましたね。雪風ちゃん以外ではこうはいかないでしょう。司令は彼女には甘いですから)

683: 2015/12/18(金) 22:41:20.91 ID:qfqvFSBno
――― 大規模改造は身体部分の成長を意味するとは限らない ―――

提督「霞の改二は来年か……。今年の改二は打ち止めかな」

電「結局、電たちの改二来ませんでしたね……」

提督「来ると思ったんだがなぁ」

電「改二になれば電も大きくなれると思ったんですが……」

提督「姉二人は改二になったが背丈は大して変わってないぞ」

電「い、五十鈴さんみたいにバスt」

提督「それ以上いけない。龍驤がアンブッシュしてくる可能性がある」

~~~~~

龍驤「へぶしゅ」

隼鷹「おやおや、風邪かい?」

龍驤「なんか、ろくでもない事いわれた気がするわ……」

~~~~~

電「あんまり少女の夢を壊さないでほしいのです」

提督「すまんな」

687: 2015/12/21(月) 22:47:56.96 ID:giUqEgCBo
――― 本当に海上突入任務消化してしまった…… ―――

鎮守府、工廠。提督の前に横並びに立つ六人の艦娘。

提督「比叡、霧島、長良、暁、電、雷。よし、全員いるな」

比叡「いよいよこの任務を行う時が来たのですね! 気合! 入れて! 行きます!!」

提督「というか何度かやろうとして失敗してるんだけどな」

比叡「ショボン」

提督「途中大破が二割、敵旗艦に潜水艦がいること一割、残り七割はあのクソふざけた#$%&羅針盤*=+@だ」

電「途中言語がむちゃくちゃなのです」

提督「だいたい四戦目なんだから潜水艦への攻撃は通り難い。今までは雷に対潜装備ガン積みにしていたがヤメだ」

そう言って提督は雷に二つの小口径主砲を渡す。

雷「これは……」

提督「ドイツのが使ってた12.7cm単装砲とイタリアのが使ってた120mm連装砲だ。夜戦で当てて潰せ」

雷「わかったわ!」


******


南方海域前面。

比叡「ひえー。また北ですよ」

霧島「道中は扶桑さんたちが支援砲撃掛けてくれますが、資材とか大丈夫なんでしょうかね」

提督『この前の大規模作戦以上のペースで資材吹っ飛んでるが心配は要らんぞ。大型建造で消費するか考えたところだしな』

比叡「とりあえず片付けたら帰投しますよー」

提督『あいあい』


雷「うー……」

暁「ほら、ふて腐れてないの」

電「羅針盤はしょうがないのです……」

長良「やったぁ! もう一周できる!」

暁「でもポジティブすぎるのも問題よね」

長良「暁ちゃん、なんか言った?」

暁「な、なんでもないわ!!」

688: 2015/12/21(月) 22:49:30.87 ID:giUqEgCBo
そんなこんなで出撃を繰り返すこと十数回……

霧島「いつもの司令ならもうとっくに諦めてるはずですが……」

比叡「たまに意固地になるからなぁ。電、大丈夫?」

電「なんとか、進めるのです……」

電が中破した他は大きな負傷はなし。

比叡「無理はしないでね。さて、例の分岐点……気合、入れて、行きます!!」

暁「気合じゃどうにもならないと思うけど」

比叡「……南東ッッ!!」

暁「ええっ!?」

雷「いよいよ決戦ね……!」

長良「ソナー、感なし! 千載一遇のチャンスよ!」



昼の戦闘は熾烈を極めた。

ヲ級の航空攻撃で雷が中破、タ級の砲撃で電が大破。駆逐2とリ級を撃沈するも、霧島がタ級に大破させられる。

魚雷攻撃も功を奏せず、敵は撤退を開始する。

比叡「この任務は敵主力の撃滅前提……でしたよね、司令」

提督『そうだ。殺れ』

比叡「うわ、怖ッ!」

提督『絶対仕留めて帰って来い』

比叡「り、了解です!」

手を振り合図する比叡。

比叡「これより敵艦隊を追撃します!」

暁「電はちょっと下がって待ってなさい。雷も無理しちゃダメよ?」

電「了解なのです」

大破して速力が落ちてることもあって引き下がる電だが、雷は違った。

雷「……雷は大丈夫なんだから!」

暁「しょうがないわね、危ないときには退くのよ?」

雷「もちろん!」

689: 2015/12/21(月) 22:50:31.58 ID:giUqEgCBo
敵の陣形はヲ級を庇うようにト級とタ級が待ち構えている。

比叡(あのタ級は私が倒す必要がある、ト級は長良に任せるとなると……)


比叡「暁! 雷! タ級とト級は私と長良が止めます! ヲ級は任せたよ!」

一声かけた直後、タ級に突撃をかける。長良ももう一隻の護衛を追いかける。

暁「がら空きね。突撃するんだから!」

最大戦速でヲ級目掛け突き進む暁。やや遅れて雷も後を追う。

ヲ級は慌てて艦載機を飛ばして反撃を行うも、爆弾の投下地点には既に暁も雷もいない。

暁「お子様! いうなぁーっ!!」

接近してからの主砲の連撃。一撃目は頭部艤装を大きく破損させたものの、胴を狙った二撃目はカス当たりに終わる。

暁「そんなっ!?」

その直後、ごしゃり、と硬いものが更に硬いものでひき潰されたような音がした。

雷が、手に持った錨でヲ級の脳天を艤装ごとかち割ったのだ。

雷「この雷様に……」

振り下ろした錨をその勢いのままに振り子の如く反転。振り上げた錨が沈み逝く空母の胴に直撃する!

雷「敵うとでも思ってるのかしら!」

打ち上げられたヲ級の体は空中で数回回転し、着水。そのまま起き上がることなく海中に没していった。



比叡「海上突入部隊、ただいま帰投しました! って何自分の顔つねってるんですか司令」

提督「いや、夢じゃないかと思ってな」

雷「暁と一緒に敵旗艦倒したわ!」

提督「マジか。夢じゃないんだな」

雷「もーっと頼ってもいいのよ!」

******

後日、第六駆逐隊の部屋。雷は再び倒れていた。

雷「遠征に呼ばれる回数減った気がするわ……」

電「きっと練度が上がったからなのです」

暁「基本的に練度の低い子から回してるしね」

響「仕方ないね」

雷「もっと頼ってよしれいかーん!!」

690: 2015/12/21(月) 22:52:04.38 ID:giUqEgCBo
提督「ところで主砲渡したのに錨で殴っていいのか」
雷「火力が上がれば近接攻撃の威力も上がるから大丈夫大丈夫セイシンテキセイシンテキ」

というわけで4-5や弥生の話はまた次かその次に

694: 2015/12/22(火) 22:32:43.36 ID:sgdBEK1io
――― わかる人にしかわからない ―――

提督「しっかし弥生はホント感情を顔に出さんな」

弥生「すみません、表情硬くて……」

提督「いや、ポーカーフェイスなのが悪いとは言わんが……そうだ」

弥生「?」

提督「ここにマンガ本がある。この俺をして読んでる間中笑い転げさせた一品だ。読むといい」

弥生「執務中なのに、いいの……?」

提督「俺が許す。なんなら豊かな感情をはぐくむためのレクリエーションとでも思えばいい」

弥生「それなら……」

提督「ほれ」


弥生「……」

提督(……クスリともしねぇ)


弥生「……」

提督(……笑い転げた俺がおかしかったのか?)


弥生「読み終わりました。お返ししますね」

提督「あ、あぁ」

弥生「面白かったです。では、弥生はこれで……」

提督(いや面白そうには見えなかったが)

弥生と入れ替わりに入ってくる望月

望月「しれーかん、荷物届いてるよー」

提督「お疲れさん。そこに置いといてくれ」

望月「しかし、弥生姉上機嫌だったな。なんかした?」

提督「えっ、上機嫌」

望月「うん」

提督「これ読ませただけだが……望月も読んでみるか?」

望月「おおー、読む読む」


望月「ゲラゲラゲラ」

提督「……本当に面白いと思ってたのか」

695: 2015/12/22(火) 22:34:55.57 ID:sgdBEK1io
読み直したら長良結構ひどいな。まぁ海走り回れれば喜びそうだし、軽巡は駆逐にとって畏怖の象徴って陽抜にあったし(震え声)
>>692は>>690に対する返答でしょう。たぶん

というわけで小ネタ艦娘とか安価下既出さらに下

698: 2015/12/25(金) 22:52:32.03 ID:zy9tjMLBo
――― お祝い事のキメラ ―――

三日月「これ、ささやかなものですが日ごろの感謝を込めて、三日月からです!」

提督「ありがとう……はいいとして少々疑問に思うことがあるんだが」

三日月「なんでしょうか?」

提督「細かいことは忘れたがクリスマスは子供の守護聖人であるところの聖ニコラウスにちなんで子供にプレゼントを配る行事のはずだが」

三日月「あの、僭越ながら司令官の方が年下では?」

提督「そうだな……いやいや待て少なくとも子供ではないだろ三十数年生きてるわけだし」

三日月「でもこういう機会でもないと御礼する機会ありませんし」

提督「まぁ、いいか。なんか知らないけど飯をたらふく食える日と思ってるのも結構いるみたいだし」

三日月「元々は異国の冬至祭でしたっけ」

提督「そこから後付でいろいろついた結果が今のクリスマスってわけだ……」

699: 2015/12/25(金) 22:53:27.14 ID:zy9tjMLBo
なんかプレゼントくれる駆逐艦娘多くない? こっちが渡す役のはずじゃないの? みたいなことを別スレでも書いたなぁ


次回:泣き虫雪風と釣り人提督【その29】


引用: 【艦これ】泣き虫雪風と釣り人提督 Part3