1: 2008/12/19(金) 14:38:27.03 ID:l0YjA6tE0
――― 寝ている間に玩具が動き出す。
ガキの頃に読まされた本にそんなクダリがあったが……
それでも俺は、ガキながら思ったもんだ。
「こんなファンタジー、ガキでも信じない」ってな。
ガキの頃に読まされた本にそんなクダリがあったが……
それでも俺は、ガキながら思ったもんだ。
「こんなファンタジー、ガキでも信じない」ってな。
2: 2008/12/19(金) 14:38:59.27 ID:l0YjA6tE0
「平和だねぇ……」
木星の衛星・カリストの港。
そこに浮かんだ、漁船を改造したボロ船。
その甲板で釣り糸を垂らしながら、額から頭頂部にかけて禿げ上がった男は呟いた。
かといって彼は、釣りを楽しんでいる訳でも、平和な一時を満喫している訳でもない。
無いのだ。金が。
そこで仕方が無く、釣りでもして食糧を……という状態だった。
筋肉質な腕をポケットに伸ばし煙草の箱を掴み、もう片方の腕 ――― 金属製の義手でライターを掴む。
そして咥えた煙草に火をつけようとした瞬間……
「おぉっ!と!」
魚がかかったのか、急にしなりだした釣竿を彼は慌てて掴み寄せた。
「くく…ふっふっふ……待ってたぜぇ、晩飯ちゃんよぉ……
いやいや、釣りの極意は焦らず、慌てずだな……」
火のついてない煙草を咥えブツブツ言いながら、糸をほんの少し巻き取った状態で手を止める。
そして、魚が弱ってきたのか引きが弱くなった瞬間―――
派手な音を鳴らしながら、亀の形をした宇宙宅配便が近くに下りてきた。
当然というのか例の如くというのか、その衝撃で釣り糸はプッツリ切れてしまい……
彼はため息と共に、ゴツゴツした義手で禿げた頭を撫でるのだった。
3: 2008/12/19(金) 14:39:32.07 ID:l0YjA6tE0
数十分後……
「爆発物では……ないみたいだな」
オンボロ船のリビングにテーブルに置かれた荷包みのスキャン結果を眺めながら彼は呟いた。
宇宙宅配便が持ってきた、自分には覚えの無い届け物。
料金も既に支払ってあった事もあり、ほいほいと受け取ってしまったが……そこからが問題だった。
退職したとは言えI.S.S.P.(太陽系刑事警察機構)にも所属していた。
賞金稼ぎという仕事柄、恨みを買ってないとも言い切れない。
郵便物に見せかけて…ボン!という事態も、十分にありえる。
「生物兵器、化学兵器も無し……」
そこまで調べて、彼は目の前に置かれたままの荷包みに視線を向けた。
「おおかた、そそっかしい誰かが自分の名前を書かずに送ったんだろうよ」
自分にそう言い聞かせ、荷物の包み紙をバリバリと剥がしていく。
そして中から出てきたのは……古い革張りの、装飾のなされた鞄だった。
さらにその中に入っていたのは……
「……何だこりゃ?」
眠るように体を小さくした、少女の人形。
彼はその頭部をむんずと片手で掴むと、自分の目の高さまで持ち上げた。
4: 2008/12/19(金) 14:39:52.85 ID:l0YjA6tE0
こんな少女趣味なシロモノを集める趣味は彼には無かったし、彼の周囲にも居ない。
訳が分からないながらも、片手で頭部を掴んだままクルクルと観察して見る。
が……やはり、何も分からなかった。
とりあえず、再び鞄に詰め込んで宅配会社にでも連絡を。
そう考え、鷲掴みにしたままの人形を鞄へと放り込もうとして……
彼は鞄の中に小さなゼンマイが入っている事に気が付いた。
「ゼンマイ、ねぇ……今日びのガキはこんな仕掛けでも喜ぶもんかね」
時代遅れのボロ船の船長は、目の前にある時代遅れなアンティーク人形へと再び視線を向ける。
……どこか……自分と同じように、時代に乗れなかったモノの匂いがした。
もし、時代に流され裏社会の連中ともヨロシクしていれば……I.S.S.P.に残る事だって出来ただろう。
周囲に、時代に流される性格だったなら……今日の晩飯だってきっと豪勢だったに違いない。
「……けっ」
彼は短く吐き捨てると、鞄の中に置かれていたゼンマイに手を伸ばした。
少しセンチメンタルな気分になったから。
理由をつけるとすればそんな所だが、彼は片手に握ったままの人形を再び見渡し……
そして、背中に空いた穴へとゼンマイを差し込み、巻いた。
5: 2008/12/19(金) 14:40:12.90 ID:l0YjA6tE0
中で歯車でも回っているのだろう。
キリキリと鳴り始めた人形の頭部を掴んだまま、彼はその音に耳を傾ける。
歯車……
流されなかったお陰で、歯車ではなく個人として生きていける。
確かに、晩飯に困る事もあるが……それでも、満足している。
彼は目を瞑り、笑みを浮べながら再び物思いに耽りだした。
と……
「い…痛いですぅ!放しやがれですぅ!!」
ぶら下げたままの人形が、突如として悲鳴を上げた。
「ほぉ……喋ったりするのか。ゼンマイ仕掛けの割には良く出来てるな」
彼は関心しながら人形を自分の目の高さまで持ち上げる。と……
「きゃー!!」
人形は、今度こそ正真正銘の悲鳴を上げながら、彼の顔面目掛けてパンチを繰り出す!
「うぉぉ!?」
いきなりの事に、回避は間に合ったものの……鷲掴みにしていた人形を落としてしまう。
だが、人形は床に衝突せず、その2本の足で着地し……そのまま近くのソファーの陰に身を隠した。
6: 2008/12/19(金) 14:40:28.72 ID:l0YjA6tE0
「な…何だ……?」
訳が分からず呆然とする彼に向かって……人形はソファーから少しだけ顔を出すと、小さな声を上げる。
「は…ハゲ人間……お前が翠星石を巻いたですか?」
「ゼンマイなんて古い仕掛けに騙されたか……」
気にしている頭部に対する辛辣な発言は聞かなかった事にして、彼は困ったように頬を掻く。
さて、どうするか。相手はどう出てくるか。
銃は身に付けたままなので、何とかはなる。
若干、警戒の色を見せ始めた筋骨隆々な大男を前に、翠星石も震える声で自己紹介を始める。
「わ…私はローゼンメイデン第3ドール、翠星石ですぅ……
ハゲ人間が翠星石を巻いたのですか?」
自己紹介を始めた、という事は、今は敵ではないのだろう。
そう判断すると、彼は今度は自分の事を話し始めた。
「俺はジェット・ブラック。ここは俺の船だ。で、俺がここの船長。
ゼンマイ差し込んだのは俺だから……まあ、巻いたのも俺だな」
「船長……ですか……?」
翠星石は自分が身を隠しているソファーと、それから船内をぐるりと見渡してみる。
老朽化と煙草の煙ですっかり色の変わってしまった壁。
作りは良いが、煙をたっぷり吸い込んで変な匂いのするソファー。
8: 2008/12/19(金) 14:40:49.61 ID:l0YjA6tE0
「……とんだボロ船ですぅ……」
ついつい、率直な感想が口から漏れてしまった。
「ボロじゃねぇ!」
と、途端にジェットが声を荒げる。
その声に「ひっ!」と身をすくめた翠星石と、気にしている事をズバズバ言われ眉間に皺がより始めたジェット。
とりあえず……
どういう原理かは不明にせよ、会話が成立している。
きっと、電波で遠くから操作しているのだろう。
ジェットはそう判断すると、何となく…何となくではあるが、厄介事の予感を感じながら尋ねる。
「で……ローゼンメイデン?そんな組織は聞いたことは無いが……」
ボロ船が禁句であると心のメモ帳に記しながら、翠星石も……相変わらずソファーに身を隠したまま説明を始める。
「一回しか言わないから、よく聞きやがれですぅ……ローゼンメイデンというのは……――――」
12: 2008/12/19(金) 14:42:12.64 ID:l0YjA6tE0
「……生きた人形、ねぇ……」
翠星石の話を一通り聞いてから、ジェットはいつものようにネットワークでその情報の裏づけを探し……
そして、これは予想してなかった事だか……
実際に神話級の怪しい情報元ではあったが、それでもローゼンメイデンの存在については否定しきれなくなった。
「……おおかた、どこかで操作してるもんだとばかり思ってたが……」
愛すべきボロ船・ビバップ号の操舵室で本格的に調べたが、何の電波も出てない事が判明したのはついさっき。
ジェットはぶつくさ言いながら、数少ない趣味の盆栽いじりをしていた。
当然のように、右手には鋏。金属製の左手には煙草。
そして翠星石は……
強面の巨漢に対し、未だに契約の事を切り出せないまま扉の影から顔を少しだけ出して様子を窺っていた。
「……こそこそ見てないで、何か用があるなら言ったらどうだ」
ジェットは正面の盆栽に向かい合ったまま、声だけを扉の方向へ向ける。
翠星石はと言うと、相変わらず扉にしがみ付いたままだが……
やがて意を決したのか、盆栽に鋏を入れているジェットへと、一歩だけ足を踏み出した。
彼女はこの時初めて、何かの影に隠れながらではなく彼と向かい合った。
「手入れをしてくれるのは良いですけど、タバコの煙で苦しいと言ってるですぅ……」
翠星石は部屋の中にずらりと並んだ盆栽の声を、ジェットに伝える。
「ん?……ああ」
ジェットは短く答えると、金属製の机に煙草を押し当て、火を消した。
翠星石の話を一通り聞いてから、ジェットはいつものようにネットワークでその情報の裏づけを探し……
そして、これは予想してなかった事だか……
実際に神話級の怪しい情報元ではあったが、それでもローゼンメイデンの存在については否定しきれなくなった。
「……おおかた、どこかで操作してるもんだとばかり思ってたが……」
愛すべきボロ船・ビバップ号の操舵室で本格的に調べたが、何の電波も出てない事が判明したのはついさっき。
ジェットはぶつくさ言いながら、数少ない趣味の盆栽いじりをしていた。
当然のように、右手には鋏。金属製の左手には煙草。
そして翠星石は……
強面の巨漢に対し、未だに契約の事を切り出せないまま扉の影から顔を少しだけ出して様子を窺っていた。
「……こそこそ見てないで、何か用があるなら言ったらどうだ」
ジェットは正面の盆栽に向かい合ったまま、声だけを扉の方向へ向ける。
翠星石はと言うと、相変わらず扉にしがみ付いたままだが……
やがて意を決したのか、盆栽に鋏を入れているジェットへと、一歩だけ足を踏み出した。
彼女はこの時初めて、何かの影に隠れながらではなく彼と向かい合った。
「手入れをしてくれるのは良いですけど、タバコの煙で苦しいと言ってるですぅ……」
翠星石は部屋の中にずらりと並んだ盆栽の声を、ジェットに伝える。
「ん?……ああ」
ジェットは短く答えると、金属製の机に煙草を押し当て、火を消した。
13: 2008/12/19(金) 14:42:35.74 ID:l0YjA6tE0
「翠星石はローゼンメイデンの庭師ですので、この子達が言ってる事が分かるですぅ」
そう言い彼女は、部屋の中に並べられた盆栽達を見渡す。
「……嫌な煙が無くなって、この子達も喜んでるですよ」
植物を愛でる心が有るという事は、見た目よりそう悪い人間でもないのかも。
翠星石がそう考えた時……
「俺の趣味が分かるとは、なかなか見る目があるじゃねえか」
ニヤリと笑みを浮べながら、ヒゲ面の巨漢がこっちを振り返ってたではないか!
ジェットにしたら盆栽という時代錯誤な趣味が分かる相手に機嫌を良くしただけなのだが……
如何せん、その笑顔には凄みというのか迫力がある。
翠星石はくるりと背中を向けると、涙を目の端に溜めながら再び扉の影に半身を隠してしまった。
ジェットはというと……ガキに嫌われるのは慣れてる。そうは思いながらも……
やっと会話が出来たと思った矢先のこのアクシデントに、困ったように禿げた頭を掻くだけだった。
14: 2008/12/19(金) 14:44:05.71 ID:l0YjA6tE0
軽快な音楽と共に、西部劇にでも出てきそうな格好の二人がモニターの中に登場した。
ご存知、銀河に知れ渡る賞金稼ぎの情報番組だ。
「ハーイ皆さんお待ちかね!ビッグショットの時間だよ!」
「ハァイ、パンチ。今日紹介するのはどんな賞金首なの?」
「それがジュディ……この不景気の波がこの世界にまで来てしまって……
と、そんな中でも我々が特にオススメするのはこいつだ!
本来ならケチな強盗の彼にかけられたのは、なんと100万ウーロン!
それもその筈、何とこいつは逃走中に警官を射頃して……――――」
15: 2008/12/19(金) 14:44:27.92 ID:l0YjA6tE0
賞金首情報番組を見ながら、ジェットはテーブルに豪快に腰掛けたまま自作の料理をつついていた。
ちなみに翠星石はと言うと、美味しそうな匂いにつられてフラフラとやって来たまでは良かったが……
緑色しか見えない、肉抜きのチンジャオロースを前に悲しそうな顔をしていた。
「……お肉が入ってないですぅ……」
「……食うなら黙って食え……」
何とも切ない貧乏丸出しの料理を、悲壮な雰囲気でつつきだす翠星石。
流石のジェットも、苛めてるみたいな気がして気まずいが……金が無いからこればっかりは仕方が無い。
やがて巨体には似合わないエプロンをし、カチャカチャと食器を片付けだしたジェットの背中を見ながら……
翠星石は契約の事をついに言い出せなかった事に途方に暮れつつ、寝る時間なので鞄の中へと戻っていった。
「もういっそ、こんなハゲ人間とは契約せずにいるのも良いかもしれんですぅ……
でも、翠星石が目覚めたという事は……蒼星石も………
うぅ……蒼星石……会いたいですぅ……」
強面の悪漢に捕らえられたお姫様のような涙を流しながら、翠星石は鞄の中で眠りに付いた。
17: 2008/12/19(金) 14:44:50.36 ID:l0YjA6tE0
………
……
…
どれ位眠っていたのだろうか。
翠星石は安眠を妨げる不快な振動で、鞄の中で目を覚ました。
やがて、鞄ごとどこか硬い場所に置かれた感覚と……バタンと扉の閉まる音。
「……な…何事ですか……?」
恐る恐る鞄の上蓋を持ち上げ、周囲を窺おうとするが……周囲は真っ暗で何も見えない。
「スィドリーム……」
鞄の中から人工精霊を呼び出し、周囲を照らして見ると……そこは狭い金属の箱の中だった。
「なっ!?こ…こんな所に閉じ込めて何するつもりですか!?」
周囲をガンガン叩きながら暴れててみる。
と……
壁の一面が大きな音と共に外れた!
……
…
どれ位眠っていたのだろうか。
翠星石は安眠を妨げる不快な振動で、鞄の中で目を覚ました。
やがて、鞄ごとどこか硬い場所に置かれた感覚と……バタンと扉の閉まる音。
「……な…何事ですか……?」
恐る恐る鞄の上蓋を持ち上げ、周囲を窺おうとするが……周囲は真っ暗で何も見えない。
「スィドリーム……」
鞄の中から人工精霊を呼び出し、周囲を照らして見ると……そこは狭い金属の箱の中だった。
「なっ!?こ…こんな所に閉じ込めて何するつもりですか!?」
周囲をガンガン叩きながら暴れててみる。
と……
壁の一面が大きな音と共に外れた!
20: 2008/12/19(金) 14:45:20.22 ID:l0YjA6tE0
「ふぅ…脱出成功ですぅ!」
額の汗を拭く真似をしながら、翠星石は箱の外に出てみる。
そして、それは箱ではなく……幾つも並んだコインロッカーの一つだと気付いた。
「ま…まさか、あのデカハゲヒゲ人間……翠星石を捨てやがったですか!?」
驚きと困惑とが一度に押し寄せてくるが……一番大きかった感情は、怒り。
何故、誇り高き薔薇乙女である自分が、こんな暗くて狭い所に捨てられるのか。
「あのハゲ頭にカイワレ植えて説教してやるですぅ!」
頬を膨らませながら、翠星石は徐々に遠ざかる巨漢の後ろを追いかけ始める。
だが、身長が自分の倍以上違う相手を追いかけるのは至難の業で……
「はぁ…はぁ……ちょ…ちょっと待ってやがれですぅ!」
肩で息をしながら虚勢を張り、それから再びコインロッカーへと引き返す事にした。
そしてロッカーから自分の鞄を出すと、それに飛び乗り……
「さーさー!いざ、改めて出発ですぅ!」
不思議な力により空飛ぶ鞄に乗りながら、再びハゲ頭の目印を追いかけ始めた。
21: 2008/12/19(金) 14:45:51.10 ID:l0YjA6tE0
空には幾つもの自動車が飛び交い、その合間を縫うように翠星石の鞄は空を翔る。
衝突しかけてクラクションが鳴らされる度、翠星石は律儀にベーと舌を出しておちょくり返す。
そんな事ばかりしてるせいで、前方不注意により、また別の車にぶつかりかける。
今度はおとなしく、低空飛行で安全に行こうと心を入れ替える。
と、スリリングな飛行を続けるうち……
「見つけたですぅ!」
翠星石は路地裏で見知らぬ男の首を締め上げているジェットを発見した。
「翠星石を捨てたり喧嘩をしたり…とんどもない不良ですぅ!」
そのまま勢いに任せ、鞄でジェットの禿げ頭に体当たりを喰らわせる!
その拍子に手が緩まるジェット。逃げ出す男。
陥没しそうな位に痛む頭を撫でながら、ジェットは翠星石を睨みつけた。
「てめぇ!何しやがる!」
「お前こそ何してるですか!翠星石をあんな狭い所にほったらかして喧嘩なんて……」
「あいつは賞金首だ!」
22: 2008/12/19(金) 14:46:17.73 ID:l0YjA6tE0
そう言えば、と翠星石は思い出した。
あの男、確か夕飯の時にテレビで流れていた賞金首の顔と同じで……
首をかしげて考え始めた翠星石を尻目に、ジェットは逃げた賞金首を追いかけ始める。
翠星石も慌てて鞄でジェットを追いかけながら……横に並び、声をかけた。
「……ひょっとして……晩御飯にお肉が入ってないのを言った事、気にしてたですか?」
「……しらねぇよ……」
ジェットは年甲斐も無く、口元を尖らせて答える。
「って、そんな事より!何で翠星石を捨てたですか!」
「……怪しいヤツを船に置いて行くほど俺は無用心じゃあないんでね」
「翠星石は怪しくなんてないですぅ!」
「……でもお前さんは何か言う事を隠してる。……そんな顔をしているがな」
「そ…それは……その契約の……」
「チッ!逃げられたか……!」
ジェットが立ち止まった十字路の中心からは……逃げた賞金首の姿は、どこにも見えなくなっていた。
23: 2008/12/19(金) 14:46:39.57 ID:l0YjA6tE0
「……翠星石の……せいですか…?」
「……俺がヘマしただけだ」
眼光は鋭いまま、ジェットは吐き捨てるように呟く。
違う。
翠星石は知っていた。
自分が邪魔さえしなければ、この大男は間違いなく先程のタイミングで賞金首を捕まえていた。
「……私が……空から探してやるですぅ!」
翠星石はそう言うと、鞄で再び空高くへと飛び立ち始めた。
地上ではジェットが何かを叫んでいるが……よく聞こえない。
「泥舟に乗ったつもりで、ドーンと待ってやがれですぅ!」
そう叫ぶと、翠星石は逃げた賞金首の姿を探して空を駆け抜ける。
ジェットは暫く、鞄で飛ぶ不思議な少女人形を目で追っていたが……小さく舌打ちすると、再び走り出した。
25: 2008/12/19(金) 14:47:38.77 ID:l0YjA6tE0
「見つけたですよ!」
上空から探すと、逃げる人間というのは明らかに他とは違う動きをしており見分け易い。
翠星石は賞金首の男を発見すると、最高速度で鞄を飛ばしながら……
ジェットに喰らわせたのよりさらに強力な鞄での体当たりを、男の背中に喰らわせた!
「うぉ!?」と声をあげ、男が地面に倒れる。
翠星石はその背中に飛び乗ると、ピョンピョン跳ねながら何度も踏みつける。
「この翠星石から逃げられると思ってたですか!これでも喰らいやがれですぅ!」
勇猛果敢に踏みつけ攻撃をする翠星石だが……
彼女の大きさは80センチ程。当然、体重も軽い。
賞金首はすぐに翠星石を払いのけ起き上がると、持っていた銃を翠星石に向けた!
「テメェ!氏にやがれ!」
銃口が引かれるが、それより翠星石の反応が一瞬速い。
「スィドリーム!」
翠星石が叫ぶと同時に、その手には光り輝く金色の如雨露が……
そして如雨露から放たれた水は地面に滲みるや否や巨大な木を作り銃弾から彼女を守った!
「観念……しやがれですぅ!!」
再び如雨露を振り、巨大な木を発生させる。
そして……賞金首は檻のようになった木の幹に捕らわれた。
27: 2008/12/19(金) 14:48:09.24 ID:l0YjA6tE0
「………ふぅ~……大勝利ですぅ……」
気が抜けたのか翠星石は、その場にぺたんと座り込む。
いや、気が抜けた訳ではない。
ゼンマイを巻かれただけの状態。力の供給が無い状態でこれだけ動いた彼女には……
もはや一人で立っている力も残ってなかったのだ。
「もうすぐ……ジェットが来てくれるですかね……」
キリキリと軋む体で、開きっぱなしになっていた鞄の蓋にもたれ掛かる。
静かに暗転していく視界の中……翠星石は自分がミスを犯した事に気が付いた。
檻の中からは半狂乱の賞金首が、自分に向けて銃の引き金を引こうとしている。
もう、避ける気力も、防ぐ体力も残っていない。
「……こんな所で……終わるんですかね………ほんの……ちょっとですが……寂しい…ですぅ……」
火薬が弾ける音と共に、翠星石の視界は闇に閉ざされた。
30: 2008/12/19(金) 14:49:06.06 ID:l0YjA6tE0
「起きたか、嬢ちゃん」
翠星石は最近になって聞きなれた太い声で目を覚ました。
頭がギリギリと痛い。
「痛い!痛いですぅ!放しやがれですぅ!!」
いつかと同じように頭を鷲掴みにされた翠星石は、開口一番そう叫んだ。
ジェットは少し安心したように笑みを漏らすと、翠星石をソファーに座らせ……自分はその向かい側に座る。
中心に置かれたテーブルの上には、賞金である100万ウーロン。
「別にコンビを組んでた訳じゃねえし、これはお前のもんだ」
ジェットはそう言いながら、翠星石の方に現金の札束を押しやる。
31: 2008/12/19(金) 14:49:27.98 ID:l0YjA6tE0
だが翠星石は、そんな紙切れには興味を示さず……少し俯いたまま、口を開いた。
「こんな物、翠星石には必要無いですぅ……その変わり……その……契約を……」
「契約ぅ?」
訝しげに顔をしかめだしたジェットに対し、翠星石は勢いをつける為に怒ったフリをしながら言う。
「細かい事気にしてると、ハゲが進行するですよ!とにかく!黙って左手を出しやがれですぅ!」
「左手ねぇ……」
ジェットは少し迷ったように呟いてから……
それからソファーに座りながらふんぞり返っている少女に向け、左手を差し出した。
翠星石はその左手をとり、契約の指輪を渡そうとして……妙な事に気が付いた。
金属で出来た、機械性の義手。
その手のひらが、まるで銃弾でも防いだかのようにへこんでいる。
「これ……まさか……翠星石をかばって……ですか……?」
小さな声を発し、手のひらに付いたへこみ傷を見つめる翠星石の手から、ジェットは指輪をひょいと奪い取る。
そして、相変わらず賞金稼ぎなのか賞金首なのか区別のつき難い強面に笑みを浮べながら、呟いた。
「俺がヘマしただけだ」
33: 2008/12/19(金) 14:49:46.91 ID:l0YjA6tE0
――― 寝ている間に玩具が動き出す。
ガキの頃に読まされた本にそんなクダリがあったが……
今の俺なら、間違いなくこう考えるだろう。
「こんな夢も希望も磨り減った時代だ。そんなファンタジーも悪くない」ってな。
see you space cowboy...
34: 2008/12/19(金) 14:50:22.65 ID:l0YjA6tE0
なにわぶしぶしかつおぶしー
以上で
以上で
35: 2008/12/19(金) 14:50:46.55 ID:6ICKSKb60
唐突に終わったwwww乙wwwwww
36: 2008/12/19(金) 14:51:12.45 ID:UPY8Qmv80
リアルフォークブルースが聞こえた
乙
乙
37: 2008/12/19(金) 14:51:53.36 ID:5lLjKEEq0
はやいwwwwww乙wwwwwwww
38: 2008/12/19(金) 14:54:20.82 ID:l0YjA6tE0
これでも4時間くらい頑張って書いたんだ。
しかし短いなwww
しかし短いなwww
41: 2008/12/19(金) 14:59:12.93 ID:xU22VlhN0
よかった乙
また書いてくれ
また書いてくれ
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