706: 2014/06/24(火) 21:42:27.63 ID:R7AvpvZA0


前回:提督「つれづれなるままに」【その7】

【雨宿り】

「……ふぅ、なんとかあまり濡れずに済んだね」


「え、僕?…僕は大丈夫、提督は優しいね」


「…ごめんね、提督?僕のわがままで買い物に付き合ってもらっちゃって」


「せっかくの休暇だったのに、よかったの?」


「……ふふ、そっか。やっぱり、提督は優しいね」


「でも、ついてないね。さっきまでは晴れてたのに、急に降り出すなんて」


「…さっさよりも強くなって来ちゃった……」


「雨は、あまり好きじゃないんだけどな…」


「?…提督は好きなんだ?珍しいね、雨が好きなんて……え?」


「この雨が、『時雨』だから?…提督、そんなこと言って恥ずかしくないの?」


「な、何?別に赤くなってなんか、これは、ここまで走ったから!」


「…もう、僕をからかって楽しい?やっぱりさっきの優しいは取り消すよ、提督は、意地悪だ」


「……あ、提督、肩が……もう、別に、僕のことそんな気にしなくたって…」


「提督、ほら、もう少しこちらにおいでよ、雨が上がるまで…、その、こうしてて良いよ?」


「あすなろ抱き、だっけ?足柄さんに聞いたんだ」


「……何?これは、お互い濡れないためにだよ?だから僕のこと…うん、よろしい」





「………雨、まだまだ止みそうにないね」







…でも…まだこうしていたいから、今はまだ、やまなくていい…かな…

海の画集 -「艦これ」公式イラスト集-

716: 2014/06/24(火) 23:53:03.73 ID:R7AvpvZA0

【山城と子猫】

※>>683の続き
※あらすじ→山城が猫を飼いました

苦しい…胸元が、暑い…

重………何、が……


(…!……まだ外は暗い…何?せっかく寝てたのに?なんなの?)

<…………

(何、ぼんやりと視界の端に見えるコレは?………毛玉?)

<…ミィー

(ああ、なんだ。この子か…)

「…胸元で寝るのはやめて欲しいわ」

<…?…

「ほら、あっちに、…あ、ちょっと!」

(脇の部分に潜られても…寝返りが…)

「せっかく寝床も買ったのに……」

「ねえ、あなたが寝るのはあっちよ?…ここは私の布団、ね?」

<…?……ミィー…

(だから、枕元でもなくって……はぁ…もういいわ、眠いし)

(…ふわふわしてる…気持ちいい…)

(…おやすみ…)








「山城?そろそろ起きないと…あら?」

「ん"ー………苦し…、……重っ……」

(山城の胸元に、何かしら?白い毛玉が…)

<…!………ミィー

「ああ、あなただったの…おはよう。山城のベットはよく眠れた?」

<ミィー

「そう、良かった……」

「本当に、ありがとう」

<…?…

「あなたが来てくれてから、山城、本当によく笑うようになったわ」

「できれば、これからも良くしてあげてね、山城、案外寂しがりやだから」

<……ミィー

「うん、ありがとう…」





「ほら、山城?そろそろ起きないと、今日は私達二人とも出撃が……」

719: 2014/06/25(水) 05:56:31.92 ID:NLC7VsFE0
ご主人様~?んー、なんですかあ…随分早起き…

うわっ、テンション高っか!え、何?どうしたんですか?

徹夜でもしてハイになってるんですか?違うの?

…とにかく、静かにしてくださいね、私は二度寝します

え、ワンセグ?な、なんのことですかね?

723: 2014/06/25(水) 23:03:10.28 ID:NLC7VsFE0
【疑問】

「司令官司令官、うーちゃん、ちょっと聞きたいことがあるぴょん」

「卯月が質問とは、珍しい。明日はヒョウでも降るか?」

「うーちゃんだって考え事する時あるもん!ぷっぷくぷー!!」

「…じゃなくてね、あのね…」


「うーちゃん達が出撃する時に流れる音楽って、誰が弾いてるっぴょん?」

「うーちゃん達、艤装しかつけてないし、誰も「卯月…」…ぴょん?」


「その疑問は、忘れろ」

「え、でも「忘れろ、コレは命令だ」…ぴょん…」

「そうだ、今ちょうど甘味が食べたい。間宮のところに一緒にいかないか?」

「本当に司令官!うーちゃん、ご一緒したいっぴょん!」

「では、行くか」






(…なんとか誤魔化せたか、しかし、コレは知られてはならない。決して、な)

(この疑問について質問して来たのは、卯月で28人目…そろそろ、まともな答えが必要だな…)

(なあ、お前達…)





(ソウネ…、ジャナイト コッチモ タタカイガ タノシクナイワ…、オンガクッテ、ダイジヨネ)

(デモ、ショウジキ、コッチニ キテホシクナイ…)

(アイアンボトムサウンドニ…)

(ソノ「サウンド」ハ、 オトノイミジャ、ナイ)

(アラ?)

726: 2014/06/25(水) 23:59:20.90 ID:NLC7VsFE0

【距離感】

「提督、今日も執務お疲れ様!…で、話って何だい?仕事の話なら執務中でもいいだろうに、秘書艦なんだしさ」

「とりあえず、何も言わずにこれを受け取ってほしい」

「え、なんだいなんだい、プレゼントかい?かぁー、まったく、コイツは粋な…えっ?」

「…提督、これって…あはは、や、やだなー谷風さんをからかうんじゃないよー」

「あ、もしかして谷風さんにもっともっと働けってか?冗談じゃないよ、まったく…あはは、は」

「…それは、確かに艦娘の性能上限解放としての意味がある、が」

「その程度の扱いだけじゃないのは、谷風も知っているだろう?」

「あ…、っ…て、提督、じょ、冗談も…」

「…」

「…本気、なのかい?」

「冗談は嫌いだ」

「…そう、そうかい。」

「こ、この谷風さんに興味を持ってくれるなんて、変わった提督だねー」

「……じゃあ、その経緯を最初っから教えてもらおうじゃない」

「それは…」

「いいじゃないか、夜は長いんだしさ!」

727: 2014/06/26(木) 00:01:46.65 ID:McZ5kmd90

「経緯というほどのものはないんだが…」

「…そうだな、一言でいえば、谷風は、いい意味で私の壁を壊したな」

「へ?…どういうことだい?」

「ここの者は皆、律儀だ。上下関係がしっかりしている」

「もちろんそれは軍としてあるべき姿だし、特別不満を抱いたこともない、が」

「私も人間だ。いつもカッチリしてるとな、疲れる…」

「お前は、喋り方といい、接し方といい、まるで私を同僚扱い…」

「最初はそれに戸惑ったが、いつの間にかそれが心地よくてな」

「…なんだか照れるね…。でも、その理由なら他にも当てはまりそうな子も…」

「確かに、私に気軽に接してくれる者はいるが、どこか壁を感じる」

「あくまで上官と部下の枠を壊さない程度で、だな」

「…なんだか、その言い方だと…まるでこの谷風さんが無礼者みたいじゃないかい?」

「気を悪くしたなら謝る…だが、それほど新鮮だった。気軽に、何でも話せそうな…」

「ずっと隣に居てほしいと思うような…そんな距離感は谷風が初めてだ」

「…」

「谷風?」

「…いや、こっぱずかしいというか、こー見えて、谷風さんも女の子なんだよ?」

「そんなはっきりと言われると……うぅ…」

「経緯を話せと言ったのは、」

「そーだよ!そーだけどさ!!でも、だって…」

「…それで、だな…」

「……嫌なら、とっくに突き返してるさ」

「なら」

「ああ、冗談じゃないよ!こっち見ないで!」






こんな真っ赤な顔、誰にも見られたくないんだよぉ!

729: 2014/06/26(木) 00:54:59.68 ID:McZ5kmd90

【姉さまと子猫】

※>>716の続き



(今日は久しぶりのいい天気、日差しの割に暑くもない。特にすることもないし、平和ね)

(こうして、お茶を飲みながらゆっくりするのも、昔の私ならできなかったこと…)

(いいものね…<ミィー…あら?)


「こんにちは、あなたも日向ぼっこをしに来たの?」

「でも、提督から許可をもらったとはいえ、あんまり自由に出歩くのも…」

<…?

「まあ、わからないかしら」

「…よかったら、私の膝に来る?」

<…!

「本当に、あなたは賢いわ。私達の言葉がわかってるんじゃないかって思うくらい」

「そんなこと、ない…とは、思うけど…」

「それにしても、本当にあなたは毛並みが綺麗…山城、ちゃんとお世話してるみたいね」

(…そういえば、猫は喉元を撫でると喜ぶみたいだけど…こう、かしら)

<…ゴロゴロ…♩…

「気持ちいい?なら、よかった」



(本当に、いいものね。こうして、お茶を飲みながら、猫と戯れて…)

(いい天気、ね)


735: 2014/06/26(木) 22:27:01.54 ID:McZ5kmd90
【愛情たっぷりのお弁当】

「提督!ヒトフタ、って言うかお昼です、お昼!」

「ねえ、よければ一緒に…」

「提督?いらっしゃいますか?翔鶴です。軽めのお弁当を作りましたので、よければご一緒に…」

「翔鶴か?入っていいぞ」

「失礼します、あら?瑞鶴、居たの?」

「…うん、居たよ翔鶴ねえ…、私は提督の秘書艦だからね」

「そう、まあ、そうよね…ごめんなさい」

「…あ、提督、申し訳ありません。えっとこちらになりますが…」

「コレは、美味しそうな弁当だ。彩も鮮やか、…しかし、ご飯はなぜ赤飯なんだ?」

「えっと…それは、この前善哉を作ろうとして小豆を余らせてしまったので…」

「…へえー、翔鶴ねえは、提督さんに余り物を食べさせる気なんだー、ふーん」

「瑞鶴、その言い方は…」

「いえ、いいんです提督、事実ですから」

「ですが、その分、調理には腕によりをかけて作りましたので、きっと美味しいかと」

「翔鶴がいいなら、いいんだが…」

「……提督さんが翔鶴ねえのご飯食べるなんて許せない!私がまず先に食べるんだから!」

「え?ず、瑞鶴!?」

「……うえっ…甘ったるい…翔鶴ねえ…砂糖と塩間違えるとか、おっちょこちょいだなーもう」

「えっ…」

「ねえ提督さん、ちょっと翔鶴ねえと話したいことで来ちゃったから、ランチは、ごめんね、先食べてて!」

「あ、ちょっと瑞鶴、引っ張らないで!」

(なんだ、瑞鶴のやつ…弁当も持って行ったか…。仕方ない、食堂に行こう)

736: 2014/06/26(木) 22:29:15.33 ID:McZ5kmd90

「…それで…どういうつもり、瑞鶴…」

「それは、コッチのセリフだよ…翔鶴ねえ…あんな、あんなものを…」

「味付けは、おかしくなかったはずだけど?」

「ふざけないで!!あんな、穢らわしい…、あんな、あんな…」






「あんな!錆びくさい!血染めの弁当なんか!提督さんに食べさせようとしないで!」






「…………それの、どこがいけないの?愛しい殿方と一緒に居たいと思うのは、いけないこと?」

「…私の血が、提督の一部になって、永遠に……ああ、なんて、なんて…」

「…妄想も大概にしてよ…そんな狂った考えで提督さんを穢さないで」

「…ええ、ダメよ、翔鶴ねえであっても、ダメ。だって提督さんは、私の、提督さんだもの」

「…貴女こそ、妄想も大概にしたら、誰が、貴女の、なの?」

「はっ、秘書艦にもなってない翔鶴ねえに、言われたくないわ」

「いい、提督さんに一番近いのは私なの!他の誰でもない、ましてや翔鶴ねえでもない、私!」

「………」

「自分の立場がわかった?翔鶴ねえ?わかったらこれ以上…」

「そうそう、瑞鶴、来週からの秘書艦は………私が、担当するから…」

「は?…ははっ、翔鶴ねえ、もっとまともな嘘つきなよ、提督さんはそんなこと…聞いてない…」

「負け惜しみも大概に…「軍服の第二ボタンに、私室の花瓶、あとコンセント…」…なっ!」

「そうよね、それだけいっぱい盗聴器が仕掛けてあれば、提督さんのこと大抵わかるわよね…」

「でも、仕掛けている位置さえわかれば、貴女に聞かれないよう話しをつけるのは簡単よ?」

「…翔鶴ねえ…!!」

「あはははは!!精々残り短い期間を楽しむといいわ瑞鶴、もう少しであの場所は、私のもの!」

「毎日お弁当を作ってあげるの!毎日毎日毎日!私を、あの人に捧げるの!」

「だから、もう貴女の入り込む余地はないのよ?瑞鶴?ごめんなさいね?」

「……そんな…、なんで、提督さん…なんで秘書艦を…」

「ショックすぎて、何も考えられないかしら?まあいいわ、今回はお弁当無は駄になっちゃったけど、許してあげる」

「それじゃあね、瑞鶴?」



「嘘…嘘よ…だって、今までずっと、あの人の隣は、私だけのものって…」


737: 2014/06/26(木) 22:32:19.29 ID:McZ5kmd90






「話しは済んだか瑞鶴?」

「…ええ、翔鶴ねえとの話が楽しすぎて……結局、昼休憩終わっちゃったわね…」

「…ねえ、それよりも、来週から秘書艦が翔鶴ねえに変わるって、本当?」

「ああ、聞いたのか。今日の執務が終わったら言おうと思ったんだが、聞いているなら話しが早い」

「…どうして、なの?」

「秘書艦業務を知る者が多い方が何かと便利だ。翔鶴ならしっかりしてるし、大丈夫だろうと思ってな」

「そう、そうなの…」

「…何か不満げだな瑞鶴?」

「えっ、そ、そんな、私が提督さんの考えに反対するわけないじゃない!やだなー」

「そうか、なら、いいんだが」

「あっ、でも、ちょっと今日はもうあがっていい?実は朝から体調が…」

「そうなのか?そういうことは早く言え。無理してまで手伝わなくていい」

「幸い今日の執務は一人でもできる。しっかり休め、瑞鶴」

「う、うん。ありがとう提督さん、ごめんなさい」

「それじゃあね…」









「…うぇ…げほっ…おえええええぇえええ…」

(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう?!このままじゃ、あの場所が盗られる!!)

(何か方法はないの?でも、今更秘書艦変更しないでなんて、いい理由も思いつかないし、ああ、なんで、どうして?)

(翔鶴ねえさえいなくなれば…このまえの出撃の時、事故を装って潰しておけば!!)

(ああ、でも提督さんのことだから、そんなことしたらきっと自分を責め続けて…それに…)

(沈んだ翔鶴ねえのことを考え続けて、あの人の心は、ずっと!!)

(きっとそうなる…だからこそきっと翔鶴ねえも私を沈めない、なら、どうすれば!?)

(このままじゃ、あの人が翔鶴ねえに穢される!浄化しないと!………浄化……、しない、と?)

(…そう、そうよ!あはははは!何でこんな、簡単なことに気がつかなかったんだろう!)

(先に、私が、あの人を守ればいいんだ!先に私をあげて、それで!あの女から!)

(そうと決まったら今日の夕食から!)

「待っててね提督さん、腕によりをかけて料理を作るわ!…だから…」











私の愛情たっぷりの料理、いっぱい食べてね、提督さん♥︎

743: 2014/06/26(木) 23:50:35.05 ID:McZ5kmd90
【本当に書いて見たいのは】

「提督?そろそろ寝ない?もう午前二時だよ?」

「…次の作戦立案がうまく行かなくてな。想定される的戦力に対し、どれが一番被害が少ない編成か…」

「この海域の海流も複雑だ、なるべく、一回で終わらせるには…」

「ふーん、大変そうだね…、秋雲さんも手伝ってあげたいけど、こればっかりはわからないなあ…」

「もう、お前の担当の仕事は終わっているだろう?あがっても…」

「んー、秋雲も夜型だからぁ、いいよぉ?原稿書きながら付き合ってあげるぅ~」

「なんにもできないけど、せめて隣で、ね。話し相手くらいにはさ」

「そうか…すまないな。正直、一人で黙々とやるのも、精神的にな…」




「三時だけど?平気ー?明日の昼間の仕事とか大丈夫?」

「最悪、一時間くらい寝れればいい、なんとか、なる」

「まあ、提督がいいなら…いいけど、それ、ただの仮眠だよ?」

「秋雲こそいいのか?」

「いま秋雲さんの脳内はフル回転!いい原稿がかけそう!」

「…そうか」




「午前四時でーす。休める時に休む!描ける時に描く!それがいけてるサークルなのよ!」

「ってことで、どう、提督?眠気覚ましのコーヒー。ちょっと休憩しない?」

「…そうだな、少し、先が見えて来た。少々休憩しよう」

「うんうん、はい、どうぞ……あちっ!……ああああああああ!書きかけの原稿がぁ!」

「…机を片付けてから飲めばいいものを…ほら、布巾だ」

「ありがとう提督…ああああ、あとちょっとだったのにぃ」

「ちなみに、何をそんな熱心に書いてたんだ?」

「え?そりゃ翔鶴瑞鶴姉妹の血で血を争う女の戦いを描いた超純愛ヤンデレもの……を?」

「……」

「あは、あはははははは」

「言っておくが、地方コミケとやらには、持ち込ませないからな?」

「えっ、ちょっと待ってよ!もうすぐ早割入稿日「秋雲?」…はーい」


744: 2014/06/26(木) 23:53:43.73 ID:McZ5kmd90

「午前五時…あれ、六時近い?」

「そんなわけでー、秋雲さんは朝から昼まで寝るわけでーす。んー」

「そうか、もう、そんな時間か…、私も、そろそろ寝よう。流石にきつい」

「作戦は、練れた~?」

「ああ、お前のおかげで、な」

「ふっふーん、秋雲さんにかかればこれくら…ふあぁ~」

「それでは、私は私室に戻る。おやすみ、秋雲」













「…で、なぜお前もついてきた?」

「いや~この時間に寮に帰ったら誰か起こしちゃいそうだし、ね?」

「だからと言って、」

「それとも提督は、一夜をともに過ごした女を簡単にポイッて捨てちゃうひどい人なのかなー?」

「言い方を…、まあ、いい。そういうことなら、仕方ない…」

「やった。それじゃあ、んふふ、提督ぅ布団借りるわねーおやすみー」

「お前…ハァ…」

(ソファーで、寝るか…)







(おおぅ、これは、なかなか。なるほどー提督の匂いって、ふーん)

(いいインスピレーションが湧いて来た!次の原稿は…あれに…ふあぁ~)

(上司と、その部下…の、職場な……い…恋、愛…………)

753: 2014/06/28(土) 11:46:10.04 ID:aXnFq0/i0

【厳しい言葉の裏側に】

「あ、あの、加賀さん…先程は、その、申し訳ありませんでした」

「…そう。まあ、五航戦だから、仕方ないと思うわ」

「うぅ…」

「申し訳ないと思う気持ちがあるなら、もっと実力をつけてくれないかしら、翔鶴?」

「…はい……ぐすっ…ごめんなさい…」

「…はぁ……、そうね…………開幕航空戦の時…」

「…ひっく……ぇ?」

「自機の発艦に気を取られすぎて、貴女は敵をよく見てない」

「素早く発艦できればいいというものではないの。早さももちろん重要だけれど…」

「いかに味方に被害が及ばないよう正確に敵機を撃ち落とすか、まずはそこに重点を置きなさい」

「は、はい!ご鞭撻、ありがとうございます!」

「それじゃ…」


「あ、あの!加賀さん!」

「…何?私は、さっさと入渠したいのだけれど?」

「あの…えっと…」

「………それじゃあ」

「あ、あっ、あの、お背中お流します!いえ、させてください!」

「えっ?」

754: 2014/06/28(土) 11:50:58.78 ID:aXnFq0/i0

「えっと、痛く、ないですか?」

「…ええ、まあ、ちょうどいいんじゃないかしら」

「それで?どういう風の吹き回し?」

「えっ?」

「迷惑かけたから何て、そんな気持ちでやってるなら、さっさと弓道場に行って練習を…」

「あ…もちろん、そういう気持ちが無いわけじゃないです」

「でも、私がこうするのは、感謝の気持ちからなんです」

「…?…どういうことかしら?」

「加賀さんは、言い方は厳しいですが、その指摘はとても的確です」

「私が今戦場で何とかやっていけてるのも、加賀さんのご指導のおかげですから、だから…」

「…別に、貴女を鍛えるためではないのだけれど?」

「貴女に足を引っ張られると、艦隊全体に被害が及ぶ…」

「別に、貴女のためじゃないわ」

「…そう、なんでしょうか…私には、そう思えません…」

「何が言いたいの?」

「本当にそれだけなら、私を庇わず、さっさと敵艦隊を殲滅すれば…」

「そのほうが、被害を抑えられたんじゃないかって、そう、思ったんです」

「加賀さんが、私を庇ってくださったのは、加賀さんが、本当はとてもやさしい方だから…」

「毎回、ご指導してくださるのも、きっと…」

「…旗艦の貴女が被害を受ければ艦隊全体の士気に影響が出るし、敵艦隊は逆に士気が上がる、それだけは避けたい」

「ただ、それだけよ…」

「…加賀さんが、そうおっしゃるなら、私からはもう何も言いません」

「ですが、せめて、たまにこうして、お背中をお流しすることくらいは、いいですよね?」

「……勝手にしなさい…」













「あ、加賀さん。入渠終わりました?これから一緒にお夕飯たべません?」

「赤城さん…ええ、そうね。」

「…あれ?加賀さん、何かいいことでもありました?」

「えっ?」

「だって、なんだか嬉しそうですよ?」

「!…今日の夕食が鳳翔さんの作った肉じゃがだから、ちょっと気分が高揚しているだけです」

「…そう、ただ、それだけですから」

759: 2014/06/28(土) 16:10:05.50 ID:aXnFq0/i0

【夏祭りと、いつもと違う私】

(なにこの張り紙……へぇ、夏祭り…この近くでやるのね。あ、今日の夜?)

(夏祭り、かぁ…)

「飛鷹?廊下でぼーっと何している?そろそろ執務開始時刻だが?」

「あ、ごめんなさい提督、今行くわ」









「…それで、これが先日行われた作戦の戦果報告書よ、目を通して」

「事前に艦隊の皆から聞いたものと変わりないな、さすが飛鷹。よくできてる」

「まあ、こんな事務作業なんかに時間を取られるわけにはいかないもの」

「こんなのさっさと終わらせて、提督は作戦立案を、私は艦載機の整備をしたいし」

「…ああ、そうだ、もしよかったら艦載機の整備手伝ってくれない?何気に数が多くって」

「まあ、今のところ急ぎでやることもない。深海棲艦の動き見られないし、いいだろう」

「本当?ありがとね」





(あ、ここにもあの張り紙張ってある)

「飛鷹?どうした?艦載機の整備をするんじゃなかったか?」

「あ、うん」

「…その張り紙が気になるか?」

「えっ、ああ、別に…なんでこんなものが鎮守府内にあるんだろうって」

「たまには息抜きも必要かと思ってな、ちょうど地域の方からもらったから張ったまでだ」

「…行きたいのか?」

「…ううん、別に…私には、こんなものに行く暇無いんだから」

「……そうか」

760: 2014/06/28(土) 16:14:39.19 ID:aXnFq0/i0

「…よし!艦載機の整備終わり!ありがとう提督、おかげで早く終わったわ」

「…予定より、大分時間が余っちゃったわね」

「今は、ヒトハチマルマル、か。今日急ぎでやる執務もない…そうだな…飛鷹」

「なに、提督?」

「実は、私は今日の夏祭りが楽しみでな。だが、一人で行くのも寂しい」

「だから、一緒に行ってくれないか?」

「えっ…そんな、そんなのに、行ってる暇なんて…」

「艦載機の整備も終わった、急ぎの用事もない、時間は余ってる」

「お前は普段から少し急ぎすぎだ。自分を律するのはいいことだが、少し休め」

「でも…」

「…無理にとは言わない、お前が嫌なら一人で行く」

「…まあ、提督ほどの人間が同伴もなしに一人寂しくっていうのも、鎮守府の沽券に係わるわね」

「いいわ、行ってあげる!その代り、ちゃんとエスコートしてよね!」



「あ…でも、ちょっとまってて!流石にこの服装じゃ、ね」

「そうだな、お互い私服に着替えよう、ヒトハチサンマルぐらいに入口付近集合でいいか?」

「んー、まあ、もうちょっと欲しいかな」

(せっかくだから、軽く、お化粧もしたいし…どうせ暗くてあまり見えないだろうけど)

(それに、夏祭りなんだし、どうせなら…)

「服を着替えるだけでそんなに時間がかかるのか?」

「いろいろあるのよ!」

「なら、ヒトマルゴーマルならどうだ」

「まあ、そのくらいなら、なんとか」

(ちょっと急ぐけど、大丈夫かな、あんまり待たせるのも悪いし)






(軽く目元を整えて、よし、バッチリ!やりすぎも不自然だし、このくらいで)


(髪も上げて、あとは、鳳翔さんに見立ててもらったこの…)












「お待たせ提督!さあ、行きましょう」

「……飛鷹、か?…浴衣、それに、髪形も…」

「なによ…提督だって浴衣じゃない…それとも…」

「いや、とても似合ってる。髪形も化粧も綺麗で、一瞬別人かと思っただけだ」

「…ふーん……ふふふっ、まあ、せっかくだしね」

761: 2014/06/28(土) 16:17:06.78 ID:aXnFq0/i0





「予想以上だな…これは」

「…よし」

「飛鷹?」

「…なに?腕組んじゃだめ?だって、こうしないとはぐれちゃうじゃない!」

「飛鷹がいいなら構わないが」

「なら、いいでしょ?ほら、もっと奥にいきましょう?」







「んー!林檎あめ美味しー、こういうところでしか食べれないものっていいわね」

(本当は焼きそばとかたこ焼きとかも食べたいけど、混雑してるし、青のりが…)

(それに、片手で食べれるものじゃないと…あれ?なんで、うで、別に外したって…)

「…あ、提督!射的があるわ、射的!艦娘として、これは外せないわ!」

「一回やってみるか?」

「え、いいの?ならやっちゃお…おじさん!一回お願い!」





(ちょっと、遠い、アレ、欲しいかも…)

(もうちょっと前に…前に…)

「きゃっ!?」

(しまっ、前に出すぎ、バランスが!)

「飛鷹、落ち着け」

「あ、ありがとう、ていと、く…」

(えっ、もしかして、後ろから…抱きかかえられてる、の…?耳元で…しゃべらないでぇ…!!)

「後ろから支えるから、ゆっくり、落ち着いて狙うんだ」

「う、うん」

(まって、無意識、無意識なの?腰に、手を添えないで!恥ずかしっ…)

「…当たったが、落ちないな…どうする?もう一度やるか?」

「え、あ、いい、もういい、満足した!」

(無理無理無理、あんなの、もう一度なんて…!)

「そうか、ならいいが」

762: 2014/06/28(土) 16:20:21.58 ID:aXnFq0/i0

(は、恥ずかしい…なんで、こんなに体が火照るの?触られた箇所が、まだ、暑い…)

(これって、ううん、そんなはずない!そんな、はず…)

(でも…何だろう、嫌じゃないわ…むしろ…)


「飛鷹?」

「えっ、あ、なに?提督?」

「大丈夫か、さっきから、黙りっぱなしだが」

「あ、えっとね…ちょっと疲れちゃって」

「そうか、少し罰当たりだが、神社の階段に座らせてもらおう」

「うん、そうね」






「そろそろ、予定では、花火が上がるな」

「あ、もうそんな時間?」


(そっか、もうそんな時間なんだ…楽しい時間ってすぐ過ぎちゃう…)

(…なんで、こんな楽しいんだろう…、お祭りだから?いつもと違う雰囲気だから…?)

(…ううん、それだけなら、こんな恰好しなかった、わざわざお化粧して、髪形も変えて…)

(…あんなに、体が熱くなることも…)

(それは、きっと…)


「飛鷹?そんなに疲れたのか?」

「ううん、もうすぐお祭りもお終いだって思ったら、なんだか寂しくなっちゃって」

「そうだな、なにか、哀愁があるな」

「…あっ、花火あがっ…きれーい。同じ火薬でも、こんなに違うのね…」

「軍事兵器と工芸品を一緒にするな…」

「あはは、ごめんね」


(本当に、綺麗…でも、この花火が終わったら…この楽しい時間も終わり…)

(いつもと違う装いの、私じゃない、私…)

(いつもより、ほんの少しだけ素直になれる時間…)

(…今なら、言えるかな…、せっかく気づけたんだもの…)

(お祭りだし、いいよね…)


「ねえ、ていと「飛鷹…少し話したいことがある…」…えっ?」










「実は、今日飛鷹を誘ったのは…だな…飛鷹、お前に…」



766: 2014/06/28(土) 19:15:31.07 ID:aXnFq0/i0
【祭りの後で】

「提督、今日も忙しくなるわよ。一日頑張りましょうね!」

「…」

「な、なに?そんな、無言で見つめないでよ…は、恥ずかしいじゃない…」

「いや、随分と物腰が柔らかくなったな、と」

「前の飛鷹は、もう少し、語気がきつかったと思うがな…」

「えっ?あ、いや、それは…だって、こんなもの…もらっちゃたら…」

「と言うか、語気がきついって、どういうことよ!」

「……失言だったな」

「提督ぅ?」

「ああ、すまない。別に苦情ではない、あれは、自分に厳しい飛鷹なりの律し方だったんだろう」

「そういう自分を厳しく律するところに、私は惚れたんだ」

「…そうやって、いきなり言うの、やめてよ…」

「いまだに慣れてくれないか、指輪も受け取ってくれたと言うのに」

「だって、あの時は、その…お祭りで、普段と違う雰囲気だったと言うか、素直になれたと言うか」

「…雰囲気に流されて、指輪を受け取ったのか?…そうか、これは…」

「ああ!別にそういうことじゃないわ!ちょっと、嘘でもしょんぼりした空気作らないで!」

「嘘ではない、私は深く傷ついた…」

「ああ、もう!本当に!提督も随分と丸くなっちゃったんじゃないの!」

「飛鷹の前だけだ」

「ううううぅ、だから、そういうの!」

「もう!私も、私もだから!こんな姿、提督の前でだけ!」

「それは、なぜだ?」

「なっ…、…だから、そのわ、私も…」

「私も?」

「私も、あなたのことが大好きなの!…ちょっと、なに笑ってるの!…いじわるっ!」









(朝っぱらから、なーにやってるんですかね。執務室すっごい入りづらいんですけどご主人様!)

(クソッ、ほんとイチャイチャイチャイチャしやがって、リア充爆発しろ!)


770: 2014/06/28(土) 20:20:38.43 ID:aXnFq0/i0
【さあ、お前の罪を数えろ】

「イムヤー、今日は渡したいものがあるのね!」

「ゴーヤ達みんなで作ったんだよ!」

「気に入ってくれると嬉しいわ」

「イムヤ、前に食べたイチゴのショートケーキ好きって言ってたでしょ。だから、ね」

「ま、まるゆも手伝ったんですよ!イチゴを切っただけですけど…」

「わぁ、みんなありがとう!とっても嬉しい!でも、どうして?」

「今日はイムヤの進水日だって聞いたの!」

「ゴーヤ達、それを聞いて急いで作ったんでち!」

「当日に気づくなんてごめんなさい、でも、その分心を込めて作ったわ」

「これで許してくれないかな?それとも後で一緒に、お風呂にどぼーん、する?」

「まるゆもご一緒しますよ!あまり、長い時間は、潜れませんけど…」

「…」

「イムヤ?どうしたのね?」

「わ…ょう、…ない…」

「え、何、なんて言ったの?」















「私の進水日…今日じゃ、ない」

「「「「「あっ…」」」」」

783: 2014/06/29(日) 01:33:38.40 ID:AJ/pj15f0
【肩の上の恋人】

※艦これの設定を少し借りたほぼオリジナル

(次の作戦海域の海図が欲しい、後、深海棲艦のデータファイルも…資料は閲覧室か)

(こういう時に秘書艦のありがたみがわかるな。一人いるだけで、だいぶ違う)

(まあ、たまの休暇くらいゆっくりさせてやりたいもの…さて…資料閲覧室に行くか…)

「あ、あの…提督さん」

「ん?誰だ……いない?…疲れてるのか?幻聴が…」

「あの、下です、下!机の前です!」

「…机の前?…お前は…資料閲覧室の、妖精か?」

「あ、はい、あ、あの、そうです。司書を担当してます」

「それで、なぜここに?」

「えっと、資料を、お探しなんですよね?」

「ああ、そうだが」

「なら、ここにありますよ!」

「どこに?…頭の上のそれか?すまないが、妖精にはちょうどいい大きさでも…」

「あの、大丈夫です!大きく出来ます!…んんー、むにゃむにゃ……てい!」

「…素晴らしいな、本当に欲しい資料が……おい、どこに行った?」

「…………本の下ですぅ~、タスケテ~…!」







「氏ぬかと思いました」

「大丈夫か?どこか怪我でも…」

「いえ、大丈夫です!妖精は丈夫なんですよ!」

「なら、いいが。それで、話は戻るが、なぜここに?」

「資料を、お探しに「いや、その話はもう聞いた、そこまで戻らなくていい」

「…」

「どうした?」

「えっと、あの、今日は秘書艦さんがおやすみですよね。だから、お手伝いに来ました」

「それはありがたいが…資料閲覧室の方は大丈夫か?」

「代わりの子を用意してありますのでご心配なく!」

「ただ、手伝ってくれるのは嬉しいが、お前には何ができる?すまないが、そのサイズではとても…」

「その点も大丈夫です!紙媒体限定ですが大きさを変えられますので!ペンはありますし」

「誤字脱字のチェックや、手書きで作成可能な、簡単な書類の作成、あと欲しい資料を瞬時に持って来れます!」

「パソコンを動かしたりするのも、ちょっと遅いですけど、出来ます!」

「…思った以上に有能だな…さっきは失礼なことを言って、すまなかった」

「いえ、不安になる気持ちもわかりますから!」

「それでは、さっそくこの書類のチェックを頼めるか?」

「はい!」



784: 2014/06/29(日) 01:34:34.87 ID:AJ/pj15f0
「提督さん!12時です、そろそろ休憩どうですか?」

「そうだな、昼食を取るか。食堂に行こう……ところで、お前は何を食べるんだ?」

「うーん、甘いお菓子があるとうれしいですね」

「そうか、なら、間宮のところで上金平糖を買おう。あのサイズなら何もしなくても食べられるだろう」

「本当ですか!わーい!」




「もごもご…ふんふん、あまふて、おいひいれす」

「なら良かった…もう一口いるか?」

「…もご…ふぅ…あ、いります!あーん!」

「自分で食「あーん!!」…ほら」

「もごもご…ふん、おいひー!」


「さて、そろそろ休憩も終わる。執務室に帰るか」

「はい!」





「そういえば、なぜ突然手伝いなんかを?」

「えっ、それは…その…」

「言いたくないなら無理には「いえ!そういうことでは…」

「その、驚かないでくださいね」

「?…ああ」

「あの、ですね、そのぉ、私は、ですね、その、えっと…」

「提督さんのことを、お慕いしているんです………ぁぅ……」

「………、それは、その、嬉しいが…」

「あ、あの、別に、答えていただかなくてもいいんです!」

「妖精と人間なんて、色々、違いすぎますし…」

「ただ、こうやってお手伝いにできれば、私は満足です」

「…一つ聞いてもいいか?」

「はい、なんでしょう?」

「なぜ、私を?失礼だが、あまり接点も…」

「あの、初めてあった時のこと、覚えてます?」

「ああ、あれは、私の着任初日、施設を回っていた時、だったか?」


785: 2014/06/29(日) 01:37:12.86 ID:AJ/pj15f0
(この本はここ、これはこっちに、…ああああああああ!)

(本が!!!!…むぎゅ………う、動けない!重い…ダレカタスケテ~!)

『何か、大きな音が…、誰かいるのか?』

『あっ、ココです!ココ!』

『どこだ?どこにいる?』

『本!本の下です!タスケテ~!』




『氏ぬかと思いました』

『大丈夫か?…ところで、お前は?』

『はい!私は、この資料閲覧室の司書を担当している妖精です』

『そうか、それで、本当に大丈夫なのか?』

『ええ、妖精は丈夫…痛っ!』

『無理をするな、この鎮守府にいる以上、お前も艦娘と同じく、志を同じくする仲間だ』

『…でも、私は、妖精で、その、人と違うと言うか…』

『関係ない。…足をやられたみたいだな…私の肩に乗るか?資料整理なら手伝うが』

『ええっ!そんな、提督さんにご迷惑をおかけするわけにも…』

『着任初日で、特にすることもない。それに、ここのどこに何があるかも把握しておきたいしな』

『あ、その、それじゃ、お願いします』



「…あの時、とっても嬉しかったんです。仲間だって言ってくれて」

「妖精だからと、酷い扱いを受けたことは無いんですが、それでも、どこか違うって思ってましたから」

「…今でも、人と妖精が違うって、その意識は変わってませんけど、でも!」

「あの時、初めて人と一緒に居ていいんだって、心から思えたんです」

「だから、だから…そのぉ…」

「そうか、そういえば…そうだったな」

「…すまないが、お前の気持ちに今すぐに返事を出すことはできない」

「…はい、それは、わかってます」

「ただ、お前さえよければ、第二秘書として、これからも私を手伝ってくれないだろうか」

「!…いいんですか!」

「ああ、お前の優秀さは、午前の時点でわかってる。むしろ、こちらからお願いしたい」

「はい!私、がんばりますね!」










ふふ…そんなこともありましたね…

あの…本当に、これで良かったんですか?提督さんのこと、他にもお慕いしてる方だって…

言ったはずだ、関係ないと…

…っ、はい!

790: 2014/06/29(日) 18:11:13.63 ID:Hh17pLIU0
【ちょっとしたキッカケ】

「しっかし、なんでこんな大量の資料が必要なんかね?」

「手伝わせてすまない長波。今週は上からの任務達成のため、多くの敵艦隊を撃破しなければならないからな」

「いや、別に手伝うのはいいんだけどさ、秘書艦だし。ただ両手に抱えるほどの資料なんて…重い…」




(あああああ、大和さんからもらったラムネが美味しいからって飲みすぎたよぉ!)

(お手洗い!お手洗いぃぃ!)

(あの曲がり角を…もうすぐ!…あっ!)





「ひゃん!」

「っ…いったいなー!もう!…誰……子日!」

「あっ、ごめんね長波!」

「子日、廊下は走るなとあれほど…」

「あっ、あっ、提督、あの、お説教は後で聞くから!限界なんだよぉ!」

「…子日!…あいつは、何を急いで?…大丈夫か?長波?」

「ああ、別に大した怪我も、っ…いった…」

「…足をくじいたみたいだな、手を貸そう」

「いいよ別に、それよりさっさと資料を…っ…運ばないと…」

「まともに立てないくせに何を言ってる……ほら」

「…いきなりしゃがんで、なんだよ…」

「医務室まで行こう、入渠ドックは満員だしな」

「お、おぶされっての!?資料はどうするんだよ!」

「あまり良くは無いが、廊下に置いておこう。まずは怪我の治療が先だ」

「でも…」

「早くしろ」

「…ぅう…、…ごめん…」



(提督の背中、意外と大きいんだな…)

(あったかい…)

(あたしも優秀な提督をたくさん見て来たけど、ここまであたし達に親身な人、いなかったな)

(…ちょっと、嬉しい………、何考えてんだあたしは!)



「長波?」

「えっ!?な、なんだよ?」

「そんなに痛むのか?急に静かになって」

「あ、いや、だ、大丈夫!」

「そうか。もうすぐ着くから、辛抱してくれ」

「…ありがとう」


791: 2014/06/29(日) 18:15:52.12 ID:Hh17pLIU0

「軍医がいない?…そうか、今は休憩中か…仕方ない」

「長波、すまないがタイツを脱いでくれ…」

「ぅえ!?な、何言って!」

「お前はどうやってタイツの上からの湿布を貼る気だ?」

「あ…、そ、そうだよな、そう…」

「私は部屋の外で待ってる、脱ぎ終わったら呼んでくれ」


「…別に、いい…」



「なに?」

「出るの、面倒くさいだろ…だから、別に、出なくて、いい」

「何を「脱ぐから、後ろ向いててよ…」…あ、ああ」


(何言ってんのあたし!さっきから、変だ…)

(衣擦れの音、聞こえちゃってるよな…)


「脱いだよ…」

「そうか、椅子に座って、足を見せてくれ」

「…うん…」


(提督の手つき…まるで壊れものを扱うみたいに、優しい)

(しゃがんでる提督に、足を差し出して、なんだ…すっごい、ドキドキする)


「痛っ!」

「すまない、少し腫れているし、ここだな」

「…」

「長波?さっきからどうした?まだどこか…?」

「えっ、や、なんでも、ない…」









(本当に、どうしちゃったんだよ…あたし、これって、いや、まさかな…)

(…でも、正直、これから、まともに提督の顔見れる自信…ない…)

(やっぱ…これって…)



794: 2014/06/29(日) 22:23:31.23 ID:wzOpXY+/0

【自分の思いに焼かれて沈む】

彼が選んだのは、私ではなく二番目の妹だった


私では、なかった


確かに彼女は私と違って、お淑やかで、理知的な雰囲気があって、でもその実、世間知らずな面もあり、それが、とても、とても可愛らしかった

守ってやりたいと思わせる儚さがありながら、でも、芯の強い、そんな彼女に彼が惹かれるのも、当然といえば、当然で…




悔しく無いかと言われれば、それは嘘になる

悲しく無いかと言われれば、正直とても悲しい

恨みは無いかと言われれば、…わからない




そんな、わからない、と言う答えが出てくる自分が嫌で、でも、どうしようもなかった

実の妹に嫉妬なんて、惨めで、みっともなくて、でも、しょうがなかった

だって、私も彼が好きだった、愛してた

ううん、今も、愛してる




恋い焦がれるとは、よくできた表現だと思う

身を焼き尽くすような思いが、今も私を苦しめる



恋に溺れるとは、よくできた表現だと思う

深海に沈む、あの息苦しさを感じてる




この苦しみに、いつまで、耐えればいいのだろう








いったい…いつまで……


795: 2014/06/29(日) 22:26:56.65 ID:wzOpXY+/0
たまにこういうのが書きたくなる病気
自分の中で、あの子メインで書きたいなと思った結果がこれ

提督「つれづれなるままに」【その9】

引用: 【艦これ】提督「つれづれなるままに」