67: 2009/02/22(日) 23:58:54 ID:ELICkdEH



2月21日。
イッツ・ア・ドゥームズ・デイ。

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あれからかれこれウンヶ月。現実から散々逃げ回ってきたあたしだけど、
今日ばっかりは逃げるわけにはいかない。
クルミみたいに固い殻に閉じこもってしわくちゃになっていたあたしにグッドバイを告げる人生最後のチャンスだ。

「エイラさん、誕生日おめでとうございます。」
「おめでとう、エイラさん。」
「ああ、ありがとな。」

今目の前で執り行われているのは、他でもないエイラのバースデイパーティ。
笑顔のみんなに囲まれて、幸せそうに飲んだり食べたり。
まったくもって平和な風景だけど、それを眺めるあたしの胸の中はさながら鉄雨飛び交う大戦争の真っ最中だ。
何しろこれからあたしは、あのエイラに、こ、こ、こ

「こんなところでどうしたんですか?」
「うひゃああああ!?」
「ひっ!ごめんなさい!」

……なんだリーネか。脅かさないでくれよ。

「あ、いや、悪かった。あたしに何か用かい?」
「いえ、ただ、シャーリーさんが隅っこにいるのは珍しいと思って……。」
「そりゃあたしにも心の準備っていうか───」
「?」
「───じゃなかった、まあ独りになりたい時もあるのさ。」
「そうですか。すいません、私……」
「いやだからいいって。それよりほら、ミヤフジんとこ行ってやれよ。
 さっきからお前のことちら見しながらソワソワしてるぞ。」
「えっ?あっ、芳佳ちゃん───」

ええ、ええ、いいですね。夫婦よろしく手に手を取って、一挙一動日進月歩。
それに比べてあたしときたら、デートはおろか手を繋いだことだってない。
でもそんな悶々とした生活も今日でオシマイ。
あたしはやる。今日やる。

今夜、エイラに告白する!!

68: 2009/02/22(日) 23:59:40 ID:ELICkdEH

────────

片付けも終わってほっと一息。サーニャの飢えた視線を見なかったことにしながら、
あたしはソファでぼやっとしているエイラにさりげなく声をかけることにした。

「エイラ、ちょっといいか?」
「んあ?ああ、いいけど。」

廊下に出て、適当な方に歩く。ああマズい、心臓が早くも悲鳴を上げている。
頼むからまだ止まってくれるなよ。交代はいないんだから。

「オマエが私を呼ぶなんて、なんからしくないな。」

角を曲がったところでエイラの方から話しかけてきた。どうやらそろそろ覚悟を決めた方が良さそうだ。
シナリオを復習しよう。まずは何気ない風にポケットのプレゼントを渡すとこからスタート。
中身は街で買った銀の指輪、こいつを目の前で開けてもらう。
するとエイラはあたしに訊くだろう。何故こんなものを?と。
そこであたしはエイラの手を取って言ってやるのさ。好きだ、ずっと好きだったんだ、と。
堅物に何と言われようとあたしも軍人の端くれ、正々堂々と挑んでやる。
もしサーニャを引き合いに出されても、あたしには誰にも負けないこのボディがある。
押して押して押しまくって、絶対エイラにイエスと言わせてやるんだ!!

笑顔、よし。
プレゼント、よし。
気合い、よし。


振り返ったら、作戦開始!!


「──別に大したことじゃないんだけどさ。ほらこれ、さっき渡しそびれたから。」
「ん?ああ、プレゼント。わざわざありがとな。」
「いいってこと。仲間だろ。」
「ふふん、ホントにらしくないな。いいことでもあったのか?」
「さあね。」

よし、いいぞいいぞ。序盤は圧勝、このまま慎重に、着実にだ。

「見たことない箱だな。なんだこれ?」
「開けてみなよ。」
「……うわ、高そうなケース。宝石かなんかか?」
「いいから。ほら。」

見事なまでにあたしのペースだ。
だがここからが正念場、行け、行くんだシャーロット・イェーガー!!

「これは……指輪?」
「見ての通りさ。ロンドンで買ってきたんだ。言っとくけど安くはないぞ?」
「フーン、意外だな。オマエこんな趣味だったっけ?」
「違う。今日は特別なんだ。」
「ん?」
「聞いてくれエイラ、今までずっと隠してたんだけど───」

空いている左手を取ってそっと持ち上げる。
さあ言うぞ。言え。今だ!!!!

69: 2009/02/23(月) 00:00:11 ID:ELICkdEH

「───あたしは、……。」

「……?」



───声にならない。

「あたしは、

 ……あたしはー……」
「───っ!
 タンマタンマ!!ちょっと待て!!それ以上は言うな!」

だあーー!!何やってんだあたし!!

「オマエ何言おうとしてんだよ!?つーか指輪ってまさか───!?」
「あああエイラ聞いてくれ!!だからあたしはその、ずっと前から───」
「言うな!ダメだ!!ナシ、ナシ!!」
「いーや言うね!あたしは」
「アーアー聞こえないー聞こえないー♪」
「両手を耳からどけろおおお!」
「ムリだなあああ!」

作戦は失敗!こうなりゃもう勢いでなんとかするっきゃあない。でもどうやって?

「ダメだダメだ、私にはサーニャがいるんだ、言うな、言わないでくれ……」
「なあエイラ、いいから手をどけてくれよ。」
「サーニャ、サーニャ、サーニャだ。サーニャのためだ……」
「……。」

ピン、ときた。閃いた。
いやしかしこれは……でももう手がない。

「ごめん、エイラ。」

エイラは耳を塞いだまま目を瞑って首を横に振っている。
その両手をそっと壁に押さえつけて、あたしはその時一番無防備だった場所に、あたし自身のそれを重ねた。

「んぅっ……!?」

早い話が、無理矢理キスした。

70: 2009/02/23(月) 00:01:11 ID:ELICkdEH

────────

「んふ……ん……っく……」
「ん゛ん゛~~~っ!!」

じたばたと腕を振り解こうとするエイラ。ふと目を見開けば視界いっぱいのエイラの顔に、
うっすらと汗が滲んでいるのがわかる。

やばい、燃えてきた。

「──っぷは、エイラ、好きだ、愛してる。」
「シャーリー、ヤメロ。」
「お断りだっ。」
「だから私は───っく、んむ、ふ……」

言葉にした途端、火がついたように興奮してきた。
あたしは今エイラとキスしている。口の中に甘い唾液が流れ込んできてぞくぞくする。
エイラも同じように思っているんだろうか。想像しただけで頭がいかれそうだ。

「ぶはぁっ!!シャーリー、私はオマエなんかと……。」
「大丈夫大丈夫。」
「いいか、私はこれからサーニャの───」
「あたしは本気なんだ。ちゃんと聞いてくれよ。」
「オマエが変なコトするからだろー!?」

バカなことを考えてる場合じゃない。ここで言わなきゃあたしは、ずっとこのままなんだ。
好きだの一言じゃない、伝えたかったあたしの気持ちを、今ここで言わなきゃ。
あたしは。そう、あたしは──────

「───らしくないことをしてるのは言われなくてもわかってる。でもあたしは今、本気なんだ。
 あたしはお前が好きだ、エイラ。もうずっと前からそうだったんだ。
 そりゃお前があたしなんかに大した興味は抱いちゃいないってわかってる。
 サーニャが来てからはあいつに付きっきりだし、きっとそういうことなんだろ?
 だからはあたしはさ、本当は諦めるつもりだったんだ。何もなかったことにすればいつか終わるって思ってた。
 でもあたし、聞いちゃったんだ。聞くつもりはなかったのに、聞こえちまったんだ。
 サーニャが今夜お前に告白する、その相談をだよ。

 ああそうだよ。良かったなエイラ、これで晴れて両想いってわけだ。ミヤフジのお墨付きだぜ。
 だがあたしはどうなる?このままお前たちが幸せになっていくのを指を銜えて見てるのか?
 話を聞いたとき、考えないようにしてたことが頭ん中いっぱいに広がって、
 もうその瞬間からどうにかなりそうなんだ。
 これからあのオラーシャ人がお前と付き合って、好きだとか愛してるとか言い合って。
 あたしの知らないお前を、あいつが全部独り占めしちまうんだ。
 ……許せない。そんなのは、ダメだ。そんなの耐えられない。
 だってあたしもおまえがすきなんだ。
 おまえのことしかかんがえられないんだ。
 こんなにすきで、ずっと、だったのに、
 いちばんすきなおまえが、だれかのものになるなんて、やだよ。
 いかないで、おねがいだから、あたしのそばにいてよ。
 あたしをみて、あたしのものになってくれよ。
 もうおまえじゃなきゃだめなんだよ───。」

71: 2009/02/23(月) 00:03:00 ID:ELICkdEH
砂浜の上で積み木の城を作っているような気分だった。
わかってしまったんだ。あたしとエイラの間に、どうしようもない空隙があることを。
あたしの言葉は届かない。どんな形の欠片を積み重ねても、
立てたそばからざらざらと崩れてちっともてっぺんに辿り着かないんだ。
言い聞かせるようにしかと見据えていたはずのエイラの顔はいつしかあたしの頭の上にあって。
そのかりそめの温かさと引き換えに、あたしの積み木は波にさらわれてどこかへ消えてしまった。

「ごめんな、シャーリー。」
「……。」
「気付いてやれなくてごめんな。それと、こんなコトしかできなくてごめんな。」
「……。」
「それから、……好きになってやれなくて、ごめん。」

ひとの誕生日に、突然メチャクチャなこと言って、勝手に泣き出したりして。
こめんを言わなきゃいけないのはあたしのほうだ。

でもさ、わかってくれよエイラ。ほんとはさ。
あたしはお前をしあわせにしたかったんだよ。

────────

次の日の朝、手を繋いでダイニングに出てきたエイラとサーニャに
ミヤフジたちがにやにやしながら何やかやと冷やかしている様子を、
あたしはどこか冷めた目でぼーっと見つめていた。

「まったく、やつらときたら……節操も何もあったもんじゃない。
 おいリベリアン。お前もぼさっとしてないで朝食の支度を手伝え。
 聞いているのか、おい。リベリアン。……イェーガー大尉!」
「あん?あたしかい?」
「我々の部隊にイェーガーは一人しかいない。いいから手伝え。どうせ暇なんだろう。」
「はいはい、やればいいんだろ、やれば。」

適当に返事をして、よっこらせと腰に力を入れる。
何も知らないってのは羨ましいね。鈍感ならとこが尚更さ。

あたしが何をしていようと、エイラは勝手に幸せになっていくんだろう。
サーニャはいいヤツだし、別段不満があるわけじゃない。
でも、これからエイラの姿を見るたびに、きっとあたしは昨日の夜のことを思い出す。
抱き締められた体温も、重ねた唇の味も、
そして今頃あいつの部屋のどこかに埋もれている、銀の指輪の鈍い煌きを。


endif;

72: 2009/02/23(月) 00:11:13 ID:sHL98kLD
以上です。よし、ID変わってないからセーフ。日付変更線のすぐ横ではまだ21日だった……はず。
ホントのとこ言うとエイラで誕生日ネタを書くつもりはなかったのですが、
みなさんのアレやソレを読んでいるうちに突如としてシャーイラが光臨してしまったのでついやってしまった。
遅筆な私が1日半で仕上げると言うまさに天啓な一本でした。多少の設定のずれは勘弁してください。

この前のシャー美緒と言い、最近シャーリーが頭の隅でうろちょろしまくってるから困る。いや困らないけど。
実はお姉ちゃんに負けないくらい総受け体質なんじゃないかと思ったり。でも書いてみると攻めに落ち着くという。

そんなわけで、全SSにGJ!!そして>>1乙、あと読んでくれた人ありがとう。あー疲れた……。

引用: ストライクウィッチーズpart22