185: 2009/02/25(水) 11:02:27 ID:2n6b5/Ai
連合軍第501統合戦闘航空団―通称ストライクウィッチーズが解散して、もう随分経つ。
どれくらいかというと、あのときのメンバーのほとんどがもう現役を引退して、それぞれの道を選び歩み始め
たくらいに。
当然のことだけど、あの頃のように皆で集まる、なんてことはほとんどできなかった。
住んでいる場所も遠いし、みんなそれぞれの生活がある。とても寂しいけれど、仕方がないことでもあった。
そう、とてもサビシイけれど、シカタガナイこと。
だからわたしは―今こうして空を飛んでいる。
「しかし、なんだ。集まれないなら、会いに行きましょう!というのは、全くお前らしいな」
「うう、名案だと思ったんですが…」
目の前で笑っているのは坂本さん。思いついたのはいいけど、どうやって移動しようかと困っていたわたし
の相談に乗ってくれて、移動手段を工面してくれた上に一緒について着てくれることになった。
出会ってから、本当に坂本さんにはお世話になりっぱなしだ。
「細かいことは気にするな」
坂本さんは、いつもそう言って笑ってくれてるけど。
「それに、わたしも名案だと思ったぞ。いや、実際に名案だったな。皆の元気そうな姿を見ることができたの
は喜ばしいことだったし、何より向こうも喜んでくれていたしな」
その言葉に、久しぶりに出会ったみんなの顔を思い出す。みんなそれぞれの大人の姿へと変わっていて、
それでもあの頃と変わらない笑顔でわたしたちを出迎えてくれた。
最初に向かったのはリベリオン。
ルッキーニちゃんもリベリオンに引っ越していたので、ここではシャーリーさんと彼女の二人に会うことが
できた。
ルッキーニちゃんは相変わらず気まぐれで、そしてそれを気にすることなく受け止めてるシャーリーさんも
相変わらずだった。もう結婚しちゃっただろうですかと冗談で口にしたら、それもいいかもなとシャーリーさん
は笑っていた。
そのあとに向かったのはカールスラント。
バルクホルンさんとハルトマンさんとミーナ中佐が揃って出迎えてくれた。呼称に関しては、すぐ訂正させ
られたけど。わたしってやっぱりそういうキャラなのかしらと少し落ち込んだ彼女に、ミーナさんと呼びかけた
ら、少し嬉しそうにしていた。ハルトマンさんも、エーリカでいいよと言ってくれた。でもバルクホルンさんのお
姉ちゃんでいい、というのはどういう意味だったんだろう。
クリスちゃんもすっかり元気になったと聞いて、嬉しかった。会えなかったのは残念だけど、また会いに来
ればいいもんね。
ガリアではペリーヌさんとリーネちゃんに会うことができた。
復興も大分進んでいて、精力的にそれに協力している二人はとても忙しそうだったけど、それでもわたし
たちの為に時間をとってくれたみたい。リーネちゃんもペリーヌさんは相変わらずで、なんだかそれがとても
嬉しかった。今度はこちらから会いに行くと別れ際に言ってくれたのも嬉しかった。
186: 2009/02/25(水) 11:03:31 ID:2n6b5/Ai
―そして今はスオムスへ向かっている。
話には聞いていたけど、スオムスは本当に寒い。
エーリカさんに言われて、防寒着を用意していったのは正解だった。妹さんがこっちにいるらしくて、エーリ
カさんはスオムスには詳しいらしい。
そういえば、サーニャちゃんも今はスオムスに住んでいる。両親とは再会できたみたいなんだけど、それで
もこっちにいることに決めたみたい。
その理由は―うん、考えるまでも無いよね。
ということで、スオムスにはエイラさんとサーニャちゃんの二人がいることになるんだけど、どっちから会い
に行こうかな。
そう口にしたら、坂本さんが首をかしげた。なんだろう。
とりあえずエイラさんのところに行きましょうと提案したら、少し考え込む素振りを見せて、そのあと何か意
味ありげな笑みを見せてくれた。
とても気になったけど、わっはっはで誤魔化される。こうなったらもう話してくれないことはわかっていたの
で、とりあえず向かうことにした。
地図と住所を頼りに目指して行くと、やがて湖畔の木作りの家にたどり着いた。
ここで間違いないらしい。こんこんとドアをノックして、呼びかけてみる。すると中から「今開けるから」と返
事があった。
あれ?と首を傾げる。今のはどう聞いてもエイラさんの声じゃない。というより、わたしはその声の持ち主
をよく知ってる。それも、エイラさんと同じレベルで。
そう疑問をめぐらせている間に、ガチャリと扉が開いた。
「芳佳ちゃん、久しぶり。坂本少佐もお久しぶりです」
そして現れたのは、ふわりと揺れる銀色の髪と、小さな微笑。少しだけ大人びてはいるけれど、見間違え
るまでもなくサーニャ・V・リトヴャクその人だった。
「あ、あれ?わたし確かエイラさんの家に…」
戸惑っているわたしに、サーニャちゃんも戸惑ったけど、すぐに腑に落ちた顔でにこりと笑ってくれた。
「ふふ、ここはわたしの家でもあるんだよ」
ええと、それはつまり、ここはサーニャちゃんの家でもあり、同時にエイラさんの家でもあるということで。
「え、ええええ~!?」
大声を上げるわたしにサーニャちゃんは小さく驚く。ふと振り返ると、坂本さんがくっくっと笑っていた。
「さ、坂本さん知ってたんですか?」
「注意力が足りんな。資料を良く見ろ、二人の住所は同じになってるだろう」
慌てて鞄から資料を取り出し、二人の住所を見比べてみると、確かにその通りだった。
サーニャちゃん、教えてくれても良かったのに…というより、何回か手紙書いてたのに全く気付かなかった
よ。
「今エイラ呼んで来るね。狭いところだけど、寒いから中に入ってて」
そう言ってサーニャちゃんはわたしたちを部屋へと招き入れてくれた。お邪魔します、と一声かけて中に入
る。サーニャちゃんはわたしたちにソファーを勧めると、パタパタ遠くへ向かっていった。言葉どおり、エイラさ
んを呼びに言ったのだろう。薦められたまま腰を下ろして、くるりと部屋を見回した。
187: 2009/02/25(水) 11:04:43 ID:2n6b5/Ai
エイラさんとサーニャちゃんの家は、確かにああそうなんだなと思えるような内観になっていた。
二つ並んだ椅子に、二つ並んだカップに、二つ並んだ外套に、二つ並んだ歯ブラシ。いろんなものが二つ
並んで存在してて、それは容易にエイラさんとサーニャちゃんのモノなんだなってわかった。一個だけ置いて
あるんじゃなくて、二つ並べておいてあるのが本当に微笑ましい。あえて言うなら、新婚生活の中にお邪魔
したような気持ちさえする。
「なるほど、ついに甲斐性を発揮したということか」
エイラさんのヘタレの称号は、坂本さんにとっても常識だったみたいだ。ひょっとしたら航空団全てのメンバ
ーにとってもそうだったのかもしれない。
実際そうだったのだろう。あの二人に関しては、全員が全員どことなく応援する空気を持って見守っている
ようなところがあったから。
そしてやきもきしていたのも、全員同じだったんだろう。そして、それがようやく報われたということなのだろ
う。
「…サーニャちゃん、良かったね」
まだここにいないサーニャちゃんに、フライング気味だけどお祝いの言葉を口にする。もうすぐ来るだろうか
ら、そうしたら一杯お祝いの言葉をかけてあげよう。
そう考えてると、バーンと扉が開いてエイラさんが現れた
「二人とも、もう来てたのか!」
揺れる薄めの淡い金髪と、あの頃と何も変わらない笑顔。他のみんなもそうだったけど、ホントにこの人は
変わらないなと思う。つかみ所が無いくせに、変に人を惹きつける笑顔を浮かべて、飄々とどんなことでも簡
単に片付けてしまいそうだと妄信してしまいそうな空気を纏わせて。それでいて甲斐性無しと来たものだか
ら、いろんな意味で性質が悪かったよね。
坂本さんと握手を交わしてたので、わたしもと思って手を差し出すと、何故かぎゅっとハグされた。
「うん、変わってないな」
うん、やっぱり変わってない。それがわたしの特定の部分を指しての台詞だってとこも。後ろからサーニャ
ちゃんに睨まれてるのに気がついて無いあたりも。
というか、よけいなお世話なんですが。
「エイラさん、お久しぶりです」
「おー、ひさしぶり…っと」
さすがにサーニャちゃんの視線に気がついたのか、エイラさんは冷や汗を流しつつ、わたしから離れた。
つつつ、とサーニャちゃんの隣に移動して「さーにゃあ」とこそこそ情けない声を出しているところも相変わら
ずだ。
それでいて、二人を包む空気はあの頃よりも更に柔らかさをましているように見えた。それはわたしの知ら
ない二人だけの時間が培ってきたものなんだろう。
ちょっとすねた表情を見せていたサーニャちゃんがもういいよってくすりと笑って、それを見たエイラさんが安
堵の笑みを浮かべている。ごめんなとサーニャちゃんの頭を撫でるエイラさんと、それに身を任せるサーニャ
ちゃん。
うん、微笑まし過ぎて思わず見入っちゃってた。
「そういえば、エイラさん、サーニャちゃん、おめでとうございます」
「うむ、めでたい。そういえば挙式はまだなのか?確かスオムスでは同性婚も認められているのだろう」
わたし達の言葉に二人の動きがぴたっと止まった。まるでピシリと効果音でも立っていそうな固まり具合。
あれ、と坂本さんと顔を見合わせる。その二人の反応は、わたしたちが予想していたものと違っていたから。
188: 2009/02/25(水) 11:05:53 ID:2n6b5/Ai
暫くするとサーニャちゃんははあと深い溜息をついて俯き、エイラさんは顔を真っ赤にしてあたふたし始めた。
えっと、これはまさか―ううん、さすがのエイラさんでもそれは無いよね。と首をもたげた疑問をぺしっと押さ
えつけた辺りで、
「ば、ばか、わたしとサーニャは別にそんなんじゃねーよ!!」
なんてエイラさんの声が響き渡った。
―は?
自分の口がぽかーんと空く感覚を感じたのは初めてだった。
ううん、きっと今までも何回かあったとは思うんだけど、こんなにそれが鮮明なのはきっと初めてだと思う。
視界の端に入った坂本さんも全くその描写がぴったりの表情をしてて、違うのはどんよりと暗いオーラを頼
って溜息をついているサーニャちゃんと、それも目に入らないくらいに顔を真っ赤にしておたおたしているエイ
ラさんくらいだった。
というかですね、何を言ってるんですか、この人は?
あまりにあんまりすぎて、全く予想外の言動に―ある意味彼女らしいといえなくは無いけど―わたしは逆
に冷静になっていく自分を感じていた。
「ええと、エイラさん?」
「な、なんだよ、宮藤」
「サーニャちゃんと一緒に住んでるんですよね?」
「あ、ああ」
その返事を聞いたあと、わたしはとんとんと今エイラさんが出てきた扉へと向かう。少し空いたそこから見
えるのは予想通り寝室で、おいてあるのはやはり予想通りにダブルベッド。
「ベッドもひとつなんですね」
「こ、コラ、勝手に見るな。そうだよ、サーニャは一人じゃ寝られないから、わたしがいつも添い寝してるんだ」
じっとエイラさんを見る。この方向はダメだ。ヘタレルート一直線だ。
方向を変えることにする。
「サーニャちゃんの両親は見つかったって聞きました。サーニャちゃんは帰ろうとは思わなかったんですか?」
わたしの質問にサーニャちゃんがぴくんと反応するのが見えた。でも、これはエイラさんへの質問だから、
答えちゃだめだよ。
「そ、それは…サーニャはここにいたいって言ったし、わたしもサーニャと離れたくなかった。でも『行くな』なん
て言えないダロ?ずっと離れ離れになってた肉親なんだ…だから、わたしは笑顔で送り出してやった。
…そのあと散々泣いてたんだけどナ…ずっとないて過ごしてたんだけど、そこにサーニャが戻ってきたんだよ。
やっぱりこっちに住むからって。
両親はいいのか?って聞いたけど、わたしの傍の方がいいって。勿論、わたしにそれを断る理由なんて無かっ
たよ」
「嬉しかったですか?サーニャちゃんが戻ってきて」
「そりゃそうだろ。わたしもずっとサーニャと一緒にいたかったんだ。これでずっと一緒にいられるんだからな」
ふん、と胸を張って答えるエイラさん。いい調子―これでどうだろう。
余計なお世話と思わなくもないし、二人の問題だとも思うけど、このまま放っておいたらずーっとこのまま一
緒にいそうな気がする。それもひょっとしたら悪くないかもしれないけど、二人の気持ちがわかってる身として
はなんとももどかしい。もし二人がそのままでいいと思ってるならよかったんだけど、そうじゃない。お互いその
一歩先に進もうと、進めてほしいと思ってて、でも未だに動けずにいる状態だから。…うん、まさか数年たった
今でも同じだとは思わなかったけど。
ふとこちらをじっと見ているサーニャちゃんに気が付く。ぐっと拳を持ち上げて、期待の眼差しをわたしとエイラ
さんに向けている。サーニャちゃんはわたしの意図を感づいてくれたみたいだ。任せて、後一押しだから。もちょ
っと待っててね。
189: 2009/02/25(水) 11:07:04 ID:2n6b5/Ai
「サーニャちゃんのこと、好きですか?」
「当たり前だろ。そりゃ、好…す、すす…っ!な、何言わせようとしてんだよ!宮藤っ」
いや、それはこっちの台詞です。というか、何で言わないんですか。
ちらりとサーニャちゃんに目を向ける。サーニャちゃんは私の視線に気が付くと、苦笑混じりの溜息を見せて
くれた。まだこんな調子なの、と語ってるようにも見える眼差しで。
わたしも溜息をついて、おたおたしたままのエイラさんは無視してサーニャちゃんのほうに歩み寄った。エイラ
さんがこの調子なら、きっともうそれこそとんでもない量の愚痴が溜まってるに違いない。傍から見れば惚気話
にしか聞こえないそれも、当人にとっては立派な愚痴だ。それを溜め込んだままじゃ、あまりにサーニャちゃん
がかわいそう過ぎる。安心して、たっぷり聞いてあげるから。
視界の隅っこで、ぽんとエイラの肩に手を乗せる坂本さんの姿が映る。
「エイラ…わたしが言うのもなんだが…貴様は少々性根を叩き直す必要があるようだ」
「わ、ど、どうしたんだよ少佐。顔が怖いぞ」
「いいから来い!こういうときは訓練に限る。そのなまった身体と精神を鍛えなおしてやる!」
「な、なんだってんだよ~…サーニャ、宮藤、助けてくれよ~」
情けない声を出して、坂本さんに引きずられていくエイラさん。勿論わたしにもサーニャちゃんにも、差し伸べ
てあげる手なんてない。いい機会だからバシバシしごいてやってくださいと、生暖かい目で見送ってあげた。
丸一日くらい坂本さんの訓練を受ければあのボケた頭もはっきりしてくれるんじゃないか、と思いかけたけど、
エイラさんがその程度で変わるはずないかという諦めのようなものもあったりする。
「サーニャちゃんも大変だね」
「…うん」
サーニャちゃんは、わたしの問いかけにしゅんとして俯いた。見た目でわかるほど落ち込んでる。そうだよね、
サーニャちゃんがエイラさんを好きなのはよく知ってる。エイラさんもそうだとわかるけど、でもあの人は態度では
散々好きだゾって空気を発してるくせに、いざそれを告げるべきタイミングになるとガチッと固まって、そして逃げ
てしまう。だからサーニャちゃんはきっと、エイラさんが本当に自分を好きなのか凄く不安になるんだと思う。近付
いて来たと思ったらふいっと離れて、そしてまたすぐに傍に寄ってきて触れていいのかなと思ったら、またさっと
離れる。傍にいること自体ががサーニャちゃんにとって幸せなのは確かだろうけど、きっと凄く負担になってると
も思う。その証拠に、今サーニャちゃんはこんなに辛そうな顔をしているから。
こんな可愛い子に、こんな顔をさせるなんて最低だよエイラさん。あんまりヘタレてるようだと、わたしがサーニャ
ちゃん攫って持って行っちゃうよ。
…ん、それもいいかも。そうすれば如何にエイラさんでもさすがに慌てて取り戻しに来るんじゃないかな。そして
その勢いで自分の想いを―
…無理そう。どちらかといえば、サーニャが幸せならそれでいいんダ…なんて言って引きこもって泣いてそうな
気がする。他のことにはさぱっと、わたしが憧れるくらいにあっさり片付けてしまうのに、サーニャちゃんのことに
関してはあの人は本当にアレな人だから。
本当にアンバランス。未来予知なんて稀有な能力を持ち、黒狐という上位精霊を使い魔にして、押しも押されぬ
スオムスのトップエースの彼女なのに、サーニャちゃんの前だと年相応の、ううんそれよりちょっと情けない一個
の人間になっちゃうんだから。
でもきっとそれがエイラさんの魅力なんだよね。
190: 2009/02/25(水) 11:08:42 ID:2n6b5/Ai
「芳佳ちゃん?」
いけない、ぼーっとしちゃってた。
ごめんねって謝るわたしを、サーニャちゃんはじっと見つめてくる。なんだろうと首を傾げて見せたけど、じっとし
た視線は止まない。
「エイラはわたしのだから、取っちゃダメ…」
思わず噴出しそうになる。
それは確かに、戦闘時の颯爽とした背中や鮮やかという表現すら色褪せてしまいそうな戦闘スタイルとかに憧
れていなかったわけではないけど。さすがにそんな気はなかったよ。それにもし仮にそう思いかけたとしても、エ
イラさんが隣にいるのはやはりサーニャちゃんだったし、サーニャちゃんにしか見せない顔を沢山見てきたから、
きっとそうなる前に踏みとどまってたと思う。それが未然なのか既往なのかまでは、わからないけど。
それより、サーニャちゃんも目ざといんだなあ。わたしがちょっと昔のエイラさんについて考えたの、感づいたんだ
ろう。それに結構なやきもち屋さんなんだ。エイラさんは良くわたしがサーニャちゃんと一緒にいるだけで「ソンナメ
デ~」と割り込んできたからわかりやすかったけど、サーニャちゃんも負けてなかったのかも。ふふ、見た目は結構
違うように見えるけど、似てる部分あるんだね。
と、そんなサーニャちゃんを微笑ましく眺めていたら、背後にゴゴゴと何か黒いものが渦巻き始めた。そういえば、
さっきの言葉に返答してなかった気がする。
ひょっとして本気と思っちゃったのかな…ちょっと頬を紅潮させて、可愛らしく整った眉をきゅっと締めて、宝石の
ような瞳で一生懸命わたしを睨もうと見つめてくる。
…脳裏に、あのときのエイラさんの台詞が蘇ってきた。「何かこう、ドキドキしてこないか?」ってあれ。うん、ドキ
ドキしてきてます。サーニャちゃん、それ可愛すぎだよ。
「サーニャちゃん、可愛すぎ…ホントにお持ち帰りしちゃおうかな」
「…え?」
わたしの言葉に、サーニャちゃんの背後で渦巻いていたどす黒いオーラがあっさりと掻き消えた。ふぅ、どうした
らいいか困ってたけど、どうやら落ち着いてくれたみたい。でも、なんでだろ。
…って、わたし今なんて言った…?ま、まずいよ、思ったこと口に出しちゃってたよ!勿論そう思っちゃったのは
確かだから、嘘とかそんなのじゃないんだけど。
「ふぅん」
どうフォローしようか一生懸命頭を働かせているわたしに、サーニャちゃんがにこっと微笑んで見せた。いつもの
透き通るような透明で、純粋な微笑―のはずなんだけど。
「芳佳ちゃんは、わたしをつれて帰りたいんだ?」
「え、えっと、それは、その」
言いよどんでいるその隙に、ついっと顔を寄せられる。本当に不意に、こちらに何の防御策も講じさせないような
さりげなさを持って。だからわたしが気が付いたときには、サーニャちゃんの微笑んだ顔は視界半分を覆うくらいに
大きくなっていた。
至近距離であわせた瞳は、いつかエイラさんがそう言っていたかのように例えて言うならば雪の結晶のように綺
麗で。そして何か熱のようなものをそっと奥に秘めているように見えた。それはとても妖艶で、淫靡なものに見えて、
そんなものを瞳越しに伝えられるものだから、わたしは魅入られてしまったかのように身動きが取れなくなる。その
熱にまるでとかされてしまったかのように、視界が、思考が、ふらふらと芯を失ってしまう。
そんなわたしの様子を確信しているかのように、サーニャちゃんは更に目を細めて見せた。
「芳佳ちゃんは、気が付いてないよね。わたしがずっと憧れてたこと」
「え?」
191: 2009/02/25(水) 11:09:50 ID:2n6b5/Ai
頬に柔らかな感触。いつの間にか、サーニャちゃんの右手がわたしの頬に当てられていた。もう、どういうことなの
か理解しようとしても、全然頭が動いてくれない。まるで激流に翻弄される木片のように、ただただ流されていくしか
ない。
「芳佳ちゃんは、わたしの背中を押してくれたよね。エイラはわたしの傍で支えてくれていたけど、踏み出させてくれ
たのは芳佳ちゃんだった。その真っ直ぐさでわたしを導いてくれて、その眩しさでわたしを照らしてくれた」
そう告げるサーニャちゃんのほうが真っ直ぐで、眩しくて、もう本当にどうしていいのかわからなくなる。
「だからね、芳佳ちゃんがそう望むのなら、わたしを連れて行ってもいいよ」
少しずつ、本当に少しずつだけど、サーニャちゃんの唇は台詞を象りながらわたしの方へと近付いてきていた。それ
に気付いたけど、わたしはやはり動くことが出来ない。何も分からないから、動かしようがない。でもひとつだけ分か
ることがあって、それはこのままわたしがじっとしていたら、確実にそうなってしまうと言うことで。
ああ、それでもなんでわたしは動けないんだろう。でも、仕方がない。だって、こんな表情のサーニャちゃんがいて、
わたしに触れようと近付いてきていて、そこから逃げるなんて跳ね除けるなんてあらゆる回避行動はあっさりとその
選択肢としての意味をなくしてしまう。
わたしからは動けない。だけど、これはきっとダメなんだと思う。
だから、お願い―きっとこれを止められるのは、あなただけだから。
「宮藤、オマエ何やってんだ!」
バーンと開かれる扉に安堵したのは、きっと気のせいではないのだろう。同時に少しだけ残念に思ったことは、気の
せいということにしておこうと思う。
だって、わたしは何処かで気がついていたから。それはもうどうしようもなく身動き出来ないくらいに魅せられはしてい
たけど―サーニャちゃんがあの表情を見せるべきなのはわたしじゃないんだって。
「何、エイラ?邪魔しないで」
だからあっさりとわたしから身を離したサーニャちゃんが、そんな辛らつな台詞をエイラさんにぶつけていても、わたし
は平然と―強いて言うなら笑いを懸命に堪えながら眺めていられた。
「じゃ、じゃま…」
背後で鐘を突かれた様な、そんな様相のエイラさん。
「私はエイラのなんでもないんでしょ?だったら放って置いて」
サーニャちゃんはそんなエイラさんに、つんとそっぽを向いて見せた。ああ、これは効くよ。私がエイラさんの立場だっ
たら、きっと再起不能だと思う。
「芳佳ちゃん、続きしよ」
そう言ってサーニャちゃんは再びこちらに視線を向けた。けれどもさっきとは打って変わって、その瞳には謝罪の色が
一杯だった。
大丈夫、分かってるから。それに、わたしも考えた案だったからね。
サーニャちゃんの挙動に合わせて違和感無いように振舞いながら、わたしはちらりとエイラさんの様子を伺う。
エイラさんはいまだショックから立ち直れない様子で、呆然と立ちすくんでいた。大丈夫かな、と少しだけ不安に思う。
先程の自分のシミュレーション通りにいったりしないだろうかと。そうなればもうアウトとしか言いようが無い。
192: 2009/02/25(水) 11:11:18 ID:2n6b5/Ai
だけど、不思議とわたしは確信できていた。あの予想は外れるだろうと。勿論、わたしが知っているころのエイラさん
ならそうなっていたかもしれない。だけどサーニャちゃんがそうだったように、エイラさんもあの頃のままじゃないはずだ。
あの頃よりもずっと沢山のモノを、二人は積み重ねてきたはずだから。もしそれを裏切るようならば、わたしはエイラさん
を一生許すことはないだろう。けれど、きっとそれは杞憂だとも思う。
だってエイラさんは、なんだかんだで言いつつも、やはりわたしの憧れた、ストライクウィッチーズを代表するエースの
一人なんだから。
「好きなんだっ!」
本当に唐突に、そんなエイラさんの声が響く。唐突ではあったけど、予想していた台詞だったから、わたしは驚きはし
なかった。
「宮藤なんかよりもずっと、わたしはサーニャのことが好きだ!だ、だから、宮藤とそんなことしちゃ、駄目なんだ!」
顔を真っ赤にして、目を閉じたままでそう一気にまくし立てたエイラさんは、それはスマートと言う言葉からは程遠く、
みっともない様相と言えたかも知れないけど、それでもとても凛々しくて、立派に見えた。
うん、感動してる。ついに、ついに言ってくれたんだ。わたしだってこんなに感動してるんだから、隣のサーニャちゃん
はもうそれどころじゃないだろう。
そう思って隣を見ると、そこにサーニャちゃんはいなかった。
「わっ、さ、サーニャ!?」
悲鳴に視線を戻すと、そこにはエイラさんに抱きつくサーニャちゃん。シャーリーさんも真っ青の素早さだよ。
「やっと、やっと言ってくれたね」
サーニャちゃん、泣いちゃってる。うん、気持ちは分かるよ。エイラさんはというと、突然抱きついて泣き出したサーニャ
ちゃんに戸惑って、それでも一生懸命泣き止まそうとあやしたりしていて、そしてハッと何かに気が付いた顔でこちらを
睨んできた。
「み、宮藤、おまえ…!!」
「まあ、いいじゃないですか。結果オーライということで」
「こ、この!」
「ほら、サーニャちゃんはいいんですか?」
「く…この、憶えてろよー」
エイラさんの中ではすっかりわたしが主犯と言うことになっているみたい。それはエイラさんにとってはサーニャちゃんが
という考えにはなかなか至らないのも無理はないよね。ふふ、とするとちょっと見たくもあるかも。サーニャちゃんの、あの
顔を見せられたときのエイラさんの反応とか。
なんて、そんな野暮なことはしないけどね。
「うまくいったようだな」
そうこうしている内に、坂本さんが戻ってきた。
「まさかお前があんなからめ手を使うとはな」
事情は察しているようだけど、やはりここでもわたしが主犯扱いみたい。これはサーニャちゃんの人徳なのかな、わたし
の信用が足りないせいなのかな…いいんですけどね。
「それじゃ、坂本さん」
「ああ、これ以上邪魔をするのはなんだし、キューピッド役は退散することにしよう」
こっそりとサーニャちゃんとサムズアップしあったのを最後に、わたしたちは愛の巣へとクラスチェンジした二人の家を後
にした。
ゆっくり話せなかったのは残念だけど、きっとまたすぐに会えると思うから。その日を楽しみにしてればいい。
だから、早く送ってきてね。二人の、結婚式の招待状。
193: 2009/02/25(水) 11:15:08 ID:2n6b5/Ai
そして飛行機のところまで戻ってきたんだけど、ふと隣に来たときは無かった機体が寄せられているのに気が付いた。
なんだろう、見たような機体だと思うんだけど。
目を凝らしたわたしの目に映ったのは、その隣でこちらに向かって手を振る人影。一瞬目を疑ってしまう。だって、こちらか
ら会いに行きます、とはいってくれたけど、まさかこんなに早く来てくれるなんて。
嬉しさがジーンとにじんでくる。それに促されるように、わたしは駆け出した。
つい先日顔を合わせたばかりだったのに、こんなにも会いたい気持ちに溢れていたんだから。そんな気持ちを一杯ぶつけ
てあげたい。なんでかな、変にテンションが上がってる。さっきまでのエイラさんとサーニャちゃんの姿に、影響受けちゃった
のかも。
そんなわたしを、坂本さんは苦笑にも似た微笑を浮かべて見送っていた。
「やれやれ、此方もようやく、ということか」
そんな呟きが聞こえた気もしたけれど、確認は後にしよう。今は、とわたしは向こうからも駆け出してきた彼女の元に駆け
寄ることを最優先にと、更に脚に力を篭めていた。
(おわり)
以上となります。
小ネタ的に考えたはずが、意外に長くなってしまいました。
あと、すみません、名乗り忘れていたのですが、このスレの最初の無題の芳ペリも「XRp1SOao」作になります。
ペリーヌ支援が基本姿勢だったはずなのに、エイラーニャ…ごめんなさい orz
次回はペリーヌで頑張ろうと思います。
>>181
組み合わせでいろいろ面白いことになりそうですねw
すぐに飛ばないといけないのに、近くに芳佳しかいなくて混乱するペリーヌとかうかびました。
何この芳ペリ脳…
引用: ストライクウィッチーズart22
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります