1: 2014/08/02(土) 23:15:57.26 ID:gqMv0ECD0
このスレは>>1が艦これをプレイしてみたいと思うキッカケになった艦娘が
つい10分前にドロップされた記念に衝動的に立てたものです。


・キャラ設定? いいえ、知らない子ですね
・即興SSにより書き溜めなし
・地文あり
・内容は短編連作



艦これ愛だけは十二分なので、ハートの広い提督方は是非お付き合いをば。

「艦これ」いつかあの海で

2: 2014/08/02(土) 23:19:10.79 ID:gqMv0ECD0

― 0 ―



最初に思い浮かぶのは暗い海に包まれる感覚。

目を凝らしても、そこにあるのは深い闇。

耳を澄ませば自分から漏れる水泡が浮上していく音が聞こえた。


ふわふわと浮いているのか、こぽこぽと沈んでいるのか。

全てがあやふやで、曖昧なまま。 捻じ曲がった体の軋みと焼けるような痛みだけが妙に鮮明で。

今感じている辛さを誤魔化すように一呼吸しようと、少しだけ口を開けたら塩の味が舌を刺激した。

辛くて飲めたものではないその味は、海の塩水なのか、それとも私から零れた涙なのか。

3: 2014/08/02(土) 23:23:33.30 ID:gqMv0ECD0

深い海へと着底して、ようやく自分が重力に縛られていた事を思い出す。

丘の上ならば地に響く重い音が聞こえてきそうな衝撃だが、実際にそのような事はなく、水底の砂塵が舞って自分の体を包むだけだった。


仰向けになったまま、空の方向を見上げてみる。

銀色に輝く月が水面を照らしているのだろうか。それとも星屑が降り注ぐような満天の夜空かもしれない。

今こうして光の届かない場所から夢想すると、つい口元が緩んでしまう事に気づく。

どうやら私は自分が思っているよりも穏やかな気持ちで最期を迎える事が出来そうだ。

4: 2014/08/02(土) 23:28:53.15 ID:gqMv0ECD0

憤怒の情に心を染められ、後悔の念に楔を打ち込まれ、絶望に身を焦がしている。

そう考えていた。


強大な力を持ちながらも、襲い来る敵や仲間を守れなかった自分自身に怒りや憤りを覚えた事など数え切れない。

もし、たら、れば、の様々な事に悔やみ、後出しの可能性にばかり苛まれる歯痒さに眠れぬ夜も幾度となくあった。

出撃回数の少なさから、せめてどこかの海域にて特攻で役目を全うする事が出来たならば、と。

そんな思考に包まれたまま、私は白い光に焼かれて今に至る筈なのに。



それでも尚、こうして心が穏やかなのは。

きっと、最期まで誇りと矜持を持って私を育んでくれた船員たちの御霊がそうさせるのだろう。

5: 2014/08/02(土) 23:36:52.40 ID:gqMv0ECD0


おつかれさま。

よくがんばった。

もういいんだ。

ゆっくりねむれ。



6: 2014/08/02(土) 23:41:00.61 ID:gqMv0ECD0


軍服に身を包んだ名も知らぬ人々が、とても眩しい笑顔で私に敬礼をしながらそう伝えてくるような。

輩(ともがら)達の優しい幻。

夢とすら呼べない瞬き程度の時間、そのたった一瞬で私の心を満たしてくれる刹那の見切り。

ありがとう。 誰に向けるわけでもない感謝の念が自然と零れた。 

7: 2014/08/02(土) 23:46:13.52 ID:gqMv0ECD0


そんな万感の想いと、戦いで沈めなかったという消し去りきれない一匙程度の無念が。

時化(はいぼく)の風に吹かれて湿気た私の心に撃鉄を起こす。

8: 2014/08/02(土) 23:48:03.04 ID:gqMv0ECD0


鉄屑へと成り下がった私の副砲がぴくりと動いたような気がした。


火傷まみれになった艦体が浮上しようと音を立てた気がした。


握り拳を形作るかのように主砲が天を向こうとしている。


敵艦との殴り合いを求めていながらも空を切り続けた砲台が、責務を果たしたいと吼えているかのようだ。



次に目覚めるときは、遺憾なくこの力を行使して。

知らない誰かの為に全てを守れる私で在りたい。

9: 2014/08/03(日) 00:00:54.33 ID:vDIhFLlr0

今際の信念を胸に秘めた所為か、思った以上に肩が張っていたようだ。

ふっと軽く溜息をつくと、力が抜けていくのを感じる。

それと同時に霞がかったような緩やかな眠気を纏っている事に気付いた。

目を瞑りながら思考を巡らせると、未練ばかりが思い浮かぶ。 この悔しさは、いつかどこかで晴らしてみせよう。

永い眠りから手を曳かれるように、最後に一つ大きく水泡を吐き出すと。



おやすみなさい。



またどこかで、優しい声が聞こえた気がした。





戦艦、長門。


それが私の名前。


12: 2014/08/03(日) 00:26:21.00 ID:vDIhFLlr0


― 1 ―



提督「なんかえらく仰々しいモノローグが見える気がするんだがなぁ、長門さんよぅ」

長門「なんだ提督か。私の前に現れるならせめて貴方の横に駆逐艦を同行させてくれ。 視力が下がるじゃないか」

提督「汚物扱いとはご大層だなこの女郎」

長門「軽い挨拶だ。 それで、何か用か?」

提督「ウェットに富みすぎな挨拶すぎるわ。 まぁいい、今日の用件は進捗の確認みたいなもんだ」

長門「それなら先ほど帰港した際に報告しただろう」

提督「流石に冗談だと思ってな」

長門「作戦の結果にまで冗談を言うと思われていたのは心外だな。 無論、ありのままを伝えたぞ」

提督「冗談であるように願っていた俺の気持ちを鑑みてほしかったわ……」

13: 2014/08/03(日) 00:37:20.04 ID:vDIhFLlr0

提督「改めて状況を報告してくれ」

長門「第一艦隊、フタヒトマルマル帰港。 海上護衛作戦の任に着くも、途中離脱。
   2隻小破のごく小規模な損傷にて作戦終了。 後日改めて同任務に着手する予定になっている」


提督「海上護衛作戦か。 長門、その出撃任務は提督間で略称されている数字で表すなら何だ?」

長門「愚問だな、1-3だ」

提督「成る程。 ちなみに目安となる難易度の星数は?」

長門「2つ。 このような海域は序の序もいいところだな。 初級者ですら口笛を吹きつつ攻略しているぞ」

提督「うむ、流石の分析力だ」

長門「当然だ。世界のビッグセブンを侮ってもらっては困る」

提督「最もな意見なのかも知れんな。 だが、俺の言い分を一つだけ聞いてもらえるか?」

長門「良いだろう。 筋の通っているものならば大歓迎だ」

提督「ではお言葉に甘えて……」


15: 2014/08/03(日) 00:40:23.04 ID:vDIhFLlr0

提督「なぁ、長門」

長門「む?」

提督「なんで世界のビッグセブンがいて未だに1-3が越えられてないんだよ!!!」

長門「どこぞの貧乏鎮守府に着任した結果が如実に現れているだけではないか」

提督「よく言ったテメェ。労いにお前の頬に俺の男女平等パンチを刻んでもいいぞ」

長門「ふむ、私の41cm連装砲パンチが陸でも火を吹く機会を貰えるのは光栄だ」

提督「おぅ暴力に訴えるのはやめろや」

長門「鸚鵡返しという言葉が輝く瞬間だな」

16: 2014/08/03(日) 00:51:28.66 ID:vDIhFLlr0

提督「くっそぅ……ビギナーズラック狙いで奮発して工廠の戦艦レシピを初めて回した結果がこれだよ……」

長門「それこそ心外だな。 自分で言うのも何だが、結果として最強の艦娘を手に入れる事が出来たじゃないか」

提督「確かに、確かにお前を我が艦隊に招くことが出来たのは感無量だった」

長門「ならばそれで良いじゃないか」

提督「いやでも、なんというか。流石に1-2未クリアの時点で来るとか思う訳ないだろ」

長門「やれやれ。 ビギナーズラックが功を奏しているのに何が不満なのやら」

提督「このド新米提督を資源のやりくりで馬車馬のように使ってんじゃねぇって言いたいの!
   フリーターの家に一国の姫様が来たくらい生活に無理があるの! お前メシ食いすぎなの!」

長門「ひ、姫様か……そのような扱いも、まぁ、まんざらではないな……」

提督「違う食いつくのはそこじゃない! お願い分かってビッグセブンさん!」

20: 2014/08/03(日) 01:05:40.19 ID:vDIhFLlr0

提督「それに、だ」

長門「なんだまた小言か? 流石の私でもそろそろ付き合いきれんぞ」

提督「お前にとっての小言はマイ鎮守府を揺るがしそうな大事になるんだよ。いいから正座」

長門「むぅ、このビッグセブンを正座させるとはな。
   無論、私の提督だから特別に従うが、これは高くつくぞ」

提督「お前を養う以上に高くつく何かがあるとか今の俺には想像つかないインフレだわ」

22: 2014/08/03(日) 01:15:19.00 ID:vDIhFLlr0

提督「さすがに資源の枯渇がこれ以上深刻化するのは問題だと先日相談したよな?」

長門「ああ。 結果としては“第一艦隊を主力班と遠征班に分けて運用する”という流れだった筈だ」

提督「よろしい。では先日の遠征に関して、秘書艦のお前は当然結果を知っているだろう」

長門「無論だ」

提督「報告書もしっかり貰っているが、中々どうして簡潔明瞭にまとめてあるので一度目を通しただけでほぼ理解できた」

長門「事務作業もビッグセブンの嗜みだからな。報告書やレポートなどはお手の物だ」


提督「それを踏まえて、もう一度先日の遠征結果を口頭にて教えてくれ」

長門「つくづく二度手間が好きな提督だな。まぁいい、相分かった。 更に簡潔に伝えよう」

23: 2014/08/03(日) 01:24:40.59 ID:vDIhFLlr0


長門「艦隊名“お姉さんと胸熱駆逐艦隊”、警備任務にて遠征出向。 
   私を含む6隻、作戦成功にて無事帰港」


提督「資材備蓄の遠征に行った筈だよな?」

長門「それ以外に何があるというのだ?」

提督「はっはっは、それもそうか」

長門「全く…提督がうっかりものだとこちらの気が休まる間もないな」


提督「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!! お前の脳みそは拳一つ分の大きさも無いの!? そうなの!?
   なんで遠征後の方が資材ごっそり減ってんだよ! 駆逐艦だけでいいのになんでお前ついて行っちゃったんだよ!!」

長門「それこそ愚問だな。可愛い駆逐艦たちが遠征中に敵から襲われたら一大事だろう?
   万が一の事態に備える為に同行しただけに過ぎない。 今回も滞りなく任務を終えれて何よりだったぞ」

提督「内容に関しては電からの伝聞があってな。
  “長門おねえさんが私たちに向けて終始カメラを回していました。資材確保を手伝う様子がなかったのです”とあるが。
   これについて何か弁明は?」

長門「私の駆逐艦これくしょんに新しく資材が増えただけの話じゃないか」

提督「そういう任務じゃねぇんだよコレ!」


24: 2014/08/03(日) 01:30:53.77 ID:vDIhFLlr0

提督「おかしいと思ったわ……なんでお前遠征に行ったのにずっとキラキラ状態になってんだよってさ……」

長門「途中で間宮アイスを買い食いしているのが要因かも知れないな」

提督「原因の7割を占める要因が見つかったわ。 お前しばらくお菓子代無しな」

長門「パワハラだ! 駆逐艦ちゃん達と同様の扱いを求める!」

提督「うっせぇ!」

25: 2014/08/03(日) 01:36:07.02 ID:vDIhFLlr0

提督「そもそも現状を打破したいんだったとっとと1-3クリアしてこい! 
   俺の提督レベルも上がってお前らの給料上げれるんだから現状最優先でこなしてこいや!」

長門「それは現状だと無理な話だな」

提督「あぁん? 今は誰も入渠とかしていないだろ? 練度を高めるがてらに駆逐艦を連れて行ってこい」

長門「弾薬が足りない」

提督「じゃあ半刻くらい経ってから出かけてくれ」

長門「28」

提督「誰もお前の年齢なんて聞いてねぇよ」

長門「今の言葉はしっかり心に刻んだからな、私は絶対忘れんぞ。 ……今の数字はそうじゃない」

提督「なんだよ怖えぇよ、じゃあ何の数字だよ」

長門「弾薬」

提督「は?」

長門「鎮守府に備蓄されている弾薬の残り数だ」

提督「すまん、もう一回だけ備蓄弾数を教えてくれ」

長門「だから 28 だ」

26: 2014/08/03(日) 01:41:54.88 ID:vDIhFLlr0

提督「どうしてそこまで減っているのか、今の俺には理解できない」

長門「それに関しては提督が一番知っているだろう?」

提督「……」

長門「なぁ、提督。 私に一つ教えてくれ」

提督「……」

長門「資源が少ないと知っての上で、なぜ46cm砲を開発しようとしたんだ……?」

提督「長門くん、君が何を言っているか分からないよ」

長門「またしても鸚鵡返しが必要のようだな」

27: 2014/08/03(日) 01:46:25.40 ID:vDIhFLlr0

提督「いや、まぁ、どっかの誰かさんが燃料と弾薬食べるから、どうせ無くなるなら早いか遅いかの差だけかな~って」

長門「それをどっかの誰かさんは正当だと思って、ギャンブルのように開発を繰り返したわけか」

提督「どっかの誰かさんは結局46cm砲どころか電探すら持ってきてくれなかったなぁ」

長門「どっかの誰かさんはそれで資材が枯渇しているんだから本末転倒だなぁ」

提督「どっかの誰かさんが持ってくるのは41cm砲ばかり。 きっと論者積みされたい脳筋なんだろうなぁ」

長門「どっかの誰かさんはそれを運用できるほどの甲斐性すらないんだろうなぁ」

提督「あ? やんのかコラ?」

長門「ほぅ、この鎮守府で初の轟沈が生身の人間か。魚たちもさぞ喜ぶだろうな」

提督「おぅ暴力で人を屈服させるのはやめろや」

長門「気が強いのか弱いのか分からない人だな……」

28: 2014/08/03(日) 01:52:50.94 ID:vDIhFLlr0


提督「そもそも男の子の憧れだろうが、大和砲は!」

長門「結婚適齢期の男性が“男の子”と自分を名乗る発言には飯粒を吹き散らしそうになるからやめてくれ」

提督「やかましいわ! 見た目の年齢的には長門だって俺とどっこいどっこいくらいだろうが!」

長門「ほぅ、そんなにお姉さんに見えるのか。お似合いとでも言うつもりか? プロポーズするなら予約の無い今のうちだぞ?」

提督「味覚だけは駆逐艦級のお子様が何か言ってるぞオイ」

29: 2014/08/03(日) 02:04:19.71 ID:vDIhFLlr0

提督「むぅ、小言が長くなってしまった」

長門「すっかり夜もいい時間帯だな、提督」

提督「よし、明日は改めて遠征班を組んでみるか。出撃班は休みって事で全艦娘にシフトを伝えてくれ」

長門「相分かった。第一艦隊にして秘書艦のこの長門、用件を承った」

提督「確認事項は?」

長門「特に無し」

提督「よし、では回れ右。 駆け足はじめ!」

長門「はっ!」

30: 2014/08/03(日) 02:07:55.57 ID:vDIhFLlr0

~翌日~


長門「作戦終了だ、艦隊が帰投したぞ」

提督「うむ。 では報告を頼む」

長門「了解。 では今回の遠征班こと“お姉さんと胸熱駆逐艦隊”の結果報告だが……」

提督「だからお前が遠征行ってどうすんだっつってんだろ!!」

31: 2014/08/03(日) 02:13:54.42 ID:vDIhFLlr0

※上記のように休憩を挟みながらまったり進行で投下していきます。
 皆様のお気に入り艦娘などを気軽にレスして頂ければ、その内容を本編に取り入れていきたいものですね。
 どうぞよしなにお願いします。

37: 2014/08/03(日) 03:08:53.54 ID:vDIhFLlr0


― 2 ―


提督「そこのレベル7、本日の状況報告をとっとと話してメシ食いに行くぞ」

長門「ビッグセブンだと何度も言っているだろう、赤貧提督。
   そもそも私がレベル7から練度の上がらないのは出撃の頻度が極端に低いからであってだな」

提督「うちの艦隊に“生ける溶鉱炉”がいるもんでな。新米少佐の俺提督にはそいつを養うことで精一杯なのよ」

長門「なるほどそうか。今日もおかわりを所望のようだな」

提督「おぅ一緒にメシ食うだけなのに謎のプレッシャーやめろや」

38: 2014/08/03(日) 03:15:15.18 ID:vDIhFLlr0

~食堂~


提督「ほぅ、今日のA定食は値段の割に豪華だな」

長門「なんだ提督。大和男子たるものが、たったその程度の量で戦に向かうとは片腹痛いぞ」

提督「そのまま両腹壊してメシ控えめにしてくれるのを願って止まないわ」

長門「失敬な。今日の私はいつもより控えめに注文をしたというのに」

提督「お? もう注文したのか、早いなお前」

長門「席は私が確保しておくから、提督も早く注文を済ませてくればいい」

39: 2014/08/03(日) 03:21:50.50 ID:vDIhFLlr0

提督「A定食も捨てがたかったけれど、結局カツ丼セットにしちまった」

長門「まさか挑発に乗って食べる量を増やすとは……。
   煽られ易いのは性根ゆえに致し方ないが、作戦指揮くらいは冷静に頼みたいな」

提督「いや別にお前の原価0円の発言を気にして変えたわけじゃねぇよ。今日のカツ丼はが一切れ多いサービスやってたんだ」

長門「……なぁ、提督」

提督「なんだ神妙な顔して?」

長門「今からでも注文は変えられるだろうか? 
   もしくは増えた一切れを秘書艦への労いで受け渡す心の大きさは持ち合わせてないか?」

提督「ビッグセブンの威厳暴落待ったなしじゃねぇか」

40: 2014/08/03(日) 03:27:47.32 ID:vDIhFLlr0

間宮「お待たせしました。 カツ丼セットになります~」

提督「おっ、きたきた! 相変わらずここのご飯は五感全てを刺激する至高の品だ。
   カツを一切れサービスする太っ腹ぶりも兼ねて最高の食堂と言わざるを得ないな」

長門「提督」

提督「なんだ?」

長門「一切れ」

提督「駄目だ」

長門「くっ……半分!」

提督「駄目ったらダメ」

長門「けち!」

提督「なんとでも言え」

長門「どけち!」

提督「ふはは、効かんなぁ」

長門「甲斐性無しのバクテリア級ど貧困超新参底辺演習全敗ヘタレ提督!」

提督「お願いやめて、泣いちゃう」

41: 2014/08/03(日) 03:33:19.21 ID:vDIhFLlr0

提督「安らぐ時間の筈だろ、昼飯の時間って。なんで俺ハートにちょっとキツめの傷受けてるんだよ……」

長門「素直にカツをくれないからだ」

提督「くっそ、この業突く張りめ。 分かった分かった、一切れやるよ」

長門「本当か!?」

提督「無駄にキラキラしやがって、ほら皿よこs……」

長門「あーん」

提督「何の冗談だ?」

長門「あーん」

提督「……」

提督「……ほれ」

長門「うむ、美味いな! やはり間宮さんの作る料理はどれも絶品だ!」

提督「……」

長門「どうした? 口元押さえているが何かあったのか?」

提督「うるせぇニヤニヤしちまうだろがクソが、こっちみんな」


42: 2014/08/03(日) 03:41:37.12 ID:vDIhFLlr0

長門「しかして美味しいものを頬張ると、食欲が更に増すのは不思議だ」

提督「何てことない発言の筈なのに怖い! 不思議!」

長門「むぅ、私だって淑女なんだぞ。この提督は本当にデリカシーというものを知らないな」

提督「さっきまでカツ一切れを食べるのに必氏だった艦娘からデリカシーという単語を聞けるとはな」

長門「お、私が頼んだ料理が来た。悪いがその不毛な会話を続けるのは後にしてくれ」

提督「はいはい」

間宮「お待たせしました、こちらA定食7人前です」

長門「やはり普段より3人前も減らすと量の少なさが一目瞭然だな」

提督「A定食セットを満漢全席みたいに並べて食うヤツが、カツ一切れを必氏に懇願……腑に落ちねぇってレベルじゃねぇぞ」

長門「それはそれ、これはこれだ」

提督「そんだけの量のメシ見るだけで胸いっぱいになるわ」

長門「おいおい提督、今から人がご飯を食べるんだぞ。もんじゃを作られては流石に食欲が減退するから勘弁してくれ」

提督「デリカシーどこいったテメェ」


43: 2014/08/03(日) 03:49:37.39 ID:vDIhFLlr0



長門「ご馳走様でした」

提督「ぺろりと平らげたな」

長門「いいや、まだまだ。 むしろ今からが本番だ」

提督「ふざけんな阿呆かこれ以上何を求めてるんだよ鎮守府はノーマネー気味っつってんだろ!」

長門「まぁまぁ、そんな早口でまくし立てなくてもいいじゃないか。
   その件に関しては夏季限定のスイーツを食べながらしっかり聞かせてもらおう」

提督「しっかり聞き流す気満々じゃねぇか」

44: 2014/08/03(日) 03:54:15.04 ID:vDIhFLlr0

間宮「お待たせしました。季節限定のアイス盛り合わせです~。いつもご贔屓に有難う御座います」

長門「礼を言うのはこちらの方だな。いつも美味しい食事を提供してくれて感謝している」

提督「……いやでも、毎度の事ながらホントよく食べるよなお前」

長門「先も言ったように、腹が減っては何とやら。食えるうちに食べておくのが勝負事の鉄則だろう」

提督「お前の場合は食えない状況でも平然と食いそうだから杭を打ってるんだよ」

長門「それは食えない状況になったら考えよう」

提督「ったく、この大飯喰らいは器がでっけぇな」

長門「ふふ、褒め言葉と受け取っておこうかな」

45: 2014/08/03(日) 04:05:51.89 ID:vDIhFLlr0

長門「それに大飯喰らいというなら大和型と一航戦の面々がいるじゃないか」

提督「この鎮守府はな、そんな超強力な方々をお呼びできる状態じゃないんだよ」

長門「情けない事を言うな。 備蓄方法をもう少し検討すればきっと普通の艦隊のように運営できるさ」

提督「修復材用のバケツに間宮アイスたらふく詰めて食ってる口がそんな事を言ってくれるのか」

長門「今の調子だったらおかわりも可能だぞ」

提督「今のお財布事情を絶対お分かりになってねぇだろテメェ……」

長門「それにほら、“いっぱい食べる君が好き”という甲斐性満点のフレーズの歌もあるじゃないか」

提督「それ歌ったヤツもこの光景みたら“ほどほど食べる君が好き”って歌詞変えるわ」

46: 2014/08/03(日) 04:15:36.00 ID:vDIhFLlr0


提督「よっし、そろそろ腰を上げるか」

長門「了解した」

提督「午後から向かう1-3攻略の前祝だから奮発したんだぜ?」

長門「皆まで言わせるな。 ビッグセブンの力、侮るなよ?」

提督「頼もしい限りだ」

長門「それに風の噂で聞いた。1-3最終領域には戦艦級の深海棲艦が潜んでいるらしいと」

提督「その情報は正しい。なので1-3を突破した艦隊は基本的に戦艦を差し置いておくらしいが……」

長門「敵戦艦との殴り合いか……胸が熱いな……!」

提督「弱小提督のジャイアントキリング、お前に一任するぞ」



提督「目標、製油所地帯沿岸の突破。及び、戦艦ル級の撃沈を含む完全勝利。 武運を祈る」

長門「了解した! 戦艦、長門……出撃する!!」

47: 2014/08/03(日) 04:30:31.73 ID:vDIhFLlr0


~~


長門「作戦終了だ、艦隊が帰投したぞ!」

提督「無事で本当に何よりだ。では早速だが報告を頼む」

長門「第一艦隊、ヒトナナマルマル帰港! 海上護衛作戦の任に着くも、途中離脱!
   うずしおによる弾薬消費、及び度重なる深海棲艦との交戦により作戦続行不可と判断。今に至る。 以上だ!」

提督「長門」

長門「なんだ!? 提督っ!!」

提督「勢いで誤魔化せると思うなよ。 1-3突破までお菓子とアイスは没収、これ決定事項な」

長門「そんなっ……駆逐艦ちゃん達は関係ないだろう!?」

提督「そこで突拍子もなく駆逐艦を引き合いに出すお前の狡猾さが怖いわ!!
   これはお前だけへの特例だから気にするな。 駆逐艦への待遇は通常の3時おやつ間宮アイスで変わらない」

長門「ぬぐっ……!」

提督「なお、駆逐艦へアイスをねだるようなビッグセブンはいないと思うが、もし見かけたら禁止期間は更に延びるだろう」

長門「び、ビッグセブンの誇り、こんな所で失うわけには……っ!」

提督「顕微鏡で確認してギリギリ見えそうな細胞レベルの小ささだな、その誇り」

長門「ビッグセブンの誇りは、ありまぁす……っ!」

提督「その言い方だとあるかどうか絶妙にあやしくなってるじゃねぇか!」



※なお、この3日後に余裕で製油所地帯沿岸を突破した模様。
 レベル一桁にも関わらず敵戦艦をワンパンで沈めた艦娘がいるという都市伝説が新米少佐群に瞬く間に広まった。
 その艦娘の正体は不明だが、背中に修羅を背負いながらも一心不乱にアイスを求めていたようだ。

53: 2014/08/03(日) 20:38:15.13 ID:vDIhFLlr0


― 3 ―


提督「おい長門、本日の小言タイムだ」

長門「お手柔らかに願いたい」

提督「お前ついさっき箪笥のカドに小指ぶつけた程度でカスダメくらってたろうが! 
   アホみたいな怪我して駆逐艦4隻分の資材を使わせるなよタコ!」

長門「おいおい提督。 随分な物言いだな。誇り高きビッグセブンがそんな醜態を見せる筈ないだろう」

提督「入渠(ふろ)上がりの今のお前ほど説得力の無いものは稀だな」

54: 2014/08/03(日) 20:44:26.82 ID:vDIhFLlr0

提督「他にもあるぞ。お前に買出しを頼んだ際、どうにも出費がかさむんだよな。何に使ってる?」

長門「提督から渡された紙に書いてある通りのものだが」 フーフー…フーフー…♪

提督「誤魔化すの下手すぎるわ! せめて口笛ちゃんと吹けるようになってからその縁起をしろっての!」

長門「べ、別にお駄賃としてちょっとくらいお菓子を追加で買ってもいいだろう!?」

提督「おぅ、ちょっとくらいなら目を瞑ってやるわ! 
買出しの材料の倍くらいお菓子代に使ってるから怒ってんだよ!」

長門「で、では今後は1.5倍くらいなら許可してくれるというのか?」

提督「違うそうじゃない! 無断で買うなっつってんだよこのながもん!」

長門「そうぷりぷり怒るな、提督。 そのままだと前髪が更に後退するぞ」

提督「今すでにハゲてるみたいな言い方やめろ。もし仮にそうだとすれば原因の9割5分3厘はテメェの所為だ」

55: 2014/08/03(日) 20:49:30.33 ID:vDIhFLlr0

提督「ったく、ホントどんだけ困らせるつもりなんだよ。財政難って単語をお前の部屋の前に貼っとこうかな」

長門「男を振り回すのは私が魔性の女たる所以だからな。この性(さが)だけはどうにも変えられんよ」

提督「お前が魔性の女とかヘソで茶を沸かすところか鉄すら溶かせるわ。 
   食い意地以外のどこに魔性を感じさせるのか教えてほしいくらいだ」

長門「…………………色気?」

提督「自分で一番自信なさそうな部分に目をつけやがったな…」

56: 2014/08/03(日) 20:55:03.20 ID:vDIhFLlr0

提督「そもそも魔性の女ってんなら、色っぽいポーズの一つでもとってこの殺伐とした執務室を色鮮やかにしてほしいわ」

長門「殺伐としている原因は提督の小言にあると思うんだが」

提督「俺の小言の要因が何か言ってるが気にせんぞ」

長門「仕方が無い。 提督がそこまで望むのなら、このビッグセブン、お色気満載のポーズをとってやろうじゃないか」

提督「うわーい、全然期待できなーい」

長門「刮目せよっ!!  せりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

提督「色気を感じさせる気が微塵もない掛け声だなオイ」

57: 2014/08/03(日) 20:58:47.57 ID:vDIhFLlr0


【着任時のポーズ】



長門「……」

提督「……」

長門「……」

提督「……」

長門「……」

提督「……」



長門「どうだっ……」ドヤァ

提督「ただただ勇ましいわ。ドヤ顔できるハートの強さを含めてな」

58: 2014/08/03(日) 21:06:12.76 ID:vDIhFLlr0

長門「むぅ、では提督は私に女性としての魅力を感じないとでもいうのか?」

提督「ノーコメント。俺からの小言も終わりだ。
   そんな事より今日も買出し頼む。 ほれ、これが一覧表とお財布な」

長門「相分かった。 む? 提督、いつもより少し財布の中身が多くないか?」

提督「まぁアレだ。 無駄遣いしない程度になら買ってもいいから、買いすぎるなって事を肝に銘じておけ」

長門「て、提督ぅ……」

提督「ほれ、小言も終わりだ。 とっとと行ってこい」

長門「了解。 では早急にお菓子を買いに出かけてくるぞ!」

提督「お菓子が目的じゃねぇからな! 勘違いすんなよ!?」

長門「ふふ、提督。私は知っているぞ? それは俗に言う“フリ”というやつなんだろう? 任せておけ!」

提督「おい待て長門、フリじゃない、いやホントにフリじゃないって! ちょっ、待っ……くっそ足速えぇなチクショウ!!」

59: 2014/08/03(日) 22:01:00.58 ID:vDIhFLlr0


― 4 ―


長門「そろそろフタフタマルマルか。業務を終えたい時間帯に差し掛かってきたぞ」

提督「そうだな。今日はこの辺りで切り上げるとするか」

長門「うむ、ちょうと資料の作成も区切りがついた頃合だったのでベストタイミングだ」

提督「俺も似たようなもんだったわ。たまには早めに仕事終えるのも良いな」

長門「この時間を周って早上がりと呼ぶのか……ブラック鎮守府でこき使われるビッグセブン、まるで悲劇のヒロインだな」

提督「どんだけメシがっつり食うヒロインだよ。 しかも言わせておけばブラックだの何だのって…。
   言っておくが俺の所は割とホワイト寄りだと思うぞ」

長門「嘘つきは泥棒の始まりか。 これは提督になる前の経歴すらブラックの疑いが出てきたな」

提督「よく言ったテメェ、力士に肩を並べるような突っ張りを喰らいてぇようだな」

長門「つまり私の張り手を受ける意思があるということか、首にコルセットが巻かれるだけで済めばいいな」

提督「おぅ穏やかな声で血を流しそうな連想させるなや」

60: 2014/08/03(日) 22:05:15.60 ID:vDIhFLlr0

長門「まぁ私はここの鎮守府以外を知らないという事が大きいか。
   他の提督方がどのような業務を行なっているか分からぬ所もあるので、とりあえずブラックと言ってみただけさ」

提督「激戦区のラバウル基地で日を跨がずに業務を終えているのは俺の所だけ。そういえば分かり易いか?」

長門「……凄まじいな」

提督「他の提督に聞いてみれば、朝方まで業務を執り行って、新規任務が張り出される日の出と共に出撃している所が殆どだ」

長門「そんな情報をどこから手に入れているんだ?」

提督「俺の同期達からだよ。 元帥から少将まで階級の高い奴らばかりで、俺達の新兵時代は未だ黄金期と呼ばれている」

長門「ちなみに提督の階級はいくつだったか?」

提督「新米少佐だがなにか? てかテメェ知ってるのに言わせるんじゃねぇよ!」

長門「これほどボンクラという呼び名が相応しい人も稀有だな」

提督「泣くぞ? 俺絶対泣くぞ? すぐ泣くぞ?」

61: 2014/08/03(日) 22:09:02.39 ID:vDIhFLlr0

長門「だが他の提督方のやる気は見習うものがあるだろう」

提督「止めとけ止めとけ。艦娘たちの疲労も抜かずに酷使する輩から見習うもんなんてねぇよ」

長門「しかし出撃する機会が多いというのはそれだけ昇進に繋がるという事でもある。
   提督が立身出世する様をみるのも秘書艦の喜びかも知れんな」

提督「……そこまで言うなら、明日にでも試してみるか?」

長門「ん?」

提督「日の出と共に出撃して、デイリー任務をこなしてみるかって事だよ」

長門「ほぅ、戦場を求めるこの長門にとってこれ以上ないほどの機会だ! 是非とも試してみよう!」

62: 2014/08/03(日) 22:14:54.27 ID:vDIhFLlr0


~ 翌日 AM 11:00 ~



長門「おはよう、提督」

提督「おはよう」

長門「朝からまたえらく不景気な顔をしているな」

提督「どこぞのIQ7が早朝出撃しようと言い出したんで集合かけてみたら、肝心のそいつが寝坊したらしくてな」

長門「ほぅ、それは大変だったな。 
   まぁ“春眠暁ちゃんを覚えず”とも言うし、睡眠で体調を整えるのもきっとその艦娘の仕事だったのだろう」

提督「しかもおまけに通常業務はマルキュウマルマルからなのに2時間も寝過ごした様子でな。どうしたもんかと考えていた」

長門「きっと早朝出撃が楽しみすぎて夜更かしした結果の事だろう。
   やる気だけはあったのかも知れないと考えれるし、そう責めるものではない」

提督「ふむ、なるほどなぁ。 はっはっは」

長門「はっはっは。 ではそろそろ私は遅めの朝食をとってくるから失礼するぞ」

提督「せめて少しだけでも反省している素振りくらいくれませんか長門さん!?」

63: 2014/08/03(日) 22:21:00.70 ID:vDIhFLlr0


― 5 ―


長門「壁ドンというのが巷で流行しているらしい」

提督「へぇ、初耳だ。だが生憎俺はその壁ドンとやらを知らなくてな」

長門「なんでも気になる異性にそれを行なうと効果的だそうだ。人によっては胸の高鳴りがしばらく治まらないとか」

提督「そこまで効果抜群なのか。その行為に少し興味が出てきたわ」

長門「なんなら実践してみるか? 私も知識だけあって実際に試したことが無いんだ」

提督「上等だ。で、どうすりゃいいんだ?」

長門「えーと、確か。 おぉそうだ、提督。ちょっと部屋の壁に背をくっつけてくれ」

提督「へいへい。 これでいいか?」

長門「うむ、問題ない。 では行くぞ!」


ズドォォン!!


提督「……」

長門「これが、壁ドンだ」

提督「新技みたいな口調で言ってんじゃねぇよ。 戦艦級の深海棲艦を一撃で沈める拳が飛んでくるのが壁ドンなのか」

長門「どうだ提督、胸は高鳴っているか?」

提督「今氏ぬほど高まっているのを感じてる最中だ」

長門「ほぅ。 本当に効果があるんだな、この壁ドンとやらは」

提督「俺が今抱いている感情は間違いなく恐怖以外の何物でもないんだが」

64: 2014/08/03(日) 22:27:29.14 ID:vDIhFLlr0

提督「全く、阿呆な事でいちいち壁を壊してんじゃねぇよ」

長門「提督が見たいと言ったから見せただけなのに」

提督「せめて加減を知れと言いたいわ。常に全力とかどこの戦闘民族だよお前」

長門「むぅ、失敗か。 それによくよく思い出したら、これは男性から女性に向けての行為だった」

提督「お前のうっかりで鎮守府からまた諭吉様が飛び去っていったぞ。給料から修繕費さっぴかれても文句言うなよ」

長門「よし、提督。 次は貴方から私に向けてやってみてくれ」

提督「普通の人間はコンクリ壁に風穴を空けるような怪力なんぞ持ち合わせてないわ」

長門「いやいや。 確か相手を壁際まで追い込んでから、手の平をドンと壁について脅迫するような形が正解だった気がする」

提督「その言い分だと壁ドンはカツアゲ専用の技っぽくしか聞こえないんだが」

65: 2014/08/03(日) 22:32:16.02 ID:vDIhFLlr0

提督「まぁ業務も一段落しているし、仕方ないから付き合ってやる」

長門「よし提督ばっち来い。この長門、壁ドン如きに遅れをとるような戦艦でない事を見せてやる」

提督「はいよ、これでいいのか?」 ドン

長門「……」

提督「何だこれ。実際やってみると顔すっげぇ近くなるんだな」

長門「……」

提督「おいおいビッグセブン。 せっかくやってんだから何か感想くらい言ってくれよ」

長門「……」

提督「長門さん? おーい、長門さーん」

長門「あ、ああ、すまない。 予想以上の衝撃に驚いてしまったようだ」

提督「なんだ本当に効果覿面なのかコレ」

長門「なんだこんなものか、と」

提督「上等だ表に出ろコラ。 バット7本粉砕する提督キックをそのムチムチの足にお見舞いしてやるわ」

長門「ほぅ、義足と車椅子の準備が出来ているようで何よりだぞ」

提督「おぅ真顔で歩けなくなるようにしてやる宣言やめろや」

66: 2014/08/03(日) 22:34:02.15 ID:vDIhFLlr0

長門「全く、どこの誰だ。このような行為が胸キュンを呼び寄せるとか言い出した輩は」

提督「執務室の隅に大きめの鏡あるから見てこいやビッグセブン」

長門「む? おや、もうこんな時間か。 これから駆逐艦ちゃん達の鍛錬に付き合う予定があるので、そろそろ失礼する」

提督「業務ご苦労さん。 ただ、そのハンディカムとデジカメは置いていきなさい」

長門「おいおい提督。私のコレクションが潤う機会に水を差すのは頂けないな」

提督「さっき俺が言ったご苦労さんの言葉を返してくれ」

67: 2014/08/03(日) 22:36:37.57 ID:vDIhFLlr0

長門「では、この辺りで私は席を外そう」

提督「長門」

長門「なんだ?」

提督「お前さっきからなんで目を合わせようとしないんだよ、俺提督のハート傷ついちゃうだろうがオイ」

長門「なに、気のせいだ。さっきからどうにも不整脈でな、治ったら目くらい合わせてやるから安心してくれ」

提督「不整脈とか安心とは縁遠い単語すぎんだろ。無理すんなよ」

長門「心遣い痛み入る」

68: 2014/08/03(日) 22:38:36.59 ID:vDIhFLlr0


~執務室の外にて~



長門「……ふぅ」

長門「……」

長門「……壁ドン、か」

長門「……」

長門「……これは、アレだな」

長門「……遅効性で威力があるのか」


 電「はわわ!? 長門さん、顔が真っ赤なのです! 風邪でも引かれたのですか!?」

70: 2014/08/03(日) 23:35:59.14 ID:vDIhFLlr0


― 6 ―


提督「そういやお前さ、明日休みだよな」

長門「という事は……明日は日程的に駆逐艦ちゃん達の遠征か!?」

提督「お前を行かせるわけには断じてならんから、明日は一日基地内で待機な。これ提督命令だから」

長門「なんだ、つまらん」

提督「お前の趣味で破産しそうになっている鎮守府があるのをそろそろ学習しなさい」

71: 2014/08/03(日) 23:44:59.98 ID:vDIhFLlr0

長門「そうなると明日は読書が捗りそうな一日だな」

提督「なんだお前、読書なんてしていたのか」

長門「ああ。 だが小説ではなく、第六駆逐隊のみんなから借りた漫画の消化が殆どになる」

提督「へぇ、お前が漫画を読むのは正直以外だったわ」

長門「あまり興味は無かったんだが、可愛い子たちから薦められると断れなくてな。
   それでいざ実際に読んでみると、これがまた中々どうして面白い」

提督「あの子たちが読んでそうな漫画って、やっぱりあれか?」

長門「少女漫画だが?」

提督「題材としてロマンチックな恋がよく描かれているあの?」

長門「その系統だな」

提督「好き嫌い惚れた脹れたでヤキモキする?」

長門「その葛藤がまた良いんじゃないか」

提督「それをお前が読んでるのか?」

長門「うむ、相違ない」

提督「ぶっふぉwwwwwwwwwwww長門ちゃんがwwwwww少女漫画wwwwwwwww」

長門「おいなんだ殴り合いを所望か? よし任せろ提督」

72: 2014/08/03(日) 23:54:33.53 ID:vDIhFLlr0


提督「いやすまんかった、ギャップに思わず驚いてしまって吹き出したんだよ」

長門「驚いていたのか。それならそうと早く言ってほしいものだな」

提督「マウント取られた挙句にデンプシーロールを顔面に浴びせられてる最中、人は喋れると思うかい長門くん?」

長門「おや。 顔に傷がついたからか、男前によりいっそう箔がかかったな提督」

提督「口の中が鉄サビの味でいっぱいだよチクショウ……。
   顔真っ赤にしてくるところまで辛うじて可愛かったのに、飛び掛ってきた瞬間には夜叉かゴリラにしか見えんかったわ」

長門「わ、私が可愛く見えていた瞬間なんてあったのか!?」

提督「むしろ後半の部分を耳に入れてほしいんだが」

73: 2014/08/04(月) 00:01:14.30 ID:PHf0Pnpq0

提督「まぁでも、お前が読んでいる漫画に興味があるってのも本当だ。どういう本を借りたんだ?」

長門「私の部屋にいくつかあるんで、取ってこよう。 少し待っていてくれ」


~~


長門「待たせたな。借りている本をそれぞれ2巻まで持ってきたぞ」

提督「ほぅ、どれどれ……」

長門「私のお薦めはコレだな」


・伊8と陸奥とクローバー


提督「何これ?」

長門「通称“ハチムツ”。複雑な人間模様の中で芽生える恋がいいんだ」

提督「へ、へぇ……」

74: 2014/08/04(月) 00:05:19.87 ID:PHf0Pnpq0

提督「さっきのは微妙にツッコミどころのある漫画だった気がするわ」

長門「あとは提督だったら読みやすそうなのは、これかな」



・となりの改陸奥ちゃん


提督「あれ、デジャヴ?」

長門「入学初日から騒ぎを起こした主人公と、感情の起伏が乏しいヒロインの恋愛ものだったな」

提督「なんかそれっぽい少女漫画のタイトルは俺も見た事あるような……」

75: 2014/08/04(月) 00:12:24.43 ID:PHf0Pnpq0

長門「そして次はこれ。まぁ少女漫画っぽくはない内容なんだがな」


・陸奥目友人帳


提督「……」

長門「田舎に越してきた主人公が、そこでワンコ先生こと夕立ちゃんを筆頭にした駆逐艦たちと心交わしていくという
   なんとも心温まる物語だな。 これがまた本編に出てくる駆逐艦ちゃん達はみんな天使で可愛いんだ」

提督「……ちなみに他の漫画タイトルは?」

長門「他は確か、こんな感じだな」


・あんむつ姫
・陸奥雪ランデブー


提督「なんか知らん間にお前の姉妹艦が少女漫画のスターダムにのし上がってんぞオイ」

76: 2014/08/04(月) 00:17:59.10 ID:PHf0Pnpq0

提督「でもこれでお前が“壁ドン”なんていうワードを知っていたのか腑に落ちたわ」

長門「少女漫画でよく見る場面だったからな。私だって憧れたりもするさ」

提督「まぁ結果は散々だったけれどな」

長門「うむ、やはり提督ではアレだったようだな」

提督「アレって言うオブラートの包み方が逆にハートに突き刺さるからやめれ」

長門「まぁ何だ。また提督がやってみたいというなら、私としてはやぶさかではないぞ」

提督「え、ヤダよ。だってお前全然反応なかったもん。 
   それならまだ曙相手に壁ドンしてクソ提督呼ばわりされた方が幾分かマシだわ」

長門「……」

提督「なんで不貞腐れてんだよビッグセブン!?」

77: 2014/08/04(月) 00:22:29.57 ID:PHf0Pnpq0

長門「まぁ今は業務時間外だろう? モノは試しで一回読んでみるといい」

提督「へいへい。じゃあ2巻までくらいなら読んでみるわ。お前も適当にゴロゴロしていいぞ」

長門「許可を頂く前からすでにその姿勢に入っていた私に隙なぞ無かった」

提督「ちょっとウチの秘書艦は自由すぎるんじゃなかろうか……」



~ 一時間後 ~



提督「おい、長門」

長門「なんだ?」

提督「まぁ何だ、その」

長門「どうした、歯切れが悪いな?」

提督「……」



提督「……ハチムツの続き貸してくれ」

83: 2014/08/07(木) 00:25:40.13 ID:3rgX+8Ne0


― 7 ―


長門「今日は久々に非番か。空は快晴、海も穏やか。休息を取るには絶好の日和だな」

長門「だがいざ休みの日になると、どう時間を潰していいか分からないのは困ったものだ」

長門「提督でも誘ってみようかと思えば、何やら呼び出しを受けて遠出してしまったようだし」

長門「さて、どうするか」

長門「む? あの前方に見えるのは……暁ちゃんと響ちゃん?」

84: 2014/08/07(木) 00:35:29.39 ID:3rgX+8Ne0

 暁「あ、長門おねえさん!」

 響「おはよう、長門さん」

長門「おはよう。二人とも今日も可愛いな。 ……そうか、第一艦隊の皆々は全員休みだったな」

 暁「そうよ。だから第六駆逐隊の皆で一緒にお買い物に行きましょうって約束してたの!」

 響「どこぞの長女が寝坊した結果、私達は少し遅れて現地に赴くんだけどね」

 暁「れ、レディが寝坊するわけないでしょう!? ちょーっと身支度に準備がかかっただけなの!」

 響「ん、今気付いたけれど右の髪がハネてる。 暁、寝ぐせは治さなかったのかい?」

 暁「うそ、ヤダー!? もーぅ、もっと早く起こしてくれたらセットに時間とれたのにぃー!」

 響「……やれやれ」

長門「ふふ、相変わらず仲が良さそうで何よりだ」

85: 2014/08/07(木) 00:40:19.61 ID:3rgX+8Ne0


 響「ところで、長門さんは何をしていたんだい?」

長門「今日は何をしようかと考えていた。まぁ多分このまま鍛錬と昼寝で日がな一日を過ごすだろうな」

 暁「え? じゃあ一日ずっと鎮守府にいるの?」

長門「そういう事になる。 おっと、それよりいいのか? 私なんかと話し込んでは折角の休みが勿体無いぞ」

 響「……暁」

 暁「……うん! ねぇ、長門おねえさん」

長門「どうした?」

 暁「今日はね、暁たちと一緒に過ごさない? きっとすっごーく楽しいわよ!」

 響「うん、そうしよう。きっとそれがいい」

長門「え、でも、いや、私は」

 響「まぁ無理にとは言わないさ。 でも、私達は貴方と一緒に遊びたいんだ。
   それはきっと雷や電だって同じ気持ちだろう」

長門「……いいのか?」

 暁「勿論よ! 一人前のレディは遊びの誘い方すらエレガントなんだからっ♪」

87: 2014/08/07(木) 00:45:47.66 ID:3rgX+8Ne0

長門「ふふ、淑やかなレディ方からのお誘い感謝する。ではお言葉に甘えさせてもらおうか」

 響「ハラショー。 こちらこそ快諾感謝する」

 暁「やったぁ! 私、一度長門おねえさんと遊んでみたかったの! 
   ……も、もちろんレディとして更に磨きをかけるために勉強させてもらうためにね!」

長門「では済まないが、忘れ物をしてきたので少しだけ時間をくれないか?
   電ちゃん達を待たせているのに申し訳ない限りだが」

 響「構わないさ。 どうせ長女が寝坊して遅くなるだろう、と事前に伝えてある」

 暁「なんで私が寝坊するの前提なのよーっ!?」

長門「では財布を取りに行ってくる。数分だけ待っていてくれ」

 暁「はーい。レディはちゃんと待てるし」

 響「了解。 ゆっくりでいいよ」

88: 2014/08/07(木) 00:50:52.34 ID:3rgX+8Ne0

【長門の部屋】



長門「……」

長門「……」

長門「……」

長門「……」

長門「……」






< かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁわいいいぃぃぃぃいぃぃぃぃぃぃいいッッッ!!







 暁「な、なに轟音!? 鎮守府が振動で揺れてるぅっ!?」

 響「て、敵襲!?」

89: 2014/08/07(木) 00:57:23.65 ID:3rgX+8Ne0


~ 集合場所にて ~



 雷「もぅ、やっぱりお寝坊さんだったじゃない!」

 響「今日が楽しみすぎて昨晩は夜更かしだったんだ、仕方ないさ」

 暁「ちょっと響! なんで夜更かししてたの知ってるのよ!?」

 電「でも空き時間が出来たおかげで、美味しいクレープのお店を知れたのです♪」

 雷「そうそう! 電と一緒に歩いてて、すっごい良い所を見つけたの! 後でもう一度行きましょ!」

 電「賛成なのです!」

 雷「……あれ? 長門お姉ちゃん!? お姉ちゃんも買い物に来たの!?」

長門「あ、いや、私は……」

 響「私達と今日は一緒に遊んでくれるそうだ」

 電「え! 本当なのですか!? はわわ、う、嬉しいのです!」

 暁「ふふん、長門おねえさんを誘ったのは暁よ」

 雷「なるほど、お姉ちゃんを誘っていて遅くなったのね! もぅ、それならそうと早く言ってくれるといいのに~」

 響「いや、遅れたのは紛れもなく暁のねぼ……むぐっ」

 暁(しぃ~っ! このまま誤魔化せそうなんだから静かにしててよぅ!)


長門(天使が四人もいる。 なんだ、ただの楽園じゃないか)

90: 2014/08/07(木) 01:04:20.71 ID:3rgX+8Ne0

長門「みんなで楽しんでいるなか恐縮だが、私も混ぜてもらえるか?」

 雷「もちろんよ! 私とお姉ちゃんの仲じゃない!」

 電「いつも旗艦のお勤めお疲れ様なのです。 
   こうして横に並ぶときは戦場ばかりでゆっくりお話できなかったら、今日はいっぱいお喋りしたいのです」

 響「長門さんがいてくれるのは凄く新鮮だな。 いい休日になりそうだ」

 暁「おねえさん、レディの嗜みを色々教えてね!」

長門「ああ、勿論だとも」


 響「……鼻血、でてるよ?」

長門「うむ、失敬」

91: 2014/08/07(木) 01:16:47.93 ID:3rgX+8Ne0

長門「よし、今日は私の奢りだ。 みんなで存分に羽を伸ばそう」

 響「いやいや、流石にそれは悪いよ。 誘ったのはこっちなんだ」

長門「何を遠慮することがある? 誘ってくれて嬉しかったんだ。少しくらい気持ちを出させてくれ。
   それにいくら鎮守府が赤貧だとはいえ、腐ってもこのビッグセブン、秘書艦としての蓄えは充分にあるつもりだ」

 雷「なんだか頼もしい発言ね。 じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかなっ」

92: 2014/08/07(木) 01:20:27.44 ID:3rgX+8Ne0

長門「それにほら、これを見てみろ」

 電「はわわ、胸の谷間から物を取り出す仕草がセクシーなのです!」

 暁「お、大人の女性っぽい仕草だわ……」

長門「ふふ、そんなに褒めるんじゃあない」

 電「ちなみにそれは何なのですか?」

長門「全てのダメージが提督の懐へ向かうダメコンを搭載している、ちょっとした魔法のカードさ」

 雷「長門お姉ちゃんって魔法使いだったの!?」

長門「ああ、これで皆に沢山お菓子を買ってあげようじゃないか!」

 響「ハラショー……こいつはテンション上がるのを禁じえない」

93: 2014/08/07(木) 01:24:19.68 ID:3rgX+8Ne0

~ 夕刻 ~


 響「ん、もうこんな時間か」

 雷「そろそろ鎮守府に帰る頃合ね」

 暁「いっぱいお洋服を買ってもらっちゃった。ありがとう、おねえちゃん!」

長門「そんなに喜んでもらえると私としても嬉しい限りだよ」

 電「また一緒に遊びましょう! 次は電おすすめの雑貨店に行きたいのです」

長門「ああ、勿論。 この長門、次の機会を楽しみにしておこう。
   私は少し寄り道をするのでここで解散か。 みんな気をつけて帰るようにな」

 雷「はーい。 じゃあお姉ちゃん、また夕食のときに会おうねー!」

 電「なのです!」

 響「スパシーバ。今日はありがとう……おねえちゃん」

 暁「ありがと! お礼はちゃんと言えるし」

長門「うむ、こちらこそ。 本当に良い休日だった。 楽しかったよ、有難う」

94: 2014/08/07(木) 01:27:31.04 ID:3rgX+8Ne0


~ 数日後 ~


提督「よぅ電ちゃん。今日もかわいいな」

 電「お疲れ様です、提督。 ……あの、その手に持っているのは軍刀ですか?」

提督「ん? 違う違う、そんな物騒なものを電ちゃんの前で翳すわけないだろう。 
   これは軍刀に限りなく近いレプリカのような要素を持ち合わせている、鋭い切れ味だけが持ち味のサムシングさ」

 電「軍刀をオブラートに包みすぎてボンタン飴みたいになっているのです……」

提督「ちなみに、今朝から探しているんだけれど秘書艦のビッグ穀潰しセブンを見ていないかい?」

 電「長門お姉ちゃんですか? そういえば提督宛に手紙を預かっているのです」

提督「お手柄だな。では早速見せてくれ」

 電「確かこの茶封筒だったかな……?」

提督「どれどれ……」




提督へ


    めんご。 しばらく遠征に行ってきます。

                          長門




提督「ぬぅぅぅぅぅぅぅわぁぁぁぁぁぁぁぁがぁぁぁぁぁぁとおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」

102: 2014/08/07(木) 01:57:55.11 ID:3rgX+8Ne0

【集計】 ※恐縮ですが数字のレスを抜粋させてもらいました

燃料:30
弾薬:30
鋼材:600
赤城:200



【建造結果】

?? 「特型駆逐艦“○”よ。って、こっち見んな!このクソ提督!」

103: 2014/08/07(木) 02:03:11.88 ID:3rgX+8Ne0

またしても駆逐艦をお招きできるとは……長門の胸が熱くなるな……。

もうすぐMI作戦が始まるので浮き足立つ今日この頃。各提督群は資源備蓄の最終段階に入っているかと思われます。
遠征からの帰港を待つ際にこのスレを見ながら時間つぶしでもして頂けると幸いですね。
今宵はこの辺りで失礼致します。


【艦これ】ボンクラ提督とぽんこつ系ビッグセブン【後編】

引用: 【艦これ】ボンクラ提督とぽんこつ系ビッグセブン