876: 2010/07/28(水) 01:39:14.99 ID:wPNkblw0
とある日、打ち止めに誘われて黄泉川先生の家にお邪魔した。
今日は特売もないし、家に残してきた居候が少し気懸かりだが打ち止めとゲームして遊ぶことにする。
「それでね、あの人ったらね……」
「へぇ、あいつも随分丸くなったもんだなー」
ゲームをしながら一方通行のことを話す打ち止めの表情は本当に楽しそうだ。
一方通行もなんだかんだいって打ち止めに優しくしてやっているらしい。
そんな二人の微笑ましい関係に頬を緩めていると、携帯電話に着信があった。御坂からだ。
「悪い、電話だ、ちょっと待っててくれるか?」
そう言って部屋の外に出て干されている布団の傍の手すりに手をかけながら電話に出る。
体重をかけたからか布団が少しだけ揺れた。
「どうした御坂?」
「あんた、今どこにいるの?」
「んー、黄泉川先生の家で打ち止めと一緒にゲームしてる」
「そう……その打ち止めのことなんだけど」
877: 2010/07/28(水) 01:41:04.38 ID:wPNkblw0
御坂の話によると、最近打ち止めの様子が何かおかしいらしい。
「この間一方通行と打ち止めに会ったんだけど……」
手すりに寄りかかりながら話の続きを聞いてみる。
風に吹かれ隣の布団が少し揺れている。
「一方通行と話す時の打ち止めの行動が変なのよ」
一方通行と御坂が話しているとじっと黙って御坂のことを見ていたり、話を途中で遮って無理矢理別れようとするらしい。
「はは、子供らしい嫉妬心ってやつか?」
そう笑ってみるが、それ以降打ち止めが一人で御坂のことを見てることが多くなり、話しかけようとしても逃げていってしまうらしい。
夕日に照らされて布団が紅く染まっている。
「恨まれたのかも知れねえな……ま、上条さんがなんとか説得してみますよ」
そう言い電話を切った。打ち止めもまだ精神が幼いため子供さながらの独占欲があるのだろうと苦笑する。
ふと隣に干されている掛け布団が気になった。
なんだか、妙に一部分膨らんでいる。シーツカバーも開きかけだ。
「何だ?それに、もう夕暮れ前のこんな時間にまだ干してるなんて……取り込んであげましょうかね」
何故だか非常に気になって、俺はシーツカバーのチャックに手をかけてそれを開けてみた。
そして、次の瞬間、頭から思考というものが吹っ飛び何も考えられなくなっていた。
878: 2010/07/28(水) 01:41:47.33 ID:wPNkblw0
布団の中には、首を切られて冷たくなった黄泉川先生が、入っていた。
879: 2010/07/28(水) 01:43:06.14 ID:wPNkblw0
「!!!!????」
俺は我に返ったが、目の前の出来事に一瞬でパニックになっていた。何故?いつから?誰が?このことを打ち止めは?
「ねー?もう電話終わったんでしょ?ゲームしようよーってミサカはミサカは急かしてみる」
心臓が口から飛び出そうになった。打ち止めには教えられない。犯人を捜す前に、このことを誰かに教えないと。
「な、なぁ、打ち止め、他に人はいるか?」
「うー?わかんないけどヨシカワは多分いると思うよってミサカはミサカは推測してみる」
「そ、そうか。悪いけど大事な話があるからゲームはまた今度な」
「ええー、そんなこと言わずに座ってよ。それにミサカも大事な話があるんだってミサカはミサカはお願いしてみる」
「す、すまんが本当に大事な話なん」
「いいから座って!!!」
880: 2010/07/28(水) 01:44:31.16 ID:wPNkblw0
打ち止めの体から俺に向かって電撃が迸る。俺は呆気にとられ、そして無理矢理打ち止めに座らされた。
打ち止めは後ろに立ったままだ。
「最近あの人が冷たい気がするんだよ、今日も一緒にゲームしてくれないし、ってミサカはミサカは寂しそうに呟いてみる」
寂しそうにというが打ち止めはいつも通りの明るい声で話している。
打ち止めは後ろに立ったままだ。
「それに前より他の人とたくさん話すようになったんだよ、お姉様とか、ヨミカワとか……不機嫌そうな顔はいつもと一緒だけど嬉しそうなのがわかるんだってミサカはミサカはあの人のことをいつも見ていることを吐露してみる」
打ち止めは変わらずいつも通りの明るい声で話している。
打ち止めは後ろに立ったままだ。
「この頃は貴方のことを良くミサカに話してるよ、三下とか偽善者とか言ってるけど、仲が良いのは知ってるんだよってミサカはミサカはあの人のことなら何でもお見通しなのを自慢してみる」
突然打ち止めの声質が変わる。
それは打ち止めにまるで似つかわしくない、絶望した大人の女性のような暗い声だった。
打ち止めは後ろに立ったままだ。
「ミサカはあの人のことが一番なんだよ、あの人が一番好きなんだよ、誰よりも、何よりも…………ねえ」
881: 2010/07/28(水) 01:45:56.37 ID:wPNkblw0
ガタン!とリビングのほうで物音がたったのと俺が打ち止めの部屋から飛び出したのはほぼ同時だった。
見るとリビングでは一方通行と芳川さんが取っ組み合っている。
「……限界だ、俺は身を隠す、俺はもっと早くに、この家から離れるべきだった、アイツから離れるべきだった!」
「何言ってるの?!あなたがあの子のことをちゃんと見て、ちゃんと話し合う以外もう方法は無いわ!」
「ちゃンと見ていた!話もしてやった!それでもあのガキはそンなアソビをやめねェだろォが!」
開け放たれた別の部屋には、妹達の一人が虚ろな目をして椅子に座っていた。
その姿はいつもの常盤台の制服ではなく、真っ白い服で、髪は白く染められて、髪型はまるで誰かのような…………
ぺたぺたと打ち止めの部屋から聞こえてきた足音に耐え切れず俺はこの家から飛び出した
882: 2010/07/28(水) 01:47:58.79 ID:wPNkblw0
「お待ち下さい、とミサカはあなたの右腕を掴みます」
黄泉川先生の家を出て走り出して数十秒、俺は唐突に腕を掴まれて止められた。
「!?御坂妹…………か?」
「あなたの言う御坂妹とは別のミサカです、とミサカは認識を訂正させます。何かあったのですか?とミサカは尋ねます」
妹達の冷静な声に幾分落ち着きを取り戻した俺は、この状況でどうすべきかを息を整えながら考えた。
どうでもいいが掴まれたままの右腕が痛い。
「ああ…少し大変なことに巻き込まれてな……携帯は……く、さっきの打ち止めの電撃で壊れているのか?……なぁ悪いけど携帯を貸してくれないか?」
「それは出来ません、とミサカは首を振ります」
「持ってないのか……」
妹達の返事に項垂れる俺。
掴まれたままの右腕がそろそろ痺れてきたので放してもらおうと声をかけようとしたら妹達はポケットをまさぐって携帯を取り出した。
「いいえ、持っています、とミサカは携帯を見せます」
「え?じゃあなんで」
883: 2010/07/28(水) 01:48:56.89 ID:wPNkblw0
「上位個体から命令が出ています、ミサカについてきてもらえますか、とミサカは言いながらスタンガンに持ち替えます」
俺はスタンガンを避け右腕を掴む手を強引に振りほどきその場から逃げ出した。
884: 2010/07/28(水) 01:51:16.29 ID:wPNkblw0
完全下校時刻もとうに過ぎたが、俺を追ってくる妹達から逃げ続けた俺はまだ学園都市をさ迷っていた。
他の妹達も俺のことを探しているようで、その目から逃れるように歩き続ける。
もう奴らは俺の知ってる妹達じゃない。打ち止めに操られた俺を探索するためだけの人形だ。
(くそっ……なんとか家に帰らねえと……インデックスのやつ、怒ってるだろうな、はは)
ふと目を向けると遠目に黄泉川先生の家が見える。当たり前だがそこに近付く気は今の俺には無かった。
身を隠せるほどの大きな生垣の前で体を休めていると、聞き覚えのある声が生垣の反対側、向こうから聞こえてきた。
今最も会いたくない、最も危険であろう少女の声が。
俺を全神経を鋭敏にし、身を屈めて生垣の陰から様子を伺った。
夜空の中のそれは、馬鹿げた悪夢のような光景だった。
打ち止めが散歩している。犬のリードのようなものを持って。一方通行がそれについていっている。
リードが続く首輪を着け、何も纏わず、四つん這いで。
打ち止めはまるで会話が成り立っているように一方通行に話し掛け続ける。
一方通行は聞こえているのかいないのか返事をせず、ただただ打ち止めの後をついていく。
首輪の他に唯一着けられているチョーカーが月光を反射する白すぎる肌と対照的で、やけに目立って俺の目に映っていた。
(落ち着け!打ち止め達はこちらに向かってきている!物音を立てずに反対側から回り込めば入れ違いになってかわせる!)
俺は急いで生垣の反対側の陰に身を潜め、屈んだ体勢のまま向こう側からあいつ達が現れる瞬間回りこめるよう時を待つ。
(まだかまだかまだかまだかまだかまだかまだかまだかまだかまだかまだかまだかまだかまだかまだかまだか)
885: 2010/07/28(水) 01:52:39.29 ID:wPNkblw0
目の前に現れた四つん這いの一方通行と目が合った。暗闇の中爛々と輝く、紅い目と。
「一方通行?何かあったの?とミサカはミサカ……」
俺は大声をあげながら後ろに振り返り全速力で走り続けた。
886: 2010/07/28(水) 01:56:05.66 ID:wPNkblw0
「とうまー、朝だよー」
「ぁぁぁあああっ!……はぁっ、はぁっ……!」
「どうしたのとうま!?顔が怖いんだよ……?」
「……………………?」
「ほんとうにどうしたの?とうま」
「……なんて夢を見てるんですか……上条さんは」
大きく溜め息をつき、飛び起きた上体を後ろに傾け倒れこむ。ゴチンと痛い音がしたがそれすらも心に宿った安堵にかき消される。
「あー……打ち止めに謝りたい気分だ、あと一方通行や黄泉川先生にも」
あははと乾いた笑い声をあげて天井を見上げる。いつも見慣れた自分の家であることは間違いない。
「もー、笑ってないで朝ごはん作ってよ、とうま!」
「はいはい、今から作りますよっと」
そう言いながら脱力した体に力を入れ勢いづけて体を起こす。
俺が右腕に残るあざと壊れた携帯に気付くのと、一方通行と打ち止め、妹達が消えたことを知るのはもう少し後のことだった。
887: 2010/07/28(水) 01:56:59.06 ID:wPNkblw0
以上です。矛盾や無理のある展開、ヘタレな上条さん一方さんは夢のためですあしからず。
これで安心して眠れる。それにしても右腕が痛くて書き込みにくい。携帯も壊れるし、不幸だ……。
これで安心して眠れる。それにしても右腕が痛くて書き込みにくい。携帯も壊れるし、不幸だ……。
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