1: 2013/02/27(水) 02:03:51.50 ID:6G6TZ9d70
まいた世界 深夜

翠星石「真紅ぅ 何か眠れないですぅ」

真紅「あら… ではこれを貸してあげるわ」

翠星石「どんぐりと山猫?」

真紅「それでも読んでおやすみなさい」

翠星石「ええー! 真紅が読んでぇ!」

真紅「ええ… もう… 仕方がないわね…」

翠星石「…」どきどき…

4: 2013/02/27(水) 02:07:10.85 ID:6G6TZ9d70
おかしな葉書が、ある土曜日の夕方、翠星石の家に来ました

すいせいせきさま 九月十九日

あなたは、ごきげんよろしいほで、けっこです
あした、めんどなさいばんしますから、おいでんなさい
とびどぐもたないでくなさい

山猫 拝

5: 2013/02/27(水) 02:12:46.95 ID:6G6TZ9d70
こんなのです 

字はまるで下手で、墨もガサガサして指に付く位でした

でも翠星石は嬉しくて嬉しくてたまりませんでした
葉書をそっと鞄にしまって家中飛んだり跳ねたりしました

翠星石「山猫から手紙が来たんですぅ!」

真紅「ふぅん…?どんな…?」

翠星石「こんなんですぅ!」

真紅「あら…」

翠星石「きっとこーんな…ニャア!って顔した山猫ですよー」

6: 2013/02/27(水) 02:16:37.58 ID:6G6TZ9d70
でも翌朝目が覚めるともうとっくに朝でした

翠星石「あわわ… 遅刻遅刻ですぅ!」

表に出てみると周りの山は
皆たった今出来たばかりみたいで
真っ青な空の下に並んでいました

翠星石は谷川に沿った小道を上の方へ登って行きました

7: 2013/02/27(水) 02:21:18.74 ID:6G6TZ9d70
透き通った風がざあっと吹くと、栗の木はばらばらと実を落としました
翠星石は栗の木を見上げて聞いてみました

翠星石「栗の木さん 栗の木さん 山猫がここを通りませんでした?」

栗の木「山猫なら今朝早く、馬車で東の方へ飛んで行きましたよー」

翠星石「東なら翠星石の行く方ですねえ おかしいですぅ
とにかくもっと行ってみましょう 栗の木さんありがとうですぅ!」

8: 2013/02/27(水) 02:27:35.59 ID:6G6TZ9d70
もう少し行きますと、滝に着きました
滝では金糸雀がバイオリンを弾いていました

翠星石「金糸雀ー 山猫がここを通りませんでしたか?」

金糸雀「んー? もうちょっと大きな声で言ってほしいかしら―!」

翠星石「えーと やまねこがぁ」

金糸雀「んー!」

翠星石「とおりませんでしたかぁー!」

9: 2013/02/27(水) 02:29:20.47 ID:6G6TZ9d70
金糸雀「あー! 山猫かしらー!」

翠星石「そーですよぉ!」

金糸雀「山猫ならさっき馬車で西の方へ飛んで行ったかしらー!」

翠星石「おっかしいですぅ 西は私の家ですのにー
けどまあもう少し行ってみるですよ!

ありがとー 金糸雀ぅー!」

11: 2013/02/27(水) 02:34:33.48 ID:6G6TZ9d70
もう少し行きますと、一本のぶなの木の下で
蒼星石が眠っていました

翠星石「ねえねえ 蒼星石ー」

蒼星石「ん…? ああ君か… どうしたの 
こんなとこで…」

翠星石「あのー 山猫がここを通りませんでしたか?」

蒼星石「山猫?そう言えば通ったな 今朝早く南の方へ…」

翠星石「南?そりゃあっちの山の方ですぅ
おっかしいなーですう

まあもう少し行ってみますか 
ありがとー 蒼星石ぃー!」

13: 2013/02/27(水) 02:39:35.11 ID:6G6TZ9d70
深い森の中を進んで行きました
すると急に開けた所に出ました

翠星石「わあー… 一面金色の原っぱですぅ…
こんなとこがあったのですねえ…  あれ?」

すると、その草地の真ん中に雛苺がいたのです

雛苺は手に革鞭を持って、黙ってこっちを見ていたのです

翠星石「ありゃ? チビチビじゃありませんかー」

雛苺「うゆー 翠星石きたのー」

14: 2013/02/27(水) 02:43:28.88 ID:6G6TZ9d70
翠星石「? なーんかおっかしいですぅ
まあいいやですぅ

ねえ、チビチビは山猫知りませんか?」

すると雛苺はニヤッと笑って言いました

雛苺「山猫さまは今すぐに、ここに戻ってくるのー」

15: 2013/02/27(水) 02:47:12.89 ID:6G6TZ9d70
翠星石はびっくりして言いました

翠星石「ありゃりゃ? って事は翠星石を呼び出したのは…」

すると雛苺はますますニコニコしてしまいました

雛苺「翠星石は手紙見て来てくれたの?」

翠星石「ほよ? 見ましたよ それで来たんですぅ」

16: 2013/02/27(水) 02:51:19.07 ID:6G6TZ9d70
雛苺「でも… あの手紙の字は、きっととっても下手だったのー…」

雛苺は下を向いて悲しそうに言いました
翠星石は気の毒になったので、

翠星石「さあ… 中々文章が上手いようでしたよ?」

と言いますと、雛苺はとても喜んで、
苺大福を取り出して言いました

雛苺「翠星石にうにゅーあげるのー!」

17: 2013/02/27(水) 02:56:17.42 ID:6G6TZ9d70
うにゅーを食べていますと、雛苺はまた聞いてきました

雛苺「ねえ翠星石ぃ あの字もなかなか上手かったのー?」

翠星石は思わず笑いながら、返事しました

翠星石「そりゃー上手かったですよー!五年生だってあの位には
書けないですぅー!」

すると雛苺は、急にまた暗い顔をしました

雛苺「五年生って言うのは、小学校五年なのー…
翠星石は… ひっく… ヒナをバカにしてるの…」

18: 2013/02/27(水) 03:01:56.12 ID:6G6TZ9d70
その声があんまり可哀想でしたので、翠星石はあわてて言いました

翠星石「いいえ、大学校の五年生ですよー!」

すると雛苺はまたとても喜んで
苺大福を沢山取り出して言いました

雛苺「翠星石に好きなだけあげるの!二人で半分こなのー!」

翠星石「えっ?良いのです?こんなに沢山…」

雛苺「うん!翠星石は特別なのー!
実はね あの葉書はヒナが書いたのよ!」

翠星石はおかしいのをこらえて言いました

翠星石「それで…チビチビは山猫をどうして知っているのですか?」

19: 2013/02/27(水) 03:11:04.50 ID:6G6TZ9d70
雛苺「ヒナはね 山猫さまの馬車別当なの」

その時風がどうっと吹いて
振り返るとそこに水銀燈が立っていました

翠星石「あ…!」

翠星石はびっくりして動けなくなってしまいました
ところが水銀燈はくすりと笑って
おじぎをしましたので
翠星石も丁寧に挨拶してみました

翠星石「こんにちは水銀燈 
山猫って水銀燈の事だったのですか…?」

20: 2013/02/27(水) 03:21:07.54 ID:6G6TZ9d70
水銀燈「こんにちは翠星石… そうね…山猫で水銀燈なのよ…」くす

水銀燈はドレスをぱたぱた
はたいて言いました

水銀燈「今日はよく来てくれたわね まあお掛けなさいな」

水銀燈が木の根っこに腰掛けたので
翠星石も適当な根っこに掛けました

水銀燈「実は一昨日から面倒な争いがあってね… はぁ
ちょっと裁判に困ったから
貴女の考えを聞きたいと思ったのよ…」

翠星石「ふゆ? さいばん? 面倒な争いって何の事です?」

水銀燈「まあ直にどんぐり達が来るでしょう
どうも毎年この裁判には困ってしまうのよねぇ…」はぁ…

21: 2013/02/27(水) 03:28:33.82 ID:6G6TZ9d70
水銀燈は懐からハイライトを取り出して
自分が一本取って言いました

水銀燈「いかが?」

翠星石はびっくりして

翠星石「け けっこですぅ!」

すると水銀燈はふっと笑って

水銀燈「ふぅん まだ若いから?」

と言いながら、マッチをしゅっと擦って
ちりちり火をつけました
青い煙がすうっと上がりました

雛苺は少し離れたところでしゃんと立っていましたが
いかにも煙草の欲しいのを無理にこらえているらしく
涙をぽろぽろこぼしました

23: 2013/02/27(水) 03:35:23.44 ID:6G6TZ9d70
その時翠星石は、足元でぱちぱち
塩のはぜるような音を聞きました

翠星石「ふえ?! あっあわわー…すごい沢山
どんぐりですぅー!」

水銀燈「来たみたいね… ベルを鳴らしなさい
今日はそのあたりが日当たりが良いわ
雛苺 草を刈りなさい」

水銀燈は煙草を消して大急ぎで言いました
雛苺もあわてて鎌でそのへんの草を刈りました

するとそこへ四方の草の中から
どんぐりがきらきら光って飛び出してきました
皆わあわあ何か言っています

24: 2013/02/27(水) 03:42:53.19 ID:6G6TZ9d70
今度は雛苺が鈴をがらんがらん鳴らしました
どんぐり達は少し静かになりました

水銀燈「はぁ… 裁判ももう今日で三日目よ
いい加減に仲直りをしたらどうなの?」

水銀燈が少し心配そうに言いますと
どんぐりどもは口々に叫びました

どんぐり「いえいえ!だめです!なんたって
頭のとがっているのが一番偉いんです
そして私が一番とがっています!」

すると別のどんぐりも言いました

どんぐり「いいえ違います!
丸いのが偉いのです!一番丸いのは私です!」

するとなぜか蒼星石も混ざっていて言いました

蒼星石「大きなことだと思うけど… この中では
僕が一番大きいから僕が一番偉いよ」

25: 2013/02/27(水) 03:48:47.18 ID:6G6TZ9d70
翠星石「ええー…いやいや…」

すると金糸雀もいつの間にか紛れ込んでいて言いました

金糸雀「そうじゃないかしら!
カナの方がよっぽど大きいって、昨日水銀燈が言ったかしらー!」

翠星石「ちょ…金糸雀まで何やって… ってありゃ?」

真紅「お話にならないわ 一番背が高いのは私ですもの」

雪華綺晶「あら…なんならアリスゲームをして決めましょうか…
お姉さま方…」

もう皆わやわやわやわや
何が何だか訳が分からなくなりました

26: 2013/02/27(水) 03:51:59.36 ID:6G6TZ9d70
そこで水銀燈が怒って言いました

水銀燈「やかましいわね ここをどこだと思っているの?
静まりなさい」

雛苺「静かにするのー!」

雛苺が鞭をひゅうぱちっ
と鳴らしましたので、どんぐりとかは
やっと静まりました

27: 2013/02/27(水) 03:56:48.22 ID:6G6TZ9d70
水銀燈は「はぁ」とため息をついて言いました

水銀燈「裁判ももう今日で三日目よ
いい加減に仲直りしたらどう?」

するともう
どんぐりとかが口々に言いました

どんぐり「いえいえ、だめです!なんたって頭のとがってるのが」

蒼星石「じゃあ僕は帽子をかぶっているけれどこれは」

金糸雀「違うかしら!カナはハートの飾りを付けてるかしら!」

真紅「どうでもいいわ そんな事」

雪華綺晶「だからアリスゲームで決めましょうと」

28: 2013/02/27(水) 04:00:58.21 ID:6G6TZ9d70
水銀燈「だまりなさいやかましい!
ここをなんと思っているの?静まりなさい!」

雛苺が鞭をひゅうぱちっと鳴らしました
水銀燈は「はぁ」とため息をついて言いました

水銀燈「裁判も今日でもう三日目よ
いい加減仲直りしたらどう?」

どんぐり「いえいえだめです!とにかくとがってるのが!」

真紅「雛苺!紅茶を持ってきて頂戴!こんなことではお話にならないわ!」

水銀燈「ばか真紅!だまりなさい!」

29: 2013/02/27(水) 04:05:54.71 ID:6G6TZ9d70
雛苺がひゅうぱちっ
と鞭を鳴らし、ようやく静かになりました

水銀燈は翠星石にそっと言いました

水銀燈「この通りよ どうしたらいいのかしらね…はぁ」

翠星石は笑って言いました

翠星石「それならこう言ってやればいいですよ!
この中で一番めちゃくちゃで、楽器も下手でハサミもさびてて、
バカでまるでアリスに相応しくないのが… 

一番偉いんですぅ!」

30: 2013/02/27(水) 04:09:36.05 ID:6G6TZ9d70
水銀燈は成程と言う風に聞いていましたが
それからドレスのよれを正して言いました

水銀燈「よろしいわ 静かにしなさい 
申し渡しよ

この中で一番偉くなくて、真紅みたいにバカで、
てんでなってないようなのが――

一番偉いのよ」

31: 2013/02/27(水) 04:17:35.21 ID:6G6TZ9d70
するとどんぐりも、蒼星石も金糸雀も真紅も雪華綺晶も
みんなしいんとしてしまいました

それはそれはしいんとして、まるで元のどんぐりと人形に戻ったみたいでした

水銀燈はやっと安心して「はぁ」とため息をつきました
雛苺もよろこんでなのーなのーとか言いました

水銀燈は手袋を取って
翠星石に握手して言いました

水銀燈「どうもありがとう 翠星石
これ程のひどい裁判をまるで一分半で片付けてくれたのだから

どうかこれから私の裁判所の
名誉判事になって貰えないかしら

これからも、葉書が行ったら、どうか来てほしいのよ
そのたびにお礼はするわ」

34: 2013/02/27(水) 04:23:25.64 ID:6G6TZ9d70
翠星石「もちろんですよー!お礼なんかいらんですよ」

水銀燈「いいえ お礼はどうか受け取っておいて
私の人格に関わるし…

これからは、葉書に翠星石殿と書いて、
こちらを水銀燈と書くけれど、良いかしらね」

翠星石「いいですよ」

水銀燈「それから――
その後は一緒にお茶でもいかが…
と書いてもいいかしら…」

37: 2013/02/27(水) 04:33:57.23 ID:6G6TZ9d70
水銀燈はどこか気まずそうに言いました
でも翠星石は笑って答えました

翠星石「もちろんですよー!」

水銀燈は一瞬とてもうれしそうな顔をしました
けれどもすぐに元に戻って言いました

水銀燈「さ 今日のお礼をしないとね
貴女、金のどんぐりと、お酒とどっちが好きなの?」

翠星石「金のどんぐりが好きですよ」

水銀燈「お酒はまだ飲まないの 
飲めるようになったら…沢山良いワインがあるのよ
また一緒に飲みましょう」くす

雛苺がその辺のどんぐりを升にいれて渡してくれました

水銀燈のドレスが風でバタバタ言いました

水銀燈「じゃあ馬車の支度をしなさい」

39: 2013/02/27(水) 04:40:23.84 ID:6G6TZ9d70
ひゅうぱちっ

馬車は野山を飛んで行きました
木も山も空も、すごい勢いで流れていきます

翠星石はうとうとして、何時の間にか眠っていました――

41: 2013/02/27(水) 04:42:24.88 ID:6G6TZ9d70
******

真紅「一郎は自分の家の前に
どんぐりを入れた升を持って立っていました

それから… あら ふふ…」

翠星石「くぅ…」

真紅「おやすみなさい 翠星石 おしまいだわ」

33: 2013/02/27(水) 04:23:06.88 ID:vewqmNrx0
宮沢賢治か

40: 2013/02/27(水) 04:42:09.75 ID:jZBnoo2k0
よだかの星のほうが好き

42: 2013/02/27(水) 04:50:40.98 ID:0tFFDYpP0
>>40
よだかもいいね
俺は雪渡りが一番好きかな

いちおつおつ

引用: 翠星石「どんぐりと山猫」