2: 2012/04/12(木) 19:40:27.15 ID:VCi+u6E/0

翡翠「志貴さま、起床のお時間です」

志貴「ん…」

翡翠「秋葉さまもリビングでお待ちですよ」

志貴「…ああ、もう起きるよ」


まだ重い瞼を擦りながら上半身を起こして枕元に置いてある眼鏡をかける。


翡翠「おはようございます」

志貴「うん、おはよう。毎日ありがとうな」

翡翠「いえ、そんな…これが私の仕事ですので…」


頬を赤らめながらそう言って俯いてしまった。

今の会話の中で赤面するような内容が含まれていただろうか?

6: 2012/04/12(木) 19:43:26.46 ID:VCi+u6E/0
時計の針は午前7時を指している。こんなに気持ち良く朝を迎えられるようになってどれくらい経つだろう。

毎日翡翠の優しい声で目を覚ますことが平穏な1日の始まりのような気がして、以前のような眠りに就くことへの不安などなくなっていた。


翡翠「朝食の準備も出来ていますので、私は食堂でお待ちしています」

志貴「わかった。じゃあすぐに行くから」

翡翠「はい、では失礼いたします」

翡翠は丁寧にお辞儀をしてから部屋を出て行く。

俺はいつも通り制服に袖を通して食堂に向かった。

7: 2012/04/12(木) 19:46:21.33 ID:VCi+u6E/0
居間に着くと奥の食堂で朝食をテーブルに並べている琥珀さんと、既に朝食が済んだのか居間のソファで紅茶を飲んでいる秋葉がいた。

志貴「2人ともおはよう」

琥珀「あら志貴さん、おはようございます」

秋葉「おはようございます、兄さん」

志貴「秋葉は今日も早起きだな」

秋葉「これくらい普通です。兄さんが遅すぎるだけではないですか?いつまでも子供ではないのですから少しは遠野家の人間だと言う意識を持ってもらわないと困ります」

志貴「わかったわかった。ごめんな」

余計なこと言わなきゃ良かったな。なんでいつもこうなるんだろうか。

確かに早起き出来ない俺が悪いのは認めるけど何もここまで言わなくても…。

10: 2012/04/12(木) 19:49:21.82 ID:VCi+u6E/0
琥珀「志貴さ~ん、早く食べないとご飯が冷めちゃいますよ~」

志貴「あっ、今行くよ」

琥珀さんに呼ばれて秋葉から逃げるように食堂へと足を運ぶ。

食堂で待っていた翡翠は俺が現れると会釈をした。なんて甲斐甲斐しいんだろう。


志貴「ありがとう、助かったよ」

琥珀「いえいえ、どういたしまして。でも秋葉さまも悪気があるわけじゃないですからね。ただ志貴さんと一緒に朝ご飯を食べたくて拗ねてるだけですから」


親父が氏んでから俺が帰ってくるまでは寂しく一人で食事していたのだろう。まだまだ可愛らしいところもあるんだな。


琥珀(志貴さんのことだからきっと何か勘違いをしているんでしょうね~)

12: 2012/04/12(木) 19:52:15.06 ID:VCi+u6E/0
志貴「ごちそうさま、今日も美味かったよ」

琥珀「お粗末さまでした」


朝食を終えた頃に秋葉が近づいてきて俺を一瞥してから不思議そうに尋ねてきた。


秋葉「ところで…何故兄さんは制服を着ているのですか?」


は?こいつは何を言ってるんだろう?

……まさか今日は休日なのか?いや、部屋でカレンダーを見たが確実に平日だ。それに秋葉だって制服を着ている。


志貴「何故って…学校に行くからだけど…」


何かおかしな世界に入り込んでしまったのかと思い恐る恐る言ってみる。

『はぁ』

俺以外の3人が同時に溜息を吐いた。とりあえず俺には全く意味が分からない。

16: 2012/04/12(木) 19:55:19.89 ID:VCi+u6E/0
秋葉「兄さんの学校…今日は創立記念日では?」

志貴「あっ…そういえば」

秋葉「酷いとは思っていましたがそこまで兄さんが抜けているとは」

翡翠「志貴さまを愚鈍です」

琥珀「あはっ、毎日学校に行きたくなるくらい志貴さん好みのえOちな女の子のクラスメイトがいるんですね~」


さっきも言ったが何でここまで言われなきゃならんのだ。

それから琥珀さん、そういうのはやめてください。秋葉の眉間に皺が寄ってるから。


志貴「いや、ちょっと寝惚けてて。じゃあ俺は部屋に戻るから!」

そう言ってダッシュで部屋へ逃げた。きっと俺の顔は恥ずかしさで真っ赤になっていただろう。

しかし創立記念日を忘れているとは…我ながら呆けているなあとは思う。

19: 2012/04/12(木) 19:58:41.68 ID:VCi+u6E/0
部屋に戻ってみたものの、娯楽のないこの屋敷ではすることがない。寝転がって読書をするくらいが関の山だ。

ふと時計を見ると午前10時過ぎになっていた。このままのんびりと今日一日を過ごすのも悪くない。

『コンコン』

すると控えめなノックの音がした。これは翡翠の音だ。

翡翠「志貴さま、よろしいですか?」

志貴「うん、入っていいよ」

翡翠「失礼いたします」


翡翠はいつものようにお辞儀をしてから部屋に入ってくる。


志貴「どうかした?」

翡翠「お部屋の掃除をしたいのですが」

志貴「そっか、そんな時間か。俺も何か手伝おうか?」

翡翠「いえ、志貴さまにそのようなことをして頂くわけには…」


言われると思っていた。何故ならこういうやり取りは初めてではないからだ。

24: 2012/04/12(木) 20:02:03.41 ID:VCi+u6E/0

志貴「でも、毎日毎日1人じゃ大変だろ。俺の部屋なんだし休みの日くらい手伝うよ」

翡翠「朝も申し上げましたが、これが私の仕事ですので」

志貴「…そっか、じゃあ少し出てるな」

翡翠「はい…申し訳ありません」


翡翠が非常に困った顔をしていたので渋々廊下に出ることにした。

暇潰しに手伝いたかったんだけど翡翠には悪いことしたな。

さて、どこで時間を潰そうか…。

2人とも仕事中だし秋葉は学校に行ったので話し相手もいない。

とりあえず何をするわけでもなく1階に下りることにした。

29: 2012/04/12(木) 20:05:55.69 ID:VCi+u6E/0
『ピンポーン』


俺が居間に入ろうとすると呼び鈴が鳴った。


琥珀「翡翠ちゃ~ん、ちょっと手が離せないから出てくれる~?」


食堂の方から琥珀さんの声がした。しかし翡翠は俺の部屋で掃除中だ。この無駄に広い屋敷ではきっと聞えてないだろう。


志貴「翡翠は掃除中だから俺が出るよ」

琥珀「すいません、志貴さんでしたか。ではお言葉に甘えてお願いしますね」

志貴「ああ、気にしないでいいよ」


さて、出るとは言ったものの誰が来たのだろうか?

遠野家関係の人物が訪れた場合は俺では話にならない気がする。

しかし玄関を出て正門へ行くとそこには見知った人が立っていた。

34: 2012/04/12(木) 20:09:26.30 ID:VCi+u6E/0
シエル「おはようございます、遠野君」

志貴「先輩…どうしたの?わざわざ休みの日に来るなんて」

シエル「休みの日だから来たんですよ。何かおかしいですか?」


先輩は不思議そうに首を傾げていた。

そう言われればそうだ。学校が休みなので親しい学校の先輩が遊びに来た。

しかしそれ自体はおかしくはないがシエル先輩が家に来る事なんてほとんどない。

とりあえず居間に案内してソファに向かい合って腰掛ける。


シエル「あっ、お邪魔してます」

琥珀「あら~、シエルさんいらっしゃいませ。今お飲み物を持って行きますね」


客が中へ入ってきた事に気付き、ひょっこり顔を覗かせて嬉しそうにしている琥珀さん。


志貴「………」


何を話せばいいんだろう。普段は何気ない会話を楽しんでいるが…いざ家に来られても少し対処に戸惑う。

37: 2012/04/12(木) 20:13:09.55 ID:VCi+u6E/0
シエル「いつもに増して無口ですね、遠野君は。家ではいつもこうなんですか?」

志貴「いや、そういうわけじゃないんだけど。何を話せばいいのかなって…」

シエル「何ですかそれは。別にいつも学校で話してる通りでいいんじゃないですか?あんまり意識しないで下さい」


とは言われてもシエル先輩が家にいることがいつも通りじゃないわけで…。


琥珀「は~い、おいしい紅茶が入りましたよ~。変な薬なんて入ってないですからね、ふふふ…」


思いっきり怪しい台詞を吐きながら琥珀さんがティーセットを乗せたお盆を持って来た。

テーブルに用意されたカップは4つ。琥珀さんと翡翠の分だろう。

琥珀さんは鼻歌を歌いながら上機嫌でカップに紅茶を注いでいる。


シエル「突然お邪魔しちゃってすいませんでした」

琥珀「あら、いいんですよ。シエルさんが来るような気はしてましたから」


琥珀さんはそう言いながら俺の隣に腰掛ける。仕事は終ってるんだろうか?

39: 2012/04/12(木) 20:16:24.88 ID:VCi+u6E/0
志貴「え?なんでシエル先輩が来ると思ってたの?」

琥珀「相変わらず志貴さんはニブチンですね~。この私の推理力を侮らないで下さいよ~」


ちっちっちっ、と芝居じみた素振りをしている。誰がニブチンか!


シエル「まぁ私も行くなら今日だって思ってましたけど…」

志貴「………」


またニブチンだとか言われるのも癪なので黙って考えてみた。

普段シエル先輩は家には来ない。それは何故か?それは過去に用事があって家まで来たときに殺伐とした空気が生まれたからだ。

何度か来たがその度にだ。そんな空気が生まれる原因は先輩と秋葉の仲が悪……。

それだ!今日俺たちは創立記念日と言う理由で休みなんだから秋葉は学校に行ってて不在。それを見計らって来たのか。


シエル「どうも秋葉さんとは反りが合わないんですよね。まぁ私は我慢できる程度なんですけど…」


ちょっと先輩、琥珀さんの前でなんてことを。

41: 2012/04/12(木) 20:19:03.75 ID:VCi+u6E/0
琥珀「あはっ、そうですよね~。合わない人とは地球が砕け散っても合わないですからしょうがないですよ」


一片の曇りもない笑顔で楽しそうに話している。

琥珀さんって秋葉付きだよな…しかも屋敷の当主でもある秋葉と反りが合わないって言われてるのに…やっぱりこの人は何を考えてるのかよく分からない。


『トントントン』


誰かが階段を降りてくる音がした。と言っても今まで2階にいたのは翡翠だけなのだが…


翡翠「志貴さま、お部屋の掃除が終りました」


居間のドアを開けるとそう告げてきた。


翡翠「シエルさま、いらしていたのですか。お出迎えできなくて申し訳ありません」


先輩がいることに気付いて深々とお辞儀をする翡翠。

42: 2012/04/12(木) 20:23:27.53 ID:VCi+u6E/0
俺は翡翠のことを本当にメイドの鏡だと思っている。

他のメイドを知らないだけでこれが当たり前のことなのかも知れないが、琥珀さんと比べればこれ以上ないくらい立派だ。

見比べるかのようにチラッと琥珀さんに目をやると「あはっ」と笑みを零す。

こういう明るい所はもの凄く好きなんだが…如何せん謎が多すぎる。


シエル「翡翠さんも一緒にどうですか?この紅茶すごい美味しいですよ」

琥珀「そうそう、シエルさんもこう言ってるし翡翠ちゃんも一緒にお話しましょ。カップまで用意したんだから」

翡翠「シエルさま、姉さん…ですが…」


翡翠は俺に対して困ったように視線を向けてきた。

なんだか俺が翡翠に対して厳しいみたいじゃないか。そんなことはないぞ。

44: 2012/04/12(木) 20:26:28.88 ID:VCi+u6E/0
志貴「たまにはいいんじゃないか?今は口うるさい秋葉もいないことだし」

琥珀「あはっ、秋葉さまの前で言って欲しい台詞ですね~。っとと、翡翠ちゃんはここがいいわよね」


そう言って琥珀さんはそそくさとシエル先輩の隣に移動している。

翡翠は俺付きだから俺の隣が絵面的に俺の隣が良いということだろう。


翡翠「ね、姉さん…何を言って…」

琥珀「いいからいいから。早く座らないとお姉ちゃんが戻っちゃうよ?」

翡翠「…では志貴さま、失礼いたします」


頬を赤らめ恥ずかしそうに俯いたまま俺の隣にちょこんと座る翡翠。

先輩はムッとした表情を浮かべているがどうしたんだろう?

45: 2012/04/12(木) 20:30:16.44 ID:VCi+u6E/0
少し腹が減ってきたと思い時計を見ると12時を回っていた。

琥珀「あらあら、つい話し込んじゃいましたね~。お昼の準備をしないと。シエルさんも食べていって下さいね」

シエル「?あ、はい。じゃあお言葉に甘えて」

その言葉を聞き3人はほぼ同時に声を上げた。

琥珀「えっと、カレーじゃないけど平気ですよね?」

志貴「琥珀さん、今日カレーなの?」

翡翠「今日のお昼はカレーですか…」


………まあ無理もないよな。

シエル先輩といえばカレー。カレーといえばシエル先輩だ。

46: 2012/04/12(木) 20:33:30.29 ID:VCi+u6E/0
シエル「な、なんですかそれは!私だって別にカレーしか食べないわけじゃありません!」


食事がテーブルに並ぶと確かにカレーではなかった。そして先輩は美味しそうに食べている。

それにしてもカレー以外を食べてる先輩を見るのは久しぶりだ。

前まで学校に持ってくるお弁当は普通の料理だったのだが、最近になって吹っ切れたのかカレー弁当を持ってくる始末である。


シエル「ごちそうさまでした。美味しかったです」

琥珀「いえいえ、お粗末さまでした。シエルさんの食べっぷりも見事でしたよ~」

志貴「メシアンに先輩が行くと臨時休業になることがあるくらいだからな」

シエル「と、遠野君…恥ずかしいのでそういうことは言わないで下さい」


食事が終り全員揃ってソファで寛いでバカ話の最中だ。

こういう休日の過ごし方も悪くないな。友人が家に遊びに来るなんて俺には珍しいことだし。

49: 2012/04/12(木) 20:38:24.35 ID:VCi+u6E/0
シエル「さて、そろそろ私は失礼しますね」


そう言って先輩が立ち上がる。


志貴「もう帰るの?まだ秋葉が帰ってくるまで時間あるのに」

シエル「セブン…じゃなくて、馬…でもなくて、えっと…。そうそう、家の猫もお腹を空かせてると思うので」


一瞬だけ馬って単語が聞えたがきっと気のせいだろう。

そういえば猫を飼ってるとか前にも言ってたな。でも先輩の家で猫なんて見た事ないんだよな。

キッチンに置いてあってカレーの材料だと思ってた大量のニンジンも猫のエサとか言ってたのに…

っていうかニンジンを食べる猫ってのは如何なものだろう…

50: 2012/04/12(木) 20:43:53.27 ID:VCi+u6E/0
志貴「俺が見送りするから二人はいいよ。仕事もあるだろうし」

翡翠「え、あ、その、すいません」

琥珀「あはっ、じゃあお願いしちゃいますね。ふふふ…今度お礼にた~っぷりサービスしてあげますよ~」


知らない人が聞いたら色々と楽しくも艶っぽい想像するだろう。

しかし俺からしてみればサービスとか言って怪しい注射を2本くらい打たれかねないので心配になる。


志貴「じゃあ先輩、気をつけて。また明日学校で」

シエル「はい、突然押しかけてすいませんでした」


笑顔でそう言うと踵を返して帰っていく。俺は先輩が門を出るまで背中を見送っていた。

ふむ、突然だったけど楽しかったな。先輩が来なかったらもっと退屈な休日だったろう。

そんな事を考えながら居間に戻っていった。

52: 2012/04/12(木) 20:47:25.20 ID:VCi+u6E/0
居間に戻るとソファには誰もいなくなっていた。二人とも仕事に戻ったのだろう。


『カチャカチャ』


琥珀「ア~ニメじゃない♪ア~ニメじゃない♪本当のこ~とさ~♪」


いや、残念ながらアニメですよ。

物音と声から察するに琥珀さんは歌いながら上機嫌で皿洗いをしてるようだ。

もっと違う曲はチョイス出来ないんだろうか。

翡翠の姿は見えないが屋敷内の掃除をしてるんだろうな。

時計を見るとまだ2時半過ぎ。することもないし部屋に戻ってゴロゴロするとしよう。

53: 2012/04/12(木) 20:50:45.55 ID:VCi+u6E/0
志貴「うーん、なんか腹が膨れると眠くなる…」


ベッドに寝転がって思い切り伸びをする。開けられた窓からは心地良い風が入ってきていて本当に眠ってしまいそうだ。


『タンッ』


着地音のようなものは窓の辺りから聞えた。しかし眠気もピークまで来ているので空耳ということにして眠るつもりだったのだが…


アルク「志ー貴ー。遊ぼうよー」


いつも通り窓からやってきたそいつは俺の上に飛び乗ってきた。


志貴「ぐはっ!つっ、…このバカ!早く降りろ!」

アルク「む、バカってなによ。それからそんなに苦しがるほど私は重くないと思うけど?」

志貴「わ、わかった…俺が悪かったよ。全然重くないけどとりあえず降りてくれ、アルクェイド」

アルク「はいはい。全く、志貴は大袈裟なんだから」


俺を跨ぐように足をどけてベッドに座りなおすアルクェイド。

そして何やら部屋の匂いを嗅いでいる。なにか匂うようなものがあっただろうか?

55: 2012/04/12(木) 20:54:49.28 ID:VCi+u6E/0
志貴「いくらお前が重くなくっても窓のところから飛び乗られたら苦しいに決まってるだろ」


ふん、とアルクェイドはそっぽ向いている。

相変わらず子供っぽくてとてもじゃないけど真祖の姫とは思えない。


志貴「まあいいか。ところで何で俺がいるってわかったんだ?今日は平日だってのに」

アルク「…そう言われればそうね。何でこの時間に志貴がいるの?」


こいつが何を言ってるのか丸っきりわからない。


志貴「いや、今日は創立記念日で休みだから」

アルク「そっかー。いつもはいない時間なのにどうしているのかなって思ってたんだよね」


えへへ~、とアルクェイドは嬉しそうに笑っている。

こういうときのこいつは本当に可愛いと思う。元が良いもんだから尚更だ。

56: 2012/04/12(木) 20:57:56.78 ID:VCi+u6E/0
志貴「…?いつもはいない時間って知ってるのにどうして来たんだ?」

アルク「私は結構来てるよ?どうせ来たって志貴がいないからすぐに帰っちゃうんだけどね」


いや、本当に意味がわからない。


志貴「いないのがわかってて何しに来てるんだよ?」

アルク「ほら、志貴って貧血で早退したりするでしょ。だからいる日もあるかなーって」

志貴「そんなことの為に?」

アルク「だって…少しでも志貴と一緒にいたいじゃない。でも学校に行くと怒られるから…」


しゅん、として元気なく俯いて上目遣いで俺を見ている。

ああもうなんだってこいつはこんな顔をしてこんなことを言うんだろう。

昼間じゃなく夜中だったら間違いなく我慢できなくて押し倒してしまっている。

57: 2012/04/12(木) 21:01:05.85 ID:VCi+u6E/0
志貴「そうか、寂しい思いさせてごめんな…」


邪な気持ちを落ち着けてから優しくアルクェイドの肩を抱いてやると何の抵抗もなく体を預けてきた。

その後は何をするわけでもない。いつもの俺たちの過ごし方だった。

2人してベッドの上でゴロゴロと寝転がり他愛もない話をしてイチャつく。

端から見ればバカップルそのものだろうな…。でも俺はアルクェイドとそうして過ごす時間が好きだった。


アルク「くんくん…くんかくんか」


アルクェイドが俺の匂いを嗅いでいる…昨日まではネコっぽいと思っていたが今日からは犬になったんだろうか。


志貴「どうした?今日は特に汗もかいてない筈だけど」

アルク「来た時に言いそびれたけどさ、今日シエルと一緒にいたでしょ?」

志貴「な、何言ってんだよ!今日は学校だって休みなんだから先輩に会うわけないだろ?」


驚いてつい口調が強くなる。そして何故か嘘まで吐いてしまった。

これじゃあ嘘を吐いてますよってバレバレだな…。

58: 2012/04/12(木) 21:05:31.52 ID:VCi+u6E/0
アルク「埋葬機関…っていうか教会の人間は聖水やら何やらの匂いが残るのよ。まぁ普通の人間では気付かない程度だけど」

志貴「そ、そうなのか」


そんなこと言ってカレーの匂いじゃないのか?

カレーの匂いってのはシエル先輩の匂いって意味ではなく、そのまま食べ物のカレーのことだ。


アルク「シエルや他の代行者と散々追いかけっこしてた私が気付かないとでも思う?」


アルクェイドは明らかに不機嫌な顔をしている…と言うか完全に怒っている顔だ。

もう言い逃れも出来なそうなので俺は素直に謝ることにした。

目が金色になってからでは手遅れである。


志貴「その…ごめん。午前中から先輩が遊びに来てた」

アルク「初めから素直に言えばいいのに。志貴が下手な嘘なんて吐くからイラついちゃったわよ」


志貴は顔に出やすいんだからと付け加えると、アルクはベッドから降りて窓のほうへ歩いていく。

59: 2012/04/12(木) 21:09:03.40 ID:VCi+u6E/0
志貴「ちょ、ちょっと待ってくれよ!お前なんか誤解してるぞ!別に何もなかったんだからな!」

アルク「別に誤解なんてしてないってば。だから心配しないで大丈夫だよ」

志貴「怒って帰ろうとしてるんじゃないのか?」

アルク「そんなんじゃないってば。そろそろ帰らないと妹が帰ってきたりメイドに見つかったりしそうだからね。確かにシエルといたってのは少し気に入らないけど」


少し拗ねて唇を尖らせている。確かに怒ってはいないような感じだ。


志貴「ははは、まぁそう言うなって。別にデートとかしてたわけじゃないんだし」

アルク「ふーん、じゃあ今度シエルが来たときは私も呼んでよね?」


はい?じょ、冗談じゃない!何が悲しくてアルクェイドとシエル先輩を対面させなきゃならないんだ!



60: 2012/04/12(木) 21:13:10.42 ID:VCi+u6E/0
アルク「志貴~、私も遊びに来たよ~」

シエル「なっ、アルクェイド?貴女いったい何しに来やがったんですか?」

アルク「うっさいな~。シエルには関係ないでしょ」


そう言いながらアルクェイドは俺の腕に抱きついてくる。


シエル「こ、このバケ猫…遠野君から離れなさい…」


先輩は冷静を装ってはいるがかなり熱くなっていて今にも飛び掛りそうだ。


アルク「べ~だ!絶対に離れないもんね~。誰がバカシエルの言う事なんて聞くもんですか」

シエル「そうですか。ならば無理やりにでも離れさせてあげましょう」


そして先輩はファイティングポーズをとって大きく踏み込む。

ドゴォ!という凄まじい音と共に先輩の右ストレートがアルクェイドの顔面にめり込んだ。

61: 2012/04/12(木) 21:15:56.59 ID:VCi+u6E/0
と思ったらアルクェイドの右ストレートも先輩の顔面に入っていた。

お互いに渾身のカウンター…恐ろしい光景だ。


シエル「つぅ…この…」


殴られた箇所を押さえて顔をしかめる先輩。

それに対してアルクェイドは涙目になって頬を膨らましている。間違いなく俺に縋り付く為の嘘泣きだ。


アルク「志貴~、デカ尻シエルが苛めるよ~」

シエル「なっ、デカ……このあーぱー吸血鬼!貴女だってしっかり私を殴りやがったじゃないですか!」

アルク「む~、誰があーぱーなのよ!バ~カ、バ~カ。シエルバカ~、シエルメガネ~、シエルインド~」

シエル「インドは関係ありません!!」


……間違いなくこうなる。

62: 2012/04/12(木) 21:19:13.36 ID:VCi+u6E/0
アルク「何よ。なんか呼べないわけでもあるわけ?」

志貴「い、いや、そんなことないぞ。機会があったら呼ぶからな」


この先そんな機会がないことを願っている。


アルク「じゃあそろそろ帰るわね」

志貴「ああ、気をつけろよな」

アルク「気をつけるって…何を?」

志貴「えっと…誰にも見つからないように」

アルク「わかってるわよ。じゃあバイバーイ」


笑顔で軽く手を振ると窓から木の枝に飛び移って帰っていった。

気をつけろってのは本当は帰り道の話だったんだけどな。

しかしアルクェイドが何に気を付けなければならないのか…もし襲われでもしたなら気を付けなければならないのは襲った奴のほうだ。

63: 2012/04/12(木) 21:22:20.38 ID:VCi+u6E/0
暫く部屋でボーっとしていて時計を見ると午後5時半を過ぎていた。そろそろ秋葉が帰ってくる頃だ。

前までは生徒会などでもう少し遅かったのだが、最近になって急いで帰ってくるようになったらしい。

「志貴さんの為に急いでるんですよ。憎いですね~、このこの~」と琥珀さんが言っていたが秋葉の帰宅時間と俺に何の関係があるんだろう?

むしろ秋葉よりも俺のほうが遅く帰ってきて怒られる機会が増えたような気がする。

耳を澄ましているとキィっと正門の開く音がした。どうやら秋葉が帰って来たようだ。

そうだ、たまには出迎えてやるとしよう。

急いで部屋を出て玄関に行くと既に琥珀さんが出迎えの準備をしていた。

64: 2012/04/12(木) 21:25:20.35 ID:VCi+u6E/0
琥珀「あら志貴さん。どうしたんですか?」

志貴「いや、たまには出迎えてやろうかなってさ」

琥珀「それは秋葉さまも喜んでくれるでしょうね~」

志貴「だといいんだけどね」

琥珀「じゃあ志貴さんにお任せしますね。その方が秋葉さまも嬉しいでしょうし、私は夕食を作ってる途中ですので」

志貴「うん、わかったよ。任せといて」


そして琥珀さんがいなくなるのを見計らっていたかのように玄関のドアが開いた。


志貴「おかえり、秋葉」

秋葉「ええ、ただいま。……って、なっ、なんで兄さんが?」

志貴「たまにはいいと思ってな。もしかして嫌だったか?」

秋葉「そ、そんなことありません。わざわざ私の為に兄さんが…嬉しいに決まっています」


秋葉は少し俯いて耳まで真っ赤にしている。いつもこうなら可愛い奴なんだけど。

67: 2012/04/12(木) 21:28:50.66 ID:VCi+u6E/0
志貴「そんなに喜んでもらえて俺も嬉しいよ。なんなら鞄も部屋まで持ってやろうか?」

秋葉「い、いえ!そんな事までして頂かなくても結構です。出迎えてもらえただけでも胸がいっぱいになるくらい嬉しいですから」

志貴「胸がいっぱいになって少しは大きくなればいいんだけどな。あははは!」


まぁなんて言うか…つい口が滑って本音が出たというか。俺自身も秋葉の反応に照れてしまって照れ隠しの為に冗談っぽく言ったというか。


秋葉「兄さん…それはどういう意味でしょうか?」

志貴「え、えっと…その、別に深い意味は…」

秋葉「そうですか。それが遺言でよろしいのですね?」


右手を振りかざした秋葉の髪は見る見るうちに紅く染まっていく。

殺される、殺される

きっと間違いなく殺される

他の誰にでもなく

他の何にでもなく

俺は、秋葉に、殺される

68: 2012/04/12(木) 21:31:51.56 ID:VCi+u6E/0
志貴「ば、馬鹿。せめてもう少し気の利いた遺言を残させてくれ。…っていうかゴメン!許してくれ!」


妹相手に情けないとも思ったが両手を合わせて必氏に頭を下げてみる。秋葉にだって良心はあるだろう。


秋葉「何でも謝って済むのでしたら警察はいりませんよ」


いやいや、お前が今からやろうとしてることも警察沙汰だぞ。

とか考えてる場合じゃない。何とか切り抜けないと…

別に秋葉に殺されるのが嫌なんじゃない。胸が小さいのをバカにしたのが原因で氏ぬってのが情けなくて嫌なんだ。



琥珀「志貴さ~ん、秋葉さま~。夕食の準備が出来ましたよ~」


か、神の声が聞こえた!いま間違いなく食堂から神の声が聞こえた。

俺を救う為にちょっぴり怪しい割烹着の神様が降臨してくれたのだ。

69: 2012/04/12(木) 21:35:05.61 ID:VCi+u6E/0
志貴「わかったよー!。すぐに行くからー!」

志貴「ほ、ほら、琥珀さんが呼んでるから行こう。冷めないうちに食べないと悪いしさ」

秋葉「兄さん、命拾いしましたね。次はありませんよ?全てを略奪してさしあげますからね」


薄ら笑いを浮かべながら恐ろしい言葉を残して秋葉は2階へ行った。たぶん鞄を置いて着替えてくるんだろう。

俺は安堵の溜息を漏らしながら一足先に食堂へ向かった。


志貴「ありがとう、琥珀さん。また助けてもらっちゃったね」

琥珀「ダメですよ~、ナイチチとか言ったら。秋葉さまだって気にしてるんですから」


いや、そこまでハッキリとは言ってない。


志貴「ついうっかりね。これからは気をつけるよ」

琥珀「はい、そうして下さい。屋敷内で殺人なんて起きたら処理が面倒ですからね~」


面倒とかそういう問題だろうか?

多分氏んだら遺体は遠野家地下王国に隠蔽されるんだろうな…

70: 2012/04/12(木) 21:38:54.90 ID:VCi+u6E/0
席につくと壁際に立っている翡翠が目に留まった。


志貴「翡翠はもう夕食は食べたのか?」

翡翠「いえ、志貴さまと秋葉さまの食事が済みましたら姉さんと頂きます」

志貴「そうか、いつもすまないな。本当は一緒に食べたいんだけど」

翡翠「い、いえ、そのようなことは気になさらないで下さい…」


困った顔をして俯いてしまった。少し琥珀さんの気楽さを分けてあげたいところだ。


琥珀「一緒に食べるわけにはいきませんよ。志貴さんたちのには特別な薬が入ってますからね」

志貴「薬って…毒とかじゃないだろうね」

琥珀「いやですね~、きっとただのビタミン剤ですよ」


…この人には翡翠の爪の垢を煎じて100杯くらい飲んでもらいたいものだ。

そうこう言ってるうちに秋葉が下りてきて夕食になった。

71: 2012/04/12(木) 21:41:45.94 ID:VCi+u6E/0
まぁいつも通り会話のない静かな食事で俺が食器の音を立てたときだけ「兄さん」と言われながら睨まれる。

何て言うか飯ってのはもっとこう…賑やかに食った方が絶対に美味いと思うんだよな。

少なくとも俺は学校で飯を食うときは有彦やシエル先輩と賑やかに楽しく食ってるぞ。



夕食が終って居間のソファで横になってると秋葉と翡翠が俺の元へ来た。


秋葉「兄さん、少しだらしないですよ」

志貴「人間ってのは腹がいっぱいになるとだらしなくなるんだよ」

秋葉「またそういう訳のわからないことを」


秋葉も少し生真面目過ぎだよな。まぁ育った環境が環境だからしょうがないんだろうけど。

72: 2012/04/12(木) 21:44:42.98 ID:VCi+u6E/0
翡翠「志貴さま、お風呂はどうなさいますか?」

志貴「うーん、後ではいるから今はいいや」

翡翠「そうですか。では脱衣所に着替えの用意をしておきます」

志貴「ありがと。でも今じゃなくていいよ。翡翠もゆっくり休みなって」

翡翠「あ、は、はい。ありがとうございます…」


こんな事を言ったら「翡翠には随分と優しいのですね」と秋葉に言われてしまった。別にそういうわけじゃないんだけどな。


琥珀「あらあら、私を除け者にして皆さんで悪巧みですか?」

志貴「琥珀さんじゃないんだからそんなことしないよ」

琥珀「そんな…志貴さんってば酷いです」


よよよ…、と琥珀さんは泣き崩れる真似をしている。

食器の片付けが終ったので居間に来たようだ。

73: 2012/04/12(木) 21:48:03.10 ID:VCi+u6E/0
『ピンポーン』


呼び鈴が鳴った。時計を見ると午後7時近くだ。こんな時間に誰が来たんだろう?


琥珀「あら、こんな時間にお客様ですかね~。ちょっと行ってきます」


琥珀さんはパタパタと小走りして居間を出ていった。

すぐに戻ってくると俺の客だと言っている。


琥珀「可愛らしい女の子で元クラスメイトって言ってますよ。志貴さんも隅に置けませんね~」

志貴「元クラスメイト?」

琥珀「はい。玄関までお通ししましたので」


ふと周りを見ると秋葉がすごい形相で睨んでいる。翡翠もどこか冷たい目で俺を見ていた。

でも琥珀さんは楽しそうな顔だ。何を期待してるのやら…


志貴「えっと…じゃあちょっと行ってくる」

75: 2012/04/12(木) 21:49:39.77 ID:VCi+u6E/0
その場から逃げるように玄関へと足を急がせる。

こんな時間に俺を訪ねてくる元クラスメイト。

元クラスメイトということは昔の同級生もしくは学校を辞めた人ということになる。

何となく思い当たる人物は1人いた。

しかし彼女が俺の家を訪ねてくるなんてありえるだろうか?

俺の知る限りでは一度だってない。

それに彼女は……。

76: 2012/04/12(木) 21:54:34.67 ID:VCi+u6E/0
ここから話は1時間ほど前に遡る。俺がそこにいたわけじゃないのに俺が説明してる事にはツッコミを入れないでくれ。

こうする他に説明のしようがないのだ。せめてもの対処として人から聞かされたことのように語ろう。

街の路地裏で2人の少女が話をしていたらしい。


シオン「さつき、その髪型はどうしたのですか?」


彼女はいつも髪を2つに縛っているのだが今日は髪をほどいてストレートにしていた。


さつき「あっ、シオン。えっとね…思い切ってこれから遠野君に会いに行こうかなって…」

シオン「志貴にですか。それと髪型に何の関係があるのでしょう?」

さつき「ほら、いつもの髪型だと子供っぽく見られそうだから…」

シオン「なるほど。それくらいのことでも印象とは変わるものなのですね」

さつき「うん、そういうこと。じゃあちょっと行ってくるね」


彼女は期待に胸を膨らませて路地裏を後にしたそうだ。

これから訪れる残酷な運命など知らずに。


シオン「しかしアレでは印象というよりも…。やめておきましょう。そうだとしてもそれがさつきの選んだことなのですから」

80: 2012/04/12(木) 21:59:30.21 ID:VCi+u6E/0
『ピンポーン』

普通なら玄関でチャイムを押すがこの屋敷では正門のチャイムだ。

ガチャッと玄関のドアが開き割烹着を女性が出てきたようである。

琥珀「いらっしゃいませ。どういった御用件でしょう?」

割烹着の女性はニッコリと笑顔で対応している。

さつき「え、えっと…わた、私は、遠野君の元クラスメイト…な、なんですけど…」

琥珀「志貴さんのですか?」

さつき「そ、そ、そうです。志貴君のです」

琥珀「ではこちらへどうぞ」

正門を開けて玄関まで入れてくれたらしい。

琥珀「ではこちらでお待ちください。ただいま志貴さんを呼んでまいりますね」

さつき「は、はい。お願いします」

彼女は期待に胸を膨らませて玄関で待っていたそうだ。

何度も言うようだがこれから訪れる残酷な運命など知らずに。

82: 2012/04/12(木) 22:03:32.65 ID:VCi+u6E/0
居間から玄関に向かう僅かな時間で俺の頭の中では今来た女の子とは弓塚だと思っていた。

なにせ他に思い当たる人物がいないのだ。

しかしいざ玄関に着くとそこに立っている女の子に見覚えがない。

もしかしたら彼女の勘違いじゃないんだろうか?


さつき「あっ、と、と、遠野君!ひ、ひさ、久しぶりだね」


その女の子は俺を前にしてかなり緊張してるようだ。

そして確かに俺の事を知っているようなので勘違いではないらしい。

しかし俺には全く覚えがない。すごい失礼だとは思ったが思い切って聞いてみることにした。


志貴「えっと…どちらさま…ですか?」

さつき「……」

志貴「……」


沈黙が重い…しかしその後の彼女の叫び声で沈黙は消え去った。

83: 2012/04/12(木) 22:06:44.20 ID:VCi+u6E/0
さつき「うわぁぁぁぁぁん!!酷いよぉぉぉ!!良かれと思ってやったのに髪型変えたら誰なのかも気付いてもらえないなんてぇぇぇ!!!」

その女の子は叫びながら正門へ向かって走っていった。

志貴「えっ?ちょっと、待っ…」

さつき「どうせ吸血鬼になっちゃった私なんて文字通り一生日陰で暮らすしかないんだぁぁぁ!!」

そこで気付いた。

髪形を変えた?前にもあったような……しかも今吸血鬼って言った……やっぱり弓塚だ!

志貴「弓塚さんだろ!?待ってくれ、ツインテールじゃないから気付かなかったんだ!」


言ってからこの言い訳はないだろうと思った。

本人が髪型の所為で気付いてもらえないって嘆いてるのに対して俺の発言は肯定そのものだ。

さつき「だから私の髪型はツインテールじゃないんだってばぁぁぁ!!遠野君のバカァァァ!!!」

なんと彼女は正門の柵を飛び越えて闇の中へと消えていった。

えーと…さすが吸血鬼…すごい身体能力だ。

っていうか後半は髪形の認識が間違ってるのに対して怒っていたような…。あれってツインテールじゃないのか?

85: 2012/04/12(木) 22:08:18.27 ID:VCi+u6E/0
何が起きたのか、そして弓塚の髪型が何なのか理解できないまま居間に戻ると3人が真冬の日本海のように厳しい視線を向けていた。

秋葉「兄さんは誰に対しても朴念仁のようですね」

琥珀「あはっ、やることやったら用済みですか?」

翡翠「女泣かせの異名は伊達ではありませんね…」


そして降りかかる誹謗中傷の数々。


志貴「いや、その、だって、髪型が…」

秋葉「兄さんは髪型だけで女性を覚えているのですか!?」

琥珀「私が髪を切ったら気付いてもらえないんでしょうか…しくしく…」

翡翠「以前にも私と姉さんの区別が付いていないことがありましたね…」


ああ…もう何を言っても無駄だろう。それに俺が悪いのもわかってる。

こんな時はさっさと寝ちまうのが一番だ。

「俺が悪かった…もう…寝るよ…。風呂は明日の朝に入る…」

そう言い残しフラフラと階段を上って部屋に閉じこもった。

86: 2012/04/12(木) 22:10:25.56 ID:VCi+u6E/0
すごい疲れた。なんか散々な一日だったな…。

昼間から開きっぱなしの窓を閉めようとすると黒猫がスルっと滑り込んできた。


志貴「レンじゃないか。今日は一日中いなかったな」


レンは無言で俺の足に擦り寄ってきた。

抱きかかえてベッドに潜り込みレンの頭を撫でてやる。

夜はまだ冷えるのかレンの体は少し冷たくて、今の俺には気持ちよかった。


志貴「今日は酷く疲れる日だったんだ。だからせめて穏やかないい夢を見させてくれよな」


するとレンは了解したように短く鳴いてくれた。

そして二人で眠りに落ちていく。

大丈夫。隣にはレンがいてくれる。

朝には翡翠が起こしてくれる。

何も怖がることはない。

88: 2012/04/12(木) 22:12:06.46 ID:VCi+u6E/0
その日にレンが見せてくれたであろう夢は今日起きた出来事と似たような内容だった。

様々な知人が出てきては次々とトラブルを起きる。

頭を抱えたくなるような話だが自然と笑えてしまう。

そんな夢。

確かに今はあの頃には考えられなかったような世界にいる。

アルクェイドとシエル先輩は相変わらず仲が悪いけど、仲が悪いなんて言葉で表せる関係になってしまったのだ。

もう本気で頃しあうことなんてないかもしれない。

彼女たちと秋葉の関係だって散々罵り合いながらも楽しそうに見える時だってある。

そうだな。俺にとってこんな毎日こそが心から望んでいた幸せな世界だったんだ。



翡翠「志貴さま、起床のお時間です」

そして今日も幸せな日であることを告げられるように翡翠の優しい声で目を覚ます。




おわれ

89: 2012/04/12(木) 22:13:38.15 ID:VCi+u6E/0
ふう、疲れた

やっぱり今はFateのほうが人気ありそうだな

そのうちまほよSSなんかも書かれるのかね

ではさようなら

91: 2012/04/12(木) 22:16:49.48 ID:VMiNNosm0
おつであった

引用: 翡翠「志貴さま、起床のお時間です」