1: 2013/03/02(土) 01:51:05.48 ID:PHK+GiV80
深夜
翠星石 「ああう… 真紅ぅ… 今夜も眠れないんですぅ」
真紅 「はぁ… じゃあこの本を貸してあげるから」
翠星石 「今夜はどんなお話なんでしょうね…
どきどきしちゃいますぅ
ふむふむ… シャーロック・ホームズ 青いガーネット…」
真紅 「それでも読んでお休みなさい」
翠星石 「ええー! 真紅が読んでぇ!」
真紅 「はぁ… あなた最近夜更かしなのではなくて…」
翠星石 「わーい! やったぁですぅ!」
翠星石 「ああう… 真紅ぅ… 今夜も眠れないんですぅ」
真紅 「はぁ… じゃあこの本を貸してあげるから」
翠星石 「今夜はどんなお話なんでしょうね…
どきどきしちゃいますぅ
ふむふむ… シャーロック・ホームズ 青いガーネット…」
真紅 「それでも読んでお休みなさい」
翠星石 「ええー! 真紅が読んでぇ!」
真紅 「はぁ… あなた最近夜更かしなのではなくて…」
翠星石 「わーい! やったぁですぅ!」
3: 2013/03/02(土) 01:53:52.46 ID:PHK+GiV80
ロンドン ベイカー街
翠星石 (ワトソン役)
「ふぅ… 寒いですねぇ」
クリスマスが済んで二日目の朝
お祝いを言いに行くつもりで
私は真紅を訪ねた
真紅 (ホームズ役)
「あら おはよう翠星石…」
真紅は紫のガウンを着てソファーにとぐろを巻き
パイプかけを右側の手じかな場所にすえ
今まで研究していたらしい新聞を
くしゃくしゃと山の様にそばに積んでいた
翠星石 (ワトソン役)
「ふぅ… 寒いですねぇ」
クリスマスが済んで二日目の朝
お祝いを言いに行くつもりで
私は真紅を訪ねた
真紅 (ホームズ役)
「あら おはよう翠星石…」
真紅は紫のガウンを着てソファーにとぐろを巻き
パイプかけを右側の手じかな場所にすえ
今まで研究していたらしい新聞を
くしゃくしゃと山の様にそばに積んでいた
5: 2013/03/02(土) 01:57:11.65 ID:PHK+GiV80
ソファーの脇に木製の椅子が一脚あって
その背の角に
ひどく手ずれのした上あちこちに裂け目さえある
とても被れそうもない山型の硬いフェルト帽が
一つ掛けてある
椅子の上にはレンズとピンセットが置いてあり
帽子が「検査のため」そんなところに掛けてあるのを思わせた
翠星石 「何かやってるんですか? 邪魔ですかね」
真紅 「いいえ ちっとも
あなたが来てくれたので
私が得た成果を検討する相手ができたというものよ
問題はごくつまらない事なのだけれど――」
その背の角に
ひどく手ずれのした上あちこちに裂け目さえある
とても被れそうもない山型の硬いフェルト帽が
一つ掛けてある
椅子の上にはレンズとピンセットが置いてあり
帽子が「検査のため」そんなところに掛けてあるのを思わせた
翠星石 「何かやってるんですか? 邪魔ですかね」
真紅 「いいえ ちっとも
あなたが来てくれたので
私が得た成果を検討する相手ができたというものよ
問題はごくつまらない事なのだけれど――」
6: 2013/03/02(土) 01:58:53.04 ID:PHK+GiV80
と、真紅は古帽子の方を親指でちょっと指した
真紅 「ある意味ではまんざら興味が無いでもない
むしろ教えられる所すらあるわ…」
私は真紅がいつも使っている肘かけ椅子におさまって
ぱちぱち燃え盛る暖炉に両手をかざした
なにしろひどい霜が降りて
窓にも厚く氷が付くほどの始末だから冷たい
真紅 「ある意味ではまんざら興味が無いでもない
むしろ教えられる所すらあるわ…」
私は真紅がいつも使っている肘かけ椅子におさまって
ぱちぱち燃え盛る暖炉に両手をかざした
なにしろひどい霜が降りて
窓にも厚く氷が付くほどの始末だから冷たい
7: 2013/03/02(土) 02:01:48.54 ID:PHK+GiV80
翠星石 「こう見えてもこのお粗末な帽子には
多分恐ろしい因縁がまつわってるんでしょうねぇ
これが手掛かりになって
真紅がある謎を解き
悪い奴が罰せられるって事なんですぅ」
真紅 「いえ 違うわ これは犯罪とは何の関係もない…」
真紅は笑って言った
真紅 「わずか数平方マイルの中に400万という人間が
揉み合っているために起こる
例の気まぐれな市井の小事件の一つにすぎないのだわ
人がこうも密集して 行動と反動とを繰り返している中の事だから
あらゆる事象の種々雑多な組み合わせが起こるのも
少しも不思議はないし
中には犯罪とは無関係ながら
随分と奇怪な事件も沢山あろうというものよ」
多分恐ろしい因縁がまつわってるんでしょうねぇ
これが手掛かりになって
真紅がある謎を解き
悪い奴が罰せられるって事なんですぅ」
真紅 「いえ 違うわ これは犯罪とは何の関係もない…」
真紅は笑って言った
真紅 「わずか数平方マイルの中に400万という人間が
揉み合っているために起こる
例の気まぐれな市井の小事件の一つにすぎないのだわ
人がこうも密集して 行動と反動とを繰り返している中の事だから
あらゆる事象の種々雑多な組み合わせが起こるのも
少しも不思議はないし
中には犯罪とは無関係ながら
随分と奇怪な事件も沢山あろうというものよ」
8: 2013/03/02(土) 02:05:43.74 ID:PHK+GiV80
真紅 「私達が経験して来た中にも
現にそういうのがあったはずだと思うわ」
翠星石 「確かに 翠星石は真紅の事件をノートに取ってますけど
その内の二つはそういうのでした」
真紅 「あなたの言う二つとは
メアリーサザーランド城の奇妙な事件
唇のねじれた男の事件等の事でしょう
そうね
この一小事件もまた
犯罪には縁のない部類に属する事は
疑いの余地が無いわね…
ところであなた
雛苺って守衛を知っているでしょう」
翠星石 「雛苺? ええ どっかのデパートのガードマン
やってるんでしたか」
真紅 「この戦利品は 雛苺の物なのよ」
現にそういうのがあったはずだと思うわ」
翠星石 「確かに 翠星石は真紅の事件をノートに取ってますけど
その内の二つはそういうのでした」
真紅 「あなたの言う二つとは
メアリーサザーランド城の奇妙な事件
唇のねじれた男の事件等の事でしょう
そうね
この一小事件もまた
犯罪には縁のない部類に属する事は
疑いの余地が無いわね…
ところであなた
雛苺って守衛を知っているでしょう」
翠星石 「雛苺? ええ どっかのデパートのガードマン
やってるんでしたか」
真紅 「この戦利品は 雛苺の物なのよ」
9: 2013/03/02(土) 02:07:25.21 ID:PHK+GiV80
翠星石 「そうでしたか 雛苺の帽子だったんですねぇ…」
真紅 「違うわ 雛苺が拾ったの
持ち主が分からない
あなたはこれを
単に破れ帽子とだけ思わないで
頭脳的に課された一つの問題と見て貰いたいわ
それには第一に
どうしてこれがここにあるかだけれど
これはクリスマスの朝
一羽の太った上等のガチョウと一緒にここへ来たのだわ
ガチョウの方は雛苺が持ってったわ
今頃多分巴が料理している事でしょう」
真紅 「違うわ 雛苺が拾ったの
持ち主が分からない
あなたはこれを
単に破れ帽子とだけ思わないで
頭脳的に課された一つの問題と見て貰いたいわ
それには第一に
どうしてこれがここにあるかだけれど
これはクリスマスの朝
一羽の太った上等のガチョウと一緒にここへ来たのだわ
ガチョウの方は雛苺が持ってったわ
今頃多分巴が料理している事でしょう」
11: 2013/03/02(土) 02:14:33.85 ID:PHK+GiV80
翠星石 「どこで拾ったんです?」
真紅 「こういう事よ
雛苺はあの通り正直な人だけれど
クリスマスの早朝の4時頃に
どこかでつましく遊んでの帰り道
トッテナムコート通りへさしかかると
前方を中くらいの背丈の男が
白いガチョウを肩に担いで少しよろめきながら歩いて行くのが
ガス灯の光で見えたわ
むろんどこの男とも知る訳は無い…
グッジ街の角まで行くと
このガチョウ男と一団の与太者との間に喧嘩が始まったのよ
与太者の一人がガチョウ男の帽子をたたき落としたので
彼は防衛のため何かステッキのようなものを振り上げた途端
後ろの飾り窓のガラスを壊してしまった
相手が大勢なので
雛苺は加勢してあげようと駆け出して行ったけれど
ガチョウ男は窓を壊してしまったのと
巡査みたいな制服の雛苺が駆けて来るのを見たので
ガチョウをその場へ投げ捨てて逃げ出し
トッテナムコート通りの裏手にある
ごたごたした迷宮のような街へ姿を消してしまった」
真紅 「こういう事よ
雛苺はあの通り正直な人だけれど
クリスマスの早朝の4時頃に
どこかでつましく遊んでの帰り道
トッテナムコート通りへさしかかると
前方を中くらいの背丈の男が
白いガチョウを肩に担いで少しよろめきながら歩いて行くのが
ガス灯の光で見えたわ
むろんどこの男とも知る訳は無い…
グッジ街の角まで行くと
このガチョウ男と一団の与太者との間に喧嘩が始まったのよ
与太者の一人がガチョウ男の帽子をたたき落としたので
彼は防衛のため何かステッキのようなものを振り上げた途端
後ろの飾り窓のガラスを壊してしまった
相手が大勢なので
雛苺は加勢してあげようと駆け出して行ったけれど
ガチョウ男は窓を壊してしまったのと
巡査みたいな制服の雛苺が駆けて来るのを見たので
ガチョウをその場へ投げ捨てて逃げ出し
トッテナムコート通りの裏手にある
ごたごたした迷宮のような街へ姿を消してしまった」
12: 2013/03/02(土) 02:18:08.04 ID:PHK+GiV80
真紅 「一方与太者の方も
雛苺の姿を見とめて早くも逃げてしまったので
雛苺は一人で戦場を占領したのみならず
戦利品としてこのオンボロ帽子と
クリスマス用として申し分のない
ガチョウを手に入れたと言う訳よ」
翠星石 「ふぅん で それを持ち主に返したんですぅ」
真紅 「そこが問題なのよ
ガチョウの左足に
『ラピスラズリ・スター夫人へ』と記した
小さなカードが付いていたのは事実だし
この帽子の裏にも『 L.S. 』の頭文字が
はっきり読めるのだけれど
ロンドン中には『スター』(姓がスターの者)
は何千人となく居るだろうし
『ラピスラズリ・スター』だって
何百人かいる事でしょうから…」
雛苺の姿を見とめて早くも逃げてしまったので
雛苺は一人で戦場を占領したのみならず
戦利品としてこのオンボロ帽子と
クリスマス用として申し分のない
ガチョウを手に入れたと言う訳よ」
翠星石 「ふぅん で それを持ち主に返したんですぅ」
真紅 「そこが問題なのよ
ガチョウの左足に
『ラピスラズリ・スター夫人へ』と記した
小さなカードが付いていたのは事実だし
この帽子の裏にも『 L.S. 』の頭文字が
はっきり読めるのだけれど
ロンドン中には『スター』(姓がスターの者)
は何千人となく居るだろうし
『ラピスラズリ・スター』だって
何百人かいる事でしょうから…」
13: 2013/03/02(土) 02:19:15.87 ID:PHK+GiV80
真紅 「その中から特定の一人を探し出して
品物を返すのは…これは容易な事ではないわ」
翠星石 「じゃ雛苺はどうしたんです?」
真紅 「雛苺は どんな小さな問題でも
私には興味があると知っているから
帽子とガチョウをクリスマスの朝
ここへ持ち込んだのよ
ガチョウの方は今朝まで置いてあったけど
この霜なのに悪くなりそうだったから
無駄にするよりは食べてしまった方が良いのー
とか言って雛苺が持って帰ったわ
と言う訳で…
私はクリスマスのごちそうを食べそこなった
まだ見ぬ紳士の帽子を
こうして保管しているという訳なのだわ」
品物を返すのは…これは容易な事ではないわ」
翠星石 「じゃ雛苺はどうしたんです?」
真紅 「雛苺は どんな小さな問題でも
私には興味があると知っているから
帽子とガチョウをクリスマスの朝
ここへ持ち込んだのよ
ガチョウの方は今朝まで置いてあったけど
この霜なのに悪くなりそうだったから
無駄にするよりは食べてしまった方が良いのー
とか言って雛苺が持って帰ったわ
と言う訳で…
私はクリスマスのごちそうを食べそこなった
まだ見ぬ紳士の帽子を
こうして保管しているという訳なのだわ」
14: 2013/03/02(土) 02:20:17.29 ID:PHK+GiV80
翠星石 「そりゃー 災難でしたねぇ そのラピスラズリさんは
新聞とかは出てないのですか?」
真紅 「出ていないわね」
翠星石 「ええー… じゃどこの誰のだか
手掛かりがまるでない訳ですぅ」
真紅 「そう 推理で知り得る事の他は…ね」
翠星石 「えっ この帽子一つから推理するんです?」
真紅 「ええ」
翠星石 「じょーだん! こんな破れ帽子から…
何か分かる事でもあるのですかね…」
新聞とかは出てないのですか?」
真紅 「出ていないわね」
翠星石 「ええー… じゃどこの誰のだか
手掛かりがまるでない訳ですぅ」
真紅 「そう 推理で知り得る事の他は…ね」
翠星石 「えっ この帽子一つから推理するんです?」
真紅 「ええ」
翠星石 「じょーだん! こんな破れ帽子から…
何か分かる事でもあるのですかね…」
16: 2013/03/02(土) 02:26:05.99 ID:PHK+GiV80
真紅 「そこにレンズがあるわ
私のやり方はよく知っている
あなたの事だから…
この帽子を被っていた人物の個性について
どういう事が言えるか
自分でやってみたら?」
翠星石 「ふ…ふゆ…」
私は破れ帽子を手に取り
大変な事になったものだと思いながら
ひっくり返してみた
翠星石 「ふつーの丸型の… 硬いフェルト製で…
山の低い黒い帽子ですぅ…
とても使い物にはなりそうもない代物ですねぇ
裏には… ふむ 赤い絹が付けてあります
でもすっかり色があせてますよ
製造者の名は…ありませんが
ホントですね 『 L.S. 』って殴り書きしてあるですよ」
私のやり方はよく知っている
あなたの事だから…
この帽子を被っていた人物の個性について
どういう事が言えるか
自分でやってみたら?」
翠星石 「ふ…ふゆ…」
私は破れ帽子を手に取り
大変な事になったものだと思いながら
ひっくり返してみた
翠星石 「ふつーの丸型の… 硬いフェルト製で…
山の低い黒い帽子ですぅ…
とても使い物にはなりそうもない代物ですねぇ
裏には… ふむ 赤い絹が付けてあります
でもすっかり色があせてますよ
製造者の名は…ありませんが
ホントですね 『 L.S. 』って殴り書きしてあるですよ」
18: 2013/03/02(土) 02:31:09.45 ID:PHK+GiV80
翠星石 「ありゃ? つばのところ…
留め金を付ける穴がありますのに
ゴムひもは付いてませんね
あとは… 裂けめがあってほこりだらけで…
しみが幾つも付いてて…
色の変わったとこにインクを塗って
隠そうとしてあるですよ」
真紅 「ふぅん…?」
翠星石 「私にはなーんもわかんないですぅ」
私は閉口して帽子を真紅の手に戻した
留め金を付ける穴がありますのに
ゴムひもは付いてませんね
あとは… 裂けめがあってほこりだらけで…
しみが幾つも付いてて…
色の変わったとこにインクを塗って
隠そうとしてあるですよ」
真紅 「ふぅん…?」
翠星石 「私にはなーんもわかんないですぅ」
私は閉口して帽子を真紅の手に戻した
19: 2013/03/02(土) 02:36:29.66 ID:PHK+GiV80
真紅 「分からないはずはないけれど
あなたは何もかも見ているのに
見た物から推理するという事をしないのね」くす
真紅 「もっと大胆に推理し論断しなきゃだめなのだわ」
翠星石 「ムキー! じゃあ真紅はこの帽子から
どんな事をすいりろんだんできるってのか
そいつを聞かせろやですぅ!」
真紅は帽子を手にとって
彼女一流の妙に内省的な態度で
じぃっとそれに見入った
あなたは何もかも見ているのに
見た物から推理するという事をしないのね」くす
真紅 「もっと大胆に推理し論断しなきゃだめなのだわ」
翠星石 「ムキー! じゃあ真紅はこの帽子から
どんな事をすいりろんだんできるってのか
そいつを聞かせろやですぅ!」
真紅は帽子を手にとって
彼女一流の妙に内省的な態度で
じぃっとそれに見入った
20: 2013/03/02(土) 02:41:01.14 ID:PHK+GiV80
真紅 「もう少し前ならもっと良く分かったのだろうけど
現在でもまだ極めて明白に推理される事が
二三あるし
また断定とまでは行かなくとも
極めて強い確実さで
そうらしく思われる点も少なくない――
まず
この帽子の持ち主が知能の優れた人物で
今は零落しているけれど
過去三か年以内にかなり裕福な時期があったという事は
明らかに言える」
現在でもまだ極めて明白に推理される事が
二三あるし
また断定とまでは行かなくとも
極めて強い確実さで
そうらしく思われる点も少なくない――
まず
この帽子の持ち主が知能の優れた人物で
今は零落しているけれど
過去三か年以内にかなり裕福な時期があったという事は
明らかに言える」
21: 2013/03/02(土) 02:44:16.48 ID:PHK+GiV80
真紅 「彼は思慮深い人物だったけれど
今はそれほどでもなく
むしろ道徳的に退歩の傾向さえ見られる
その事が家産の傾いた事と合わせ考えて
何かよからぬ習慣…
おそらく飲酒癖の染み付いたのを思わせる
そしてこれがまた…
細君に愛想をつかされているという
明白な事実を示すものでもある」
翠星石 「ええー… いやいや… だってそんな…」
真紅 「しかし彼はまだ幾分の自尊心は持っている――」
真紅は私の抗議には一向お構いなしに続けた
今はそれほどでもなく
むしろ道徳的に退歩の傾向さえ見られる
その事が家産の傾いた事と合わせ考えて
何かよからぬ習慣…
おそらく飲酒癖の染み付いたのを思わせる
そしてこれがまた…
細君に愛想をつかされているという
明白な事実を示すものでもある」
翠星石 「ええー… いやいや… だってそんな…」
真紅 「しかし彼はまだ幾分の自尊心は持っている――」
真紅は私の抗議には一向お構いなしに続けた
23: 2013/03/02(土) 02:48:23.86 ID:PHK+GiV80
真紅 「そして生活上…座り切りの男で
ほとんど外出はしない
運動はさほど苦手ではないのかもしれないけど
年頃は 青年
ブロンドの髪は二三日前に散髪したばかりで
クリームは使わない
以上がこの帽子から推断される事実の内
確実なものだけれど
なおついでに言えば
この男の家にはガスが引いていない
というのもまず間違いの無い所でしょう」
翠星石 「あははは!じょーだんばっかり…」
真紅 「冗談ではないわ
こんなに結論を言ってあげても
どうしてその結論が出て来るか分からないなんて
あなたこそどうかしているわ」
ほとんど外出はしない
運動はさほど苦手ではないのかもしれないけど
年頃は 青年
ブロンドの髪は二三日前に散髪したばかりで
クリームは使わない
以上がこの帽子から推断される事実の内
確実なものだけれど
なおついでに言えば
この男の家にはガスが引いていない
というのもまず間違いの無い所でしょう」
翠星石 「あははは!じょーだんばっかり…」
真紅 「冗談ではないわ
こんなに結論を言ってあげても
どうしてその結論が出て来るか分からないなんて
あなたこそどうかしているわ」
24: 2013/03/02(土) 02:50:41.75 ID:PHK+GiV80
翠星石 「翠星石の頭の良くないのはよく承知してますけど
それにしても真紅の言う事は
さっぱり分からんですぅ」
翠星石 「例えば…この男の知能の優れている事が
どーしてわかるのですか?」
答える代りに真紅は帽子をとって
自分の頭に被って見せた
帽子はすっぽりと鼻の上まで来た
真紅 「容積の問題だわ
これだけ大きな頭を持つ男だったら
中身も相当あるでしょうね」
それにしても真紅の言う事は
さっぱり分からんですぅ」
翠星石 「例えば…この男の知能の優れている事が
どーしてわかるのですか?」
答える代りに真紅は帽子をとって
自分の頭に被って見せた
帽子はすっぽりと鼻の上まで来た
真紅 「容積の問題だわ
これだけ大きな頭を持つ男だったら
中身も相当あるでしょうね」
25: 2013/03/02(土) 02:55:40.80 ID:PHK+GiV80
翠星石 「じゃ家産が傾いたというのは?」
真紅 「この帽子は買ってから三年になる
平たいつばの先がこう巻いているのは
当時の流行なのよ
品物は非常に上等
この通りリボンも綾絹の上等だし
裏地も上等ね
三年前にはこんな高価な帽子を買う事ができて
その後は安物も買えないとしたら
零落したものと見て間違い無いでしょう…」
翠星石 「なるほど… 言われてみればその通りですねぇ…
でも 思慮深いとか堕落したとか言うのは?」
真紅 「この帽子は買ってから三年になる
平たいつばの先がこう巻いているのは
当時の流行なのよ
品物は非常に上等
この通りリボンも綾絹の上等だし
裏地も上等ね
三年前にはこんな高価な帽子を買う事ができて
その後は安物も買えないとしたら
零落したものと見て間違い無いでしょう…」
翠星石 「なるほど… 言われてみればその通りですねぇ…
でも 思慮深いとか堕落したとか言うのは?」
26: 2013/03/02(土) 02:56:20.25 ID:PHK+GiV80
真紅 「これが思慮の深さね」
真紅は笑って
帽子に付いている小さな留め金に指をやり
真紅 「これは初めから帽子に付けて売るものじゃないわ
買う時これを付けさせたというのは
風に飛ばされないための用心で
これがすなわち思慮深さの証拠
でも紐が切れたのに
付け換えようともせず
うっちゃってあるのは
以前ほどの思慮深さが無くなったのを
物語ると同時に――
意志が弱くなった確証でもある
一方にまた この表面の汚点に
インクを塗って隠してあるのは
自尊心を全く失っているのではない印と言えるでしょう」
真紅は笑って
帽子に付いている小さな留め金に指をやり
真紅 「これは初めから帽子に付けて売るものじゃないわ
買う時これを付けさせたというのは
風に飛ばされないための用心で
これがすなわち思慮深さの証拠
でも紐が切れたのに
付け換えようともせず
うっちゃってあるのは
以前ほどの思慮深さが無くなったのを
物語ると同時に――
意志が弱くなった確証でもある
一方にまた この表面の汚点に
インクを塗って隠してあるのは
自尊心を全く失っているのではない印と言えるでしょう」
27: 2013/03/02(土) 02:58:17.02 ID:PHK+GiV80
翠星石 「なるほど… あんたの推理には恐れ入りましたですよ…」
真紅 「なおその他の点――
彼が青年だとかブロンドだとか
最近散髪したとかクリームは使わないとか言うのは
全てこの裏の下の方を見れば
良く分かるわ
拡大鏡で見ると
床屋のはさみで綺麗に刈った
短い髪の毛がたくさん付いている
それからこの埃は
よく見ると往来にあるざらざらした
灰色の砂埃じゃなくて
家の中にある茶色の綿埃だわ
と言う事は
この帽子がいつも家の中に
掛けてばかりある証拠だけれど
内側には汗の汚点が無いので
この男は汗かきではなく
運動は苦手ではないのだろう と言う訳」
真紅 「なおその他の点――
彼が青年だとかブロンドだとか
最近散髪したとかクリームは使わないとか言うのは
全てこの裏の下の方を見れば
良く分かるわ
拡大鏡で見ると
床屋のはさみで綺麗に刈った
短い髪の毛がたくさん付いている
それからこの埃は
よく見ると往来にあるざらざらした
灰色の砂埃じゃなくて
家の中にある茶色の綿埃だわ
と言う事は
この帽子がいつも家の中に
掛けてばかりある証拠だけれど
内側には汗の汚点が無いので
この男は汗かきではなく
運動は苦手ではないのだろう と言う訳」
28: 2013/03/02(土) 02:59:05.63 ID:PHK+GiV80
翠星石 「でも妻が 真紅は細君に愛想をつかされていると
言いましたね」
真紅 「この帽子を見ると
長い事ブラシをかけた様子が無い
もしあなたの帽子に
何週間分もの埃が積りっぱなしで
しかも奥さんがそんな帽子で
あなたを外出させたとしたら
気の毒だけど私は
あなたが奥さんに嫌われ出したものと見るでしょうね」
翠星石 「ふえ… お 奥さんって翠星石はそんな…
でももし貰うとしたらそりゃあ勿論蒼星石みたいな
…いやいやそうじゃなくて
でもこの男は独身かもしれないですぅ」
言いましたね」
真紅 「この帽子を見ると
長い事ブラシをかけた様子が無い
もしあなたの帽子に
何週間分もの埃が積りっぱなしで
しかも奥さんがそんな帽子で
あなたを外出させたとしたら
気の毒だけど私は
あなたが奥さんに嫌われ出したものと見るでしょうね」
翠星石 「ふえ… お 奥さんって翠星石はそんな…
でももし貰うとしたらそりゃあ勿論蒼星石みたいな
…いやいやそうじゃなくて
でもこの男は独身かもしれないですぅ」
29: 2013/03/02(土) 02:59:42.12 ID:PHK+GiV80
真紅 「違うわ この男は細君へ
仲直りの贈り物を持って帰る途中だったのだわ
ガチョウの足に付けたカードに
何とあったの」
翠星石 「ふゆ? えーと『ラピスラズリ・スター夫人へ』…
なるほどホントですぅ!これ奥さんの事ですね!」
**************************
ラピスラズリの家
ジェードスター「またラピスラズリったら
ジェードの事をほったらかしにして
どっか行ってしまって… ←奥さん
知らんですっ」
**************************
仲直りの贈り物を持って帰る途中だったのだわ
ガチョウの足に付けたカードに
何とあったの」
翠星石 「ふゆ? えーと『ラピスラズリ・スター夫人へ』…
なるほどホントですぅ!これ奥さんの事ですね!」
**************************
ラピスラズリの家
ジェードスター「またラピスラズリったら
ジェードの事をほったらかしにして
どっか行ってしまって… ←奥さん
知らんですっ」
**************************
30: 2013/03/02(土) 03:00:22.64 ID:PHK+GiV80
翠星石 「なんでもすらすら答えられるんですねえ…
じゃあこの男の家にガスが引いてない
と言うのはどうして分かったのです?」
真紅 「脂肪の汚点も一つ二つなら
何かの折に付いたと考えられなくもないけれど
こうして五つ以上もあるというのは
しょっちゅう獣脂蝋燭を使う
夜帰った時
一方の手に帽子を持ち
一方に脂肪の垂れる獣脂蝋燭を持って
二階へ上がって行く事をしょっちゅうやる
男だと考えて差支えないでしょう
とにかくガスから脂肪の垂れる事はないからね わかった?」
じゃあこの男の家にガスが引いてない
と言うのはどうして分かったのです?」
真紅 「脂肪の汚点も一つ二つなら
何かの折に付いたと考えられなくもないけれど
こうして五つ以上もあるというのは
しょっちゅう獣脂蝋燭を使う
夜帰った時
一方の手に帽子を持ち
一方に脂肪の垂れる獣脂蝋燭を持って
二階へ上がって行く事をしょっちゅうやる
男だと考えて差支えないでしょう
とにかくガスから脂肪の垂れる事はないからね わかった?」
31: 2013/03/02(土) 03:03:08.76 ID:PHK+GiV80
翠星石 「なるほど よくも推理したもんです
けど 今真紅も言った通り
これが犯罪には何の関係も無く
ガチョウ一羽の損害だけで
どこにも被害者が無いのだとしますと
折角の名推理も悪戯に体力を浪費したに過ぎない
と言う事になりますぅ」
真紅が何か言おうとした時
突然ドアがさっと開いて
守衛の雛苺が両頬を真っ赤に染め
さも驚いたというふうで
息を切らして飛び込んで来た
けど 今真紅も言った通り
これが犯罪には何の関係も無く
ガチョウ一羽の損害だけで
どこにも被害者が無いのだとしますと
折角の名推理も悪戯に体力を浪費したに過ぎない
と言う事になりますぅ」
真紅が何か言おうとした時
突然ドアがさっと開いて
守衛の雛苺が両頬を真っ赤に染め
さも驚いたというふうで
息を切らして飛び込んで来た
32: 2013/03/02(土) 03:16:17.89 ID:PHK+GiV80
雛苺 「ガチョウが…! 真紅…! ガチョウが…!」
雛苺は息が切れて口がきけない
真紅 「ガチョウがどうしたの…
生き返って台所の窓から
飛んでった?」
真紅はソファーの中で体をねじって
この興奮した雛苺の顔を
良く見ようとした
雛苺 「こっこれを見てっ! 巴が餌袋の中から見つけたの!」
雛苺は片手を出して
真紅の鼻先でぱっと掌を平げた
そこには燦然と輝く青い石があった
大きさは空豆よりも少し小さいが
その純粋の輝きは薄暗い掌のくぼみの中で
あたかも電光の様に眼を射た
雛苺は息が切れて口がきけない
真紅 「ガチョウがどうしたの…
生き返って台所の窓から
飛んでった?」
真紅はソファーの中で体をねじって
この興奮した雛苺の顔を
良く見ようとした
雛苺 「こっこれを見てっ! 巴が餌袋の中から見つけたの!」
雛苺は片手を出して
真紅の鼻先でぱっと掌を平げた
そこには燦然と輝く青い石があった
大きさは空豆よりも少し小さいが
その純粋の輝きは薄暗い掌のくぼみの中で
あたかも電光の様に眼を射た
33: 2013/03/02(土) 03:23:40.73 ID:PHK+GiV80
真紅 「…これは」
翠星石 「あ あわわっ」
雛苺 「ねっ ねっ?!」
真紅 「いや…これは大した物なのだわ
雛苺 あなたこれが何か知っているの」
真紅はソファーにきちんと座り直した
雛苺 「ダッ… ダイヤなの…
ガラスがパテみたいに
ざっくざっくと切れたのよ!」
翠星石 「あ あわわっ」
雛苺 「ねっ ねっ?!」
真紅 「いや…これは大した物なのだわ
雛苺 あなたこれが何か知っているの」
真紅はソファーにきちんと座り直した
雛苺 「ダッ… ダイヤなの…
ガラスがパテみたいに
ざっくざっくと切れたのよ!」
35: 2013/03/02(土) 03:38:14.48 ID:PHK+GiV80
真紅 「これはただの宝石じゃないわ …アレよ」
翠星石 「モーカー伯爵夫人の青いガーネットじゃないですか!」
私は口走った
真紅 「そう… 何しろタイムズので
毎日お目にかかっているから
大きさでも形でも
知らない方がおかしい位
絶対に二つとは無い宝石ね
値段はあれこれ噂にはあるけれど
本当の所は分からない
懸賞金の千ポンドは
恐らく市価の二十分の一にも当たらない…」
雛苺 「千ポンド… これが…」
雛苺はぺたんと椅子に腰を落として
私達の顔を見比べた
翠星石 「モーカー伯爵夫人の青いガーネットじゃないですか!」
私は口走った
真紅 「そう… 何しろタイムズので
毎日お目にかかっているから
大きさでも形でも
知らない方がおかしい位
絶対に二つとは無い宝石ね
値段はあれこれ噂にはあるけれど
本当の所は分からない
懸賞金の千ポンドは
恐らく市価の二十分の一にも当たらない…」
雛苺 「千ポンド… これが…」
雛苺はぺたんと椅子に腰を落として
私達の顔を見比べた
36: 2013/03/02(土) 03:39:39.00 ID:PHK+GiV80
>>34
真紅 「可哀想に この間もそう言っていたのでは
私のおにぎりを上げましょう」
真紅 「可哀想に この間もそう言っていたのでは
私のおにぎりを上げましょう」
37: 2013/03/02(土) 03:48:34.80 ID:PHK+GiV80
真紅 「千ポンドは賞金だけだけれど
もしこれが戻らなければ伯爵夫人は
財産の半分を投げ出さなければならない
勘定になる…」
翠星石 「確か…コスモポリタン・ホテルで紛失したんですぅ」
真紅 「そう
12月22日の事だから
今日で五日になる
配管工のウメオカという男が
夫人の宝石箱から盗んだ疑いで捕まった
そして極めて有力な証拠が上がったので
巡回裁判に付せられる事になった
ここにその記事があるはずだけれど――」
もしこれが戻らなければ伯爵夫人は
財産の半分を投げ出さなければならない
勘定になる…」
翠星石 「確か…コスモポリタン・ホテルで紛失したんですぅ」
真紅 「そう
12月22日の事だから
今日で五日になる
配管工のウメオカという男が
夫人の宝石箱から盗んだ疑いで捕まった
そして極めて有力な証拠が上がったので
巡回裁判に付せられる事になった
ここにその記事があるはずだけれど――」
40: 2013/03/02(土) 04:02:08.06 ID:PHK+GiV80
真紅は新聞をかきまわして日付を調べ
中から一枚抜き取って皺を伸ばし
二つに折って次の様な一稿を読み上げた
コスモポリタンホテルの宝石泥棒
配管工 ウメオカ・プラムヒルズ 26歳は
今月22日 青いガーネットとして有名な
モーカー伯爵夫人の宝石を
宝石箱から窃取した疑いで拘引された
ホテルの客室係 ジュン・チェリーフィールズ の証言によれば
暖炉の火床の2本目が緩んだので
はんだ付けするため
当日同人を伯爵夫人の化粧室へ案内し
しばらくチェリーフィールズはそこにいたが
用事で呼ばれたので一旦その場を立ち去り
後刻戻ってみるとウメオカの姿は既に見えず
箪笥がこじ開けてあり
夫人が平素宝石箱として使用していた
モロッコ革の小箱が空になって
化粧台の下に転がっていた――
中から一枚抜き取って皺を伸ばし
二つに折って次の様な一稿を読み上げた
コスモポリタンホテルの宝石泥棒
配管工 ウメオカ・プラムヒルズ 26歳は
今月22日 青いガーネットとして有名な
モーカー伯爵夫人の宝石を
宝石箱から窃取した疑いで拘引された
ホテルの客室係 ジュン・チェリーフィールズ の証言によれば
暖炉の火床の2本目が緩んだので
はんだ付けするため
当日同人を伯爵夫人の化粧室へ案内し
しばらくチェリーフィールズはそこにいたが
用事で呼ばれたので一旦その場を立ち去り
後刻戻ってみるとウメオカの姿は既に見えず
箪笥がこじ開けてあり
夫人が平素宝石箱として使用していた
モロッコ革の小箱が空になって
化粧台の下に転がっていた――
41: 2013/03/02(土) 04:11:43.71 ID:PHK+GiV80
――チェリーフィールズは直ちに急を報じ
夜になってウメオカは捕えられたが
既に宝石は持っておらず
同人の部屋にも無かった
被害を発見した時
チェリーフィールズが大きな声で呼んだので
伯爵夫人付きの小間使い
メグ・パーシモンが直ぐ駆けつけたが
彼女の申し立てるその時の室内の模様は
チェリーフィールズの言う所と一致している
ビーク警察のブラッドストリート警部は
ウメオカの逮捕に関して証言しているが
その時彼は
狂気の如くに抵抗を試み
極力覚えの無い事を強弁したという
しかし窃盗前科のある事が判明したため
不利となり
判事は即決を拒否して
巡回裁判に付す事になった――
夜になってウメオカは捕えられたが
既に宝石は持っておらず
同人の部屋にも無かった
被害を発見した時
チェリーフィールズが大きな声で呼んだので
伯爵夫人付きの小間使い
メグ・パーシモンが直ぐ駆けつけたが
彼女の申し立てるその時の室内の模様は
チェリーフィールズの言う所と一致している
ビーク警察のブラッドストリート警部は
ウメオカの逮捕に関して証言しているが
その時彼は
狂気の如くに抵抗を試み
極力覚えの無い事を強弁したという
しかし窃盗前科のある事が判明したため
不利となり
判事は即決を拒否して
巡回裁判に付す事になった――
42: 2013/03/02(土) 04:21:31.63 ID:PHK+GiV80
――なおウメオカは取調べ中
極度の興奮を見せていたが
取調べ終了とともに
卒倒して廷外へ担ぎ出された
真紅 「…ふむ 軽犯罪裁判所としては…
それしかないでしょう…」
真紅は新聞を投げ捨てて考え込んだ
真紅 「私達の今解決すべき問題は
宝石盗難という一端から発して
トッテナムコート通りで拾った
ガチョウの餌袋に至るまで
どう事件が連続しているかを知るにある
ねえ翠星石――
つまらない推理遊びが
急に重大な
しかもまんざら犯罪に関係無くもなさそうな方向へ
発展して行くではないの」
極度の興奮を見せていたが
取調べ終了とともに
卒倒して廷外へ担ぎ出された
真紅 「…ふむ 軽犯罪裁判所としては…
それしかないでしょう…」
真紅は新聞を投げ捨てて考え込んだ
真紅 「私達の今解決すべき問題は
宝石盗難という一端から発して
トッテナムコート通りで拾った
ガチョウの餌袋に至るまで
どう事件が連続しているかを知るにある
ねえ翠星石――
つまらない推理遊びが
急に重大な
しかもまんざら犯罪に関係無くもなさそうな方向へ
発展して行くではないの」
43: 2013/03/02(土) 04:27:49.26 ID:PHK+GiV80
真紅 「ここに宝石がある
この宝石はガチョウから出た物だけれど
ガチョウは
ラピスラズリ・スターと言って
この汚い帽子の持ち主であり
今私がその特徴を並べ立てて
あなたを悩ましたばかりの人物が
持っていた物
こうなると…どうしてもこの男を探し出して
一体この問題でどういう役割を演じているのか
それをまず確かめねばならない
そのためにはまず最も簡単な手段を取るわ
それはあらゆる夕刊新聞にを出す事
それが失敗したら次の第二弾の方法に
訴えるのだわ」
この宝石はガチョウから出た物だけれど
ガチョウは
ラピスラズリ・スターと言って
この汚い帽子の持ち主であり
今私がその特徴を並べ立てて
あなたを悩ましたばかりの人物が
持っていた物
こうなると…どうしてもこの男を探し出して
一体この問題でどういう役割を演じているのか
それをまず確かめねばならない
そのためにはまず最も簡単な手段を取るわ
それはあらゆる夕刊新聞にを出す事
それが失敗したら次の第二弾の方法に
訴えるのだわ」
44: 2013/03/02(土) 04:36:13.82 ID:PHK+GiV80
翠星石 「どんな風に書いたら良いですかね?」
真紅 「鉛筆をかして
その紙きれも
えーと
グッジ街角にて…
ガチョウと黒帽を拾得した…
ラピスラズリ・スター氏よ
今夕6時半…
ベイカー街221番Bまで
受け取りに来られたし…
これで良いわ」
翠星石 「そうですね でも本人の目に付くでしょうか」
真紅 「鉛筆をかして
その紙きれも
えーと
グッジ街角にて…
ガチョウと黒帽を拾得した…
ラピスラズリ・スター氏よ
今夕6時半…
ベイカー街221番Bまで
受け取りに来られたし…
これで良いわ」
翠星石 「そうですね でも本人の目に付くでしょうか」
45: 2013/03/02(土) 04:42:01.75 ID:PHK+GiV80
真紅 「そうね…貧乏している身には
容易ならぬ損害なのだから
きっと新聞に気を付けてるわ
なにしろ喧嘩に熱したあまり
誤って窓ガラスを壊して
しまったと思う所へ
雛苺が駆けて来るので
制服姿を巡査と見誤って
夢中で逃げたのだろうけど
今頃はガチョウまで捨てて来るような事をした
自分の衝動を
ひどく後悔しているに違いないでしょうから
それに名を出しておけば
知り合いの者が注意してくれる事も
あろうというものだわ
雛苺 急いで社へ行って
これを夕刊に出して貰ってくれないかしら」
容易ならぬ損害なのだから
きっと新聞に気を付けてるわ
なにしろ喧嘩に熱したあまり
誤って窓ガラスを壊して
しまったと思う所へ
雛苺が駆けて来るので
制服姿を巡査と見誤って
夢中で逃げたのだろうけど
今頃はガチョウまで捨てて来るような事をした
自分の衝動を
ひどく後悔しているに違いないでしょうから
それに名を出しておけば
知り合いの者が注意してくれる事も
あろうというものだわ
雛苺 急いで社へ行って
これを夕刊に出して貰ってくれないかしら」
46: 2013/03/02(土) 04:52:47.29 ID:PHK+GiV80
雛苺 「何新聞に出せばいいのー?」
真紅 「…グローブ スター テルメル
セントジェームズ・ガゼット
イブニングニューズ・スタンダード エコー
その他思い出したのに全部頼んで貰いましょう」
雛苺 「分かったのー! あ!この宝石は?」
真紅 「ああ それはこっちへ預かっておきましょう
…確かに
それから帰りにガチョウを一羽買って
こっちへ届けて貰いたいわ
落とし主が来たら
あなたの家で今むしゃむしゃやってるのの代わりに
渡してやらなきゃならないでしょうからね」
真紅 「…グローブ スター テルメル
セントジェームズ・ガゼット
イブニングニューズ・スタンダード エコー
その他思い出したのに全部頼んで貰いましょう」
雛苺 「分かったのー! あ!この宝石は?」
真紅 「ああ それはこっちへ預かっておきましょう
…確かに
それから帰りにガチョウを一羽買って
こっちへ届けて貰いたいわ
落とし主が来たら
あなたの家で今むしゃむしゃやってるのの代わりに
渡してやらなきゃならないでしょうからね」
47: 2013/03/02(土) 05:00:19.98 ID:PHK+GiV80
雛苺が出て行くと
真紅は宝石を手に取って
明かりに透かしてみながら言った
真紅 「…なかなかの代物だわ
このきらきら光る事は
これじゃ悪い心を起こさせる訳だわね
良い宝石は全てそうだけど
悪魔が見せびらかしている
餌食みたいなものよ
もっと大きな古い宝石になると
刻まれている面の数ほども
血生臭い事件を起こしている…
この宝石は発見されてから
まだ二十年にならない
中国南部のアモイ川の岸から出た物で
色が普通のルビーレッドでなく
青い事を除いたら
あらゆる点でガーネットとしての特徴を
備えているというので有名なのだわ…」
真紅は宝石を手に取って
明かりに透かしてみながら言った
真紅 「…なかなかの代物だわ
このきらきら光る事は
これじゃ悪い心を起こさせる訳だわね
良い宝石は全てそうだけど
悪魔が見せびらかしている
餌食みたいなものよ
もっと大きな古い宝石になると
刻まれている面の数ほども
血生臭い事件を起こしている…
この宝石は発見されてから
まだ二十年にならない
中国南部のアモイ川の岸から出た物で
色が普通のルビーレッドでなく
青い事を除いたら
あらゆる点でガーネットとしての特徴を
備えているというので有名なのだわ…」
49: 2013/03/02(土) 05:06:59.25 ID:PHK+GiV80
真紅 「宝石としてはまだ若いくせに
もう不吉な歴史を持っている…
こんな40グレーンばかりの炭素の結晶が
人頃しを二度 硫酸浴びせを一度
窃盗に至っては数知れずを起こしているとはね
こんな美しいおもちゃが
人を牢獄や絞首台へ送る役目を務めるとは
誰が想像するでしょう
私は金庫へ大切に収めておいて
伯爵夫人に手紙で知らせてやるとするわ」
もう不吉な歴史を持っている…
こんな40グレーンばかりの炭素の結晶が
人頃しを二度 硫酸浴びせを一度
窃盗に至っては数知れずを起こしているとはね
こんな美しいおもちゃが
人を牢獄や絞首台へ送る役目を務めるとは
誰が想像するでしょう
私は金庫へ大切に収めておいて
伯爵夫人に手紙で知らせてやるとするわ」
50: 2013/03/02(土) 05:14:07.70 ID:PHK+GiV80
翠星石 「あの… 真紅はこのウメオカという男に
罪は無いと思いますか」
真紅 「何とも言えないのだわ」
翠星石 「じゃこっちの… ラピスラズリ・スターが…
何か関係しているのでしょうか」
真紅 「ラピスラズリ・スターは
自分が持っている鳥が頭から尻尾まで
金無垢で出来ているより
遥かに高価なのだとも知らずにいた男なのだから
まず犯行とは何の関係も無いと見て
良いでしょう
もっともその点はで本人が来たら
簡単な試験をしてみて
確実な所を決めるつもりだけれどね」
翠星石 「じゃあ それまではなーんもする事が
無い訳ですぅ」
真紅 「無いわ」
罪は無いと思いますか」
真紅 「何とも言えないのだわ」
翠星石 「じゃこっちの… ラピスラズリ・スターが…
何か関係しているのでしょうか」
真紅 「ラピスラズリ・スターは
自分が持っている鳥が頭から尻尾まで
金無垢で出来ているより
遥かに高価なのだとも知らずにいた男なのだから
まず犯行とは何の関係も無いと見て
良いでしょう
もっともその点はで本人が来たら
簡単な試験をしてみて
確実な所を決めるつもりだけれどね」
翠星石 「じゃあ それまではなーんもする事が
無い訳ですぅ」
真紅 「無いわ」
51: 2013/03/02(土) 05:19:42.87 ID:PHK+GiV80
翠星石 「じゃ 私は往診に行きますぅ ←医者
でもこんな難解な事件は
ぜひ解決が知りたいですから
夕方その時刻にはまたやって来るですよ」
真紅 「是非おいでなさい
食事は七時
山鴫の御馳走があるはず
ところで…
最近の事例を配慮して…
のりに山鴫の餌袋を調べるように
頼んでおくのだわ」
******************
でもこんな難解な事件は
ぜひ解決が知りたいですから
夕方その時刻にはまたやって来るですよ」
真紅 「是非おいでなさい
食事は七時
山鴫の御馳走があるはず
ところで…
最近の事例を配慮して…
のりに山鴫の餌袋を調べるように
頼んでおくのだわ」
******************
52: 2013/03/02(土) 05:24:09.72 ID:PHK+GiV80
真紅 「今夜はここでお終いなのだわ」
翠星石 「ですですぅ!
次はいよいよ蒼星石が出てくるですぅ!
だからもう寝るのですよ
翠星石はもう寝ているのです くぅ」
真紅 「お休みなさい翠星石…」
TO BE CONTINUED
翠星石 「ですですぅ!
次はいよいよ蒼星石が出てくるですぅ!
だからもう寝るのですよ
翠星石はもう寝ているのです くぅ」
真紅 「お休みなさい翠星石…」
TO BE CONTINUED
53: 2013/03/02(土) 06:12:31.67 ID:FGyKbmM2T
乙
引用: 翠星石 「青いガーネット」
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります