1: 2011/11/12(土) 15:16:18.42 ID:C9H4P8iJ0
結衣先輩は、私のことが好きですか。

そう訊ねたところで目が覚めた。
夢の中の先輩は、私の問い掛けになんて答えようとしてくれていたのだろう。
夢だとはわかっていてもその答えが気になるし、おまけにかなりいい感じだったわけだ。
はあ、とテーブルに顔を突っ伏したままため息。

夢でなら平気で訊ねられるのに、どうして現実じゃこう上手くいかないんだろう。

あかり「あ、ちなつちゃん目覚めた?」

ちなつ「……ん」
ゆるゆり、

2: 2011/11/12(土) 15:17:56.34 ID:C9H4P8iJ0
顔を上げるとあかりちゃんがちょうど部室の襖を開けて中に入ってきたところだった。

あかり「おはよう」

ちなつ「あ、うん」

身体を起こして少し皺になった制服を調え直す。
うつ伏せになっていたから髪もちょっと変な感じ。
きちんと結い直したほうがいいかも。まだ先輩たちが来ていなくて良かったと思う。

3: 2011/11/12(土) 15:19:26.32 ID:C9H4P8iJ0
私が手櫛で必氏に髪を整えようとしていると、
正面に座ったあかりちゃんが「はい」と持っていたらしい櫛を渡してくれた。

ちなつ「ありがと。今日持って来るの忘れちゃって」

あかり「うん、だと思ったよぉ」

貸してもらった櫛には、誰の髪一本もついていなかった。
さすがあかりちゃんというかなんというか。鞄を探って鏡を取り出し、一旦髪を下ろした。
もっとまっすぐな髪が良かったと思いながら髪をいじくっていると、
あかりちゃんがお茶の用意をしてくれながら「京子ちゃんたち遅いね」と大して気にしている様子もなく呟いた。

5: 2011/11/12(土) 15:20:37.23 ID:C9H4P8iJ0
ちなつ「うん、遅いね」

あかり「掃除終わらせて部室来たらちなつちゃんも寝ちゃってて、どうしようって思ったよぉ」

ちなつ「そのまま入って待っとけばいいんだよ」

あかり「起こしちゃったら悪いし京子ちゃんたちもまだだから居づらいもん」

ちなつ「そう?」

まあ確かに広い部屋で誰かと二人きり。
おまけに一方が眠っていたりするのなら、気まずいのは気まずいかも知れない。
特にその相手が結衣先輩だとすれば……。そこまで考えて、私はだめよチーナ!と自分を窘めた。
眠っている結衣先輩にあんなことやこんなことをしようなんて私ったら。

6: 2011/11/12(土) 15:22:17.85 ID:C9H4P8iJ0
あかり「……ちなつちゃん?」

ちなつ「……な、なんでもないよ」

キャーッ結衣先輩!と自分でも気付かないうちに叫んでいたのだろう。
あかりちゃんが驚いたように私を見ていた。とっくの昔におかしな子と思われてはいるのだろうけど、
これ以上妄想してしまうと私の存在だけでなく私の頭まで色々オーバーヒートして危ないことになっちゃいそうだ。

あかり「あかり、ちょっとびっくりしちゃったよぉ」

あかりちゃんはそう言いながら、私の前に淹れたばかりのお茶を置いた。
立ち上る湯気が温かい。

7: 2011/11/12(土) 15:23:21.08 ID:C9H4P8iJ0
ちなつ「あ、ごめんね、手伝うよ」

あかり「いつも淹れてもらってるんだからたまにはあかりにもやらせて」

ちなつ「じゃあ……わかった」

あかりちゃんが覚束ない手つきでお茶を用意していくのを見ながら、私は元々茶道部志望だったことを思い出した。
元々茶道部に入るつもりでこのごらく部に顔を出し、京子先輩に掴まって。
それで結衣先輩に恋して結局ごらく部に馴染んでしまっている。

運がいいのか悪いのか、だけど結衣先輩に出会えたことだけを抜き出せば私は間違いなく幸運だ。
結衣先輩がごらく部ではなく、茶道部に所属していたらもっと完璧だったのに。

8: 2011/11/12(土) 15:24:06.04 ID:C9H4P8iJ0
そういえば結衣先輩はどうしてごらく部なんかにいるんだろう。
陸上部から勧誘が来てると聞いたこともあるのに。
結衣先輩なら、どんな部活だって上手くやっていけるはずだ。

京子先輩かな。
ふとそんなことを考えた。

あかり「結衣ちゃんたちの分は後ででいいよね」

ちなつ「うん、いつ来るかわからないし」

9: 2011/11/12(土) 15:24:56.39 ID:C9H4P8iJ0
早く会いたいな。結衣先輩、早く来て欲しい。
何も握れない掌が寂しくて、私はあかりちゃんの淹れてくれたお茶を両手で包み込むようにして持った。

あかり「ちなつちゃんのみたいに本格的に淹れたわけじゃないけど」

「うん」頷きながら熱いお茶を口に含んだ。
あかりちゃんがどう?というように真剣な目をして私を見るから、
私はつい一気に飲み干してしまった。

うっ、熱い。

10: 2011/11/12(土) 15:25:35.12 ID:C9H4P8iJ0
あかり「だ、大丈夫……?そんなに急いで飲まなくても」

ちなつ「大丈夫……あかりちゃんが私のことじっと見てくるから」

そう言うと、あかりちゃんが「えっ」と声を漏らして固まった。
それからふいに「あはは……」と乾いた笑いを漏らして。

あかり「ごめんねー」

ちなつ「別にいいんだけど」

あかりちゃんの反応の意味がわからずに、私は首を傾げたまま答えた。
あかりちゃんの言葉には、そんなつもりなかったんだけどというような戸惑いのニュアンスが含まれているような気がした。
あかりちゃんの淹れてくれたお茶は、なんだかとても苦かった。

11: 2011/11/12(土) 15:26:16.97 ID:C9H4P8iJ0
あかり「……二人とも、遅いね」

ちなつ「うん、遅いね」

あかり「ちなつちゃん、寂しくない?」

ちなつ「どうして?」

なんとなくかなぁ、とあかりちゃんは言った。私は、寂しいかな。小さく答えた。
今の私は、夢のせいかそれとも別の理由でかはわからないけど、結衣先輩に会いたくて仕方がなかったから。
あかりもね、寂しいな。
あかりちゃんが言った。

12: 2011/11/12(土) 15:27:02.54 ID:C9H4P8iJ0
あかり「自分でもよくわからないけど、すごく寂しいんだよね」

どうしてかなぁ。あかりちゃんは本当にわからないというように、首を傾げた。
あかりちゃんがわからないんなら私もわかんないよと答えると、
あかりちゃんは本当だねと笑った。

ちなつ「結衣先輩も京子先輩も、遅いね」

あかり「うん、そうだね」

16: 2011/11/12(土) 15:27:46.87 ID:C9H4P8iJ0
結衣先輩は、私のことが好きですか。

夢のことを思い出す。
今すぐ結衣先輩がやってこれば、そう聞けるはずなのに。
私はけれど、きっと結衣先輩だから聞けなくて。
いくらでも伝えることは出来るし、伝える手段もあるのに私は聞くことが怖かった。

あかりちゃんならどうなんだろう。
私はふいに、思った。あかりちゃんになら、聞いてしまうことが出来るんだろうか。

17: 2011/11/12(土) 15:29:25.29 ID:C9H4P8iJ0
ちなつ「あかりちゃん」

あかり「うん?」

ちなつ「あかりちゃんは、私のこと好き?」

いとも簡単に、言葉が出た。
結衣先輩には絶対聞けないのに、あかりちゃんの前ではあまりにも容易く私の声が漏れる。
あかりちゃんは「うん」と頷いた。

18: 2011/11/12(土) 15:33:37.62 ID:C9H4P8iJ0
あかり「あかりはちなつちゃんのこと、好きだよ」

ちなつ「……そっか」

あかりちゃんの返事はなかった。
私は机に突っ伏した。なんだかこのまま、私もあかりちゃんのことが好きだよと言ってしまいそうだと思った。
もちろん、実際言うわけなんてないけど。

あかりちゃんのことを好きになっていれば、私はこんなふうに思わないでいられたんだろうか。
あかりちゃんならきっと、どんな好きでも受け入れてくれそうな気がするから。
あかりちゃんを好きになれば、良かったのかな。

答えなんて出ないし、きっとありえないことだから私は考えることを止めた。
結衣先輩は、私のことが好きですか。
そう訊ねた後の結衣先輩の返事を聞いてみたかった。
私は夢の続きを見るために、そっと目を閉じた。

20: 2011/11/12(土) 15:38:44.10 ID:C9H4P8iJ0

結局、夢の続きを見る前に本物の結衣先輩たちが部室に来て、いつもの
活動しているのかしていないのかよくわからない活動をしてから私たちは学校を出た。

結衣「もうそろそろ秋だなあ」

京子「みんなで紅葉見に行こうぜ!」

あかり「あっ、楽しそう!」

立ち止まった結衣先輩に釣られたように私たちも立ち止まる。
見上げた木々が緑から赤や黄色に、色を変えかけているところだった。

もうそろそろ秋なんだなあ。
私は結衣先輩の言葉をそっくりそのまま、反芻した。

21: 2011/11/12(土) 15:42:20.18 ID:C9H4P8iJ0
>結衣「もうそろそろ秋だなあ」

結衣「もうそろそろ秋なんだなあ」

22: 2011/11/12(土) 15:47:06.55 ID:C9H4P8iJ0
結衣先輩と出会ってもう半年だ。
なのに、私はいつまで経ってもただの後輩のままだし、欲張っても仕方ないとは
わかっているけど少しだけ不満だった。

不満というよりも、不安だった。

結衣「京子は花より団子だろ」

京子「紅葉は花じゃない!団子くれ!なければラムレーズン!」

結衣「意味わからん」

夏休みも終わって二学期が始まり、それでも私が結衣先輩と過ごした時間は
京子先輩やあかりちゃんよりも圧倒的に少ない。
だから私なんていつまで経っても結衣先輩とあんなふうに話せないんじゃないかと
思って不安になる。

ちなつ「……」

あかり「ちなつちゃん?」

23: 2011/11/12(土) 15:51:30.91 ID:C9H4P8iJ0
先輩二人から目を逸らすと、今度はあかりちゃんとばっちり目が合ってしまった。
あかりちゃんは不思議そうに私を見ていた。

あかり「どうかした?」

ちなつ「えっ……ううん、なんでもないよ」

私は笑ってみせた。
こんなふうに弱気になっちゃうのはきっと、すごく眠いせいだ。
夢がすごく微妙なところで途切れてしまっているから。

結衣「ちなつちゃんは」

ちなつ「へっ!?」

突然結衣先輩に声をかけられて、私は驚いて振り向いた。
結衣先輩は京子先輩に絡め取られた腕を引き抜こうとしながら、言った。

結衣「ちなつちゃんは、紅葉見に行きたい?」

25: 2011/11/12(土) 15:58:48.93 ID:C9H4P8iJ0
ちなつ「……はいっ、行きたいです!」

きっと、これは夢のせいだ。
私は思う。

精一杯の声を出して、私は頷いた。
結衣先輩が「そっか、わかった」と言って笑った。

一緒にいる時間が短くったって、それでも今、私はこうして結衣先輩の傍に
いられる。
こうして誘ってくれるし、だから私はすごく幸せだ。
夢のせいである妙な恐怖感は、そう思うことによって徐々に薄れていった。

32: 2011/11/12(土) 16:27:28.21 ID:C9H4P8iJ0
―――――
 ―――――

どうして結衣先輩のことを好きになったのか、と聞かれればきっと私はすぐにでも
答えられると思う。
そう思うのに、今考えてみればよくわからなかった。

優しいから?
かっこいい先輩だから?

考えれば考えるほど、私の中でクエスチョンマークが増えていき、眠れなくなる。
最近の私はいつもこうだった。

33: 2011/11/12(土) 16:31:49.67 ID:C9H4P8iJ0
考えれば考えるほど深みにはまっていく。
面倒なことだと思う。

大人になった証なのかもしれないけど、あまりいいことではないような気がした。
だって、結衣先輩に抱きついてみるときですら、そんなことを考えてしまっているのだから。
私ってこんなにくよくよした性格だったっけ。
布団を頭までかぶりなおす。

結衣先輩の夢、見れるかな。

そう思ったとき、枕元で携帯が震えた。
あかりちゃんからの、どうでもいいようなメールが届いていた。

35: 2011/11/12(土) 16:40:37.15 ID:C9H4P8iJ0
そのメールにいちいち返信していると、今まで襲ってきていた眠気が
一気に覚めていった。

ちなつ「……ほんと、あかりちゃんなら良かったなあ」

ぽつりと呟いた言葉は、文字にはならずに暗い部屋の中へと吸い込まれていく
だけだった。

36: 2011/11/12(土) 16:42:52.81 ID:C9H4P8iJ0

あかり「また今日も一段と寒くなってきたねぇ……」

子犬のように震えながら、あかりちゃんが言った。
私もそうだねーと返事をしながら腕をさする。
ようやく昨日、長袖に衣替えしたばかりだというのに下手したらもう明日くらいから
コートが必要なんじゃないかって思うくらいの寒さだ。

ちなつ「この分じゃ紅葉なんてすぐ終わっちゃいそう」

あかり「ほんとだぁ」

外を見ながら、あかりちゃんは小さく笑い声を上げた。

39: 2011/11/12(土) 16:49:43.78 ID:C9H4P8iJ0
ちなつ「早いよねー」

あかり「うん、ほんと早いよねぇ」

頷きながら席に着いて。
あかりちゃんが「なんだかこんな話してるとちょっと大人になった気分だね」と
笑う。

実際、私たちは今も成長過程。
これからもどんどん色々なことを吸い込んで大きくなってくのよとテレビの誰かが
言っていたことを思い出した。

でも、大人になるってどういうことなんだろう。
私も、きっとあかりちゃんももっともっと大人になっていって。
そうしたら、どうなるんだろう。

48: 2011/11/12(土) 17:21:51.22 ID:C9H4P8iJ0
あかり「大人になったらわかるかなぁ」

ふいにあかりちゃんが言った。
私は机の前に立ったままのあかりちゃんを見上げた。

ちなつ「なにが?」

あかり「……今ね、わからないことがあるから」

ちなつ「それってどんな?」

あかり「わからないけど、わからないから」

早く大人になって、わかればいいなって思うんだぁ。
私はわからなくてもいいことだってあるんだよ。そんな言葉を飲み込んで、
俯いた。
結衣先輩を好きになってから、私は随分と色んなことを知ってしまった気がする。

51: 2011/11/12(土) 17:29:01.86 ID:C9H4P8iJ0
自分の嫌なところも、好きにならなきゃよかったと思ってしまったときの気持ちや、
そんなのばかり。
もちろん、結衣先輩に恋したことを後悔しているわけじゃないけど。

ちなつ「……私も、早く大人になりたいな」

俯いたまま、私は言った。
もうこのままさっさと大人になって、この気持ちの上手な処理の仕方を教えて欲しい。
教えられることじゃないのなら、知ってしまいたい。

結衣先輩は、私のことが好きですか。

そうしてそんなふうに、訊ねてしまえればいいのに。

56: 2011/11/12(土) 17:51:13.70 ID:C9H4P8iJ0
大人になったら、怖いことなんてなくなってしまうはずだから。
どんな返事がかえってきたって、怖いことなんてきっとない。

あかり「……えへへ」

ちなつ「どうしたの?」

あかり「ううん、ちなつちゃんもあかりと一緒なんだなぁと思って」

ちなつ「……そうだね」

一緒なのかどうかは分からないけど、誰だって大人になりたいとは思っているだろう
から。
だけどあかりちゃんは、嬉しそうに笑った。嬉しそうに笑ってすぐ、私から顔を
逸らしてしまった。それっきり、その話題にはどちらも触れなかった。

58: 2011/11/12(土) 17:59:20.62 ID:C9H4P8iJ0
最後まで繋がる気がしない……
こんな状態で続けてもつまらないものしか書けないので一旦打ち切ります
スレ立てたのに最後まで書けずすいませんでした

62: 2011/11/12(土) 18:03:07.53 ID:CiQ4IKmg0
まあ乙

引用: ちなつ「あかりちゃんは、私のこと好き?」