1: 2011/11/03(木) 09:55:34.38 ID:H6NziGgQ0
「あかりちゃんは恋したことある?」

そう訊ねられたのはいつだっただろう。
確か、夏休みに入るその直前。好きな人はいっぱいいる。でも、その気持ちが
恋愛感情なのかどうかと聞かれれば、途端にわからなくなった。

みんなのことが大好き。
でも、その好きはきっと、恋愛感情としての好きじゃない。
好きっていうのは、どういうことなんだろう。

ちなつ「あかりちゃん、どしたの?」

ゆさゆさと肩を揺すられてはっとする。
ちなつちゃんが不思議そうに私を見ていた。

あかり「あ、えっと、考え事してたんだぁ」

ちなつ「ふーん、珍しいね」

あかり「ひどいよっ!?」

ごめんごめんと笑いながら、ちなつちゃんは「はい」と鞄を差し出してきた。
それを受取って、そういえばもう放課後なのだということを思い出す。
ゆるゆり、

3: 2011/11/03(木) 09:56:47.21 ID:H6NziGgQ0
ちなつ「さあ、今日も気合いれなきゃね」

立ち上がって教室を出ると、ちなつちゃんはそう言って意気込んだ。
なにが、と訊ねようとしてなんとなく察する。
「あかりちゃんは恋したことある?」と訊ねてきたのは紛れもなくちなつちゃん。
そのときちなつちゃんは、「私は結衣先輩が好きなの」と言っていた。

あかり「……」

そっかぁ。
ちなつちゃんは、恋してるんだなぁ。

4: 2011/11/03(木) 09:57:10.75 ID:H6NziGgQ0
あかり「結衣ちゃんにアタックしなきゃだね!」

ちなつ「もちろんよ!絶対振り向かせてやるんだから!」

打倒京子先輩よ!
びしっと決めポーズをするちなつちゃん。
改めて好きな人のために色々としようとしているちなつちゃんを見ていると、
本当に可愛いと思う。

ちなつ「どうしたの?」

あかり「ちなつちゃん、可愛いなぁって」

ちなつ「な、なに言ってるのあかりちゃん!?なんか変だよ今日!」

あかり「えへへ、そうかなぁ」

変といえば、きっと今日だけではないと思う。
恋したことがあるかと訊ねられたあの日から、
ずっとこんなことばかり考えてるのだから。

5: 2011/11/03(木) 09:57:51.65 ID:H6NziGgQ0
ちなつ「まああかりちゃんが恥ずかしいこと言うのはいつものことだけど」

あかり「そうかな?」

ちなつ「そうだよ」

不満げな顔をしながらちなつちゃんが言い、私は首を傾げた。
うーん、恥ずかしいことってたとえばなんだろう。
あかり、他の子と感覚ずれちゃってるのかなぁ。

ちなつ「でも櫻子ちゃんや向日葵ちゃんみたいにツンツンしてるよりはいいと思うけど」

あかり「そっかぁ」

いつのまにか部室の前。
ちなつちゃんはもう一度「よしっ」と気合を入れなおして、部室の扉に手をかけた。

ガチャッ
ガチャッガチャッ

ちなつ「……」

あかり「……」

ちなつ「開かない」

あかり「開かないね」

鍵がかかっていて、扉はまったく動こうとはしなかった。
まだ結衣ちゃんや京子ちゃんは来ていないのだ。

7: 2011/11/03(木) 09:58:30.47 ID:H6NziGgQ0
ちなつ「なんだー、結衣先輩まだなんだ……」

あかり「みたいだねぇ」

二年生は帰りのホームルームが短いから、いつも私たちよりもうんと早く部室に
来て待っているのに。
二人が鍵を持っているから、二人が来なければ部室に入れない。

ちなつ「待っとく?」

あかり「待っとこっか」

ちなつ「はあ……早く結衣先輩に会いたかったのになあ」

壁際にずるずると座り込みながら、ちなつちゃんが言った。
私もちなつちゃんの隣に並ぶ。

ちなつ「今日はよりにもよって体育あったからくたくたなのにー」

あかり「結衣ちゃんに癒してもらえるの?」

ちなつ「好きな人と話してたら疲れとかそんなことだってどうでもよくなるもん」

あかり「そういうものなんだぁ」

ちなつ「そういうものなの」

8: 2011/11/03(木) 09:59:07.91 ID:H6NziGgQ0
ふーん、と相槌。
私にはよくわからない。よくわからないけど、ちなつちゃんがそう言うんだったら
きっとそうなんだろう。

あかり「いいなぁ」

ちなつ「なにが?」

あかり「恋してるって、いいなぁって」

ちなつ「うん、いいよ」

あかり「あかりも誰かに恋できるかなぁ」

ちなつちゃんは「さあ」と言って黙り込んで。
もちろん相手がいないといけないっていうのは充分わかっている。
でも、ちなつちゃんを見ていると、あかりもしてみたいなぁなんて思ってしまうのだ。

ちなつ「まあそのうち、できるんじゃない?」

あかり「うん」

ちなつ「急ぐことでもないよ」

あかり「うん」

ちなつ「……なんて、私が言えたことじゃないんだけどね」

9: 2011/11/03(木) 09:59:41.63 ID:H6NziGgQ0
どういうこと?とちなつちゃんを見る。
ちなつちゃんはその口許に苦い笑みを浮かべながら、
「私も急いでなかったわけじゃないんだよね」と。

あかり「ちなつちゃんも急いでたの?」

ちなつ「うん、好きな人が欲しかったんだよね」

あかり「すぐに作れるんだね」

ちなつ「そうかもね、作ろうと思えばすぐ作れるよ。でもさ、あかりちゃん」

あかり「うん?」

ちなつ「作るものじゃないんだよね、好きな人なんて」

あかり「それじゃあちなつちゃんは結衣ちゃんが」

ちなつ「違うよ!結衣先輩のことは本当に好きだもん」

あかり「あ、うん……そうだよね」

ただね、とちなつちゃんは溜息を吐くように漏らした。
たまーに、この好きってどういう好きなのかな、なんて考えちゃうんだ。

あかり「……」

ちなつ「……」

11: 2011/11/03(木) 10:00:24.91 ID:H6NziGgQ0
あかり「そっかぁ」

ちなつ「私はちゃんと恋のつもり」

あかり「うん」

ちなつ「でも、これって本当にそうなのかなって、時々不安になっちゃう」

そこまで言ってから、ちなつちゃんはいつもの顔に戻った。
いつもの強気で勝気な。
私は「恋ってどんなのだろうね」と呟いた。ちなつちゃんは「わかんない」と答えた。

それから結衣ちゃんたちがきて、いつもどおりの部活の時間。
ちなつちゃんはいつもみたいに「結衣先輩!」と抱きついていった。
その姿を見ながら、ちなつちゃんはあんなことを言っていたけどやっぱり
本当に好きなんじゃないのかなぁと思った。

だって今のあかりには、好きの基準を知らない。

13: 2011/11/03(木) 10:01:23.18 ID:H6NziGgQ0
―――――
 ―――――

それから数日後のことだった。
放課後、帰り道。後から遅れてやって来たちなつちゃんは、なんだかひどく
暗い顔をしていて。

京子ちゃんが「どうしたの?」と訊ねたって首を振って何も言わない。
何も言わないし、ずっと泣きそうな顔をして黙り込んでいた。

京子「もしかしてさ、結衣となにかあった?」

その様子に何か悟ったのか、京子ちゃんが言った。そういえば、後からちなつちゃんと
一緒に来るはずだった結衣ちゃんがいなかった。

ちなつ「べ、べつになんでもないです……!」

一瞬驚いたように固まったちなつちゃんだったけど、すぐに頑なに首を振った。
京子ちゃんが困ったように私を見る。
その視線に何も答えられないまま、それから私たちは無言で歩いて。

ちなつ「……それじゃあ」

いつのまにこんなところまで来ていたのか、ちなつちゃんに何も訊ねられないまま、
私たちはいつもの別れ道へと来てしまっていた。
ちなつちゃんは顔を上げようともしないまま、そう言って背を向けようとした。

14: 2011/11/03(木) 10:01:48.80 ID:H6NziGgQ0
京子「あ、ちなつちゃん!」

それを、京子ちゃんが引き止める。
私はこんなちなつちゃんを引き止める勇気がなかったから、京子ちゃんがそうしてくれて
少し安堵した。

ちなつ「なんなんですか」

京子「いや、あのさ……あかりが」

あかり「あかりっ!?」

突然名前を出されて驚く。
京子ちゃんはそれを無視して続けた。

京子「どうせ私には何も話してくんないでしょ?でもあかりならなんでも聞いてくれっからさ」

そう言いながら、京子ちゃんはちなつちゃんの肩を掴んで私のところへと
ちなつちゃんの身体を押した。

ちなつ「京子先輩?」

京子「なにかなかったらべつにいいけど、あかりと一緒に帰ったら?」

ちなつ「でもあかりちゃんと方向が」

京子「あかりが送ってくれる」

あかり「えっ!?」

15: 2011/11/03(木) 10:02:33.20 ID:H6NziGgQ0
聞いてないよぉ、と言う前に京子ちゃんは「じゃ、また明日」と手を振った。
きっと京子ちゃんなりのちなつちゃんへの気遣い。
でも私のことも少しは考えて欲しい。ちなつちゃんと一緒に帰るのが嫌なわけでは
ないけど、今のちなつちゃんと一緒にいるのは少し辛い。

あかり「あの、ちなつちゃん……」

京子ちゃんが見えなくなって、周りは私たち二人だけ。
黙り込んだちなつちゃんの隣にいるのは私一人で、必然的に自分から話しかけなきゃ
いけないことになる。いつもだったらすらすら言葉が出てくるのに。

ちなつ「……あかりちゃん」

あかり「へっ!?」

ちなつ「ほんとに、一緒に帰ってくれる?」

一瞬迷いながらも、こくこくと頷いた。
一人にしてほしい、と言われなくてほっとする。
けど、一緒にいるのは辛いはずなのに一人にしてほしいと言われるのも嫌なんて、
なんだか矛盾してるよね。

16: 2011/11/03(木) 10:03:00.29 ID:H6NziGgQ0
あかり「ちなつちゃんさえ、嫌じゃなければ」

ちなつ「そっか」

あかり「うん、そうだよ」

わかった、というようにちなつちゃんがこくっと頷いて、先に立って歩き始める。
私はその後をついていくべきなのかそれとも追いついて隣を歩くべきなのか迷って躊躇い、
それから結局後ろをついていくことにした。

二歩ほど離れ、斜め後ろ。
ちなつちゃんのふさふさした髪の毛が揺れ、綺麗な項が見える。
それを見ながら、ちなつちゃんは本当に可愛いなぁと思った。恋する乙女って
感じだよね。ちなつちゃんの様子なんて忘れて、そんなことを考えて。

ちなつ「……話したくないわけじゃないんだよ」

あかり「えっ、うん」

数分間無言で歩いて、そしてふいにちなつちゃんは口を開いた。
「でも自分でもなんて言えばいいかわからないっていうか」
そう、ちなつちゃんは言って立ち止まる。

ちなつ「ちょっと寄り道してもいいかな?」

17: 2011/11/03(木) 10:03:25.58 ID:H6NziGgQ0

ちなつちゃんのいう寄り道は、近くの公園だった。
もう夕暮れ時だからか、人の姿はあまりない。たまにジョギングの人や、犬の散歩を
しにくる人の他、だからひっそりと静かで。

ちなつ「ごめんね」

あかり「ううん、いいよ」

奥のベンチに座りながら、首を振る。
飲み残してしまっていた水筒のお茶を鞄から取り出して、口に含む。
魔法瓶のはずが、朝の頃より少しぬるかった。

ちなつ「京子先輩も意外といいとこあるんだよね」

あかり「京子ちゃんはいい子だよ」

ちなつ「どうだろ……」

あかり「結衣ちゃんもいつも京子ちゃんは――」

言いかけて、はっとする。
そういえば結衣ちゃんとは一緒に帰って来てないし、結衣ちゃんと何かあったから
ちなつちゃんは元気なくて、だったら今結衣ちゃんの話題出したら。

あわあわと話題を変えようとしたとき、ちなつちゃんは「私さ」となんの感情も
読み取れない声で。

18: 2011/11/03(木) 10:04:24.21 ID:H6NziGgQ0
ちなつ「私さ、結衣先輩に告白したの」

あまりにも突然だったから、間抜けな声で間抜けな顔をして「へ?」と言うことも
出来なかった。
ただぽかんとちなつちゃんを見るだけ。ちなつちゃんはそれにも気付いていないのか、
隣に置いた鞄についているキーホルダーを指で弄びながら続けた。

ちなつ「そしたら振られちゃった」

あかり「振られたって……」

だからちなつちゃんはこんなに元気ないのだろうか。
だとしたら私は、あかりはどうすればいいんだろう。
あんなに可愛いちなつちゃんが、こんなに暗い顔をしちゃっているのに、
私は何も出来ずに、何もわからずに、知らないうちにぎゅっとこぶしを握り締めることしかできなかった。

19: 2011/11/03(木) 10:04:48.36 ID:H6NziGgQ0
ちなつ「でも、変なんだ、私。全然悲しくないんだよね。悲しくないわけじゃ、ないと思うけど」

ちなつちゃんの手の中にあるキーホルダー。
それが嫌な音をたてた。外れるよ、そう声をかけるまえに、そのキーホルダーと鞄を繋げていた
紐はぷつんと切れた。

ちなつ「私、この前あかりちゃんと話してたときからずっと考えてた」

あかり「うん……」

ちなつ「ほんとに好きなのかな、とか、そんなこと。でも、ちゃんと結衣先輩への
    気持ちを信じたかったから、それなら告白しちゃえばいいって思って」

あかり「だから……?」

ちなつ「うん。でも、だめだったんだよね、わかんないの、悲しいけど悲しくなくって」


こんなふうに感じちゃう自分が一番、悲しいの。


20: 2011/11/03(木) 10:05:14.02 ID:H6NziGgQ0
ちなつちゃんはそう言って、居場所をなくしてしまったキーホルダーを
ぐっとそのてのひらの中で握り締めた。

あかり「……」

ちなつ「私ね、ちゃんと結衣先輩のこと好きだったんだよ?ほんとだよ?」

あかり「ちなつちゃん……」

ちなつ「でも私、恋してる自分が好きだったのかなとか、そんなことも思っちゃって」

「よくわかんない」とちなつちゃんはベンチに背中を預けた。
切れた紐がベンチの下に落ちて、見失う。私は「でも」と聞こえるか聞こえないかの声で
言った。聞こえていませんように、とも思って、聞いてくれますように、とも思った。

あかり「ちなつちゃん、ほんとにちゃんと、恋してたよ。あかりにはそう見えたもん」

ちなつ「……」

あかり「あかりはそんなちなつちゃんを見てるのが好きだったんだもん」

24: 2011/11/03(木) 10:14:38.21 ID:H6NziGgQ0
私はそんなちなつちゃんをずっと見ていたから、だからちなつちゃんの好きは
きっと、違うなんてことはないよ。ちゃんと、恋だったんだよ。

私がこんなこと言ったって説得力なんてなくって、よけいにちなつちゃんを
混乱させてしまうだけなのかもしれないけど。
どうしても、言わずにはいられなかった。

あかり「だから」

ちなつ「……あかりちゃんが言うんだから、そうかもしれないね」

あかり「……うん」

ちなつ「そっかあ、私やっぱり結衣先輩が好きだったんだなあ」

小さく笑いながら、ちなつちゃんは首をかくんと空へ向けた。
あれ、おかしいな。
ちなつちゃんの泣いているところを見るのは今までだってあったのに。
今のちなつちゃんは、なんだかとても、綺麗に見えた。ちなつちゃんが泣いていると
私まで苦しくなってくるのに、そんな姿を、ずっとずっと見ていたいなんてことを
思ってしまった。

25: 2011/11/03(木) 10:17:30.11 ID:H6NziGgQ0
―――――
 ―――――

ちなつ「ありがとね、あかりちゃん」

あかり「ううん。すっきりした?」

ちなつ「うん、した」

もうすっかり暗くなってしまった道を、頷きながら振り返る。
ちなつちゃんは腫れぼったい目をしたまま、「こんなに暗いけど大丈夫?」と
心配そうに言った。

あかり「平気だよ」

ちなつ「送る?」

あかり「それじゃああかりが送った意味ないよぉ」

ちなつ「あ、それもそうか」

27: 2011/11/03(木) 10:27:23.62 ID:H6NziGgQ0
ぽんっと手を叩いたちなつちゃんに、もう一度平気だよと伝える。
そっかと言いながらも、やっぱりちなつちゃんは不安げに、
「そこの道まで一緒に行くよ」と言ってくれた。そのちなつちゃんの様子が、
何か言いたそうな気がして私ももう何も言わなかった。

ちなつ「変なとこ見せちゃったなあ」

あかり「大丈夫だよぉ」

ちなつ「やな子だとか、変な子だとか、思った?」

あかり「ううん、そんなこと思ってない」

ちなつ「じゃあ……ちゃんと明日からも友達でいてくれる?」

30: 2011/11/03(木) 10:29:47.43 ID:H6NziGgQ0
>>27
>そっかと言いながらも、やっぱりちなつちゃんは不安げに、
「そこの道まで一緒に行くよ」と言ってくれた。

そっかと言いながらも、やっぱり結局ちなつちゃんは不安げに、
「そこの道まで一緒に行くよ」と言ってくれた。

32: 2011/11/03(木) 10:35:34.07 ID:H6NziGgQ0
「そこの道」の突き当たり。角を曲がればもっと暗い道に繋がっている。
一人で帰るには少し心細い。
私は「当たり前だよ」そう言って笑った。

ちなつ「……そっか」

あかり「あかりとちなつちゃんは、一番のお友達だもん」

ちなつ「……うん、ありがと」

ようやく、ちなつちゃんは安堵の表情を浮かべてくれた。
そうだよ、私たちは一番のお友達。
ちなつちゃんが辛い時、悲しい時、ずっと一緒にいるよ。一緒にいたいよ。

37: 2011/11/03(木) 10:45:26.28 ID:H6NziGgQ0

ちなつちゃんは滅多に結衣ちゃんに近付かなくなった。
それでもちゃんと話す時は話すし、結衣ちゃんもやっぱり優しいまま。
そのことでまたちなつちゃんが落ち込んでないかとか不安になったりしてしまうけど、
今のところは大丈夫らしい。

京子「……ちなつちゃん、ちょっと変わった?」

あかり「うん……」

お茶を汲みにいったちなつちゃんの背中を追いかけながら、京子ちゃんがぽつりと
言う。宿題をしていた結衣ちゃんが、一瞬だけその手を止めたのを京子ちゃんは
見逃さない。

京子「やっぱなんかあったな」

結衣「なんもない」

京子「だってさ、なんかちなつちゃん、違うもん!こう、パーッとしない!」

39: 2011/11/03(木) 10:46:03.21 ID:H6NziGgQ0
また無言離席になるかもしれんごめん

41: 2011/11/03(木) 10:50:14.62 ID:H6NziGgQ0
その言葉に、少しドキッとした。
確かに結衣ちゃんを好きだと言っていたときのちなつちゃんはすごく可愛くて。
私はそんなちなつちゃんを眺めているのが楽しかった。

今のちなつちゃんは、少し違う。
いつものちなつちゃんなのに、京子ちゃんの言葉を借りれば「パーッ」としていなくて
それなのにやっぱり私は目が離せない。

京子「なんか前は落としてやる!って感じだったのにさ、守りたくなるっていうか」

結衣「……あっそ」

パタンと結衣ちゃんは広げていたノートと教科書を閉じた。
その様子は少し怒ってるようにも見えて。

42: 2011/11/03(木) 10:55:25.47 ID:H6NziGgQ0
ちなつ「あのー、お茶が入りました」

空気が少し重くなった。
そのとき、ちなつちゃんがそろそろと四人分のお茶を持って顔を覗かせた。
私は慌てて立ち上がって、「あかりも持つよ!」と手を差し出す。

ちなつ「えー、大丈夫だって」

あかり「ううん、あかりも手伝う!」

ちなつ「そ、そう?」

今の会話の余韻なのか、少し後ろめたい気分になって私は半ば無理矢理ちなつちゃんから
お盆を受取る。
結衣ちゃんは宿題を鞄にしまいながら、「ありがと」と、たぶんちなつちゃんに向けて
そう言った。ちなつちゃんは「はいっ」ととびっきり嬉しそうに頷いた。

47: 2011/11/03(木) 11:20:57.64 ID:H6NziGgQ0
京子「……」

京子ちゃんがわざとらしく溜息を吐いたのがわかった。
ちなつちゃんはたぶん、無理してるわけじゃないと思う。けどどこか危なっかしい。
そんな気がして、やっぱり少し心配で。

あかり「ねえ、ちなつちゃん」

ちなつ「ん?」

それぞれの座っている前にお茶を置いていきながら、私はさりげない口調で
呼びかけた。ちなつちゃんはいつもの席に座りかけたまま、私を見る。
嘘をつくのは苦手。けど、今はなんだかちなつちゃんのために嘘をつかなきゃ
いけない気がした。

あかり「あのね、今教室に忘れ物したこと思い出して。一緒に着いて来てくれないかなぁって」

48: 2011/11/03(木) 11:23:24.00 ID:H6NziGgQ0
結衣「あかりが?珍しいね」

結衣ちゃんが言葉通りの顔をして私を見た。京子ちゃんも「いってらー」と
ぱたぱた手を振る。ちなつちゃんだけはきょとんと一瞬固まって。
「うん、いいけど……」と頷いた。

49: 2011/11/03(木) 11:26:54.73 ID:H6NziGgQ0

ちなつ「あかりちゃん、絶対嘘吐くの下手なタイプだよね」

あかり「えっ」

部室を出て、二人で歩きながらちなつちゃんがぽつりと言った。
確かにすぐに顔に出しちゃうタイプかもしれないけど。

ちなつ「でも、もしかして私もそうだった?」

廊下の突き当たり、階段を軽い足取りで上り始めながら、ちなつちゃんが言った。
私はここで何がと言っても仕方ないことを悟って、「うん」と頷いた。
「そっかー」
ちなつちゃんが「私も嘘吐けないのかー」呟いた。

51: 2011/11/03(木) 11:29:34.04 ID:H6NziGgQ0
あかり「聞いてたよね」

ちなつ「ていうか聞こえてた」

わざと京子先輩、あんなこと言ったんじゃないかな。
ちなつちゃんは階段を上り終わると、踊り場で私を待ちながらそう言った。
「わざと?」と首を傾げる。ちなつちゃんはそれには答えなかった。

ちなつ「今の私、全然可愛くないよね」

53: 2011/11/03(木) 11:34:20.01 ID:H6NziGgQ0
あかり「そんなことはないよ」

ちなつ「でもパーッとしない、でしょ?」

私は何も言えずに階段の手すりをぎゅっと掴んだ。
あと三段、あと二段――。
階段を上る足が、突然重くなる。

ちなつ「結衣先輩に振られちゃってからね、私でもそう思うんだ」

あかり「……」

ちなつ「今までの私もね、好きな人がいたから、あんなに楽しくてあんなにわくわくしてたのかなって」

それがほんとの気持ちじゃなかったとしても。
ちなつちゃんはぽつりと付け足す。

55: 2011/11/03(木) 11:39:38.57 ID:H6NziGgQ0
ちなつ「ねえ、あかりちゃん」

あかり「……なに?」


ちなつ「私、好きな人作るね」


「ちょっと頑張っちゃう」とちなつちゃんは笑って、まだ追いつかない私を
置いてまた先に階段を上って行ってしまう。ほんとは教室に用なんかないのに。
私はいいのかな、と思った。思ったけど、口には出せなかった。

98: 2011/11/03(木) 17:18:51.98 ID:FjxeqMqy0

ちなつちゃんは作ろうと思えばすぐに作れるといっていた、好きな人。
確かに恋してるちなつちゃんは可愛くて、大好きだけど。
でも、無理してでも恋なんてするものなのかな。

あかり「……」

あかね「あかり、入ってもいーい?」

家に帰り着きなんとなく一人になりたくて部屋でぽつりとしていたら、しばらくして
こんこんとノックの音がした。
お姉ちゃんの声がドア越しに聞こえる。

101: 2011/11/03(木) 17:21:33.84 ID:FjxeqMqy0
あかり「うん、いいけど……」

バイトから帰って来たところなのかもしれない。
薄いお化粧を残したまま、お姉ちゃんが「それじゃあお邪魔します」と嬉しそうに
中に入ってくる。

あかり「どうしたの?」

あかね「あかりとお話したいなーと思って」

あかり「えへへ、いつもお話してるのにー」

ふふっと笑いながらお姉ちゃんは私のベッドに腰掛けた。
ゆっくりした仕草で、シーツの皺を直してくれる。

103: 2011/11/03(木) 17:25:51.67 ID:FjxeqMqy0
あかね「妹とお話したいって思うのは当然でしょ?」

あかり「うん……」

私はお姉ちゃんの言葉に頷いて、くるくると椅子をまわした。
私たちは家族で、たくさんお話したって飽きなくて、お姉ちゃんのことも、もちろん
お母さんやお父さんのことも大好きで。でもこの好きも、やっぱり恋とは違う好きなのかな。

あかり「お姉ちゃんはあかりのことが好き?」

あかね「えっ!?」

あかり「好きなら、それって、どんな好き?」

あかね「あ、あかり……?」

105: 2011/11/03(木) 17:35:14.97 ID:FjxeqMqy0
お姉ちゃんはうろたえたような声を出しながらも、私と視線がぶつかると
小さく息を吐いた。

あかね「……急にそんなこと言うから驚いたわ」

あかり「ごめんね」

あかね「あかり、誰か好きな子でもできたの?」

私は黙って首を振る。
それさえわからないから、こうして聞いてるというのに。

111: 2011/11/03(木) 17:56:19.71 ID:FjxeqMqy0
あかり「そんなわけ、ないよぉ」

あかね「そう……」

お姉ちゃんは一瞬だけほっとした表情をして、
それから「あかりのこと、大好きよ」と私の身体をぎゅっと後ろから包み込んでくれる。

あかり「……えへへ」

あかね「きっと好きの種類っていっぱいあるけど、難しく考える必要なんてないと思うわ」

お姉ちゃんはそう言ってふふっと笑った。
「好きなら好き、それでいいじゃない」

114: 2011/11/03(木) 18:02:02.22 ID:FjxeqMqy0
あかり「……うん、そうだね」

あかね「無理に友情にすることも愛情にすることもないって思うな。あなたたちはまだ
    中学生なんだから、急ぐ必要なんてどこにもないわ」

あなたたち。
お姉ちゃんを見上げると、お姉ちゃんはにこにこと笑っていた。

あかね「吉川さんから聞いちゃった。妹のちなつちゃんが恋したい恋したいって家で
    いつもそればっかりだって」

あかり「……そうなんだ」

あかね「あかりはちなつちゃんのこと、どう思う?」

116: 2011/11/03(木) 18:09:25.08 ID:FjxeqMqy0
突然、お姉ちゃんが真剣な顔をして私を見た。
私はふっと目を逸らす。お姉ちゃんの香りが一層強くなった気がした。

あかり「いい子だよ」

あかね「あかりもいい子よ!」

あかり「えへへ……それからね、とっても可愛い子なの」

恋してるちなつちゃんは、とっても可愛い。
でも、恋していないちなつちゃんも、ちゃんと可愛い。けど「パーッ」としないのは、
ちなつちゃんが自信なさげだから。

あかり「とっても可愛くって、優しくって、いつも自信満々なあかりの大事なお友達」

あかね「えぇ」

117: 2011/11/03(木) 18:10:21.27 ID:FjxeqMqy0
>けど「パーッ」としないのは、ちなつちゃんが自信なさげだから。

「パーッ」としないのは、 ちなつちゃんが自信なさげだから。


119: 2011/11/03(木) 18:16:18.65 ID:FjxeqMqy0
あかり「ちなつちゃん、今日ね、好きな人作るって言ってたの」

あかりはそれがいや?
お姉ちゃんが言って、私はこくっと頷いた。

あかり「ちなつちゃん、そんなことしたらもっと傷付いちゃうだけだもん」

あかね「どうして?」

あかり「わかんないけど、そう思うの……あかりはちなつちゃんのためにどうすればいいの?」

お姉ちゃんの手が、優しく私の頭を撫でてくれる。
答えはなかった。ただ、私を落ち着かせるために、お姉ちゃんは私の頭を撫でてくれる
だけだった。

122: 2011/11/03(木) 18:24:57.39 ID:FjxeqMqy0
―――――
 ―――――

ちなつちゃんは前に、恋してる自分のことが好きだったのかなと言っていた。
ちなつちゃんにとって、好きの気持ちはどういうものなんだろう。
もしその気持ちがちなつちゃんの自信に繋がっているのだとすれば、私は。

ちなつ「京子先輩、おはようございますっ」

京子「えっ、なに急に?」

ちなつちゃんが以前結衣ちゃんにしていたように、京子ちゃんに思い切り抱きついているのが
見えた。さすがの京子ちゃんでも戸惑っているみたいだ。思わず立ち止まってその様子を
見ていると、後ろからやってきた結衣ちゃんが同じように呆然と立ち尽くした。

125: 2011/11/03(木) 18:34:41.06 ID:FjxeqMqy0
結衣「……何があったの」

おはようの挨拶も抜きに、結衣ちゃんが呟いた。
私も「わかんないよぉ……」と首を振る。
本当は、わかっているような気もするけれど。

ちなつちゃんの作った好きな人は、京子ちゃん。

あかり「……」

結衣「……でもちなつちゃん、元気そうで良かった」

あかり「え?」

127: 2011/11/03(木) 18:38:10.53 ID:FjxeqMqy0
ぽつりと漏らされた結衣ちゃんの声に、私はそっと結衣ちゃんの表情を窺った。
視線は少し前で京子ちゃんに抱きつきまわるちなつちゃんに向けられているのか、
それとも普段とは逆にちなつちゃんから逃げ回る京子ちゃんに向けられているのかは
わからないけど。

結衣「ちょっとさ、心配してた。京子じゃないけど、最近のちなつちゃん、なんか
   いつもと違う感じだったからさ」

あかり「……それって、ちなつちゃんを振っちゃったから?」

結衣「……ちなつちゃんから聞いたの?」

あかり「うん」

132: 2011/11/03(木) 18:57:08.66 ID:FjxeqMqy0
すいません
>>32から書き直しさせてください

133: 2011/11/03(木) 18:58:42.76 ID:wnhUMfCT0
えっ

138: 2011/11/03(木) 19:05:46.25 ID:FjxeqMqy0
展開は一応頭の中であるんだが、このまま書き続けたらぐちゃぐちゃになるし
話の筋が通らなくなる気がする。楽しみにしてくれてた人がいたのならごめん
>>135のとおり立て直したほうがいいのなら、またいつかちゃんと整理して書き直す

145: 2011/11/03(木) 19:21:03.71 ID:FjxeqMqy0
では一旦このちなあかは止めておいてもいいだろうか
あかり視点の話だと即興の設定や関係じゃかなり書きにくい
しばらくは違うものを書きながら温存しておきます、一昨日のスレも、今日のスレも
保守してくれた方、本当にすいません

とりあえずここまで読んでくださった方、ありがとうございました
それではまた

146: 2011/11/03(木) 19:21:30.56 ID:0GgRGjFn0
次回作期待してるよ

147: 2011/11/03(木) 19:22:26.19 ID:Vqi4ZjXq0
結あか頼むで

引用: あかり「好きってなんだろう」