翌日

「ヘッヘッヘ…良く逃げなかったなァ嬢ちゃん…さぁ、本当のカップラーメンってのを見せてもらおうかい…」

お嬢様「逃げる？御冗談を！それではご覧あそばせ、こちらが「本物のカップラーメン」ですわ！！」

「こッ…こりゃあ！！」

「ただのカップヌードルじゃねぇか！！ふざけてやがんのかテメェ！！」

お嬢様「…カップラーメンとは」

「あぁん！？」

お嬢様「カップラーメンとは、手軽にある程度美味しく食べられる人類の叡智の結晶、わたくしはそう考えておりますの」

お嬢様「あなたが昨日お持ちになったカップラーメンをご覧あそばせ」

「あ！？こりゃあコンビニで買った300円する高級カップラー」

お嬢様「そこですわ！」

お嬢様「カップラーメンに300円もの大金を注ぎ込み、液体スープ、粉末スープ、仕上げ油、スパイス、レトルトの具…」

お嬢様「さらには本格麺の為に5分以上待たされてようやくこれらを投入して完成して口にできる」

お嬢様「それは美味しいでしょう、当然です」

お嬢様「ですがもうそれは「カップラーメン」のアドバンテージである利便性を捨て去ったただのインスタントラーメンではなくて！？」

お嬢様「ふむ…小麦を精白せずに全粒のままひいた粉を使っていますわね」

お嬢様「そしてこの香り…この味……」

お嬢様「いわゆるふくらまし粉などではなく、天然の酵母を使ってこそ出せる濃厚な味ですわ…」

お嬢様「むう……どっしりとした歯応え……」

お嬢様「パンと、中のハンバーグの歯応えが釣り合っていますわ」

お嬢様「…肉の味が良いですわ…なかなか旨味のあるしっかりしたハンバーグですわ…」

お嬢様「パンが力負けせずにそのハンバーグを受けとめていますわ」

お嬢様「ふむ…このハンバーグとパンの釣り合いのよさがあって初めて、つけ合わせのトマトと玉ネギの素性の確かさも楽しめるというものですわ」

お嬢様「なるほど…炭で焼いた肉の香ばしさは食欲をあおりますわね……」

お嬢様「全く…庶民好みのあさましい食べ物ですわ………あら？」

お嬢様「見なさい！！手が汚れてしまいましたわ！！」

お嬢様「執事！！二度とこのような物をわたくしの食卓に出さぬようにっ！！」

「へ…屁理屈を…！味が一番大事だろうが！だったらそのただのカップヌードルが俺の高級カップラーメンよりうまいってのかk」

お嬢様「うまくなりますわ！」

「ハ…ハッタリ抜かすんじゃねえ！！」

お嬢様「今からそれを証明してさしあげます！セバスチャン！」

老執事「は、こちらに…」ｶﾞﾗｶﾞﾗ

「こっ…これはッッッ！！」

「高速のサービスエリアにある自販機とお湯入れだとォッ！！？？」

お嬢様「…さあ、準備は整いましたわ。そこの自販機でこのカップヌードルを購入して、隣のお湯入れでお湯を入れてお召し上がりなさい」

「……」ｶﾞﾀﾝ ｺﾎﾟｺﾎﾟ

お嬢様「こちらのプラスチックフォークをお使いあそばせ」ｽｯ

お嬢様「…3分立ちましたわ、さ、お召し上がりなさい」

「……」ｽﾞﾙｽﾞﾙ

お嬢様「……いかがかしら？」

「……うまくねぇ」

「ああ、別にうまくはねぇ。うまくはねぇんだけどなんだろう…なんでこんなに染みるんだ…」

「思い出しちまうなぁ…大学生のころ、免許取った仲間と夜中まで遊びまわってフラッと寄った真冬の深夜の高速のサービスエリア…」

「そこで食べたカップヌードルもこんな味だった…」

「…うまくはねぇ、うまくはねぇんだけど、うめぇ…」

「うめぇよ…」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

お嬢様「こちらを」ｽｯ

「こいつぁ…」

お嬢様「そのカップヌードルとのマリアージュを楽しむなら、この紙コップで出てくる妙に甘い自販機のコーヒー…でしょう？クリームと砂糖は増量のボタンを押してますわ」

「……すまねぇなぁ」

お嬢様「…名店の味、本格麺、こだわりのスープ」

お嬢様「確かに昨今のカップラーメンの進化はめざましく、その味も下手なお店のレベルを超える様なものも出てきています」

お嬢様「けれど…世間はあまりに味と高級感に傾倒するあまり、本当に大切なものを忘れかけてしまっているのではないでしょうか？」

お嬢様「カップラーメンの本質は、味ではなくその手軽さとそれに付随するシチュエーション…」

お嬢様「わたくし、そう愚考いたしますわ」

お嬢様「それでは、ごめんあそばせ！」

そう愚考いたしますって言い方好き

乙