33: 2010/07/29(木) 01:13:41.04 ID:9dpP/sco
了解した!では投下させていただきます。
1/18
いつものキャンピングカー。前方のドアが乱暴に開き、白い超能力者が入ってきた。
『仕事』の呼び出しに不機嫌そうなオーラを撒き散らしているのはいつものことだが、どこかが違っていた。
非常に目立つ容姿でありながら、普段の彼は自分の特徴を隠そうとしない。
夜の路地裏ではさぞ浮いて見えているであろう白い髪、白い肌。
目が合ったら最期だと思わせるライフルスコープの照準光のような赤い瞳。
100メートル先からでも『この先一方通行』とわかる標識を掲げているかのようだ。
今日は、長袖のTシャツの柄と合わせたのかライトグレーのニットキャップを目深に被っている。
髪と目と、肌の大部分が隠れているだけでずいぶんと印象が違うものだ。
結標「珍しいわね、なにそれ変装?」
一方「別に」
にべもない返事。だが、問題はそこではなかった。
海原「オシャレ気取りかどうかはさておき、自分はその帽子で何を隠しているのかが非常に気になるのですが(笑)」
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いつものキャンピングカー。前方のドアが乱暴に開き、白い超能力者が入ってきた。
『仕事』の呼び出しに不機嫌そうなオーラを撒き散らしているのはいつものことだが、どこかが違っていた。
非常に目立つ容姿でありながら、普段の彼は自分の特徴を隠そうとしない。
夜の路地裏ではさぞ浮いて見えているであろう白い髪、白い肌。
目が合ったら最期だと思わせるライフルスコープの照準光のような赤い瞳。
100メートル先からでも『この先一方通行』とわかる標識を掲げているかのようだ。
今日は、長袖のTシャツの柄と合わせたのかライトグレーのニットキャップを目深に被っている。
髪と目と、肌の大部分が隠れているだけでずいぶんと印象が違うものだ。
結標「珍しいわね、なにそれ変装?」
一方「別に」
にべもない返事。だが、問題はそこではなかった。
海原「オシャレ気取りかどうかはさておき、自分はその帽子で何を隠しているのかが非常に気になるのですが(笑)」
34: 2010/07/29(木) 01:14:55.32 ID:9dpP/sco
2
一方「…単に寒いンですゥー。かぶってないと頭からじンわり氏ぬンですゥー。オマエら俺の虚弱さをなめンなよ」ギュッ
結海土「…………」ジー
ざっくりとした編目のキャップだが、言われてみればどこか形が不自然だ。特に上のあたりが。
少しでも異常があれば即反応する――ここでは、その程度の観察眼のない人間は生きていけないのだ。
沈黙と粘りつく視線に耐えかねたように、ニット地の中でなにかがぴくりと動いた。
土御門「結標」
結標「ラジャー」ヒュン
少年の細い手がいくら必氏で帽子を押さえていようと、能力使用モードにスイッチを切り替えていない以上、座標移動の前には無力だった。
彼女は自分以外を移動させることには一切ためらいがない。「あんたたち道端で服だけ飛ばしてマッパにするわよ」はただの脅しではないのだ。
ニットキャップの裾をつかんでいた白い手が、急に帽子が消えたためにがくりと下がる。
そのため、とっさに隠すことができなかった。
白い髪の間からのぞく、二つの黒い三角形――いわゆる猫耳を。
一方「…単に寒いンですゥー。かぶってないと頭からじンわり氏ぬンですゥー。オマエら俺の虚弱さをなめンなよ」ギュッ
結海土「…………」ジー
ざっくりとした編目のキャップだが、言われてみればどこか形が不自然だ。特に上のあたりが。
少しでも異常があれば即反応する――ここでは、その程度の観察眼のない人間は生きていけないのだ。
沈黙と粘りつく視線に耐えかねたように、ニット地の中でなにかがぴくりと動いた。
土御門「結標」
結標「ラジャー」ヒュン
少年の細い手がいくら必氏で帽子を押さえていようと、能力使用モードにスイッチを切り替えていない以上、座標移動の前には無力だった。
彼女は自分以外を移動させることには一切ためらいがない。「あんたたち道端で服だけ飛ばしてマッパにするわよ」はただの脅しではないのだ。
ニットキャップの裾をつかんでいた白い手が、急に帽子が消えたためにがくりと下がる。
そのため、とっさに隠すことができなかった。
白い髪の間からのぞく、二つの黒い三角形――いわゆる猫耳を。
35: 2010/07/29(木) 01:16:03.82 ID:9dpP/sco
3
海原「……、翼の次は耳ですか。もうあなたは何でもありですね(笑)」
土御門「……、俺の語尾の『にゃー』を謹んで進呈してやろう」プー
結標「……、せめて5年前のあなたについてれば良かったのに」チッ
一方「オマエら少しは心配しろよ!どォ見たって異常だろォが!!」
海原「そこは『どう見たって異常だニャン』ですよ(笑)」
土御門「グループはそんな甘いつながりじゃないだろう?」キリッ
結標「ねえ、あなた身長120cm以下だったのって何歳くらい?」
一方「ああ、そォだったオマエらに常識があると思うほうが間違いだったぜオーケーオーケェー。
――ブッ頃す。あと身長はあの世の木原くンに聞けェエエエエ!!!!!」
海原「……、翼の次は耳ですか。もうあなたは何でもありですね(笑)」
土御門「……、俺の語尾の『にゃー』を謹んで進呈してやろう」プー
結標「……、せめて5年前のあなたについてれば良かったのに」チッ
一方「オマエら少しは心配しろよ!どォ見たって異常だろォが!!」
海原「そこは『どう見たって異常だニャン』ですよ(笑)」
土御門「グループはそんな甘いつながりじゃないだろう?」キリッ
結標「ねえ、あなた身長120cm以下だったのって何歳くらい?」
一方「ああ、そォだったオマエらに常識があると思うほうが間違いだったぜオーケーオーケェー。
――ブッ頃す。あと身長はあの世の木原くンに聞けェエエエエ!!!!!」
36: 2010/07/29(木) 01:17:44.01 ID:9dpP/sco
4
ブッコロス.アトシンチョウハアノヨノキハラクンニキケェエエエエ!!!!!
『ひぃっ!!』パッパァアアアアーン!!!!
一方「あン?」
キャンピングカー、そしてグループ崩壊の危機は、唐突なクラクションにより回避された。
一方通行の大声に恐怖に駆られた運転手が、とっさに全力で押したのだ。別に、クラクションがエマージェンシーコールとして上につながっているわけではないが、何かを押さずにはいられなかったのだろう。
『すっ、すみません!』
結海土「(GJ!)」グッ
一方「ちっ……」
土御門「…とりあえず、現状を把握しよう」
一方通行は、ふてくされたようにソファに腰を下ろした。グループの面々も、思い思いに席を確保する。
海原「念のために聞きますが、作りものではないんですよね?」
土御門「肉体変化系の能力者の仕業かもしれないが…正直、お前に萌えを追加してもどこにもメリットがないな」
結標「昨日はにゃんこじゃなかったわよね。ゆうべ、何かあったんじゃない?」
一方「ゆうべ……は、コンビニ寄って帰って寝た。特に誰にも会ってねェし……っあーっそォだクソッ! 何かあったなンてもンじゃねェ!!」
そう、誰にも会ってはいない。だが、いつもと違うことはあった。
いつものようにコンビニに立ち寄り、いつものように大量に買い込んだ缶コーヒーを思い出し、イライラがぶり返す。
一方「昨日買ったコーヒー、プルタブが開かねェンだよ!」ドン!
ブッコロス.アトシンチョウハアノヨノキハラクンニキケェエエエエ!!!!!
『ひぃっ!!』パッパァアアアアーン!!!!
一方「あン?」
キャンピングカー、そしてグループ崩壊の危機は、唐突なクラクションにより回避された。
一方通行の大声に恐怖に駆られた運転手が、とっさに全力で押したのだ。別に、クラクションがエマージェンシーコールとして上につながっているわけではないが、何かを押さずにはいられなかったのだろう。
『すっ、すみません!』
結海土「(GJ!)」グッ
一方「ちっ……」
土御門「…とりあえず、現状を把握しよう」
一方通行は、ふてくされたようにソファに腰を下ろした。グループの面々も、思い思いに席を確保する。
海原「念のために聞きますが、作りものではないんですよね?」
土御門「肉体変化系の能力者の仕業かもしれないが…正直、お前に萌えを追加してもどこにもメリットがないな」
結標「昨日はにゃんこじゃなかったわよね。ゆうべ、何かあったんじゃない?」
一方「ゆうべ……は、コンビニ寄って帰って寝た。特に誰にも会ってねェし……っあーっそォだクソッ! 何かあったなンてもンじゃねェ!!」
そう、誰にも会ってはいない。だが、いつもと違うことはあった。
いつものようにコンビニに立ち寄り、いつものように大量に買い込んだ缶コーヒーを思い出し、イライラがぶり返す。
一方「昨日買ったコーヒー、プルタブが開かねェンだよ!」ドン!
37: 2010/07/29(木) 01:18:30.55 ID:9dpP/sco
5
3日前から切り替えた新製品の、プルタブが固いのだ。最初に買った分は「ちょっと固い」程度だった。
しかし、昨日購入した分はロットが違うのか、さらに斜め上を行く固さだった。
半端に開いたところでプルトップが取れてしまったもの。
プルトップに指をかけたら半回転し、動かなくなってしまったもの。
テーブルに林立する10本近い缶コーヒーを前に、学園都市第一位は途方に暮れていた。
(どォする……いっそ缶切り使うか? いや、仮眠室にンな前世紀の遺物はねえ……)
(ハンパに開いたヤツを妥協して飲むか……いや、そもそも缶コーヒーはぐいっと飲むもンだ)
(こンなことで能力使うのもムカつく)
最後に残った未開封の一本に手をかける。固い。
「ンっ」
半ば意地になり力いっぱいプルタブを引く。指先が赤みを帯び、小さく声が漏れる。
カシッと、蓋の開く爽快な音がした瞬間――反動でひっくり返った缶から、芳醇な香りを放つ琥珀色の液体が浴びせられた。
髪からしたたる滴で、服が茶色く染まっていく。
(なンか今のちょっとスローモーションみてェ……)
間の抜けた感想が浮かぶと同時に、全てがどうでもよくなった。
シーツが汚れるのに頓着せず、そのままベッドへもぐり込む。片付けは後で誰かがやるだろう、無責任にそう思うと、コーヒーの香りに包まれたまま一方通行はふて寝を決め込んだ。
3日前から切り替えた新製品の、プルタブが固いのだ。最初に買った分は「ちょっと固い」程度だった。
しかし、昨日購入した分はロットが違うのか、さらに斜め上を行く固さだった。
半端に開いたところでプルトップが取れてしまったもの。
プルトップに指をかけたら半回転し、動かなくなってしまったもの。
テーブルに林立する10本近い缶コーヒーを前に、学園都市第一位は途方に暮れていた。
(どォする……いっそ缶切り使うか? いや、仮眠室にンな前世紀の遺物はねえ……)
(ハンパに開いたヤツを妥協して飲むか……いや、そもそも缶コーヒーはぐいっと飲むもンだ)
(こンなことで能力使うのもムカつく)
最後に残った未開封の一本に手をかける。固い。
「ンっ」
半ば意地になり力いっぱいプルタブを引く。指先が赤みを帯び、小さく声が漏れる。
カシッと、蓋の開く爽快な音がした瞬間――反動でひっくり返った缶から、芳醇な香りを放つ琥珀色の液体が浴びせられた。
髪からしたたる滴で、服が茶色く染まっていく。
(なンか今のちょっとスローモーションみてェ……)
間の抜けた感想が浮かぶと同時に、全てがどうでもよくなった。
シーツが汚れるのに頓着せず、そのままベッドへもぐり込む。片付けは後で誰かがやるだろう、無責任にそう思うと、コーヒーの香りに包まれたまま一方通行はふて寝を決め込んだ。
38: 2010/07/29(木) 01:19:20.66 ID:9dpP/sco
6
一方「ンで、起きてシャワー浴びてたらなンかわっかンねェけどコレが生えてた。以上、説明しゅーりょォー」
結標「信じられない! シャワーは寝る前に浴びなさいよ!」
海原「布団ごとクリーニング決定ですね」
土御門「お前、フリーダムすぎるぜよ。周りの迷惑考えろ。あとプルタブくらい開wけwろwww」
一方「なンで俺が責められンだよ!おかげで今日まだコーヒー飲ンでねェし、あーイライラすンぜクソッ」ガッ、ガッ
海原「やれやれ…って、杖で足の甲狙うのやめて下さい、痛い痛いいたたた」
結標「カフェイン中毒もここまで来ると立派ね」
土御門「まあ、支障が無けりゃなんでもいいにゃー。
――さて、仕事の話だ。一方通行、この状態でも能力は使えるんだな?」
一方「問題ねェよ。さっさと終わらせンぞ」
一方「ンで、起きてシャワー浴びてたらなンかわっかンねェけどコレが生えてた。以上、説明しゅーりょォー」
結標「信じられない! シャワーは寝る前に浴びなさいよ!」
海原「布団ごとクリーニング決定ですね」
土御門「お前、フリーダムすぎるぜよ。周りの迷惑考えろ。あとプルタブくらい開wけwろwww」
一方「なンで俺が責められンだよ!おかげで今日まだコーヒー飲ンでねェし、あーイライラすンぜクソッ」ガッ、ガッ
海原「やれやれ…って、杖で足の甲狙うのやめて下さい、痛い痛いいたたた」
結標「カフェイン中毒もここまで来ると立派ね」
土御門「まあ、支障が無けりゃなんでもいいにゃー。
――さて、仕事の話だ。一方通行、この状態でも能力は使えるんだな?」
一方「問題ねェよ。さっさと終わらせンぞ」
39: 2010/07/29(木) 01:20:32.55 ID:9dpP/sco
7
土御門『こちらは準備完了、そっちが制圧している間にデータを押さえる。始めてくれ』
結標「鉄砲玉を予定のポイントに送るわ。5・4・3・2・1・Go!」シュンッ
「…、……!?」ギャッ
「な、なんだてめえ! どこから来やがった!!」グアッ
一方「どォもこンにちはァ、鉛玉の配達だぜクソったれ」
「よくもやりやがッ……!?」
一方(こっちに7人、隣室に何人かいンな……裏口方面はあっちに任すとして、一人生かしとけっつったか)ピクッ
「あいつ、あの白い髪…まさか一方通行!?」
一方(あれでいいか)クル
「ヒィっ!なんで猫耳…頼む!見逃してく……」
一方(やっぱ頃す)ピッ
土御門『こちらは準備完了、そっちが制圧している間にデータを押さえる。始めてくれ』
結標「鉄砲玉を予定のポイントに送るわ。5・4・3・2・1・Go!」シュンッ
「…、……!?」ギャッ
「な、なんだてめえ! どこから来やがった!!」グアッ
一方「どォもこンにちはァ、鉛玉の配達だぜクソったれ」
「よくもやりやがッ……!?」
一方(こっちに7人、隣室に何人かいンな……裏口方面はあっちに任すとして、一人生かしとけっつったか)ピクッ
「あいつ、あの白い髪…まさか一方通行!?」
一方(あれでいいか)クル
「ヒィっ!なんで猫耳…頼む!見逃してく……」
一方(やっぱ頃す)ピッ
40: 2010/07/29(木) 01:21:35.08 ID:9dpP/sco
8
土御門「…押収したデータも、まあ予想の範囲内だ。万が一ウラがあったらと思ったが出るまでもなかったかな」
海原「彼らが外と行っていた武器取引については、警備員に情報を流せばすむでしょう」
一方「ンじゃあ、俺は帰る。もォ用はないンだろ」
土御門「一方通行、お前は病院行って来い」
一方「はァ?いらねェよ」
海原「いえ、自分もそのほうがいいと思います」
結標「あなた、自分で気が付いてないみたいだけど……猫耳の向きで、どっちに注意が向いてるのか丸わかりだったわよ」
一方「」
土御門「ちなみに今は、うわ、コイツ話聞く気ないな。イカ耳になってやがる」
結標「にゃんこのイカ耳状態って、猫ブログで良く見るけどホントにこうなるのね。写メっていい?」
海原「猫の耳って、軽くつつくとぴくっとして面白いですよね(笑)」チョンチョン
土御門「…押収したデータも、まあ予想の範囲内だ。万が一ウラがあったらと思ったが出るまでもなかったかな」
海原「彼らが外と行っていた武器取引については、警備員に情報を流せばすむでしょう」
一方「ンじゃあ、俺は帰る。もォ用はないンだろ」
土御門「一方通行、お前は病院行って来い」
一方「はァ?いらねェよ」
海原「いえ、自分もそのほうがいいと思います」
結標「あなた、自分で気が付いてないみたいだけど……猫耳の向きで、どっちに注意が向いてるのか丸わかりだったわよ」
一方「」
土御門「ちなみに今は、うわ、コイツ話聞く気ないな。イカ耳になってやがる」
結標「にゃんこのイカ耳状態って、猫ブログで良く見るけどホントにこうなるのね。写メっていい?」
海原「猫の耳って、軽くつつくとぴくっとして面白いですよね(笑)」チョンチョン
41: 2010/07/29(木) 01:22:36.91 ID:9dpP/sco
9
海原でMoMA展示用オブジェを作り上げたあと、一方通行はキャンピングカーを後にした。
片付けは後で誰かがやるだろう。
取り戻したニットキャップを目深にかぶり、「肉食いてェな」とつぶやくと大通りへと足を向ける。
シスコンに言われなくとも、行くつもりだった。
自分に原因不明の不調が出たとなれば、それは妹達のネットワークに何らかの障害がある可能性が高い。
打ち止めの安全にもかかわることだが、本人に直接聞くことはできない。
ただでさえ、つい先日自分を探してうろついた挙句、第二位に狙われたばかりだというのに。
この事態を知れば、あの子供は絶対に自分に会おうとする。
会えばどうなる。
「クソッ……」
この姿を妹達のネットワークに流されたら――氏ぬ。
少なくとも彼の何かが終わる。
神経とか胃壁とかが絶対減る。
先程作ったオブジェより、今の自分のほうがよほど愉快な状態になっている自覚はある。
軽く左手を上げ、タクシーへ乗り込むと第七学区の病院へ向かうよう告げた。
カエル顔の医者、冥土帰しのところへ。
海原でMoMA展示用オブジェを作り上げたあと、一方通行はキャンピングカーを後にした。
片付けは後で誰かがやるだろう。
取り戻したニットキャップを目深にかぶり、「肉食いてェな」とつぶやくと大通りへと足を向ける。
シスコンに言われなくとも、行くつもりだった。
自分に原因不明の不調が出たとなれば、それは妹達のネットワークに何らかの障害がある可能性が高い。
打ち止めの安全にもかかわることだが、本人に直接聞くことはできない。
ただでさえ、つい先日自分を探してうろついた挙句、第二位に狙われたばかりだというのに。
この事態を知れば、あの子供は絶対に自分に会おうとする。
会えばどうなる。
「クソッ……」
この姿を妹達のネットワークに流されたら――氏ぬ。
少なくとも彼の何かが終わる。
神経とか胃壁とかが絶対減る。
先程作ったオブジェより、今の自分のほうがよほど愉快な状態になっている自覚はある。
軽く左手を上げ、タクシーへ乗り込むと第七学区の病院へ向かうよう告げた。
カエル顔の医者、冥土帰しのところへ。
42: 2010/07/29(木) 01:23:44.98 ID:9dpP/sco
10
「……、君たちは本当に面白いね?」
のんびりと感心したようにカエル顔の医者は呟いた。彼は、普段は患者の目を見て話をする。医師として患者に不安を与えてはならないのだ。
しかし、今はやや上方に目線が向いていた。そもそも患者自身も俯いたまま、目を合わせようとしない。
「おかしきゃ笑え。ただし学会に発表はすンな」
冥土帰しの患者の中でも有数の「珍種」である少年は、不機嫌を隠しもせずに診察室の小さな椅子に座っていた。
白い手の中で、先ほど外したニットキャップがギリギリと絞り上げられている。全身から黒い靄が立ち上っていても不思議はなかったが、実際に出ているのは黒い猫の耳だった。
「見たところ血も通っていないし、本物の猫の耳というわけではないね。その形状を取った『何か』としか言いようがないよ。君の翼と同じで、何らかの感情が引き金で現れた現象なのかもしれないね?」
「つゥか、なンで翼のこと知ってンだよ。一応情報統制されてるハズだろォが」
「スクランブル交差点で大暴れな時点で完璧な隠蔽は無理だと思うよ。まして、患者のことはきちんと知っておかないとね? しかし、入院している妹達には特に異変は起きていないのだけれどね」
「……あのガキはどォなンだよ」
哀れなニットキャップは、何回ひねったらねじ切れるかの耐久力テストをされている。
ゆっくりと、誰かの喉を絞めるように。
「直接聞けばいいのにね。会いたがっていたよ?」
「はァ?クソガキにこの状態さらして撫で回されたり、電話して『あー俺俺、元気ィ?こっちは猫耳生えてンだけど、そっちはどォよ?』とか聞けってか。ハッ、ずいぶンと愉快な会話になりそォですねェふざけンなクソ」
「じゃあ僕が電話しよう」ピッ
「……、君たちは本当に面白いね?」
のんびりと感心したようにカエル顔の医者は呟いた。彼は、普段は患者の目を見て話をする。医師として患者に不安を与えてはならないのだ。
しかし、今はやや上方に目線が向いていた。そもそも患者自身も俯いたまま、目を合わせようとしない。
「おかしきゃ笑え。ただし学会に発表はすンな」
冥土帰しの患者の中でも有数の「珍種」である少年は、不機嫌を隠しもせずに診察室の小さな椅子に座っていた。
白い手の中で、先ほど外したニットキャップがギリギリと絞り上げられている。全身から黒い靄が立ち上っていても不思議はなかったが、実際に出ているのは黒い猫の耳だった。
「見たところ血も通っていないし、本物の猫の耳というわけではないね。その形状を取った『何か』としか言いようがないよ。君の翼と同じで、何らかの感情が引き金で現れた現象なのかもしれないね?」
「つゥか、なンで翼のこと知ってンだよ。一応情報統制されてるハズだろォが」
「スクランブル交差点で大暴れな時点で完璧な隠蔽は無理だと思うよ。まして、患者のことはきちんと知っておかないとね? しかし、入院している妹達には特に異変は起きていないのだけれどね」
「……あのガキはどォなンだよ」
哀れなニットキャップは、何回ひねったらねじ切れるかの耐久力テストをされている。
ゆっくりと、誰かの喉を絞めるように。
「直接聞けばいいのにね。会いたがっていたよ?」
「はァ?クソガキにこの状態さらして撫で回されたり、電話して『あー俺俺、元気ィ?こっちは猫耳生えてンだけど、そっちはどォよ?』とか聞けってか。ハッ、ずいぶンと愉快な会話になりそォですねェふざけンなクソ」
「じゃあ僕が電話しよう」ピッ
43: 2010/07/29(木) 01:24:36.96 ID:9dpP/sco
11
打ち止め「はいはいどちらさまですかー?って、着信画面でわかってるけどミサカはミサカはあえて定番のごあいさつをしてみる!」
冥土帰し「やあ、打ち止め。調子はどうだい?」
打ち止め「先生こんにちは!次の検診は来週だったと思うけど、ってミサカはミサカは予定を忘れてない良い子なのを強調してみたり」
冥土帰し「ちょっと確認したいことがあってね? 昨日か今日、君の周囲で猫絡みで何かなかったかい」
打ち止め「10032号のいぬにはまださわれてないよ」
御坂妹「この子はミサカにしかなつかないのです」
打ち止め「って勝ち誇った顔で言われて悔しいけど、ミサカはミサカは全然あきらめてないから今度は猫じゃらしを持って来るつもり!」
一方(クソガキは異常なしか……ならいい。けど猫の名前がいぬってなンだよそのセンスありえねェ)
打ち止め「悔しいって言えば、きのうの定時連絡で、フ口リダの18820号がウェイクボードを始めたって自慢してたの。それで…
18820号『こちらは18820号です。
”ハーイ、上位個体。この間キミが連れてたペット、アレはなんていうんだい?”
”オーウ、あれはうちの一方通行さ!”
とアメリカンジョークをあいさつがわりに一発かましつつ、ミサカはアメリカ文化を着々と習得していることをアピールします』
って、たしかに用がないと一日中寝てて猫みたいだけど、あの人はペットじゃないもん!って怒りながらもミサカはミサカは猫耳装備の萌え系一方通行を想像してしまったり…」
一方(18820号ォ殺…さねェけど、代わりにアメリカ文化全部ぶっ壊してェ!片っ端から薙ぎ払いてェ!!)
打ち止め「はいはいどちらさまですかー?って、着信画面でわかってるけどミサカはミサカはあえて定番のごあいさつをしてみる!」
冥土帰し「やあ、打ち止め。調子はどうだい?」
打ち止め「先生こんにちは!次の検診は来週だったと思うけど、ってミサカはミサカは予定を忘れてない良い子なのを強調してみたり」
冥土帰し「ちょっと確認したいことがあってね? 昨日か今日、君の周囲で猫絡みで何かなかったかい」
打ち止め「10032号のいぬにはまださわれてないよ」
御坂妹「この子はミサカにしかなつかないのです」
打ち止め「って勝ち誇った顔で言われて悔しいけど、ミサカはミサカは全然あきらめてないから今度は猫じゃらしを持って来るつもり!」
一方(クソガキは異常なしか……ならいい。けど猫の名前がいぬってなンだよそのセンスありえねェ)
打ち止め「悔しいって言えば、きのうの定時連絡で、フ口リダの18820号がウェイクボードを始めたって自慢してたの。それで…
18820号『こちらは18820号です。
”ハーイ、上位個体。この間キミが連れてたペット、アレはなんていうんだい?”
”オーウ、あれはうちの一方通行さ!”
とアメリカンジョークをあいさつがわりに一発かましつつ、ミサカはアメリカ文化を着々と習得していることをアピールします』
って、たしかに用がないと一日中寝てて猫みたいだけど、あの人はペットじゃないもん!って怒りながらもミサカはミサカは猫耳装備の萌え系一方通行を想像してしまったり…」
一方(18820号ォ殺…さねェけど、代わりにアメリカ文化全部ぶっ壊してェ!片っ端から薙ぎ払いてェ!!)
44: 2010/07/29(木) 01:25:42.83 ID:9dpP/sco
12
その後も「MNWに【猫耳とか】萌え系一方通行【キモイ】スレが立った」等、子供特有の高い声で楽しげに報告が続いたが、目前では異様な重圧を放つ白い少年が限界を迎えようとしていた。電話の向こうは賑やかなのに、現実では沈黙が重い。この病院が誇る有能なナースさん達は、とっくの昔に診察室から退避していた。
「…じゃあまた来週、14時だからね?うん? ……うん、そうだね。すぐ戻ってくるよ。きっとね」
次回の検診の日時を念押しして、冥土帰しは通話を終わらせた。
小さな患者の希望をかなえるためにも、目の前にいる萌え系と化した患者をなんとかしなくてはならない。猫耳が消えない限り、一方通行は決して少女の前に姿を見せることはしないだろうから。
「まあ、現段階での推論でしかないが……翼が出るほどではないレベルの君の感情の爆発と、ミサカネットワーク内での共有イメージがタイミング良く合ってしまい具象化したというのが有力だと思うね?」
「するってェと…何か?俺がイラッとすンのとクローンどもがふざけた妄想しやがンのとがかち合うと、これからも尻尾だのバニーだの百合子だの妙な状態になる可能性があるってことかよ……」
「(百合子?)」
「ざっけんじゃねェぞオオオオ!やってらンねェ!!もうこンなのやだァ!!!
……こンなンじゃメルヘン野郎を笑えねェどころか、ファンシーだの萌えだの異次元の形容詞つけられちまうじゃねェか…ホント、もうやだ……あは」
「君の気が済めば大丈夫じゃないかな? Be cool, Accelerator」
「やけに発音いいのがムカつくンだよォ!」
「まあ、怒る元気が出たところで一息入れようじゃないか。君もひとつどうだい?」
冥土帰しは、備え付けの小さな冷蔵庫から缶コーヒーを取り出した。
一方通行が3日前から切り替えた銘柄の、プルタブがやけに固い、あの缶コーヒーを。
「」
「患者に必要なものを揃えるのが僕の仕事でね?」
その後も「MNWに【猫耳とか】萌え系一方通行【キモイ】スレが立った」等、子供特有の高い声で楽しげに報告が続いたが、目前では異様な重圧を放つ白い少年が限界を迎えようとしていた。電話の向こうは賑やかなのに、現実では沈黙が重い。この病院が誇る有能なナースさん達は、とっくの昔に診察室から退避していた。
「…じゃあまた来週、14時だからね?うん? ……うん、そうだね。すぐ戻ってくるよ。きっとね」
次回の検診の日時を念押しして、冥土帰しは通話を終わらせた。
小さな患者の希望をかなえるためにも、目の前にいる萌え系と化した患者をなんとかしなくてはならない。猫耳が消えない限り、一方通行は決して少女の前に姿を見せることはしないだろうから。
「まあ、現段階での推論でしかないが……翼が出るほどではないレベルの君の感情の爆発と、ミサカネットワーク内での共有イメージがタイミング良く合ってしまい具象化したというのが有力だと思うね?」
「するってェと…何か?俺がイラッとすンのとクローンどもがふざけた妄想しやがンのとがかち合うと、これからも尻尾だのバニーだの百合子だの妙な状態になる可能性があるってことかよ……」
「(百合子?)」
「ざっけんじゃねェぞオオオオ!やってらンねェ!!もうこンなのやだァ!!!
……こンなンじゃメルヘン野郎を笑えねェどころか、ファンシーだの萌えだの異次元の形容詞つけられちまうじゃねェか…ホント、もうやだ……あは」
「君の気が済めば大丈夫じゃないかな? Be cool, Accelerator」
「やけに発音いいのがムカつくンだよォ!」
「まあ、怒る元気が出たところで一息入れようじゃないか。君もひとつどうだい?」
冥土帰しは、備え付けの小さな冷蔵庫から缶コーヒーを取り出した。
一方通行が3日前から切り替えた銘柄の、プルタブがやけに固い、あの缶コーヒーを。
「」
「患者に必要なものを揃えるのが僕の仕事でね?」
45: 2010/07/29(木) 01:27:09.88 ID:9dpP/sco
13
人さし指をプルタブの先端にかける。2、3回爪で掻いてから、指先で銀色のリングを引き上げた。
なんの抵抗もなく、カシッと蓋の開く爽快な音がする。
「……、」
壊れやすい大事なものにくちづけるように、そっと両手で包んだそれを近付けた。
独特な香りが鼻腔をくすぐり、滑らかな感触が唇に触れる。
こくり、と苦味のある液体があふれてきた。いとおしむように口に含み、喉の奥へと誘い込む。ほぼ丸一日ぶりの悦びだった。目を閉じて勢いを受け止める。
「ン…」
一息に飲み干し息をつくと、飲みきれなかったしずくが縁から伝い落ちた。ちろりと出した舌で、つ、と舐めあげる。
それと同時に、一方通行の体から力が抜けた。
「コーヒーうめェ」フゥ
その頭にある一対の猫耳が、音もなく空気に溶けるように消えていた。
人さし指をプルタブの先端にかける。2、3回爪で掻いてから、指先で銀色のリングを引き上げた。
なんの抵抗もなく、カシッと蓋の開く爽快な音がする。
「……、」
壊れやすい大事なものにくちづけるように、そっと両手で包んだそれを近付けた。
独特な香りが鼻腔をくすぐり、滑らかな感触が唇に触れる。
こくり、と苦味のある液体があふれてきた。いとおしむように口に含み、喉の奥へと誘い込む。ほぼ丸一日ぶりの悦びだった。目を閉じて勢いを受け止める。
「ン…」
一息に飲み干し息をつくと、飲みきれなかったしずくが縁から伝い落ちた。ちろりと出した舌で、つ、と舐めあげる。
それと同時に、一方通行の体から力が抜けた。
「コーヒーうめェ」フゥ
その頭にある一対の猫耳が、音もなく空気に溶けるように消えていた。
46: 2010/07/29(木) 01:27:51.65 ID:9dpP/sco
14
現代的なデザインの杖を突き、病院から出る。秋の気配のする10月の風に、思考がクリアになった気分がした。
一方通行は軽い足下りで、緩やかなスロープを下ろうと――
「見つけたー!! ってミサカはミサカは迷子を発見したので果敢にアタックどーん!」
「ゴはァっ!!」
したところで、背中に急激な衝撃を受け、そのまま転がり落ちた。
両足が地面から浮いた、そう思った瞬間には2回、3回と前のめりに転がっていく。スロープを下りた先の植え込みにぶつかり、反動のまま手足がぱたりと地面に落ちると、一方通行の軽い体は動きを止めた。
ぴくりとも動かない。
ぐったりと細い手足が投げだされた光景は、どう見ても事故現場だった。
「まさか氏んじゃった…? ってミサカはミサカはどどどどどどどうしよう」
現代的なデザインの杖を突き、病院から出る。秋の気配のする10月の風に、思考がクリアになった気分がした。
一方通行は軽い足下りで、緩やかなスロープを下ろうと――
「見つけたー!! ってミサカはミサカは迷子を発見したので果敢にアタックどーん!」
「ゴはァっ!!」
したところで、背中に急激な衝撃を受け、そのまま転がり落ちた。
両足が地面から浮いた、そう思った瞬間には2回、3回と前のめりに転がっていく。スロープを下りた先の植え込みにぶつかり、反動のまま手足がぱたりと地面に落ちると、一方通行の軽い体は動きを止めた。
ぴくりとも動かない。
ぐったりと細い手足が投げだされた光景は、どう見ても事故現場だった。
「まさか氏んじゃった…? ってミサカはミサカはどどどどどどどうしよう」
47: 2010/07/29(木) 01:28:20.30 ID:9dpP/sco
15
両手を突き出したポーズのまま自失していた少女は、ふと何もない虚空を眺める。
ほう、と息をつくと泣き笑いのように頬を緩めた。
「ねえ、起きてってば」
空色のワンピースをひるがえし、そっと被害者に声をかけつつそろりそろりと近づいていく。
「あなたはいつもそうやってミサカにいじわるするんだよね」
じりじり進んで、タッチをするまで鬼に動いたところを見られなければ勝ち。
入院していた一か月の間、ベッドから動きたがらない彼に鬼ごっこを要求して却下され、妥協案として鬼が動かなくていい「だるまさんがころんだ」が採用されたのを思い出す。
ろくにこちらを見ていなかったり、むきになって超高速で言ってきたり、かと思えば「だるまさン…」まで呟いて寝てしまったりしていたが、とりあえずかまってはくれたのだ。
「『だるまさんがー』って早く言わないとタッチしちゃうよ?」
黄泉川に「物知らず」と呆れられるほど、彼は普通の子供の遊びを知らなかった。「くっだらねェ」と言いつつ付き合ってくれたのは、彼自身新鮮だったのかもしれない。最初に退屈だから遊べと頼んだ時の「…遊ぶって何するもンなンだ?」という、茫然としたような虚ろな顔が忘れられない。
(きっと、あなたはこどもからやり直さなきゃいけないことがいっぱいあるんだよね。遊びも、感情も、愛情を受けることも)
だから、自分が一緒に遊んであげる。
だから、迷子になったら見つけてあげる。
ミサカはここにいるよ、って何度でも声をかける。
両手を突き出したポーズのまま自失していた少女は、ふと何もない虚空を眺める。
ほう、と息をつくと泣き笑いのように頬を緩めた。
「ねえ、起きてってば」
空色のワンピースをひるがえし、そっと被害者に声をかけつつそろりそろりと近づいていく。
「あなたはいつもそうやってミサカにいじわるするんだよね」
じりじり進んで、タッチをするまで鬼に動いたところを見られなければ勝ち。
入院していた一か月の間、ベッドから動きたがらない彼に鬼ごっこを要求して却下され、妥協案として鬼が動かなくていい「だるまさんがころんだ」が採用されたのを思い出す。
ろくにこちらを見ていなかったり、むきになって超高速で言ってきたり、かと思えば「だるまさン…」まで呟いて寝てしまったりしていたが、とりあえずかまってはくれたのだ。
「『だるまさんがー』って早く言わないとタッチしちゃうよ?」
黄泉川に「物知らず」と呆れられるほど、彼は普通の子供の遊びを知らなかった。「くっだらねェ」と言いつつ付き合ってくれたのは、彼自身新鮮だったのかもしれない。最初に退屈だから遊べと頼んだ時の「…遊ぶって何するもンなンだ?」という、茫然としたような虚ろな顔が忘れられない。
(きっと、あなたはこどもからやり直さなきゃいけないことがいっぱいあるんだよね。遊びも、感情も、愛情を受けることも)
だから、自分が一緒に遊んであげる。
だから、迷子になったら見つけてあげる。
ミサカはここにいるよ、って何度でも声をかける。
48: 2010/07/29(木) 01:30:34.96 ID:9dpP/sco
16
「つっかまえた、ってミサカはミサカはあなたの肩をゆすってみたり……って、にぎゃああああ!」
「ラァーストオォダァーちゃーン?」
蛇のように延びた白い手に足首を掴まれ、少女は悲鳴を上げた。
おそるおそる視線を下ろすと、白い前髪を透かして猫のように細められた赤い瞳が見えた。獲物を前に喉を鳴らすような、彼曰く「ゴキゲンな」笑い方。やっぱり彼女が確実に近付くまで待っていたのだ、なんて大人げない。
さあ、来るぞ。と耐ショック体制を整える。
「クソガキィ、いきなり人に飛びつくのやめろっつっただろォがコラ! 打ちどころ悪けりゃポッキリいってンぞ腕とか首とかァ!! ドーンってなンですかァ必殺技の練習かよンな新しいレジャーのために突き飛ばされる方の身にもなってみろっつゥの!!! 骨プラプラさせてラジオ体操とか爆笑もンだろアァ…ン? あは、いいなァ今度誰かにやらせてみよォ……じゃねェよ第一オマエここで何やってンだ、フラフラ出歩いてンじゃねェよ首輪とリードつけンぞクソガキ!」
クソガキに始まってクソガキで〆る罵声をほぼノンブレスで浴びせると、一方通行はゆらりと上体を起こした。
体は弱いが、肺活量はけっこうあるのかもしれない。
「……とりあえず、オマエは俺にまず言うことがあるンじゃねェの?」
「……ごめんなさい。あなたを捕獲できる千載一遇のチャンスについ思考回路はショート寸前、ってミサカはミサカは今すぐ会いたかったのを強調して反省アピールしてみる」
「ン。よし」
「あと、今日はフラフラしてないよ!ヨミカワのお見舞いと10032号のいぬに会いに来たの。
ヨシカワはヨミカワのところでお話し中だから、ミサカはミサカはいぬのところにいたって事情説明!」
「いぬ、ねェ。そういや杖吹っ飛ンじまったわ。責任とってオマエ取ってこい。ほれ、わン!」
ぽい、と物を投げるように手を振ると、ミサカは犬じゃないもん!と文句を言いながら子供は走って行った。
杖を拾い、両手に抱えてぱたぱたと戻ってくる。全身から、ほめてほめてというオーラが出ていた。
マジで犬っぽいな、と思いながら、一方通行は茶色の髪の毛をくしゃくしゃにしてやった。何か文句を言っているが気にしないことにする。
「つっかまえた、ってミサカはミサカはあなたの肩をゆすってみたり……って、にぎゃああああ!」
「ラァーストオォダァーちゃーン?」
蛇のように延びた白い手に足首を掴まれ、少女は悲鳴を上げた。
おそるおそる視線を下ろすと、白い前髪を透かして猫のように細められた赤い瞳が見えた。獲物を前に喉を鳴らすような、彼曰く「ゴキゲンな」笑い方。やっぱり彼女が確実に近付くまで待っていたのだ、なんて大人げない。
さあ、来るぞ。と耐ショック体制を整える。
「クソガキィ、いきなり人に飛びつくのやめろっつっただろォがコラ! 打ちどころ悪けりゃポッキリいってンぞ腕とか首とかァ!! ドーンってなンですかァ必殺技の練習かよンな新しいレジャーのために突き飛ばされる方の身にもなってみろっつゥの!!! 骨プラプラさせてラジオ体操とか爆笑もンだろアァ…ン? あは、いいなァ今度誰かにやらせてみよォ……じゃねェよ第一オマエここで何やってンだ、フラフラ出歩いてンじゃねェよ首輪とリードつけンぞクソガキ!」
クソガキに始まってクソガキで〆る罵声をほぼノンブレスで浴びせると、一方通行はゆらりと上体を起こした。
体は弱いが、肺活量はけっこうあるのかもしれない。
「……とりあえず、オマエは俺にまず言うことがあるンじゃねェの?」
「……ごめんなさい。あなたを捕獲できる千載一遇のチャンスについ思考回路はショート寸前、ってミサカはミサカは今すぐ会いたかったのを強調して反省アピールしてみる」
「ン。よし」
「あと、今日はフラフラしてないよ!ヨミカワのお見舞いと10032号のいぬに会いに来たの。
ヨシカワはヨミカワのところでお話し中だから、ミサカはミサカはいぬのところにいたって事情説明!」
「いぬ、ねェ。そういや杖吹っ飛ンじまったわ。責任とってオマエ取ってこい。ほれ、わン!」
ぽい、と物を投げるように手を振ると、ミサカは犬じゃないもん!と文句を言いながら子供は走って行った。
杖を拾い、両手に抱えてぱたぱたと戻ってくる。全身から、ほめてほめてというオーラが出ていた。
マジで犬っぽいな、と思いながら、一方通行は茶色の髪の毛をくしゃくしゃにしてやった。何か文句を言っているが気にしないことにする。
49: 2010/07/29(木) 01:31:43.96 ID:9dpP/sco
17
「そういえば、あなたはどうして病院に来たの? またけんかしたり変なの出たの、って心配しつつミサカはミサカは当然の疑問をぶつけてみる」
「ただの杖の調整だよクソボケ。なァンにも出てませンー」
猫耳の件がバレたかと思ったが、子供の目線は背中に注がれていた。交差点で見た黒翼のことを言っているのだと、ほっとする。
バターをナイフで切るより簡単に嘘を吐き、軽く衣服の汚れを払うと杖を支えに立ちあがった。
「ほら、オマエはもうあいつらンとこ戻れ。話終わってンだろ」
「えーっ、やだやだやだ! 絶対やだ一緒じゃなきゃやだ、って――」
駄々をこね出した子供の頭に手を置き、一歩譲歩することを決める。
探し回られるより、「いつでも連絡できる」と思わせたほうがいい。
「黄泉川が退院したら携帯に連絡しろ。いっぺン顔出す」
「――かけて、いいの?」
「いいから言ってンだろ。今日は、あいつらまゆ毛もロクに描いてねェだろォからやめといてやる。行く時にはちったァマシにしとけっつっとけ」
「ヨミカワもヨシカワもいつもほぼすっぴんだから、あんまり関係ないかも。大人の女性としてそれってどうなのって疑問に思いつつ、ちゃんと二人に言っておくから、あなたも絶対約束してねってミサカはミサカは指切りを要求してみたり」
「あーハイハイ」
「そういえば、あなたはどうして病院に来たの? またけんかしたり変なの出たの、って心配しつつミサカはミサカは当然の疑問をぶつけてみる」
「ただの杖の調整だよクソボケ。なァンにも出てませンー」
猫耳の件がバレたかと思ったが、子供の目線は背中に注がれていた。交差点で見た黒翼のことを言っているのだと、ほっとする。
バターをナイフで切るより簡単に嘘を吐き、軽く衣服の汚れを払うと杖を支えに立ちあがった。
「ほら、オマエはもうあいつらンとこ戻れ。話終わってンだろ」
「えーっ、やだやだやだ! 絶対やだ一緒じゃなきゃやだ、って――」
駄々をこね出した子供の頭に手を置き、一歩譲歩することを決める。
探し回られるより、「いつでも連絡できる」と思わせたほうがいい。
「黄泉川が退院したら携帯に連絡しろ。いっぺン顔出す」
「――かけて、いいの?」
「いいから言ってンだろ。今日は、あいつらまゆ毛もロクに描いてねェだろォからやめといてやる。行く時にはちったァマシにしとけっつっとけ」
「ヨミカワもヨシカワもいつもほぼすっぴんだから、あんまり関係ないかも。大人の女性としてそれってどうなのって疑問に思いつつ、ちゃんと二人に言っておくから、あなたも絶対約束してねってミサカはミサカは指切りを要求してみたり」
「あーハイハイ」
50: 2010/07/29(木) 01:32:31.35 ID:9dpP/sco
18
打ち止めを入院病棟へ戻らせ、妹達の一人に引き渡すと一方通行は帰路に着いた。
無言で小さく会釈をしたクローンはあいかわらず見分けがつかなかったが、多分あれが「いぬ」とやらの飼い主なのだろう。常盤台の冬服に、黒い猫の毛がふわふわと浮いていた。
あれも個性が出てきたということだろうか、と考えて、気分が重くなってやめた。
少しづつ変化が訪れる。それはきっといいことのはずだ。
病院前のロータリーでタクシーを拾い、適当な仮眠室の近くへ行くよう告げる。
後部座席で携帯を取り出し、一瞬指を泳がせてから、打ち止めたちの着信拒否設定を解除した。
「グループ」の変Oどもが脳裏に浮かんだ。捨てきれないガラクタを抱えた共犯者たち。
少し、まだ少し。自分も暖かい世界につながりを持っていてもいいだろうか。
そのためにも、やることは山ほどある。
――「ドラゴン」の正体を探ること
――「上」から電極の主導権を取り戻すこと
――バッテリーの改造または予備を作成すること
――能力使用時に収納できるよう杖を改造すること
そして、
(……クソガキに、妙な妄想すンなって言っておくの忘れた……)
――打ち止めに次に会ったら、釘をさしておくこと
新しい予定を一つ追加して、「最強」の少年は笑った。
おわり
打ち止めを入院病棟へ戻らせ、妹達の一人に引き渡すと一方通行は帰路に着いた。
無言で小さく会釈をしたクローンはあいかわらず見分けがつかなかったが、多分あれが「いぬ」とやらの飼い主なのだろう。常盤台の冬服に、黒い猫の毛がふわふわと浮いていた。
あれも個性が出てきたということだろうか、と考えて、気分が重くなってやめた。
少しづつ変化が訪れる。それはきっといいことのはずだ。
病院前のロータリーでタクシーを拾い、適当な仮眠室の近くへ行くよう告げる。
後部座席で携帯を取り出し、一瞬指を泳がせてから、打ち止めたちの着信拒否設定を解除した。
「グループ」の変Oどもが脳裏に浮かんだ。捨てきれないガラクタを抱えた共犯者たち。
少し、まだ少し。自分も暖かい世界につながりを持っていてもいいだろうか。
そのためにも、やることは山ほどある。
――「ドラゴン」の正体を探ること
――「上」から電極の主導権を取り戻すこと
――バッテリーの改造または予備を作成すること
――能力使用時に収納できるよう杖を改造すること
そして、
(……クソガキに、妙な妄想すンなって言っておくの忘れた……)
――打ち止めに次に会ったら、釘をさしておくこと
新しい予定を一つ追加して、「最強」の少年は笑った。
おわり
51: 2010/07/29(木) 01:33:41.53 ID:9dpP/sco
おまけ。一方さん転落事故発生時のMNW
【モヤシ】セ口リ氏亡のお知らせ【軽すぎ】
(セ口リが運営に突き飛ばされて氏亡した模様 seroriend.jpeg)
(動画もウプする seroriflyhigh.mp4)
(どうしてこうなった)
(3行で)
(カエル先生の部屋から出てくるセ口リを発見
運営に通報
運営が追いかけて飛びついた→今ここ)
(ざw まw あw)
(つか、なんで出てきたとき「富士山頂で朝日を見る人」みたいなどや顔してんの、このセ口リ?)
(さあ?)
(幼女に押されたくらいでふっ飛ぶとか ねーよpgr)
(学 園 都 市 第 一 位www 最ww 強www)
(ついに身内から人頃しが出てしまったか)
(まあ実験中もセ口リじゃなかったら相手氏んでるけどな)
(ある意味、相手がセ口リで良かったな)
(セ口リになら何してもいいからな)
(今ならセ口リたんおさわりし放題じゃね?ヤッホーイウッホホーイ)
(ちょっとぉおおお、お前らなんで落ち着いてるの? 一方通行さんに早く救急車!)
(そこ病院だろw)
(お前が落ち着けw)
(ネットワーク負荷確認しろw)
(あれ? 日常用演算はたらいてる…よかったー、ほっとしたよー)
(氏んだふりか気絶の2択だな)
(じゃあ俺の熱いキッスでセ口リたん起こしてくるハァハァ!!)
((うわぁああああん、あの人生きてた良かったー!!!))
(運営様チーッス! セ…一方通行さんご無事でよかったですね!)
(運営様チーッス! セ…一方通行さん倒れてる姿もかわいかっこいいですね!)
(運営様チーッス! セ…一方通行さんのまわりを白いチョークで囲まなくて済んでよかったですね!)
(運営様チーッス! セ口リたんあざとかスリ傷できてないですか!? 今! 舐めに行きますハァハァ!!)
((うん、ホント良かった! じゃあね!!))
(おしおきがない…だと?)
(運営かなり動揺してるな)
【モヤシ】セ口リ氏亡のお知らせ【軽すぎ】
(セ口リが運営に突き飛ばされて氏亡した模様 seroriend.jpeg)
(動画もウプする seroriflyhigh.mp4)
(どうしてこうなった)
(3行で)
(カエル先生の部屋から出てくるセ口リを発見
運営に通報
運営が追いかけて飛びついた→今ここ)
(ざw まw あw)
(つか、なんで出てきたとき「富士山頂で朝日を見る人」みたいなどや顔してんの、このセ口リ?)
(さあ?)
(幼女に押されたくらいでふっ飛ぶとか ねーよpgr)
(学 園 都 市 第 一 位www 最ww 強www)
(ついに身内から人頃しが出てしまったか)
(まあ実験中もセ口リじゃなかったら相手氏んでるけどな)
(ある意味、相手がセ口リで良かったな)
(セ口リになら何してもいいからな)
(今ならセ口リたんおさわりし放題じゃね?ヤッホーイウッホホーイ)
(ちょっとぉおおお、お前らなんで落ち着いてるの? 一方通行さんに早く救急車!)
(そこ病院だろw)
(お前が落ち着けw)
(ネットワーク負荷確認しろw)
(あれ? 日常用演算はたらいてる…よかったー、ほっとしたよー)
(氏んだふりか気絶の2択だな)
(じゃあ俺の熱いキッスでセ口リたん起こしてくるハァハァ!!)
((うわぁああああん、あの人生きてた良かったー!!!))
(運営様チーッス! セ…一方通行さんご無事でよかったですね!)
(運営様チーッス! セ…一方通行さん倒れてる姿もかわいかっこいいですね!)
(運営様チーッス! セ…一方通行さんのまわりを白いチョークで囲まなくて済んでよかったですね!)
(運営様チーッス! セ口リたんあざとかスリ傷できてないですか!? 今! 舐めに行きますハァハァ!!)
((うん、ホント良かった! じゃあね!!))
(おしおきがない…だと?)
(運営かなり動揺してるな)
52: 2010/07/29(木) 01:34:47.66 ID:9dpP/sco
以上です。
台本形式と普通の文章ごちゃまぜですみません。絵描きなのでまんがのプロットに毛が生えた程度のしか書けない。
・定番猫耳ネタ
・15巻の後打ち止めに電話連絡だけでもするようになった経緯
を「多分、時系列的に同じ時期だろ」とまとめてつっこんだらこうなった。
おかげでお約束の「あっ///猫耳さわさわされるとゴロゴロ言っちゃう、らめぇ!」にする余地がなくなった。
あと、コーヒー飲んでるところを遠回しなフェラ描写と差し替えてみたけど違和感無かったのでそのままにした。
サーセン。
台本形式と普通の文章ごちゃまぜですみません。絵描きなのでまんがのプロットに毛が生えた程度のしか書けない。
・定番猫耳ネタ
・15巻の後打ち止めに電話連絡だけでもするようになった経緯
を「多分、時系列的に同じ時期だろ」とまとめてつっこんだらこうなった。
おかげでお約束の「あっ///猫耳さわさわされるとゴロゴロ言っちゃう、らめぇ!」にする余地がなくなった。
あと、コーヒー飲んでるところを遠回しなフェラ描写と差し替えてみたけど違和感無かったのでそのままにした。
サーセン。
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります