117: 2017/12/23(土) 22:43:32.38 ID:UmeXCf690
最初から:外地鎮守府管理番号 88
前回:第五話 川内という女
横須賀 海軍艦隊司令部
「あぁ、良く来たね。まぁ、座ってくれ。」
提督「長官からの呼び出しとあれば応じない訳にもいきませんので。」
長官「大佐。どうだね。また司令部に戻って来ないか?」
提督「長官。自分は司令部を追い出された身です。椅子磨きの話しでしたら他の方が宜しいかと。」
提督「便宜上、提督を名乗っていますが実質は88鎮守府の守衛みたいなもんです。」
長官「君は変わらんな。」
長官「例の時だって私に頼めばどうとでも出来ていた物を。」
提督「自分のした事に責任を持つことくらいは社会に出たての洟垂れでもやる事ですよ。」
提督「長官のお手を煩わせる事ではありません。」
提督「それより、本日呼び出した本題に移っていただきたいのですが。」
長官「あぁ、そうだな。年を取るとどうにもな。すまない。」
長官「今度大規模掃討作戦が行われる。そこに君の所から護衛を出してもらいたいんだ。」
提督「護衛・・・・、ですか。」
長官「あぁ。護衛だ。」
重々しく提督の言葉を繰り返す長官。
やや間が空き、提督が質問を切り出す。
116: 2017/12/23(土) 22:41:59.40 ID:UmeXCf690
第六話 英雄の条件 前編
118: 2017/12/23(土) 22:45:02.33 ID:UmeXCf690
提督「英雄でも作るおつもりですか?」
長官「君は察しが良くて助かるよ。」
長官「長きに渡る深海棲艦との戦いで国家は疲弊している。さらに戦況は一進一退。」
長官「明るいニュースが欲しくなるというものでね。」
提督「高度な政治判断という奴ですか。」
長官「戦果を水増しして大戦果などどやるよりはましだろう?」
提督「それはまぁ、そうですね。」
長官「今度の掃討作戦に出撃予定の娘達の中に大規模作戦参加20回になる娘がいるんだ。」
提督「ほう。叙勲ものですな。」
長官「あぁ。大規模作戦に複数回参加ともなると多くの艦娘が沈むか復帰不能な怪我による退役がざらだ。」
長官「軍に入って5回も参加し生還できればベテランと呼ばれる有様。」
長官「内規で20回参加して生還すれば多額の恩給を手にし
除隊する権利を与えるとされるが今まで手にした者などおらんしな。」
提督「画餅ですな。」
長官「だけに久しぶりの明るいニュースという奴だ。」
長官「政治屋のつらい所は国民に夢を見させてやらないといけないという奴でね。」
長官「国民に夢を見させる事が出来ない政治は先が無いからな。」
提督「 『 夢 』ですか・・・。」
長官「あぁ。夢だよ。」
提督「・・・・、政治屋が絡む話しですか。」
長官「我が国は文民統制を謳っているからね。」
長官「今の政権は良くやってくれてるよ。」
長官「英雄の誕生は首相閣下のお望みだよ。」
119: 2017/12/23(土) 22:46:12.42 ID:UmeXCf690
提督「この作戦の立案は。」
長官「お飾り元帥殿の腰巾着連中だ。だけに参加して欲しくはなかったのだがね。」
長官「軍令部の無能な働き者達の立案だ。」
提督「長官の心中お察しします・・・・。」
長官「君には苦労をかける。」
ガチャッ。
大淀「司令長官。御指示いただいていました分の資料を持ってまいりました。」
大淀「と。これは大佐。お久しぶりです。」
提督「今はただの牢番ですよ。敬語を使っていただかなくても結構ですよ。」
大淀「そういう訳には・・・。」
やれやれと肩をすくめる提督。
大淀「こちらが護衛対象の資料になります。」
提督「拝見させていただきます。」
パラパラと資料を捲る提督。
120: 2017/12/23(土) 22:47:10.23 ID:UmeXCf690
提督「・・・・・、失礼ですが長官。これは?」
長官「君に隠せるものではないと思っていたがやはり分かるかね。」
長官「所属鎮守府が極小規模ならではのイタズラといえなくないかね?」
提督「実に幸運を持っていると言えますが・・・。」
長官「実力がな。」
長官「なればこそ君の所の精鋭に護衛を頼みたいのだよ。」
提督「仕事、ですか。」
長官「あぁ、一応報酬として100万。服役囚の娘には10年分の刑期短縮を用意している。」
提督「あー・・・、支払いは円ではなくドルで願いたいですね。」
提督「後、刑期短縮の書類については海軍大臣の署名入りでお願いしたいです。」
長官「そうだったな。君の鎮守府のある所は円の威光が弱かったな。」
提督「紙くずとまではいきませんがやはり通用するのはドルですね。」
長官「国力の差は如何ともし難いな。」
提督「地力が違いますから。」
長官「全てにおいて乏しい我が国が体裁を保てるのも御威光のお陰だからな。」
皮肉とも自嘲ともとれる言葉を紡ぐ長官。
長官「では頼む。」
提督「了解しました。」
提督「では、私は鎮守府へ戻ります。」
バタム。
艦隊司令長官室の重厚なドアを閉め提督は帰っていった。
121: 2017/12/23(土) 22:47:53.16 ID:UmeXCf690
大淀「随分と安上がりですね。」
長官「嫌味を言ってくれる。」
大淀「大佐に随分な無茶振りと思いますが。」
長官「大佐は仕事といっていただろ?」
大淀「ええ。」
長官「任務と言わずに仕事と言い切る。真面目な奴だよ。」
長官「彼がもう少し出世や名声に興味を持っていたならあの地には居なかっただろうに。」
長官「つくづく惜しい男だよ。」
122: 2017/12/23(土) 22:49:25.17 ID:UmeXCf690
88鎮守府執務室
長門「それで私に旗艦をやってくれと?」
提督「あぁ。旗艦経験、鎮守府内での人望、艦種、戦闘経験。」
提督「それらを考慮して任せられる人材は長門しかいないと思ってね。」
長門「まったく実に貧乏籤を引いてくれる。」
提督「敵を頃す事に長けた奴なら味方を生かすための心得にも長けているだろ?」
提督「私が長門に用意してやれるのは刑期の短縮だ。
後はそうだな、必要な物が有れば明石に言ってくれ。代金に関しては海軍が持とう。」
長門「ほう。そういう気前の良いことを言っていいのか?」
長門「私が関係ないものまで買い込むかも知れんぞ?」
提督 フン。
提督「お前がそういう事はしないと分かっているから自由にさせるんだ。」
提督「メンバーについては不知火に連絡をしておいてくれ。」
提督「頼んだぞ。長門。」
長門「提督の頼みとあればな。仕方ないか。」フン
提督「すまん。」
長門「いいさ。この作戦が終わったら付き合ってくれ。」
長門「いっぱい奢れ。」
手で酒を飲むしぐさをする長門。
提督「俺は弱いぞ?」
長門「いいさ、とにかく付き合え。酌くらいは出来るだろ?」
頭をかき。
提督「分かったよ。」
123: 2017/12/23(土) 22:50:17.00 ID:UmeXCf690
鎮守府会議室
時雨「それで僕等に用っていうのは?」
長門「これを見て貰えないだろうか?」
いつものメンバーに渡すのは提督から預かった資料。
長門「必要な物については海軍がその費用を負担してくれるそうだ。」
摩耶「えらくまぁ、幸運?と言っていいのかこれ?」
摩耶「ひよっこの引率はちょっとなぁ・・・。」
川内「私は降りるよ。割りに合わなさ過ぎる。」
川内「報酬だって1万じゃ命を賭けるには安すぎる。」
長門「時雨は?」
時雨「刑期短縮っていうのは魅力的だね。」
時雨「でも、僕の普段の稼ぎから考えればわざわざ危ない橋を渡る必要性なんてないかな。」
雪風「幾らなんでもここの相場を知らない人間が設定したとしか思えませんね。」
グラ「検討に値しない物だな。」
三者三様、十人十色、全員がそれぞれに色々と意見を述べる。
しかし、その結論は。
受けるに値しない仕事。
124: 2017/12/23(土) 22:51:23.36 ID:UmeXCf690
時雨「長門はどうしてこれを受けようと思ったんだい?」
長門「そうだな。提督から言われた『 英雄 』と言う言葉に思う所があったからかな。」
摩耶「『 英雄 』ねぇ。」
長門「あぁ、昔に私がなれなかったものさ。」
長門「いや、なることを拒否したが正しいかな。」
摩耶「へぇ、姐さんにそんな過去がねぇ。」
長門「フッ。つまらん話しさ。気心の知れた仲間達と、と思ったが、他をあたろう。」
そう言い長門が会議室を出て行こうとする。
川内「長門。」
長門「ん?どうした川内?」
川内「長門がこだわる理由が其処にはあるんだね?」
長門「あぁ、まぁな。」
川内「ちょっと、屈んで。」
長門「?」
長門「!?」
長門「せっせんだい!?」(裏声)
川内「ふふ。まぁ、この間の借りもあるし報酬で足りない分についてはこれで勘弁してあげる。」
川内「慌てふためく顔。可愛いよ。」フフ
川内「じゃ、明石に必要な物を注文に行って来る。」
125: 2017/12/23(土) 22:52:22.16 ID:UmeXCf690
摩耶「姐さんもそんな顔するんだねぇ。」
摩耶「顔を真っ赤にしちゃって。乙女だねぇ。」ハハ
摩耶「この仕事が終わったら一杯奢ってくれよ。」
摩耶「あたしはそれでいいさ。」
川内の後に摩耶が続く。
グラ「シュタインベルガーだ。」
長門「・・・・・ワインのか?」
グラ「トロッケン以外は認めん。」
長門「分かった。」
グラ「Sehr gut では、私も明石の所に必要装備を注文に行くとしよう。」
時雨「長門。」
時雨「差し支えのない範囲でいいけど話してもらえるかい?」
長門「そうだな。仕事が終わってからでもいいか?」
時雨「勿論だよ。引き換えに受けようじゃないか。」
長門「分かった。約束しよう。」
雪風「艦隊名は『 雪風さんと愉快な仲間達 』で頼みます。」
長門「あぁ。その名前で届けておこう。」
雪風「では雪風も買い物へ行って来ます。」
126: 2017/12/23(土) 22:54:48.52 ID:UmeXCf690
明石の工廠兼酒保
明石「毎度ありがとうございますぅ。」ホクホク
明石「なんでしたらもっと買って下さっていいんですよ?」ニコニコ
長門「他人の財布だからといって無茶をするような奴は非常識だと思うぞ。」
長門「提督に無茶は言えんさ。」
明石「にしても皆さん色々特殊な物を注文してますよ。」
明石「川内さんは焼き討ちでもするつもりですかね。」
長門「織田信長じゃあるまいに。」
明石「アーチーチーアーチー。」
長門「燃えてるんだ廊下?」
明石「まぁ、それは置いといて。取り扱いは何でもありなのが明石商店なんですけどね。」
グラ「私の注文も頼む。」
長門「伯爵は何を頼むつもりだ?」
グラ「艦載機に積む煙幕弾だ。」
長門「また随分特殊な物だな。明石、取り寄せ可能なのか?」
明石「もっちろん。お金さえいただければクレムリン宮殿だって引っ張ってきてみせますよ。」
長門「そいつは頼もしい。」
長門「間に合うかな?」
明石「えぇ、問題なく。」
長門「そうか。では、お願いする。」
明石「でも、本当にいいんですかね?結構な金額いってますけど。」
長門「あぁ、必要な物だ。全てな。」
明石「まっ、何にどう使うかは深く聞かない事にしますよ。」
明石「経過がどうあれ最終的には敵を頃す事に違いはないですから。」
明石「皆さんが必要という以上は私は全力で揃えるだけですよ。」
そういい残し明石は山と形容した方がいいであろう注文伝票の束を抱え去っていった。
127: 2017/12/23(土) 22:55:41.45 ID:UmeXCf690
作戦決行前日
摩耶「一旦横須賀に集合してそこからよそ様の艦隊と組んで出撃ねぇ――。」
摩耶「提督から横須賀で1泊してくれとホテルのクーポン渡されたよ。」ッタク
長門「海軍関係者の泊まる所だからな。夜遊びは駄目だぞ。」
川内「何?摩耶は遠足のしおりに目を通してなかったの?」
時雨「おやつは5ドルまでだよ?」
雪風「バナナはおやつに入りますでしょうか?」
グラ「ふむ。バナナは主食だな。つまりお弁当の扱いだ。」
グラ「だが、揚げてしまうとバナナチップになるからお菓子、つまりおやつになるな。」
グラ「雪風、注意が必要だぞ。」
長門「こらこら。皆ふざけて無いでしっかりしてくれ。」
長門「横須賀についてからの事もあるから話しを先にしておくぞ。」
そして、作戦決行日を迎える。
128: 2017/12/23(土) 22:56:54.36 ID:UmeXCf690
横須賀艦隊司令部 出撃ドック近く海上
長門「我々はここで待機だ。」
川内「まぁ、こういう扱いは分かってたけどなんというかねぇ。」
摩耶「日陰者だから仕方ないさねぇ。」
一行は各鎮守府から集められた『 精鋭 』達とは別場所で待機させられていた。
時雨「出陣式か。」
雪風「打ち、勝つ、喜ぶ。で、打鮑、かち栗、昆布を食べるんですよ。」
グラ「日本の伝統的風習という奴か。」
長門「司令長官の話が終わったようだな。後は全員が出撃ドックからの出撃と言う奴だ。」
グラ「色々面倒なのだな。」
長門「日本人は形式に拘る民族だからな。験担ぎには拘るのさ。」
グラ「ふむ。」
「では、最後に音楽隊の音楽で盛大に見送りましょう!」
「音楽隊が演奏する曲はこの曲。」
「行進曲『 軍艦 』!」
トランペットの音に始まる金管楽器特有の甲高い音声にあわせ
太鼓やクラリネットといった各種楽器が一斉に演奏を始める。
聞きなれた行進曲。
その歌詞は国を守ることを誓い、国を守る為に殉ずる。
武人として防人としての心である。
長門「さてと、仕事の時間だ。」
旗艦である長門がそう呟くと彼女の仲間達はそれに同意するかのように頷くのだった。
129: 2017/12/23(土) 22:57:58.60 ID:UmeXCf690
何処かの海上
「日本近海に展開中の潜水艦部隊による哨戒網に敵艦娘の艦隊がかかりました。」
「向かっている方向と艦隊の規模は連絡来ているかしら?」
「連絡によると一旦大規模艦隊が北へ進路をとったそうです。戦艦棲姫様、如何しましょう。」
「そうね。十中八九、偽の進路でしょうね。途中で進路変更を行うに決まっているわ。」
「といっても艦娘の艦隊を差し向けるにあたって戦略的に重要な拠点は今、私達がいる場所が一番でしょうね。」
「ここがですか。」
「えぇ、現状を正しく分析するのであれば此処は敵にとって取っておきたい拠点となるわ。」
「あなたがこっちに遊びに来たのもその辺りをかぎつけたからでしょ?重巡棲姫。」
「まぁね。」
「私の旗下で動くのなら補給その他は保障するけど?」
「姫の名を冠する者は艦種の違いは有れど同格。」
「だったわね。いいわ。お互いに干渉なく自由に動きましょう?」
「じゃぁ、お互いに恨みっこ無しという事で。」
「えぇ、せいぜい私に戦功をとられないようにがんばることね。」
「その言葉、熨斗付けて返すよ。」
「それにしても・・・・。」
戦艦棲姫は一人胸中で考える。
(作戦参謀でも変わったのかしらね?無理をしてとるには敵に犠牲が多くなると思うのだけど。)
(私達からすれば失ったところで再度の奪還も容易いのに。)
(まぁ、愚かしくも攻めてくるというなら相手してあげるだけだわ。)
(他の姫達との会合でも一時的に失っても問題ないとされているし・・・・。気楽な防衛戦ね。)
戦艦棲姫は楽な防衛戦と考える、必要とあらば放棄も認められている。
適当に相手して敵を痛めつける、そして旗色が悪くなれば逃げればいい。
めんどうは重巡棲姫に押し付けて。
それを考えると鼻歌が出て海上でスキップすらしたくなる程であった。
こうして二人の姫が敵を迎え撃つべく動き始めていた。
130: 2017/12/23(土) 23:02:18.06 ID:UmeXCf690
今回の更新はこれにて終了です、イチャコラも無ければ工口もなし
最近のSS需要の真逆を行き、1ことバスクリンが好きに書いてるこの作品をお読みいただいありがとうございます
乙レス、感想レス、励みになっています、本当に感謝です
このSSまとめに載ると中二とかつまらんとか言われるんだろうなぁと考えながら書いております
えぇ、中二なんて自覚してます、はい、次回も宜しければお付き合いください・・・・
第七話 英雄の条件:中編
最近のSS需要の真逆を行き、1ことバスクリンが好きに書いてるこの作品をお読みいただいありがとうございます
乙レス、感想レス、励みになっています、本当に感謝です
このSSまとめに載ると中二とかつまらんとか言われるんだろうなぁと考えながら書いております
えぇ、中二なんて自覚してます、はい、次回も宜しければお付き合いください・・・・
第七話 英雄の条件:中編
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