155: 2018/01/06(土) 23:04:50.72 ID:j06fqDe+0


最初から:外地鎮守府管理番号 88 
前回:第七話 英雄の条件:中編

温故知新。

その意味は古い昔の事象から新しき知識を得ること。

昔に起きた現象や事件といったものを研究、見直すことで今に役立つ新しい発見を得るといった意味合いである。

特に戦争という物はお互いの戦力や地理的要因等が複雑に絡み合うため戦史研究、

特に敗者の立場から勝利するための条件を考える事は参謀等の作戦立案に携わるものには必須である。

つまり負けない為にはどうするべきか?

軍神とか名将とか名軍師、そう言った誉れを得ている者達も常勝無敗だった訳ではない。

彼らとて負けたことはあるのだ。だからこそ、負けた戦から学ぶことは多いのである。

そんな中、戦後の深海棲艦達との海戦史研究において一つ、『 常人には理解不能 』とまで言わしめた海戦がある。

どれだけ当時の状況がつまびらかになろうと情報が増えるほどに

『 狂人集団の所業也 』と言われ深海棲艦との海戦史において参考にならないとされる。

それは負けていた戦。決着が既についていた海戦を最後の最後にちゃぶ台返し。

いや、どんでん返し、とにかく力技でひっくり返した、海戦なのだ。

戦術や戦略、そんなものは糞食らえの動きでもって勝利をもぎ取ったのである。

その稀有な、まったくもって有り得ない海戦の火蓋が今、まさに切って落とされる所であった。


154: 2018/01/06(土) 23:03:09.27 ID:j06fqDe+0

第八話 英雄の条件 後編
海の画集 -「艦これ」公式イラスト集-
156: 2018/01/06(土) 23:07:46.18 ID:j06fqDe+0

長門「とりあえず周囲に残っている揚陸物資や

   浮かんでいる艦娘達の艤装から回収できる分の弾薬、燃料は回収しよう。」

吹雪「み、皆さん、本当にそんな事されるのですか!?」

時雨「・・・、環境に優しく有効活用・・・かな?」

雪風「リサイクルです。」



周囲には味方が揚陸作戦時に襲撃を受けたため放棄された燃料や弾薬がドラム缶、或いは木箱に入ったまま浮かんでいる。

また、当たり前ながらその活動を止めた艦娘達の氏体も当然ながら波間に漂っている。



摩耶「沈んで魚の餌になる前に生きてる仲間の役に立てた方がこの娘達への手向けになるってもんだろ。」

川内「吹雪も集めてきなよ。後、これ、回収したら一人に付き3枚ずつ持たせてね。」



川内が投げてよこすは50円玉の棒金。



川内「一文は現代価値で約20円だってさ。150円持って行けば渡し賃には困らないでしょ。」



そして、敵の包囲網が完成しつつある中、一同は手早く手近な艦娘の残骸等から回収できる限りの弾薬と燃料を回収する。

157: 2018/01/06(土) 23:08:59.63 ID:j06fqDe+0

日向「作戦の内容は聞いたがなんと言うか。」

摩耶「気にすんなって。これがあたしらの日常だからさ。」



こともなげに言う摩耶。



グラ「さぁて、こういうのは日本語でなんと言うのであったか?」

長門「あれだ、細工は流々。」

川内「仕上げはゆっくり。」

時雨「御覧じろ。だね。」

雪風「滾りますねぇ。」

日向「本当にいいのか?」

長門「後々を考えればこれが最適だ。」

日向「流石に踏んだ場数が違うか。」

日向「外地の鎮守府は猛者揃いと聞いていたが百聞は一見にしかず。」

日向「お手並み拝見と行こう。」



長門の提案に恭順する日向。

158: 2018/01/06(土) 23:11:28.37 ID:j06fqDe+0

吹雪「あの、私はどうしましょうか・・・。」



おずおずと、声を掛けて来る吹雪。



雪風「腹を下すと分かっていながら泥水を啜った事はありますか?」

雪風「艦娘として生まれたにも関わらず塹壕の中で泥濘に沈んだことがありますか?」

雪風「砲撃能力しか残っておらず簡易砲台として海岸線を敵の上陸から塹壕の中で守ったことがありますか?」

時雨「雪風。」

雪風「目の前で氏んでいく仲間に楽にする為だけに砲弾をくれてやったことがありますか?」

時雨「雪風!」



自分にも何か出来る事はないか。

そうためらいがちに聞く吹雪にきつい言葉を返す雪風。



時雨「ごめんよ。雪風の言葉に悪気はないんだ。」

時雨「ただ、雪風は未熟な艦娘が激戦地に放り込まれ何も出来ずに氏ぬのを見送ってきた事が多いから・・・・。」



時雨はこれまでの付き合いで雪風が外地鎮守府に流れ着いた経緯を本人から聞いている。

それは筆舌に尽くしがたく。

そして、まさしく敵、味方、双方の血が川と成程の激戦地を渡り歩いてきたことも知っている。

だけに戦力として不安な吹雪が自分達の艦隊と同じような行動を取れないことは理解しているし

させることへの危険性も理解していた。

厳しい言葉で突き放しているがその本質は自分達と来る事は危険であるとの警告と優しさ。

159: 2018/01/06(土) 23:12:23.80 ID:j06fqDe+0
吹雪「いえ、分かりました。」

時雨「ごめんよ。」


そして、彼女達は動き出した。

生き残る、そのたった一つの目的へ向けて。

160: 2018/01/06(土) 23:15:21.91 ID:j06fqDe+0

深海棲艦サイド



ル級「まもなく包囲網が完成します。」

重巡「敵の動きは?」

ル級「残存艦隊の再編成と周囲の味方だった者達の遺品の回収を完了したようです。」

重巡「こっちがわざとに時間を与えた甲斐はあったかな?」

ル級「お優しすぎやしませんか?」

重巡「はは。まぁ、確かにね。だがまぁ、あれだよ。」

重巡「これからあの世に行く事が決まっている相手に最期の情けを掛けてやった所で罰は当たらないだろ?」

ル級「はぁ・・・。」

重巡「生きている間に功徳を積まないと。」



既に勝っている事から生まれた余裕。

そして重巡棲姫はここから戦局が万に一つもひっくり返される事が無いと確信していた。

だからこそ、彼女は包囲対象である長門達を敢えて好きに動かせたのだ。

さながら、象が蟻を踏み潰すように簡単に潰せる。そう考えたために。

そして、これが彼女の深海棲艦としての生を終わらせる事となるとは彼女はつゆとも思わなかっただろう。

いや、考える事が出来る者が居たとしたらそれは『 神 』と呼ばれる者くらいだろう。

これから彼女の身に降り掛かった事はそれ程の事だったのだ。

161: 2018/01/06(土) 23:17:07.38 ID:j06fqDe+0

ル級「敵が動き出しました!」

重巡「おっ、バルサン炊き始めたな。」



もくもくと広がり始めるのは灰色の煙。



重巡「艦載機も使用しての煙幕展開か念のいったことだ。」

ル級「やはり上陸の瞬間が無防備になりますからね。」



そう、上陸というのはその瞬間が最も無防備になりやすい。

人類史上最大の上陸作戦と言われるかのノルマンディー上陸作戦でもその氏亡者が集中したのは上陸時だったと言われる。



重巡「上陸時の隙を無くす為に煙幕たいてこっちからの砲撃時に目標を定めさせない積りなんだろ。」

重巡「基本に則った戦術だよ。」

ル級「にしては煙の量が多すぎやしませんか?」

重巡「けちって的になるよりかはましでしょ。」

ル級「こちらにも煙が流れてきていますが。」

重巡「包囲している艦隊全体が煙に覆われそうだな。」

重巡「一応全員に警戒の連絡をしておいて。」

ル級「了解です。」



包囲を行った艦隊が煙に包まれる。



重巡「さぁて、煙が晴れれば」

ル級「仕事ですね。」

重巡「あぁ、島に隠れた相手に砲弾を撃ち込むだけのお仕事だ。」ニタァ



敗北の危険とは勝利を確信したときが最も高いと言われる。

そう、重巡棲姫達はまさにこの瞬間、油断をしていたのだ。

それはこの包囲殲滅戦の前の戦闘で大勝をしていたから生まれた慢心でもあった。

その為、次の瞬間に入ってきた凶報への対応が一瞬遅れた。

162: 2018/01/06(土) 23:19:40.19 ID:j06fqDe+0

ル級「右翼に敵襲!?」

重巡「はぁ?」



間の抜けた返事。

数で言っても倍と言わない、いや、7倍、8倍にもなる艦隊の数で包囲しているのだ。

いくら煙幕で視界を奪ったと言っても解囲目的で突っ込むのは自殺行為。



重巡「敵の艦娘共は気でも触れたか?!」



錯乱による突撃かと思うのも無理は無く。



重巡「いや、今は襲撃を受けた右翼の包囲網の建て直しが重要か・・。」

重巡「ル級。私達のいる中央から右翼へ部隊を回して敵襲撃部隊の殲滅を急げ!」



下される命令は至って教本通り。

襲撃を受けた方へ増援を回し包囲している敵が抜け出るのを防ぐ。

至って標準的かつ当たり前の対応である。

但し、敵が並みであれば・・・・・である。



重巡「煙幕の範囲から出て対応したほうがいいのだろうか?」



そんな事を考えている間にも情勢は一気に変化する。

163: 2018/01/06(土) 23:22:04.47 ID:j06fqDe+0

ル級「敵の突入した艦隊が中央へ進行方向を変えてきています!」



混乱を伝える無線の中で敵の進行方向が変わった事を伝える知らせ。



重巡「はぁ?」



一瞬の間、そして敵の意図を理解する。



重巡「しまったぁ!!」



敵の襲撃にあった右翼へ支援艦隊を差し向けた矢先。

この瞬間で敵が進行方向を変える。

そうするとどうなるか?右翼への支援に向かわせた艦隊が完全に無駄になってしまうのだ。

そして、こちら中央の守りは当然減った部隊の分だけ薄くなる。



重巡「くそ!敵の位置が煙幕の所為で分からんぞ!」

ル級「電探が利きません!」

重巡「はぁ!?」



煙幕内を縦横無尽、それこそ荒野を駆けるようにこっちへ向かってきている敵がいるのだ。

視界が不良でも電探で味方を含めた艦の位置は調べられるはず。

お互いの位置が分かれば敵を迎え撃つための陣形を取れる。

そう思い周囲の仲間含めて電探の出力を最大にして位置の把握を行おうと指示をだしたのだが。

返ってきた返事は電探が故障でもしたのかと思うような台詞。

164: 2018/01/06(土) 23:24:03.01 ID:j06fqDe+0

ヒュウゥゥ。  ペタ。



重巡「ちぃ!」



風が運んできた何かが顔にへばりつく。



重巡「たく!何が起きているっていうんだ!」



顔についたそれを鬱陶しいと毒づきながら剥がした時に彼女は気がついた。



重巡「これは!!」

重巡「ちくしょう!ちくしょう!奴ら!煙幕はこれを撒くための布石かよ!」

ル級「どうされました!?」

重巡「奴ら、煙幕に紛れて電波欺瞞紙(チャフ)をばら撒いてやがった!」



大戦中に日本海軍が実際に使用した大き目の模造紙に錫を塗り細かく刻んだ物ではなく、それは純粋にアルミの細片。

だけにその効果は非常に高く。



グラ「明石が深海連中の電探を解析して周波数に合わせたサイズにしてあるからな。」

グラ「敵の電探は真っ白であろうよ。」



そう、電探が利かなくなったのは煙幕をはった後にグラーフが艦載機で用意していたチャフをばら撒いた為である。

165: 2018/01/06(土) 23:27:19.79 ID:j06fqDe+0

ル級「ですが、敵も電探が使えないのでは?」

重巡「馬鹿!敵は使う必要がないんだよ!」

重巡「敵がチャフを使うと分かってればヲ級の艦載機くらいは・・・、

   いや、煙幕の中じゃ結局意味がない。えぇい、くそぉ!!」



理解が早いと評したさっきまでの自分を殴りたい、重巡は本気でそう思った。



重巡「敵の方が数が少ないんだ!」



そう、敵の意図は明白。煙幕で直接的な視界を奪い、電波欺瞞紙で間接的な目を奪う。

更にそこに襲撃をかければどうなるか、その答えあわせを今まさに日向が行おうとしていた。



日向「吹雪、艦隊の中央へ寄ってくれ。長門からの預かり者だからな。」

日向「君に何かあれば長門に全てが終わった後に私が沈められてしまう。」

朝潮「日向さん!お預かりした発火装置のセット完了しました!」

大潮「もう少ししたら通って来た所に置いてきた燃料がドーンと行きます!」

荒潮「まったく持って大胆ねぇ。」

日向「まったくな。」

加賀「ですがこの作戦は考え付いても実行に移すには余程の酔狂か軍事の天才で無いと躊躇われるかと。」

日向「まったくだ。」

満潮「そろそろよ!全速全進!」



日向を旗艦に長門達が突っ込み空けた右翼の穴を脇目も振らずに前進する一同。

使用する武器は機銃と日向の刀。

そして煙幕を張る前に発艦させ唯真っ直ぐに飛ばし、艦隊に先行する加賀の艦載機による機銃支援である。

なるべく音を立てず、出くわす敵は切り伏せる。

逃げる敵は追わずただ突破を目指すのみ。

166: 2018/01/06(土) 23:29:11.91 ID:j06fqDe+0

川内が朝潮達に渡したのは時限発火装置。それの目的は何か?

ドン!

ドラム缶に満杯にされた燃料が爆発する。その音はまるで砲撃音の如くである。



イ級1「!」

イ級2「!」



電波欺瞞紙でお互いの位置が分からない状態の中、敵が自分達包囲網の中に突っ込んで来ている。

そんな中で砲撃音がすれば?

敵が自分達の包囲網を抜けるために『 自分達に向けて砲撃を行った 』と誰しもが判断するだろう。

もしくは『 味方が敵を見つけ交戦に入った 』と。

朝潮達が仕掛けて爆発した燃料の爆発音を皮切りに始まったのは

お互いの姿と位置が確認できない状況下での深海棲艦同士の同士討ちである。

悲惨な事に右翼へは中央から増援が向けられていた。

その増援はこの様な状況にあっては『 突撃してきた敵の第二陣 』と思われても無理からぬ事である。

当然の如く交戦中の中に増援部隊も砲撃を行いながら突っ込んだため同士討ちは更に拡大していく。

167: 2018/01/06(土) 23:32:48.37 ID:j06fqDe+0

重巡「くそぉ!奴ら数が少ないことを逆手に取りやがった!」



今だ、回復しない電探に毒づきつつ周囲の警戒を固めるべく動く重巡棲姫。

嘗てローマ帝国を手玉に取り幾度も勝利を収めた名将ハンニバルはこう格言を残している。

曰く『 視点を変えれば不可能が可能になる 』

絶対的に数が少ない不利な状況。

しかし、見方を変え強引に言ってしまえば一点突破を最も少ない被害で出来るとも言える。

歴史を紐解けばそれなりに例はあるが日本で最も有名な物はこれであろう。

戦国時代を終焉へと導いた決定的な戦い。その合戦名は『 関ヶ原 』。

徳川時代の到来を決定付けたあの戦いにて少数で行われた敵包囲網の一点突破。

一見して不可能のようだがそれをやってのけた武人の集団が居る。

そう、関ヶ原の戦いの鬼島津の退き口である。

その戦力差、敵8000に対し自軍300(軍勢の人数については諸説あり)

敵軍の主力包囲網に突っ込み、退却の為に単純に最短ルートであったからという理由で敵本陣のある中央への『 撤退 』

本来、安全地帯へと逃げる事を意味する『 撤退 』を

敵の主力へ本陣へ向け『 撤退 』し逃走に成功させるという無茶である。

168: 2018/01/06(土) 23:36:36.34 ID:j06fqDe+0

重巡「あぁあああ!くそっ!くそっ!どうしてこうなった!」

ル級「右翼の状況がまったく不明です!」



未だ混乱の続く右翼。



重巡「ちくしょう!味方の被害を抑えるのが優先だ!敵の逃走は完全に無視しろ!敵に逃げられてもいい!」

重巡「右翼の砲撃を直ちに止めさせろ!」

ル級「はっ!直ちに連絡いたします!」



右翼の敵突破は完全無視。自軍の損耗を減らす、この時点では最良とまではいかなくとも最善の手。

しかし、重巡は失念していた、それだけ敵によってもたらされた混乱が大きかったとも言えるのだが。

そしてこれがこの艦娘達の解囲撤退戦に対する深海側の唯一の汚点にして最大の損失をもたらしたのだった。



重巡「敵にはなんて馬鹿げた作戦を立てる奴がいるんだ・・・。」

重巡「理屈でいけるかもしれないと思ってもそれを実行に移すほうも移すほうだ。」

重巡「正気の沙汰じゃない。」



自軍の建て直しの指示を出し状況整理の為に考え始めた重巡棲姫は失念していたある事を思い出し戦慄する。



重巡「中央へ突撃してきた敵艦隊はどこへ消えた?」



自身の頭の隅にはあった敵突撃部隊の突入という事象。

電探の無効化、それによる敵部隊の位置の把握が出来ていない。

考えるだけでこれ以上無い最悪の事態。

重巡棲姫は背中に冷たい物が流れるのを感じえずにはいられない。

169: 2018/01/06(土) 23:39:54.41 ID:j06fqDe+0

長門「こういう時の挨拶はこんにちは?かな?」

ル級「!!」



ドズン。

煙の中からぬらりと現れる一団。一撃で沈められるル級。

そう、長門達はしたたかに狙っていたのだ。



雪風「さようなら?でしょうか?」

時雨「いや、僕が思うにやっぱりここは初めましてだよ。」

摩耶「あぁ、確かに初対面だもんな。」

川内「でも、まさか本当に敵の本陣にぶち当たるとはねぇ。」

グラ「大将がいる周囲というのは自然と守りの人数が多くなるものだ。」

グラ「まして無線の発信量が多ければそこに指揮官がいると

   名刺を配っているようなものであろうよ。」

川内「事前に大まかな位置は予測できてたしね。」

グラ「さてと。まぁ、あれだ。挨拶はさておき次に紡ぐべき言祝ぎは決まっているだろ?」

長門「そうだな。では、重巡よ。」

長門 時雨 雪風 川内 摩耶 グラ 「「「「「「 氏ねぇ!!!!!!」」」」」」



相手に氏ねと言うのを祝うとは性質の悪い冗談だがこの場面で言えば長門達にとっては祝福以外の何物でもない。

目の前の相手に対して行われる仰俯角が零の水平射撃。

撃てば目を瞑っていても当たる距離。



重巡「あぁああぁぁあああぁああぁ!!!!」



大音声での絶叫による断末魔と轟音。

ここに重巡棲姫はその艦生の幕を閉じた。

170: 2018/01/06(土) 23:41:51.01 ID:j06fqDe+0

長門「行きがけの駄賃にしては上出来だ。さて、仕事は終わった。煙幕を更に炊きながら逃げるぞ!」



指揮官を失った軍隊というのはさながら女王蜂を殺された蜜蜂の様な物で

統制だった動きを取れる訳もなく長門達は煙幕が効いている中、

一気に脱出を図り出会う敵は淡々と叩き潰していた。

彼女達は砲撃で敵を叩き潰しながらの撤退である。

その音は暗中模索で敵の位置を知ろうとしている敵に位置を教えることとなるがこれが更に敵に混乱を齎す。

何せ右翼で敵と交戦中と思いきや中央からも交戦中の音が聞こえ

更には指揮官である重巡棲姫と連絡が一切取れない。

まさかの挟撃かと思う深海棲艦達もいたことだろう。

ともなれば組織だった抵抗を出来る者もいる訳がなく、

かくして長門を含む生き残りの艦隊は文字通り悠々と包囲網からの脱出に成功したのだ。

171: 2018/01/06(土) 23:43:32.87 ID:j06fqDe+0

横須賀近海


長門「さてと、ここまで帰ってくれば後は問題ないだろう。」

日向「あぁ、実に鮮やかな退き口だったよ。」

長門「何、古典に倣っただけだ。褒められるような事ではないさ。」

日向「預かっていた吹雪にも怪我は無いし敵の指揮官を沈めての大殊勲だ。」

日向「流石に始めの負け戦を無かった事には出来ないだろうが

   それを踏まえても君達の戦功は勲一等物だろ。」

日向「武人の誉れだな。」

長門「・・・、日向。我々はその栄誉にあずかる事はない。」

吹雪「そんな!私達は長門さん達がいなかったらあの地で氏んでいました!」

長門「日向。我々の外地鎮守府の存在を知っているならそこに居る者達の素性を聞いたことはあるだろ?」

日向「無い訳ではないが。」

長門「我々は金が目的か自分たちが犯した犯罪の刑期分だけ働くことを強制させられた、いわば傭兵だ。」

加賀「そんな。」

長門「我々があの場に居たのもそこに居た吹雪を護衛して横須賀へ無事に帰還させる任務を受けていたからだ。」

摩耶「そそ。あたしらは仕事をしただけ。」

川内「重巡棲姫を潰した戦功はそっちが貰ってかまわないよ。」

雪風「というよりも仕事の内になってしまいますからね。」

時雨「そうだね。吹雪の護衛だから吹雪に危害を加える者の排除が主任務になるもの。」

グラ「まぁ、そういう事だ。」

長門「では、我々は日陰者らしく此処でおさらばすることにする。」

長門「縁あればまた何処かで。」

172: 2018/01/06(土) 23:46:12.70 ID:j06fqDe+0

日向「長門!」

長門「?」

日向「もし、もしも、何か困った事が起きたなら連絡をくれ!必ず駆けつける!」

長門「いいのか?そんなに安請け合いして。」

日向「共に三途の河辺を歩いた仲じゃないか。戦友の危機とあらば何を置いても駆けつけるさ。」

長門「戦友か。いい響きだな。日向が女で無ければ惚れていただろうな。」

日向「そっくりそのまま返そうか。」



かわされる握手。



長門「では今度こそ本当にさよならだ。」



そう言い長門達は去っていった。



吹雪「あんなに凄い人達がお金目的とか犯罪者とかだなんて。」

朝潮「本当なんでしょうか?」

日向「それについては我々が判じる事が出来ないな。

   我々が見たのは彼女達の一面に過ぎないのだからな。」

日向「ただ、犯罪を犯したり、お金が目的であったりというのは

   そうせざるを得なかったやむにやまれぬ事情が有るんだろう。」

加賀「せざるを得なかったですか。」

日向「あぁ。そうで無ければあれ程の武勇を振るう艦娘が日陰者として裏道を歩む事などある訳がないだろう。」

日向「今回にしても味方の我々を逃がす為に自分たちは陽動、さらには敵指揮官の斬首まで実行しているんだ。」

日向「英雄と呼ばれてもおかしくないんだ。」

日向「それ程の功績なんだ。」



いい終わり水平線の向こうまで長門達の姿が消えるのを見送る日向は唇をぎゅっと噛み締める。



大潮「英雄ですか?」

日向「あぁ、味方の為に自分の命を顧みず勇猛果敢に戦う者の事を古来より英雄と呼ぶ。」

日向「彼女達はまさしく英雄だよ。」

173: 2018/01/06(土) 23:50:11.76 ID:j06fqDe+0

数日後



朝目新聞 一面見出し

『 敵泊地を襲撃し我が国の艦隊は犠牲を出しつつも敵棲姫を撃破! 』



提督「敵重要拠点を襲撃し、敵旗艦の重巡棲姫を撃破。」

提督「撃破したのは呉所属の艦娘でその英雄的行為により逆転勝利が齎された。」

不知火「随分とあれな新聞ですね。」


不知火の辛辣なコメントを他所に更に読み上げる提督。



提督「また、本作戦には参加20回にもなる古参の駆逐艦が参加していた為その知識が大いに役立てられた。」

不知火「長門さん達からあがっている報告から随分とかけ離れています。」

提督「だが全てが嘘ではない。」

不知火「・・・。」

提督「不知火。プロパガンダってのは如何に1の事象を大きくするかを競うもんだ。」

提督「今回は本来なら歴史にその名を残すほどの大敗といっていいくらいの負け戦だったんだ。」

提督「それを長門達の奇策で逆転ホームランだ。」

提督「庶民ってのは英雄のような、早い話チートキャラが無双するなんて話が大好きでね。」

提督「本当に見るべきはどの様にして流れを押さえ、

   その抑えた流れを勝ち筋にどうやって持って行ったか。

   そして、それに至るまでにどうやって流れを作ったかなんだ。

   誰がどんな戦功を上げたかとかの個人の動きなんて物は重要ではないんだがね。」

不知火「竹中重治ですね。」

提督「不知火は物知りだな。」

174: 2018/01/06(土) 23:52:35.36 ID:j06fqDe+0

提督「司令長官にその辺りの説明が面倒だな。」

不知火「司令、長官へ報告に行かれるのですか?」

提督「あぁ、書類をPDFで送っただけじゃ駄目らしい。」

不知火「せめて持参くらいはした方がいいかと思いますが。」

提督「この間仕事の話を伺いに行った時に椅子磨きの話しをされてね。

   今度は机磨きの話をされるんじゃないかと思うと足も遠のくさ。」

不知火「ではお手数ですがこちらの書類もお願い出来ますでしょうか?」

提督「長門達が購入した物品の決済関連か。うん。よく纏めてある。手間かけたな。」

不知火「褒めてくださりありがとうございます。ですが・・・・。」

提督「ん?」

不知火「最後のページの物は流石に決裁が降りないのではないかと思います。」


そう言われ最終ページの内容を確認する。

そこには大量の酒類が購入された事か記載されていた。

175: 2018/01/06(土) 23:54:09.81 ID:j06fqDe+0

なんだこれは?と思い言葉に出しかけ、ふと、長門との会話を思い出す提督。



『 いっぱい奢れ 』



提督「あっ!あぁあぁ。成る程、そう来たか。」

提督「これは一本取られたな。」

不知火「?」

提督「いや、これの代金は私が持とう。まったく。大したもんだよ。」



一人何かを合点したように笑う提督。

コンコン



長門「提督よ。酒宴の用意が出来たぞ。不知火もどうだ?」

提督「まったく。長門、お前に一杯食わされたよ。」ニヤリ

長門「いっぱい食らうのはこれからだろ?」ニカッ

提督「あぁ、今夜は飲む。とことんな。不知火。飲むぞ!」

不知火「ぬい!?」

提督「俺の奢りだ遠慮はいらん。」

不知火「了解です。」



束の間の平和。

鎮守府の仲間が立てた武勲を酒の肴にこの日、宴会は大層な盛り上がりだったそうである。


176: 2018/01/07(日) 00:01:48.78 ID:tHi5baoo0
これにて長門編は一応終了です、長門が任務に拘った理由は次回にやります

今回の更新に収められませんでした、申し訳ないです

戦闘描写が入ると文字量が多くなるなと考えつつ他の方はどんな感じなんだろうかと考えてしまう今日この頃

皆様、ここまでお読みいただきありがとうございました

乙レス、感想レス、いつもありがとうございます、ではまた次回の更新もお読みいただけると幸いです

177: 2018/01/07(日) 00:22:43.38 ID:EoEQ+pTL0
おつ
島津の退き口しかないだろうとは思ったけど初手煙幕しか予想できなかった
誰を残すのかって方向に頭がいってしまったw

幕間 長門の過去と提督の同期と戦艦棲姫の知り合いと

引用: 【艦これ】 外地鎮守府管理番号 88