180: 2018/01/12(金) 21:45:36.17 ID:4CCLSpn50


最初から:外地鎮守府管理番号 88 
前回:第八話 英雄の条件:後編

第八話と九話の間の話 長門の過去と提督の同期と戦艦棲姫の知り合いと

181: 2018/01/12(金) 21:46:42.24 ID:4CCLSpn50


長門「時雨、ここに居たのか。」

時雨「あぁ、長門。上手いことやったね。提督が笑っていたよ。」

長門「まぁな。奢れと言っておいたからな。あいつは奢ると言った以上言葉は曲げんさ。」

時雨「そっか。それで、僕に何か用かな?」

長門「あぁ。作戦の前に話していた私が作戦の実行にこだわっていた理由について話をしなければと思ってな。」

時雨「そう言えば約束していたね。」

時雨「僕としてはもういいよと言いたいけれど、長門がそれで自分を許せそうにないからちゃんと聴こうか。」

長門「理解してくれて助かるよ。」

長門「さてと、それではまず、何をどう話したものか・・・・。」



酒が注がれたコップを片手に虚空を見つめる長門。

海の画集 -「艦これ」公式イラスト集-
182: 2018/01/12(金) 21:48:25.53 ID:4CCLSpn50

長門「そうだな私がここに来る前の話しからしようか。」

長門「私のな、艦娘としての人生はな、この戦争の長さとほぼ同じだ。」

時雨「・・・・、それは。長門はそんなに初期から艦娘として戦っていたのかい?」

長門「たまたま適正があったというのもだが。

   もともとは女性自衛官だったんだ。」

長門「だけに艦娘へと志願するのになにも躊躇はなかったさ。」

長門「それから訓練や戦闘に明け暮れる日々を過ごし

   気付いたときには教導をやるようになっていた。」

時雨「エリートじゃないか。」

長門「新任のひよっこを激戦地に連れて行って実戦のやり方を叩き込むことを

   エリートと呼べるならそうなんだろうな。」

長門「来る日も来る日も新規に着任した艦娘達を前線に連れて行き実戦での行き残り方を教える日々。」

長門「戦場と言うものは非情だ。最前線に新米を連れて行けば必ず一人、二人と轟沈が出る。」

長門「そんな事が続いて次第に私の心は何も感じなくなってしまった。」

長門「毎日のように誰が氏んだ、

   いや、氏ぬならせめて味方の盾になって氏ねぐらいに毒づいていたかな。」

時雨「初期の深海達との戦いは今よりずっと酷かったと聞いているから・・・、

   それは長門の責任ではないと思うけど。」

長門「あぁ、すまんな。そう言って貰えるとありがたいが、

   味方の骸を積み上げそれにより自己の武勲を積み上げる、

   当時の私はそれを是としていたんだ。」

183: 2018/01/12(金) 21:50:00.20 ID:4CCLSpn50

長門「そんな生活に何も疑問を思わなかったんだ。

   そんな生活を続けていくうちに戦場に出れば

   敵を地獄に連れて行く火車だの雷槌だのありがたくもない二つ名が増えていった。」

長門「そんな渾名に反発するように戦闘を繰り返していたら、

   いつしか英雄なんて言われていたよ。実に傍迷惑な話だった。」

時雨「ははは・・・。」

長門「そんなある日にな。

   補充兵として来た駆逐艦の一人が吹雪だったんだ。」

長門「もちろん今回の護衛対象だった吹雪とは何も関係がない。」

長門「初めは他の娘達と同じようにすぐに沈むもんだと思っていた。」

長門「だが、私の戦い方の中から何か得るものがあったらしい。存外しぶとくてな。

   いつしか私の副官的な役割をするようになっていたよ。」



昔を懐かしむように楽しく話す長門。



時雨「へぇ、それは随分な猛者じゃないか。今は何処の鎮守府に居るのかな?」

時雨「僕ももしかしたら何処かで会っていたかもしれない。」

長門「それは無いな。」

長門「私が最期を看取ったからな・・・・。」

時雨「あぁ・・・、ごめんよ。」

長門「最後に吹雪と出撃したのが鉄底海峡作戦なんだ。」

時雨「・・・・。そっか、あの地獄の釜底か。」



敵味方ともに大損害をだし勝者も無ければ敗者も無いとまで言われた海戦。

夜戦に次ぐ夜戦で敵味方入り乱れての同士討ちが発生した悲惨な海戦である。

一応、人類が辛勝したとは言われるがそこで採られた戦法は未だ賛否両論である。



184: 2018/01/12(金) 21:53:38.80 ID:4CCLSpn50

長門「捨て艦というのは実に気分がよくないもんだ。」

時雨「長門の艦隊もさせられたのかい?」

長門「いや、私が知る限りでは命令は来ていなかった。」

長門「そして、我々が指揮する艦隊は捨て艦などと言う非道をすることなく任務を遂行できたはずだったんだ。」

時雨「長門?」

長門「吹雪は近くで助けを求めてきた友軍艦隊の、

   そう、捨て艦として連れてこられていた駆逐艦娘を助けに行って沈んだんだ。」

長門「無線で助けを求めてくるその娘達を私は助けるのは無理だと判断した。」

長門「なにせ夜戦で周囲は砲火が入り乱れていて敵味方の区別が既についていなかったからな。」

長門「それを吹雪は助けにいってな。

   私は暗闇の中を駆けていった吹雪の後姿を未だに夢に見ることがある。」

長門「どんなに機関の出力を上げても追いつけないんだ。」

長門「なんとか見つけた時には既に息絶えていてな。

   吹雪が必氏の思いで救った駆逐艦の娘達に謝られたよ。」

長門「その後については日向が語ったようなまぁ、狂人の所業だ。」

長門「探照灯で敵に自分の位置をさらして誘蛾灯の如く集まってきた敵を殲滅。」

長門「敵を沈めまくって撃沈記録なんてものを打ち立てたのもこの海戦だったか。」

時雨「昔に聞いた事がある英雄的行為で勝利を齎した艦娘がいたって。」

時雨「長門のことだったんだね。」

長門「必氏だっただけさ。

   勝利を収め帰り着いた私を英雄として祭り上げようとした動きはあったが全て断ったよ。」

長門「吹雪を見頃しにしておきながら何が英雄だとな。

   今まで散々見頃しにしてきておいて何をか言わんやというやつかもしれんがな・・・・。」


185: 2018/01/12(金) 21:55:46.73 ID:4CCLSpn50

時雨「それで長門はその後どうしたの?」

長門「吹雪の家族にせめて通常以上の遺族年金が出るように色々手をつくしたのだが全て拒否されてね。」

長門「吹雪は私に捨て艦作戦の命令が来ていることを敢えて上げていなかったようで

   其れを命令違反とされた事が原因だったらしい。」

長門「私が指揮官だが武勲を挙げていたから処罰をする事が出来ず

   結果的に氏人に口無しと言うことだったのだろう。」

長門「軍令部の連中曰く、命令に基づき捨て艦をしなかった者達が

   処罰されなかっただけでもありがたいと思えとね。

   その後の私は参謀共が集まる軍令部に自然と向かっていた。」

時雨「まさか!?」

長門「そう、そのまさかだ。

   鉄底海峡作戦の後に軍令部が敵の襲撃に遭ったとされているあの事件は私がやったものだ。」

長門「糞食らえ。正しくそう思ったな。

   それで、捨て艦なんて物を考えた参謀共を皆ミートパイに転職させてやったのさ。」

長門「後は解体氏刑宣告後に牢屋で提督にまだ戦う意思があるならここに来いと誘われ今に至るだ。」

時雨「今回の任務は長門にとって贖罪だったんだね。」

長門「あぁ。まぁ、自己満足だ。すまんな付き合わせて。」

時雨「いいさ。戦友でしょ?」

長門「ふ、はははは。確かに戦友だな。」

長門「氏線を共に潜り抜けた戦友だ。」

長門「時雨、これからもよろしく頼む。」



急に畏まり頭を下げる長門。



時雨「もちろんだよ。長門。」



握りこぶしを前に出し。

長門はコンと時雨の作ったグーとぶつける。



長門「摩耶や川内は私がしでかした事件については知ってはいるがその原因については知らない。」

長門「時雨の気が向いたら話してやってくれ。」



そういい長門は川内達が宴会を続ける会場へと戻っていった。


186: 2018/01/12(金) 21:58:11.43 ID:4CCLSpn50

後日 横須賀艦隊司令部


提督「以上が先の撤退戦の詳細です。」

長官「戦略的敗北を戦術的力技でひっくり返すとはな。」

長官「実に痛快だな。」

長官「惜しむらくは非正規な事だな。」

提督「戦功の事ですか?」

長官「うむ。流石にブリキのバッジなんぞ君の所の艦娘は喜ばんだろ?」

提督「えぇ。腹の足しにもならないと言われてしまうでしょうね。」

長官「まぁ、とにかくよくやってくれたよ。」

提督「うちの鎮守府以外の被害は甚大だったようですが?」

長官「それについては責任を取ってもらったさ。」

長官「お飾りの元帥殿は勇退、これで元帥が3人になった。意見統一もしやすかろう。」

提督「かなりの思い切った形ですね。」

長官「それだけ失った兵の人数が多いという事だ。」

長官「言葉は悪いが艦娘そのものは補充をしやすい、が、熟練が頭につくと人的資源の損失は計り知れんよ。」

長官「作戦を立案した連中はもれなく『 栄転 』して貰った。」

長官「配属先へ移動する間に不幸な事故に遭わないといいのだがな。」ニタリ

提督(事故ね・・・。恐ろしいお方だ。)

187: 2018/01/12(金) 21:59:28.35 ID:4CCLSpn50

長官「おかげでずいぶんと風通しがよくなったぞ。」

提督「それはめでたい事ですね。では、私はこれにて。」

長官「やれやれ、内地勤務への誘いもさせてくれんとは。まったく。」

提督「机磨きはお断りしますよ。」

長官「そうか。では、礼代わりといってはなんだが

   君が秘書官に纏めさせた書類については私の権限で全て決裁をしておこう。」

提督「ありがとうございます。では。」

長官「あぁ、そうそう。君の同期で男君という人物を知っているかね?」

提督「あぁ。よく知っていますよ。民間からのなかなか面白い経歴で入った人物ですよ。」

提督「彼がどうかしました?」

長官「あぁ、いや。その男君がたまたま君が来ているのを聞いて友好を暖めたいといっていたのでな。」

長官「暇が有れば会ってやってくれ。帰るのは明日だろ?」

提督「了解いたしました。」



そう言い提督は長官室を退出した。

そして、廊下を歩いている所で同期の男性に会う。


188: 2018/01/12(金) 22:01:39.39 ID:4CCLSpn50

提督「ん、おっ。」

男「いよう!久しいな。元気か?」

男「中央に出勤とは珍しいな。今日の夜は暇か?」

提督「あぁ、今しがた長官に会ってやれと言われた所だよ。」

男「そうか、じゃ、今晩の飯。付き合え。」ニカ

提督「分かったよ。」ヤレヤレ



居酒屋 竜飛



女将「あら、男さん。いらっしゃい。」ウフフ

提督「なかなか落ち着いたいい店だな。」

男「女将が美人で繁盛しているが売りは料理でね。」コンバンハ

女将「あら、美人だなんて。まずはお通しどうぞ。」

提督「店の名前なんだが。」モグモグ

男「まぁ、そういう事だ。俺の仕事絡みで艦娘を辞められた方が切り盛りされてる。」

男「他にも社会復帰の一環で艦娘を辞めた娘を預かっていただいたりする事があるんだ。」

提督「しかし女将さんに面影がないな。」マジマジ

男「証人保護の関係もあってな、艦娘を辞める際に整形で顔は変えているからなんだ。

  骨格から変える妖精さんの謎技術で、ベテランの整形外科医ですら分からん。」ナイショナ?

提督「すごいもんだ。」マジマジ

女将「あら恥ずかしいですね。」ウフフ

男「あんまりジロジロ見ていると失礼だぞ?」

提督「あっ、あぁ、そうだな。」

男「久しぶりに会ったんだ。まぁ、飲もうじゃないか。」


189: 2018/01/12(金) 22:03:46.43 ID:4CCLSpn50

30分後

提督「それで、偶然を装って俺に何のようだ?」(小声)

男「気付いていたのか。」

提督「監査室で剃刀だの狂犬だの言われるお前が

   俺みたいな窓際の地位の提督に声をかけるってのは何かあると思うだろ。」

男「同期の友好を暖めたいとは思わないのかねぇ。お前と言う奴は。」マッタク

提督「まぁ思わないでもないがお前が親切にする時は何か裏がある。」

男「酷い言われようだな。例の件のとき俺が色々動いたのを忘れたのか?」

提督「その件については感謝している。」

男「あの時は俺の直属の上司である元帥にかなり骨を折っていただいたぞ。」

提督「その代わりに問題児を押し付けられたがな。」

男「提督の適正者が少ないんだ。問題児とはいえその実力は折り紙つきの連中だ。」

男「限られた資源は有効に使うもんだろ?」

提督「その通りではあるが実に灰汁の強い連中ばかりよこしてくれる。」

男「お前さんなら上手く使いこなせると思っているさ。」

提督「よしてくれ。まったく・・・・。」

男「あぁ、そうそう。」

提督「ん?」



つ バスクリン



男「お前の所は風呂の事情がよくないと聞いてるぞ。

  風呂でのリラックスタイムは重要だ。良い物をあげよう。」

提督「入浴剤か。ふむん。ゆずの香りかぁ。」



提督が差し出された入浴剤の缶を手に取る。



190: 2018/01/12(金) 22:05:10.87 ID:4CCLSpn50



カロン。



提督「!」

男(お前の所に以前送った時雨なんだが、あれの調査をしたのは俺なんだ。)

提督(ほう。)

男(あまりにも証拠が綺麗に整いすぎてて逆に怪しくてね。)

提督(それで再調査でもしているのか?)

男(あぁ、再調査も正式にやれないから個人でやっているんだがあまりにも何もないんだ。)

提督(何もない?)

男(あぁ、全てが綺麗に消されてしまっている。再調査が出来ないようにな。)

男(残っている証拠も全て不自然なまでに時雨が犯人になるように作為的に仕向けられてる。)

提督(それはなんとも不自然だな。)

男(元帥直属の監査室の人間である俺を直ぐにどうこう出来るとは思わないが。)

提督(とんだ爆弾だな・・・。)

男「まぁ、入浴剤を使うなら鎮守府に帰ってゆっくりと使ってくれ。」

男「外地は人の交流が少ないと聞くからこういうのも手に入りにくいだろ?」

提督「あぁ、なかなか手に入りにくい。帰ってゆっくりと楽しむよ。」

男「では、今日の再会に。改めて乾杯。」

提督「乾杯。」



提督は同期の男から入浴剤の缶に入った何かを受け取る。

それの中身は後程知ることになるのだが。



191: 2018/01/12(金) 22:08:53.56 ID:4CCLSpn50


北極海 座標不明


ヒュゴゥウゥ


北方水姫「外気温-34度。実にいい気温ね・・・・。」

戦艦棲姫「私にとっては寒いわ。」

水姫「私の艤装はパワータイプだから。」

戦艦「そういえばプロトモデルだったわね。」

水姫「えぇ、その所為で排熱が酷いのよ。制御系のオーバーヒートを防げるから外気温は低いほど調子が良いいの。」

水姫「それに排熱が酷いおかげもあって普段が薄着ですむというメリットも無くも無いわ?」

戦艦「出力重視ですものね。私の艤装が機動性重視のと比べると対極にあると言えなくもないかしら?」

水姫「それで今日はどういった用かしら?」

戦艦「先日の逆転敗北で重巡が沈んだでしょ?あれの責任を取らされて今は伝書鳩をやっているの。」

水姫「あら、ずいぶんね。でも、あなたの事だから世界の海を回れて楽しい位に思っているのじゃないかしら?」

戦艦「あら、ばれるのね。」

水姫「中枢棲姫もその辺り分かっててやってるわよ。それで、何を伝えに来たのかしら?」


192: 2018/01/12(金) 22:13:10.02 ID:4CCLSpn50

戦艦「かねてからの予定通りに再度の侵攻、上陸作戦を決行せよ。との事よ。」

水姫「重巡が沈んだとはいえ敵の数を減らすには成功したものね。」

水姫「再度の侵攻作戦をするには確かに今がチャンスではあるわね。」

水姫「了解したと伝えておいてもらえるかしら?」

戦艦「えぇ。分かったわ。」

戦艦「そうそう。先の作戦で重巡を沈めた連中だけど、もしかしたら此方にも来るかもしれない。」

戦艦「連中は超がつく熟練揃いだから万に一つも油断しないようにね。」

水姫「そうね。慢心が危険な事は重巡が身を持って教えてくれたしね。」

水姫「他山の石として気をつけるわ。」

戦艦「では。作戦の成功を祈っているわ。」

水姫「До свидания」

戦艦「えぇ、さようなら。」



ヒュゥゥゥ



戦艦(この吹雪は視界を悪くするわね・・・・。)

戦艦(視界不良の中で戦うなら戦いなれている彼女の方が有利でしょうね・・・。)



戦艦棲姫は北極海を超え何処かへ向かおうとしてた。

そして、また、先の作戦で開いた防御網の穴をつくべく北からの風とともに動き始める艦隊が居た。

193: 2018/01/12(金) 22:18:37.47 ID:4CCLSpn50
本日分は以上で終了です

次回から1の事前設定の中で一番軽い伯爵のお話の予定、後、少しだけ鎮守府に居る他の娘達に触れられたらなぁと思っています

イチャコラ?そんなもの知るか!な荒んだ設定でゆっくり進行しています

乙レス、感想レス、いつもありがとうございます、励みになります

いただいたレスは参考にさせて頂くこともあります(150様!バスクリン出てきたよ!←やっとかと怒られそう)

では、次回もよろしければお読みいただけると幸いです

第九話 ラッパが鳴って壁は崩れた:前編

引用: 【艦これ】 外地鎮守府管理番号 88