237: 2018/01/27(土) 22:44:46.13 ID:qE+EAaJ40
最初から:外地鎮守府管理番号 88
前回:番外編 She is Killer Queen
鎮守府 工廠付近埠頭
秋津洲「明石さん!すごいかも!」オホー!
普段は明石商店の配送要員として二式大艇のオペレータを務める秋津洲が遠くを見つめる。
秋津洲「あんまり見分けがつかないかも!」オホー!
時雨「何をやってるんだい?」
秋津洲「あっ、時雨かも!今ね、新しいデコイを試していたかも!」
秋津洲「今日は荷物も運び終わったから新商品の開発を手伝ってたの。」
そういい秋津洲が指差す先には。
時雨「あれは、失敗ペンギンと失敗綿なのかな?」
明石「そうですよ――。開発に失敗した時に出てくるあれの再利用です。」
時雨「開発とかしてたんだ。」
明石「時雨さんは稼ぎが良いからあれですけど普通は装備を改修して上位装備へ換装するものですよ?」
明石「それに改修の状況によっては無改修の上位装備よりいい働きする事もありますしね。」
236: 2018/01/27(土) 22:43:34.58 ID:qE+EAaJ40
第十話 ラッパが鳴って壁が崩れた 中編
238: 2018/01/27(土) 22:45:48.37 ID:qE+EAaJ40
秋津洲「改修の素材を全部よそから買ってたら高くつくから偶にうちの商会で開発してるかも!」
明石「開発して出る素材は出したほうが完成品を用意するよりお安く提供できますしね。」
時雨「そっか。営業努力の結果があれって事か。」
時雨が指差す方向に浮かぶのは失敗ペンギン達で作られた案山子。
明石「何かのデコイみたいなものに使えればなぁと思ったんですけどね。」
秋津洲「ぱっと見で駆逐艦サイズだから状況によってはありかも!」
明石「といっても動かずに浮いてるだけじゃバレバレですよねぇ……。」
明石「やっぱり捨てるしかないのか……。」
提督「アイデアは悪くないと思うぞ。」
明石が名残惜しそうに案山子を見つめる所に声をかける提督。
239: 2018/01/27(土) 22:47:02.27 ID:qE+EAaJ40
提督「空から見た感じどうなんだ?電探に影は映ったりするか?」
明石「あ――――。空からはまだですね。電探も後で試しておきます。」
時雨「提督、あんなのをどうするんだい?」
提督「時雨。兵器に限らず世の中の多くは全てアイデア次第だ。」
提督「本来の使い方ではない使い方が便利すぎて
イレギュラーな使い方がレギュラーになってしまった商品なんてものはいくらでもある。」
提督「あの案山子だって何かもう一工夫してやれば化けるかもしれんぞ。」
提督「それに材料が失敗の綿?とかだから持ち運びも容易だろうしな。」
明石「ですね。こう。ぎゅっと圧縮して使おうと思った時に一気に元の形に戻せるって感じが可能です。」
提督「面白いな。後は使う側のアイデア次第って気もするぞ。」
明石「じゃぁ、提督。買って下さいます?」ニコニコ
提督「そうだな。値段しだいだな。開発の失敗作なんだろ?」ニヤリ
そんな二人の会話の後に明石の実験的新商品の値段交渉が始まった時だった。
240: 2018/01/27(土) 22:48:20.98 ID:qE+EAaJ40
ボコボコボコ
ザバァツ!
埠頭の岸壁に手を掛け3人の潜水艦娘達が鎮守府埠頭に姿を現す。
伊58「帰ってきたでちぃ・・・。」ベチィ
時雨「あっ、ゴーヤじゃないか!久しぶりに姿を見たけど特殊作戦行動にでも出てたのかい?」
伊13「時雨さん、お久しぶりです。」ヨッ
伊8「欧州から帰って来たところなんです。」フゥ
提督「お疲れ。帰投の連絡があってから待ってたぞ。」
明石「何だ散歩じゃなかったんですか。」
伊58「これが荷物でち。」ゴト
つ 防水耐圧処理済トランクケース
提督「確かに。これが報酬だ。無くすなよ。再発行は出来んからな。」
そう言って差し出すは複数の茶封筒。
伊58「1週間の休暇許可と報酬金一人5000ドルに刑期短縮の海軍大臣署名入りの確約書。」
伊58「それからノルマ軽減についての軍令部総長署名入りの確約書。」
伊58「全部間違いないでち。」
封筒の封を乱雑に破り中を確認したゴーヤが顔を上げる。
241: 2018/01/27(土) 22:49:33.69 ID:qE+EAaJ40
提督「後な、これは伊13に特別ボーナスだ。
特警の監視付になるが面接権だ。妹に会いに行ってやれ。」
伊13「・・・、ありがとうございます!」
提督「仕事に対する正当な報酬に過ぎんよ。助かった。」
時雨「提督、ゴーヤ達に何を頼んでいたんだい?」
提督「軍機につきと言いたい所だが、俺が話さなかったらゴーヤ達から聞き出すんだろうな。」
提督「グラーフを呼び出しついででコーヒーを執務室まで頼めるか?」
提督「ここで話をするには向いていないからな。後、明石も来てくれ。」
明石「了解です!」
提督「後、伊58は道中の報告も聞きたいから同行してくれ。」
提督「そんな訳だから時雨、コーヒーを人数分だ。」
時雨「了解。」
242: 2018/01/27(土) 22:51:14.31 ID:qE+EAaJ40
執務室
グラ「Admiral、注文のコーヒーだ。」
提督「ありがとう。そして手間を掛けるがドイツ語の翻訳を頼めるか?」
グラ「了解した。」
時雨「提督はドイツ語出来ないの?」
提督「嗜む程度だ。その程度だから技術的な専門用語が入ってくるとお手上げだ。」
提督「よしんば出来たとして母国語の違いという奴でな微妙なニュアンスの違いって奴は理解出来ん。」
提督「それなら出来る奴に任せるのが一番だ。」
そう言いながら先ほどのトランクケースに付いている鍵に番号を打ち込む提督。
提督「と、開いたな。グラーフ、すまないがこれらを一つ一つ頼む。」
明石とグラーフに書類の束を渡す提督。
243: 2018/01/27(土) 22:52:45.59 ID:qE+EAaJ40
提督「凡その内容は聞いているが儀術的な部分もあるからな。」
グラ「ふむ。祀事的な部分という事か。」
提督「シャーマンの部分は本当によく分からん。」
時雨「シャーマン?」
提督「あぁ、嘗ての英霊。戦闘機なんかのネームドパイロット連中を
こっちの世界に降ろす為にはどうしても宗教的な手続きがいるわけなんだよ。」
提督「欧州の艦娘運用国の中では特にドイツが先進国でね。」
提督「なんだかんだでドイツが艦娘に関する技術では欧州では一番進んでいる。」
提督「そんな訳で、伊58達には最先端の技術交換目的で北極回りでドイツに行ってもらってたんだ。」
時雨「北極回り。」
提督「そうだ。スエズは通れない中で喜望峰回りと北極回りは危険度がそう変わらない。」
提督「それなら少ない日数でいける北極回りの選択になるという事だ。」
グラ「潜水艦ならではだな。」
244: 2018/01/27(土) 22:54:26.87 ID:qE+EAaJ40
時雨「その、ロシアのシベリア鉄道とか空路で行くとかも出来ないのかな?それとか無線通信とか。」
提督「ロシアね。」フフン
提督「北方四島返還と千島の信託統治を認める代わりに艦娘を要求したロシアがね。」
グラ「響だったな。」
提督「あぁ、連中は貸与された響を徹底解析した挙句に
名前を付け替えその解析で得た技術で戦艦を組み立てやがったからな。」
提督「連中からしてみれば深海連中に海を抑えられてる現状、北方四島を含む千島列島は穴の開いたバケツだ。」
不知火「防衛の為にお金が湯水の如く消える割にその意義が皆無ですね。」
提督「早い話、厄介払いだな。」
グラ「ロシアの戦艦は見たことはあるが・・・。」
明石「あれの実態は酷いもんですよ。
駆逐艦の技術で戦艦を動かしてるから魂の受け皿になってる艦娘と船魂のシンクロ率が恐ろしく低いんです。
技研の連中も流石恐ロシアって苦笑してましたよ。」
明石「そして艦種違いの低シンクロ率を誤魔化す為に薬物を使用してる状態ですもん。」
245: 2018/01/27(土) 22:55:59.99 ID:qE+EAaJ40
グラ「ガングートが加えているパイプはやはり薬物の類だったのか。」
明石「えぇ、表向きには依存性のない綺麗な薬物って言ってますけど薬物に綺麗も汚いもないです。」
明石「あれに火をつけて吸引すると軽いトランス状態になるんです。」
明石「シャーマンがトランス状態になって体に精霊を降ろす。
その状態を擬似的に作りだしてシンクロ率を無理やり上げてるそうですよ。」
グラ「ろくでもないな。」
提督「流石ドーピング大国と言いたくなるな。
連中は俺達も艦娘作れるぞって誇示の為に派遣という形をとって
更なる技術提供を要求してくる厚顔っぷりだから驚くほどでもないがな。」
提督「そんな国を艦娘に関する技術資料を持った人間が通りまぁ―――――――すぅ!なんてやってみろ。」
伊58「あっという間に拘束されるでちね。」
246: 2018/01/27(土) 22:57:25.91 ID:qE+EAaJ40
提督「後な、もう一つの赤い国、深海棲艦が出てくる前から
いろんな国にちょっかい掛けては海洋進出をしてきた国だからな。」
提督「艦娘に関する技術は喉から手が出るほど欲しい、そして実際誘拐まがいの事だってやってる。」
提督「そいつら大国以外の国も何処も似たり寄ったりだ。
深海との戦いが終わった後の艦娘の運用方法、海洋の覇権を含めて艦娘ってのは好奇の対象なんだ。」
提督「だから陸路やそれらの国を通過する空路なんかでいったら行方不明者がダース単位で出てしまう。」
提督「秘匿通信なんて使っても傍受、解析なんてされたら漏れているのかどうかが分かりにくい。
だから原始的だが情報員の派遣が一番確実なんだよ。」
時雨「ごめんよ。そこまで深くは考えていなかったよ。」
提督「世の中の政治ってのはめんどくさいもんさ。
アメリカにしたって日本を支援しているのは終わった後の海洋での覇権を見据えてのもんだしな。」
提督「内心、軍事同盟を結んでて良かったくらいの事は考えてるだろうよ。」
提督「適度に漏らしていい情報は垂れ流して何処から漏れているかを諜報部は探ったりはしているようだがね。」
247: 2018/01/27(土) 22:59:01.57 ID:qE+EAaJ40
時雨「でもどうしてゴーヤ達なんだい?」
提督「身内も信頼できる連中が少ないってこったろ。」
提督「下がゆるい連中が多いと特警も憲兵も忙しいからな。」
提督「その点、ここなら金と刑期、どちらかに忠実に働く分ましって計算なんだろう。」
提督「俺の職務に忠実な友人曰く女ばかりの職場で働く提督なんぞ去勢してしまえ、だからな。」
提督「鎮守府内で満たせない以上、外で欲求解消をしようとして後はそういう事だ。」
明石「嵌めたつもりが嵌められたとかしまらない話ですねぇ。」
提督「上手いこと言ってんじゃねえよ、まったく。」
グラ「身に覚えのある話だけにアホばかりという気がしないでもないな。」
提督「特警曰く『 刑務所は敷金、礼金無料!1Rだったらトイレ付き!あなたの入居をお待ちします! 』だそうだ。」
明石「皮肉が効いてますねぇ・・・。」
提督「話がだいぶ横道にそれてしまったが肝心の中身はどうだろうか?」
提督「事前に聞いた概要としてはネームド艦載機に関する技術的な話らしいんだが。」
明石「そうですね。間違ってないですね。」
248: 2018/01/27(土) 22:59:52.96 ID:qE+EAaJ40
明石「海外機のネームドに関する研究レポートとかですね。」
時雨「僕らにはあまり関係ないかな。」
伊58「でち。」
提督「ざっと目を通した後で大まかでいいから説明を頼む。」
提督「でだ、伊58、北極方面の敵の動きはどうだった?」
伊58「無線の通信量が増えていたのとスクリューの音が多かったでち。」
提督「・・・・、スクリュー音が多かったか。」
提督「大型艦船のスクリュー音だったか?」
伊58「どちらかと言えば小型艦船が多かったでち。」
ゴーヤの報告を聞いて頭を抱える提督。
249: 2018/01/27(土) 23:01:19.74 ID:qE+EAaJ40
提督「はぁ―――――。
まいったね、この間の作戦で艦娘を大量に失ったのを敵さんは見逃してくれないか。」
時雨「どういうことだい?」
提督「小型艦船の動きが活発になってるってことは
上陸作戦に向けて補給船や揚陸艇を動かしてるってことだろうな。」
提督「戦艦や空母だけじゃ上陸作戦は出来ないからな。
大型のみなら別場所への移動かとも思えるんだがな。」
提督「さらにこの間、艦隊司令部に顔見せに行った際に貰った資料によれば
例の作戦は北方方面から軍の人員をそれなりに抜いていたらしいからな。」
提督「今までの経験から一度大規模の掃討戦を行った後は敵もすぐには動かないという経験則から判断したんだろうな。」
グラ「よくある、だろう、かもしれない、という奴か。」
不知火「それを敵が理解していれば動かす方面軍は自明の理ですね。」
提督「そして伊58がここへ帰ってくるまでのタイムラグを考えれば。」
250: 2018/01/27(土) 23:02:20.06 ID:qE+EAaJ40
不知火「敵は既に動いていますね。」
提督「あぁ、今頃どこかの島を落しているだろうよ。」
グラ「ふむ。まぁ、我々には関係があまりない話かな。」
提督「ここから北の千島列島までは日数が掛かる。
それに単冠湾、幌筵にはまがりなりに泊地と名前が付くだけあって最低限の戦力はあるだろうしな。」
提督「幌筵はロシアのカムチャッカが近いし
ロシアに義理立てする理由も薄いから攻められたら早々に放棄するだろう。」
提督「寧ろ放棄する理由が欲しいくらいじゃないのかな。」
不知火「あそこは日本にとって盲腸みたいなものですから。」
提督「そうだな。無くていい。有れば金も人手も掛かる無駄飯食らいだ。」
提督「とはいえ、先ほどの話じゃないが出撃については想定くらいはしておいた方がいいだろ。」
提督「何事も想定外を想定しておいたほうがいい。」
提督「矛盾を含んじゃいるがな。」ハァ
提督「伊58、状況は理解した。コーヒーを飲んだら自室で休んでくれ。」アリガトナ
伊58「分かったでち。」スズー
251: 2018/01/27(土) 23:03:06.24 ID:qE+EAaJ40
提督「それで、艦載機の話なんだが。」
明石「ざっと目を通した感じでは宗教的な魂の取り扱いがネックみたいですね。」
提督「宗教か。」
明石「えぇ。氏ねば神として祀られる日本の場合は艦載機を神社に見立てて神を降ろす。」
明石「弓道型の娘は矢の一部に榊の木を使ってますから
あれが神籬(ひもろぎ)として依り代になります。陰陽型は言わずもがなですね。」
明石「どちらも黄泉の国におわす御霊を神として召還して依り代に降ろす事で名前持ちを降ろしているわけです。」
明石「なわけなので分霊(わけみたま)で一部のネームドは増やせているでしょ?」
明石「まぁ、艦娘の魂に紐付けされてる所為で一部の艦娘の協力がないとネームドが現世に降ろせなかったりしますが。」
明石「ところが海外の場合、氏なれた後の魂の行き場がめちゃくちゃみたいですね。」
252: 2018/01/27(土) 23:06:25.86 ID:qE+EAaJ40
グラ「うむ。われらゲルマン民族の場合は戦場で氏ねばヴァルハラだ。
そうでない場合はニヴルヘイムだな。」
提督「北欧神話の類だな。」
グラ「うむ。北欧神話だ。だけにキリスト教徒はヴァルハラに行っていなかったりする。」
時雨「氏んだ後の魂の行き先に縄張りがあるのかい?」
グラ「あぁ。」
明石「日本の場合は仏教徒だろうが戦中、戦後に関わらず氏んだ方はみな英霊で同じ場所に祀られているんですけどね・・・。」
明石「さらにドイツの場合は。」
提督「空母艦載機に乗っていたエースパイロットがいないと。」
明石「そうですね。大元の召還が困難な原因はそこに行き着きますね。」
グラ「とは言え資料を読む限りは技術的にはなんとかなりそうだがな。」
明石「そうですね。後は魂の定着をどうするかの問題みたいですね。」
グラ「現状でも依り代となるものを用意できれば1週間程度はこの世に顕現させる事は出来るようだ。」
提督「1週間か。」
明石「長いとも短いとも。」
不知火「まさしく切り札的な感じですね。」
時雨「切り札?」
提督「あぁ、ドイツのエースパイロットはその名の通り切り札(エース)揃いだからな。」
時雨「へぇ。」
グラ「日本のネームド達に負けず劣らずの猛者揃いだ。」
グラ「一例をあげるならウクライナの黒い悪魔に極北のエース、アフリカの星といった戦闘機乗りの強兵達だ。」
明石「彼らが使えるようになると相当に戦力強化にはなるでしょうね。」
グラ「時限だがな。」
提督「現状はそれを降ろすための機材その他で金が馬鹿みたいに掛かるが不可能ではないということか。」
明石「まっ、物好きがやるかぁ、くらいのレベルみたいですね。割りに合わない感じです。」
提督「大戦時の装備でも技術的に現代の物に置き換えられるものは
置き換えて行っているがそれでもそんな状況なのか。」
明石「置き換えても妖精さん抜きでは艤装も含めて装備は動きませんから。」
グラ「理論だけが先行しているような形らしい。」
グラ「だけに実証実験の例が少ない。」
提督「そうか。全部の翻訳が終わったら教えてくれ。また司令部に持って行かないといけないからな。」
明石「司令長官も提督を中央に戻したいんですかね。」
提督「面倒はもう沢山だからお断りしたいんだがな、椅子磨きも机磨きも面倒なんだよ。」
提督「俺が抱えきれる仕事はこの両手の範囲内だよ。」
ぐっと手を広げる仕草をする提督。
時雨「そっか。意外に小さいんだね」
提督「あぁ、そうだ。小さいんだ。」
253: 2018/01/27(土) 23:08:44.21 ID:qE+EAaJ40
軍令部内 海軍戦争指導会議
参謀達が壁に掛かった海図と机上に展開させている図表を前に激論を交わしている中
少しだけ離れたところでそれを冷めた様子で見つめる一団が居た。
Y元帥「千島列島に敵の襲撃とはね。」ヤレヤレ
I元帥「先の作戦で戦力を北からだいぶ抜いていたからな。」
Y元帥「先立っての作戦より半年程前に北の連中は叩いたばかりと言うのに。
まったく敵の戦力は畑か何かから生えてきているのかね?」
K元帥「こっちは無能が多いのに対し敵が優秀というのは困ったものだな。」
K元帥「まぁ、先の大掃除でだいぶ片付きはしたがね。」
Y元帥「それについては同意だな。しかし、北の守りは正直それ程の重要性はないだろ?」
I元帥「そうだな。国民感情では北方四島を含む千島、まぁ、北千島は信託統治だから
還ってきたというにはあれだが全体としては喜ばしい事ではあったんだろうがな。」
K元帥「実質は深海連中どもから守るのが困難になって金を掛けたくない、
掛けられない露助どもに押し付けられたに過ぎないからな。戦略的重要性は薄いなあの地は。」
Y元帥「補給線の維持に拠点維持。毎年少なくない金が掛かる。」
I元帥「幌筵などカムチャッカの方が北海道本島より近い事も考えると氏に金だよ。」マッタク
K元帥「対露助と言う事なら戦略的な意味もあろうが人外相手ではな。」ヤレヤレ
I元帥「金食い虫も良いとこだ。無駄に戦力を遊ばせる事になるがロシアの手前な。実に困ったもんだよ。」
Y元帥「でだ、司令長官よ。君はどうみるね?」
254: 2018/01/27(土) 23:13:08.49 ID:qE+EAaJ40
海軍の最高権力者である三人の元帥の話に耳を傾けているところに話を振られ
ややもあって口を開き自身の意見を述べ始める。
長官「そうですね。北海道の本島まで戦線の後退の後、防衛線の再構築が最善かと。」
I元帥「幌筵、単冠湾泊地は捨てるか。」
Y元帥「捨てる選択を逡巡せずに進言してくる辺りうちの参謀と比べてやはりなと言うべきかね。」
長官「幌筵の戦略的価値は現状皆無、
単冠湾については太平洋側とは言え現状冬季の利用が困難な泊地に利用価値は高くありません。」
長官「先ほどのK元帥の話にもありましたが対ロシアという事であれば人員等を割くに値するでしょうが
深海棲艦が海上封鎖を行っている現状ではわざわざ島嶼防衛に人員を裂くのは限られたリソースの無駄と考えられます。」
K元帥「深海連中が島を攻略したところで奪還作戦をやれる兵力を持っているのは我々くらいなものだからな。」
I元帥「露助の連中も一度こちらに返した以上深海の連中に渡したからと言って領有権に文句も言えないだろう。」
Y元帥「とはいえな。」
長官「はっ。」
Y元帥「始めにも言ったが国民がそれを許してくれんのだよ。」
Y元帥「大衆意見という奴は利用しやすいが制御がし難くてね。」
Y元帥「北方四島の返還は我が国の悲願だった部分もある。
それを相手が深海棲艦という得体の知れん相手に再度渡す。
なんて事になったらどうなると思う?」
I元帥「幌筵はともかく択捉の単冠湾まで落ちると今の政権が持たん。」
I元帥「今の政権が倒れると中共どもを抑えるだけの手腕を持った後釜が居らんのだよ。」
K元帥「我々作戦畑の人間からしてみればさっさと渡して出血は少なくしておきたいものなんだがね。」
Y元帥「Kの言う事も最もだが時に最善手が最良手とは限らんよ。
毒と分かっていながら食らわないといけない場合もある。」
255: 2018/01/27(土) 23:14:11.64 ID:qE+EAaJ40
I元帥「たればこそ、単冠湾は落される訳には行かんのだよ。」
I元帥「幌筵を生贄にすることになったとしてもだ。」
長官「ですが、あそこは。」
Y元帥「必要なものは用意しようじゃないか。」
Y元帥「兵站部の連中の尻を叩けと言うなら幾らでも叩こう。」
Y元帥「先の作戦で風通しを良くしたおかげもあってだいぶ動かしやすくなった。」
I元帥「確かにな。」
I元帥「ただ、今の我々は限界まで減量したボクサーみたいなものだ。」
I元帥「無駄を削ぎ落とし必殺の一撃を放つ。」
I元帥「その一撃は有効な場面で打たないと此方がカウンターを食らってしまう。
無能な指揮官や事務職どもは一掃したがこれ以上は失えないのだよ。」
長官「はっ。」
K元帥「君も大将として長いから我々の置かれている現状は分かっているだろ。」
長官「はっ。」
K元帥「そして、私は知っているぞ。」
長官「はっ?」
K元帥「君が実践的な即応部隊を持っていることをな。
256: 2018/01/27(土) 23:15:18.90 ID:qE+EAaJ40
長官「・・・・・。」
K元帥「懲罰部隊的な扱いで集めた精鋭を君の子飼いの部下に指揮させているだろ。」
K元帥「それを出してくれ。」
長官「しかし、あれは。」
K元帥「二度は言わんよ。」
長官「了解しました・・・・。」
I元帥「では、会議もこれで。」
K元帥「あぁ、やらねばならぬことが多いからな。」
Y元帥「長官。必要な物があれば言うように。」
Y元帥「君の部下を動かすのに椅子が必要なら用意するぞ。」
Y元帥「作戦の立案に関してもそちらの裁量でやってくれてかまわない。」
I元帥「単冠湾が守れれば幌筵はくれてやっていい。」
I元帥「千日手に持ち込めれば十分だ。」
I元帥「頼んだよ。」
三元帥はそういい会議室を去っていった。
後には元帥達首脳部の、無能は要らないと暗に言った言葉に青ざめた参謀達と困ったなといった顔をした長官が残された。
257: 2018/01/27(土) 23:16:18.91 ID:qE+EAaJ40
長官「地位や物で動く奴ならどんなに楽なことか。」
長官「実に面倒な事になった。」
長官は一人ごちる。
子飼いの部下とはいったものの猟犬ではなく狼。
その首に首輪と手綱をつけることは難しい。
さらに首輪と手綱をつければ間違いなく動きが鈍くなる。
長官「獲物を良く狩る狂犬なれば繋いで忠犬にした結果獲物を獲らなくなるよりかはましか。」
どうしたものかと切れる手札の少なさを嘆かずにはいられない長官だった。
258: 2018/01/27(土) 23:17:09.18 ID:qE+EAaJ40
千島列島 幌筵島
リ級「敵の施設は破壊完了です。」
リ級「上陸姫様が施設設営を開始しています。」
水姫「幌筵はあっさりと落ちたわね。」
リ級「設営後は上陸姫様は撤収されるそうです。」
水姫「集積地に引き継ぐのでしょ?妥当だわ。」
水姫「それぞれがそれぞれの仕事をきちんとこなす。理想的じゃない。」
水姫「名は体を表すではないけれど上陸作戦が主任務ですもの。」
水姫「それで設営にどれくらい掛かるのかしら?」
リ級「拠点としての要塞化に2日程、とりあえずの使用で有れば後1時間ほどとの連絡です。」
水姫「物資の揚陸は時間が掛かるものね。それに破壊するより作るほうが大変だし。」
水姫「仕方の無い事ね。ただ、もう少し早くなるといいのだけど。」
リ級「天候が気になりますか?」
水姫「えぇそうね。単冠湾の連中を逃がさず沈めるには天候は悪いままのほうがいいもの。」
水姫「普通なら天候は良い方がいいのでしょうけれど私達は逆よ。」
水姫「・・・・・、私の部隊全員に通信を繋いでもらえるかしら?」
リ級「了解いたしました。」
259: 2018/01/27(土) 23:18:57.23 ID:qE+EAaJ40
ブッ ブゥウゥン ザリザリザリ
リ級「部隊の全深海棲艦、通信のチャンネルが繋がりました。」
ブゥゥゥウン
水姫「勇敢なりし我が同胞諸君!貴官らの働きにより幌筵を陥落せしめることが出来た!」
水姫「諸君らの働きは全深海棲艦同胞に勇気を齎した!」
水姫「我が同胞、北の精鋭諸君!我等の悲願達成の時は近い!」
水姫「先だっての侵攻作戦時に我等は実に多くの血を流した。」
水姫「それは実に壮絶な戦いの末の物であった。」
水姫「敵は先の作戦で我等を退けた事により再度の侵攻作戦まで時があると油断した。」
水姫「そう、愚かしくも油断をしてしまったのだ。その結果がどうだ!?」
水姫「今!我等は敵の拠点幌筵を落し更に単冠湾へと手を伸ばそうとしている!」
水姫「諸君らが流した血は決して無駄では無かったのだ!」
水姫「我等が敵の拠点を落し、北の海から艦娘共を追い出すのだ!」
水姫「我等が北の海を掌中に納め北の海に我等有りと大いに喧伝してやろうではないか!」
水姫「我等が深海棲艦の未来を示し道を照らすのだ!」
水姫「我等深海棲艦に栄光あれ!」
ブツン
リ級「お見事な演説でした。」
水姫「これから敵の泊地を更に攻めないといけないのですもの。」
水姫「演説一つで士気が上がるのなら安いものよ。」
北方水姫の演説が終わった後、何処かから誰とも無く鬨の声が上がる。
幌筵を落した凱歌を歌う深海棲艦達の士気は高く。
その鬨の声は吹雪の音に掻き消される事無く海域に響き渡るのであった。
260: 2018/01/27(土) 23:25:31.30 ID:qE+EAaJ40
本日分は以上で終了です
幌筵、ぱらむしる、初見で読めた方いらっしゃいますでしょうか?私は読めませんでした
次回でたぶんグラ編は終われます、いや終わらせます……
1話が長い事が多くもう少しうまく纏めれたらなぁと思っています、申し訳ありません
水姫の演説は共産っぽくなるようしてみました、同胞とか栄光とか入れて多用したらそれっぽくなりますね
いただいている感想レスは参考にさせていただいたりもしています、いつもありがとうございます
では、次回もお時間よろしければおよみいただきますようお願いいたします
第十一話ラッパが鳴って壁が崩れた:後編
幌筵、ぱらむしる、初見で読めた方いらっしゃいますでしょうか?私は読めませんでした
次回でたぶんグラ編は終われます、いや終わらせます……
1話が長い事が多くもう少しうまく纏めれたらなぁと思っています、申し訳ありません
水姫の演説は共産っぽくなるようしてみました、同胞とか栄光とか入れて多用したらそれっぽくなりますね
いただいている感想レスは参考にさせていただいたりもしています、いつもありがとうございます
では、次回もお時間よろしければおよみいただきますようお願いいたします
第十一話ラッパが鳴って壁が崩れた:後編
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