266: 2018/02/04(日) 23:08:41.14 ID:stFP+DZS0


最初から:外地鎮守府管理番号 88 
前回:第十話 ラッパが鳴って壁が崩れた:中編 

執務室


不知火「どうぞ。」

提督「ん。」

提督「上手くなったな。」

不知火「ありがとうございます。」

提督(コーヒー豆の件は不問にしておくか。不知火が淹れる技術が向上したので有れば安い買い物と言えなくは無い。)

不知火「司令。」

提督「ん?」

不知火「失礼な事を考えていませんか?」

提督「いや。」



司令部へ持参する書類の作成に二人が夜の時間を過ごしている時だった。

ジリリリリン。

司令部直通の古めかしい黒電話。それも、滅多に鳴らない電話である。

にも拘らず不知火が特に気合を入れて磨いているため艶々の電話が鳴る。

すぅっと一息、息を吸い。

見る者がいれば嫌々といった態度で。提督は電話に出た。

265: 2018/02/04(日) 23:07:37.85 ID:stFP+DZS0

第十一話 ラッパが鳴って壁が崩れた 後編
海の画集 -「艦これ」公式イラスト集-
267: 2018/02/04(日) 23:09:53.90 ID:stFP+DZS0

ガチャリ。


提督「仕事ですか。」

長官「あぁ。」

提督「北が落ちましたか。」

長官「潜水艦娘から聞いたかね。」

提督「えぇ、大まかに敵の艦船の量を。」

長官「君からドイツとの情報員派遣交流に関する報告書をお持ちしますと連絡を受けていたからね、

   言わずとも分かっては居るだろうと思っていたよ。」

提督「理解しているのと受けるかどうかは別ですよ。」

長官「距離のことかね。」

提督「うちから出すにはちと遠いかと?」

長官「君らしくないな。」

提督「………。はぁ、航空輸送の手配まで済んでいらっしゃると言う事ですか。」

長官「分かっているなら無駄な話は省きたいな。」

268: 2018/02/04(日) 23:11:37.20 ID:stFP+DZS0

提督「いえいえ。楊修の様にはなりたくありませんので。

   しっかりと説明と作戦の発令を待ちませんと。」

長官「分かった。文書としての発令自体は明後日になるが君を指揮官として北の防衛戦を任せたい。」

提督「………、奪還ではなく防衛なんですね。」

長官「まさしく鶏肋だよ。」

提督「長官より上が関わっていらっしゃる。」

長官「あぁ、それもお三方、皆が君の指揮を御所望だよ。」

提督「ですと捨てるに惜しいというより捨てられない。」

長官「政治が絡むからな。」

提督「これは武者震いしますね。」

長官「はっはっは、戯言を。君がそんな玉かね?」

長官「謙遜を知っていることは君の美徳だが今は冗談にしか聞こえんよ。」

提督「どれくらいお出しいただけるんですか?」

長官「先の報告書の最後に付けてあった『 意見書 』。

   あれを参考に出撃参加の者には30万を最低限で保障しよう。守りの為の留守には10万。」

長官「後はそこの基準に沿った報酬の支払い。

   他も燃料に弾薬、修理に掛かる費用も持とうじゃないか。」

提督「至れり尽くせりですね。」

長官「こちらの手の内は見せた。そして切れるカードもこれだけだ。後は何も出んよ。」


269: 2018/02/04(日) 23:12:38.50 ID:stFP+DZS0

提督「いえいえ、十分過ぎる援護射撃。ありがたく。」

提督「あぁ、申し訳ないのですがいくつかお骨折りいただいても宜しいですか?」

長官「君が要求をするかね。」



言外には珍しいという気持ちと無欲のように見えて欲が有るのだなと言う感想。



提督「早急に御用意いただきたいのですが何せ戦争は艦娘を含め様々な犠牲者が出ます。」

長官「うむ。」

提督「その為、既に落された泊地から撤退してきた部隊を再編するにあたって所属の問題が有ると思われます。」

長官「成る程。君は指揮系統を統一する為の権限を望むと。」

提督「はい。指揮系統が一本化されていない部隊を指揮するのは御免蒙りたいですね。」

長官「いいだろう。用意しよう。」

270: 2018/02/04(日) 23:14:16.18 ID:stFP+DZS0

提督「それからもう一つ。」

長官「ふむ。続けたまえ。」

提督「落された泊地を守る為に散った者もいるかと思います。」

提督「私が現地入りした際にはそれらを調べ直ぐにそちらへ御報告したいと思います。

   ですので特進と恩給の手配を願いたく思います。」

長官「成る程。君は優しいな。」

提督「いえ。私ほどの悪党は自分でも知りませんよ。」

長官「そうかね。ふむ。そうか。」

長官「故人になってしまったが私の古い友人は君の事を高く買っていたことを改めて思い出したよ。」

提督「教授にはお世話になりました。

   ですが落ちこぼれとして弟子の末席を汚していたに過ぎません。」

長官「彼は勝つ為の手段を選ばないという点において割り切り方がいいと言っていた。」

長官「そういう意味で正しく戦争を理解しているとも言っていたな。」

長官「正式な発令書は輸送時の飛行機の中で渡すことになるかと思うが

   発令自体はこの電話でされたと受け取ってくれ。」

271: 2018/02/04(日) 23:15:23.74 ID:stFP+DZS0

長官「他にはもう無いな。」

提督「では、最後に一つ………。」



そう言い提督は長官に話をする。



長官「ふむ。管轄が違うがまぁ、何とかなるだろう。ふん。宜しい。」

長官「手配をしておこう。では、頼んだよ。」

提督「了解いたしました。直ぐに行動へ移ります。」

長官「あぁ。機材の都合が付くまで1日かかる、明後日、XXX飛行場に行ってくれ。」

長官「時間の指定も改めて連絡しよう。ではな。」

提督「はっ。」



こうして深夜の電話で88鎮守府の人員が北の魔女達を迎え撃つ事が正式に決まった。



提督「不知火。まだまだ残業だ。すまんが手伝ってもらっていいか?」

不知火「朝まで二人でと言う事ですか。」ヌイ?

提督「ん。」

不知火「下着を替えてきます。」ヌイ!

提督「ん?」



情報収集は翌朝近くまで続いた。

272: 2018/02/04(日) 23:17:39.48 ID:stFP+DZS0

翌日 早朝


召集の全体放送が流れ鎮守府に所属しているゴロツキ共全員が押し合い圧し合い会議室になんとか納まる。



提督「皆集まったな。デカイ山だ。」

摩耶「儲け話は嬉しいねぇ。」

川内「他人の不幸は黄金の蜜味。」

時雨「エバラかな?」

雪風「焼肉のタレみたいな表現ですね。」

雪風の返しに一同が沸く。

長門「で、幌筵か?」フフン

提督「何で知ってるんだ?」アレ?

長門「明石がいい儲け話が有るって皆に10ドルで情報を売って廻っていたからな。」

川内「北で敵の大規模進軍が起きていて幌筵が落ちただろうからその救援に動くかもしれないってね。」



まったくと言う表情で顔を覆う提督。

273: 2018/02/04(日) 23:18:58.35 ID:stFP+DZS0

提督「明石の前じゃ迂闊に話も出来んな。」

提督「だが手間は省けた。そういう訳だ、留守当番の奴以外は全員遠征だ。」

川内「で、幾らなの?」

提督「出る奴は30万保障だ。」

川内「おっおぉ!!」

摩耶「こいつは久しぶりにでけぇな。」

提督「更に燃料、弾薬全部持ち。」

雪風「お代わりもいいですか!?」

提督「毒ガス訓練なんかしないから遠慮なくしとけよ。」



他人の財布で暴れられるとだけあって沸き立つ一同。



「Fucking Shit! どうして来月まで待てないんだ深海どもめぇ……。」



そして、不幸にも?留守の当番だった者達からは悔しがる声多数。


274: 2018/02/04(日) 23:20:22.33 ID:stFP+DZS0

瑞鶴「私は寒いところ苦手だからパース。」



しかし、儲け話にまったく興味を示さない者も居た。



川内「やったぁ!大儲け確定だぁ!」



空母組みの稼ぎ頭それが出ない。

それだけで撃沈報酬が増えることは確定的なので川内が喜びの声を上げる……。

が。



提督「青目だ。」



会議室の長卓にだらし無く足を上げていた瑞鶴の目つきが変わる。



瑞鶴「間違いないの?」

提督「情報収集してる段階だが何隻か見たんだそうだ。」

提督「現地は今時期吹雪が強い。

   それを考えれば艦載機を扱うのに長けてる奴が出張っていてもおかしくないだろ?」

瑞鶴「始めに言え禿げ。いいわ。あんたの指示に従ってやるわ。」

瑞鶴「でも、青目の連中は私の獲物よ。好きにやらせて貰うわよ?」

提督「あぁ、存分にやれ。」


275: 2018/02/04(日) 23:21:56.44 ID:stFP+DZS0

瑞鶴「初月。」

初月「あぁ、君の背中は僕が守ろう。」

提督「そういう訳だから皆、ヲ級フラッグシップには気をつけろよ。」

提督「間違えて口説きに行くと旦那の艦攻からバイブ(魚雷)を尻に食らう羽目になるからな。」

川内「やだ、提督、表現が卑猥!」イヤン!

摩耶「ア0ルにバイブかよ。」エロオヤジ!

瑞鶴「他の撃沈報酬は欲しい奴が持ってけばいいわ。ただ青目だけは私の獲物よ。」

時雨「心得たよ。」

提督「現在確認されている敵の総旗艦は北方水姫だ。心しておいてくれ。」

提督「現地までの移動だが北海道まで輸送機で行きその後根室から単冠湾まで航行だ。」

長門「ファーストクラスかな?」

提督「エコノミーだ。」



輸送機が人員輸送用ではなく貨物輸送用というやり取りにやれやれとかケチだのといった反応が返ってくる。



提督「遠足のしおりは無いが各自必要なものはきちんと準備しておけよ。」

提督「出発は明日だ。」

提督「必要な買い物がある奴は今日中にしておけ。」

提督「以上。解散!」

276: 2018/02/04(日) 23:23:09.62 ID:stFP+DZS0

明石の工廠



グラ「私の口座に入っている金を全部渡そうじゃないか。」

グラ「こいつを頼む。」

明石「いや、これは……。」

グラ「金さえ出せばクレムリンだって引っ張ってくるんだろ?」

明石「いえ、そのですね?」

グラ「足りないと言うなら今度の出撃で貰える稼ぎも全て渡そうじゃないか。」

明石「………、グラーフさん。何がそこまであなたを駆り立てるっていうんです?」

グラ「私のな。」

グラ「私の艦娘としての。」

グラ「Graf Zeppelin の魂が囁くんだ。」

グラ「奴を倒せとな。」

明石「最期はバルト海でソ連の標的艦でしたっけ。」

グラ「たまには血と魂が囁くままに戦うもよしであろうよ。」

277: 2018/02/04(日) 23:24:20.24 ID:stFP+DZS0

明石「剣呑ですね。」

明石「とはいえ。よござんす。

   納得いく理由があるならこの明石。腕を奮いましょう。」

グラ「頼んだ。」

明石「秋津洲さん!店番おねがいしますよ!今日は稼ぎ時ですからね!」

明石「私は今からとっておきのヤバイ奴らを用意しなきゃいけなくなりましたんで宜しくお願いしますよ!」

秋津洲「まかされたかも!」



出撃に向け必要な物を買いに集まってくる艦娘達の相手を秋津洲に任せ

明石は工廠の奥へ引っ込んでいったのだった。

278: 2018/02/04(日) 23:26:04.28 ID:stFP+DZS0

執務室



提督「第一種軍装の全着用品を引っ張り出すのは久しぶりだな。」

不知火「似合っています。」



不知火から白色の皮手袋を受け取り手に嵌めその感触を確かめる。



提督「あぁ、ありがとう。手入れが十分行き届いていたみたいだな。」

提督「染み一つ無く綺麗なものだ。」



肩から参謀飾緒を下げ軍帽を被り確認する。



提督「不知火。北海道土産は何がいい?」

不知火「観光気分ですか?」

提督「そんな所だ。」



提督が久しぶりに出す着用品の確認をしている所に長門がやって来る。



長門「提督がきっちりとした服装をするのは珍しい。」

提督「司令部に挨拶に行くとき意外は堅苦しい服装していたところで意味がないのでな。」

279: 2018/02/04(日) 23:27:17.24 ID:stFP+DZS0

長門「成る程、一休禅師の真似事でもする気か。」

提督「人は見た目が九割だからな。」

提督「この格好で突っかかってくるアホは、まぁ、そういう事だ。」

長門「ぶれないな。」

提督「なに、権限は貰ってる。後は解釈の仕方の問題だ。」

提督「状況に応じて拡大解釈もするのが士官の仕事だ。」

提督「掃除機で部屋を円く掃除すると隅っこに埃が残るだろ?」

長門「あぁ、そうだな。」

提督「そういう事だ。」



提督もまた出撃に備えていた。

提督が発令の電話を受けて2日後

提督達は単冠湾のある択捉島へ現地入りしていた。

280: 2018/02/04(日) 23:29:42.83 ID:stFP+DZS0

単冠湾泊地 鎮守府建屋内執務室


A大佐「君が中央から派遣された者かね?」

提督「えぇ、これが人事発令書です。そしてこちらが作戦命令書です。」

B中佐「我々がここの指揮を執る。大佐が連れてきた部隊は我々が預かろう。」

提督「こちらの泊地はC少佐が指揮を執っていると伺っていたのですが

   お二人はどちらの所属でしたのでしょうか?」



同じ大佐の階級でも所謂先任という奴が軍隊という組織では幅を利かせるものだったりする事がままある。

自分より年若そうなといっても壮年というより中年といった提督を、じろりと見やるA大佐。



A大佐「幌筵の守備隊として守っていたが?」

提督(成る程、敗残の将か。資料と間違いないようだな。とすれば中佐は太鼓持ちか。)

提督(作戦命令書に目を通すことすらしないか。やれやれ。)

提督「これは失礼しました。私が連れてきた部下は外におりますれば。」

提督「御足労をお掛けして申し訳ありませんが、挨拶させますので外へ宜しいでしょうか?」



提督が案内するは鎮守府外埠頭。

281: 2018/02/04(日) 23:32:31.27 ID:stFP+DZS0

A大佐「いったい何処に……。」



げしと大佐の背中を一蹴り。



B中佐「貴様!な……。」



二の句を告げさせず同じく中佐も一蹴り。

どぶんと豪快な水音が二つした後に長門が近づいてくる。



長門「提督。幌筵から逃げてきた艦娘達を食堂へ集合させたぞ。」

提督「C少佐は?」

長門「あぁ、捕まえておいた。」

長門「で、提督は?」



胡乱な者を見る目つきで見る長門。その目は始末をしたのかと言いたげである。



提督「言っただろ?権限は貰っていると。」

提督「指揮系統の簡略化。無駄な嘴を減らしただけだ。権限の範囲内だよ。」

長門「………。」

提督「言いたい事は分かるがな。

   これから一致団結して事に当たらないといけないのに指揮官を減らしてどうすると言いたいんだろ?」

提督「俺が借りられるだけの虎の威を突っ張ってんのにそれが分からん奴は後々癌にしかならん。」

長門「そうか。」

提督「昔から言うだろ小人閑居、不善を為すってな。」



袖を通さず肩口に掛けたトレンチから煙草を取り出し火をつける提督。



提督「これ一本を吸いきるまでに浮かんでこなければ名誉の戦氏だ。」

提督「司令部に特進と恩給の申請をしてやらんとな。」

長門「そうか。遺族が居ればありがたくて涙が出るだろうな。」

提督「居なけりゃ恩給は国庫行きだ。居ないで貰いたいもんだよ。」



じじっとフィルター付近まで煙草が燃えきるまでしばし。



提督「万に一つも生きちゃ居まい。さてと、食堂へ行くか。」

長門「確認しなくていいのか?」

提督「生きて戻ってくるガッツがあるなら愚痴の一つくらいは聞いてやるさ。」

提督「聞くだけは只だからな。今は生きている方が大事だ。」

長門「違いない。」


282: 2018/02/04(日) 23:33:50.89 ID:stFP+DZS0

食堂

食堂には幌筵から逃げてきた艦娘達が集められていた。

単冠湾の施設でもって負傷した者達は傷を治している。

その順番は提督の指示で軽症者、つまりドックの占拠時間が短いものからの入渠が優先されている。

食堂には修理を終えた者、まだ修理を待っている者達、その双方が集まっている。

食堂前方に現れた提督に艦娘達の視線が集まる。



提督「まず、海軍を代表して君達に謝罪をさせてもらいたい。」



頭を下げる提督。



提督「君達が幌筵から撤退するに当たって氏守を命じ、

   のうのうと自分達は生き延びた愚か者二名は不幸な事故によって戦氏した。」



広がる動揺。ざわざわと騒ぎ出す室内。

ここで提督の目から涙が一筋、頬を伝う。



提督「君達の様な熟達した艦娘を失う事の愚かさを上層部は何も考えていない。」



提督は単冠湾に着いた後、撤退してきていた彼女達一人ひとりに労いの言葉を掛けて回っていた。

283: 2018/02/04(日) 23:35:24.82 ID:stFP+DZS0

提督「私は君達が粗末に扱われた事に実に強い怒りを感じている!」



怒りのままに提督が食堂の長卓を叩くとざわめく艦娘達が水を打ったように静まり返る。

そして一斉に提督の方を向きその次に紡がれるであろう言葉に耳を傾ける。



提督「私は私の権限において君達に約束しよう。

   今後、君達がこの北の地で過ごすにあたって十分な物資の支援が受けられることを。」

提督「そして、これは君達の散っていった仲間の命を金に変える様で心苦しいが

   氏んだ艦娘の子の遺族へは手厚い保障を。

   またここで生きている君達へもきちんとした保障が払われる事を上へ働きかけよう。」

提督「そして、実に伏してお願いしたい。

   幌筵を落した敵は今も此方へ向け進撃してきている。

   今、この地で敵を押し留めなければ北海道、本州と敵は侵攻してゆくだろう。」

提督「身勝手なお願いかもしれない。しかし、ここに今、戦える戦力として居るのは君達しかいないのだ。」

提督「すまないが、力を貸して貰えないだろうか。」



食堂に集まった艦娘達へ向け演説を行った後、頭を下げ力を貸してくれと頼む提督。

しばしの沈黙の後、代表格の艦娘がゆっくりと立ち上がり口を開く。

284: 2018/02/04(日) 23:36:15.91 ID:stFP+DZS0

龍驤「なんや本営から応援に来たとか聞いとったから

   どんな偉ぶった奴が来るんかと思うとったけど随分腰の低い司令やなぁ。」

龍驤「幌筵から逃げてきたうちらに文句を言うでなく労いを一人一人に掛けて回っとったし。」

龍驤「さっきまでうだうだ言ってたうちんとこの司令に爪の垢でも飲ませたいくらいやわ。」

龍驤「あんたん所の艦娘は大事にして貰っとるんやろなぁ。」

提督「………。」

龍驤「うちらに氏守せえ言うたアホんだらが生きとったなら出撃する振りして逃げようかと思ってたんやけどなぁ。」

龍驤「あんたの言うように逃げたら本土にまで侵攻してくるわなぁ。」



そして、また沈黙。

285: 2018/02/04(日) 23:37:41.89 ID:stFP+DZS0

龍驤「しゃぁないわ。あんたに力貸したるわ。」

提督「すまない。感謝する。」

龍驤「感謝は敵を倒してからにしときぃ。しっかりとした指示。頼むで。」



ぱんっと提督の背中を叩く龍驤。



提督「では、敵からこの単冠湾を守る為C少佐との話し合いがあるので

   今暫く待っていて貰えるだろうか?」

龍驤「ええで、行ってき、待ってるで。うちらん命(タマ)あんたに預けるわ。」

提督「ありがとう。」



提督から自然と差し出された手に龍驤は握り返す。



龍驤(なんや分厚い手やな。苦労を知ってる手や。叩き上げなんやなぁ。)



しげしげと眺め感想をしばし。



提督「そろそろ手を離して貰っても?」

龍驤「ん。あぁすまんな/// 待ってるで!」


286: 2018/02/04(日) 23:39:21.45 ID:stFP+DZS0


執務室前廊下


川内「持ってきた寒冷地迷彩服、全員に配布終わったよ。」

提督「幌筵の娘達にもか?」

川内「うん!」

提督「ありがとう、助かる。」

川内「にしても食堂の演説聞いてたけど。提督はアカデミー賞でも狙う気なのかな?」ニシシ



その笑顔は悪戯っぽく。



提督「お前にばれるようじゃオスカーは無理だな。」

川内「役者だねぇ。」

提督「役者にもなるさ。お前らと違って、涙も下げる頭も只だ。」

提督「東郷元帥じゃねぇが皇国の興廃この一戦にあり。だ。」

提督「負けると色々国が持たねぇ。つまり後がないんだ。」

川内「戦力的な問題?後、それ秋山真之だよ?」

提督「誰の発言かはこの際いいだろ。後、戦力より政治的な問題だ、上が絡んでるならな。」

提督「とりあえず今は説明する時間が惜しい。うちのごろつき共は?」

川内「舌なめずりして待ってるよ。」

287: 2018/02/04(日) 23:41:11.15 ID:stFP+DZS0

提督「よし。後は少佐に英雄として起って貰うだけだな。」

川内「悪党だねぇ。でも、楽しそうだね、提督。」

川内「私ね、楽しそうにしてる提督、これで結構好きだよ。」ニュフフ

提督「ふん。惚れたか?」

川内「あっ、それは無いかな。禿げはちょっとね。」

提督「つれない奴だなぁ。まぁ、いい。動かせるうちの総力だ。敵は殲滅だよ。」

提督「連中にこの地で春の陽を拝ませる訳にはいかんのでな。」

川内「春はいいよね。太陽の日差しが暖かくてさ。」

提督「そうだな。太陽の陽は等しく暖かいが連中に向いてもらっちゃ困る。」

提督「太陽の神様、イアリロだったか?」

川内「なにそれ?」

提督「北の魔女だったか?北方水姫の別名。スラブの方の神様でな男性神だ。」

提督「男の神ならいい女が揃ってるこっちの味方をしてくれるだろうさ。」

提督「なんせ幌筵を生贄にしてるんだ。見返りは貰わんと。」

川内「悪党っぽい台詞だね―――。」

提督「さて、時間だ。敵の艦隊には袖幕へ御退場願おうか。」



そう言い提督は執務室の中へ入って行った。

292: 2018/02/16(金) 23:09:06.78 ID:Q9iQNxWh0

食堂では提督が連れてきた88鎮守府の面子が出撃の命をいまかいまかと待っている。

「長っちー。煙草の火貸してくんない?」

長門「私は煙草を吸わないから持って無いぞ。」

「あー、そうだった。ポーちゃん火貸して。」

「え~。と言いたいところですが。よく持っているの分かりましたね~。」

「いや、ポーちゃんカクテルパーティすんでしょー?」

川内「ライターなら私の貸したげるよ!」

「あれ?川ちゃん煙草吸うようになったの?」

川内「ううん。違うけど。お守り……、かな?」フフ



川内のライターから火を貰い煙草を吸い始める重雷巡。



摩耶「あんたは酒は酒でも飲めない酒パーティすんの好きだよね。」

「燃えるのがですねぇ~。すっごく綺麗なんですよぉ~。」

「モロトフカクテルっていいですよねぇ~。」

「アルコール度数が高いほどいい色になりますよねぇ~。」イヒヒヒ



わいわいと食堂で賑やかにかつにこやかに談笑する一同。

ともすればこれからちょっと飲み会にとでもいいだしそうな気楽さがただよう雰囲気である。

だが、龍驤にはまったく別の物に見えていた。

293: 2018/02/16(金) 23:11:00.82 ID:Q9iQNxWh0

龍驤(なんやのこの集団。今まで色々な鎮守府の娘達と演習で会った事あるけど……。)

龍驤(あの重雷巡、煙草の火を魚雷に押し付けて消しおった……。

   頭の螺子が飛んでるんちゃうか?あかんやろ、自頃する気かいな……。)

龍驤(なんかヤバイ。)



パッと見で見てもバラバラな装備に見たことのない兵装。

どうにか自分が知っている兵装でも当たり前かのように改修終了済み。

中でも龍驤の生存本能が全力で警戒警報、それも最大級の、

例えるなら姫級複数に出会ったのと同じくらいの危険を告げる一団が居た。

相手が同じ艦娘で無ければ全力で逃げるか氏を覚悟するか、

そんな雰囲気を漂わせているのが……。

294: 2018/02/16(金) 23:12:23.83 ID:Q9iQNxWh0

時雨「雪風、ほら上着のボタンはしっかり留めないと。」プチプチ

雪風「あっ、ありがとうございます。」タスカリマス

初月「暖かそうだな。」イイナァ

時雨「カイロあげようか?」ハイ

初月「本当かい!?ありがとう!助かる!」ワーイ!

龍驤(あの駆逐連中は絶対敵にまわしちゃあかん奴や。)

龍驤(閻魔庁にピンポンダッシュするどころの冗談じゃすまんであれ……。)

雪風「あっ、あなたがこちらの艦娘を代表される方ですか?」

龍驤「あっ、うん。せやで。よろしゅうな。」ヒキツッタエガオ



握手を促すように手を差し出してくる雪風。

身長がやや高いくらいの龍驤の耳元で周囲に聞こえないくらいの声量で囁く。



雪風(身の程を弁えてる方は大好きですよ。)フフフ

龍驤(ヒエッ)

雪風「宜しくお願いしますね。」

龍驤「」コクコク

龍驤(こんな荒くれを束ねてるあの司令は一体何者やねん……。)

龍驤(うち、もしかしたら悪魔と命のやりとりしてしもた……?)



龍驤が後悔をし始めた時、提督は戻ってきた。

295: 2018/02/16(金) 23:15:15.31 ID:Q9iQNxWh0

ゴッゴッゴツ。

グッドイヤーの重厚な革靴の印象とは間逆の軽やかな、

それも今にも踊りだしそうな高揚した雰囲気がその靴音からは感じ取れる。

提督「総員、傾注!」



一言、提督が述べると先程までの和やかな雰囲気が一転、全員の顔が引き締まる。



提督「少佐の説得に手間取った。が、まぁ、なんとかなった。」

提督「輸送機の中で簡単な説明は行ったと思うが精鋭部隊による敵指揮官斬首の後、全員で殲滅だ。

   部隊は事前の打ち合わせ通りに2つに分ける。」

雪風「しれぇ!あれ!やって下さい!」

提督「ん?」

雪風「久しぶりの全力出撃です。」

提督「……そうだな。分かった。」

時雨「提督は雪風に甘いね。」

提督「そうか?俺はお前達全員に信頼を置いている。」

提督「いいか?信用じゃなくて信頼だ。その信頼にお前らは応えてくれるんだ。」

提督「出来る限りの事はやるべきだろう?」



手袋を嵌めた手をぽんと一打ち。



提督「さっ、全員並んでくれ、やるぞ。」



ざっと荒くれ連中が整列。



提督「多くは言わん。」

提督「俺はお前達に生きて帰って来いなんぞ甘っちょろい事は言わん。」

提督「なぜならお前達が生きて帰って来ることは俺の中で確定事項だからだ。」

提督「だから俺からお前達に命令する事はただ一つ。」

提督「敵は皆頃し、見敵必殺、殲滅だ。」



提督が話し終わり手をさっと上に上げる。

握りこぶしをつくり前へ振り下ろす。



提督「88鎮守府、総員出撃!」

一同「応!」



血に飢えた狼達が野に放たれた。

296: 2018/02/16(金) 23:18:29.02 ID:Q9iQNxWh0

中部千島 新知島(しむしるとう)近海


長門「さてとそろそろ敵の哨戒網に引っかかる頃合か?」

時雨「瑞鶴達の部隊は無線封鎖を開始したみたい。」

川内「敵も律儀に島伝いに南下してきているみたいだしね。」

摩耶「千島列島のそれぞれの島に設置されている早期警戒用レーダーを潰しながらだからね。」

長門「教本通りではあるが潰さないでいると進撃方向その他丸分かりだからな。」

長門「潰さなければならないというのは敵からしてみれば嫌なものだろうな。」

雪風「余計な手間が増える分進撃が遅れるからですね。」

長門「そうだ、しかも部隊に先行して潰さないと意味が無いからな。

   敵の先行部隊にぶつかるのはそろそろだろう。」

グラ「ならばそろそろ細工を始めるとしようか。」

グラ「艦爆隊は全機発艦!Vorwärts !」

長門「というわけで我々は。」

川内「案山子になるんだね。」

長門「あぁ、なかなか面白い発想をするものだよ提督は。」



雪風、時雨、川内、摩耶といった魚雷を搭載可能な娘達が取り出したのは………。


297: 2018/02/16(金) 23:20:29.74 ID:Q9iQNxWh0

雪風「弾頭は外してしまっているそうです。」

時雨「後はこのボタンを押せば……。」



ポンッと小気味よい音がして膨らむのは例の失敗ペンギン案山子。

案山子 シレェ!シレェ!



川内 ブホッ

摩耶「ちょっ、いつの間に雪風の声を……。」ブホホッ

雪風「悪意を感じます……。」

時雨「明石さんを小一時間程問い詰めないといけないようだね。」フフフ



大きさは実に様々な案山子がゆっくりと海面に投下される。

それらの魚雷のスピードは強速程に落してありそれに並走し長門たちは進む。

シレェ!シレェ!シレェ!シレェ!


川内「不要品の組み合わせだからお安い罠だね。」

長門「あぁ、これで、即席の大艦隊の出来上がりという訳だ。」クックックッ

摩耶「でも、罠ってバレバレだよな。」

時雨「提督は罠ってバレて良いって言っていたけど。」

長門「あぁ、むしろ罠と意識してくれないと始まらないんだ。」


298: 2018/02/16(金) 23:21:30.59 ID:Q9iQNxWh0

深海棲艦 先遣斥候部隊

ネ級「急に敵が増えた!?」

ル級「電探の艦影がいきなり増えたわね。」

ネ級「罠とは思うけれど北方水姫様へ報告を。」


299: 2018/02/16(金) 23:25:21.85 ID:Q9iQNxWh0

深海棲艦 単冠湾泊地攻略部隊本隊

水姫「明らかに罠でしょうね。」

リ級「如何しましょう?」

水姫「意図が気になるわ。」

リ級「意図ですか?」

水姫「私達が南下していることは幌筵から撤退した娘達や敵の警戒施設を潰して行っている事から

   分かるだろうし、いちいち小手先の策を弄せずとも規模の把握は出来ているはず。」

リ級「現在進攻して来ている敵部隊は罠と思しき部隊と同数以上の部隊がもう一隊だそうです。」

水姫「急に数が増えた部隊をA、もう一隊をBとした時に本隊はBでしょうね。」

リ級「それは間違いないかと思います。」

水姫「だからこそ尚更ここまでバレバレの罠を仕掛ける意図が分からないの。」

水姫「自分に自信があれば戦力を分けることなく集中するべき。」

水姫「にも関わらず、直ぐに見破られる罠を仕掛ける為に部隊を分散する意図は何なのかしら?」

リ級「敵Aから6隻ほどがBへ向けて移動、合流したそうです。」



6隻といえば敵の艦隊において最小戦術単位。

罠を仕掛けて本隊に合流という事か………。

脳裏によぎるは戦艦棲姫の言葉。



「敵には超がつく熟練の強兵(つわもの)が居る。」



水姫(超がつく熟練の強兵。であれば小手先の罠など不要のはず。)



否応無く増す疑念と違和感。

仮に罠だとしてそれを放置するのはどうか?

敵の罠にまんまと掛かり戦線の崩壊、指揮官である自らの命を差し出したのが重巡棲姫。

それを考えれば分かりやすいまでに罠と分かる罠を放置することは危険だ。



300: 2018/02/16(金) 23:28:24.36 ID:Q9iQNxWh0

長門「今頃、罠の意図を必氏に考えているだろうな。」

長門「敵の指揮官、北方水姫が優秀であればあるほど答えの見えない袋小路に嵌りこむ。」

摩耶「そんなもんなのかね?」

長門「策を弄して戦うタイプの知将は敵の策や罠に意味を見出したがるものなんだ。」

長門「結局のところ、戦争は戦っている相手との心理の読み合いなんだよ。」

長門「騙し騙され如何に相手を欺くか。戦局が均衡状態では特にだ。」

川内「敵が深く考えすぎて自滅してくれるって事か。」

時雨「まさに策士、策に溺れるって事だね。」

雪風「と言っても偽装の為に電探や無線全てをオフにするのはいささか不安を覚えます。」

グラ「後は、誰が罠を確認しに来るかが問題だな。」

長門「釣り上げれる獲物は何にしてもある程度以上の大物には違いないだろう。」

時雨「そうだね。僕も敵の副官クラスは固いと思うよ。」

長門「罠と分かっていても罠を確認せずには要られない。」

摩耶「まるで禁断の果実だねぇ。」


301: 2018/02/16(金) 23:30:08.22 ID:Q9iQNxWh0

深海棲艦 単冠湾泊地攻略部隊本隊

水姫「敵の艦隊Aは明らかに罠。

   そしてどんな仕掛けが待ち受けているか分からない以上ある程度の状況判断、

   対応能力に長けた者を向かわせなければならない……。」

水姫「そうか、くそ。敵の狙いは指揮官能力の分散か。」

リ級「罠を無視して後ろを突かれるのも痛いですし。」

水姫「罠を罠とあからさまに分かるように細工する事でこちらの行動に制限を加える気ね。」

水姫「敵の指揮官が幌筵に居たのと変わったようね。一筋縄ではいかなさそうねぇ…。」



愚鈍でさっさと幌筵を明け渡したような指揮官であれば楽であったろうに。

罠を罠と分かりやすく見せる事で罠を無視できない状況を作り出しこちらの行動に制限を加える。

急に数が増えたと言う事は囮的な何かで間違いない。

呼称Aから最小艦隊数の6隻が途中で離脱したというのもその証。

何事も無い只の虚仮脅しの様な物かも知れないが吹雪が艦載機による遠方からの目視を阻む。

電探に艦影が映ると言う事は実体があると言う事、そしてそれが向かってきている。

仮にそれが時限爆弾の様に時間が来ると海上で爆発などと言う事になれば退路を制限される事になる。

仕掛けた部隊が離れたのも爆発した際に巻き込まれないようにする為のものだろう。

こちらが緊急避難の為に海面下へ潜るときは無防備だし敵も流石に見逃してはくれないだろう。

無視したとしてその罠が本当に罠だったとしたら後ろを突かれるのは自分達。


302: 2018/02/16(金) 23:31:13.75 ID:Q9iQNxWh0

水姫「リ級。あなたに部隊を2隊任せるわ。

   敵の呼称Aを見極めてきて頂戴。」

水姫「敵が私達の急襲の報を受けて向かってくるまでの時間の短さを考えれば錬度の高さを疑う余地はない。」

水姫「その中で指揮官能力の分散を狙っている以上艦隊Aの方が自爆能力を持っている可能性が有るわ。」

水姫「艦隊Aはこのまま行けば私達の後方部隊へと当たる。

   万一自爆能力を持った囮だった場合は退路を制限される恐れがあるわ。」

リ級「敵の艦隊Aがただの案山子か腹に爆弾を抱えた案山子か見て来いということですね。」

水姫「えぇ。そうよ。こちらは指揮能力を分散させる事になるから出来る限り早く処理をして頂戴。」

リ級「先頭と中程の案山子を撃ってみて案山子か偽装した爆弾かを確認した後は

   そのまま水姫様の殿として後方警戒に当たります。」

リ級「万一の為に軽母を何名か連れて行って宜しいでしょうか?」

水姫「許可するわ。宜しくね。私はこのまま進撃して艦隊Bへ攻撃を行うわ。」

リ級「了解!」


303: 2018/02/16(金) 23:32:32.47 ID:Q9iQNxWh0


呼称艦隊Aこと案山子部隊



敵艦隊Aに警戒しながら近づくも迎撃される事もなく。

ヌ級に警戒用にあげさせた艦載機が落されると言う事も無かった。

その為、不審に思いつつリ級が進む敵の先頭に近づいてみれば。



リ級「なんだこれは……。実に良く出来た案山子じゃないか。」



シレェ!シレェ!シレェ!



ヌ級「艦隊全体を偵察し何隻か攻撃をしてみましたが

   特に爆発や反撃も確認されませんでした。」

リ級「となると本当に陽動目的なだけか。敵は策士だな。まんまと乗せられた。」

リ級「それも無視できない形で。可能なら敵指揮官の顔を拝みたいものだな。」

リ級「となると無駄足であった事を喜ぶべきか。」

リ級「にしてもこの腹立つ顔は……。」



その恨み、富士山より高きあんちくしょう。

水面に揺らめくその影は蘇る悪夢。

案山子の首を捥ぎ八つ当たり。



リ級「少しスッキリした。」ニコニコ



敵の罠はこちらの戦力を一時的に分散させる霍乱目的であると

リ級は断定し水姫の殿へ付くべく離れてしまった本隊を追うような形で戻っていった。


304: 2018/02/16(金) 23:34:17.67 ID:Q9iQNxWh0

その頃の呼称艦隊B


瑞鶴を旗艦とし外周へ88メンバー、

その内側に幌筵、単冠湾の艦娘達が輪形陣で布陣し北方水姫の本隊を撃つべく進撃していた。

先立って接触した敵偵察部隊は瞬殺されていた。



龍驤(あほみたいに強い。文字通りに鎧袖一触やで。)

龍驤(蹂躙とかそんな生易しいもんやないわ。)

龍驤(なんでこんな精鋭艦隊が秘匿部隊みたいな扱いなんやろ?)

瑞鶴 !

瑞鶴「龍驤!面舵20、取り舵10、面舵10の後、取り舵40!」



出された指示通りに回避をすれば。



龍驤「ひえぇ。魚雷が綺麗に間をすり抜けていきおったわ。」



魚雷の進路を予測しての回避行動を指示してくるかと思えば。



「Fuoco!」ブン!

「おーっ。良く燃えるねぇ。いやぁ綺麗だわぁ。」

「炎の匂いが染み付きそうですねぇ~。」



吹雪で視界が悪い中、敵のル級へ火炎瓶を投げつける重巡、そしてその明かりを目印にどんどん魚雷を投げる重雷巡。



「いやぁー。冬の花火も乙だねぇ。この香り、むせそう。」ゴソゴソ

ジユッ。ボッ。

「ん―――。敵が燃える火で付けた煙草の味は格別だわぁ―――。」ウメェ

龍驤(頭の螺子が足りんどころか元々無いんちゃうかと思うくらいおかしいわ、こいつら。)

龍驤(せやけどこん中でとびっきりあれなんは……。)

瑞鶴「あぁはっはっはっ!!!」



狂喜の笑い声を上げる空母。

艦戦は積んでおらず艦載機全て艦功へ極振り、制空の概念は忘却の彼方の様である。



龍驤(当たらなければどうと言う事はないっちゅう奴やろか………。)

初月「やらせはしない!やらせる訳にはいかないんだ!」ドンドンドンドン!

龍驤(なんちゅう正確な対空射撃。さっきから瑞鶴に敵機をまったく近づけさせてない。)



龍驤がこの艦隊の中で見る光景は自分の艦娘としての常識を根底から覆すくらいに衝撃的な光景。



龍驤(せやけど、こいつらとなら勝てる気がしてきたで!)

305: 2018/02/16(金) 23:35:26.62 ID:Q9iQNxWh0

水姫「並の熟練なんてものじゃないわね。」



指揮能力が一時的に分散した結果、かなりの勢いで押される自軍の状況に認識を改め始める水姫。



リ級「水姫様。只今戻りました。このまま後詰に入ります。」



無線に聞こえてくるのは副官の声。



水姫「了解したわ。敵と接触した前面で戦闘が始まっているわ。

   かなり押されていて混乱気味の前面右翼の指揮をお願いするわ。」



自身が出す指示で敵に対応しきれなくなって来ていた所にほっと安堵する。

押され気味ながら現状はよつに組む横綱相撲状態。

リ級から敵の罠は案山子でありこちらの戦力分散を目的とした物であったことの報告を受け

とりあえずの後方警戒のレベルを下げ前面の敵に集中する決断を下す北方水姫。

その判断は冷静そのものであり、敵が策を巡らせた理由に思いを馳せる。

306: 2018/02/16(金) 23:37:31.15 ID:Q9iQNxWh0

水姫(奇策を使ってでも稼ぎたい時間があった。)

水姫(時間稼ぎをする理由は?

   単冠湾を捨てる準備が整ったと言う事かしら?違うわね。)

水姫(一時的であれどこちらの戦力を分散させてその間にある程度の戦力を敵に削ぐ事に成功した。)

水姫(となると次に敵が取りうる策は……。)

リ級「水姫様!敵が退却していきます!」

水姫「やはりか。」

リ級「如何しましょうか!?」

水姫「全軍戦闘は継続しつつ待機!深追いはするな!」

リ級「は?」

水姫「敵は私達に精強な部隊を印象付けさせて撤退していったわね?」

リ級「はい。」

水姫「案山子部隊を用意してまで時間を稼ぐ必要性があった。」

リ級「はい。」

水姫「つまり、ここではなく、敵は単冠湾で決着をつけるつもりなのよ。」

水姫「こちらに混乱を齎して時間を稼ぐことにより本拠で迎撃する為の準備をしていたのでしょうね。」

水姫「精鋭を差し向けてきたのもその時間稼ぎのためでしょう。

   こちらの進軍が早かった為に防衛の為の準備が間に合わなかったに違いないわ。」

水姫「実力と数で勝てると判断するならあんな小細工をする必要性が無いもの。」

水姫「一時的に戦力を分散させこちらの数を削り

   さらに撤退して見せることにより此方をおびき寄せ本当の罠に嵌める。」

水姫「今頃単冠湾で舌なめずりして敵の本隊が待っているはずよ。

   その為の遅滞戦術だったに違いないわ。」

リ級「敵は多段の罠を仕掛けたということですか。」

水姫「兵は神速を尊ぶという言葉が有るけど敵の指揮官が変わって策を弄するやり難い相手に代わったわ。」

水姫「部下を預かる指揮官として敵の罠へ突っ込ませる事は出来ないわ。」

水姫「一旦拠点として構築した幌筵へ引き上げるわよ。」

水姫「敵の作戦の立て方から言って長期戦になると困るのは相手側。」

水姫「私達はゆっくりと幌筵で春を待てばいいわ。」



踵を返し幌筵へ向け転進を決意する北方水姫。

後方で指揮を取っていたためその艦首を幌筵へと向け転進という事になれば

自然、艦隊の先頭は北方水姫となる。

307: 2018/02/16(金) 23:39:43.73 ID:Q9iQNxWh0

グォォォオオオォォォ!

そのエンジン音は狼の雄叫びの様であった。

ユンカース製エンジン。

フォッケウルフ本来の空冷からドイツ機の中で最も採用が多い液冷エンジンへ積み変え

過給機まで搭載し馬力を向上させ高高度作戦まで可能にした機体。

Fw109Dシリーズ。戦場の狼である。



グラ「Meister明石による改造だ。その性能、通常にあらず。重要だから繰り返すが通常にあらずだ。」ニヤリ



疾風迅雷。

ヌ級の艦載機と一合の切り結びを演じたかと思えばヌ級の艦載機は全て消えていた。



水姫「ばかな!?あんな少数の艦戦で!?」



目を疑うのも無理は無い。

なんせ敵は電探の反応、遠目で見ても正規空母ただ一隻。

翻ってこちらは軽母だけでも6隻はいるのだ。積んでる艦載機の数が違う。

だが、その戦況はまるでこどもと大人の相撲のように次々と落される始末なのだ。



グラ「モルヒネデブが土の下のお陰で私が指揮できる。感謝せねばならぬな。」



グオォォォオオ!

エンジンが唸りを上げドイツ空軍伝統のロッテ戦術で次々と敵を屠る。

その隊長機は。

308: 2018/02/16(金) 23:40:43.97 ID:Q9iQNxWh0

グラ「583度の攻撃に出撃し総撃墜数は267機。」

グラ「東部戦線においてソ連のIl-2を最も多く壊した事から

   シュトゥルモヴィークの壊し屋と渾名される。」

グラ「驚ろく事にこれでまだスコアは総合四位だ。」



グラーフの横を一機の艦戦が甲高いエンジンを唸らせ駆け抜ける。



グラ「その漢の名はオットー・キッテル!」



ドドドドド!

瞬く間に敵艦隊直掩機が火を噴く。


309: 2018/02/16(金) 23:41:45.91 ID:Q9iQNxWh0

ヲ級「ヲォォォォ!!!」



ヲ級が激昂し艦載機を全機発艦させるが。

ズドドドド! ドゥン!

続く機体に全て墜とされる。



グラ「その撃墜数は158だが、熟練の戦闘機乗りが多い対英戦線でのトップエース。」

グラ「しかも最新鋭機が投入されることの多かったアフリカ戦線で敵を苦しめ。」

グラ「撃墜した敵機は全て西側連合国機だ。」

グラ「アフリカ戦線という戦闘機乗りにとっても戦闘機にとっても過酷な状況で戦い抜き。」

グラ「ついた渾名はアフリカの星。」

グラ「ハンス・ヨアヒム・マルセイユ。その名、胸に刻み沈め!」



ヲ級の艦載機は瞬殺された。


310: 2018/02/16(金) 23:43:05.31 ID:Q9iQNxWh0

グラ「まだまだ居るぞ!

   我がドイツ空軍のエースパイロットが迫り来る恐怖、その身を持って知るがいい!」

グラ「その総撃墜数275。」

グラ「戦後、新設されたドイツ連邦空軍総監を務め最終階級は中将。」

グラ「撃墜数は歴代3位だが恐るべきはそのスコアを達成したのが1位と2位の半分の出撃数で達成したという事だ。」

グラ「どれ程の修羅場を潜り抜けたかを伺いしれるな。」ニヤリ

グラ「その漢、見越し射撃の達人!ギュンター・ラル!」



グラーフがドイツ空軍所属のエースパイロット達の名を呼べば

それに呼応する様に艦載機が顕現し敵機を撃墜していく。



グラ「ハハッ!痛快だなぁ。」



次々と撃墜されていく深海の艦載機達。


311: 2018/02/16(金) 23:44:54.86 ID:Q9iQNxWh0

グラ「まだまだここで絶望してくれては困る。」

グラ「我が友軍、Luftwaffe所属の戦闘機乗りの中で

   史上2人しか居ないエースオブエースをまだ紹介していないからな。」



グラーフの表情は実に愉快で仕方ないという表情で口元は完全に緩みきっている。



グラ「大戦を生き抜き最終階級は少将。実に1104回という出撃をこなしその総撃墜数は301機。」

グラ「彼自身はFw109Dシリーズにも機種転換をしていてな。当時は完熟訓練が不十分だったが……。」

グラ「英霊として帰ってきて乗る機体はどうであろうなぁ?」



そうつぶやくグラーフの横を乗りこなしているとアピールするかのようにバレルロールですり抜ける一機の戦闘機。

そして、ついでとばかりに敵機を撃墜。



グラ「無用な心配だったようだな。ジェットよりは乗りやすいようだ。」

グラ「紹介させて貰おうか、かの漢の名、ゲルハルト・バルクホルン!」

312: 2018/02/16(金) 23:46:22.28 ID:Q9iQNxWh0

そしてグラーフが紹介するのを待ちきれなかったのか勝手に発艦する艦載機が一機。

そのノーズアートは黒いチューリップ。



グラ「あぁ、紹介が遅れたために不興を買ってしまったようだな。」

グラ「その名を知らない者などいないと断言する。」

グラ「総出撃数1405回、総撃墜数352機。」

グラ「乗っていた機体が我がドイツが誇る傑作機Bf109で有った事もあるが……。」

グラ「彼が歴史上、最も敵機を撃墜した男という名誉を得ることが出来たのは

   その卓越した操縦技術によるものだ。」

グラ「東部戦線というソ連の未熟な戦闘機乗りが相手だから

   その数字は落しやすい敵を落したからだなどと言う者も居る様だが……。」

グラ「実に唾棄すべき愚か者の言葉と言う他ない。」

グラ「戦闘機乗りとして彼がこれほどの偉業を成し遂げたのは一撃離脱。これを徹底していたからだ。」

グラ「彼についた渾名は黒い悪魔。」

グラ「Luftwaffeの戦闘機乗りの頂点に立つ漢だ。」

グラ「紹介しようじゃないか。Luftwaffeの撃墜王エーリヒ・ハルトマン!」


313: 2018/02/16(金) 23:47:37.28 ID:Q9iQNxWh0

リ級「なっなにが……。起きているっていうんだ?」



グラーフが全エースパイロットを紹介し終えてものの数分。

深海棲艦の艦載機は空を飛んでいなかった。

そして、制空権を失った深海棲艦達後方へ退却と見せかけた瑞鶴達が

反転し攻撃を開始していると北方水姫へ後方から連絡が入る。



水姫「………。」



ブチッ。



水姫「だから、どうしたってんだぁ!?」

リ級「!?」

水姫「しょせんは戦闘機だろうがぁ!機銃しか積んでいない艦載機に戦艦の私が倒せると思ってやがんのかぁ!!」

水姫「ふっざけんじゃねぇ!!」

水姫「豆鉄砲に戦艦の装甲が抜けると思ってやがんのかぁ!!馬鹿にしてんじゃねぇ!!」

水姫「引き下がるわけにはいかねぇんだよぉ!!かかってこいよぉ!!」


314: 2018/02/16(金) 23:50:32.64 ID:Q9iQNxWh0

グラ「確かに、まったくもってその認識は正しい。」

グラ「だが、私が戦闘機しか積んでこなかったという事についての答えは。」

グラ「 Nein だ。」ニヤリ

グラ「フフフ。時に北方水姫よ。」

グラ「貴様、珈琲は好きか?」ンフフフ



グラーフからの問い。その問いはこの状況にはまったく似つかわしくない問いであり。



水姫「あぁああ!?手前は何をいってやがるんだぁ!?」



水姫がより怒るのは当然であるがその怒りを我関せずと話を続けるグラーフ。



グラ「珈琲には色々な楽しみ方があってだな、エスプレッソやモカ、カフェオレ。」

グラ「実にどの楽しみ方も珈琲の味を楽しむのに良い物だ。」

グラ「そして、私のAdmiralの珈琲の好みはブラックだ。」

グラ「ブラックは珈琲の豆本来の味を味わうのにとてもよく、

   その苦味は豆の産地によって実に変わってくるので私のお薦めでもある。」



語るグラーフに迫ってくる北方棲姫直掩のイ級やホ級、ト級を沈める長門達。



グラ「北方水姫よ。遠慮はいらん。貴様にはとびっきりの珈琲を馳走しよう。」

グラ「苦渋がたっぷり効いた敗北(ブラック)をなぁ!!」

315: 2018/02/16(金) 23:52:54.97 ID:Q9iQNxWh0

ウワァァァァァアアァアァン!

その音はサイレンの音。

一度聴けば頭からその音が離れることはなく。

旧約聖書において難攻不落と言われたジェリコの壁を破壊したラッパになぞらえ。

ジェリコのラッパと呼ばれる音。

その音が鳴れば地面にあるものは跡形も無く破壊され。

動くものは全て息絶える。

明石工廠のMeister、明石の魔改造により現代素材と技術をふんだんに突っ込まれ。

機体の強度、馬力と性能が大幅に向上したワンオフ機。

後部銃座には彼とペアを組んだ中で最も信頼厚い漢が乗る。

その漢、エルヴィン・ヘンシエル。

高空から急降下爆撃をしてゆくその機体はその急降下に耐えられるように改造を施され、

急降下爆撃機の名機、スツーカに倣い副座式に改造、更にエンジンを大馬力へ変更し

ガンポッド式で積む機関砲はBK5を2門(75mm機関砲)という有り得ないサイズと数を妖精さんの協力により搭載。

さらにトレードマークとも言えるサイレンも取り付けられている。

その機体の名は。

Fw109G9改四型 

そして、それを操縦するのは一人の漢。

316: 2018/02/16(金) 23:54:58.34 ID:Q9iQNxWh0

その出撃回数、公式記録で2530回。

破壊した戦車、519輌。

装甲車、トラック800台以上。

100mm口径以上の火砲 150門以上。

空中戦による敵機撃墜数。

戦闘機2機。

爆撃機5機。

その他1機。

(この計9機のうち1機はスツーカの37mm砲で撃墜している。)

上陸用舟艇 70隻以上。

戦時中、幾人もの英雄に贈られた勲章だが、ドイツ第三帝国史上に於いてたった一人。

彼一人だけが受勲をしている勲章がある。

黄金柏葉剣付ダイヤモンド騎士鉄十字勲章。

この勲章はこの一つ下の勲章を受けた後も尚、武功をあげ続けた為、

彼に授与する勲章が無くなったので制定されたという冗談のような経緯がある。

そして、驚く事にあくまでこの戦績は『 公式 』なのである。

彼は自身の仲間の評価を上げる為かなりの戦果を仲間達へ譲り、

撃墜され負傷した際にも病院を抜け出し出撃するなど。

実に未確認の戦果が公式以上に多くあると言われている。

彼についてフェルディナント・シェルナー陸軍元帥は「彼一人で一個師団の価値がある。」と評価。

そして、戦闘機乗りのトップエースであったエーリヒ・ハルトマンが彼の戦績について語って曰く。



「自分は複数のチームで戦っているからそれで真似をする事はできる。

 だが、彼個人の真似は出来ない。誰も出来やしない。」



と、評価した言葉を残している。

そして、嘘ばかりを書き連ねていることでも有名なアンサイクロペディアにおいて

『こんな嘘臭い事実に対してこれ以上の嘘を重ねるなんて出来る訳が無い。不可能だ!』

と、白旗を揚げさせた。

また、あまりにも多くの戦車を潰した為、

スターリンに「ソ連人民最大の敵」と言わしめ約1億円の賞金がその首に掛けられた。

その漢の名は。

ハンス・ウルリッヒ・ルーデル

人呼んで。

317: 2018/02/16(金) 23:55:44.21 ID:Q9iQNxWh0



               空の魔王。




318: 2018/02/16(金) 23:59:57.87 ID:Q9iQNxWh0

グラ「彼が魔王と呼ばれたのはその戦績の異常さ故だが……。」

グラ「今日、新たに加算されその伝説は更に輝くものとなるだろう。」

グラ「艦艇に対するスコアは戦艦1、教導駆逐艦1、駆逐艦1が今までのスコアだ。」

グラ「このスコアは彼単独ではなくチームによる共同戦果扱いだが……。」

グラ「今日、この時、戦艦のスコアは2へ書き換えだな。」ニヤリ

「Loooooooooooooooos!!!!」



突撃号令と共に魔王に率いられた悪魔達が次々と深海棲艦達へ急降下爆撃を仕掛ける。

魔王の放った1.8t爆弾は北方水姫の艤装煙突へ着弾。

ガボン。

大轟音の後に水姫の艤装から続く爆発音。



グラ「フム、流石だな。」



爆弾を降ろし一気に軽くなった機体を操りその規格外の攻撃能力を持った機銃で敵イ級達を正面から沈めていく魔王。



雪風「機関砲の反動で速度が低下しているようですがどんな操縦を行っているのでしょうか?」

グラ「並の腕では無理だろうな。まさしく魔王だ。」

摩耶「それはいいんだけどさぁ。あたしの仕事ないんだけど?」



防空ましましで艦隊の防空援護に備えていたものの

エースパイロット達の活躍により手持ち無沙汰の摩耶が不服そうにグラーフへ話しかける。



長門「まぁ、そうなるな。」

時雨「あっ、帰ってきてるよ。」

グラ「うむ!補給を急ぎ再度の出撃だ!」



手早く着艦させ補給の後、次々と再出撃してゆく悪魔達。

制空を失った状態で敵艦爆編隊に襲い掛かられれば勝てる訳も無く。

319: 2018/02/17(土) 00:02:23.80 ID:vl9qbMbp0

水姫「排気筒からの攻撃は艤装の重要防御区画も破壊して機関まで達しているようね。」



ボズン。ゴゥ。



水姫「もはやこれまでか………。」

リ級「水姫様、せめて水姫様だけでも!」



必氏に対空砲火にて上空の敵機を減らそうと足掻くがまったく効果は無く。



水姫「もういいのよ。先程はみっともない所を見せたわね……。」

リ級「水姫様。」

水姫「……、よく、私達が氏ぬと魂は地獄へ行くと言われるけど。」

水姫「あの世の支配者である魔王に嫌われたなら地獄へは逝けないわね。」ウフフ

水姫「行くなら……、きっと、天国でしょうね……。」

水姫「暖かい世界へ……。」

グラ「還るがいい、暖かき世界。ヴァルハラへ。」

水姫「……、ありが……とう……。」



一際大きな爆発音と炎上の炎が上がり北方水姫は水底へ還って行った。



グラ「さて、後は残党狩りだが。」

グラ「瑞鶴達へも仕事は残しておかねばな。」

雪風「今回は楽な仕事でした。」

時雨「あっけないくらいに……ね。」

川内「伯爵の独壇場だったねぇー。」

グラ「ふふ。護衛として付いて来てくれた皆には悪かったな。」

グラ「侘びに酒を一杯御馳走しようではないか。」

長門「ほう、伯爵が奢る酒か。」

摩耶「と、言う事は?」

一同「「「「「シュタインベルガー(笑)」」」」」

グラ「分かっているじゃないか。」ンフー



ルーデル隊の急降下爆撃を始めとする攻撃により指揮官が馘首され北方水姫の部隊は各個撃破されていっている。

320: 2018/02/17(土) 00:03:58.36 ID:vl9qbMbp0

リ級「くそぉ!せめて、一太刀……!」

瑞鶴「和んでる所を邪魔するんじゃないよ。無粋ねぇ。」



ズン!

瑞鶴麾下の航空隊。流星改村田隊が長門達へ砲撃をしようとしていた敵副官を沈めた。



長門「…、瑞鶴が沈めたか。」

川内「みたいだね。」

時雨「やっぱり皆気づいてたんだね。」

雪風「常在戦場ですから。」

摩耶「まぁ、ねぇ。」

グラ「最後まで気を抜く奴など居やしないさ。」

瑞鶴「私にも奢りなさいよ!」(無線)

グラ「あぁ、奢らせて貰おうか。」(無線)

時雨「地獄耳かな?」

グラ「違いない。」

長門「さて、後は幌筵の敵拠点の徹底破壊だな。」

雪風「しれぇから石器時代に戻してやれ!って言われています!」



そして、暴風が吹き荒れるが如く、本来の仕事、

対地攻撃を主任務としてきた魔王率いる悪魔達が幌筵の敵拠点を徹底的に破壊し帰投した。

321: 2018/02/17(土) 00:05:07.23 ID:vl9qbMbp0

単冠湾泊地 埠頭


提督「お疲れ。みんな無事だったようだな。」

川内「なに~?提督待っていてくれたのぉ~?」ニシシ

提督「帰投の連絡を受けたからな。今しがた出てきた所だ。」

時雨「提督。帽子に雪が積もってるよ。」クスクス

提督「………。」バババババッ

提督「全員、塒に帰るぞ!」

長門(あれは、照れ隠しだな。)フフフフ

雪風(ですね。)ウフフ

摩耶(いい大人がねぇ。)クスクス



こうして、88鎮守府一同の活躍により北方海域に進行してきていた敵部隊は全滅となった。

322: 2018/02/17(土) 00:11:36.35 ID:vl9qbMbp0

数日後 単冠湾泊地



少佐「お疲れ様です。」

龍驤「あぁ、司令かぁ。にしても凄いなぁ。」

少佐「ですね。」

龍驤「こないだ指揮とってた大佐はかなりの実力者なんやろか……。」



龍驤の視線の先には大量の物資。

それは全て大佐の手配で単冠湾へ送られてきている補給物資である。



龍驤「こんだけの量はうちも始めてみるわ。」



嘗て所属した幌筵では拝むことなんかなかった物資の量である。



少佐「大佐からここがこれから北の守りで重要拠点になるだろうから

   強化の為に必要な物が送られるだろうとは聞いていたけど。」

龍驤「すごいなぁ。」

龍驤「それにしてもあの大佐はなんちゅうか、色々凄かったわ。

   全部終わった後に作戦の概要を説明してもろたけど詐欺師やで。」

少佐「それを言うなら策士だよ。」

少佐「罠をあえてばらして敵の思考誘導を行うっていうのには驚いたよ。」

龍驤「精鋭艦隊に擬装用の案山子付き無弾頭魚雷を展開させて

   敵に小細工をして時間稼ぎをさせたかったと勘違いをさせる。」

龍驤「そして、その精鋭艦隊は案山子と一緒に敵の背後に回りこんだ。

   しかも、敵に罠を仕掛けた艦隊が案山子部隊から離脱したと思わせる為に

   6人分の案山子を別働隊方向へ出す念のいれよう。」

少佐「幌筵を落した敵の手際の良さから手練れの指揮官がいるだろうから

   その指揮官能力の高さを利用するって言ってたかな。」

龍驤「せやねん。精鋭連中が背後に着く前にこっちが敵本隊とやりあって

   一旦引いて誘い込むようにして見せた事で単冠湾に罠を仕掛けていると見せる。」

少佐「優れた指揮官であれば兵の無駄な消耗を避けるという読み。」

龍驤「そんで敵の背後に回ったら当然指揮官が後方に控えとる訳で。」

龍驤「撤退を始めている敵を正面からどつく形に持っていってるからな。」

少佐「精鋭艦隊で指揮官を潰して後は挟撃して各個撃破。」

龍驤「鮮やかに決まり過ぎてて怖いわ。」

323: 2018/02/17(土) 00:12:06.38 ID:vl9qbMbp0
龍驤「ほんで同じ空母としてな驚いたんが積んでた機材やな。」

龍驤「敵正面で離陸させる事になるから

   爆装してるせいで機動性が落ちる艦爆を予め発艦させといて

   敵に攻撃を始めると同時に自分の艤装についてる位置連絡用ビーコンで艦爆隊に目標の位置を連絡。」

龍驤「艦戦が100%で制空を取れると確信しとかんとうちはしきらんな。」

龍驤「更に言うなら撃退した手柄はうちら幌筵とここ単冠湾の混成部隊での手柄にしてる。」

少佐「大佐はあくまでオブザーバーとして参加って形になってるんだよね。」

龍驤「ほんまありえへんで。」

少佐「大佐がここを離れる時に言われたんだけど『 我々は実を貰う、君は名を取りなさい 』だったからね。」

少佐「表向きに戦果を誇れない事情が有るんだろうね。」

少佐「その所為というかお陰というか私は来月から中佐だよ……。」

龍驤「なんや昇進したんか。」

龍驤「まぁ、あの大佐からここを盛り立てて北の守りを頼むってうちは頭下げられたからな。」

龍驤「力を貸したるわ。ここに始めから所属しとった娘達に聞けばあんたの評判はいいみたいやしな。」

龍驤「幌筵でうちらの指揮をとってた奴らと違うことを期待してるで!」



そう言い手を差し出す龍驤。

にぎにぎ。

単冠湾は新しい体制でこれからの海防にあたって行く事になる。


324: 2018/02/17(土) 00:14:19.17 ID:vl9qbMbp0

88鎮守府 埠頭付近



グラ「ふふふ。海を見ながらのワインと言うのはいいものであろう。」ンフー

時雨「お高いワインの味だ。」

雪風「はい!美味しいです!」

長門「にしても、これは。」

瑞鶴「当たり年なんじゃないの?これ。」

摩耶「瑞鶴は分かるんだ。」

初月「これで瑞鶴はワインに結構煩いんだ。」

川内「へーぇ。」



作戦に参加した者達でささやかながらに祝勝会が行われていた。



川内「あっ、おつまみ作ってきた!」

時雨「僕もだよ。」

瑞鶴「私も!」


女子力の高い者達は手作りのつまみを、そうでない者達は……。



初月「牛缶を持ってきた。」

長門「北の地での作戦だったからなキャビアを土産に買っておいた。」ドヤァ

摩耶「あたしはクラッカー!」

雪風「チーズ持って来ました!」



と、それぞれ色々と持ち合い楽しむ。

325: 2018/02/17(土) 00:16:28.14 ID:vl9qbMbp0

明石「あっ、グラーフさん!こんな所にいたんですか!」

グラ「あぁ!明石!先日は大変世話になったな。実にすばらしい機体だった。」

明石「あっ、その件なんですが。これ、支払いお願いしますね!」



差し出される請求書。



グラ「これは……?」

明石「いやぁー、流石無断出撃王にして被撃墜王。

   勝手に出撃して高価なワンオフ機をえぇ、ボカスカ落してきてましてね。」


※ルーデルの被撃墜回数は30回と出撃数も多ければ撃墜された回数も多いです。


明石「提督に請求したら『 所有者に請求するのが筋だろ 』と。」

明石「お支払い、宜しくお願いしますね!」



その請求書を横から覗き込む一同。



時雨「うわぁ………。」

瑞鶴「橘花改を使った時の数倍だわこれ……。」

川内「ひぇっ…。」

グラ「………。」

グラ「うわぁあぁぁ~ん。アトミラァ~ルゥ~。」

摩耶「あっ、泣いちゃった……。」

長門「これは提督が悪いな。」ウム

初月「でも、出撃して戦果を稼いでいるなら撃沈報酬が貰えるんじゃないかな?」

明石「海に敵の氏体が浮いているが誰が沈めたか不明。」

明石「そも、任務でも仕事でも無い戦果に報酬は払われませんよ?」

グラ「うわぁあぁぁ~ん!」

一同「御愁傷様……。」

英霊の呼び出しと御利用は計画的に。

326: 2018/02/17(土) 00:18:31.15 ID:vl9qbMbp0
以上で終了です。
後、数時間で1期最後のイベが始まります……
楽しんでいけるといいなぁと思っています。
乙レス、感想レス、本当に感謝です。それでは皆様、またの機会に。
ここまでお読みいただきありがとうございました。

336: 2018/02/22(木) 20:08:57.96 ID:nb3Nqw4i0
1からのお知らせ

前回の終了でこれにて終了と書いてしまったのがまずかったのか
意図せずまとめサイトにてまとめられてしまったようです
まとめサイト管理人さまに対しては大変御迷惑をお掛けしました
また、現在のんびりとイベをやっている事もあり暫く更新に間が空くような感じです
御迷惑をお掛けする事も心苦しいのと、まとめられたのもいい機会ととらえ一旦このスレを落させていただきたく思います
前回の更新時にレスが減ってきているとぼやいた所為だと思うのですが沢山のレスありがとうございました
おっさん提督のSSは需要が無いのかと本気で考えていた所でしたのでちょっと目頭が……
また新しく続編という形でスレ立てをする事がございましたそちらもお読みいただけると幸いです
次スレの第一話予告としましては明石と秋津洲の過去、88鎮守府合流前の話を予定しております
それではまた、次スレでお会いできればと思います

339: 2018/02/23(金) 11:51:58.25 ID:v9XfjT1iO

面白かったから次も楽しみに待ってます

海賊と賞金首 前篇

引用: 【艦これ】 外地鎮守府管理番号 88