531: 2018/11/14(水) 00:45:18.58 ID:N7yw9PNn0
前シリーズ最初から:外地鎮守府管理番号 88
今シリーズ最初から:続 外地鎮守府管理番号88
前回:第十三話 天国への階段:前編
第十三話 天国への階段 後編
戦艦「敵偵察機に逃げられたのね。」
戦艦「そう、随分と愉快な敵みたいね。」
哨戒に出ていた部隊からの報告に微笑む。
敵の偵察機は戦艦棲姫達のいる泊地を確認後、全力でこちらの迎撃機を振り切り離脱。
離脱時に平文で『 我ニ追イツク敵機ナシ 』と挑発して消えていった。
戦艦「来るのね。」
偵察機が敵泊地を発見し強襲。
各所で戦端が開かれそこかしこに砲煙があがり火蓋は切られた。
しかし、見方を変えれば6割という未だ、いや、敵を圧倒できる筈の戦力があるのだ。
駆逐「なのに、なんで夜間攻撃なんて仕掛けてくる!?」
夜間攻撃は戦果が得にくい物であり
自軍の残機が少ないのであれば控えるべき物。
敵の被害を考えれば夜間攻撃機があったとしても
夜間哨戒を自艦隊周辺に上げるくらいがせいぜい。
自分が敵の立場であれば仕掛けるなんて思考の外である。
532: 2018/11/14(水) 00:46:25.21 ID:N7yw9PNn0
長門「………。」
時雨「どうしたの?」
長門「瑞鶴!」
瑞鶴「何?」
長門「すまないが旗艦を任せてもいいか?」
瑞鶴「ずっとはやらないわよ?」
長門「何、直ぐに済ませるさ。」
長門「時雨。川内と二人で瑞鶴の護衛を頼む。」
時雨「任されたよ。長門はどうするの?」
長門「一仕事だ。」
時雨「そっか。」
時雨「……。Good Luck!」b サムズアップ
長門「あぁ、行って来る。」フッ
そこかしこで戦闘が行われる中、
長門は一人、一番激しく戦闘が行われている所へ向った。
533: 2018/11/14(水) 00:48:02.45 ID:N7yw9PNn0
深海泊地 守備隊本隊
戦艦「この首、あなた達雑兵にくれてやるほど安くはないわよ!」ドンドン!
戦艦「さぁ!どうしたの艦娘というのはその程度のものなの!?」
その激戦区では戦艦棲姫が部下を従えず一人で複数の艦娘達を相手していた。
普通に考えれば1対複数となれば多勢に無勢で負ける。
だが、これはあくまで一般論。
相手との力量差が明らかに大きければ大きいほど
複数で戦うほうが不利になる。
戦艦「それを狙っていたのは分かっていたわよ?」
巨大な人型艤装を軽々と移動させ自身の正面に居た艦娘を
背後から他の艦娘が自分へ向けて撃った魚雷で仕留める。
戦艦棲姫は自分を狙った軽巡艦娘の魚雷を自分の艤装を影にして射線を見せず
その背後からの攻撃をさらに利用して正面に相手どっていた重巡艦娘に当てたのだ。
そう、1対複数での戦いは敵が老練であればあるほどこちらの攻撃が味方への攻撃として利用される。
そして、乱戦ともなれば空母艦載機による爆撃も味方への誤爆もある為、ほぼ不可能。
戦艦「あら、足を止めちゃ駄目でしょう?」
陣形を整え一丸となって戦おうと
態勢を立て直し始めた艦娘達の集団に戦艦棲姫は一気に突っ込んだ。
戦艦「他愛の無い物ねぇ。」
陣形の中に突っ込まれると味方同士の距離が近い為
魚雷等の射線が制限されてしまう。
そして、近接距離での砲撃戦になると当然。
534: 2018/11/14(水) 00:49:35.28 ID:N7yw9PNn0
戦艦「私の勝ちよ?」
立て直しつつあった陣形の中に突っ込まれ
中から切り崩された結果、艦娘部隊は全員氏亡した。
戦艦「思った程、強くない相手だったかしら?」
闇夜を切り取ったかの様な
漆黒のロングドレスに付いた敵の肉片を手で軽く払う。
戦艦(駆逐古姫様への進言は杞憂だったかしら?)
上空を睨み、敵攻撃機への牽制の対空射撃をしつつ
益体もない事を考えていた時だった。
戦艦「!」ゾクッ
戦艦「この感覚は……。」
戦艦「恐怖!?」
背中に一筋ながれる冷や汗。
敵の姿は見えていない、それでも感じる威圧感。
姫級としていくつもの戦場を渡り歩いてきたが。
とうの昔に忘れたはずの感覚。であるにもかかわらず。
戦艦「再び恐怖を感じる事があるなんて。」
その身に感じるは高揚感。
ドン!
敵の砲弾は自身の目前に着弾した。
戦艦「挨拶代わりというわけね。」
面白い、間違いなく、あの時のあの戦艦が来たのだ。
535: 2018/11/14(水) 00:52:02.23 ID:N7yw9PNn0
ザリザリザリ
戦艦「あなたが砲撃をしたのかしら?」
無線での呼び出しがあり、それに応答する。
恐らくは総旗艦と会話をした際に使われた無線と同じ周波数。
長門「そうだ。」
やはりか。
戦艦「何のようかしら?降伏勧告かしら?」
戦艦「悪いけれどキャッチセールスなら間に合っているわよ?」
長門「ふん。なかなか冗談の出来る相手のようだ。」
長門「お前か?」
戦艦「そうよ。」
戦艦「貴方が?」
戦艦「そうだ。」
なれば。
戦艦 長門「「言葉は不要!!」」
オレンジの砲火に大量の砲煙、砲撃の轟音が周囲に響き渡る。
戦艦(反応の速さは流石ね)
戦艦棲姫の人型艤装についた砲塔が回転し終わる前に舵を切り回避。
長門「私を仕留める心算なら目で追っているようでは無理だぞ?」
戦艦「厄介な相手ねぇ。」ニヤリ
長門(あれだけの巨体を細やかに動かすか。)
高火力、高出力、大きい事はいいことだを地でいく艤装でありながら
長門の攻撃を目で確認した後で回避をする。
長門「戦い難い相手だなぁ。」ニィッ
空母艦載機による攻撃が艦艇に対して有効ともなれば航空主兵論が台頭するは当たり前。
そんな中での戦艦ともいえば時として時代遅れとも揶揄される。
一人の艦娘と一人の深海棲艦。
戦艦という同じ艦種の二人は今、その生まれ持っての役割を大いに楽しんでいた。
536: 2018/11/14(水) 00:53:18.94 ID:N7yw9PNn0
砲撃して離脱。艦砲射撃の基本、同航戦を避け、ジグザグ航行。
長門「その程度の基本を守った所で。」
戦艦「倒せるような相手ではない事は分かっているわよ?」
ガコガコガコ
長門の艤装の第一砲塔、第二砲塔がクロスショットを狙い仰角を修正。
戦艦(第三砲塔はあえて外すわけね)
第一、第二砲塔は散布界を重ねる様に砲撃。
そして、戦艦棲姫の進路を制限する為に第三砲塔は回避行動の先へと砲撃。
戦艦棲姫はその意図を読んでか長門の狙う方向以外へと回避。
長門(流石に見え透いた罠にはかからんか。)
何度かの反航戦の後、先に仕掛けたのは戦艦棲姫だった。
537: 2018/11/14(水) 00:55:15.23 ID:N7yw9PNn0
巨大な人型艤装の腕が海面に向って打ち込まれる。
どどん!
その深海の姫級の全力で打ち込まれた海面からは巨大な水柱があがる!
そして!海水の壁が出来、長門と戦艦棲姫の間の視界を塞いだ!
長門「目くらましか!」
直前の戦艦棲姫の位置、そして自分の位置。
それから敵が砲撃を仕掛けてくるであろうポイントを即座に判断し、
それに備え防御態勢をとる。
しかし、次の瞬間に長門を襲ったのは砲弾では無かった!
長門「これは!」
水壁を突きぬけ飛んできたのは砲弾でも戦艦棲姫でもなく。
視界に飛び込んできたのは先ほどまで周囲で戦艦棲姫と戦っていた仲間達の骸だった。
長門だからこそ、戦闘中もそれが視認出来る程の余裕があった訳だが。
その余裕が長門に一瞬の躊躇をさせた。
ドン!
戦艦棲姫の砲撃音が響き長門の位置へ全弾着弾。
戦艦「水柱を抜けて威力が多少は落ちているでしょうけど。」
戦艦「当れば只ではすまないでしょう?」ニマァ
その笑顔は命中を確信してのものであり。
戦艦「あなたの仲間の氏体を目くらましに使ったことを卑怯だなんて。」
戦艦「まさか言うようなタマじゃないわよね。」
水柱が納まるのを待ちつつ、戦艦棲姫は備える。
なぜなら自身の砲撃を一、二発受けた程度では沈む訳がない事を確信しているから。
戦艦「まだ、終わりじゃないでしょ?」
戦艦棲姫は戦闘態勢のまま、正面を睨みつけた。
542: 2018/11/30(金) 00:21:17.63 ID:of9urzBn0
ドン!
砲声に構え人型艤装の左腕が守るように戦艦棲姫の前に被さる。
戦艦(やはり生きていたわね。)ニヤリ
顔が緩むのが自分でも分かる。
そして、その一瞬を突かれた。
シャーッ!
戦艦「ばかな!」
そう、それは敵が自分と同じ戦艦であれば本来は使えないはずの兵装。
長門「なに、私は人から艦娘になったのでな。」
長門「最初の、艦娘としての初等訓練で駆逐艦種の訓練も受けていたに過ぎんよ。」
長門「ほんのお遊び程度だがな。」
長門が放った魚雷は周囲で兵装をつけたまま氏んだ艦娘の魚雷である。
戦艦棲姫の水柱を目隠しにしての攻撃を長門も利用し
周囲に漂っていた駆逐艦娘の魚雷発射装置を利用したのだ。
そして、その魚雷は見事に戦艦棲姫に命中した。
543: 2018/11/30(金) 00:22:38.37 ID:of9urzBn0
戦艦「やるじゃない。」
被雷直前に人型艤装の右手が海面に刺さり
魚雷が重要機関へと当るのを防いだ事もあり。
戦艦棲姫には見た目にさほどダメージは入っていないようである。
だが、後方の人型艤装の右手は指が吹き飛び
ダメージを与える事に成功しているのは間違いない。
長門「お前さんほどではないさ。」
水柱による視界の制限、味方艦娘の氏体を利用しての不意打ち。
長門はこれに対応する為に一時的に姿勢制御システムを手動でダウン。
これにより砲撃の反動の衝撃が長門の体へ直接伝わる事になる。
砲撃の反動を緊急回避に使用した形である。
しかし、体への負担はどれだけの物か。
戦艦「大丈夫かしら?」
長門「心配してもらうほどではないさ。」
長門「それよりお前の方こそ大丈夫なのか?」
戦艦「それこそそっくりそのまま返すわ?」
お互いの状況をじっくりと眺め、互いのダメージを推し量る二人。
戦艦「ふっふっふっふ。」
長門「くっくっくっく。」
二人はお互いの状況を確認して笑い出した。
そして、ひとしきり大声で笑った後。どちらからともなく。
544: 2018/11/30(金) 00:23:43.62 ID:of9urzBn0
戦艦「名前を聞いてもいいかしら?」
長門「名前?」
戦艦「えぇ、戦艦長門ではなく。
そうね、貴方ほどの将なら二つ名の一つや二つあるんでしょ?」
長門 フン
長門「名乗る程の名ではないが……。」
長門「そうだな。火車曳兎が一番古い名か。」
長門の言葉に驚くような顔をする戦艦棲姫。
戦艦「あなたが……、そう。
あなた、私達の間で名の知れた賞金首(アイドル)よ?」
長門「そうか。それならサインに握手でもしてやろうか?」
戦艦「冗談。」
長門「それで、随分と我々人間側の事情に明るいようだが?」
戦艦「今こうして貴方と会話をしている。お互いの言葉を理解出来ている。」
戦艦「あなた達が私達を研究しているように。
私達もあなた達の事を研究していない道理が無いわよね?」
言われてみればそれは至極最も。
つまりは占領した地域に残った鎮守府施設などから
可能な限りの機密情報などを拾い上げこちらを研究しているという事であり。
場合によっては人間側と何某かのやり取りを行っているという事。
人類側は決して一枚岩では無いと言う事である。
545: 2018/11/30(金) 00:25:26.31 ID:of9urzBn0
長門「で、私だけ名乗るというのは不公平なのではないかな?」
戦艦「あぁ、これは失礼したわね。」
戦艦「そうね。私の名前ね。」
戦艦「私達の間での呼び名はあなた達の言葉では発音できないわね…。」
そして、思い出したかの様に言葉を繋ぐ。
戦艦「あなた達が私につけた名前は……、そうね。
確か。グレモリーだったかしら?」
長門「………。貴様が。貴様がグレモリーか。」
瞬間、空気が震えた。
戦艦「えぇ、そうよ。お互いに、面白い縁だとは思わない?」
長門「成程、ソロモン……、アイアンボトムサウンド以来という事か…。」
お互いに因縁浅からずという奴である。
そして、将として、名乗りを挙げれば
その戦い方は自ずと決まる。
戦艦「小細工無しなんてどうかしら?」
長門「部隊を率いる指揮官のする戦い方ではないな。」
戦艦「あら?いやだったかしら?」
長門「いや?久しく一騎打ちなどしていなかったのでな。」
三次元での戦いを仕掛けることの出来る空母艦載機が主兵力となる戦場へ移行する中で、
戦艦である彼女達がその活躍をする機会と言うのは実際には少なくなってきている。
その活躍の場といえば艦隊の主力となる空母の護衛であったり、
味方が敵艦隊の航空戦力を屠った後での殲滅、止めの一撃。
更に言えば連合艦隊の旗艦として、
指揮艦として全体の流れを見て指示を出すという責任ある立場になれば
一騎打ちは元より最前線で戦うなどという機会はまずない。
だけに二人にとってのそれは一軍を率いる将ではなく一戦士としての決闘。
546: 2018/11/30(金) 00:26:41.66 ID:of9urzBn0
戦艦「戦いの合図は任せても?」
長門「随分と信用して貰ったもんだ。」
戦艦「こういう時の戦い方の相場はあれでしょ?
あなた達の映画でみたわ?」
長門「西部劇か?」ニヤリ
戦艦「そうねぇ。
『 賢い者程、最後まで銃を手に取らない 』だったかしら?」ニヤリ
長門「それであれば、銃を、いや、初めから砲で語り合う我らはなんであろうなぁ?」ニタリ
戦艦「そうねぇ、少なくとも賢者ではないわよね。」ニタリ
長門 フフン
そして、上着のポケットの中から一枚のコインを取り出す長門。
長門「クオーターか……。」(25¢硬貨)
長門「こいつでどうだ?」
戦艦「実に雰囲気がらしくていいじゃない。」
そして、長門が手に乗せたコインを指で上空に弾いた。
チィ ――――――― ン
コインが上空へと飛び上がった瞬間から
長門の艤装が黒煙を大量に吐き出す。
そして、戦艦棲姫の人型艤装もまたその瞬間に備え
大きく振動を始め口から大きく息を吐いた。
一秒が一分にも、一時間にも、あるいは一日。
スローモーションでコインが上空から二人の間に落ち。
チャプン
海に沈んだ。
547: 2018/11/30(金) 00:28:08.62 ID:of9urzBn0
その瞬間からの全ての支配者は砲声と砲煙だった。
仰俯角、共に零でお互いに回避が出来ても
間に合わない距離からの砲撃が開始された。
砲煙は周囲に黒々と広がり視界を封じる。
お互いに回避行動をとりつつ砲撃を続ける、
相手の姿は煙の中で見えないはずだが。
長門(回避行動での動きで空気が動けば。)
戦艦(煙も動く。その始まりに相手はいる!)
砲撃を行えばその衝撃で煙は晴れるがまたその砲撃で発生した砲煙で周囲が煙る。
間断なく激しい砲声が続き周囲を黒々と染め上げ時折なかで火花が明滅。
戦艦(砲撃の最適距離の確保を!)
戦艦棲姫は砲撃の為に距離をとる。
お互いの息遣いが聞こえそうな距離での砲撃戦は
被害が甚大になりやすく通常選択するべきではない選択肢。
そして、戦艦棲姫は小細工なしとはいったが彼女自身の目的は時間稼ぎ。
自分が長門をこの場に引き止めていれば
それだけ本隊の逃げる時間を稼げると算盤を弾く。
そして、敵の長門にしても自分と戦った後がある。
だから被害が大きくなるのは避ける筈。
指揮官として戦艦棲姫は冷静判断し距離をとった後、
砲弾の雨で長門を倒す選択をした。
548: 2018/11/30(金) 00:29:38.54 ID:of9urzBn0
長門「最後まで将であるか。」
煙の中から眼前に突きつけられたのは長門の第一主砲塔。
そう、長門は被害無視で戦艦棲姫が後退したのに対し、
真逆で前に!前に出たのだ!
ガオン!
戦艦(チィイイィィィ!)
盛大な舌打ちをし人型艤装の手で砲身を殴りつけ砲撃を逸らす。
ズァッ!
戦艦(蹴り!?)
その蹴り自体に自分を撃沈できるだけの威力は無い。
しかし、戦艦の艦娘の全力が乗った蹴りである。
当たれば無事である訳がない。
眼前に迫る長門の蹴りをギリギリで見切り交す。
戦艦「次はどこから!?」
それは驚喜。自分の予想を超えてくる敵がいた事に対して。
戦艦「そっちかぁ!」
空気が動く、ちりちりと肌が焼ける気配。
砲塔の回転が間に合わない。
長門が人型艤装の脇を蹴りを交された勢いを利用してすり抜ける!
長門「背後をとったぁ!」
腰を低く落とし戦艦棲姫の背後をとった長門が砲撃の構えに入る!
ドォン!
長門の砲撃と同時に人型艤装の左手が長門の横っ腹に直撃した。
横へ大きく吹き飛ぶ長門、
だが、その視界には敵の艤装の右腕が彼方へ吹き飛ぶのを捉ええていた!
549: 2018/11/30(金) 00:30:54.57 ID:of9urzBn0
長門「こいつは効くなぁ。」
長門は掬い上げるように殴られた為に
艤装左側、第三砲塔と副砲が破損。
戦艦「やられたわね。」
片や戦艦棲姫は艤装の右腕を犠牲に重要機関が砲撃されるのを防いだ。
戦艦(全ての砲撃を防ぎ損ねたわね。)
戦艦(艤装の背骨をやられたみたい…。神経伝達が上手く行かないわね…。)
長門(第三砲塔と副砲であれば火力は落ちるが致命傷ではない。)
長門(こちらより向うの方が受けたダメージは大きいようだな。)ニヤリ
ぐいと口から垂れる血を拭い。
長門「氏ぬ前のお祈りは済ませたか?」
戦艦「月並みな台詞ねぇ。気の利いた台詞を考えなさいな。」
長門「お前さんを倒した後にでもゆっくり考えるさ!」
戦艦「簡単には逝かないわよ!」
再びの砲撃戦。長門の主砲弾は戦艦棲姫の艤装砲塔を直撃した。
戦艦「主砲が氏んでも、まだ!まだやられないわ!」
戦艦(敵の右側の砲塔の動きにだけ集中すれば弾道を読める!)
戦艦(少しでも!少しでも時間を!)
長門(敵の艤装の損傷は予想以上!ここは一気呵成に!)
時間を稼ぐ為の守りへ入る戦艦棲姫、そして、一気に畳み掛ける長門!
550: 2018/11/30(金) 00:32:43.11 ID:of9urzBn0
戦艦「あなたは、あなたは何の為に戦っているの!?」
長門の砲撃の直撃を交しながら長門へと問いかける。
長門「そうだな。貴様に私の話しを少ししてやろう。」
長門「私には守るべき故郷といえるものはない。」
戦艦「国を守っているのではなくて!?」ブン!
人型艤装の残った左腕が長門へと振り下ろされる。
そして、頭の上でそれを両手で受け止める長門。
長門「ぐぅ!なぁ、戦艦棲姫よ…。
指揮官として幾つもの海戦を戦えばいつの間にか感情。」
長門「そうだな。
部下をいつしかただの駒としてしか見なくなっていてな。」
それは戦場を俯瞰的に考える事が多くなれば成程、
そして立場が上になればなるほど。
そうあれかしとして求められる視点。
戦艦「それがどうしたというの?普通じゃない!」
勝つためには犠牲が必要。当たり前の話。
長門「あぁ、お前にとっては普通なんだろうな。」
長門「嘗ての私にとってもそれは普通だった…。」
艤装のフルパワーで耐えるが戦艦棲姫の艤装の力の方が勝るのか
徐々に海中へと押し込まれ始め少しずつ体が沈んでいく。
戦艦「それなら!ここで納得して沈みなさい!」
長門「私はな…、とある事が切欠で変わることが出来たのでな……。」
ガコガコガコ
戦艦「はん!変わったからといって何になるというの!?」
戦艦「結局はここで血みどろの戦いに明け暮れているだけじゃない!」
戦艦棲姫本人がなかなか沈まない長門に痺れを切らし長門の首を直接絞め始めた!
551: 2018/11/30(金) 00:34:14.83 ID:of9urzBn0
長門「確かにな。結局は戦いに明け暮れるだけの毎日だ。」
長門「だがな。
ここで、今の鎮守府に移動して得た物がたった一つだけある…。」
戦艦「一体なにって言うの!!」
長門「絆だ。」ニヤリ
戦艦「なんですって!?」
なおも長門の首を絞める手に力が入り続け、
長門を押さえつける腕にも力が込められる。
長門「戦場を生き抜いて、
仲間と今日も生き残ったとお互いに馬鹿を言う。」
長門「息の根が止まるその時まで一戦士として生き。」
長門「そして、戦場で互いの為に命を張る。」
長門「例え最後に燃え尽き、灰になったとしてもだ……。」
長門「仲間との絆ってのはそんなもんだ……。」
戦艦「取るに足らないわ!」
ドゴォン!
長門の艤装右側、第一砲塔、第二砲塔が火を噴いた。
避けようのない必中距離からの砲撃は戦艦棲姫の体を貫通。
これが致命傷となり二人の戦いを終わらせる幕引きとなった。
戦艦「絆…、絆ね…。」
戦艦「そんなものを持っていると……、重くて疲れるわね……。」グラリ
氏す時は前のめり。
戦艦棲姫は前向きに倒れ、その体が海中に没した。
552: 2018/11/30(金) 00:35:17.22 ID:of9urzBn0
分遣隊本隊
時雨「瑞鶴、長門は大丈夫かな?」
瑞鶴「大丈夫よ。長門だもの。」
時雨「………。」
瑞鶴「私はね。長門を知っているから。」
時雨「そっか。」
二人がなかなか帰ってこない長門について会話をしていた時、無線が入る。
長門「瑞鶴。」
瑞鶴「分かってるわ。
護衛を出してあげるから後方へ下がりなさい。」
長門「すまない。」
瑞鶴「いいわよ。そうなるだろうと分かってたわ。」
瑞鶴「それより。満足した?」
長門「あぁ。」
瑞鶴「そう、じゃぁ、後は任せなさい。」
長門「頼む。」
戦艦棲姫との戦いを終えた長門はその損傷が激しい為、戦線を離脱した。
553: 2018/11/30(金) 00:37:07.88 ID:of9urzBn0
川内「大まかに敵拠点の破壊終了といったところかね。」
瑞鶴「そう、分かったわ。ありがとう。」
川内「なんというか、試合に勝って勝負に負けたといったところかねぇ。」
瑞鶴「そうね。
敵の目的が本隊撤退の為の時間稼ぎだとすれば目標達成でしょうね。」
瑞鶴「よく分かったわね。」
川内「敵の動きが拠点から出て迎撃というより遅滞防衛、
早い話が氏守をする形だった。」
瑞鶴「『 かわうち 』は時に鋭いわね。」
川内「どーも。」
川内「で、時間の遅れと今後の行動はどうする?『 旗艦 』様。」
瑞鶴「どうもしないわ。いつも通りよ。」
川内「了解。」
そして、とんと拳を付き合い交す二人。
川内「時雨。これからきつくなるよ。」
時雨「分かってるさ。」
そして、こちらも同じく拳を交し気合一声。
川内「さて、散歩いきますか。」
時雨「気楽に言うね。」
川内「こういうのはいつも通りが大事なの。」
時雨「了解。」
時雨と川内は残敵掃討へと向ったのであった。
561: 2018/12/06(木) 00:05:14.50 ID:g2Ml+n1F0
救援部隊本隊 強襲揚陸艦艦内指揮管制室
提督「長門は修理の為に帰還か。」
不知火「はい、その様に連絡が入りました。」
提督「長門が戦線離脱か。」
正しく予想外。
いつだってこちらの想定通りには事が運ばないと心の中で一人ごちる。
提督「……、遅れはどのくらいだ?」
不知火「凡そ1時間程の遅れが出ていますが想定の範囲内だと思われます。」
主力である雪風、北上、ポーラに長門。
88鎮守府の看板役者が戦線を離脱。
彼女達の実力は88以外の鎮守府であればどこででも即で一軍。
それも主力中の主力をやれる実力の持ち主である。
並みの鎮守府であれば作戦続行を諦めるほどの物である。
であるにも関わらず、想定の範囲内と言うかと。
不知火の見解に頼もしさを感じると共に、
自軍がいかに規格外かを改めて実感。
そして。
562: 2018/12/06(木) 00:06:22.06 ID:g2Ml+n1F0
不知火「現在、ウォースパイトさんが旗艦を勤められる第一分遣隊と
瑞鶴さんが旗艦を勤める第二分遣隊との合流、部隊の再編成は後30分程で完了との連絡。
総旗艦は瑞鶴さんでよろしいですか?」
提督「あぁ、その様に進めてくれ。」
そして、少しだけ黙考。
提督「細工は終わったな。」
大佐「いよいよですか。」
提督「えぇ、グランドフィナーレ。最終幕の開幕です。」
提督「不知火。無線の全回線オープンだ。」
不知火「了解です。」
提督「周辺全鎮守府へ通信!」
提督「進軍命令!Operation Woodpecker (きつつき作戦)発動!」
提督の指示に従い強襲揚陸艦から海域にある全鎮守府へ
進軍命令の符丁が打電される。
563: 2018/12/06(木) 00:07:45.11 ID:g2Ml+n1F0
『 真鐡(まがね)の城達よ!皇国(みくに)の四方を守るべし! 』
『 汝らの弾撃つ響きは雷(いかづち)なり! 』
念をいれ、複数回の打電が行われる。
564: 2018/12/06(木) 00:09:26.84 ID:g2Ml+n1F0
大佐「勇ましい符丁ですね。」
提督「うちの連中が全力で後顧の憂いを断つべく
敵の後方拠点をつぶしましたのでこの周辺の臆病者(チキン)連中に
仕事をしてもらわにゃならんという訳です。」
大佐「臆病者(鶏)が突撃兵(きつつき)ですか。」フフッ
きつつきが連続して木を叩く音は時として銃声の様に形容される事を意識して
突撃小銃を持ち敵を掃討する突撃兵ときつつきを掛ける大佐。
また、余談ではあるが、きつつきの一種ウッドスパイトに掛けて
敵の船に穴を開けるとして戦艦ウォースパイトの艦船紋章に一時期使用されていた事もある。
565: 2018/12/06(木) 00:11:24.34 ID:g2Ml+n1F0
提督「私が今回の一件を知る事になった島風なんですが。」
大佐「はぁ。」
提督「この周辺鎮守府全てに立ち寄り救援を求めていた
その航行記録はきっちり艤装に残っていたんですよ。」
提督「そしてですね。私の鎮守府での島風との会話は全て録音済みなんです。」
大佐「成程……。」
大佐「更迭、収監、懲役のお買い得3点セットを選ぶか救援の。
救国の英雄になるかの簡単な二択を選ばせたという事ですか。」
提督「えぇ。とはいえ選択肢のない選択にはなります。」
大佐「一般的に前者を選ぶ人間はいませんかね。」フフッ
提督「おっしゃる通りです。」
提督「私が事前に本土の主管に問い合わせて
救援を断った連中がどうなるかというのを教えたやりましたからね。」
提督「私が連中の説得に使ったのは
お買い得3点セットの書類を先に作っておいたくらいですかね。」
提督「ここへ救援に向かっている間に幾人か
周辺鎮守府へ連絡に向かわせていましてね。」
提督「もちろんきっちりと公式に記録に残る形で、です。」
大佐「不測の事態で連絡が来ていなかったとの言い訳を封じられますか。」
提督「椅子磨きに長けている連中は磨くのに長けておりますからな。
よく滑りを良くするワックスを持っています。」
大佐「成程、口の滑りはいいでしょうなぁ。」
提督「ワックスの製造業者をお聞きしたいと囁くように部下には申し伝えてもいます。」
大佐「随分と人が悪い方だ。」
つまりは無能でありながらその地位にいるというのは口八丁、話術に長けるという事。
言い逃れをされては敵わないという奴である。
そして、そのワックスとは人と人の関係をよくする麗しきかな潤滑剤(賄賂)でもある。
小人なんとやら本土から離れた鎮守府ともなれば不正が横行するのもままあるわけで。
提督がその交友関係にある旧き友人にそれとなく連絡をとっていたというのは言うまでも無い。
566: 2018/12/06(木) 00:13:41.07 ID:g2Ml+n1F0
もっともその友人曰く。
「肥え太らせた後に出荷するつもりだったけどまぁ、どうぞ。」
と、軍人としての才ではなく商人としての才能は評価していたようである。
最も事態を説明した後、早く言えと慌てて証拠を送ってきたり
何処で情報が止められていたのか調べておくと言ってきたりとなかなかな友人でもある。
それらの合わせ技ともなれば麻雀ではないが数え役満で収監後、銃殺。
なんて結果になってもおかしくは無いわけである。
提督「願わくば尻に火が付いたアホ指揮官が部下を浪費しない事ですかね。」
大佐「消費ではなく浪費は困りますね。」
提督「おっしゃる通りです。」
大佐「しかしてこの作戦ですが……、Battle of Kawanaka?」
提督「よくご存知で。
正しくは何度かあった川中島の戦いで特に有名な第四次の戦いで用いられた戦法です。」
武田の名軍師。
山本勘助がきつつきが木の表皮を叩き虫を中から叩き出し
その食べる姿から構想を得たと言われる作戦である。
この作戦自体は敵の上杉に見破られ成功はしなかったのだが
その作戦内容としては単純かつ有効な作戦である。
567: 2018/12/06(木) 00:15:58.21 ID:g2Ml+n1F0
基本的な流れとしては鉄床戦術そのものであり敵の背後を急襲。
そして正面に布陣した本隊とで挟み撃ちで叩くという物である。
しかし、違いも勿論有り通常の鉄床作戦は
前線で歩兵部隊が囮となりひきつけている間に敵後方を襲撃するのに対し。
今回のきつつき作戦は敵後方を急襲させ
敢えて作っている逃げ道へ敵を誘導するというやり方である。
当然ながらその逃げ道には本隊による待ち伏せつきな訳である。
総旗艦として無線機能の充実、経験の申し分ない瑞鶴がこれに当るのは当然といえる。
提督「周辺鎮守府の全力で当たらせれば後方急襲部隊の数は。」
提督「そうですね、数だけは我々が減らしたぶん敵を上回るでしょう。」
大佐「そして逃げ道に殺到したところを叩くわけですな。」
提督「航空戦力については艦載機の扱いに長けている連中を此方に残していますからね。」
提督「本音を言えば瑞鶴についてもこちらにまわしておきたかったくらいです。」
三次元機動可能な航空機による攻撃というのは直線軌道で飛んでくる大砲の弾より厄介な物である。
大佐「なかなかに見ものなようですね。」
提督「最後の仕上げですからね。画竜点睛とならぬよう締めてかかりましょう。」
568: 2018/12/06(木) 00:17:48.47 ID:g2Ml+n1F0
分遣隊集合地点
部隊を分け敵後方拠点を叩いていた部隊が合流する。
その集合地点に時雨の姿はない。
スパ「総旗艦に敬礼!」ガッ
瑞鶴「あー、そういうの良いから。」
スパ「礼を欠くと雪姉さんに後で怒られちゃう……。」
瑞鶴「よく教育が行き届いている事ね。」
瑞鶴「雪風は、確かに異質だけどねぇ。」
スパ「やっぱりそうなんですか?」
瑞鶴「あの娘が本気だすと電探でないと存在を追えないわよ?」
瑞鶴「存在が完全に周囲と同化しちゃうから。」
瑞鶴「居る、しかし、存在はしない。
矛盾を含んでるけどそう表現するしかないもの。」
川内「だねー。だてにうちの駆逐No1じゃないよ。」
川内「提督がどこから拾ってきたか割りと謎だけどね。」
川内「瑞鶴。周辺鎮守府連中の木っ端どうする?」
瑞鶴「私達との艦隊行動は練度が段違いに低いから望めない。
個別に戦闘目標を設定してつぶして貰ったほうがいいでしょうね。」
川内「了解。」
瑞鶴「ウォースパイト、私と、あなたが積んでる通信機の出力が大きいから
そっちでも語りかけて貰えるかしら?」
瑞鶴「複数チャンネルで聞こえて居ませんでしたってのは勘弁願いたいからね。」
スパ「了解です!」ビシッ
瑞鶴「この作戦の肝は全軍の動きを合わせないといけない事なのよね。」
瑞鶴「たたき出す方向を間違えるとこっちが面倒な事になる。」
スパ「瑞鶴さん!各部隊への指示命令は何と打電しましょうか?」
川内との打ち合わせ中に88鎮守府以外の艦娘達へ何と指示を出すかとウォースパイトが訊ねてくる。
瑞鶴「………そうね。」
瑞鶴「あなたの国の有名な提督が言った名言でいいんじゃない?」
スパ「おぉ。あの名言ですか。」
瑞鶴「個別の標的を指示するよりいいでしょう。
最優先事項だけはっきりさせて頂戴。」
瑞鶴「何をすべきかの作戦の概要はきっちりと理解しているでしょうからね。」
こうしてウォースパイトから各鎮守府の艦娘へ指示が出された。
その内容は。
569: 2018/12/06(木) 00:18:40.28 ID:g2Ml+n1F0
『 我が国は各員がその義務を果たすことを期待す! 』
570: 2018/12/06(木) 00:20:50.45 ID:g2Ml+n1F0
すこしだけ変えられた名言ではあったが。
簡潔なその電文は勇ましい文言ではないからこその
飾り気のない言葉が参加している艦娘達を奮いたたせた。
島風が周辺に助けを求めて回っていたことを
中央に報告していなかったとしても現場。
その現場に居た艦娘達が目撃をしていない訳がなく、
また人の口に戸は立てられないもの。
ともなれば今回の救出作戦を待ち望んでいた者の方が多いのは当然でもある。
88メンバー達と比べ練度低かれど、その意気軒昂也。
窮地に陥った仲間を救出せんと鬨の声をあげる。
瑞鶴「いいじゃない。」
川内「だね。時雨は別働?」
瑞鶴「えぇ。時雨クラスになれば考えて動いてもらった方が楽よ。」
瑞鶴「何人か下つけて自由にさせてるわ。」
川内「まー、将来の指揮官だよねー。」
瑞鶴「なんでうちに流れて来たのやら。」
川内「じゃ、ま。仕事をしますか。」
瑞鶴「あんたはいいの?」
川内「そうだねー。いつもの面子と以外だとね……。」
川内「一人の方が気楽かな?」
川内「まぁ、瑞鶴のお守りをしますかね?」
瑞鶴「へーへー。それでは背中宜しくお願いしますだよぉ。」
川内「任された。」
瑞鶴「よろしく。」
訳知り合った頂上同士のコンビ。
猟犬は野に放たれ、狩りは始まった。
579: 2018/12/13(木) 00:24:46.26 ID:FWWFZVbA0
瑞鶴達88鎮守府救援部隊分遣隊の合流2時間前
敵 深海側包囲軍 駆逐古姫隊
古姫「連絡…、遅かったわね…。」
タ級からの伝言を苦悶の表情で受ける駆逐古姫。
タ級「………。」
古姫「みなさい。あれを。」
駆逐古姫が指差す方角、水平線の向こう側からは黒々とした煙が上がるのが見えた。
タ級「あの方角は!」
古姫「えぇ、貴方の主である戦艦棲姫が
守将として守備に付いていた後方拠点のある方角。」
その煙の量をみれば拠点が陥落した事は察しが付く。
古姫「戦艦棲姫は覚悟を決めていたのでしょうね……。」
タ級「………。」
古姫「仇討ちや後追いはやめなさい。」
古姫「戦艦棲姫が貴方を此方に遣した意味を考えなさい。」
タ級「意味ですか?」
はるか遠くの煙を睨み付ける表情をしていたタ級へ嗜めるように言う駆逐古姫。
古姫「あの娘が撤退の進言に貴方を遣したという事は
貴方にしか出来ない役割が此方であるという事よ。」
タ級は戦艦である。そして、その装甲は厚い。
何かに思い至ったかはっとする表情を見せるタ級。
580: 2018/12/13(木) 00:28:13.04 ID:FWWFZVbA0
古姫「そういう事よ。
戦艦棲姫は貴方に戦艦水鬼様を逃がす際の殿を託したのよ。」
戦艦棲姫の覚悟とその託された想い、
それを知ったタ級はがっくりと項垂れる。
重巡棲姫との連絡も付かなくなっている。
これから導き出される敵の行動は……。
駆逐古姫は考える。考える為の時間は少ない。
自身の経験、そして、敵が設定しているであろう勝利目標。
自分達の現状を考えれば撤退しか道はないのだが
どうすれば安全に総旗艦の戦艦水鬼を逃がす事ができるか。
敵の目的は何であろうか?
至上命題なのはこの地に残る味方戦力の救出なのは間違いない。
では、こちらの殲滅についてはどうであろうか?
その答えを導く鍵は敵が先に後方拠点をつぶしに掛かったという点。
古姫「一般的な鉄床戦術を取るのであれば
本隊となる部隊で前線を押さえる陽動を図るはず。」
そう、一般的な鉄床戦術は装甲に勝る兵科で前線の敵をひきつけ
機動力に勝る兵科で敵の後ろを奇襲し前後で挟み撃ちを行う包囲殲滅戦。
古姫「挟み撃ちをするのであれば
先に行動を起こすのは後方拠点の襲撃ではないはず。」
正しく行うなら、先に本隊を叩き、本隊側に後方拠点から援軍を送らせるなどをして
後方への注意が逸れた時に機動力を持った精鋭で突き後方を陥落させるのが定石。
だが、敵は順番が違う。
古姫「理由は?そうせざるを得ない理由があるという事?」
一般的?そう、一般的ではない。
一般的な鉄床作戦は前方で釘点けにする本隊と
後方襲撃の部隊とは連携が密に出来ないと無理なのだ。
それは作戦の決行において双方の部隊の練度が同程度
或いは後方側担当が精鋭である事が望ましい。
581: 2018/12/13(木) 00:30:01.64 ID:FWWFZVbA0
古姫「なるほど。」
一つの推論。いや、それこそが理由であり結論だろう。
古姫「後方部隊は数が多いけれど存外錬度の低い兵の方が多い?」
古姫「連携に不安要素がある。」
敵に囲まれ後方を、
退路を絶たれ逃げ道を指定されている中での一筋の光明。
古姫「艦隊参謀長駆逐古姫麾下の全軍へ告ぐ!」
古姫「我が部隊は敵拠点攻略を停止!別命あるまで待機!」
自分の指揮権下にある部隊へ敵攻略の手を止め待機命令を下す 。
これは臆病風に吹かれてのものではなく。
総旗艦からの撤退命令が出れば即応させる為の物であり
その後の目的については。
古姫(突破口を切り開く為の捨て駒に……。)
古姫(麾下の皆。すまない……。)
ここからは時間との戦い。
敵が後方拠点を潰したのであれば現在包囲している敵
目の前の敵救援対象が呼応して反攻してくる可能性もある。
その事態は避けたい。
古姫「戦艦水姫様の下へ行かないと!」
自分の麾下部隊へ撤退の為の方角と指示を飛ばし
撤退時は先頭を切れるような状態にして駆逐古姫は本陣へと急いだのだった。
582: 2018/12/13(木) 00:31:40.39 ID:FWWFZVbA0
深海敵地攻略部隊 本隊 戦艦水鬼部隊 本陣
戦水「状況は分かったわ。」
戦水「正面の敵拠点攻略は諦めましょう。」
空鬼「私が最初に負傷し敵本隊の迎撃に失敗したばかりに…。
申訳ありません。」
戦水「あなたに問題はなかったわ。あれについては敵を褒めるべきかしらね。」
空姫「正面を攻略し我々が拠点とするのはいかがでしょうか?」
戦水「愚作。それこそ無能の極みよ。
これだけの相手に篭城戦を戦える自信は私は無いわね。
それよりも敵の包囲網が完成する前に
撤退をすべきと言う駆逐古姫の進言が正しいわ。」
戦水「今なら損害は多いけれど全滅は避けられる段階。
全軍に撤退命令を出して頂戴。」
古姫「進言を受け入れてくださりありがとうございます。」
予想以上にあっさりと進言を受け入れ撤退の決意をする戦艦水鬼。
状況が不利と判断すれば撤退する事に迷いが無い辺りは
他の水鬼級と比べ秀でているであろう。
だけにもっと早く、そう、空母水鬼が負傷し戻ってきた時点で撤退を決めていれば。
駆逐棲姫達の部隊は元より重巡棲姫、
そしてなにより戦艦棲姫を失わずに済んだであろう。
583: 2018/12/13(木) 00:33:01.46 ID:FWWFZVbA0
戦鬼「嘆いても時は戻らないわ。
古姫、どの方向へ逃げるのが最適解と思うのかしら?」
古姫「はい。私が考えるにこの方角に敵の包囲網の穴があると思われます。」
そして、駆逐古姫の指揮下で深海の撤退戦が、提督の指揮下で艦娘の追撃戦が始まった。
強襲揚陸艦 艦橋 指揮司令室
提督「大佐。始まりましたよ。」
司令室内のモニターに明滅する光を見ながら提督が語りかける。
大佐「見事に前方へ叩きだす事に成功したようですね。」
それは敵が見事に策に嵌ったとの証の明滅。
不知火「司令。こちらを。」
提督「減った戦闘機、艦攻、艦爆も到着予定か。」
不知火が渡してきたメモ紙に目を通す。
大佐「あぁ、初めの戦闘で減った機材の補充ですか……。」
強襲揚陸艦には艦娘用の艦載機の予備は
それ程積んできては居なかったはずだがと思う大佐。
最初の防衛戦時に当てはあると言っていたそれが着くのであろう。
だが、この光点の数は……。まさか?!
584: 2018/12/13(木) 00:34:53.88 ID:FWWFZVbA0
提督「お気づきになられましたか。」ニヤリ
大佐「確かに船で輸送するより直接飛ばした方が早いですね。」
船で運ぶより飛行機を飛ばしたほうが運搬という点では早いのは当たり前。
ただ、人でやろうと思えばパイロットの疲労問題や
人員の都合などでとてもではないがやれたものではない。
更に言えば長距離、長時間飛行した後にさぁ、戦え、根性だ。
となればいかな熟練パイロットであろうと最高の結果を出す事は困難だろう。
だが、艦娘の使う艦載機のパイロットは疲労しらずの妖精さん達である。
妖精達の疲労は使用者の艦娘に移るとの話でもあるが……。
その頃の海上では栄養補給にいそしむ姿があった。
グラ「疲労回復の為に甘味を採るか。」ゴソゴソ
瑞鳳「あっ、そろそろ?」
グラ「あぁ、瑞鳳も食べるといい。」
瑞鳳「じゃぁ、お茶にすりゅ――?」
グラ「いただこうか。」
そう、艦娘には疲労回復専用の戦闘糧食。甘味間宮羊羹がある。
585: 2018/12/13(木) 00:36:55.44 ID:FWWFZVbA0
大佐「成程。成程。実に合理的だ。」
大佐「ですが。航続距離については?
空中給油機など無いはずでは?」
提督「それについてはそちらの同盟国の
フォークランド時の対応を参考にさせていただいています。」
大佐「Operation Black Buck ?」(ブラックバック作戦?)
提督「その通りです。爆撃機と戦闘機や艦爆といった違いはありますが
無理やり航続距離を伸ばすやり方は参考にさせてもらっています。」
大佐「成程。敵の尻を蹴りだせばこちらに向ってくる敵の方角は
分かりきってますから早期警戒機の幾つかを誘導に回せるという事ですか。」
提督「我々の鎮守府からこの海域までのあいだに補給艦と護衛隊をつけた空母を配置。」
提督「燃料を補給後離陸。それの繰り返しで艦載機を飛ばし続けている形です。」
大佐「なるほど補給艦をリレーで回すことで
空母艦娘とその護衛艦隊へ燃料、弾薬を切らさない形ですね。」
大佐「空母へは燃料だけの補給で良い訳ですから
補給艦娘に積む燃料も弾薬を減らして多く積めますね。」
大佐「艦載機については収容可能数以上であったとしても救出先に地面はありますしね。」
提督「そうです。仮に我々の空母娘達で収容出来なくても
周囲に島が幾つもありますからね。そこへ降ろせばいいわけです。」
提督「奇策で理屈は分かっても普通はやらないという奴です。」
大佐「かの国はそれをやりますからね。」
提督「かの国の柔軟な発想は当り外れありますが様々な戦訓を与えてくれます。」
提督の言葉に頷く大佐。
586: 2018/12/13(木) 00:38:16.14 ID:FWWFZVbA0
「You have control 」(無線)
グラ「I have control 」モチモチ(無線)
グラーフが艦載機の管制を中継した艦娘から無線を通し受け継ぐ。
グラ「零52型が中心か。」
グラ「フム。さてと、艤装を無理やり拡張しているからな。」
グラ「どれだけ余分に動かせるかといった所か。」
瑞鳳「リミッター外す感じ?」
グラ「うむ。
艤装の寿命を縮めるから好ましくはないが贅沢も言ってられまい。」
グラ「我々が始めて、我々が終わらせる。」
グラ「ともなれば主人公は我々であろう?」
瑞鳳「やだ、グラたん口説いてる?」
グラ「Shall we dance ?」ニヤリ
瑞鳳「きゃぁ ――――― ///」
587: 2018/12/13(木) 00:39:20.22 ID:FWWFZVbA0
秋津洲「ワイルドギース01より管制へ!」
不知火「こちら88コントロール。どうされました?」
秋津洲「敵艦隊発見!艦影のライブラリへの照会よろしくかも!」
不知火「確認しました。照合します……。」
二式大艇から送られてきたデータの照合。
不知火「照合完了、艦影、空母水鬼です!」
にわかに色めき立つ司令室内。
提督「敵の将官か。優先して狩ってくれ。」
提督の指示が排除への優先順位を告げる。
グラ「艦載機の数で押せるのであれば我らが有利!」
瑞鳳「艦攻隊に艦爆隊のみんな!やっちゃぇ!」
正面、提督達本隊の空母艦娘が管制する艦載機部隊が一斉に哀れな獲物。
空母水鬼へと襲いかかる!
588: 2018/12/13(木) 00:43:02.11 ID:FWWFZVbA0
空鬼(来たわね!これでいい!これで!)
空母水鬼の随伴は対空に定評のあるツ級ではなく駆逐ナ級。
もっともナ級自体が最新鋭である為それもなかなかの対空ではあるのだが。
グラ「ふむ。なにやら覚悟を決めた様子だな。」
瑞鳳「負けを悟った感じ ――― ?」
空鬼「そういうことよ!さぁ!かかって来なさい!」
覚悟を決めた空母水鬼。
最後の足掻きと自身の艦載機を全て出しグラーフ達の部隊に抗う。
だが、最初の接触時と違いその戦闘機や艦爆、艦攻の数は決定的に違う。
空母水鬼の随伴は徐々に数を減らし、その直援機もついには零となる。
飛行機達の攻撃が集中すれば制空の取られた状況では為すすべなどある訳が無く。
空母水鬼は集中攻撃を浴び、大破炎上、そして轟沈へ。
グラ「なかなか頑張った。いい、戦争だった。」フム
お互い顔の見える距離ではない。
グラーフははるか遠くの距離で炎上、
ゆっくりと沈降して轟沈してゆく相手へ最大限の賛辞を贈った。
空鬼「これで、これでいい。」
空鬼「私は役割を果たした………。」
空鬼「戦艦水鬼様……。後は。後は、宜しくお願いいたします……。」
そして、空母水鬼は役割を果たし、
満足した顔で水底へと逝った。
594: 2018/12/20(木) 00:32:01.15 ID:O5Yg9HcV0
私事でばたばたしてきておりますが更新にきました
お時間よろしければお付き合いいただけますと幸い
お時間よろしければお付き合いいただけますと幸い
595: 2018/12/20(木) 00:33:42.88 ID:O5Yg9HcV0
提督達救援対象鎮守府
その鎮守府の指揮は提督が嘆いたように少佐が執っていた。
階級としてそれは余りにも低く提督として新米と言えた。
しかし、彼は踏ん張り救援が来るまで耐えきった。
少佐「敵が。敵が撤退していく?!」
目の前の包囲網が解かれ、敵が撤退していくのが見える。
少佐「ここは敵の追撃を!」
今まで篭城戦を戦ってきていた全員に命令を下す少佐提督。
「島風の仇!」
「仲間の恨みを!」
目の前で惨殺された島風、
そして、幾度にも及ぶ攻撃で散っていった仲間達の仇を討つ。
その強い意志が極限まで追い詰められ疲労しているはずの彼女達に力を与えた!
ウォォォォォォオオオ!
その鎮守府の指揮は提督が嘆いたように少佐が執っていた。
階級としてそれは余りにも低く提督として新米と言えた。
しかし、彼は踏ん張り救援が来るまで耐えきった。
少佐「敵が。敵が撤退していく?!」
目の前の包囲網が解かれ、敵が撤退していくのが見える。
少佐「ここは敵の追撃を!」
今まで篭城戦を戦ってきていた全員に命令を下す少佐提督。
「島風の仇!」
「仲間の恨みを!」
目の前で惨殺された島風、
そして、幾度にも及ぶ攻撃で散っていった仲間達の仇を討つ。
その強い意志が極限まで追い詰められ疲労しているはずの彼女達に力を与えた!
ウォォォォォォオオオ!
596: 2018/12/20(木) 00:34:51.56 ID:O5Yg9HcV0
古姫「包囲していた敵が追ってきたわね…。」
予想の範疇。
既に深海勢は撤退戦に切り替えて部隊を素早く退いている。
タ級「空母水鬼様撃沈の報!」
戦鬼「空母水鬼が撃沈?!」
彼女程の豪の者であれば
包囲網を抜けられると思っていたのにも関わらず轟沈したと?
包囲網の穴と思われる所へ斬り込みを掛けていた自分の部下、
指揮官級がやられた事は戦艦水鬼に更なる衝撃を与えた。
古姫「戦艦水鬼様!立ち止まられてはいけません!」
古姫「空母水鬼様が何の為に沈んだと思っているのです!」
戦水「駆逐古姫……。ここを攻めたのは間違いだったのかしら?」
戦水「戦艦棲姫を始めとした優秀な部下を失ってまで獲るべき場所だったのかしら?」
自身の部下が次々と為すすべなくやられていく戦況というのは
今まで負けなしできていた戦艦水鬼には実に耐えられない物の様であった。
597: 2018/12/20(木) 00:36:15.40 ID:O5Yg9HcV0
空姫「戦艦水鬼様?」
戦鬼「敵は強いわねぇ、私達、皆、氏ぬのかしら……。」
戦鬼「ねぇ、どうせ皆氏ぬのなら敵の旗艦を潰して…「この痴れ者!」パァン!
自暴自棄になりかけた戦艦水鬼に駆逐古姫の張り手が決まる。
古姫「貴方という方は何を考えているんですか!!」
戦艦水鬼の発言に怒り心頭に発した駆逐古姫が戦艦水鬼の服の襟首を掴む。
古姫「戦艦棲姫や空母水鬼様が何故に氏んだと思っているのです!?」
古姫「皆、貴方に次の、深海棲艦の未来を託し、
生き延びて欲しいが為に氏んでいったのですよ!?」
古姫「この世界の支配者の器たる才を貴方に視たからこそ
彼女達は命を賭して貴方が逃げる為の時間を稼ぎ敵を防いだんです!」
古姫「ここで貴方が折れてどうするんですか!」
古姫「氏んでいった者達にすまないと思うなら
生きて敵を滅ぼす為に再起を誓うべきではありませんか!」
激昂し、その怒りのままに戦艦水鬼を叱り飛ばす駆逐古姫。
そして、戦艦水鬼のドレスの襟首を掴む手は怒りに震えていた。
戦鬼「手を……。手を服からどけてもらえるかしら。」
古姫「これは…、無礼いたしました…。」
戦鬼「いえ、私が愚かだったわ。」
その顔からは迷いが消えた。
戦鬼「私は全力で逃げるわ!」
戦鬼「駆逐古姫!空母棲姫!二人とも殿は頼んだわ!」
そして、戦艦水鬼は護衛を連れ全力で海域を離脱していった。
598: 2018/12/20(木) 00:37:41.07 ID:O5Yg9HcV0
古姫「ふ ―――― …。
戦艦水鬼様が全力で逃げるなら追いつけないでしょうや。」
空姫「流石に戦艦水鬼様ほどの方になると逃げっぷりもさまになるわねぇ。」
古姫「あれくらい豪快に逃げてもらわないと困るわ?」
空姫「そうね。戦艦水鬼様には逃げて深海棲艦の戦力を立て直していただかないと。」
空姫「それにしても、始めに敵の本隊の力量を見誤っていなければ
犠牲は少なかったかもしれないと思うのだけれど。」
古姫「やめときましょう。戦の『たら』『れば』なんて言い出したらきりがない。」
古姫「今回は敵がたまたま一枚上手だっただけよ。」
古姫「私達はここで私達がなすべきことをしましょう。」
空姫「えぇ。そうしましょう。」
空姫「エンドロールが流れ始めたからといってまだ完全に終わった訳ではないですもの。」
二人の姫が敵へ向き直り咆哮を挙げた。
599: 2018/12/20(木) 00:40:48.40 ID:O5Yg9HcV0
強襲揚陸艦内 艦橋司令室
不知火「秋津洲さんから入電です!」
提督「どうした?」
不知火「撤退中敵旗艦艦隊と思しき艦隊を発見するも
敵艦隊の攻勢激しく警戒機の護衛が落とされたので
撤収するとの事です。」
提督「敵さんも必氏こいて逃げているようだな。」
提督「位置は?」
不知火「此方です。」
机代わりにしている大型モニターにタップして敵を表示させていく不知火。
大佐「ははぁ。これは敵に天晴れな才を持った者が居たようですね。」
提督「確かに。これは上手い事こちらの隙間を突いて来ています。」
駆逐古姫が戦艦水鬼を逃がす為に戦闘を行っている場所は
丁度、提督達88鎮守府組み本隊と周辺鎮守府連中の合わせ目だった。
三角形をイメージしていただけるだろうか。
包囲網が三角形で構成された場合、一辺を瑞鶴達遊撃隊、
もう一辺が周辺鎮守府部隊。
そして、底辺が提督達本隊。
ただ弱いところを突くというのであれば周辺鎮守府部隊を潰せばいいのだろう。
だが、思い出していただきたい。
深海棲艦達が攻め立てた場所の特徴を。
そう、この場所は敵、深海棲艦の陣地へと食い込む形に突出した場所である。
だけに周辺鎮守府で構成された部隊の方向を突き抜ければ
そこは深海棲艦達にとって敵である艦娘側勢力下なのだ。
寡兵でもって敵の支配地域を追撃を交しながら逃げるというはとても困難である。
たまたま上手くいった狂人集団達が歴史にその名を残してはいるが普通は行わないもの。
失敗した者の方が多いのは当たり前でそれが語られる事が無いのは歴史が雄弁に物語る。
で、あればという事で駆逐古姫が目をつけたのが包囲網端である。
中心部分からの面の構成ははどうしても端の部分の展開が遅れる。
駆逐古姫はそれを巧みに見抜き一番脱出できる可能性がある方向を目指していた。
600: 2018/12/20(木) 00:42:03.15 ID:O5Yg9HcV0
提督(……、救援の目的は達したと言えなくは無いか。)
提督(敵の指揮官をどうみるか……。)
後顧の憂いを断つのは基本なれど。
提督(手札が足りない。大役は狙うべきではないか。)
提督(現状で目的は達して後はボーナスを狙うかどうか。)
提督(ポーカーにしてもなんにしても賭け事ってのは引き際が肝心だ。)
提督(伏せ札で一枚とっておきがあるとは言え、
今時点で幕を下ろすのもありか。)
提督(周辺鎮守府連中には期待できんしな……。)
88鎮守府の主力に負傷者が出ている現状で最優先の目的は達成済み。
となれば逃げる敵は追うべきではないか?
氏に物狂いで逃げる敵と言うのは時として予想以上の力を発揮する事がままある。
その必氏の力に盆を返されてはたまらない。
提督がそう考えた時だった。
601: 2018/12/20(木) 00:44:02.54 ID:O5Yg9HcV0
不知火「司令。瑞鶴さんから無線通信が入っています。」
提督「繋いでくれ。」
瑞鶴「提督。空母棲姫が頑張っているって?」(無線)
提督「あぁ。」(無線)
瑞鶴「私がやるわ。」(無線)
提督「そうか。頼んだ。」(無線)
そして、瑞鶴からの無線通信を終えたくらいに
また一人の艦娘からの通信が入る。
不知火「司令。時雨さんからも通信が入っています。」
時雨「提督。」(無線)
提督「瑞鶴の護衛ではなく移動していたんだな?」(無線)
時雨「うん。察しが良くて助かるよ。僕も行くよ。」(無線)
提督「頼んだ。」(無線)
瑞鶴からの許可を得て、
手勢を連れ遊撃隊として行動していた時雨は
予め包囲網の穴となりそうな場所を予測して動いていた。
提督(敵の殲滅……、いけるか?)
提督(総大将を逃がす為に敵は必氏になるだろうが。)
提督(瑞鶴に時雨…。自分で考え動く事が出来る、
更に有効打を打てる兵というのは実に得難い。)
提督(指揮官として将として。次代を担える存在だ。)
提督(追撃戦は大事だが。二人を失う愚は避けないといけないな…。)
602: 2018/12/20(木) 00:47:34.02 ID:O5Yg9HcV0
88鎮守府敵後方襲撃部隊
瑞鶴「川内!私の体の護衛頼まれてくれない?!」
川内「……。全力でいくの?」
瑞鶴「敵の艦隊を追っかけるのに
私が向っていちゃ間に合わないしね。」
瑞鶴「今飛んでるのを直接向わせるしかないでしょ。」
川内「そっか。」
瑞鶴「魂降ろし(フルダイブ)をやるわ。」
川内「了解。お姫様の体には指一本触れさせないよう頑張るよ。」
瑞鶴「宜しく。」
そして瑞鶴は意識を集中させ両手を顔前で合掌した。
嘗て、深海棲艦への対抗策として艦娘が出始めた頃の事。
まだ二つ名持ち(ネームド)制度が始まる前の事。
比類なき強さを誇った、
その種類の艦娘として艤装の製造番号が初期の艦娘が居た。
一人は呑波の赤鬼と呼ばれもう一人は呑舟の青鬼と呼ばれた。
呑波、呑舟、どちらも意味は同じで舟を喰らう程の大魚。
二人はその名の通りに多くの舟、深海棲艦を喰らい沈めた。
そしていつしか、二人を合わせて呑波呑舟、大喰らいの一航戦と呼ぶようになる。
その強さ比肩する者なし、時として国士無双と賞されるほどだった。
強すぎた艦娘。
強すぎた為に敵深海棲艦に徹底的に狙われ
最優先排除対象とされ最期は水底へと消えていった。
その半ば伝説として語られる二人が得意とした、
いや二人だけが使えた特殊な艦載機操縦方法がある。
それは艦載機に自己の意識を載せるやり方『 魂降し 』と呼ばれ、
それは艦載機の搭乗員妖精と自己を完全に同化する手法だった。
同化した艦載機達は一個の群体として動き敵を屠っていった。
ある程度の指示を与えた後は搭乗員妖精に任せる通常の操縦方法と違い
艦載機全てを操り自己の視界とするするその操縦方法は
艦載機妖精同士の連携が不要となり最強を誇った。
しかし、それを行う艦娘への負担は計り知れないほど大きく、
結局、この二人以外行えた者は居ないとされる。
瑞鶴「加賀さんみたいに降ろした後にお握り摘むような余裕は無いけどね。」
パンと改めて一拍。
瑞鶴「88鎮守府筆頭空母、瑞鶴!相手仕る!戦技!魂降し!」
その瞬間、瑞鶴が繰る艦載機達の纏う気配が変わった。
瑞鶴「川内!私の体の護衛頼まれてくれない?!」
川内「……。全力でいくの?」
瑞鶴「敵の艦隊を追っかけるのに
私が向っていちゃ間に合わないしね。」
瑞鶴「今飛んでるのを直接向わせるしかないでしょ。」
川内「そっか。」
瑞鶴「魂降ろし(フルダイブ)をやるわ。」
川内「了解。お姫様の体には指一本触れさせないよう頑張るよ。」
瑞鶴「宜しく。」
そして瑞鶴は意識を集中させ両手を顔前で合掌した。
嘗て、深海棲艦への対抗策として艦娘が出始めた頃の事。
まだ二つ名持ち(ネームド)制度が始まる前の事。
比類なき強さを誇った、
その種類の艦娘として艤装の製造番号が初期の艦娘が居た。
一人は呑波の赤鬼と呼ばれもう一人は呑舟の青鬼と呼ばれた。
呑波、呑舟、どちらも意味は同じで舟を喰らう程の大魚。
二人はその名の通りに多くの舟、深海棲艦を喰らい沈めた。
そしていつしか、二人を合わせて呑波呑舟、大喰らいの一航戦と呼ぶようになる。
その強さ比肩する者なし、時として国士無双と賞されるほどだった。
強すぎた艦娘。
強すぎた為に敵深海棲艦に徹底的に狙われ
最優先排除対象とされ最期は水底へと消えていった。
その半ば伝説として語られる二人が得意とした、
いや二人だけが使えた特殊な艦載機操縦方法がある。
それは艦載機に自己の意識を載せるやり方『 魂降し 』と呼ばれ、
それは艦載機の搭乗員妖精と自己を完全に同化する手法だった。
同化した艦載機達は一個の群体として動き敵を屠っていった。
ある程度の指示を与えた後は搭乗員妖精に任せる通常の操縦方法と違い
艦載機全てを操り自己の視界とするするその操縦方法は
艦載機妖精同士の連携が不要となり最強を誇った。
しかし、それを行う艦娘への負担は計り知れないほど大きく、
結局、この二人以外行えた者は居ないとされる。
瑞鶴「加賀さんみたいに降ろした後にお握り摘むような余裕は無いけどね。」
パンと改めて一拍。
瑞鶴「88鎮守府筆頭空母、瑞鶴!相手仕る!戦技!魂降し!」
その瞬間、瑞鶴が繰る艦載機達の纏う気配が変わった。
603: 2018/12/20(木) 00:49:49.64 ID:O5Yg9HcV0
殿軍部隊 空母棲姫
空姫「敵の攻撃隊は温いわねぇ!」
撤退する深海棲艦軍の殿軍を駆逐古姫と
空母棲姫は自己の手勢と共に勤めていた。
古姫「予想通り後方を襲撃した連中と比べて練度が低いわね。」
機関全速で撤退する中で追撃を仕掛けてくる敵の艦載機攻撃隊は動きが鈍重。
そして、艦娘による砲撃も雷撃も命中精度は低かった。
古姫「回避しやすい単調な攻撃というのは助かる。」
ひょいひょいと敵の攻撃を交し追撃部隊にお返しとばかりに砲雷撃。
古姫(これなら私と空母棲姫も脱出できるかもしれない。)
そんな淡い夢を見たときだった。
戦う二人の間を一陣の風が吹き抜けた。
604: 2018/12/20(木) 00:51:16.67 ID:O5Yg9HcV0
空姫「駆逐古姫様……。」
急に敬称をつけて駆逐古姫を呼ぶ空母棲姫。
一体どうしたというのか。
古姫「どうしたの?」
空姫「重要機関をやられました。」
そんなばかな。たった今のその一瞬で?
そんな動きの取れる敵機は対空戦闘が始まった先程からまったく見ていない。
空姫「胴体シンボルに加賀梅鉢。尾翼マークに二羽飛び鶴。」
空姫「私の真横を一瞬ですが見せ付けるように飛んでいった部隊がいました…。」
空姫「青鬼の弟子でしょうや……。」
古姫「あの!あの青鬼に弟子がいたの!?」
駆逐古姫程の古参となれば敵の強兵の名を知っているのは当然であり
その名は驚愕を伴いつつ古い記憶を呼び起こした。
空姫「過去の因果が追いついたと言うところでしょうか。」
空姫「あれの弟子がここにいる以上は足止め出来るのは私だけでしょう。」
空姫「操る艦載機全てが落とされるまであがき時間を稼ぎます。」
空姫「戦艦水鬼様をどうぞ。よろしくお願いいたします。」
畏まり深々と頭を垂れる空母棲姫。
空姫「お行きください。」
そして駆逐古姫を見送ると空母棲姫は改めて追撃部隊の方へ向きなおる。
605: 2018/12/20(木) 00:52:53.39 ID:O5Yg9HcV0
空姫「殿軍としての務め。しっかりと果たしてみせましょう。」
瑞鶴「いいじゃない。その覚悟。受取った。」
瑞鶴の意思が乗った艦載機、いや、瑞鶴そのものと言って過言ではないだろう航空隊が
覚悟を決めた空母棲姫へ襲い掛かる。
空姫「動きが捉えきれない!」
敵の攻撃隊を一言で形容するなら俊足俊英。
一機が魚雷を落せばその機体とまったく同じ高度、位置につけた二番機がそれに続く。
前衛の機体を盾に後続が全て突撃。突撃タイミングはコンマ以下秒のずれもない、
そして迎撃機が敵の氏角位置から後ろを取れば迎撃機の氏角に敵が居る。
背中に目がついているのかはたまたその敵機は本当にそこに居たのか或いは未来予知?
いいように翻弄され空母棲姫はあっという間にダメージを重ねていく。
空姫「私が相手をするには力不足だったようね……。」
空姫「……、青鬼の弟子という事であればこんな戦場では
仮に旗艦を勤めているのであったとしても役不足なのでしょうけれど。」
空姫「自分の命を奪っていく相手の顔くらいは拝みたかったわね。」
既に艦攻からの魚雷の命中弾が数発。
そして、艦爆からの直撃弾も食らっている。
錬度の低い敵攻撃隊に上手く紛れて攻撃してくる精鋭。
その姿、気配を見ることは最期まで敵わなかった。
空姫「ここまでですか……。」
空姫「これほどの強さを誇る艦娘がまだ隠れていたとは……。」
空姫「我々の完敗ですね……。」
空姫「駆逐古姫様……。
後は、どうぞ、どうぞ…よろしくお願いいたします。」
606: 2018/12/20(木) 00:54:05.63 ID:O5Yg9HcV0
瑞鶴「ふん。なかなか頑張ったじゃない。」
瑞鶴「でもね。ひとつだけ訂正して逝きなさい。」
瑞鶴「私に技を教えてくれたあの人はこんなもんじゃないわよ。
正しく鎧袖一触だったわ?」
瑞鶴「私はあの伝説の足元にも及ばないんだから。」
瑞鶴「私はあの伝説と比べて自分がそれに並べるなんて思っちゃいないわ。」
瑞鶴「あんたがここで負けたのは、
たまたまあんたが私より弱かっただけよ……。」
意識を載せた艦載機達の視界に
空母棲姫が炎上、轟沈する様を捉え瑞鶴は意識を体へと戻した。
607: 2018/12/20(木) 00:55:49.25 ID:O5Yg9HcV0
瑞鶴「……、川内?」
川内「お帰り。」
瑞鶴「迷惑掛けたわね。」
川内「いえいえ。戻ってきたなら何より。」
敵の必氏の猛攻は意識がなくなり
棒立ち状態だった瑞鶴を格好の的としていたようである。
瑞鶴が自分の体に戻ってきた時、
体の護衛を頼んでいた川内はかなり消耗しているようだった。
瑞鶴「あの人達みたいに意識を飛ばしていても
自分の体を動かすなんて芸当は無理ね。」
瑞鶴「まだまだ修行が足りない事を痛感したわ。」
川内「んー、まぁ、瑞鶴は瑞鶴でいいんじゃない?」
川内「まっ、確かに明確な目標があったほうが
やりやすいってのはあるかもだけどね。」
川内「で、首尾は?」
瑞鶴「上々よ。」
川内「じゃま、後は時雨にまかせますか。」
瑞鶴「そうね。さすがに疲れたわ。」
瑞鶴「ウォースパイト?」(無線)
瑞鶴が無線でウォースパイトを呼び出す。
スパ「お呼びですか?」(無線)
瑞鶴「疲れたから旗艦よろしく。
副官として補助はしてあげるから頑張んなさい。」(無線)
スパ「えぇ!?」(無線)
そして、二の句を告げさせず無線を切る。
川内「いいの?」
瑞鶴「そろそろ一人立ちさせるべきでしょ?」
瑞鶴「這えば立て、立てば歩めの親心よ。」
川内「スパルタだねぇ。」
瑞鶴「雪風が過保護なのよ。」
そう川内に返し瑞鶴はゆっくりと自己の艦載機を再度発艦させた。
614: 2018/12/29(土) 00:25:05.97 ID:KSP3WUqy0
深海棲艦達の撤退は三々五々、
四分五裂といったいかにもな敗残軍の撤退ではなく。
駆逐古姫が逃げるべき方向を示し、
その他の姫級たちが氏ぬ最後まで指揮を執っていたことも有り只の敗残兵とは違った。
提督「負けているにも関わらず統制が執れている敵というのは厄介ですね。」
大佐「えぇ、平時の練度と敵の統率力の高さを窺い知れます。」
ここで多くの敵指揮官を倒せた事は後々有利に働くと二人は考える。
提督「時雨はそろそろか。」
先の無線時に聞いた座標から秋津洲が連絡してきた敵旗艦艦隊の座標とを見比べ、
手元の時計を見て呟く。
本隊の艦載機部隊は提督の指示の元、
撤退しつつある敵旗艦艦隊以外の敵を先に始末していっている。
大佐「丁寧な仕事ですね。」
提督「今、敵主力に向っている部下が任せろと言ったんです。」
提督「上がやれることはその言を信用して
周りの邪魔が入らないようにすることですよ。」
大佐「部下を育てる為に裁量を与え見守るという事ですか。」
提督「最悪仕留めきれずともこの戦域における絶対的勝利は我々のものです。」
提督「我々の強さを知れば復讐を誓うにしても相応の期間を置くでしょう。」
提督「現状、時間は我々にも必要です。」
提督の言葉には大佐から示唆された色々な面倒事を片付ける為の時間が居るという事であり。
大佐「銃後の面倒事、政治の方は厄介ですからね。」
大佐のこの一言は根が恐ろしく深い事をしめしている。
615: 2018/12/29(土) 00:27:09.10 ID:KSP3WUqy0
深海棲艦 殿軍 駆逐古姫隊
古姫(電探に敵機影が映り始めたわね。)
空母棲姫を残し自軍の直参を連れ
戦艦水姫の殿軍を勤める駆逐古姫の部隊にも
グラーフや瑞鳳の艦載機達が迫ってきていた。
しかし。
ツ級「ツァ!」
駆逐古姫直参部隊ともなれば、深海を支える精鋭なのだ。
グラ「ふむ。さすがに普段使わない52型だと操作に難ありか。」
瑞鳳「へぇー、あそこまで海面スレスレに飛んでる艦攻隊を落せるかぁ。」
艦攻隊が海面スレスレを低く飛ぶのは対空機銃の俯角には限界値があるため。
機銃を下向きにした範囲内で狙えなくなる範囲の内側にまで入り込めば
雷撃はやり放題になる。
だが、敵の殿軍の精鋭達はそれをさせてくれない。
グラ「雷撃のコースに乗る前に落とされると抱えた魚雷が無駄になるな。」
瑞鳳「うん。余り意味の無い物になっちゃう。」
追撃隊の艦載機達が落とされ始めた時にグラーフ達の無線に連絡が入った。
時雨「ようやく敵殿軍に追いついたよ。」(無線)
グラ「時雨か。」(無線)
時雨「道中の抵抗もなかなか厳しくてね。」
瑞鳳「直接やる?」(無線)
時雨「うん。僕がやる。任せて貰えるかな?」(無線)
グラ「上空は任せて貰えるか?」(無線)
時雨「お願いするよ。」(無線)
瑞鳳「それじゃぁ、周辺のお掃除はこっちがするね!」(無線)
時雨「うん。お願いする。」(無線)
616: 2018/12/29(土) 00:28:11.64 ID:KSP3WUqy0
古姫(ここに来て、まだ強兵の手札を切れるか……。)
古姫(敵の…、敵の救援部隊の層のなんと厚いことよ…。)
迫ってきた時雨の纏う雰囲気は歴戦の古参兵のそれ。
古姫(なれど、救援部隊の中核のみが頭抜けて質が高いだけのようね。)
古姫(全体の軍の質であれば我ら深海側の方が上なのは揺るがない。)
古姫(それだけ相手は全体的に追い詰められてきている。)
古姫(なればこそ、今回は相手が一枚上手だった。)
古姫「それにつきるわね。」
時雨「?」
古姫「こちらの独り言よ。」
古姫「今、この場に立つということは
あなたもそれなりに名のある艦娘と思うのだけれど。」
古姫「名乗る名があるのなら聞いてもいいかしら?」
古姫が連れていた直参の深海棲艦達は
時雨が瑞鶴に任された部下達が相手取り
グラーフ、瑞鳳の攻撃隊がそれを援護する。
617: 2018/12/29(土) 00:29:37.91 ID:KSP3WUqy0
時雨「名乗れる程の名は無いけれど。」
時雨「そうだね。
僕は外地鎮守府管理番号88所属。」
時雨「白露型二番艦、時雨だよ。」
古姫「此方の求めに応じてくれて感謝するわ。」
古姫「流石にこの首、
知らない相手にくれてやるには惜しいかと思っていたのよ。」
時雨「それで、君は?」
古姫「深海南方方面軍戦艦水鬼艦隊が参謀長駆逐古姫。」
名乗りを終え、武者両名の戦が始まった。
先の先、先の後、後の先。
剣道でよく言われる試合運びの為の対峙法であるが
武芸者同士での戦い方の心得の一つ。
相手の動きを先読みしそれに対して先に動く。
また、相手が仕掛けてきた際に出来た隙に対してカウンターを返す。
先に長門と戦艦棲姫が演じた演武の様に戦うが。
その駆逐艦たる二人の動きは正しく自由自在。
砲が擬装に固定され砲の動きが制限される戦艦達と比べ
駆逐艦である二人の砲は携行式。
そこには仰角、俯角という艦艇に固定される砲の概念はない。
更には。
618: 2018/12/29(土) 00:31:42.59 ID:KSP3WUqy0
時雨「流石にいい所に魚雷を撃ってくる。」
ひらりとかわし避けきれない魚雷を砲撃。
古姫「軽くかわしてくれるものねぇ。」
時雨がお返しとばかりに
返してくる魚雷を避けた先の砲撃を交しつつ返す駆逐古姫。
ただ、戦艦同士の戦いと違い。
こちらは駆逐艦である。
一撃一撃はお互いに致命傷になる確実なダメージとなる。
駆逐古姫の方に装甲の分があるとは言え
流石にそれに頼った戦いは出来ないだろう。
お互いに氏への一撃を軽くいなす戦い。
時雨「そろそろ観念してその首、渡しておくれよ。」
古姫「今はまだあげられないわねぇ。」
魚雷を放った後にその後ろで加速して突っ込んで来る時雨。
これは駆逐古姫が魚雷を避けきると確信しているからこそ出来る芸当。
古姫「自身の放った攻撃を
一撃も無駄にしないその心意気は素敵だと思うわよ?」
古姫「でも、魚雷が私に当っていたら貴方、爆発に巻き込まれていたわよ?」
ほいと時雨の放った牽制の蹴りを
海老ぞりで交しつつ言葉をかける駆逐古姫。
時雨「あれに当ってくれるような君なら
僕が此処で戦っていなくて済むんだけどね。」
蹴り抜けた足の勢いを活かし
駆逐古姫の後ろを取ろうとした時雨に駆逐古姫が砲身の先を向けてくる。
それを体を捻らせ砲撃で逸らし言葉を返す時雨。
古姫「本当に困った相手がいたものね。」
時雨「どうも。」
この期に及んでというのが正しいのかは別として。
相手を褒めるに困った相手というのは適切なのかどうか、
そしてそれに謙遜ともとれる無気力な返事。
弛緩した雰囲気が漂うが周囲は敵味方入り乱れ命のやり取りが行われている愁嘆場。
619: 2018/12/29(土) 00:33:52.28 ID:KSP3WUqy0
古姫「貴方が敵でなければ
野点の一つでもと誘いたいところなのだけれどね。」
幾度にも及ぶ砲雷撃。
それを交わし続ける二人に少しづつの変化が出始めていた。
方や明石によりつねに最新の技術を投下され進化し続けている兵装。
そして、その体力は無尽蔵ともいえる若さからくる。
対峙する駆逐古姫は、その名の示すように時雨と比べれば年をとっている。
更に、艤装そのものが持つ性能は決して悪い物ではないのだが。
事、ここに至っては総合力で時雨に分があるのである。
更に元々の戦況も今は時雨に味方する。
時間が経てば経つほどにこの海域に敵が、
艦娘が集まってくるのは明らかである。
時雨の三つに編んだお下げが回避行動にあわせくるりと揺れる。
古姫(美しいものよな。)
だが、見惚れていては自分の首に当てられた氏神の鎌が振り下ろされる事になる。
時雨「なかなかに時間を稼いでくれるね。」
古姫「あら、流石に見抜かれていたわね。」
時雨「消極的な戦い方をされているとね。」
時雨「ここに僕の仲間が集中すれば
君が逃がそうとしている総旗艦を追う者は少なくなるからね。」
時雨「かといって君の相手が単騎で出来るのは僕くらいだろうしね。」
時雨「乱戦で戦う方が得意なタイプと見るよ。」
古姫(本当に困った相手だ。)
その双眸はこちらを良く観察しこちらが得意とする戦いへ持ち込ませないように
周囲の部下へ戦闘の参加を禁じ、自分たちを無視し本来の追撃を行わせている。
古姫(こちらの手をきっちりと封じてくる。)
会話を楽しんでいるように語っているが実際は
自分を引きとめ戦艦水鬼へ追撃隊を殺到させているのだろう。
お互いにお互いを引きとめておきたいという意味では利害が一致しているとも言えるが。
620: 2018/12/29(土) 00:35:07.03 ID:KSP3WUqy0
古姫「貴方だけしか止められないのであればそれは意味無き事。」
時雨「なんだ、こっちの意図も読まれてたか。」
古姫(涼しい顔で。子憎たらしい。)
しかし、その内心は晴れやか。
氏出の旅路によき敵に合間見えた事、その喜びが大きい。
古姫「今、再び、一武人として戦える。」
古姫「時雨。あなたに感謝を。」
古姫(といっても体がもう気持ちに追いついて来ないわね。)
古姫(歳はとりたくないものね。)
時雨「……。」
時雨「改めて。僕は外地鎮守府管理番号88所属。白露型二番艦時雨。」
時雨「相手をさせて貰うよ。」
古姫「深海南方方面軍戦艦水姫参謀長 駆逐古姫。」
古姫(あぁ、成程。)
古姫(此方が一息入れるだけの。その一息で調子を戻せと。)
時雨が改めて自分の名乗りをあげ、敢えて作った間の意図を見抜き。
621: 2018/12/29(土) 00:36:41.60 ID:KSP3WUqy0
古姫(尚も全力を出せと目の前の将は言うか。)
古姫「貴方は貴方の指揮官に老人を敬えと教わらなかったのかしら?」
時雨「労わらなければいけないほどの歳なのかい?」
ここに来て、駆逐古姫はようやっと時雨の意図を理解し
その行為に敬意を払いたいという、いや払うべき行為と気付いた。
時雨は自分に全力を出し切らせ、そして武人として氏なせる。
最大限の名誉を与え氏なせる心算なのである。
殿軍の将といえば追撃され命を落とす事が多いのが常。
更には名の知らぬ者に狩られその氏体は切り刻まれ辱めを受ける事が多い。
時雨が味方から信頼されて部下を良く使っているのを見れば分かる。
時雨自身、それなりの位置にいる者なのだろう。
実力で他のものに自分の命令を聞かせるだけの力がある。
その者が自ら自分を倒し、
誰とも知らぬ者に首を獲らせ不名誉な氏に方はさせぬとの意思表示。
名誉ある氏を与えると言っているのだ。
戦い、銃口を、魚雷を突きつけ合わせた僅かな時間で時雨の人となりは理解出来た。
622: 2018/12/29(土) 00:38:21.36 ID:KSP3WUqy0
古姫(………。
戦艦水姫様が電探の感知範囲から消えて大分たつ。)
一呼吸入れさせて貰ったものの時雨の動きに自分の老いた体は再び遅れ始めている。
古姫(………、どうやらここまでですか。)
古姫(いえ、よく持ったといえますか。)
反応速度の遅れから時雨の放った魚雷が駆逐古姫に命中した。
古姫「時雨。貴方の勝ちよ。」
時雨「君はまだ動ける。」
古姫「流石に老体にこれ以上は無理よ。」
古姫「そして、時雨、ごめんなさいね。
この体。貴方達の研究材料にくれてやる訳にはいかないわ。」
時雨程の人物がそれをするとは思わないが。
古姫「代わりにこれを討ち取った証拠にしなさい。」
シュルリと髪を解き纏めていた、りぼんを時雨に投げる。
時雨「とっとっと。」
時雨が手を出して拾おうと目を一瞬だけ離した隙だった。
623: 2018/12/29(土) 00:40:38.12 ID:KSP3WUqy0
ズドン!
時雨「!」
駆逐古姫は自分の主砲を自分に向け発砲。
そして、自沈した。
時雨「なんて覚悟だ。」
自らの腹部を吹き飛ばした後、
艤装に残っていた砲弾を砲身内でわざとに爆発。
誘爆がおきて駆逐古姫が沈み消えるまではあっと言う間だった。
古姫(これで、これでいい……。)
古姫(戦艦水姫様に足りなかったもの。敗北の経験。)
古姫(それが、やっと、やっと足りた……。)
古姫(電探の範囲から消えて大分たつ。
無事逃げおおせたでしょう。)
古姫(この敗北の経験は戦艦水鬼様を真の名将にしてくれるでしょう。)
古姫(皆さん、やりおおせました。)
古姫(先に逝った戦艦棲姫や空母棲姫。空母棲鬼様にこれで顔向け出来る。)
古姫(笑って出迎えてくれるでしょうね…。)
海底へ向け沈み行く体、薄れ行く意識の中で駆逐古姫は考える。
その表情は笑顔。
古姫(後は……、今しばらく、今しばらくの時間を。)
目の前で駆逐古姫が沈んでいくのを見届け
時雨はようやく自身の電探を起動させた。
時雨は余裕をある風を装っていたが
電探を切りそれで生じた処理能力の余分を艤装の他の動作処理に回していたのだ。
いや、回さざるを得なかった。
実際はそこまでしなければならないほどに駆逐古姫は手強かった。
そして、電探の範囲内には敵の部隊と言えるものが残っていない事に勝利を確信。
そしてまた敵の大将はまんまと逃げおおせた事を把握した。
時雨「!」
駆逐古姫は自分の主砲を自分に向け発砲。
そして、自沈した。
時雨「なんて覚悟だ。」
自らの腹部を吹き飛ばした後、
艤装に残っていた砲弾を砲身内でわざとに爆発。
誘爆がおきて駆逐古姫が沈み消えるまではあっと言う間だった。
古姫(これで、これでいい……。)
古姫(戦艦水姫様に足りなかったもの。敗北の経験。)
古姫(それが、やっと、やっと足りた……。)
古姫(電探の範囲から消えて大分たつ。
無事逃げおおせたでしょう。)
古姫(この敗北の経験は戦艦水鬼様を真の名将にしてくれるでしょう。)
古姫(皆さん、やりおおせました。)
古姫(先に逝った戦艦棲姫や空母棲姫。空母棲鬼様にこれで顔向け出来る。)
古姫(笑って出迎えてくれるでしょうね…。)
海底へ向け沈み行く体、薄れ行く意識の中で駆逐古姫は考える。
その表情は笑顔。
古姫(後は……、今しばらく、今しばらくの時間を。)
目の前で駆逐古姫が沈んでいくのを見届け
時雨はようやく自身の電探を起動させた。
時雨は余裕をある風を装っていたが
電探を切りそれで生じた処理能力の余分を艤装の他の動作処理に回していたのだ。
いや、回さざるを得なかった。
実際はそこまでしなければならないほどに駆逐古姫は手強かった。
そして、電探の範囲内には敵の部隊と言えるものが残っていない事に勝利を確信。
そしてまた敵の大将はまんまと逃げおおせた事を把握した。
624: 2018/12/29(土) 00:41:56.83 ID:KSP3WUqy0
瑞鶴「とまれ勝利は勝利よ。」(無線)
測ったように。いや。
ブィィィィィン---
瑞鶴「見てたわよ。彩雲を通して。」(無線)
時雨「やれやれ。壁に耳あり空には彩雲ありか。」(無線)
瑞鶴「お疲れ。」(無線)
時雨「うん。ありがとう。」(無線)
川内「今回はお守りだったぁ ―――― 。」(無線)
瑞鶴「あんたは縁の下の力持ちやったんだから誇りなさい。」(無線)
川内「えぇ ―――――― 。」(無線)
時雨と瑞鶴の無線に活躍の場が無かった川内が割り込む。
実際には瑞鶴の護衛として充分以上の働きをしていたのだけれど。
瑞鶴「は ―――― 。あんたには私の報奨金あげるから。」(無線)
それで満足しなさいと恐らく言葉が続いたのであろうが。
川内「わ ――――― い。」(無線)
無邪気な歓声でそれはかき消された。
625: 2018/12/29(土) 00:48:43.83 ID:KSP3WUqy0
相変わらず地の文多めです
クリスマスギャグスレ建てたらRに飛ばされちゃいました
スレ建てバグ直ってないみたいですね、新スレ建てるのに専ブラどうなのさ日向状態
このお話はもうちょっとだけ続きます!今年もあと少し!
ねっ年内には終わらせるし!31日の12時までは年内だし!
E3の輸送で涼月掘りたい、所持制限無いみたいですよみなさん(尚、掘れるとは)
イベ、やる気持が出らんですねぇ、複数持ちしたくなるのが涼月くらいしかない
乙レス、感想レス、いつもありがたく拝読しています、どうぞ、お気軽にレスを残していただけるとありがたいです
では、次回で最後の更新とできる様に頑張りたいと思っています
ここまでお読み頂きありがとうございました
クリスマスギャグスレ建てたらRに飛ばされちゃいました
スレ建てバグ直ってないみたいですね、新スレ建てるのに専ブラどうなのさ日向状態
このお話はもうちょっとだけ続きます!今年もあと少し!
ねっ年内には終わらせるし!31日の12時までは年内だし!
E3の輸送で涼月掘りたい、所持制限無いみたいですよみなさん(尚、掘れるとは)
イベ、やる気持が出らんですねぇ、複数持ちしたくなるのが涼月くらいしかない
乙レス、感想レス、いつもありがたく拝読しています、どうぞ、お気軽にレスを残していただけるとありがたいです
では、次回で最後の更新とできる様に頑張りたいと思っています
ここまでお読み頂きありがとうございました
631: 2019/01/01(火) 01:05:47.60 ID:ihf9M2Jd0
年内間に合わなかったぁ!?
いや!まだ2018年12月31日25時!?(悪あがき)
最後の更新となります、お時間よろしければお付き合いください
いや!まだ2018年12月31日25時!?(悪あがき)
最後の更新となります、お時間よろしければお付き合いください
632: 2019/01/01(火) 01:08:56.44 ID:ihf9M2Jd0
深海勢力と人類側勢力の境界付近
チャプ
時刻は夕暮れを迎え日は水平線の向うへと消えようとしていた。
伊58「敵艦影、いまだ発見せず。」
伊8「目視範囲内には敵は居ないよ。」
伊13「同じくこちらも見つけられません。」
伊58「もうすぐ日が暮れるでち。」
夜は潜水艦にとって一番襲撃を掛けやすくなる時間帯。
だが、今、待ち伏せをしている場所は敵と自勢力の境目。
彼女達に指示を出した提督は敵を沈められなくてもいいと言った。
それは初めの会敵後に魚雷と燃料の補給の為に一旦戻った時の事だった。
提督「この方角に逃げてくるだろうぐらいしか分からん。」
提督「海は広いからな。」
伊58「適当でち。」
提督「柔軟性を持った対応といってくれ。」ハハ
提督「まっ、それはさておきだ。」
提督「この作戦を終了すればお前さん達は晴れて自由の身だが国内には戻せない。」
58達の過去を考えれば当然。
633: 2019/01/01(火) 01:10:45.89 ID:ihf9M2Jd0
提督「でだ、再就職先に米軍の新設潜水艦艦隊の教導の席を用意した。」
提督「収監中の伊14については既にアラスカ経由でアメリカに入ってる。」
こいつを見てくれと提督がノートPCを取り出す。
「あっ!姉貴-!」
通話アプリに姿が写るのは伊14。
伊13「イヨちゃん!?」
暫しの会話の後、伊14がアメリカに間違いなく居る事を確認。
伊58「どんな手品でち?」
提督「例のウォースパイトが頑張った作戦があるだろ?」
提督「あの後に色々米軍と仲良くしておいたんでな。」
提督「お前さん達は今回の仕事が終わったら
こっちの方向へ向かってくれ。」
提督「米軍の収容部隊が来ている。
表向きには観戦、情報収集という形だ。」
提督「相手先はこの時間には引き上げるから絶対に遅れるなよ?
遅刻は無しだ。」
提督「いいな。この船には戻るな。」
そういうと三人に小冊子を渡し始める。
提督「本物の偽物だ。
米国に着いたらグリーンカードに切り替えるから直ぐに不要になるが
とりあえずの身分証明に必要だからな。渡しておく。」
そして続いて渡すのはプラスチック製のカード。
提督「洗濯機を回して綺麗にした奴を入れてある
バンカメのキャッシュカードだ。」
提督「暗証番号はここでの個人認識番号の下4桁だ。向うに着いたら直ぐ変えとけよ。」
最後に3人へと腕時計を取り出す提督。
634: 2019/01/01(火) 01:12:46.39 ID:ihf9M2Jd0
伊8「これは…、パネライ、ですか?」
提督「流石、博識だな。」
提督「餞別だ。金に困ったら売るといい。」
一人ひとりの腕に巻く姿を見た後に一言。
提督「二度と帰ってくるな。せっかく生きて出られるんだからな。」
提督「新天地で頑張れよ。」
ポンと伊58の肩を叩き提督は司令室へと踵を帰す。
伊13「あっ、あの!」
提督「なんだ?」
伊13「ありがとうございます!」
司令室に戻りかけた体を再度三人の方に向け、
思い出したように敬礼。
そして、伊13の言葉に笑みを返し提督は艦橋へと帰っていった。
635: 2019/01/01(火) 01:13:44.99 ID:ihf9M2Jd0
伊58「最後の大立ち回り。」
伊8「なんとか成功させたいですね。」
だが、自分たちを収容する予定の艦隊との合流時間は迫っている。
伊58「………、時間でち。」
提督が示した敵の退却経路。
移動を考えればその範囲内に留まれる時間はもう無い。
伊13「敵艦隊発見!」
待ち伏せである為に電探で
自己の位置を逆探される様な電波を出すわけには行かない中。
そして、夕暮れを迎え夜の帳が下り、
目視での敵艦影が発見しにくくなるギリギリ。
伊13が敵旗艦艦隊を見つけた。
636: 2019/01/01(火) 01:15:14.10 ID:ihf9M2Jd0
伊58「敵艦確認!」
伊58「魚雷発射後全力離脱!」
伊58達が発射した魚雷は敵へ向って一気に殺到した!
ネ級「右舷30度!距離300!敵魚雷!」
魚雷の針路は図ったようにまっすぐと戦艦水鬼への衝突コース。
命中かと思われたタイミングだった!
ズドン!
タ級「どうにか、お役目果たせたようです。」
戦鬼「タ級!?」
タ級「戦艦棲姫様に胸を張って会いに行けます。」
タ級「後ろを振り返らずこのままお逃げ下さい。」
タ級「敵の艦影が見当たらない以上は潜水艦からの攻撃。」
タ級「立ち止まれば敵の思う壺です。」
戦鬼「タ級、ごめんなさい。」
その謝罪は曳航せず、置いていかざるを得ない事への物であり。
タ級「覚悟の上です。いえ、最後の奉公が出来てよかったです。」
タ級が戦艦水鬼を庇って被弾したのは伊58達にも見えていた。
637: 2019/01/01(火) 01:16:19.19 ID:ihf9M2Jd0
伊8「もう夜になるからもっと近付かないと視認出来ないよ!」
伊13「聴音襲撃だと敵艦隊の隊列が密だから聞き分けが困難です!」
伊8「どうする!?」
伊58「………。」
伊58「撤収でち。」
伊8「!?」
伊13「ここまで来てですか!?」
伊58「ゴーヤ達をアメリカへ送り出す為に
提督は危ない橋を渡っているのは間違いない。」
伊58「わざわざ腕時計を餞別に贈って来た意味を考えろ。」
伊58「時間だ。」
敵艦隊の艦種までは判別出来ないほどに既に周囲は暗闇の中。
そして、敵勢力圏は直ぐそこ。
いや、既に内側に入っていておかしくない。
提督がなぜそこまでをしたのかを考えれば。
伊58が強い口調で撤退を言うのは当然ともいえる。
638: 2019/01/01(火) 01:17:57.83 ID:ihf9M2Jd0
伊58「もう一度言う。撤退。」
伊8「……、了解。」
伊13「了解しました……。」
提督が仕掛けた最後の罠はタ級の献身的犠牲により不発に終わった。
そして、明けて翌日、残敵の掃討終了、
当該海域での戦闘終結宣言がなされこの海域での戦闘は終了した。
一ヶ月後 88鎮守府 荷揚げ用埠頭
長門「こんな所にいたのか。」
提督「色々な処理がある程度落ち着いたんでな。」
提督「さぼりだ。」
長門「そうか。それでよかったのか?」
提督「よかったのか、というのは?」
長門「例の不正を行っていた鎮守府の提督連中は処分保留だそうだが?」
提督「首をほいほい挿げ替えられるほど人間が残ってないのさ。」
提督「お前が提督になるのを受けてくれていれば話は違ったんだがな。」
先の作戦時に島風が救援を求めて立ち寄った鎮守府の提督達は
救援を断った事、他にも色々とあった不正への処分は保留されていた。
639: 2019/01/01(火) 01:19:28.89 ID:ihf9M2Jd0
提督「だいぶ前の作戦のときに首を飛ばしすぎた。」
提督「これ以上飛ばすとなり手が居ないだとさ。」
長門「私はやらんよ。」
提督「艦娘でベテランの連中を
提督へってのは前から少しずつは進められているんだがなぁ。」
提督「要件を満たせる奴がほとんどいない。」
長門「だから私はやらんよ。」
提督「分かってるよ。二度も繰り返すな。」
長門「大事な事だからな。」
提督「処分保留にして
手綱を握っておいたほうがいいだろうと考えたらしい。」
長門「大丈夫なのか?」
提督「一応あの辺りの人事異動はやったそうだ。」
提督「例の救援にいった所な?
あそこの提督は後ろに下げて不正をやらかしてた連中で
一番階級の高かったやつらから近い順に最前線。」
長門「ははぁ。氏にたくなければ頑張れよと。」
提督「あぁ、例の頑張った少佐は昇進して周辺に睨みを利かせる事が出来る位置に移動だ。」
長門「なるほどなぁ。」
640: 2019/01/01(火) 01:20:50.42 ID:ihf9M2Jd0
長門「ところで、教導の昔の部下だった娘から
今回の救援作戦が艦娘養成学校の教科書に掲載されたと聞いたのだが?」
提督「月並みだがな。人の寿命は二つあるって奴だ。」
長門「肉体の、命が尽きたときと人の記憶から忘れ去られた時の二つだったな。」
提督「そうだ。島風が生きた記憶を。生き抜いてなした事を。」
提督「島風の自己犠牲の精神を真似ろとは言わないが、その高潔さを知って欲しい。」
提督「そして、皆の記憶の中に残れば、残っている間は島風も氏んでいないだろ?」
長門「……、そうだな。島風は皆の心の中で行き続けるだろうな。」
提督「あぁ。」
そして少しの間があって長門がまた提督に話しかける。
641: 2019/01/01(火) 01:24:54.10 ID:ihf9M2Jd0
長門「グラーフやポーラが本国へ帰ると聞いたのだが。」
提督「今回俺たちは目立ち過ぎた。」
提督「グラーフに関しては
それを面白く思わない連中が手を回してうちの弱体化を狙ったんだろ。」
提督「ポーラはもともと志願だ。契約が終われば帰るだろうさ。」
長門「他にも人員が抜けるようだが?」
提督「出る杭は打たれるのが世の慣わしだろ?」
長門「打たれるどころか引っこ抜かれそうな勢いだな。」
提督「今回は目立ち過ぎた。それだけだ。」
提督「日陰者は日陰者らしくしとけという事さ。」
長門「これから厳しくなるな。」
長門「我々は守れただけだからな。」
提督「それが理解出来ているお前はさっさと艦娘やめて提督になってくれよ。」
長門「だからならぬと言っているだろうが。」
提督「あー…、そうだったな、すまん。」
長門「………。」
そして、また、しばしの沈黙。
提督「………。なぁ、長門。」
長門「なんだ?」
提督「島風は氏ななきゃいけなかったのかな?」
長門「止められたのに止めなかった事を悔いているのか?」
提督「お前は察しがいいな。」
長門「付き合いは長いからな。だが、それは、たら、ればだろう?」
提督「……、そうだな。議論するだけ意味の無い事だったな。」
そして、また間が空き提督が口を開く。
642: 2019/01/01(火) 01:27:35.47 ID:ihf9M2Jd0
提督「長門。煙草を吸ってもいいか?」
長門「……、あぁ、いいぞ。」
そして、一本取り出し。火をつける提督。
長門「……、鬼の目にも涙か?」
提督「ちげえよ。煙草の煙がな……。」
提督「煙草の煙が、目に染みただけさ……。」
人生の最後が幸せに迎えられたかどうか。
それを決められるのは本人だけだろう。
或る者は裏切られ、また或る者は金を稼ぐ為。
或る者は復讐を胸に誓い、或る者は世話になった者への忠誠を誓う。
ここは外地鎮守府管理番号88。
様々な艦娘達の人生が交差し、また離れていく場所でもある。
ここへ送られてくるのは人生が終わりの一方通行ではなく交差点である。
彼女達の活躍は仲間の心に、記憶に残る。
それだけで充分だろと彼女らは今日も出撃する。
続外地鎮守府管理番号88 完
643: 2019/01/01(火) 01:31:47.63 ID:ihf9M2Jd0
以上一年近く長々と続きました第二部完でございます
お付き合いいただき本当にありがとうございました、途中でネタやおまけなど色々脱線ありましたが…
最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました
お読みいただいている皆様の乙レス、感想レスにやる気をいただきながらの作成でした
本当にありがとうございました、依頼を出しに行き、このスレは終了とさせていただきます
スレがあまっているのでボツネタの投下等に使うかもしれませんがその際は生暖かい目で見てやっていただけると幸いです
ではでは、本当にお付き合いいただきありがとうございました!
お付き合いいただき本当にありがとうございました、途中でネタやおまけなど色々脱線ありましたが…
最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました
お読みいただいている皆様の乙レス、感想レスにやる気をいただきながらの作成でした
本当にありがとうございました、依頼を出しに行き、このスレは終了とさせていただきます
スレがあまっているのでボツネタの投下等に使うかもしれませんがその際は生暖かい目で見てやっていただけると幸いです
ではでは、本当にお付き合いいただきありがとうございました!
644: 2019/01/01(火) 02:55:20.98 ID:x60SYXEX0
おつ 完結は惜しいがお疲れ様でした
最後の一枚は不発だったがでっちが出番あって何より
最後の一枚は不発だったがでっちが出番あって何より
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります