618: 2009/03/11(水) 18:21:37 ID:as0Ax9Pr
長編です。戦闘シーンあるので苦手な人は避けてくださいね

開け放たれたサウナにある扉の一つから、湯気が白さを増しながらこの時間帯には夏の陽光を受け輝きながら、
すがすがしい緑の木立や茂みへと流れて行った。芳佳の肌には、夏の昼下がりの外気もひんやりと冷たく感じら
れた。
彼女は訓練の後に、まだ魔力を制御しきれず未だにほてっている身体を冷やすという目的でもともとはここに来
ていた。今ではわざわざ水浴びをせずとも我慢できるし、美緒にはそうやって風呂場まで耐えるべしと教育され
ていたが、それでも人工池ですることは、彼女達にとって重要で、結局毎日天候に拘わらずここへ来ていた。
人工池とその周囲は、そこにいない誰からも視線が遮られるし、そのことも芳佳は知っていたがしかし恥じらう
ような仕草をしてなかなか外へ出なかった。彼女は自分の胸と女陰をタオルで隠しながら期待と甘えの籠った、
熱い視線を前方の少女へと向けた。
彼女は少しばかり頬の赤みを増すとやや笑みを押し込めて振り返った。彼女は垂れ目気味の、やさしい顔つきの
美少女だ。
細い体格だが艶めかしく発育していて、彼女が芳佳のほうへ振り返ると色よし張りよしと詠われたO房が動揺し、
その動きから芳佳は触らずしてその感触を感じ取った。彼女の、白い肌と一緒に湿って艶艶と輝く長髪は深く紫
がかた色でさらさらとしていて、芳佳の羨望の的だ。彼女はゲルトルートという名の芳佳の上官で、暑さに喘ぐ
芳佳に人工池を紹介したのだった。
ゲルトルートは芳佳に向かって言った。

「なんだ、恥ずかしいか。私以外、誰もお前を見ていないが」
「はいわかっています。でも」
「恥ずかしいか」
「はいっ。・・・やっぱり私シャワーを浴びようかと」

そう言ってためらう芳佳に対してゲルトルートはその虹彩の色が芳佳と姉妹のように似ている眼の両方ともに、
一層優しい光を宿らせてほほ笑むと両腕を広げた。
このような仕草も26回目ともなればその意味は自明だが、芳佳はちょっとくびをかしげた。
ゲルトルートは小走りで芳佳に近づくと正面から抱きすくめて、一呼吸置いてから優しく言った。

「ほら、これで私にも見えない。ずっとこうしていてあげるから、おいで」
「はい」

芳佳は全くゲルトルートに一目惚れしたような状態になった。普段との違いが新鮮に感じられたし、彼女の鎖骨
の辺りにゲルトルートのO房が当たり、密着すればするほど当たっている範囲が広がるため芳佳はゲルトルート
のO房の絶妙な弾力を受けとめながら、彼女の両腕をゲルトルートの背中に廻し身体に巻きつけて抱きついた。
ゲルトルートの肌も芳佳の肌もきめが細かく滑らかでしっとりとしているため、互いのやわらかい身体は求めあ
うように密着した。ゲルトルートの身体からは細かく振動と動悸が伝わってきたし、芳佳もびくびくと震えて、
どきどきしていた。ついさっきまでの浅い関係が信じがたいほどだった。無意識に芳佳がゲルトルートの首に唇
を這わせると密着した彼女の身体は悦びに震え肌が熱くなった。
彼女等はそのまま少しずつ移動して、抱き合ったまま人工池に入った。大木に隠された人工池には木漏れ日が差
していてなかなか良い感じである。
そこで彼女等は郷里の話をした。ゲルトルートは球根植物の開花が知らせる春の目覚めや短い夏に実る、桃や梨
や杏をもいだりベリーを採りに行ったりする話をしたし、芳佳は扶桑式の魔法の獲得のために雑木林や川や海で
生命に触れさせられたのでイシガメが熟柿を食べていたりタコが上陸して大根を食べる話をした。田舎育ちまる
出しの話題だがゲルトルートはよく聴いてくれた。彼女は規則以外に関しては特によく芳佳を尊重してくれた
日を追うごとに彼女等の親密さは増して、三日目には、ゲルトルートが持ってきたチョコレートが苦いと言った
芳佳に、ゲルトルートは彼女の妹にそうしてやったように口移ししてやった。とはいえ、この行動の真意が判る
のは彼女の妹だけだったので、芳佳は単純にキスをする仲になったのだと解釈して、胸をときめかせながら応じ
た。チョコレートの風味が消えてもなお彼女等は唇を重ね舌を絡めあわせて限界まで、互いに吸い合い続けた。
芳佳はその時に自分の女陰から溢れる体液に気付いた。心配そうに何事かと問う芳佳の、愛液に濡れた細い指を、
ゲルトルートはなめて、そして恥じらいながらゲルトルートの女陰も濡れていることを触れさせて知らせ、芳佳
を安心させた。

619: 2009/03/11(水) 18:22:53 ID:as0Ax9Pr
その三日後には彼女等は敷いた布の上で、顔からつま先まで唾液と愛液、汗に濡れながら互いを求めあい、慣れ
ない芳佳はしばしば脚にまで接吻の副産物をつけるので、ゲルトルートはそれを化粧して隠しながら下着を重ね
履きする制服って好いよね、などと語った
雨の日も木のお蔭で雨だれに打たれることはなかったが気温は低いので彼女等は抱き合って語り合うだけだった。
時間帯の関係か、エイラとサーニャと鉢合わせすることもなく、そこはゲルトルートと芳佳だけの世界だった、
のだが。

「トゥルーデ、芳佳、来ちゃった。えへへ」

今のシフトは今日を以て終了で、だからこんなに長い間人工池での時間を過ごせることは少なくなるのだが、自
重することを敢えて忘れたエーリカが現れたのだった。

「エーリカおねえちゃん、私たち明日からは―」
「いいじゃない、いいじゃないみんなの前でもトゥルーデと仲良くすれば」
「そうですけど」

芳佳のエーリカとの関係もまた大きく変わった。どうやって知ったのかは判らないが芳佳がゲルトルートのこと
を愛称より響きが良く感じられたのでゲルトルートお姉ちゃんと呼んでいるのを知った彼女は、だったら私を、
エーリカお姉ちゃんと呼ばなければ本物の妹にはならないと言い、ゲルトルートもほぼ同意したのでそうするこ
とになった。
三姉妹のうち、赤ん坊の三女を長女に抱かせてもらいたがる次女のようにふるまう彼女を、芳佳は好いていたが、
キスしたり胸に触ったりするタイミングが独特なので苦労もした。部屋に何もないからと言ってゲルトルートの
部屋と、芳佳のそれを間違え、芳佳の寝間着を無理やり脱がすほど私生活はテキトーで、本人はその時寝間着を
脱がせるプレイのための道具と勘違いしたらしい。

「なんだフラウ、私たちは午後の演習のための打ち合わせをするだけだが」

ゲルトルートは、じゃれ合っているとよくそうするのにエーリカがじろじろ見ていることを意識すると芳佳と甘
い言葉を交わす気には、照れくさくてなれないようだった。
エーリカがじゃあ“鉤爪”を全員集めてくる、と言うとゲルトルートは、替わりに全員を彼女の部屋に集めるよ
うに言った。
ゲルトルートといちゃつけなかったのは残念だが、芳佳にとって午後の演習の意味は大きかったので、彼女は闘
志を燃やしながらゲルトルートと一緒に人工池を後にした。
その90分後―

「鉤爪、鉤爪此方鷹巣。割り箸は攻撃隊主力等と直掩隊の二群に分散すれども進路を変更せず。特に修正の必要
を認めず。前方を進撃せる一群はハシゴ20へ降下す。制空隊にあらず、攻撃隊主力の公算大なり。後方からの
奇襲に注意せよ。目視までの時間・・・、」

鷹巣―今回の演習のために用意された、巡洋艦のCICからの通信が途絶えた瞬間、それを予期していたのかの
ように芳佳のインカムからもゲルトルートの威勢の良い大声が流れ込んだ。

「鈎爪全機、通信状況知らせよ」
「鈎爪2感度よーし」
「鈎爪3感度良好です」
[鈎爪4か、感度、良好・・・」
「把握した。いいか、さっきの通信から判るように我々の使用周波数帯はとうとう断定されたに違いない。油断
するなよ、この近距離ならば、割りば、いやミーナにも我々の声が聴こえている筈だ。こうして今交信出来てい
るのには裏がある。各自万全の体制を整えよ。第一小隊が攻撃隊主力を叩く。第二小隊はハシゴ80を進撃、敵
直掩隊の攻撃を阻止せよ」

鈎爪という符丁を与えられた飛行隊は、高度を上げつつ、四条の、実際には八条の白い雲を発生させながら二群
に分かれた。

621: 2009/03/11(水) 18:24:21 ID:as0Ax9Pr
その四人の魔法少女が抱えているのは模擬銃だった。ネウロイの空襲の翌日は全隊員が非番になるため、全員参
加の501空発足以来最大の演習が行なわれることになったのだ。想定では四人は輸送船団の護衛を任されており、
電探からの情報を基に、サーニャによる妨害を封じ船団から100km以上離れた空域で攻撃隊役を務める七人と
吹流しを曳いている三機の彩雲を捕捉、特に高速型役の吹流しに撃墜と判定される数の命中弾を与える任務が与
えられていた。
これまでにない厳しい条件での演習だが、とりあえず最初の試練である電波妨害は、使用波長帯を複数にし、使
用していない波長にも指令を出し、大量に偽電を放ちこれを直前まで無力化出来ていた。CICからは、相手の
位置情報が刻一刻と伝えられてきた。どうやら、苦労の甲斐があったようだ。
演習の目的は、技量の向上のほかにも、あまり実戦を知らない隊員に実戦の様子を知らしめる目的があった。
501空の隊員の中には、好みだが、全く実戦に適さない銃砲を選択するものが少なくなく、だからといって簡単
には変更させられなかった。
例えばリーネの使っているライフルは重く連射できないうえ、魔法弾を使ってやっと毎秒945mと初速も大した
ことがなく、並みの航空用中口径銃とあまり変わらないのだが、彼女はブリタニア製のこの火器に誇りを持って
いるため、大規模な空戦を経験させ、撃墜するために機銃が必要なことを実感させない限り、彼女の戦意を損な
わずに火器の変更をさせられない。彼女は不利な空戦を強いられる防衛側として参加している。つまり、四人の
うち一人は彼女である。
列機として参加する彼女の長機はエーリカだ。彼女等は第二小隊と称された。
第一小隊のメンバーはゲルトルートと芳佳である。この編成は実験的な意味合いが大きかった。ゲルトルートの
怪力は、割と使い勝手よく、筋力のみならず、活動時間の延長に見られるように、様々な用途に使われるためも
う19歳になる美緒とでは過剰気味の魔力を抑えきれない芳佳と相性が良いのではないかといわれ、実際に他の
隊員が休養を余儀なくされる時も彼女等は訓練を続けられた。
26日間に及ぶ彼女等の研鑽努力の結果は、早くも現れていた。第一小隊と第二小隊とでは、ベテランの飛び方に
変わりはなく、基本的には首だけを動かし予め未来の氏角を遥か遠くから見張る洗練された飛び方だ。それに対
して、新人の飛び方には大きな違いがあった。視力というより自信の差である。
芳佳が自信を持っているのは単に飛行時間が長くなったからだけではなく、彼女なりの索敵法を発見していたか
らだ。芳佳は頑固で美緒は彼女を訓練する際に苦労していたが、反面実戦には強くどちらかというと創意工夫に
よって急成長するタイプでプライドも強い。だから危険運転への対処は美緒よりずっと厳しく、かなり怖い人と
いうその印象は消えなかったし、地上では交流も少なかったが、彼女の思い付きを真面目に受け止め訓練に反映
してくれるし、なぜかはよく判らないが自分に一目置いてくれるようになったゲルトルートが好きで、信頼して
いた。
きっと今回の演習でもよい結果が出ることだろう。

標的はエーリカが最初に彼我の距離13kmで発見した。報告どおり、低空を攻撃隊主力役が進撃し、直衛隊が数
名いるが、後上方には絶対に直掩隊が占位しているはずだ。編成を変えなかったのはネウロイに人の言葉が理解
出来ない筈で、より実戦に近い状態にするためだろう。
雲量が多いので様子は見難いが、だからといって攻撃隊主力役ばかりを見続けるわけにもいかない。ミーナと、
サーニャ、そして美緒相手に奇襲はあり得ないからだ。相手はよほど強気と見えて、この期に及んで電波妨害を
してこない。
予定通り第一小隊は攻撃隊主力役の後上方に占位した。その後上方に占位しているのは第二小隊である。状況か
らして、相手はこちらが攻撃を開始した直後に発生しがちな隙を衝く心算らしい。予想は正しかった。サーニャ
は苦労して、複数設定された芳佳達の使用周波数帯を全て割り出していた。
一応芳佳達も互いを符丁で呼び合った。


623: 2009/03/11(水) 18:24:44 ID:as0Ax9Pr
「第一小隊、突撃隊形つくれ」
「鈎爪3準備よろし」
「第一小隊突撃開始」

芳佳はゲルトルートに続いて降下を開始した。彼女とゲルトルートが使用する戦闘脚は交渉出力がまるで違うが、
それが問題にならないのは、美緒が501空のほかの隊員と行動を共に出来ている事から判るように、実際の出力
は気合次第で増強出来るからだ。
攻撃隊主力役との間には大きな雲が浮かんでいて、そこに敵が潜んでいるのは確実だと芳佳たちは考えた。不思
議と恐怖感はなく、寧ろどう反撃しようかということばかり頭に浮かぶ。それゆえペリ-ヌに嫌われたり美緒に
苦笑されたりするが芳佳は新人でも、心構えはベテランのそれとよく似ていて、彼女の優れている所の一つとさ
れている。

「イェーガー隊、5時の方向より降下しつつあり。第二小隊、これを邀撃―」

インカムからサーニャの歌声が大音量で流れ込んできたのはやはり雲の塊の傍を過ぎたときだった。
ゲルトルートとの取り決めに従い、その瞬間に芳佳は魔力を全開にして降下した。
その瞬間完璧な位置からミーナとエイラが第一小隊に攻撃を仕掛けた。彼女らはこの増速を予期せず、思いがけ
ず芳佳達と向かい合うようにして降下してきたが、迷わずインメルマン旋回の派生の機動で180度方向転換し
て、ミーナは芳佳をもはや新人でないと認めたのか、全く容赦することなく彼女の後ろをとりにきた。既に速度
を稼いでいた芳佳はとっさに宙返りの旋回でこれに応じた。事前の打ち合わせである程度はゲルトルートと別行
動をとってよいことになっていた。
Bf109は宙返りに関しては不得手だが垂直面内での格闘は得意なのでミーナは支援を任されたエイラが芳佳を助
けるために仕掛けてきたゲルトルートに応じるのを確認して尚、芳佳を追撃した。
芳佳は一回の旋回でけりをつける心算だった。彼女は、利き脚の関係で左斜め宙返りの頂点で魔動機の出力、特
に左の魔動機のそれを急激に落とし、更に大きく体をよじりながら横滑り(軸線に平行でない方向へ飛ぶこと。
実際の進行方向を敵に悟られ難くなる効果があり、抗力が増し速度が低下する)に入った。
速度を頃すこれらの動作は、一見自殺行為のようだが、降下しながらの旋回を小さい旋回半径で行なうには必要
で、そして初心者には技量と度胸の限界ゆえ容易に出来ない機動である。
芳佳は体が垂直に横たわっているような状態で、通常の宙返りより遥かに小さい半径でミーナに肉薄した。振り
向いたミーナは吃驚していて、芳佳にはその顔が少し蒼ざめて見えた。
芳佳が行なったのは若干不恰好で強引だが、捻り込みの一種ともいえる機動だった。少なくともミーナの対応時
間は削減された。
上昇に転じた芳佳は勝利を確かにすべく、自分の安全を確保するためミーナの後方を射撃しながら自慢の強い魔
力を推力に変えて左後方から急接近し、直前に前方へ射撃してミーナを牽制した。
しかし芳佳は彼女を捕捉し損ねた。ミーナは間一髪で模擬弾をかわしつつ軸線を芳佳のそれに一致させたのだ。
直後芳佳は尻ではたかれたような衝撃に揺さぶられた。芳佳がよけ続けていたミーナの魔力によって発生した後
流が彼女に直撃し、照準を困難にしたのだった。
しかし、芳佳の反撃は大きな意味を持っていた。彼女が直前に前方へ射撃したためミーナは、衝突しないために
も降下し、空戦から離脱せざるを得なかったからだ。
対照的に芳佳は高度を稼ぎ、ゆるく旋回しつつ、ゲルトルートと激しく格闘しているエイラの腹側、つまり芳佳
にとってはおっOい側に、高度を犠牲にした極めて半径の小さい旋回で回り込んだ。
既にミーナとサーニャから芳佳の接近を知らされていたエイラは即座に、ぐらつくような不安定で難解な横転を
わざとして逃げた。

624: 2009/03/11(水) 18:25:11 ID:as0Ax9Pr
エイラとミーナがゲルトルート達を追撃しなかったのには切実な訳があった。
ルッキーニが横着をやってリーネの上側を通過したために撃墜判定を受け、そうとは知らないシャーリーは、本
来ならルッキーニが牽制している筈のエーリカの追撃を受け、高度を保ったリーネも追撃に加わったためまさに
轍鮒の急といった状況に追い込まれていて、ミーナたちの支援を必要としていたからだ。結果的にシャーリーは
被撃墜と判定されたが、第二小隊はミーナとエイラに高位から襲撃されることになる。

ゲルトルートと芳佳は、危なげなくすれ違うと、無線による補助なしに編隊を組んで攻撃隊主力役へと向かった。
直衛隊が反応してこちらへ向かってくる。編成はサーニャとペリーヌだった。美緒はまだ動かずに空戦官制を行
なっていた。
サーニャは、さすがに苦しいのか妨害が一瞬中断するのがアンテナの輝き具合から、他の者にも判った。
芳佳とゲルトルートは期待してインカムを再起動させたが、エイラがサーニャを励ます声が大音量で彼女等の耳
に流れ込んできた。咄嗟に電源を切る前に思わず赤面するようなあまーい言葉ばかりだった。
これならサーニャがどんなに苦しくても念じ続けられるらしくて、加えて戦闘時の相手の集中力を奪う効果は、
サーニャが自分の歌声を念ずるときよりも大きかった。
無線で交信する手段は、サーニャではなく、実際に妨害機役として参加している美緒に勝利しなければ得られな
さそうだった。
ゲルトルートと芳佳は暫く寄り添うようにして降下したが突然編隊を崩壊させ、ゲルトルートはなんと背面降下
でサーニャとペリーヌに襲い掛かり、その一瞬前には芳佳が引き起こしつつ斜め方向へのすばやい旋回で高度を
意図的に喪失し、下方から内側に回りこみつつ上昇旋回でサーニャとペリーヌに接近し、彼女等をゲルトルート
と協力して挟撃した。性格の違いを利用した戦法として、一度オラーシャ空軍が運用に失敗したのと同じ方向性
の戦法ではあるが、ゲルトルートと芳佳で、一緒に創りだした戦法だ。
この戦法が効いたのかどうかはよく判らなかった。何しろ、小回りの聞く相手を背面降下で狙撃するということ
自体通常ありえず、対応に失敗したサーニャに撃墜判定が下りたからだった。極めて狙い難い姿勢からの射撃だ
が、模擬弾は全て、サーニャの体に直接当たることなく、戦闘脚に命中していた。
今度は降下の反動を利用してゲルトルートがペリーヌに下から接近し、芳佳が、先程の上昇旋回で稼いだ高度を
代償に小さな旋回半径で旋回してペリーヌの動きを引き続き牽制する。
このままではペリーヌが確実にやられるため美緒が、芳佳とゲルトルートが攻撃隊主力役に近付きつつあること
もあって救援に現れた。
サーニャはこの瞬感に妨害を打ち切った。通常ネウロイの妨害機は格闘の最中には妨害を止めていたからだ。
ゲルトルートと芳佳、エーリカとリーネはインカムの電源を入れなおすと再度無線の補助を得られるようになっ
た。しかし、演習はそこまでだった。

「全員交戦止め。此方巡洋艦オークランドCIC、全員交戦止め。TF37より入電、ネウロイ方位0-2-0、距離
不明、高度7500よりTF37へ向かう、数、20以上。TF37との通信回復を実行中」

午前の訓練のため披露していると判定された芳佳、美緒、リーネとゲルトルートは、基地近辺の船団の護衛など
を行う予備兵力として基地に残され、他の者は、とりあえずTF37の上空でTF37の基幹をなす空母エ
の母艦航空歩兵隊とともに敵を迎え撃つことになった。

626: 2009/03/11(水) 18:26:43 ID:as0Ax9Pr
基地で待機するのは、今日の場合かなりしんどかった。味方との交信は途絶し、味方の劣勢を思わせるネウロイ
の目撃情報に従って、続報を待たなければならなかった。敵はかなり手強そうだった。
重苦しい雰囲気の格納庫の隊内電話が鳴ったのは待機を初めて20分も経たない頃だった。

「ネウロイ方位0-5-5距離110海里高度2000より基地南方の船団へ向かう。数、7」
「と、いうことだ。出撃するぞ、全員離陸せよ」

かくして501空からの邀撃第二波(総指揮官は坂本美緒少佐)は出撃した。第一小隊は美緒と芳佳が隊員で、
第二小隊はゲルトルートとリーネが隊員である。
ゲルトルートは身長よりはるかに大きい20㎜機銃、Hispano MkVを二丁抱えていた。発射速度はMG42の半
分強だが弾丸の重量は12倍で、炸薬の割合も多かった。初速も毎秒840m/秒と強力だ。ちなみにHを発音し
ないためヒスパノスイザよりイスパノイザのほうが呼び方として適切である。
反動を制御できるリーネにも使えたが、前述の理由でまだ装備を変更していない。
芳佳は13㎜機銃に、赤城から送られた炸裂弾を装填していた。本来なら12.7×99に炸裂弾は用意されて
いないが、扶桑で特別に製造してもらっていた。
12.7×99は本来使用するM2が過熱し易すぎるために炸裂弾を用意されていないが、エリコン系の機銃な
ら普通過熱はしない。炸裂弾以外ではコアを直撃しないとネウロイを撃破し得ないので若年の魔法少女には使い
難く、また破壊力に劣るためしばしば敵による攻撃を阻止し得なかった。おそらくTF37もそのせいで劣勢なの
だ。

「こちら501空」
「坂本だ、感度良好送れ」
「敵7のうち主力は5、三週間前に出現せる回転翼型なり。残り2は護衛と思しき新型なり」

シュヴァルム全体に緊張が走った。敵の主力はゲルトルートを撃墜した物と同一の型らしい。
坂本少佐は第一小隊の目標を敵直掩隊、第二小隊の目標を攻撃隊主力とするよう命じた。
敵に対しては、奇襲は為し得なかった。直掩隊はためらうことなく高度を得ようとはせず、明らかに格闘戦を挑
んできた。
その動きと、主力が割合脆弱なことから美緒には敵直掩隊が相当手強いことを知った。
空戦と言えば一撃離脱を基本とした編隊空戦が理想と言われるが、ときとしてそうではない。脆弱な機体を直掩
する時がまさにその場合で、劣位だからと言って離脱しては、軽快で弱武装の敵に護衛対象を撃滅されてしまう。
P51が戦えたのは敵に重武装と鈍重化を強いることが出来たからだ。
零戦が、設計途中の段階で護衛戦闘機としての役割を与えられたのも、陸攻隊の損害が甚だしく、また中攻しか
調達できない自軍にも航空艦隊を用意するべく20㎜機銃を満足に敵双発重戦に指向し得る、島嶼や艦上で運用
可能な単発機が求められたからで、空中艦隊構想が消えた現代からすると一見奇妙だが、その格闘能力は決して
副次的なものだけではあり得ない。
今回のネウロイも格闘性能のよい型なのだろう、かなり小さい半径で旋回してきた。

「宮藤、危なくなったら遠慮なく反転してシールドを張れ。命令次第で第二小隊に合流し攻撃隊主力を叩け」

返事をしながら芳佳は厄介なことになったと思った。場合によっては芳佳が隙を作り出さず、名人の美緒が敵直
掩隊を二機とも引き受けるほうが良い可能性すらある。芳佳は、禁じ手に出ることにした。一度限りなら出来そ
うな気がした。もちろん抗命まがいの行動で殴られるだけで済めばよいほうだ。
第二小隊はわざと攻撃隊主力からそれた位置に向かって降下し、結果として正しく攻撃隊主力を目指した第一小
隊は敵直掩隊を釣り上げることに成功した。敵直掩隊は第一小隊の美緒と芳佳の眼先に、エネルギーの喪失を防
ぐため直進しながら光線を放ってきた。通常ならこれを宙返りでかわすが、芳佳は、気づかれぬようネウロイと
衝突する程度に速度を落とした。
敵は直前まで気付けなかった。芳佳は衝突寸前に一連射で敵を仕留め、崩壊しきらない敵の残骸がシールドに当
たって砕けた。次の瞬間美緒の怒りに満ちた叫びが無線から聞こえた。


627: 2009/03/11(水) 18:27:10 ID:as0Ax9Pr
「宮藤っ、後ろをとられるぞ」

芳佳は反転して辛うじてシールドで光線を跳ね返した。
任務に忠実な敵は芳佳を無視して美緒の妨害へ向かった。

「第二小隊より全員へ。ネウロイの型によってコアの位置は決まっているようだ」

ゲルトルートが編隊最後尾の敵を一連射で落伍させ、リーネが検査射撃を行ったらしい。

「ようし、第二小隊よくやった。宮藤は第二小隊に合流せよ。敵が私に掛かりきりになってからだ」
「宮藤、ビショップと組んで私を援護せよ。合流のタイミングは私が指示する。私は指揮官機から順に前方から
仕留める。互いに回り込む敵を発見次第報告、適切に対処せよ」
「突撃準備せよ、宮藤っ」
「合流せよ」

芳佳とリーネは、前方から突撃するゲルトルートの後ろへ回り込もうとする敵のカモ番機を標的とした。
芳佳がビーム座を炸裂弾で破壊し、射撃技量のより優れたリーネがコアを狙うがしかし数回の突撃を要し、その
間にゲルトルートは3機を単独撃墜して敵攻撃隊主力を全滅させた。20㎜機銃の為せる業だ。
その様子を見た敵直掩隊の残存は離脱していった。空戦は終わり、ネウロイにさらに多くの標的を撃破する能力
も意思もなくなったことからそれは明白だった。

「芳佳ちゃん、がんばってね」
「え、ああ、?られてくるよ」
「大丈夫かな」
「たぶん大丈夫じゃないね、リーネちゃん」

芳佳に近づいてきた美緒とゲルトルートは、ちらりと、帰還する7人の501空の魔法少女の姿を視界に収めたこ
ともあって、その場で芳佳に対し、美緒が左頬、ゲルトルートが右頬に激しく一回、平手打ちした。流石の芳佳
も涙を溢れさせているところへ、美緒はお前のような莫迦は生まれてこのかた初めて見たと言い、ゲルトルート
は、策敵不十分と分不相応な対応について魔力が持つ限り空中で説教をした。
?られることは判っていたのでゲルトルートの無表情が一番かなしかった。

ゲルトルートは、芳佳が自室謹慎処分にならなかったので、皆の前では甘い、などと言っていたが実際には喜ん
でいた。

「お姉ちゃんに心配かけるような子はつぶしちゃうぞ、むぎゅう」

芳佳に覆いかぶさるようにして抱きつくゲルトルートを、彼女は笑いながら、その痛む頬をゲルトルートの身体
にそっと押しつけた。

「大丈夫、おねえちゃんはやわらかいから」
「芳佳だってやわらかいぞ」
「でも大丈夫」
「なんでそう思うんだ」
「だっておねえちゃん、やさしいから」

ゲルトルートは感激して、ミーナとエーリカが見ているのに芳佳にキスしはじめた。
エーリカは笑っていたが、ミーナは今日の日記に何と書こうか、考え込んでしまった。その結論はあまりに意外
な出来事が連続したため全く出なかった。

632: 2009/03/11(水) 18:33:11 ID:as0Ax9Pr
補足です。方位を示す方法ですが、たとえば0-0-0は北、0-9-0は西、1-8-0は南、2-7-0は東です

米国海軍の呼称に従いました

引用: ストライクウィッチーズpart23