1: 2008/06/08(日) 17:14:05.91 ID:fOq4joqT0
金糸雀「スレタイは釣りかしら~♪」

3: 2008/06/08(日) 17:15:38.00 ID:fOq4joqT0
- x - x - x -

果てしなく巨大な階層都市の中、一人の男が歩いている。
ほかに人の気配はない。
孤独な探索者は成人男性の容姿を持っており、黒いライダースーツに身を包んでいる。

彼はやがて前方に見える構造体より、光と音が漏れているのを発見した。

霧亥(……造換塔が稼動している)

またいつものように、セーフガードとの戦闘になるのだろうか。
彼は造換塔の稼働状況をスキャンし、あたりの気配をさぐる。

霧亥(セーフガードではない…質量的に小さな構造物が一つダウンロードされている…)

5: 2008/06/08(日) 17:16:24.86 ID:fOq4joqT0

とたん、彼に通信が入った。

『ザザ…ザザーッ…"wind" or "not wind"…ザザー』

霧亥(これは…統治局から通信がきているのか)

イレギュラー。コンタクトを試みる。

霧亥『"Wind"』


ドガッシャーーン!!

造換塔のクリスタル体でできた部分が破れ、イオンの激流と臭気があたりをつつむ。

霧亥「……」

電子の煙が晴れ、目の前には一つの古代風の鞄が落ちていた。
鞄がゆっくりと開いてゆく。霧亥は警戒を緩めない。銃を構え、じっと待つ。
出てきたのは、一人の少女の、人形だった。

翠星石「真紅!大変なことになったですぅ!蒼星石が!」

6: 2008/06/08(日) 17:17:08.43 ID:fOq4joqT0

翠星石「って…真紅はどこですか?あれ?ここは…」

霧亥「…」

翠星石「な…なんだか凄いところに来てしまったですぅ…」

Doll Jade Stern...

...No match for results
...No match for results
...No match for results

翠星石「初めましてですぅ」

霧亥「統治局ではないな……所属を言え」

翠星石「カチン!!まったく初対面だというのに礼儀を知らない奴ですぅ!
     お前みたいなネクラ人間、きっとモテないにきまっているですぅ!!」

7: 2008/06/08(日) 17:17:34.24 ID:fOq4joqT0

霧亥「手を挙げろ」

翠星石「そんな物騒なものをか弱い乙女に向けるなですぅ!!
     こうしてやるですぅ!……あれ?如雨露がない…スイドリーム!!!!……ひいっ、来ないですぅ!」

チュイーン ドカァァァァーン!!
霧亥の銃から熱線が放たれ、それは翠星石の巻き毛の先を掠め、背後の都市構造体を粉々にした。

霧亥「三度目は警告しない。手を挙げろ、名前と所属を言え」

翠星石「……ロ、ローゼンメイデン、第3ドール、翠星石…ですぅ」

15: 2008/06/08(日) 17:21:59.96 ID:fOq4joqT0
- x - x - x -

18時間後

翠星石「いい加減歩きつかれたですぅ……紅茶が飲みたいですぅ」

霧亥「……」

翠星石「あんた一体どこまで歩くつもりですか?タフすぎですぅ……」

霧亥「……」

翠星石「まったくひどいムクチ人間ですぅ!レディにはもっと愛想よくするですぅ!」

霧亥「……」

翠星石「紅茶が飲みたいですぅ!もう一歩も歩けないですぅ!!」

霧亥「君が造換塔を破壊したため物資の生成と補給が不可能となった。
    次の補給が可能と予測される場所まで、俺の脚でもあと125時間はかかる」

翠星石「わ…私のせいですか…それはすまんですぅ…」

霧亥「……」

17: 2008/06/08(日) 17:23:22.12 ID:fOq4joqT0

翠星石「おなかが減ったですぅ…眠いですぅ…」

霧亥「……これを食べて、少し休め」

翠星石「食べ物ですぅ?あ…ありがとうですぅムクチ人間!
     見直したですぅ、きっとあんたモテるですぅ!」

モグ ボソボソ

翠星石「ううっ、…これ何ですぅ、おいしくないですぅ(泣)」

霧亥「タンパク質、でん粉、脂肪分、ビタミン・ミネラルの複合体だ
    有機生命体にも摂取吸収しやすいように純度を高めてある」

翠星石「!!味がしないですぅ、ムクチ人間、あなたいっつもこんなもの食べているですかぁ?」

霧亥「…」

20: 2008/06/08(日) 17:24:12.94 ID:fOq4joqT0

翠星石「いつか翠星石のスコーンを食わせてやりたいですぅ、きっと美味しくて目玉が飛び出るですぅ」

霧亥「……」


霧亥「……スコーンって何だ?」

翠星石「スコーンも知らないですか、まったくとんだお馬鹿さんですぅ!」


霧亥「……俺も少し休む」 グウ

21: 2008/06/08(日) 17:24:59.49 ID:fOq4joqT0
- x - x - x -

8時間後

翠星石「どこまでいっても廃墟ばっかりですぅ…
     ムクチ人間なんでこんなところ歩いているですぅ?」

霧亥「……俺は感染前のネット端末遺伝子を探している」

翠星石「ネット粉末…?きっとベーキングパウダーの親戚かなんかですぅ」

霧亥「ベーキングパウダー?」

翠星石「知らないですか?翠星石が教えてやるですぅ、スコーンを焼くのに使う粉ですぅ」

霧亥「……(どうやら齟齬が発生しているようだ)」

22: 2008/06/08(日) 17:25:49.53 ID:fOq4joqT0

翠星石「そのネットなんとかが見つかったら、もしかして翠星石も元の世界に帰れるですか?」

霧亥「確立は低いが、世界秩序の混沌は解消されれば、君がこの世界に来た原因も解明されるはずだ」

翠星石「うう、なんだかあまり希望のない話ですぅ……焼け石に水ってところですぅ」

霧亥(……統治局との連絡がとれない…)


霧亥(そして…シボとはぐれてから何年もたつ…)

翠星石「どうしたですぅ?ムクチ人間、寂しそうな顔してるですぅ」

霧亥「……何でもない」

翠星石「…心配してやってるんですぅ、すこしは愛想よくしやがれですぅ…」

23: 2008/06/08(日) 17:26:49.14 ID:fOq4joqT0

翠星石「あっ、花丸ハンバーグですぅ!」

霧亥「触るな…」

翠星石「えっ…幻?消えてしまったですぅ!」

霧亥「…セーフガードに探知された…駆除系がダウンロードされている」

キュウウンキュウンキュウン

翠星石「な、変な白いやつらがいっぱいでてきたですぅ」

霧亥「下がっていろ、喋るな、そこを動くな」

駆除系「…グググ」

翠星石「ビクン……ひいいぃ!!!」

霧亥「動くなと言ったはずだ……障害を排除する」

24: 2008/06/08(日) 17:27:42.84 ID:fOq4joqT0
- x - x - x -

--戦闘後。

翠星石「ムクチ人間っ!いっぱいケガしてるですぅ……
     あんたが強いのは認めるですぅ、でも無理すんじゃねぇですぅ!!」

霧亥「…問題ない、あと数分で修復が完了する」

翠星石「私のせいですぅ…うう」

霧亥「……食事をとれ、休憩が終わったら探索を再開する」

翠星石「っ!!…その食べ物スティック、最後の一本ですぅ!!」

霧亥「……食べろ」

翠星石「あんたが食べるですぅ!!!さっさと回復させるですぅ!
     もとはといえば全部私のせいなんですぅ…ううわぁあん」

霧亥「……半分でいい、食べろ」

25: 2008/06/08(日) 17:28:22.66 ID:fOq4joqT0

三時間後。

翠星石「うう……おなかが減ったですぅ…眠いですぅ…みじめですぅ
     スィドリームさえいれば、如雨露さえあれば、翠星石も足手まといにはならないですぅ……」

翠星石「……元の世界に帰りたいですぅ…うう、蒼星石…真紅…(グスングスン)」


霧亥「出発だ、起きろ」

翠星石「はっ!ムクチ人間、聞いてたですぅ?」

霧亥「……何のことだ」

翠星石「……これ、返すですぅ」

霧亥「食べなかったのか」

26: 2008/06/08(日) 17:28:43.66 ID:fOq4joqT0

翠星石「……」 スゥー、ハァ


翠星石「……す、翠星石はもう一歩も歩けねぇですぅ!
     さっさと翠星石を置いて、先に行きやがれですぅ!!」


霧亥「……」

ヒョイ

翠星石「な、何しやがるですかぁ!!」



霧亥「……」

翠星石(……肩車……///)

29: 2008/06/08(日) 17:30:19.47 ID:fOq4joqT0
- x - x - x -

しばらくの旅ののち
階層を仕切る超構造体(mega structure)付近に出た二人。
三基の建設者が蠢き、互いの建設する構造物を破壊したり圧縮したりしている。

翠星石「変なところですぅ??でっかいのがぐるぐる回ってるですぅ…」

霧亥(行き場を失った建設者が循環運動を行っている?)

やがて不思議な事に気づく霧亥。

霧亥(違う…あの建設者のうち一基は、どうやら暴走せず、正常に稼動しているようだ。
    誰かの指示によって、他の二基がこの空間を埋め尽くすのを阻止しているのだ)

翠星石「?…何してるですぅ?」

霧亥「建設者一基にインダストリーを作るよう信号を送った」

30: 2008/06/08(日) 17:30:52.29 ID:fOq4joqT0

建設者に作らせたインダストリーで物資の補給を行う二人。

翠星石「すごいですぅ!望んだものがなんでも出てくるですぅ!」

霧亥「これは……」

翠星石「花丸ハンバーグですぅ!ムクチ人間も、たぁんと食べるですぅ!」

霧亥「……美味い」 パクパク

翠星石「良かったですぅ!のりの作ったのには劣るけど、美味しいですぅ!」


翠星石「次はスコーンを焼くですぅ!機械、まずは小麦粉を出すですぅ!」

霧亥「駄目だ、あまり長居はできない……もうすぐここは二基目の建設者に呑み込まれる」

翠星石「……それは残念ですぅ」

31: 2008/06/08(日) 17:31:33.80 ID:fOq4joqT0

??「あなたたちは誰」

不意に、二人の背後から抑揚の無い女性の声がした。

翠星石「……ひぃ、人ですぅ!」

霧亥「……シボ?」


長門「違う、私の名はシボではない。長門有希」

翠星石「……うわっ、サイバーパンク世界にセーラー服の女子高生がいるですぅ…」

32: 2008/06/08(日) 17:31:59.76 ID:fOq4joqT0

長門「返答如何によっては、ここから排除する。あなたたちは誰」

霧亥「俺は霧亥、感染前のネット端末遺伝子を探して旅をしている」

翠星石「……翠星石ですぅ」

長門「そう……建設者に制御信号を送ったのはあなた?」

霧亥「そうだ」

長門「ついてきて」

34: 2008/06/08(日) 17:32:21.85 ID:fOq4joqT0

霧亥(……人間の居住地を確認…)

翠星石「電車ですぅ!電車がいっぱい走ってるですぅ!」

第3建設者の後ろには幾本ものレールが延びていて、たくさんの電車が引っ張られている。
どうやらそれは住居になっているようだ。

長門「私とここの住人たちは、あの第3建設者に寄生して生活している」

霧亥「君があの建設者を制御しているのか」

長門「そう」

翠星石「勝手にいじって悪かったですぅ」

長門「いい」

霧亥と翠星石は、その列車型住居の一両に案内された。
車両、いや部屋の両側の壁は、大量の本で埋め尽くされていた。

長門「あがって」

35: 2008/06/08(日) 17:32:43.20 ID:fOq4joqT0

ガタンゴトン ガタンゴトン

長門「お茶」

霧亥「……」

長門「飲んで」

霧亥「……」

翠星石「あ、ありがとうですぅ」

長門「……」

霧亥「……」

ガタンゴトン ガタンゴトン

ゆっくりと走る電車の音だけがあたりに響く。

36: 2008/06/08(日) 17:33:05.92 ID:fOq4joqT0

長門「……」

霧亥「……」

長門「……」

霧亥「……」 ズズズ

長門「……」

霧亥「……」

長門「……」 ズズズ

霧亥「……」


翠星石「……いい加減どっちか喋りやがれですぅ」

37: 2008/06/08(日) 17:33:36.14 ID:fOq4joqT0

長門「……二人に話がある」

長門「あなたの武器、重力子放射線射出装置の力を借りたい」

霧亥「交換条件がある」

長門「なんでも」

霧亥「俺は感染前のネット端末遺伝子を探している」

長門「……残念ながら、この集落に当該遺伝子を有する者はいない」

霧亥「手がかり、心当たりでもいい」

長門「……どんな努力でもする、もし、こちらの事が済んだなら」

霧亥「解った」

38: 2008/06/08(日) 17:34:22.41 ID:fOq4joqT0

長門「そして、あなた」

翠星石「翠星石ですか?」

長門「あなたは異世界から来た」

翠星石「な……何でそれを知っているですぅ!」

長門「わたしもそう」

翠星石「!!」

39: 2008/06/08(日) 17:34:43.66 ID:fOq4joqT0

長門「……標準時間に換算して529年、わたしはここにいる」

翠星石「それは大変ですぅ…」

長門「帰りたい」

翠星石「…私に言われても困るですぅ……翠星石だって帰りたいですぅ…」

長門「帰る方法を模索したい。是非、あなたと一緒に」


翠星石「わ、わかったですぅ、少しくらいなら協力してやらんこともないですぅ」

41: 2008/06/08(日) 17:36:13.79 ID:fOq4joqT0

長門「……きた」

霧亥「……」

長門「セーフガードの駆除系がダウンロードされている」


長門「少し席をはずす、待っていて」

霧亥「俺も行く」



翠星石「あれは…人が襲われているですぅ!」

霧亥「……電基猟師…駆除系と戦闘しているのか」

翠星石「ムクチ人間、助けるですぅ!」

長門「もちろん助ける」

霧亥「……」


翠星石「しまったですぅ、二人とも無口ですぅ!これじゃどっちを呼んだかのわからんですぅ!」

42: 2008/06/08(日) 17:37:22.80 ID:fOq4joqT0

電基猟師たちの奮闘もあり、セーフガードの駆除系は次々と倒されていった。

翠星石「頑張れですぅ!やっちゃえですぅ!」


長門「レベル6セーフガードのダウンロードを確認」

霧亥「俺がやる」

長門「待って」

長門「ここは統治局の管轄ドメイン外、このままではあなたの装備は本来の出力を維持できない」

呪文の高速詠唱を開始する長門。

霧亥(俺たちのものとは全く異なるコード…)

長門「いくつかのセーフガード機能を解除。出力をアップさせた」

霧亥「……」

43: 2008/06/08(日) 17:38:06.13 ID:fOq4joqT0

霧亥はセーフガードレベル6と激しい戦いを繰り広げている。

翠星石「ムクチ人間!!危ないですぅ!」

霧亥「……っ!!」

白く無機質な八本の腕が霧亥を捉え、彼の右足を切断した。
倒れる霧亥になおも振り下ろされる刃を、長門がシールドを張って受け止めた。
衝撃で吹き飛ばされていく長門。

ただ、もちろん敵にできた隙を見逃す霧亥ではない。

霧亥「……」

霧亥はすかさずレベル6セーフガードの全身を射抜き、活動を停止させた。

霧亥に駆け寄る翠星石。

翠星石「ムクチ人間!大丈夫ですぅ?」

長門「……うかつ、もう一匹いる」

44: 2008/06/08(日) 17:38:51.25 ID:fOq4joqT0

翠星石「きゃあああっ!」

突然翠星石に襲い掛かる、八本の腕の悪魔。

翠星石「……?」

だがその腕は無力な翠星石に振り下ろされることなく、途中で止まった。

翠星石「ああ…あ、なんて事ですぅ…」

長門有希の体をつらぬく沢山の白い腕が、血に染まって見えていた。

翠星石「ムクチ人間2号!!」

霧亥「…………伏せろ」

翠星石「…ひいぃいっ!」

慌てて伏せた翠星石の頭上を、加粒電子砲の光の帯が通り過ぎていった。
光の帯はもう一匹のレベル6セーフガードの胴体を根こそぎ奪っていった。
統御の主を失った腕たちがバラバラと地面に落下する。

翠星石「うわぁあん…血だらけですぅ……氏んじゃったら許さんですぅ!」

46: 2008/06/08(日) 17:40:22.55 ID:fOq4joqT0

霧亥「……」 ムクリ

長門「…へいき」


翠星石「うわっ…二人ともお人形の私より人間離れしてるですぅ」

47: 2008/06/08(日) 17:40:57.00 ID:fOq4joqT0

戦闘後。



霧亥の足はもとどおりくっつき、
長門は言葉どおりへいきだった。

長門「あなたに礼をいう」

霧亥「……質問がある」

長門「なに」

霧亥「何故俺のセーフガード機能の存在を知っている」

長門「その質問に答えるためには、まずわたしのことを話さなければならない」

48: 2008/06/08(日) 17:41:55.17 ID:fOq4joqT0

長門「わたしはこの銀河を統べる、情報統合思念体によって作られた、
   ヒューマノイド・インターフェース。ある日情報フレアに巻き込まれ、
   時空間情報伝達ネットワーク上の事故によりこの世界に飛ばされてしまった」

霧亥「太陽系外の情報ネットワークの代理構成体か、理解した」

翠星石「ひえぇ!ムクチ人間2号、宇宙人だったですか!!」

長門「……その理解でかまわない」

49: 2008/06/08(日) 17:42:29.61 ID:fOq4joqT0

長門「わたしは情報収集に特化した個体。情報収集と情報操作は得意」

霧亥「まだ質問がある」

長門「なんでも答える」

霧亥「高レベルセーフガードが現われた」

長門「それは…最近このエリアに珪素生物が現われたせい」

霧亥「…珪素生物」



翠星石(ムクチ人間同士がおしゃべりしてるですぅ、翠星石は空気ですぅ)

50: 2008/06/08(日) 17:43:16.79 ID:fOq4joqT0

霧亥「質問はあと二つ。一つ、なぜここは統治局のアクセスが制限されている」

長門「ここは私の情報制御下にある空間。統治局とは協定を結んでいる。
    同時に周囲の通常空間のドメインから隔離し、セーフガードの出現を最小限に抑えている。
    あなたたちが入ってきたことはイレギュラー」

霧亥はちらっと翠星石を見たが、翠星石は話しについていけず怪訝な顔をしている。

霧亥「最後の質問だ……俺に依頼したいこととは」

長門「珪素生物の侵入によりセーフガードの強化が行われた。
   それゆえ住人たちが今後ともここで生活していくことは困難となった。
   超構造体(mega structure) の向こうに行きたい」

長門「超構造体に穴を空けられるのは、あなたの重力子放射線射出装置だけ」

長門「わたしは住人たちを守りたい、あなたの力を貸して」


霧亥「……わかった」


翠星石(まったくデレデレしやがってですぅ……ムッツリ人間ですぅ)

52: 2008/06/08(日) 17:44:04.79 ID:fOq4joqT0
- x - x - x -

出発前夜、長門の部屋(車両)で翠星石がスコーンを二人に振舞った。

翠星石「翠星石の自慢のスコーンですぅ!二人とも味わって食べやがれですぅ!!」

霧亥「……」 モグモグ

長門「……」 モグモグ

霧亥「……」 パクパク

長門「……」 ガツガツ

霧亥「……」 モグモグゴックン

長門「……」 ガツガツガツガツ

翠星石「……何か言いやがれですぅ」

霧亥「…………」

長門「……ユニーク」

53: 2008/06/08(日) 17:45:05.84 ID:fOq4joqT0
- x - x - x -

出発の日。

長門「統治局への通知は済んだ。住人全員の乗車も、完了した」

霧亥「…………」

長門「では、始める」

長門が高速呪文を唱えると、建設者三号が巨大な機関車へと姿を変えた。

翠星石「すごいですぅ!これに乗るなんてワクワクするですぅ!」

機関車には長い客車が取り付けられ、そこは住民であふれんばかりだ。

長門「出発進行」

運転手の帽子を被った長門有希が、厳かに言った。

54: 2008/06/08(日) 17:45:45.92 ID:fOq4joqT0

機関車は地面を離れ、超構造体(mega structure)に向かって飛行を始めた。

翠星石「すごいですぅ!空飛んでるですぅ!銀河鉄道みたいですぅ!!」

巨大な機関車が長い長い客車を引いて飛ぶ、この光景を翠星石は
姉妹である蒼星石や真紅たち、そしてJUMやのりにも見せたいと思った。

翠星石「チビ苺が見たらきっと大はしゃぎするですぅ!!」

翠星石は自分の想像する雛苺以上に今の自分がはしゃいでいることに、気づいていない。

56: 2008/06/08(日) 17:46:30.47 ID:fOq4joqT0

巨大な構築物の山がどこまでもどこまでも高くそびえ、空も大地も見えない。
暗黒のなかに、構造体のはなつ光が星のように見える。
前方には超構造体(mega structure)の壁が立ちはだかる。

長門「時間になった、お願い」

霧亥「全員に対ショックを通知」

長門「了解した」

最後尾の客車から、霧亥が屋根に上った。
命綱をつけたあと、黒光りする銃を目の前の巨大な壁に向かって構える。

第一種臨界不測兵器。
あらゆる物を貫通する重力子放射線をビームとして射出する。

これまであらゆる敵を屠るため、あらゆる障害をなぎ払うために振るわれてきたその武器が、
沢山の人を救うために放たれようとしている。

--重力子放射線射出装置。

霧亥は狙いを定め、引き金を引いた。

57: 2008/06/08(日) 17:47:01.61 ID:fOq4joqT0

この世界で最も威力の高い武器から放たれた
この世のあらゆるものを貫通するビームが、超構造体(mega structure)に伸びていき、

巨大な爆発と光とをまきこみ、超構造体をつらぬいた。

長門「遮蔽シールド展開」

ドオオオオオン!!ガタガタガタ!!!

爆発によって生まれた衝撃波は列車に直撃したが、長門の展開したシールドによって
最小限の揺れに留められた。

翠星石「きゃああああ!!」

霧亥と翠星石と長門、そして住民達をのせた銀河鉄道は、大きな大きなトンネルをくぐっていった。

「やった!突破したぞ!夢みたいだ」

「もうあんな危険な生活とはおさらばだ!」

前方の客車から、住民たちの安堵の声が聴こえてきた。

58: 2008/06/08(日) 17:47:46.80 ID:fOq4joqT0

翠星石「やったですぅ、通り抜けたですぅ!」

長門「…!!」

翠星石「どうしたですぅ?」

長門「うかつ……珪素生物の感覚域を探知」


長門「彼が危ない」

59: 2008/06/08(日) 17:48:54.73 ID:fOq4joqT0

翠星石「ムクチ人間!!」

列車の最後尾に到着した翠星石の見たものは、命綱で逆さづりになりながら
黒くトゲトゲした異形の生物と交戦している霧亥の姿だった。

珪素生物「……俺たちだってこの時を待っていたのだ
       種族全体で超構造体の向こうへ行くための機会をな」

珪素生物は一体だけではなく、十匹、三十匹、いやもっと、列車の後ろから続々とやってきた。
キックボードのような形をした不思議な乗り物にのり、列車に取り付こうとやってくる。

長門「彼の重力子放射線銃はオーバーヒートでしばらく使えない、予備の銃では出力不足」

霧亥「……あと2分30秒」

長門「時間を稼ぐ」

長門は呪文の詠唱を始めた

60: 2008/06/08(日) 17:49:47.53 ID:fOq4joqT0

珪素生物「ぐはっ!これは?!!!」

珪素生物は、自分達の乗ったボードが次々と銀の槍と化し、仲間をつらぬくのを見た。
予想外の攻撃に慌てふためく珪素生物たち。

長門「追いつかない」

しかし、長門が何体敵を倒しても、敵は次から次からやってくる。

翠星石「どどど、どうするですぅ!」

翠星石はここに来て初めて、長門の焦ったような表情を見た。
敵がせまってくる。このままでは、霧亥が…

翠星石(悲しいですぅ!私は如雨露とスイドリームがいなければまったく役立たずですぅ!)

翠星石(スィドリーム…あれ?この感覚は…)

61: 2008/06/08(日) 17:50:35.13 ID:fOq4joqT0

霧亥のあけた超構造体の穴、その向こうから、列車の向かう先から

翠星石「スィドリームの存在を感じられるですぅ!!」

人工精霊の緑色の光が、翠星石の希望の光がやってきたのだ。
光はまたたくまに如雨露に姿を変え、翠星石の手におさまった。

翠星石「『世界樹』!あのリュークみたいな黒いやつらを止めるですぅ!!そーれっ!」

あっというまに列車の後方には樹木の根や枝がひしめき、珪素生物たちはそれに追突し、
一体また一体と脱落していった。


霧亥「……」
長門「終わった」

霧亥の銃が、再び破滅の光の帯を解き放った。

後続の珪素生物たちが、一瞬のうちに灰塵と化した。

62: 2008/06/08(日) 17:51:27.88 ID:fOq4joqT0

珪素生物「……このままでは終われん!」

それは、いつのまにか列車の屋根にとりついていた
珪素生物のリーダーらしき者が霧亥の頭に武器を振り下ろすのと

霧亥「…っ!」

同時だった。

長門「しまった」


翠星石「スィドリーム!霧亥を助けるですぅ!」

63: 2008/06/08(日) 17:52:36.36 ID:fOq4joqT0

黒い、地平線すら見えない闇の世界が広がっている。



霧亥(俺は…)

霧亥「……」

足元には川が流れている。


霧亥はその川を渡ろうと、一歩足を踏み出した。

64: 2008/06/08(日) 17:53:39.09 ID:fOq4joqT0

翠星石「バカ!そっちへ行くなですぅ!」

霧亥「……」

翠星石「ムクチ人間!迎えに来たですぅ」

霧亥「ここは何処だ?」

翠星石「ムクチ人間の夢の中ですぅ」

霧亥「……」

翠星石「そして、あれがムクチ人間の『心の樹』ですぅ…黒くしおれて、可哀相ですぅ」

霧亥「……」

65: 2008/06/08(日) 17:54:15.23 ID:fOq4joqT0

翠星石「どんだけ希望のない長い旅をしてきたんですぅ……
     これじゃあムッツリムクチになるのも無理は無いですぅ」

翠星石が如雨露で水をやると、霧亥の『心の樹』はまるで音を立てるように水を吸い込んでいった。

翠星石「うえっ、この樹、もうほとんど機械で出来てるじゃないですか!!」

霧亥「……君たちの世界の植物は違うのか」

翠星石「違うですぅ、みんな暖かい太陽に向かって、すくすく育ってるですよ」

霧亥「……太陽って……何だ?」

翠星石「!!」

66: 2008/06/08(日) 17:54:43.10 ID:fOq4joqT0

『太陽って何だ?』その霧亥の言葉で、翠星石は理解した。
自分の目の前にいる人間がどれほど望みのない暗い世界に生きてきたのかを。

霧亥「……」

翠星石「す…翠星石だって人間じゃねぇですぅ、似たようなもんですぅ!
     …私たちは人間の女の子になるため、姉妹で傷つけあってるですぅ…」

霧亥「……」

翠星石「だから翠星石は、せめて心だけでも人間らしくいようと思ってるですぅ」

霧亥「そうか」

翠星石「せめて、翠星石がたっぷりの水と栄養をやるですぅ。
     翠星石はあんたに、もうちょっと幸せに生きてもらいたいですぅ……」

68: 2008/06/08(日) 17:55:37.44 ID:fOq4joqT0

とたん、川の向こうに、人影が見えた。

霧亥「……統治局」

統治局「やっとあなたにコンタクトを取ることができました」


統治局「代理構成体を介さないコミュニケーションは初めてですね…
     霧亥様、ようこそネットスフィアへ」


霧亥「……まさか」

統治局「はい、アクセスを認められております。ネット端末遺伝子に依存しない、第2のルートです」


霧亥「……」

70: 2008/06/08(日) 17:56:13.75 ID:fOq4joqT0

翠星石「ムクチ人間!…い、嫌な予感がするですよぅ……」

統治局「nのフィールドとネットスフィアが相互浸透しているのです」

霧亥「……なんだと」

翠星石「そ、そんな……そんなはずは無いですぅ…」

統治局「nのフィールド経由で、あなたはネットスフィアに自由にアクセスできます」

統治局「我々やあなたの願うように管理規定を改定し、世界に秩序を戻すこともできます。
     そしてせっかくの機会です、自由に見て回られてはいかがでしょう」


霧亥「……俺は」

再び足を踏み出し、川を渡ろうとする

統治局(?)「……どうぞこちらへ」

71: 2008/06/08(日) 17:57:15.80 ID:fOq4joqT0

翠星石「……駄目ですぅ!!ムクチ人間、戻ってくるですぅ!!!!!」

『心の樹』の枝が伸び、霧亥を捕らえる。

霧亥「……っ!!」


統治局(?)「……」

霧亥「これは…罠…お前は統治局ではない」


霧亥「…………サナカン」


サナカン「……」

73: 2008/06/08(日) 17:58:13.52 ID:fOq4joqT0
車内。


翠星石「目を覚ましたですぅ!!」

霧亥「……俺は感染前のネット端末遺伝子を探していた」

翠星石「何言ってやがるですぅ、寝ぼけてるですぅ」

長門「よかった」

霧亥(……夢を見ていたのか)

長門「あなたが寝ている間、私の情報探査能力を使って
    解りうること全てを調べておいた」

長門「これまで私が集めたすべてのデータを渡す、少なくとも手がかりにはなるはず」


霧亥「ああ」


翠星石「……私たちは元の世界に帰らなきゃだめですぅ」

74: 2008/06/08(日) 17:59:29.22 ID:fOq4joqT0

長門「nのフィールドを解析し、私たちの元の世界への帰還ルートを発見した」

霧亥「そうか」

長門「わたしたちはそれぞれの元の世界に帰る、あなたのおかげ」


長門「世話になった。あなたたちには感謝している」

75: 2008/06/08(日) 18:00:14.61 ID:fOq4joqT0


翠星石「ムクチ人間!!………じゃないです、き……霧亥ぃ!!」

霧亥「……」

翠星石は霧亥に抱きついた

翠星石「…………元気でやるですぅ!」

霧亥「ああ」

軽く抱き上げる霧亥。
『心の樹』に水と栄養を与えられたせいだろうか。
かつて失われたはずの『表情』が、かすかに見えた。

翠星石「霧亥、有希、きっと…きっとまたいつか会えるですぅ!」

77: 2008/06/08(日) 18:00:38.66 ID:fOq4joqT0
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エピローグ

1.巨大な階層都市

霧亥(長門有希に渡された座標データに従うと、ここか)


シボ「……霧亥!?」

霧亥「…シボ」

シボ「遅かったわね、12年待ったわ」

霧亥「待たせたな」

シボ「?あなた、どこか雰囲気がヘンだわ…なにかあったの?」


霧亥「夢を見ていた……」

霧亥「……」 (いや、あれは…夢ではなく…きっと現実になる)

霧亥「いつかきっと、俺たちの力でネットスフィアに……」

78: 2008/06/08(日) 18:00:58.90 ID:fOq4joqT0
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2.日本

金糸雀「翠星石、起きるのかしら~」

翠星石「……金糸雀ですぅ!!久しぶりですぅ!会いたかったですぅ!!」

金糸雀「!?どうしたのかしら?突然抱きついてくるなんて」

柳沢教授「おやおやこれは、まるで感動の再会シーンのようですね」

翠星石「このおじさま誰ですぅ?」

蒼星石「失礼だよ翠星石、柳沢教授を知らない人呼ばわりなんて」

翠星石「蒼星石!!無事だったですか!!!」

蒼星石「無事も何も…いったい何があったっていうんだい?」


金糸雀「なのなのかしら~!」

翠星石(……な~んだかパラレルワールドのような匂いがするですぅ…)

柳沢教授「さて皆さん、朝の散歩の時間のようです」 ニコニコ

79: 2008/06/08(日) 18:02:08.99 ID:fOq4joqT0
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3.日本

高ヶ谷すずらん商店街。

ピース貫太郎「らっしゃいらっしゃい!ただ今電化製品オール半額!!」

ピース健太郎「土曜恒例大売出し!!お買い得だよー!!」

ピース貫太郎「さあそこのお嬢さん見ていってー、うちの商品はすべて自家製!!」

長門「……」

ピース健太郎「ここでしか手に入らない限定品だよー!!」

長門「……ユニーク」

「まいどありーっ!!」





                  ~ おわり ~

81: 2008/06/08(日) 18:02:54.76 ID:fOq4joqT0

4.おまけ

真紅「ドモチェフスキー、紅茶を淹れて頂戴」

ドモチェフスキー「……自分で淹れろ」

イコ「そんなこといったってドモチェフスキー、
   いつもけっきょく真紅のわがままを受け入れているじゃないか」

ドモチェフスキー「こいつがしつこいと、珪素生物への警戒に支障が出るからな」

イコ「はいはいツンデレ、はやく淹れてあげなよ、95℃で」

真紅「ドモチェフスキー、あなたの人工精霊はものわかりが良いのだわ」

ドモチェフスキー「こいつは人工精霊とやらではない
            ……そういえばポットは修理中だったな…代わりに熱線銃で」

イコ「だめにきまっているよ」

ヨルダ(……スイカうまうま) モグモグ


今度こそ本当に終わり ありがとう

82: 2008/06/08(日) 18:03:02.11 ID:8mGFL4/y0
霧亥の冒険は終わらない!完

83: 2008/06/08(日) 18:04:16.80 ID:uAJ9O2AB0


久々にBLAME読み返すか

84: 2008/06/08(日) 18:04:42.42 ID:lsSlggCyO

85: 2008/06/08(日) 18:08:53.10 ID:UG5oIV5G0

面白かった
BLAMEはアフタヌーンで読んでたが途中からだったんで
いまいち理解してねーんだよな
満喫で読んでみるか

引用: 真紅「ドモチェフスキー、紅茶を淹れて頂戴」