1:◆7b3JfpIY/2 2012/10/01(月) 21:28:33.22 ID:fhGCYRkA0


--??--

今より約十九年前、魔王を倒すために命懸けで戦った者達がいた……。


パーティリーダーをつとめるのは、赤の少女。
出身地は下水道、保護者は白いワニ、最終学歴はサーカス団員という貧Oオブ貧O……勇者(27歳)。


家柄は上流貴族で有名大卒。回復のエキスパート眼鏡にしてヒッキーポークビッツ……賢者。


かつてはいじめられっ子だったが、血の滲むような修行を経て、猛々しい肉体を手に入れた、心優しきホ〇ォ……闘士。


グラマラスな肉体、長く美しい髪を持つ麗しの裸族。最近になって実は水虫だったんじゃないか疑惑がある……踊子。


そして、
罠やスキルを駆使し、実力が上の相手でも勇敢に立ち向かうような男ならよかったよね。どう頑張っても目玉が取れちゃう役立たずニート

……盗賊。


彼ら五人は長き旅路の果てに、ついに魔王を倒す偉業を成し遂げる。


これは、それから十九年後のお話……。


前作

勇者募集してたから王様に会いに行った【第一部】
勇者募集してたから王様に会いに行った【第二部】
勇者募集してたから王様に会いに行った【完結】
勇者募集してたから王様に会いに行った【IF外伝】

酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【1】
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【2】
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【3】
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【4】
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【5】
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【6】
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【7】
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【8】
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【9】
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【10】
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【11】
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【12】
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【13】
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【14】
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【15】
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【16】
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【17】
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【18】
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった【19】


魔法の世界




2: 2012/10/01(月) 21:28:51.38 ID:fhGCYRkA0


--北の王国、城壁--

チチッ、チチチッ

北の老兵「ふぁあ……えぇ、天気じゃ」

老兵は見張りもろくにせずに、城壁に腰をかけて空を眺めていた。

ガチャガチャ

北の新兵「む」

北の老兵「はぁ……心休まるのぉ」

北の新兵「おいじいさん! あんた仕事しないで何やってんだ!」

北の老兵「んん……またうるさいのが来おったか」

北の新兵「うるさいじゃねーよ! 俺らの仕事は見張りだっていうのに何サボってんだよ!」

北の老兵「別にサボってるわけじゃないわい。仕事はしとる。敵の気配はせん」

北の新兵「けっ! 何が気配だよ! 勇者討伐戦争を生き抜いたかなんだか知らないけどよ、仕事はきちっとこなしてくれよっ!」

ったく、と呟いて北の新兵はその場から去っていった。

3: 2012/10/01(月) 21:29:31.90 ID:fhGCYRkA0


--北の王国、城壁--

北の老兵「……まったく。老骨のいたわり方を知らんやつだ……」

老兵は、一年中雪が積もっている北の大地に目をやった。

北の老兵「この国も大きくなったものよの……」

老兵は、北の王国の建国の日を思い出す。

ず……

北の老兵「ん……? 影?」

北の大地を巨大な影が覆っていく。

北の老兵「これほどの影を作るほどに、大きな雲があったかいの」

老兵は空に視線を戻した。

ずず……

北の老兵「!……なんじゃあれは……」

4: 2012/10/01(月) 21:29:58.58 ID:fhGCYRkA0


--北の王国、城壁--

ずずず……

北の老兵「鳥、いや……モンスターか……?」

ずずずず……

北の老兵「!? ち、違う!! あれは城なのか!? まさか!!」

老兵が目を凝らすと、空飛ぶ城の周りをモンスターの群れが飛んでいた。

北の老兵「!!」

老兵は立ち上がり、撞木を手に取ると力一杯鐘を鳴らした。

ガーン!!!!

北の老兵「敵襲だーー!! モンスターが来たぞーー!!」

ガーン!!
ガーン!!
ガーン!!

5: 2012/10/01(月) 21:30:37.55 ID:fhGCYRkA0


--北の王国、城内--

ガーン!!
ガーン!!
ガーン!!

北の衛兵「!!」

北の兵長「警鐘!? 敵襲か!!」

ガチャガチャガチャガチャ!!

兵士達は慌ただしく外へと走り出す。

6: 2012/10/01(月) 21:31:06.24 ID:fhGCYRkA0


--北の王国、東地区--

ズンッ!!

その時、北の王国に何かが墜落した。

しゅううぅう

北の幼女「きゃあああ!!」

ざわざわざわざわ

北の青年「な、なにが落ちてきたんだ!?隕石か!?」

しゅううぅう

?「ウゴォ……」

町に墜落し、クレーターを作り上げた落下物が声を発した。

?「ウゴォォォォ!!」

北の女性「!?」

鼓膜が破れんばかりの咆哮。そしてソレは立ち上がった。

北の兵士(で、でかい!)

巨大な異形なる者。

ゆらっ

?「オ、オデ!」

7: 2012/10/01(月) 21:31:33.02 ID:fhGCYRkA0


--北の王国--

ガーゴイル「ギュルルルラアアア!!!!」

きゃーきゃー!わーわー!

北の衛兵「化物め! くらえっ!!」

ザシャ!!

ガーゴイル「ギャアアアア!!」

北の衛兵「くっ……数が多すぎる! どれだけ降ってくるんだこのモンスターどもは!!」

衛兵の槍と鎧は、モンスターの血によって真っ赤に染まっている。

北の上級兵「!? 衛兵!! 後ろだ!!」

北の衛兵「え?」

グシャッ!

キメラ「がぉぉ!!」

衛兵は後ろから接近してきたキメラに上半身を噛みちぎられてしまう。

北の上級兵「ッ!! う、うおぉぉ!!」

きゃーきゃー!!うわぁぁぁ

次々に飛来するモンスター達によって、北の王国は蹂躙されていた。

8: 2012/10/01(月) 21:31:58.41 ID:fhGCYRkA0


--北の王国、西地区--

ジリジリ

??「……」

北の兵達は各々が武器を構えて、異形たるソレを包囲していた。

??「……」

北の下級兵「はーっ! はーっ!……こいつが、魔族か!?」

北の近衛兵「絶対に奴の目を見るんじゃないぞ!! 奴は魔王軍の幹部、カト」

ビシィッ!!

近衛兵が喋りきる前に、一瞬で兵達は石像へと変貌してしまう。

??「……残念ですが、私の魔眼は開いているだけで効果を発揮するんですよ」

大きな眼球を持つソレは、動かなくなった兵達の横を擦り抜けていく。

9: 2012/10/01(月) 21:32:24.77 ID:fhGCYRkA0


--北の王国、南地区--

北の中級兵「ぎゃああああ!!」

北の弓兵「あがっ、あぐあぁぁぁ!!」

???「あははは~。一体貴方たちはどんな素敵な夢を見ているのでしょうね~」

発狂し、頭を抱えて痙攣している兵達と、その真ん中で狂ったように踊る異形の者が。

???「あははは~。これも全て報いですよ~。私たちを裏切って~、あの子の想いを踏み躙ったのですから~」

北の剣兵「あごごご!!」

全身の至るところから血を垂れ流し、苦悶の表情を浮かべる兵士達。

???「あははは~……懺悔したならおっ氏ね」

グシャッグシャッグシャッ!!

一斉に兵士達の頭が爆発し、辺りを血と脳漿で塗りつぶした。

???「……なんて楽しいんでしょ~」

10: 2012/10/01(月) 21:32:50.44 ID:fhGCYRkA0
10

--北の王国、北地区--

ザシュ、ブシャッ!!

北の盾兵「ぎゃああああ!!」

北の上級兵長「なんだ!? 一体何が起こってるんだ!?」

援軍にかけつけた上級兵長は混乱していた。

ズブッ!

北の斧兵「ふぐぁっ!!」

北の上級兵(なんだ……? 敵はどこにもいないのに、兵達が何かに斬られている!?)

ザシュッ!ズバッ!ザキュッ!

聞こえてくるのは兵達の断末魔のみ……。

北の上級兵長(何に斬られているというのだ!! こんなにも恐ろしい速度で!!)

ズバシャッ!!

北の上級兵長「!!!!」

上級兵長がソレに気付いた時には、自分の背中が大きく切り裂かれたあとだった。

????「わりぃな。あんたで最後だ」

北の上級兵長「」

上級兵長は、倒れながら風の囁く声を聞いた。

11: 2012/10/01(月) 21:33:23.61 ID:fhGCYRkA0
11

--北の王国、城壁--

わーきゃー

北の老兵「北の……王国が……」

人々の悲鳴とモンスター達の蛮行……燃える北の王国を見た老兵は崩れ落ちた。

北の老兵「魔王軍がまさかここまで攻めてくるだなんて……ライン9が突破されていたのか……」

ズズーン!!

空を飛んでいた城が王国に着地し、地響きが起こる。

北の老兵「ぐっ!! む、無茶苦茶しよる!!」

ぎぎぎ……

そして城の天辺から……

北の老兵「!?……な、なんだと……あいつは……見たことがある……いや、だがそんな……ありえん」

?????「……」

空中に漂う赤髪の少女。
黒い鎧を身に纏い、幼い体つきに不釣り合いな大きな角を二本持ち、そして

北の老兵「ぐっ!?」

見ているだけで息がつまるような、圧倒的な威圧感を持っていた。


12: 2012/10/01(月) 21:33:50.69 ID:fhGCYRkA0
12

--北の王国、城壁--

北の老兵「ば……かな……」

北の老兵は壁に手を掛けなんとか立ち上がろうとするが、それは叶わない。

北の老兵「あの時に……氏んだんじゃ……なかったのか……?」

?????「……」

角を持つ少女が手を天に掲げると、漆黒の大剣が出現する。

北の老兵「勇者討伐戦争で……氏んだのでは……ないのか?」

?????「……」

少女が手にする大剣に、強大な魔力が集まる。

北の老兵「見間違いでは……ない……あの胸の平らさ……見間違えるもの、か……十九年前の戦場で見た……あれを!!」

強大な魔力は重力すら狂わせ、地面に転がる石や瓦礫や人間などが、空に浮かび始める。

北の老兵「『赤き絶壁』!!」

13: 2012/10/01(月) 21:34:17.54 ID:fhGCYRkA0
13

--北の王国、城内--

召喚士「かっー!! 何やってるでやんす!! さっさと逃げるでやんすよ!! あいつらは北の王国の戦力だけじゃ対抗出来ないでやんす!!」

タッタッタッ!

北の王「召喚士!! 状況はどうでっか!?」

召喚士「王!? まだ避難してなかったでやんすか!?……被害は甚大、万が一にも勝ち目は無いでやんす!! だから王は逃げるでやんすよ!」

北の王「なんてこった……狩人と人形師が留守な時に限って……」

召喚士「……ぶっちゃけいても無理だと思うでやんす」

北の王「……そうでんな……国民の避難は?」

召喚士「このままじゃ間に合わないでやんすね……だから今からおいらが足止めをしてくるでやんす」

北の王「……」

北の王は召喚士のわき腹に巻かれた包帯の血の滲みを見た。

14: 2012/10/01(月) 21:34:47.90 ID:fhGCYRkA0
14

--北の王国、城内--

北の王「避難完了までどれくらいかかると思いまっか?」

召喚士「そうでやんすね。少なく見積もっても二時間はかかるでやんすかね」

北の王「ほな、召喚士は二時間も時間稼ぎが出来ますのん?」

召喚士「っ……」

召喚士は言葉に詰まってしまう。

北の王「ほな私も行きますさかい」

召喚士「!? はっ!?」

北の王「一人じゃ無理でも二人ならなんとかなるかもしれまへん」

召喚士「ならんでやんす!! というか王がいなくなったら北の王国は本当に終わりでやんすのに、貴方が逃げなくてどうするでやんす!!」

北の王「……どのみちここを退いた時点で北の王国は終わりや……。それにダチ公が氏のうとしてるんやから、一人で氏なすわけにはあかんやろ」

召喚士「ッ王!?」

北の王「この戦力差や。召喚士一人じゃどうにもならへんようやし、それなら国民が逃げる時間を稼ぐために氏んだほうがかっこええやろ」

15: 2012/10/01(月) 21:35:13.96 ID:fhGCYRkA0
15

--北の王国、城内--

召喚士「……お、王は戦闘力皆無じゃないでやんすか!」

北の王「そうや。だから命の全てを燃やし尽くし、召喚士の外部魔力になったるで」

召喚士「!? 魔力供給……でやんすか」

北の王「そや。召喚士、人生最後の大戦やで。おまはんの奥義をやっこさんにぶちこんでやるんや!!」

召喚士「……」

北の王「ん?」

召喚士「その手法で行くと……王を蘇生することは出来ないでやんすよ……?」

北の王「んなこたぁ、わかってるでー」

召喚士「……了解でやんす。そのお命……お借りするでやんす」

16: 2012/10/01(月) 21:35:41.82 ID:fhGCYRkA0
16

--北の王国、城内--

ズズズ

その時外で、角の生えた少女が大剣を呼び寄せだ。

召喚士「!! このケタ違いの魔力は……!」

北の王「あやや、どうやら早くしないとあかんみたいでっせ」

召喚士「……っく」

北の王「自分が想像する最強のイメージを召喚する奥義……生きてる間に見てみたかったがぁ、こればかりはしょうがありまへんな」

北の王はカラカラと笑うと、自身の体を魔力に変換し始めた。

ぽぅ

北の王「魔力変換レベル4、さらに魔力供給レベル3」

びゅわわわ

徐々に北の王の体は、霞がかかったように薄れていく……。

北の王「あとは……頼みましたで……人形師にもよろしく言っといて……ってそりゃ無理でんな」

しゅ……

笑ったまま北の王は消滅した。

召喚士「はい、でやんす……奥義、幻想召喚!!」

17: 2012/10/01(月) 21:36:08.25 ID:fhGCYRkA0
17

--北の王国--

?????「!」

その時少女は地面が黄金に輝くのを見た。

?????「……」

ゴゴゴゴゴ……

?????(何か……くる)

少女が視線を送った場所、北の城の中から二つの人影が現れた。

召喚士「……」

ゴゴゴゴゴ……

黄金王「ほう。あれが貴様の言う敵か?」

召喚士「そうでやんす」

黄金王「……ふん、成る程。見るに耐えぬ醜悪な魂の在り方よ」

18: 2012/10/01(月) 21:36:42.25 ID:fhGCYRkA0
18

--北の王国--

召喚士「黄金王、あんたの逸話は幼い頃から耳にタコが出来るほど聞かされていたでやんす。この奥義の強さは思い込みの強さ……あんたならやってくれると信じてるでやんす!」

黄金王「無論だ。あの程度の塵芥共訳はない。だが、貴様ごときに我の魔力を捻出出来るとも思えぬ」

召喚士「……承知の上でやんす。この命燃やし尽くす所存でやんすが、それでもどれだけ持ちこたえられるか……」

黄金王「……貴様如何様にして我を召喚した?」

召喚士「え?」

黄金王「貴様ごときの器では、我を召喚した時点で絶命するのが道理であろうが。我を現界させるための魔力、一体どこから捻りだした?」

召喚士「あぁ、そういうことでやんすか……それは……我が主君であり友である、おいらの一番大切な人を犠牲にしたのでやんす」

黄金王「……」

召喚士「情に訴えるわけではないでやんすが、あんたに嘘をつくわけにはいかないので素直に話したでやんすよ。……これで召喚自体に魔力を割くことはなく、あんたの現界維持だけに全ての魔力を注ぐことが出来るでやんす。それでもあんたには不便させるでやんすけど、なんとかして欲しいのでやんす」

召喚士は黄金王に深々と頭を下げた。

黄金王「……ふん。そこまでしなくては民も守れないとは……弱さとは悪と知れ」

召喚士「すまんでやんすよ。ちとあまりに想定外だったもので」

困ったように召喚士は笑った。

19: 2012/10/01(月) 21:37:09.71 ID:fhGCYRkA0
19

--北の王国--

黄金王「……貴様の脆弱な魔力では、話をしているこの時間すら惜しいではないか、たわけが」

召喚士「あんたは気分屋さんらしいでやんすから、やる気にさせるまでが一番大事なんだと思ったでやんすよ」

黄金王「なんだと……? 痴れ者が! 貴様ごとき塵芥が我の心を操れるとでも思うたか!!」

黄金王はそう言いつつも視線を少女に向ける。

黄金王「……だがまぁ、今回に限り不問にしてくれる。我もあれに興味が出たからな」

?????「……」

黄金王「我をあのような目で見てくる者など、あってはならぬことだ」

ブゥン

黄金王の右手に大剣が、左手には三股の槍が出現する。

黄金王「せっかくの現世ということもある。気の済むまで暴れてくれる」

20: 2012/10/01(月) 21:37:42.06 ID:fhGCYRkA0
20

--北の王国、跡地--

………………




パチパチっ

召喚士「は……は……北の王……貴方にお仕え出来て……光栄でした」

ドサリ

黄金王「ふん」

燃える北の王国。

ゴォオ

辺りは瓦礫と化し、雪の白に覆われていた世界は、今や炎の赤に支配されている……。

黄金王「……力尽きたか」

黄金王は、後方で全ての魔力を振り絞って氏んだ召喚士を眺めている。

黄金王「とはいえ……中々楽しませてもらった……礼を言うぞ塵芥」

21: 2012/10/01(月) 21:38:19.01 ID:fhGCYRkA0
21

--北の王国、跡地--

?????「……」

黄金王の前には角の生えた少女と四体の魔族が立っていた。

黄金王「貴様らにもな」

黄金王の体が溶けるように消えていく。

黄金王「如何に全力を出せぬ身とはいえ、この我が滅ぼしきれぬとはな。この世は腹の立つことばかりだ」

ぼひゅ

黄金王は光の粒となって消滅する。

?????「……」

?「お、おで」

??「……恐ろしい強さでしたね。正直魔王様のルールが無ければこちらが危うかったです」

???「は~? 何言ってますか~。結局こっちは誰もやられずに済んだんです~。私達の完全勝利じゃないですか~」

????「でもたった一人に半日も粘られたんだ。純粋な戦闘力だけだったら危なかったと思うぜ」

22: 2012/10/01(月) 21:38:45.59 ID:fhGCYRkA0
22

--北の王国、跡地--

?????「……フランケン」

?改めフランケン「お、おで!」

?????「……カトブレパス」

??改めカトブレパス「はい」

?????「……ニンフ」

???改めニンフ「はい~?」

?????「……ウェンディゴ」

????改めウェンディゴ「ん?」

?????「……私は……間違ってると思うか?」

カトブレパス「どうでしょうね。人側の視点で見たら良いこととは言えないでしょうね」

ウェンディゴ「だが俺達はもう、人側に立って考える必要もない」

ニンフ「そうですよ~。あんな薄情で卑怯な生き物、私は昔から嫌いだったですよ~」

フランケン「お、おで!」

?????「……」

23: 2012/10/01(月) 21:39:48.25 ID:fhGCYRkA0
23

--北の王国、跡地--

ニンフ「……貴女の好きにしたらいいと思いますよ~? 何せ貴女は一度はこの世界を救った身なんですから~」

カトブレパス「そうですね。いや懐かしい。かつて勇者パーティとして旅をしたのがもう十九年も前のことだなんて」

フランケン「お、おで」

ニンフ「あれはあれで楽しかったですけど~今思うとホント」

ウェンディゴ「無駄なことだった。魔王討伐だなんて」

?????「……」

少女は燃える世界を眺めている。

?????「みんな……私は世界を滅ぼすよ」

フランケン「お、おで!」

カトブレパス「はい。今度は最後まで貴女についていきます」

?????「もう二度と悲しいことが起こらないように」

ニンフ「我々こそが正義の使者ですからね~星に巣くうチャバネゴキブリどもを一掃してくれます~」

ウェンディゴ「行こう。魔王勇者」

?????改め魔王勇者「私は……全ての人を滅ぼしてみせる」



    勇者と魔王がアイを募集した
         第一部
        リスタート

33: 2012/10/02(火) 20:59:52.43 ID:BWfqj3+U0
24

--砂漠--

配達屋「えっと、この辺のはずなんですけど……」

ユニコーン「ひひーん」

砂漠の真ん中で古ぼけた地図を見ている少女。
傘を差し、帽子を被った少女は大きなリュックサックを背負ってユニコーンにまたがっている。

配達屋「おっかしいなー。ユニちゃん、ユニちゃんの目なら何か見えます?」

ユニコーン「ぶひるん」

配達屋「見えないですかー」

ユニコーン「ひひん」

配達屋「え? お水?……あぁ、そういえば喉渇いちゃったね。近くにオアシスとか町とか無いかなぁ」

配達屋が地図に視線を落としても、近くにそんな印は無かった。

配達屋(というか数時間前からどこを進んでいるのかもわからないこの現実)

34: 2012/10/02(火) 21:00:25.37 ID:BWfqj3+U0
25

--砂漠--

ユニコーン「ひひん!」

配達屋「ん? どうしたのユニちゃん」

ユニコーン「ひひん」

配達屋「何かが近づいてくる?」

ゴゴゴゴ……

地鳴りと共に砂の地面が揺れる。

配達屋「……やーなよかーん」

どばぁっ!!

巨大蠍「キシャアアアアア!!」

全長二十メートルはあろうかという巨大な蠍が、砂を撒き散らして出現した。

配達屋「んきゃぁぁぁぁ!?」

35: 2012/10/02(火) 21:01:36.61 ID:BWfqj3+U0
26

--砂漠--

巨大蠍「キシャアアアアア!!」

配達屋「ユニちゃん走って!!」

ユニコーン「ひひーん!!」

ダカッダカッダカッダカッ!!

走り出すユニコーン、だが当然のように巨大蠍は追ってくる。

配達屋「どうしよう……お腹ぺこぺこで水分皆無……逃げ切れるかなぁ」

ダカッダカッダカッダカッ!!

巨大蠍の攻撃を華麗にかわして走るユニコーン。

配達屋(いつまでも逃げれるわけじゃないし、何か手を打たないと。手~手~)

巨大蠍「キシャアアアアア!!」

36: 2012/10/02(火) 21:02:22.25 ID:BWfqj3+U0
27

--砂漠--

配達屋「お! あれに見えるは!」

配達屋が見つけたのは大きな亀裂。

配達屋「なんて言ったけ? クレパスだ! 行こうユニちゃん!」

ユニコーン「ひひーん!!」

ユニコーンはクレバスに方向転換する。

ダカッダカッダカッダカッ!!

巨大蠍「キシャアアアアア!!」

巨大蠍の足も速く、その凶悪な鋏が少女の頭を砕こうと幾度となく振り下ろされた。

ズガァン!!

配達屋「あぁ怖い怖いぃー……ユニちゃんがんばですー!」

ユニコーン「ひひーん!!」

ダカッダカッダカッダカッ!!

37: 2012/10/02(火) 21:03:03.21 ID:BWfqj3+U0
28

--砂漠--

配達屋「!!……このクレパス思ったより……おっきい」

徐々に見えてきたクレバスの全貌、向こう側まで五十メートルはあろうか。

配達屋「……」

ダカッダカッダカッダカッ!!

巨大蠍「キシャアアアアア!!」

巨大蠍の鋏が少女目がけて振り下ろされ

配達屋「……勝った! いっけーユニちゃん!!」

ユニコーン「ひひーん!!」

ダンッッ!!

ユニコーンは力いっぱい踏み込み、跳躍した。

38: 2012/10/02(火) 21:03:57.15 ID:BWfqj3+U0
29

--砂漠--

巨大蠍「」

ゴォオ!

配達屋「うわー! 空飛んでるみたいー!!」

帽子を押さえながら少女は絶叫する。

ユニコーン「ひひん」

配達屋「いやーうちのユニちゃんは脚力自慢で良かったですよ。ユニちゃんだからこそ取れる戦法でした」

ユニコーン「……ひひん」

配達屋「え? なに? この後どうするのかって? 配達を続けるに決まってるじゃないですか。あ、オアシス探すのが先だっけ?」

ユニコーン「ひひん……」

配達屋「そんな話じゃない? 今? どうやって着地するのかって? そんなのユニちゃんの四本足でドカッと」

ユニコーン「……ひひん」

配達屋「……届かなかった?」

丁度クレバスの真ん中で失速している少女とユニコーン。

配達屋「……さすがに遠かったと?」

ユニコーン「ひひん……」

配達屋「……あちゃー」

どーん……

39: 2012/10/02(火) 21:04:45.67 ID:BWfqj3+U0
30

--砂漠--

配達屋「あー氏ぬかと思いました。本当氏ぬかと思いました」

ユニコーン「ひひーん」

配達屋「あっ! まだ文句言いますか? 丁度川が流れててよかったじゃないの。喉の渇きを癒せたし、胃袋もパンパン、水筒ちゃぷちゃぷ」

ユニコーン「ひひーん……」

配達屋「何? 退職したい? バカなこと言っちゃいけませんよ、ユニちゃんと私は一心同体、言うなれば運命共同体、さらに言うなら半導体です」

ユニコーン「……」

配達屋「……機嫌なおして下さいな。帰ったら可愛い牝馬さんをご紹介しますから」

ユニコーン「ひひん?」

配達屋「本当です。私は嘘をつきません」

ユニコーン「ひひーん……」

配達屋「あれ? 何かいますね……まさかまたさっきの巨大な蠍さんじゃ」

ドドドド

配達屋が見たのは馬車とそれを馬で追う見るからに悪役な人間。

配達屋「トラブルぽいですね。ユニちゃん行きましょうか」

ユニコーン「ひひーん」

40: 2012/10/02(火) 21:05:24.68 ID:BWfqj3+U0
31

--砂漠--

ダカッダカッダカッダカッ!!

悪役「おらぁ馬車止めろ!!」

商人「ひぃ!! 止められるか!! 止めたら荷物奪うだろうが!!」

悪役「当たりめぇだ!! あちきはこの砂漠をねじろにしている、史上最強の盗賊団、砂漠の風の一員だぞ!? 盗賊が物奪わなくてどうすんだ!!」

商人「さ、砂漠の風!? くそっ! 砂漠の風は善良な市民からは奪わないんじゃねえのかよ!!」

悪役「ちっ、めんどくせぇな……馬車ごと奪おうかと思ってたがめんどくせぇ、風属性攻撃魔法、レベル2!!」

ユユン

商人「!?」

ドガァァン!!

悪役が放つ風の弾丸が馬車の後輪を破壊する。

41: 2012/10/02(火) 21:06:03.48 ID:BWfqj3+U0
32

--砂漠--

ギギー!!

商人「うお、おああー!!」

ドザガシャー!!

バランスを崩した馬車は横転し、商人は砂漠に投げ出された。

商人「てっ……てて……む、無茶しやがる……」



ダカッダカッダカッダカッ

配達屋「あっ、馬車が大変なことにー」

ユニコーン「ひひーん」

配達屋「そうですよ? 困った時は助けてあげませんと」

42: 2012/10/02(火) 21:06:31.90 ID:BWfqj3+U0
33

--砂漠--

がさっ

悪役「ふん、まぁこれだけあらぁいいか」

馬車から荷物を背負った悪役は、さっさと馬に乗って行ってしまう。

商人「ぐ、くそぉ……取られちまった……」

ダカッダカッダカッダカッ

商人「……?」

ユニコーン「ひひーん!」

配達屋「どうどうー。もし、そこのお方、怪我は大丈夫ですか?」

商人「あ、あぁ……幸いそれほど深刻じゃあ無さそうだ。回復アイテムも一応持ってるし……だが荷物を奪われちまった……」

配達屋「ふむ、そのようですね」

43: 2012/10/02(火) 21:07:05.02 ID:BWfqj3+U0
34

--砂漠--

商人「……くそ、砂漠の風がこんなことしてくるだなんてよ……」

配達屋「……砂漠の風?」

商人「あぁ。本当かどうかは知らないが奴は自分でそう言ってやがった……」

配達屋「なんとまぁ偶然。ユニちゃん」

ユニコーン「ひひん」

ユニコーンの向きを悪役が向かった方向に変えた。

商人「? おいあんたまさかあいつを追う気じゃ」

配達屋「怪我は大したこと無さそうですし一人でも大丈夫ですよね。私はあの人を取っ捕まえてきます」

商人「!? ば、バカ言うな!! あいつは砂漠の風の一員かも知れないって言っただろうが!!」

配達屋「拝聴しました。ですがどのみち私には用があるのです。砂漠の風に」

商人「……はっ!?」

配達屋「ごめんやっしゃ」

ダカッダカッダカッダカッ!

商人「……ば、バカ野郎」

44: 2012/10/02(火) 21:07:33.74 ID:BWfqj3+U0
35

--砂漠--

ダカッダカッダカッダカッ

悪役「ふふん、ちょろかったなぁ。これだから商人を襲うのはやめられねぇ」

……ダカッダカッ

悪役(! 何かくるか)

悪役が振り替えると、後ろから馬に乗って手を振りながら近づいてくる者がいた。

悪役(……なんだあいつ)

配達屋「おーい! 待って下さいよー」

ぶんぶん

悪役「なんだてめー! あちきに何か用でもあんのかー!?」

配達屋「はいー! 商人さんから奪った荷物の返還をお願いに来ましたー!」

悪役「……は?」

にこやかに笑いながら配達屋はそう言った。

45: 2012/10/02(火) 21:08:07.64 ID:BWfqj3+U0
36

--砂漠--

悪役「……バカにしてんのかおめー」

配達屋「はい? なぜにそうなります?」

悪役「ッ! 盗賊が盗んだものを簡単に返すと思ってんのか!?」

配達屋「あー……沽券に関わりますか? それともプライド?」

悪役「」

悪役は話が通じないと判断し、会話をやめて馬の速度をあげた。

ダカッダカッダカッダカッ!!

配達屋「あーちょっとー……もう仕方ないですね」

ユニコーン「ひひーん」

配達屋「はい。こうなってしまっては実力行使しか無さそうです」

配達屋は背負ったリュックの中からパチOコを取出して狙いをつけた。

46: 2012/10/02(火) 21:08:43.42 ID:BWfqj3+U0
37

--砂漠--

ぎりぎり

配達屋「んんー……えいっ!」

ぱちんっ

配達屋が放ったパチOコ玉は大きな弧を描いて、

ひゅるる、こん

悪役「……なんだ今の」

悪役の頭に当たった。

配達屋「やった当たりました! さすが私」

悪役「……石でもぶつけてきたのか? んなことしたってなんにもなりゃしないのに」

配達屋「条件達成! レベルアップ!」

配達屋はリュックから傘を取り出して、まるで騎乗兵のように槍を持つ構えを取る。

47: 2012/10/02(火) 21:09:18.63 ID:BWfqj3+U0
38

--砂漠--

ダカッ

悪役「頭がいかれちまったか?」

ダカッ

悪役「!?」

悪役は目を疑った。

ダカッダカッ

ユニコーンが一歩、また一歩地面を踏みしめる度に、ユニコーンの体に鎧が現われたのだ。

ダカッダカッダカッ!

それはユニコーンに乗っている配達屋も同様。さっきまで傘だったものは、今や彫刻の入ったランスになっていた。

配達屋「レベル2、騎士!!」

48: 2012/10/02(火) 21:09:58.02 ID:BWfqj3+U0
39

--砂漠--

ダカッダカッダカッダカッ!!

悪役(!? はえぇ!!)

先ほどよりも確実に重くなっているはずなのに、なぜか数段速くなっていた。

悪役(……騎士スキルによる速度補正か? つかこいつ……何をしたんだ?)

ダカッダカッダカッダカッ!!

ランスを構えて迫る配達屋。
それを迎え撃とうと、悪役は馬上でナイフを握り締める。

悪役(リーチに差があんな……戦闘中にジョブチェンジなんてそんなもんありかよ……!)

ダカッ!!

配達屋「はいやー」

ガギィン!!

跳躍とともに繰り出された槍を、悪役はナイフで弾いてみせる。

悪役(ぐっ! 見かけだけじゃない! この打ち込みは本物だ!!)

49: 2012/10/02(火) 21:10:39.44 ID:BWfqj3+U0
40

--砂漠--

配達屋「っと。やりますね! はいーっ!」

ガギィン、ガガギィン!!

悪役「ぬっ、くっ!」

馬上での攻防、槍とナイフの打ち合い。そんなもの槍が断然有利に決まっていた。

ズキィン!!

悪役「!!」

悪役のナイフは弾かれて宙を舞う。

ユニコーン「ひひーん」

配達屋「ふぅ、勝負ありですね。どうです? これ以上やるのも面倒くさいですし、降参していただけませんか?」

悪役「……ちっ!」

ダカッダカッ……

悪役は馬を止めると、奪った荷物を配達屋に差し出した。

50: 2012/10/02(火) 21:11:11.84 ID:BWfqj3+U0
41

--砂漠--

配達屋「おぉ! 物分かりがいい人で助かりました。こちらとしては荷物を返して頂いた後に、あの商人さんにぺこりと頭を下げて謝罪と賠償をしていただければ何も問題は」

バッ!

配達屋の手が荷物に触れる瞬間、悪役はそれを自分たちが来た方向に投げ捨てた。

悪役「荷物は仕方ねぇが後のことはごめんだね!!」

ダカッダカッダカッダカッ!!

そう言って全速力で走っていく。

配達屋「……やられました。荷物を取るべきか犯人を追うべきかの二択……そんなもの、荷物に決まっていますよね」

ユニコーン「ひひーん?」

配達屋「何を言っていますか、面倒くさいから追わないなんてことあるわけないでしょう?」

配達屋は荷物の傍まで行くと馬を降りて荷物を手に取った。

配達屋「ふぅ。ミッションコンプリートです」

「ぎしゃあああああ!!」

その時何かの鳴き声を聞いた。

51: 2012/10/02(火) 21:11:40.80 ID:BWfqj3+U0
42

--砂漠--

配達屋「!? この鳴き声!」

悪役「う、うわぁぁぁ!?」

巨大蠍「ぎしゃあああああ!!」

配達屋「さっきの巨大モンスター!? 私を追ってきたんですね……!」

配達屋は荷物を放り出してユニコーンにまたがる。

ユニコーン「ひひーん?」

配達屋「えぇそうですよ。私は犯人より荷物を優先します。ですが荷物より人命なのです」

ダカッダカッダカッダカッ!!

悪役「く、くそついてねぇぞ……こんなのがこの辺りに来てたなんて!」

悪役はなんとか逃げようとするが、

巨大蠍「ぎしゃあああああ!!」

巨大蠍の凶悪な鋏が、

悪役「ひっ!?」

振り下ろされた。

ガギィィィン!!

52: 2012/10/02(火) 21:12:09.64 ID:BWfqj3+U0
43

--砂漠--

巨大蠍「ぎっ!?」

ザザザザー

悪役「……?……あれ? 生きてる……」

ザン!

悪役の前に立っているのは、

配達屋「こうなってはいたしかたありませんね。先程ストーキングされた憤りをぶつけさせていただきましょう」

ユニコーン「ひひーん!」

悪役「……は? さ、さっきの攻撃……防いだのか?」

配達屋「はい。犯人である貴方に氏なれると、商人さんの馬車の修理代を請求出来ないだろうと思いまして」

悪役「ば、バカ言いやがって! さっさと逃げろ! こいつはこの砂漠のボスクラスだぞ!? お前一人で適うか!!」

配達屋「かもしれませんがそうじゃないかもしれません。今さっき蠍さんの攻撃を弾くことが出来ましたし」

巨大蠍「ぎしゃあああああ!!」

配達屋「っと話をしている場合じゃありませんでした。どうやら無事に標的が私に代わったようですね。ユニちゃん!」

ユニコーン「ひひーん!」

ユニコーンは巨大蠍に向かって走りだした。

53: 2012/10/02(火) 21:12:37.80 ID:BWfqj3+U0
44

--砂漠--

ダカッダカッダカッダカッ!!

巨大蠍「ぎしゃあああああ!!」

配達屋「ユニちゃん適当に回避」

ずしゃー!

ユニコーンは巨大蠍の鋏をかわして、伸ばしたその腕を駆け登る。

ダカッ!!

悪役「お、おいおい」

配達屋「てやー」

ギギィン!

配達屋「あー……駄目ですね硬いですね。私のランスが跳ね返されてしまいます」

ヒュン!

今度は巨大蠍の尾が配達屋とユニコーンを狙う。

ギィシン!

配達屋「あ、あぶな……こらユニちゃん、適当に回避してくださいと言ったでしょうに」

ユニコーン「ひひーん!」

54: 2012/10/02(火) 21:13:03.59 ID:BWfqj3+U0
45

--砂漠--

ガギィン、ガガァン!!

悪役「巨大蠍の上で戦ってやがる……」

配達屋(しかしこれでは埒があきませんね……かくなる上は)

配達屋達は、一度巨大蠍の身体から降りて距離を開けた。

巨大蠍「ぎしゃあ……」

巨大蠍の身体の向きが配達屋達に向けられる。

配達屋「氷属性攻撃力上昇魔法、レベル2」

ビキーン!

配達屋は、構えた槍の攻撃力を魔法で強化する。

悪役「!! ば、バカ!! ちょっと強化したくらいで貫けるか!! 逃げろ!」

配達屋「ユニちゃん……ゴーですよ」

ユニコーン「ひひーん!」

ダカッダカッダカッダカッ!!

55: 2012/10/02(火) 21:13:29.76 ID:BWfqj3+U0
46

--砂漠--

巨大蠍「ぎしゃあああああ!!」

ダカッダカッダカッカッ!!

配達屋「重ねて申し上げます。氷属性攻撃力上昇魔法、レベル2」

ビキキーン!!

悪役「な!?」

ダカッダカッダカッダカッ!!

ユニコーンは巨大蠍の鋏と尾を掻い潜り、

配達屋「更に重ねて申し上げます。氷属性攻撃力上昇魔法、レベル2!!」

ヴィキヴィキ!!

悪役「三重!?」

ダカッ!!

ユニコーンは巨大蠍の顔目がけて跳躍する。

配達屋「はああぁー!」

魔力で練り固められた氷の槍が、

ズブッ!!

巨大蠍「ッ!!」

巨大蠍の頭部に突き刺さった。

56: 2012/10/02(火) 21:13:57.61 ID:BWfqj3+U0
47

--砂漠--

巨大蠍「ぎしゃあああああああああああああ!!」

ズ……ズズーン!!

断末魔とともに崩れ落ちる巨大蠍。

配達屋「はっ、はっ……なんとか……やれました?」

ユニコーン「ひひーん」

パキィン

配達屋とユニコーンを覆っていた鎧が砕け散る。

配達屋「レベルアップタイムの効果時間ギリギリでしたか……ひゃー危ない危ない」

悪役「ま、まじか……」

悪役は大地に寝そべる巨大蠍を見て唾を飲んだ。

悪役(あいつ……まじで倒しやがった……隊長レベルじゃないと無理だと思ったのに……)

57: 2012/10/02(火) 21:14:23.27 ID:BWfqj3+U0
48

--砂漠--



配達屋「犯人さん、お怪我は大丈夫ですか?」

ユニコーン「ひひん」

悪役「……あぁ」

配達屋「それはよかっです。あのぉ、これから商人さんの所に戻ろうと思うのですが、来て、いただけますね?」

悪役「……」

配達屋「なにぶん今の戦闘で疲れちゃったので、自主的に来てもらえると嬉しいかな、って」

悪役「……あっ!?」

配達屋「どうかしました? って注意をそらして逃げる気でしょう!? いけませんよー」



悪役「ち、ちげぇって! 後ろ後ろ!!」

58: 2012/10/02(火) 21:14:49.64 ID:BWfqj3+U0
49

--砂漠--

ズズ

配達屋「そんな古典的な手段で私を騙せると思っているなんて。遺憾の意を表明します」

ズズズ

配達屋「あら? おっきな影……雲で太陽が隠れたんですねきっと」

ズズズズ

悪役「いいから後ろ向けーッ!!」

配達屋「くるり」

巨大蠍「ぎしゃあああああ!!」

そこには倒したはずの巨大蠍がいた。

配達屋「……あらまぁ」

巨大蠍「ぎしゃあああああ!!」

悪役「い、怒り狂ってやがる……! おいお前! さっきの変身しろよ!!」

配達屋「私、もう魔力がガス欠でして……」

ユニコーン「ひひーん」

配達屋「……これは終わったかもわかりませんね」

59: 2012/10/02(火) 21:15:26.03 ID:BWfqj3+U0
50

--砂漠--

巨大蠍「ぎしゃああああああああああ!!」

チン

その時、小さな金属音が鳴った。

巨大蠍「……ぎゃ、ぎゃ……」

ズル

配達屋「……あれ?」

巨大蠍の身体が左右でズレている。

巨大蠍「ぎゃ、ぎしゃあああああ!!」

ブッシャー!!

巨大蠍は真っ二つに別れて崩れ落ちた。

ズズーン!

配達屋「……いっ、一体何が起きたのでしょう……」

ザリッ

?「おやおや。たまには散歩もしてみるもんでござるな。何もない辺鄙な所だと思っていたのに、まさかこんな麗しき女性と出会えるだなんて」

刀を持った男が巨大蠍の氏骸越しに話し掛けてきた。

悪役「!! 侍隊長!!」

65: 2012/10/03(水) 18:12:30.77 ID:2J6wZuFc0
51

--砂漠--

?改め侍隊長「おやおや、こんな所にいたでござるか。占隊長が探していたでござるよ? アジトを抜け出してなにをしているかと思えば……」

侍隊長は場を見渡して状況を推測する。

侍隊長「何やら善くないことをしていたようでござるな」

悪役「!? そ、それは」

配達屋「助けていただきありがとうございます。あの、どちらさまです?」

侍隊長「おぉ、申し遅れましてござる。拙者砂漠の風の隊の一つを預かる者、侍隊長でござるよ」

配達屋「……砂漠の風の……隊長さんですか」

じり

配達屋は侍隊長との距離をあける。

侍隊長「あ~ご心配無く、我ら一般人には危害を加えないでござるゆえ」

配達屋「え、そうなんですか?」

配達屋は侍隊長の全身を見る。

侍隊長「ござる」

66: 2012/10/03(水) 18:13:10.38 ID:2J6wZuFc0
52

--砂漠--

配達屋「……ではあの方が強盗を働いてみせたのにも然るべき理由があると?」

侍隊長「どうなんでござる?」

悪役「えっ、えっと……」

口籠もる悪役。

侍隊長「むぅ……。どんな組織にも例外はあるということで一つ……」

配達屋「はは……」

配達屋の乾いた笑い。

配達屋「あっ、そうだ、すっかり忘れていました」

配達屋はリュックを下ろし、ごそごそと何かを探り始める。

ごそごそ

侍隊長は悪役に、説明してもらうとでも言いたげな表情を向ける。

悪役(あ~……終わったぞあちき)

67: 2012/10/03(水) 18:13:44.67 ID:2J6wZuFc0
53

--砂漠--

配達屋「ありましたありました。砂漠の風さんにお手紙が一通届いてまして……あ、名前の所が滲んでる」

配達屋が取り出したのはよれよれの手紙。

侍隊長「とすると貴女は郵便関係の方でござったか」

配達屋「あっ、すいません。名乗っていただいたのに自己紹介がまだでしたね」

配達屋は深々と頭を下げた。

配達屋「私は中央郵便局所属の配達屋と申します」

顔をあげる配達屋はにこりと笑う。

侍隊長「……うら若き女子の笑顔汗ばみバージョン……ごくり……はっ!? 拙者の真打ちが反応してしまってござる!?」

慌てて蹲る侍隊長。

配達屋「? どうしました?」

侍隊長「えっ!? い、いやなんでもないでござる!! 絶対になんでもないでござる!!」

68: 2012/10/03(水) 18:14:11.17 ID:2J6wZuFc0
54

--砂漠--

配達屋「大丈夫ですか? どこか具合でも?」

侍隊長「いやむしろ快調な勢いでござる!!」

配達屋「今までのどこに《モナリザの手を見た吉良吉影》になる要素が?」

侍隊長「あぁばれてたッ!! というかうら若き女子がそんな単語を口にするなんてッッ!!」

配達屋「いえ……そもそも私に話し掛けてきた時点で貴方のそれはフル《モナリザの手を見た吉良吉影》でしたし……」

侍隊長「そんな状態で自己紹介してしまったとは!!」

侍隊長は砂に顔を押しつける。

配達屋「いっそ清々しくて、見るからに《モナリザの手を見た吉良吉影》なんだけど実は《モナリザの手を見た吉良吉影》じゃない何かなんじゃないかと自分を疑いました」

侍隊長「それは……気を悪くさせてしまったでござろうな……拙者何の申し開きもござらん」

配達屋「申し開かれても困りますもの」

侍隊長「……全く……我ながら情けない……最近の拙者は若い女子を見るだけで《モナリザの手を見た吉良吉影》してしまうのでござる」

配達屋「健康な身体をお持ちのようで」

69: 2012/10/03(水) 18:14:39.77 ID:2J6wZuFc0
55

--砂漠--

侍隊長「拙者にとって女とは戦場のようなものでござる。戦場を眼にして刀を抜かずにはいられぬでござるのよ!!」

配達屋「いっそ出家しましょう?」

侍隊長「それが拙者両刀なので……」

配達屋「なら去勢しましょう?」

侍隊長「武士が刀を手放すことなどあってはならんでござる!!」

配達屋(というかそれは若い人がいる場所では常にたちっぱということになるのではー……)

侍隊長「あ、そうそうその封筒、拙者が預かるでござるよ。が、拙者今両手が塞がっているゆえ口にくわえさせて欲しいでござる」

配達屋「もう何がなんだか……」

配達屋はそれでも封筒を持って侍隊長に近づき、そっとグシャグシャにして口の中に押し込んだ。

侍隊長「あぐ。あ、あとよければ口汚く罵りながら顔を踏んで貰えると捗るでござる」

悪役(何が捗ると!?)

配達屋「だそうですユニちゃん」

70: 2012/10/03(水) 18:15:07.34 ID:2J6wZuFc0
56

--砂漠の風アジト--

侍隊長「全く、コソドロの真似事とは……砂漠の風の名が泣くでござるよ?」

顔に馬蹄の跡がある侍隊長は険しい表情で悪役を嗜める。

悪役「……申し訳ありません」(さっきのあんたの行動は号泣もんだけど……)

ざり

悪役「あれ、どこへ行くんですか? 隊舎はこっちですよ?」

侍隊長「いやちょっとパンツ汚しちゃったから」

悪役「馬に蹴られていったの!?」

侍隊長「くやしいでも感じちゃうみたいなでござる」

悪役(恐ろしい……てかタフだなこの人。こんな所で強いことアピールしなくても)

71: 2012/10/03(水) 18:15:35.45 ID:2J6wZuFc0
57

--砂漠の風アジト--

侍隊長「あ、あとこの封筒を」

べちょ

悪役「うわ……」

唾液でぐしょ濡れの封筒を悪役は手で受け取る。

侍隊長「うちの副部隊長に渡しといてくれでござる」

悪役「! わ、わかりました!」

侍隊長「……おやおや? 何か急にやる気になった感が……」

悪役「そ、そんなことないですよ! じゃあこのばっちぃの渡して来ます!」

侍隊長「それを渡し終えたらボスのとこで待ち合わせでござる」

悪役「……………………はい」

72: 2012/10/03(水) 18:16:09.15 ID:2J6wZuFc0
58

--砂漠の風アジト--

悪役「……」

悪役は副隊長の部屋の前まで来ていた。そわそわしていて何やら落ち着かない様子……。

悪役(だ、大丈夫かな。あちきまだろくに喋ったことないからな……)

悪役は深呼吸を繰り返し、

悪役(ええいままよ!)

コンコン

??「はい」

悪役「!!……あ、あの、占隊長の部隊の者なんですがっ、さ、侍隊長からお渡しするようにと仰せつかったものがありましてっ!」

??「侍隊長から……? わかりました今開けます」

……トントントン

悪役(はわ、はわわ)

73: 2012/10/03(水) 18:16:35.41 ID:2J6wZuFc0
59

--砂漠の風アジト--

ガチャ
ギィ

悪役「ひっ!?」

現れた男は胸元がはだけたワイシャツ姿。灰色の髪の毛からは水が滴り落ちていた。

悪役「はわ、はわわ!」

??「すいませんシャワーを使っていたものですから……で、うちの隊長から一体何を?」

美形で高身長でおまけに紳士。完璧だった。

悪役「あ、ああ、あの! これ受け取って下さいっ!!」

まるでラブレターでも渡すかのようにそれを渡す。

??「ぐ、ぐしょぐしょ……? なんなんだろうこれ」

男はそっと中身を取り出して見てみる。

??「闇競り市の商品一覧……?」

数百に渡る闇の商品の名前がそこにびっしりと書き込まれている。

74: 2012/10/03(水) 18:17:02.46 ID:2J6wZuFc0
60

--砂漠の風アジト--

??「侍隊長は何と言ってこれを?」

悪役「いえ特には……ただ見てみればわかる、と」

??「……」

男にはわからなかった。

??(クルタ族の目玉を奪ってこいとかそういうことじゃあ無さそうだし……あ)

一つだけアンダーラインが引かれた商品があった。

??「麗しの姫人形?」

悪役「あ、あの! それじゃ私はここで!」

??「あぁ、わざわざありがとう」

男は悪役に笑みを向ける。

悪役「し、失礼しますっ!!」

タタタッ

??「……麗しの姫人形……?」

75: 2012/10/03(水) 18:17:28.69 ID:2J6wZuFc0
61

--砂漠の風アジト、ボスの部屋--

鬼姫「成る程……」

砂漠の風のボスである鬼姫は、高そうなベッドに横になって話を聞いていた。

侍隊長「なので拙者と副隊長に個別行動させて欲しいのでござる」

鬼姫「はー……まぁ元々がそうだったっすもんね。となるとやっぱりもう帰ってこない感じすよね?」

侍隊長「拙者はここに残る所存でござるが……彼は……」

鬼姫「……ん」

侍隊長「鬼姫殿」

鬼姫「んー……まぁしつこい女は嫌われちゃうっすからねぇ。仕方ない……っすかね」

鬼姫は毛布にぐるりと包まった。

侍隊長「恩に着るでござるよ、鬼姫殿」

鬼姫「いいっていいって。君たちはこの三年間身を粉にして働いてくれたっす。このくらいの要望はオッケーすよ」

ごろろん

76: 2012/10/03(水) 18:17:55.25 ID:2J6wZuFc0
62

--砂漠の風アジト、ボスの部屋--

鬼姫「ただし、最後のミッションとして行って貰うっす」

侍隊長「え? 最後のミッション?」

鬼姫「そうっす。あの闇競り市は結構なお宝がざっくざくっす。しかも悪いやつらが非合法に手に入れたものばかり……」

侍隊長「……」

鬼姫「全部奪うっす」

侍隊長「さ、さすがに拙者ら二人だけでは……」

鬼姫「二部隊まで持って行っていいっす、そのかし失敗したら退団は取り消しっす」

鬼姫は八重歯を見せて笑う。

侍隊長「うーん。ただでは起きない御人にござるよ。了解したでござる。拙者の命にかえてもそのミッションはたしてみせるでござる」

77: 2012/10/03(水) 18:18:22.08 ID:2J6wZuFc0
63

--砂漠の風アジト--

ギィ

??「あ、侍隊長。お疲れ様です」

部屋に侍隊長が入ってくるのを確認すると、男は立ち上がって頭を下げる。

侍隊長「さっきの書類、目を通したでござるか?」

??「えぇ……なぜ侍隊長は私にこれを?」

侍隊長「……見てもわからないでござるか? アンダーラインが引かれた商品の説明を見ても」

??「……すいません。よくわかりませんでした」

侍隊長「そうでござるか」

??「侍隊長……今日は泊まっていけるのですか?」

侍隊長「いや今日はそんなつもりで来たのではないのでござる。泊まるけど」

??「よかった。今コーヒーを入れますね」

侍隊長「……本当に……それを読んでなんとも無かったのでござるか?」

78: 2012/10/03(水) 18:18:49.44 ID:2J6wZuFc0
64

--砂漠の風アジト--

??「はい……」

がしっ

侍隊長は男の右腕を掴む。

侍隊長「それには拙者達の大事なものが書かれているのでござる……」

??「そうなんです、か」

男の後ろに回る侍隊長。

??「ですが侍隊長」

侍隊長「ん……?」

??「僕が一番大事に思っているのは侍隊長……貴方だけです」

侍隊長「……」

ベーコンでレタスな感じしかしない。

79: 2012/10/03(水) 18:19:24.85 ID:2J6wZuFc0
65

--砂漠の風アジト--

侍隊長「やれやれ……都合上仕方が無かったとはいえ……ここまででござるな」

侍隊長は腕を放し、懐から一枚の写真を取り出した。

侍隊長「記憶を……取り戻す時が来たのでござるよ」

??「!!……い、いやです」

男は侍隊長の胸に飛び込んだ。

侍隊長「こ、こら」

??「僕は……怖いんです。最初は記憶の無いことに恐怖がありましたが、今は……今の生活は幸せなんです。もし記憶を取り戻して……それで……それで貴方への想いまで……失ってしまったらと考えると」

侍隊長「……光栄でござる……だが、いつかは記憶を取り戻さねばならぬのでござるよ」

??「い、いやです! 侍隊長!!」

侍隊長「今なら力がある……!! さぁ記憶を取り戻すのでござる!! アッシュ殿!!」

侍隊長が突き付けた写真は、ツインテールにしている見た目美少女のお風呂盗撮写真だった。

??改めアッシュ「!? こっこれは!!!! あ、あぐあぐあああ!! あ、頭が!!頭が!!」

80: 2012/10/03(水) 18:20:41.66 ID:2J6wZuFc0
66

--砂漠の風アジト--

アッシュは頭を抱えて叫ぶ。

侍隊長「愛を取り戻せでござる!!」

アッシュ「ぐあああ!! あああああ!!」

アッシュの頭の中にいろんな場面が浮かんでは消える。

『……くん』

誰かの懐かしい声が。

アッシュ「ぐぅぅぅああ!!」

『ッシ……くん』

大事な人の声が頭に響く。

アッシュ「はにゃあああああ!!」

アッシュの髪の色が、徐々に紫に変わっていく。

『アッシュくん』

アッシュ「んあああああああああああああああああ!!!!」

がくっ

激しい叫びの後、アッシュは床に倒れ込む。

81: 2012/10/03(水) 18:21:08.93 ID:2J6wZuFc0
67

--砂漠の風アジト--

侍隊長「アッシュ殿!!」

アッシュ「ツイ……ンテ」

そう呟いてアッシュは涙した。

侍隊長「!! 取り戻したんでござるな!! 記憶を!!」

侍隊長はアッシュを抱えて立ち上がらせる。

侍隊長「いやぁよかった! うまくいくか五分五分でござったが、いい方向に転んだでござるなぁ」

アッシュ「……おい」

侍隊長「ほにゅん?」

アッシュ「触んッじゃねーよクソがッ!!」

びくっ!

侍隊長「あ、アッシュ殿……?」

アッシュ「貴様……お、俺が記憶を失ってる間に……間に!!」

ドゴッ!

侍隊長「あげふっ!!」

82: 2012/10/03(水) 18:21:36.22 ID:2J6wZuFc0
68

--砂漠の風アジト--

ズダーン!

殴り飛ばされる侍隊長。

アッシュ「貴様というやつァ……!」

アッシュは指を鳴らしながら侍隊長に殺意の視線を送る。

侍隊長「ぬ……やっぱりこの三年間の記憶は上書きされずに残ったでござるか……ユーはショック!?」

アッシュ「うるせーよ!!」

げしげし!

侍隊長「い、致し方なかったのでござる!! 戦闘でのダメージと仲間を失ったショックから記憶をなくしたアッシュ殿は、純粋無垢な雛鳥に見えたのでござる!! 小姓にするしか無かったでござる!!」

アッシュ「っざけんなっ!! 記憶をなくした奴によくもあんなことをォォ!!」

げしげし!

侍隊長「うぐぅん! の、のっぴきならない事情があったのでござる!!」

アッシュ「貴様がおもちゃにしたかったっていう事情か!?」

侍隊長「アッシュ殿は記憶を失っていなければ氏んでいたでござろうからな」

83: 2012/10/03(水) 18:22:03.59 ID:2J6wZuFc0
69

--砂漠の風アジト--

ぴた

アッシュ「な……なに」

侍隊長「ふー……アッシュ殿もこの三年間の記憶があるならわかってるでござろう? 鍛練に鍛練を重ねた今のアッシュ殿は、強い」

アッシュ「ッ……!」

侍隊長「……アッシュ殿は仲間がやられたとあれば、遮二無二突っ込んで行ってしまうお方でござる。三年前の弱い時に記憶が戻っていたなら、アッシュ殿は無駄に命を散らしていたでござろう」

アッシュ「……」

侍隊長「アッシュ殿を鍛え上げるには、記憶を失ったままにしておくべきと考えたのでござるよ」

アッシュ「……記憶が上書きされたらどうするつもりだったんだ?」

侍隊長「それでも身体は覚えているはずでござる」

キュッ、と菊が閉まるのを感じるアッシュ。

84: 2012/10/03(水) 18:22:31.38 ID:2J6wZuFc0
70

--砂漠の風アジト--

侍隊長「機は熟せり。アッシュ殿は強くなり、仲間の生き残りの居場所も判明してござる……!! アッシュ殿、行こうでござる!!」

アッシュ「……そうか」

アッシュはくるりと背を向けた。

アッシュ「……確かにお前の言うとおりだ……記憶を失う以前の俺なら、お前の訓練を真面目に吸収したとも思えないしな……礼を言う」

侍隊長「礼には及ばぬでござる……全てはダイヤの原石を磨き上げたいと拙者が思ったことでござれば」

アッシュ「しかし」

侍隊長「む?」

ドゴッ!!

アッシュの回し蹴りが侍隊長の鼻を折る。

侍隊長「あっひょひょわー!!」

85: 2012/10/03(水) 18:23:07.25 ID:2J6wZuFc0
71

--砂漠の風アジト--

アッシュ「……俺を小姓にしてBL三昧する必要はないわけだが……」

侍隊長「そ、それはその……レッスン料と言うか」

アッシュ「」

アッシュはナイフを抜く。

侍隊長(!! やられる!!)

強くなったアッシュが放つ殺意は、侍隊長でさえ危機を感じるレベルである。

アッシュ「お前のせいで……俺のケツがガバガバじゃないかーー!!」

どかーん



悪役「け、ケツ!?」

扉に耳を付けて盗み聞きしてた悪役。

86: 2012/10/03(水) 18:23:33.84 ID:2J6wZuFc0
72

--砂漠の風アジト--

アッシュ「ってわけだ、俺は退団する」

占隊長「うぅ性格が真逆に……可愛くていい子だったのに……」

筋隊長「うはは! そいつぁ淋しいなぁアッシュ!」

忍隊長「抜け忍は切り捨てるのみ……」

鯱隊長「み、水……」

蜂隊長「どうするのブーン? 女王様」

部隊長達の視線が鬼姫に集まる。

鬼姫「……砂漠の風のナイフを持ってここに来た日が三年前っすか……懐かしいっす」

侍隊長「ははは。まさかアジトを指し示す方位磁石の役割もしてようとは、思いもしなかったでござるなぁ」

鬼姫「いずれこうなることはわかってたっす。退団は許可するっすよ」

87: 2012/10/03(水) 18:23:59.34 ID:2J6wZuFc0
73

--砂漠の風アジト--

アッシュ「おう」

アッシュと鬼姫は数秒間見つめ合った。

アッシュ「……世話になった」

そう言ってアッシュが頭を下げると、さっさと部屋から出ていってしまう。

鬼姫「……みんな、退団パーティーの準備っす」

ざわ!

蜂隊長「なっ!? あ、あれを……やるつもりブーン!?」

占隊長「占い結果……大凶……」

忍隊長「主のためなら氏地にゆくのもまた……」

筋隊長「うははっ! うはっ……ははっ……」

鯱隊長「」

侍隊長「?一体何が始まるんです?」

88: 2012/10/03(水) 18:25:00.12 ID:2J6wZuFc0
74

--砂漠の風アジト、外--

その夜。

鬼姫「奇跡のカーニバルの始まりだ!!」

ワー!

アッシュ「……何が始まったコレ……」

男は全て女装状態。

占隊長「砂漠の風の退団式はね……いっつもこうなのよ」

山盛りの食事に樽で積まれる酒。

鬼姫「さーさー! 今日はとことん酔いつぶれてもらうっすよ!! アッシュ君!!」

アッシュ「あれ? 俺って飲んでいいんだっけ?」

鬼姫「大丈夫大丈夫、この作品の登場人物は18歳以上ですって言っておけばなんとかなるっす」

アッシュ「工口ゲじゃないのよ!!」

89: 2012/10/03(水) 18:26:41.51 ID:2J6wZuFc0
75

--砂漠の風アジト、外--

筋隊長「がはははー!! めでたいぞー!! 皆で舞えー!!」

ブラジャーのみで踊っている筋隊長。

どんちゃんどんちゃん

アッシュ「……」

侍隊長「……少し、名残惜しいでござるか?」

一人飲んでいたアッシュの元にセーラー服を着た侍隊長がやってくる。

アッシュ「……」

アッシュはグラスを傾ける。

侍隊長「あのパーティと負けず劣らず、いい人ばかりでござったろう?」

アッシュ「……」

わははははーー

アッシュ「……あぁ」

侍隊長「……」

アッシュ「だがそれでも、俺には助けたい仲間がいる。護りたいものがある」

スク水姿のアッシュは決め顔でそう言った。

90: 2012/10/03(水) 18:27:47.14 ID:2J6wZuFc0
76

--荒野--

日付が変わり、またも照りつけるような太陽が現れた。

かっぽかっぽ

配達屋「いやぁ、本当砂漠を抜けただけでも天国に感じますね。例え何もない荒地であっても」

ユニコーン「ひひん」

配達屋「無事配達物も渡せて万々歳でした。さて、ちゃっちゃともう一つの重要配達物を届けにあがりましょうか」

配達屋は新しい地図を広げてるのだが頭を傾げる。

配達屋「うーん……最近出来たばかりで……わかりづらいですね」

ユニコーン「ひひん?」

配達屋「いや、王国の入り口は確かにここら辺のはずなんですが、それらしきものはどこにもあらず……はて……」

ユニコーン「……ひひん」

ぶるる、っとユニコーンは進行方向を変えた。

配達屋「え、なんです? そっちじゃありませんよユニちゃん。そっちは崖」

ぱからっぱからっ

ユニコーンは制止を無視して走りだした。

91: 2012/10/03(水) 18:28:30.11 ID:2J6wZuFc0
77

--荒野--

配達屋「え、えぇ!? ユニちゃん何やってますか!? そっちはあかんですよぉ!? 反抗期っ!?」

ダカッ

ユニコーンはためらうことなく跳躍した。

配達屋「氏にました」

潔いまでに諦めるのが早い配達屋。

ダカカッ

配達屋「とっ、あれ?」

しかし、なぜかユニコーンは空中に着地した。まるで見えない足場があるかのように。

配達屋「こ、これはまさか……カイジ的な!?」

かっぽかっぽ

そのまま空中を進むユニコーン。顎がとがる配達屋。そして、

びゅうん

配達屋「!……わぁ」

あるラインを越えると、幻想的な光景が辺りを塗り潰すかのように出現した。

92: 2012/10/03(水) 18:29:15.72 ID:2J6wZuFc0
78

--魔法王国--

配達屋「成る程……妖精の隠れ里と同じ手法で隠していたんですか……すごい……」

飛び回る妖精、魔法をかけられた家具や変わった姿の生き物が歩いていた。

魔法王国門番兵「お嬢さん、何しに我が魔法王国に?」

配達屋「あ、はい。私はお届けものがあって参りました。これがその手紙です」

魔法王国門番兵「ふむ……む! あの方に……成る程、こちらで渡しておきましょう」

配達屋「できればそうしていただけると助かるのですが、そうもいかないのです。その手紙の印を見て下さい」

魔法王国門番兵「印?……これは、第二級重要書物の印!」

配達屋「そうなんです。というわけで中立である私がそのまま渡さなくてはならないんです。なので入国許可と一日滞在許可を発行して頂きたく……」

魔法王国門番兵「成る程、わかりました。見ればお疲れのご様子ですし……休まれていって下さい」

門番兵は赤い石を配達屋にかかげて反応を見ながらそう言った。

門番兵「ん、大丈夫なようですね。ではようこそ魔法王国へ。夢のような一時をお過ごし下さい」

配達屋(テーマパークみたい)

ユニコーン「ひひん」

かっぽかっぽ

配達屋は魔法王国の門を潜る。

93: 2012/10/03(水) 18:29:46.38 ID:2J6wZuFc0
79

--魔法王国、魔法学校--

ガヤガヤ

講堂に集まった学生達は、講師が来るのを今か今かと待っている。

チャラ学生「おいお前聞いたか? 次の授業の講師のこと……」

眼鏡学生「もちろんです。まだ授業を通じて会ったことは無いですが、あの人を知らないほうがモグリと言うものですよ」

筋肉学生「何を隠そう、私はあの人の授業を受けたいがために、この魔法王国の学生となったのだ」

チャラ学生「ちぇ、なーんだみんな知ってんのかよ」

眼鏡学生「最年少で魔法学士就任、魔法属性変換の研究、錬金術における数多の発見……あの人の業績は素晴らしいものです。この国の人間でなくても知っていて当たり前でしょう」

チャラ学生ははんっ、と鼻を鳴らす。

筋肉学生「くぅぅ~……やっと、やっとあの人に教鞭をふるって貰えるのだなぁ!! 感激!!」

筋肉学生は涙を流して喜んだ。

ヤモリ学生「うっわ、きっしょ……」

女学生の冷たい言葉の刃が筋肉学生を切り付ける。

94: 2012/10/03(水) 18:30:15.04 ID:2J6wZuFc0
80

--魔法王国、魔法学校--

チャラ学生「うっせーぞ亜人が!」

眼鏡学生「こらこら……口を謹みたまえチャラ学生君。その発言は差別的意味を含んでいる」

筋肉学生「うん、差別はダメだぞ差別は。亜人はもう人と同じ地位にいるんだからな」

ヤモリ学生「ふんっ」

チャラ学生「ちっ……お前のために言ったのによ」

眼鏡学生「誰のためでもです。亜人は人と並ぶ優秀な友人なのですから。それに亜人を悪く言うとあの人も機嫌を悪くされるでしょう」

ガララッ

チャラ学生、眼鏡学生、筋肉学生、ヤモリ学生「「「!!」」」

その時教室のドアが開かれた。

カッカッカッカッ

すました顔で入ってきたスレンダーな女性。

眼鏡学生(雪とみまちがうばかりの美しい白色の髪……)

筋肉学生(見るものの心を射ぬく赤き瞳……)

ヤモリ学生(足なっが)

チャラ学生「……猫耳」

?「みんな席に着くにゃ」

ミニスカで黒タイツで眼鏡で猫耳な講師が現れた。

117: 2012/10/08(月) 19:47:45.18 ID:g1plYckf0
こんばんは。投下に来ました。
色々リンクを貼っていただいたり説明していただいたりとありがとうございます!!

えとご察しの通りこのssには前作、前々作がございます。なるべくこのssだけでも楽しめるようにしたいとは思っていますが、前のを読んでるとほんのすこし楽しくなれるかもしれません。

あと、≪このssで出てくるなんか見たことあるようなキャラ≫がいるかと思いますが、そのキャラをモチーフ(パクリ?)にしているだけでそのキャラと完全に同じ性格だったり口調だったり強さだったりするわけじゃありません。ご了承ください。

118: 2012/10/08(月) 19:48:14.66 ID:g1plYckf0
81

--魔法王国、町--

ぱかっぱかっ

配達屋「は~……初めて来ましたがすごいもんですねぇ」

ユニコーン「ひひーん」

配達屋「魔法に特化するとここまで国の様子が変わるものなのですね、勉強になりました」

かぽっかぽっ

飴売り「そこの可愛らしいお嬢さん、魔法飴買っていかないかい?」

そう言って屋台の飴売りは、棒付きの大きな飴を配達屋に差し出した。

配達屋「魔法飴……? そうですね、いただきましょうか。例えよそで売っている飴と何ら変わらないのに名物っぽく売っているだけの商品だとしても」

飴売り「ひでぇ!?」

お金を渡して飴を受け取る配達屋。

119: 2012/10/08(月) 19:48:45.80 ID:g1plYckf0
82

--魔法王国、町--

飴売り「言っておくけど……魔法飴は読んで字のごとく魔法飴だ。心して舐めるんだな」

配達屋「何をおっしゃいますやら」

ぺろ

配達屋「!? これは青酸カリ!?」

ざわ

町を歩く人達が一斉にこちらに視線を送る。

飴売り「営業妨害だ!?」

配達屋「なんてね。なんてことないおいしい飴ちゃんです」

ぺろぺろ

配達屋「!」

しかし、舐めていると飴が光り出したではないか。

120: 2012/10/08(月) 19:49:16.19 ID:g1plYckf0
83

--魔法王国、町--

飴売り「ふふ……ここからが真骨頂だぜお嬢さん……うちの魔法飴には色んな魔法がかかっていてな」

ぽぅっ

飴が強く輝き始める。

飴売り「一定回数舐めると魔法が発動するのさ!! 売ってる俺にもどれがどれだかわからねぇが、そ」

バツン

ユニコーン「」

魔法町娘「」

魔法町青年「」

魔法町おじいさん「」

魔法町蟻「」

配達屋「……」

配達屋の服が弾けて粉々に。

飴売り「……トラブる飴だったみたいだな」

配達屋「訴訟」

121: 2012/10/08(月) 19:49:45.36 ID:g1plYckf0
84

--魔法王国、魔法学校--

カッカカッカッカカッ

黒板に錬金術の方式を書いているゴーレム。

?「という理由から一般的にはこちらの手法を優先することが多いにゃ。でもこれはそこまで時間をかけるようなプロセスとは思えないのにゃ。だからこっちの――」

眼鏡学生(くぅ……どの説明にも経験に裏打ちされた確かなものを感じます……)

筋肉学生(錬金術師は基本的に前線に立たないものだからな……異色の経験がここまでの技術を生んだのか)

ヤモリ学生(なるほどね……戦闘時には速くて効果的なものがいいものね……言われてみると確かにいらないものだと思えてくる)

カリカリカリカリ

チャラ学生「……」

チャラ学生はずっと講師を見ていた。
椅子に座って足を組み、ただ本に目を通しながら喋っているだけの講師。それが本当に優秀なのかと。

チャラ学生(まぁ……同時に三体もゴーレムを作り上げて操ってるのを見るとあながち嘘じゃないんだろうけど)

一体のゴーレムは黒板に文字を書き続け、一体のゴーレムは魔力の流れを模型で説明し、一体のゴーレムは講師の肩を揉んでいた。

122: 2012/10/08(月) 19:50:16.09 ID:g1plYckf0
85

--魔法王国、魔法学校--

チャラ学生(というか自立稼動にしたって、ここまで繊細に操るなんてそれはまるで人形師じゃねぇか)

眼鏡学生「チャラ学生君、ノートを取らないのかい? これだけの講義、ちゃんと記録しておかないと後で後悔するよ?」

チャラ学生にひそひそ声で話し掛ける眼鏡学生。

チャラ学生「……よし」

チャラ学生は輪ゴムで小さな弓を作り始める。そして鉛筆の芯を削り出して矢を作成。

眼鏡学生「ちょっと何をするつもりですか」

チャラ学生「まぁ見てろよ」

チャラ学生はお手製の弓に魔力を流す。

眼鏡学生「そんな弓矢でも魔力による強化でそこそこ威力がでます。いたずらにしては過ぎてますよ」

チャラ学生「それほど優秀ならこんなもの目を瞑ってたって避けれらぁな」

びっ、ガシッ

チャラ学生、眼鏡学生「「!?」」

発射した矢は講師に届くどころか、放った瞬間、チャラ学生の机から腕が生えてきて矢を掴んだ。

123: 2012/10/08(月) 19:50:45.28 ID:g1plYckf0
86

--魔法王国、魔法学校--

チャラ学生「なっ……」

材質は机と同じ木。

眼鏡学生「この距離にあるものを……一瞬で錬成したのですか?」

ざわざわ

チャラ学生「はっ!」

チャラ学生が気付いた時にはゴーレムに首根っこを捕まれていた。

?「おいたをするほど元気があまっているにゃら、実技の手伝いをしてもらおうかにゃ」

とんっ

ゴーレムはふわりと跳躍して講師の横に着地する。

?「そうだにゃ……人体を錬金術で改変してみるかにゃ?」

チャラ学生「ひっ、ひぃ!?」

ルビーのような赤い眼に見つめられ、チャラ学生は恐怖を覚えた。

124: 2012/10/08(月) 19:51:38.52 ID:g1plYckf0
87

--魔法王国、魔法学校--

こんこんっ、がちゃ

人形師「失礼しまぁす。先生、ちょっとこちらへぇ」

?「あ、はい。なんですかにゃ?」

講堂のドアを開け、人形師は手招きしている。

人形師「こちらの女性が貴女に配達物があるとかでぇ」

配達屋「……」

そこにはタオルで身体を隠す痴女がいた。

?「……一体……」

配達屋「これを……どうぞ……」

?「?……」

差し出された手紙を受け取った講師は魔力を流して開封した。

?「……!? これは!!」

125: 2012/10/08(月) 19:52:13.62 ID:g1plYckf0
88

--魔法王国、魔法学校--

カッカッカッカッ

早足で廊下を行く二人。

人形師「どうしたんですかぁいきなりぃ。授業ほっぽっていくだなんてぇ」

?「急ぎの用事が出来ましたにゃ人形師先生」

人形師「急ぎの用事ぃ?」

?「と……」

講師はくるりと振り返り人形師に頭を下げた。

?「先に言っておきますにゃ。人形師先生、三年間ご指導ありがとうございましたにゃ」

人形師「? なんです急にぃ……まさか貴女ぁ、ここを出ていくおつもりでぇ?」

?「はい」

人形師「むぅ……それほどの用事となると……あれですかぁ。いえ礼にはおよびませんよぉ、貴女を育てることは北の王国の意志であり、北の王国のためにもなりますからぁ」

?「はい……」

人形師「自分の信じる道をいきなさぃ。後悔なきように」

人形師は顔をしわくちゃにして笑った。

126: 2012/10/08(月) 19:52:45.88 ID:g1plYckf0
89

--魔法王国、町--

配達屋「やれやれ、この職についてからずっと使っていたお気に入りの服でしたのに……まぁでも損害賠償でふんだくったお金もありますし、新しくていい服が買えるとプラス思考でいくことにしましょう」

ユニコーン「ひひーん」

配達屋「あなたに服なんていらないでしょー? 年がら年中全裸なんだし。局部丸だしだし」

ユニコーン「ひひーん」

配達屋「いいんです。お馬さんなんですから存分にちOちんぶらぶらさせちゃってください」

取りつく島もなく、配達屋は一人で服屋に入っていった。

服屋店員「いらっしゃいませお客様。何をお求めでしょうか?」

配達屋「ぱんちらしただけで男を魅了できるようなパンツを所望します」

その客は来店した直後、タオル一枚でそう言った。

127: 2012/10/08(月) 19:53:23.89 ID:g1plYckf0
90

--魔法王国、魔法学校--

カッカッカッカッ

?「!」

疾風「とっ、なんや……あんたたちも魔導長に用があるん?」

曲がり角から早足で歩いてきた疾風とぶつかりそうになる。

?「うん。話したいことがあるにゃ。疾風もかにゃ?」

疾風「そうなんよー。丁度空き時間できたからお昼いこーって思っとったのに急に呼び出されてなー」

残念そうな顔で疾風は肩を落とす。

人形師「ふぇっふぇっふぇっ。食べてばかりいるとすぐ太ってしまいますぞぉ」

疾風「なっ!? れ、レディに向かってなんてこと言うんやこのじい様は!!」

?「……例え多少太るんだったとしてもここに行くならそれもいいにゃ……」

講師は自分の胸を揉みながら切なそうな顔をした。

疾風「全く。ほなら一緒にいこか」

128: 2012/10/08(月) 19:54:14.76 ID:g1plYckf0
91

--魔法王国、魔法学校--

コンコン、ガチャ

疾風「失礼しますー。どうしたんや魔導長ちゃん。何かあったん?」

?「失礼しますにゃ」

人形師「なぜかわしも失礼しますぅ」

魔導長「なぜ呼んでない二人まで来ちゃったの?……まぁいっか。それがね疾風ちゃん、まずいことになったなの……北の王国が落とされたなの」

人形師「!?」

?「!!」

疾風「なんやてッ!? そんな……じゃ、じゃあ魔王軍は」

魔導長「うん……これから各国の王で話し合いが行われるなの。私はこれから黄金王国に行ってくるから留守は頼んだなの」

疾風「そ、それはわかったけれど……」

疾風は振り返って二人を見た。

疾風(この二人は北の王国出身やったな確か……)

129: 2012/10/08(月) 19:55:10.05 ID:g1plYckf0
92

--魔法王国、魔法学校--

人形師「……北の王や残りの三隊長、それと国民はどうなったんですかぁ?」

魔導長「詳しくはまだわからないなの。でも国民のほとんどは脱出に成功してるらしいなの」

人形師「そう、ですかぁ。不幸中の幸いですなぁ」

?「……人形師先生」

人形師「きっと王と召喚士と狩人が上手くやったのでしょうなぁ……」

人形師はさびしそうな目で、窓の外の空を見る。

疾風「……ッ」

魔導長「酷だとは思うけど感傷に浸っている時間はないの。これから貴方は我が国に所属してもらうなの。そして北の王国の難民の受け入れの指揮を貴方に頼みたいの」

人形師「! ……そうですなぁ。北以外ではここに一番住んでいたわけですしぃ、貴女達には恩がありますしぃ……しかと了解いたしましたぁ」

魔導長「うん。これからもよろしく頼むなの。じゃあ私はちょっと行ってくるなの」

ガララ

魔導長は窓を開けて箒に跨り飛んで行った。

?「……!? し、しまったにゃ!! 言うの忘れたにゃ!!」

130: 2012/10/08(月) 19:55:55.08 ID:g1plYckf0
93

--魔法王国、魔法学校--

ガガァン!ギィギィン!

迅雷「っ! こ、こら待ちなさい!! ちゃんと授業に出なさい!!」

??「もー、こんなことしてらんないんだってばー。私は早く戦場に戻りたいんだから」

逃げる少女と追う女性。両者の共通点は両手に剣を握っていること。

チィギィアン!!

迅雷「ダメ! まだ貴女はここで学ぶことがあるよ!!」

学園の屋根の上を駆ける二つの光。

??「仕方ないなぁ。今日こそは迅雷お姉ちゃんを倒して出ていくから!」

ズガァァン!!

迅雷「っ!!」

ガガガガガァン!!

雷の剣と火の剣による猛烈な打ち合いは神速の域にある。

131: 2012/10/08(月) 19:56:41.05 ID:g1plYckf0
94

--魔法王国、魔法学校--

??「っ! やるじゃん迅雷お姉ちゃん」

迅雷「なっ!……貴女に剣技を教えたのは誰だと思っているの!」

ギィンギィンギィンギィン!!

迅雷が振るう剣の速度が先程のそれを越える。

??「っくあ! それでこそ迅雷お姉ちゃん!!」

ギッギギギギン!!

しかし、それを全て捌く火の剣の使い手。

??「ねぇ、奥義は使って来ない、のっ!?」

ギィン!!

迅雷「っぐ!? あ、貴女に使うわけがないでしょ!?」

132: 2012/10/08(月) 19:57:32.99 ID:g1plYckf0
95

--魔法王国、魔法学校--

??「……ふーん」

ギィアン!!

??「じゃあ負けちゃうかもよっ!!」

ギシアン!

迅雷「っ!! いい加減にしなさい!! 雷属性移動速度上昇魔法、レベル3!!」

バチバチバチ!!

??「おっ!」

迅雷が雷を纏ったと思った瞬間、

ズバッ!!

??「」

少女は雷の剣によって斬られていた。

133: 2012/10/08(月) 19:58:04.39 ID:g1plYckf0
96

--魔法王国、魔法学校--

迅雷(……!? この感触は!!)

??「残念でした!!」

迅雷が振り替えるより速く、

ボッ

火炎の球が迅雷にヒットする。

迅雷「ぐっ!!」

ボボボッ!!

追撃の火炎球、先の一撃で衣服を焼かれながらも、迅雷は冷静にそれらを弾く。

迅雷(く……今日はいつもと違う……? この子いつの間にこんな……)

??「さぁ行くよ迅雷お姉ちゃん、決着をつけちゃおう」

ボッ!

少女の双剣が燃え上がる。

迅雷(こんなところ魔導長に見られたら大変なのに……早く決着をつけなきゃ!!)

134: 2012/10/08(月) 19:58:53.67 ID:g1plYckf0
97

--魔法王国、魔法学校--

?「そこまでにゃポニテ」

??改めポニテ「へっ?」

小さなポニーテールを揺らしてポニテが振り向くと、

ぎゅるる

ポニテは魔法の紐で縛り上げられてしまう。

ぎゅるる

ポニテ「あっ! トラブるになっちゃう!!」

たわわに実った乳に巻き付く紐。

?「うるさいにゃデカ乳」

135: 2012/10/08(月) 19:59:42.74 ID:g1plYckf0
98

--魔法王国、魔法学校--

ポニテ「もー、せっかく面白くなってたとこなのにー。てか授業中じゃなかったのレンちゃん?」

?改めレン「それどころじゃ無くなったんだにゃ」

レンはそう言うと一枚の手紙をひらひらと振るう。

ポニテ「!! それって!」

バチュ!

ポニテは拘束していた紐を破壊するとレンに駆け寄った。

迅雷(!! 拘束魔法をいともたやすく……)

ぺら

ポニテ「!!……これがそうなんだよね?」

レン「多分間違いないにゃ」

ポニテ「……」

ポニテの顔つきが真剣に変わる。

136: 2012/10/08(月) 20:00:20.54 ID:g1plYckf0
99

--魔法王国、魔法学校--

迅雷「……? それは一体」

魔導長「なんの手紙なの?」

ポニテ、レン「「!?」」

二人に気付かれることなく、彼女らの上空にいた魔導長。

迅雷「!? ま、魔導長!?」

ポニテ「っ!」

レン「……そんな、出て行っちゃったかと思ったのに」

魔導長「忘れ物を取りに来たの。それでそれは一体なんの手紙なの?」

再度聞きなおす魔導長。

ポニテ「……大事な友達の行方だよ」

魔導長「……」

レン「……だからレン達はすぐにでもここを出ていかせてもらうにゃ」

迅雷「へ、へ!?」

137: 2012/10/08(月) 20:01:19.17 ID:g1plYckf0
100

--魔法王国、魔法学校--

レン「さっき言おうと思ったんだけどタイミングが悪くてこんなことになっちゃったにゃ……ごめんにゃ」

魔導長「……少し勝手すぎるなの」

ポニテ「ごめん魔導長お姉ちゃん、でも私達はこの日が来るのをずっと待ってたんだ!!」

魔導長「……なるほどなの。私達を利用して強くなるのが目的だったの……この国の為に役立ってくれるものだとばかり思っていたの……」

レン「……結果的にはそうなるにゃ」

迅雷「ちょ、ちょっとみんな! 何を言ってるの!?」

制止に入る迅雷。

魔導長「レンちゃんは優秀だから学園長になってもらいたかったの……ポニテちゃんには次の魔導長になって貰おうと思ってたの……」

迅雷(あれ!? 魔導長の職は私か疾風じゃないんだ!?)

ポニテ「ごめん……」

レン「ごめんなさいにゃ」

ヴキヴキヴキ

ポニテ、レン、迅雷「「「!!」」」

魔導長から魔力が溢れだす……不可思議な魔力……何も感じ取れないがゆえの、無色の恐怖。

魔導長「少し、頭冷やそうか」

147: 2012/10/15(月) 22:36:12.98 ID:a6wAm26H0
  ( ゚д゚)  「さぁて今日も投下するか……ん?145?」
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_ 
  \/    /
     ̄ ̄ ̄


 
  ( ゚д゚ )
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_ 
  \/    /
     ̄ ̄ ̄



シノビン……なんちゅうことをしてくれたんや…なんちゅうことを…



以下強引後付け修正

・なぜあの時東の王国の証明書を持っていたのか?
シノビは東の王国が定めた勇者のパーティの一員だったのだが、東の勇者の命令で十代目を暗頃しに出向くが、十代目に惚れこんでしまい東の勇者パーティを脱退、十代目パーティに加入したのでした。
つまりシノビンはうっかり屋さんなので間違えて昔の証明書を出してしまったのです。(見直したら丁度地震があった頃なんですね。もうそんなに前のことだったとは……)

・なぜ北の王国の証明書が二パーティ分あるのか?
北の王国内部深くにまで入っている亜人保護団体が、亜人の勇者を認めさせるために強引に作りあげたのです(国の意向とは関係無く)。違法ですが勇者の力は本物になってしまったという話で……。



というわけで謝って!! シノビンのせいだから謝って!!


シノビ「……わかった」
http://wktk.vip2ch.com/upload.cgi?mode=dl&file=598
パス971


という茶番なんですが、ご指摘本当にありがとうございます。自分としても矛盾などがありましたら出来る限りこじつけてでも改善したいと思っているので、また何かありましたらよろしくお願いいたします。そのつどそのキャラに詫びさせますので(ゲス顔)

今回は本当に申し訳ございませんでした!!



そしてすぺしゃるさんくす友人

148: 2012/10/15(月) 22:37:32.28 ID:a6wAm26H0
あ、↑は15禁?くらいになるかと思います。どうぞ自己責任でご観覧くだしあ

149: 2012/10/15(月) 22:37:59.56 ID:a6wAm26H0
101

--魔法王国、魔法学校--

ディン!!!!

世界がピンクに染まった。

ポニテ、レン「「!?」」

ポニテとレンの体が拘束魔法を受け、身動きが取れなくなる。

迅雷「!! ま、魔導長!! いくらなんでもそれは!!」

魔導長「……」

ヴキヴキヴキ

世界中から魔力を吸い上げる魔導長の人差し指。

ポニテ「……ふ、ふふふ!!」

レン「なるほどにゃ……受けてたつにゃ」

ババチッ!!

拘束魔法を引きちぎり迎撃準備に入る二人。

150: 2012/10/15(月) 22:39:09.40 ID:a6wAm26H0
102

--魔法王国、魔法学校--

迅雷(くっ、私が護るしか!!)

二人に駆け寄ろうとした迅雷だったが、

魔導長「降れ、降らせ星の光よ。奥義、星光破壊砲」

迅雷「え」

それよりも早く星の光は結集し、強烈な魔力砲が放たれた。

ズムッ

ポニテ「」

レン「」

ドギョギョgyゴヨギョギョギョギョギョギョgyゴyゴyゴyゴyゴyゴyゴygーー!!!!!!!!!!!!!!

151: 2012/10/15(月) 22:39:37.13 ID:a6wAm26H0
103

--魔法王国、魔法学校--

迅雷「ぐっ!」

衝撃波で迅雷すら近寄ることが出来ない。それを途切れることなく二人は浴びせ続けられている。

ギャギャギャギャギャ!!

魔導長「……?……!?」

しかしポニテとレンはその中で動いていた。

ギャギャギャギャギャ!!

迅雷「!! 魔力障壁間に合ったのか!!」

とはいえ完全に押し負けていて、立つこともままならない。

ポニテ「ッ!」

レン「っ……っ」

152: 2012/10/15(月) 22:40:25.01 ID:a6wAm26H0
104

--魔法王国、魔法学校--

ギャギャギャギャギャ!!

ポニテ(な、長い……!)

レン(重いにゃ……でも!)

ポニテの両剣が少しずつ持ち上がっていく。

魔導長「……」

レンがガクガクと震えながら立ち上がる。

迅雷「ポニテ……レン……」


  ポニテ、レン「「あの時の、心の痛みに比べたらへでもない!!」」


レンはポニテの魔力でできた剣を強化する。

バシュッ!!

それはまるで黄金でできているように輝きを発した。

153: 2012/10/15(月) 22:40:56.43 ID:a6wAm26H0
105

--魔法王国、魔法学校--

レン「いくにゃ!! ポニテ!!」

ポニテ「はぁああああああああああああああ!!」

ドババババババアアアアアアア!!

ポニテの一振りは魔導長の魔力砲撃を切り裂いた。

ドッドォォン!!

二手に別れた魔力の束はポニテとレンの両脇を破壊し、大きな煙があがる。

ポニテ「……」

レン「……」

魔導長「……」

ポニテ「し、しまった学校が」

魔導長「……まさか斬るなんて思わなかったの」

154: 2012/10/15(月) 22:41:27.46 ID:a6wAm26H0
106

--魔法王国、魔法学校--

シュウウウ……

レン「大丈夫にゃ。そんなこともあろうかとゴーレムを下に待機させてたにゃ」

魔導長「!……レン」

レン「魔導長、お世話になったにゃ。あの戦争の後拾ってくれて無かったなら、この国で匿ってくれて無かったなら、レン達はきっと氏んでいたにゃ」

魔導長「……」

迅雷「レン……」

ポニテ「今があるのは魔導長お姉ちゃん達の……ううん、この王国のみんなのおかげだよ」

魔導長「……」

ポニテ「でも行かなきゃいけない……生き残った仲間の手がかりを見つけたんだ!」

レン「……あの子は……私達みたいに幸運がついていなかったんにゃ……」

155: 2012/10/15(月) 22:42:02.25 ID:a6wAm26H0
107

--魔法王国、魔法学校--

魔導長「……」

ポニテ「助けだす。例え何を犠牲にしようとも」

レン「仲間以外で、にゃ。また繰り返すことになるにゃよ?」

魔導長「……」

ふぅ、とためいきをついて、

魔導長「……仕方ないなの。奥義を使ってもノックダウン出来なかったんだから、あなたたちに無理やり言うことを聞かせることは出来ないなの」

ポニテ「!?」

レン「それじゃ!!」

魔導長「外出許可をあげるなの」

ポニテ「へ?」

レン「外出?」

魔導長「そう外出……だから……」

魔導長は仕方なさそうに微笑んだ。

魔導長「全てが終わったらまたここに帰ってきてなの。絶対氏んだらダメなの」

156: 2012/10/15(月) 22:42:30.10 ID:a6wAm26H0
108

--魔法王国、魔法学校--

迅雷「……魔導長」

ポニテ「……うん! わかったよ魔導長お姉ちゃん……」

レン「心得たにゃ……」

魔導長「ちなみにどこに行く予定だったの?」

ポニテ「……えっと」

ポニテはレンの方を見る。

レン「暗黒森林にゃ」

魔導長「!!」

迅雷「!? な、なんだってそんな所に……!」

魔導長「……そう……そうなの……そのお友達は……」

ポニテ「うん……世界一の無法地帯で行われる闇競売に出品されるみたいなの」

魔導長「おい語尾」

迅雷「!!……な、なんてこと……」

レン「だから早く助けにいかなきゃいけないのにゃ!!」

157: 2012/10/15(月) 22:42:58.74 ID:a6wAm26H0
109

--暗黒森林、屋敷--

大カバ亜人「ぶふー。このワインも飽きたみゃー」

大きな洋館の一室でくつろいでいた大カバ亜人は、召使に酒をぶっかける。

召使「きゃっ」

大カバ亜人「うっく……うぅ……忌々しい政府役人共め……金を握らせているくせに最近はえらく調子づきおって……おかげで収入が下がっておるでみゃあか」

大カバ亜人はクラッカーを汚く食い散らかす。

大カバ亜人「おかげで色々とコレクションを手放さなきゃいけなくなったみゃ……くそっ!」

ダン!

召使「ひっ!?」

打ち付けた大カバ亜人の右腕は、いともたやすく金属でできたテーブルをひしゃげた。

大カバ亜人「見納めでもするかみゃあ。おらお前達!! さっさとあれらを持ってくるみゃ!」

158: 2012/10/15(月) 22:43:28.02 ID:a6wAm26H0
110

--暗黒森林、屋敷--

召使「っ……」

召使達は急いで隣の部屋から荷物を取ってきた。

大カバ亜人「ふみゅう……」

大カバ亜人はコレクションを見渡す。

大カバ亜人「この絵はバカな商人が氏ぬほど大事に持っていたものだったんだみゃあ。氏ななきゃ手放さないなんてまったく頭が悪すぎみゃあ」

次に触れたのは赤い壺。

大カバ亜人「これは……あー、思い出した、どこかの部族に伝わっていた呪いの壺みゃぁ。村から持ち去った者には不幸が訪れるっちゅう話だったがぁ、呪いを解除しちまえばいいだけの簡単な話だったみゃあ」

部族と運び屋は全員氏んだっけ、と続ける。

大カバ亜人「……そして」

?「……」

大カバ亜人が近寄ったのは水色の髪を持つ美しい少女。

159: 2012/10/15(月) 22:43:58.08 ID:a6wAm26H0
111

--暗黒森林、屋敷--

大カバ亜人「ぐっ……この生ける宝石! 麗しの美顔!!……くぅ……我が人生最大の屈辱みゃあ!!」

バチッ

大カバ亜人が顔に触れようとすると見えない何かに弾かれる。

大カバ亜人「あぎゃっ!……むぅぅ! 触れることも出来ぬのならいらぬみゃあ!!……だが……実に名残惜しい……」

?「……」

光の無い瞳。動かない表情。眼を半開きにしたままでいるそれは、それは……まるで人形だった。

大カバ亜人「……いい拾い物をしたと……思っていたのに……」

大カバ亜人は心底悔しそうな表情で唸る。

?「……」

160: 2012/10/15(月) 22:44:40.39 ID:a6wAm26H0
112

--魔法王国、魔法学校--

疾風「あぁほんまに行ってしもたんやなぁ。寂しうなるなぁ」

迅雷「うん……ポニテ大丈夫かな。あの子ろくに授業も出てなかったから……心配だ……」

迅雷は紅茶の入ったカップを見つめている。

疾風「へ?……いや迅雷ちゃん、あの二人の実力ならなんも心配ないやろ? あの二人にタイマンで勝てるのなんて、よくて三強レベルや」

迅雷「レンはそうかもしれないけどポニテは……」

疾風「いやいやポニテもや……って、なんや迅雷ちゃん気付いてへんかったの? ポニテはかなり強いで? なんせこの三年間のほとんどを迅雷ちゃんとの模擬戦に費やしてたんやし」

迅雷「……模擬戦? 何それ?」

疾風「……ほんまに気付いてなかったんや……ポニテは脱走するふりをして、追いかけてくる迅雷ちゃんとバトルしたかったんよ」

迅雷「!? ……そ、そんなの言われたらいつでもやってあげたのに……」

疾風「模擬戦だと優しい迅雷ちゃんは本気になれない、ってのがわかってたんやろな~」

迅雷「……」

161: 2012/10/15(月) 22:45:20.43 ID:a6wAm26H0
113

--魔法王国、魔法学校--

疾風「あと今だから言っちゃうと、ポニテは授業にこそでていなかったけれど、自室でちゃんと魔法の勉強していたよ」

迅雷「……えっ!? えっ!?」

疾風「おかげでよく夜に呼び出されてたもんで、寝不足が絶えなかったわぁ……ふわぁ」

迅雷「……」

疾風「ん? なんでそんな怖い顔しとるんや?」

迅雷「……なんでそのこと知ってて私達に言わなかったの?」

疾風「気付いとるかなーって思ってたしなぁ。あえて言うこともないかと」

迅雷「……」

疾風「魔導長ちゃんは気付いてたみたい……だし」

迅雷「……むきーーーーっ!!」

迅雷は疾風に飛び付いた。

162: 2012/10/15(月) 22:45:52.75 ID:a6wAm26H0
114

--暗黒森林、屋敷、地下牢--

がこぉん

召使「さぁ身体を拭く時間ですよ」

?「……」

ごそ、しゅる

召使は少女の服を優しく脱がし、タオルで拭いていく。

ごしごし

召使「残念だわ。いつかあなたと会話出来る日が来たらいいなと、ずっと思っていたのに」

?「……」

ごしごし

召使「……きっとものすごく辛いことがあったのね……生きる気力を無くしてしまうほどに……」

?「……」

ごしごし

163: 2012/10/15(月) 22:46:29.17 ID:a6wAm26H0
115

--暗黒森林、屋敷、地下牢--

召使「いつかきっといいことがあるわ、晴れの日はくるのよ」

?「……」

ごしごし

召使「なんて……奴隷の私が言っても説得力のかけらも無いかしらね」

?「……」

ごしごし……

召使「はいおしまい。……寂しいわ……明日からはあなたはいなくなってしまうのね……」

?「……」

しゅる

召使は少女に服を着せていく。

164: 2012/10/15(月) 22:47:36.83 ID:a6wAm26H0
116

--暗黒森林、屋敷、地下牢--

召使「……ここよりいいところだといいのだけれど……それも難しいわね……闇競売に来る奴なんて、よくてド変Oだし……」

?「……」

しゅる……

召使「……ありがとう。私、あなたの世話が出来て本当によかったわ」

ぎゅっ

?「……」

召使はそっと少女を抱き締めた。

召使「あなたとこうしているだけで……っと言っても一方的にお喋りしてるだけだけど、どれほど私が救われたか……」

?「……」

召使「ありがとう……お別れよ」

すっ

召使は少女から離れて檻から出ていく。

召使「またどこかで出会えたら……いいわね」

165: 2012/10/15(月) 22:48:07.71 ID:a6wAm26H0
117

そして二日が立って……。

166: 2012/10/15(月) 22:48:44.60 ID:a6wAm26H0
118

--暗黒森林--

アッシュ「……あれか」

サム「あれでござろうな。薄暗い森の中にあるのは少々不釣り合いでござる。あの金でできた門は」

アッシュとサムは隊員達を引きつれて暗黒森林に到着する。

サム「さぁアッシュ殿、下調べはしていてわかると思うでござるが、あの門をくぐるには所持金が一千万を越えてないといけないでござる。どうするでござる?」

アッシュ「……いや何それ」

サム「あれ?……まさか調べてない感じ?」

アッシュ「てっきりお前が全部調べて必要な用意も全部してあるものだと」

サム「はっはっはっ。拙者旅行の荷造りも当日に行うような人間でござるぞ。そんなの無理無理」

アッシュ「……」

サム「さてどうやって一千万を手に入れるでござる?」

アッシュ「……」

アッシュにはなんとなくわかっていた。これはサムが作り出した試練なのだと。

アッシュ「とりあえずお前、臓器全部売ってこい」

サム「こわっ!?」

167: 2012/10/15(月) 22:49:20.36 ID:a6wAm26H0
119

--暗黒森林--

どんな状況でも道を切り開いていけるようにと、この三年間サムはアッシュに難題をふっかけ続けていたのだ。

アッシュ「……ふん、この道を通る者から頂くことにする」

サム「ふむ。ここにくるほどの金持ちが、生半可な護衛をつけているとは思えないでござるよ?」

アッシュ「俺も生半可ではない」

サム「」

あくまで当たり前のようにさらりとアッシュは言った。

がしゃがしゃ

アッシュ「ん」

その時馬車がアッシュ達の目の前にあらわれた。

アッシュ「スキル、透視眼」

ヴン

アッシュの眼は馬車の中身を透視する。

168: 2012/10/15(月) 22:50:10.96 ID:a6wAm26H0
120

--暗黒森林--

アッシュ「……」

中にいたのは、いかにも成金らしい肥えた男と、眼を瞑った護衛らしき男。

護衛「!」

その護衛は馬車の中にいたにも関わらず、アッシュの視線に気付いたようだ。

アッシュ(なるほど外で守っていないだけはある)

護衛「雇い主よ! 外に」

たっ

距離にして約三十メートル。それをアッシュは一瞬で、

ズブッ

護衛「!?」

アッシュ「……面倒なのは嫌いでね」

つめた。そして、

ブシュー!!

成金「ひっ!? ひぃ!?」

護衛「がっ……!」

護衛の首を切り落とす。

アッシュ「俺個人としての恨みはないが……アンタ悪さしてそうな顔だな。金を奪わせてもらう」

成金「ひ!? ひぃ!?」

その様子を遠くから観察するサム。

サム「……まぁ……頃すのが一番手っ取り早いでござるか」

操り人形にする予定だったのにとサムはため息をつく。

178: 2012/10/22(月) 21:20:51.60 ID:yKArwzFs0
121

--暗黒森林--

ポニテ「……なんでこんなことに」

ジャラ

ポニテはみすぼらしい服を着させられて、鎖のついた首輪をしている。

レン「仕方ないにゃ。闇競売会場は変な人間が入りこまないように、資格がいるのにゃ。それは一千万円の所持、何かを買う意志があるものだけ」

レンは変装の為にフードを被っている。

ポニテ「むしろ変な人間しかいないと思うんだけど。でもさ、それとこれとどんな関係があるの? ってゆうかレンちゃん錬金術師なんだから金錬成したらよくない? そのための錬金術じゃないの?」

レン「金錬成は錬金術の道理に反するにゃ」

ポニテ「え? 錬金術師って何のための存在なの? バカなの?」

179: 2012/10/22(月) 21:22:21.71 ID:yKArwzFs0
122

--暗黒森林--

レン「……というのは半分冗談だとして、金錬成は実は非常に難しいにゃ。たくさんの材料と時間を使うにゃ。だから闇競売までに一千万円分も作ることは出来ないにゃ」

ポニテ「ふむ」

レン「だから、さっきの問いの返答になるにゃが、ポニテを奴隷として売ろうと思うにゃ」

ポニテ「ふむ……ふむ!?」

レン「A級競売は段取りがあるにゃろうから今から出品しても遅いにゃろうが、B級なら大丈夫だろうにゃ」

ポニテ「私を売るとか鬼畜猫!!」

レン「だから少しでも査定で高く見てもらわにゃ困るにゃ。む……ちとスカートが長い気がするにゃ」

ポニテ「え? 膝上十センチなんだけど」

シャッ!

レンはナイフを錬成しポニテのスカートを切った。

ぱらり

ポニテ「!? ちょっ、ちょっとちょっとレンちゃん!? これ短すぎるよ! てかワカメちゃん状態だよ!?」

180: 2012/10/22(月) 21:22:50.80 ID:yKArwzFs0
123

--暗黒森林--

わぁお(おきまりの効果音)

パンツが丸見えになったポニテだった。

レン「うん、アピールとしては完璧にゃ」

ポニテ「私女だから男の人のそういう感覚わからないけどさ、丸出しって逆にひくんじゃない……?」

レン「大丈夫にゃ。レンに任せるにゃ」


--暗黒森林、査定室--

査定中。

右審査員「じー」

中審査員「じー」

左審査員「じー」

ポニテ「うわっ…私のパンツ、見られすぎ…?」

181: 2012/10/22(月) 21:23:27.54 ID:yKArwzFs0
124

--暗黒森林、過去--

レン『それじゃポニテは商品として中で待機にゃ。バイにゃ』

ポニテ『えぇっ!? ご飯は!? 私の晩ご飯は!?』

レン『知らんにゃ。いくらお腹空いたからって商品は食べちゃいけないにゃよ?』

ポニテ『お、おにー! あくまー!! ぬこー!!』

レン『ぬこにゃ』

ポニテ『う……うわーーん!!』


--暗黒森林--

レン「なんて言って別れて来たにゃけど、心配にゃ……おっと」

レンは酒場に入る前に、鼻から上が隠れるような仮面を作り出して被った。

かぽ

レン(フードをしたままじゃ食べづらいし、かといって正体をばらすのは面白くないにゃ)

結構有名になっちゃったし、とレン。

レン(……念のためもう一つ)

ぱしゅっ

182: 2012/10/22(月) 21:24:13.63 ID:yKArwzFs0
125

--暗黒森林、酒場--

ギィ

ごろつき「ん……?」

レンが酒場に入ると中にいた人間が一斉にレンを見た。

コッ、コッ、コッ、コッ

ごろつき「ひゅ~……」

酒飲み「足がグンバツの女だぁ……」

コッ、コッ、コッ、コッ、ポスっ

オヤジ「……なんにするんだ姉ちゃん」

レン「ミルク」

酒飲み「定番かよ!」

183: 2012/10/22(月) 21:25:17.21 ID:yKArwzFs0
126

--暗黒森林、酒場--

オヤジ「あいよ」

この暗黒森林において覆面は決して珍しいことではない。どっかのお偉いさんが、お忍びで法に触れる代物を買いに来ることなどしょっちゅうだからだ。
それゆえに顔を隠すのは暗黙のルール、レンが注目を集めているのは女としての魅力と、

外法者「ちっ、亜人か」

猫耳尻尾。

レン「あと適当に食事頼むにゃ。あ、でも油っこいのは少なめでサラダ多めに。もしお肉をいれるのなら鳥系で。皮は取って欲しいにゃ。あとあまり辛い味付けはダメにゃ。塩分も少なめで頼むにゃ」

オヤジ「適当じゃなくない!?」

ガンッ!!

外法者は、レンのすぐ横で酒の入ったジョッキを叩きつけた。

184: 2012/10/22(月) 21:26:26.98 ID:yKArwzFs0
127

--暗黒森林、酒場--

ぴちゃ

レン「……」

外法者「ふん……亜人ごときが随分とまぁ、でかいつら出来るようになったじゃねぇか」

外法者が絡んできた。

オヤジ「お、おいお前」

レン「レ……私はむしろ小顔にゃ。あんたのほうが顔でかいにゃ」

酒飲み「……」

ごろつき「……」

オヤジ「……」

外法者「……」

酒飲み「……ぷ」

酒場全体「「「だぁーはっはっはっ!!」」」

一人を除き、酒場で飲んでる者全員が笑いだす。

185: 2012/10/22(月) 21:27:02.66 ID:yKArwzFs0
128

--暗黒森林、酒場--

ごろつき「ちげぇねぇや!! ちげぇけど!!」

がはははは!

オヤジ「……はっ……ほら、お前もやるなら楽しくやってくれよ。ここは酒場なんだからよ」

外法者「……てめぇ!!」

すちゃ

外法者はナイフを取り出した。

ざわ…

外法者「こけにしやがって……!! そのこぎたねぇ耳と尻尾切り取ってケツの穴に詰めてやるぜ……!!」

レン「オヤジ、ミルクおかわり」

オヤジ「お、おかわりってアンタ!」

レンは一度たりとも外法者の方を見ようとしない。

186: 2012/10/22(月) 21:27:43.80 ID:yKArwzFs0
129

--暗黒森林、酒場--

外法者「こ、この人モドキが!!」

外法者がナイフを突き出そうとした瞬間、

ボグッ!

レンと外法者の間に出現したゴーレムが、外法者の顔面に拳をたたき込んだ。

ドグッシャアアア!!

外法者「げふぅぅぅ!!」

外法者は宙を飛び、壁に突き刺さる。

ずぼーん

レン「ふん……時代遅れの差別野郎にゃ」

ごろつき「い、一体何が今……起きたんだ?」

ゴーレムは一瞬で現れ、一瞬で消えていた。

187: 2012/10/22(月) 21:28:19.83 ID:yKArwzFs0
130

--暗黒森林、酒場--

競売警備長「ちょぉっくらごめんなさいよぉ」

ギィ

ごろつき「!?」

酒飲み「競売警備長!? な、なんであんたがこんなとこに」

競売警備長「なぁに。寝る前にちょぉっくら酒でもやろうかと思ってよぉ。そしたらなんだか物騒な物音がするからよぉ」

オヤジ「お、おいアンタおとなしくしてな……あいつは本気でヤバイ奴だから」

とオヤジはレンに小言で囁く。

レン「それより早くご飯欲しいにゃ」

競売警備長「おぉっとぉ……オヤジぃ、あんた思い切った装飾したなぁおい。人間が壁に突き刺さってるじゃないっ?」

競売警備長は外法者の足を掴んでぷらぷらと揺らす。

競売警備長「これ、オヤジがやったのかい?」

オヤジ「い、いや、そんなわけないだろ」

188: 2012/10/22(月) 21:29:09.18 ID:yKArwzFs0
131

--暗黒森林、酒場--

競売警備長「だよなーだよなー、そんなわきゃないよなー。じゃあ……一体誰がやったんだろぉ」

競売警備長は酒場全体を見回した。

ざわ

競売警備長「ん?……おおっーとぅ!? 普段のむさい面子の中に一人美人さんが紛れ込んでるじゃないのー!」

競売警備長はスキップしながらレンに近づくと、レンの耳を上下左右にいじりながら、

競売警備長「こっんにっちはー! ねっこちゃん」

としゃべりかけてきた。

レン「……いきなりレディの体に触ってくるなんて教養が無い男にゃ」

ごろつき(!? ひ、ひい!! 競売警備長に逆らうんじゃねぇよ!!)

競売警備長「これはこれはごめんなさいよぉ! 教養なんて高尚なもんはお袋さんの中に置いてきちゃったもんでねぇ」

レン「なら取りに戻るといいにゃ」

ざわざわ

189: 2012/10/22(月) 21:29:42.11 ID:yKArwzFs0
132

--暗黒森林、酒場--

競売警備長「あはは! こいつぁいい! こいつぁいい猫ちゃんだぁ!」

わさわさ!

競売警備長はレンの頭を乱暴に撫でる。

レン「……二度目はないにゃ」

シュン!!

一瞬で現れたゴーレムの攻撃が、

ふっ

競売警備長「おっとぉ」

いとも簡単に避けられた。

競売警備長「なんだろうねぇこいつぁ……ゴーレム? 錬成? 錬金術師ぃ?」

バゴォ!!

競売警備長の拳がゴーレムを砕く。

190: 2012/10/22(月) 21:30:10.78 ID:yKArwzFs0
133

--暗黒森林、酒場--

バラバラ

レン「……」

競売警備長「……つら見せな亜人の雌猫」

レン「なんでにゃ?」

競売警備長「俺の勘がな? お前はここにいちゃいけねぇやつだとおもうのさ」

レン「いちゃいけない? おかしなことを言うもんだにゃ。ここはどんな人間がいようと関係ない場所のはずにゃ。公になったらまずい有名人がごろっごろしてるから、見てみぬふりがここでの暗黙の了解じゃあないのかにゃ?」

競売警備長「通常なら、だ。だがここにだって例外はぁ存在するさ。例えば……うち≪闇競売≫に敵対する意志を見せた、魔法王国の人間とか、さ」

オヤジ「!?」

レン「……」

競売警備長「他の国とは持ちつ持たれつでなんとかなってるがよぉ、魔法王国だけはいけねぇ……あそこは闇競売なんて非人道的だなんてぬかしてやめさせようとしてやがる……んなこたぁだれもがわかってるっていうのによぉ」

191: 2012/10/22(月) 21:30:49.14 ID:yKArwzFs0
134

--暗黒森林、酒場--

レン「……」

競売警備長「だから魔法王国の息のかかった奴だけはこの地域に入れちゃあなんねぇんだよ……何されっかわからねぇからなぁ雌猫よぉ!!……いや、魔法王国最上位戦力、レン!!」

ざわざわ!!

ごろつき「な、なんだと!?」

酒飲み「お、俺らを一掃しにきたのか!?」

途端に酒場の連中がざわつき始める。

レン「……人違いにゃ」

競売警備長「あんたのさっきの錬金術……見事だったなぁ。超高速の錬成……そんなことが出来るのはこの世界でたったの一人しかいねぇ!!」

ガバッ!

競売警備長はレンの肩をつかみ強引に後ろを向かせると、仮面に手をかけた。

レン「いっ」

競売警備長「化けの皮をひんむいてやるぜぇぇ!!」

ガッ!!

192: 2012/10/22(月) 21:31:22.42 ID:yKArwzFs0
135

--暗黒森林、酒場--

カンっ、カンっカララララ

オヤジ「っ!」

酒飲み「!」

ごろつき「なっ、なんてぇこった……」

酒場の床を転がる仮面。

競売警備長「……なんだと」

そして仮面を取って現れたのは……醜悪な顔。

レン「……」

カエルのように離れた眼は、聖人君子であれ嫌悪感をあらわにするほどだった。

酒飲み「お、おれぁ見たことねぇんだけど、そのレンってやつは……こんな顔してんのか?」

193: 2012/10/22(月) 21:31:49.77 ID:yKArwzFs0
136

--暗黒森林、酒場--

ごろつき「そ、そんなことないだろ……俺が聞いた話じゃあ美しさのあまり、ついたあだ名が≪白雪猫姫≫‏だとか……ど、どうなんだ競売警備長」

競売警備長「……違う……」

レン「……だから言ってるにゃ……」

レンは仮面を取り戻すと顔に付けなおした。

競売警備長「だ、だがあの錬成速度はレン以外ありえない……」

レン「……私は錬金術師じゃないにゃ」

競売警備長「な、何言ってやがるんだ! あれはまごうことなく」

ぴょこ

レンの上着の中からゴーレムが一体飛び出した。

競売警備長「なっ……」

レン「職業は人形師、にゃ」

レンの前でゴーレムは華麗に踊る。

194: 2012/10/22(月) 21:32:39.78 ID:yKArwzFs0
137

--暗黒森林、酒場--

オヤジ「こ、こんだけ物体を操れるのは人形師くらいなんだろ? 錬金術じゃあねぇ」

競売警備長(……確かに錬成したものをここまで操ることは無理なはずだ……それなら人形師の上位互換になっちまう……だが)

競売警備長は険しい表情でレンを見る。

競売警備長(あの時も氏角から出てきたのを見過ごしただけなのか? 俺は空中にいきなり出現したように見えたんだが……)

レン「オヤジ、サンドウィッチ作ってにゃ。部屋に戻って食べることにするにゃ」

オヤジ「お、おう」

競売警備長「ま、まて、あの猫亜人稀少種の白雪がそう何匹もいるとは思えねぇ! こんな出来すぎた話」

レン「……私は純粋に闇競売を楽しみに来た客にゃ。まだそんないわれのないことで私の気分を害すつもりかにゃ?」

バッ!

レンは競売出品票を見せた。

競売警備長「ぐっ!!」

レン「アンタの言う魔法王国の手先が、わざわざ出品までするのかにゃ?」

195: 2012/10/22(月) 21:33:07.33 ID:yKArwzFs0
138

--暗黒森林、酒場--

オヤジ「……競売警備長もうやめとけって。ほら猫の譲ちゃんサンドウィッチ出来たぞ」

レン「ありがとうにゃ」

すっ

レンはオヤジに多めに支払う。

レン「騒ぎを起こしてすまなかったにゃ。これは店の修理代とみんなへの詫びにゃ。みんなに好きな酒飲ませてやってくれにゃ」

オヤジ「!? ちょっ、こ、こんなにかい!? これは……たまげたなぁ」

う、ウオー!!

途端に盛り上がる酒場。

酒飲み「まじかよーー!! 姉ちゃん! 見てくれはあれだが太っ腹だな!!」

ごろつき「ひゅー!! おらおら引っ込め競売警備長!! もう用が済んだだろ!?」

競売警備長「ぐっ……!!」

196: 2012/10/22(月) 21:34:39.05 ID:yKArwzFs0
139

--暗黒森林、酒場--

レン(……ふぅ、危なかったにゃ。顔の皮膚の上にもう一層顔の皮膚を錬成しておいてよかったにゃ)

ギィ

レンはさっさと酒場を後にした。

レン(けど、眼をつけられたにゃ。面倒くさいことにならなければいいにゃが)

どん

レン「にゃっ!」

アッシュ「とっ、すまない。大丈夫か?」

レン「こちらこそ申し訳ないにゃ。考えごとをしていたにゃ」

アッシュ「俺もだ。……ん?」

アッシュは仮面を被ったレンを見つめる。

アッシュ(……なんだ? なんだか懐かしい感じが)

レン(すん……懐かしいような匂いが一瞬したように思えたけど、この人のつけてる香水のせいでよくわからないにゃ)

アッシュ(……透視眼で見てみたが……こんな奴は知らないな)

二人は会釈して別れた。

197: 2012/10/22(月) 21:35:51.32 ID:yKArwzFs0
140

--暗黒森林、酒場--

競売警備長(くそ……俺の勘が外れたのか?)

ギィ

競売警備長が苛立ちながら酒場のドアを開けると、

競売警備長「ん……!? お、お前は!!」

アッシュ「ん?」

入ってこようとしていたアッシュとすれ違う。

競売警備長「さ、砂漠の風の灰色狼!?」

アッシュ「……だったらなんだ」

ざわざわ!!

競売警備長「い、いや言ってみただけ」

アッシュ「……わけわからん」

競売警備長(……むぅ……なんぼなんでも砂漠の風にいちゃもんつけるわけにゃあいかないよね)

210: 2012/10/29(月) 21:55:24.41 ID:q+dfPjas0
141

--暗黒森林--

かぽっかぽっかぽっ

配達屋「はぁ……まさか夜になってしまうとは……先に酒場に行って食事するくらいは許されますよね」

ユニコーン「ひひん」

配達屋「えーえーわかってますわかっていますとも。でも今回は仕方がないではないですか。まさか地図が無くなっちゃうなんてショック

です」

ユニコーン「ひひん」

配達屋「今回の配達が終わったら一度本部に戻らなくてはなりませんね。まぁ次が最後の配達物ですから元々帰る予定でしたし」

がさがさ

配達屋「ん?」

おいはぎ「おい女! 持ってるもんは全部おいてけ!」

おぎ「いぇい! いぇい!」

やはぎ「おぅおぅ!」

三人の盗賊が木々の間から現れて配達屋をとり囲んだ。

211: 2012/10/29(月) 21:56:05.92 ID:q+dfPjas0
142

--暗黒森林--

配達屋「……ユニちゃん。あーた接近してくるものがいたら私に教えてくださいと言ったでしょーが」

ユニコーン「ひひん」

配達屋「め、面倒くさいってなんですか! 職務放棄しないでください!」

おいはぎ「おぅおぅ聞いてんのか女! このナイフが見えないってのか!? あん!?」

おぎ「いぇいいぇいいぇいいぇいいぇい!」

やはぎ「うおぅうぉううおぅうぉううぉう!」

配達屋「え、俺の夜のナイフが見えないのかって思いっきり下ネタ……うわー」

おいはぎ「言ってねぇよ!!」

おぎ「いぇいいぇいいぇいいぇいいぇい!」

やはぎ「うおぅうおぅうぉううぉううぉう!」

212: 2012/10/29(月) 21:56:39.18 ID:q+dfPjas0
143

--暗黒森林--

配達屋「やれやれ。ともかく私はあなた方に構っていられるほど時間があるわけじゃありません。本当はものすご~~く怠いから嫌なんですけど、もし通してくれないと言うのであれば相手になるしかないですね」

おぎ「いぇいいぇいいぇいいぇいいぇい!」

やはぎ「うおぅうおぅうぉううぉううぉう!」

配達屋「さっきからうるさいよ!!」
おいはぎ「さっきからうるせぇ!!」

おぎ「サッバイバルダンス! サッバイバルダンス!」

やはぎ「トラーイアルダンス!」

配達屋「……」

おいはぎ「……」

配達屋「わかりました。なんだかもうめんどくさいしむかつくので頃します」

おいはぎ「こわっ!?」

213: 2012/10/29(月) 21:57:29.32 ID:q+dfPjas0
144

--暗黒森林--

ちーん

配達屋「全く……いらぬ時間を消費してしまいました……」

かぽっかぽっかぽっかぽっ

おいはぎ「ぐっぐ……つ、つぇえ……」

おいはぎ達は血だらけになりながら地面の上でのたうちまわっている。

おぎ「喧嘩……ばかり……だよ」

やはぎ「あの頃も……今だって」

おいはぎ「……」

おぎ「……」

やはぎ「……」

おいはぎ「……相変わらずの笑い声」

214: 2012/10/29(月) 21:57:56.19 ID:q+dfPjas0
145

--暗黒森林、牢屋--

ポニテ「ひもじい……」

奴隷の服を着させられたポニテは、牢屋のような商品部屋で冷たい床に寝そべっている。

見張り「ごくり」

ポニテ「ん?」

視線を感じ振り替えると、見張りの男が食い入るようにポニテの太ももを見ていた。

見張り(ムチムチやないすかームチムチやないすかー)

ポニテ(なんだ……全く、人が飢えに苦しんでいるっていうのに……ってそうだ)

くねっ

ポニテは色っぽいポーズを取った。

見張り「ファッ!?」

215: 2012/10/29(月) 21:58:26.67 ID:q+dfPjas0
146

--暗黒森林、牢屋--

ポニテ「ねぇねぇお兄さん。私さぁ、さっきの食事じゃあ全然足りなかったんだ……もっと何か食べるものないかな? そしたらお礼にぃ」

ちらり

すでにわかめちゃん状態だけど。

見張り「!! わ、わかった! い、今何かとってきてやる!!」

ダダダダ

ポニテ「ちょろいっ」

ダダダダ

見張り「ほ、ほら持ってきたぞ!! パンに果物にチーズにハムにワイン!!」

樽いっぱいの食料を持ってきた見張り。

216: 2012/10/29(月) 21:58:56.10 ID:q+dfPjas0
147

--暗黒森林、牢屋--

ポニテ「わぁ!! いっぱいだぁ! わかってるー!!」

見張り「し、しかしこんだけいっぱいだと搬入口から入れるのは無理だな……と、扉を開けちまわないと」

ポニテ「そうだねぇ入ってきてよ」

見張り「よ、よし!」

ガチャ、ギィ

見張りは食料を持って中に入った。

見張り「ほ、ほら食え! たくさん食え!」

ポニテ「わぁーいっ。いっただきまーすっ」

ペロ

見張り「うんうんいっぱい食べなさ、あれっ!? 食料が消えた!? ど、どこに消えた!?」

ポニテ「げぷ」

217: 2012/10/29(月) 21:59:21.78 ID:q+dfPjas0
148

--暗黒森林、牢屋--

見張り「えっえっ!? 一瞬で食ったの!?」

ポニテ「うんっ。味は可もなく不可もなく。ご馳走さまでした」

両手を合わせてお辞儀するポニテ。

見張り「あっ、うん、そう、ははっ、そうなんだ? 早い、ねっ、うん」

ポニテ「さてさて」



見張り「!?」

ポニテは見張りにそっと近寄った。

ポニテ「それじゃまぁ……デザートの方を」

舌なめずりするポニテ。

218: 2012/10/29(月) 22:00:12.46 ID:q+dfPjas0
149

--暗黒森林、牢屋--

見張り「!? う、うおぉ!? しゃ、しゃあああ!!」

めっちゃ興奮する見張り。

ずぼっ

その見張りの首にポニテの指が四本刺さる。

見張り「いたっ!……え、え?」

ポニテ「にこり」

ズギュウゥン!!

見張り「かっは!?」

ポニテ「なじむ 実に! なじむぞ フハハハハハ」

見張りから指先で血液を吸い上げるポニテ。

219: 2012/10/29(月) 22:00:40.56 ID:q+dfPjas0
150

--暗黒森林、牢屋--

見張り「なっ、あがっ」

ズキュンズキュン

みるみるうちに見張りは干からびていく。

ポニテ「食べちゃうぞ(物理)」

見張り「い、いや、食べちゃうぞは、元から物理だけど」

がくっ

ポニテ「ふぅ。まぁまぁお腹も膨らんだし、寝るかな」

ごろん


ぴよぴよぴよぴー

翌朝。

髭見張り「あ、あの野郎ーっ! こんなに干からびるまで楽しみやがったのか」

220: 2012/10/29(月) 22:01:16.98 ID:q+dfPjas0
151

--暗黒森林、屋敷、地下牢、過去--

時間前後して夜。


ぴっち『故郷の妖精王国が懐かしいっぴ~』

ぱっち『妖精パンが食べたいっぱな~』

小さな牢屋に小さな鎖で繋がれた妖精達。

ぴっち『うぅ……明日にもぼくらは売り飛ばされちゃうっぴね……しくしくっぴ』

ぱっち『いたずらサイコロの旅なんてやってなきゃよかったっぱ……あっ!!』

ぴっち『!? どうしたっぴぱっち!?』

ぱっち『私の……私の鎖が……』

ぴっち『ぱっちの鎖が!? ぱっちの鎖が!?』

ぱっち『壊れてるっぱ』

221: 2012/10/29(月) 22:01:44.23 ID:q+dfPjas0
152

--暗黒森林、屋敷、地下牢、過去--

からん

ぱっちは鎖が柱にくっついてないことを見せた。

ぴっち『……』

ぱっち『じゃあ後は頑張ってっぱ』

ぴっち『置いてくなっぴ!! ぼくの鎖も取ってくれっぴ!!』

ぱっち『無理っぱ』

ぴっち『やる前から諦めちゃいけないっぴ!! 何事もチャレンジすることが大事なんだっぴ!! もしかしたらなんかの拍子に取れるかもしれないっぴ!! ぼくら二人ならなんでも出来、もういないっぴ!!(怒)』

ぱっちは既に姿を消していた。

222: 2012/10/29(月) 22:02:15.35 ID:q+dfPjas0
153

--暗黒森林、屋敷、地下牢、過去--

ぴよぴよぴよぴよ

ぱっち『んなたるいことやってられるかっぱ。今の時代時間が何よりも大事っぱよ時間が』

ぱっちは出口を探して牢屋の中を飛び回る。

ぱっち『いやはやしかしひどいところっぱ……金銀財宝、人間、動物、モンスター……そんなもんが欲しいのかってもんまであるっぱ』

ぱっちは牢屋に入っているものを確認している。

ぱっち『これが人の持つ最強の力、欲っぱか……お、出口見ーっけ!』

月の光が差し込んでいるのを見つけたぱっちはその牢屋の中へ。

?「……」

そこに入っていたのはペンダントをつけたツインテールの少女。

223: 2012/10/29(月) 22:02:45.59 ID:q+dfPjas0
154

--暗黒森林、屋敷、地下牢、過去--

ぱっち『うわびっくりした!? 気配がなんもなかったっぱ。って……これはまた綺麗な奴隷さんっぱね~』

ぱっちは逃げることも忘れ、月明かりに照らされた美しい顔に引き寄せられた。

ぱっち『……眼が半開きっぱ……人形だったのかっぱ?』

ぱっちは胸に手を当ててみる。

ぱっち『当ててんのよ!……っていや何を言ってるかっぱ。同じ言葉でも触る側が言うと意味不明っぱ』

トクントクン

ぱっち『生きてるっぱ。人形じゃなかったっぱ。……いやそれにしても綺麗なお顔っぱ~。幼いながらも憂いを秘めた目元、ましゅまろのような頬っぺた、艶のある唇、そしてツインテールにしている水色のウェーブのかかった髪』

ん? ツインテール? とぱっちは頭を傾げる。

224: 2012/10/29(月) 22:03:12.44 ID:q+dfPjas0
155

--暗黒森林、屋敷、地下牢、過去--

ぱっち『……』

?「……」

ぱっち『……』

?「……」

ぱっち『……つ、つつつつつ』

?「……」

ぱっち『ツインテ様じゃんこれっ!!』

ぱっちは驚きの声をあげた。

ぱっち『え、ええ!? なんでなんで!? ツインテ様がなんでここに!?』

?改めツインテ「……」

225: 2012/10/29(月) 22:03:38.46 ID:q+dfPjas0
156

--暗黒森林、屋敷、地下牢、過去--

ぱっち『え、なんで!? なんで無口っぱ!? どうしちゃったっぱ!? ツインテ様私のこと忘れちゃったっぱ!?』

ツインテ「……」

ぱっち『ていうか……なんで……なんで……』

ツインテ「……」

三年前と全く同じ姿なのっぱ、とぱっちは小さな声。

ぱっち『……成長期だろうに、なんで少しも成長していないっぱ……』

ぱっちは悲痛な表情でツインテの胸をさする。

ぱっち『……あれ? なんだか同族の匂いがするっぱ……』

クンクン

ぱっち『あぁ思い出したっぱ。確か先客がいたんだっぱ! おーい姿を見せてくれっぱ』

226: 2012/10/29(月) 22:04:04.99 ID:q+dfPjas0
157

--暗黒森林、屋敷、地下牢、過去--

するとペンダントは光り出して、

ふゆふゆ

中から仙人のような妖精があらわれた。

??『ふぉああぁ。何用じゃ若いの。わしはこの所忙しくて眠いのじゃっぷ』

ぱっち『ジャップ!?……なんだかいきなりすんごい年寄りでてきたっぱねぇ~。あんたずっとこのペンダントに入ってたっぱ?』

??『あんたとは失礼なやつじゃなっぷ。わしの名はぷっち。かつてメイドインヘヴンを用いてげふげふん!!……まぁなんじゃ。ずっとこのペンダントに入っておったよ』

ぱっち『……ようわからんやつっぱ。ねぇねぇツインテ様がこんなことになってる理由、知ってるっぱ?』

??改めぷっち『この子のことを知っておるのか?……あぁそういや何年か前に見たことがあるような無いような……無いかなっぷ』

ぱっち『思い出せっぱ』

227: 2012/10/29(月) 22:04:31.59 ID:q+dfPjas0
158

--暗黒森林、屋敷、地下牢、過去--

ぷっち『歳を取るとどうにも記憶が曖昧で……まぁいい。妖精はいたずらはするが嘘はつかない種族じゃからな』

ぱっち『すまん、私嘘つきまくってるっぱ。種族の面汚しっぱ』

ぷっち『いやぁわしもよく嘘つきまくっておるから気にするなっぷ』

ぱっち『ならなんで種族がどうとか言ったっぱ!? ってそんなことはいいっぱ!! 早くツインテ様がこうなった原因を教えてくれっぱ!!』

ぷっち『ふむ……そうじゃな』

ぷっちはぱっちの顔をじっと見ている。

ぷっち(妖精がここまで人間のことを気にかけているとは中々不思議なこともあるもんじゃっぷ。それだけこの子がいい子じゃったという

ことっぷかのぉ)

ぱっち『おいじじい!!』

ぷっち『わかったわかった。教えてるやるっぷ。言いづらいことじゃが……だがわしがこの子についていて幸いだったということじゃっぷ』

228: 2012/10/29(月) 22:05:05.76 ID:q+dfPjas0
159

--暗黒森林、屋敷、地下牢、過去--

ぱっち『? どういうことなのかさっぱりわからないっぱ。低学歴の私でも理解できるように一から全部説明しろっぱ』

ぷっち『うわ低学歴怖い。……わしはの、下卑た者どもから持ち主を守る力を持っておるのだっぱ。故にこの子は無事でいるのだっぱ』

ぱっち『下卑た……って』

ぱっち『深い居眠りから覚めたあの日以来、わしはこの子を守り続けておる』

ぱっち『……あの日って』

ぷっち『あの日……戦に敗れたあの日じゃ』

ぱっち『戦……? 戦ってこの近年で起こったのはあの亜人解放戦争かっぱ?』

ぷっち『そうじゃ。この子は戦に敗れた。体は傷つき、精神も壊れかけ、何もかも失おうとしていたあの時、神は助けではなく、よりにもよって邪悪な者を近づけたのじゃっぱ』

ぱっち『邪悪な者って?』

ぷっち『この鎖をつけた者よ』

229: 2012/10/29(月) 22:06:02.18 ID:q+dfPjas0
160

--暗黒森林、屋敷、地下牢、過去--

ぱっち『……そいつは奴隷商人っぱね?』

ぷっち『そんなところじゃろうな。抗うまでに回復していなかったこの子にあやつは手をかけようとしていた。じゃがこの子にはわしがおったのじゃ。醜いあの男の毒牙から護るためにわしは力を使った。そのおかげでこの子は今日に至るまで綺麗な体でいられておるのよ』

ぱっち『……なるほど』

ぷっち『しかし最大の誤算は奴のクレイジーさよ……。奴は手をふれることができないと知ると、視覚によるいたぶりにでたのじゃよ』

ぱっち『え……』

ぷっち『いやまじぱねぇ変Oだよアイツ。あげぽよ』

ぱっち『うん……えッ!?』

ぷっち『……中々に凄惨な光景じゃった。いやぁまじぃパナくてぇ。もう次から次へと? 激アツな? ヤバイ性癖メドレー+グロで? まじパナすぎっすわ。そんで仲間を失ったショックで? チョーボロボロになっていたこの子の心が? すでに許容量をオーバーランしてみたいな? そんである日を境に考えることをやめてしまったのカーズ? みたいな?』

ぱっち『何語喋ってんのお前』

ぷっち『マジパナソニック』

ぱっち『おいじじいいいいいいいいい!!』

230: 2012/10/29(月) 22:06:34.35 ID:q+dfPjas0
首だろぉ……いつも打ち間違いばっかで申し訳ないです。

それでは本日の投下はここまでになります。
疑問、質問等がありましたら、気軽に書きこんでおいてください。
読んでいただきありがとうございました!m(__)m

231: 2012/10/29(月) 22:12:23.75 ID:5w6CuxGAO
乙!
ポニテがDIOのようだ

勇者と魔王がアイを募集した【2】

引用: 勇者と魔王がアイを募集した