701: 2013/11/18(月) 21:32:19.97 ID:E1Qcvpy+0

702: 2013/11/18(月) 21:33:27.31 ID:E1Qcvpy+0
381

--氏の砂漠--

ゾクッ

ポニテ「ま、また魔王!?」

アッシュ「まるで魔王のバーゲンセ(ry」

レン「……いやこれ真面目にピンチなんじゃにゃ……」

腹黒「……」

侍「……あんた方が出てくるとは思わなかったでござる。勇者の力が怖かったんじゃないんでござるのか?」

腹黒「勇者アレルギーはトリガーだけですよ。我々はそんなに脅威に思っているわけじゃありません。一度は経験した職業ですし、弱点も知ってます」

ツインテ「腹黒さん……」

腹黒「ツインテ、こんなことになって残念ですね(はん、裏切り者が)」

703: 2013/11/18(月) 21:34:00.75 ID:E1Qcvpy+0
382

--氏の砂漠--

ぼっ

腹黒の右手に火の魔力が。

レン「大災害前の勇者に関する記事は全部消失してるにゃ! ツインテ、あいつはどんな勇者だったのにゃ!?」

ツインテ「わ、わかりません……いつも研究室に入り浸ってた人なので」

符術師「ち」

ざっ

符術師達はツインテ達と腹黒の間に立ちはだかる。

符術師「ここは俺らが食い止める……逃げな」

アッシュ「! いやでもお前ら」

腹黒「……血迷いましたか? 貴方達の大事な国民は私達の手の中なんですよ?」

符術師「はっ! 知ったことかよ。どのみちこいつらまでやられたら人類に未来はねぇ!」

704: 2013/11/18(月) 21:34:32.31 ID:E1Qcvpy+0
383

--氏の砂漠--

賭博師「さっすがリーダー。鬼畜だねぇ」

侍「ほんとでござる。何百万人もの命を知ったことかで済ませるのでござるもの」

符術師「うるせぇ!」

腹黒「……はぁ。本気なんですね?」

符術師「あぁ!」

通信師「やれやれ、でもそれしかなさそうですね」

ポニテ「みんな……」

医師「……」←氏んだまま

侍「さぁいくでござる若き戦士達! 殿は拙者らが引き受けた!!」

ザザン!

705: 2013/11/18(月) 21:35:08.98 ID:E1Qcvpy+0
384

--氏の砂漠--

腹黒「……実力も伴わないくせに……そんなにボロボロになってまで魔王にたてつくとは……」

符術師「それが人間、ってやつだろ?」

腹黒「……苦しむな……」

ゴゴゴゴゴゴ

腹黒「理解に苦しむなぁぁぁあぁあ!!」

ぼこっ

符術師「……え?」

腹黒が何をしたわけでもないのに、符術師の体が一気に膨らんだ。
そして次の瞬間、

バンッ、ブッシヤァアァアァ!!

通信師「」

侍「」

ビチャッビチャチャ!!

符術師は破裂した。

706: 2013/11/18(月) 21:36:24.66 ID:E1Qcvpy+0
385

--氏の砂漠--

ツインテ「あ……あぁ……」

賭博師「ば……爆発しやがった……?」

アッシュ「俺の眼でも何も見えなかったぞ!? あいつは一体何をした!?」

腹黒「見えなくて当たり前」

ぼご、ばばぁん!!

続いて通信師と賭博師が爆発する。

びちゃちゃ!

辺りは凄惨な臓器の海……。

ハイ「っ……!!」

707: 2013/11/18(月) 21:36:50.35 ID:E1Qcvpy+0
386

--氏の砂漠--

腹黒「私が勇者をやっていた頃の基本戦術を教えてあげましょう」

ぼこ

侍「うぐっ!?」

侍の体も膨らんだ。

ツインテ「さ、サムさん!!」

アッシュ「サム!!」

侍「に、逃げるで、ござ」

ばぁん!!

びちゃちゃ!

腹黒「くっく……生物を爆弾に改造して特攻させるんです。こんな風にねぇ!! ゲヒャヒャ!」

腹黒は楽しそうに笑っている。

708: 2013/11/18(月) 21:37:33.75 ID:E1Qcvpy+0
387

--氏の砂漠--

ツインテ「あ、あぁ……」

がくっ

ツインテはあまりにも残酷な光景を見て膝から崩れ落ちる。

腹黒(っと、忘れてた。あいつがいる限り簡単に蘇生されちまうじゃねぇか。さっさと処分しておくか)

アッシュ「ツインテしっかりしろ! 蘇生だ、呆けてんじゃねぇ!」

ツインテ「はっ!? そ、そうか」

ツインテは回復の動作に入ろうとする。

腹黒「そういえばあなたたち……今血に触れちゃいましたよね? これ、感染しますよ?」

アッシュ「!」

ポニテ「!」

レン「!」

ツインテ「……え?」

バァアアン!!

……四人の体も破裂してしまう。

709: 2013/11/18(月) 21:38:46.18 ID:E1Qcvpy+0
388

--氏の砂漠--

バァンバァンバァアン!!

ツインテの氏体が元に戻ろうとするたびに爆発が起こる。

腹黒「ははは、自動蘇生というのも辛いものですねぇ! 自分の魔力が無くなるまで爆発が続くのですから」

バァンバァアン……バァン…………

腹黒「……ふん、しかしこの血みどろの戦場で生き残りますか」

ハイ「……」

唯一無事だったのはハイ。ハイは血に塗れた盾を地面に置く。

ハイ「血に触れるのは……好きじゃないですから」

腹黒(返り血の全てを盾で防いだのか……めんどくせぇ)

腹黒「そうですか。じゃあ違う方法でやらせてもらいますよ」

ぎぃん!!

腹黒が雷の魔力を溜め始める。

710: 2013/11/18(月) 21:39:42.22 ID:E1Qcvpy+0
389

--氏の砂漠--

腹黒「雷属性攻撃魔法、レベル」

どぉおおん!!

その時急降下してきた魔導長が腹黒に魔力砲をぶちかます。

ハイ「!」

腹黒「……これは」

魔導長「そこの君! 下がってなの!」

魔導長はハイに命令すると再び魔力砲を放つ。

きゅどぉおおおおおおん!!

腹黒「……やれやれ……今度は私の子孫の登場ですか」

魔導長「!? ……な、何を言っているなの?」

腹黒「ふ……暇があったのでね、色々調べていたんですよ。我が血統が今どうなっているのか」

腹黒は研究衣についた埃を払う。

腹黒「私の血筋は現代では二つに別れているようです……魔法の才能を持った家と高い知力と研究心を持った家……そして貴女はその片方の血統なのですよ」

魔導長「わ、私の祖先が、魔王……?」

711: 2013/11/18(月) 21:42:01.71 ID:E1Qcvpy+0
390

--氏の砂漠--

腹黒「雷属性攻撃魔法、レベル5」

ズギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

魔導長「!?」

空に向かって放たれた腹黒の魔法は魔導長を焼き焦がした。

魔導長「がっ……」

ひゅるるるる、どさっ!

腹黒「魔族の一匹や二匹を相手にしたくらいでここまで弱るとは……やはり血は薄くなってしまうもの……」

がっ

魔導長「あぐっ」

腹黒「この分だと貴女の父親、魔導大老も大した使い手じゃなかったのでしょうね……本当に残念だ。子など作るんじゃなかった」

魔導長「!」

ハイ「その手を離してください!」

腹黒「……」

腹黒を睨みつけ、銃口を向けているハイ。

712: 2013/11/18(月) 21:42:47.19 ID:E1Qcvpy+0
391

--氏の砂漠--

腹黒(さっきと格好が違う? それに強くなっている……だが)「……貴女程度の力で私に意見するのですか? 自殺行為だとは思わないんですか?」

ハイ「……」

ハイは銃口を下げない。

腹黒「……」

ハイは視線を逸らさない。

腹黒「……くっくっく……はーはっはっはっ!!」

どさっ

魔導長「あうっ」

腹黒「いつの時代にもいるものだぁ……身の程を知らない蛆虫共め……本当に口だけは達者なんですから」

腹黒の纏う魔翌力が増大する。

ハイ「……」

腹黒「魔王に適うとでも思っているんですか?」

ハイ「はい」

腹黒「!?」

713: 2013/11/18(月) 21:48:25.16 ID:E1Qcvpy+0
392

--氏の砂漠--

ハイ「魔導長さん、離れてください」

魔導長「……え」

ハイ「ここは危険です。貴女も巻き込んでしまうかもしれませんから」

腹黒「げひゃひゃひゃひゃひゃ!! こ、こいつは傑作ですねぇ! 本気だ、この眼は本気だ! 本気で私に勝てると思っている眼だ!!」

魔導長「……っ」

魔導長は残りの魔力でツインテたちの氏体を引き寄せると、その場から飛び去った。

ひゅーん

ハイ「……追われたらどうしようかと思いました」

腹黒「追う? 追わなくてもここから撃ち落せるんだから問題ないんですよ」

ハイ「でもいくら貴方だからって射程距離はあるはずですよね」

腹黒「……彼女らが私の射程範囲から出る前に、貴女は氏んじゃうじゃないですか」

ハイ「氏にません。だって私は怒っているんですから」

ばきゅーん!

ハイは腹黒の眉間に向かって発砲するのだが、魔力の壁によって防がれてしまう。

714: 2013/11/18(月) 21:49:15.82 ID:E1Qcvpy+0
393

--氏の砂漠--

腹黒「……ふん」

くい

腹黒が人差し指を立てると

ハイ「!?」

どがぁああああああああああああああああああああああん!!

地面が隆起する。

ハイ(詠唱無しで大掛かりな魔法!? ってことは)

腹黒「今の時代じゃ珍しいでしょう? 紋章魔法。私の時代はむしろこっちのほうが流行っていたんですよ」

腹黒の人差し指には光る紋章が。

腹黒「確かにこれは速くていい。だけどね、どんな局面でも対応できるもんじゃぁなかった。だから私が作り上げたんですよ。紋章魔法を、ね!」

ごおおおおお!!

腹黒の足元から火の手があがる。

腹黒「火属性広範囲攻撃魔法、レベル5」

ぼっ

ハイ「」

どがぁあああああああああああああああああああああああああああああああん!!

715: 2013/11/18(月) 21:52:09.74 ID:E1Qcvpy+0
394

--火の海--

ぼおおぉおおお!!

腹黒「ほう、レベル5を耐えましたか。……貴女のその力、随分面白い……持って帰って弄繰り回してみるのもありですね」

ハイ「ぐ……」

賢者の姿をしたハイが氷のドームの中で膝をついている。

どろっばしゃっ

腹黒(一瞬とはいえ私の攻撃に氷で耐えるとは……)

ざっざっ

腹黒はハイに近づいていく。

腹黒「気に入りました。研究材料として持ち帰ることにしましょう。だから……」

ぎぃん!!

腹黒の両手に魔力が宿る。

腹黒「抵抗しないでくださいね!」

ばきゃきゃきゃきゃきゃ!!

今度は氷の広範囲魔法が放たれた。

716: 2013/11/18(月) 21:53:30.59 ID:E1Qcvpy+0
395

--氷の世界--

ぴきーん!!

ハイ「っ……」

ハイの下半身は氷に埋もれてしまい、両手も氷付けになっている。

ぱきっぱきっ

氷を踏みしめて腹黒がハイのもとへ。

腹黒「どうです? 実力の差を思い知りましたか?」

ハイ「……」

ハイは、この状況でも諦めの眼をしていない。

腹黒「!……」

ぱきぱきぱき

腹黒は氷の剣を作り出し、それをハイの首筋に当てる。

つー

腹黒「……これでも、諦めないのですか……? ふ……ふはは! なあるほど、ただの考え無しの馬鹿だったんですね!!」

ハイ「……」

717: 2013/11/18(月) 21:54:44.97 ID:E1Qcvpy+0
396

--氷の世界--

腹黒「……気が変わりました。研究するのはその職業についてではなく、貴女をどう苦しめたらその顔が歪むのか……ということにします」

腹黒は剣を振りかぶる。

腹黒「さぁ……楽しい楽しい研究の始まりだぁああああああああああ!!」

ぶぉん!!

腹黒は剣を振り下ろした。

ハイ「――最終条件達成」

腹黒「」

剣がハイの首に迫るその瞬間、ハイはぼそりと呟いた。
そして

ぴかー!!

眩い光が氷に亀裂をいれる。

ハイ「レベル、アップ」

カッ!!

どがぁあああああああああああああああああん!!

718: 2013/11/18(月) 21:56:55.58 ID:E1Qcvpy+0
397

--氷の世界--

腹黒「な、なんだ……? 一体何が起きた……?」

しゅぅうぅう……

爆発の中心にハイが立っている。

きらん

灰色の鎧をその身に纏って。

腹黒「また姿が? ふん、いくらお着替えをしたって……?!」

ぞくっ!

その時腹黒は寒気を感じた。

腹黒(何だ今の感覚は……今のは……確か一度だけ感じたことが……)

ハイ「最終条件はパーティの総体力が二割以下になること……」

ユニコーン「ヒヒーン!!」

ユニコーンは変形し、パイルバンカーとなってハイの右腕に合体する。

がしぃいいいいんん!!

ハイ「貴方が私の仲間を頃してくれたおかげです」

腹黒「……」

ハイ「レベル4……勇者」

719: 2013/11/18(月) 21:57:27.43 ID:E1Qcvpy+0
398

--???--

トリガー「バカな!」

闇の鏡からハイ達を覗いていたトリガーは驚きの声を上げる。

トリガー「あの力は……紛れも無く本物の勇者の力だ……なぜだ……一人しか存在できないようルールに組み込んだはずなのに」

トリガーが見たこともないほど狼狽している。

トリガー「……書き換えたのか? いやそんなこと出来る存在がいるわけ……」

トリガーは再び椅子に座りなおした。

トリガー「……」

720: 2013/11/18(月) 22:00:32.44 ID:E1Qcvpy+0
399

--氷の世界--

どんっ!!
ばきばききっ!!

ハイが踏み込むと、氷の大地が粉々に粉砕される。

ひゅん!!

腹黒「はっ!?」

どごおおおおおおおおおおおおおん!!

腹黒「ごへぇあっ!!」

腹黒が反応も出来ない速度で顔面を殴打するハイ。

腹黒「ば、ばかな! ばかなっ!!」

ハイ「はぁああああああああ!!」

どがどがどがどがどがどがどがどがどがどがどがどがどが!!

魔法を使わせる時間を与えないハイのラッシュ、その全てが、魔王にとっては致命傷たりうる凶悪な一撃だ。

腹黒「がっ、がががっ、がぁあ!!」

ハイ「はぁあああ!!」

どがぁああん!!

アッパーが決まり、腹黒は空中に打ち出された。

721: 2013/11/18(月) 22:02:09.42 ID:E1Qcvpy+0
400

--氷の世界--

腹黒「げ、げひゃひゃひゃ!! ば、ばかめ! わざわざ接近技なんて使いやがってよぉ!」

ハイ「……」

腹黒「さっきの人体を爆弾に改造する血は俺の血から出来てるんだよぉ!! 本当にお前が勇者なんだかわからねぇが、てめぇはもうおしまいだ!!」

ひゅるるる

はるか上空で腹黒はけたたましく笑う。

腹黒「氏ね!! このむしけらが!!」

ハイ「……」

……しかし、ハイの体に何も起こる気配がない。

腹黒「……な、なに……?」

ハイ「返り血は、全部避けました」

腹黒「!?」

ハイ「奥義」

ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!

ハイのパイルバンカーに魔力が集まっていく。

腹黒「う、嘘だ……天才の、私が、私が!!」

ハイ「勇者ショット」



どごおおおおおおおおおんん!!

737: 2013/11/27(水) 00:44:49.69 ID:OPj3beRz0
遅くなりました! 
ハイちゃんがむせる感じに……!

すいません、腹黒のあれは詠唱魔法のうち間違いです。彼が詠唱魔法を使用できるレベルに作り上げました。

更にもう一つ申し訳ないのは、以前書いた↓

魔法体系の移り変わり
初代:紋章魔法の時代

二代目:魔法冬の時代。まったく使われなくなる。

三代目:ちょっとだけ使われはじめる。しかし紋章魔法を使える人が少しになってしまったため、新たなシステム、詠唱魔法が始まる。

四代目:詠唱魔法がメインになった時代。以後、紋章魔法は失われていく。



が、初代の設定変更もあったため現段階と設定が矛盾してます。なのでこれは一つ繰り下げて考えてください。



二代目:紋章魔法の時代

三代目:魔法冬の時代。まったく使われなくなる。

四代目:ちょっとだけ使われはじめる。しかし紋章魔法を使える人が少しになってしまったため、新たなシステム、詠唱魔法が始まる。

五代目:詠唱魔法がメインになった時代。以後、紋章魔法は失われていく。


それでは投下していきます。

738: 2013/11/27(水) 00:45:17.59 ID:OPj3beRz0
401

--氷の世界--

ハイ「はっ、はっ、はっ、はっ……!」

がしゃ

ハイは地面に膝をつき、パイルバンカーを置く。

ぱぁあん

鎧は砕けちり、ユニコーンも元の姿に。

ユニコーン「ひひん?」

ハイ「だい、じょうぶです……ただここまでレベル4の反動が辛いものだとは思いませんでした……」

ハイは立ち上がることもできずにいる。

ハイ「今日は本当に疲れました……」

739: 2013/11/27(水) 00:46:47.88 ID:OPj3beRz0
402

--氷の世界--

勇者「お疲れ様だね」

ざっ

ハイ「! 勇者さん、ご無事でしたか……!」

勇者「うん、私は大丈夫。倒しきれなかったけどね」

悔しそうな勇者の表情。

ハイ「あの魔王を二人同時に相手にして……恐ろしい人……」

ハイは冷や汗をかいている。

勇者「でもやっぱり君だったんだね」

ハイ「はい?」

勇者「バッドエンドを覆す『五人の勇者』の一人は」

ハイ「……はい?」

740: 2013/11/27(水) 00:47:36.06 ID:OPj3beRz0
403

--失われた王国、遺跡--

ざっざっざっ

?「……」

遺跡の残骸や巨大な木々が生い茂るこの場所に、全身に黒い包帯を巻いた謎の人物が立っていた。

ざっざっざっ

それに近寄る長い銀色の槍を携えた男……。

茶肌「……おまえが、そうだな……? トリガーの命令だ、ここで、始末、する」

ひゅんひゅんひゅんひゅん

茶肌は槍をくるくると振り回したあと、穂先を包帯の人物に向ける。

?「……ヒュー、ヒュー」

茶肌「元三代目勇者にして四代目魔王、茶肌、まいる」

シャシャシャッ!!

そして茶肌は爆発的なスピードで走り出した。

741: 2013/11/27(水) 00:48:59.30 ID:OPj3beRz0
404

--失われた王国、遺跡--

茶肌「おおおおおおおおおおおおおお!!」

跳躍し、狙いを見定め、構え、突く。

ドヒュオ!!

?「……」

それを包帯は早い段階でかわし、茶肌との距離をあける。

ドキャッッ!!

槍は包帯男の後ろにあった大木に突き刺さっていた。

がさっ

茶肌「……よく、かわしたな」

しゅ、しゅしゅしゅ……

槍が刺さった大木は、一瞬で活力を失い、枯れ木と化した。

?「……」

バキバキバキバキ、ズズーン!!

茶肌「俺は、戦士。だから、教えてやる。我が槍は、刺したものの寿命を削りきる、伝説の秘宝、『呪いの槍』……」

ひゅんひゅんひゅん!!

茶肌はその凶悪な獲物を振り回し、再び包帯に狙いを付けた。

742: 2013/11/27(水) 00:49:49.43 ID:OPj3beRz0
405

--失われた王国、遺跡--

ぼろっ

?「!」

黒い包帯が朽ちてゆく。

茶肌「……お前自身は、射線上から、逃れた。だが、その包帯は、逃れ切れなかった」

ぼろっ

?「……」

黒い包帯がぼろぼろになり、密度が薄くなっていく。

?「……ち、かすってたか」

男の声。顔を覆う包帯も締め付けが緩くなり、中から眼や口が露出する。

?「やれやれ……」

男はぼりぼりと頭をかくと、ナイフケースに手を伸ばした。

シャキーン

?「せっかくの魔法道具を頃してくれやがって。どうしてくれようか」

男は困ったようにため息をついた。

がさっ

743: 2013/11/27(水) 00:51:13.56 ID:OPj3beRz0
406

--失われた王国、遺跡--

ダンッ!!

先に動いたのは茶肌。

しゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃ!!!!

ビースト状態のワーウルフ並のスピードで男に接近していく。

?「! はえぇっ!」

茶肌「アララララララララッ!!」

ボボボボボボボッ!!

更に高速で放たれる突きのラッシュ。

ヒュヒュヒュヒュヒュヒュ!!!がさっ!!

茶肌「!?」

それを男は全てかわした。

?「空間設置魔法罠、ミスタイプ」

ぶぅん!!

辺り一帯が赤く光る。それはまるで魔方陣のよう。

茶肌「これは、罠? すでに、設置させられていたのか!?」

744: 2013/11/27(水) 00:52:08.72 ID:OPj3beRz0
407

--失われた王国、遺跡--

?「よっと」

しゃっ!

攻撃を掻い潜り、男のナイフが茶肌の肌を斬る。しかしそれは薄皮一枚のみ。

茶肌「っ……」

?「斬れるか……どうやら勇者でしか倒せない、っていうルールまでは持ってないみたいだな」

茶肌(この罠は行動成功率を下げる類か? 味なマネを)

ダンッ

?「!」

茶肌は高く飛び上がった。

茶肌「スキル、透視眼!」

ぎぃん

茶肌の瞳はこの場一帯に張り巡らせた、全ての罠を看破する。
そして

茶肌「スキル、必中、スキル、百突き!」

ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ!!

超高速の乱れ突きを放った。

745: 2013/11/27(水) 00:53:49.89 ID:OPj3beRz0
408

--失われた王国、遺跡--

ドドドォオン!!

?「くっ! おいおい槍で突いて罠を頃したってか? なんでもありかよそいつはよー」

がささっ

男はその場から一旦離脱することにした。

?「っていうか必中持ってんの……? それで俺に打ってきたら終わりじゃね?」

ひゅん!

?「!?」

しゃしゃしゃしゃしゃしゃ!!

茶肌「久しぶりに、楽しめそうだ。すぐに終わらせては、もったいない」

スピードには自信のある男だったが、一瞬で茶肌に追いつかれてしまう。そして茶肌は顔を引きつらせるようにして笑う。

?「……はぁ。なんでこうも皆さんは戦闘好きなんですか、ねぇっ!」

ぎぃん!!

男は一回転してナイフを振り抜くも茶肌に軽々と防がれてしまう。

746: 2013/11/27(水) 00:54:34.32 ID:OPj3beRz0
409

--失われた王国、遺跡--

ギインギギギッギギィンギィン!

今度は男がラッシュをかける。

茶肌「その程度か?」

ギギン!!

茶肌「それで本気だというのなら」

ギィン!

茶肌はナイフを弾く。

茶肌「並だ!」

ズン!!

?「ッッ」

茶肌の蹴りが炸裂する。

ドッゴォオオオオン!!

747: 2013/11/27(水) 00:58:29.00 ID:OPj3beRz0
410

--失われた王国、遺跡--

ドゴォン! ドゴゴゴォン!!

?「がはっ!!」

どさっ

方々に激突し地面を転がる男。そこにすぐさま茶肌が迫ってくる!

茶肌「アララララララ!!」

?「げほっごほっ、体術でもこの差だよ……全く勝てる気しねーなぁほんと」

茶肌「アララララララ!!」

茶肌が槍を構える。

?「降参降参、降参だよ。やっぱり俺なんかじゃ勝てやしない」

茶肌「……戦いの最中で、あきらめる、のか? お前、戦士には向いていないな」

?「あぁ。だって昔は盗賊だったしな。戦士なんてのは本当に強いやつがなるもんだ」

茶肌「……誇り無き愚者め。なら氏んでしまえ!」

茶肌は槍で突こうとする。

?「だから弱い俺は、他人の力を借りて戦うことにする」

どっ!!

茶肌「!?」

ぶしゅっ!

男は茶肌の突きを避けるだけでなく、茶肌の左腕を切り裂いた。

748: 2013/11/27(水) 00:59:33.04 ID:OPj3beRz0
411

--失われた王国、遺跡--

ぶしゅううーー!!

茶肌「!? なん、だ。今の動きは!?」

?「……」

ごごごごごごごご

茶肌「魔力の質が、先ほどまでと、違う……」

男は強力な魔力を身に纏っている。

茶肌「この力……まさか」

?「奥義、共有・兜の型」

ナイフに六色の魔力が集まっていく。

?「盗賊スラッシュ」

ドシャアアアアアアアアアアアアアアン!!

749: 2013/11/27(水) 01:00:38.65 ID:OPj3beRz0
412

--失われた王国、遺跡--

ズズゥッゥウウゥウウン……

茶肌「はっ、はっ、はっ……」

?「ち、普通今のを避けるかよ……」

男は自分の斬撃が遺跡を破壊してしまったのを見て舌打ちする。

茶肌「勇者の……力」

茶肌は恨めしそうに男を睨む。

茶肌「いや、これは偽者の勇者の力だ。だがなぜだ、なぜお前が、その力を!」

?「あんたを倒すのに必要だったから貸してもらった。そんだけのことよ」

茶肌「なんだと? それは貸し借りできるようなものではないはずだ」

?「……出来ちゃったんだからしょうがないじゃん」

茶肌「!?」

ドガアアアアアアアアアン!!

男の一撃が茶肌を吹き飛ばす。

750: 2013/11/27(水) 01:01:21.91 ID:OPj3beRz0
413

--失われた王国、遺跡--

茶肌「ぬぅ……」

?「あらー……今のも防ぐか……」

男は再びナイフを構え、茶肌に接近していく。

ザザザザザザ!!

茶肌「!! アララララララ!!」

茶肌も体勢を立て直し、カウンターを狙う。

?「どうせ聞いてるだろうから教えといてやるよ」

ギィン!!

槍に切りかかる男。

?「共有は結びつきの強い人同士で出来る奥義だ……だからこんなことも出来る。闘士の型」

むきっ!!

男の筋肉が膨れ上がる。

?「こ、攻撃力、攻撃速度上昇レベル4」

ふぉん、どがぁあああん!!

男の拳は茶肌の顔面を完璧に捉えた。

751: 2013/11/27(水) 01:04:02.17 ID:OPj3beRz0
414

--失われた王国、遺跡--

どさっ!

茶肌「っく……」

?「無効化じゃないみたいだが、ほんと硬いなぁ……全然削れねぇ」

男は右腕を振り回しながら喋る。

?「だけど……大体わかるだろ? この力を使えば、あんたの悩みの種が増えちゃうってことも」

男は誰もいない場所に向かって語りかけている。

茶肌「ぬぅ!!」

?「っと。兜の型」

茶肌「うおおおおおおお! 移動速度上昇、レベル4!!」

ぎゅん!!

?「! やっと本気になったってわけか? でも」

ひゅん!

茶肌の槍は男に当たらない。

?「1・狙いをつける 2・構える 3・突き出す の順の行動でそいつは効果を発揮するんだろ? 多少無茶を言ってるが、2と3の間に射線上が移動しちまえば効果は発揮しないんだってな」

茶肌「!!」

?「本気のあんたを相手にしたら、俺なんかじゃそんな芸当は不可能だ。でも今は違う」

ひゅひゅひゅひゅひゅ!!

?「今俺は、速度の限界を超えた者と共にいる」

752: 2013/11/27(水) 01:04:50.39 ID:OPj3beRz0
415

--失われた王国、遺跡--

ドギィイイン!!

茶肌「ぐ、ぐぅ!? お。お前、なにものだ……」

じゃり

?「とっくにごぞんじなんだろ!?」

茶肌「!?」

?「オレは自宅から野菜を買うためにやってきた専業主夫…穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚めた伝説の凡人…超ニートだ!」

茶肌「な、なにッ!?」

がさっ

よく見ると野菜の入った袋を持っていた男。

茶肌「ニート……? きいたことのない職業……いったいどんな職業なんだ……?」

?改めニート「ふん、ニートはな。全てを超える可能性だけを持った、最も自由な職業なのだ」

ニートは手を広げくるくると回ってみせる。

茶肌「全てを、超える?」

ニート「可能性だけな」

753: 2013/11/27(水) 01:09:25.77 ID:OPj3beRz0
416

--失われた王国、遺跡--

ニート「ニートは一人では生きていけない、他人の力を借りるしかないのだ」

ざっ

茶肌「!」

ニート「ニートは職業とは呼べない。だからこそどんな職業になることも出来る……」

ざっざっ

茶肌「っぐ!」

歴戦の勇者である茶肌がニートを前にして汗を垂らす。

茶肌(言っていることはよくわからない……だが……こいつの力、危険だ!)

ニート「勇者に憧れ、旅に出て、盗賊になったりもしたが、結局行き着いたのはスタート地点と一緒だった……そう、人生とは回り道……あの頃の俺に教えてやりたい、働かない職業もあるんだと」

茶肌「……! その歳で、働いてない、のか」

茶肌はがくがくと震えている。

ニート「……ニートとは可能性の塊!! 勇気を出し、一歩前に踏み出せば!! ニートはなんにでもなれるんだっ!! 見ろ、これが他力本願の極致! ニート変化!!」

ぎゅいいいいいいいいいいいいいいいいん!!

ニートの魔力が更に高まっていく!!

ニート「勇者の型!!」

どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんん!!

754: 2013/11/27(水) 01:11:59.70 ID:OPj3beRz0
417

--失われた王国、遺跡--

ばちっばちばちっ!!

茶肌「!! その力は! 紛れも無い……勇者……」

ニート「あぁそうだ。さぁ、決着をつけるぞ。野菜が傷まないうちにな!!」

ぎゅいいいいいいいいいいいいいいいいん!!

ニートのナイフに魔力が集約されていく。

茶肌「!」

茶肌も槍に魔力を込める。そして不適に笑う。

茶肌「お前はよくわからない……が、面白い……お前、強い!」

ぎぃいいいいいいいいいん!!

二人の魔力が臨界点に近づいていく。

茶肌(あの力は勇者のもの……魔王である俺が攻撃を受ければ負ける……だが逆にこちらが先にあてれば俺が勝つ……)

じりじり

二人は間合いを計っている。

茶肌(臆するな。俺は誇り高き戦士! 俺は最速の勇者!!)

ぐっ

姿勢を落とし、茶肌が攻撃態勢に入る。

ニート「と」

ダンッ!!

茶肌(もらった!!)

ドシュドシュドシュドシュドシュドシュ!!!!

茶肌「げっひ!?」

走り出した瞬間、茶肌の体に魔力で出来た無数の槍が突き刺さった。

755: 2013/11/27(水) 01:12:47.38 ID:OPj3beRz0
418

--失われた王国、遺跡--

ぶしゅっ! ぼたたっ!

茶肌「げ、げひっ……こ、これ、は……」

ニート「空間設置魔法罠、カウンタータイプ。……ニートの説明をしている時に貼らせてもらった」

茶肌「!……あの回っている時か……ごほっ!」

ニート「……いくら勇者の力を借りてるって言っても、あんたの本気の速度と真っ向から打ち合うのは危険だったからさ……ちゃんとした一騎打ち出来なくてごめんな」

ぼたぼた

茶肌「……仕方あるまい……これも戦士の最後の一つ……」

茶肌は手に持っていた槍を地面に突き刺すと笑った。

茶肌「名はなんと言う? 凡人」

ニート「盗賊って呼ばれてたりする」

756: 2013/11/27(水) 01:14:06.49 ID:OPj3beRz0
419

--失われた王国、遺跡--

茶肌「俺を負かした戦士、盗賊よ。これをお前にくれてやろう」

茶肌は呪いの槍をニートに渡すと言った。

ニート改め盗賊「……いや、悪いけど俺そっちの才能ないからうまく扱えないぞ?」

茶肌「む……」

盗賊「あんたがもってきなよ。ずっとそれと一緒だったんだろ?」

茶肌「……そうだ。我が伴侶だ」

盗賊「それならなおさらだ。俺はNTRに興味は無いし、可愛い嫁だっているしな」

茶肌「……そうか」

ぼろろっ

茶肌の体が崩れていく。

茶肌「さらばだ、よくわからない、変な戦士よ」

盗賊「俺はただのニートだよ」

ぼろろろろっ

盗賊「……じゃあな。あんたは俺が戦ってきた中で最も速い戦士だったよ」

ざぁああ……

ひゅぅうううぅう

盗賊「やれやれ……まさか買い出しに出て魔王と遭遇するとはな……物騒な世の中だぜ」

757: 2013/11/27(水) 01:17:52.48 ID:OPj3beRz0
420

--失われた王国、付近--

わいわいがやがや

ツインテ「は、ハイさんの職業勇者だったんですか!?」

ハイ「いえそういうわけでは……」

アッシュ「俺達が何年も修行してなれなかったものを……」

ハイ「これは制約と条件のおかげであって私の才能とかそういうんじゃないですから……」

ポニテ「ほんと役に立たない先輩でごめんね、これじゃおっOい大きいことくらいしかいいところないや……はは。おっOい揉む?」

勇者「馬鹿にしてんの?」

ハイ「いえ揉みませんけど」

レン「……まさに希望が詰まった職業にゃね、レベル。レベル1の通常状態だと一般の兵士にすら完封される戦闘力なのに」

ハイ「レベル1状態では普通の女の子と変わりありませんからね」

ぞろぞろと歩いているハイ達。五柱や黄金世代も加わってそこそこ大規模なグループになっていた。

D鷲男「ぎゅああぁあ!!」

そこに空から鷲男が現れる。

魔導長「!? 倒してなかったなの!? 任せたのに!」

元賢帝「いや任すとか言ってなかったじゃないの。あんたいきなり戦線から離脱したんじゃない」

射王「俺達に責任なすりつけられてもな」

侍「……まぁ、このメンバー相手に一人で突っ込んでくるとは自殺行為でござるがね……」

D鷲男「いいいいいいいいいいいぐるるるるるうぅううう」

ぴかっ

  「雷属性攻撃魔法レベル5」

どぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

D鷲男「ぎゃ、ぎゃああああああああああああああああああああ!!」

雷に焼かれて灰と化す鷲男。

通信兵「!? レベル5魔法!? あっちから飛んできましたが……」

符術師「今のは魔族を狙ったんだよな? ってことは味方、なのか?」

そこには黒いフードを被った二人組がいた。

勇者「安心して。彼らは仲間なの」

772: 2013/12/02(月) 21:32:21.33 ID:Ghm8U2gE0
421

--失われた王国、付近--

ひゅぅううぅう

魔導長「レベル5魔法の使い手はそんなにいないはずなの……ってか今私の語尾ぱくったなの!?」

ざっ、ざっ、ざっ

勇者「警備お疲れ様。異常は無い?」

?「お前らが魔族を連れてきたこと以外はな」

??「もうっ、またそんな言い方して!」

ふぁさっ

二人は黒いフードを取った。

ポニテ「!!!!」

通信兵「……レベル5魔法を使用出来る人間がいるとすれば魔導長様と聖騎士様と……貴方くらいでしょうね」

符術師「元王国軍団長……魔法使い!」

?改め魔法使い「……」

ポニテ「キバお姉さん!! 生きてたんだね!!」

??改めキバ「お久しぶりポニテちゃん!」

773: 2013/12/02(月) 21:35:22.09 ID:Ghm8U2gE0
422

--失われた王国、付近--

がばっ!!

キバに抱きつくポニテ。

魔法使い「ふん……せっかく人生を全う出来たと思っていたんだがな、そこの女に無理やり生き返させられたんだ」

キバ「こらっ! 私達を救ってくれた恩人に対してそういう言い方はやめなさい!」

ポニテ「ママが助けたの?」

勇者「うん。魔法使いを探しに行ったら心中しようとしてたから毒抜いて蘇生したのよ」

キバ「……えっ!? ママっ!?」

魔法使い「やっぱり血縁だったか……」

ポニテ「って、何で心中!? いつ!? どうして!?」

キバ「……ポニテちゃん達と別れてすぐだよ。あの戦いで力を使い過ぎちゃったせいで、擬似魔王の力を抑えておけなくなっちゃったから」

魔法使い「……」

アッシュ「わからんな」

ハイ「アッシュ先輩?」

アッシュ「……擬似魔王が一体なんなのか俺にはよくわからないが、氏を選ぶほどのことだったんだろう? ならなぜ蘇生された後、今日まで生き続けているんだ?」

レン「アッシュ!」

キバ「……氏ぬ理由が無くなったから。魔王の力を抑えられる手段を勇者さんに教えて貰ったのよ」

キバは微笑む。

アッシュ「!?」

774: 2013/12/02(月) 21:37:04.85 ID:Ghm8U2gE0
423

--失われた王国、付近--

アッシュ「魔王の力を……抑える?」

魔導長「気になるなの」

きらん

キバは左手の薬指にはめた指輪を見せる。

侍「エンゲージリングでござる?」

キバ「勇者さんがくれたこれがあるからこそ、私は今も人間として生きていけるの」

ポニテ「あれ? それママがつけてるやつ、だよね!?」

きらん

勇者「えぇ、複製したのよ。錬金のスキルはあまり高めてなかったから、それ一つ作るのに5年もかかっちゃったけど」

レン「!」

ツインテ「すごい、ポニテさんのお母さんてなんでも出来るんですね!」

魔法使い「ふん、むかつくことだがこの女はオールマイティだ。唯一苦手なものがあるとすればその胸くらいのものだ」

勇者「火属性対単体攻撃魔法レベル6」

魔法使い「やめろ! というかギャグであっさり俺のレベル5を超えるな!」

775: 2013/12/02(月) 21:39:58.62 ID:Ghm8U2gE0
424

--失われた王国、付近--

魔導長「その指輪は魔王の力を押さえ込むって言っていたけれど、もしそれを量産出来てあの魔王につけることが出来さえすれば……」

勇者「そうね。無力化できるかもしれない」

魔導長「!!……勝機が見えたなの!!」

勇者「もっとも、私がつけてるオリジナルと同等の効果を持たせられているのか、まだ証明できていないんだけどね。擬似魔王だからコピーでも抑えられているのかもしれないし」

ばっ!!

レン「錬金術と言えばこのレンにゃ!! レンに任せてもらえればすぐに何百個に増やしてみせるのにゃ!」

ハイ「! そうですね。レン先輩なら、五柱の一角、ものつくり帝のレン先輩ならいけるかもしれません!」

レン「なんでわざわざモチベーション下がるようなこと言うのにゃ?」

ハイ「えっ?」

勇者「まぁともかく、入りましょう。私達の秘密基地に」

ざっ

ポニテ「あ、そういえば今思い出したんだけどパパは大丈夫なの?」

ツインテ「今思い出した!?」

776: 2013/12/02(月) 21:40:52.25 ID:Ghm8U2gE0
425

--失われた王国、付近--

勇者「えぇ大丈夫よ。ずっとあんな感じのまま」

いぃいいん

その時勇者の指輪が赤く光り始めた。

勇者「話をすれば、ね。今どこかで盗賊が戦ってるみたい」

魔法使い「! あいつは買い出しに行くとか言っていたな。敵に襲われているのか?」

勇者「ん……そうみたい。私の力を借りてるくらいだから魔王と戦っているんだと思う」

ポニテ「!? ま、魔王とパパが!?」

青ざめるポニテ。

勇者「大丈夫、今の盗賊は簡単にやられたりしないから」

そう言って勇者は笑う。

ポニテ「……うん」

そして指輪の光がおさまった。

勇者「戦闘が終わったみたい。ちゃんと命の鼓動を感じるし、無事だと思うわ」

777: 2013/12/02(月) 21:42:12.76 ID:Ghm8U2gE0
426

--失われた王国、付近--

ポニテ「そういえばママ達はあの事故の後どうしてたの? 私ずっと待ってたし探してたんだよ!?」

勇者「ん……寂しい思いさせちゃったね。……でもあれは事故じゃないの。ポニテも大きくなったことだし、今は物語の渦中にいる……あの時何が起きたのか、教えておいてあげる」

…………

……



--過去、船--

ザザーン

口リポニテ「キャハハハ!!」

ててててててて

勇者「こらポニテ、あまりはしゃいでると海に落ちるわよ!?」

口リポニテ「だーいじょーぶー」

ててててててて

盗賊「初めての船で楽しいんだろ。好きにさせておこうぜ」

勇者「もう……全然私の言うこと聞かないんだから」

ザザーン

778: 2013/12/02(月) 21:42:56.60 ID:Ghm8U2gE0
427

--過去、船--

ザザーン

勇者「はぁ……闘士の命日に間に合うといいけど……大事な時にグリフォンいないんだから」

盗賊「仕方ねぇよ、おじいちゃんの三回忌らしいから」

勇者「……空路は絶たれ、陸路はあの子にはまだ辛いと思って消去法で選んだ海路……」

ザザーン

下っ端海賊「う、うぐ……」

勇者「……それがまさか海賊に襲われちゃうなんてね」

盗賊「ついてねぇなぁ」

船の甲板にはぼこぼこにされた海賊達が転がっていた。

779: 2013/12/02(月) 21:44:02.85 ID:Ghm8U2gE0
428

--過去、船--

船長「い、いやぁ助かった! 海賊船を見つけた時はもうおしまいだと思ったけんど……まさかこんな強い人たちが同じ船に乗船していたなんて!」

船長が物陰から現れて二人に礼を言った。

盗賊「やー、気にすんなよ。困ってる人は見過ごせないたちなんだ俺」

勇者「戦ったのはほとんど私だけどね」

船長「何か礼をしないといかんね! でも結構荒らされちまったからなぁ……積荷も心配だぁ」

勇者「礼はいい。それより南の王国の船着場に急いで欲しいんだけど」

船長「あー、そうしたいのはやまやまなんだけどねぇ。海賊のせいで色々ぶっ壊れちまって、これ以上はスピード出なさそうなんだよなぁ……」

口リポニテ「キャハハハハ!!」

ポニテは気絶している海賊のひげを引っ張っている。

勇者「こら! 汚いもの触るんじゃありません!!」

船長「……ところでどういったご関係?」

盗賊「嫁と娘です」

780: 2013/12/02(月) 21:45:07.57 ID:Ghm8U2gE0
429

--過去、船--

ザザーン

乗組員「いたた……」

乗組員は腕に刺さった木片を引き抜こうとしている。

ぶしゅっ

乗組員「つぅう……」

勇者「怪我見せて。回復魔法かけてあげる」

乗組員「お、お嬢ちゃんこんなに幼いのに回復魔法使えるのか?!」

勇者(お嬢ちゃん……ま、まぁ若く見られてるってことだから……)「水属性回復魔法レベル2」

ぽぅ

船長「へぇー! めちゃくちゃ強いだけじゃなくて回復魔法もできるんかぁ。すごいねぇ妹さん」

盗賊「嫁です」

口リポニテ「あぐっ」

ポニテは海賊の頭にかじりついた。

勇者「きゃー! 汚いもの食べちゃいけません!!」

781: 2013/12/02(月) 21:46:26.09 ID:Ghm8U2gE0
430

--過去、船--

ザザーン

船長「いや本当に助かったよ! 海賊から助けてもらっただけでなくみんなの怪我まで治してもらっちゃって!」

勇者「気にしないで。困ってる人を助けるのは当たり前のことだから」

盗賊「貧Oのくせにいいこと言った」

貧O「なんで今のが胸の大きさに関係あるの!?」

瞬時に涙ぐむ貧O。

口リポニテ「パパーママーおなかすいたー」

盗賊「よし一緒にママのおっOい吸うか」

勇者「!?」



--東の王国--

東の憲兵「む!?……今どこかで事案が……」

782: 2013/12/02(月) 21:47:49.11 ID:Ghm8U2gE0
431

--過去、船--

ザザーン

若乗組員「せ、船長……少しお話があるんですが」

船長「どうした? 何か問題起きたか?」

若乗組員「いえ、そのここでは言えないことなのであっちで……」

船長「仕方ないやつだ。ちょっと席を外しますよ」

船長は帽子を取って見せ、若乗組員の後についていった。

勇者「……」

盗賊「やれやれ。ばれちまったか」

ポニテ「きゃはは! パパきもちわるーい!」

全身の間接をあらぬ方向に捻じ曲げられた盗賊は真顔で船長の後姿を見ている。

勇者「そうでしょうね。船長を呼びに来た子、私と盗賊の顔をちらちら見てたし」

盗賊「ま、しゃーなしだな。何十人もの命を助けられただけでもよしとしよう!」

勇者「……ほんとばか」

勇者は仕方なさそうに笑う。

783: 2013/12/02(月) 21:48:35.98 ID:Ghm8U2gE0
432

--過去、船、船室--

若乗組員「これ、見てください」

船長「ん?」

若乗組員が差し出したのは賞金首の人相が描かれた手配書……。

船長「……」

そこには、

賞金首
眼帯の男、勇者 
賞金額70,000,000G

賞金首 
角の生えた少女、サキュバス 
賞金額150,000,000G

と描かれていた……。

若乗組員「こ、これ……あの二人、ですよね?」

船長は険しい表情で手配書を見ている……。

船長「……Gって、この世界の通貨?」

784: 2013/12/02(月) 21:50:38.75 ID:Ghm8U2gE0
433

--過去、船、船室--

若乗組員「確かにこの世界の通貨はなんなのかよくわからないけども今はそんなこと問題じゃないでしょう!? あの二人、極悪人ですよ……こんな金額今まで見たことねぇ」

船長「……」

若乗組員「どうするんですか船長……今ならまだ向こうも気づいてないと思いますし、食事に睡眠薬でもいれて」

どがっ!

若乗組員「がはっ!?」

船長は若乗組員の顔を殴る。

若乗組員「な、何すんですか船長!」

船長「ばっきゃろぉい!! お前助けて貰っておいてよくもそんな口がきけたもんだ!」

びりびりびりっ

船長は手配書を破く。

船長「……悪い人たちじゃねぇよ。眼を見てわかんなかったのか?」

若乗組員「……」

船長「きっと濡れ衣に違いない……俺は信じるぜ。いいな、このことは誰にも言うんじゃねぇぞ? 手も出すな」

若乗組員「へ、へい……」



盗賊「……どうやらまだ安心して乗ってられるみたいよ?」

盗賊の左眼が光っている。

勇者「よかった。この子を戦いに巻き込みたくないし」

口リポニテ「?」

勇者はポニテの頭をそっとなでる。

785: 2013/12/02(月) 21:51:32.93 ID:Ghm8U2gE0
434

--過去、船--

船長「いやぁすいません。若いのがわからねぇことがあるってうるさくって」

盗賊「なぁに。別に急いでるわけじゃないし」

勇者「急いでるからっ!」

ひゅぅうう

船長「おっと、急に風が出てきたな」

勇者「……」

盗賊「変だな? 遠くの海は全方位快晴なのに、ここだけ急に暗くなってきた?」

勇者(嫌な気配……これはまるで)

乗組員「おいじっとしてろ!」

海賊達をロープで縛っていた乗組員が声を荒げる。

盗賊「なんだ?」

海賊「み、ミミミ」

海賊の一人が突如奇妙な動きを始めた。

ぎしっ、ぎししっ

海賊「み、み」

勇者「……」

海賊「ミツケタ」

786: 2013/12/02(月) 21:52:23.40 ID:Ghm8U2gE0
435

--過去、船--

びゅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

乗船客「きゃああああああああああ!?」

船長「う、うおぉおお!?」

勇者「!」

突如として船の真上に暗雲が出現し、生暖かい突風が船を襲う。

びゅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

盗賊「……おいおい嫌な感覚だな……なんだこれは? 王国側の新兵器かな?」

勇者「違うわ。これは……」

やがて闇が集まり一つになる。

ざわざわ

船長「な、なんだあれは……?」

口リポニテ「ぱ、パパママ……怖い……」

ぎゅっ

盗賊にしがみつくポニテ。

787: 2013/12/02(月) 21:53:37.33 ID:Ghm8U2gE0
436

--過去、船--

勇者「……盗賊。ポニテを連れて船室に隠れて」

盗賊「冗談。俺も戦うよ」

勇者「……盗賊!」

盗賊「まぁでもとりあえずポニテを船室に連れていく。その間に負けるなよ」

勇者「……私が負けるわけないでしょ?」

盗賊と勇者はにこりと笑う。

盗賊「船長、ぼけっとしてないで全員中に非難させようぜ」

船長「あ、おう。そうだな……こりゃぁただごとじゃなさそうだ……おぅーい! みんな中に入ってくれぇ!! お前らしばった海賊達も忘れずになぁ!!」

だだだだだだだ

勇者「……」

空を睨む勇者。
そして、

ぼひゅっ

闇から、何かが現れた。

788: 2013/12/02(月) 21:54:11.40 ID:Ghm8U2gE0
437

--過去、船--

?????「ぎ、ギギ」

勇者「黒い……人、いや……蝿?」

ばさっ!

勇者「この感覚……嘘でしょ?」

がちゃ

勇者は海賊が持ち込んだサーベルを二本装備する。

?????「ゆ、ユウシャ、発見」

ばさっばさっ

上空を飛ぶ蝿人間は勇者に狙いを付けた。

きぃいいい

勇者「!?」

そして

?????「ロクショクホォォオオ!!」

かっ

いきなり魔力砲撃を放った。

789: 2013/12/02(月) 21:54:41.23 ID:Ghm8U2gE0
438

--過去、船--

ダッ!!

勇者は飛び上がりそれを迎撃する。

勇者「はぁあああああ!!」

どがぁああああああああああああああああん!!

空中で魔力砲撃と激突する勇者。

ヂヂヂッヂヂッ!!!!

勇者(この威力、この感覚……!! 間違いない! これは)

どぎゃああああああああん!!

なんとか大部分をそらすことに成功するのだが、弾けた魔力が船を襲った。

どがぁあん!!

勇者「魔王!!」

?????「ぎ、ぎぎっ」

790: 2013/12/02(月) 21:55:38.92 ID:Ghm8U2gE0
439

--過去、船、船室--

どがぁあん!!

婦人「ざますーー!!」

口リポニテ「きゃあぁあああ!?」

盗賊「む……」

ずずぅううん……

盗賊(この揺れ、勇者が押されてるのか……?)「船長」

船長「お、おう」

盗賊はポニテを船長に預ける。

口リポニテ「!? や、やだいかないでパパぁー!!」

盗賊「大丈夫だポニテ、ちょっと……あれだ、船員の手伝いに行って来るだけだから。ほら、嵐だと人手が足りないからな」

口リポニテ「やだぁ! やだよぉお!! いっちゃやぁだぁ!!」

盗賊「こらこら聞き分けの無いことを言うもんじゃないよ……」

盗賊はポニテの頭に手を乗せる。

がぶっ

盗賊「噛みおった!?」

791: 2013/12/02(月) 21:57:55.43 ID:Ghm8U2gE0
440

--過去、船、船室--

口リポニテ「うー、うー!!」

盗賊「……心配すんなって。ちゃんと帰ってくるから」

口リポニテ「うー!」

盗賊「それにママのことだって心配だろ?」

口リポニテ「うー……ぐすっ」

どくどくどく

船長「だ、大丈夫か?」

盗賊の手は噛み砕かれている。

盗賊「じゃあ行って来る。船長、ポニテのこと頼みましたよ」

だだだっ

口リポニテ「うっ、うーっ!」

ポニテは涙をぽろぽろと零しながら盗賊を見送った。



--過去、船--

だだだ、ばんっ

盗賊「勇者!?」

扉を開けると、膝をついた勇者が目に入る。

勇者「なんだ……来なくても良かったのに」

盗賊「……まともな武器もないくせに強がってますなぁ」

勇者が握っているサーベルは、二本ともひしゃげていた。

盗賊「さぁて、とっととぶっ倒してうまいもんでも食いに行こうぜ」

?????「ぎぎっ」

807: 2013/12/16(月) 22:06:27.59 ID:0KmnvriZ0
441

--過去、船--

?????「ギギギギギ」

盗賊「気持ち悪いデザインですな。俺、蝿、嫌い……」

盗賊は眼帯を外して黒い化け物を見る。

盗賊「透視眼!」

きぃん!

盗賊「……なんだこりゃ。弱点ないぞこいつ」

勇者「……土属性武器生成魔法、金剛剣!」

ばきぃん!

勇者はダイヤモンドの剣を作り上げる。

盗賊「あれ、そんなことも出来たの? 今まで使わなかったじゃん」

チャキ

勇者「生成系にはあまり振ってなかったからね。心もとないけど、まともな武器が無い状況じゃやるしか無いと思って」

盗賊「相変わらずなんでも出来るんですねー」

勇者「なんでもじゃ無いわ、出来ることだけよ」

808: 2013/12/16(月) 22:06:56.60 ID:0KmnvriZ0
442

--過去、船--

盗賊「しかし戦わずに済むのならそれに越したことはないんだな」

かしん

勇者「え?」

盗賊はナイフをしまう。

盗賊「ここは海の上だし守らなきゃいけないもんが多すぎる。何よりかなり強そうだから出来れば戦いたくない!」

勇者「えぇ!?」

盗賊「すいませーん! ちょっと降りてきて話し合いませんかー!?」

?????「ギッ?」

勇者「あ、アホかー!? 話し合いも何も、既に私たちは攻撃されてんのよ!?」

盗賊「1発だけなら誤射かもしれない」

勇者「氏ねー!」

809: 2013/12/16(月) 22:08:06.39 ID:0KmnvriZ0
443

--過去、船--

?????「ギッ」

蝿人間は攻撃態勢に入る。

盗賊「ちっ、来るのか」

勇者「当たり前でしょ! 構えて!」

ひゅーん!

飛来する蝿人間。

勇者「!」(さっきも思ったけれど、強いには強いけど、圧倒的な戦闘力を持っているわけじゃあないみたい。スピードも私たちの方が勝っている!)

だっ!

勇者が飛び出す。そして蝿人間の攻撃をかわし、剣を振る。

ぶおぉん!!

?????「スキル、完全回避」

すかっ!

勇者「っ!」

完璧に捕らえたはずの攻撃が避けられてしまう。

?????「……にぃ」

810: 2013/12/16(月) 22:08:33.19 ID:0KmnvriZ0
444

--過去、船--

勇者「!?」

ばつんっ!

空中に魔力で足場を作って、緊急離脱する勇者。

だんっ!

盗賊「おかえり。どうした、勇者が退くなんて珍しいな」

勇者「なんか……やな予感がしたのよ」

盗賊「やな予感?」

?????「ギギギギギギッ」

盗賊「……よし俺がしかけてみるかー」

勇者「……」

盗賊「……やめたほうがいい?」

勇者「ん……どうしよう。でもやるしかないわ、逃げ場は無いんだもの」

811: 2013/12/16(月) 22:09:44.72 ID:0KmnvriZ0
445

--過去、船--

盗賊(勇者にしてはえらく慎重だな。よし)「あれでいくか」

勇者「え」

盗賊「逃避行の時に、がけっぷちに立たされたことで生み出したこの奥義で!」

ぎぃん!

盗賊と勇者の間に赤い糸のようなものが出現する。

盗賊「奥義、共有!」

どぉおおん!!

?????「ギギッ?」

ばちばちっ!

盗賊の体から勇者の魔力が溢れ出す。

勇者「盗賊!」

盗賊(俺が捨石でやれるだけのことをやる。あの勇者がちゃんと観察さえすれば、倒せないやつなんていないだろうからな)

どんっ!

蝿人間めがけて盗賊は跳躍する。

812: 2013/12/16(月) 22:10:39.43 ID:0KmnvriZ0
446

--過去、船--

トントントントントン!!

空中に足場を作って高速で駆ける。

盗賊(勇者ならこんなことも出来るんだよなぁ。普段の俺だと魔力を体から切り離して維持させるのは超きついもんな)

?????「ぎぎっ」

蝿人間の目の前にまで来た盗賊は二本のナイフで斬りかかる。

しゅばばっ!!

?????「ぎぎっ!」

しかしその攻撃もかわされてしまう。

盗賊(速い! いや速いだけじゃないなこれ!?)

勇者(回避確率を……あげてる!)

?????「ギッ……連続回避、3コンボ……ギギッ」

813: 2013/12/16(月) 22:11:18.70 ID:0KmnvriZ0
447

--過去、船--

盗賊「? 3コンボ?」

ぎゅんっ!!

盗賊「!?」

ガガガガガガガガガガガガ!!

蝿人間の猛烈な反撃が開始される。

盗賊「う、おっ!?」

ぎぎぎぎぃん!!

勇者の力を得た盗賊でさえ全てを弾くことができないほどのスピード。

ぶしゅっ!

盗賊(つっ……脇腹にかすった……でもそんな痛くないな)

勇者(さっきより確実にスピードがあがってる……?)

ちゃき

勇者は絶好の隙を今か今かと待ち構えている。

814: 2013/12/16(月) 22:12:18.48 ID:0KmnvriZ0
448

--過去、船--

盗賊「くっ、そっ!!」

ぼっ!!

攻撃を弾きつつ盗賊は回し蹴りを放つ。

すかっ

?????「ぎっ」

盗賊「ひらひらひらひらかわしやがって、なら全部避けてみろよ!? 風属性攻撃速度上昇、レベル4!!」

ビュビュビュビュビュビュビュビュ!!!!

盗賊のナイフに寄る乱れ斬り。付加効果とあいまって、先ほどの蝿人間の攻撃よりなお速い。

?????「ぎっぎっぎっぎっぎっ!」

が、それでも一撃たりとも当たらない。

盗賊「っち! なら避けられないもんでいく! 風属性範囲攻撃魔法、レベル4!!」

びゅおおぉお!!



すかっ

盗賊「!?」

815: 2013/12/16(月) 22:13:55.96 ID:0KmnvriZ0
449

--過去、船--

勇者「面での攻撃……でも」

盗賊「今……確実に当たったはずなのに……なんでだ? 風が何も無かったかのように素通りした?」

?????「ギギギッ、連続回避6、9、10コンボ、ギギッ」

勇者「!!」

ぞくっ!!

鳥肌の立つ勇者。
たった数秒の戦闘の間に蝿人間は……

?????「ニィ」

自分達では勝つことの出来ない存在になってしまったと勇者は悟る。

勇者「盗賊逃げて!!」

盗賊「なんだよ、まだ始まったばかりだぜ? ダメージもたいしたことないしもう少しやってみる!」

勇者「っく!」

ぎゅん!!

勇者は剣を捨て水属性の魔力を溜め始める。

816: 2013/12/16(月) 22:16:05.88 ID:0KmnvriZ0
450

--過去、船--

盗賊「うおりゃああああ!!」

どどっ!

盗賊は空を駆けて接近し、

しゅばっ!

ナイフを振り

?????「ぎぎっ」

蝿人間は一瞬で盗賊の目の前に現れ

盗賊「!?」

でこピンを食らわせた。

ばちん!!

盗賊「」

どごぉおおん!!

甲板に叩きつけられる盗賊。

盗賊「い、いってぇ!? あんなちょこっと当たっただけなのに!?」

817: 2013/12/16(月) 22:17:04.32 ID:0KmnvriZ0
451

--過去、船--

盗賊「今の俺はほとんど勇者なのに……こんなんじゃまるで……」

勇者「……」

盗賊「まるで……魔王と……戦った時みたいだ……」

?????「ギギッ」

勇者「来るよ盗賊! スピードを限界まで上げて!!」

盗賊「! 風属性移動速度上昇レベル4!」

ぼぼっ

盗賊と勇者に風の魔法が付加される。

勇者「重ねて雷属性移動速度上昇レベル4!!」

ばちぃん!!

更に上乗せされる強化魔法。

ドッ!!

?????「ぎぎっ」

それでも蝿人間の接近に反応できない。

818: 2013/12/16(月) 22:20:49.08 ID:0KmnvriZ0
452

--過去、船--

ばっしゃぁあん!!

盗賊「げほっごほっ!! ま、全くみえねぇ!」

蝿人間の一撃を受けた盗賊は遠くの海にまで飛ばされていた。

勇者「はぁあぁああ!!」

ぶぉん!!!!

勇者の渾身の一振りは、衝撃破だけで船の至る所に亀裂を入れるほどである。

ばきばきばき!

勇者「はっ、はっ……」

?????「ぎっ」

しかし勇者の剣は魔王に当たらない。

ボゴッ!!

勇者「ごぼっ!?」

蝿人間のアッパーが勇者の腹部に入る。勇者の華奢な体はそれだけで空中に吹き飛ばされてしまう。

どばきゃっ!

マストに激突しそれをへし折った勇者は、空中で体勢を立て直す。

819: 2013/12/16(月) 22:21:48.31 ID:0KmnvriZ0
453

--過去、船--

勇者「はぁ、はぁ、はぁ……」

?????「ギギッ」

くいくい

蝿人間は勇者にかかってこいとジェスチャーで挑発をする。

勇者「!」

どんっ!

飛び出した勇者はその手に持った剣で斬りかかる。

すかっ

しかし避けられてカウンターをもらう。

どごっ!!

勇者「ごっ!……っ!」

すかっ 
どごっ!!

踏ん張ってもう一度攻撃を繰り出すも、またも避けられ返される。

820: 2013/12/16(月) 22:22:50.87 ID:0KmnvriZ0
454

--過去、船--

ざぱぁあん!!

盗賊「うおぉぉおお!!」

だだだだだ!!

海からあがってきた盗賊も蝿人間に斬りかかる。

?????「ギギッ」

ヒュヒュヒュヒュン!!

勇者と盗賊の二人による息の合った攻撃。それをことごとく交わしていく蝿人間。

勇者(戦闘力が格段に上がっている……! 異常なほどの回避能力も気になる……きっとこれは回避に関係する能力に違いない! だったら)

きぃん

勇者が一瞬だけためを作る。

?????「ぎ」

勇者「スキル、必中!」

盗賊(! なるほど! それならいかに回避力が高くたって関係ない! 絶対に当たるようにするスキルなんだからな!!)

ふぉん!!

?????「……」

ずしゃっ!!

821: 2013/12/16(月) 22:24:29.01 ID:0KmnvriZ0
455

--過去、船--

?????「……」

ぶしゃあああああああー!!

?????「ぎ、ぎいぎぃいぎいぃおおぉぉおぉお……」

勇者の剣が逃げようとする蝿男を深く切り裂いた。そして傷口から黒いヘドロのようなものが吹き出した。

勇者「……!?」

その時勇者は気づく。蝿男の後ろにもう一人の蝿男が立っていることに。

勇者「これは分裂……分身!?」

盗賊「! 囮! 避けきれないから自分の分身で受けさせたのか!?」

勇者(だとするなら……本体はまた攻撃を回避したことになる!!)

?????「ギギッ!!」

ばさっ!!

蝿男は飛び上がり凶悪な魔力を掌に集め始めた。

盗賊、勇者「「!?」」

ぎぎぎぎっぎいいぃいいいいん!!

それは船ごと盗賊達を消滅させるのに、十分過ぎるほどの魔力量だった。

822: 2013/12/16(月) 22:25:13.47 ID:0KmnvriZ0
456

--過去、船--

盗賊「勇者!!」

勇者「わかってる!!」

?????「ロクショクホォオオ!!」

六色に光り輝く魔法が盗賊たちに向けて放たれた。

ドン!!

迎え撃つ勇者も魔力を一気に解放し、必殺の構えに。

勇者「奥義! 勇者スラアアアアアアシュッ!!!!」

ドッ






オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

勇者「!? 嘘! これでも、おさ、れ、る!!」

がくがくがくがく!!

勇者の腕が砲撃の威力に負けて振動している。

823: 2013/12/16(月) 22:26:18.07 ID:0KmnvriZ0
457

--過去、船--

ガガガガガガガガガガガ!!!!

盗賊(俺と共有してるから出力が足りないのか!?……なら!)

ばしゅっ!

盗賊も六色の光を身に纏う。

盗賊「盗賊スラアアアアアアアアアアシュッ!!」

ズンッ!!

勇者「とう、ぞく」

盗賊が勇者の隣に立つ。

盗賊「おら、諦めるな!! この船に乗ってるのは俺達だけじゃないんだ!」

勇者「っ! わ、わかってる!」

ガガガガガガガ!!!!

盗賊「……うし、せぇのでいくぞ、押し返す!!」

無言で頷く勇者。

盗賊「せぇえ」

勇者「のっ!」

?????「ぎっ」

盗賊、勇者「「うおおあああああああああああああ!!!!」」

ズバアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

824: 2013/12/16(月) 22:26:46.14 ID:0KmnvriZ0
458

--過去、船--

どぼーん、どぼどぼーん!!

盗賊「はっ、はっ、はっ……」

勇者「はぁ、はぁ……」

しゅぅうぅう……

?????「ぎぎっ」

盗賊「なんとかふせげ、たな……」

勇者「うん……でもこのままじゃジリ貧ね」

盗賊「……逃げ場無い、足場無いってのは思った以上にきつかったな。さぁどうするよ勇者」

勇者「うん。逃げるしかない」

盗賊「……」

盗賊は馬鹿みたいに口を空けてしばらく固まった。

825: 2013/12/16(月) 22:27:31.32 ID:0KmnvriZ0
459

--過去、船--

盗賊「勇者さん?」

勇者「何?」

盗賊「逃げられないって言ったじゃない。海の上だってばここ」

勇者「そうよ」

盗賊「しかも俺達だけじゃないじゃん? みんなも一緒に逃げなきゃならんじゃん?」

勇者「わかってるわよ」

盗賊「……どうやって逃げんだよ貧O」

貧O「私のこと勇者って言うなよ!」

……ズズ

盗賊「……ん?」

グラグラ

盗賊「船が揺れ始め、て」

勇者「盗賊、何かに捕まって」

どばぁああああああああああああああ!!

盗賊「いっ!?」

船がもの凄いスピードで走り始めた。

826: 2013/12/16(月) 22:28:50.33 ID:0KmnvriZ0
460

--過去、船--

?????「ぎぎっ?」

ざばああああああああああ!!

盗賊「うわぁあ!? な、なんだなんだどうなってんだ!?」

勇者「さっき盗賊があいつと戦ってる最中にちょっと細工しておいたのよ。時間差で発動するようにね」

盗賊「な、なにを?」

勇者「水流操作とか地形変化とかそういうの。ノーリスクじゃないからあんまり使いたく無かったけど……この際仕方ないからね」

盗賊「なるほど。だから勇者スラッシュの威力が低かったのか」

勇者「……それは」

ざぱぁああん!!

盗賊「しかしすげぇ速さだ。あの黒いのがもうちっこくなっちまった……」

勇者「このまま逃げ切れるとは思わないけど……」

ひゅぅうん!!

?????「ぎぎっ!!」

蝿男が船を追って飛んでくる。

盗賊「! くそ、追って来てるぜ!!」

勇者「でしょうね! どこかに着くまでこの船を守らなきゃ!!」

831: 2013/12/24(火) 02:10:26.03 ID:e9yznw5v0
461

--過去、船--

ざっぱぱぁあん!!

盗賊「すげぇな。荒波に襲われてるみたいだ……」

?????「ギギギ!」

ひゅんひゅんひゅん!

盗賊「! けどこのままじゃすぐ追いつかれるぞ!」

勇者「……そうね。何か手を打たないと」

ザザザァァン!

盗賊「……よし」

勇者「? 何か考え付いたの?」

盗賊「上手くいくかはわかんないけどな。あいつがなんでも避けちまうってゆーのならそれを利用する」

832: 2013/12/24(火) 02:10:54.87 ID:e9yznw5v0
462

--過去、船--

勇者「利用……? どうやって?」

盗賊「でも人手がな……やっぱ無理かもしれない」

勇者「? 人数が必要なの? どれくらい?」

盗賊「あと最低三人くらいは欲しいとこなんだが……現実的じゃない手だった。忘れてくれ」

勇者「私が用意する」

盗賊「……用意するって……どうやって?」

勇者「……ちょっと特殊なことをするの」

そういって勇者は剣を手放した。

盗賊「……変なことじゃないだろうな? 寿命削るとか」

勇者「あはは。そんな技私持ってないよ」

盗賊「……」

833: 2013/12/24(火) 02:11:40.94 ID:e9yznw5v0
463

--過去、船--

勇者「あ、信じてくれてない目だ」

盗賊「だって勇者……」

勇者「私はいつでも盗賊を信じてる。例えそれがよくわかんない作戦だろうとね」

盗賊「」

勇者は真っ向から盗賊の顔を見た。

勇者「盗賊は私のこと信じてくれないの?」

盗賊「……信じてる。信じるに決まってる!」

勇者「……」

顔を赤らめる勇者。

盗賊「でも勇者はちょっと氏にたがりな所あるからな……。信じてるけど心配なんだよ」

勇者「う……もう氏のうなんて思ってないよ。ポニテもいるんだし」

勇者は船室に眼をやった。

834: 2013/12/24(火) 02:12:07.56 ID:e9yznw5v0
464

--過去、船--

盗賊「……そうだな。わかった、頼む」

勇者「うん!……ちなみに」

盗賊「?」

勇者「今から見せるのも、私自身なんだ。だけど……ひかないでね?」

盗賊「俺は勇者の全てを受け入れるさ。欠点も美点として扱う男だよ俺は」

勇者「……」

盗賊「貧Oのど口リでも受け入れたしね!」

勇者「……」

?????「……」

盗賊「あぁ!? 追い付いちゃってる!?」

勇者「! じゃあ行くよ盗賊! 独自開発魔法、アリスパーティ」

ビャー!!

835: 2013/12/24(火) 02:12:43.35 ID:e9yznw5v0
465

--過去、船--

盗賊「!? これは!」

六色の光が勇者から放たれた。

バラッ!

盗賊「……え?」

そして勇者が弾け、その場に四体のモンスターが現れた。
 

チェシャ猫「じゃんじゃじゃーん」

帽子屋「クwリwスwマwスwwww」

白兎「やれやれ出番ですか」

三月兎「お、おで!」

盗賊「!?」

836: 2013/12/24(火) 02:13:17.58 ID:e9yznw5v0
466

--過去、船--

盗賊「な、なんか見たことあるような感じのやつらが出てきたぞ!」

帽子屋「おうおうww なんだか随分ピンチみてぇじゃねぇかwww」

盗賊「なんかパーティからリストラされた人みたいな感じがする!」

三月兎「お、おで」

盗賊「なんか菊が痛い感じがする!」

白兎「さぁ起氏回生の作戦とやらを聞かせてもらいましょうか」

盗賊「……」

盗賊は過去を思い出す。

盗賊「……はは。まるであの頃に戻ったみたいだ」

アリス「……」

837: 2013/12/24(火) 02:14:27.60 ID:e9yznw5v0
467

--過去、船--

盗賊「……うし……いまいちよくわからんがみんな、力を貸してくれ!!」

チェシャ猫、帽子屋、白兎、三月兎「「「おう!!」」」

?????「……」

蝿男は戸惑っていた。自分が目標としていた対象が突然いなくなってしまったことに。

チェシャ猫「んでなにすりゃいいんだにゃ? 全員で一斉に攻撃すればいいのかにゃ?」

盗賊「攻撃はしてもらうつもりだが闇雲にやってもらっちゃ困る。今あいつは何でも回避しちまうんだからな」

白兎「なんでも? 必中でもですか?」

盗賊「必中でもだ。身代わりをぶつけて効果を成立させる」

三月兎「お、おで……」

三月兎は盗賊のケツを撫で回している。

盗賊「……///」

838: 2013/12/24(火) 02:16:30.43 ID:e9yznw5v0
468

--過去、船--

帽子屋「……ふーん」

ばちっ

盗賊(!? なんだこれ!?)

帽子屋(pgrwwwテレパシーだよテレパシーwww作戦話すにはこっちのがいーだろwww?)

盗賊(お前そんなの使えたんだ?)

帽子屋(ばっかお前www俺は誰かを参考に作られているがwwww元は勇者の一部なんだぜwwww大体のことは出来るwwww)

盗賊(勇者がチートだってことがどんどん証明されていくのと同時に、じゃあなんで今までやらなかったんだっていう事実が浮上してきたね。舐めプかな?)

白兎(要領が悪いんですよ)

盗賊(……基本シンプルイズベスト。高火力で一撃必殺な人だからなー……)

839: 2013/12/24(火) 02:17:46.86 ID:e9yznw5v0
469

--過去、船--

チェシャ猫(とりあえず俺達はどうしたらいいんだにゃ?)

盗賊(……よし。じゃあみんな、あのマストにあいつを追い込むようにひたすら攻撃を続けてくれ!)

白兎(マスト? あの壊れたマストですね?)

盗賊(うん。普通の攻撃は避けられるだけじゃなくて逃げる方向も限定できないからな、面で攻撃してくれ面で)

帽子屋(色々注文のうるせぇやろうだwwww仕方ねぇえええなぁwwwwwwwうぇwwww)

ばばばばっ!!

作戦を聞いた四体のモンスター達は、

?????「!」

それぞれの方法で蝿男に攻撃をしかける。

帽子屋「ひゃっはぁあwwwwwwくらえwwwwサンダーwww」

ばちぃいん!

840: 2013/12/24(火) 02:18:12.95 ID:e9yznw5v0
470

--過去、船--

?????「ぎぎ」

しゅぅううう

帽子屋「うぇwwwほんとだwwwあたらんwww」

チェシャ猫「やってみるかにゃー。風属性範囲攻撃魔法、レベル4!」

ビョウオオオオオオオオ!!

?????「ぎぎっ」

シュシュシュン!!

風の攻撃を避けきる蝿男。

三月兎「お、おで!!」

避けた先には三月兎が。

三月兎「つ、土属性攻撃力上昇魔法、レベル4!!」

むききっ!!

841: 2013/12/24(火) 02:19:17.70 ID:e9yznw5v0
471

--過去、船--

三月兎「ぬおああああああ!!」

ぶんっ!!

しかしそれも避ける蝿男。

?????「? ぎ?」

避けた先には大量の雨粒が。

白兎「食らってください。魔力暴発、レベル4」

どがどがどがどがどがぁああああああああん!!

一斉に爆発する小さな魔力の塊。
だがやはり簡単に避けてしまう蝿男。

どんっ

そして……蝿男は壊れたマストに背中を預けた。

842: 2013/12/24(火) 02:20:54.08 ID:e9yznw5v0
472

--過去、船--

盗賊「う、うおぉお!? チームワークばっちし過ぎるな! まさかこんな簡単に行くとは!!」

帽子屋「当たり前だろwww元々同じ人間なんだからwwwwwうぇwww」

チェシャ猫「さて、作戦は完了したにゃ。マストにやつを呼び込んだ。次はどうするのかにゃ?」

盗賊「あぁ、これでエンドだ」

びしっ

?????「?」

ばりばりばりばり!!

空間が光り、蝿男の体が一瞬で拘束された。

しゅるるる、ぎし!

?????「!?」

どんな攻撃も当たらないはずの蝿男が全身を拘束されて何も出来ずにいる。

盗賊「空間設置魔法罠、バインドタイプ」

843: 2013/12/24(火) 02:23:39.38 ID:e9yznw5v0
473

--過去、船--

?????「ぎぃ!? ぎぃ!! ぎぃいいいい!!」

盗賊「何驚いてるんだよ。拘束されたのがそんなに信じられないか?……確かに今のお前に攻撃を当てることは不可能だろうよ」

ぎしっぎしっ

盗賊「でもそれは攻撃じゃあない。……お前が自分で勝手に罠の中に飛び込んだんだ。回避もくそもないだろ?」

?????「!?」

蝿男の周りには罠の魔方陣が張り巡らされていた。

きぃいいいん!!

勇者「……なるほど、ね。やるわね盗賊」

再び一つになった勇者は剣を抜く。

ずしゃ

盗賊「まぁ、俺はよわっちいからな。必氏で小細工しないと強いやつに瞬殺されちまうんだよ」

勇者「ふふ……」

ぎぃん!!

?????「!?」

勇者「最後の力。でもこれで十分!」

勇者は魔力を振り絞り、剣に纏わせていく。

844: 2013/12/24(火) 02:24:10.84 ID:e9yznw5v0
474

--過去、船--

ぎしぎしっ!!

盗賊「勇者の魔力を借りて作った罠だぜ? 簡単にはほどけねぇだろ」

勇者「はぁああぁ!!」

ぎいいいいいいいいん!!

勇者の剣は六色の光を放つ。

?????「ぎ、ぎぎ!!」

勇者「奥義、勇者スラッシュ(弱)!!」

どっ















がぁあああああああああああああああん!!

845: 2013/12/24(火) 02:25:14.64 ID:e9yznw5v0
475

--過去、船--

?????「っ――」

どさっ……

盗賊「……原型とどめてる当たりさすがだが……でも一発KOってのはなんか拍子抜けだな」

勇者「ふぅ……回避特化だからじゃない? 当たらなければどうということはないってやつ。防御力なんてほぼ無いに近いのよ」

盗賊「ふーん」

?????「ひゅー、ひゅー」

勇者「さぁ回避のコンボも途切れて素体状態でしょ? 諦めて吐いてもらうよ。一体なんでこんなことをしたのか、そして何者なのか」

?????「ひゅー、ひゅー」

ざっざっ

近づいていく盗賊と勇者。

?????「ひゅー……お、おォ」

盗賊「?」

?????「お、奥義」

勇者「! まだやる気!?」

846: 2013/12/24(火) 02:26:06.64 ID:e9yznw5v0
476

--過去、船--

勇者は剣を振りかぶる。

盗賊「嫌な予感がする! よせ勇者!!」

?????「奥義、現実逃避」

びゅううううん

勇者「!?」

かっちこっちかっちこっち……

奥義が起動すると、一瞬で蝿男の傷が治った。それはまるで現実じゃなかったかのように……。

?????「ギギ、現実を、スットバシタ」

盗賊「なっ、何!?」

?????「攻撃を受けた、トイウ、現実も、スットバシタ」

勇者「! ってことは」

?????「回避はまだ、ツヅイテイル!!」

シュン!!!!

勇者「盗賊!!」

847: 2013/12/24(火) 02:27:26.90 ID:e9yznw5v0
477

--過去、港--


―――――――――――――――
―――――――――
―――――




……ざざーん、ざざーん





勇者「が、ぐ……」

盗賊「ごほっ」

?????「ギギッ」

船はばらばらになって港に流れ着いた。
乗っていた人間の生存は絶望的だろう……。

?????「ギギギッ、スベルニートハスベテヲサケル」

盗賊「っ」

ふらっ

盗賊はなんとか立ち上がり勇者を起こす。

盗賊「おい、逃げるぞ……今なら瓦礫で俺達のことを見つけられないはずだ」

勇者「げほっ……で、でもポニテを助けないと」

848: 2013/12/24(火) 02:29:17.95 ID:e9yznw5v0
478

--過去、港--

盗賊「あのぐちゃぐちゃになった船の中で一つだけ魔力反応があるだろ? 見知った感覚……ポニテはちゃんと生きている」

勇者「……」

盗賊「だが今俺達がポニテに近づいたらポニテも狙われる。それじゃあ……誰も助けられない」

勇者「!……盗賊」

盗賊「この船に乗ってたみんなには悪いことをしちまったな……。いつもいつもいつも……助けられないどころか周りを不幸に巻き込んじまってるぜ」

勇者「……」

盗賊「……だからだ。だからこそ逃げるぞ。このまま氏んじまったら、償うことすらできやしない!」

勇者「……うん!」

盗賊「よし逃げるぞ……固まって逃げても効果が薄い……ここは二手に分かれるぞ。島の中心で落ち合おう」

勇者「わかった!」

盗賊「……!」

ざっ

盗賊「おらおらおらー!! 俺はここにいるぜぇえ!!」

勇者「!? ばっ……あいつ……自分を囮に……!」

ざっ

849: 2013/12/24(火) 02:31:01.59 ID:e9yznw5v0
479

--過去、港--

ざっざっざっ!!

?????「ぎぎっ、カタワレ、ミツケタ」

ぎゅりぎゅりぎゅり……

蝿男は二つに分裂すると片方で盗賊を追うことにした。

ざざざざざ!!

盗賊「!? 今度は身代わりとは違う? 自分と同レベルの分身を作り上げたのか……?」

?????「ギギッ!!」

ざざ、ざざざ!!

盗賊「計算違いだ……回避コンボがあがればそんなこともできんのかよ!? くそ! チートやろうだなぁ!!」

?????「ぎぎぎっ、アタリマエダァ……マオウハ、チートナノダ」

盗賊「!……なんだ、やっぱりお前さん魔王だったのね?」

?????「ソウダ、職業ニートの魔王ダ」

盗賊「! にー、と?」

きぃいい
どごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!

850: 2013/12/24(火) 02:31:53.57 ID:e9yznw5v0
480

--過去、森--

勇者「はぁっ、はぁっ!!」

薄暗い森の中を、ワンピースの勇者が駆けている。まるで恐ろしい何かから逃げるように。

ガサ、ガササ!!

草の向こう側に、勇者と並走する何かが……いる。

ドオオン!!

勇者「!?」

突如、何かの爆発音が響きわたる。音の出所は、勇者の進路方向。

勇者「はぁっ、はぁっ!!」

ガサササ!!

勇者は駆ける速度を速め、一気に森を抜けた。

盗賊「ちっ!! くそ、しぶてぇな!!」

眼前に広がるのは崖。そこで盗賊と蝿男が戦っていた。盗賊は見るからに劣勢で、左腕から血を流している。

勇者「大丈夫!?」

盗賊「!? 来たか!!」

盗賊は勇者が来たことを確認すると、勇者の元へと駆けよる。

盗賊「嫌な予感的中だ。あれは似てるとかまがい物なんかじゃない……正真正銘本物の……」

ガササッ!!

?????「オオオオオオオオオオ!!!!」

盗賊、勇者「「!?」」

勇者を追って来ていた蝿男も姿を現した。

?????「オオオオオオ!!」

盗賊と勇者は、蝿男に挟まれた形で対峙している。

勇者「……さすがに二体も……」

盗賊「こっちだ!!」

盗賊は勇者の手を取り、崖に向かって走っていく。

?????「オオオオオオオオオオオ!!!!」

蝿男は獲物の逃走を見て咆哮する。

?????「オオオオ、ロクショオオ、オオオクホオオオオ!!」

蝿男の右腕に光り輝く力が集結する。

勇者「!? まずい!! 避けて!!」

ドゴオオオオオオオオオオン!!

盗賊「うわっ!?」

勇者「きゃあああああああ!!!!」

放たれた光弾。
その強力な爆風により、盗賊と勇者は深い谷へと落ちていった。

859: 2013/12/31(火) 01:24:44.78 ID:n+bPwO750
481

--過去、失われた王国--



ぴちょん

勇者「ん……ここは」

護皇「気がついたか?」

ぼんやり

勇者「……あ、うん。ここはどこ? 盗賊」

護皇「俺は盗賊じゃぁねぇぜよ」

勇者「!!」

ガバッ

勇者は飛び起きた。

護皇「んん。元気があってよろしいぜよ」

髭面長髪のホームレス的存在が立っていた。

勇者「貴方は……だれ?」

護皇「あれ? 前会ったよね?」

860: 2013/12/31(火) 01:26:32.28 ID:n+bPwO750
482

--過去、失われた王国--

勇者「冗談です……護皇さん。お久しぶりで、つっ!」

護皇「まだ起きちゃ駄目ぜよ。結構な重症だったのぜよ」

勇者「そう、だ……私魔王と戦って、それで……盗賊は!?」

護皇「心配せんでもあいつはあんたほどひどくなかったぜよ。あっちでなんか食ってるぜよ」

護皇はドアの向こうを指差す。

勇者「よかった……」

勇者は安堵の息をつくと、自分に回復魔法をかけるために魔力を整える。

きゅいぃん

護皇「やめるぜよ」

勇者「え」

勇者の魔力の活性がおさまった。

861: 2013/12/31(火) 01:29:42.17 ID:n+bPwO750
483

--過去、失われた王国--

護皇「回復魔法は無理やり体を再生させるもんぜよ。だから出来ることなら自然治癒に任せた方がいいんぜよ。出ないと、回復魔法でしか怪我や病気が治らない体になるぜよ」

勇者「!……全然知らなかった」

ぐっ

勇者は立とうとする。

勇者「いつっ……くっ、戦闘以外で怪我したままなんて、なんだか久しぶり」

護皇「おいおい起きちゃだめって言ったぜよ。まだ完全に傷が塞がったわけじゃないんぜよ?」

勇者「大丈夫です。ありがとう」

すたすたすた

勇者は礼を言うと部屋から出て行く。

護皇「……全くしょうがない子ぜよ」

862: 2013/12/31(火) 01:32:27.36 ID:n+bPwO750
484

--過去、失われた王国--

むしゃむしゃむしゃむしゃ

盗賊「むおっ!? 勇者!! もう起きて大丈夫なのか!?」

勇者「見ての通り大丈夫。それより私にも何か食べ物頂戴。世界からの魔力吸収だけじゃ魔力回復が追いつかないみたいなの」

盗賊「そっか。よし、これ食えこれ! これなんかの木の実らしいんだけどこのソースかけて食うと牛丼の味すんだよ。美味いよ!」

勇者「な、なにその奇怪な木の実……」

盗賊「いいからいいから、ほら」

盗賊は勇者の口に木の実を入れる。

ぱくっ

勇者「んむっ……ん、ほんとだ。おいしい」

盗賊「だろ?」

盗賊は勇者の唾液のついた自分の指を嘗め回している。

盗賊「……あとさ」

勇者「ん?」

盗賊「うちら共犯者だから」

勇者「……ん?」

盗賊「ほら、この国って働かざるもの食うべからずって言ってたじゃん? だから働いて手に入れてきたんだよこれ。そう……盗みを働いてね!」

どやぁ!

勇者「ばかかー!!」

863: 2013/12/31(火) 01:36:51.93 ID:n+bPwO750
485

--過去、失われた王国--

ずきん

勇者「ほうっ!……いたた。大声出したらお腹が」

盗賊「大丈夫か?」

勇者「誰のせいだ……。で、どっから盗んできたのよ」

盗賊「この家の地下の倉庫から」

勇者「……恩人に対してなんたる狼藉……」

勇者は頭を抱える。

護皇「全くぜよ。この国で何かを得たいなら労働もしくは物々交換がルールぜよ」

すたすた

勇者「ご、ごめんなさい……これに見合うだけの労働はしますから今回は許してください。今は何も持ってなくて……でも緊急事態で……」

盗賊「お、そうか、物々交換でもいいのか。よし勇者、俺に任せろ」

勇者「え?」

護皇「これだけ食っちまったんぜよ。どんなものなら釣り合うのか、ほんとにわかってるのかぜよ?」

盗賊「おう」

くしゃ

盗賊はポケットから布のような何かを取り出して護皇に渡す。

勇者「……ん?」

護皇「!……ふん。いつもすまないぜよ」

盗賊「なぁに、お互い様だ」

勇者「……!? そ、それ私のパンツじゃないかッッ!!!!」

盗賊「今盗んだから脱ぎたてほかほか」

護皇「護皇さんがいいね! と言っています」

864: 2013/12/31(火) 01:39:33.96 ID:n+bPwO750
486

--過去、失われた王国--


…………
……


護皇「……ふぅん。そんなことがあったぜよか。にわかには信じられない話ぜよ」

盗賊「あれ? 俺が起きた時も同じような説明したよね? なにその初めて聞きましたよわぁびっくりみたいな反応」

護皇「男の言うことは信じない主義ぜよ」

盗賊「男女差別が過ぎるぞ!!」

勇者(私の周りこんな人ばっかだなー……)

盗賊達はテーブルを囲んで食事を取りつつ、自分達に何があったのか説明していた。

盗賊「……けどおかしいな。俺達はなんで助かったんだ? あれだけ執拗に追撃してきたやつがなぜ……」

勇者「それは私も思ったよ。普通に考えたらまずここまでたどり着けてないだろうね」

護皇「それはお前らが聖なる川に落ちてここまで流されてきたからだろうぜよ」

865: 2013/12/31(火) 01:42:02.37 ID:n+bPwO750
487

--過去、失われた王国--

盗賊「聖なる、川?」

護皇「この楽園に流れてる川ぜよ。お前らが流れてきた川はここの湖に繋がってるんぜよ」

勇者「そっか……そんな所まで逃げてたんだ私達。でも聖なる川って、何か力を持ってるの?」

護皇「それを説明するには聖なる川だけでなく、ここの説明もしなきゃいけないぜよな。ここはかつて、ある勇者が管理していた場所らしいんぜよ。なんでも魔王の力が及ばない仕掛けがあるとかぜよ」

勇者「!!」

盗賊「まじか! そんな凄い場所だったのかここは……」

護皇「そうぜよ。だからこそ護らなきゃいけない場所なんぜよ。例え……」

護皇はそっと盗賊の顔を見た。

護皇「……なんでもないぜよ。ま、そういうわけで、魔王が追って来れないのもそういった理由に違いないぜよ」

866: 2013/12/31(火) 01:43:22.57 ID:n+bPwO750
488

--過去、失われた王国--

盗賊「なるほどなぁ。聖域ってやつなのかな」

勇者「……」

盗賊「どした? なんか暗い顔してるけど。今の説明じゃ納得いかなかったのか?」

勇者「いえ、そのことについては一応納得したよ。でももう一つおかしいことが残ってる」

護皇「もう一つ?」

勇者「うん……それは、何でこの時代に魔王が存在しているのか」

盗賊「あ、そうだったな……確かにあれは、ありえないはずだよな……」

護皇「? お前達魔王について何か知ってるんぜよ?」

勇者「えぇ、少しは」

護皇「……そういやあんたたちは魔王を倒した勇者パーティだったぜよな。ふむ、魔王について詳しく聞きたいぜよ。できれば9行くらいで纏めて」

盗賊「今までのss全部見てきて」

護皇「……苦行ぜよ」

867: 2013/12/31(火) 01:45:09.29 ID:n+bPwO750
489

--過去、失われた王国--

勇者「とにかく、これはおかしい事態なの。もしこの世界に再び魔王が現れるとしたら……それはこの私のはず……」

勇者は自分のフラットな胸に手をあてる。

盗賊「もちろん俺らの知ってる情報が、全て嘘だという可能性もあるけどな……」

護皇「ふむ……」

護皇は一頻り考えた後、

護皇「よし」

と言って立ち上がり、家の中を歩き回った。

がさごそ

盗賊「? どうしたんだおっちゃん」

護皇「旅支度ぜよ」

勇者「旅?」

護皇「この世界の真実を知れるかもしれない場所を知っているぜよ。そこなら色々とわかるかもしれないぜよ」

盗賊、勇者「「!?」」

868: 2013/12/31(火) 01:46:28.03 ID:n+bPwO750
490

--過去、失われた王国--

盗賊「世界の……」

勇者「真実……?」

護皇「まぁ、そういう噂があるだけであって真偽のほどは定かじゃないんぜよがな」

勇者「……」

護皇「それでも何かを得られる可能性はあるぜよ。どうするぜよ? 魔王の存在はこの世界にとって非常に危険な存在ぜよ、野放しにはしてはおけないぜよ?」

盗賊「……そこには何があるんだ?」

護皇「わからんぜよ。さっきお前はここを聖域と言ってたが……むしろこれから行く場所こそが、本当の聖域と呼べる場所ぜよ」

勇者「聖域……」

護皇「どうするぜよ? 行かないのぜよ?」

盗賊「いや行く。このままじゃどうせ何もわからないままだからな!」

869: 2013/12/31(火) 01:47:54.92 ID:n+bPwO750
491

--過去、失われた王国--

勇者「そうだね……。無駄足かもしれないけど、試してみる価値はあるかも」

護皇「そうと決まればお前らこれつけるぜよ」

ぼふっ

盗賊「んん? なんだこれ」

勇者「? お面?」

護皇「偽者の包帯と姿隠しの仮面ぜよ。どっちもちょっとレアな装備品なんぜよ。感謝しろぜよ」

勇者「これ、どんな効果があるの?」

護皇「簡単に言っちゃえば姿隠しの仮面は探知を無効にするぜよ。偽者の包帯は装備品の効果をコピーすることが出来るぜよ。つまりそれを使えば二人ともこっから出ても魔王にばれないぜよ」(多分)

盗賊「! なるほど。こりゃいいものもろたー!」

護皇「あげないよ? 返してよ?」

870: 2013/12/31(火) 01:51:22.92 ID:n+bPwO750
492

--過去、失われた王国--

がさ

護皇「んでこれがそこに行くまでの地図ぜよ。あとは食料とかだけど今回は特別にうちから持っていっていいぜよ」

勇者「あれ? まってまって、貴方も一緒に来てくれるんじゃないんですか?」

護皇「行かないぜよ? だって、外の世界、危険、俺、ここ残る」

勇者「……ほっ」

盗賊「えっ! 今のは完全に、パーティに参加して一緒にその聖域とやらに行く流れやったろ!?」

護皇「俺はここを離れるわけには行かないぜよ」

盗賊「何でさ!」

護皇「何でも、だからぜよ」

護皇は真剣な表情で答える。

盗賊「……そっか、じゃあ仕方ないな」

ぐるぐると包帯を自分に巻き始める盗賊。

勇者「そうね。危険な目に合わせたらいけないもの。五柱相手にその心配はいらないと思うけど」

871: 2013/12/31(火) 01:54:17.91 ID:n+bPwO750
493

--過去、失われた王国--

ざっ

勇者「じゃあ、お世話になりました。落ち着いてから必ずお礼しに来ますから」

護皇「あ、礼はいいぜよ。もう十分過ぎるほどもらったぜよ」

護皇はパンツを被っている。

勇者「……それも必ず取り返しにきますから」

勇者は半泣き状態でワンピースのスカートを抑えている。

盗賊「うし、さんきゅーな、お……おっちゃん! またな!!」

盗賊は護皇に手を振ってさっさと歩きだす。

勇者「では」

ざっざっざっざっ

護皇「ふむ……」

護皇は髭をいじりながら二人の後姿を見送る。

護皇「……なんとかなるといいんぜよが」

872: 2013/12/31(火) 01:55:53.67 ID:n+bPwO750
494

--過去、失われた王国--

ざっざっ

シャーマン「くあっ……」

盗賊「!」

盗賊達の行く手でシャーマンがあくびをしていた。

勇者「シャーマンさん!……お久しぶりです。塔の外にも出るんですね」

シャーマン「ん、たまにはな。日光浴もしないと体に悪い。それよかお前達、これから聖域に行くんだろ?」

盗賊「! なんでばれてるの……」

シャーマン「ふふふ、ゴーストがささやくのよ」

勇者「……えぇ、ちょっと大事な用があるので」

シャーマン「だろうな。私もついていってやる」

盗賊「……え?」

シャーマン「ふあぁ……二度も言わせるなよ眠いのに。私がその旅に同行してやるというのだよ」

勇者「……なんで?」

873: 2013/12/31(火) 01:57:56.42 ID:n+bPwO750
495

--過去、失われた王国--

盗賊「お、おう……。確かに何でだ。それに護皇のおっちゃんならまだしもシャーマンさんじゃ心もとないっていうか」

シャーマン「戦闘力がか?」

盗賊「率直に言うと……はい」

シャーマン「スキル、インストール」

どろん

盗賊「!」

シャーマンがスキルを使うと、シャーマンの体が一瞬でむきむきになる。

盗賊「こ、これは……」

シャーマン「ふふ。私は一度呼び出した霊で気に入ったのがいれば、ストックすることが出来るのよ」

勇者「姿はシャーマンさんのままなのに……ダブって見える……」

シャーマン『お、おで』

盗賊「闘士!?」

874: 2013/12/31(火) 01:59:50.95 ID:n+bPwO750
496

--過去、失われた王国--

しゅるるる

筋肉がしぼんでいくシャーマン。

シャーマン「どうだい? 戦力になれそうだろ?」

盗賊「た、確かに戦力的には十分だけど……それでも危険な旅になるのは変わらないっすよ? なんせ敵が敵だし、それに……」

勇者「それになぜ同行してくれるのか、その理由がわかりません」

シャーマン「ふむ……理由か」

シャーマンは眠そうに目をこすりながら話す。

シャーマン「最後の決戦の時のためにな、今のうちから慣らしておこうとおもったのだよ」

盗賊「最後の、決戦?」

シャーマン「あー……いーやいーや、お前たちはまだ知らなくていいことだ」

盗賊「?」

シャーマン「それはおいといて……どうだ、せっかく私が寝る間も惜しんでお前たちの旅を手伝ってやるというのだ。自分で言うのもなんだが、私は結構便利だと思うぞ?」

勇者「……」

875: 2013/12/31(火) 02:03:11.01 ID:n+bPwO750
497

--過去、失われた王国--

シャーマン「戦闘から日常技能まで。その気になれば霊の力でなんでもサポートしてやれる」

盗賊「確かに……」

盗賊は腕を組んで考える。

盗賊「……確かにそうっすね……知らないところに行くわけだし、あのおっちゃんの地図じゃ心配だし……じゃあ……同行よろしくおねが」

勇者「ま、待って!」

勇者は盗賊を制する。

盗賊「え、なんだよ勇者……せっかく手伝ってくれるって言ってるんだからこの際お願いしようぜ? この人なら大丈夫だよきっと。根拠ないけど」

勇者「ちがっ、そういうんじゃなくて……」

シャーマン「……ははーん」

シャーマンはにやにやと意地の悪そうな表情に。

シャーマン「さーてーはー……旦那との二人っきりを邪魔されたくないのかな?」

勇者「!!!!!!!!!??????????????????????」

盗賊「感嘆符疑問符が凄いことに!?」

876: 2013/12/31(火) 02:04:55.02 ID:n+bPwO750
498

--過去、失われた王国--

勇者「ちゃっ、ちがっ、ちちちちがっ、ちがっ! ちがっ!!」

真っ赤になる勇者。

シャーマン「おやおや、霊に頼るまでもないなこりゃ。その反応だけで十分わかるわ」

勇者「ちがーっ! ちがーっー!!」

涙目になる勇者。

盗賊「そうだったの? 確かにポニテが生まれてからは二人きりっていうのはあまりなくなったけどさ」

勇者「ちちちっ、違うって言ってるでしょ!?!? 何勘違いしてんのっ!? ちょーおかしー! まじうけるんですけどー!?」

足が震える勇者。

シャーマン「あとは……自分以外の女が旦那の傍にいるのがやだとか?」

勇者「」

すっ……

盗賊「さらりと指輪を外そうとするな!? 魔王化する気かっ!?」

877: 2013/12/31(火) 02:07:53.52 ID:n+bPwO750
499

--過去、失われた王国--

勇者「チガウチガウ、ロボチガウロボチガウ」

シャーマン「ほほほっ。自分に素直になれなかった小娘が随分可愛くなったものだな」

盗賊「小娘って、今年でもうピー歳ですけどね」

勇者「ギリィ……」

半泣きで奥歯を噛み締める勇者。

盗賊「はぁ……おいおい勇者、それはいらん心配だっつーの。俺は勇者一筋だってば」

勇者「! トゥクン……と、盗賊……」

ぱぁあ、と表情が明るくな

シャーマン「ちなみにエキゾチックでスタイル抜群なお姉さんは好きですか?」

盗賊「大好きです」

勇者「!?」

878: 2013/12/31(火) 02:10:06.57 ID:n+bPwO750
500

--過去、失われた王国--

シャーマン「ま、冗談は置いといて。今は世界の危機でもある。個人の感情など二の次だ。共に困難に立ち向かおうじゃないか」

盗賊「うす! よろしくお願いしますシャーマンさん!」

シャーマン「……面倒くさい。敬語はいらんよ。呼び捨てで構わない」

盗賊「そう? おっけー、じゃあよろしくシャーマン」

シャーマン「ん」

二人は握手。

勇者「ぴ!?」

握手を見て固まる勇者。

シャーマン「……にひ」

だきっ

盗賊「ぱいおつっ!?」

からの抱擁コンボ。

勇者「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

目と鼻と耳から血を流す勇者。

シャーマン「では、よろしくな、勇者よ」

妖艶に笑うシャーマンだった。

勇者「ふ、ふぇぇ……!」

シャーマンが仲間になった。

884: 2014/01/06(月) 22:35:51.97 ID:8IT38O3G0
501

--過去、氏の砂漠--

じゅぅううう……

勇者「……」

盗賊「……」

シャーマン「……」

ざくざくざく

勇者「……ほんとにこっち、なの?」

盗賊「うん……地図にはそう書いてある」

ざくざくざく

盗賊「あ……さっき思い出したんだけどさ」

勇者「うん」

盗賊「氏の砂漠って、歩いて渡れるような場所じゃなかった気がする……」

勇者「……」

シャーマン「……」

885: 2014/01/06(月) 22:38:08.84 ID:8IT38O3G0
502

--過去、氏の砂漠--

じゅううぅううう

勇者「う……うわー! もうやだー! 歩きたくなーい!! 喉渇いたー!! 仮面熱いー!!」

じたばたじたばた

盗賊「こ、こらこら取り乱しちゃだめだよ、もうすぐつくからね? それに喉渇いたって、水は自分の魔法で出せるでしょうよ」

勇者「うるさーーい!! 自分由来の水なんてなんとなく嫌なんだよー!!」

盗賊「僕は逆にちょっと興奮して飲ませてもらってますけどね」

泣き喚く勇者とはぁはぁしている包帯男。

シャーマン「あちー……お前らよくそんなに騒ぐ気になれるねぇ……私はもう無理かもしれないよ」

シャーマンはぐったりとしている。

勇者「ぐすっ、ぐすっ……」

盗賊「あ、そうだ一つ聞きたいことがあったんだけど」

勇者「ぐすっ。何よ……」

盗賊「この地図どうやって見ればいいのかな?」

勇者「……」

シャーマン「……」

勇者「うわーん! ポニテー! 心配だよー!! ちゃんとご飯食べてるのかなー!!」

886: 2014/01/06(月) 22:39:18.58 ID:8IT38O3G0
503

--過去、氏の砂漠--

ざっ

???「なんか変な声が聞こえると思ったら……遭難者ですか?」

ターバンを巻いた女性が盗賊達に声をかける。

勇者「!」

盗賊「あー、わかっちゃいます? ちょっと地図が間違ってるみたいなんですよ」

勇者「間違ってるのはお前の頭だ!!」

???「……どこに行こうとしてるんですか? それちょっと見せてもらえませんか?」

盗賊「どうぞどうぞー」

がさっ

???「……!! これは、隠しダンジョン……」

盗賊「隠しダンジョン?」

???「あ、いやなんでもないです」(これはあの伝説の聖域……そこへの地図があったなんて……)

887: 2014/01/06(月) 22:40:26.03 ID:8IT38O3G0
504

--過去、氏の砂漠--

盗賊「どうかしました?」

???「あ、いえ」(ただの見回りのつもりだったけど……こんなチャンスが転がり込むなんて)

勇者「……」

???「私達この砂漠のことは詳しいんです。なのでよければ案内しますよ」

盗賊「えっ! 本当ですか!? やー助かる。是非お願いします!!」

勇者「! ちょっ、何勝手に一人で決めてんの!?」

盗賊「えー、いいじゃん。もう俺達干物一歩手前なんだからさ、ここは素直に力を借りた方がいいってー」

勇者「だ、だからって!!」

わーぎゃー

シャーマン「……私達、と言ったが、他に仲間がいるのか?」

???「えぇ。さすがにこんな所に一人でなんて来ませんよ」

女性は後ろを向くと大きな岩の方に手を振った。

???「弓女ー。こっちにいらっしゃーい」

888: 2014/01/06(月) 22:42:10.40 ID:8IT38O3G0
505

--過去、氏の砂漠--

???「弓女ー。こっちにいらっしゃーい」

弓女「ん、占隊長、私の名前だけ呼んでるぞ」

斧女「ということは何か見つけたようですね……なら私は気づかれないようにアジトに戻って報告してきます」

弓女「あぁそうだな。一人で大丈夫か?」

斧女「冗談。ここは我ら砂漠の風にとって庭のようなものですよ」

弓女「……おk、じゃあ行ってくる」

斧女「そちらこそ気をつけて」

弓女と斧女は拳を合わせる。

弓女「はいはーい! 今行きますー!」

盾男「実は俺もいるんですけどね」

889: 2014/01/06(月) 22:43:47.75 ID:8IT38O3G0
506

--過去、氏の砂漠--

ざっざっざっ

弓女「どもーこんにちわー!」

盗賊「こんにちわー!」

にこにこ笑いながら弓と樽をかついだ女性が走ってくる。

???改め占隊長「これを見て。こちらの方々はこの場所に行きたいそうなのよ」

弓女にだけ見える角度でウィンクをする占隊長。

弓女「!……なるほど……あ、ここなら私ら案内できますよー!」

占隊長「うん。だからこれから案内をしようと思って」

勇者「……」

勇者は大岩に意識を向けていた。

890: 2014/01/06(月) 22:45:14.41 ID:8IT38O3G0
507

--過去、氏の砂漠--

ざっざっざっ

占隊長「へぇ、そうなんですか? トレジャーハンターを……憧れますね」

盗賊「まぁそんな大したもんじゃないんですがねー」

弓女「かっこいいですねー!」

ざっざっ

勇者「一体いつからトレジャーハンターになったのよ私達は……」

シャーマン「本当のことを言うわけにはいかないのだからそんなものでいいだろう」

ざっざっざっ

3人の後ろを歩く勇者たち。

シャーマン「そうは言っても、盗賊はともかく私達二人がトレジャーハンターに見えるかどうかは微妙だな」

勇者「……」

むくれっつらの勇者。

勇者「仮面被ってるのにばれるの!?」

891: 2014/01/06(月) 22:52:27.53 ID:8IT38O3G0
508

--過去、氏の砂漠--

わいわいきゃっきゃきゃっきゃ

勇者「全く、なんで楽しそうにしてるのよあいつは!! これがどれだけ大事なことなのか本当にわかってるのか! あーいやらしいいやらしい!! ほんとなさけない顔!!」

シャーマン「ふふ、もてなさそうな顔だからね盗賊は。だからこそ今の状況で顔が緩みきってしまうのは当然のことだといえる」

勇者「べ、別にたくさんの女性にもてなくたっていいじゃない! なによ! 私が……いるんだし……って、盗賊は言うほど悪い顔じゃないのよ? あれはあれで見慣れるといけるっていうか、目を細めてみればわりと……」

シャーマン「へー。にやにや」

勇者「口に出して言った! な、なによ! 別にそんなんじゃないっ!」

シャーマン「ま、それは置いといて。私らだけでも油断しないように気をつけよう……あの二人は何かを隠しているからな」

勇者「……」

シャーマン「あの水樽、二人用にしては少し大き過ぎる。肩に樽を乗せる動作も少しぎこちなかった。もう一人か二人は仲間がいそうだな」

勇者「さっきの場所で探知したら、大岩の影に二人隠れていたわ。今は周辺にいないようだけど、あの二人は信用出来ない」

892: 2014/01/06(月) 22:54:44.82 ID:8IT38O3G0
509

--過去、氏の砂漠--

夜。

ぱちぱちぱち

盗賊「ぷはー! 久々の勇者由来じゃない水ダー!! うめー!」

勇者「なっ!? まるで私由来の水がおいしくないみたいじゃない!! 訂正してよ!」

シャーマン「あー、この二人は放っておいて、ベーコンとかどうだ? うちのとこの自慢の品なんだ」

占隊長(なんで喉が渇きそうなものを)「いただきます。……あ、おいしー、けどしょっぱーい」

水が欲しくなる占隊長。

弓女「おぉ、肉!? 肉いいですね! てか肉には米ですよね! こういうこともあろうかと炊いときました!! どうぞ!」

占隊長「え、貴重な水で貴女……」

ホカァ!

弓女「あ、ちょっと水多過ぎたな。おかゆになっちゃった」

占隊長「貴女!」

弓女「あとご飯のおかずにスパゲッティも作っときました」

占隊長「おかずって何!?」

893: 2014/01/06(月) 22:58:35.30 ID:8IT38O3G0
510

--過去、氏の砂漠--

ざっざっ

占隊長「ここのはず、なんだけど」

盗賊「うーん。見事に何もないねぇ……」

勇者「おい、今どこ見て言った」

弓女「ここは普段も通る場所ですもんねぇ」

勇者「……シャーマン」

シャーマン「あいよ。どういうのにする? 結界を敗れるやつか、地下を調べる系のか」

勇者「両方」

シャーマン「……また無茶を言うね君は」

勇者「結界破りの方は私がなんとかやってみるわ。見よう見まねだけど」

盗賊「それでもなんとかなっちゃう勇者の見よう見まねであった。その才能を少しでもあそこに分けてあげれたら」





894: 2014/01/06(月) 23:00:13.20 ID:8IT38O3G0
511

--過去、氏の砂漠--

シャーマン「スキル、インストール」

どろん

霊を降ろしたシャーマンは地面に手を当てる。

シャーマン「……お、南西の50メートル先に何かあるようだな。多分そこだろう。微弱だが魔力反応もある」

勇者「よし」

ふぉおおおおおおおおおおおお

勇者は両手に魔力を集める。

勇者「風属性解除魔法、レベル4!」

びょおおおおおおおおおお!!

風は竜巻となり、砂を吸い上げる。

占隊長(ん……)

弓女(簡単にやってるけど、両方とも専門分野じゃないと難しいぞ? こいつらまじでかなり強いんじゃ……)

ばふぉっ!

盗賊「! あったぞ! あれだろきっと!!」

入り口を見つけて走っていく盗賊。

勇者「! ばか! まだ魔法残ってるって!」

びょうおおおおおお!!

盗賊「うわわわわわぁあああ!!」

竜巻につかまって空高く飛ばされる盗賊。

占隊長(あ、あの人は駄目な人だ)

895: 2014/01/06(月) 23:01:40.32 ID:8IT38O3G0
512

--過去、隠しダンジョン--

ずずずずん……

盗賊「おぉし、開いた開いた。さぁいくぞー」

盗賊は楽しそうにダンジョンに入っていく。

勇者「ちょっと、役立たずなんだから先頭は危ないでしょ?」

盗賊「ひどい!?」

シャーマン「全くだ。どんな敵が出てくるのか全くわからないというのに」

占隊長「じゃあちょっと、占ってみましょうか」

盗賊「え?」

占隊長「スキル、占い」

占隊長は人差し指に魔力を込めて数回指を振った。

ぽぅ

勇者(占師か……?)

占隊長「……ん。ここのモンスター、強いかも……」

896: 2014/01/06(月) 23:03:36.86 ID:8IT38O3G0
513

--過去、隠しダンジョン--

盗賊「まじか……やっぱ俺ここで待っててもいいかな?」

勇者「はいはい、いい大人が何を言ってるの。用心して進むわよ」

盗賊は勇者に手を引かれて中に。

かつかつかつ

勇者「でも、都合がいいかもしれないよ」

盗賊「え?」

勇者「この前の戦いでわかったでしょ? 私達は何年も怠けてたせいで弱くなっている」

盗賊「……それはな」

勇者「盗賊はスキルで大幅に強化されたように思えるけど、戦闘のカン自体が鈍ってる。これじゃこの先の戦いを勝ち残れない」

盗賊「……ん」

ぽむ

盗賊は勇者の頭に手を乗せる。

盗賊「うし……ならここで修行のやり直しといくか」

勇者「そうね。みっちりしごいてあげる」

897: 2014/01/06(月) 23:05:08.99 ID:8IT38O3G0
514

--過去、隠しダンジョン地下七階--

ニンギョ「ああああああああああああああああ!!!!」

盗賊「あ、あたっ!? 頭! 頭割れる!!」

勇者「!! 超音波攻撃……! こんな狭い空間でやられたら逃げ場がない!」

弓女「音波攻撃に耐性ある私でもちょっと辛いですね……!」

ぱきぱきぱき

弓女は氷で矢を作り、構え、放つ。

ドシュドシュドシュドシュ!!

ニンギョ「!」

ばきばきぃーーーん!!

盗賊「! なるほど口を凍らせて塞いだのか!」

弓女「今です! 氷はそんなに長くはもち」

ズバッシャアアアアアアアアアン!!

言葉をさえぎるような、凄まじい勇者の一振りでニンギョ達は全滅する。

勇者「ふぅ。ありがと。おかげで助かったわ」

弓女「い、いえ」(判断はえーし、こえー……)

898: 2014/01/06(月) 23:07:03.97 ID:8IT38O3G0
515

--過去、隠しダンジョン地下五十階--

盗賊「おーいてて……」

勇者「気をつけてって言ったのに! ほら傷見せて。回復してあげるから」

盗賊「過保護過ぎんよ。かすっただけだから心配いらないって」

勇者「腕の話じゃない、脇腹の話!」

盗賊「脇腹?」

腕を上げて確認すると、

盗賊「げっ!? 内蔵べろんちょしとる!?」

勇者「盗賊の防御力じゃかすっただけでもこれなのよ! っていうか気づいて無かったの!?」

占隊長「ぜっ、ぜっ」

弓女「はぁ、はぁ」

シャーマン「やー、騒がしくてすまないな。あの二人はいつもこうなんだ」

占隊長「い、いえ、大丈夫です」(な、なんなのこの人たち。ただのトレジャーハンターじゃない……)

弓女(隊長でもめちゃくちゃ厳しいダンジョンだってのにあの二人……うーん……なんだかちょっとかっこよく見えてきたな)

顔が赤くなる弓女。

むくむく

盗賊「あ」

勇者「きゃぁ!?」

盗賊「あはは。なんか回復魔法かけられると息子が起きちゃう体質なんだよなぁ。失敬失敬」

勇者「えっ!? 今までもずっとたっ……た、たって、たの?」

899: 2014/01/06(月) 23:08:13.55 ID:8IT38O3G0
516

--過去、隠しダンジョン地下六十五階--

ミノタウロス希少種「ぶもおおおおおおおおお!!」

半漁人希少種「みぎょおおおおおおおおお!!」

盗賊「ここは二体同時か! おいどうする勇者!」

勇者「今思ったんだけど、一から六十四階までのボス、ほとんど私がやっちゃってたから盗賊に譲るわ」

盗賊「え」

ミノタウロス希少種「ぶもおおおおおおおおお!!」

どごおおおんん!!

振り下ろされた棍棒を紙一重で避ける盗賊。

ミノタウロス希少種「ぶもっ!?」

勇者「私は大分カン戻ってきたし、最深部に何があるかわからないから温存しなきゃだし、後はどうぞ」

盗賊「いやいやいやこれ一人でとか無理でしょうよぉお!!」

半漁人希少種「ぎょぴーー!!」

しゅばばばば!!

半漁人の攻撃をかわし続ける盗賊。

占隊長(なんだかんだいいながら二体の攻撃かわしまくってる)

弓女「かっこいい」

勇者「!?」

900: 2014/01/06(月) 23:09:12.35 ID:8IT38O3G0
517

--過去、隠しダンジョン地下六十五階--

半漁人希少種「ぎょぎょぎょぎょーっ!!」

ずずずぅううん

盗賊「はぁ、はぁ……」

なんとか半漁人を倒した盗賊。

占隊長「すごい。本当に一体倒しちゃった……」

勇者「ふふん。盗賊は頑張れば出来る子なのよ」

シャーマン「母ちゃんなのか嫁さんなのかしっかりせぇよ」

ミノタウロス希少種「ぶおもおおおおおおおおお!!」

どがん! どがんどがん!!

盗賊(あぁ、やっと目が慣れてきた気がするぜ。それでも体のキレまでは戻らない……やれやれ何ヶ月かかることやら)

ひゅぱっ!

盗賊のナイフがミノタウロスの右目を裂く。

ミノタウロス希少種「ぶもっほおおおおおお!!」

盗賊(よし、どうせだから試してみるか。あの化け物が言ってた、ニートってやつを!)

901: 2014/01/06(月) 23:10:22.31 ID:8IT38O3G0
518

--過去、隠しダンジョン地下六十五階--

ずがぁああん!!

占隊長「! しまっ」

ミノタウロスが砕いた壁の破片が占い隊長を襲う。

盗賊「風属性移動速度上昇魔法レベル4!」

シャシャシャ、すっ

どがぁああん!!

弓女「! 占隊長!!」

ふわっ

占隊長「っ!……あれ?」

盗賊「ごめんごめん、あいつしか見てなくてさ。怪我無かったかな?」

占隊長「え、あっ!? だ、大丈夫、です……」

盗賊は占隊長をお姫様抱っこ。

勇者「」

ばきっ

鉄柱を握力で粉砕する勇者。

シャーマン「どっちがモンスターだ」

902: 2014/01/06(月) 23:11:17.06 ID:8IT38O3G0
519

--過去、隠しダンジョン地下六十五階--

ずううううううううんん

盗賊「はっ! はっ! はっ! はっ! あーしんどー!!」

シャーマン「ヘルプに入るのが遅かったらお前氏んでたぞ? 新しいことを試すには少しばかり相手が悪かったな」

盗賊「はっ! はっ! なんだ、ばれてたか! すまねぇ!」

占隊長「……」

弓女「どうするんですか占隊長。あいつらを倒してお宝を奪う作戦は難しいんじゃないですか?」

小声で相談する弓女。

占隊長「ん……そうね」

弓女「……隊長?」

占隊長(なんだろうこの気持ち。ドキが胸胸する……まるで、前世から愛し合ってたかのように!)

シャーマン「あれ? モテ期到来かな?」

903: 2014/01/06(月) 23:13:47.42 ID:8IT38O3G0
520

--過去、隠しダンジョン地下七十階--

かつん、かつん

盗賊「ここが最深部か?……なん、だこれ。フロア全体が緑色に光ってる……」

勇者「綺麗……」

占隊長「ここのボスは一体どこに?」

シャーマン「……さぁて、ちょっと私は下がろうかな」

弓女「?」

    「汝ら、そなた達は何を求める?」

盗賊「! この声は……なんだ!?」

靄のようなパワーあるビジョンが一つに集まる。
その形は、

勇者「天……使?」

天使の姿。

天使「汝ら、そなた達は何を求める?」


916: 2014/01/14(火) 02:53:13.63 ID:sIOGl4dt0
521

--過去、隠しダンジョン地下七十階--

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

天使「……」

盗賊「これが、全ての真実を知る方法なのか……? どうやって?」

シャーマン「ほっほう、天使、か。なるほどな」

シャーマンは部屋の入り口のところに隠れてみている。

天使「汝ら、そなた達は何を求める?」

弓女「なんかさっきから言ってますよこいつ。これどうなんですか?」

占隊長「……さぁ。攻撃してくる様子は無いけれど……これ門番なのかしら」

ぐぅう

盗賊「にしても腹減ったな。何か美味しいもの食べたい……」

勇者「さっきサンドイッチ食べたばかりでしょ? ここ抜けたら何か食べに行けるから我慢してて」

天使「不合格」

ビー

盗賊「ぐふぅ」

どさ

917: 2014/01/14(火) 02:54:11.06 ID:sIOGl4dt0
522

--過去、隠しダンジョン地下七十階--

勇者「……え」

弓女「盗賊、さん?」

占隊長「う、そ」

盗賊「……」

シャーマン「……まぁ、そうだろうとは思ったよ」

天使のレーザー攻撃によりあっさりと盗賊は氏んでしまう。

勇者「え、えぇええええええええええ!? なんでなんでなんで!?」

泣きながら盗賊の亡骸に抱きつく勇者。

弓女「こいつ不合格、って言ってたな。さっきのが質問なんだとしたら……盗賊さんは返答を間違えたっていうのか?」

占隊長「わかりません……でも下手に何かを喋ると攻撃されちゃうみたいですね……!」

キッ!

勇者「よくも、よくも盗賊をおおおおおおおおおおおおお!!」

ダッ!!

勇者は金剛の剣を振りかぶる。

918: 2014/01/14(火) 02:54:54.24 ID:sIOGl4dt0
523

--過去、隠しダンジョン地下七十階--

勇者「奥義! 勇者スラアアアアアアアアアアアアアシュッ!!」

ディイキイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!

勇者「!?」

攻撃は天使が作り出す障壁によって防がれてしまう。

勇者「ゆ、勇者スラッシュで突破できない、なんて!」

天使「不合格」

勇者「は」

ビー!

天使の攻撃に反応してみせる勇者だったが、

ドサッ

占隊長「嘘……あの強い勇者ちゃんでさえ一撃!?」

弓女「これは……もしかするとやばいんじゃ?」

天使「汝ら、そなた達は何を求める?」

ゴゴゴゴゴゴゴ

シャーマン「撤退かな」

919: 2014/01/14(火) 02:56:06.33 ID:sIOGl4dt0
524

--過去、南の王国最寄町、教会--

シスター「OH-! 氏んでしまうとは、なさけなーい!」

弓女「いや情けなくないよ……」

占隊長「そんじょそこらの雑魚相手に全滅したわけじゃないですからね……」

むくり

盗賊「あれ? 右目も見えないんだけど。あれれ? 何も見えないー」

勇者「うぐ……久々に氏んだなー」

シャーマン「氏んだお前らを運んだ私に感謝しろよぉ? ほら、飯も買ってきたからさめないうちに食おう」

弓女「お! 腹ペコだったんですよー。ごちでーす!」

シスター「あの……教会でランチとかやめてもらいたいんですけど……」

盗賊「なんも見えないからとりあえず透視眼……ん? まな板と肛門が見える」

勇者「!」

弓女「!!」

慌てて各部位を隠す二人。

シャーマン「うお、ミニトマトに一個目玉混じってるぞ。きめぇきめぇ」

920: 2014/01/14(火) 02:57:45.26 ID:sIOGl4dt0
525

--過去、南の王国最寄町、教会--

むしゃむしゃもぐもぐ

盗賊「うめぇうめぇ! 何これ!? 俺これ好きだ! 今度勇者に作ってもらおうっと」

シャーマン「毛羽部っていうらしいぞ。結構安かった。南の王国ではメジャーな食べ物らしい」

勇者「あ、ほら、口周り汚いよ」

盗賊の口の周りについたソースを指でとる勇者。

弓女「あ、水とってください」

占隊長「はい」

とん

シスター「むしゃむしゃ。なんかすいませんね私までご馳走になって」

シャーマン「いっぱいあるから気にするな。皆で食べた方が美味い」

921: 2014/01/14(火) 03:00:45.24 ID:sIOGl4dt0
526

--過去、南の王国最寄町、教会--

盗賊「はー、食った食ったぁ。さて、それじゃあ天使の対策でも考えるか」

勇者「それなんだけど、あれは戦闘じゃ勝てないタイプなんだと思う。かつての魔王の時みたいに」

弓女「……は? 魔王?」

盗賊「あ、あー! ま、マオさんね。あの、地元でぶいぶい言わせてたヤンキーのことね! あの人も強かったからなぁ」

勇者(あ、しまっ)「そ、そうそうマオさん。腕が千本ある……」

占隊長「多腕族の方なんでしょうか……」

勇者「と、とにかく私の奥義でも全くダメージを与えられなかった。どころか障壁に阻まれた。だから真っ向から勝負をしかけても無理だと思う」

盗賊「それじゃあ確かに無理だなぁ……勇者の奥義はその気になれば地形変えちゃうレベルだもんな……」

シーマン「あの質問、がキーだろうな」

占隊長「でしょうね。ですがヒント無しではきつ過ぎます。ちゃんと答えた私も弓女もやられてしまいましたし」

盗賊「うーん……何を求める、か。嘘偽り無く答えたとしてもだめ?」

弓女「駄目でした。素直に今一番求めてることを言ったのに」

占隊長「あ、あなた本気であんなことを求めてたの……?」

真っ赤になってしまう占隊長。

922: 2014/01/14(火) 03:04:41.42 ID:sIOGl4dt0
527

--過去、南の王国最寄町、教会--

シャーマン「実は手がかりはある」

勇者「ん?」

シャーマン「天使には詩を捧げよ。そういう言葉があるんだ」

盗賊「詩……?」

シャーマン「呪文の類だろうさ。そしてその呪文の内容は亜人王が知っているという噂だ」

勇者「!」

盗賊「ん、んー……南の王国かぁ」

弓女「ほほう。じゃあ亜人王に会うに行くしかないな。でも私らなんかに会ってくれるもんかなぁ……」

シャーマン「なぁになんとかなるさ」

占隊長「……というか貴女なんでも知っているような口ぶりですね。あそこに天使がいたのも前々から知っていたようですし」

占隊長がシャーマンに詰め寄る。

占隊長「貴女は天使のことも呪文のことも知っていた。そして二度手間になるのがわかっていながらあそこに向かった……」

シャーマン「おいおい勘違いしないでくれよ。私だって何も確証があったわけじゃない。あの場所の最深部にはとんでもないやつがいるらしい、そしてそいつには特別な呪文が必要らしい……そんな噂を聞いてはいたがどれも憶測に過ぎなかったのさ。お前達だってあれを目の当たりにするまではこんなこと信じられなかったんじゃないか?」

占隊長「ん……それは、わかりませんが」

勇者「……」

シスター「あの……そろそろ場所を移してもらえませんか?」

923: 2014/01/14(火) 03:06:28.62 ID:sIOGl4dt0
528

--過去、南の王国最寄町--

ざっざっざっ

盗賊「まぁいいよ。とにかく南の王国に入って亜人王に会いに行こう」

シャーマン「うむ。そうしよう」

占隊長「……それしかないみたいですね」

勇者「ちょ、ちょっと盗賊」

くいくい

盗賊「ん? 何?」

勇者「盗賊はわかってるの? 私達は南の王国を……」

盗賊「……」

盗賊は戦争二日目のことを思い出す。
暗黒の力で押し寄せる兵たちをなぎ払う勇者の姿を。血の涙を流しながら戦い続けるその姿を。

盗賊「あぁ……」

そして見るに見かねた盗賊は勇者を攫い、戦場から逃げ出したのだ。

盗賊「南の王国からしたら、俺らは裏切り者だ」

シャーマン「……」

924: 2014/01/14(火) 03:07:32.98 ID:sIOGl4dt0
529

--過去、南の王国、門前--

ひゅおおぉおお

盗賊「……でもま、行かなきゃだめでしょ。今は過去より大事なことがあるし、それにいつかは会いに行かなきゃいけなかったんだ」

勇者「……」

盗賊「素直に謝る。それで許してくれなきゃそんときはそんときだよ」

勇者「盗賊……」

盗賊「なんだ、勇者」

勇者「……何、その、格好」

盗賊の腰には白鳥の人形がついている。それはまるで股間から伸びるちOちんのよう。

勇者「前もやっただろう? 南の王国に入国するためのコスプ……変装さ。つまりこれは白鳥亜人になりきってるのさ!!」

勇者「白鳥亜人に怒られろ!!」

シャーマン「ケツの方はまるだしなんですがそれは」

925: 2014/01/14(火) 03:08:38.62 ID:sIOGl4dt0
530

--過去、南の王国、門前--

ざっざっざっ

新城門兵A「そこのお前達止まるぴゅ」

新城門兵B「入国審査を受けて貰うきゅ」

盗賊「わぁ、オコジョさんとハムスターさんだぁ」

満面の笑みで城門兵たちを両脇に抱える盗賊。

新城門兵A「なっ?! わ、私達が反応できなかったぴゅ!?」

新城門兵B「こいつ手馴れ過ぎてるきゅ!?」

くちを△の形にしながらじたばたとあばれる二人。

勇者「……盗賊、印象を悪くするのやめて……」

シャーマン「っていきなり目立ってるし……」

盗賊「いやぁだってこの脇に抱えたくなる感じに抗えなくて……。ほら勇者も触ってみなよ。もふもふだよ?」

新城門兵A「やめるぴゅっ!」

勇者「……」

もふもふ

勇者「……」

もふもふ

新城門兵B「や、やめて……」

926: 2014/01/14(火) 03:09:48.84 ID:sIOGl4dt0
531

--過去、南の王国、門前--

南の兵士「城門兵様!!」

ざざざっ!!

シャーマン「あーあ……どうすんだ、兵士いっぱいきちゃったぞ?」

南の兵士「貴様! 城門兵様達を放せ!!」

盗賊「あいよ」

ぱっ
どさっ

新城門兵A「あぶっ」

新城門兵B「ふにゅっ」

開放された城門兵達。

勇者「盗賊……何を考えてるの……」

南の兵士「貴様、何者だ!」

槍を向ける南の兵士。

しゅる

盗賊は顔に巻いた包帯を取る。

盗賊「俺の名は盗賊だ。そしてこっちは勇者だ。亜人王に謁見しにきた」

927: 2014/01/14(火) 03:14:27.02 ID:sIOGl4dt0
532

--過去、南の王国--

かっ、かっ、かっ、かっ

盗賊「いやー、まさか普通に通してくれるなんてなぁ。色々考えてたのが馬鹿みたい!」

勇者「馬鹿だよ! 何いきなり正体ばらしてんのよ!」

シャーマン「やれやれ……こいつは一体何を考えてるんだろう……」

盗賊「おう、否定的な意見ばかりだな……。でもさ、嘘ついてもよくないって。ちゃんと謝るんだったら最初から正直でいないとさ」

勇者「……だからって……」

ここは私達を敵とみなしている者達の巣窟なのよ? と勇者は言いかけた。

かっ、かっ、かっ、かっ

弓女「……勇者って、あの?」

占隊長「まさか……でも勇者は魔族と一緒に逃げたと情報がありましたが……そんな」

シャーマン「……お二方」

弓女、占隊長「「!」」

シャーマン「まずは謝ろう。今まで騙していて済まなかったな」

弓女「……」

シャーマン「しかしそれも無理は無いことだと理解して貰えるとありがたい。何しろ……マイナスの意味で有名人物だからな」

占隊長「……」

シャーマン「動揺しているとは思うが……どうだ? 少しの間だが、私達は寝食を共にした……それでもあいつらはお前達が知る情報通りの人物だったか?」

占隊長「……」

弓女「……」

928: 2014/01/14(火) 03:15:42.04 ID:sIOGl4dt0
533

--過去、南の王国--

かつ……

亜人王「……」

亜人王のいる王の間に到着する盗賊達。かつてとは違って質素な部屋になっていた。

盗賊「お久しぶりです。亜人王様」

勇者「っ……」

虎男「……」

狐男「……」

ゴゴゴゴゴゴ

占隊長(こ、こわいですね……三獣が勢ぞろいとは……)

弓女(猛獣のいる檻の中に裸で放りこまれた気分だぜ……)

シャーマン(さぁて、どうなるかな)

亜人王「……何ゆえ、またこの国に姿を現したのですかな?」

929: 2014/01/14(火) 03:17:36.30 ID:sIOGl4dt0
534

--過去、南の王国--

ぴりぴり

勇者(! 返答を間違えたら殺される……)

シャーマン(って、感じの空気だねぇ)

盗賊「とりあえず土産を持ってきたんだ。受け取ってくれ」



近づこうとする盗賊の前に虎男と狐男が立ちふさがった。

亜人王「やめよ」

虎男「……く」

二人は道をあける。

盗賊「……」

ふぁさ

亜人王「これは……白い、布?」

勇者「おい」

亜人王「名前が彫ってあるね。こっちは勇者。これは勇者……まさか全ての布に?」

盗賊「読めたかさすが。あんた麻雀知ってる? 盲牌麻雀やろうか」

勇者「嫁のパンツを誰から構わずほいほい渡さないで欲しいんだけど!! てかまだ持ってたなら渡せよ私に!!」

930: 2014/01/14(火) 03:19:33.66 ID:sIOGl4dt0
535

--過去、南の王国--

虎男「土産がぱんてぃとは、ふざけた男がお! 我が王国の没落の原因となった悪しき者共……! 散った仲間達のためにも、この爪で!!」

亜人王「待ちなさい」

ぴたっ

亜人王「……先ほどの返答をまだ聞いていませんよ? 何をしにこの国に」

盗賊「あの時のことの謝罪と、聖域での呪文を教えて貰うためにきました」

虎男、狐男「「!?」」

亜人王「……」

すっ

盗賊は膝を地面につける。
そして、

盗賊「あの時は逃げだしてしまって、本当に申し訳ありませんでした」

がっ

盗賊は頭を床につける。

勇者「! 盗賊……」

931: 2014/01/14(火) 03:20:42.20 ID:sIOGl4dt0
536

--過去、南の王国--

亜人王「……」

盗賊「……」

亜人王「……謝れば済む問題ではありません。謝られた所で失われた命が戻るわけではない……」

盗賊「……それはそうですね」

盗賊は顔を上げる。

盗賊「こっちだってこれで済む問題だとは思ってないですよ」

虎男「っ!! 貴様なんだその言い草は!」

虎男は牙をむいて睨みつける。

盗賊「悪いのは俺だ。だから謝る。出来ることもやりたいと思う。でも俺が出来るのはそこまでだ。後はあんた達にかかってるんだ」

虎男「……なに?」

盗賊「和解の着地点を見つけて欲しい」

932: 2014/01/14(火) 03:22:24.66 ID:sIOGl4dt0
537

--過去、南の王国--

シャーマン「……」

虎男「は、はぁ?……な、何を言ってる……お前、正気かがお?」

盗賊「正気じゃなかったらこの行為は茶番だろう? 氏んでいった者達に失礼だ」

狐男「いや……こんな強気な謝罪見たことないコン……」

盗賊「だって俺にはもう、これ以上どうすることも出来ないんだ。後はそっちがそれでいいよ、って言ってくれないと」

ぴしっ

弓女(お、おいおい……これ、まずいんじゃないのか?)

占隊長(い、生きた心地がしない……)

勇者「……」

すっ

勇者も盗賊の横に並び、そして膝を折った。

勇者「……私からも」

ずびしっ

勇者「あいたっ!?」

盗賊のチョップが勇者の頭を捕らえる。

盗賊「これは俺の罪だ。勇者はなんも悪くない。だから謝らなくていい」

933: 2014/01/14(火) 03:23:36.63 ID:sIOGl4dt0
538

--過去、南の王国--

勇者「へ、へ……?」

虎男「な、なんだとがお!?」

盗賊「悪いのは俺だけだって言ってんの。だってこいつはあの時、あの戦いで氏ぬまで戦い続けるつもりだったんだ」

勇者「っ!」

亜人王「……」

盗賊「泣きながら敵を頃して、自分の心も押し頃して、味方からは怖がられて気が狂いそうになって……それでもこいつは不当な暴力にさらされようとしてる人たちを助けようとしてたんだ」

勇者「……」

虎男「だがこの国を見捨てて自分達だけ逃げたのは事実だがお!!」

盗賊「だからー俺が強引にこいつを攫ってったの!! 悪いのは俺だけなの!! 馬鹿なの!?」

シャーマン「なんだこれ」

934: 2014/01/14(火) 03:28:17.63 ID:sIOGl4dt0
539

--過去、南の王国--

虎男「馬鹿じゃないっ! 大体敵前逃亡は重罪と軍法で定められてるがお!! それは誰が先導したとかは関係ない!!」

盗賊「こいつは兵士じゃないんだから軍法とか関係ないでしょ!! 悪いのは俺だけ!!  いつも悪いのは俺なの!!」



弓女「……ぷ」

占隊長「……ほんと、なんだこれ」

勇者「……」

盗賊「……第一、あんたらも見捨てた見捨てた言うけどもさ、自分達のために口リが氏んだら寝覚め悪いと思わないのか? それとも氏ぬまで戦わせなきゃ気がすまないってか?」

虎男「ぐっ……!」

盗賊「氏んじまった人たちのことは本当に悪かったと思ってる。今のこの国の現状も。ぶっちゃけ俺らが参戦しなくたって大して違う結末にならなかったと思うけどさ。それでも逃げたことは事実だし罰も受ける覚悟でいる」

勇者「!?」

亜人王「……」

盗賊「でも勇者は違うんだ。見ろよ、こいつを」

勇者「?」

盗賊「こいつ……こんなに貧Oなんだぜ? 全く無い……むしろアバラの方が微妙に標高高い気がする」

勇者「……ファッ!?」

盗賊「それなのに……こんなに貧Oなのに戦争の犠牲になるのはおかしいだろ……?」

勇者「なんの関係があるの!?」

亜人王「……うぅむ……確かに……」

亜人王は同情の視線を胸の位置にある胸じゃない何かに送る。

勇者「胸じゃない何かって何!?」

935: 2014/01/14(火) 03:34:07.48 ID:sIOGl4dt0
540

--過去、南の王国--

虎男「……ッ、なら、なぜ今の今まで隠れていた!? すぐにここに来なかったがお!?」

盗賊「償いより大事なものがあったからだ」

一切の冗談を無くした盗賊の表情。

虎男「なっ……」

それに押されてしまう虎男。

盗賊「そして、罰も受けるって言ったが当分受けるつもりはない」

虎男「ファッ!?」

盗賊「なぜなら俺は今生きてる人たちのために戦わなきゃいけないからだ」

勇者「……!」

亜人王「……」

盗賊「それが自分なりの償いだと思ってる。この地上の全ての生命の未来のために戦うことを誓う。みんなの役に立ってから氏ぬ」

占隊長「……」

盗賊「その方が氏んでしまった人たちも喜ぶだろう?……だから刑は後回しにしてくれ。あと呪文を教えてくれ」

狐男「な、なんなんだこいつはコン……」

ざわ

勇者(言ってることは……無茶苦茶……とても説得できる内容じゃない……でも、なぜか場を和やかに、解決へと導いていくパワーを感じる……これは、王の言? でも盗賊に王の資格は無い……)

シャーマン(弱者か革命家か……)

亜人王「……言いたいことはわかりました」

亜人王は盗賊の瞳を見つめている。

亜人王「が、刑罰は今から受けて貰います」

勇者「!! ま、まってください! お願いです! 盗賊のい」

亜人王「貴方への刑罰は誰かのために氏ぬまで戦い続けること。救いの手を求めるものならば種族や人種で区別することなく平等に護り抜くこと」

勇者「」

虎男「!? なっ」

盗賊「一部を変更することで承知する。俺は勇者や家族を第一に護る。そこに区別はある。これは譲れない。これを放棄したら、戦争で見捨てた人たちの氏がなんだったのかわからなくなる」

亜人王「……えぇ、それでいいですよ」

亜人王はにこりと笑った。
このあと滅茶苦茶した。

947: 2014/01/21(火) 02:11:47.57 ID:Mynh1Eqt0
遅くなりました!

それでは投下していきます!

948: 2014/01/21(火) 02:12:13.37 ID:Mynh1Eqt0
541

--過去、南の王国--

チュンチュン、チュンチュン
















盗賊「あ、すいません、痔の薬ってあります?」

949: 2014/01/21(火) 02:12:50.65 ID:Mynh1Eqt0
542

--過去、南の王国--

亜人王「もう行かれるのですね。もっとゆっくりしていけばよいものを……」

亜人王は少し頬を染めて盗賊を見る。

盗賊「スイヤセン」

盗賊の※がきゅっと反応する。

勇者「え、呪文の件はどうなったの?」

盗賊「それなら昨日聞いたよ」

弓女「いつの間に? そういえば昨日の夜、亜人王様の部屋に出向いてましたね。その時ですか?」

盗賊「ソウダヨ」

950: 2014/01/21(火) 02:13:42.89 ID:Mynh1Eqt0
543

--過去、南の王国--

虎男「……」

狐男「……」

亜人王「それでは皆さんを見送らせてもらいますよ。よっこいしょ」

亜人王は立ち上がると、兵士達を伴わせず、一人で盗賊達を見送りに行くと言った。

虎男「さすがにそれは……この者達を信用しすぎでは」

亜人王「やれやれ。相変わらず見かけに反して臆病な男だ……なら代わりに私を信用するといい。虎男、お前は私が簡単に負けると思っているのか?」

虎男「! い、いえ滅相もないがお!」

亜人王「それならばよいではないか。狐男。お前もいいな」

狐男「はっ」

盗賊「……」

951: 2014/01/21(火) 02:14:16.05 ID:Mynh1Eqt0
544

--過去、南の王国、城門への道--

かつんかつん

亜人王「この道はもしもの時のために作らせた秘密の道です。またいつあの時のように諸王国が攻めてくるかもわかりませんから」

盗賊「……もう戦争なんてこと、起きて欲しくないな」

亜人王「無論、それに越したことはないのですがね」

勇者「あ、あのっ」

亜人王「?」

勇者「昨日は……盗賊があんなことを言いましたが、私は盗賊に責任を擦り付けるようなことはしません。あれは私の罪でもあります」

盗賊「お、おい?」

亜人王「……?」

勇者「私も戦い続けます。助けを求める者のために」

952: 2014/01/21(火) 02:16:00.43 ID:Mynh1Eqt0
545

--過去、南の王国、城門への道--

亜人王「それは立派な志だ……どうか誓いが果たされますよう……」

勇者「なので私のことは憎いでしょうけれども、でも、また何か困ったことがあったら頼らせていただきたい……」

亜人王「……ふふ」

亜人王は笑う。

亜人王「何か勘違いしておられるようだ。少なくとも私は……貴方達を恨んだことなんてありませんよ」

勇者「!!」

亜人王「そりゃ亜人の中にも血気盛んな者や視野の狭い者もいますがね……ですがそれだけが全てじゃあないんですよ」

盗賊「……」

亜人王「私も王という立場上、犠牲者の遺族に配慮しなくてはならないものがあります。貴方達が逃げたせいで多数の同胞が氏んだ、と言い出すものを止めることもできません」

勇者「……」

亜人王「でも私は、貴方達が逃げたのを知ったあの時、ほっとしました」

勇者「え」

亜人王「勿論驚きもしました。が、我々に手を差し伸べてくれた若い命が戦争で散らずにすんだのです。憎むべきことじゃない」

953: 2014/01/21(火) 02:18:55.17 ID:Mynh1Eqt0
546

--過去、南の王国、城門への道--

亜人王「……そして……あの力の犠牲者がこれ以上増えずに済んでよかったとも思いました。あれは……決して人が使っていい力ではなかった……。例え敵であれ、あんなに簡単に命が失われていいわけがない」

勇者「っ!」

盗賊「あ、あれは勇者の本意では」

亜人王「しかし自国の置かれている状況を判断するに、勇者殿に戦うなと言うことは出来なかった……。盗賊殿。貴方のあの時の判断は結果的に流す血の量を減らしたのです。あれは英雄的判断だったと言ってもいい」

盗賊「……そんな大それたことはしてないです。俺はただ、勇者を助けようと夢中でやっちまったことなんだ」

亜人王「皆何かしら大事なものをもっている。自分の命より尊いものも中にはある……それでいいのです。大事なものは人の数だけ違う。その大事なものを他人に強要することはあってはならない」

かつんかつん

亜人王「……どの道、勇者殿達がこの国に逃げ込んでこなくともあの戦争は起きていたことでしょう……」

弓女「……ほとんどの国は竜亜人の一件以来亜人に対して悪い印象を持ってますからね」

亜人王「竜亜人……ですか。あいつは元々私の友でした」

弓女「へ!?」

亜人王「仲間思いで優しい良いやつでした。あいつと一緒に月を見ながら酒を飲むのが何よりの楽しみだったなぁ……」

占隊長「伝説の災厄にそんな一面が……」

亜人王「……」

954: 2014/01/21(火) 02:20:01.52 ID:Mynh1Eqt0
547

--過去、南の王国、城門への道--

かつんかつん

亜人王「……あの惨劇のあと私はあの場に行っているんです。彼の娘と約束をしていたのでね。でもそこで見たのは七つの氏体と我を失った竜亜人でした」

かつんかつん

亜人王「私は彼に何が起きたのかを即座に理解し、友であるがゆえに彼を……自らの手で止めました」

占隊長「……? その戦いの最中に災厄を引き起こしたってことですか……? 数十万人、いや数百万人の犠牲者が出たと言われていますが」

亜人王「はは……そもそも災厄なんて起きてないんですよ」

弓女、占隊長「「!?」」

盗賊(何の話をしてるんだろう。なんか難しそうな話をしてるみたいなんだがケツが痛くて話に集中できん)

955: 2014/01/21(火) 02:26:05.23 ID:Mynh1Eqt0
548

--過去、南の王国、城門への道--

亜人王「あの頃私や仲間達は亜人の市民権を得ようと活動していました。当時亜人はよくて奴隷、悪くて資源としかみなされていませんでしたから」

占隊長「!? そんな話一度も聞いたことが……」

亜人王「そちら側で生きていれば当然のことでしょう」

かつん、かつん

亜人王「……当時の我々の活動を気に食わないと考える連中が存在しました。彼らからすれば我々は金儲けの邪魔になるのは明白。なのでリーダーである彼のことを執拗に付けねらっていました」

かつん、かつん

亜人王「彼らが雇ったのは闇の組織。闇の組織は亜人の生態をむちゃくちゃなやり方で観測し、生存環境を破壊し、更には生体パーツを売りさばく非合法的な組織でした。そんな彼らの数ヶ月にも及ぶいやがらせの結果、偶然にも竜亜人の心を狂わすことに成功します……そして誰かの思い描いた通りに事が進むことになる……」

弓女「……私は、失礼ですけど、亜人王様の話を信じることができません……だって子供の頃からずっと災厄の話を聞かされ続けているんです……」

亜人王「でしょうね」

弓女「!?」

亜人王「説得なんてしませんよ。ただそういうものの見方がある、程度で構いません。いつか気になったら調べてくれればいいですから」

占隊長「……」

亜人王「貴女方のリーダーに直接聞いてみてはどうですか? 彼女も父親で辛い目にあっていますから話したくは無いかも知れませんが」

占隊長、弓女「「!?」」

956: 2014/01/21(火) 02:28:14.18 ID:Mynh1Eqt0
549

--過去、南の王国、城門--

亜人王「それではお別れです。良き旅路であらんことを」

盗賊「あぁ、ありがとう。亜人王様も気をつけて」

亜人王「えぇ」

ひゅおおおお

占隊長(もしかして……)

弓女(私達のこと全部ばれてたのかな……)

ざっざっざっ

勇者「……それにしても亜人王様の言っていたこと、本当なのかな」

盗賊「俺はそもそも災厄の話知らないからなんともいえないんだけど」

勇者「馬鹿なのかな?」

盗賊「馬鹿だよ。てかそういう難しいことはいいよ。難しいことはもっと頭のいいやつがなんとかしてくれるはずだもん。俺達は地道に目の前のことをクリアしていかないといけない。だからまずは天使から話を聞いて世界を救おう」

勇者「目の前の難易度がとりあえずじゃない!」

957: 2014/01/21(火) 02:29:33.68 ID:Mynh1Eqt0
550

--過去、隠しダンジョン地下七十階--

かつん、かつん

盗賊「やー……二回目だと少しは楽だったね」

ぜーぜー

勇者「ほと、んど……わ、私達、まかせだった、じゃない、か」

シャーマン「全くだ。女におんぶに抱っことは恥を知れ恥を……」

盗賊「いやぁだって俺しか呪文知らないんだし、俺が氏んだら困るっしょ?」

ぱあぁあ

占隊長「!! この光は!!」

天使「汝ら、そなた達は何を求める?」

盗賊「さっそく出なすったか、天使!!」

958: 2014/01/21(火) 02:30:19.35 ID:Mynh1Eqt0
551

--過去、隠しダンジョン地下七十階--

勇者「ほら盗賊! 例の呪文は盗賊しか知らないんだからちゃんとやってよね!!」

盗賊「オーケーオーケー。さぁていきま、げほっごほっ! ちょ、ちょっとまってむせちゃって、ごほっ!」

天使「不合格」

ビー

盗賊「げぶぅ」

どさ

勇者「とうぞおおおおおおおおおおおおく!!!」

959: 2014/01/21(火) 02:31:50.17 ID:Mynh1Eqt0
552

--過去、隠しダンジョン地下七十階--

きゅぴーん

盗賊「あー、氏ぬかと思った!」

勇者「いや一回氏んだから!! 蘇生の時間稼ぐために弓女ちゃんが人柱になっちゃったんだからね!! 今度はちゃんとやってよね!!」

盗賊「すまんすまん。でも咳きはしょうがないじゃんわざとじゃないんだし」

天使「汝ら、そなた達は何を求める?」

勇者「む~まだ言い足りないけど、ほら、頼むわよ!」

盗賊「よぉ~し!」

ぷっ!

盗賊「あ……力んだらおならでちゃった」

天使「不合格」

ビー

盗賊「げぶぅ」

どさ

勇者「とうぞおおおおおおおおおおおおく!!!」

960: 2014/01/21(火) 02:32:51.81 ID:Mynh1Eqt0
553

--過去、隠しダンジョン地下七十階--

きゅぴーん

盗賊「という夢をみたのさ」

勇者「現実だから! ばか!! 占隊長さんまで氏んじゃったじゃないの!! 次はほんとに、次こそちゃんとしてよね!?」

盗賊「あぁ、任せておけ。所謂仏の顔も三度までってやつだな? わかった」

勇者「もっかいしくる気か!? 次は本当に許さないからな!?」

シャーマン(遺書書いておこうかな……)

天使「汝ら、そなた達は何を求める?」

盗賊「おう! えっと……あれ?……ド忘れしちゃった……」

ビー

盗賊「げぶぅ」

どさ

勇者「後が無くなった!!!」

シャーマン「遺書書くべきだったか!!!!」

961: 2014/01/21(火) 02:35:01.29 ID:Mynh1Eqt0
554

--過去、隠しダンジョン地下七十階--

きゅぴーん

勇者「……」

盗賊「……」

勇者「……次氏なれると蘇生魔法の時間を稼ぐことが出来ないので自動的にゲームオーバーになります」

盗賊「はい……次はほんと、ちゃんとやるんで……」

天使「汝ら、そなた達は何を求める?」

盗賊(大丈夫だ、昨日あんなにベッドの上で囁かれた言葉だ……思い出せ……)



  --昨日、ピロピロ的な--

亜人王「この呪文は我が祖先が誤ってあのダンジョンに入ってしまい、天使と出会った時にとっさに口から出た言葉だそうです。無我夢中で問いに答えた。そうしたら偶然にも天使を満足させられた、と」



盗賊「すぅー……」

盗賊は深く息を吸った。
そして

盗賊「らせん階段 カブト虫 廃墟の町 イチジクのタルト」

勇者「!? よく偶然でいけたな!?」

962: 2014/01/21(火) 02:36:23.04 ID:Mynh1Eqt0
555

--過去、隠しダンジョン地下七十階--



  --昨日、ピロピロ的な--

亜人王「後々調べた所、これはでたらめで口をついた言葉ではないことがわかりました。ある墓守の一族に代々伝わる呪文だそうです。我が祖先が彼らと知り合いだったのかまではわかりませんが、どこかで聞いたこの言葉が頭に残っていたのでしょう」



盗賊「特異点 秘密の皇帝!!」

天使「………………」

ぴし、ぴししっ

天使の体にひびが入っていく。

勇者「や、やったか?」

ぴかーーーーーーーー!!

眩い光が放たれる。




としっ

  「合格だよ。盗賊君」

963: 2014/01/21(火) 02:37:06.77 ID:Mynh1Eqt0
556

--過去、隠しダンジョン地下七十階--

光が弱まり、盗賊達が目を開けるとそこには

???「……」

盗賊「!? ゆう、しゃ?」

勇者「えっ!? 私!?」

勇者に似ている少女が立っていた。

???「私の名は赤姫。全ての始まりを知る者よ」

盗賊「似てる、けど感じがちょっと違うな……それに勇者より成長してる」

勇者「どこみてる!! でも身長も少し高い……それにしても、私に似てる」

???改め赤姫「確かに似てるね。ちょっと失礼」

ぴーー

勇者「!?」

勇者にレーザーのようなものがあてられる。

赤姫「なるほど。君はどうやら私のセーブデータの子孫みたいだね。トリガーめ、私のセーブデータまで復活させていたのか」

964: 2014/01/21(火) 02:39:51.22 ID:Mynh1Eqt0
557

--過去、隠しダンジョン地下七十階--

赤姫「なーんて、そんなこととっくに知ってたんだけどね」

盗賊「な、何を言ってるのかさっぱりわからないぞ……」

勇者「トリガー……今トリガーって言った?」

赤姫「うん言ったよ。トリガー。私の執事。そしてこの世界を作り上げた創造主でもある」

盗賊、勇者「「!?」」

赤姫「君達のことは知ってるよ。更に言えばこの世界のことはなんでも知ってるよ。何せ私は不老不氏なのだから」

盗賊「なんでも、知ってるのか?」

赤姫「なんでもだよ。今君の不浄の門が緩くなっていることも」

盗賊「」

きゅっ

赤姫「君達は私を目覚めさせる呪文を知っていた。古き約定にしたがって君達の知りたいことをなんでも答えてあげちゃおう。ただし突拍子が無さ過ぎて逆に君達が信じることが出来るのかという問題はあるけれど」

勇者「……盗賊……」

盗賊「俺は信じる……勇者と同じ外見をしたやつに悪いやつはいない」

赤姫「えらく限定的だなぁおい」

965: 2014/01/21(火) 02:42:53.40 ID:Mynh1Eqt0
558

--過去、隠しダンジョン地下七十階--

盗賊「じゃあ……」

勇者「待って盗賊。私に試させて」

盗賊「え?」

勇者「私なら、きっと試せる質問が出来るから」

赤姫「ふむ。下水道でワニに育てられた九代目勇者よ。何が知りたいの?」

勇者「!……この世界のモンスターって、なんなの?」

盗賊「……は? モンスター? なんなのって何がなんなの?」

赤姫「モンスター。それはあなた方にとって古代人と呼ぶべき人類の成れの果て。モンスターが作られた理由は、当初はトリガーが錯乱したせいだと考えていたが、最近では自らの殺人衝動の対象から外すためにとった苦肉の策であったと思われる」

まるで機械のように喋りだす赤姫。

盗賊「は、は?? 古代人が、モンスター? 何を言ってるんだ?」

勇者「……」


 勇者(……氏んだの?)

 男の子「氏んだ。色んな人がいっぱい。それこそ今の人類が知らないような数のね……でも全員がその考えに至ったわけではなかった。無意味な氏は種を極めた存在としてあまりに愚かだと思ったんだ。そして人類の大半は動物として、自然な生命として生きようとしたんだ」

 勇者(え?あの動物?牛とか)

 男の子「そう。動物として生きることが行きついた者の答えだったのさ」

 勇者(馬鹿みたい)

 男の子「そうかもしれない。結局彼らは姿をモンスターと化して世界をまた支配しようとしている」

 勇者(……え……ちょっとまって……嘘でしょ、モンスターって)

 男の子「?古代人のなれの果てさ」

966: 2014/01/21(火) 02:44:52.70 ID:Mynh1Eqt0
559

--過去、隠しダンジョン地下七十階--

勇者(でも少しお互いの事実が違ってる……どっちが本当なのか。それを見極めなくちゃいけないんだ……)

赤姫「トリガーから少しはこの世界のことを聞いていると思ったよ。それで私のことを信じる気にはなったかい? 勇者」

勇者「……えぇ」

盗賊「え!? 今ので信じちゃうの!?」

勇者「盗賊、この天使の言うことは全て正しい……と今は思って。彼女の話を聞ければ不可思議な魔王を倒す手立てが出来るかもしれない」

盗賊「まぁ……俺は元々信じるつもりだったけど……」

勇者「赤姫、さっそくだけどここから移動することは出来るの?」

赤姫「可能だよ。ちょっともっていかなきゃいけないものがあるけど」

勇者「OK。じゃあ私達が滞在している場所まで来て欲しいの。そこはトリガーからの干渉を受けないらしいし」

赤姫「このフロアも受けないけどね。まぁいいよ。急いで準備をしよう」

盗賊「おいこの子達はどうすんだよ」

勇者「全員蘇生させるわ。そして、二人とはお別れよ」

967: 2014/01/21(火) 02:46:03.09 ID:Mynh1Eqt0
560

--過去、氏の砂漠--

弓女「……ん、ん!?」

がばっ

占隊長「起きましたか」

弓女「あれ、私確かやられて……」

占隊長「蘇生はしてくれたみたいです。これを」

占隊長は手紙を弓女に渡す。

弓女「えっと、大事な用件が出来たので失礼する。二人の協力には感謝している。またどこかで……って、盗賊さんたちどっか行っちゃったんですか!?」

占隊長「……ぐすん」

弓女「あ、目が赤い」



--過去、失われた王国--

ざわざわ

護皇「……しかしまさか天使を連れて帰ってくるとは思わなかったぜよ……」

シャーマン「おかげで私の塔取られたわ……」

すた、すた

???「ふぇっふぇっ……ついに最後の物語が始まりそうだねぇ」

護皇「!? 預言者様!? いつ帰ってきてたんぜよ!」



--過去、失われた王国、塔--

赤姫「……さて、何を知りたいんだ?」

978: 2014/01/27(月) 20:00:49.96 ID:Cuy/NfzY0
561

--過去、失われた王国、塔--

勇者「じゃあ、アバウトかもしれないけれど……今この世界に何が起きてるの? 存在しないはずの魔王がなぜいるの?」

赤姫「答えましょう。んー、とりあえず魔王の件から。確認は出来ていないけど、君らを襲ったと思われる魔王は恐らくトリガーが別ルートから呼び出した魔王だろうね」

盗賊「!? 別ルート!?」

勇者「ルート……どういう意味?」

赤姫「君らも今までの人生の中で何度も選択を迫られてきたと思う。そして君達がどれかを選んだからこそ、今のこの世界があるわけなんだが、選ばれなかった選択肢にも物語があるんだ。それをあいつは操る」

……そしてこれからの選択すら、と赤姫は呟く。

勇者「トリガーって、そんなことが出来るの……?」

盗賊「ま、待て待てちょっと待て。話が飲み込めないんだけど、とりあえずそのトリガーってやつのことから教えてくれ。誰それ、友達?」

勇者「トリガーは……幽霊みたいなのとしか」

赤姫「トリガーは私の執事ロボットだ。ある日を境に狂乱し、この世界とルールを組み立てた……君達にとっていわゆる神だな」

盗賊「……神……突拍子ないなー」

979: 2014/01/27(月) 20:01:55.97 ID:Cuy/NfzY0
562

--過去、失われた王国、塔--

勇者「そんな奴だったのか……でトリガーはなんで魔王を呼び出したの? トリガーの目的は?」

赤姫「呼び出した理由として考えられるのは、君がルールを狂わせて魔王にならなかったので、不在の魔王の席の穴を埋めるために呼び出した……こんな所なんじゃないかな」

勇者「!……それが本当なら……この螺旋は止めることが出来ない、のね……」

盗賊「……勇者が魔王にならなければ次の魔王は生まれない……そう思ってたのに」

赤姫「残念だがそう簡単じゃない。トリガーはルートを操る。君が魔王にならなかったとしても、魔王になった君を呼び寄せればいいだけのことなんだよ」

勇者「……ん? 魔王になった私……?」

赤姫「ん?……魔王に襲われたって、魔王になった君自身にじゃないの?」

盗賊「いや蝿みたいな化け物だったが……まさかあれが魔王になった勇者の姿なのか?」

いやでもニートって言ってたし、と盗賊。

赤姫「……蝿……七代目魔王」

赤姫の表情に真剣みが増す。

980: 2014/01/27(月) 20:02:36.00 ID:Cuy/NfzY0
563

--過去、失われた王国、塔--

赤姫「……おかしいな。てっきり別ルートの勇者が呼び出されたと思ったんだけど……もしかすると」

勇者「……?」

赤姫「トリガーは世界をリセットしようとしているのかもしれない」

盗賊、勇者「「!?」」

赤姫「だとすると全部の魔王を呼ぶのか……? そうか、確かに数が足りている……」

盗賊「わかるようにわかるように! 俺馬鹿だから!! 俺、馬鹿だから!!」

勇者「盗賊うるさい!」

赤姫「んん~……この時代で決着をつけるつもりなのか。なら君達には最初から全部知っておいて貰わなくちゃいけないかも」

盗賊「お、おう?」

勇者「聞かせて」

赤姫「あぁ……」

※勇者と魔王がアイを募集した第三部1~77を赤姫視点で話しています。

981: 2014/01/27(月) 20:03:49.38 ID:Cuy/NfzY0
564

--過去、失われた王国、塔--

……

盗賊「んごぉ」

勇者「寝るな!!」

盗賊「んごっ!?……あ、終わった?」

勇者「こいつ……」

赤姫「……」

盗賊「い、いや聞いてたよ、ほんと……二人して同じ顔で睨まないで下さい」

赤姫「正直あそこらへんは私生活の苦しさのあまり病んじゃっててめちゃくちゃな内容になってるから読みづらいと思うけど」

盗賊「え?」

赤姫「ま、それはおいといて」

勇者「……トリガーは私達人間を頃したくないから魔王の力で圧迫させていたの?」

赤姫「そうね。圧迫しておけば人としてカテゴライズされなくなる。それならば全滅させなくてすむね」

982: 2014/01/27(月) 20:05:37.52 ID:Cuy/NfzY0
565

--過去、失われた王国、塔--

赤姫「でもそれだけじゃないのよ。本当にそれだけなら」

盗賊「リセットする必要なんてない」

赤姫「そう。なんだちゃんと聞いてたのね。……これは推測だけど、神のごとき力<ルート>を手に入れたせいで、トリガーは常に別ルートのトリガー達と繋がってるんだと思うの」

勇者「それが一見矛盾とも思えるトリガーの行動の説明になるのね……」

盗賊「なるほど。人類を滅ぼすことに決めたルートのトリガー、人類を管理することで護ろうとしているトリガー。色んなトリガーがせめぎ合ってるって感じか」

赤姫「おそらくね」

勇者「……じゃあ目的を探ろうとしても意味のないことね。たくさんの目的を持ち、一つの方向に進んでいるわけじゃない……それじゃ行動を予測することなんてできない」

赤姫「いや、それがどうも偏りがある気がするのよ。パワーバランスというか。今のトリガーは、リセットを望むトリガーの影響が強いのかもしれない」

盗賊「!」

983: 2014/01/27(月) 20:06:56.74 ID:Cuy/NfzY0
566

--過去、失われた王国、塔--

勇者「リセットを望むとしたら、どうしてくると思うの?」

赤姫「実は一度リセット完了一歩手前まで行ったことがあるの。六代目勇者の時に」

勇者「! 文明が失われたとされる大災害……!」

赤姫「そう。その時は六代目勇者の活躍もあって防がれたとされているんだけど……実際はそこまでの力を取り戻せなかったっていうのも大きいのよ」

ヴン

赤姫はホログラムで九つの球体を作り出した。

勇者「これは?」

赤姫「コアと呼ばれるもの。人類の英知の結晶。これを全て連結させることでほとんどのことが可能になるわ。まぁあれよ。ドラゴンボールみたいなものよ」

盗賊「ギャルのパンツ欲しい……」

赤姫「ただ、今これらは封印されて宇宙空間を漂っているわ。現在のトリガーじゃ取りに行くことも出来ない。だから地上で変わりとなるものを作ろうとしている」

勇者「……」

赤姫「魔王の骨。魔王が生み出す高純度の想いとエネルギーの結晶体。魔力側からのアプローチで、トリガーは再びコアを手に入れようとしている」

984: 2014/01/27(月) 20:08:18.89 ID:Cuy/NfzY0
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--過去、失われた王国、塔--

勇者「!! 魔王の骨……伝説のアイテム……まさかそんな用途があったなんて」

赤姫「かつてのコアの数は九つ。そして今現在地上に現れた魔王の数は八体……勇者、君が魔王になれば九体目、だね」

盗賊「! 数が揃う、ってわけか……」

勇者「魔王の骨……それはどうやって生み出すの?」

赤姫「魔王がずっと大事に想っていたものに魔力が宿り、それが魔王の骨と化す。例えば君達が魔王を倒すさいに破壊した手紙。愛しの彼女からの最後の手紙。あれが魔王の骨だ」

勇者「!?」

盗賊「あれか……どうりで異常な……あ、あれ? そういやあれぶっ刺しちゃったぞ? ってことは魔王の骨が一個足らなくなった、ってことか?」

赤姫「あー、言い方が悪かった。魔王の骨の核となるもの、と言うべきだったか。魔王の骨は、魔王が勇者に打ち倒された後、その全ての想いと力がアイテムに乗り移ることで作り出されるんだ」

勇者「じゃああの後魔王城で……」

赤姫「生まれた。八個目の魔王の骨が」

985: 2014/01/27(月) 20:10:22.14 ID:Cuy/NfzY0
568

--過去、失われた王国、塔--

盗賊「じゃあトリガーの今後の行動を予測すると、残る九つ目を作り出すために、勇者を魔王にした後で次の勇者に殺させる……って感じか?」

勇者「ッ」

赤姫「そういうことになるね」

盗賊「とすると、俺達を襲ってきた魔王は勇者をさらうために来たってことなのか?」

赤姫「ん……そこが少しおかしいんだよね。それなら別ルートから魔王になった君を呼び出せばいいだけのはず。でも呼び出したのは違う魔王……スーパーコアの生成が目的ならいらぬ労力なのよ。ルートはほいほいと使える力じゃないのだから」

赤姫は足を崩して寝転んだ。

赤姫「二段構えなのか、別々の思考が独自に展開されているのか……それとも違う狙いがあるのか。今の状況じゃわからないわ」

勇者「……一つ気になることがあるんだけれど」

赤姫「何?」

勇者「魔王の骨、いや魔王の骨になる核となるアイテム。それは魔王になる時には所持しているわけよね?」

赤姫「そうよ。それが魔王の氏後、魔王の骨となる。つまりそれがなければ魔王になることもないのよ」


986: 2014/01/27(月) 20:13:03.99 ID:Cuy/NfzY0
569

--過去、失われた王国、塔--

勇者「!……なるほど、もう自己完結したからいいわ」

盗賊「え? 何々? 何が何?」

赤姫「私が代わりに説明してあげる。勇者は特殊な人生を送ってきたからね。普通の人間なら本当に護りたいもの、本当に大事なものを抱えて生きている……。ただ勇者はそれに関して想いが弱かった。いつも氏ぬために生きてきたから……だがそれが幸いして完全な魔王にならなかった」

盗賊「!」

赤姫「魔王になる条件の一つに、本当に大事なものを持っている、っていうのがあるの。あの時の勇者はまだそれが無かった。だからこそ魔王にならずに済んだ」

盗賊「なるほど……」

赤姫「でも今の勇者には、本当に大事なものが出来てしまっている」

勇者「……」

赤姫「今その指輪を外し、心の臨界点を迎えたら間違いなく魔王になるでしょうね」

987: 2014/01/27(月) 20:14:01.89 ID:Cuy/NfzY0
570

--過去、失われた王国、塔--

盗賊「……でも結局よくわからないことばかりだぜ。俺らは今後どうしたらいいんだ?」

勇者「今の聞いてもわからなかったの? 私はやるべきことを理解したよ」

赤姫「さすが私のセーブデータの子孫。飲み込みが早いね」

盗賊「……何したらいいん?」

赤姫「一つ、勇者を魔王にしないこと」

勇者「一つ、トリガーより先に魔王の骨を回収すること」

ぎしっ

預言者「一つ、同じ志を持った仲間を集めること」

勇者「! だ、だれ?」

盗賊「てっきりシャーマンかと思ったけど、見たこと無いばあちゃんだ」

赤姫「ほう、預言者か」

預言者「お初にお目にかかります天使様。わたくしは預言者と申しますですじゃ。貴女様がここに姿を現すことは何十年も前から知っておりました」

988: 2014/01/27(月) 20:14:48.76 ID:Cuy/NfzY0
571

--過去、失われた王国、塔--

勇者「預言者様……失われた、時の一族の長……」

預言者「勇者ちゃん、だね」

すっすっ

預言者は勇者の元にまで歩いてくる。

預言者「ふぇっふぇっ。幼い頃の妃ちゃんに似てるねぇ」

勇者「妃……?」

預言者「おや、聞いていたと思ってたんだが……忘れてるだけかねぇ。勇者ちゃんのお母さんのことじゃよ」

勇者「!! 母を……ご存知で?」

預言者「もちろん。わたしゃ妃ちゃんの母親じゃから」

盗賊「……あれ? ってことは」

勇者「……私のお婆ちゃん!?」

預言者「ふぇっふぇっ」

989: 2014/01/27(月) 20:16:50.08 ID:Cuy/NfzY0
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--過去、失われた王国、塔--

勇者「そんな……私の血縁が……まだ生きてたんだ……」

勇者は涙を溜める。

預言者「よしよし。今まで辛かったろう……助けにいけなくてごめんねぇ」

勇者「う、うぅ……」

盗賊「よかったな、勇者……」

預言者「そういや、勇者ちゃんは従兄弟と従姉妹に会ってるはずなんだけども」

勇者「……え?」

預言者「妃ちゃんには姉がいるのさ。そして妃ちゃんの姉には男の子と女の子の子供がいる。会わなかったかい?」

勇者「え、え? え??」

預言者「カブトと占隊長っていうんだけんど」

盗賊「……あいつら!?」

990: 2014/01/27(月) 20:17:37.53 ID:Cuy/NfzY0
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--過去、失われた王国、塔--

預言者「なんだ、気づかなかったのかい?」

勇者「き、気づかないよ普通!!」

盗賊「……なるほど、だからカブトはあんなに勇者のことを……」

盗賊は一人で納得する。

勇者「あ、だから占隊長も盗賊を……趣味が似てる、とかそういう……」

勇者は一人で納得する。

盗賊「え、何?」

勇者「なんでもない!!」

預言者「そういえば占隊長ちゃんは勇者ちゃんを見たことが無いから気づかなかったかもねぇ」

991: 2014/01/27(月) 20:19:14.09 ID:Cuy/NfzY0
574

--過去、失われた王国、塔--

赤姫「感動の再会の所申し訳ないんだけどさ。せっかくの地上だから何かご飯食べたいんだけど」

盗賊「え、天使もお腹空くの?」

赤姫「空かないけどたまにはご飯食べてみたい。もう随分何も口にしてないからね」

護皇「じゃあ……宴会でも開くかぜよ」

のっしのっし

護皇が部屋の中に入ってくる。

盗賊「おいおい今度はおっさんかよ」

赤姫「おぉ、いいね。話せるじゃないか、宴会とは楽しみだなー」

盗賊「やれやれ……情報が多過ぎて頭の整理が大変だっつーのに……。ま、いっか! こうなりゃはしゃぐぞ勇者!」

勇者「人類の存亡をかけた戦いが始まろうとしてるっていうのにはしゃぐの!?」

盗賊「おう、とりあえず今日は遊ぼう。頑張るのは明日からにしよ」

勇者「や、やっぱり駄目過ぎる……!」

992: 2014/01/27(月) 20:20:16.65 ID:Cuy/NfzY0
575

--過去、失われた王国--

どんちゃんどんちゃん

赤姫「飲めやー! 歌えやー!」

ばさっ

盗賊「天使様が、脱いだー!!」

わははははは

勇者「ぴきぴき……あいつ、鼻の下伸ばしやがって……」

預言者「勇者ちゃん」

勇者「あ、おば……預言者様」

預言者「ふぇっふぇっ。おばあちゃんと呼んでもらいたいねぇ。ほら料理持ってきたからお食べよ」

勇者「あ、ありがと。でももうそんなに食べれないよ」

勇者ははにかみながら差し出されたお皿を受け取る。

預言者「……世界の真実を知って、色々と思うことがあるだろうねぇ」

勇者「……」

預言者「でも大丈夫だよ。勇者ちゃんが信じた人達と一緒にいれば、きっといい未来にいける」

993: 2014/01/27(月) 20:21:48.99 ID:Cuy/NfzY0
576

--過去、失われた王国--

勇者「おばあちゃん……」

すっ

預言者は、見たこともない文字が書いてある懐中時計を勇者に渡した。

勇者「これは?」

預言者「お守りだよ。もうどうしようもないと思った時にきっと勇者ちゃんを助けてくれるよ」

勇者「? ありがとう」

預言者「五人の勇者」

勇者「え?」

預言者「正しき未来を勝ち取るには五人の勇者が必要なんじゃ。詳しいことはわたしゃにもわからない……でも覚えておいておくれ」

勇者「……わかった」

994: 2014/01/27(月) 20:23:16.36 ID:Cuy/NfzY0
577

--過去、失われた王国--

盗賊「おらー!! 勇者もこっちこいやー!!」

がばっ!

勇者「ぴ!?」

走ってきた盗賊は勇者を捕まえると脇に抱えて走り出した。

勇者「ちょ、ちょっと今大事な話してるのに!!」

盗賊「わははははー!」

どんちゃんどんちゃん

預言者「……重い運命に押し潰されそうな時に、いつも助けてくれる人が勇者ちゃんにはいるんだねぇ」

勇者「! あ、ちょ! 降ろして!! そういえばまだ穿いてなぃ……」

盗賊「え、何!? 聴こえない!」

勇者「だーかーらーーーーーーーーー」

預言者「いい選択を選べるように願っているよ」

995: 2014/01/27(月) 20:24:44.72 ID:Cuy/NfzY0
578

--失われた王国--




勇者「ってことがあったのよ……なんか思い出したらいらいらしてきた……」

ポニテ「そんなことが、あったなんて」

アッシュ「これが世界の真実……」

ツインテ「魔王の骨、ボク達も旅の途中で何度か耳にしましたね……」

レン「……というか戦ったこともあるのにゃ。レン、この三年間で色々調べたにゃ。レンが作ったあのゴーレム、牧師お兄ちゃんが使っていたあの力。それらには魔王の骨の力が関わっていたのにゃ」

ツインテ「!?」

ポニテ「! 思い出した! あの変な力か……」

勇者「らしいね。私達も裏で動いていたから知ってる」

レン「……誰かが牧師お兄ちゃんに魔王の骨を使わせたのにゃ。もしかするとそれもトリガーの目論見なのかもにゃ」

代表「え、牧師って、あの北の王国の?」

侍「む、代表。おぬしもここに拾われていたでござるか?」

代表「その言い方はちょっと気になるな……まぁそうだけど」

レン「あんた、亜人保護団体の代表かにゃ……? なんであんたが牧師お兄ちゃんのこと知ってるのにゃ?」

代表「だって牧師君に魔王の骨使ってみる? って言って渡したの僕だし」

レン「……は?」

996: 2014/01/27(月) 20:25:24.61 ID:Cuy/NfzY0
579

--失われた王国--

ツインテ「ど、どういうことですか?」

代表「困っていたみたいだからね。手を貸してあげたんだ。あんな大事になるとは思わなかった……なんて嘘つく必要もないか」

レン「あんたが、お兄ちゃんを!!」

がっ!

レンは代表の胸倉を掴む。

ツインテ「! 駄目ですレンさん!!」

アッシュ「やめておけレン。今はどんな極悪人だろうと戦力としてカウントしていかなきゃならない。今の話を聞いていただろう?」

レン「……ッ」

代表「……うらんでくれていいさ。渡したのだって、いつか魔王の骨を使う時のために程度を知りたかったわけだし。僕は君のお兄さん? を利用したことになる」

レン「!!」

997: 2014/01/27(月) 20:26:30.85 ID:Cuy/NfzY0
580

--失われた王国--

盗賊「もー。わざわざ憎まれるようなこと言わなくたっていいのに」

ポニテ「」

ざっ、ざっ

勇者「盗賊。魔王と戦ったみたいだけど大丈夫だった?」

盗賊「やー、危ないところだったね! 運が味方してくれなきゃおっちんでたね!」

アッシュ「盗賊……この男が……」

ツインテ「ポニテさんの、お父さん?」

ポニテ「ぱ……ぱ」

盗賊「おぉー! ポニテ!! 久しぶり! 会いたかったぞーー!!」

ポニテ「パパ……パパ……!!」

ぼろぼろと涙を零すポニテ。

レン「……」

ハイ「ポニテ先輩……」

だっ!

ポニテは駆け出した。

盗賊「大きくなったなーー!! 主に胸!!」

ポニテ「パパの、変Oーーーーーーーーーーーーーー!!」

どぎゃあああ!!

盗賊「ぬわーーっっ!!」

茶肌との戦いのせいなのかなんなのかわからないけどとりあえず盗賊は全裸だった。

998: 2014/01/27(月) 20:26:56.99 ID:Cuy/NfzY0
それではこのスレ最後の投下はここまでになります。
疑問、質問等がありましたら、次スレに書きこんでおいてください。
読んでいただきありがとうございました!m(__)m

999: 2014/01/27(月) 20:27:22.76 ID:Cuy/NfzY0
っと忘れてました。次スレはここになります。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1390820254/
それでは予告を書いて終わりにします。

1000: 2014/01/27(月) 20:27:51.50 ID:Cuy/NfzY0
これが最後のルート……





次回、勇者と魔王がアイを募集した【9】

引用: 勇者と魔王がアイを募集した2