1: 2014/10/07(火) 02:53:00.28 ID:/jL23EQi0

12: 2014/10/14(火) 01:55:27.74 ID:X9y0U0Lm0
441

--暗黒森林、酒場--

わいわいがやがや

アッシュ「――さて、それじゃあさっそくツインテ奪還の作戦を練るぞ。各々、何か思うことがあるなら好きに言え」

レン「じゃあまずレンから。実はレンは大分前から王国の、いや元王国の絵師と連絡を取っていたのにゃ。そして予定では明日の競売の最中に奪還しようと計画していたにゃ」

侍「む。レン殿もそうでござったか。実は我々もそうなのでござる。ほらこの手紙」

ぱらっ

ハイ(あ、この手紙は……)

ハイはこの手紙を見たことがあった。

レン「侍達もだったのかにゃ。レン達の計画では舞台の中からポニテが、会場からレンが、会場の外からは絵師が事を運んで混乱のうちにツインテを奪還するつもりだったにゃ。……でもこの面子が揃った今なら、明日まで待つ必要は無いんじゃないかと思い始めてるにゃ」

アッシュ「夜のうちに盗み出す……セオリーだな。だがそれは向こうも一番警戒していることだろう」

レン「……夜の番人かにゃ」

ハイ「夜の……番人?」

侍「なんかえろい」

11: 2014/10/14(火) 01:52:15.01 ID:X9y0U0Lm0
遅れました!
それでは続きを投下していきます!

13: 2014/10/14(火) 01:58:19.26 ID:X9y0U0Lm0
442

--暗黒森林、酒場--

アッシュ「夜の番人。闇競売の運営が雇っていると噂されている魔法拳闘士のことだ。夜のみと限定されるが、その実力は五柱と同等、もしくはそれを上回るものらしい」

ハイ「!! 五柱レベルってそんな人がここにいたんですか!?……あ、でも実力者である皆さんがこれだけいるならなんとかなったり?」

レン「……魔導長と同レベルかもしれないって時点でレンは闘いたくは無いにゃ」

レンは暗い顔でそう呟く。

侍「拙者も嫌でござる。競売品保管庫はいわば奴の城。テリトリー内で五柱レベルと戦うのは無謀にもほどがあるでござるよ」

ハイ「ですよねぇ……」

ユー「……」

ユーは話に加わらずもくもくとご飯を食べている。

アッシュ「……お前夜の番人のことを知らないみたいだが、前の俺達はどんな流れになったんだ?」

アッシュはハイに質問した。

14: 2014/10/14(火) 02:02:21.25 ID:X9y0U0Lm0
443

--暗黒森林、酒場--

ハイ「はい、えっと、そもそも前回に私がここに着いたのは明日のお昼頃なので、この時間帯に皆さんが何をしていたとかはわかりません」

レン「凄まじく奇妙な文章にゃ」

ハイ「でも明日の昼、行動を起こすまでは会場全体、特に変わった様子はありませんでした。多分皆さんも大人しく機会を伺っていたんじゃないかと思います」

アッシュ「なるほど」

侍「というか前回ここで起きたことを全部説明して欲しいでござる。これから起こる情報を知っているのなら、ことを有利に運ぶのが随分容易になるでござる」

ハイ「そうですね。確か……ツインテ先輩の競売の時間になった所で、会場にたくさんの人たちが雪崩れ込んで来ました。今思うと先輩達の協力者さんの行動かもしれません」

レン「ふむにゃ」

ハイ「それでどさくさまぎれに私と皆さんが飛び出しました。そしたら各国の三強さん達が襲い掛かってきて乱戦になりました」

アッシュ「三強は誰がいた?」

ハイ「んっと、西の槍兵さん。黄金王国の突撃長さん。東の剣豪さんと魔剣使いさん。あと王国のフォーゼさんとかも居ましたか」

侍「オールスターじゃん」

15: 2014/10/14(火) 02:09:49.16 ID:X9y0U0Lm0
444

--暗黒森林、酒場--

アッシュ「……昼も相当きついな。それだけの数の三強がいたんじゃ、無事に奪還出来るとは思えん」

レン「レンも同意見にゃ。昼と夜、どっちにするか……」

侍「まさに前門の虎、肛門の狼でござるな」

きゅっとお尻の穴がしまるアッシュ。

ハイ「でもツインテ先輩を連れて森に逃げ込むことは出来たんですよ」

アッシュ「ほう。さすが俺」

レン「きっとレンが活躍したに違い無いのにゃ」

侍「いやいやそこはきっと拙者でござるよ」

ユー「……」

自分自分と指を指すユー。

アッシュ「ふん、奪還出来る未来があったのなら今回もその通りでいいだろう。情報が全く無い五柱レベルのテリトリーに踏み込む危険度に比べたら当たり前の結論だ」

レン「やれやれ。随分と気が楽になったものにゃ。オヤジ、ミルクお代わり」

侍「はっはっはっ。みんな気が緩み過ぎでござるよ。どれ、拙者も料理を追加するでござるかな」

ハイ「あっ、でもその後フォーテさんが現れるんですよ」

16: 2014/10/14(火) 02:11:27.07 ID:X9y0U0Lm0
445

--暗黒森林、酒場--

ガシャン!

アッシュ「……」

レン「……」

侍「……」

ポタポタ

レンはミルクの入ったグラスを落としてしまう。

ハイ「あれ? 皆さん?」

アッシュ「すまん。もう一回頼む」

レン「レンからも頼むにゃ。亜人の聴覚を持ってしても聞き取れなかったにゃ」

侍「拙者も最近耳が遠くなってしまってござる」

ハイ「フォーテさんが来ます」

アッシュ「……」

レン「……」

侍「……」

17: 2014/10/14(火) 02:14:34.17 ID:X9y0U0Lm0
446

--暗黒森林、酒場--

アッシュ「……夜忍び込んでツインテを奪還しよう」

レン「それしか無いにゃね。例え保管庫に五柱が三人待ち構えていてもお釣りが来るにゃ」

侍「はっ、はっはっ、相変わらずアッシュ殿らはフォーテ殿が苦手でござるなぁ」

がたがたがた

三人は汗をだらだらと流しながら震えていた。

ハイ「え? さっきはテリトリー内の夜の番人さんはやばいからやめとこうって話になったんじゃ」

バンッ!!

アッシュ「お前バカか! フォーテは昼でも夜でも 『五柱? 何それ美味しいの?』 レベルでやばいだろうが!!」
 
レン「全くにゃ! 本当に未来から来たとは思えないレベルの発言にゃ!」

侍「フォーテ殿はなぁ……相性とかそういうレベルの話じゃないでござるからなぁ」

ハイ「わ、私だってフォーテさんは本気で怖いですけど……」

アッシュ「……で? フォーテが現れてどうなる? 俺らは皆頃しにされるのか?」

ハイ「いえ、ツインテ先輩を連れ去るだけです」

18: 2014/10/14(火) 02:16:18.97 ID:X9y0U0Lm0
447

--暗黒森林、酒場--

アッシュ「ん? それだけか?」

ハイ「はい。まぁ、その時の私はめちゃくちゃビビッてたので何があったのか良く覚えていませんが、誰かが氏んだだとか、痛い目にあったりとかは無かったです」

レン「ふむ……ツインテさえ奪還出来ればいいということなのかにゃ? それでフォーテはどこにツインテを連れ去るのにゃ?」

ハイ「後からわかったことですが、ツインテ先輩はどうも魔王達と一緒にいたみたいなんです」

アッシュ「! フォーテはやはり魔王側の……ち、じゃあ連れて行かれるわけにはいかねぇな」

ハイ「でも最終的にツインテ先輩は私達のパーティに合流するんですよ」

レン「なんなんだにゃ」

19: 2014/10/14(火) 02:17:47.45 ID:X9y0U0Lm0
448

--暗黒森林、酒場--

ハイ「でもそうですね……それだと大量に人が氏んでしまう未来に繋がるかもしれない……なんとなくだけど、ツインテ先輩はここで自由にしておくのが正解な気がします」

ユー「……」

レン「人氏のことはわからないけれど、ツインテに関してはわかりきったことにゃ。なんとしてもツインテを奪還する。そのためにこの三年間頑張って来たのにゃから」

アッシュ「あぁ……それが例え、あのフォーテと戦うことになろうともな」

侍「ござるよ」

アッシュ達は互いに表情を確認して頷いた。

ハイ「じゃ、じゃあ皆さん、もしかして……」

アッシュ「あぁ……」

がたっ

アッシュは静かに立ち上がる。

アッシュ「夜のうちに行こう」

足はまだ震えていた。

20: 2014/10/14(火) 02:19:38.06 ID:X9y0U0Lm0
449

--暗黒森林、保管庫、牢屋--

ホーホー

ポニテ「ふぅ。まぁまぁお腹も膨らんだし、寝るかな」

ごろん

見張り「か、かひゅー」

横になるポニテと、からからに干からびてミイラみたいになっている見張り。

ポニテ「ん?」

その時ポニテは何かの気配を感じ取る。

ポニテ「……誰かが戦闘してる? この建物、魔石を素材にしてるせいか感覚が乱反射して探知がうまく出来ないけど……でもなんか懐かしい感じもする」

……ドォン……

パラパラッ

ポニテ「それに、強い」

21: 2014/10/14(火) 02:20:43.04 ID:X9y0U0Lm0
450

--暗黒森林、保管庫、上フロア--

夜の番人「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

ヒュボボボッ!!

アッシュ「!!」

ギィン!!

レン「! アッシュ! 大丈夫かにゃ!?」

ズザザザー!!

アッシュ「……ち」

ぽたぽた

夜の番人の拳のラッシュをナイフで防いだアッシュ。だが勢いを頃すことは出来ず、口から血を垂らしていた。

アッシュ(風圧でこれか……いやそれよりもこいつ、今の俺と同等以上だと?)

既にアッシュの眼は反転し、人頃しモードになっている。

夜の番人「ここは大事な宝の蔵でし。盗人を叩き頃すのはぼくちんの役目でし」

マスクを被った二メートルの大男は甲高い声でそう語った。

22: 2014/10/14(火) 02:22:58.95 ID:X9y0U0Lm0
451

--暗黒森林、保管庫、上フロア--

窓から差し込む月明かりだけが頼りの薄暗い部屋の中で、ハイ達と夜の番人は対峙している。

じりじり

レン(想像以上にゃ。昼を対価に夜に特化するスキル、超夜行性)

ゴゴゴゴゴ……

侍(この身のこなし……スキルでの強化が無くとも十二分に強者。それを肉体も精神も夜にのみ順応するように仕上げたのでござるな……そしておそらくこの建物にもなんらかの魔法がかかっているでござる)

アッシュ(ち……どの道簡単にはいかねぇか)

ユー「……」

じりじり

ハイ「私何も出来無そう」

夜の番人「きっきっきっ。そんなに悠長に構えてていいでし? 物音がすれば周りの見張り達もここに来ちゃうんでしよ? そうすれば袋叩きでし!」

レン「にゃはは。その心配はご無用にゃ」

夜の番人「でし?」



ホーホー

外の見張り「ふわぁあ……この警備もやっと今日で終わりだ。明日からはぐっすり寝られるなぁ」

巨大な保管庫の外側にいる見張りはのん気にあくびをしている。

ゴーレム「もっ」

そして草むらには三体のゴーレムが目を光らせて潜んでいた。

23: 2014/10/14(火) 02:24:52.85 ID:X9y0U0Lm0
452

--暗黒森林、保管庫、上フロア--

レン「この建物から出る音は封印させてもらっているにゃ。だから増援があんたを助けに来ることはきっと無いと思うにゃ。つまり、五体一。これは変わらないのにゃ」(これが精神的揺さぶりになればいいんだけどにゃあ)

夜の番人「そ、それは、本当でしか? そ、それじゃあ」

ユー「……」

しゅぴぃん

何かを感じ取ったユーはレイピアを引き抜いて構える。

夜の番人「それじゃあ……やつらにおもちゃを取り上げられることも無いんでしね?」

アッシュ「おいそこの、ハイ! お前も加勢しろ!」

ハイ「あ、は、はい!」

ドンッ!

次の瞬間、アッシュすら反応出来ない速度で夜の番人が接近し、

がっ!

アッシュ「!」

アッシュの頭部を掴んで地面にたたき付けた。

ドガァアアアアアアアアアアアアン!!

24: 2014/10/14(火) 02:26:42.91 ID:X9y0U0Lm0
453

--暗黒森林、保管庫、上フロア--

アッシュ「がっ!」

崩れる床、落ちていくアッシュと夜の番人。

夜の番人「さーさ! 楽しいカーニバルの始まりでしーーー!!」

侍「! いかんでござる!」(ここで分断されては万が一にも勝ち目が無い!)

レン(下は更に暗いにゃ、ここより劣悪の環境じゃきつ過ぎるにゃ!)「練成、鞭!!」

ばしゅっ!

レンは鋼鉄製の鞭を瞬時に練成すると、夜の番人に対して振るった。

ばしゅるる!

そしてそれは夜の番人の足に巻きついて縛り上げる。

ぶらん、ぶらん

夜の番人「ん? もしかしてぼくちんを下に行かせないつもりでしか?」

……どぉん!

アッシュが落下した音が響き渡る。

25: 2014/10/14(火) 02:28:38.35 ID:X9y0U0Lm0
454

--暗黒森林、保管庫、上フロア--

ぎしっ

レン「侍!」

侍「心得た!」

たたたたたたた!!

侍は鞭を足場に駆け下りた。
そして刀の柄に手をかける。

侍「スキル!」

夜の番人「遠慮せずに一緒に降りちゃえばいんでしよ、ほらっ!」

ぐいっ

レン「!」

夜の番人が鞭を引く。するとそのパワーに耐え切れなかったレンが穴へと連れ込まれてしまう。

侍「居合!!」

シュパアッ!!

不測の事態にも動揺せず、夜の番人に向けて刀を振るう侍。

バキィンン!!

侍「」

夜の番人「きしし。こんなナマクラでぼくちんは切れないでしよ?」

しかし、侍の刀は夜の番人の肘鉄によって粉砕されてしまう。

ドォオオオン!!

26: 2014/10/14(火) 02:30:56.52 ID:X9y0U0Lm0
455

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

しゅうぅううう

レン「げほっごほっ……! み、みんな大丈夫かにゃ!?」

亜人の聴覚を最大限に発揮してもみんなの居場所は特定できない。
猫亜人三大希少種の一つ、白雪種の力で建物と対話しようとしても、建物は完全にあちら側についているため声が聞こえない。

ぽたっ

夜の番人「残念~この子は大丈夫じゃないみたいでし」

レン「!」

ぽたたっ

夜の番人が片手で持っているものは、無残にも引き千切れた侍の氏体だった。

レン(あの侍が……子の短時間でこうも簡単に!)

ばしゅっ

レンが槍を練成しようとするのだが、

ドッ!

レン「にゃっ!!」

夜の番人「そうはさせないでし~」

ドガアアアン!!

簡単に吹き飛ばされてしまう。

27: 2014/10/14(火) 02:33:16.18 ID:X9y0U0Lm0
456

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

レン「ぐ……軽くはたかれただけなのに……皮膚の下に簡易的な鎧を仕込んでいるのにこのダメージ……」

ずんっ

夜の番人「さぁ、猫ちゃぁん。肉を脱ぎ脱ぎしましょうでし~」

ずんっ、ずんっ、

夜の番人「きししししし!」

びし

夜の番人「ん?」

その時夜の番人の頭に小石が当たる。

ひゅるるるるるる!

ハイ「条件達成! レベル2、騎士!」

ハイは落下しながら変身し、ランスを突き出した。

夜の番人「おっ」

ぎしぃいん!

しかし夜の番人は左手でそれを弾き、右手でハイの腹部を叩いた。

があああああん!!

ハイ「ごふっ!?」

夜の番人「あれ? 鎧なのに思ったより柔らかいでしね?」

28: 2014/10/14(火) 02:35:51.91 ID:X9y0U0Lm0
457

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

ひゅん!

夜の番人「!」

更に高速で落下してきたユーが氏角から夜の番人を切りつける。

ギャギャギャッ!!

ユー「!」

しかし猫の引っかき傷程度のダメージしか与えられない。

夜の番人「んー、痛いじゃないでしかぁ!」

ひゅぼっ、ひゅぼぼっ!!

夜の番人のラッシュをかわしてそれを捌くユー。

バシバシバシバシ!

しかしどんどん後ろに押されていってしまう。壁際に追い詰められたら今度は捌けない。

???「どいて!!」

ユー「!」

薄暗い保管庫の中で凛とした声が響いた。

しゃっ

ユーがその声に反応してその場を離れると

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

真っ赤な火炎が夜の番人を襲った。

夜の番人「! ぐやああ!?」

29: 2014/10/14(火) 02:46:31.48 ID:X9y0U0Lm0
458

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

夜の番人「あちっあちっ!」

ざっ

アッシュ「遅くなった。大丈夫か?」

レン「アッシュ、それにポニ!……そっか、先に落下してからポニテを開放しに行っていたのにゃね」

アッシュ「あぁ、出来ればツインテも連れてきたかったんだが、どうやらこの階層より更に下に閉じ込められているらしいな」

ゴオオオオオ!!

???改めポニテ「へへん、どうだみたか私の炎は! ついでに明かりもつけてやったぜ!」

しゅぅうう……

ポニテ「あ、あれ?」

この建物は光を軽減する魔法がかけられているようで、光を発する炎は徐々に弱まっていった。

ハイ「げほっ……あ、ポニテさん。よかった。お久しぶりです」

ポニテ「え? 誰この子……会ったことあったっけ?」

レン「自己紹介は後にゃ。とりあえずこいつをぶちのめさないとツインテを奪還できないにゃ」

アッシュ「あぁ。そしてさっきの火に対する慌てよう……暗いところに居るボスのお決まり設定、光が苦手。案外当たってるかもしれねぇな」

夜の番人「あちちっ!……ふぅ……そこのお前、よくもやってくれたでしねぇ……?」

夜の番人は鼻息荒く、歯をがちがちと鳴らしていた。

ポニテ「やば、強そうじゃん!……いやかなり強そうだね」

一瞬喜ぶも徐々に焦りが強くなるポニテ。

……ズズ

夜の番人「」

30: 2014/10/14(火) 02:47:36.78 ID:X9y0U0Lm0
459

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

アッシュ「」

ポニテ「」

レン「」

ハイ(……今の、寒気……)

ユー「……」

夜の番人「だっ、だだ、奪還? だっかん、ダッカン。だっかかかかんん?」

ぶる、ぶるるっ

夜の番人の調子がおかしい。

ズズズズ……

ユー「!」

ぎし、ぎしぎしぎしぎしっ!

建物全体が軋み始める。それはまるで何かの泣き声のように。

ぎしぎしぎしぎし!
ズズズズズ!!

ハイ「この、感覚は……!!」

31: 2014/10/14(火) 02:50:16.04 ID:X9y0U0Lm0
460

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

心の中で恐怖と不安が大きくなっていく。

ぎゃあぁあぁぁあぁあぁあぁぁぁ!!

耳を覆いたくなる断末魔のような絶叫とともに、辺りが血の臭いで汚染されていく。

お……おぁあ……おぉお

そして血に濡れた氏者の腕がそこら中から大量に出現しハイ達を取り囲んでいく。

ズズズズズズズズ

ポニテ「まさか……このタイミングで……!」

夜の番人「お、おごぽぉっ!」

ぶじゅっ、ぐじゅぷっ!!

夜の番人の体が縦に真っ二つに裂けていく……。

レン「嘘……にゃ」

ズズズズ

そこから流れ出る地獄の臭いとともに、

ズズズズズズズズズ

   ?「――奪還? 何を言ってるのかなぁ。お姉ちゃんは、僕のものなんだよぉ?」

ブシャーーーーー!!

血しぶきの中から禍々しき者が生まれ出でる。

アッシュ「……フォーテ」

?改めフォーテ「ふふふ、お久しぶりだね。お兄ちゃん達。お姉ちゃんのお迎えついでに頃しに来てあげたよっ」

氏と闇を纏い、髪を四つに分けて束に纏めた絶世の美少女がそこにいた。
美少女じゃないけど。



ハイ「嘘……なんで今ここに……? 今日はまだ……来ないはずじゃ?」

63: 2014/11/24(月) 19:09:10.70 ID:NG3LaxKt0


--火山--

ゴオオオオオ……

大剣士「くそ! 一体なんなんだこいつは……何をやってもすぐ回復してしまう!」

オオオオオオ

火の魔王「……」

灼熱のフィールドの真っ只中に、炎を纏う鳥亜人の少女がいた。

ざり

それに対峙するは五人の人間……。

しゅううぅう

大賢者「っ、傍にいるだけで回復力が奪われている……これではわずかなダメージでも致命傷になりうる。めんどくさい相手だな」

じゅっ、じゅじゅっ

大盗賊「そしてこの広範囲攻撃、いやスリップダメージ……このままじゃジリ貧ですね。どうするんです大勇者?」

大盗賊は筋肉質な大男に尋ねる。

大勇者「え? すまん、何も考えてない」

大盗賊「ですよねっ!」

64: 2014/11/24(月) 19:10:05.47 ID:NG3LaxKt0


--火山--

大剣士「……こいつに聞いても無駄だ。こいつはきっと拳でものを考えてる」

ジャキ

大剣士が大剣を構えて前に出る。

大剣士「大魔法使い、何かいい策は無いか? ワンパンしてくるような相手じゃないみたいだが、あまり時間は無いぞ」

大魔法使い「そうは言っても瞬間完全再生持ちへの有効な手は知らないわ……でもあいつの過去を見れば何かわかるかもしれない」

大魔法使いは一冊の本を取り出した。

大賢者「過去読みの書か……」

大盗賊「なるほど。つまり我々はあいつの毛を取ってくればいいんですね」

ざっ、ざっ

大剣士と大盗賊が火の魔王に向かっていく。

65: 2014/11/24(月) 19:10:54.46 ID:NG3LaxKt0


--火山--

大剣士「大賢者、大盗賊。俺が最初に行く。サポートしろ」

ダダダ!

大賢者「了解だ。だが前に出すぎるなよ? 危なくなったらすぐに戻って来るんだぞ?」

きぃん

大賢者は魔力を貯め始める。

大盗賊「承知しました」

じゃら

大盗賊は投げナイフの用意をする。

大勇者「俺は? 俺はどうしたらいいの大剣士?」

大剣士「知るか! リーダーが指示を仰ぐな! っ……お前は適当に大魔法使いを守っとけ!」

大勇者「わかった!」

66: 2014/11/24(月) 19:12:21.14 ID:NG3LaxKt0


--火山--

火の魔王「……」

ボオオォオ!!

大剣士たちの接近に伴い火の魔王は掌に魔力を集め、そして

ドバアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

大剣士たちを薙ぎ払うようにそれを放つ。

大賢者「ほら危ない! 水属性防御魔法レベル2!」

バシャアアアアン!

迫る炎を大賢者の魔法が防ぎきる。

大賢者(っと、やはりか。属性の相性というのもあるが、やつの攻撃能力自体低いようだ。状態異常などでじわりじわりと削るタイプと見た……しかし大剣士前に出過ぎじゃないだろうか。ひやひやする)

ダダダダダダ!

大剣士「はぁあああああああああ!!」

ダンッ!

跳躍する大剣士と魔力を纏って巨大化していく大剣。

大剣士「スキル、魔力斬り!」

ズバアアアアアアアアアアアアアアン!!

67: 2014/11/24(月) 19:13:19.72 ID:NG3LaxKt0


--火山--

火の魔王「……」

ボロロッ

周囲の魔力ごと叩き切られた火の魔王は、体がばらばらになって地面に落ちていく。
だが、

しゅんっ!

火の魔王「……」

それも一瞬で再生してしまう。

大剣士(再生に使う魔力を全て消滅させてしまえばいいと思ったが……これは簡単には削りきれない)

大盗賊「土属性生成魔法レベル4、小月!」

ブゥウン!

大盗賊は上空に小さな月を作り上げる。

大盗賊「更にスキル、身体強化・獣化、狼」

アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

大盗賊は狼の姿に変身した。

68: 2014/11/24(月) 19:14:30.99 ID:NG3LaxKt0


--火山--

シュタタタタタタ!!

火の魔王「……」

目にも止まらぬ高速移動で大盗賊は火の魔王を翻弄する。

ズガッ! ズガガッ!! ズガガガッ!!

大盗賊(やはり通常の攻撃ではほとんど意味が無い……)

ガブッ! ブチィッ!!

大盗賊は火の魔王の腕を噛み千切る。

火の魔王「……」


大盗賊(ならばやはり過去読みの書に頼るほかないですね)

シュタタッ

大盗賊は腕を咥えたまま走り、大魔法使いのもとに行く。

大魔法使い「よくやったわ。これであいつの過去がわかる」

大魔法使いは毛を一本取って本に挟んだ。

69: 2014/11/24(月) 19:18:30.10 ID:NG3LaxKt0


--誰かの過去--


11月14日
今日も変わらず素晴らしいぱいぱいをしていますね大魔法使いは。ほんと。
たゆんたゆんとプリンのように揺れていて思わず前かがみです。露出は少ないのになんでか工口いんですよねあの服装。狙ってやってるんでしょうねきっと。いけない人だなぁ。


大魔法使い「……」

大盗賊『どうしました? あいつの過去にヒントはありましたか?』

大魔法使い「……いや、間違えてあんたの毛を挟んじゃったみたい」

大盗賊『やれやれ、うっかりさんですね。うかつに仲間の過去を覗くものではありませんよ? まぁ私は見られて困るような過去は無いので問題ありませんが』


11月16日
やったー! これ大魔法使いのおぱんちゅだ! きゃほーい! ど、どうしましょう。狼に変身して嗅いでみましょうか……いや狼の嗅覚は人の数百倍、それはさすがに自殺行為……いや、うん。やらずに後悔するよりやって後悔です!! 土属性生成ま


大魔法使い「帰ったら話があるからね」

大盗賊『……やれやれ困りましたね。一人の女性とそういう関係になる気はないのですがね。だが女性に恥をかかせるのは紳士としてあるまじき行為、帰ったらちゃんと聞いてあげましょう』

70: 2014/11/24(月) 19:19:51.00 ID:NG3LaxKt0


--火山--

ぺらぺら……

大魔法使い「なるほど……貴女もやっぱり一度氏んでいるのね」

ギィィィン

大魔法使いが魔力を練り始める。

火の魔王「」

それに反応した火の魔王が大魔法使いに視線を向けた。

大剣士「! 突破口が見えたか。大賢者、大盗賊! 俺達でこいつを足止めするぞ!!」

大賢者「あぁ! だが大剣士、一旦下がったらどうだ! 危ないことは大盗賊に任せておけ!」

大盗賊『わおーーーーん』

どがああああああああああああああああん!!

71: 2014/11/24(月) 19:20:39.97 ID:NG3LaxKt0


--火山--

ぱきぱきぱき……

大魔法使い「……」

大魔法使いの魔力が徐々に形を成していく……。

大勇者「ほう……」

それはまさに

バキィン!

銀の槍。

大魔法使い(私の推測が正しければ、きっとその槍はこんなものだったはず!)

大剣士(!?……大魔法使いめ……バカみたいに魔力を込めたな……これは俺達まで巻き込まれるか?)

大魔法使い「どこまで再現できたかわからない……でもこれならきっといけるはず!」

大賢者(知るだけでそれを魔法として再現してしまう……味方ながら恐ろしい才能だな。まぁ大剣士には劣るが)

72: 2014/11/24(月) 19:21:11.82 ID:NG3LaxKt0
10

--火山--

ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!

槍が攻撃態勢に入るとけたたましい音をあげる。

火の魔王「」

それを火の魔王はじっと見つめていた。

大魔法使い「受けよ! 呪いの槍いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

カッ!!

























 

73: 2014/11/24(月) 19:24:14.76 ID:NG3LaxKt0
11

--王都、酒場--

わいわいがやがや

客「それでは皆様方ー。今回も無事に魔王討伐を達成した大勇者パーティの功績を称えてーーーーーーーー」

客達「「「かんぱーーーーーーーーい!!!!」」」

がしゃあああん!!

大勇者「やーどうもどうも。みんなありがとう!」

わははははと笑いながら手を振る大勇者。

大剣士「く、今回お前ほとんど役に立って無かったじゃないか……」

大賢者「まったく……今回の勝利は実質大剣士の働きによるところが大きいというのに」

大魔法使い「はぁ、誰が倒したって同じだろ? 私達はパーティなんだから」

大盗賊「そうですよ。細かいことは気にしない気にしない。大きいものだけ気にしていきましょう」

ちらっちら大魔法使いの胸元を見ている大盗賊。

大剣士「魔王討伐が細かいことだと!?」

だんっ

大魔法使い「ほーらー。すぐかっかしないの。あんたほんと頭硬いんだからー」

大剣士「なんだと!? お前らが緩過ぎるだけなんだ!」

大賢者「その通りだ。大剣士は間違ってなどいない」

74: 2014/11/24(月) 19:26:36.72 ID:NG3LaxKt0
12

--王都、酒場--

マスター「ほい、追加のビールと食い物ね」

どん

大勇者「お、いつも悪いなマスター。うるさくしちまって」

マスター「なんの、こっちはそのおかげで儲かってるんだ。悪いことなんてあるかよ」

客「そうだそうだ、気兼ねなく飲みな勇者様よぉ!!」

ぎゃはははと騒ぐ外野。

マスター「でもよ、毎回こんなところで宴開いてていいのかい? 城でちゃんとしたのが用意されてんだろ?」

大勇者「俺は堅苦しいのよりこういう方が割りにあってんだ。それよりマスター、今日はあいついないの?」

マスター「ん? あぁ、あの娘なら」

がたん、ちりんちりーん

??「はぁ、はぁ……」

マスター「今来たよ」

??改めウェイトレス「はぁ、はぁ……ごっめーんマスター、遅れちゃったー」

ウェイトレスが汗をかきながら酒場に入ってきた。

75: 2014/11/24(月) 19:30:00.31 ID:NG3LaxKt0
13

--王都、酒場--

マスター「まったく、よりにもよってこんな日に遅刻だなんて困るよウェイトレスちゃん」

ウェイトレス「だからごめんってー。急いで準備するからさ」

大勇者「よっ、ウェイトレス。また遅刻か?」

ウェイトレス「よっ、大勇者。また遅刻って、私そんないつも遅刻してるわけじゃないんだからなー?」

ウェイトレスはにこやかに笑いながら酒場を横断していく。

客「遅いよウェイトレスちゃーん。ウェイトレスちゃんがいないと俺、ここの酒おいしく感じないんだからー」

ウェイトレス「あはは、ごめんねー」

マスター「おう、まずいっつーなら出ていきな」

客「う、嘘嘘冗談だってばー」

わははははは

ウェイトレス「あっと、そうそう」

ウェイトレスは歩みを止めて振り返る。

ウェイトレス「魔王討伐おめでとう」

大勇者「……おう!」

ずずー

大魔法使い「……」

大魔法使いは渋い顔で酒を飲んでいる。

76: 2014/11/24(月) 19:32:15.41 ID:NG3LaxKt0
14

--王都、酒場--

わいわいがやがや

ウェイトレス「へいおまちー!」

でんっ

ウェイトレスは山盛りの肉を大勇者達のテーブルに置く。

大剣士「む? 俺らはこんなの頼んでないぞ?」

ウェイトレス「これは私からのおごりなんだなー。魔王討伐祝いのねー」

客「なんだよウェイトレスちゃーん。俺らにもおごってくれよー」

ウェイトレス「そうだねー。おじさんたちも魔王を倒してきたらおごってあげるよー」

あははははは

大盗賊「なるほど、それならありがたく受け取るとしましょうか」

大剣士「く、物をもらうのに金銭を払わないのは……何だかすっきりしない」

大魔法使い「ほんと頭かったいなー……将来はげんぞ?」

大勇者「うめーうめー!」

大賢者「大剣士、肉ばかりではバランスが悪いぞ。ほらサラダを取ってきた。コレを食べろ」

77: 2014/11/24(月) 19:33:59.08 ID:NG3LaxKt0
15

--王都、酒場--

わいわいがやがや

大魔法使い「――やっぱり今回もそうだったよ。あの魔王も過去に一度氏亡してて、そして何者かによって無理矢理甦させられていた……」

ごと

大剣士「……魔王達を影で操る存在、か……恐ろしい話だな」

大盗賊「本当にそんな奴がいるんでしょうか」

大賢者「魔導大老が作り出した過去読みの書が壊れていなければ、な」

大魔法使い「……」

大勇者「大魔法使い? どした?」

大魔法使い「あ、いや……なんでもないわ」

大魔法使いは慌ててジョッキに口を付けた。

大魔法使い(そして……今回の魔王も元々は……勇者だった……このことはまだみんなには言えない……言えるはずがない……)

ウェイトレス「……」

78: 2014/11/24(月) 19:34:50.46 ID:NG3LaxKt0
16

--王都、酒場--

大剣士「しかし今回で5体の魔王を倒したことになる。残すは鋼の魔王一体……」

大賢者「うむ。途方も無い戦いに思えたが……ついにここまで来たな」

大魔法使い「そもそもなんで6体も魔王がいるのかって話だけど」

大盗賊「でももうひとふんばりですよ」

大勇者「あぁ……これでやっと平和な世界が作れる」

大勇者の一言を噛み締める四人。

ウェイトレス「……」

かちゃん

ウェイトレス「でもさ……もうここらへんでやめにしない?」

ウェイトレスはそう切り出した。

79: 2014/11/24(月) 19:38:32.46 ID:NG3LaxKt0
17

--王都、酒場--

大剣士「何? どういうことだウェイトレス? 魔王達のいない安全な世界が欲しくないのか?」

ウェイトレス「……そういうことを言ってるんじゃないよ。確かに全部の魔王がいなくなった方が平和になるのかもしれない。でももう君たちは十分戦ったよ。魔王の勢力を6分の1にまでおいやった……後は他の人たちに任せて少しずつ最後の魔王を追い詰めていけばいい」

大賢者「……まるで我々が最後の魔王を倒してはいけないような言い草だな」

ウェイトレス「違うってば。魔王討伐がどんだけ危険なことなのか君たちは感覚が麻痺してるんだよ。本当ならいつパーティが全滅したっておかしくない敵なんだ。今まではなんとかなってきたけれど、次も大丈夫って保証は無い……私は……君たちを失いたくない」

客「……」

客2「……」

いつのまにか酒場は静まり返っていた。

大剣士「……お前は俺達の力を信じてなむぐっ」

大剣士の口が大勇者の手で塞がれた。

大勇者「――ならなおさらだ。俺達でも危険な相手を、他のやつらにやらせるわけにはいかないだろ?」

ウェイトレス「……う」

大勇者「大丈夫さ、俺達は負けない。誰一人欠けることなく、ちゃんと生きて帰ってくる」

大勇者はにこりと笑う。

だんっ

大勇者は机の上にあがる。

大勇者「ここに宣言する。俺達は必ずや全ての魔王を倒し尽くし、世界を平和にしてみせると!!」

80: 2014/11/24(月) 19:40:24.36 ID:NG3LaxKt0
18

--王都、酒場--

しーん……

大剣士「ふん、かっこつけマンめ」

大剣士はにやりと笑っていた。

大賢者「今更だな」

大賢者は大剣士が零した酒を拭いている。

大魔法使い「途中でやめるなんてかっこ悪いしね」

大魔法使いを髪の毛をくるくるしている。

大盗賊「それに倒した分だけ報酬がでますしね」

大盗賊はテーブルに乗ってる大魔法使いの胸をガン見している。

客「おうー! 世界を頼むぞ大勇者達ー!!」

客2「ちゃんと無事に帰ってこいよー!!」

大勇者「任せろー!!」

わー

ウェイトレス「……」

ウェイトレスは暫く沈黙し、

ウェイトレス「……はぁ。わかったわかった」

とため息をついた。

81: 2014/11/24(月) 19:42:48.10 ID:NG3LaxKt0
19

--王都、酒場--

わいわいがやがや

大賢者「大剣士そのくらいにしておけ。飲みすぎはよくないぞ。あとそろそろ九時になる。もう帰って寝る準備をせねば」

大剣士「えぇいいちいちうるさいやつだ! お前は俺の母様か!」

大魔法使い「うぃーひっく。ふん、何さ何さ何さ!」

大盗賊「大魔法使い。熱いでしょう? もう一つボタンをはずしてみたらどうでしょう? なんなら私が手伝いますよ」

わいわいがやがや



--王都、池--

すたすたすた

ウェイトレス「ふー。いい気持ちー」

大勇者「お前なー、飲みすぎだぞ? っていうかなんで店員が俺らより飲んでんだよ」

ウェイトレス「いーじゃんいーじゃんべつにー」

ウェイトレスは池の周りをくるくるとまわっている。

大勇者「おいおい。池に落っこちるぞー」

つるっ

ウェイトレス「あ」

大勇者「!」

だっ!

ばしゃっ!!

ウェイトレス「……あはは」

大勇者「あっぶねー……」

慌てて抱きとめた大勇者。ウェイトレスは片足が水につかる程度で助かった。

82: 2014/11/24(月) 19:43:47.09 ID:NG3LaxKt0
20

--王都、池--

ウェイトレス「やー、ごめんねーありがとー」

けらけらと笑いながら大勇者の頬をぺちぺちするウェイトレス。

大勇者「……」

ウェイトレス「あえ? 何? おこってんのー?」

大勇者「い、いや違う。そうじゃなくてな……」

大勇者は頭をかきながら視線を逸らして言う。

大勇者「さっきのことだけどな」

ウェイトレス「さっき? 魔王討伐?」

大勇者「そうだ。そ、それでな。もし魔王を倒し終わったら……お前に話があるんだ」

ウェイトレス「へ?」

大勇者「……は、話があるんだ」

大勇者の顔が赤いのは酒のせいではない。

ウェイトレス「……ふーん?」

大勇者「な、なんだよ!」

ウェイトレス「あはははは。はいはいわかりました。じゃあ……その時は酒場で待ってるよ」

ウェイトレスはしょうがなさそうに笑った。

89: 2014/11/26(水) 00:16:28.70 ID:TVhma/wl0
こんばんは。早くもきつくなってきた第二段……

それでは投下していきます。

90: 2014/11/26(水) 00:17:24.80 ID:TVhma/wl0
21

--王都--

大勇者「うし、じゃあ出発するぞ!」

大剣士、大賢者、大魔法使い、大盗賊「「「おうっ!」」」

マスター「一昨日帰ってきたばっかりじゃないか。もう少しゆっくりしていったらいいのに……」

大勇者「悪いなマスター。善は急げって言うだろ?」

大盗賊「緊張の糸が完全に切れてもいけないですしね」

大賢者「大剣士、ハンカチ持ったか? ティッシュはある?」

大剣士「だから母様か!」

ざり

ウェイトレス「ふぁあ。まぁ氏なない程度に頑張ってきてねー」

寝巻き姿で見送りに現れたウェイトレス。

マスター「失うのは怖いとか言ってたわりには随分さばさばしてるねウェイトレスちゃん……」

91: 2014/11/26(水) 00:18:49.67 ID:TVhma/wl0
22

--王都--

ウェイトレス「っと」

すたすたすた

大勇者「?」

ウェイトレス「ん、選別よ。朝早く起きて作ってあげたんだから感謝しなさい!」

そういって手渡してきたのは大きな包み……

大勇者「……ま、まさか」

ウェイトレス「そ、お弁当よ。あんたいっぱい食うからって、みんなのまで食べちゃダメだかんねー?」

大勇者「お、おおおお、おお」

滝のように汗を垂らしながらガクガクと震える大勇者。

大盗賊「は、はは……そ、そんな心のこもった弁当、私達にはもったいないですよ。ねぇ?」

大魔法使い「そ、そうよね。大勇者にここは譲ってあげるわ」

大勇者「!?」

大剣士「お、俺も……遠慮するぞ」

大賢者「大剣士の分の弁当は私が作ったのでいらぬ!」

マスター(果たして魔王のもとまでたどり着くことが出来るのか……)

92: 2014/11/26(水) 00:19:56.71 ID:TVhma/wl0
23

--王都--

ざっ

大勇者「お」

聖騎士改め竜騎士「……」

大勇者「兄貴……なんだ、見送りに来てくれたのか?」

竜騎士「ばぁかめぇ……こぉれをわたしにぃぃぃ、きぃただぁけだぁあ」

ふぉんっ

そういうと竜騎士は巨大な骨のついた燻製肉を投げて渡す。

ぱしっ

竜騎士「親父殿からのぉ、選別だぁ……」

大勇者「おぉ、サンキュー! ドラゴンの燻製肉かこれ!」

大盗賊「ど、ドラゴン……? 竜種を食べるのですか?」

大勇者「実家ではいつも食ってたよ。好物なんだ」

大盗賊「生物の頂点である竜種をいつも食べていた……? 恐ろしい家庭環境のようですね……」

93: 2014/11/26(水) 00:20:38.20 ID:TVhma/wl0
24

--王都--

竜騎士「話はぁそれだけだぁ……」

ざっ、ざっ

大勇者「ありがとな兄貴。わざわざ」

竜騎士「ふん。これで魔王討伐などというお遊びも終わりだぁぁ……。戻ったらみっちり鍛えてやぁるぅ、覚悟しておけぇい」

ざっ

大勇者「あぁ」

大剣士「く、魔王討伐がお遊びだと……? 相変わらずだなお前の兄貴は」

大勇者「まぁ、仕方ねぇよ。自分より弱い俺なんかが勇者に選ばれちまったんだから……。俺で勤まるんじゃあ、魔王討伐もたいしたことないって思ってるのさ」

大剣士(お前より強い奴など……そうはいないんだがな)

94: 2014/11/26(水) 00:21:24.10 ID:TVhma/wl0
25

--草原--

ざっざっざっ……

大勇者「――でさぁ……これどうしよう……」

大勇者は手に持ったウェイトレスの弁当を持って振り返る。

スッ

みんなは無言で顔を逸らした。

大盗賊「私はお腹いっぱいなので……」

大魔法使い「同じく」

大剣士「う、受け取ったお前が責任を持って全部食え!」

大賢者「蘇生はしてやるぞ」

大勇者は禍々しいオーラを放つ弁当を見つめる。

大勇者「……ごくり」

95: 2014/11/26(水) 00:22:00.01 ID:TVhma/wl0




--草原--

ぽたっ

大勇者「オオオォォオオ」

大盗賊「腐ってやがる……」

大魔法使い「……まさか食っただけで溶けるレベルとは思わなかったわ」

96: 2014/11/26(水) 00:23:11.10 ID:TVhma/wl0
26

--鋼山--

がち、がちん

大勇者「凄いところだな……地面が鉄で出来てやがる」

大賢者「かつて空から落ちてきた巨大な何かがそのまま山になったというが……」

大魔法使い「一切植物が根付いて無い。まさに氏の大地ね」

大剣士「……本当にこんな所に魔王がいるのか?」

大盗賊「仕入れた情報では銀色の蜘蛛のような化物がいるそうですよ。圧倒的戦闘力で、王国の42部隊を全滅させたそうです」

大剣士「……もしかすると今まで一番強い魔王なのかもしれないな」

がしゃん

大勇者「!」

ぷしゅー

山の天辺に人でない何かがいる。

??「kぞあうぇ8rくいはうrぐいえrg」

大剣士「……なるほど、奴がそうか」

??改め鋼の魔王「ぽpうぇいいあじょいhg」

四足歩行の蜘蛛型ロボット、鋼の魔王が現れた。

97: 2014/11/26(水) 00:24:21.36 ID:TVhma/wl0
27

--鋼山--

じゃき

大剣士「よし、俺が先に行く」

大剣士が大剣を構えて進んでいく。

大勇者「ちょっ、お前いつもずるいぞ! 毎回最初に戦ってんじゃねぇかよ! 前回はよくわからんうちに終わっちまったし、俺だって戦いたいぞ!」

大剣士「えぇいうるさい! こういうのは有能なものが最初に」

じゃこっ

大勇者、大剣士「「!!」」

バルバルバルバルバル!!

大賢者「なっ」

ドガガガガガアアアアアアアアアアアアアン!!

鋼の魔王の銃口が一斉に火を吹いた。

鋼の魔王「……」

しゅぅうう……

大剣士「なんだ今の攻撃は……」

大勇者「速い……何かを飛ばしているようだが、弓よりも全然小さいぞ」

大盗賊「やられました……この二人は今の攻撃スピードについていけなかった……」

大盗賊の周りには大魔法使いと大賢者の氏体が。

98: 2014/11/26(水) 00:25:28.84 ID:TVhma/wl0
28

--鋼山--

大剣士「早くも二人氏亡か……さすが魔王。先制で頃してくる」

大盗賊「先制……三番目の魔王の時が一番やばかったんでしたっけ。確か魔王を見ることなく大賢者以外氏亡したんですよね」

大勇者「それに比べるとまだましだな」

ぱんっ

大勇者は不適な笑みを浮かべる。

大剣士「ち、こうなったら作戦もくそも無いな。各々好きにやるぞ」

大盗賊「腕がなりますね」

鋼の魔王「……」

がしゃん!

鋼の魔王の肩が開き、大きな砲塔が姿を現した。

大勇者「いくぞ!!」

99: 2014/11/26(水) 00:26:17.07 ID:TVhma/wl0
29

--鋼山--

ばるるっ!

しゅばっ!!

鋼の魔王の射撃を避けながら接近する三人。

ちゅいんちいん!

大勇者「おららっ!」

右側から接近するのは大勇者。強化した拳で銃弾を弾く。

ぎぎぎん!!

大剣士「はぁああああ!」

左側から接近するのは大剣士。大剣で銃弾を防いでいる。

大盗賊「……」

残る大盗賊の姿は見えない。

大勇者「おっら!」

大勇者の拳が、

大剣士「ちえぇい!」

大剣士の大剣が

ドギイイイイイイイイイイイイイン!!

鋼の魔王の装甲を叩く。

100: 2014/11/26(水) 00:27:09.79 ID:TVhma/wl0
30

--鋼山--

ジジッ、ジジジッ!

大勇者「! なんだこの感触!」

大剣士「衝撃が、流されてる!?」

どがぁあん!!

いきなり地面が爆発する。

大勇者(攻撃を流された? く、足場が崩れて)

大剣士(バランスが)

ジャコ

鋼の魔王の銃口が二人の顔に向けられる。

ジャカカカカッ!!

鋼の魔王「!」

しかしその全ての銃口にナイフが突き刺さった。

大盗賊「私のナイフは依然変わらず百発百中です」

101: 2014/11/26(水) 00:28:24.92 ID:TVhma/wl0
31

--鋼山--

大勇者「だが防御が抜けない」

大剣士「どうするか」

大勇者「こういう時は」

大剣士「全力で叩くに限る」

大勇者「土属性攻撃力強化魔法、レベル4!」

ばきぃん!

大剣士「火属性攻撃力強化魔法、レベル4!」

ぼおおお!

大盗賊「……スマートじゃないですね」

大勇者「スキル、指パッチン百連撃!!」

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!!!!!!

大剣士「スキル、乱刃!!」

ズババババババババババババババババババババババババババババババババ!!!!!!!!!!!!!

大盗賊「ちょ」

どがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!

102: 2014/11/26(水) 00:29:35.13 ID:TVhma/wl0
32

--鋼山--

大勇者(左右からの挟み撃ち……これならどうだよ)

大剣士(ふん、力を流す暇など、与えん)

ぼふぉ!

大勇者、大剣士「「!?」」

だが土煙の中から鋼の魔王が現れる。

がしゃぁあん!

大勇者「全くダメージが無いってわけじゃなさそうだが」

大剣士「大ダメージってほどでも無い……か」

しゅる

大盗賊「! 糸です! 避けて!」

しゅるるるるる!!

銀蜘蛛の体から出てきた細いワイヤーが三人を襲う。

しゅばばばばばばばば!!

大勇者と大剣士は高速で繰り出されるワイヤー攻撃をかろうじて避け続ける。

ぴぴっ

大勇者(つっ、あと一瞬注意が遅ければ)

大剣士(やられていた……!)

103: 2014/11/26(水) 00:30:33.55 ID:TVhma/wl0
33

--鋼山--

ドンッ!!

大剣士「!」

鋼の魔王が跳躍する。そして巨大な作業用アームで、

ドガアアアアアアアアアアアアアン!!

大剣士を叩き潰す。

ぶしゅっ!

大剣士「ぐっ!!」

大剣で受け止めたものの、大剣士はその衝撃で腕から出血する。

大勇者「大剣士!」

がしゃん

助けようと寄ろうとした大勇者を

どがああああああああああん!!

バズーカで撃退する鋼の魔王。

大勇者「がはっ!!」

大盗賊「っっ! よくわからない武器のオンパレードですね」

104: 2014/11/26(水) 00:31:50.59 ID:TVhma/wl0
34

--鋼山--

キュドドドドドドド!!

全方位に射撃する鋼の魔王。

チュチュチュチュチュン!!

大剣士「ぐっ、く!」(どいつもこいつも本当に化物だ……)

チュンチュン!

大勇者「づっ、いちち!」(だてに魔王と呼ばれてるわけじゃない……)

鋼の魔王「イw3うおあwhごあうぃえgじゃえ」

大盗賊「でもだからと言ってどうにも出来ないわけじゃない! スキル、透視眼!」

きらりん!

大盗賊(一番装甲が脆い部分……そこか!)

しゅかかっ!!

大盗賊の投げたナイフが鋼の魔王の間接部分に僅かに刺さる。

大盗賊「土属性同化魔法、レベル4!」

びききっ!

ナイフが刺さった部位が土のように変化していく。

105: 2014/11/26(水) 00:33:07.86 ID:TVhma/wl0
35

--鋼山--

大盗賊「ナイフが刺さってる場所を一時的に脆くしています! 大剣士!!」

大剣士「あぁ!!」

ぼぉう!!

大剣士の体を炎が包む。

大剣士「奥義――」

その炎は徐々に横にずれていき、四つの分身となる。

じゃききっ

大剣士「五連スラッシュ」

ズバババババババーーー!!

四人の分身とともに強力な斬撃を放つ大剣士。

鋼の魔王「!」

びしっ、ばきいいいいいいいいいん!!

鋼の魔王の強固な外壁が剥がれ落ちた。

106: 2014/11/26(水) 00:34:26.06 ID:TVhma/wl0
36

--鋼山--

大剣士(ち、全力の奥義でさえ、弱った部分を狙わなければダメージが通らないのか。俺もまだまだ甘い……)

大盗賊(動き続けている魔王の弱点をピンポイントで切り裂いた……こんなことが出来るのは世界広しと言えど大剣士しかいませんね)

大勇者「――よくやった」

ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!

魔力を溜め、仲間を信じ、その時を待っていた大勇者。

大勇者「奥義ッ!!」

装甲を破壊され、宙に浮かされてしまった鋼の魔王にそれを防ぐ手立ては無い。

大勇者「勇者パンチ」

ゴッ































        ッッッッッッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!!!!!!!

107: 2014/11/26(水) 00:35:50.43 ID:TVhma/wl0
37

--鋼山--

ドギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!

正真正銘ただのパンチ。
だが大勇者が渾身の魔力を込めて繰り出すそれは、

ボボボボオッ!!

衝撃波で山すら吹き飛ばす。

鋼の魔王「ッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!」

ドガガガガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!

大勇者「……」

……しゅぅうう……

大剣士(ぐ、こいつ……相変わらずとんでもない威力だ……)

大盗賊(うーむ……)

ガシャァアン

大剣士(あれほどの威力なのに魔王はあまり遠くまで飛んでいって無いし)

大盗賊(衝撃のほとんどが内部にいったってことなんですかね? 恐ろしい……)

108: 2014/11/26(水) 00:36:35.87 ID:TVhma/wl0
38

--鋼山--

バチッバチバチッ

鋼の魔王「おあ;、いrghjkっぉpふぁsdg」

大剣士「! まさか、あれを食らってまだ息があるのか?」

大盗賊「驚きですね……さすがに虫の息なんでしょうが……」

ガシュッ

大勇者「ん? なんか背中から出てきたぞ。赤い剣?」

鋼の魔王「zいksk……」

ブシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ、ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!

それはミサイルに変形すると、白い煙をあげて空に向かっていった。

大勇者「……」

大剣士「……」

大盗賊「……なんでしょうアレ。なんかいやな気がするんですけど」

109: 2014/11/26(水) 00:37:15.33 ID:TVhma/wl0
39

--鋼山--

大剣士「あれから魔力は感じない……だが今までもこいつは魔力とは違う攻撃手段を使っていた」

大勇者「ってーと、あれは最後のすかしっぺってやつか?」

大盗賊「最後のすかしっぺと言っても魔王のすかしっぺですからね。それがどんなものになるのか」

オオオオオオオオ……

大勇者「……まぁもう届かないしな。見届けるしかないか」

大剣士「! お前はいつもお気楽だな!」

大盗賊「なんでしょう。なんか本能的に凄いやっちまった感がするんですが、あれ」

三人は天へと上っていくそれを眺めていた。

110: 2014/11/26(水) 00:39:08.80 ID:TVhma/wl0
40

--上空--

ばさっ、ばさっ

丁度その上空に巨大なドラゴンに乗った竜騎士がいた。

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

竜騎士「ふん……あの愚弟ぃめがぁ……いつも爪がぁあ、あむぁああいのだぁあ」

シュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

竜騎士の目の前をミサイルが通過して更に上へと向かっていく。

竜騎士「スキル、大雷槍おおぉおおう!!!!」

バチバチバチッ!!

竜騎士は宇宙空間に到達したミサイル目掛けて雷を放つ。

ぴかっ



--鋼山--

大勇者「お? なんか爆発したぞ」

大剣士「……ふん、ただの花火だったということか。驚かせやがって」

大盗賊「拍子抜けですね。さぁ二人を回収して帰りますか」

大勇者「あぁ。これで……魔王は全部倒したんだ!」





--王都、酒場--

ぴくっ

ウェイトレス「」

がしゃぁん

ウェイトレスは持っていた料理の皿を落としてしまう。

マスター「どうしたんだいウェイトレスちゃん。君らしくも無い」

ウェイトレス「……はい」

マスター「……大丈夫かい? なんだか顔色がよくないみたいだけど」

ウェイトレス(……そう……全部……倒しちゃったんだね)

ズズ……

111: 2014/11/26(水) 00:40:12.87 ID:TVhma/wl0
思ったより早く終われるのかもしれない……。

それでは本日の投下はここまでになります。
疑問、質問等がありましたら気軽に書きこんでおいてください。
読んでいただきありがとうございました!m(__)m

120: 2014/11/27(木) 02:50:50.38 ID:DMip49660
41

--草原--

ざっ、ざっ

大賢者「くっ! この大賢者、一生の不覚! あぁもあっさり氏んでしまうとは情け無い!」

大剣士「気に病むな。魔王はどいつもこいつも化け物だった。誰かが生き残って勝てればそれでいい」

大魔法使い「ったく、後衛はああいうのに弱いんだからちゃんと守ってよね!」

大勇者「う、すまん……」

大盗賊「やれやれ」

大勇者一行は傷を癒しながら王都へと向かっていた。

大盗賊「でもこれで全ての魔王を倒したのですね……私達が望んだ平和な世界がついに……」

大勇者「あぁ……ん?」

オオオオオオ……

大剣士「なんだあの亜人の軍勢は……王都に向かっているのか?」

大魔法使い「凄い数……それにあの様子……ただごとじゃないわね」

亜人達は各々武器を持っていた。

大勇者「……」

121: 2014/11/27(木) 02:52:02.24 ID:DMip49660
42

--草原--

ズンッ、ズンッ

亜人王「……」

大勇者「先頭を歩いてるのはあの亜人王か……よし、ちょっと話を聞いてくる」



大魔法使い「う、嘘でしょ!? 何を聞きに行くってのよ! 絶対あれ戦争しにいくとかそういうレベルよ? ぱっと言って話なんかしてもらえる雰囲気じゃない!」

大勇者「雰囲気とかは知らん。だから行って来る」

大剣士「あれの行き先は王国だろうからな、俺らに関係ないことじゃあない。俺も行くぞ」

ざっ、ざっ、ざっ

大魔法使い「あ、あの空気読めないバカ二人はぁ~~!!」

大賢者「大剣士はバカではない。ピュアなんだ」

大魔法使い「うっさい過保護!」

122: 2014/11/27(木) 02:54:23.64 ID:DMip49660
43

--草原--

ざっ、ざっ

烏男「む、なんだ貴様らクァー。そこで止まれクァー」

大勇者「俺らは大勇者パーティだ。敵意は無い。ただ亜人王と話をしにきたんだ」

ざわ

烏男「だ、大勇者!?……ほ、本物なのクァー?」

二人の顔を観察する烏男。

大剣士「ち、俺らの顔を知らんのか……全部の魔王を討伐したというのにこの程度の知名度とはな」

大勇者「仕方ねぇさ。しらねぇ人はしらねぇもんだ……。じゃあ何を見せたら俺が大勇者だって信用してくれる?」

烏男「何って……」

大剣士「ふん、手っ取り早いのはこれだろう」

ジャキッ

大剣士は大剣に手を伸ばす。

烏男「くあっっ!?」

大勇者「あ、なるほど、魔王を倒した実力を見せれば納得してくれるかもな! よぉし」

大勇者は肩を回す。



大魔法使い「遠くて聞こえないけど、絶対あいつらなにかしらの理由つけて戦うわよ」

大盗賊「……」

123: 2014/11/27(木) 02:56:28.19 ID:DMip49660
44

--草原--

その時辺りが暗くなる。

ひゅぅううん、ズゥン!!

大勇者「!」

大剣士「なっ!? 先頭にいたはずじゃ」

空から3メートルもある亜人王が落ちてきた。

ぱらぱら……

亜人王「……」

烏男「あ、亜人王様……」

大勇者(こんな巨体なのにジャンプして来たのか……)

大剣士(あの図体で接近に気づかなかったぞ……)

ぶふぉーーーー!!

亜人王が強烈な鼻息を出す。

亜人王「下がっていろ。こいつらは大勇者とその従者だ。間違いない」

烏男「!? は、はっ!」

大剣士「!? 従者だと!? ふざけるな! 俺は」

亜人王「一体何の用だ、小僧よ……」

124: 2014/11/27(木) 02:58:18.35 ID:DMip49660
45

--草原--

大勇者「――まぁ用ってもんじゃないんだ。ただこの集団はどこに何をしに行くのかと思ってさ」

亜人王「どこに、何を、だと?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

大剣士(! こいつ殺気を……)

がちゃがちゃ

周囲の亜人達も武器を構えだした。

亜人王「……我らは不当に殺された我が同胞の……無念を晴らしに行くのだ!!」

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

亜人王が発するプレッシャーが、周囲にいるものを吹き飛ばす。

ざざざー!

大剣士「ぐ! いきなり地雷を踏んだか……? だが……同胞の無念だと……?」

大勇者「……」

亜人王「む」

唯一吹き飛ばされなかった大勇者はその場に踏みとどまっている。

125: 2014/11/27(木) 03:01:28.91 ID:DMip49660
46

--草原--

大勇者「不当に殺されたってのは、人間にか?」

亜人王「そうだ。だから復讐しにいくのだ。それが自然の摂理だ」

大勇者「ん……何があったのか詳しく教えちゃくれないか?」

穏便にしようと優しく話しかけるのだが、

亜人王「断る! 貴様ら人間どもと話すことなど、もう何も無い!!」

ドォオオオン!!

亜人王の強烈な魔力が吹き荒れる。

ぱらぱら……

大勇者「……そっか。どうも怒りで我を忘れているらしいな」

亜人王「ぬ?」

大勇者「今のあんたらが王国に向かえばたくさんの氏人が出るだろう……それを勇者である俺が黙って見てるわけにはいかない」

亜人王「ならどうする小僧……我らを止めてみるか?」

大勇者「あぁ」

亜人王「!!」

大勇者「俺は頭がまわらねぇからな。どうやりゃ上手くことが収まるかなんてわかんねぇ。だからこの体で出来ることをやるだけだ」

亜人王「……貴様に何が出来るというのだ」

大勇者「その怒りの捌け口になってやるよ。それで少しは頭も冷えるだ、ろっ!」

ドゴオオオオン!!

烏亜人「!?」

大勇者は亜人王の腹部をぶん殴った。

126: 2014/11/27(木) 03:03:14.93 ID:DMip49660
47

--草原--

大剣士「な」

烏亜人「な……」

大魔法使い「な、何やってんだあのバカはーーーーーーーーーーーーーー!!」

岩陰に隠れて様子を伺っていた大魔法使いはつい大声で叫んでしまう。

大盗賊「あ、亜人王に喧嘩を売った!? ある意味魔王クラスの戦闘力を持ってる人ですよ亜人王は!?」

大賢者「ち、サポートするぞ大剣士!」

ひゅおおおぉお……

大勇者「……かってぇな」

ぶちっ

亜人王「」

亜人王の怒りが頂点に達した。

亜人王「ぱおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!」

どがあああああああああああああああああああああああああん!!

亜人王の拳が大勇者を吹き飛ばす。

大勇者「がはっ!?」

どおおおおおおおおおおおおおおん!!

127: 2014/11/27(木) 03:04:39.42 ID:DMip49660
48

--草原--

大剣士「この馬鹿者が!……だが、その案乗ったぞ!」

ジャキィン!!

大剣士も大剣を構えて亜人王に向かおうとするのだが、

烏男「き、きさまらぁ! 王に対してなんという狼藉をくあああああああああああ!!」

大剣士「!」

ガキガキガキイイイイイン!!

周囲にいた亜人の兵士達が大剣士に一斉に襲い掛かった。

ガキィン!

大剣士「く! これでは亜人王のもとにいけんではないか!」

大賢者「大剣士ーー!! 今助けるからなーーーー!! 水属性範囲攻撃魔法レベル4!!」

どばしゃあああああああん!!

狼亜人「ぐあはああー!!」

烏亜人「他の仲間くあぁ!? 己人間め! だまし討ちとは卑怯くあぁ!」

大魔法使い「あぁああもうううううう!!」

128: 2014/11/27(木) 03:05:23.38 ID:DMip49660
49

--草原--

ずぅん、ずぅん、ずぅん!!

亜人王「ふーっ! ふーっ!」

大勇者「がはっ……効いたー……こんな一撃久しぶりだぜ」

岩にうちつけられて起き上がったばかりの大勇者に迫る亜人王。

ずんずんずんずんっ!!

亜人王「人間めぇ、人間如きがぁあ!!」

ドガァアアアアアアアアアアアアアン!!

振り下ろされた拳を間一髪で避ける大勇者。

大勇者「よっぽど頭に血がのぼってるみたいだなぁ王様!」

どがぁあん!!

大勇者は亜人王の脛を全力で蹴るのだが、

ギロッ

大勇者「うそ、効かないのか?」

どがああああああああああああああああああああああああああん!!

129: 2014/11/27(木) 03:06:51.76 ID:DMip49660
50

--草原--

わーわー!!

大魔法使い「うーわー……もうなんか戦争みたいになっちゃってるじゃないのさ……」

大盗賊「こっちの人数はたった三人ですけどね」

わーわー!!

大剣士「俺が世界最強の剣士、大剣士様だ! 斬られたいやつからかかってくるがいい!」

ずばぁ!!

大魔法使い「……ただ暴れたいだけだろあのバカどもは……」

猫亜人「あ! まだあそこに仲間が隠れてるにゃ!」

兎亜人「全員とっつかまえて拷問した後縛り首にしてやるぴょん!」

大盗賊「あちゃ……見つかってしまいましたね。どうします?」

わーわー!!

大魔法使い「~~っ」

がばっ!

大魔法使いは立ち上がる。

大魔法使い「……もうしらん!」

ぎゅいいいん!!

大魔法使いの両の掌に氷の魔力が集められる。

130: 2014/11/27(木) 03:08:35.24 ID:DMip49660
51

--草原--

バキャキャキャキャキャーーーーーーン!!

猫亜人「にゃっ!? 一瞬で草原を凍らせちゃったにゃ!」

兎亜人「人間のくせになんて魔力だぴょん!」

大魔法使い「あっはっはっはっ、かかってこーい!」

ひゅーどーん! ばきばきぃん! どががー!

四方八方に強力な魔法を連射する大魔法使い。

大盗賊「やれやれ……」(いくら亜人の基本スペックが高いといえど、魔王と六度も戦って生き残った我々を舐め過ぎですよ)



どがあああああん! どががぁああああん!!

大勇者「ごふっ!!」

亜人王「ぱおおおおおおおおおおおおおおおおん!!」

速く重い攻撃を幾度と無く繰り出す亜人王。さすがの大勇者も防戦一方に。

大勇者「はぁ、はぁ……いいね、なんていうか好感が持てるよ。魔王はどいつもこいつも拳で戦うような奴じゃなかったからさ、あんたの拳には魂が篭ってるっていうか! げはっ!!」

131: 2014/11/27(木) 03:10:05.11 ID:DMip49660
52

--草原--

亜人王「ふーっ! ふーっ……小僧……」

自分の全力の攻撃を大勇者は耐えている。亜人王は驚きを隠しきれない。

大勇者「? どうした、殴り疲れたのか? なら」

びりびりぃ

大勇者はぼろぼろになった上半身の服を破り捨てる。

大勇者「今度は俺の番だ!!」

ひゅっ!

大勇者は跳躍し、

大勇者「っらぁああ!!」

ドゴオオオオオオオオオオン!!

亜人王「っっ!!」

亜人王の顔面を殴った。

ズズズッ

ほんの少しだけ亜人王はずり下がる。

132: 2014/11/27(木) 03:10:54.84 ID:DMip49660
53

--草原--

亜人王「小僧ッ……」

大勇者「おおおおおおおおおおおおおお!! スキル、剛拳百連撃!!」

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!!!

亜人王「がっ! がぐあ!!」

指パッチンの数百倍の威力のある剛拳を雨霰と放つ大勇者。

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!

亜人王「がっ、が、がああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

ガガガッガガガガッッッッガガ、ガガガガガッガガガガ! ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!!!!!!!

亜人王「っ!」

ゆらっ

大勇者「」

どずううううううううん!!

亜人王が尻餅をつく。

133: 2014/11/27(木) 03:11:44.11 ID:DMip49660
54

--草原--

大勇者「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

亜人王「ふーっ、ふーっ、ふーっ」

大勇者と亜人王は睨みあっている。

ずずぅん

亜人王「人間の分際で……怒りの捌け口になってやるだと……?」

大勇者「なんだ? 何かおかしいか?」

亜人王「うぬぼれるな!」

どがぁああん!!

大勇者「ッッッッ!!!!」

亜人王の拳が大勇者のガードごと打ち崩す。

亜人王「貴様程度の矮小な存在で我らの怒りを受け止めきれるものか!!」

大勇者「はぁっ、はぁっ……」




  「ならぁ……二人ならぁ、どうだぁ?」

134: 2014/11/27(木) 03:13:37.58 ID:DMip49660
55

--草原--

亜人王「む」

ひゅうううううううう、どんっ!!

上空のドラゴンから飛び降りてきたのは、竜騎士。

ぱらぱら

竜騎士「むぅぁあったくうう……お前といううやつぅはぁ……道草をせずにかえるぅぅこともできんのかぁ……」

大勇者「あ、兄貴……なんでここに?」

竜騎士「……なぁにぃ、散歩をしておったぁだけのことよぉ……」

大勇者「実家からここかなり遠い気がするんだが」

竜騎士「しゃあああらああぁあっぷううう!!」

鼠亜人「あ、亜人王様を狼藉者から守るでちゅー!」

わーわー!!

集まってくる亜人達。

大勇者「うお。この数はちとめんどくさいな……兄貴、こいつらの相手してやってくれないか? 俺亜人王と話(決闘)があるし」

竜騎士「な、なんだとぉ!? お前は実のあぁあにぃいを、便利に使おうぅってかぁああ?」

135: 2014/11/27(木) 03:15:14.90 ID:DMip49660
56

--草原--

鼠亜人「仕留めるでちゅよー! へけっ!」

わーーーーー!!

亜人王「やめよ」

ぴたっ

亜人の群れが、亜人王の一言で停止する。

亜人王「人間が一匹や二匹増えたところで同じこと……この程度に他のものの手を煩わせるわけにはいかん」

鼠亜人「で、ですが亜人王様! 万が一が」

亜人王「お前達の力を借りねばこの我が負けるとでも言うのか!」

ビビクッ!!

鼠亜人「そ、そんなことは……」

亜人王「ならば手を出すな。貴様らは他の人間どもの相手をしていろ」

鼠亜人「は……、はっ!」

竜騎士「ふむぅ……なめられたものだなぁあ……」

大勇者「いや、てか兄貴もどっか行ってくれ。これは俺と亜人王の問題だから」

竜騎士「だからなんでそんなこと言っちゃうのぉおん!!」

136: 2014/11/27(木) 03:16:56.57 ID:DMip49660
57

--草原--

竜騎士「未熟なりぃ我が愚弟よぉ……魔王六体を倒したといえどぉ、まだケツが青いと見えるぅぅ……」

大勇者「な、なんだよ……あれ? てかまだ六体目倒したことは公表されてないはずなんだけどなんで知って」

竜騎士「とおにかああああくうう!……やつはぁ、お前一人では敵う相手ではぁないぃ……」

大勇者「……いや、やってみなきゃわからんだろ」

竜騎士「だからまだケツがブルゥだと言うのだぁ……敵の実力も計れんようではなぁあ」

竜騎士は静かに汗を垂らしていた。

大勇者(!! あの傲慢で滅茶苦茶強い兄貴が汗を……?)

竜騎士「真に強いものはぁ……敵の実力を見極める力もぉ高いのだぁ……何事もぉ氏んだらそこまでぇなのだからなぁ……」

大勇者「……」

ずぅん!!

亜人王「ふーっ! ふーっ!」

竜騎士「やつはぁ、現世界最強の男ぉ……我ら兄弟ぃ二人がかりでかかっても勝てるかぁわからんのだぁ」

137: 2014/11/27(木) 03:18:16.28 ID:DMip49660
58

--草原--

大勇者「……え、まじ?」

竜騎士「まぁじぃ……」

大勇者「……頑張ればなんとかいけるかなぁって思ってたんだけどな。ちぇ、傷つくな」

亜人王「くだらぬおしゃべりぃぃはあぁ、もうすんんだかぁああああ?」

大勇者「亜人王、兄貴の喋り方うつってるぞ」

竜騎士「我はもとよりぃぃお喋りをしにきたのではなぁあいいい……ともかぁくぅ……世界最強の称号はぁ、今日限りでお前のものではぁ……無くなるのだぁ」

竜騎士が構える。

大勇者「!!」(まさか兄貴、二人がかりで倒して堂々と世界最強を名乗る気なんじゃ!?)

亜人王「ふん……我にここまでほざいたのは貴様らが初めてだ」

ずんっ!!

亜人王が本気になる。

亜人王「来い。格の違いを見せてやる」

138: 2014/11/27(木) 03:19:32.93 ID:DMip49660
59

--草原--

ばきゃぁあん!!

大魔法使い「あー、疲れる! もういつまでたっても終わんないじゃないのさ! どんだけいるのよこいつらー!」

どしゅどしゅ!

大盗賊「戦える亜人のほとんどを連れてきてるようですからね。ほんと戦争を起こしに来たんでしょうか」

大魔法使い「……それならなんとしても止めなくちゃだけど」

どがぁあん!! どがああああああああああああああああああああああん!!

大魔法使い「! なんだか凄い闘いになって……って、あれ竜騎士いんじゃん!! なんで!?」

大魔法使いは亜人王と戦う竜騎士の姿を確認する。

どどどどどどおおん! どがああああああああああああああああん!! ばりばりいいいいい!!

大剣士「! さすがだな……あの亜人王相手にあそこまで戦えるとは……」

大賢者「これが史上最年少で五柱候補になった人間……」

どがああああああああああああああああん!!

竜騎士「んんんんんんぶるるぅぅぅぅぅぅああああああああぁあああああぁぁぁぁぁ!!!!」

139: 2014/11/27(木) 03:21:13.17 ID:DMip49660
60

--草原--

竜騎士「おおおおおおおお!!」

どがががががっ!! がががっ!!

亜人王「ぬぅ!!」(こいつ……中々やりおる)

竜騎士は速い殴打と隙をカバーする雷魔法で亜人王に反撃の暇を与えない。

大勇者「!」(やっぱり強いぞ兄貴! 二人がかりじゃなきゃ勝てないって言ってたけど、全然一人でも通じて)

ぼっ!

竜騎士「」

その攻撃を全て跳ね除けて亜人王は張り手を繰り出した。

どおおん!!

竜騎士「っ!」

ずざざー

大勇者「!……あれだけ最善の攻撃を与え続けたのに……」

ずぅん!!

亜人王「だが、所詮人間風情……種族の差は越えられん!!」

竜騎士「……ふむぅ……やはり最強とはこうではなくてはなぁ……」

146: 2014/11/28(金) 03:25:41.60 ID:7WaPcqr50
61

--草原--

わーわー!

大剣士「しかし、王国の目と鼻の先でこんなことになるとは……この騒ぎに気づいて兵士が出てきたらまずいな」

大賢者「それなら心配いらないぞ大剣士。既に結界を張ってある。外からはこれを認識できないだろう」

大剣士「!……ふん、いい働きだ」

大賢者「当然だ。お前の片腕なのだから」



わーわー!

ぽたっぽたぽたっ

竜騎士「ぶるぅうああぁ……」

大勇者「はーっ、はーっ……ははは」

亜人王「……何がおかしい」

大勇者と竜騎士は血だらけの泥だらけ。だが

大勇者「食物連鎖の頂点の竜より象の方が強いなんて、変な話だなと思ってさ」

大勇者は不適に笑う。

147: 2014/11/28(金) 03:26:16.78 ID:7WaPcqr50
62

--草原--

竜騎士「竜は最強ぉぉうではあるがぁ極めようとしないぃぃ。最強であるがゆえにそれ以上を……求めないぃぃ。極めようとする力は人特有のものだぁ……だからこの亜人王が竜より強かったとしてもぉぉおかしな話ではないぃ」

ぴっ

竜騎士は折れた鼻を直し、血を飛ばす。

大勇者「なるほどな……けどいいもんだな」

竜騎士「……何がだ」

大勇者「兄貴と肩を並べて戦うのも。なんだかんだで初めてだからな」

竜騎士「……ふん」

ずぅん!

亜人王「くだらぬ! とっとと氏ねぇい!!」

どがぁああん!!

亜人王の攻撃を二人は紙一重で避ける。

亜人王「!」

竜騎士「はぁあ!!」

大勇者「おぉお!!」

ドドドドン!!!!

両サイドからのボディブローが亜人王を襲う。

亜人王「がっ!」

148: 2014/11/28(金) 03:26:52.32 ID:7WaPcqr50
63

--草原--

亜人王(こいつら、あれだけ痛めつけてやったのに、動きがよくなっている……?)

竜騎士(愚弟も会得していたかぁ……我が一族が得意とするスキル、超逆境!)

フォン

亜人王「!」(動きがとらえられない? なんなんだ、この残像を帯びた動きは)

ススススススススス……

亜人王(あれだけ我の攻撃を受けたのだ。立っているのがやっとのはず……なのに、なのに)

ふぉん、ふぉふぉふぉふぉん

亜人王の攻撃を全てかわしていく大勇者。

大勇者「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

どごっ!!

亜人王「ッッッ!!」

大勇者の拳が亜人王の腹部を叩く。

亜人王「ぐはぁ!!」

その時、初めて亜人王は血を吐いた。

149: 2014/11/28(金) 03:27:33.35 ID:7WaPcqr50
64

--草原--

亜人王(なんなのだこれは)

ふぉんふぉん

大勇者と竜騎士が亜人王の攻撃を避け続ける。

竜騎士「はぁああ!!」

どがぁあん!!

亜人王「ぐぬぅ!」

大勇者「うおおおりゃああ!!」

どごおおおん!!

亜人王「がはっ!!」

ヤモリ亜人「あ、亜人王様が押されている!!」

亜人王(あと一撃、あと一撃与えれば殺せるというのに、なぜ当たらぬのだ!)

竜騎士「このスキルは武の真髄。今の我らを」

大勇者「荒れた心で捕らえることはできん」

どぎゃああああああん!!

二人の拳が亜人王を吹き飛ばす。

150: 2014/11/28(金) 03:29:00.67 ID:7WaPcqr50
65

--草原--

びしゃしゃっ

亜人王「……」

大勇者「……」

竜騎士「……」

亜人王「荒れた心では……捉えられぬ……か」

大勇者「あぁ、自分を見失っているものには絶対に負けない」

亜人王は大勇者の眼を見続けている。

大勇者「……報復をしにいくと言っていたな」

亜人王「……」

大勇者「そりゃ……全部の人間がいいやつなんだと言いたいわけじゃない。中には悪いやつもいる……だからきっと、あんたたちに報復されるようなことをやったやつがいるんだろう」

亜人王「……」

大勇者「でもまだ早いだろ? 戦争するには。まずは話し合いをしようぜ」

亜人王「……人間と話すことなどない。もうずっと昔から我らは耐え忍んできたのだ」

151: 2014/11/28(金) 03:30:57.83 ID:7WaPcqr50
66

--草原--

大勇者「どうしても戦うっていうのか? どちらにも氏人がたくさん出るんだぞ? 全く関係無い人達まで巻き込まれるんだぞ」

亜人王「……」

ぼぉん!!

亜人王の繰り出す拳を避ける大勇者。

大勇者「人間も亜人も根っこは同じ人だ。頃し合いはすべきじゃない」

亜人王「だが人間は我らを人とは思わないではないか!! その道理は通じぬぞ!!」

どがぁあああん!!

亜人王のかかと落しが地面を砕く。

大勇者「っ、俺らは違う。そんなこと思ってねぇ! 信じろ!」

亜人王「信じられぬ! たとえそうだとしても他の人間はそうではない!」

どがああん!!

大勇者「なら変えてみせるさ! 俺は……勇者だ!!」

ばきぃっ!!

大勇者は亜人王の顔面を殴った。

大勇者「みんなが幸せになるために邪魔なものを、全部この拳でぶっ飛ばしてやる」

152: 2014/11/28(金) 03:33:24.74 ID:7WaPcqr50
67

--草原--

ずずぅん!!

竜騎士(……信じろといいつつぶん殴るあほがどこにいるぅうう)

大勇者「はぁ、はぁっ、はぁっ……」

ぽたぽた……

竜騎士(む、さすがに大勇者の出血が多い。そろそろ限界かぁ)

ぐぐぐ……

竜騎士「! まだ起き上がるかぁ……さすがにタフすぎるぞぉ……」

亜人王「ふぅ……ふぅ……」(なぜだ。やつに怒りをぶつける度に、やつの拳で殴られる度に、怒りが消えていく……)

大勇者「人を守る勇者として、あんたたちをここから先に行かせることはできん……王国のやつらのためにも、あんたたちのためにも。そのためなら俺達は……全力で邪魔をするぞ」

亜人王「……」

ざっ……

そこに大剣士が現れる。

大剣士「ここは引いてくれ亜人王。引いてくれれば後日、公式的に話をする場所を設ける」

亜人王「……お前は?」

大剣士「俺は王国の第一王子、大剣士だ。それくらいどうにかできる力はある」

亜人王「……」

153: 2014/11/28(金) 03:36:00.81 ID:7WaPcqr50
68

--草原--

亜人王「……その身分と約束をどうやって信じさせる?」

大剣士「信じてもらうしかない」

亜人王「……」

亜人王はボロボロになった大勇者の顔を見る。

亜人王「……それを言うために、この闘いをはじめたのか?」

大勇者「?」

大剣士「あぁ、疲弊でもしなけりゃ、俺達の話なんか聞いてくれなかっただろう?」

亜人王「」

大勇者「う」

がくっ

大勇者は膝をつく。

竜騎士「ぐ、血を流しすぎだ馬鹿者がぁ。コレを食えぇ。竜胆丸だ」

大勇者「あぁ、悪いな兄貴」

亜人王は辺りを見回した。

見たところ氏亡しているものはいない。全て戦闘不能に、もしくは疲弊させられているだけのようだった。

亜人王「……馬鹿者だ」

154: 2014/11/28(金) 03:37:18.37 ID:7WaPcqr50
69

--草原--

ずぅん

亜人王は

ずぅんずぅん

王国とは真逆の方向に歩き出した。

大勇者「亜人王……」

亜人王「今日はもう疲れてしまった。戦うには休養を取らねばならぬ」

ずぅんずぅん

亜人王「……話し合う気があるのなら、それまでに場を用意しろ」

大剣士「! わかった。我が血にかけて誓おう」

ずぅん

亜人王「……ふ……皆のものぉおおーーー!! 撤収だぁああああああああああ!!」

亜人王の呼びかけに反応し、亜人達は彼について歩き出した。



大魔法使い「……終わったの?」

155: 2014/11/28(金) 03:38:17.59 ID:7WaPcqr50
70

--王国、東の問--

門番「!? だ、大勇者様方じゃないですか!? だだだ大丈夫なんですか!?」

大勇者「あぁ、ちょっとね。裏ボスにうっかり遭遇しちゃって」

門番「と、ともかく王都へとお連れします! こちらの馬にお乗りください!」

わーわー

大剣士「? やけに騒がしいな。何かあったのか?」

門番「何があったかじゃないですよ!! 今王国全土で大騒ぎになっているんですよ! それもこれも大勇者様一行が、全ての魔王を倒してくださったから!!」

ぎぃいい

大きな門を開くと

わーーーーー!!

門番「歓喜です!! 王国のみんなが!!」

花が舞った。

156: 2014/11/28(金) 03:40:31.03 ID:7WaPcqr50
71

--王国、東の町--

わーきゃー!

大勇者「あー……そういや魔王倒したんだった。すげぇ闘いしてたから忘れてた」

大剣士「忘れんなよ!」

そばかす娘「きゃー大勇者様ー!! ありがとーーーー!!」

大工のオヤジ「よくやってくれたなーーー!!」

わーきゃー!!

国中で花が舞い、音楽が奏でられ、人々の笑顔でいっぱいだった。

たたたた

肉屋のおばちゃん「大勇者ちゃん! うちの肉好きだったろ!? これ食べておくれよ!!」

警護兵「ちょっ、大勇者様は疲れてるんだ! 近づくんじゃない!」

大勇者「やー、ありがとうおばちゃん。あぐ。あーうめぇ!」

わーきゃー!!

剣豪改め少年剣士「……本当に、全部の魔王を倒してきちゃったっていうのか……?」

少年剣士が人ごみの中から大勇者達を見ている。

ぱからっぱからっ

大剣士「……」

少年剣士が憧れのまなざしで見ているのは大剣士。

少年剣士「……く、俺もいつかあの人みたいになりたい……!!」

157: 2014/11/28(金) 03:43:35.27 ID:7WaPcqr50
72

--王国、東の町--

ぱからっぱからっ

大魔法使い「う~……正直このパレードみたいなの疲れるわぁ。あんなに戦った後だし……」

警護兵「あれ? 伝書鳩の報告だと四日前に魔王を倒されたと聞きましたが」

大魔法使い「その後にとんでもないのとやりあったのよ。まったく……あれの後処理もしなきゃならないし、魔王を倒したってのにやること山積みね」

大盗賊「何も無いよりはいいではないですか。勇者家業、魔王いなけりゃただのニート、なんてことわざもあるくらいですし」

大魔法使い「一生遊んで暮らせるくらいの褒賞金は出るでしょう? ニートでいいじゃないのさ。この後はゆっくり暮らしたいわー」

大剣士「たるんでる! これだから一般庶民は……! 俺はむしろこれからだぞ? 魔王討伐はスタート地点だ。俺は父様の跡をつぎ、世界をよりよくしていかねばならないのだから」

大魔法使い「はいはい、頭の硬い理想主義の正義の味方さん、よろしく頼むわ~」

大剣士「きさま!」

大賢者(しかしこれで大剣士に箔が付いた。第二王子や第三王子が王位継承にからむことはもう無いだろう……)

158: 2014/11/28(金) 03:44:23.65 ID:7WaPcqr50
73

--王国、東の町--

ぱからっ、ぱからっ

大魔法使い「……ねぇ~、ちょっとちょっとー」

警護兵「あ、はい。なんでしょうか?」

大魔法使い「さっきから同じところ通ってない? 王都に繋がる橋はそっちだよ? もしかして道わからないとか?」

警護兵「いえ、そういうことではないのです。ただ王都側から連絡が来なくて……」

大剣士「? 王都から連絡が来ない? 我々が帰って来たことを父様達は知らないということか?」

警護兵「それはお伝えしてあります。ただ今日に限ってあちらの兵と連絡が……おかしいなぁ……」

大勇者「んー……なぁ、俺腹減ったし行きたいところあるから橋渡ってくんない?」

警護兵「う……でも連絡がないと、その」

大賢者「責任は大勇者が持つ。第一こんなめでたい日にこんなことで罰を与えたりはせんさ」

警護兵「……それもそうですね。わかりました。それではこのままお連れいたします」

ぱからっ、ぱからっ

159: 2014/11/28(金) 03:46:09.14 ID:7WaPcqr50
74

--王都--

ひゅぅうううぅ……

大勇者「……なんだ? なんだか随分活気がないな?」

大魔法使い「ほんとほんと。魔王を倒してきたっていうのに失礼しちゃう……あ」

大勇者「あ?」

大魔法使い(なるほど……これどっきりってやつね? まぁ六回とも同じような祝い方じゃ芸が無いものね。正直飽きてきてたし)

警護兵「? おかしいな……大勇者様、少し兵舎を見てきてもよろしいでしょうか。すぐ近くにあるので」

大勇者「あぁ、いいよ」

警護兵「ではすぐにもどってまいりますので。ここで待っていてくださいね? はいやっ!」

ばからっ! ばからっ!

大剣士「……いまいちわかってないやつだな。別に先導者も警護も俺達にはいらんというのに」

大賢者「あれも仕事なのだ。そう言ってやるな」

大魔法使い「……」

大魔法使いがもじもじしている。

160: 2014/11/28(金) 03:47:40.41 ID:7WaPcqr50
75

--王都--

大魔法使い(! そういえばここらへんにあったわよね、確か)

すたっ

大魔法使いは馬から飛び降りる。

大魔法使い「ちょっと私もそこらへん見てくるねー」

大盗賊「……何か気になることでもあったのですか? どれ、私も同行しましょう」

すたっ

大魔法使い「や、いいから。私一人で行きたいから。ついて来なくていいから」

大盗賊「何をおっしゃいますやら水臭い。いやアンモニア臭い。仲間じゃないですか、私も行きますよ」

大魔法使い「……あんたわかってて言ってんな?」

大盗賊「何がです? 小刻みに太ももを揺らしているのと何か関係しているのですかー?」

わざとらしく?的な顔をする大盗賊。

大魔法使い「……わぁーったわよ。ちょっと……イレに行ってきたいのよ」

大盗賊「ん? なんです? どこに行きたいですって? え?」

大魔法使い「ト……レよ」

大盗賊「トレ? どこです? ちゃんとはっきりと私のこの耳でも聞こえるような」

大魔法使い「トイレに行きたいって言ってんでしょおおおおおおおおおおおおお!!!!」

ばつん!

大魔法使いは声に魔力を乗せたため、至近距離にいた大盗賊の鼓膜が破れた。

161: 2014/11/28(金) 03:49:40.41 ID:7WaPcqr50
76

--王都--

すたすたすた!

大魔法使い「全く、ふざけたやつねあいつは! 外見は紳士ぶってるくせになんでこう!……しかしほんと静かね。あれほどの大声出したのに誰も出てこないなんて」

大魔法使いは窓から家の中を覗く。そこには椅子に座っている老夫婦の姿が見えた。

大魔法使い「いないわけじゃないのよね……ほんと手の込んだどっきり作戦」

じゃり

大魔法使い「あ」

その時大魔法使いは町の角を曲がるウェイトレスを見つけた。

大魔法使い「ウェイトレス……? ははぁん。ついどっきりのこと忘れて外にでちゃって、丁度私達の姿を確認したから慌てて隠れようとしている、そんなところかな?」

ダッ

大魔法使いはウェイトレスを追いかけた。

大魔法使い「ぷぷぷ、驚かせてやろーっと……ウェイトレスにはいつもむかつかされてるしね!」

ダダダダッ

大魔法使いは走って角を曲がり、ウェイトレスの肩を掴んだ。

グルン!!!!

その瞬間、ウェイトレスの首が勢いよく真後ろを向いた。

ウェイトレス「……」

大魔法使い「あ……」

見開かれた瞳……驚かされたのは大魔法使いの方だった。

162: 2014/11/28(金) 03:50:59.54 ID:7WaPcqr50
77

--王都--

どくんどくん!

大魔法使い「な、なに、よ……」(なんて、顔してんのよ……)

ウェイトレス「……大魔法使い……か」

大魔法使い「! そ、そうよ……あ、あんたここで一体なにやってんのよ……」(な、何言おうかぶっとんじゃったじゃない……!)

ウェイトレス「何を……何を……」

ウェイトレスの焦点は定まらない。

大魔法使い「? あんたなんかおかしいわね? 体調悪いの?」

ウェイトレス「体調……どうだろ……」

心ここにあらずのウェイトレスにだんだんとイライラしてくる大魔法使い。

大魔法使い「ちょっと、ちゃんと目を見て話しなさいよ!」

がっ

ウェイトレスは手を振りほどいてふらふらと歩き出した。

163: 2014/11/28(金) 03:52:15.00 ID:7WaPcqr50
78

--王都--

大魔法使い「こ、こんの~~!!」(何よその態度!! 私なんかじゃライバルにならないっての!?)

すたすたすた

大魔法使い「……」

すっ

大魔法使いは過去読みの書を取り出した。

大魔法使い(いっつも何考えてるのかわからないやつだったけど今日はもっとひどい……でも私にはこれがあるんだから!! これであんたの考えてることも恥ずかしいことも全部まるっとお見通しなんだから!!)

大魔法使いはウェイトレスに近づいて髪の毛を……

すっ

大魔法使い「……」

すたすた

大魔法使い「……はーあ。やめたやめた。そんなことしなくても……私は勝ってやるんだから」

164: 2014/11/28(金) 03:55:05.32 ID:7WaPcqr50
79

--王都--

大盗賊「遅かったですね。うOこ?」

大魔法使い「色々あったんだバカ!! それより警護の人はまだ来ないの? 遅くない?」

大剣士「あぁ、遅い。しかしそれよりも、この王都全体の雰囲気が気になる……これはおかしいぞ」

大魔法使い(はっはーん。まだこいつら気づいてないのね)

大賢者「ふむ……私達だけで城に向かうとするか?」

大剣士「あぁ、そうしよう」

大魔法使い「でも警護の人が帰って来た時に私達がここにいないと可愛そうじゃない?」

大剣士「そう思うんならお前だけ残ってろ」

ぱからっぱからっ

大魔法使い「ぐっ! あんたたちはほんっと……」

大剣士と大賢者は城に向かって進んでいく。

大魔法使い「……大勇者はどうするの?」

大勇者「俺は酒場に顔だしてみたいかな」

大魔法使い「むぅ……じゃあ私も付き合う」

大盗賊「では私」
大魔法使い「あんたはここで警護の人待っててね」

すたすた

大盗賊「……はい」

165: 2014/11/28(金) 03:56:14.00 ID:7WaPcqr50
80

--王都、酒場--

ぎぃいい

大勇者「マスター? いないのか?」

大魔法使い「なによ昼間っからカーテンして。おまけに明かりもつけずに。酒場畳んでお化け屋敷にでもするつもり?」

ぴくん

大勇者「!! この臭い……」

大魔法使い「!!……これカーテンじゃない……血が黒くなって窓に張り付いてるんだ……」

ぎぃ……ぎぃ

大勇者「……誰だ?」

店の奥に椅子に座って左右に揺れている何かがいる……。

ウェイトレス「……」

ぎぃ、ぎぃ

大勇者「ウェイトレス……?」

ぴた

大勇者が名前を呼んだ瞬間、ウェイトレスの動きが止まる。

ウェイトレス「ま、マッtえ、TAよ」

170: 2014/12/02(火) 04:22:00.64 ID:wXEixC7c0
すいません、今日の午後に投下にきます。

174: 2014/12/02(火) 22:17:11.99 ID:wXEixC7c0
81

--王都、酒場--

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……

大魔法使い「ウェイトレス、なんだよな……? これはさすがに凝りすぎよ。この血だって何の血を……」

ぐい

その時大魔法使いは後ろから現れたマスターに引っ張られ店の外へと投げ出された。

どさっ!

大魔法使い「きゃっ!?」

ぎぃ、ばたん

大勇者「! 大魔法使い!」

ぎし……

ドアが閉められたことで真っ暗になった酒場。その暗闇の中を何かが動いている。

ぎし、ぎし

大勇者「お前……ウェイトレス、なのか?」

ぎし……

175: 2014/12/02(火) 22:19:17.39 ID:wXEixC7c0
82

--王都、酒場--

大勇者は六度の魔王との戦いで、魔王特有の気配というものがあることに気づいた。

ぎし

今、ウェイトレスからそれが感じられる……。

ぎし

それも、今までとは比較にならないほど強力な……。

ウェイトレス「……ま、まって、たよ。ききき、君が、待ってて、って言ってたから、まって、たたたんだ、よ」

大勇者「……」

ウェイトレスとの距離は約1m。

大勇者「……なぜだ」

ウェイトレス「え?」

大勇者「なんで、こんなことになっちまったんだ」

ウェイトレス「……」

大勇者の拳が震えている。

176: 2014/12/02(火) 22:21:16.38 ID:wXEixC7c0
83

--王都、酒場--

大魔法使い「ちょっと、何するのさ!」

マスター「ぶ、ぶがいしゃは、はは、は、そとで、おねが、いし、ます」

カチカチと歯を鳴らしながら喋るマスター。

大魔法使い「!……改造されてる……操られている……? どっちにしても一切魔力を感知させずにこんな芸当ができるなんて、一体」

ざり、ざり……

大魔法使い「!?」

町中から虚ろな表情の人間達が集まってきた。

大魔法使い「……そういうこと。全部操られてるってことなのね。私達が帰還する前に王都だけ丸ごと!!」

フォン!!
ぱきぃん!!

投げつけられた斧を空中で凍らせる大魔法使い。

大魔法使い「……ウェイトレスも操られてるだけなのよね……?」

177: 2014/12/02(火) 22:23:19.07 ID:wXEixC7c0
84

--王都、酒場--

ドオオオオオオオオオオオン!!

大魔法使い「!?」

大魔法使いが戦闘態勢に入ったその時、目の前の酒場が大爆発を起こした。

大魔法使い「ちょっ!? だ、大勇者ーーー!!」

大勇者「くっ」

ぼふっ

煙の中から姿を現す大勇者。

大魔法使い「大勇者! よかった……!」

……オオオオオオ

大魔法使い「!」

炎上する酒場。そしてその中でどす黒い闇が渦巻いていた。

ゴゴゴゴ……

大勇者「……っ」

178: 2014/12/02(火) 22:25:16.22 ID:wXEixC7c0
85

--王都、酒場跡--

こつ、こつ……

同じように煙の中から現れるウェイトレス。

大勇者「!」

しかしその給仕服は真っ黒に染められている。

大魔法使い「なに……この凄い感覚。こんな悪寒、感じたことない……」

ウェイトレスは目を閉じ、そしてゆっくりと開いた。





ウェイトレスウェイトレス「あーしんどかった!」

大勇者「……」

大魔法使い「……はい?」

緊迫した空気を破壊するかのようなあっけらかんとした台詞。

大勇者「……」

ウェイトレス「やー……も、すっごい大変だったんだからなー君達のせいでさー。ずっと息できない状態で海の中潜ってる感じ? なんとか耐えて待ってようと思ったんだけど……やっぱり簡単じゃあなかったなー」

大魔法使い「う、ウェイトレス……?」

いつもと変わらないカラっとしたウェイトレスそのままだった。だが気配は違う……。

大勇者「……」

179: 2014/12/02(火) 22:28:12.52 ID:wXEixC7c0
86

--王都、酒場跡--

ウェイトレス「……あー、でもやっぱまずいかも。心の中ですごいぐるぐるいってる。なるほどこれじゃあ……え? あー、はいはい、わかったってば。何度も言わなくても大丈夫だって」

ウェイトレスは見えない何かと喋っている。

大魔法使い「幻覚……? いやそれよりもなにさこの感覚は……あれじゃまるで……まるで」

大勇者「お前は魔王なのか?」

大魔法使い「!!」

ウェイトレス「……」

大勇者の問いに、ウェイトレスはこくりと頷いた。

ウェイトレス「これで伝えるのが一番だと思ってさ。詳しくはコレを見てね」

ひゅっ

ウェイトレスが飛ばしてきたのは血で染まった赤い手紙。

ウェイトレス「……じゃ、私はもう行くから」

それだけ言うとウェイトレスはガルーダを呼び寄せてそれに乗った。

180: 2014/12/02(火) 22:31:35.75 ID:wXEixC7c0
87

--王都、酒場跡--

大魔法使い「な、何がなんだかわからない!! どういうことなのよ私にも説明しなさいよ! 手紙なんかじゃなくて言葉で説明しろ!!



ウェイトレス「……本当なら人間のうちに君達に全部説明するつもりだったんだけどね、ちょーっと遅かったかな。今はそれで勘弁してよ」

大魔法使い「は!?」

ウェイトレス「だって、これ以上ここにいたら君達のこと頃しちゃうもん」

ぞく

ウェイトレスのプレッシャーが大魔法使いを凍りつかせる。

大魔法使い(!! な、何よこれ……い、息も出来ないじゃない……!)

ウェイトレス「手紙を読んでそれでも納得したのなら砂漠の聖地に来て。……私は二度と会わないほうがいいと思うけど」

大勇者「……ウェイトレス」

ウェイトレス「ごめんね」

大勇者「ウェイトレス」

ウェイトレス「……だから、やめたほうがいいって言ったのに」

誰にも聞こえないくらいの声量でウェイトレスは呟いた。

ばさっ!

そしてガルーダとともに飛び立つ。

181: 2014/12/02(火) 22:37:34.45 ID:wXEixC7c0
88

--王都、酒場跡--

ぱきぱきぱき

大魔法使い「ま、て……って」

ウェイトレス「?」

ぱきぱきぱきぱき!!

大魔法使い「待てって、言ってんで、しょおおおおがあああああああああああああ!!」

ばっきゃーーーーん!!

大魔法使いと範囲攻撃魔法を放つと、氷の波が町を覆いつくしていく

ウェイトレス「無詠唱で? すご」

ばりぃん!!!!

しかしウェイトレスが差し出した人差し指で軽々と止められてしまう。

ウェイトレス「ま、そんなもん私にはきかないけどね」

大魔法使い「ならこれは?」

ウェイトレス「!」

すたっ

大魔法使いは同時に氷の階段を作り、それを駆け上ることでウェイトレスの真横にまで接近していた。そして、

ばきっ!!!!

ウェイトレスの顔を殴った。

182: 2014/12/02(火) 22:43:56.60 ID:wXEixC7c0
89

--王都、空中--

大勇者「! バカ! 危険だ!!」

ウェイトレス「……」

大魔法使い「バカ! 勝手にいなくなられたら困るのよ! あんたとはこれから戦って勝つ予定だったんだから!……こういうのとは別の戦いで!」

ウェイトレス「……はてな?」

きょとんとした顔のウェイトレス。

大魔法使い「なのにあんた! こんな、勝ち逃げなんか……!」

ウェイトレス「あー……そういうことか。ごめん。後は任せるよ」

大魔法使い「何言って! っ!」

ぼっ

ウェイトレスが掌に集めた小さな魔力球。それは咄嗟に大魔法使いが張った魔法障壁を軽々とぶち破った。

ドギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

183: 2014/12/02(火) 22:45:23.99 ID:wXEixC7c0
90

--王都、酒場跡--

大勇者「大魔法使い!」

だだだっ!!

大勇者は落下地点まで走り大魔法使いを受け止めた。

がしっ

大魔法使い「うう……」

大勇者「っ、ウェイトレス……」

ウェイトレス「……じゃあ、本当にさよなら」

ばさっ、ばさっ!

大勇者「……」

オオオオオオオオ

大勇者と大魔法使いを囲む傀儡となった王都の人間。

マスター「かち、かちかちかち……」

ばりばりばりばり!!

マスターの体が裂け、中から百足の化物が現れる。

マスター改め百足男「ぎちぎちぎち」

大勇者「……」

184: 2014/12/02(火) 22:46:57.32 ID:wXEixC7c0
91

--王都、酒場跡--

王都民「ああぁあ、あぁあ……」

ゾンビのように大勇者達に近づいてくる人々。

大勇者「……」


  俺のせいなのか


王都民「ぎしゃああああああああああああああ!!」


  ウェイトレスがあぁなったのも、こいつらがこうなったのも


スッ

大勇者は静かに指を弾く。

ボボボボボボボボ!!!!

王都民「ぎゃぶっ!」

すると人々の頭部が次から次へ爆発していく。

ボボボボボ!!

百足男「ぎしゃああーーー!!」

大魔法使いを抱いたまま襲い掛かる百足男の攻撃を避け、

ぼっ!!

右の拳で介錯する。

185: 2014/12/02(火) 22:49:57.13 ID:wXEixC7c0
92

--王都、酒場跡--

たたたた

大盗賊「大勇者ー!! 大丈夫ですか!?……っと」

ぴちゃっ

その場に駆けつけた大盗賊は惨劇を目の当たりにする。

大勇者「……」

大魔法使いを抱いている大勇者は血の海に立っていた。

……ぱからっぱからっぱからっ!!

大剣士「くそ、くそっ!! なんでこんなことにぃ!」

大賢者「……」

大盗賊「! 大剣士と大賢者……」

そこに大剣士と大賢者が戻ってきた。

大賢者「……城のものは……全て傀儡にされていた……王でさえも」

大盗賊「!!」

大剣士「くそ! 説明しろ!! くそ!! なぜだ!!」

大賢者「大剣士……」

大剣士はやり場の無い怒りを抱えたまま叫ぶ。

大勇者「大盗賊、大魔法使いを頼む」

大盗賊「え? あ、はい」

大盗賊は大勇者から大魔法使いを受け取る。

すっ

そして大勇者は赤い手紙を取り出した。

186: 2014/12/02(火) 22:52:00.34 ID:wXEixC7c0
93

--王都、酒場跡--

大盗賊「……なんですかそれは?」

大勇者「ウェイトレスが俺に渡してきた手紙だ」

大剣士「! ウェイトレスだと? 奴は無事だったのか? 今どこにいる? このことについて何か知っているかもしれん!」

大勇者「……」

かさ

問いに答えず大勇者は手紙を開いた。

大剣士「おい……聞いているのか大勇者!! こんな時にお前はなにを」

大勇者「大剣士、悪いが少し黙っててくれ。これを読みたいんだ」

大剣士「」

ずずず……

大勇者の無言の圧力が大剣士に冷静さを取り戻した。。

大勇者「わかったら全部話す。だから少し待っててくれ」

ぺら

187: 2014/12/02(火) 22:55:28.51 ID:wXEixC7c0
94

--赤い手紙--

 拝啓

 あれ? 前略だっけ? ごめんね私ろくに手紙も書いたことないからちゃんとした風に書けないや。今回ばかりはおちゃらけ無しで報告したかったんだけど、それもどうやら無理みたいですわー。

 えっと……何から話したもんかな。

 大勇者が最初に王都を旅立った時から、いつかこの日が来るだろうって覚悟してたんだけどね。頭の中で何度も何度も構成を考えたはずなんだけど、いざペンを握ると上手く整理できないもんだね。

 よし、結論から書きますか。この手紙を見てる頃にはもうわかっているとは思いますが、私は魔王です。私が魔王です。この時代を統治する正統な魔王です。

 その魔王がなんで酒場でメチャカワなウェイトレスをしていたのかというと色々と遡らねばなりません。君も心の準備が必要だと思うから覚悟して欲しいんだけど、実は私も元々勇者でした。約700年くらい前のね(黄金王と会ったこともあるよ。凄いでしょ?)。

 私は非常に優秀な勇者だったし、人形達からの情報もあったから、当時の魔王(回避コンボしてくるちょーうざいやつ)を簡単に倒すことに成功しました。どうやって倒したかとか色々武勇伝を語りたいところではあるけれど、時間が無いのでそこは割愛するね。



 私は確かに魔王を倒した。でもそれはいわばスタート地点。本当の闘いはそこからだったの。

188: 2014/12/02(火) 23:01:00.15 ID:wXEixC7c0
95

--赤い手紙--

 私の人形達はそのルールをずっと前から教えてくれていた。魔王を倒した勇者がその後の魔王になるというルールを……。

 これは人形達が全員経験してきたことだった。最初私は歴代の勇者を人形にして戦ってるつもりだったんだけど、それは半分当たりで半分はずれだったんだ……。

 それを知ってから私はずっと考えていた。彼らの情報通りだといつか私も魔王になる。そう遠くないいつか。前兆は数え切れないほどあったしね。

 なので私は魔王を倒す前からその対策を練り続けた。バッドエンドが未来に待っていると言うんなら、それを全力で回避しようとするのは当たり前のことだよね。それにせっかく私が世界を救ったんだから、いつまでも平和でいて欲しいじゃん? 世界を救うために魔王を倒すのに、倒すことで次の魔王が出来ちゃうなんて本末転倒にもほどがある。
 


 私が魔王にならないように考えた作戦、それは魔王の力の分散。

 魔王の力や意思に私が完全に汚染される前にそれらを分割することを思いついたの。そしておそらくこれは私にしか出来ないことだと思った。

 私がこのシナリオを食い止める。もう誰もこんな目に合わないようにするために。

189: 2014/12/02(火) 23:07:05.54 ID:wXEixC7c0
96

--赤い手紙--

 力の分割は考えていたのよりずっと難しかった。言わば自分の心を引き千切るに等しい行為。危うくそれがきっかけで魔王化するところだったのは言えない話だし笑えない話。力の入れ物は私が使っていた人形達を使うことでクリア。元々彼らも魔王だったわけだから許容量も相性もばっちりだった。

 そしてその後どうなったかというと、力を分割した私は魔王に成らずに済んだんだよね。黒いものは依然として残ってはいたけれど許容できる範囲だった。私の計画は概ね成功した。

 まぁ、完全な人間には戻れなかったけどね。そのせいでぴちぴちの肌のまま800年も過ごせちゃいましたし。
 
 これが誤算。
 
 当初の予定だと私が寿命で氏ねばこのシナリオは終わると思っていたんだけど、どうやらそれは無理みたいなので、私が分割した魔王達を管理することにしたんだ。同じ場所に置いといたら合体とかして強力になってコントロール不可とかになりそうで怖いから、全部離れた場所に隔離して、眠らせた。



 魔王達を眠らせたのはいいんだけど、ぶっちゃけ退屈だった。

 平和な時代が続いてくれてるならそれは喜ばしいことなんだけどさ。イベントが全く無いのもどうかと思うのよね。あ、人間同士の小競り合いとかはあったけど。あれはちょっとむかついたね。あんたら誰のおかげでその生活を享受できてると思ってんだごるぁ!って。

 そういうのばかり見てると、だんだんバカらしく感じてきちゃったんだよね。せっかく人が身を粉にして作った平和の中で、人々はそれを当たり前のように振舞って争いを続けてるんだもん。

 そう考え出したら……飽きが加速した。

190: 2014/12/02(火) 23:09:59.12 ID:wXEixC7c0
97

--赤い手紙--

 今の生活があほらしく感じてきた私は刺激欲しさにちょっくら町に行ってみることにした。魔王はちゃんとコントロールできてるし、ほんの少しの間だけ。計画は万全。何の心配も無かった。

 これが大体3年前。よく我慢したと思わない? 900年くらいずっと聖域の中で食っちゃ寝して耐えてたんだよ? たった一人で。
 ……あれ? 私何年前からあんな生活してたんだっけ? わからなくなってきちゃった。
 
 まぁ、そのせいもあってかこの世界は新鮮そのものだった。あの時代には無かったものがいっぱいあったし、私の時代にあったものが改良されて残ってたりした。あぁ、私の頑張りは無駄じゃなかったんだってその時思った。色んな発明も土台には私の功績があったからであって、ようは新しい発明は全部私の手柄みたいなところあるし。

 それで昔を思い出して少しだけ人間生活をエンジョイしようと思ったの。酒場のマスターに雇ってもらって、家を借りて、飲んで、食って、笑って。

 そんな時に、君に会った。

191: 2014/12/02(火) 23:14:58.83 ID:wXEixC7c0
98

--赤い手紙--

 会った瞬間、確信した。こいつが次の勇者なんだと。

 多分君も何かを感じたと思うけど、それは多分潜在的に私の中の魔王を感じ取ったんだね。

 こいつが今回の勇者か。でも残念だけど君の出番はないよ。なんせしっかりものの私がいるからね。ただちょっとだけ気になるから観察してみよう。最初は本当にそんな感じだった。



 でも会う度に。話す度に。どっかに遊びに行く度に。





 どんどん君のことが好きになっていった。

 そうしたらそれに比例するかのようにどんどん不安が膨らんでいった。

 私が少しでも間違えたらこの生活が吹き飛んでしまう。そもそも何の保証も無かったんだ。今まで魔王にならなかったのはたまたまで、明日にでも私の理性は無くなって人を襲ってしまうかもしれない……。
 そして、私は君に殺される……。

 そんな考えが頭をちらついて離れなくなった。前はもっとドライにこなせていたのに。今はもう無理になっていた。

 日に日に自分がわからなくなっていった。


 そしてあの日、全ての魔王が活動を再開してしまったんだ。

192: 2014/12/02(火) 23:35:02.21 ID:wXEixC7c0
99

--赤い手紙--

 魔王が動き出したのを知った君は、当然のように魔王を倒しに行くと言った。その時にふと思ったんだ。もしかすると、私が暇をもてあましてここにやってきたのも、全部シナリオだったのかもしれない、って。



 大勇者が私の魔王を倒す度に、分割したはずの力が流れ込んでくるのがわかった。そのまま消滅しとけばいいのにさ、そううまくは出来てないってことなんだろうね。

 万一の時のためにつくっておいた魔王の力を封じる指輪があったから君には気づかれなかったと思うけど、私は随分前から魔王になりかけてたのさ。

 でもこの指輪は未完成だった。完成させるにはまだまだ時を必要としていて、このペースだと完成する前に全ての人形魔王が倒されてしまって、全ての力が私に流れ込んできて……私は完全に魔王になってしまう。

 だから言ったんだ。もうここでやめないか、ってさ。……まぁ、無理だと思ったけどね。なんというか運命というか、抗えない力を感じてた。もうきっと、この流れを私に止めることは出来ないんだと。

 流れ込む魔王の力と意思。それは分割した時よりも濃く、多くなっていた。当たり前か、当時はまだ完全に魔王になる前だったんだし。

 私がこの半覚醒の状態で居続けるには苦痛が伴うの。手を離したスプーンが下に落ちるのを拒むのと同じようにね。いっそ魔王になっちゃう方が楽なんだけど、君に待っててって言われたから、せめて人間の姿で会いたいと思う。

 ……例え苦痛を和らげるために何をしでかしたとしても……。








 じゃあ最後に私のい場しょを かいておくね。私がま王になったらさ漠のせい域にいるから。できるかぎりのことをするつもりだけど、君がだめ
だと判 断したなら頃し  に来て欲しい。

                                  けえぐ
   


 わたしはやっぱりこのシナリオをとめられなかった。

193: 2014/12/02(火) 23:38:38.36 ID:wXEixC7c0
100

--王都、酒場跡--

大勇者「……」

かさっ

全てを読み終えた大勇者はそれをたたんで懐にしまった。

大剣士「……何が書いてあった? ウェイトレスはなんと?」

大勇者「魔王を裏で操っていた奴の正体がわかった」

大剣士「!! なぜ今……そうか、この事態を引き起こしたのもそいつの仕業ってわけか! そいつは今どこにいる!? もしやそれがウェイトレスなのか!?」

大勇者「……」

ざっ

大勇者は何も言わず背を向けて歩き出した。

大剣士「おい大勇者!! 他にはなにが書いてあったんだ!!」

大勇者「俺のことが好きだって」

大剣士「……はぁ!? お前何言ってんだ!? ちょっとそれよこせ! 俺にも見せろ!」

大勇者「やだよ、好きな女からのラブレターだぜ?」

大剣士「……は、はあああああああああああああ!?」

大勇者「じゃあちょっくら魔王に婚約を申し込みに行ってくる」

201: 2014/12/09(火) 02:51:14.88 ID:dpUFytP70
101

--王都、上空--

ばさっ、ばさっ

ウェイトレス「……」

悲しそうな顔のウェイトレス。

ウェイトレス「……ん?」

ばさっ

ウェイトレス達に接近する飛行物体。

ばさっばさっ!

竜騎士「ぶるぅぁぁああ……」

ウェイトレス「あ、誰かと思えば大勇者の兄ちゃんじゃん」

竜騎士「まぁさかぁ……お前がラスボスだったとはなぁ……」

ウェイトレス「……全部見てたんだ? まー、ラスボスになるつもりは無かったんだけどね」

竜騎士「……元より裏切るつもりで我が弟に近づいたのだな女狐めぇ!!……ゆるぅせん……我が弟のぉ純情をもて遊んだことを後悔するがいいぃ!!」

バリバリバリーーー!

ウェイトレス「……やれやれ、相変わらずのブラコンさんだねー」

202: 2014/12/09(火) 02:53:37.78 ID:dpUFytP70
102

--王都、上空--

竜騎士「最初から手加減無しよぉぉぉぉ!! 竜人モオオオオオオオオオオオオオドオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

ぶちぶちぶちぃ!!

盛り上がる筋肉で服が破けていく。

ウェイトレス「! 嘘、竜亜人……? いやでも少しいびつ……まさか」

竜騎士「感謝するがいぃ……これを見るのはお前が始めてだ女狐めぇ……。我は自分の手で倒した竜を食らいぃ続けた。その結果がぁこれなぁのぉだぁ!!」

竜騎士の頭部からは角が生え、鱗が全身を覆った。

ウェイトレス「吸収の因子があるってことなのかな……こりゃびっくら人間だー」

竜騎士「我は全てを倒しぃ! 全てを捕食しぃ! 全てを我が力と変えるぅぅぅ!! ゆえに最強無て」

ドオオオオオオオオオオン!!

台詞をさえぎって極大の魔力弾が打ち込まれる。

竜騎士「ごふっっっ!?!?」

ウェイトレス「悪いんですけど私急がしいんでー、じゃ」

竜騎士「かっは……い、一撃だとぉお……!? め、女狐めぇええええええええ!!」

ひゅるるるるる……

竜騎士は叫びながら落ちていく。

203: 2014/12/09(火) 02:54:52.66 ID:dpUFytP70
103

--王都--

大勇者「ん、今あっちの方角ですごい魔力反応が……」

大剣士「えぇい、話をそらすんじゃない! 全部話すと言っただろ!? 魔王に婚約だとかふざけたことを言う前にちゃんと説明しろ!!」

大勇者「……言ったっけ?」

大剣士「おのれあっさりと!!」

大賢者「いや違うぞ大剣士、本気の顔だあれ」

大勇者「んー……」

大勇者は頭をぼりぼりとかいた後、ため息をつきながら口を開いた。

大勇者「ウェイトレスが今までの魔王を操ってた本物の魔王だった」

大剣士「!!」

大賢者「信じられん……まったくそんなそぶりなど見せなかったのに……」

大盗賊「人間を観察していたということなんでしょうか」

大勇者「……」

204: 2014/12/09(火) 02:55:58.18 ID:dpUFytP70
104

--王都--

大剣士「……告白がどうのというのはお前なりに決着をつけに行く、と解釈していいんだな?」

大勇者「ん」

大剣士「……はぁ」

すたっ

大剣士は馬から下りた。

大剣士「俺の父様と母様は半モンスター化していた。元に戻す手段が無いと判断したため、この手で葬ってきた」

大勇者「!」

よく見ると大剣士の大剣は血でぬれていた。

大剣士「――なぁ、俺には敵を討つ権利があるとは思わないか?」

大勇者「……」

205: 2014/12/09(火) 02:56:49.86 ID:dpUFytP70
105

--王都--

大剣士「それでもお前は一人で向かう気なのか?」

大盗賊「大剣士……」(いやしかし言ってることは至極同然……)

大勇者「じゃあ、はっきり言おう。俺の勘だけど、お前達じゃ無理なんだ」

大賢者「!?」

大盗賊「な!?」

大剣士「無理というのは?」

大勇者「何も出来ずに瞬殺されるだろうってことだ」

大賢者「!……」

大盗賊「い、いくらなんでもそんな言い方は……」

206: 2014/12/09(火) 02:59:49.80 ID:dpUFytP70
106

--王都--

大剣士「それは勘か?」

大勇者「勘だ」

大剣士「そんな相手にお前ならどうにかなるのか?」

大勇者「俺にしかどうも出来ない」

それは脳筋だからこそ感じ取った答え。

大賢者「むちゃくちゃな……」

大盗賊「さすがにそんな理由で」

大剣士「……わかった」

大賢者「なに!?」

大盗賊「納得しちゃうんですか!?」

大剣士「するしかないだろ。こいつは嘘をつくタイプじゃあない。なら本当に俺らが戦ってもダメな相手なんだろう」

大勇者「……すまねぇ」

大剣士「謝るな。ただし道中は付いて行くぞ」

大勇者「え」

大剣士「途中でお前に倒れられても困る。お前には父様と母様と我が国民の仇を討ってもらわねばならないんだ」

大勇者「……あぁ、任せろ相棒」

207: 2014/12/09(火) 03:01:08.02 ID:dpUFytP70
107

--王都--

大剣士「さて、じゃあさっそく向かうか」

大賢者「大剣士、王都をどうするつもりだ」

大剣士「城の中に弟達はいなかった。きっと外にいたんだろう。兵に伝えておけば上手くやるだろう」

大賢者「……それでいいんだな?」

大剣士「俺は今敵討ちのことで頭がいっぱいで他のことを考えるつもりはない」

そういうと大剣士は馬に乗り、大勇者を促した。

大勇者「……よし、ぱぱっと行って終わらせてくるか」





……ザリ

五人の後姿を遠目で見ている者がいた。

警護兵「はぁ、はぁ……ど、どうなってるんだ……」

血まみれながらも生還した警備兵。

ずる、ずる

警備兵「く、行ってしまわれたか……何をそんなに急いで……ん?」

警備兵は瓦礫の傍に落ちている一冊の本を手に取った。

208: 2014/12/09(火) 03:02:50.42 ID:dpUFytP70
108

--氏の砂漠--

びゅおおおおおおおおおおお

大魔法使い「ちょっと! 私が寝ているうちになにがどうなってこんなことになってんのよ!!」

大剣士「おい! 本当にこっちであってんだろうな!?」

大勇者「いや勘で来たんだけど」

大賢者「お前の闘いの勘は信じられるがそっちの勘は信じられん!!」

大盗賊「大勇者が見てた手紙に、何か書いてあるものだと信じてついてきてみればこれですよ!」

大剣士「というかここお前の元ホームグラウンドなんじゃないのか?」

大盗賊「……あ」

大剣士「いや、あ、っていうか……」

209: 2014/12/09(火) 03:04:07.05 ID:dpUFytP70
109

--氏の砂漠--

大盗賊「そもそもどこに行きたいのかすら知らないんですよね。大勇者、どこに行きたいんですか?」

大勇者「砂漠の聖域とかいう場所」

大盗賊「……あ、あー! 聞いたことあります……けどそこに入るには亜人王に話を通さなくちゃいけないとか。なんでも亜人にとって大事な場所だとかで」

大剣士「む、亜人王か……」

大賢者「ついこの前会ったばかりだな」

大勇者「面識持っておいてよかったな。じゃあ話をしに直行するぞ」

大剣士「……」

大賢者「礼の会談の件、なんにも進展してないのに別件で行っても大丈夫なんだろうか」

大剣士「わからん。ただこちらも緊急事態だ。許してくれるだろう。あの男は大きな男だった」

大賢者「どこを見ていた?」

大剣士「ん?」

210: 2014/12/09(火) 03:05:44.67 ID:dpUFytP70
110

--王都、城--

第二王子「これは一体……これが父上なのか? こっちは……母上」

魔族と化した王や城の者達を見てショックを受ける第二王子。

第三王子「ち、父上……だれが一体こんなおぞましいことを……」

第三王子は泣き崩れる。それを支える側近の兵士達。

参謀長改め魔導大老(これは十中八九魔王側の仕業……全ての魔王を討伐したという報告を受けていますが、どうやらイレギュラーな事態が起きたようですね)

近衛兵「おいきさま! 止まれ! ここはお前のような兵士が入れる場所ではない! わきまえよ!!」

警備兵「ですがお伝えしたいことがあるのです! どうかお目通りを!!」

ワーワー!

研究員「なにやら騒がしいですねー。私でよければお話を伺いますよー」

近衛兵「研究員様!……しかし」

研究員「ここで騒いだら両殿下の気分を害されますー。ただでさえこんなことになってしまったというのにー。さ、別室で聞きましょうー」

警備兵「は、はい!」

211: 2014/12/09(火) 03:06:54.99 ID:dpUFytP70
111

--南の集落--

ばささっ

鷹男「亜人王、王国から人間が来たぞ」

亜人王「! 随分早い……あの人間達め、大きな口を叩くだけはある。我が出よう」

どすどすどすどす

亜人王(我の目に狂いは無かった……あの男に任せていれば人と亜人の種の隔てなく、平等で平和な世界を作ることが……)

亜人王は静かに口角をあげた。

どすどすどす

亜人王「待たせたな人間」

大勇者「お、亜人王この前ぶりー。実はさー、砂漠の聖域?の場所を教えてもらいたいんだよ。亜人王なら知ってるって聞いてさ」

亜人王「……え?」

大勇者「あ、出来れば地図描いてくれ。多少下手でもこの際許すから」

亜人王「え……」

大剣士「これやべーだろ」

212: 2014/12/09(火) 03:08:02.04 ID:dpUFytP70
112

--南の集落--

亜人王「……小僧……よもやあの約束を忘れたのではあるまいな……」

大勇者「あの約束?」

まじでわからん顔をしている大勇者を押しのけ大剣士が前にでる。

大剣士「もちろん覚えている。だが今回ここに来たのは緊急事態が起きたからなんだ」

亜人王「緊急事態……だと?」

大剣士「あぁ。俺達が倒した六体の魔王を、裏で操っていた者が現れた」

亜人王「!? なんだとぉ!?」

大賢者(大剣士、王都の被害のことは)

大剣士(わかっている)「そいつは王国の各地で暴れた後に砂漠の聖域に逃げ込んだらしい。ゆえに我らはこれを討伐するために追っている」

亜人王「む……魔王に関しては我々も対岸の火事ではない。そういうことであれば協力しよう」

大剣士「感謝する」

大勇者(約束って……また喧嘩しようぜってやつだっけ?)

213: 2014/12/09(火) 03:10:13.46 ID:dpUFytP70
113

--南の集落--

大剣士「事態は一刻を争う。出来るだけ早急に地図と情報が欲しい」

亜人王「わかった」

ずんっ

亜人王が立ち上がる。

亜人王「そういうことなら我も戦いに出向こう」

大賢者(! そうなるか)

亜人王「我が同行すれば地図などいらん。戦力も増えるし言うこと無いであろう?」

大剣士「……だが」

大勇者「いや、戦力はもういらないんだ」

亜人王「……なんだと? 我の力を無償で貸してやろうと言うのだぞ? はっきり言ってここにいる者の中で一番強い自信がある」

大勇者「そういうんじゃねぇんだ。あいつは俺じゃなきゃ倒せない……。なぜだかそれがはっきりとわかるんだ。あんたがついてこようが全人類が援軍に来ようが、あいつの前じゃ意味が無い」

亜人王「!?」

214: 2014/12/09(火) 03:12:07.72 ID:dpUFytP70
114

--南の集落--

亜人王(この亜人王に向かって意味が無い呼ばわりとは小僧!……だがこの眼、本気の眼だ……よくはわからんが確信しておる。そして本気で我の身を案じておる……)

大勇者「失礼な言い方ですまなかったな。でもそういうことなんだ」

亜人王「……」

大剣士「俺らも砂漠の聖域の入り口まで同行するだけだ。その後は全てこいつ一人にかかっている」

亜人王「……随分とよくわからないものを信じているな……」

大剣士「……こいつを信じるということはつまりはそうなるんだ」

亜人王と大剣士がしょうがなさそうに笑う。

亜人王「――わかった。地図を渡そう。武運を祈ってる」

大剣士「! 感謝する亜人王。かつてかわした約束、必ず果たしに帰ってくる」

215: 2014/12/09(火) 03:13:38.12 ID:dpUFytP70
115

--王都、城--

ぺら……

研究員「ほほほー! これは凄い……魔導大老が作ったのは知ってましたがこれは面白いですねー」

研究員は過去読みの書を読んで興奮している。

警備兵「研究員様! わかっていただけましたか!?」

研究員「わかってますよー。本当に面白いのはこの内容ですー。これは驚きの新事実ですよー」

研究員は満面の笑みを浮かべる。

研究員「これは急いで準備をしなきゃいけませんねー」

警備兵「それよりも先に両殿下に報告をお願いします! 研究員様から直接おっしゃっていただければ!!」

研究員「……」

警備兵「? 研究員様?」

研究員「その前に一つやらなきゃいけないことがありますねー」

警備兵「なんです? 私に出来ることがあればなんでも」

ぼふっ

警備兵「!?」

研究員は隠し持っていた薬玉を警備兵に投げつけた。

警備兵「ごほっ!? なっ、研究員様これは一体!……ぐ」

どさ

研究員「なぁに。ちょいとここ数日間の記憶を無くすだけですから安心してお眠りなさいよー。ふふふ……」

216: 2014/12/09(火) 03:14:23.69 ID:dpUFytP70
116

--氏の砂漠--

ホー、ホー

大魔法使い「ちょっと男共! 絶対に覗くんじゃないわよ!?」

大剣士「ふん、誰が貴様の裸を見たいなどと思うか」

大賢者「全くだ。大体一番疲れているのは大剣士なのだから一番風呂は大剣士に譲るべきだというのに」

大盗賊「まぁまぁレディファーストですよ透視眼」

流れるようにスキルを使う大盗賊。

ひゅっ

その瞬間氷の魔法が大盗賊の眼球をぶち破った。

大盗賊「んぎゃーーーーー!!」

大賢者「……いつものお前なら避けられるだろうに」

217: 2014/12/09(火) 03:15:16.10 ID:dpUFytP70
117

--氏の砂漠--

ひゅおぉぉお……

大勇者「しかし夜になっちまったか。さっさと着いておきたかったんだがな」

大盗賊「砂漠をなめてはいけませんよ。今回は運よく巨大な岩があったから良いものの、本来なら南の集落に戻るところです」

大勇者「だけど……」

大剣士「急いては事を仕損じる」



大剣士はコーヒーの入ったカップを大勇者に差し出した。

大勇者「……そうだな。すまねぇ」

大勇者はそれを受け取り口をつける。

大賢者「……」

218: 2014/12/09(火) 03:15:59.37 ID:dpUFytP70
118

--氏の砂漠--

大魔法使い「だから覗くなって言ってんじゃないのよ!!」

大盗賊『わおーん!』

大魔法使いの攻撃を避ける狼状態の大盗賊。

大魔法使い「おすわり!」

大盗賊『へっへっ!!』

バッキャーーーン!!

反射的に命令に従ってしまった大盗賊をレベル4魔法が襲う。

大勇者「しっかし、あんなことがあったっていうのにいつも通りだな俺ら」

大剣士「……」

大勇者「……すまねぇ。さすがに親父さん達の氏はそう簡単に吹っ切れるもんじゃねぇよな」

大剣士「そうだな……だが、お前らが傍にいるせいで思ったよりダメージが和らいでいる」

大賢者「……」

大勇者「せいってなんよ」

219: 2014/12/09(火) 03:18:49.34 ID:dpUFytP70
119

--氏の砂漠--

大盗賊『きゃいんきゃいん!』

大魔法使い「このバカ犬ーー!!」

暴れまわる二人とそれを遠めに見ている三人。

大剣士「やれやれ、あいつらに気を使わせてしまうようじゃ俺もおしまいだな。いつもどおりを振舞わせてしまっているとは」

大勇者「だな……」

大賢者「……そろそろ寝る時間だ。寝不足は体に良くない」

立ち上がる大賢者。

大剣士「……」

大勇者「……」

大剣士はコーヒーを口に含み、しばらくしてから、

大剣士「仲間というのは……いいもんなんだな」

と呟いた。


220: 2014/12/09(火) 03:20:05.12 ID:dpUFytP70
120

--氏の砂漠--

翌日。

ざっ、ざっ……

大剣士「もう少しだ。この分なら何事も無く着きそうだな」

大勇者「だな。よし、いっちょ気合いれていかないとな!」

大剣士「あぁ。全てはお前にかかっている。人類の命運も、俺の両親の仇もそして」

大賢者「……」

大剣士「――ウェイトレスのことも」

大魔法使い「……」

大勇者「……あぁ、わかってるよ。全部ちゃんと終わらせてくるさ」

……ォォオ

大盗賊「! 三時の方向から何か来ますね……それも一人や二人ではない、大軍……?」

大魔法使い「大賢者、サーチ!」

大賢者「わかっている。水属性空間把握魔法レベル4」

ぶぅん

大賢者「」

びょおおおおオオオオオオオオオオオオオオオ

大剣士「なんだ、何が近づいてくる……ん? あの旗は……」

ざっざっざっざっざっざっ

大賢者「どういうことだ……? 王国の一個師団が向かってきている……」

221: 2014/12/09(火) 03:22:26.48 ID:dpUFytP70
実は大剣士はパーティ結成当時は、
魔王討伐など俺だけで十分だー、仲間?何それ美味しいの?

的なキャラだったんですけど……最初を省いたせいで印象が薄くなってしまいました……。



それでは本日の投下はここまでになります。
疑問、質問等がありましたら気軽に書きこんでおいてください。
読んでいただきありがとうございました!m(__)m

224: 2014/12/16(火) 03:24:49.56 ID:U1r5IpiM0
遅れました。

はい、研究員も参謀長も実際高齢です。ただ研究員は肉体改造、参謀長(魔導大老)は若返りの魔法や不氏の魔法などで実年齢からは想像できない肉体の持ち主です。
ちなみに二人は四代目勇者の子孫であり、従弟同士です。アイ募の三部で会話してたりもします。


魔導大老の話をしますと、ブラが受けた子供を作る魔法の製作者だったりします。当時はいろいろな理由から出生率が低下していたので何かいい方法は無いか貴族に頼まれて作り上げました。使い手次第ですね。
あと魔導長の実の父だったり、秘書(受付)に暗殺されてたりします。


それでは投下していきます。

225: 2014/12/16(火) 03:26:39.25 ID:U1r5IpiM0
121

--氏の砂漠--

ざっ、ざっ、ざっ

王国騎士「……」

大剣士「……なぜだ。なぜ我が王国の兵士達がここに武装して集まっている……」

大賢者「止まれ! なぜお前達がここにいるのだ! 一体誰の命でここにいる!!」

第二王子「私ですよ。大賢者」

ざっ

大賢者「!!」

騎士達の中から現れたのは第二王子。

大剣士「……これは一体どういうことだ? なぜ兵を動かしている」

第二王子「なぜ、ですって?」

大剣士と第二王子が見つめあう。

第二王子「……私は信じていたのですよ兄上。貴方ならこの国をより良くしてくれるものと……それを……」

大剣士「? 何が言いたい?」

第二王子「あなた達を内乱罪で処刑します」

大勇者、大剣士、大賢者、大魔法使い、大盗賊「「「!?」」」

226: 2014/12/16(火) 03:29:15.04 ID:U1r5IpiM0
122

--氏の砂漠--

大魔法使い「え……何それ意味わかんない。なんでいきなりそんなことになってるのさ」

第二王子「言い逃れはよしてください。魔王を手引きし、国王や国民を斬頃したことは既にわかっているのですから」

大剣士「!! なんだと!?」

大賢者「何をおっしゃいますか! 人々のために魔王を討伐してきた我々がそんなことをするとお思いか!! いいがかりはよしていただきたい!!」

第二王子「は、いいがかりですと……? 父上たちを弔うことなく逃げるように王国から去っていった……これは明らかに不自然な行為だ。そんな者達の言うことを信じろと?」

大剣士「急務があったのだ! 国内のことはお前達に任せておけばよいと!」

第二王子「それに」

すっ

第二王子が懐から出したのは

大魔法使い「! それは過去読みの書!? 嘘、いつの間に落としてたの……?」

第二王子「これで大勇者、貴方の過去を見させてもらいました。ゆえに全てわかっているのです。貴方方が何をしでかしたのか。そして、これから貴方がどのようになっていくのかも……」

大勇者「……」

227: 2014/12/16(火) 03:33:31.78 ID:U1r5IpiM0
123

--氏の砂漠--

大賢者(さ、最悪だ……全てが最悪のタイミングで最悪な方向に進んでいる……どうする大剣士)

大剣士「……ち」

第二王子(みなまではいいません。ですが兄上ならもうわかっていることでしょう?)

第二王子は笑みを浮かべる。

第二王子(さぁ早く折れてください。勇者が魔王になるということをばらされたくないでしょう? 私も同じなんですよ。それをばらしてしまってはこれから勇者と名乗れなくなってしまうのだから)

大剣士「……」

第二王子(ふふ、手に取るようにわかりますよ、兄上は彼にこれ以上汚名を被せたく無いのですね? 人々のために戦ってきた男が魔王呼ばわり……それだけは避けたいはずだ。彼を人として氏なせてやりたいのなら……)

王国騎士「大剣士様……否定なさらないのですか……?」

しゃき、じゃき、ずらっ

兵達が剣を抜き構え始める。

王国騎士団長「わ、我輩は大剣士様を信じておったのです……残念だ」

大賢者「きさまら不敬であるぞ! 誰に向かって剣を向けているのだ!!」

第二王子「黙りなさい。もはや貴方たちは罪人だ。もはやその汚れた身、王国に連れ帰ることすら許されない。ここで散りなさい」

228: 2014/12/16(火) 03:37:46.33 ID:U1r5IpiM0
124

--氏の砂漠--

大剣士「……ふざけるな。我らがそんなことをするわけが無いだろう? 法廷でもなんでも開け、そこで潔白を証明してみせる」

第二王子「……その手には乗りませんよ。貴方達を王国に入れたら今度はどれだけの被害が出ることか……」

王国騎士「……」

大盗賊「やれやれ困りましたね、こんな濡れ衣で氏ぬなんてまっぴらごめんですよ。でもあれが相手の手の内にある以上、我々も辛いのは確か……」

大盗賊が小声で囁く。

大盗賊「とりあえずあれ取り返してきましょうか」

大勇者「ん、そだな。あれは大魔法使いの持ち物だ。頼む」

大盗賊「ですがその後のことは頼みましたよ。私が得意なのは盗むことだけですから。第二王子の記憶や、兵士の不信感を消すことはできません」

ざっ、ざっ

王国騎士「! 止まれ大盗賊!」

大盗賊「何が止まれですか。そっちはこれから私らを殺そうというんでしょう? これから頃すわけだが一切抵抗をしてはならないとおっしゃりたいんですかね。そんなの」

ひゅっ!!

王国騎士「!?」

大盗賊「まかりとおるわきゃないでしょう」

大盗賊が姿を消した。

大盗賊「スキル、インビジボォ」

229: 2014/12/16(火) 03:39:14.38 ID:U1r5IpiM0
125

--氏の砂漠--

王国騎士団長「く! 姿を消すスキルだ! 円陣を組み第二王子様を守れー!!」

第二王子「い、いいのですか兄上!? 私は全てを知っているのですよ!? こんな……ひ、ひぃ! お前達、私を守れ!!」



大魔法使い「大勇者今のうちに」

大勇者「ん?」

大魔法使いは親指で聖域を示す。

大魔法使い「あんたは行くんだ」

大勇者「え」

大魔法使い「え、じゃない。そのために私達は来たんだろ? 目的を忘れてるんじゃないよ。今ならあいつらも大盗賊に夢中だ」

わーわー!

大魔法使い「それにもしあんたが……魔王を倒して戻ってこれれば、交渉の材料に使えるかもしれない」

大勇者「……」

大賢者「……そうだな。行け大勇者。ここは我々に任せろ」

230: 2014/12/16(火) 03:40:21.32 ID:U1r5IpiM0
126

--氏の砂漠--

大勇者「けどお前らこれ……いや、わかった。悪いが行かせてもらうぜ」

ざっ

大勇者はみんなに背を向け、一人聖域へと向かっていく。

わー!わー!

大勇者「こんなことになっちまってすまなかった。だが氏ぬなよ、大剣士」

大剣士「…………あぁ」

大剣士は震えていた。

大盗賊「っし!!」

しゅぱぁああん!

第二王子「!? しまった!!」

しゅたっ、たたたたたーーーー!!

大盗賊「はぁ! はぁ! 取り返してきましたよ、過去読みの書」

大賢者「でかしたぞ!」

大盗賊は過去読みの書を大魔法使いに渡す。

大魔法使い「ごめん私のせいで。ありがと」

大盗賊「なんのですよおっOい」

231: 2014/12/16(火) 03:41:49.15 ID:U1r5IpiM0
127

--氏の砂漠--

ざわざわ

王国騎士団長「おのれ……第二王子様の所有物まで奪うとは……どこまで堕ちれば気が済むのか大勇者一行よ!!」

大盗賊「堕ちたとは心外ですね。我々は何も変わっちゃぁいませんよ。といいますかこの本は元々大魔法使いのものですし」

王国騎士「む……? なっ! おい大勇者がいないぞ!? いつの間に!?」

大魔法使い「はん、あんたたちがうちのわんこと遊んでる間に行ったよ。まぬけ」

第二王子「く……わ、私をこけにするのがそんなにお好きですか兄上……!」

大剣士「……そんなつもりは無い。兵を引け第二王子。お前は誤解している」

第二王子「この期に及んで世迷いごとを……!! 行け兵達よ!! あれはもはや王族の大剣士ではない! 魔王の手先ぞ!!」

わああああああああああああああああああああああああああ!!

大剣士「!!」

雪崩のように兵士が突っ込んでくる。

232: 2014/12/16(火) 03:43:36.87 ID:U1r5IpiM0
128

--氏の砂漠--

第二王子「討ち取れーー!! 討ち取ったものには褒美を取らすぞーーー!!」

わーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

大魔法使い「ち、戦うしかないね!」

大盗賊「残念、人との戦いは終わったと思ったのですがね……」

大賢者「大剣士! 来るぞ剣を構えろ!!」

大剣士「馬鹿者! 我が国の兵に、民に剣を向けられるわけが無いだろう!?」

大魔法使い「はぁあああ!? 何言ってんのこのアタマカタイ君は!?」

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

大賢者「……! 大剣士! 生き残ることを考えろ! お前はまだ氏んではならない男なんだ!」

ひゅぼぼぼぼ!!

走る兵達の頭上を追い越した火の魔法が、雨のように降り注ぐ。

大賢者「! 水属性防御魔法レベル4!!」

じゅじゅじゅっ!! どぉおん! じゅっ! どどどおおおん!!

大剣士「……何のために今まで戦ってきたと思っている! 俺達は人を守るために戦ってきたんだぞ……」

233: 2014/12/16(火) 03:44:44.64 ID:U1r5IpiM0
129

--氏の砂漠--

大剣士「王は民を斬らない……だから」

ぶわっ

土煙を突破してきた第一陣が、

大盗賊「はあああああああああ!!」

がぎいいいいいいいいいいん!!

大盗賊と接触する。

わあああああああああああああああああああああああああああああ!!

ぎんぎんがきぃん!!

大魔法使い「ちょ、大剣士本当に戦わない気!? 前衛なんだからしっかりしてよ! あぁもう! 氷属性生成魔法レベル3!」

ぱきぃん!!

わあああああああああああああああああ!!

大魔法使いは氷の剣を生成し迫り来る兵の剣を受けた。

がきいいいん!!

大剣士「……っ!!」

ぎり……

234: 2014/12/16(火) 03:45:46.25 ID:U1r5IpiM0
130

--氏の砂漠--

わああああああああ!!

第二王子「く……くく……」

騎士たちに守られている第二王子は大剣士達の戦う姿を眺めている。

第二王子(これで兄上を殺せば私が王になれる……そして同時に、魔王の手先を倒した勇者となるのだ)

第二王子は汗を垂らし、引きつりながら笑う。

第二王子(どうです兄上。勇者になれず勇者の従者になった貴方と違って、私は本物の勇者になることができるんですよ!)

わああああああああああ!!

大盗賊「く! 数が多い!」

きぃんぎぃいいん!!

大魔法使い「これじゃ! 詠唱時間をかせげっ! ない!」

大賢者「大剣士!!」

大剣士の大剣を持つ手は震えている。

大剣士「俺が民を斬って、どうするのだ……!」

235: 2014/12/16(火) 03:47:10.38 ID:U1r5IpiM0
131

--隠しダンジョン地下七階--

ニンギョ「ああああああああああああああああ!!!!」

大勇者「ふっ」

ぼぼぼっ!!

大勇者が三度拳を振るうと、その拳圧でニンギョの首が吹き飛んだ。

大勇者「ここにいるの結構強いな。先も長そうだ……早く戻らなきゃいけねぇのに」

どごおおおおおん!!

ミノタウロス希少種「ぐおあああああああああ!!」

大勇者「俺はさっさとウェイトレスに会いに行かなきゃならないんだよ。邪魔、すんな」

ドゴオオッ!!

眼にも映らぬジャブがミノタウロスの腹部を丸ごと吹き飛ばす。

236: 2014/12/16(火) 03:48:02.57 ID:U1r5IpiM0
132

--氏の砂漠--

わーわー!!

研究員「……」

戦場の後方で研究員は闘いを観察している。

研究員「勇者は魔王になる……実に面白いですねー。それが本当なら……くー、研究してみたいですー。早く捕まえてくれないですかなー」

237: 2014/12/16(火) 03:48:53.52 ID:U1r5IpiM0
133

--氏の砂漠--

王国騎士「はああああああああああああ!!」

シュパッ!

大魔法使い「つっ!」

ぶしゅっ!!

大盗賊「!? 大魔法使い!!」

大魔法使い「かすり傷よ! でもこのままじゃ埒があかないわ、大盗賊わんちゃんやって時間稼いで! 私が一撃で終わらせる!」

大剣士「な、大魔法使い貴様!」

大魔法使い「うるさい! わかってるわよ!!」

大盗賊「心得ました。土属性生成魔法レベル4、小月!」

ブゥウン!

大盗賊は上空に小さな月を作り上げる。

大盗賊「更にスキル、身体強化・獣化、狼」

アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

大盗賊は狼の姿に変身した。

238: 2014/12/16(火) 03:50:12.14 ID:U1r5IpiM0
134

--氏の砂漠--

王国騎士団長「大盗賊の獣化! 下がれお前達では無理だ! 私がでる!」

ひゅばっ! がきいいいいいいいいいいん!!

大盗賊『ぐっ! この速さに対応ですか。さすが騎士団長殿』

ぎんぎんぎぃいいいいいいいいいいん!!

王国騎士団長(速い。だが何も出来ない速さではない!!)「お前達は大魔法使いをやれ!!」

わあああああああああああ!!

一斉に大魔法使いに向かっていく騎士達。

大魔法使い「っ! まだ魔力練り上がってないってのに、大賢者!!」

大賢者「大剣士を守りながらお前まで守れると思うか? 無理だ!」

大魔法使い「だから過保護過ぎるっつーの!!」

王国騎士「魔王の手先め! 氏ね!!」

ひゅん!

239: 2014/12/16(火) 03:51:06.39 ID:U1r5IpiM0
135

--氏の砂漠--

大盗賊『』

すっ! ずばああああ!!

王国騎士「がはっ!?」

王国騎士を後ろから斬り付けたものは大盗賊。

王国騎士団長「! 私の太刀筋をもう読みきって切り抜けただと!?」

どしゃああん!!

大盗賊『……これでも我々は六体の魔王を討伐しているんですよ?』

ゴゴゴゴゴゴゴ……

王国騎士「……く」

大盗賊『大勇者パーティをなめないでいただきたい』

240: 2014/12/16(火) 03:52:17.77 ID:U1r5IpiM0
136

--隠しダンジョン地下六十九階--

ドラゴン「ぎゃああああああああああああああああああああす!!」

どごおおおおおおおおおおおおおおおん!!

登場したドラゴンを一撃で吹き飛ばす大勇者。

大勇者「結構深くまできたな。でももうそろそろだ」

かつんかつんかつん

大勇者「なんでかわかる……お前が近いってのを感じるんだ」

かつんかつんかつん

大勇者「……魔王討伐の時も少し感じてた。あれと似ている。でも今度のはそれらと比較にならないくらい、強く」

かつん


--隠しダンジョン地下七十階--

大勇者「……最深部か……壁も床も緑色に光ってら。綺麗だな」

   「でしょ? 私のお気に入りの場所さ」

最深部の奥には

大勇者「よ、会いに来たぜ。ウェイトレス」

ウェイトレス「……」

ウェイトレスと天使がいた。

241: 2014/12/16(火) 03:53:23.29 ID:U1r5IpiM0
137

--隠しダンジョン地下七十階--

ウェイトレス「……」

大勇者「……」

しばし見詰め合う二人。

ウェイトレス「……はぁ。まー……ぶっちゃけ来ると思ったよ君のことだからさ」

ウェイトレスは静かに眼を瞑り、開く。

ウェイトレス「決心は、ついたのかな?」

大勇者「ん」

かつん、かつん

大勇者「正直ここに来るまで迷ってた」

ウェイトレス「……そうなんだ?」

242: 2014/12/16(火) 03:54:38.04 ID:U1r5IpiM0
138

--氏の砂漠--

大盗賊『残念ながらここから先は通行止めなんですよ。通すわけにはいきません』

血まみれの大盗賊と息がきれている兵士達。

王国騎士「く……これだけの人数を相手に一人でもちこたえるとは……!」

大魔法使い「――オーケー大盗賊、準備できたよ」

王国騎士「!?」

大魔法使いの掌には巨大な魔力球が作り上げられていた。

大魔法使い「褒美として無事帰れたらおっOいを揉ませてやる」

大盗賊『まじ!?』

大魔法使い「……氷属性範囲攻撃魔法」

ぱき、ぱきぱきぱきぱきぱき!!

魔法の起動だけで周囲の空気が凍り付いていく。

王国騎士「く! 逃げろみんな!!」

王国騎士団長「いや、間に合わん」

大魔法使い「レベル4!!」

バッキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

243: 2014/12/16(火) 03:56:07.14 ID:U1r5IpiM0
139

--氏の砂漠--

ひゅおおおおおお……

大賢者「……なるほど、辺り一面を氷付けか……。これなら彼らが我々に向かってくることも、氏んで蘇生が間に合わなくなることも無い……」

大剣士「大魔法使い……」

大魔法使い「こいつらはあんたのもんだ。だからこいつらを頃すかどうかの責任もあんたのもんだ。これはあんたが背負うべき責任だろ」

大剣士「……」

大魔法使い「だから……後はあんたに任せたよ」

大剣士「……了解した。すまない」

大賢者「さて、あとは一人か」

第二王子「ひぃ……こ、こんな、全て氷付け……化物め……!」

大剣士「……」

244: 2014/12/16(火) 03:58:30.51 ID:U1r5IpiM0
140

--隠しダンジョン地下七十階--

ウェイトレス「迷ってたんなら、どうする? ここまで来ちゃったけど、やめる? 私は寛大だからエンカウント後でも逃がしてあげるよ」

大勇者「まじか」

ウェイトレス「まじ」

大勇者「んー……でもそれはいいや。もう決めたからよ」

ウェイトレス「……」

大勇者「出来ることなら闘いたくは無かったが……そうもいかん。俺は勇者でお前は魔王なんだから」

ウェイトレス「……」

ウェイトレスは床を見つめている。

大勇者「それに、あんな約束だけどお前との約束を破りたくもないしな」

ウェイトレス「」


         
     大勇者「ここに宣言する。俺達は必ずや全ての魔王を倒し尽くし、世界を平和にしてみせると!!」



ウェイトレス「……うん」



大勇者は静かに構える。

大勇者「――大好きだウェイトレス。ぶち頃してやるから覚悟しろ」

そう言って大勇者は微笑んだ。

ウェイトレス「……そのセリフ、そっくりそのまま返すわ」

ウェイトレスもまた微笑んだ。

大勇者「これが俺達の結婚式だ。盛大にやろう」

ダッ!

大勇者が駆ける。

245: 2014/12/16(火) 03:59:05.60 ID:U1r5IpiM0
それでは本日の投下はここまでになります。
疑問、質問等がありましたら気軽に書きこんでおいてください。
読んでいただきありがとうございました!m(__)m

勇者と魔王がアイを募集した【14】

引用: 勇者と魔王がアイを募集したFINAL+