250: 2014/12/23(火) 02:14:51.31 ID:J6j1KnsP0

251: 2014/12/23(火) 02:15:38.21 ID:J6j1KnsP0
141

--隠しダンジョン地下七十階--

ダダダダダダ!!

大勇者「……」

スッ

ウェイトレス「……」

大勇者が飛び、天使がレーザーを放つ。

カッ、ドオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

ウェイトレス「!」

空中で衝突する拳とレーザー。

大勇者「あああああああああああああああああああああ!!」

ばしぃん!!

ウェイトレス「嘘!? 拳でレベル7魔法相当の攻撃を吹き飛ばした!?」 

252: 2014/12/23(火) 02:17:07.87 ID:J6j1KnsP0
142

--隠しダンジョン地下七十階--

ビー! ビー!!

連射されるレーザーを次々に弾いていく大勇者。

ドガァン! ドガガガァアン!!

レーザーと拳による強烈な応酬。そのどれもが地形に傷跡を残すほどの莫大な魔力をまとった一撃。

ウェイトレス「レーザーを雲散させやがった……本当無茶苦茶な奴だなー。普段よりステータスがあがってる気がするけど……なるほど孤軍奮闘持ちか……」

ぶぅん

ウェイトレスは魔力で作った糸を展開する。

ウェイトレス「脳筋バカには搦め手でいかないと、ねっ!」

しゅばばばばば!!

大勇者「はぁっ!!」

どんっ!!

迫るウェイトレスの糸を気合で吹き飛ばす大勇者。

ウェイトレス「なんだこの脳筋搦め手も効かない!」

253: 2014/12/23(火) 02:19:32.90 ID:J6j1KnsP0
143

--隠しダンジョン地下七十階--

どおぉん! ずどおん!!

ウェイトレス(天使がパワー負けするとか! くー、一体なんなら大勇者をぎゃふんと言わせられるのよ。この短時間で一通り私の手の内は見せちゃったし……って私戦闘中にごちゃごちゃ考え過ぎ!)

大勇者「おらぁっ!」

どぉん!!

大勇者の拳が天使を弾き飛ばす。

天使「ぃqyうぃおうばえgじゃ!」

ウェイトレス(考えがさっきからまとまらない……思考に関与する自動スキルも持ってるっぽい? うーん、大勇者のくせにむかつくじゃん!)

そういうウェイトレスの表情は笑顔。

ドォンドォン!!

汗を撒き散らし、踊るように戦う二人。

ウェイトレス(今までで一番強い敵……ほとんど情報の無い最強の宿敵……焦りながら、ドキドキしながら本気で戦える……本当……楽しいな)

大勇者「……へっ」

大勇者もまた笑顔だった。

ドガガガガガガアアアアアアアアアアン!!

ウェイトレス(いつまでもこれが続けばいいのに)

大勇者「」

タンッ

ウェイトレスの糸と天使の攻撃を読みきった大勇者は全てをギリギリで回避し、

ボッ

ウェイトレス「」

ウェイトレスに一撃を入れた。

254: 2014/12/23(火) 02:21:22.24 ID:J6j1KnsP0
144

--隠しダンジョン地下七十階--

ずぐっ

スローになる感覚。

ウェイトレス(いっ……なに、これ……想定していたレベルとはかけ離れてる……そうか、これが勇者の力……魔王を倒す魔王特効の力)

大勇者「!」

ドギャシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

ウェイトレスを突き抜けた衝撃波は隠しダンジョン全体にひびをいれる。

ウェイトレス(一撃とは、思わなかったな……もっと、楽しみたかったのに)

ぶしゃああああああああ!!

大勇者「ウェイトレス!!」

がしっ!

大勇者は崩れ落ちるウェイトレスを抱きかかえた。大勇者もまたウェイトレスの脆さに驚いていた。

天使「……」

戦闘をやめ、二人を見守っている天使。

ウェイトレス「がはっごほっ……あ、あは……やられちった」

血を吐きなお笑うウェイトレス。

ウェイトレス「……さすが勇者様だね。私が見込んだだけはある」

ウェイトレスはそっと大勇者の頬に手を伸ばす。

大勇者「ウェイトレス……」

255: 2014/12/23(火) 02:24:07.57 ID:J6j1KnsP0
145

--隠しダンジョン地下七十階--

ウェイトレス「この天才人形師ウェイトレスちゃんを倒しちゃうなんてやるじゃん。少ししか戦えなかったけど、今までで一番わくわくしたよ……。今まで戦ってきた強敵は全部攻略本付きみたいなものだったし、どんな相手なのかわからないってのは、痛快だった」

大勇者「俺も楽しかったぞ。今までで最強の相手だった」

ウェイトレス「くすっ……でも私が魔王人形全部使ってたら負けなかったから」

大勇者「ふっ、そうかもな」

ウェイトレスの体重が少しずつ軽くなっていく。

大勇者「……」

ウェイトレス「……後悔してるの?」

ウェイトレスは大勇者の心を見透かしたように問う。

大勇者「……してるさ。もうどのことに対して後悔しているかわからん程度には」

ウェイトレス「ははは。人間は後悔する生き物だから後悔は悪いことじゃないよ」

スッ

ウェイトレスは大勇者に指輪を渡す。

ウェイトレス「でも絶望はダメ」

256: 2014/12/23(火) 02:25:52.82 ID:J6j1KnsP0
146

--隠しダンジョン地下七十階--

大勇者「これは……?」

ウェイトレス「君の次に大事な私の宝物。私の弟がくれた人間に戻るための道具……」


  ウェイトレスの弟「姉ちゃんは使命を果たしたらただの女に戻るんだ。その時にこういうのの一つでも持ってないと不便だろ?」


ウェイトレスは旅立ちの日のことを思い出す。

ウェイトレス「これは私の想いの結晶。千年に渡って力を込め続けたこの指輪なら、魔王の力を完全に封印できると思う」

大勇者「!?」

ウェイトレス「……いや、してみせる。想いで足りないなら呪ってでも」

ウェイトレスは覚悟を決めた眼をしている。

大勇者「手紙で未完成だと言っていた指輪か! 完成しているのなら今すぐつけろ! そうすればお前を殺さずに済む!」

ウェイトレス「うぅん、それは違う。これはまだ完成していない。これにはまだ魂が入っていないから」

大勇者「……?」

ウェイトレス「時間だけじゃこれを完成させることは出来なかった。この指輪はね、私が氏ぬことで初めて完成するの」

大勇者「!?」

257: 2014/12/23(火) 02:27:02.88 ID:J6j1KnsP0
147

--隠しダンジョン地下七十階--

大勇者「」

絶句する大勇者。

ウェイトレス「その指輪は私の核。破壊すれば私は氏ぬ。……そして残った指輪の残骸は私の血を吸って、魔王の骨として完成する」

大勇者「」

大勇者の掌にあるものはウェイトレスの命。

ウェイトレス「私はもうどうやっても魔王として終わる運命しかない。でも君は違う。この私の指輪が魔王にはさせない」

これがシナリオを止めるウェイトレス唯一の策だった。

大勇者「っ……お前を頃した俺にそれをつける資格はない……俺だけ、のうのうと生きるわけにはいかない」

ウェイトレス「生きて」

びきっ

ウェイトレスの手足がひび割れていく。そして中から人形のような材質の皮膚が露出する。

258: 2014/12/23(火) 02:30:40.95 ID:J6j1KnsP0
148

--隠しダンジョン地下七十階--

ウェイトレス「生きて、私のために。世界を平和にするって、そう言ったでしょ?」

大勇者「……言った……言ったがそれは」

ウェイトレス「君みたいな脳筋が魔王になったら世界が終わっちゃうよ? それじゃあ、ダメだよね?」

びきびきびき

ウェイトレス「……ちぇ、もうリミットみたい。……大勇者、指輪を壊して。私の体が変質し始めてるよ」

大勇者「ウェイトレス……」

ウェイトレス「その魔王の骨を取り込もうとしてるみたい。そしたら全部台無しなんだよ私の千年間」

大勇者「……」

大勇者はしばらくの間動かない。

ウェイトレス「大勇者……お願い」

大勇者はそっとウェイトレスの手を握る。

大勇者「――あぁ、世界を任せろ。俺がお前の意思を継ぐ。お前の戦いを無駄にはしない」

それを聞いたウェイトレスは目をつぶって笑う。

ウェイトレス「よかった」

びきびきっっ!!

ウィトレス「……それでは我が夫、大勇者は、健やかなる時も病める時も、世界を救うことを誓いますか?」

大勇者「……誓います」













バキッ

259: 2014/12/23(火) 02:32:30.39 ID:J6j1KnsP0
149

--氏の砂漠--

第二王子「あ、兄上……」

大剣士「……」

氷の大地と化した氏の砂漠で、あえて凍結させなかった第二王子と対峙している大剣士。

大魔法使い(さぁどうするつもり大剣士?)

大盗賊「……」

大賢者「大剣士……」

第二王子「わ、私は間違ったことをしたとは思ってませんよ!? 兄上達が未来の魔王を匿っているのがいけないのですから!!」

大魔法使い「……っ!?」

大剣士「何を言っている? でたらめはよせ、もうお前のバカ話を聞くものなどいないんだぞ」

第二王子「……え?」

大魔法使い「――あ、そ、そうだった……たてこんでたからつい……いやわざと考えないようにしてたんだ……」

大盗賊「大魔法使い? 顔色が優れませんけど大丈夫ですか?」

震える大魔法使いとそれに気づく大盗賊。

260: 2014/12/23(火) 02:34:45.32 ID:J6j1KnsP0
150

--氏の砂漠--

第二王子「え……あ、もしかして……ご存知無かったんですか兄上……? あの大勇者は」

大魔法使い(! 過去読みの書で読んだことをばらすつもりか!)

第二王子「魔王を倒した勇者は――」

大魔法使い「やめろ!!」

大魔法使いが駆け寄ろうとするが、

第二王子「次の魔王になってしまうんですよ」

一瞬早く言われてしまう。

大剣士、大賢者、大盗賊「「「!!??」」」

大魔法使い「ば、ばか王子!」

ドカッ!

第二王子「ぎゃふ!!」

大魔法使い「あんたは次から次へと余計なことを! 歯をくいし」

がしっ

大剣士が大魔法使いの腕を掴む。

大剣士「……そうかお前は知っていたんだな」

261: 2014/12/23(火) 02:36:48.03 ID:J6j1KnsP0
151

--氏の砂漠--

大魔法使い「っ!」

大剣士「知っていたんだな、各地の魔王の過去を読んでいたのだから。……やつらがどのような経緯をもって魔王になったのか……」

大魔法使い「っ」

ぱしっ

大魔法使いはつかまれた腕を振り払う。

大剣士「……なぜ今まで隠していた」

大魔法使い「い、言えるわけないでしょ!? あんなっ!……あれだけ人々の平和のために戦い続けているあいつが……魔王になっちゃうかもしれないなんてこと」

大盗賊「大魔法使い……」

第二王子「な、なんだ知らなかったのなら何も問題はないじゃないですか兄上! 魔王になる前に共に大勇者を倒して凱旋しましょう! 父上たちの件は私が上手く説明します! これで汚名をはら」

大剣士「第二王子、黙れ」

第二王子「ひゅっ!?」

大剣士に凄まれて第二王子は息が止まる。

大剣士「……」

大賢者(だが……これはやっかいなことになった……)

大盗賊(私達はどうすればいいのか……)

262: 2014/12/23(火) 02:39:27.83 ID:J6j1KnsP0
152

--氏の砂漠--

どごおおおおおおおおおん!!

その時砂漠の聖域の入り口が爆発する。

大剣士「!」

もくもくもく

大勇者「げほっごほっ……あー、遅くなっちまった、悪いな」

大勇者が現れた。

大魔法使い「……っ」

大勇者「ん? どうしたみんな。なんか暗いぞ?」

大剣士「……お互い様だ。お前も随分とテンションが低いじゃないか」

大勇者「そりゃぁ、な」

第二王子「ひ、ひっ!?」

大勇者を見て後ずさる第二王子。

263: 2014/12/23(火) 02:40:17.10 ID:J6j1KnsP0
153

--氏の砂漠--

ひゅおおおぉぉ

大勇者「なるほどね、凍結か。これなら確かに氏者を出さずにすむな」

辺りを見回した大勇者がそう呟く。

大剣士「ウェイトレスに止めを刺したんだな」

大勇者「あぁ……ちゃんとしたさ。半端はしない」

大剣士「そうか。ご苦労だった」



そして大剣士は

大勇者「!?」

がぎいいいいいいいいん!!

大剣で大勇者に斬りかかる。

大魔法使い「!! ちょっ、大剣士!!」

大盗賊「!」

大勇者「お、おい危ねぇぞ」

大剣士「……お前が次の魔王なのか?」

大勇者「!?」

264: 2014/12/23(火) 02:42:02.33 ID:J6j1KnsP0
154

--氏の砂漠--

ひゅおおおおぉぉおお……

大賢者「大剣士……」

大勇者「……なるほど、全部ばれちまったのか。なら、どうする?」

大盗賊「いっ!?」

大剣士「……」

大勇者「……」

しばし見詰め合う大勇者と大剣士。

すっ

大剣士「……なぜ今まで相談しなかった」

大剣士は大剣をひく。

大剣士「なぜそんなことをお前も大魔法使いも黙っていたのだ! 馬鹿者共が!! 俺達は仲間じゃあなかったのか!?」

ばきっ!!

大剣士の拳が大勇者の顔面を打つ。

265: 2014/12/23(火) 02:42:51.00 ID:J6j1KnsP0
155

--氏の砂漠--

第二王子「なぜ拳で!? 兄上! すぱっと斬っちゃってくださいよ!!」

ひゅおおぉぉおお

大勇者「……すまん。ことがことだけに中々言い出せなかった」

大魔法使い「……私も。ごめん」

大剣士「くそっ!」

ざんっ!

大剣士は砂漠に大剣を突き立てる。

大剣士「もっと早くそのことを知っていれば何か対処法があったかもしれないだろ! くそっ!!」

うろうろと歩き回った後もう一度大勇者を殴る大剣士。

ばきっ!!

大勇者「ごふっ!!」

266: 2014/12/23(火) 02:43:36.29 ID:J6j1KnsP0
156

--氏の砂漠--

大賢者「大剣士やめておけ、お前の拳は人を殴るようには出来ていない」

大剣士「……」

大剣士の拳から血が吹き出している。

大剣士「……っ」

大盗賊「……でもどうするんです大勇者。今のところあまり変化があるようには見えませんが、あなた自身は何かを感じてます?」

大勇者「いや今のところは大丈夫だな。左のほっぺが痛いだけだ」

すっく

大勇者が立ち上がる。

             「本当にそうかな?」

大勇者「」

その時少年の声が聞こえた。

267: 2014/12/23(火) 02:45:06.49 ID:J6j1KnsP0
157

--氏の砂漠--

???「魔王になることを知りながら最愛の女を手にかけた……それで絶望を感じないはずが無いじゃないか」

大勇者「だ、誰だ……?」

大剣士「ぬ?」

大勇者は辺りを見回した。
すると靄のようにうっすらと見える少年が近くで立っていた。

大魔法使い「だ、大勇者? 大丈夫……?」

???「誰よりも人々の平和を祈りながら戦い続けた君が、今度は人々を傷つける側の存在になる。それだけでも相当な苦痛だろうに」

大勇者「!」

その幻覚のようなものは大勇者に囁き続ける。

???「あそこは特別な場所だから僕も覗き見することが出来なかったんだけど、どうやらあれを持ち帰らなかったみたいだね? なぜだい? あれは君を助けるために彼女が命を代価にして作り上げものなのに」

大勇者「」

どごおおおおおおおおおおおおおおおおん!!

大勇者はそれがいる場所に拳を叩きこむ。

???「無駄だよ。僕に実体は無い。今はね」

268: 2014/12/23(火) 02:46:39.02 ID:J6j1KnsP0
158

--氏の砂漠--

大魔法使い「ちょっとどうしたのよ大勇者!」

大賢者「まさか……これがそうだというのか?」

大剣士「っ」

大剣士は大剣を握る。その手はがたがたと震えている。

???「もう僕の存在を認識してしまった時点で後戻りは出来ないよ。君は魔王になる運命なんだ」

大勇者「っ!!」

ドォンドォオオオン!!

大勇者の精神がいとも容易く揺さぶられてしまう。それは人の心を支配している。

第二王子「ひっひいいい!!!! ま、魔王が! 魔王だ!! たすけてくれーーーーー!!」

大盗賊「……どやら覚悟しなくちゃいけないみたいですね……」

すっ

大盗賊がナイフを取り出した。

???「何、魔王にだって存在意義がある。君もいずれ気づくはずさ、思ったより悪いもんじゃないよ」

大勇者「何……?」

???「いいねその眼。君は優秀な魔王になれそうだ。千年間も魔王としての責務を放棄した出来損ないのあの子と違って」

大勇者「」

269: 2014/12/23(火) 02:48:42.15 ID:J6j1KnsP0
159

--氏の砂漠--

大勇者が我を忘れて右拳に魔力をこめる。

ぎゅいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!

大賢者「!! あいつあれをここで放つつもりか!? 凍結させている兵が見えていないのか!?」

ダッ!

一番近くにいた大剣士が走りだす。

大勇者「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

ダダダッ!

大剣士「この、バカやろうおおおおおおおおおお!!」

どがっっ!!

大剣士が再び大勇者の顔面を殴った。

大勇者「!?」

どざざー!!

大魔法使い「あ、あ……」

オロオロと落ち着かない大魔法使い。その目元には涙が。

大勇者「い、いてて……大剣士」

ぐいっ!

大剣士「飲み込まれるんじゃねぇ!! 気をしっかり持て!! お前は大勇者だ!! 勇者なんだ!!」

270: 2014/12/23(火) 02:52:12.75 ID:J6j1KnsP0
160

--氏の砂漠--

大勇者「――」

大剣士「まだ終わったわけじゃない! 魔王になると決まったわけじゃない!」

大剣士は大勇者の顔を近づける。。

大剣士「俺達は諦めないぞ!! なんとかして魔王化を止める手段を見つけてやる!! 絶対に、お前を魔王になんてさせやしないっ!!」

大勇者「……大剣士」

???「……熱い男だね。だが理想が強過ぎて空回り。これから現実を知ってどんな風に変わっていくのか……楽しみだね」

それの声が少しだけ小さくなっていく。姿もほとんど透明になった。

大勇者「……」

それに比例して少しずつ大勇者の思考が元に戻っていく。

大勇者「……あぁ、俺だって諦めるつもりはねぇ!」

ざっ!

大勇者は立ち上がる。

大勇者「あいつにも託されたんだ。この世界の平和を。人類の未来を」

278: 2015/01/01(木) 23:54:24.54 ID:eugICbc90
161

--隠しダンジョン地下七十階--

ぴちょーん

大勇者が去った後、天使は静かに指輪を眺めていた。


大勇者「墓には備えものが必要だ。ここはあまりに寂しすぎる」


天使「……」

そう言って大勇者は天使に指輪を預けたのだった。

しゅる

天使は赤姫の姿に変身する。

赤姫「……男ってバカばかりね」

279: 2015/01/01(木) 23:56:37.76 ID:eugICbc90
162

--氏の砂漠--

大勇者「……」

大剣士「……」

二人は暫くの間対峙していたが、

第二王子「何を言っているんです兄上! さっきの奇行を見たでしょ!? そいつはすでに魔王なのです、運命は変えられない!」

第二王子の叫び。

大魔法使い「ちょっ、ほんとこいつは……!」

大剣士「第二王子」

第二王子「な、なんですか兄上……」

大剣士「こいつはまだ魔王ではない」

第二王子「いや、ですから」

大剣士「魔王になる前に頃すのではなく、俺は、魔王になるのを食い止めるべきだと考えている」

第二王子「甘いですよ兄上……兄上は魔王になるかもしれない人物を放っておくって言うのですか!? そんなもの人のためになりませんよ!? 猛獣を野放しにしているようなものだ!」

大剣士「これは決定だ。不服があるのか?」

大剣士が睨むと第二王子はわなわなと震え始める。

大魔法使い「……」

280: 2015/01/02(金) 00:00:52.04 ID:sPBvI0Uf0
163

--氏の砂漠--

大魔法使い「えい」

ぴっ

第二王子「あいたっ!? な、何をするか無礼者!」

ぱたむ

大魔法使いは抜いた髪の毛を過去読みの書に挟む。

第二王子「!? それは!」

ぺら

大魔法使い「……ふーん、なるほどね。私らが魔王の支配下に入って王国に手引きをしたと、ご丁寧に演説までしてる。あんたはそうやって国民を煽ってからここに来たと……」

大賢者「なんと……!」

第二王子「……そ、そいつの過去を見て判断した結果だ」

第二王子は狼狽している。

大剣士「……」

281: 2015/01/02(金) 00:06:00.82 ID:sPBvI0Uf0
164

--氏の砂漠--

大魔法使い「はぁ、どうする大剣士。簡単にはいかないわよこれ」

大盗賊「問題が山済みですねほんと」

ざっ

大剣士「……第二王子」

第二王子「な、なんですか兄上……もしや考え直してくださいましたか?」

大剣士「くどい。決定だと言ったはずだ。お前は俺の決定には従えないのか? どうしてもこいつを殺さなくては気がすまないのか?」

大勇者「……」

第二王子「あ、当たり前ですよ! 我が王家の繁栄のためにそいつは絶対に頃しておくべきです!! 人類最大の宿敵なんだ!! それが民の平和を考えるならです!!」

大剣士「」

ズバッ!!

大勇者「!?」

大魔法使い「なっ!?」

大剣士「……」

大剣士の大剣が第二王子を両断する。

第二王子「あ、あに、うえ」

どちゃり

282: 2015/01/02(金) 00:07:12.87 ID:sPBvI0Uf0
165

--氏の砂漠--

ぶしゅーーーーーーーーーー!!

大賢者「大剣士! 何を……!」

大剣士「……この者は王座と王冠に取り付かれた人間だ。いつか人類の障害となる」

ぶんっ、スチャッ

大剣士は血を払いホルダーに大剣を収める。

ふるっ

その手は静かに震えていた。

大盗賊「何も殺さなくても……」

大剣士「大魔法使い、この氷を溶かせ。兵を連れて帰るぞ」

大魔法使い「……いいのかい?」

大剣士「あぁ……これで全て解決する」

大賢者「大剣士……」

大勇者「お前……」

ズキン!

大勇者「っ!!」

その時大勇者の頭部に激痛が走る。

283: 2015/01/02(金) 00:11:11.83 ID:sPBvI0Uf0
166

--氏の砂漠--

???「中々面白い男だ。彼も相当の傑物だね。君がこの時代に産まれてこなければ、きっと彼が勇者だったろう」

またあの声が聞こえてくる。

???「ふふ。ごらんよ彼を。全てを守るために全てを失い始めた……これは見物だ」

大勇者は返り血を浴びた大剣士の横顔を見た。

ズキン、ズキン

大勇者「ッ!」

???「――そうそう、一つ忠告しておくよ大勇者。これから君は今以上に人のことで苦悩することになる。人に対する憎悪や絶望が、君を魔王に変えてしまうだろう」

大勇者「なに……?」

???「人の醜悪な心に触れないことだ。少しでも人間でいたいのならね」

大勇者「……」

その靄は笑っているような気がした。

284: 2015/01/02(金) 00:14:49.18 ID:sPBvI0Uf0
167

--氏の砂漠--

大剣士「――我々はあの日、王都に入り込んだ魔王を後一歩の所まで追い詰めた。だが卑怯にも魔王は逃げたのだ。このまま逃がしては次にいつこんなチャンスが来るかわからない。なので我々は王都の後始末より魔王に止めを刺すことを優先した。それがこいつに付け込まれる結果になった。許せ」

大剣士は首だけになった第二王子の顔を指差す。第二王子の顔は魔法によって醜悪な顔に変えられている。

王国騎士団長「……そうでしたか。魔王を手引きし、我々を騙していたのは第二王子……いや、この魔族だったのですね」

王国騎士「なんと……」

ざわざわ

王国騎士団長「……」

大剣士「どうした? 信じられないか?」

王国騎士団長「――いえ、信じます。大剣士様のことは幼少期より存じております。誰よりも正義を信じ、家族や民を愛した貴方があんな非道な行いをするはずが無い……よく考えれば当たり前なことでした。なぜあの時私は貴方を疑ってしまったのか……!」

大賢者(第二王子も王家の人間。不完全ではあるが、王の言の影響だろうな)

王国騎士団長「しかしなぜ我々を頃してくださらなかったのか……! 魔族の言葉に騙され、主たる王家に剣を向けてしまった……我々にもはや生きる価値などない!」

騎士団長は涙を流す。

大剣士「こんなことで氏のうとするな、騙されたお前たちに非は無い。これからも俺達や民の代わりに剣となってくれ」

王国騎士「うっ……大剣士様」

騎士達は涙を流す。

大魔法使い(これが王の言……結構簡単に丸く収まりそうじゃん……外堀は)

大盗賊(そのために払った犠牲……大剣士は大丈夫なのでしょうか)

285: 2015/01/02(金) 00:19:24.69 ID:sPBvI0Uf0
168

--氏の砂漠--

大剣士「それではこれより王国に帰還する!!」

オオーー!!

大勇者「……」

ザッ、ザッ

大魔法使い「ちょっと大勇者、大丈夫? 顔色が悪いわよ?」

大勇者「あぁ、大丈夫だ。ちょっとあいつとの戦いがこたえたのかもしれない……」

大魔法使い「……そうよね。それもあるんだもんね」

大盗賊(普通に考えたら最愛の人を自分の手にかけたんだ。それが原因で発狂したっておかしくない……)

ズキンズキン

大勇者(頭がいてぇ……くそ)

???「後ろの男が君を狙っているよ」

大勇者(……何?)

286: 2015/01/02(金) 00:24:26.14 ID:sPBvI0Uf0
169

--氏の砂漠--

大勇者は靄に言われて後ろを確認した。

赤髪の騎士「……」

凄まじい形相の男がこちらを見ていた。しかし大勇者の視線に気づくと顔をそらす。

???「彼は第二王子の近衛だったのさ。使えていた主が自分が凍っている間に殺された。今の彼は何を信じるんだろうか?」

ズキン!

大勇者「ぐぅ!」

大勇者は体勢を崩した。

大魔法使い「わ、ちょ!」

赤髪の騎士「! う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

ダダダダダ!!

それをチャンスと見たのか、赤髪の騎士が大勇者に飛び掛った。

ガギィイン!!

王国騎士団長「愚か者め!」

間に割って入り剣で受ける騎士団長。

王国騎士団長「この者を捕らえろ!! 王族にあだなした逆賊だ!!」

287: 2015/01/02(金) 00:32:06.91 ID:sPBvI0Uf0
170

--氏の砂漠--

ズキンズキン!!

大勇者(なんだ……これは……)

???「ふふ、ふふふふ……」

ざわざわ……

王国騎士団長「大丈夫ですか!? 攻撃は防いだと思いましたが」

大魔法使い「大丈夫、大勇者は魔王との戦いで大怪我を負ってるのよ。だから今のとは関係無いわ」

王国騎士団長「大怪我……それでしたらいい治療系魔法の使い手がこの中にいます。今呼んで参ります」

大盗賊「いえ結構ですよ。少々難度の高い魔法攻撃を受けたようでしてね。大賢者でもてこずるレベルなんです。こんな場所でうかつに触るわけにもいかなくて」

王国騎士団長「! なるほど。そもそも大賢者が治せない傷を我々でどうにかできるはずが無いですね。承知しました」

ぐっ

大盗賊は騎士団長に見えないように親指を立てる。

大魔法使い(……中々いい機転ね)

288: 2015/01/02(金) 00:33:41.55 ID:sPBvI0Uf0
171

--氏の砂漠--

夜。

ぱちぱち

大剣士「さすがに半日で氏の砂漠を越えるのは無理だったか」

大賢者「焦ることは無い。ここはまがりなりにも最悪の土地だ。用心して安全に進むべきなのだ」

大勇者「……」

大剣士「……大丈夫か?」

大勇者「あ、あぁ……こんなのへっちャらだぜ」

大魔法使い「……どんな感じなの? 隠し事はやめて」

大賢者「人払いはしてある。ここには我らしかいない」

大勇者「……そうだな。お前らに隠し事をしてもいかん」

ふぅー、と大勇者は息を吐く。

大勇者「なんか変な靄みたいなのが現れた。それでずッと囁いてくるんだ」

大盗賊(幻覚?)

大魔法使い(ヤクチュー?)

大勇者「人の負の感情が……流れ込んでくるんだ」

289: 2015/01/02(金) 00:34:53.33 ID:sPBvI0Uf0
172

--氏の砂漠--

ツー

大魔法使い「って、あんた頭から血がでてるわよ!」

大勇者「え」

大魔法使いが慌てて布を大勇者の頭部にあてがう。



大魔法使い「……何か硬いものが」

大魔法使いは布越しにそれを軽くなぞった。骨のように硬い何か……。

すっ

布を取って確認してみると

大魔法使い「!!」

まだ小さな角の先端が肉を突き破っていた。

290: 2015/01/02(金) 00:37:05.67 ID:sPBvI0Uf0
173

--氏の砂漠--

ヒュウゥウウウ

大魔法使い「……」

ざく

大盗賊「夜の砂漠は冷えますよ?」

大魔法使い「寒いのには慣れてるわ。私氷属性だし」

大盗賊「やれやれ」

大盗賊は持ってきていたマントをそっと大魔法使いにかける。

大魔法使い「……多分……普通の手段じゃ魔王化を止められないと思う」

大盗賊「……」

大魔法使い「このままじゃ……あいつが魔王になっちゃうよ……」

涙声になる大魔法使い。

大盗賊「……世界はまだ広いですよ」

大魔法使い「へ?」

大盗賊「この広い世界のどこかに、大勇者の魔王化を止める手段がありますよ」

大魔法使い「……」

大盗賊「探しに行きましょう。諦めるにはまだ早い」

291: 2015/01/02(金) 00:41:37.89 ID:sPBvI0Uf0
174

--氏の砂漠--

早朝。

チュンチュン

大盗賊「準備は出来ましたか?」

小声で話す大盗賊と頷く大魔法使い。

大勇者「……」

そして大勇者は大魔法使いに手を引かれて立っている。

大盗賊「これから透明化魔法を使います。なるべく魔力反応を出さないように。ではいきます」

大盗賊が魔法を唱えようと手をかざす。

大剣士「どこへ行くつもりだお前ら」

大盗賊「! だ、大剣士……」

あちゃー、と頭を抱える大魔法使い。

大賢者「この周辺一体はすでに俺の陣地だ。お前達が何をしようとしているのかなんてすぐにわかるぞ」

ざり

大剣士と大賢者が前と後ろから現れた。

292: 2015/01/02(金) 00:45:01.80 ID:sPBvI0Uf0
175

--氏の砂漠--

大盗賊(あっちのテントでぐっすり寝てたのを確認したんですけどね……大賢者の身代わり魔法でしたか)

大魔法使い「……大勇者の魔王化を止める方法を探しにいくのよ」

大剣士「お前達だけでか? なぜそのことを俺らに相談しない……」

大盗賊「……言えば貴方達も来るというはずだ。貴方達には国でやることがある」

大賢者「馬鹿な、そんなことは百も承知だ。大剣士は国のことも大勇者のことも両方救う気でいる。片方しか出来ない男ではない!」

大剣士「……」

大勇者「……」

大剣士は大勇者を見ている。

大魔法使い「――あんたら、大勇者の気持ちも考えなよ」

大賢者「なんだと? どういうことだ」

大魔法使い「ッ、この堅物ども……言わ」
大盗賊「これだけの時間を共にしたのに、みなまで言わねばわからねぇのか!!」

突如大盗賊が激昂する。

293: 2015/01/02(金) 00:46:59.98 ID:sPBvI0Uf0
176

--氏の砂漠--

大魔法使い「」

大賢者「ぬ……」

大魔法使い「……うわ、久々に見た大盗賊が怒る所」

大盗賊「ふー……!」

ゴゴゴゴゴゴ……

元砂漠の風の首領、黒風の狼と言われた男が怒気を放つ。

大賢者「ぐ……」

それに押されてしまう大賢者。

大剣士「――あぁ、それくらいわかっている」

それとは対照的に冷静な大剣士。

大剣士「だが水臭いだろう? これだけの時間を共にしたというのに」

大盗賊「ッ!……」

大剣士「頼れ俺たちを。そんなに俺達は頼りないのか?」

大勇者「……うん」








大剣士、大賢者、大魔法使い、大盗賊「「「は!?」」」

思いがけない台詞に一同がフリーズする。

大勇者「……なーんてウッソー」

大剣士、大賢者、大魔法使い、大盗賊「「「は!?」」」

294: 2015/01/02(金) 00:48:22.29 ID:sPBvI0Uf0
177

--氏の砂漠--

大剣士「き、貴様こんな時になにをふざけて」

大勇者「わ利ィ和りぃ。でmoみんナがぴリピりしテるのハ見た区なくてヨー」

ツー

大剣士「!」

大勇者の額を一筋の血が流れる。

大魔法使い(! こんないざこざでさえ負担がかかっちゃうの……?)

大剣士「っ! バカが! なら国に帰らなくてもいい! 俺がその旅についていけばいいだけの話だ!」

大賢者「ちょっ!? 大剣士それでは国が」

大剣士「お前に全て任せる! それで問題なしだ!」

大勇者「……おいオイ、そりャダメダロ」

大剣士「ダメじゃない!」

大盗賊「ふー……」

なんか真面目に怒ってるのが恥ずかしくなって少しずつ怒りが収まりつつある大盗賊。

大盗賊(……ち、俺も結構きてたんだな……鍛錬がたりん)

295: 2015/01/02(金) 00:50:45.88 ID:sPBvI0Uf0
178

--氏の砂漠--

大剣士「とにかく俺はついていく! これは決定だ!」

大賢者「お、落ち着け大剣士! というか静かにしないと兵達が!」

あたふたあたふた

大魔法使い「……くす」(はーあ。悩んで損した。やっぱり……仲間に気を使うのは私達らしくないわね)

大魔法使いの心を支配していた不安はいつの間にか吹き飛んでいた。

大賢者「く、そろそろ戻らないと身代わり魔法が解ける時間だ……どうするんだ大剣士!」

大剣士「だから俺は行くからお前だけ戻れ!」

大魔法使い「はいはい」

ぱんぱん

大魔法使い「……アンタは国に帰んな。お父上の後を継ぐんだろ?」

からかうように大魔法使いは言う。

大剣士「!! ふ、ふざけるな!! あいつがこんな状態なのに俺らだけ故郷に帰れるか!!」

大盗賊「……俺達があいつに付いている。お前はお前のできることをしろ」

まだテンションが戻りきらない大盗賊。

大賢者「……大剣士」

大勇者「ほーれ、行ッチまえョ!! オマエらなnカいなクタッて俺は困りゃシナいんダカらよっ」

296: 2015/01/02(金) 00:52:24.49 ID:sPBvI0Uf0
179

--氏の砂漠--

大剣士「……大勇者……」

大勇者「――50年だ」

大剣士「……何?」

大勇者「50年猶予をくれ」

大勇者の顔つきがさっきまでとはうって変わり真面目になる。

大勇者「今日から俺は50年、魔王にならずに耐えてみせる。その間にお前らは俺が魔王にならずに済む方法を探してくれ」

大剣士、大賢者「!!」

大剣士は絶句する。

大剣士(馬鹿な……今でさえ影響を受けてフラフラなんだぞ? まだ一日も経ってないというのに……それを50年だと?)

大賢者(無茶苦茶だ……絶対に無理だ……だがこの男は宣言したことを必ず守る男だ……)

大魔法使い「……私達も外側から探すわ。魔王化を止める方法を」

297: 2015/01/02(金) 00:53:57.91 ID:sPBvI0Uf0
180

--氏の砂漠--

大勇者「それに今の俺にとって人ごみは危険すぎる。人がたくさん居るところにいけば、大量の悪意が流れ込んできてすぐにでも魔王になっちまうかもしれない」

大剣士「……」

大勇者「だから行かせてくれ。そしてお前達はあの国に残ってくれ。それは逃げでもなんでもないぞ」

大剣士「……」

ざり

大勇者は大剣士に向かって歩いていく。

大勇者「……それと、魔王化を阻止出来なかった時のために、どうすればこの連鎖が終わるのか……その方法も見つけといてくれ」

大魔法使い「!」

大勇者「いつも頼みごとばっかで悪いなぁ。頼んだぞ相棒」

大勇者は拳を突き出した。

大剣士「……あぁ、わかったよ……! やってやる……例え何を犠牲にしてでもこの連鎖を断ち切ってやる。そしてお前がもうどうしようもなくなっちまったなら、この剣でお前に終わりをやる……だからそれまで……運命に飲まれるんじゃないぞ」

ゴツ

298: 2015/01/02(金) 00:57:14.97 ID:sPBvI0Uf0
181

--氏の砂漠--

ひゅおおおぉおおお

大賢者「……行ったか」

大剣士「くそ! 脳筋の分際でごちゃごちゃ考えやがって! まともに思考を練ることが出来ないくせにあいつめ!」

大剣士はまだぶつくさ言っている。

大剣士「……約束を違えるなよ。俺達も諦めないからな」

大賢者「……」



--氏の砂漠--

ヒュゥウウウゥ

大勇者「……っていうか今更だけどさ、お前らも大剣士たちと行けば良かったのに。俺についてくることなんて無かったんだぞ?」

大魔法使い「ばっかねぇ。あんた一人でまともに生活出来るわけないでしょ? 炊事洗濯なーんも出来ない男なんだから」

大盗賊「それに誰かと会話してないと衰えるの早いらしいですよ、脳。これ以上そこが筋肉になっては困りますからね」

大勇者「……なんかひどいな」

大魔法使い、大盗賊「「あっはっはっ」」

すねる大勇者を笑う二人。

大魔法使い「――最後まで一緒にいるわ。だって、私はあいつにあんたを任されたんだから」

大勇者「……ん? なんだって?」

大魔法使い「な、なんでもないわよ!!」

ザッ……

一人大勇者は後ろを振り返る。

大勇者「……あいつにも耐えられたんだ。俺もなんとかして耐えてみせる」

ザッ



それ以降、大勇者達は消息不明になる。

299: 2015/01/02(金) 00:59:20.39 ID:sPBvI0Uf0
182

--王国--

五年後。

かつかつかつかつ

大賢者「……全く、どこもかしこも反乱を起こしおって! 一体大剣士が王で何が不満なのだ!」

大賢者は大きなドアの前にまで来ると、襟をただし、丁寧にノックする。

コンコン

大剣士改め王様「入れ。静かにな」

大賢者「はっ」

ぎぃ

第三王子「はっ、はっ、はっ……あ、兄上……」

王様「あぁ、私はここにいるぞ」

ベッドで力なく横たわる第三王子と、その手を握る王様。

第三王子「すみません、どうやら私はここまでのようです……はっ、はっ……兄上が作る理想の王国のお手伝いができなくて、ごほっ! ざ、残念です……」

王様「何を言うのか。お前はまだ氏んではならない。私と共にこの王国の行く末を……」

第三王子「はっ、はっ……見てみたかったです……兄上の国を……」

最後にニコリと笑って第三王子は事切れる。

大賢者「……」

王様「……」

300: 2015/01/02(金) 01:02:05.13 ID:sPBvI0Uf0
183

--王国--

かつ、かつ、かつ、かつ

王様「反乱軍の方はどうだ?」

大賢者「東と西と北の地方がそれぞれ独立を望んでいる。それに便乗して亜人どもも動き出した。ふん、馬鹿な話だ。じきに騎士団に制圧されるだろうに」

王様「どうかな、わからんぞ。それに案外競争というのも悪くないかもしれん」

大賢者「な、正気か?」

王様「……冗談だ。気にするな」

すっ

研究員「やれやれ王様も人が悪いですねー。弟君が亡くなられたばかりだというのにもう政治のお話ですかー? それともこれも予定通りなのでしょうかー?」

大賢者「! 貴様、口が過ぎるぞ!」

王様「よい。それより研究員、研究の方は進んでいるのだろうな」

研究員「んー……それがあいにくさっぱりでして……さすがの私も無からの研究は厳しいと言いますかー。あ、そうそうー、そのことで王様にお願いがあって来ましたー。世界各地の遺跡を自分の足で調査したいのですが、許可降りませんかねー?」

大賢者「お前のような奴を野放しにすることなど出来るはずがない! 派遣する兵をこちらで選んで調査に向かわせる。それで我慢しろ!」

研究員「えー?」

王様「よい。好きにやれ」

大賢者「なにっ!?」

研究員「さすが王様ー話がわかりますねー。ではそのようにー」

すたたっ

大賢者「く……本当にいいのか? 奴を外に放てばたくさんの人が不幸になるぞ?」

王様「仕方が無い。俺の見立てでは時間はかなり押している。やれることはやらねば」

大賢者「……」

301: 2015/01/02(金) 01:04:27.89 ID:sPBvI0Uf0
184

--王国--

かつ、かつ、かつ

王様「大賢者よ」

大賢者「は」

王様「……あいつらの情報は無いのか?」

大賢者「! 伝えるのを忘れていた……。今朝連絡があったんだが、どうも一ヶ月前の東の戦で、大勇者らしき姿を見た兵がいたそうだ」

王様「!……あいつめ……まだ性懲りも無く争いの場に……」

大賢者「怨嗟乱れ舞う戦場……奴にとって最も辛い場所だろうに、それでも奴は戦わずにはいられないんだろうな……」

王様「人同士の戦いを止めるために、か」




--東の戦場--

どおぉおおん!! どがぁああああん!!

王国兵士「くそ! よくも我が友をおおおおおお!!」

東の兵士「村を焼くなど、人のすることかぁああああ!!」

がぎいいいいいいいいいいいいいいん!!

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

火と血が飛び散る壮絶な戦場に一人の男が参戦する。

ばしばしっ!!

王国兵士、東の兵士「「!?」」

二人の憎しみが篭った呪いの剣をそれぞれの手で受け止める。

大勇者「……ヴヴヴ」

王国兵士「! 悪鬼か!」

東の兵士「戦場の鬼! しょうこりもなく兵士の魂を奪いに来たか!!」

大勇者の眼は血走り、爪は黒く変色し、髪の毛は野獣のように伸び、頭部からは短い角が生えていた。

302: 2015/01/02(金) 01:05:06.35 ID:sPBvI0Uf0
185

--東の戦場--

オオオオオオ……

大盗賊「やれやれ……今回はちときつかったですね、ててっ」

血が滲む脇腹を抑えている大盗賊。

大魔法使い「大盗賊! ちょっと肩貸して!!」

大盗賊「!」

ボロボロになった大勇者を引きずるようにして現れる大魔法使い。

大勇者「ゼー、ゼー、ゼー……」

大盗賊「くっ」

がしっ

大盗賊は大勇者の肩に手を回して支える。

大勇者「ワ、わりィな……イツモいつも」

大盗賊「それは言わない約束ですよ」

大魔法使い「……」

303: 2015/01/02(金) 01:06:21.55 ID:sPBvI0Uf0
186

--東の戦場--

眼がうつろな大勇者を見てこみ上げる大魔法使い。

大魔法使い「……もうやめようよ大勇者……こんなことしたって意味無いのに……それどころかどんどん大勇者が傷ついていく……!」

大勇者の頭部から流れる血を拭う。

大勇者「……でもヨ、人間同士ノタタカイなんて、見たクねぇンダ……」

大盗賊「……」

大勇者「アイツの頑張りモ、俺達がヤッテきたことも、全部ムダになッちマウ……」

くすくすくす

靄が笑う。

???「なんて人間はおかしな生き物なんだろうか……他にも選択肢があっただろうに、苦悩の果てに、あえて辛い未来を選ぶ者達がいる……」

大勇者「……」

靄はすでに黒い渦のような存在感にまで進化している。

???「まるでピ工口だよ。君も、そして彼も」

大勇者「……」

304: 2015/01/02(金) 01:08:38.82 ID:sPBvI0Uf0
187

--王国--

更に八年後。

ギィ……

大賢者「王よ」

王様「……」

王様は大賢者以外と会う時は抜け殻のようになっていることが多くなった。

大賢者「少しは自分の体をいたわれ。お前は十二分によくやっている。だがこのままではお前が先に潰れるぞ……」

王様「俺がよくやっている、だと?」

がっ!!

王様はいきなり立ち上がって大賢者の胸倉を掴む。

王様「ならなぜ争いが無くならない!! なぜ魔王化を止める方法が見つからない!!」

大賢者「どれだけやってもすぐに結果が出ないものだってある!! だが確実に成果はあげているのだ、現にお前が本格的に戦争の指揮をするようになってから、敵味方の氏者数は激減したのだぞ! そこまで……思いつめるな」

王様はげっそりとやせ細っていた。

王様「……はは……全てを投げ打ってこの様だ……十数年も費やしてこの様だ。奴は今でも戦い続けているというのに……あの日の約束を守りながらな」

大賢者「……」

305: 2015/01/02(金) 01:11:02.75 ID:sPBvI0Uf0
188

--王国--

数日後。

妃「お初にお目にかかります王様。わたくしは妃と申します」

王様「貴女は確か……時の一族の……これはどういうことだ大賢者」

大賢者「気分転換がお前には必要だ」

王様「なんだと……?」

大賢者「人は一人では生きていけない。そしてどうやら私一人ではお前を支えきれないようだ」

王様「大賢者……?」

大賢者「つまりお見合いをします」

王様「……はい?」

大賢者「婚活です」

王様「はい?」

306: 2015/01/02(金) 01:13:40.19 ID:sPBvI0Uf0
189

--王国--

更に三年後。

王様「……」

大賢者「……いやはやあんなに小さかった大剣士がこんなに立派になって……うぅ」

王様「お前……なんだかんだ無礼だな。っていうか父親か!」

正装に身を包んだ王様を見て大賢者が泣く。

王様「……くそ、酔ってあんなことを言わねばよかった……」

妃「あら、プロポーズを後悔されているのですか?」

そこにウェディングドレス姿の妃が現れる。

大賢者「む」

王様「あ、あの日は酔いが回りすぎたのだ……俺らしくもない」

大賢者「やっと戦争が終結したのだからな。まだ各地にいざこざはあれど、長年の夢の一つを達成したのだ。酔うほど飲んで何が悪い」

王様「そ、そのせいでこんなことになってしまったんだぞ……」

妃「こんなこととは失礼ですね。……私はそのおかげで至上の幸福を感じました。貴方は違うのですか?」

じっと大勇者を見つめる妃。

王様「う……いや、その」

大賢者「お前今年で32なんだぞ? いい加減身を固めろ。世継ぎを作れ」

307: 2015/01/02(金) 01:14:42.01 ID:sPBvI0Uf0
190

--小部屋--

大盗賊「おいしそーな魚が釣れましたよー。大漁ーです!」

ぴちぴち

大魔法使い「あんがと、台所にあげといて」

洗濯物を干している大魔法使い。

ぱんぱん

大盗賊「了解しました。昼食が楽しみですよ」

ぎぃぎぃ

大勇者「……」

ロッキングチェアに揺れる大勇者は空をぼーっと眺めている。

大魔法使い「……」

大盗賊「……」

ぎぃぎぃ

308: 2015/01/02(金) 01:15:49.72 ID:sPBvI0Uf0
191

--王国--

更に八年後。

妃「……王様」

王様「……なんだ」

ベッドで向き合って正座している二人。

妃「もしやもしやと薄々感じてはいましたが、まさかさすがにそんなことは無いだろうとずぅぅぅぅぅぅぅっと、思っていたことがあるのですがよろしいですか?」

王様「だからなんだ。申せ」

妃「王様、子供ってどうやって出来るのか知ってますか?」

王様「無論だ。愛を育んでいればコウノトリさんが運んできてくれるのだ」

妃「ガッデム!!」

309: 2015/01/02(金) 01:17:29.38 ID:sPBvI0Uf0
192

--王国--

更に二年後。

?「おぎゃぁー! おぎゃぁー! おぎゃぁー!」

王様「おぉ……おぉ……」

妃「貴方……女の子です。可愛らしい私達の娘……」

王様「おぉ……!!」

王様は妃の抱く赤子にそっと触れる。

王様「っ……ぅ……」

すると王様の頬を暖かいものが流れた。

王様「……よくやった……妃」

震える声。

妃「はい。男の子で無いので後を継がせることは出来ませんが……」

王様「構わぬ……よくやった」

王様は壊れ物を触るように、震えながらやさしく赤子に触れる。

王様「……宝だ……」

大賢者「……」

部屋の外で静かに涙を流す大賢者。

310: 2015/01/02(金) 01:18:49.80 ID:sPBvI0Uf0
193

--王国--

?「あぶー」

王様「超まじくそかわ」

大賢者「キャラが!?」

妃「あらまぁ」

ずっと赤子を抱っこしている王様。

大賢者「……まさに目に入れても痛くない、って感じだな。喜ばしいが正直ショックだぞ」

王様「む、目に入れても……そういえばまだ試してなかったな。よし、我が瞳に来るがいい」

大賢者「やめろ!! それは無理だ!!」

?「あぶー」

王様「違うそっちはフランクだぞー」

311: 2015/01/02(金) 01:19:20.08 ID:sPBvI0Uf0
194

--王国--

数日後。

王様(研究員の研究の成果も徐々に上がってきている……後はお前を救うだけだ。待っていろ、大勇者)

こつん

研究員「こんばんは王様ー。少しお話したいことがありましてー」

王様「どうしたこんな時間に。申せ」

研究員「やー誠に申しづらいんですがねー? 実はですねー……」

研究員は一つ咳払いしてからそう続けた。

研究員「ご息女から勇者因子が検出されました」

312: 2015/01/02(金) 01:20:34.83 ID:sPBvI0Uf0
195

--王国--

ざぁああああーー

王様「……」

外は大雨で部屋が真っ暗になっているのに、明かりもつけず、力なく椅子にもたれかかっている。

王様「……浮かれ過ぎていたな」

ぽたっ

握り締めた拳から血が滴り落ちる。

王様「私だけ幸せを得ていた罰か……」

ぴしゃーん! ゴロゴロゴロ!!

ギィ

大賢者「王よ、いるのか?」

王様「……あぁ」

大賢者「明かりもつけずにどうしたのだ? 一体何をして」

ぼっ

大賢者があかりをともすと、

王様「……」

暗闇に覚悟を決めた王様の顔が浮かび上がる。

313: 2015/01/02(金) 01:21:51.44 ID:sPBvI0Uf0
196

--王国--

研究員「決心はついたのですねー?」

王様「……あぁ」

王様は、数日間寝てないかのような疲れた表情だ。

研究員「では、私のプランを説明させていただきますー」

バタン!

そこに妃が入ってくる。

王様「妃……」

妃「王様、あの子を……どうするおつもりですか?」

王様「……」

王様の表情は険しい。

王様「……最悪な環境で飼う。勇者としての本分を発揮できるように、決して殺さずにだ」

妃「!!……ひどい、貴方様はあの子の父親でありましょう!?」

王様「――勘違いをするな。人の子である前に、私は人の王なのだ。全て人類の未来にささげると誓った。そのためには人としての幸せなど捨てる」

妃「」

妃は表情を変えないまま、ぼろぼろと涙を零す。

妃「……」

王様「……」

妃「……わかりました。それでは私も捨てていただきたく思います」

314: 2015/01/02(金) 01:22:38.76 ID:sPBvI0Uf0
197

--渓谷--

強盗「へっへっへっ。こいつ中々もってやがるぜ」

強盗2「馬鹿なやつだ。抵抗しなけりゃ氏ぬことは無かったのによ」

げしっ

強盗2は氏体となった親子を蹴る。

強盗「嘘つけよ。どうせお前は頃すだろ抵抗しなくても」

強盗2「へっへっ、そいつはどうかな?」

強盗、強盗2「「はっ、はっ、はっ」」

ざっ……

強盗「! くそ見られたぞ! 誰だてめぇ!」

大勇者「……」

両腕に包帯を巻き、虚ろな表情をしている大勇者が立っていた。

大勇者「な、ぜ……こんなコトが、でキル」

大勇者は親子の氏体を見て涙を流す。

315: 2015/01/02(金) 01:23:32.39 ID:sPBvI0Uf0
198

--渓谷--

強盗(なんだこいつ浮浪者か?……なんにせよこいつらの知り合いってわけじゃなさそうだ)

強盗2「おいおいおっさんよぉ。おっさんには関係無いんだから関わらないでくれやぁ」

大勇者「……」

ざっ、ざっ……

大勇者は無言で歩き出す。

強盗2「ちょっ……やるってーのかい?」

ざっ、ざっ

大勇者は跪いて親子の瞼を閉じさせた。

強盗2「おうこら、無視してんじゃねーぞ!!」

ひゅっ!

強盗2がナイフを振りかざしたその時、

どがぁあああん!!

強盗2が吹っ飛んだ。

大勇者「俺は……一体何ノため二……」

316: 2015/01/02(金) 01:24:20.93 ID:sPBvI0Uf0
199

--渓谷--

どぎゃぁ!

岩に叩きつけられて血を吹く強盗2。

強盗「ひ、ひいいい!?」

ゆらっ

大勇者が静かに立ち上がる。

強盗「ま、待ってくれ! 謝る……近くの町で自首する! な! だから頼む許してくれ!!」

ざりっ

大勇者「俺は……」

ざっ、ざっ

強盗「ひっ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」

大勇者「アイツハナンノタメニタタカッテキタンダアァアァアァアァアアアアアアアアaaaaaaaaaaaaa!!」

317: 2015/01/02(金) 01:25:29.95 ID:sPBvI0Uf0
200

--王国--

数日後。

大賢者「本当にこれでいいのか? 王よ」

王様「あぁ……これしか無いのだ」

王様は赤子が産まれた時に絵描きに描かせた絵を眺めている。

王様「……研究員の言うことも一理あるのだ。誰からも愛を受けずに育てられたのなら……もし愛を知らなければ絶望することもないのではないか?……もしその通りだとするのなら、あいつは魔王にならずにすむかもしれん」

大賢者「……」

王様「あれからどれだけ調べても魔王化を止める手段を見つけることは出来なかった……だからこれも推測に過ぎぬ。だが……試す価値はある」

大賢者「……妃を同行させるのだろう? 愛から完全に切り離せては無いぞ?」

王様「あれには母親と名乗らせないよう約束させた。あくまで他人のように接しよ、と」

大賢者「……お前も非情になりきれない男だな」

王様「……」

318: 2015/01/02(金) 01:28:43.29 ID:sPBvI0Uf0
201

--王国--

コンコン

研究員「私ですー研究員ですー。ご報告に参りましたー」

王様「入れ」

ガチャ、ギィ

大賢者「! なんだそれは……なぜそんなものがここにいる」

ぺちぺちぺちぺち……

研究員が連れてきたのは、白ワニ。

王様「……」

白ワニ「……」

研究員「やだなー大賢者様ー。このお方はですねー」

研究員はにこりと笑って言う。

研究員「お妃様でございますよー」

大賢者「!!?? な、なんだとぉおお!!??」

王様「」

白ワニ「……」

白ワニは王様を見て静かに涙を流していた。

研究員「いえねー、王様はどうしてもお妃様をご同行させたいというではありませんかー。でもそれだと計画に支障が出ると考えたんですよー。そしてこれから行く場所はあまりに過酷。お妃様の肉体では耐えられないと判断しましたのでねー? 計画のためと、お妃様の健康のために尽力させていただきましたー」

ガッ!!

大賢者は研究員に掴みかかった。

研究員「えぶっ」

大賢者「貴様ぁっ!! お前は人を何だと思っているのか!! これが、人のすることか!?」

319: 2015/01/02(金) 01:29:42.88 ID:sPBvI0Uf0
202

--王国--

研究員「? なぜお叱りを受けているのかわかりませんねー……これがみんなが助かる方法だと考えてやったことなのですか」

ダンッ!

大賢者「やっていいことと悪いことがある!! 貴様は人道を踏み外したのだ!!」

研究者「存じておりますー」

大賢者「! なっ……」

研究員「ですが人類の未来のためですー。それ以上に優先するものは無いと私は常々考えて行動しているのですー」

大賢者「き、さま!」

王様「大賢者、やめろ」

大賢者「!? なんだと!? お前……」

王様「研究員……………………よくやった」

研究員「ははー」

すとっ

大賢者は研究員から手を離した。

つか、つか、つか

王は白ワニの所にまで歩いていき、しゃがみ込む。

320: 2015/01/02(金) 01:31:18.57 ID:sPBvI0Uf0
203

--王国--

王様「……妃、なのだな?」

白ワニ「……」

こくん

王様「そうか……すまなかったな。……今まで世話になった。あいつを頼んだぞ」

……こくん

王様「では研究員、後は頼んだぞ」

研究員「はっ、おまかせをー。さ、お妃様ー、足元に気をつけて行きますよー?」

白ワニ「……」

白ワニは最後に振り返って王の姿を見ると、研究員の後をついて行った。

ぺちぺちぺち……

王様「……」

大賢者「……あれ、だけか」

王様「……」

大賢者「あれだけしかかけてやる言葉が無かったのか……?」

王様「……」

321: 2015/01/02(金) 01:32:19.25 ID:sPBvI0Uf0
204

--王国--

ぽたっ、ぽたぽたっ

王の両手から血のしずくが落ちる。

ぽたたたっ

大賢者「お、王……」

王様「……親を失い、兄弟を失い、友を失い、妻を失い、そして……娘も失うことになる……ならば俺に残されているものは……人類の未来のみだ」

大賢者「……」

悲しみの色濃い魔力を溢れさせる王。

王様「――俺は、それのみを求め、ただそれのために命を捧げよう。これが我が天命だ」

血の涙を流す王。

322: 2015/01/02(金) 01:33:52.06 ID:sPBvI0Uf0
205

--王国--

三年後。

ドサッ!!

??「ぐふっ!」

王様「こいつがか……まだ子供ではないか」

縛られて王様の前に投げ出されたのは幼い暗殺者。

大賢者「あぁ。だがこいつが魔導大老を殺害したのだ。前もって騎士団長達と相談していなければ俺達もやられていただろう」

??「……」

王様「雇い主は?」

大賢者「吐かぬ。この歳で見上げたものだ」

かつ、かつ、かつ

王様は少女に近づいていく。

大賢者「! やめろ王、近づくな! 一応チェックはしたがこいつは何をしてくるかわかれん!」

王様「構わぬ」

323: 2015/01/02(金) 01:35:56.05 ID:sPBvI0Uf0
206

--王国--

大賢者(近距離の蘇生不能攻撃には対応できないんだぞ……)

王様「……」

??「殺せ」

王様「いや……それには惜しい才能だ」

ぐっ

王様は少女の頬に触れる。

??「……触れちゃったね」

少女はにやりと笑う。

??「もう貴方は私の確定範囲。ぱっと思いつく限りで32通りの頃し方を実行できるよ」

大賢者「!」

王様「そうか、凄いな」

??「……え」

王様「氏ぬのは怖くなど無い。むしろ生きるほうが辛いくらいだ」

??「は……王様がそんなわけ……」

王様「だが生を捨てられぬ使命があるのだ……まだ氏ぬことが出来ない」

みしっ

王様の魔力が音を立てる。

??(な、に……この人)

王様「なぁ少女よ。世界の秘密を知りたくは無いか?」

324: 2015/01/02(金) 01:36:37.53 ID:sPBvI0Uf0
207

--洞穴--

そして二十年後……。

大魔法使い「よいしょっと……」

ぎし、ぎし、ぎし

大盗賊「おぉ、戻ったか。いつもより遅いから心配しましたよ」

大魔法使い「なぁに、ちょいと途中で休んでいただけさ」

大勇者「    」

大魔法使い「……帰ったよ。さぁ、今から料理を作るからね」

洞穴の中にはすっかり歳を取り、老い衰えた三人がいた。

325: 2015/01/02(金) 01:37:32.62 ID:sPBvI0Uf0
208

--洞穴--

彼らはこの五十年間、世界中の争いを止めるために戦い続けた。楽しいことも喜べることも一切無く。身を切り、心を斬り、ただ平和のために戦った。

大魔法使い「……」

トントントントン

憎しみの渦である戦場に出向けば大勇者は激痛にのた打ち回ることになる。それでも大勇者は戦場に向かい続けた。まるで呪いのように。

大盗賊「もうすぐで食事です。また寒くなってきましたからね。暖かいものでも食べて元気をつけましょう」

大勇者「……」

大勇者の髪や爪は切っても切っても伸び続け、膨大な量になってしまっていた。

326: 2015/01/02(金) 01:38:07.93 ID:sPBvI0Uf0
209

--洞穴--

大魔法使い「ほらできたよ。暖かいシチュー」

大勇者の前に置き、スプーンを持たせてやる。

大魔法使い「大丈夫? 自分で食べれるかい?」

大勇者「……」

かくかくと動く大勇者はスプーンでシチューを掬おうとするのだが、

ぽたぽたぽたっ

口まで運ぶことが出来ない。

大魔法使い「……寒くてかじかんじゃったね? 私がやってあげるよ。ほらスプーンを貸して」

大勇者はそれでも自分ですくおうとするのだが、

ぽたぽたっ

大盗賊「……」

327: 2015/01/02(金) 01:40:14.64 ID:sPBvI0Uf0
210

--洞穴--

何回も何十回も何百回も何千回も後悔した。

もし自分があんな約束をしなければウェイトレスを苦しめることは無かった。
そうすれば大剣士の家族も氏なずにすんだのだ。

大剣士の家族が生きてさえいれば、きっと大勇者はウェイトレスと戦わなかっただろう。勇者という使命だけでは、大勇者はウェイトレスに拳を向けられない。
それほどまでに大勇者はウェイトレスを愛していた。

大勇者「……」

それらが積み重なった末路がこれだ。
指輪の装着はウェイトレスの遺言ではあったけど、自分だけ助かるのはどうしても許せなかった。

大魔法使い「……」

ぽたっ

大魔法使いの眼から涙が溢れる。

大魔法使い「大勇者……」

そっと大勇者の手を握る大魔法使い。

大魔法使い「あんたは……頑張ったよ……今まで、こんなになってまで頑張ったんだよ」

大盗賊「……えぇ」

大勇者「……」

大勇者は虚ろな眼で大魔法使いを見る。

大魔法使い「……」

大魔法使いは横目で大盗賊を確認する。大盗賊は静かに頷いた。

大魔法使い「もう――我慢しなくていいんだよ?」

328: 2015/01/02(金) 01:41:00.82 ID:sPBvI0Uf0
211

--洞穴--

大勇者「」

大勇者の震えがぴたりと止まる。

大盗賊「大勇者。もう、五十年経ったんですよ。あれから」

大勇者「」

大盗賊は大勇者の小さくなった肩を抱く。

大魔法使い「……私達ももう真っ黒さ。骨の髄までね。だからどこまでだって付いていくよ大勇者」

大盗賊「えぇ。むしろそっち側のほうが案外楽しいかもしれませんよ」

二人はニコリと笑った。

大勇者「」

驚いたように眼を見開く大勇者。

329: 2015/01/02(金) 01:42:28.99 ID:sPBvI0Uf0
212

--洞穴--

???「まさか、だよ。魔王の入り口でとどまり続けるなんて。しかもあんな負の感情渦巻く戦場に居続けたくせに……大した精神力だ。人外の域だ」

すっかり人の姿になった靄が喋る。

???「途中からあまりに頑張りを見せ付けられたものだから何も言えなくなっていたよ。でも、これが最後の忠告だよ」

大勇者「」

???「魔王になれ。楽になるんだ。もう、限界のはずだろう? 魂のきしむ音が聞こえるだろう?」

靄のその言葉は大勇者を心のそこから気遣っての言葉だと、大勇者は感じ取った。

大勇者「                           あ」

ぽろりと大勇者の瞳から黒い水が落ちる。

ぽろ、ぽろぽろぽろ……

それは周囲を汚染し、闇色に染め上げていく。

大勇者「あ   あ   あ    あ     あああ  あ   あああ」

どろどろり

大魔法使い「コレが……そうなんだね?」

大盗賊「大勇者。一人で抱え込み過ぎですよ。私達にも持たせてください。貴方が背負ったもの」

ずぶ

二人は自らそれに触れていく。

大勇者「あ  あ   ああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

330: 2015/01/02(金) 01:43:10.76 ID:sPBvI0Uf0
213

--王国--

かち、かち、かち、かち……

王様と大賢者は二人で時計を見ている。

大賢者「……王よ」

王様「あぁ。時間だ」

ずっ

王様は立ち上がり窓に近づいていく。

王様「魔王化を止める手立てはついぞ見つからなかった……だからこそ……もうこれでしか奴を救うことはできん」

??改め受付「ついに来たんですね。歴史を終わらせる時が」

王様「あぁ。このシナリオを必ず止めてみせる。犠牲になった全ての者のためにも!!」

331: 2015/01/02(金) 01:44:09.64 ID:sPBvI0Uf0
214

--王国--








勇者「というわけで魔王を倒しに行こうと思います」

王様「おお。頼んだぞ、勇者よ」

勇者「では」

ザッ

王様「あ、そうだ、ちょっとまって」

勇者「?」

王様「お供を今別室で待機させているんだ」

勇者「しかし……お言葉ですが王様、私一人でも大丈夫かと思いますが」

王様「いやいや、お供はいるよ。仲間というのはいいもんなんだ……本当にな。旅をしてみればわかる」

勇者「そうなん……ですか」

王様「あぁ。それと」

ズラァッ

王様は立てかけていた大剣を勇者に渡す。

勇者「……これは?」

王様「昔……私が使っていたものだ」

勇者「王様が?」

王様「あぁ。どうかこれであいつに……いや」

勇者「?」

王様「これなら魔王も倒せるだろう。そしてそなたの身も護ってくれるはずだ」

勇者「?……はい、ではありがたく頂戴いたします」

332: 2015/01/02(金) 01:47:32.85 ID:sPBvI0Uf0
215

--王国--

ぎぃ、ばたん

王様「……」

大賢者「行ったな。見送らなくていいのか?」

王様「必要あるまい」

どさり

王様は王座にこしかける。そして窓を見た。そこには疲れきった顔の男が映っていた。

王様「……大勇者よ。最後の約束を今、俺に変わり娘が果たしにいくぞ……あと少しだけ耐えてくれ」

大賢者「……」



--魔王城--

しゅぅうううぅうう……

洞穴から吹き出した黒い靄は周囲一帯を覆い尽くし、禍々しい城へとその姿を変えた。

大勇者改め魔王「……」

そしてその城の玉座に座るのは魔の王。

しゅうぅうう……

大魔法使い改めサキュバス「……これが新しい体……力が漲る……」

大盗賊改めワーウルフ「えぇ……老いたあの体が嘘のようだ……」

ザッ!

サキュバスとワーウルフは魔王の前で膝をつく。

サキュバス、ワーウルフ「「魔王様、ご命令を」」

魔王「……あぁ」




番外編、俺、勇者だけど魔王に求婚しにいく
        完






そして、勇者募集してたから王様に会いに行ったに続く……。

340: 2015/01/06(火) 02:05:59.20 ID:AYO7Ud690
またまた遅くなりました。

過去作との描写の差異は今の文章と昔の文章をそのまま混同させると違和感が出るかと思って調整いたしました。


王国は大勇者の時代は巨大な国家でした。大勇者は当時で言う東の地方の出身です。その後東の地方は国として独立したので、大勇者は東の王国出身という風に言われるようになりました。
特に考えずに書いてましたが、言われて見るとわかりづらいし、もしかするとそのことについて変なこと書いてたりしちゃうのかな……。


それでは投下していきます。

342: 2015/01/06(火) 02:08:57.87 ID:AYO7Ud690
461

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

ズズズズズズズ……

アッシュ(ち、聞いていたのと流れが違うじゃねぇか……いやでも多少の誤差があれ、フォーテが来たのは事実だ……)

レン(あのハイって娘。フォーテを前にして恐怖では無く驚きとにゃ?……まさか本当にこの子は未来から来たのかにゃ……?)

ポニテ(あっちゃーフォーテちゃんとこんな所でエンカウントとかお姉さん困っちゃったなー)

ユー「……」

ハイ「やっぱり流れが完全に変わっちゃってるよぉ……困った……」

フォーテ「……」

五人を見比べているフォーテ。

フォーテ(お姉ちゃんと一緒にいた三人は僕と会ったのにあまり動揺してない……残りの二人も普通そう……)

343: 2015/01/06(火) 02:10:47.43 ID:AYO7Ud690
462

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

フォーテ「なんか」

ハイ「あ」

フォーテ「面白く無ーいー」

ズズズズズズズズズズズ!!!!

フォーテの呪いが強まった。

オオオオオオオオオオオオ

ぐじゅ、じゅぞぞぞぞ

名状しがたい奇妙な物体がそこかしこから出現し、闇は濃さを増していく。

ギチギチギチ……

アッシュ(……おい、これ詰んだんじゃないか?)

レン(お迎えついでに全力で頃しに来るとか……なんでにゃ)

ポニテ(まいった……腹くくるしかないね)

ザッ!

フォーテ「っ」

全力の殺意を放つフォーテに対し、アッシュ達三人も応戦の構えを取った。

フォーテ「嘘……僕のことが怖くないの?」

344: 2015/01/06(火) 02:11:57.42 ID:AYO7Ud690
463

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

アッシュ「怖いさ」

レン「超怖いにゃ」

ポニテ「パンツびしょびしょだよ!」

各々が答える。

アッシュ「――だが、ここで氏ぬわけにはいかない」

レン「そう、たった一つのシンプルな答えってやつにゃ」

ポニテ「だから相手が誰であろうとも、私達は絶対に諦め無い」

ザンッ!

ハイ(……凄い、こんな魔力の持ち主相手に恐れながらも立ち向かっている……そうだ、この人達はそうなんだ、いつだって)

ぱんっ

ハイは自分の頬を叩く。

ハイ「……私も動揺してる場合じゃないですね」

345: 2015/01/06(火) 02:14:06.31 ID:AYO7Ud690
464

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

ハイ(でも、はっきり言ってアッシュ先輩達じゃどうあがいても勝てませんよねフォーテさんに……。私が加勢したって全く意味無いレベルですし……私に出来ること……この窮地を脱する何か……)

ユー「……」

ユーは悩むハイに身振り手振りで何かを伝える。

しゅばばっばば

ハイ「え? 未来で何を見てきたのかって? そりゃあ……」

アッシュ(あいつ! フォーテを目の前にしておしゃべりしてやがる!)

レン(バカなのか凄いのかもうわけわからんにゃ!)

ポニテ(凄いな新人さん……)

ハイ「……あ……あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

フォーテ「っ」

突然の大声にびっくりするフォーテ。

ハイ「ちょっと私行って来ます!」

ダッ!

346: 2015/01/06(火) 02:15:46.82 ID:AYO7Ud690
465

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

アッシュ「あ、おい!!」

ズズズ

フォーテ「わけわかんないお姉ちゃんだねー。僕から逃げられると思ってるのかなっ?」

ビャッ!!

ハイ「!?」

走り出したハイに迫る大量の氏者の腕。

アッシュ「ちぃ!」

シュンッ、ズババッ!!

ハイ「」

それらがハイに触れる前に、間に入って全てを切り刻むアッシュ。

ボトボトボト!

ポニテ「! 今まで私の隣にいたのに……アッシュ君速くなったね!」

レン「……そうみたいにゃね」

ハイ「アッシュ、先輩」

アッシュ「早く行けハイ! 何かに気づいたんだろう!? ならここは俺らに任せて行け!」

フォーテ「……」

347: 2015/01/06(火) 02:18:45.53 ID:AYO7Ud690
466

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

ハイ「すいません、すぐ戻りますからーー!!」

ダダダダダダ……

フォーテ「……」

アッシュ(……? えらいあっさり見逃してくれたな?)

フォーテ「……わっかんないなー」

ズズッズズズッズズズズズズ!!

フォーテの魔力の影響が強まって、その場にいるもの全員の五感が狂っていく。

アッシュ(うぐっ!? 目が回る)

ポニテ(何この異臭!)

レン(重力がっ、地面がわからないにゃ!)

フォーテ「お兄ちゃん達程度で僕を足止めできるわけ無いじゃない」

ドカカカカカッ!!

アッシュ「!?」

戸惑うアッシュ達の手足を闇の槍が突き刺さる。

アッシュ(見えもしなかった!)

レン(感じることさえ!!)

フォーテ「お兄ちゃん達はぁー、フォーテが邪魔だと思ったらー、それだけで消えなきゃいけないレベルの存在なんだよぉ?」

フォーテの邪悪な笑み。

ポニテ「――さぁ、それはどうかなー?」

フォーテ「」

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

フォーテを炎の渦が襲う。

348: 2015/01/06(火) 02:20:48.15 ID:AYO7Ud690
467

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

ゴオオオオオオオオオオ……パチ、パチ……

フォーテ「……」

ポニテ「ありゃ、やっぱりレベル4程度じゃ魔力障壁突破は無理かー。あははー」

アッシュ(あいつ、体を一瞬魔力に変えて槍の束縛を解いたのか……?……そっちも怠けていたわけじゃなさそうだな)

ぱきんっ

レン「あー、痛かったにゃ。頭部だったらあれだけで闘い終わってたにゃ」

ゴーレム「もっ」

気づけばレンの周りから槍が無くなり、代わりにゴーレムが二体立っていた。

しゅぅう……

槍にやられた傷口も完全に塞がっている。

フォーテ「……」

ズズズ……

フォーテ「おかしいな……なんでお兄ちゃん達は絶望しないのー? 僕に勝てないことくらいわかってるよねー?」

アッシュ「……あぁ、それくらいわかっているさ。だが絶望するほどじゃあないな」

ドズン!!

アッシュ「!!」

アッシュの心臓に闇の槍が突きたてられる。

フォーテ「そう。これでも?」

349: 2015/01/06(火) 02:22:07.34 ID:AYO7Ud690
468

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

アッシュ「がっ、はっ……」

ぽたっ、ぽたぽた……

フォーテ「……」

アッシュ「……あぁ、これでもさ」

フォーテ「っ」

アッシュ「絶望するのは氏んだ後でも遅くは無い」

アッシュは血を吐きながらにやりと笑う。

ユー「……」

フォーテ「……本当にわけわかんないや。お兄ちゃん達の今の状況は、手足をもがれて殺虫剤に浸けられてる虫と変わらないってのにさ」

アッシュ「……」

ポニテ「……」

レン「……」

フォーテ「なんで……そろいもそろってそんな目をしてるの?」

フォーテは、

フォーテ「むかつく」

ズッ!!!!!

凶悪な力を解放した。

350: 2015/01/06(火) 02:22:49.78 ID:AYO7Ud690
469

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

ズッ
ズッズ

ズズズズズズズズ!!

アッシュ(!! なんだこれは!!)




あ9-pw8-4gjkはおろgかえ
w-
あれdがえrがろg-8いじ-ゃおれいwj
ごあんrどgなおrfdg
あ-お-れ8ぎうあ9れwjごふぁlkj-でぎおうあhんdlkgfks--jhんkvjんしlf--じゃぃすdhgかdfjvmがいれう

ghばkdg----
あldしghじ-ゃお--いdjgぃあjd
gなおdjgfあ
あ--dk--gじゃおいjgdきあjd-ljぁげり  jn  いあf  あうえzkg
あろぎおsれいgj0934lzg  りgtじょあいr4 -- 

dg

-


ズズズズズ

1、あッシュが首ヲネジ切られて氏亡。蘇生不可。
2、ポニ手が内蔵を引きずりダされテ氏亡。蘇生不可。
3、れンガ脳をカき回されて氏亡。蘇生不可。
4、パーてィ全滅。蘇生不可。
5、人類全滅。やリ直し不可。



フォーテ「なら飛び切りの絶望を味あわせてあげるね。どうあがいても絶望ってやつを……」





※今回は自動で選択肢を選ばせてもらいます。

351: 2015/01/06(火) 02:23:57.91 ID:AYO7Ud690
470

--暗黒森林、保管庫、最下層--

ダダダダダダ!

ハイ「はっ、はっ、はっ!!」

ハイは暗闇の中を駆けている。

ハイ「思い出せ思い出せ、ツインテ先輩がいる場所の情報を思い出せ思い出せ」

ハイは走りながら頭を叩いている。

ハイ「く、実際に経験したことと一度読んだことじゃ記憶に差があり過ぎる……そのせいでさっきも」

ハイはその時ふとしたことに気づく。

ハイ「……そういえば」




月の光が差し込んでいるのを見つけたぱっちはその牢屋の中へ。

?「……」

そこに入っていたのはペンダントをつけたツインテールの少女。

ぱっち『うわびっくりした!? 気配がなんもなかったっぱ。って……これはまた綺麗な奴隷さんっぱね~』

ぱっちは逃げることも忘れ、月明かりに照らされた美しい顔に引き寄せられた。



ハイ「……月、明かり?」

ハイが見渡すこの場所は暗闇。月が差し込むなんてことはない。

ハイ「……もしかして場所間違えた?」

352: 2015/01/06(火) 02:26:47.84 ID:AYO7Ud690
471

--暗黒森林、保管庫、最下層--

ハイ「え、えぇ!? どこだっけ!? ツインテ先輩いるのどこだっけ? 一旦状況整理しよう。えっと、うちのカバ上司がお金に困ってコレクションのツインテ先輩を売るとかで、でも本当は売りたくなくて最後に……あ……ツインテ先輩あの人の屋敷だ……」

とんでもないことに気づいてしまったハイ。

ハイ「え、えー!? どうしよう!? 最下層から出口なんてあるの!? でも今上にいったらフォーテさんいるし……くっ!!」

奴隷「――おいおい、なんだなんださっきからうるせーなおめーは。見張りじゃねぇのか?」

ハイ「え?」

牢屋に入れられていた奴隷が声をかけてきた。

奴隷「お、なんだまぁまぁ可愛いじゃねぇの。へへ、そこで何してるかしらねぇけどよ、こっちこいよ。遊ぼうぜ」

ハイ「……」

ツカツカツカツカ

ハイは言われるがまま近づいていく。

奴隷「へへ、素直じゃねぇか。よしよし可愛がって……」

ハイ「攻撃」

ぺち

ハイのでこぴん。

奴隷「あたっ、な、何するんでぇ」

ハイ「条件達成、レベルアップ」

ばしゅっ

奴隷「……え?」

ハイ「レベル2、騎士……こうなりゃ、仕方ないよね」

353: 2015/01/06(火) 02:28:28.51 ID:AYO7Ud690
472

--暗黒森林、保管庫、最下層--

ズガッ!!

奴隷「!?」

そして今度は壁にヘッドバッド。

パラッ

ハイ「いっ……たぁ……」

奴隷「お、お前なにしてんだ!?」

ハイ「すぅー……」

がんっ!! がんっ!! がんっ!!!!

奴隷「お、おいー!! そんな本気でお前! 頭割れちまうぞ!?」

ぶしゅっ!!

ハイ「わ、割ろうと、してるんですっ!!」

どがっ!!

ぶしゅー!!

奴隷「あ、あわわ……」

ぼたっ、ぼたぼたぼたっ

ハイ「じょ、じょうへん……た、たっせい……れべるあっぷ」

バシューン!!

ハイの体が魔力に包まれ衣装が変わる。

ハイ「レベルッ3ー! 銃士!!」

奴隷「なんなんだこいつ……」

354: 2015/01/06(火) 02:31:08.41 ID:AYO7Ud690
473

--暗黒森林、保管庫、最下層--

ドクドクドク

レベルアップに伴ってハイの頭部のダメージは多少回復するも、まだ血は出続けている。

ジャコッ!!

ハイ「……月の位置はあっちだった。それで月明かりが差し込むってことは多分こっち……いや、あの時間が今と一緒かはわからない……」

ハイは壁に銃を向けてぶつぶつと呟いている。

ハイ「うぅ……あの屋敷どっちにあったのかな……くー、早くしないといけないのに!」

奴隷「お、おい大丈夫か……? あんなに血が出てて」

心配そうに見ている奴隷。

ハイ「他に参考になる文章はー! えーっと!」

奴隷「屋敷ってあれか? でっかい成金の屋敷のことか? その屋敷の方向を知りたいのか?」

ハイ「うるさいですよ! 今考えてるんだから話かけないでください!!」

奴隷「ひぃっ!?」

どすん

奴隷は驚いてしりもちをついてしまう。

ハイ「全く時間無いって言うのにぃ!……え、でっかい屋敷?……それだと思います! 知ってるんですか!? 知ってるんですか!?」

がしゃん!!

ハイは鉄格子に飛びついた。

奴隷「ひぃい!! 怖いよぉ!!」

355: 2015/01/06(火) 02:32:59.15 ID:AYO7Ud690
474

--暗黒森林、保管庫、最下層--

ハイ「いいから質問に答えてください! 知ってるんですか!?」

奴隷「お、俺も元々そこにいたんだよ。カバの旦那の所に……でも今回売りに出されて……そんで」

ハイ「カバ! そうですカバ!! そのカバの屋敷はどっちですか!?」

すっ

奴隷は指差した。

奴隷「そこの端の所に地下通路がある。それがその屋敷に繋がってるんだ。旦那はよくここのオークション利用してるからな、特別に事前に品物を見るために作らせたとかで……。あ、でも今は鍵が」

ハイ「あっりがっとうございーますっ!!」

ババババババババババ!!

ハイは銃を乱射し、道を塞ぐもの全てを破壊する。

ドガアアアアアアン!!

ハイ「ツインテ先輩! 待っててください!!」

356: 2015/01/06(火) 02:36:04.64 ID:AYO7Ud690
475

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

ゴゴゴゴゴゴゴ

アッシュ「……一体……どういうことだ?」

ポニテ「こんなことが、ありうるの?」

レン「……信じられないにゃ。誰か嘘だと言って欲しいにゃ」

ゴゴゴゴゴゴゴ

フォーテ「はぁ、はぁ、はぁ……」

ユー「……」

フォーテ「今度は全力だよっ!! ルート!!」

ズズズッ!!


1、アッシュ、ポニテ、レン、ユーが爆発して氏亡。
2、アッシュ、ポニテ、レン、ユーが感電して氏亡。
3、アッシュ、ポニテ、レン、ユーが溺氏して氏亡。


ユー「……!」

バッ!!

それに呼応してユーが手をかざす。すると

ぴしっ、ぴしぴし


1、アッ ュ、  テ、レ 、ユ が   て 亡。
2、ア シ   ニテ、 ン、 ーが感 して氏 。
3、 ッシ 、 ニ 、レ 、 ー   して  。


フォーテ「う、嘘だ……」

ぱきぃーん!!


1、フォーテが転んでなぜかユーに抱きつく。その際お互いの顔は相手の股間の前に来てしまう。
2、フォーテが転んでなぜかフォーテのパンツは脱がされてしまう。中に手が入ることも。
3、よくわからないけどなぜかフォーテの服の中に手が入ってしまいおっOいを揉む。乳Oはつまむし吸う。


フォーテ「また書き換えられたー!?」

357: 2015/01/06(火) 02:38:06.46 ID:AYO7Ud690
476

--暗黒森林、保管庫、下フロア--


2、フォーテが転んでなぜかフォーテのパンツは脱がされてしまう。中に手が入ることも。


フォーテ「じょ、冗談じゃないよ! そんな運命覆してやる!!」

ズズズズズ!!

フォーテは氏者の腕を総動員させてユーを殺そうとするのだが、

がしがしがし!

氏者の腕が絡まってしまい、強引に進もうとした氏者の腕が闇を引っ張る。

ずる

その拍子でフォーテの背後に設置していた闇から本体が出現。本体はフォーテにぶつかって、

ドンッ

フォーテ「あ、あ、あわわ」

前に投げ出されるフォーテ。

ユー「……」

そしてその先には真顔で両腕を広げているユー。

フォーテ「や、やだーーー!!」

ドシーン

アッシュ「……」

ぺろん

フォーテ「あ、やだー! 本当に脱がしたー!!」

ポニテ「……」

むにゅ

フォーテ「ひっ!? お、お尻触るなー!!」

レン「……」

フォーテ「う、うえぇえええええん!! この体はお姉ちゃんのものなのにー!! 汚されたーーうわああああああああん!!」



※フォーテちゃんは男の娘ですので。

358: 2015/01/06(火) 02:39:21.02 ID:AYO7Ud690
477

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

ゴゴゴゴゴ

アッシュ「なんだこのラブコメ展開は……あのフォーテがこうも簡単にパンツを脱がされるとは」

真顔で汗を垂らしているアッシュ。ついでにレンのゴーレムの治療を受けている。

ポニテ「……あのルートってやつ凄まじいね。運命を操る力なのかな」

ポニテは震えながら見ている。

レン「詳しいことはわからないけれど、ルートの書き換え合戦……これは多分とんでもないことにゃ」

全身の毛が逆立っているレン。

ユー「……」

フォーテ「そ、そんな……」

すっかりもみくちゃにされて右肩が露出しているフォーテ。

フォーテ「トリガーからもらったこの力が効かないだなんて」

ユー「!」

359: 2015/01/06(火) 02:40:17.43 ID:AYO7Ud690
478

--暗黒森林、屋敷、地下牢--

ダダダダダ!

ハイ(思いっきり音を立てちゃったからね、速攻で見つけなきゃ!)

ダダダダダ!!

走り回るハイ。だがそこはあっさりと見つかった。

ハイ「! 月明かり……!」

がしゃん!

鉄格子越しに牢屋を見る。すると。

?「……」

ハイ「あ……つ、ツインテ、先輩……」

月明かりに照らされた、美しいツインテールの男の娘がそこにいた。

360: 2015/01/06(火) 02:41:45.83 ID:AYO7Ud690
479

--暗黒森林、屋敷、地下牢--

ハイ「ツインテさん! 助けにきました!!」

?改めツインテ「……」

しかしツインテはぴくりとも反応しなかった。

ハイ「! そうか、今は心を閉ざしてる完全ガード状態だったんですよね……」

   屋敷兵「おい地下から大きな音がしたぞ!!」

その時上の階から慌しい物音が。

ハイ「! 気づかれ……るよねそりゃ。早くしないとここにも来ちゃう!」(何を言えばツインテ先輩は心を開いてくれる!? 思い出さなきゃ思い出さなきゃ!!)

ダダダダダ!!

ハイ「あ、あのですね! 私は未来から来た貴方の仲間なんです。信じられないかもしれないですけど、でも本当のことで、えっと……えっと!!」

ツインテ「……」

ツインテは人形のように宙を見ている。

ハイ(あわわわ! やっぱり私頭使うのなれてないーー!)

バンッ!!

屋敷兵「! そこのお前!! 何している!!」

ハイ「あ――お、起きてください! ゼロさん!!」

ツインテ「」

ぴくっ

361: 2015/01/06(火) 02:44:40.08 ID:AYO7Ud690
480

--暗黒森林、屋敷、地下牢--

屋敷兵「お前……この地下通路から無理やり忍び込んだのか!? ふざけやがって!」

ハイ「ツインテゼロさん! お願いです私と一緒に来てください! 大変なんです! 早くしないと先輩達がみんなフォーテさんにやられちゃう!!」

ツインテ「」

屋敷兵「こぉのっ!!」

ゴッ!

ハイ「ぎゃっ!!」

どたんっ!

屋敷兵は棍棒でハイの後頭部を打ち付けた。鉄格子でバウンドしたハイはそのまま床に倒れこむ。

ハイ「いっ……たぁ……」

どくどくどく

屋敷兵「けっ、どこの手のものかしっかり拷問した後で聞き出してやる……! ほら立て!」

ばしゅっ

屋敷兵「……ん?」

ツインテ「――君が誰だか僕には記憶が無いけれど」

すっ

ゆっくりと立ち上がったツインテの髪型はショートになっていた。

ツインテ「僕のことを君は知っているみたいだ。誰一人として知らないはずの本当の僕のことまで」

屋敷兵「お、お前、喋れて……」

ハイ「ゼロ、さん……」

368: 2015/01/13(火) 03:56:58.12 ID:moiQcL4n0
481

--暗黒森林、屋敷、地下牢--

屋敷兵「これは驚きだ……旦那がこれを知ったらさぞ嘆くだろうな。しかしなんでまた今になって喋りだしたんだ?」

ツインテ「ごめん。黙っててくれないか」

ぱきぃん

屋敷兵「」

ツインテが手をかざすと屋敷兵はそのまま床に崩れ落ちた。

どさり

ハイ「え……何をしたんですか?」

ツインテ「しばらくの間寝ていてもらうだけさ。さぁ」

びきっ、がららん

ツインテが一歩足を踏み出すと、鉄格子が独りでに細かく切断されて散らばった。

ツインテ「話してもらうよ。全部」

369: 2015/01/13(火) 03:58:07.27 ID:moiQcL4n0
482

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

フォーテ「げぶっ!」

びしゃっ

アッシュ「! あのフォーテが吐血……? 俺にはよくわからないが、そこまで追い込んでいるのか?」

レン「あのユーって人間、ただものじゃないにゃ」

フォーテ(ぐ……力を使いすぎちゃった……これ以上ルートは使えない……)

フォーテは自分の体をめちゃくちゃに弄り回したユーを睨む。

フォーテ(一体、何者……?)

ズズズズズ

再び闇が波のように押し寄せる。

フォーテ「――お兄ちゃん、勝った気でいるならまだ早いよ。僕はたとえ手足をもがれたって諦めない」

オオオオオオオオオオ

フォーテ「僕とお姉ちゃんの間に入ってくるやつは……皆頃しなんだああああああああああああああああああああ!!」

氏者の腕がユーを襲う。

370: 2015/01/13(火) 03:59:00.77 ID:moiQcL4n0
483

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

べキッ!

フォーテ「……え?」

それは攻撃を繰り出したフォーテにも想像しなかった結果。

バキッ! ドカッ!!

ユー「……!!」

ユーはレイピアで防御しようとしているのだが、その動きは遅く、一方的に嬲られていた。

フォーテ「なんで――。そうか、そうなんだ? その力はルートにしか使えないの!?」

ドギャッ!!

明らかに先ほどより動きが鈍っているユー。

フォーテ「それとも回数制限があるのかな?? きゃはは! なーんだ! どっちにしろ、悩むことなんて無かったんだ!!」

ズズズズズズズズズ!!

フォーテ「ルートなんか使わなくたって、僕の呪いで十分だったんだっ!!」

無数の闇の槍がユーに狙いをつけた。

371: 2015/01/13(火) 04:02:19.98 ID:moiQcL4n0
484

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

フォーテ「しんじゃえっ! 邪魔者っ!!」

ドヒュドヒュドヒュドヒュドヒュドヒュドヒュガギギイン!!

フォーテ「……弱っちぃお兄ちゃん達は後でゆっくり頃してあげるよぉ。フォーテはね? 今はその変なお兄ちゃんから頃したいの。だから邪魔しないで欲しいなぁ」

フォーテの前に立ちはだかるアッシュ、ポニテ、レン。

アッシュ「悪いな、いちいちお前の予定に合わせてはいられない」(やっべー! 目の前にするとやっぱこえーーー!!)

ポニテ「こんな魅力的なおねーさんをスルーとか、いけない子だよフォーテちゃん」(パンツはいて無くてよかった……)

レン「くっさ」

ユー「……」

フォーテは自分の前に立っている三人の背中を眺めている。

フォーテ「……フォーテ、そういうの嫌いだよっ。弱いくせに庇いあうってやつ」

ズズズズン!!

ポニテ(あ、あれ?)

アッシュ(! こいつパワーダウンしたと思ったんだが……)

レン(更に膨れ上がるのかにゃ……)

372: 2015/01/13(火) 04:03:51.74 ID:moiQcL4n0
485

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

フォーテ「フォーテね?……虫けらに邪魔されるの嫌いなのっ……潰れちゃえぇえええ!!」

ズオオオオオオ!!

ねじれ曲がった巨大な氏者の腕がアッシュ達に迫る。

アッシュ「はぁあああああああ!!」

ポニテ「あああああああああ!!」

ドギイイイイイイイイイイイイイン!!

その攻撃を二人がかりで受け止めることに成功する。

ぎしっ、ぎしいいいいいいいい!!

フォーテ「! 止めた……? 脆弱で矮小なお兄ちゃん達が僕の攻撃を……?」

レン「――人は成長する生き物なのにゃ」

フォーテの氏角に移動していたレンは、弓を構えていた。
フォーテがそちらに向くより早く、

レン「効果二重付与、貫通切断!」

ドシュッ!!

矢がフォーテに命中する。

373: 2015/01/13(火) 04:05:43.24 ID:moiQcL4n0
486

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

ブシュッ、ズバッ、ドチャッ!!

フォーテ「」

矢がフォーテの肉体を切り刻み貫通する。

どばちゃっ

レン(当たった……にゃ)

ポニテ(うお……最初に会った時のことを思い返せば、これは出来すぎだね)

アッシュ(俺達も成長した……が、それだけではこうはなるまい。やはりそれだけフォーテも消耗させられていたんだな)

フォーテ「あ……あ……」

胴体を両断させられたフォーテは自らの血で作った水溜りで泳ぐ。

ばちゃっ、ばちゃっ

フォーテ「い、痛い……痛いよぉ……」

ポニテ「……今思うと人に撃つような技じゃないよね」

レン「つい……」

374: 2015/01/13(火) 04:07:25.27 ID:moiQcL4n0
487

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

フォーテ「よくも」

ドロッ

フォーテの至る穴から血が流れ出す。

ざぁ……

アッシュ「! ヤバイ!」

その血は瞬く間に建物全体を覆っていく。

ざぁあ……

ポニテ「……参ったな。ちょっとはいい感じだと思ったんだけど……やっぱり倒せる気がしないや」

とぷん……くすくすくすくすくすくすくすくすくす

周囲から薄気味の悪い笑い声が聞こえてくる。

保管庫の奴隷「あー、あー、あー」

がしゃんがしゃんがしゃん

真っ赤に染まった奴隷達が鉄格子を掴んで歌を歌い始める。

レン「……底が知れないにゃ。やっぱりフォーテは世界観が違う感じにゃ」

375: 2015/01/13(火) 04:09:12.65 ID:moiQcL4n0
488

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

ずるっ……

内臓を引きずりながらフォーテが這う。

フォーテ「ねぇ……お兄ちゃん達はどうやって頃して欲しい? えへへ……」

真っ黒な眼窩から赤い血をたれ流して笑うフォーテ。

フォーテ「なんでも言ってっ。僕ならなんでも再現できるんだよよ? えへへ、あはは、いひひ」

アッシュ「……ポニテ後ろだ」

フォーテ「!」

ヒュッ!

後ろから迫っていた触手を紙一重で交わすポニテ。

ポニテ「うお、あぶなー……アレ食らったら多分一発だったかも」

フォーテ「……」

アッシュ「悪いなフォーテ。俺らの間にあるのは力の差だけだ。もう、飲まれたりはしない」

フォーテ「……」

376: 2015/01/13(火) 04:12:14.00 ID:moiQcL4n0
489

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

オオオオオオ……

フォーテ「……意味がわからないなぁ……僕には絶対に勝てないし、お兄ちゃん達は絶対に氏ぬんだよ? それなのに何その余裕……なんで怖がらないの?」

アッシュ「絶対に勝てない、までは同意する。お前は強過ぎる、俺達でどうにかなる相手じゃあない。だが絶対に氏ぬとは限らないぜ」

フォーテ「……はい?」

アッシュ「俺らには信じられる仲間がいる。そいつら次第じゃあ、あるいはなんとかなるかもしれないな」

びしっ

突如闇の空間に亀裂が走る。

びしっ、びしびしっ

そこからかすかな光が差し込んだ。

フォーテ「?……僕の制圧した空間が外から解除されている? こんなことが出来るのは……」

びしびしびしっ!!

アッシュ「……」

アッシュ達は薄目でその光の向こうを見る。

アッシュ「……久しぶりだな」

びしっ……ばりぃぃぃぃぃぃぃん!!

暗闇を吹き飛ばして現れたのは、

ツインテ「……」

377: 2015/01/13(火) 04:13:18.62 ID:moiQcL4n0
490

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

すたっ

ツインテ「……」

フォーテ「お、お姉ちゃん!?」

ツインテ「フォーテ、ちゃん」

元のツインテールに戻っているツインテは、ゆっくりとフォーテに近づいていく。

ぱしゃ、ぱしゃ

ツインテ「もう……こんなことはやめよう? フォーテちゃん」

フォーテ「お姉ちゃん……で、でもねっ、このお兄ちゃん達がっ」

がばっ

ツインテはフォーテを抱きしめる。

フォーテ「……お姉ちゃん」

しゅる……

フォーテの肉体が再生していく。

ツインテ「……」

378: 2015/01/13(火) 04:16:11.95 ID:moiQcL4n0
491

--過去、暗黒森林、屋敷、地下牢--

ツインテ「――なるほど、そういうことなのか」

ハイ「な、納得していただけました?」

ツインテ「信じがたい話だけど、それしか辻褄が合わないからね。納得するに足りる情報ばかりだったし」

ハイ「はぁ。こんなにあっさり信じてもらえたのは初めてかもしれません。盗賊さんはなんかカウントしたくない」

ツインテ「しかしだとするとこれはチャンスかな」

ハイ「え?」

ツインテ「フォーテがここに来ているんだろう?」

ハイ「はい……って、こんな話してる場合じゃないです! 早く皆さんを助けにいかないと!!」

ツインテ「そのことなんだけど、話を聞くに君とそのユーって人がいればフォーテを倒せそうなんだよね」

ハイ「……はい?」

ツインテ「知ってのとおり僕の目的はフォーテの抹殺だ。でも僕一人ではまだきついと分析してたから、近づいて少しずつ精神を狂わせていく算段だったんだ。でも君達がいるのならこの場で抹殺できそうだ」

ハイ「フォーテさんを……頃す、ってことですか?」

379: 2015/01/13(火) 04:18:44.40 ID:moiQcL4n0
492

--過去、暗黒森林、屋敷、地下牢--

ハイ「で、でもツインテさんはフォーテさんのことを大事な妹だとおっしゃってましたよ!? それなのに頃すだなんて……」

ツインテ「訂正するよ。正確には弟だ。あと君が言ってるツインテって言うのはおどおどしたボクのことだよね? あれのことは気にしなくていいよ。あれはそういうように設定した人格に過ぎないんだから」

ハイ「!そ……そんな言い方って」

ツインテ「知ってると思うけど主人格は元々僕なんだ。他のは役割を演じてるだけに、にに、に、に」

ハイ「? ツインテさん? どうしました? なんだか表情が引きつってるような……」

バツンッ!!

その時ツインテの右側だけヘアスタイルが変わった。

ツインテ「――そ、そんなことは、さ、させま、せん!!」

ツインテ(ゼロ)「馬鹿な……僕が表に出ている時に割り込んできた……?」

ぎぎっぎぎっ

ハイ「な、何がどうなってます!? 顔凄いことになってますよ!!」

380: 2015/01/13(火) 04:21:01.20 ID:moiQcL4n0
493

--過去、暗黒森林、屋敷、地下牢--

ツインテ(ゼロ)「これは……脳内会議を発動する必要がありそうだね」

ふっ

意識が飛び、ハイに向かって倒れるツインテ。

がしっ

ハイ「わっ、大丈夫ですかツインテさん!?」



--過去、ツインテの中--

ツインテ「う……ここは」

ツインテ(ストレート)「はぁ……久々に起きれたと思ったら脳内会議かよ、くそっ」

ツインテ(サイド)「ねー。たまには外の空気を吸ってみたいー」

ツインテ(ウェーブ)「……」

ツインテが気づくとそこは一度見たことのある光景が広がっていた。

ツインテ「! そうです! もう一人のボクがフォーテちゃんを消そうとしていて!……あれ? いませんね? そういえばあの人は一体……」

ツインテ(ストレート)「? 何の話だ? っていうか誰が開いたんだこの会議」

ツインテ(ゼロ)「僕だよ」

ツインテ(ストレート)「! 俺達以外の声!? 誰だ!? どこにいやがる!!」

ツインテ(ゼロ)「僕はここさ。この空間そのものが僕だ」

381: 2015/01/13(火) 04:23:09.27 ID:moiQcL4n0
494

--過去、ツインテの中--

ツインテ(ストレート)「……なんだと……?」

ツインテ(サイド)「ありえない。もしそれが本当なら……私達とは次元が違うレベルの存在じゃない」

ツインテ(ウェーブ)「私達の産みの親……」

ぼそりと呟くウェーブ。

ツインテ(ストレート)「……そもそも俺達はお前自体ろくに知らねぇんだよな……」

ストレートはウェーブを睨む。

ツインテ(サイド)「……なるほどー、私達の分岐元ってわけね。それで? その主人格様が私達に何の用なのかな?」

ツインテ(ストレート)「なっ、てめっ、何勝手に納得して話進めてんだ! 万回頃すぞ!!」

ツインテ(サイド)「納得しないと話が先に進まないじゃん。それに多分本当のことだし」

ツインテ(ストレート)「だからなんでそれがわかるんだよ!」

ツインテ「……魂が……そう言ってる」

ツインテが呟いた。

ツインテ「なんとなくわかります。彼こそが主人格なんだって」

382: 2015/01/13(火) 04:30:01.03 ID:moiQcL4n0
495

--過去、ツインテの中--

ツインテ(ゼロ)「理解が早くて助かるね。さすがは僕たち。……本当なら何も知らせずに各々の役割を果たしてもらうつもりだったんだけど」

ツインテ(ストレート)「……役割だぁ?」

ツインテ(ゼロ)「攻撃のストレート、情報のサイド、防御のウェーブ、治癒のツインテ。それが君達の役割。僕たちは一人で五役、一人のパーティなんだよ」

ゼロは笑う。

ツインテ(ゼロ)「――フォーテを抹頃するためのね」

ツインテ(ストレート)(サイド)「「!?」」

ツインテ(ゼロ)「その時が来た。どうか力を貸して欲しい。フォーテ抹殺の時が来た」

ツインテ(ストレート)「い、いきなり過ぎるし説明も足りねぇ!……一体何を言ってんだかさっぱりだぜ!」(……でも)

ツインテ(サイド)「右に同じー。大体あの子は歪んでいても弟なのよ? そんなこと出来るわけないじゃない」(……なぜか心の奥底で彼の言葉に従おうとしている)

ツインテ(ウェーブ)「……」

ツインテ「……」

383: 2015/01/13(火) 04:35:50.11 ID:moiQcL4n0
496

--過去、ツインテの中--

ツインテ「ボクはいやです――」

ツインテはきっぱりと断った。

ツインテ「ボクはフォーテちゃんを頃したくなんてありません。たとえボク達がそのために生み出されたのだとしても、ボクは嫌です」

ツインテ(ストレート)「お前……」

ツインテ(サイド)「……ねぇ、一つ質問いいかな?」

ツインテ(ゼロ)「構わないよ。どうぞ」

ツインテ(サイド)「フォーテを抹頃するのが目的っていうのは……わかった。それを私達に隠してた理由も勝手に自己解決したよ。――でもそれならなんで今更私達に教えるわけ? 今まで内緒にしてきたんだし、貴方なら無自覚のまま操ることが出来たんじゃないの?」

ツインテ(ゼロ)「……」

ツインテ(サイド)「――予想外のことが起きたのね?」

ツインテ(ゼロ)「……あぁ」

その一言を聞いたストレート、サイド、ウェーブはツインテに目をやる。

384: 2015/01/13(火) 04:38:46.88 ID:moiQcL4n0
497

--過去、ツインテの中--

ツインテ(ゼロ)「……っと、言葉よりもこっちの方が君達を納得させられるかな。今、君達に僕の知る情報の全てを送ったよ。最初からこれをすればよかった。僕も焦っているのかもしれない」

その情報に目を通すツインテ一同。

ツインテ(ストレート)「……ち」

ツインテ(サイド)(……私達が作られた存在だっていうのはやっぱりむかつく……でもこれを見たら、納得しないわけにもいかないわ。一番平和的に世界を護る方法を、必氏に考えたうえで行動に移したっていうのが痛いほどわかるから)

ツインテ「嫌です」

ツインテ(ウェーブ)「……」

ツインテ(ストレート)「お、おいちゃんと読んだか? 男女」

ツインテ「何を見せられてもボクの意見は変わりません。どんな理由があってもフォーテちゃんを頃す理由にはなりません」

ツインテは一切怯えることなく、つかえることなく、しっかりと背筋を伸ばして言い切った。

ツインテ(ゼロ)「……」

ツインテ「フォーテちゃんは絶対に殺させません」

ツインテゼロはかつてのツインテを思い返す。一人じゃ何も出来なかった頃のツインテを。

ツインテ(ゼロ)(戦力を高めるためにと、旅に出したのは失敗だったのか……)

385: 2015/01/13(火) 04:42:22.91 ID:moiQcL4n0
498

--過去、ツインテの中--

ツインテ(ゼロ)「……君のいいたいことはわかった。でもね、そもそも君達に権利は無いんだ。僕は今君達に協力を願っているけれど、もし僕の意見に賛同できないのなら君らを作りかえるだけなんだよ。精神操作はおてのものだからね」

ツインテ(ストレート)「!? てめぇ!」

ツインテ(サイド)(話をこうもっていきますかー! 今なら主人格に何が出来るかわかっちゃってる……これじゃあ従うしか……無いじゃない)

ツインテ「……」

ツインテ(ゼロ)(……そもそもツインテは他の人格と事情が違った。フォーテに取り入るために作り上げた存在……だからこう成長するのも仕方が無いことなのかもしれないが……だがこれ以上暴走する前に、不安要素は消さなくてはならない)

ゼロは返答いかんによってはツインテの再構成を決意する。

ツインテ「―もっと、いい方法があると思いませんか?」

ツインテ(ゼロ)「……なんだって?」

ツインテ「殺さなくてもいい方法です」

ツインテ(ゼロ)「……フォーテはトリガーのヨリシロだ。破壊しなければ意味が無いよ。他の方法などありえない」

ツインテ「そうでしょうか? トリガーさんがヨリシロに選ぶほどの存在なんですよフォーテちゃんは」

ツインテは……笑う。

ツインテ「敵として頃しちゃうより、味方にしちゃう方が素敵じゃないですか?」

386: 2015/01/13(火) 04:45:27.87 ID:moiQcL4n0
499

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

フォーテ「あ、あああ、あああああああああああああああああああああああお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん!!」

フォーテはツインテに抱きついて体全体で愛情を表現する。

フォーテ「会いたかった! 本当に会いたかったよぉ!!」

ツインテ「うん……ボクもだよフォーテちゃん」

フォーテ「嬉しい嬉しい嬉しいよぉお!! ごめんねお姉ちゃん今まで助けにきてあげられなくてぇえ!! 本当にごめんねぇっ!!」

ツインテ「いいの、それよりフォーテちゃん。時間が無いから率直に言うけど、お願いしたいことがあるの」

フォーテ「ん? 何? フォーテに何かお願いだって? フォーテ聞くよ! フォーテお姉ちゃんの言うことならなんだって聞くよ!!」

ツインテ「本当? じゃあ……フォーテちゃん前に言ってたでしょ? ボクが勇者になって、フォーテちゃんは魔王になって、ずっと頃しあおうってやつ」

フォーテ「うん言った!! 素敵だよねお姉ちゃんっ! 勇者と魔王の関係って永遠なんだってさぁ!! 永遠に頃しあい憎みあう、それは何よりも深い関係なんだって!! 早くお姉ちゃんとそういう関係になりたいなぁああっ!!」

目を輝かせて言うフォーテ。

ツインテ「フォーテちゃん。ボクは嫌だ」

フォーテ「……え?」

ツインテ「ボクはフォーテちゃんとそんな関係になりたくない」

フォーテ「え……………………どうして?」

フォーテの黒目から光が消える。

387: 2015/01/13(火) 04:48:28.75 ID:moiQcL4n0
500

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

ツインテ「どうしても何も、そんなのおかしいよ。だって頃しあうんだよ? そんなのちっともいいと思えない」

ズズズズズ

フォーテ「お姉ちゃんは……フォーテと深い関係になるのが嫌、なの? 永遠の関係になりたくないの……?」

ツインテ「ボクはフォーテちゃんと普通の兄弟でいたいよ。一緒にお洋服を買いに行ったり、ケーキを作って食べたり、お昼寝したり……。ボクはそういう方がずっと楽しいと思う」

フォーテ「そういうほうが楽しいの?……で、でも……」

フォーテは困ったような顔をする。

ツインテ「……そう。ボクの言うことわかってくれないんだね」

フォーテ「!? ち、違うよそんなんじゃ」

ツインテ「はぁ、残念だな。これじゃあボク、フォーテちゃんのこと、嫌いになっちゃうかも……」

フォーテ「                                                         

                                                              

               !?                                             

                                                              

                            」

ツインテ「だってボクは好きな人と頃し合いなんてできないもん。なのにフォーテちゃんがどうしてもしたいっていうなら……フォーテちゃんのこと嫌いになるしか……」

フォーテ「や、ヤダーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! 嫌いになっちゃ、ヤダーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

ツインテ「え、でも……」

フォーテ「ごめんなさいごめんなさいお姉ちゃんごめんなさいお願いだからごめんなさいフォーテのこと嫌いにならないでぇえええごめんなさあああああいっ!!」

ツインテに抱きついて号泣するフォーテ。

ツインテ「……じゃあもう魔王になるとか言わない?」

フォーテ「言わない言わない絶対に言わないからっ!!」

ツインテ「そう……よかった」

ツインテは優しくフォーテの頭をなでる。



ポニテ「……な、なにこれ」

アッシュ(なんか暫くみない間に話の持ってきた肩が上手くなってるような可愛いケッコンしたい)

フォーテが仲間になった。

388: 2015/01/13(火) 04:48:54.70 ID:moiQcL4n0
それでは本日の投下はここまでになります。
疑問、質問等がありましたら気軽に書きこんでおいてください。
読んでいただきありがとうございました!m(__)m

397: 2015/01/20(火) 02:27:46.73 ID:cDEykskH0
501

--ツインテの中--

ツインテ(ゼロ)「……ありえない」

ツインテ(ストレート)「な、だから言ったろ? あいつならなんとかなるって」

ツインテ(サイド)「フォーテのことを相容れない異物としてか見てなかった貴方には想像も出来かったでしょ? こんな解決策があったなんてさー」

ストレートとサイドテールのツインテがにやにやと笑っている。

ツインテ(ゼロ)(それが出来るなら苦労しない。出来るはずが無かったから今まで……いや)

ゼロはツインテの目を通してフォーテの泣き顔を見る。

ツインテ(ゼロ)「……これを見させられては、何も言う資格は無い、か」

398: 2015/01/20(火) 02:29:35.30 ID:cDEykskH0
502

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

フォーテ「お姉ちゃんー、もっと頭なでてよー。ぐすん」

ツインテ「はいはい。フォーテちゃんは甘えん坊さんだね」

フォーテ「えへへへー」

ツインテ「……でもフォーテちゃん、魔王のこともそうですが、もう悪いことはやっちゃ駄目ですからね?」

フォーテ「ふぉ、フォーテ悪いことなんてしてない……よ」

ツインテ「……」

フォーテ「あぁあああごめんなさいごめんなさい真顔になるのやめてお姉ちゃんそりゃ美の女神も真っ青なくらい美しい造型してるお姉ちゃんだから真顔でもとっても綺麗だけどフォーテの心に刺さるのっ!! もう悪いことしないからずっといい子にしてるからそんな目で見ないでーーーー!!」

ツインテに思い切り甘えているフォーテ。そしてその二人を静かに眺めているハイ達。

アッシュ「……まじで? まじであのフォーテが敵じゃなくなったのか……?」

ポニテ「無敵最強フォーテちゃんが……仲間に、なったの?」

レン「もう中身バシャーっとかされなくても大丈夫なのかにゃ?」

アッシュ達三人は信じきれず、フォーテが何かアクションをする度にびくついていた。

399: 2015/01/20(火) 02:31:17.83 ID:cDEykskH0
503

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

ハイ「しかし……まさかあのフォーテさんを仲間にすることが出来たなんて……」

ユー「……」

驚きを隠せないハイと後ろで頷いてるユー。

ツインテ「そうだ、フォーテちゃん。さっきアッシュ君達にいけないことしてましたよね?」

フォーテ「ふにゅっ!?」

ツインテ「いけないことしたら謝らないと駄目なんですよね?」

フォーテ「で、でもあれはあのお兄ちゃん達が……」

ツインテ「フォーテちゃん……?」

ツインテがフォーテの頬を優しくなでる。

ツインテ「……いけないことをしたら謝る。それがいい子の条件ですよね……?」

まるでフォーテのような世界を呪う雰囲気を出してみせるツインテ。

フォーテ「目が笑ってないお姉ちゃんも素敵っ!!」

400: 2015/01/20(火) 02:32:32.07 ID:cDEykskH0
504

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

とて、とてとて……

フォーテはツインテから離れるとアッシュ達の方にゆっくりと近づいていく。

アッシュ「!!」

アッシュ達は再び臨戦態勢に移るのだが、

フォーテ「お……」

ポニテ「お?」

もじもじ

フォーテ「お、お兄ちゃん達……痛めつけちゃってごめんなさい……」

と、フォーテが謝った。

アッシュ「」

そして驚きのあまり固まるアッシュ。

レン「き……気にしてない、にゃ」

ハイ「なんですかその返答」

オオオオオオ

その後ろで氏者の腕と握手しているユー。

401: 2015/01/20(火) 02:35:37.34 ID:cDEykskH0
505

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

フォーテ「ゆ、許して、くれる?」

もじもじしながら涙目で上目遣いなフォーテ。

ポニテ「ゆ……許すよーーーー! 許すに決まってるじゃない! むしろ何も無かったよ! ただじゃれあって遊んでただけだもんねお姉ちゃん達ーーーー!!」

ぶしゃーーー!

大量の鼻血を吹き出しながらフォーテを抱きしめようとするポニテ。だが今までの経験が体に染み付いていて、拒絶反応から前に進めずぴくぴくと震えている。

ポニテ(動けよ! 今動かなきゃなんにもならないんだ!)

フォーテ「えへ! お姉ちゃーん! お兄ちゃん達許してくれるってー!」

たたたた、ばふっ!

フォーテはツインテに駆け寄って飛びついた。

ツインテ「もう、アッシュさん達だから許してくれたことですが、本当ならしっかり償わなくちゃいけないことなんですよ? 今までやってきたこと……一緒に償っていこうね?」

フォーテ「うん、フォーテ、お姉ちゃんと一緒ならなんでもするーっ!」

きゃっきゃっ

レン「……いやはや恐ろしい変わりっぷりにゃ……シスコン具合は前と変わらないけど……」

ポニテ「はー、可愛いよぉフォーテちゃん……。もうフォーテちゃんの姿見るなり恐怖のあまり失禁しなくていいんだよね? これからは嬉ションの方でいいんだよね?」

ハイ「どっちにしろ漏らすんですか!?」

アッシュ「正直に言うと俺、後ろも漏らしちゃってんだよね」

オオオオオオ

氏者の腕と名刺交換しているユー。

402: 2015/01/20(火) 02:36:50.33 ID:cDEykskH0
506

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

ツインテ「っと、そうでした。何より皆さんの傷を治さないと」

ツインテは周囲の地獄絵図をなんとかするべく奥義を展開する。

しゅいーーん

アッシュ(……暖かい……ツインテの魔力はなんて心地よいんだ……)

ポニテ(衝撃的展開の連続でスルーしてたけど……ツインテちゃん久しぶりだね……ほんとよかった……)

レン(昔と変わらず美しいにゃ……ってか全く変わってないのはどゆことにゃ)

夜の番人「きもちいー……」

アッシュ、ポニテ、レン「「「!?」」」

さりげなくみんなと一緒に蘇生された夜の番人。

403: 2015/01/20(火) 02:39:18.09 ID:cDEykskH0
507

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

夜の番人「ん……?」

アッシュ「お、おいツインテ! こいつは蘇生しなくていいんだ! めんどくさいことになるぞ!」

ツインテ「え……駄目ですよアッシュ君。好き嫌いしちゃ」

レン「好き嫌いとかそういう問題じゃないのにゃ! こいつ五柱クラスの戦闘力ある敵なのにゃ! だから蘇生はよくな」

ズンッ!!

夜の番人「な、なんだかよく覚えてないけど、おまえら……侵入者でしね?」

夜の番人が戦闘態勢に入る。

アッシュ(あかん)

夜の番人「ぼくちんの仕事場に勝手に入ってきて、全く悪い子達でしねぇ……こりゃあお仕置きが必要でし」

夜の番人は気味の悪い笑みを浮かべるとともに、強力な魔力を発する。

ゴゴゴゴゴ……!!

アッシュ「ち、またやるしかねぇか……」

しゅぴぃん

アッシュはナイフを取り出して構える。

ツインテ「ちょっ、待ってください! ボク達は争うつもりはないんです! ここもすぐでていきますから!」

夜の番人「問答 無用」

ダンッ!!

夜の番人が飛び掛った。

404: 2015/01/20(火) 02:41:42.79 ID:cDEykskH0
508

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

ごしゃっ!!





夜の番人「あ……あえ?」

飛びかかろうとした夜の番人は、どこからとも無く現れた氏者の腕に殴られて、

どがぁああああん!!

壁に叩きつけられた。

アッシュ「っ!」

オオオオオオオオオオ……

目の前にばかり集中していたアッシュ達の背後から、静かに闇が忍び寄る。

フォーテ「おじちゃん……ツインテお姉ちゃんのせっかくの温情を無駄にしちゃうの……?」

ポニテ「!!」

フォーテは目を見開いて、じっと夜の番人を見つめている。

オオオオオオオオオオ

夜の番人「にゃ、にゃにがおこったでし……? ぼくちんが、い、一撃へ……ありへにゃい!」

脳を強く揺さぶられた夜の番人は立ち上がることすら出来ない。

フォーテ「お姉ちゃんの言うことを無視する人はぁ……万氏に値するよね?」

405: 2015/01/20(火) 02:42:57.88 ID:cDEykskH0
509

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

ぎゅりぎゅりぎゅり、ドシュドシュドシュ!!

氏者の腕が捩れて槍のように変形し、夜の番人を襲った。

ヒュオン!!

夜の番人「ひ、ひいい!?」

ツインテ「フォーテちゃん! そこまでですよ!」

ビタタッ!!

夜の番人「」

無数の槍は、夜の番人のわずか数センチ先で停止する。

夜の番人「はぁ、はぁ、はぁ……!!」

ツインテ「フォーテちゃん?」

フォーテ「ふぉ、フォーテ悪い子じゃないよ? あのおじちゃんがお姉ちゃんに悪いことしようとしたから……その……」

ツインテが話しかけると途端におろおろしてしまうフォーテ。

オオオオオオオオ

氏者の腕も汗をたらしながら怒らないであげたげてよぉ、とツインテをなだめる。

ツインテ「――それはわかってます。でもやり過ぎは駄目なんです。あの人だって職務を全うしようとしただけに過ぎないんですから」

フォーテ「しゅん」

406: 2015/01/20(火) 02:43:44.10 ID:cDEykskH0
510

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

アッシュ「え、てか五柱レベルでもワンパンなの? よく俺ら耐えられたな……」

フォーテ「五柱? 何それ美味しいの?」

レン「普通にその台詞を聞くとは思わなかったにゃ」

すっ

ツインテ「立てますか?」

ツインテはいつのまにか夜の番人に近づいて手を差し伸べている。

アッシュ「なっ! おい!」

ハイ「ツインテ先輩!? さすがに危ないですって!」

フォーテ「なんかあったら今度は……」

ゴゴゴゴゴゴ

ポニテ「ほ、ほらツインテちゃん! フォーテちゃんが凄い顔で見てるから!!」

じょじょじょー

407: 2015/01/20(火) 02:46:00.20 ID:cDEykskH0
511

--暗黒森林、保管庫、下フロア--

ツインテ「弟が失礼をしました。今治療しますね。水属性回復魔法レベル4」

ぽわぁあ

夜の番人「! ぼ、ぼくちんに回復魔法を、かけてくれるんでしか……?」

ツインテ「もちろんです。この程度で償いきれるとは思いませんが……でもせめて」

暖かい光が夜の番人の体を包む。

夜の番人「……敵に回復魔法をかけるだなんて……」

がばっ!!

アッシュ「! てめぇ!! 変なまねするんじゃねぇ!!」

夜の番人は、

夜の番人「……うっ、うぅ……ぼ、ぼくんなに優しくしてもらったの……初めてでし!!」

ツインテの手を両手で握りしめ泣き始めた。

アッシュ「……あ?」

夜の番人「ぼくんな顔だから子供の頃からずっと人の嫌がる仕事ばっかさせられてきたんでし! だれもぼくちんに優しい言葉をかけてくれる人なんていなかった……それなのに……嬉しいでし! ぼくんなに嬉しいの初めてなんでし!!」

夜の番人は号泣している。

ポニテ「あの人言ってなかった?」

408: 2015/01/20(火) 02:48:29.27 ID:cDEykskH0
512

--暗黒森林、宿--

ホーホー

ツインテ「い、いいんでしょうかあっさり帰してもらっちゃいましたけど……」

ポニテ「いいんじゃない? ツインテちゃんも奪還できたしフォーテちゃんも仲間入りだし、いいこと尽くめだよー!」

ポニテはツインテの膝の上に座っているフォーテの頭をなでたいと思っているのだが、中々なでられない。

レン「まー、競売品のツインテとポニテを奪われたあげく、保管庫までぼろぼろにしちゃったのにゃ。あの人責任とらされそうにゃね」

レンは久しぶりにツインテにくっついて甘えたいのだが、フォーテがツインテの膝の上に乗っているので中々実行に移せない。

アッシュ「あぁ。しかし思った以上の成果だ。……何か忘れてるような気もするがな」

アッシュは久しぶりのツインテが眩しくて見えない。

ハイ「この流れは……いけそうですよね! ね、ユーさん!」



ユーは無言でサムズアップ。

ハイ「……しかしなんか忘れてるような……」



--暗黒森林、保管庫--

夜の番人「……」

侍「……」

夜の番人「この氏体はこっちで処理しちゃっていいんでしかね」

409: 2015/01/20(火) 02:51:02.45 ID:cDEykskH0
513

--暗黒森林、宿--

アッシュ「――で、これからどうするんだ」

ハイ「はい?」

アッシュ「はいじゃない。ツインテを奪還することには成功した。ならこの後はどうするんだと聞いている。バッドエンドを覆すつもりで過去に飛んだのだろう?」

ハイ「……そうでした。まだ終わりじゃないんです。むしろここからが本番……」

ぎゅっ

ハイは自分の服を握り締める。

ハイ(歴史が少しずつ変わって来てる……もちろん私の手で変えるつもりだったんだけど……自分の知らない流れになるのはやっぱり怖い)

レン「ま、ここまで来たら協力するにゃ。ツインテを助けられたのはハイのおかげにゃし」

ポニテ「でも未来から来たなんてかっこいーよねー。いっぱい仲良くしよーねーハイちゃん」

ハイ「は、はい……!」

ハイは顔を上げる。

ハイ「……」

ツインテ、アッシュ、ポニテ、レン、そしてユーとフォーテ……長い間離れ離れになっていた仲間が、自分のパーティ(+α)がここにある。

ハイ(……がんばろう。今度はあんな結末にならないように!)

410: 2015/01/20(火) 02:54:21.78 ID:cDEykskH0
514

--暗黒森林、宿--



~ハイの説明タイム~



ツインテ「……」

レン「ふぅ……二回目の説明ともなると大分理解できるようになったにゃ」

アッシュ「俺は三回目になる」

ポニテ「……そのトリガーってのが全ての元凶だったんだねぇー……まさかお父さんとお母さんも関係してたなんて……」

フォーテ「うん、ハイお姉ちゃんの言ってることは結構当たってると思うよ。魔王陣営に関する情報もハイお姉ちゃんの言う通りだもん」

ツインテ「ボクは元よりハイさんのことを疑ってはいませんよ」

ぱー

天使のような笑顔のツインテ。

レン「一個いいかにゃ?」

ハイ「あ、はい。何か気づいたことがありましたか?」

レン「気づいたというかなんというか、その終盤のレンの見せ場である魔王の力を封じる指輪の作成のことにゃ」

ハイ「はい」

レン「それ……今から取り掛かったほうがいいにゃよね?」

ハイ「あ、はい、そうですね。早い方が助かるかと!」

レン「その指輪のサンプルとかって今あるにゃ?」

ハイ「さん、ぷる……?」

411: 2015/01/20(火) 02:56:22.04 ID:cDEykskH0
515

--暗黒森林、宿--

レン「そう、サンプルにゃ。さすがのレンも無から作り上げるのは厳しいにゃ。魔王の情報少ないし」

ハイ「えっと……勇者さんとキバさんが持っているかと……」

レン「その二人が今どこにいるかわかるにゃ?」

ハイ「ちょ、ちょっと待ってください……体験した記憶と読んだ記憶、両方探ってみますから」

レン「よろしく頼むにゃ。それがどうやらキーになりそうみたいにゃし」

ツインテ「あの」

おずおずとツインテが手をあげる。

ツインテ「勇者さんの居場所はわからないですけど、キバさんならあったことあるし、ボク探せるかもしれません」

ハイ「え!」

ツインテ「あ、もちろんボク一人では無理なんですけど、今はフォーテちゃんがいるので」

フォーテ「何!? フォーテお手伝い!? いいよっ! なんでもやるよお姉ちゃんっ!」

アッシュ「……なるほどサイドテールの力か」

レン「情報収集……それをフォーテの力で強化するのかにゃ?」

ポニテ「……なんかフォーテちゃんが絡めばなんでも出来ちゃいそうな気がしてくるなー」

412: 2015/01/20(火) 02:58:27.91 ID:cDEykskH0
516

--暗黒森林、外--

ぼしゅっ

ツインテ(サイド)「うわ、ほんと範囲やばっ! この星の半分くらいのことなら手に取るようにわかるー! あ、早速キバさんみっーけ」

上空に打ち出した特大のリングから情報を引き出しているツインテは驚きの声をあげる。

アッシュ「星の半分……さすがに規格外過ぎるな」

レン「ツインテ、その情報レンに送れたりしないかにゃ?」

ツインテ(サイド)「レンちゃん舐めて貰っては困るねー。情報転送はお手のものだよ、ほいほいっと」

ばしゅっ

レン「!? がっ!……ちょ……もうちょっと情報量考えて欲しかったにゃ」

ぽたたっ

鼻血をたらすレン。

レン「……なるほど、この魔力反応にゃね」

きぃん

ポニテ「お、久々の錬金ツール」

ばしゅっ!

レン「……出来たにゃ。キバ探知レーダーにゃ!」

ぴこーんぴこーん

413: 2015/01/20(火) 03:01:13.92 ID:cDEykskH0
517

--暗黒森林、外--

レン「この点滅してるのがキバの現在位置にゃ。これで誰でもキバを探しにいけるにゃ」

アッシュ「ほう、中々凄いものを作ったな。パクリだけど」

ポニテ「ほんとほんとー。デザインももろドラゴンレーダーじゃん」

レン「う、うるさいにゃ! 先人のいいところはどんどん取り入れてくのがレンのスタイルなのにゃ!」

ハイ「さすがレン先輩です! じゃあ一刻も早くキバさんに会いに行きましょう! 時間はそれほどありませんから!」

レン「うん、それにゃんだけど、レンは二手にわかれた方がいいと思うのにゃ」

ハイ「え?」

レン「聞けばこれから亜人保護団体が一悶着起こすらしいじゃにゃいか。その混乱が無ければ対魔王戦ももっと上手くいくと思うのにゃ。それに奴らがやろうとしてる超巨大魔法陣。それをそっくりそのままいただくつもりなのにゃ」

ハイ「いただくって……どういうことですか……?」

レン「その魔法陣の術式を改造するのにゃ。魔王の力を抑えるリングと同じ術式に」

ハイ「!!」

レン「そうすればもうちょい強力なものが出来るのにゃ。だからハイ達には亜人保護団体の説得に行ってもらいたいにゃ」

414: 2015/01/20(火) 03:07:25.89 ID:cDEykskH0
518

--暗黒森林、外--

ハイ「なるほど……確かにそれが出来たら、前よりもずっと勝率があがりそうな気がします!」

アッシュ「決まりだな。長距離移動するならスピードが重要だ。俺はキバ捜索チームの方に入ろう」

レン「少しでも早く指輪を研究したいからレンも捜索チームにゃ」

ポニテ「あー……じゃあ私もそっちに入ろうかな。戦力不足してるし」

アッシュ、レン「「どういうこと!?」」

ツインテ「ではボクはハイさんに付いて行ってもいいですか?」

バランスを考えて発言するツインテ。

ハイ「はい、よろしくお願いします!」

フォーテ「僕はツインテお姉ちゃんと一緒にいられるならどこにでもいくよー!」

ユー「……」

俺もこっちとばかりにハイを指差す。

アッシュ「ふむ、説得チームはハイとツインテとフォーテとユー。捜索チームは俺とポニテとレン。上手い具合に分かれたな」

レン「じゃあ……さっそく出発するにゃ。もはやこの闘いは一分一秒を争うものになってるにゃ」

ポニテ「え!? 今すぐ!?……ポニテちゃん、ちょっと食事休憩とかしたいなー、なんて……」

レン「そんな時間は無いにゃ。道中で道草でも食べろにゃ」

ポニテ「ひどい!! 食べたら食べたで怒るくせに!!」

415: 2015/01/20(火) 03:11:26.34 ID:cDEykskH0
519

--暗黒森林、外--

ツインテ「さっきの話ですと……代表さんはこの競売に来ていらっしゃるんですよね?」

ハイ「そう、ですね。だから私達はまた、闇に潜んでひっそり会いに行くことになるんでしょうかね」

フォーテ「わーい! 潜入捜査楽しそうー!」

ユー「……」

泥棒のようなほっかむりをつけているユー。

アッシュ「……」

すっ

アッシュは無言で拳を突き出した。

ポニテ「!……」



ハイ「……あぁ」

すすす

それを見た仲間たちは同様に拳を突き出す。

アッシュ「――出来るだけ早く戻ってくる。それまでにそっちは説得しておけ。ヘマするんじゃないぞ?」

ツインテ「はい、精一杯頑張ります」

アッシュ「あ、いやツインテに言ったわけじゃなくてね!?」

ハイ「では……皆さんよろしくお願いします。またここでお会いしましょう!!」

アッシュの声をさえぎってハイが笑いながら宣言する。

ツインテ「はい!」アッシュ「おう!」ポニテ「うん!」レン「にゃ!」ユー「……」フォーテ「おー」

ごつっ

416: 2015/01/20(火) 03:13:23.80 ID:cDEykskH0
520

--暗黒森林、代表別荘--

ひゅおぉぉおおおぉぉ……

もぬけのからと化した屋敷でたたずむハイ達。

ハイ「……どう思いますこれ」

ツインテ「えっと……何かトラブルがあって、急いで撤収した、って感じでしょうか」

ユー「……」

ユーは虫眼鏡で痕跡を探している。

フォーテ「勘のいい人みたいだねー。何かに気づいて逃げ出しちゃったんだー」

ハイ「……確かに代表君はそういう感覚優れてましたけど……」

ツインテ「……急ぎましょう。まだ遠くには行っていないはずです。夜が明ける前に追いつかないと!」

ハイ「……はい!」






……パカラッ

427: 2015/01/27(火) 02:24:32.52 ID:mJpP1oCD0
521

--暗黒森林、外--

ぱから……

ハイ「ん……? この足音は……」

ぱからっ

ユニコーン「ひひん」

ハイ「あ、ユニちゃんですか。縄ほどいてきちゃったんですか? いけない子ですねぇ」

ツインテ「ハイさんの馬、というかユニコーン、ですか? 可愛いですね」

ツインテは近寄ってきたユニコーンの頭をなでる。

ユニコーン「ひひひん」

フォーテ「ふぉ、フォーテのほうが可愛いよっ!」

ぷくー!

ハイ「丁度今ユニちゃんを迎えに行こうと思ってた所でした。さすがユニちゃん、主の心を察するとは、です」

ユニコーン「……」

428: 2015/01/27(火) 02:27:24.82 ID:mJpP1oCD0
522

--暗黒森林、外--

ぱからぱから

ツインテ「あ、あのハイさん……」

ハイ「なんですかツインテ先輩?」

ツインテ「えと、ユニコーンは初めてなので、その……乗ってみては駄目でしょうか?」

ハイ「いいですよ! きっとユニちゃんも喜びますよきっと。美少女大好きだし!……私は違いますけど」

そう言ってハイはツインテに手を伸ばす。

ツインテ「あ、じゃあお願いします」

にこりと笑うツインテはハイの手を握る。

ストッ

ユニコーン「!?」

その時ユニコーンに電流走る。

ユニコーン「ッ!」

慌てて振り返り、自分の背に乗る者の顔を見るユニコーン。

ハイ「? どうしましたユニちゃん?」

ユニコーン「ひ、ひひん……?」

ユニコーンは自分の背にたまたまの感触を感じていた。ユニコーンの野郎とビXチ発見レーダーに間違いは無い。

ツインテ「うわぁ、高いです。動物に乗るのって、こんなに素敵なことなんですねっ!」

ユニコーン「……??」

本能は男が背に乗っていると判断しているのだが、ユニコーンの瞳に映るのは可愛い女の子のみ。ユニコーンは錯乱していた。

429: 2015/01/27(火) 02:29:24.63 ID:mJpP1oCD0
523

--暗黒森林、外--

夜の番人「うんせ、ほいせ」

ハイ「あ、先ほどの夜の番人さん」

夜の番人「あぁツインテ様方! 先ほどはどうもでし!」

夜の番人は人並みの大きさの袋を担いで歩いていた。

ハイ「こんな時間に何をされてるんですか?」

夜の番人「やー、保管庫があんなことになっちまったんでその後片付けでし。そんでこれはその時にでた氏体でし。今から埋めに行くんでし」

ハイ「う……なんだか耳が痛いですねぇ。後片付けやらせちゃってごめんなさい。本当なら私達も手伝わなきゃいけないんですが」

ツインテ「え、氏者が出てしまったんですか? 全員治したと思ったのに……。あの、ボクに蘇生やらせていただけませんか?」

夜の番人「!! それは願ったりかなったりでし! むしろこちらからお願いしたいでし!」

ドサッ

そう言って夜の番人は氏体を下ろし、袋から取り出した。

ごろん

侍「……」

ツインテ「……あ」

ハイ「忘れて、ましたね……」

430: 2015/01/27(火) 02:32:14.71 ID:mJpP1oCD0
524

--暗黒森林、外--

ホーホー

侍「ぷくー」

ハイ「ご、ごめんなさい侍さん! ばたばたしてたのですっかり忘れてました! 後いい大人がぷくーやっても可愛くないです」

ツインテ「ごめんなさい侍さん……」

侍「……まー拙者も? 常識人な大人でござるし? たしょーのことじゃあ怒らないでござるが? さすがに今回のことは? ちょっといただけないんじゃないかっていう?」

ぷりぷりしてる侍。

フォーテ「おじちゃん、おこなの?」

侍「……おこじゃないです。はい」

ツインテの腰に抱きついているのがフォーテだということに気づいて一瞬で血の気が引く侍。

侍「……あの、これ……どういうことなんでしょうか。説明が欲しいです」

ハイ「あぁ、肝心な時にずっと氏んでた侍さんは知らないですよね? 実はなんやかんやあって、あのフォーテさんが仲間になったんですよ!」

さりげなくひどいハイ。

侍「! なんと! それはまことでござるか!!」

ツインテ「はいそうなんです。だからもうフォーテちゃんと戦わなくてもよくなったんです。ねー?」

フォーテ「えへー」

にこやかなツインテの笑顔に釣られてにこにこするフォーテ。

侍「これはこれは……姉妹ど」

ぬるっ

よからぬ想像をした侍の頬を氏者の指がなでた。

431: 2015/01/27(火) 02:35:06.01 ID:mJpP1oCD0
525

--暗黒森林、外--

ハイ「やぁ、でもよかったです侍さんがいてくれて! もう少し人手があればなー、って思ってた所だったんですよ!」

侍「む? ヒトデ? もちろん拙者でよければ力を貸すでござるよ」

ハイ「ありがとうございます。実はやらなきゃいけないことがもう一個あったんです。時系列的に少し後のことなので、この件が終わってから対処しても間に合うと思うんですが……歴史がどこまで前と同じように進むのかわかりませんからね……」

侍「む……なるほど。して、拙者に任せたいこととは?」

ハイ「はい、実はこの後、各地の妖精郷が襲われることになります」

ツインテ、侍「「!?」」

ハイ「精霊様を殺害して十代目勇者さんの能力をパワーダウンさせるのが目的みたいです。……他にも目的があるのかもしれませんが、そこまでは私も……」

侍「ぬぅ、それは一大事でござるな……しかし困ったことがあるでござるよ。拙者はおろか、妖精郷への入り口を知る者は人間界にはあまりいないでござるよ?」

ハイ「です。でもそれは妖精さんに案内してもらうので大丈夫です」

侍「へ?」

ハイ「ここの競売品として、ぴっちさんとぱっちさんがいるはずですから、ぴっちさんたちに案内をお願いしてください」

432: 2015/01/27(火) 02:38:23.51 ID:mJpP1oCD0
526

--暗黒森林、外--

侍「なるほど……確かに妖精についていけば妖精郷にたどり着くでござろうが……果たして妖精がこんな話を信じてくれるのかどうか」

フォーテ「だいじょーぶ、フォーテが呪いをかけちゃえば簡単だからーっ!」

びくっ

フォーテが言葉を発するだけで、条件反射で冷や汗をかいてしまう侍。

ツインテ「駄目ですよそんなこと。ぴっちさん達はいい妖精さん達なんですから。ちゃんとボクが説明します」

フォーテ「むーっ……」

ツインテのお腹に顔をうずめて左右に動かすフォーテ。

ハイ「でも、そんな時間も無いんですよね。私達はすぐ追わなくちゃならないですので」

ツインテ「あ……」

ハイ「ですから侍さん、そちらは侍さんに任せてもいいですか?」

侍「……やれやれ、随分と投げやりでござるな。それとも信用のたまものなんでござろうか」

よっこいしょ、と侍は立ち上がる。

侍「――麗しの女子達にお願いされたら、断るわけにはいかないでござるよ」

いい顔の侍。

フォーテ「駄目だったら僕がお仕置きするねっ!」

侍「ッ!?」

情け無い顔の侍。

433: 2015/01/27(火) 02:40:23.94 ID:mJpP1oCD0
527

--暗黒森林、外--

ユニコーン「ひひーん」

ハイ「ツインテ先輩、代表君はこっちの方角でいいんですよね?」

ツインテ「はい。サイドさんが調べましたから間違い無いかと」

ハイ「了解です。侍さん、そっちはよろしくお願いしますね」

侍「心得た」

フォーテ「ねーえー、ツインテお姉ちゃーん。こっちに乗らないのー? これはこれで乗り心地いいんだよー?」

オオオオオ

フォーテは氏者の腕の上であぐらをかいている。

ツインテ「ごめんね、ちょっとユニさんに乗ってみたくて」

ユー「……」

コキッ

ユーは準備運動を済ませ、首を鳴らす。

ハイ「では行きますよ! はいやユニちゃん!」

ばしっ!

ユニコーン「ひひーん!」

だからっだからっだからっ!!




だだからっ

434: 2015/01/27(火) 02:41:33.21 ID:mJpP1oCD0
528

--暗黒森林--

だからっだからっだからっ!

夜の森を駆けるハイ達。

ツインテ「わー……すっごい速いです! んっ!……振動が……ちょっと痛いですけど」

股をもじもじさせるツインテ。

ハイ「これでもユニちゃんは振動が無い方なんですよ? そういうことも考えて走れる優秀な子なんです」

ユニコーン「ひひーん!」

だからっだからっだだからっ!

ハイ「……」

ハイは何かを察して左後方を振り返った。

ユー「?」

ユーはどうかしたのかとハイに問う。

ハイ「……いえ……少し気になったもので。勘違い、かな?」

435: 2015/01/27(火) 02:42:30.93 ID:mJpP1oCD0
529

--暗黒森林--

だからっだからっだからっ!

フォーテ「うー! いいなぁハイお姉ちゃん、ツインテお姉ちゃんにぎゅっとしてもらって……羨ましい……羨まし過ぎて……僕……」

オオオオオオ

氏者の腕が脈動する。

ぴくっ

フォーテ「」

何かを感じ取ったフォーテが左後方を確認する。遅れてユーも視線を向けた。

フォーテ「……」

ユー「……」

だからっだからっだだからっ!

ハイ「っ! やっぱり!!」

バッ!!

ハイはパチOコを取り出して狙いをつけた。

ツインテ「え? どうかしたんですか? ハイさん」

ハイ「何者かはわかりませんが、私達を追ってきてる人がいます!」

ツインテ「!?」

436: 2015/01/27(火) 02:43:18.19 ID:mJpP1oCD0
530

--暗黒森林--

だからっだからっだからっ!
だだからっだだからっだだからっ!

ハイ「……ユニちゃんの足音に巧妙に隠してる……もっと早く気づけていたらこんな場所で戦うことにはならなかったのに」

ひょい

ツインテ「あ、あれ?」

氏者の腕がツインテを抱き上げた。

フォーテ「ツインテお姉ちゃんは僕が護るよ。そっちの方が安心だし安全だよね?」

ハイ「はい、お願いします!」

ユー「……」

だだからっだだからっだだからっ!!

敵はスピードを上げ、木々の向こうでハイ達と並走している。

???「くすくすくす」

暗闇の中にいる敵が笑う。

437: 2015/01/27(火) 02:44:04.47 ID:mJpP1oCD0
531

--暗黒森林--

だからっだからっだからっ!
だだからっだだからっだだからっ!

ハイ「……」

ツインテ「は、ハイさん……」

ハイ「……っ!」

びしゅっ!

ハイは暗闇に向かって小石を放つ。

びしっ!

ハイ「」

攻撃は成功した。しかしほぼ同時に自分の肩に小石が当たった。

ハイ「じょ、条件達成、レベルアップ! レベル2、騎士!!」

438: 2015/01/27(火) 02:45:30.91 ID:mJpP1oCD0
532

--草原--

ぼふっ!

変身を終えると同時に木々を抜けた。

ばささっ!

ハイ「っ!」

ばっ!!

並走していた者が初めて姿を現した。

???「くすくすくす」

二角を持った六本足の黒いバイコーン。そしてそれに跨る紫色の兜と甲冑を纏った騎士。

だだからっ!

それは方向を急に変えるとハイに向かって突進する。

ハイ「っ! ユニちゃん!」

ユニコーン「ひひーん!!」

だからっだからっだからっ!

ハイもそれに向かっていく。そしてお互いランスを繰り出した。

ボッ
ボッ

ガシイイイイイイイイイイイイン!!

お互いのランスは両方とも相手の脇腹をかすめ、金属と金属がこすれあって火花が散った。

???「くすくすくす」

すれ違う瞬間、ハイの耳元で笑う敵。

439: 2015/01/27(火) 02:47:02.58 ID:mJpP1oCD0
533

--草原--

グッ

ユー「……!」

フォーテ「やめたほうがいーよお兄ちゃん。お兄ちゃんもさっき力を使いすぎたはずでしょー?」

ユー「……」

加勢しようとしたユーを止めるフォーテ。

フォーテ「……あれだけ力を使ったんだもん、今は結構厳しいんでしょ? だからここは見に徹しようよー。アレがなんなのか見極めておきたいし。だからお姉ちゃんも加勢したいとかいっちゃ駄目だからねっ」

ツインテ「うぅ……で、でもハイさんが……」

ガキン! ガキキン!! ガガアアアン!!

ハイ「あああああああああああ!!」
???「あはははははははははは!!」

ランスを突き合う二人。どちらも決定打を繰り出せずにいる。

フォーテ「多分遅れはとらないと思うよ」

ハイ(っ! 仕方ない……私には次のレベルアップがあるし、ツインテ先輩という回復役もいる! ここは肉を切らせて骨を絶つ!)

440: 2015/01/27(火) 02:47:45.88 ID:mJpP1oCD0
534

--草原--

ハイ「行って! ユニちゃん!!」

だんっ!!

ハイの叫びと同時にユニコーンが全力で走り出す。

???「……くす」

だだんっ!!

紫の騎士も同様に走り出す。

ハイ「はああああああああああああああああああああ!!」

???「くすくす」

ズガシャアアアアアアア!!

ハイ「――がはっ!!」

ハイのランスは敵の、敵のランスはハイの胸部をそれぞれ貫通した。

???「げっほっ……」

441: 2015/01/27(火) 02:49:54.13 ID:mJpP1oCD0
535

--草原--

ばしゃしゃっ!!

お互いランスから手を離し、自分の胸に刺さったランスを引き抜く。

ズボッ!!

ハイ(い、痛過ぎる……でもこれで……敵を、倒した)

だからっ

ハイ「じょ、条件達成、レベルアップ」
???「条件達成、レベルアップ」

ハイ「!?」

ハイと同じような台詞がもう一つ。

ハイ(そんな……)「れ、レベル3、銃士!!」

???「レベル3、ガンナー」

バシュッ!!

ハイと敵は同タイミングで変身を終えた。

ハイ「う……そ」

しゅうぅうう……

バイコーンに乗る敵の姿が甲冑から布面積の少ないカウガールの衣装へと変わる。兜も無くなり、素顔が表に出る。

ツインテ「! そんな……」

???「くすくす。なぁに? そんなにショックだったぁ?」

ハイ「嘘……わ……私?」

敵は、ハイと瓜二つの顔立ちだった。

442: 2015/01/27(火) 02:50:38.69 ID:mJpP1oCD0
536

--草原--

ジャコッ

???改めビィ「くすくすくす」

ハイ「はっ!」

ガガガガガガガガガガッ!!

一瞬遅れて銃を構えるハイ。

キンキンビチッ!

撃ちもらした銃弾がハイの腕をかすめていく。

ハイ「っ!!」

ガガガガガガガガガガガン!!

ハイ「っ! ユニちゃん! 左前方の林の中に入って!!」

ユニコーン「ひひーん!!」

だからっだからっ!!

ビィ「あれぇー? 逃げちゃうのかなぁー?……逃がさないけど?」

だだからっだだからっ!!

チュンチュンチュイン!!

443: 2015/01/27(火) 02:53:25.02 ID:mJpP1oCD0
537

--草原--

ガガガガガッ……

加速するハイ達を追うツインテ達。

ツインテ「……あれが話に聞いた別ルート存在……それもハイさんの……」

フォーテ(おかしいな。僕あんなのがいるなんて聞いてないよ? しかもなんでトリガーは、残り少ない力を使ってまであんなのの別ルート体を呼び寄せたのかなー?)

ユー「……」



--林--

ガガガガガガガ!!

真っ暗闇の中で打ち合う二人。見えるものは発砲の光のみ。

どくんどくんどくん!

ハイ(なんで……なんで私の別ルートが……? ありえないでしょ、私は普通の一般人なのに、特別な力も無いのに……どうせ別ルートからひっぱってくるならツインテ先輩とかもっといい人がいるはずなのに!)

ガガガガガガガッ!! ビチチッ!!

銃弾が頬をかすめる。

ハイ(っつ! 動揺してる場合じゃない……今はなんとしても、私を止めなくちゃ!!)

ハイは覚悟を決める。

ハイ「たとえ、相打ちになってでも!!」

フォーテ「――その必要は無いよ、ハイお姉ちゃんっ」

ハイ、ビィ「「!?」」

ズズッ

突如暗闇の中から現れたフォーテ。

ズドズブブブブブブッ!!

ビィ「」

そしてありとあらゆる方向から氏者の腕が繰り出され、一瞬にしてビィの体は引き裂かれた。

ブチブチブチィッ!!

フォーテ「観察は終わりっ。結局考えても意図はわからなかったからー、とりあえず頃しちゃうねっ!」

444: 2015/01/27(火) 02:55:11.68 ID:mJpP1oCD0
538

--林--

ビィ「ごふっ!!」

四肢を捻じ切られ、はらわたを引きずり出され、瞬く間に無残な姿になったビィ。

ビィ「げほっごほっ!……くす」

だが、ビィは笑うのをやめない。

フォーテ「」

そしてフォーテだけがその違和感に気づく。

フォーテ「――何この体……」

ビィの体内にあったものは

どどくんどどくん

――五つの心臓。

フォーテ「」

フォーテは、理解出来ないそれから感じる何かに恐怖を抱いた。

フォーテ「う、うわあああああああああああああ!!」

ボッ!!

フォーテが膨大な魔力をこめて繰り出す呪いの一撃。

ビィ「――最終条件達成」

それが届く一瞬前に

ビィ「レベルアップ、レベル4、アークエネミー」

と、ビィが呟いた。

445: 2015/01/27(火) 02:58:42.55 ID:mJpP1oCD0
539

--林--

ドギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

フォーテ「あああああああああああああああ!!」

ドギャアアアアアアアアアアアアアアアアン!! ドギャギャギャアアアアアアアアアアン!!

魔法の威力換算でレベル6相当の攻撃を乱発するフォーテ。木々は全て吹き飛び、辺りは荒地と化していく。

ハイ「ちょっ! フォーテさん! やりすぎ!! オーバーキル過ぎだから!!」

ズンッ

フォーテ「――あ」

暴走するフォーテの体を杭が貫いた。

ハイ「!? ふぉ、」

フォーテ「あ……う、嘘だ……」

ビィ「あー、危なかったー」

ギャリリリリリリリリリリリリリリリイイイイイイイイイイ!!

そしてその杭がドリル回転。辺り一帯に飛び散るフォーテの肉片。

ビチャチャチャッ!!

ハイ「フォーテさん!!」

フォーテ「あ、ありえ、ない……僕は、魔王だって、倒せる、は、ず……」

ビィ「そーだねー。フォーテちゃんは確かに最強だよねー。でもぉー? フォーテちゃんでも完全な魔王は倒せないよね? よそから引っ張ってきただけのまがい物の魔王と違ってー、私は勇者因子を持たない者からのダメージはうーケーつーけーなーいーのーでーすーーーーー」

446: 2015/01/27(火) 02:59:30.86 ID:mJpP1oCD0
540

--林--

ガシガシガシガシガシガシ!!

氏者の腕がフォーテからビィを引き離そうと掴むのだが、

ぱんっ

ビィが払っただけで消滅していく。

ビィ「残念ッ★」

グシャッ!!

ビィは、フォーテの頭部を握りつぶした。

ハイ「あ……あ……」

ガシャッ

紫色と濃い赤色が混ざった鎧。それを纏うビィからは、確かに魔王の圧力を感じていた。

ハイ(これが私の、別ルート……)

ビィ「さて、と」

ビィは血塗れたパイルバンカーをハイへと向ける。

ビィ「氏んでもらうよ、私ぃ」

459: 2015/02/03(火) 22:34:08.83 ID:Af2PAnFx0
541

--林--

ハイ「私を……頃す?」

ビィ「そ、私を頃す★」

びちゃ、びちゃ、びちゃ

ビィは血溜まりをスキップしてハイに近づいていく。

ハイ(私を頃す……そりゃトリガーが別ルートからわざわざ引っ張ってきた存在なんですから、盗賊王さんのように何かしら戦う理由があるんでしょうけど……)

ビィ「ふふ」

ハイ(でも、私がここまで変貌するルートなんて存在するんでしょうか……)

ビィ「じゃあ『次』が待ってるから手早く済ませちゃうね」

シュッ

ビィはハイにパイルバンカーを押し付けた。



フォーテ『それで勝ったつもりっ?』

ハイ「!」

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

血溜まりが波打って、無数の氏者の腕がビィに掴みかかった。

ビィ「――んーん。思ってないよ、フォーテちゃんはしぶといもんね」

シュババッ!!

フォーテ「!?」

ズガッ!!

その全ての攻撃を粉砕し、闇に潜むフォーテの頭部を引きずり出し、パイルバンカーを突き立てた。

460: 2015/02/03(火) 22:36:24.84 ID:Af2PAnFx0
542

--林--

フォーテ「こ、攻撃が、読まれて……」(ぐ、なんか、体が、だるい。おもう、ように、うごかない)

ビィ「チミドロミキサー★」

ギャリギャリギャリギャリギャリギャリーーーー!!

フォーテ「――ッ――ッッ!!」

ハイ「ありえ、ません」

チュルルルルルゥン……ズポッ

ビィ「あらららー、随分見通しよくなっちゃったねー、フォーテちゃんー。フォーテちゃん越しに地面が見えるー。あははっ★」

ハイ「……私がフォーテさんを完封しちゃうなんて、ありえない……!」

シャッ、シャッ、シャッ、ザッ!!

ユー「……!」

タタタッ!

ツインテ「!? フォーテちゃん!!」

そこに遅れてユー達がやってきた。

ビィ「おやおやおやー?」

ユー「!」

シャキィン!!

ユーは一瞬で状況を理解すると、レイピアを抜いてビィに向かっていく。

461: 2015/02/03(火) 22:39:28.61 ID:Af2PAnFx0
543

--林--

ザザザザザッ!!

ビィ「あらーユーさんじゃないですかー、お久しぶりー。っと……今の姿だとユーさん相手じゃ超不利だねぇ」

ビィは自分の姿を確認して笑う。

ユー「!」

ボボボボボッ!!

ユーは無防備なビィに向かってレイピアのラッシュを叩きこむ。

ビィ「じゃーレベルダウン、レベル3」

ブンッ

ハイ(!! あえてレベルダウンすることで勇者因子から逃れるつもり!?)

ずぼぼっ!

攻撃が到達するよりも早く地面がめくりあがり、そこから何かが飛び出してユーのレイピアを受け止めた。

ガギギギギギギィイイイイン!!

ビィ「――ネクロマンサー」

ハイ(ネクロ、マンサー……? 私と微妙にレベルの職業が、違う……!)

ビィ「くすくすくす。ありがとうー下僕共ー★」

ザッ!!

ハイ「!」

気づけば無数の亡者がハイ達を取り囲んでいた。

462: 2015/02/03(火) 22:41:55.31 ID:Af2PAnFx0
544

--林--

オオオオオオオオオオオオオ……

ハイ「……! こんなに沢山の氏者が!?」

ツインテ「フォーテちゃん! 今回復魔法をかけるからね!」

ユー「!」

ズギャギャギャギャギャギャギャーーー!!

亡者「おあああああぁああ」

迫る亡者を次々に吹き飛ばしていくユー。しかし少しずつビィから距離を離されていく。

ビィ「あっはっ★ 凄い凄いさすがユーさんだぁ……。この程度の亡者の群れなんてなんともないよねぇ……じゃあ」

ドスッ

ビィは自分の胸を指で貫いた。

ハイ「!」

ごぽっ、びちゃちゃっ

ビィ「最終条件達成、レベル4、アークエネミー」

ボッ!!

ハイ「なっ!?」

ビィは再びレベル4へと変身する。

ビィ「……倒すなら魔王にならなきゃね」



ユー「!!」

ビィが掌を向けた瞬間、ユーは防御の構えを取る。

ユー「対単体六属性攻撃魔法、レベル5」

ドギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

463: 2015/02/03(火) 22:47:06.45 ID:Af2PAnFx0
545

--荒地--

ハイ「ユーさーーーーーーーーーーん!!」

しゅううう……

ハイ「……そんな……」

しゅぅううううう……

ビィ「あっは★ かったーーーーい。複合魔法の、それも六属性のレベル5直撃で生きてるとか、いくら防御型とはいえちょっと化物すぎませーん?」

ユー「ッ……ッ」

ぶしゅっ、ぶしっ!

ガクガクと震えるユー。レイピアも鎧も破壊され、もはや立っているのがやっとだった。

ハイ(よかった生きてた!……でもおかしい……これはおかしすぎる……!)

カチャッ

ハイ「はああああああああああ!!」

ユーからビィを引き離すために、ハイは銃を連射する。

ガガガガガガガガ!! チュインチュイーン!!

ビィ「ん、そんなの意味無いのに私ったらおばかさん」

ハイ(誰も通らないような辺鄙な場所なのに、こんなに大量に氏体が埋まってるもの……? それもまだ埋められて新しい氏体が……!)

ビィ「うっとおしいよ、氷属性攻撃魔法レベル4」

ピキャアアアアアアアン!!

ハイ「くっ……!」

バッ!!

ハイは回避しようとするのだが

ビシッ

左足をもっていかれる。

464: 2015/02/03(火) 22:49:54.82 ID:Af2PAnFx0
546

--荒地--

バキバキバキーーン!!

ハイ「ぐっ……あ!」(動きも、おかし過ぎるんだ……! 私は、たとえ魔王になったとしてもここまで戦えない……だっていうのにこれは……まるで……)

ビィ「全てを見通してきたような感じだなって、思ってるでしょ?」

ハイ「」

ビィ「くすくす。自分だけだと思った?……くすくす」

ハイ「――」

ビィは矛先を再びハイの方向へ。

びちゃ、びちゃ、ざく、ざく

ビィ「フォーテちゃんの動きもユーさんの動きもツインテ先輩の動きも、私の動きも……なぁーんでも知ってるよん★ 持たざる凡人は、こうでもしなきゃ勝てないものだからねぇ」

ハイ(――この人が歩んできたルートは)

ビィ「じゃあ、バイバイねー」

バッッ!

フォーテ「やらせないよっ」

ツインテ「やらせません!!」

復活したフォーテとツインテがビィの背後から襲い掛かる。

ビィ「――うん、知ってる」

465: 2015/02/03(火) 22:51:47.37 ID:Af2PAnFx0
547

--荒地--

フォーテ「くらっ、ちゃえーーーーーーーーーーー!!」

ドギャアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

フォーテの規格外の一撃でさえ、魔王化しているビィには届かない。

ツインテ「!」

フォーテ「やっぱり……本物、だ」

ずるるるる!!

続いてフォーテは闇を広げて氏者の腕を大量展開する。

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

ビィ「今度は数で押せばなんとかなるって? いやいやそんなわけないでしょう? まさか本気で効くと思ってるのかな?」

フォーテ「……いや」

ガシガシガシガシ!!

ハイ「っえ!?」

氏者の腕はハイ達を抱えると一目散に逃げ出した。

シャーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

フォーテ「……超むかつくけど、今回は逃げるっ」

466: 2015/02/03(火) 22:53:15.59 ID:Af2PAnFx0
548

--荒地--

ダバダバダバダバ!!

ハイ「!! あのフォーテさんが、逃げる!?」

ツインテ「フォーテちゃん……」

フォーテ「し、仕方ないでしょっ! 今は僕だって本調子じゃないし、それにツインテお姉ちゃんを傷つけさせるわけにはいかないのっ! そのためならっ、僕はなんだってやるっ!!」

ビィ「ぽかーん」

ビィは去っていくフォーテ達をただ眺めていた。

ビィ「ふぉ、フォーテちゃんが私なんかから、にっ、逃げるなんて……」

くねくね

ビィは大げさに体を捩らせて――言った。

ビィ「知ってた★」

ニィ……

夜の番人「ぎしゅるるるるる!!」

ツインテ「!? あの人は」

ハイ達の進行方向で待ち構えているのは、夜の番人。

ハイ「夜の番人さん!? なんでこんな所に……」

フォーテ「……あれ氏体だ。あのお姉ちゃんに操られてるよっ!」

夜の番人「しゅぎゃああああああああああ!!」

バッ!!

フォーテ「邪魔だよっ!」

どぎゃっ!!

フォーテは躊躇無く夜の番人の頭を破壊する。

467: 2015/02/03(火) 22:55:26.66 ID:Af2PAnFx0
549

--荒地--

ダバダバダバダバ!!

ツインテ「ちょっ、フォーテちゃん!? 絶対回復領域!」

ぱしゅん!

ツインテは夜の番人の横を通り過ぎたタイミングで回復と蘇生を同時にかける。

ツインテ「ううぅ……そんなぽんぽん人を頃しちゃいけませんよぉ。悔い改めなきゃだめなのにぃ」

フォーテ「……」

ダバダバダバダバ!!

ハイ「それより追ってきてません、ね……? 不自然です。まさか逃げ切れたんでしょうか?」

フォーテ「……に」

ユー「……!」

みんなの意識が後方にいっている中、ユーのみが気づく。

フォーテ「……」

フォーテが全く動かなくなっていることに。



じゃり

ビィ「くすくす。ぽんぽん頭ふっ飛ばしちゃうのも、私知ってるんだ~~」



ぱっ

ハイ「! 闇が消えて!?」

ドサドサドサドサー!!

ハイ「ぎゃんっ!!」

闇が引き、氏者の腕が消滅したことでハイ達は地面に投げ出されてしまう。

468: 2015/02/03(火) 22:58:23.55 ID:Af2PAnFx0
550

--荒地--

ツインテ「あたたたっ……ふぉ、フォーテちゃん大丈夫!?」

フォーテ(あ り え な い  た い か ん す ぴ ー ど が お そ す ぎ る  こ れ じ ゃ ま る で  あ の と き ぼ く が や っ た の と お な じ だ)

じゃり……

ビィ「くすくすくす。でっばっふ~~」

ハイ「!?」

いつのまにか近づいて来ていたビィ。

フォーテ「こ……の」

ビィ「わぁお。これだけやってもまだ動いちゃう? さすがだねー」

ビィはフォーテに人差し指を向けると、その先端が光る。

ビィ「ではではダメ押し。デバフっ、デバフっ、デバフー★」

ぎょんぎょんぎょんっ!!

フォーテ「  」

フォーテは、微動だにしなくなった。

ビィ「くすくす。デバフ特化魔王とか新しいよね」

ユー「……!」

ぐぐっ

ユーは先ほどのダメージが響いて立ち上がれない。

ビィ「――始まりの勇者様と魔王を超えた化物。くすくすくす。愉快だわぁ痛快だわぁジャイアントキリングだわぁ。その二人を相手にして勝っちゃうのが、『ただの人間』だっていうんだから」

469: 2015/02/03(火) 23:01:24.64 ID:Af2PAnFx0
551

--荒地--

ビィ「くすくすくす」

ツインテ「っ!」

たたっ!

ツインテは妨害魔法を解除しようとフォーテに近づく。

ハイ(! 解除の時間を稼がなきゃ!)「り、理解できません……! 『レベル』は、そう簡単にレベルアップ出来るものじゃないんです!」

ビィ「……はい?」

ハイは突然大声を出してビィの意識を自分に向けさせる。

ハイ「『レベル』はリスクが大きいだけ強くなれる職業……だからただの人間でも強くなれるんです……なのに、なのにあなたの条件はあまりに軽過ぎる」

ビィ「……そんなことないよ、レベルアップ条件は私と貴女は一緒」

ハイ「――え? い、いや、でも、レベル4は一人じゃ絶対になることが出来ないはずじゃ」

ビィ「察しが悪いねー。それともわざと現実から目を背けてるのかな?」

ぐちゅ、ぎちちち

ビィは……自分の胸を開いて見せた。

ぶしゅっ! ぐちゅちゅっ!

ビィ「――ほら、いるよ? みんなはここに」

どくん!

ビィが見せたのは五つの心臓。

ハイ「!?」

ビィ「これが私のパーティ★」

470: 2015/02/03(火) 23:05:31.43 ID:Af2PAnFx0
552

--荒地--

ハイ「そ、それはまさか……!! そんな……そんな方法で一人パーティを!!」

ビィ「こんな方法思いつかなかったでしょー? くすくす。レベルの弱点も頑張れば克服できちゃうんだねー★」

ハイ(かんがえ、つく? そういうことじゃない!! 自分の仲間なのに、大切な人たちなのに……なんで、なんでそんなことを)

ぐに

ビィ「この少し大きいのがアッシュ先輩でー、この色が薄めの可愛いのがツインテ先輩のでー」

ハイ「――どうして貴女はそんなことが出来るんですかっっ!!!!」

ビィ「」

ツインテ「……ハイさん」

ユー「……」

ビィ「くすくすくす……素敵な表情するね……まだ本当の絶望を知らない時の私の顔だぁ。懐かしいなぁ……くすくすくすくす、くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす」

ハイ「あな、たは……」

ジャリ

フォーテ「やっぱり、それ、ツインテお姉ちゃんのだったんだ……」

ハイ「フォーテさん……」

デバフを解除されたフォーテがビィを睨んでいる。

フォーテ「許せない……どのルートのツインテお姉ちゃんだとしても、それはツインテお姉ちゃんなんだ……ツインテお姉ちゃんを傷つけるやつは、僕が絶対に許さない!!!!!!!!」

ぼっ!!

溢れる膨大な魔力。

ビィ「――何度も回復&復活でさすがにうんざりかな。このルートは、ここでおしまいにしておきましょうか」

ぼっ

フォーテ「」

だが、魔王であるビィの魔力がそれを上回った。

ビィ「サヨナラ」

471: 2015/02/03(火) 23:06:53.83 ID:Af2PAnFx0
553

--荒地--

ひゅっ、ドギャシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

ビィ「!」

ハイ「……あ」

ビィの魔力弾がハイ達に届く前に、蒼い閃光が間に割って入った。

???「……ぢっ!!」

ばしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!

そしてそれは魔力弾を空中に弾き飛ばす。

どがあああああああああああああああああああああああああああああん!!

空中で大爆発を起こす魔力弾。そして、弾いたその人物は焦げ付いたマントを投げ捨てた。

ふぁさっ

ハイ「あなたは……十代目さん……」

???改め十代目「……」

472: 2015/02/03(火) 23:09:36.94 ID:Af2PAnFx0
554

--荒地--

ビィ「……十代目さん……?……そんなことって、あるの?」

ほとんど表情を変えなかったビィだが、ハイの眼には微かな動揺が見て取れた。

十代目「――初めて見るが……どうやらお前は魔王のようだな」

ビィ(勇者因子が反応したのかな?)「やだなー、間違えてますよ勇者様。私はただのかよわい一般人です★」

ちゃき

十代目「……倒させてもらう」

だっ、ザンッ!!

ビィ「ッ」

一瞬で近寄った十代目は防御するビィの左腕を切り裂いた。

ぶしゅっ!! ぽたたたっ

ビィ「……聞く耳、持ちませんか。やれやれ強引ですねー」

ハイ(傷を与えられた……い、いやそれもそうか……だって十代目さんは、まごうことなき勇者なんだからっ!!)

十代目「……」

ビィ「……やー……面食らっちゃったなー。まさか十代目さんがここで出てくるルートがあったなんてねー。れろっ」

傷口をいやらしく舐めるビィ。

473: 2015/02/03(火) 23:12:55.00 ID:Af2PAnFx0
555

--荒地--

ビィ「参ったなぁ……フォーテちゃんにユーさんに十代目さん。この面子をいっぺんに相手どるのはさすがに辛過ぎだよねぇ……」

鎧使い「――は? それだけじゃないんだけど?」

ざざざんっ!!

戦士「……うすっ!」

僧侶「きゃははっ!!」

シノビ「…シノビン…推参」

ハイ「皆さん……!」

いつの間にかハイ達の隣に十代目勇者パーティが勢ぞろいしていた。

ビィ「はぁ」

ビィはわざとらしく困ったポーズ。

ビィ「……しょーがない、今日は引きますかー。あーあ、今回は長丁場になりそうだーあ」

くるっ

ビィ「ちゃお★」

ビィはひらひらと手を振ると後ろを向いて歩いていく。

鎧使い「あ、まて!……十代目どうする? 追うか?」

十代目「……」

十代目はビィを追うことは無く、ビィの気配が無くなるまで臨戦態勢を解かなかった。

ツー

十代目「……」

十代目は一筋の血を額から流した。

474: 2015/02/03(火) 23:14:39.64 ID:Af2PAnFx0
556

--荒地--

ツインテ「たす……かったんですか?」

へなへなと座り込むツインテ。

フォーテ「むすー」

やられっぱなしのためむくれるフォーテ。

ハイ「……あっ、そうか時間切れだったんだ!!……頭が回らなくて気づかなかったけど、もう彼女は戦えなかったんだ!」

ツインテ「時間切れ? どういうことですか?」

ハイ「……人は何にでも成れます。勇者にだろうと魔王にだろうと……それが人の可能性の力。それがレベル。でもレベルには時間制限があるんですよ」



--草原--

だだからっだだからっだだからっ
ばしゅーっ

禍々しい鎧が消滅し、ビィは元の下着のような格好に戻る。

ビィ「ふぅー……やれやれ、これだけやってもまだ見てないパターンがあるんだねぇ……これは先が長いということなのかしらん……」

バイコーン「ぶひるんっ!!」

ビィ「くすくす。大丈夫よ、諦めたりはしないわバイちゃん。私は――必ずエンディングを迎えてみせるんだから」

475: 2015/02/03(火) 23:17:45.05 ID:Af2PAnFx0
557

--荒地--

ホーホー

ハイ「……でも本当に助かりました。ありがとうございます十代目さん方。九氏に一生でしたよ」

十代目「いや……気にしなくていい。人助けは勇者の勤めなのだから。それよりもここで何があったのか詳しく教えてくれないか? 私達は最近まで前線で戦っていてこっちの情報に疎いんだ」

ハイ(そう、でした。今の時期だと十代目さんは魔王軍との最前線で……ん、北の王国の滅亡が無くなったからこの人たちの動きも変わったんですね?)

がくっ

鎧使い「ちょっと! 大丈夫なの? ほらしっかりなさい。し、心配してるわけじゃないんだからねっ!」

鎧使いは気が抜けて崩れ落ちたハイを支える。

ハイ「す、すいません、安心したら気が抜けちゃったみたいで……」

フォーテ「ハイお姉ちゃん、疲れてるとは思うけど説明するのはハイお姉ちゃんの役目だよ? ハイお姉ちゃんが僕らの指針で、僕らの中じゃ一番持ってる情報が多いんだから」

ハイ「ん。はい、そうですね。ろくに戦ってもいないんですし、せめて説明くらいしなきゃです」

十代目「……?」

ハイ(十代目さん達を説得するには材料が少なすぎる気がするけど、でも話してみなくちゃ始まらない。少なくとも今の私にはそれしかやれないんだから)

476: 2015/02/03(火) 23:20:10.71 ID:Af2PAnFx0
558

--荒地--

ホーホー

ハイ「――と、いうことなんですけれど……」

十代目「……」

鎧使い「う、胡散臭過ぎる……(実は北の王国に寄った時に北の王様に話を聞いてるんだけど……さすがに未来から来たってのは聞いてない……)ねぇ十代目、この話」

十代目「わかった、信じよう」

鎧使い「……嘘ー。普通に信じちゃうんだー。……お人よしすぎるだなんて、思ってないんだからねっ!?」

十代目「お人よしとかそういうことじゃなくて。私は彼女の話が信じるに足ると思っただけなんだ」

鎧使い「どーこーがーよー?」

十代目「理由はいくつかあるが、あえて言う必要もないだろう」

鎧使い「……納得しがたいからその説明を求めているのに」

十代目「……」(なんにせよ、彼女らが魔王に狙われていたのは事実。それだけ重要な人間だということ……)

477: 2015/02/03(火) 23:22:27.66 ID:Af2PAnFx0
559

--荒地--

十代目「で、これから君達はどうするつもりだ?」

ハイ「あ、はい。私達は……あ! そういえば代表君を追ってたんだった!!」

ツインテ「! 忘れてました! 用事の途中で裏ボスみたいな人とエンカウントしたせいです……」

フォーテ「ふぁーあ。むにゃむにゃ」

ユー「……」

回復魔法をかけて欲しいのだが全身に大ダメージを受けているためジェスチャーできずにもがいているユー。

十代目「代表? 亜人保護団体の代表のことか」

ハイ「はい、そうです。すみません、このお礼はまた今度させてください。私達は急がなくちゃいけないので……ユニちゃん!」

ユニコーン「ひひーん!」

ツインテ「ほらフォーテちゃん起きて。もう出発するよ?」

フォーテ「えー? フォーテ眠いよぉ」

ツインテ「ごめんね、でもフォーテちゃんの力が無いと私達移動できなくて」

478: 2015/02/03(火) 23:26:16.95 ID:Af2PAnFx0
560

--荒地--

十代目「それならこういうのはどうだ? ピューイ」

十代目が指笛を鳴らすと

ばさっばさっ!!

大きなロック鳥が現れた。

十代目「風のピューイだ。こいつに乗っていこう」

ハイ「あ、ピューイってオノマトペじゃなかったんですね」

ピューイ「ヒューイ」

十代目「さぁ、急ぐのだろう? 乗りなさい」

そう言って一番最初に乗り込む十代目。

ハイ「……ん?」

十代目「では鎧使い。しばらくの間パーティのリーダー役を任せるぞ」

鎧使い「……んん!? なんだって!?」

十代目「私はしばらくハイ達の手伝いをすることにする。鎧使い達は先ほどの話にでていた、精霊郷の襲撃に備えてくれ」

鎧使い「ちょっ、ちょちょちょ! どういうことどういうこと!! 勝手に何決めてんの!?」

ばさっ、ばさっ、ばさっ

ハイ達を乗せたロック鳥が夜の空へと吸い込まれていく。

鎧使い「……え、ろくに説明もしないで本当に行っちゃうんだ!?」



十代目が仲間になった。

479: 2015/02/03(火) 23:31:33.59 ID:Af2PAnFx0
<勇者と魔王について>
本来なら一人ずつしか存在しない彼らが本編ではわんさか出てくるので、もうよくわからんことになってると思いますので補足説明を入れさせて貰います。

勇者
・勇者は魔王、魔族キラー持ちです。
・更に全属性の魔力を扱うことができます。
・絶望や憎悪に染まると魔王になります。

魔王
・魔王は勇者以外からの干渉を無効にします。
・更に全属性の魔力を扱うことができます。



この勇者と魔王は世界のシステム上の存在であり、絶対に一人ずつしか存在出来ないようになっています。ゆえに人造勇者が何人出てこようが魔王キラーは持てませんし、疑似魔王も同様に勇者以外からの干渉を無効にするバリアも持てません。真似できるのは基本的なステータスまでです。

別ルートから引っ張ってきた魔王達でさえ、このルートにいる正規の魔王以外はバリアを持てないことになり、正規の魔王の資格を奪われます。ちなみに現段階の魔王の資格を持っていたのは魔王勇者です。



そしてレベルの存在。
レベルは人の可能性です。人は何にでもなれるというコンセプトで成り立っていて、その可能性は世界のシステムさえ破壊してしまうものです。なので一時的にではありますが、正規の勇者や魔王と同じような存在になることが出来ます。





それでは本日の投下はここまでになります。
疑問、質問等がありましたら気軽に書きこんでおいてください。
読んでいただきありがとうございました!m(__)m

勇者と魔王がアイを募集した【15】

引用: 勇者と魔王がアイを募集したFINAL+