31: 2013/10/01(火) 20:36:02 ID:CG33jvDA


前回:
第1話 ドーナツの世界



第2話 バラバラの絆

~山道~
魔法使い「♪」

僧侶「魔法使いちゃん、ご機嫌ですね」トテトテ

勇者「はぁ、結局押し切られちゃったよ」

僧侶「でも実力は申し分ないし、楽しいじゃないですか」

勇者「はぁ(二人旅の予定だったのに……)」

勇者「ん? 魔法使いちゃん、ストップ。誰かいるみたい」

山賊A「おうおう、てめえら。痛い目に遭いたくなかったら、金目のもんを置いていきなっす!!」

山賊BC「そうだぜ、置いていきな!」
魔法の世界
32: 2013/10/01(火) 20:41:38 ID:CG33jvDA
魔法使い「爆発魔法!」


ドーーーンッ!!


山賊ABC「ぐおーーーっ」ピクピク


魔法使い「勇者さま、都が見えましたよ♪」

勇者「そ……そうだね」

僧侶「山賊さん、これに懲りて悪いことはやめてくださいね」ニコッ

33: 2013/10/01(火) 20:47:23 ID:CG33jvDA

~山すその都~
魔法使い「僧侶さ~ん、お洋服のお店がありますよ」

僧侶「あ、その服、サラマンダーに祝福された繊維を織り込んであるみたいだよ。魔法防御が上がるから、魔法使いちゃんにぴったりなんじゃない?」

魔法使い「こっちの光のドレスもかわいいです♪ でもちょっと高いな……」

防具屋「きっとすごくお似合いだと思いますよ。試着だけでもなさいますか?」

魔法使い「えっ、いいんですか?」

僧侶「じゃあ、私もこのワンピースを」キャッキャッ

勇者「……先に宿を探しましょうよ。もうすぐ日が暮れるし、部屋がなくなるかもしれません」

魔法使い「え~~、この服、着たかったのに」ブーブー

僧侶「また後で来ましょ」

防具屋「ありがとうございました。またお待ちしております」

僧侶「宿屋、宿屋~♪ 勇者さま、ガイドブックに山菜料理がお勧めと書いてあるし、あのホテルにしませんか?」

勇者「山菜かぁ。それじゃあ、そこに泊まりましょう」

34: 2013/10/01(火) 20:53:44 ID:CG33jvDA

主人「ご家族連れの方ですか? それでしたら、一泊200Gになります」

勇者「家族連れというより、勇者なんだけど」

主人「エルグ王の紋章ですね……。少々お待ちください」

35: 2013/10/01(火) 20:57:43 ID:CG33jvDA
・・・
・・・・・・


僧侶「いい部屋ですね、街を一望できますよ。あっ、お城も見えますね」

勇者「そうなんだ。ここは同盟国だし、そちらの王様にも挨拶しておこうか」

僧侶「はいっ」

魔法使い「あのー、勇者さまと同じ部屋なのですか? 普通は殿方と女性は分かれるものかと……」

勇者「魔法使いちゃんは正式な部隊メンバーじゃないから、資金が出ていないんだよね」

勇者「それにこれから長い旅をするわけだし、お互いに信頼関係を築いていかないといけない。だから無理にとは言わないけど、我慢して欲しいかな」

魔法使い「……障壁魔法!!」パァァ

勇者「えっ、何これ?」

魔法使い「光のカーテンです。こっちは私と僧侶さんの部屋だから、勝手に入らないでくださいね♪」

勇者「あー、うん」

36: 2013/10/01(火) 21:04:37 ID:CG33jvDA
魔法使い「それでは、魔術書を探しに行ってきます」

僧侶「迷子にならないように気をつけてね」

魔法使い「は~い」

勇者「あの子は光属性の魔法も出来るんだ……」

僧侶「勇者さま」スッ

勇者「うわぁ、びっくりした! このカーテン、向こうが見えないだけで普通に通れるのか」

僧侶「そうですよ。でも何度も出入りしたら、光の粒子が散って消えちゃいますけどね」

勇者「あの子が戻ってきたときに消えていたら、すごく怒られそうだね。ははっ」

37: 2013/10/01(火) 21:12:56 ID:CG33jvDA
僧侶「やっぱり連れてくるのは良くなかったですかねえ」

勇者「まあ、村長さんや本人の意向もあるし、僧侶さんは話し相手が出来てうれしいんでしょ?」

僧侶「……はい。魔法使いちゃんがいてくれると、妹が出来たみたいでうれしいです」

勇者「彼女は年頃の女の子だし、多感な時期だから気難しいこともあるんじゃないかな。それは仕方ないよ」

僧侶「そうですね……」

勇者「とりあえず日が暮れる前に、僕たちも買い物に行きましょうか」

僧侶「はい」

38: 2013/10/01(火) 21:20:32 ID:CG33jvDA

魔法使い「やっぱり、都の書店は大きいな~」トテトテ

山賊A「親分、あいつっす」

盗賊「あいつって、どう見ても女子供じゃないか。そんな口リっ子にやられたのかい?」

山賊B「それがいきなり爆発魔法で攻撃されまして……」

盗賊「情けないねぇ。子供の魔法使いなんて、児戯に等しいだろ」

山賊A「それがどうやら、あの歳で勇者一行のメンバーみたいっす」

盗賊「なるほど。勇者一行なら、王家の紋章を持っているはずだよな。宿を突き止めて、頂戴するよ!」ビシッ

山賊A「了解っす!」

盗賊「気配消去魔法」スサッ

39: 2013/10/01(火) 22:17:22 ID:CG33jvDA

~街中~
僧侶「勇者さまぁ。私たちが泊まっているホテルからすべての橋を一度だけ通って、街の観光とお城への訪問をして、ここに戻ってくることは出来ると思いますか?」

勇者「一筆書きの問題?」

僧侶「はい。さっき部屋から街並みを見てて、行けるかな~って思って」

勇者「うーん、出来ないかな。気に入ったお店には何度も行きたいから!」ビシッ

僧侶「!!」

僧侶「あぁ、そっか。私たちに一筆書きはできませんね。ふふっ」トテトテ

勇者「で、結局、答えは何なの?」

僧侶「観光マップを見てみたけど、あの橋だけは渡れないみたいです。街から外れるので、行く必要はないですけど」

勇者「ふうん、そうなんだ」

40: 2013/10/01(火) 22:38:47 ID:CG33jvDA
僧侶「一筆書きと言えば、ケーニヒスベルクの橋の問題が有名ですよね」

僧侶「ケーニヒスベルクの街を流れているブレーゲル川に、七本の橋が架けられています。その七つの橋を二度通らずに、すべて渡って元の場所に戻って来ることが出来るか」

僧侶「そのような問題ですが、ご存知ですか?」

勇者「聞いたことがあるな。それって、出来ないんだったよな」

僧侶「そうです。でも実は、すべての橋を渡って、元の場所に戻ってくる方法があるんですよ」

41: 2013/10/01(火) 22:49:07 ID:CG33jvDA
勇者「まさか川を泳ぐとか言うんじゃないだろうな」

僧侶「いいえ、違います。川の上流を目指して歩いて、源流をぐるっと迂回するんです」

勇者「街から出たら駄目だろ」

僧侶「でも、『街を出てはならない』という条件はないですから。面白いと思いませんか?」

勇者「うぅん、そうかな……」

僧侶「この面白さに共感してもらえないなんて、勇者さまと一緒に旅をする自信がなくなりました……」

勇者「大げさだな……。あっ、あそこのお店、溶けないアイスだって。食べてみようよ」

僧侶「はいっ! 溶けないのにアイスって、面白そうです」

勇者「食べ物の好みは合いそうだね」

僧侶「えへへ、そうかもですね」

42: 2013/10/01(火) 23:01:25 ID:CG33jvDA

勇者「あー、うん。まさか本当に溶けないとは思わなかった」ゲンナリ

僧侶「ですね……。なんか、いつまでもジャリジャリしてましたよ」ショボン

勇者「アイスじゃなくて、砂だろって言いたくなった。まあ、こういう経験も観光の醍醐味かな」

僧侶「ですね……。地元の人、食べているのかなぁ」

勇者「外は寒いし、食べるのは観光客くらいじゃないかな。とりあえず気を取り直して、道具屋に行こっか」

43: 2013/10/01(火) 23:14:58 ID:CG33jvDA
道具屋「いらっしゃい。何にするんだい?」

勇者「薬草と聖水を三つずつください」

道具屋「全部で100Gだよ。他に何か買っていくかい?」

僧侶「民芸品を見せてもらっていいですか」

道具屋「うちでは、こういうものが有名だよ」

僧侶「道具屋さん。木の温もりって、いいですよね~」

道具屋「お嬢さん、分かってるねぇ。うちは都だけど、山すそで川もあるから、昔から林業が盛んでね」

僧侶「そうらしいですね。ここの木材は品質が良いと聞いています。あっ……、その組木パズルが欲しいです」

道具屋「今日は機嫌が良いから、少し値引きしてあげるよ」

僧侶「ありがとうございます♪」

44: 2013/10/01(火) 23:28:16 ID:CG33jvDA

~宿~
僧侶「いい買い物ができましたね」

勇者「それ、経費で落とすつもりなの? 王様、怒らないかな」

僧侶「大丈夫♪ 私たちには必要なものだよ」ニコッ

勇者「あっ、魔法使いちゃん、帰ってたんだ。ただいま」

魔法使い「お帰りなさい」ペコ

僧侶「魔術書は何か面白いのが見つかった?」

魔法使い「精霊魔術関連の研究論文がいっぱいありました。僧侶さんが喜びそうな魔法医学の本もありましたよ」

僧侶「そうなんだ。明日、お城に挨拶行ったら、一緒に本屋さんに行こっか」

魔法使い「はいっ♪」

トントン

勇者「どうぞー」

宿の主人「勇者さま、夕食の準備が整いましたがいかがなさいますか?」

勇者「ありがとう。温かいうちに食べさせてもらうよ」

45: 2013/10/01(火) 23:42:24 ID:CG33jvDA

~盗賊さん~
山賊A「ついに勇者たちの宿を突き止めたっす」

盗賊「よくやった」

盗賊「お前たち、人が一番無防備になるのは、いつか分かるか?」

山賊A「宿にいるときっす」

盗賊「いや、欲求を満たしているときだ。食欲、排泄欲、睡眠欲、性欲。だからこそ地位の高いものは、食事に毒を盛られるのを恐れ、枕を高くして眠ることが出来なくなる」

山賊B「仲間に僧侶がいる時点で、毒は効果がないですよね」

盗賊「そうだな。だから、俺たちは寝込みを襲撃する」

46: 2013/10/01(火) 23:53:04 ID:CG33jvDA
盗賊「やつらは今日、山を越えたばかりだ。相当、疲労しているだろう」

山賊B「そうですね」

盗賊「それでまず、全員で女子供を拘束して無力化する。そして気配を消して、勇者の寝込みを襲撃する」

山賊たち「なぜ、女が先なんですか?」

盗賊「この国が派遣した先発隊を見て分かるとおり、あいつもただの衛兵だろう。ならば、俺たちにとって恐ろしいのは、剣術よりも魔法だ」


山賊A「確かに、爆発魔法でのされたっす」

47: 2013/10/02(水) 00:05:34 ID:qtvigy82
盗賊「それでだ、寝込みとはいえ魔法対策をしなければならない」

盗賊「破魔の腕輪を二つ使って、僧侶と魔法使いの魔力を封印する」

山賊A「えぇっ! それって、今あるお宝でも高価なものじゃないっすか!」

山賊B「そうです! 口を塞げば、詠唱できないはずです! もったいないです!」

盗賊「そんな考えだから、山賊からスキルアップできないんだよ、お前たちは」

盗賊「いいかい、王家の紋章にはそれだけの価値があるんだ。元を取れるなら出し惜しみをせず、ベストの状態で戦える作戦を考えろ」


山賊たち「了解っ!!」

50: 2013/10/02(水) 20:16:11 ID:qtvigy82

~宿、勇者の部屋~
僧侶「お肉と山菜の煮物、味付けが絶品でしたね♪」

勇者「ふきのおひたしも、だしを吸ってて美味しかったな~」

魔法使い「二人は、いつも食べ物の話ばっかりですね」ニコ

僧侶「だって、おいしかったじゃない。ねえっ」

魔法使い「僧侶さん、今日はもう疲れました。眠たいです……」ネムネム

僧侶「慣れない旅が、初日から山越えだったもんね。それじゃあ、一緒にお風呂に入ろっか」

魔法使い「はい……」ネムネム

勇者「じゃあ、明日の行動は朝になってから打ち合わせだな」

僧侶「ですね。では、行ってきます♪」

51: 2013/10/02(水) 20:22:14 ID:qtvigy82
10
~深夜、宿~
盗賊「勇者は寝静まった。お前たち、行くぞ!」

山賊たち「了解!」

盗賊「気配消去魔法! 良いか、見えなくなったり物音を消せるわけじゃないから、絶対に油断するなよ」

サササ・・・

山賊A「この部屋っす」カチャカチャ

ガチャ

盗賊「入るぞ」クィッ

山賊B(よく寝てますね。こっちが女の部屋みたいです)


僧侶「zzz」
魔法使い「スヤスヤ」


盗賊(女の装飾品は、見つけても絶対に触るなよ。どんな魔法が込められているか分からんからな)

盗賊(よし、女の口を塞げ!)

盗賊の指示で、山賊たちは飛びかかった。

52: 2013/10/02(水) 20:32:05 ID:qtvigy82
僧侶・魔法使い「?!」

山賊A(魔法は使わせないっす)


すかさず、破魔の腕輪を装備させる。
僧侶たちの魔力が吸われ、霧散していった。


魔法使い「むぅむぅ(魔道具?! 魔力がなくなる……)」ジタバタ

山賊C(こら、暴れるな)ボスッ

魔法使い「むぐぅ」

僧侶(魔法使いちゃん!)


破魔の腕輪は魔力を吸い取り、粉々に砕け散った。

53: 2013/10/02(水) 21:09:31 ID:qtvigy82
山賊AB(親分、腕輪が壊れました)

盗賊「よしっ。気配消去魔法! これで女たちが発する恐怖心も、勇者に気取られん」


僧侶(気配消去魔法? もしかすると、この4人以外にも仲間がいるのかも……)

僧侶(勇者さま、気付いて)エイッ

勇者「……痛っ」

山賊AB(!!)

山賊C「大丈夫です。こっちには気付いてません」

盗賊「だが勇者は起きた。プランBに変更だ。女を縛って運び出すぞ!」

魔法使い「むぅむむぅ……」

僧侶(……)

54: 2013/10/02(水) 21:16:15 ID:qtvigy82
11
勇者「zzz」

トスッ、コロコロ

勇者「……痛っ」

勇者(これは僧侶さんが買っていた民芸品)

勇者(はぁ、今日は寝相が悪いなぁ)チラッ


・・・
・・・・・・ドンッ

勇者(物音? 扉が開いてる)トコトコ

勇者「僧侶さん、魔法使いちゃん、起きてるんですか?」

!?

勇者「荒らされた跡! くそっ、女を狙った人売りか」

勇者「装備品が盗まれてる……。急がないと二人が!」

山賊A(くくっ)

55: 2013/10/02(水) 22:27:00 ID:qtvigy82
12
勇者「二人はどこに連れて行かれたんだ……」

勇者「確か、僧侶さんが街のはずれに行く橋があると言ってたっけ。とりあえず、そこに行ってみよう」


・・・
・・・・・・


勇者「橋を渡ると寂れてきたな……。とりあえず、あの廃屋を覗いて見るか」


シュッ……


唐突に、闇から刃物が伸びてきた。

勇者「ぐっ!」

盗賊「上手く避けたな。やはり、さすがは国の衛兵ということか」

勇者「何者だ!」

盗賊「俺は盗賊だ」

56: 2013/10/02(水) 22:46:24 ID:qtvigy82
勇者「盗賊? 女二人を攫ったのはお前か!」

盗賊「あぁ、そうだ。王家の紋章を渡せば、二人は返してやる」

勇者「紋章? お前みたいな人売りが、何に使うつもりだ」

盗賊「紋章を複製し、衛兵を襲う。そうすれば戦争が始まり、国が争う。その混乱に乗じて市場を握れば、莫大な利益を独占することができるって寸法だ」

盗賊「さあ、大人しく紋章を渡しやがれ!」

勇者「それを聞いて渡すわけがないだろ。二人はどこだ!」

盗賊「交渉は決裂だな。ではお前を倒した後で、ゆっくり探すとするか」

勇者(近くに仲間がいる気配はない。こいつを倒して、二人の居場所を吐かせるしかないようだな)


僧侶「……」
魔法使い「むぅむぅ(勇者さま!)」

山賊B「騒いでも無駄だ。俺たちのことは、そうそう気付かねえよ。さて、丸腰の勇者が親分に勝てるかな?」ガハハ

57: 2013/10/02(水) 23:08:57 ID:qtvigy82
13
盗賊は、おもむろに勇者に歩み寄った。
まったく警戒心を抱かせず、歩いてダガーの間合いへと入り込む。
そして、腹部へとダガーを突き出した。


勇者「?!」


勇者はすんでの所で身をかわし、次の斬撃を手でいなす。
それと同時、腹に拳が飛んできた。


勇者「ぐっ!」


さらに、ダガーが勇者のわき腹を掠める。
盗賊はダガーを鞘に収めると、改めて構え直した。


盗賊「勇者ってのは、この程度の体裁きも受けられないのかい」

勇者「こんな奴、初めてだ……。動きを読めない」

58: 2013/10/02(水) 23:13:23 ID:qtvigy82
それもそのはずだった。
戦いでは攻める側も受ける側も、相手の動きを見て一瞬の隙を探っている。
その一瞬の隙を見つけたとき、人はわずかに感情が変化する。

そう、殺気が高まる――。

しかし盗賊は、気配を隠す魔法を使って戦っている。
感情の変化を悟られることなく攻撃し、また反撃することができるのだ。

相手の感情を読むことができないことは、必殺の一撃を捉えることが出来ないことに等しい。

59: 2013/10/02(水) 23:22:16 ID:qtvigy82
盗賊「おらおら!」

勇者は斬撃をいなし続ける。
攻撃の手が休まったところで、強引に中段蹴りをねじ込んだ。

勇者「あまいっ!」ドスッ

盗賊「くそっ!」

勇者「殺気を感じられないだけなら、キラーマシンと同じだな。しかし機械と違って、人間には一拍の間がある。それを見切れば、受けられないことはない」

盗賊「はははっ。さすがだよ、勇者。だけどな、俺を機械人形と同じだと思わないほうがいい」

盗賊「はぁっ!!」シュッ

勇者「何度やっても同じだ。諦めて、二人の居場所を教えろっ!」

盗賊「加速魔法!!」ギュゥン


思いもよらない急激な加速に反応が遅れた。

勇者「ぐあぁぁっ!」

60: 2013/10/02(水) 23:33:30 ID:qtvigy82
盗賊「急所を狙ったつもりだったが、この状況でとっさにかわせるとはたいしたもんだ」

盗賊「そら、もう一丁!」シュシュッ


勇者はダガーをいなす。
しかし、身体がしびれて避けきれない。

勇者「ぐっ! 何だ、そのナイフは……」

盗賊「どうやら、効いてきたようだな。こいつには特製のしびれ薬が塗ってある」

勇者「しびれ薬だと……」

盗賊「そうだ。残念だけど、お前とはもうお別れだな」

勇者「くそっ……」

61: 2013/10/02(水) 23:41:26 ID:qtvigy82
盗賊はダガーを鞘に収め、再び構え直した。
それにより、しびれ薬が刃に塗られる。


盗賊「氏ねっ! 加速魔法っ!」ドギュンッ


ぼこぉっ!
勇者の放った渾身の拳が、盗賊の鳩尾にめり込んだ!


盗賊「がはぁっ……」

ドサッ

勇者「加速をすればするほど、自分への打撃のダメージも大きくなる。詰めを誤ったな」


盗賊は倒れた。
勇者は完全にしびれて、立っていることが出来なくなった。

62: 2013/10/02(水) 23:47:31 ID:qtvigy82
14
山賊BC「お、親分っ!」

魔法使い「むうっむぅ!(勇者さまぁ!)」

山賊B「くそっ! 加勢して勇者をやっちまえ! 行くぞ、山賊C」

山賊C「おうっ!」

僧侶「行かせませんっ!」バッ

山賊B「なにっ?! お前、どうやって縄をほどいた!」

僧侶「えへへ、緩かったんじゃないですか?」

山賊B「ちっ! 魔力のない僧侶なんて、たいしたことねえ。やっちまうぞ!」

僧侶「くすっ。即氏魔法♪」

魔法使い(!!)ビクッ

63: 2013/10/02(水) 23:52:42 ID:qtvigy82
山賊B「ぐあああぁぁぁぁああっっ。や、やめてくれえっ……」


山賊Bはもがき苦しみ、全身が激しくけいれんしている。
やがて動かなくなり、事切れるように力尽きた。


山賊C「ひ、ひいぃぃぃっ」

僧侶「今日、悪いことは止めるように言いましたよね。私、すごく怒っています。いっぱい、反省してくださいね」


僧侶「即氏魔法!」ニコッ


山賊Cは力尽きた。

64: 2013/10/03(木) 00:39:37 ID:9tit5JYw
今回はここまでです。

盗賊の作戦は、考えていて楽しかったです。

65: 2013/10/03(木) 19:39:46 ID:9tit5JYw
15
魔法使い「そ、僧侶さん。ふ、二人とも頃しちゃったの……?」ブルブル

僧侶「大丈夫よ、気を失っているだけだから。殺めるということは、相手の未来の可能性を奪うことなの」

魔法使い「未来の可能性を奪う……ですか」

僧侶「そうだよ。だけど、人も魔物も命で命が繋がっている。だからこそ、無益な殺生で命を無価値なものにしてはならないの」

魔法使い「……」

僧侶「魔法使いちゃん、山賊さんが逃げないように手足を縛ってて」

魔法使い「は、はいっ」

僧侶「勇者さま、勇者さまぁ!!」

勇者「無事……だったんだな」

僧侶「はい、魔法使いちゃんも無事です。ひどい怪我……。今、回復しますね」

66: 2013/10/03(木) 19:40:54 ID:9tit5JYw
・・・
・・・・・・


山賊A「親分~。紋章、見つけたっすよ~」

勇者「ご苦労様。じゃあ、返してもらうよ」ニコ

山賊A「げっ、勇者っす……」

67: 2013/10/03(木) 20:40:36 ID:9tit5JYw
16
~帰り道・早朝~
勇者「盗賊たちは番所に届けたし、一件落着ですね」

魔法使い「あの、僧侶さん。どうやって、魔法を使ったんですか?」

僧侶「あの程度の魔道具だと、私の魔力を空っぽにする前に壊れちゃうの。それに縄に使われる植物の組成は理解しているから、回復魔法の応用で破壊できるしね」

僧侶「ただ、山賊たちが気配を消す魔法を使っていたから、魔法使いちゃんがいるし、慎重にならないといけないなと思って……」

魔法使い「じゃあ私……僧侶さんの足手まといになっていたんですね。熊退治を一度したくらいで思い上がっちゃって、私、私……」

勇者「僕と僧侶さんは、王様に仕えるために修行してきた。だから、未熟な魔法使いちゃんとはレベルが違う。策にはまって簡単に魔力を空っぽにされるようでは、足手まといになるに決まってるだろ」

魔法使い「うわぁぁん.....」

僧侶「勇者さま、それは言いすぎです」

勇者「でも才能があると確信したから、キミを連れて行くことを了承したんだ。まだ一緒に来るつもりがあるなら、僧侶さんからいろいろ学んで経験を積んでほしい」

魔法使い「勇者さま、私、もっと頑張ります……。一緒に行きたいです……」

僧侶「魔法使いちゃん、宿に戻りましょう」

68: 2013/10/03(木) 20:45:32 ID:9tit5JYw
17
~宿・勇者の部屋~
僧侶「私たちの荷物は大丈夫みたいだけど、勇者さまの荷物は部屋中に荒らされてますね……」

勇者「魔導師の装身具は危ない物も多いから、警戒したんだろ。はぁ、まずは片付けか」

勇者「この民芸品は、僧侶さんのだな。頭にぶつけてきたやつ」

僧侶「あわわ、頭に当たったんですか。狙い通りです!」

魔法使い「狙い通りって……」クスクス

69: 2013/10/03(木) 20:54:19 ID:9tit5JYw
僧侶「魔法使いちゃん、組木パズルは、みんなの絆を表しているんです」

魔法使い「みんなの絆……ですか」

僧侶「はい。ただの木の球体に見えるんですけど、実はここのパーツが抜けるんです。すると、次々とパーツが外れるようになる」

僧侶「私がいて、魔法使いちゃんがいて、勇者さまがいて……」ヌキヌキ

僧侶「街の人がいて、王様がいて、みんなで世界を支えているんです。だから絆を失い、誰か一人でも欠けてしまうと、全部のパーツがバラバラになって世界を支えることが出来なくなってしまうのです」

勇者「絆……か。これも神の遺産なの?」

僧侶「今、思いつきました」ドヤッ

勇者「即興かよ!」

70: 2013/10/03(木) 21:07:43 ID:9tit5JYw
魔法使い「あの、勇者さま。このカーテン、外そうと思います」

勇者「年頃の女の子だし、別に無理はしなくていいんだよ」

魔法使い「また襲われたときに気付いてもらえないと怖いし、その、勇者さまや僧侶さんとの絆を大切にしていきたいから……。魔法解除!」


パアアァァァッ


魔法使い「私もお片付け、手伝います」

魔法使い「あれ? この本は……」

勇者「あっ! ちょっと待って」


ペラペラ……


魔法使い「え、エOチな本です// 火炎魔法!!」ゴーーッ

勇者「だあああっ、家から持ってきたお宝本がぁ!」

僧侶「あれっ、バラバラになったまま戻せません~」

71: 2013/10/03(木) 21:20:04 ID:9tit5JYw
・・・
・・・・・・


作戦会議の結果、障壁魔法で男女別々に更衣室を作ることになりました。

そして燃やしたエOチな本は、みんなで魔術書を買いに行ったときに新しく買うことを許してあげました。


僧侶「ゆ、勇者さま。エOチなことは、私たちがいないときになさるようお願いします//」

勇者「すみません。ご理解、感謝します……」ペコペコ

僧侶「ところで、そのいやらしい書物も経費で落とすのですか? 王様、怒りませんかねぇ」

勇者「大丈夫! 僕たちには必要なものだよ」キリッ

僧侶・魔法使い「あわわ//」

72: 2013/10/03(木) 21:30:09 ID:9tit5JYw
第2話 おわり

・一筆書き
・組木パズル

73: 2013/10/03(木) 22:27:47 ID:9tit5JYw
短めですが、切りよく終わりにします。

次の3話からは、起承転結の承が始まります。



次回:第3話 命の作り方



引用: 勇者「ドーナツの世界?!」