74: 2013/10/04(金) 19:56:31 ID:F8nr.j7M


前回:
第2話 バラバラの絆

第3話 命の作り方

~山すその街~
~宿、女湯~

魔法使い「何だか、すっかり居付いちゃってますね」

僧侶「そうだね。でも山菜は美味しいし、温泉は広いし、魔術書にも困らないし、良いこと尽くめだよぉ」

魔法使い「そうですよね。勇者さまの推薦で、お城の魔道師さまからご指導を受けることが出来るし、それはうれしいです」

魔法使い「今日は帰り道に、僧侶さんが言ってたアイスを食べてきましたよ」

僧侶「ええっ、あれを食べたの?!」

魔法使い「あれ、冷たい砂ですね」

僧侶「でしょ、でしょっ!」

魔法使い「あれは駄目です!!」

僧侶「ガマラ砂漠をイメージしてたらしいけど、あれは失敗だよね」
魔法の世界
75: 2013/10/04(金) 20:19:54 ID:F8nr.j7M
魔法使い「ところで、勇者さまは今夜はことをなさっているのでしょうか」

僧侶「わわ、いきなり猥談?!」

魔法使い「ごめんなさい」アセアセ

僧侶「今さらだけど、私たちが一緒にお風呂に入るのは、そのためだよ//」

魔法使い「で、ですよね……」

僧侶「だから、今日はしているんじゃないかな」

魔法使い「でもそれをしたら、いつもゴミ箱に終わった後のものが捨ててありますよね……。それがどうしても嫌なんです」

僧侶「……」

魔法使い「やっぱり、本を禁止することは出来ないでしょうか」

76: 2013/10/04(金) 20:30:33 ID:F8nr.j7M
僧侶「何かに悩んでいるのは気付いていたけど、そのことだったんだ……」

魔法使い「はい。私、本を許すことが、そういうことを許すことだったなんて思いもよらなくて……」

魔法使い「気持ち悪いので、もう止めてほしいです」

僧侶「でもそれを禁止すると、勇者さまだけに我慢をさせることになるんじゃない?」

魔法使い「今は、私たちが我慢しています!」

僧侶「勇者さまも我慢して、私たちを気遣ってくださってますよ」

魔法使い「私には、そうは思えません」

77: 2013/10/04(金) 20:35:18 ID:F8nr.j7M
僧侶「う~ん、魔法使いちゃんは知らないでしょ。宿の奥様の計らいで、私たちが避妊具を受け取っていることを」

魔法使い「えぇっ……、避妊具ですか//」

僧侶「そうだよ。それを今までずっと知らないでいられた事は、勇者さまが魔法使いちゃんを気遣ってくれている証拠にならないかなあ」

魔法使い「あの、でもそれって僧侶さんと勇者さまが……//」アセアセ

78: 2013/10/04(金) 20:42:40 ID:F8nr.j7M
僧侶「勇者さまは、『私たちの信頼を失うことはしない』とおっしゃいました。避妊具もあるので交わりたいでしょうけど、それを気取られないように配慮してくださっています」

僧侶「そのことがあって、私は信頼できる方だと思いました」

魔法使い「全然知らなかったです……」

僧侶「勇者さまと部屋を分けるのが一番良いのだけど、先日のように夜襲されると困りますしねぇ……。殿方には必要なことだし、禁止をせずに許してあげることは出来ませんか?」

魔法使い「分かりました、もう少し我慢します。殿方と暮らすって、とても難しいですね」

79: 2013/10/04(金) 22:39:05 ID:F8nr.j7M

~部屋~

僧侶「勇者さま、入ります」トントン

僧侶「居ないみたいですね」ガチャ

魔法使い「あわわ、やっぱり今夜はなさってます//」

僧侶(無理にゴミ箱を見なければ良いのに……)くすっ

魔法使い「わ、私がエOチだから覗いたわけじゃないもん!」プイッ

80: 2013/10/04(金) 22:43:50 ID:F8nr.j7M
僧侶「じゃあこうしましょ。いつもゴミ箱に布をかぶせていれば、勇者さまが一人でなさっていても、それをしていた証拠は分からなくなるでしょ」

僧侶「こうすれば、あまり気にならなくなるんじゃないかな?」

魔法使い「あっ、そういえば家のゴミ箱も、布をかぶせているものがありました」

僧侶「じゃあ、それでいい?」

魔法使い「はい、そうします」

81: 2013/10/04(金) 22:53:35 ID:F8nr.j7M

魔法使い「あの、ところで僧侶さん。避妊具って、どのようなものなんですか?」

僧侶「あー、そうか。話しちゃったもんね……」

ガサゴソ

魔法使い「こ、これですか//」

僧侶「そうそう。これを殿方の陰部にかぶせて、ここでO液を受け止めるの。そうすれば、女性の中には入ってこないでしょ」

魔法使い「……」ちらっ

僧侶「な、何?」アセアセ

82: 2013/10/04(金) 22:56:57 ID:F8nr.j7M
魔法使い「僧侶さんは、『命を殺めることは未来の可能性を奪うことだから、無益な殺生で命を無価値なものにしてはいけない』と言ってましたよね」

僧侶「そうだね」

魔法使い「だけどその、勇者さまがなさっていることや避妊することは、未来の可能性を奪っていることにはならないのでしょうか?」

僧侶「ん~、何て言えば良いのかなぁ。命を繋ぐことと、命を宿すことは違うことなの」

ガサゴソ

魔法使い「それは、創世神話の書物ですね」

83: 2013/10/04(金) 23:12:35 ID:F8nr.j7M
僧侶「えっとね、女性が新しい命を宿して出産するためには、約十ヶ月の妊娠期間が必要でしょ」

魔法使い「はい」

僧侶「だから子孫を増やしたい殿方は、妊娠期間中に別の女性と交わって命を宿せるように、いつでも射Oできる身体を神様からもらったの」

魔法使い「えっ、ひどい!」

僧侶「うん、ひどいよね。だから愛する殿方だけを受け入れたい女性は、どうすれば良いか考えました」

84: 2013/10/04(金) 23:18:43 ID:F8nr.j7M
魔法使い「女性は何をしたのですか?」

僧侶「女性は神様に頼んで、一ヶ月に一度だけ命を宿すことが出来る身体にしてもらったの。そのせいで殿方は、女性がいつ命を宿せるのか分からなくなりました」

魔法使い「あっ、それが生理ですね」

僧侶「そうそう。じゃあ女性に生理が来るようになって、殿方はどうしないといけなくなったと思う?」

85: 2013/10/04(金) 23:20:53 ID:F8nr.j7M
魔法使い「同じ女性と何度も交わらなければならなくなったと思います」

僧侶「そうだね。そして殿方は一人の女性と交わっているうちに、愛する心が芽生えたのです」

魔法使い「殿方が女性を愛するまでに、そのような神話があったのですね」

僧侶「そこで終わればいい話だけど、まだ続きがあるんだよ。一人の女性を愛するようになった結果、殿方はどうなってしまったと思う?」

86: 2013/10/04(金) 23:27:35 ID:F8nr.j7M
魔法使い「えっ、どうなってしまったのですか?」

僧侶「いつでも射Oできる身体を持て余すようになってしまったの」

魔法使い「あっ……。だから殿方は、一人でしなければならなくなったんだ」

僧侶「そういうことです。だけどそればかりでは、愛する殿方が不憫ですよね」

魔法使い「……そうかも」

僧侶「だから避妊する方法を考えて、二人の愛情を深め合うために交わるようになりました。その方法のひとつが、この避妊具です」

魔法使い「……」

87: 2013/10/04(金) 23:35:33 ID:F8nr.j7M
僧侶「今話した神話が、魔法使いちゃんの疑問への答えになってますか?」

魔法使い「つまり神様から与えられた身体の仕組みだから、必ずしも未来の可能性を奪っていることにはならない、ということですか?」

僧侶「うん。宗教によって違いはあるけど、私はそう考えています」

魔法使い「勇者さまが頻繁に一人でなさるのは、殿方として必要なことなんですね。神話を知ると、それもなんだか面白いです」

88: 2013/10/04(金) 23:41:56 ID:F8nr.j7M
魔法使い「僧侶さんのおかげで、勇者さまの性欲を理解できた気がします。だから、一人でする事を許してあげたいと思います」

僧侶「魔法使いちゃん。新しい命を宿すのは素敵なことだし、私たちも愛し合える殿方と出会って授かりたいものですね」

魔法使い「はいっ!」

90: 2013/10/05(土) 20:49:50 ID:lv8KAiIc

勇者「二人とも、何を読んでるの?」

僧侶・魔法使い「!!」ビクッ

勇者「そんなに驚かないでくださいよ。逆にこっちが驚きます」

僧侶「えっと、創世神話の書物です」

勇者「相変わらず勉強熱心だね。僕も見習わないと」

僧侶「ところで、勇者さま。そこのゴミ箱なのですが、今後は布をかぶせることにしました」

勇者「えっ、なんで?」

僧侶「その……私事ですが生理の日が近くて……」アセアセ

勇者「あぁ、そっか。気が回らずにすみません」

僧侶「魔法使いちゃんもそれでいい?」

魔法使い「えっ? あっ、はい……」

91: 2013/10/05(土) 21:17:52 ID:lv8KAiIc
勇者「そうそう、今のうちに二人に話しておかないといけないことがある」

勇者「今週でお城へのお勤めが終わるだろ、その後ここの都を出て港町に向かうわけだけど、草原を抜けたら砂漠を横断することになるんだ」

僧侶「魔法使いちゃんのことを考えると、夏の砂漠は避けたいですよね。草原を抜けて赤道を越えると、季節が夏になりますから」

勇者「かといって、迂回をすると熱帯雨林を通ることになるんだ」

ガサゴソ

僧侶「砂漠は一週間くらいで越えられそうですね。その後は、大河を船で下るのですか?」

勇者「ああ。川を下って、海に出るつもりだ。草原や砂漠にも街があるから、それを拠点にしながら進めば子供がいても無理なく行けると思う」

92: 2013/10/05(土) 21:22:13 ID:lv8KAiIc
僧侶「勇者さまは、夏の砂漠の横断経験はありますか?」

勇者「この国とは同盟関係だし、その関係で何度か遠方訓練をしていたから提案したつもり」

僧侶「そうなんですね」

魔法使い「あの、私は水精霊の魔法を使えますよ」

勇者「知ってる、凍結魔法を使っていたもんね。期待してるよ」

魔法使い「はいっ!」

93: 2013/10/05(土) 21:29:29 ID:lv8KAiIc

~草原-ガマラ砂漠~
一週間後、勇者たちは山すその都を後にした。

二週間ほど歩いて草原を抜けると、次第に足元が砂へと変わってくる。
草原の街で宿を取り、装備を整えて砂漠へと繰り出した。

94: 2013/10/05(土) 21:36:43 ID:lv8KAiIc
灼けた砂と厳しい日差しが、勇者たちを襲う。
熱風は砂を巻き上げ、容赦なく吹きつける。
それは子供に対しても遠慮をしてくれない。

魔法使いが着ているローブには、木製の鈴を付けることにした。
歩くたびに、カランカランと大きな音がなる。

半日ほど歩いたところで、それが少し遠くから聞こえるようになった。
立ち止まり、追いつくのを待つ。


勇者「少し休もう」

魔法使い「……まだ歩けます」カラコロ

勇者「だめだ、もう日が高い。日が傾いたら、また歩こう」

魔法使い「……はい」

95: 2013/10/05(土) 21:51:21 ID:lv8KAiIc
勇者「魔法使いちゃん、こっちにおいで」


勇者は座り込み、右腕を上げてローブを広げた。
少し戸惑いつつ、魔法使いは身体を預ける。
日差しと風をさえぎることの出来る場所は、この中だけだ。

勇者「ほら。恥ずかしがらずに、もっと隣へ」

魔法使い「……はい」

96: 2013/10/05(土) 22:12:54 ID:lv8KAiIc
僧侶「勇者さま。一度、魔法使いちゃんに水の魔法を見せてもらいませんか?」

勇者「そうだね。見せてもらっておこう」

僧侶「じゃあ、この水筒を満タンに……」サッ

勇者「まさか、もう全部飲んだのか?」

僧侶「のどが渇いたので、つい。でも、空っぽはこれだけです」アセアセ

勇者「はぁ、僧侶さんを注意深く見てないといけなかったのか」

魔法使い「あの、やってみます。水精霊召喚!!」


空気中の水分が凝縮し、水筒へと向かう。
勇者はそれを持ち上げて振ってみた。


勇者「う~ん、グラス半分くらいかな」チャプチャプ

魔法使い「すみません。砂漠がこんなにも水精霊の力が弱まるなんて、思いもよらなかったです……」

僧侶「そんなこと無いよ。この半分が貴重なんだから」ゴクゴク

勇者「僧侶さん、また飲みすぎだって……」

僧侶「魔法使いちゃん、ありがとう」

97: 2013/10/05(土) 23:28:45 ID:lv8KAiIc

~ガマラ砂漠、夜~
僧侶「勇者さま、まだ起きていたのですか? 魔物の気配もありませんし、お身体に障りますよ」

勇者「そうだね。それにしても、魔法使いちゃんはすごいよ。この乾燥した砂漠で水を出せるとは、正直思ってなかった」

僧侶「並みの魔道師なら、水一滴すら出せないと聞きます。旅の途中で魔道師の街に立ち寄ると、きっと喜んでくれると思いますよ」

勇者「魔道師の街か。通り道だな」

僧侶「あの、勇者さま。もし魔法使いちゃんが居なければ、私のことを……」

勇者「んっ?」

僧侶「いえ、何でもありません。早く寝ましょう」

98: 2013/10/05(土) 23:32:35 ID:lv8KAiIc

~砂漠の街~
魔法使い「勇者さまぁ、街に着きましたよ!」カランカラン

勇者「これで、砂漠は折り返し地点だな」ふぅ

魔法使い「ねえねえ、僧侶さん。ここの名物はタジン鍋ですよね」

僧侶「うんうん。オオトカゲの肉とたっぷりの野菜! ヘルシーで美味しいらしいよ」

魔法使い「オオトカゲの肉ってはじめてです」

僧侶「私もだよ。楽しみだね~♪」

勇者「鍋は逃げないので、先に宿を探しましょう」

99: 2013/10/05(土) 23:41:28 ID:lv8KAiIc

~宿~
勇者「ローブを着ていても、体中が砂まみれだな」

魔法使い「あの、ここにはシャワーなどはないのでしょうか?」

勇者「近くにオアシスがあるから水は豊富だけど、それでも貴重な資源なんだ」

勇者「今から水を買ってくるから、濡れタオルで身体を拭くといいよ」

魔法使い「あっ、水が豊富にある場所なら、買わなくても精霊魔法を使えますよ」

僧侶「街でそのようなことをするのは、ずるいんじゃないかな。皆さん、井戸で水を買っているのですよ」

魔法使い「そ、そうですね……」

勇者「では、行ってきます」

魔法使い「待ってください、私も一緒に行きます」カランカラン

僧侶「ふふっ、何だか仲のいい兄妹みたいですね」

100: 2013/10/05(土) 23:55:57 ID:lv8KAiIc

~宿、翌朝~

トントン

宿の主人「おはようございます、勇者どの」

勇者「おはようございます。朝食ですか?」

宿の主人「いえ、勇者どのに客人が訪ねて来られています」

勇者「客人? 今、開けますね」ガチャ

??「おはようございます。あなたがエルグの国の勇者ですかな?」

勇者「そうですが、どなたですか?」

富豪「おぉ、これは失礼。私はこの街一番の成金で、富豪という者です」

101: 2013/10/05(土) 23:58:07 ID:lv8KAiIc
勇者「は、はあ……。それで、この街一番の富豪さん? 一体どのようなご用件で……」

富豪「実は娘が病に臥しまして、勇者殿ならば治すことが出来るのでは思い訪ねたしだいです」

勇者「我々は医師ではありません。申し訳ありませんが、お引取りください」

富豪「パーティーに僧侶殿がいらっしゃるでしょう。この街の医師では治せんのです」

富豪「どうか、一度診ていただけないでしょうか。謝礼ならば、いくらでも払います。お願いします!」

102: 2013/10/06(日) 00:02:45 ID:PiCE.oRw
僧侶「勇者さま、お話だけでも聞いてみませんか」

富豪「おぉ、僧侶殿ですね。なんと美しい」

僧侶「えへへ、美しいだなんて照れてしまいます//」

富豪「そちらのお嬢様もかわいいですな」

魔法使い「えっ、私? あわわ//」

僧侶「勇者さま、参りましょう!」

魔法使い「そうです! 病気の人を放っておくなんて出来ません」

勇者「はぁ……、分かりました」

103: 2013/10/06(日) 10:10:41 ID:PiCE.oRw
10
~富豪邸~
僧侶「この娘さんですね」

富豪「どうか娘をお願いします」

娘「ゼイゼィ、僧侶……ゲホッゲホッ……さま」

僧侶「ひどい熱、それにこの炎症は――。治癒魔法!」

娘「ゼイゼイ……、スゥスゥ」

富豪「おおっ、娘の呼吸が楽になった。娘、娘ぇっ!」

僧侶「あ、あのっ」

富豪「僧侶殿、ありがとうございます!」

僧侶「いえ、この病。私では治すことが出来ません。炎症を治癒したので治ったように見えますが、また再発するでしょう」

富豪「やはり、駄目か……」

104: 2013/10/06(日) 10:38:22 ID:PiCE.oRw
僧侶「私たち僧侶は、対象とする生物の組成や毒物の構造を理解することで、治癒魔法や解毒魔法を行使することが出来ます」

僧侶「特に治癒魔法は一般的に人を対象としているので、組成を理解していない生物や、生物ではないものには魔法の効力が届かないのです」

富豪「つまり、魔法が効かない何者かが娘に取り付いているせいで、完治させることが出来ないということですか?」

僧侶「おっしゃる通りです」

僧侶「抗菌作用の強い薬草があれば治せるのですが、私たちが今持っている薬草は抗菌作用が弱い種類なのです。その病にはあまり効きません」

105: 2013/10/06(日) 10:42:59 ID:PiCE.oRw
執事「旦那さま。やはり泉に行って、薬草を摘んでくるしかないのではないでしょうか」

執事「どなたに診せても、薬草と答えるばかりです」

富豪「しかし、あそこは魔物が出るようになった。今は誰も近づけんぞ」

執事「ですがこの方々は、勇者殿一行ではありませんか」

富豪「おお、そうだったな。勇者殿、ぜひ薬草を摘んできてはくれまいか」

勇者「そうですね、依頼ならば受けましょう」

106: 2013/10/06(日) 11:14:31 ID:PiCE.oRw
11
~オアシス~
僧侶「この辺りは野菜畑になっているみたいですね」

魔法使い「ここで街に必要な薬草を育てれば良いのに……」

勇者「畑で作物以外のものを育てると、自給率が下がるだろ。薬草は自生しているものだし、薬師相手でない限り栽培する農夫は少ないよ」

魔法使い「そうなんですね」

勇者「畑を抜けると、富豪さんが言っていたポイントだ。気を引き締めよう」

僧侶・魔法使い「はいっ」

107: 2013/10/06(日) 11:18:55 ID:PiCE.oRw
シュシュシュシュッ!

畑を抜けると、砂地から何かが飛んできた。
勇者は前に出て、それを剣で叩き落とす。

勇者「骨?」

僧侶「あ、ああ……。こんなの不合理です」

108: 2013/10/06(日) 11:28:47 ID:PiCE.oRw
前方の砂地から、白骨化した人間の骸骨がわらわらと湧き出てきた。
骸骨がおのおの剣やヤリなど、武器を手にして隊列を組む。


魔法使い「あの人たち、氏んでるんですか。それとも、生きているのですか……」


一体の骸骨が駆け出し、ヤリを突き出した。


勇者「くそっ」


勇者はヤリの剣先を払い上げ、同時に切りかかる。
脊椎が吹き飛び、骸骨は崩れ落ちた。

それを合図に、ヤリを持った骸骨たちが構え、勇者へと一斉に駆け出してきた。
剣では、とても捌ききれる数ではない。

109: 2013/10/06(日) 11:44:47 ID:PiCE.oRw
僧侶「!! 防御魔法」


一時的に強化された鎧が、受け損じたヤリを受け止めた。


勇者「疾風斬り!!」


カラカラと音を立て、骸骨たちが崩れ落ちる。
その骨の山を飛び越え、剣を構えた骸骨が切りかかってきた。

勇者はそれを剣で受ける。
つばぜり合いを繰り広げていると、足元で骸骨たちが再び立ち上がらんとしていた。

110: 2013/10/06(日) 12:01:47 ID:PiCE.oRw
僧侶「魔法使いちゃん、戦うわよ!」

魔法使い「は、はいっ!」

僧侶「行きます……、破壊魔法!!」


骸骨たちがさらさらと粉になり、風に舞う。
人体の組成を理解している僧侶は、回復魔法を応用することで、人体を破壊することが出来るのだ。

わらわらと沸いていた骸骨は、すべて砂中に消えてしまった。


勇者「うわぁ。ある意味、魔道師で一番怖いのは僧侶じゃないのか?」

111: 2013/10/06(日) 12:18:11 ID:PiCE.oRw
ドオォォーーーン!!

突如、砂塵が巻き上がった。
まるで竜のごとく意思を持って、僧侶に襲い掛かる。


僧侶「ええっ……、防御魔法!」アセアセ

魔法使い「爆発魔法!!」


砂の竜が爆発し、一帯にはじけ飛んだ。


魔法使い「僧侶さん、大丈夫ですか?」

僧侶「……ありがとう」


舞い散った砂が、ザザァと地面に落ちる。
すると今度は、三つ首の砂竜が現れた。

その砂竜は、骸骨が武器にしていた剣やヤリを取り込み、全身に携えている。
もし爆発魔法を使うと、全身の刃物が飛び交うことになるだろう。


勇者「こんな魔物、今まで見たことないぞ!」

112: 2013/10/06(日) 12:42:55 ID:PiCE.oRw
僧侶「魔法使いちゃん、倒せないなら動きを止めることは出来ない?」

魔法使い「か、考えてみます」


三つ首の竜が牙をむき、鋼の刃を向けて襲い掛かる。


勇者「させるかっ! 大地斬」


勇者が斬りかかろうと構えた瞬間、一本のヤリを飛ばしてきた。
かろうじて身をかわし、斬撃を加える。
しかし砂の体は、ヤリを回収して復元してしまう。


魔法使い「勇者さま、退いてください! 土精霊召喚! 石化しろっ!!」


その言葉に砂竜が土となり、石となる。
やがて石像のように固まり、動かなくなった。


魔法使い「や、やった……」

勇者「魔法使いちゃん、よくやった! 今のうちに薬草を摘みに行こう。ここの魔物は何かが異常だ」

僧侶「そうですね。先を急ぎましょう」

113: 2013/10/06(日) 19:20:19 ID:PiCE.oRw
12
魔法使い「あの、僧侶さん。魔力を感じませんか?」

薬草を袋に詰めながら、魔法使いが口を開いた。

僧侶「そうね……」

勇者「行ってみよう。何か掴めるかもしれない」

魔法使い「多分、この辺りだと思うのだけど……。あ、ありました!」

僧侶「これはタングラムですね。あの不合理な魔物たちは、もしかしてこれが原因ではないでしょうか?」

114: 2013/10/06(日) 19:37:56 ID:PiCE.oRw
勇者「えっ……、タングラムは子供のおもちゃだろ」

僧侶「はい、子供のおもちゃです。だけど、これには魔力が宿っていますよね」
僧侶「実はタングラムは、以前の15パズルと同じく、神の遺産なのです」

勇者「神の遺産だって?! じゃあ、これにはどんな意味が……」

僧侶「タングラムは大中小の三角形5片と、正方形が1片、平行四辺形が1片の計7片で構成されているパズルですよね」

僧侶「この7片には意味があって、木火土金水と太陽、月を表しているのです」

勇者「それって、もしかして占星術?」

僧侶「はい、そうです」

115: 2013/10/06(日) 19:41:26 ID:PiCE.oRw
僧侶「占星術は人や国の運命、天変地異を予見するための魔術です。それを占うためには、人や世界を理解する必要があります」

僧侶「それは、占星術以外の魔術も同じです。だから様々なものを形作ることが出来るタングラムは、魔術の基本元素を学ぶおもちゃとして利用されることが多いのです」

勇者「なるほど……。で、そのタングラムが要求していたシルエットは?」

魔法使い「ハートのシルエットが添付されていました」

僧侶「つまり、魔術で新しい命を生み出そうということです。そんなことあり得ません!」

勇者「とりあえず、街に戻りませんか。あの魔物たちが、また襲ってくるかもしれない。そのパズルの謎を解くのは、宿に戻ってからにしよう」

116: 2013/10/06(日) 19:51:46 ID:PiCE.oRw
13
~富豪邸~
富豪「おおっ、さすが勇者殿。大量の薬草をありがとうございます。手強い魔物が多数わいていたでしょう」

勇者「ええ。動きを封じておきましたが、安全になったとは言いがたいです。今後も危険が伴うかと思います」

富豪「わしの都にあのような魔物など、本当に口惜しいわい」

僧侶「それでは、この薬草を煎じて飲めば娘さんも三日ほどで完治することでしょう。薬があれば、この街の医師でも変わらず治療することが出来ると思います」

僧侶「治癒魔法で出来ることと出来ないことがあることを、めいめいご承知下さい」

娘「僧侶さま、勇者さま、本当にありがとうございました」

富豪「本当に娘を助けてくれてありがとうございました。これは謝礼です」

勇者「確かに受け取りました。娘さん、お大事になさってください」

娘「はいっ。私も、勇者さまのご武運を祈っております」

117: 2013/10/06(日) 19:56:39 ID:PiCE.oRw
14
~宿~
勇者「魔法使いちゃん、ただいま~」

僧侶「ただいま♪」

魔法使い「お帰りなさい」ニコ

勇者「どう? このシルエットは完成しそう?」

魔法使い「全然だめです……。どうしても、ピースが余ってしまいます」

勇者「タングラムパラドックスかな? ちょっと貸してみて」

118: 2013/10/06(日) 20:12:55 ID:PiCE.oRw
魔法使い「一体、誰が何の目的で、このようなものを仕掛けたのでしょうか?」

勇者「魔王が暗躍を開始したのかもしれないな」

僧侶「そうですね。タングラムでハートが完成しないことこそ、あの魔物を操っていた力が不合理なものであることを示しているのではないでしょうか」

僧侶「魔術で命を作り出すことは、絶対に出来ないのです」

魔法使い「うわさでは、極南の地に魔王がいるんですよね……」

勇者「対外的には、そういうことになっている」

魔法使い「そのような者が仮にいたとして、なぜ砂漠の都に魔力を込めたタングラムを用意したのでしょうか」

勇者「どういうこと?」

魔法使い「15パズルが示していたドーナツ世界が目的ならば、砂漠に用事はないはずですよね」

僧侶「確かに……」

119: 2013/10/06(日) 20:39:39 ID:PiCE.oRw
勇者「話は変わるけど、僧侶さん。魔術で命を作り出すことが出来ないなら、教会が蘇生魔法で氏者を蘇らせることも出来ないはずだよね」

僧侶「それは違いますよ。蘇生魔法は新しい命を作る魔法ではなくて、生きようとする力を取り戻す魔法なんです」

勇者「生きようとする力を取り戻す?」

僧侶「はい。ですから、病気で亡くなった方や天寿を全うされた方、肉体の欠損が激しく氏を受け入れてしまった方などは、教会でも蘇らせることは出来ません。それが運命だからです」

勇者「そうなんだ、それが蘇生魔法か……。僧侶さんは使えるの?」

僧侶「はい、もちろんです!!」

勇者「それは頼もしいね」

僧侶「でも実はですね、簡易な事例ならば魔法を使わなくても、心肺蘇生法という技術で誰でも蘇生術を行うことが出来るのです」

勇者「へぇ、魔法を使わずに蘇生か。興味深い話だね」

僧侶「勇者さまも、ぜひ教会の講習会に参加して、蘇生術を学んでみてください」

120: 2013/10/06(日) 20:46:04 ID:PiCE.oRw
勇者「ところで、このシルエットはやっぱり完成しないね。どう考えても、ピースが1片余るんだよな……」

魔法使い「ですよねえ」

僧侶「いやいや。勇者さまは話してばかりで、ほとんど考えてなかったじゃないですか」

勇者「うっ……」

魔法使い「じゃあ、僧侶さんも挑戦してみてください。すごく難しいですから」

勇者「はい、やってみて」

僧侶「ん~っ、確かに1片余りますね……」

勇者「だろ? これ、答えがないんじゃないか?」

僧侶「勇者さまぁ、ひらめきましたよ!」

121: 2013/10/06(日) 20:59:15 ID:PiCE.oRw
僧侶「魔術で新しい命を作り出すことは出来ません。なぜなら、命を宿すことが出来るのは女性だけだからです」

僧侶「殿方と愛し合い、そして結ばれて、私たち女性は新しい命を授かります。だから……」


そう言いつつタングラムを組み替えて、平行四辺形のパーツを手に取った。


僧侶「これを矢に見立てれば、ほらっ♪ ハートに矢が刺さって、とても素敵ではないですかぁ//」

勇者「いやいや、素敵とか関係なくて、重ねたらタングラムにならないだろ」

僧侶「でも、シルエット内に収まってますよ」

122: 2013/10/06(日) 21:10:54 ID:PiCE.oRw
そう言った次の瞬間、ハートが輝きだした。


魔法使い「あっ、魔力が解放されました!!」

勇者「ということは――」

僧侶「えへへ、これが正解ですっ!」

勇者「マジか!! あの魔物たちはもう出現しなくなったのかな。後で確認しておこう」


・・・
・・・・・・


僧侶(魔法使いちゃん。新しい命を宿すのは素敵なことだし、私たちも愛し合える殿方と出会って授かりたいものですね)

魔法使い「恋愛のタングラム……か。私は――」チラッ

勇者「魔法使いちゃん、どうしたの?」

魔法使い「い、いえ、何でもありません//」

123: 2013/10/06(日) 21:13:48 ID:PiCE.oRw
第3話 おわり

・タングラム

124: 2013/10/06(日) 21:53:42 ID:PiCE.oRw
今回はここまでにします。


恋愛のタングラム、
パズル的には強引な解決だったけど、ストーリーの方向性が見えた感じです。



次回:第4話 魔法はいらない



引用: 勇者「ドーナツの世界?!」