398: 2013/11/04(月) 22:10:54 ID:4/EyZrwg


前回:
第7話 幸せはどこにある

第8話 悲しい再会

~南の大地・フィールド~
勇者「そろそろ夜営の準備をしようか」

僧侶「そうですね」

勇者「じゃあ、僕は簡易テントを組み立てるから」

魔法使い「あ、私は燃えるものを探してきます」

勇者「気をつけてね」

魔法使い「はい」
魔法の世界
399: 2013/11/04(月) 22:19:46 ID:4/EyZrwg
勇者「あの、僧侶さん。今夜は良いかな……」

僧侶「結界に入るまでは、魔法使いちゃんと勉強することになっているので……」

勇者「そっか、残念だな」

僧侶「私もしたいのだけど避妊具が残り少ないし、帰り道まで我慢してもらえませんか」

勇者「帰り道まで?!」

僧侶「はい。でも、結界内の調査が終わったら魔法使いちゃんと相談して、気兼ねなく出来るように工夫しましょうね」チュッ

勇者「そ、そうだな//」ギュッ

僧侶「では私は、食べられる野草を探してきます」ニコッ

400: 2013/11/04(月) 22:46:43 ID:4/EyZrwg

~簡易テント~
魔法使い「――ということは、欲求や感情は脳内物質によって作られているとも言えるんですね」

僧侶「そういうこと。大脳辺縁系が、本能や感情と関係している部分なの。それらを理解することで精神感応系の魔法を使えるようになるから、脳の仕組みを覚えることも大切だよ」

魔法使い「睡眠魔法って簡単そうだと思っていたけど、実は高度な魔法だったのですね」

僧侶「そうだよ。だから賢者とは言っても、治癒魔法しか使えない人が多いの」

魔法使い「そうなんだ」

401: 2013/11/04(月) 23:00:15 ID:4/EyZrwg
僧侶「とりあえず、魔法使いちゃんは構造を勉強しましょ。脳の仕組みは、後で良いよ」

魔法使い「ふぅ……。治癒魔法になったとたん、覚えることが増えて難しいです」

僧侶「勉強ばかりで、成果が見えない時期だよね」

魔法使い「はい……」

僧侶「生体エネルギーの増幅を最初に覚えると、回復魔法を治癒魔法にして使えるよ。その分、モチベーションを保ちやすいんじゃないかな」

魔法使い「あぁ、なるほど。そうします!」

402: 2013/11/04(月) 23:32:05 ID:4/EyZrwg
魔法使い「ところで、僧侶さんは転移魔法、どうですか?」

僧侶「軽い物なら動かせるようになったかな。そのコップを、左に動かしてみるね。転移魔法……」

パッ

魔法使い「わぁっ! 一瞬で動きました!」

僧侶「これくらいなら簡単なんだけど、見えない場所に転移させるのが難しくて」

魔法使い「見えない場所ですか?」

403: 2013/11/04(月) 23:36:14 ID:4/EyZrwg
僧侶「移動先に何があるのか、魔力で読み取らないといけないの。もし障害物があった場合、それをどう処理するか問題になるのよね」

魔法使い「そっか、壁の中にコップは入らないですよね」


僧侶「厳密には空気も障害物なんだけど、気体は固体と違って容易に押しのけられるから――」

魔法使い「よく分からないけど、たった数日で転移魔法を使えるって、すごいです!」

僧侶「私は、記憶の仕組みを理解してるからね」

魔法使い「それも魔法医学の範囲ですか?」

僧侶「そうだよ。でも記憶力が良くても、転移魔法で転移させない方法は思い付かないよ……」

404: 2013/11/04(月) 23:54:19 ID:4/EyZrwg
魔法使い「転移魔法って、どうして一瞬で移動するんですか?」

僧侶「分かりやすく言えば、世界と世界を折り曲げて繋げる感じかな。だまし絵のように世界を柔軟に捉えて、空間を魔力で繋げてしまうの」

魔法使い「じゃあ結局、メビウスの輪やクラインの壷は関係ないのですか? 私は、そっちの方が相応しいと思いますけど」

僧侶「それだと表も裏もなくて、元の位置に戻ってきちゃうじゃない」

魔法使い「そっか、それじゃあ転移魔法になりませんね」

僧侶「あっ! 元の位置に戻る?! そういう方法も、ありかもしれない。魔法使いちゃん、ありがとう」

魔法使い「え? はい」

僧侶「なるほど、メビウスの輪か――」

405: 2013/11/05(火) 20:55:22 ID:MkVY6x/E

僧侶「じゃあ、私は先に休むわね」

魔法使い「……そうですね。私も、もうすぐしたら寝ます」

ガサッ

僧侶「勇者さま、お疲れ様です。外は少し冷えますね」

勇者「少しね。ここは日差しがあるから、日向ぼっこみたいで温かいよ」

僧侶「ふふっ、本当です」ピトッ

勇者「魔法使いちゃんはどう? 勉強は順調に進んでる?」

僧侶「もう回復魔法のステップを修了したので、治癒魔法を頑張っています。驚異的な速さで修得していくから、教えていて楽しいです」

勇者「僧侶さんの教え方が上手だからだよ」

406: 2013/11/05(火) 21:08:15 ID:MkVY6x/E
僧侶「私も転移魔法を覚えたら、今度は薬師の勉強をしていこうかな」

勇者「どうして、薬師なの?」

僧侶「対症療法だけではなくて、原因となるウイルスや細菌を処理して、病の治療をしたいからです」

勇者「身体構造を理解しないと、治癒魔法は効果がないんだっけ」

僧侶「はい。私が治癒魔法を使えるのは人と馬、ネコだけです」

407: 2013/11/05(火) 21:14:03 ID:MkVY6x/E
勇者「馬は何となく分かるけど、ネコ?」

僧侶「実はネコが好きなんです。子供の頃に飼っていました、にゃ~//」

勇者「にゃ~って、ははっ。僕もネコ派かな」

僧侶「そうなんですね♪ 勇者さまぁ。今夜はもう、抜いてしまったのかにゃ」さわさわ

勇者「いや、まだ」

僧侶「じゃ、じゃあ、やっぱりしませんか。ちょっと良いことがあったので、気分を上げたいにゃ//」

408: 2013/11/05(火) 21:20:26 ID:MkVY6x/E
勇者「『にゃあ』って可愛いよ」

僧侶「恥ずかしいにゃ//」チュッ

勇者「僧侶さん、好きだよ」モミモミ

僧侶「……にゃんっ」

勇者「おっOいの頂上はこの辺りかな」

僧侶「勇者さまのエOチ//」ヌギヌギ

勇者「今日のランジェリーも可愛いね」

僧侶「このベビードール、ここにリボンが付いているんですよ」

勇者「いいねぇ。僧侶さん、セクシーだよ」

僧侶「ふふっ//」


・・・
・・・・・・

410: 2013/11/05(火) 22:17:06 ID:MkVY6x/E
僧侶「勇者さまぁ……はうっ……あぁ、いぃ……」

カサコソ
ガサゴソ

??「い、いやああぁぁぁぁっ」バタリ

僧侶「えっ」
勇者「あっ……」

魔法使い「あの、女性の叫び声が……って、あわわ// ご、ごめんなさい。二人がなさっているとは知らなくて、お邪魔しましたっ//」

僧侶「ううっ、また見られた」ショボン

411: 2013/11/05(火) 22:27:11 ID:MkVY6x/E
勇者「なんだかなぁ……。この女性は確か――」

僧侶「魔女さんですね。血塗れですし放っておけないので、続きはまた今度でもいいですか」

勇者「さすがに、この状況だしな。今回は我慢して静めるよ……」

僧侶「ですね……。また今度しましょうね」さわさわ

勇者「とりあえず服を着て、魔女さんを治してあげよう。僕は近くにバトマスたちがいないか、少し見回りに行ってくるよ。深手を負って、倒れているかもしれない」

僧侶「分かりました。気をつけて行って来てくださいね//」チュッ

412: 2013/11/05(火) 22:43:29 ID:MkVY6x/E

~簡易テント~
魔女「んっ……ここは…………」

僧侶「ここは私たちが夜営しているテントです」

魔女「!! いやっ……」ビクビク

勇者「別に何もしないから」

僧侶「殿方がいると話しにくいことがあるかもしれないし、少し外に出てもらっても良いですか?」

勇者「分かった」

魔女「……きれいになってる。僧侶ちゃん……ありがと」

僧侶「困ったときはお互い様ですから」

413: 2013/11/05(火) 23:00:08 ID:MkVY6x/E
魔女「あの……、いつもあんな目に遭わされてるの?」

僧侶「あんな目って?」

魔女「その、無理やり犯されるって言うか……、そういうこと」

僧侶「あ、あぁ。私たちは好きあっているんです。だから、あれは合意で……」

魔女「そんなの、女を抱きたいから都合のいいことを言ってるだけでしょ! 性欲の処理に困っているから、やりたくて利用してるだけよ。僧侶ちゃん、騙されてるわよ!」

僧侶「……えっ?」

魔法使い「魔女さん、その言い方は酷いです。勇者さまはエOチが好きだけど、そんな事をする人じゃないです。今のは、僧侶さんにも失礼です!」

魔女「……」

414: 2013/11/05(火) 23:11:13 ID:MkVY6x/E
僧侶「魔女さん、何かあったのですか? 賢者さんや他の方は、どちらにいるのですか?」

魔女「みんな頃した。もう嫌だったの、嫌だったの……」

僧侶「頃した?! どうして、そんなことに……」

魔女「寄せ集めの男女が旅をするなんて、そんなの無理だったのよ! 毎日脅されて、無理やり犯されて、憎くて憎くて――」

魔法使い「そ、そんな。でも一緒に食事をしたときは、そんなことは一言も……」

魔女「それ、もう一ヶ月も前の話でしょ。あなたたちも変わったんじゃないの、この一ヶ月で」

僧侶「そうですね。私たちも変わりました」

魔女「そう、人は変わるのよ」

415: 2013/11/05(火) 23:25:01 ID:MkVY6x/E
魔女「ところで、どうして南の大地に魔道師の都があると思う?」

僧侶「それは、白夜や極夜が呪術的な現象だと信じられていたからでしょ」

魔女「その呪術的な影響が、心を惑わせているとは考えられない?」

僧侶「どういう意味ですか」

魔女「抑圧されていた心が、呪術で引きずり出されただけなんじゃないの? あなたの愛情なんて、すべて錯覚よ!」

僧侶「いいえ。魔女さんが言うように抑圧されていた心が解放されたのならば、私と勇者さまは本気で愛し合っていることになります」

僧侶「仮に呪術がきっかけだとしても、素敵なことじゃないですか」ニコッ

魔法使い「……」

416: 2013/11/05(火) 23:48:45 ID:MkVY6x/E
魔法使い「あの……。じゃあ、魔女さんも呪術の影響で……」

魔女「とにかく、もう限界だったの!」

魔法使い「だからって、そんな……」

魔女「だから、二人を頃すしかなかったの。いやっ、もう斬らないで……するっ、何でもしますから…………」

魔法使い「?!」

魔女「うああぁぁっっ、もうやめてよ……、いやっ……いやあぁっ……」

僧侶「沈静魔法!」

魔女「……」スースー

僧侶「今はゆっくり休んでください。魔女さんは、何も悪くないですから……」

魔法使い「魔女さん……」

418: 2013/11/06(水) 22:49:13 ID:WkdrlSeQ

勇者「そうか、バトマスたちはもう――」

僧侶「身体がないと蘇生できませんし、身体があっても氏を受け入れた後だと思います」

勇者「つまり、結界に入って生きて帰ることができたのは、魔女さんだけということか」

僧侶「そうなりますね。つらいことがあったようで、酷く錯乱していました」

魔法使い「とても見ていられなかったです……」

419: 2013/11/06(水) 22:57:14 ID:WkdrlSeQ
僧侶「そんな中、魔女さんが気になることを言っていたのです」

勇者「気になること?」

僧侶「はい。私たちの関係を、『抑圧されていた心が、呪術で引きずり出されただけだ』と言っていました。もしかすると、私たちへのメッセージではないでしょうか」

勇者「それは、僕の気持ちを疑っているのか?」

僧侶「いいえ、『結界の中には、呪術的な何かがある』という意味だと思います。魔女さんはつらいことがあって、今もその影響が残っていますから……」

勇者「呪術のせいで、仲間同士で頃しあったのか」

420: 2013/11/06(水) 23:15:17 ID:WkdrlSeQ
僧侶「仲間同士で頃しあったというよりは、正当防衛だったと思います。それだけが、魔女さんにとって救いかもしれません」

勇者「そうか、やるせないな」

魔法使い「あの、賢者さんにはもう会えないんですよね……」

僧侶「そうだね。また一緒に、ご飯を食べに行きたかったな……」

魔法使い「……はい」

僧侶「きっと賢者さんも、毎日つらかったと思います。魔法使いちゃん、私たちが賢者さんの冥福を祈ってあげましょう。彼女の魂が安らかに眠れるように――」

魔法使い「うぅっ、はい…………」

421: 2013/11/06(水) 23:24:23 ID:WkdrlSeQ

~翌朝・簡易テント~
魔女「……」

僧侶「魔女さん、おはようございます。気分はいかがですか?」

魔女「お、おはよう……。少し身体が重いくらいで、特には……」

僧侶「それは良かったです」

魔女「昨夜はごめんなさい。少し取り乱して……」

僧侶「大丈夫です。みんなで朝食を食べませんか? 見たところ荷物もないですし、しばらく何も食べていないですよね」

422: 2013/11/06(水) 23:32:29 ID:WkdrlSeQ
魔女「あたし、生きていても良いのかな……」

僧侶「生きていても良いに決まってるじゃないですか」

魔女「……」

僧侶「女性を無理やり暴行するなんて、とても許されることではありません。魔女さんは正当防衛だし、絶対に許されます」

魔女「そうだね。許されるよね……」

423: 2013/11/06(水) 23:44:25 ID:WkdrlSeQ
僧侶「こういうことは言いたくないけど、魔女さんは任務中だということも忘れてはいけないと思います」

魔女「……ぁ」

僧侶「魔王の存在を承知した上での任務だし、命を落とす覚悟はしていたはずですよね」

魔女「それは……」

僧侶「今回のことは、魔王から精神感応系の攻撃を受けて、同士討ちを誘発されただけです」

僧侶「ならば魔女さんは、国に仕える魔道師として次の作戦を検討するために、結界の中で起きたことを報告する義務があるはずです」

424: 2013/11/07(木) 00:21:17 ID:qgHCxrrc
魔女「あたしの気持ちも知らないで、よくそんな事を……」

僧侶「すみません。でも魔女さんの経験を次に繋げていかないと、苦しみだけのものになってしまうから、だから……」

魔女「ねえ、任務だと言うなら、どうして魔女っ子ちゃんをここまで連れて来たの? 彼女はただの村娘でしょ」

僧侶「!! それは……」

魔女「ねえ、答えて」

425: 2013/11/07(木) 00:23:31 ID:qgHCxrrc
僧侶「魔法使いちゃんは、神の使いに指名されているのです。だから、魔道師の都で村に帰すことが出来なかったのです」

魔女「つまり、神託があったから行くのね」

僧侶「……はい。だから転移の羽と賢者の石を持たせて、絶対に守れるようにしています」

魔女「一般人なんだから、当然でしょ」

僧侶「ですよね……」

魔女「あの子が頑張っているのに、あたしが落ち込む訳にはいかない――か」

僧侶「……」

魔女「それにしても、神の使いか。あれがあるのは、そういうことだったんだ」

僧侶「あれ、ですか?」

魔女「考えをまとめてから話す。はぁ、どうしてこうなったんだろ……」

426: 2013/11/07(木) 22:50:11 ID:qgHCxrrc
僧侶「あの、そろそろ朝食を食べませんか」

魔女「……そうだね」

僧侶「昨日の夜、勇者さまと魔法使いちゃんが、カンガルーを捕まえてきてくれたんですよ。お肉は柔らかいし、味付けは私がしたので保障します!」

魔女「二人とも、勇者さんといい関係を築いているんだね。あたしたちは、性欲の捌け口でしかなかったのに……」

僧侶「私たちも、勇者さまの性欲には悩んでいましたよ。だけどその欲求と向き合って、どのように解消させるか三人で話し合ってきました。もしかすると、それが良かったのかもしれません」

魔女「そういえば、以前そんな話をしてたわね。というか、どうして過去形なの?」

僧侶「勇者さまは、もう彼氏ですから//」

427: 2013/11/07(木) 23:05:45 ID:qgHCxrrc
魔女「ひょっとして、その指輪は勇者さんから?」

僧侶「はい」

勇者「でもそれ、ミスリルだけど魔道具じゃないよね」

僧侶「浮気防止用のパズルリングです。そんなものを渡されたら、もう勇者さまのことを一途に想い続けるしかないじゃないですか//」

魔女「そっか、本気だったんだ……。僧侶ちゃん、昨夜は邪魔をしちゃってごめんね――」

僧侶「改まって言われると恥ずかしいです//」

428: 2013/11/07(木) 23:07:43 ID:qgHCxrrc
僧侶「あっ、そうだ。魔女さん、少しお腹を触りますね」

魔女「えっ?」

僧侶「……、破壊魔法!」

僧侶「体内のすべての精0を、魔法で破壊しました。今までのことで、望まない妊娠をすることはありません。感染症の心配もなさそうですよ」

魔女「ほ、本当に?!」

僧侶「はい、つらかったですよね。もう大丈夫ですよ」

魔女「うぅっ……、うわぁぁん......」

僧侶「魔女さん……」

魔女「ありがとう。僧侶ちゃん、ありがとう……」

430: 2013/11/07(木) 23:12:13 ID:qgHCxrrc

僧侶「ごちそうさまです。カンガルー鍋、うまうまでしたぁ」

魔法使い「うまうまでしたぁ」

魔女「う、うまでした……」テレ

僧侶「勇者さま、燻製のほうは順調ですか?」

勇者「有り合わせにしては順調だと思う。完成が楽しみだね」

魔法使い「美味しく出来るかなぁ」

僧侶「当分、食べ物には困らないですね」

431: 2013/11/07(木) 23:20:31 ID:qgHCxrrc
勇者「ところで魔女さん、これからどうするんですか?」

魔女「皆さんは、これから結界の中に入るんですよね」

勇者「それが僕たちの仕事だから」

魔女「あたしは……、もうあんな思いをしたくないです。一人で帰ろうと思います」

勇者「帰るって言っても、荷物も何もないよね。はっきり言って、一人で帰るのは無理だと思う」

僧侶「砂漠もあるし、手ぶらで帰れるほどあまくないよね」

魔法使い「あの、帰る方法が一つだけありますよ。私は転移の羽を持っています」

魔女「でもそれは、魔女っ子ちゃんの身を守るためのものでしょ」

魔法使い「私なら大丈夫です」

432: 2013/11/07(木) 23:35:37 ID:qgHCxrrc
勇者「魔法使いちゃん、さすがにそれは認められないな」

魔法使い「駄目ですか?」

勇者「魔女さん、南の都までなら一人で行けるかな? 食料は今、燻製を作っているから」

僧侶「何か思いついたんですか?」

勇者「魔女さんは、結界からの生還者だろ。情報は絶対に必要だし、あの王様なら魔女さんを優遇してくれると思うんだ」

僧侶「そうですね」

勇者「バロックの城にも情報が伝わるだろうし、しばらく働いて資金を稼ぐことも出来るだろ」

魔女「勇者さん、ありがとうございます。そうさせてください」

433: 2013/11/08(金) 00:20:15 ID:sIIKMJa6

魔女「あの……、皆さんが結界へと向かう前に、どうしても話しておきたいことがあります」

勇者「何をですか?」

魔女「結界の中のことです」

勇者「話せるなら、ぜひお願いします!」

魔女「……はい」

434: 2013/11/08(金) 00:24:47 ID:sIIKMJa6
魔女「魔王に支配されたと言われている極南の村ですが、中に入ると呪術の影響が強くなります。ただ、賢者さんだけはその影響がないようでした」

勇者「それは、女賢者だからですか?」

魔女「職業的なことではなくて、女神の加護を受けていたからだと思います」

僧侶「そういえば、勇者さまだけは、天使の封印魔法が無効化されていましたよね」

勇者「なるほど。女神の加護があれば、中に入っても大丈夫なのか」

魔女「でもそこで、賢者さんは男たちに襲われて殺されました。それに耐えられなくて、あたしは彼らを頃しました。村の中では、悪意や恐怖が増幅されるのだと思います」

勇者「……」

435: 2013/11/08(金) 00:39:13 ID:sIIKMJa6
魔女「その後は村を出て、付近をさまよっていたんだけど……。極南の地で、ハノイの塔を見たんです」

僧侶「えっ?! 本当に、ハノイの塔があったのですか!」

魔女「はい。あれは間違いなく、ハノイの塔だと思います」

魔法使い「呪術よりも、そっちの方が恐ろしいです――」

僧侶「だよね……」

勇者「よく分からないけど、それってそんなに驚くことなの?」

436: 2013/11/08(金) 22:39:16 ID:sIIKMJa6
僧侶「ハノイの塔は三本の支柱が立っていて、その棒に64枚の円盤が刺さっているパズルです。そしてそのパズルが完成したとき、世界が消滅すると言われているのです」

勇者「世界が消滅するパズル?!」

僧侶「はい。ハノイの塔は終末時計なんです」

魔法使い「一体、どれくらい手数が進んでいるのでしょうか……」

魔女「あたしには女神の加護がないので、近付けなくて……」

437: 2013/11/08(金) 22:43:48 ID:sIIKMJa6
僧侶「魔女さん、私……任務中とか偉そうなことを言ってしまって申し訳ないです。つらいときなのに、一人でこんなに調査してたなんて知らなくて……」

魔女「いいよ。下手に同情されるより、あたしにはそれが良かったかも」

僧侶「本当にごめんなさい」

魔女「それで、ハノイって神の遺産だよね。今回のことに天使が関わっているならば、あれは原典かもしれません。つまり、あたしたちがすべきことは――」

勇者「ハノイの塔を破壊することか」

438: 2013/11/08(金) 23:01:09 ID:sIIKMJa6
僧侶「勇者さま、時計を壊しても時間が分からなくなるだけです」

魔女「そうです。ハノイを破壊するのではなくて、その進行を止める方法を考えるべきだと思います」

勇者「言われてみれば、そうだな……」

魔法使い「勇者さま、15パズルや天使さんからのメッセージも忘れないでください。もしかすると、ハノイの塔はドーナツ世界までの時間をカウントしているのかもしれません」

勇者「ドーナツ世界と世界への侵入者、そして終末時計か――。魔女さん、極南の村に魔物はいるの?」

魔女「特にいなかった……と思います」

勇者「はっきりしないな。危険だけど、そこに原因があるかもしれないから、行かないといけないな」

僧侶「それならば、精神感応系の魔法対策が必要ですね」

439: 2013/11/08(金) 23:44:25 ID:sIIKMJa6
勇者「予防策はあるの?」

僧侶「有効な方法は特にないです」

勇者「えっ」

僧侶「精神感応系の魔法を予防することは、あらかじめ感情を固定しておくことになるので、正常な判断力を阻害されてしまいます。それに、身体への負担も大きいです」

勇者「結局は、僕たちの関係次第ってことか」

僧侶「そうなりますね。でも勇者さまには女神の加護がありますし、魔法使いちゃんは守りが万全なので――」

勇者「ということは、魔法対策が必要なのは僧侶さんか」

僧侶「……はい。私も精神感応系の魔法を使えますし、何か考えておきます」

魔法使い「わ、私も心構えをしておきます」

440: 2013/11/08(金) 23:48:32 ID:sIIKMJa6
勇者「じゃあ、僕たちの目的を確認しよう」


1、極南の村の調査
2、ハノイの塔の残り時間を調べる
3、可能ならば世界の侵入者を排除する


僧侶「精神感応の脅威を取り払うことが出来れば、今後の戦略も優位になってきますよね」

勇者「そうだな。それだけでも、どうにかしたいよな」

僧侶「はい」

勇者「……で、それに伴って、情報を提供してくれた魔女さんを、僕たちの仲間に迎え入れたいと思う」

441: 2013/11/08(金) 23:54:09 ID:sIIKMJa6
魔女「無理です。あたしは、仲間を頃すような魔道師ですよ」

魔法使い「でもそれは、理由があってのことですよね」

魔女「それは……」

魔法使い「四色あれば、どんな地図でも塗り分けることが出来ます。それと同じで、三人では出来なかったことが、魔女さんが仲間になることで出来るようになると思います」

魔女「四色問題か……。あたしたちは塗り方を間違えてしまったんだろうな……」

僧侶「それならば、私たちと塗り直しましょう。魔法使いちゃんもそのほうが喜びますし、私も魔女さんが居てくれると助かります」

442: 2013/11/08(金) 23:54:48 ID:sIIKMJa6
魔女「本当に、こんなあたしで良いの?」

魔法使い「はい、お願いします!」

僧侶「もちろんです」

魔女「……、分かりました。よろしくお願いします」

勇者「では今から僕たちの仲間として、別行動をしてほしいです。南の都の王様にこのことを話して、僕たちが戻るか帰還費用が貯まるまで、その場で待機しておいてください」

魔女「はい。皆さんが無事に戻って来れるよう、祈っております」

443: 2013/11/08(金) 23:56:53 ID:sIIKMJa6
第8話 おわり

・ハノイの塔
・四色問題

・パズルリング

445: 2013/11/09(土) 00:33:41 ID:gIHIUKQ6
今回はここまでです。

パズルネタは、ハノイの塔。
終末時計ということで、勇者ものに相応しいネタだと思います。

そしてストーリーも、魔女さんが仲間になって佳境に入りました。
ある意味、次が最終決戦になりそうです。


次回:第9話 心をさらけ出して



引用: 勇者「ドーナツの世界?!」