1: 2013/03/18(月) 19:15:23.16 ID:JjD/m0me0
◇ ◇ ◇

傭兵ギルド

◇ ◇ ◇



傭兵「なんて依頼文だ……興味を惹かれるぜ。えっと内容は、っと……」

傭兵「……っ! おい……なんだこの高待遇はっ……!」

傭兵「給料も申し分ないし、働き次第では一週間連続の休みももらえる……」

傭兵「なにより正規登用してそのまま働かしてくれる……だと……!?」

傭兵「よしっ! おじさん! この依頼を受領してくれっ!」

葬送のフリーレン(1) (少年サンデーコミックス)

2: 2013/03/18(月) 19:18:19.22 ID:JjD/m0me0
ギルド長「あ~……これな。本当にいいのか?」


傭兵「ん? 俺が受けたらダメな理由でもあるのか? ここには『教会の加護さえ受けてればそれで良い』としか書いてないけど」


ギルド長「いや、そうじゃねぇんだが……もう十一人ほど途中で辞めちまってるんだよ、この依頼」


傭兵「俺は大丈夫だって」


ギルド長「そう言って辞めてった奴らが八人だけどな……まあ、良いか。向こうも辞めてもらう前提だって言ってたしな」


傭兵「え? 向こうもそう言ってんの……? まさかそんなにキツいとは……」


ギルド長「止めとくか?」


傭兵「いや、やるけどね」


ギルド長「物好きだな……まあ分かったよ。オレは一応止めたからな」


傭兵「俺が最初の長続きする人になるかと思うとワクワクするぜ……」


ギルド長「続けばな」

ギルド長「それじゃあ、向こうに連絡しておいてやるよ」

ギルド長「えっと、事前の連絡だと……おっ、ちょうど明後日、勤務先に直接面接に行けるぜ。どうする?」


傭兵「んじゃそれで」


ギルド長「分かったよ」


傭兵「っていうか、勤務先ってどこ?」

ギルド長「お前……ちゃんと読めよ……この国の城だよ、お・し・ろ」


傭兵「ほ~……お城ねぇ~……」

傭兵「…………」

傭兵「……んっ!?」

3: 2013/03/18(月) 19:23:05.41 ID:JjD/m0me0
とまぁ、毎日三十分ほど少しずつ投下していきます

オリジナルのイタイご都合主義オナニーSSです

4: 2013/03/18(月) 19:24:50.60 ID:JjD/m0me0
~~~~~~

  翌々日

~~~~~~

◇ ◇ ◇

  城前

◇ ◇ ◇

傭兵(まさか……この国からの依頼とは思いもしなかった……)

傭兵(っていうか、国直々に「氏んでくれ」って依頼はどうなんだ……?)

傭兵(まあ、実際に氏ぬことは無いんだけど……)

傭兵(それでも氏ぬほど辛いことをさせられることに変わりはないわけで……)

傭兵(……なにをさせられるんだ……? こうやって城の前に来て今更ながらに不安になってきた……)


受付嬢「お待たせいたしました」


傭兵「はいっ!?」


受付嬢「?」


傭兵(しまった……声が上擦った……)

傭兵「……ごほん……すいません。えと……」


受付嬢「あ、はい。本日、傭兵ギルドからの面接があると確認が取れましたので。担当者がいますお部屋にご案内致します」


傭兵「あ、それはすいません。ありがとうございます」


受付嬢「では、私についてきて下さい」

5: 2013/03/18(月) 19:25:57.36 ID:JjD/m0me0
門番兵達「「ご苦労様です」」


受け付け嬢「はい。ご苦労様です」ニコッ


傭兵(門番の詰め所のすぐ後ろに受け付け用の部屋、か……)

傭兵(城の中に簡単に入らせてもらえないところを見ると、警備は厳重な方なのか……?)

傭兵(魔物はこの大陸からいなくなったのに、こうなってるところをみると……警戒しているのは人、か……)

傭兵(……氏ぬ依頼を出すのと何か関係があるのかね……)

6: 2013/03/18(月) 19:27:40.13 ID:JjD/m0me0
◇ ◇ ◇

  城内

◇ ◇ ◇

コツコツコツ…

傭兵(ほ~……やっぱ、城の中はキレイだな……)

傭兵(内装も凝ってるし、靴越しの絨毯の感触がハンパなく柔い)

傭兵(……柔いって表現しか出来ない自分の育ちの悪さよな)


受付嬢「こちらになります」


傭兵「えっ、あ、はい。どうも」

コンコン

受付嬢「失礼します」


???「どうぞ」

ガチャ

受付嬢「面接をお受けになる傭兵さまをお連れしました」


???「ありがとうございます。受付嬢さんは、お仕事に戻って頂いて構いませんよ」


受付嬢「では、失礼致します」

受付嬢「どうぞ、傭兵さん」


傭兵「あ、はい。失礼します」

パタン

7: 2013/03/18(月) 19:29:00.03 ID:JjD/m0me0
???「では、早速面接を行います。とは言いましても、傭兵ギルドの紹介で来られた以上、特別何かを訊ねることはありませんがね」


傭兵「えっ……と……」


???「どうかされましたか?」


傭兵「いえ、その……失礼ですけど、メイドさん、ですよね?」


メイド「? ああ……面接をするのがただのメイドとはどういうことなのか、といったところですか」


傭兵「まあ……」


メイド「ご安心ください。ただの趣味ですので」


傭兵「趣味……?」


メイド「はい。趣味です」


傭兵「…………」

メイド「…………」

傭兵「…………」

メイド「……では他に質問は無いようですので、早速移りましょう」


傭兵(え? あれ? スルー?? もしかしてボケか何かだったのか??)

8: 2013/03/18(月) 19:30:33.56 ID:JjD/m0me0
メイド「まず確認からさせていただきますが……あなた、その腰に差してある二本の剣で戦えますか?」


傭兵「まあ、はい」


メイド「傭兵ギルドからの紹介ですから当然ですよね……なら結構です」


傭兵「えっ? それだけですか?」


メイド「はい。それだけで十分ですよ」


傭兵(え~……? そんなもんで良いのか……?)


メイド「では、教会の加護を受けていると証明できる書面を見せていただけますか?」


傭兵「あ、すいません。俺、ちょっと加護証明書ってのを持ってなくて……」


メイド「持っていない……」


傭兵「あの……もしかして、ダメですか……?」


メイド「いえ……では、服を脱いで、胸にある刻印を見せていただけますか?」

メイド「それで結構ですよ」


傭兵「では、失礼して」

10: 2013/03/18(月) 19:32:24.18 ID:JjD/m0me0
メイド「……やはり、ちゃんと鍛えているのですね」


傭兵「え?」


メイド「触ってもよろしいですか?」


傭兵「えと……なんのために?」


メイド「刻印が本物かどうかの確認ですよ」


傭兵「まぁ……」

傭兵(なんか胡散臭いけど……)

傭兵「……構いませんよ」


メイド「では、失礼して」サワッ


傭兵「っ……!」


メイド「おぉ~……ちゃんと鍛えていらっしゃいますね……」グッ、グッ


傭兵「その……もういいですか?」


メイド「はい。構いませんよ」


傭兵「…………」


メイド「……あっ」


傭兵「え?」


メイド「……いえ、別に」

メイド「刻印を確認しませんでしたが……まあ良いでしょう」ボソッ


傭兵「いやものっそい聞こえてますからね」

11: 2013/03/18(月) 19:34:12.48 ID:JjD/m0me0
メイド「え~……ごほん。では、しっかりと加護を受けているのも分かりましたので――」


傭兵(なんか二度手間だったな……もうすでにちょっと疲れてるんだが……)


メイド「――早速、あなたに何をしてもらうのかの説明に移りましょう」


傭兵「はい。お願いします」


メイド「……少し、落ち着かれましたね」


傭兵「え?」


メイド「なにやら、緊張していらっしゃったようでしたので。もう少し肩の力を抜いてもらえないかと思っていたのです」


傭兵「あ……」

傭兵(もしかしてこの人は……俺が緊張してるのを知ってわざわざあんなことを――)


メイド「とでも言っておけば良い話しっぽくなるでしょう」ボソッ


傭兵「――そうして考えを口に出すの、止めた方が良いと思いますよ」


メイド「いやですね。冗談ですよ」


傭兵(……もう何がホントで何がウソか分かんなくなってきたな……)

12: 2013/03/18(月) 19:38:35.36 ID:JjD/m0me0
メイド「で、何をしてもらうのか、ですけれど……」

メイド「あなたには、ある人と戦ってもらいたいのです」


傭兵「ある人?」


メイド「その人が誰かは詳しく説明できないのですが……」

メイド「ただその人も加護を受けているので頃してしまっても大丈夫、だということです」


傭兵「はあ……」

傭兵(わざわざ城に招くってことは……どこかの貴族か誰かか……?)

傭兵(……もしかして、貴族頃しの罪でも着せられるか……? って、加護を受けてるって話だからそれは無いか……)


メイド「頃して欲しい理由はただ一つ。その人に加護の副作用が出ているからです」


傭兵「副作用……」


メイド「あなたも加護を受けた人なら、一度説明は受けていらっしゃると思いますが……その副作用とは、人によって様々です」


傭兵(俺は一度もなったことがないから分からんが……確か、加護を受けたことを後悔したり恨んだりして、長い間一度も氏なないと発症するんだったか……)


メイド「『一日に一人、誰かを殺さないと理性が切れる』……それが、その頃して欲しい人の副作用です」


傭兵「ああ……だから『氏ぬだけの簡単なお仕事です』ってこと」


メイド「そういうことです」

14: 2013/03/18(月) 19:43:02.28 ID:JjD/m0me0
傭兵「でもそれなら、どうして戦って欲しいってことになるんです?」

傭兵「要はワザと、一日に一回殺されれば良いんでしょう?」


メイド「それはそうなのですが、出来ればあの人を一度頃して欲しいのです」

メイド「そうすればしばらくの間、副作用による殺人衝動は収まってくれますので」


傭兵「なるほどね……」

傭兵(つまり、殺されても頃してくれても、どちらでも構わない、と……)

傭兵(雇われてる俺が殺されれば、その人は一日正常で――)

傭兵(――俺がその人を殺せば、約十日ほどもその人は正常でいてくれる、と……)


メイド「と、言いますか」


傭兵「はい?」


メイド「あの人を頃して、あの人がしばらく正常でいてくれている間しか、あなたのお休みはありませんよ?」


傭兵「えっ!? あっ、最長一週間のお休みってそういうこと!?」


メイド「はい」


傭兵「ってことは、殺されている間は休み無しってことか……」


メイド「そういうことです」

メイド「ですが依頼書にも記載した通り、お休みの間もちゃんとお給金は発生いたします」

メイド「ですのでぶっちゃけ、そのあたりでお休みに関してはイーブンだとお考えいただければ幸いです」


傭兵「っつーことはつまり、その人に勝ち続けるのなら月に三回ほど戦うだけであの依頼料が毎月入ると、そういうことですか」


メイド「そういうことです」


傭兵(なるほど……そういうカラクリだったのか……)

傭兵(……まぁこれだけの高待遇ならある意味納得か……)

傭兵(それに毎日休み無しで殺されたとしても、普通に働くほどの給料はあるしな……)

15: 2013/03/18(月) 19:46:01.79 ID:JjD/m0me0
メイド「他は……そうですね。特に説明しておくことも無いでしょう」

メイド「何か質問はありますか?」


傭兵「いや、特にはないです」

傭兵「強いて挙げれば、どこで・どれぐらいの広さで戦うのかを教えて欲しいぐらいです」


メイド「それはこれからご案内致します」

メイド「というか、出来れば今日からでもお願いしたいのですが」


傭兵「早速今日から、ですか……」

傭兵(ふむ……まあ、相手の実力を測るって意味でも、構わない、か……)

傭兵「良いですよ、大丈夫です」


メイド「それは良かったです」

メイド「ではこちらを」スッ


傭兵「これは?」


メイド「通行証みたいなものです」

メイド「本日は面接があったのでお昼からにしていただきましたが、明日からは依頼書通り、城での受け付けが始まって~正午の鐘がなるまでに来ていただきます」

メイド「ですので、その通行証を見せていただければ、門番はあなたを通してくれますよ」


傭兵「……いきなりこんなの渡して……危なくないですか?」


メイド「ご安心を」

メイド「それで行けるのは、兵の訓練施設だけです」


傭兵「は?」


メイド「これから一度入り口に向かい、そこから一本道で訓練所へと向かう道を教えます」

メイド「その通行証はその道へ向かうのでしか使えませんので」

メイド「もし城内に入ろうものなら、すぐさま城前にいた兵に斬り捨てられると思っておいてください」


傭兵(なんでそんなことを笑顔で言えるのか……)

16: 2013/03/18(月) 19:50:36.05 ID:JjD/m0me0
コツコツコツ…

傭兵「…………」

メイド「…………」


傭兵(お昼までには、か……依頼書を見た時は特に気にもならなかったが……話を聞いてから改めて考えると……)

傭兵(それってつまり、例の「その人」に“極力普通に過ごせる時間を与えたい”、ってことだよな……)

傭兵(倒して欲しい、ってのもつまり、そういうことだろうし……)

傭兵(……やっぱ、貴族様とかなのかね……)


メイド「そういえば」


傭兵「はい?」


メイド「傭兵さまは、どちらにお住まいですか?」


傭兵「あ~……恥ずかしながら、西の下町です」


メイド「なるほど……」


傭兵「すいません……柄が悪い場所で」


メイド「? どうして謝るのですか?」


傭兵「えっ?」


メイド「図々しくもあなたがその住んでいる場所の柄を悪くしているとでも?」


傭兵「いえ、そんなつもりは……」


メイド「でしたら謝らなくても良いじゃないですか」


傭兵「あ、ああ……まぁ、そう……なの、かな……?」

傭兵(俺が言うのもなんか変な感じだけど……)


メイド「それよりも、その場所からだと結構城から遠いですね」

メイド「朝は苦労してしまうかもしれません」


傭兵(……なんか、変なところで純粋だな……この人……)

傭兵(ま、このメイドさんも育ちが良いってことか……)

17: 2013/03/18(月) 19:52:32.45 ID:JjD/m0me0
◇ ◇ ◇

 訓練所

◇ ◇ ◇

メイド「では、道は覚えていただけましたか?」


傭兵「はい。正面から横に逸れて……ってな具合ですよね」


メイド「それなら結構です」


傭兵「……で、もしかしてこの目の前の建物が……」


メイド「はい。あなたに倒してもらいたい人がいる場所です」


傭兵(訓練場の片隅……円形に建てられた倉庫のような、石造りの建物)

傭兵(広さは……結構あるな。障害物の無い場所での戦いになるか……?)

傭兵(それとも中は結構複雑になってたりとか……?)


メイド「ここは、兵達の訓練用道具を仕舞う倉庫を改装した場所です」

メイド「中の武器も抜いて別の場所に移動させておりますので、かなり広く戦えると思いますよ」


傭兵「あ、どうも」

傭兵(倉庫の流用……ってことは、二階部分もあるか……?)

傭兵(……いや、そこまでの高さは無い、か……)


メイド「本日はこの中で戦った後、そのまま教会で復活させて頂ければ、そのままご自宅に帰ってください」

メイド「また城に戻ってくる必要はありませんよ」


傭兵「分かりました」


メイド「もちろん、明日以降も同様です。戦い終えればそのままご自由にしてくださって構いません」

メイド「では、ご武運を」

18: 2013/03/18(月) 19:53:32.66 ID:JjD/m0me0
ギィ…

ガラガラガラ…

傭兵(ほぉ……真っ暗、ってわけじゃないのか)

傭兵(ちゃんと壁に沿うように灯ったランプがかけられてるからか、十二分に明るい)

コツ…

傭兵(……って、ん? 中には誰も――)

…コツ―





















―ザクッ…

23: 2013/03/19(火) 01:24:14.69 ID:pkZmZo5w0
◇ ◇ ◇

  教会

◇ ◇ ◇

傭兵「」パチ


神官「お、目ぇ覚めたか?」


傭兵「ここは……教会……?」


神官「ご名答」


傭兵「…………」

傭兵(……あ~……不意を衝かれて一撃で殺されたのか……)

傭兵(あのザクッとした感触の後の力の抜け方……間違いなく後ろから首を切られた)

傭兵(……あのメイドが……? ……いやいや、さすがにあの人が動けば気配で気付く)

傭兵(ってことは、あれか。入ってすぐの入り口上で待機してたってことか……)

傭兵(油断してたつもりはないんだけど……まさか一撃とはなぁ……)

24: 2013/03/19(火) 01:25:26.53 ID:pkZmZo5w0
神官「にしても久しぶりだな。お前が殺されるのは」


傭兵「新しい仕事を請けたんだよ」


神官「なんだ? 東の大陸にまで行ってたのか?」


傭兵「この街の中に決まってんだろ」


神官「はっ、オマエも相当怠けてんだな。こんな平和ボケした街で殺されるなんてよ」


傭兵「……返す言葉もねぇな、本当」


神官「で、どんな仕事だったんだ? 裏組織の一つや二つをぶっ潰せとか、そういうのか?」


傭兵「氏ぬだけの簡単なお仕事だよ」


神官「は……? ……なんじゃそりゃ?」


傭兵「そのまんまの意味だよ」

傭兵「っつーことで、これからほとんど毎日、お前に蘇らせてもらうことになると思うわ」


神官「ふ~ん……ま、よくは分かんねぇが……お前が不幸になってんなら、それで良いや」

25: 2013/03/19(火) 01:27:03.69 ID:pkZmZo5w0
 “加護”を受けるとは、不氏になることと同義だ。

 寿命や病気による氏は避けられぬが、怪我や毒による氏は避けることが出来るようになる。


 その癖必要なものは教会への多大な寄付のみだというのだから驚きだ。


 あとはただ契約の儀を交わせば終わりとなる。


 契約した教会が特定の祈りを捧げれば、契約を交わし氏んでしまった人物全員が、教会へと「生き返る一歩手前」の状態で転送される。


 仕組みは分からない。

 曰く、神の奇跡だそうだ。


 あとはその「生き返る一歩手前」の肉体に向け、また別の祈りを捧げれば、その人間は蘇るということだ。


 この転送と復活の祈りは、どこの教会でも一日に何度か、定期的に捧げられている。



 だから人間は、金さえあればほぼ氏なないでいられるようになったというこだ。

26: 2013/03/19(火) 01:29:51.78 ID:pkZmZo5w0
 だがもちろん、欠点はある。


 まず一つ目は契約の場所。

 契約の際発行される契約書、これを使えば一度だけ、復活させてもらえる教会を変えることが出来る。

 だが、あくまで一度だけだ。

 変えたり、変えずともその契約書を失くしてしまった場合、同じ教会でしか生き返れなくなってしまう。

 ……もっとも、神官と親密な関係であるのならこの限りではないのだが……。


 そして二つ目に、一度この加護を受けると、解除が出来なくなる。

 つまり天寿を全うするまでは氏ねないということだ。

 あらゆる薬物も毒とみなされてしまう以上、後戻りが出来なくなるということになる。

 それが例え病気であろうとも、氏んで生き返れば元通りというわけだ。

 ……ま、例外はあるにはあるが……。


 そして最後に……副作用。

 コレは最早言うまでも無い。

 俺が今依頼を請けていることそのままだ。


 しかし逆に考えれば、この三つだけの欠点と大量のお金だけで、氏なないでいられるということでもある。

 魔物に殺されても生き返ることが出来、人間に恨まれ刺されても助かり、毒を盛られ苦しんでも氏ぬことは無い身体になれるということ。


 だからか……傭兵業を営む者や冒険者といった人、東の大陸の魔物を駆逐するために派遣される「勇者候補者」のそのほぼ全てが、加護を受けている。

27: 2013/03/19(火) 01:30:37.12 ID:pkZmZo5w0
~~~~~~

  翌日

~~~~~~

◇ ◇ ◇

 訓練所

◇ ◇ ◇

傭兵「さて……」

傭兵(昨日は不意打ちでやられたからな……)スッ

傭兵(今回は、最初っから剣を抜いて入るとするか)


傭兵「…………」


傭兵(昨日と違って鍵はとっくに外されてる……準備は万端ってことか)


傭兵「……では、と」

ガラガラガラ…

28: 2013/03/19(火) 01:31:47.55 ID:pkZmZo5w0
傭兵「……へぇ」

傭兵(今日はちゃんと、不意打ちせずにいてくれるってか)


コツ、コツ、コツ…


傭兵(反対側の壁際……アレは……ベッド、か……?)

傭兵(……なるほど……寝て起きれば副作用の状態になるから、寝るときは必然この部屋になってしまうか)


…ガラガラガラ…ダン


???「…………」


傭兵(もしかして……副作用を受けてるのは、女の子なのか……?)

傭兵(あんなに小顔で小柄で可愛いのに男、ってことはないよな……?)

傭兵(……って、そうやって油断したらダメだ)

傭兵(昨日はアイツに不意打ちで殺されたんだ)

傭兵(見かけでの判断をしてはいけない)

29: 2013/03/19(火) 01:34:00.90 ID:pkZmZo5w0
???「…………」スッ


傭兵(一般的な長さの剣……この国の正式採用剣だろう。確か門番の兵も腰にぶら下げてた)

傭兵(あれだけ小柄だと扱い辛そうなものだが……)


傭兵「…………」スッ


傭兵(なんにせよ、リーチの差を埋められるかどうか……)

傭兵(俺の剣はあの一般的な剣よりも短く、短剣よりは長い中途半端なもの)

傭兵(予備の一振りを使っての二刀流、なんて器用な真似が出来ない以上、不利なことに変わりは無い)


???「…………」

コツコツコツ…

ギャリギャリギャリ…!

???「…………」


傭兵(切っ先を引きずり歩いてくるその瞳から、感情は読み取れない……)

傭兵(……目線もどこに向いてるか分からないな……これじゃあ攻撃の軌道が読み辛くなるな……)

傭兵(……まぁ、仕方が無いか。本人も副作用のせいで動いてるだけだしな)

傭兵(ったく……見れば見るほど、考えれば考えるほど不利でしかないな……)


傭兵「だがまぁ、とりあえずは……」


傭兵(今日はその実力……不意打ちじゃなく正面からぶつかった場合のものを、測らせてもらおうか……!)

35: 2013/03/20(水) 00:00:30.82 ID:LkafsmS50
◇ ◇ ◇

  教会

◇ ◇ ◇

神官「よぉ。昨日言ってた通り、また来たな」


傭兵「…………」


傭兵(昨日不意を衝かれた時点で強いのは分かってたが……まさかここまでとはな……)

傭兵(あの子の実力を測るために手加減をしていたが……それを差っ引いても強かった)

傭兵(……でも、圧倒されるほどじゃなかった)

傭兵(明日、本気を出したら……勝てる……!)


神官「おいこら。無視してんじゃねぇぞオイ」

36: 2013/03/20(水) 00:01:11.18 ID:LkafsmS50
~~~~~~

 依頼挑戦
三回目の後

~~~~~~

◇ ◇ ◇

  教会

◇ ◇ ◇

傭兵(あっれ~? 昨日の目測だと本気出せたら勝てると思ったのになぁ~……)

傭兵(まさかまた負けるとは……)

傭兵(……いやでも、戦い方に工夫を凝らせば勝てる)

傭兵(明日こそは……!)

37: 2013/03/20(水) 00:02:07.61 ID:LkafsmS50
~~~~~~

 依頼挑戦
四回目の後

~~~~~~

◇ ◇ ◇

  教会

◇ ◇ ◇

傭兵(おかしい……あっれ~~~~~~~~~~~?????)

傭兵(あそこでの攻撃の隙が無くなってた……?)

傭兵(なんか、また強くなってなかったか……? あの子?)

傭兵(いやでも、攻撃に重きを置いてるのが分かった)

傭兵(アレはたぶん、リズムを掴めば掴むほど強くなるタイプだ)

傭兵(だったらこっちは防御に重きを置いて……隙を見つけて、リズムを狂わせる一撃で、そのまま畳み掛ければなんとか……)

傭兵(……よしっ!)

38: 2013/03/20(水) 00:02:58.02 ID:LkafsmS50
~~~~~~

 依頼挑戦
五回目の後

~~~~~~

◇ ◇ ◇

  教会

◇ ◇ ◇

傭兵(つえええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!)

傭兵(アレ絶対強くなってる! なんか段々と手ごわくなってきてるんですけどっ!?)

傭兵(やっぱアレか! 成長率かっ!!)

傭兵(あれぐらいの年齢だとむしろこっちの小手先なんてすぐに適応してくると!)

傭兵(自分が作ってた隙なんてすぐさま塗り替えてしまうとっ!)

傭兵(そういうことですかっ!!)

傭兵(……ちっ……仕方が無い)

傭兵(段々と弱点が無くなっていってるっていっても、また次の弱点は出てきてる……)

傭兵(それを衝き続けて……最終的には適応出来ない隙を作り出して……打倒する!!)

39: 2013/03/20(水) 00:09:54.21 ID:LkafsmS50
~~~~~~

 依頼挑戦
十回目の後

~~~~~~

◇ ◇ ◇

  教会

◇ ◇ ◇

傭兵(いやムリ……アレ勝てねぇわ)

傭兵(かれこれもう九回目……いや、初日の不意打ち一撃氏を含めりゃ十回目だ)

傭兵(夢の大台二桁目!! ってかオイ)


傭兵(こりゃ十一人が挫折してるってのも納得だわ……)

傭兵(全力を出してやられ、まだこちらも裏の手があると挑んでやられ……)

傭兵(本気出せてなかったんだと自分に言い聞かせて挑んでもやられ)

傭兵(やられ、やられ、やられ続けて……並みの戦士ならプライドがボロボロになって戦意喪失するわ、ホント)


傭兵(自分の本気はこんなもんじゃない……とか奮い立たせて己に言い聞かせるその心を折ってくる)


傭兵(なまじ相手がいつも自分の少し上の実力でぶつかってくるだけに、あと少しで勝てるって気持ちにずっとさせられる)

傭兵(あと少しで傷を付けられるって思わせてくる)

傭兵(でも実際は、そんなことはない。一向に傷つけられず、有効となる一撃もぶつけられない状態が続いてしまう)

傭兵(……こりゃ、普通なら諦めるわ)


傭兵(でもまぁ、そこは俺よ)

傭兵(やられることには慣れている)

傭兵(敵わない壁に打ち負けてきてばかりで、自分の実力と畑を理解している俺だからこそ、そんなことで心は折れない)


傭兵(というかそもそもの依頼内容は、あの子に殺されること、だ)

傭兵(出来ればあの子を倒して副作用を一時的にでも止めて欲しい、ってのは、いわばオプションみたいなもの)

傭兵(俺もそれを叶えてやりたかったが……生憎と、あの戦場で普通に剣を突きつけ合うだけじゃ無理だ)

傭兵(だったらまぁ、答えは簡単……)


傭兵(……負け続けてやればいいんだよ。そしたらお金は入る)


傭兵(どうせ氏なないんだ。氏んで氏んで氏んで、殺され続けてやってやろうじゃないか)

40: 2013/03/20(水) 00:13:24.47 ID:LkafsmS50
~~~~~~

 依頼挑戦
十一回目の後

~~~~~~

◇ ◇ ◇

  教会

◇ ◇ ◇

傭兵「っ!」バッ!!

傭兵「はぁ……はぁ……はぁ……!」


傭兵(おいおいおいおいおいおい……マジかマジかマジかマジかマジか……!)

傭兵(手を抜いただけで……あそこまでするか……!?)

傭兵(どうせ勝てないからと諦めて、氏んでやるだけでいいんだろと開き直った途端……戦いを止めて拷問に移るとか聞いて無いぞ……!)

傭兵(指先から肩まで細切れにして、気を失いそうになったらまた痛みを与えてきて、足を切って脛を折って膝を砕いて腿を裂くとか、尋常じゃないだろオイ……!)


傭兵「ぐっ……!」


傭兵(くっそ……まだ痛みが身体に残ってる……!)

傭兵(気を失えないギリギリ、失血氏する限界まで痛めつけやがって……!)


神官「おいおい……大丈夫かぁ?」


傭兵(うっせぇ……ニヤニヤして心にもない言葉かけてくるな!)


神官「おぉ……怖い怖い。そんな睨むなよ。オレは生き返らせてやってる恩人だぞ?」


傭兵「…………」


神官「しっかしまぁ、どうもオマエは不幸そうだな。こりゃたまらなく嬉しいわ、マジで」

神官「その依頼、続けろよ?」


傭兵「っ!」


バンッ!!

41: 2013/03/20(水) 00:17:39.38 ID:LkafsmS50
◇ ◇ ◇

 街中

◇ ◇ ◇

傭兵「くっ……!」


傭兵(ちっ……! まだあの痛みが残ってるような気がするってのに飛び出して来てしまった……!)

傭兵(……いや、今はアイツの近くにいる方が不快だ。飛び出してきて正解だ、うん)


傭兵「くっそ……!」


傭兵(なんか、腕とか足がくっついてないか不安になってくる。見るとちゃんとくっついてるし、それも理解できてるんだが……どうも不安になる)

傭兵(ったく……まさか手を抜いただけでこんなことになるとはな……)

傭兵(これじゃあ氏ぬだけの簡単なお仕事じゃあねぇだろ)

傭兵(なぁにが『一日に一人、誰かを殺さないと理性が切れる』副作用だ)

傭兵(あれは『一日に一回、誰かと戦わないと気が済まない』って感じなだけじゃねぇか)

傭兵(まるで遊び相手が欲しい子供そのもの――)


傭兵「――子供……?」


傭兵(そうだ……アレはまさに子供なんだ。“戦闘”という遊びをしているだけの)

傭兵(だから手を抜いて怒ったから、あんなことをしてきた)

傭兵(手を抜いたらこうなるから全力で来い、と示してきた)

傭兵(真剣に遊んでくれないから、おもちゃを投げつけてきた)

傭兵(本当に、ただの駄々っ子のような――)


傭兵「――いや、違う……」


傭兵(そうじゃない……引っ掛かったのは、そうじゃない……)

傭兵(……いや、別にその考えが間違えていると思うつもりは無い)

傭兵(でも今、違和感を覚えたのは、それじゃない)

傭兵(それじゃなくて……! 俺はっ……!)


傭兵(あの子がまだ子供だってことを、見落としていた……!)

42: 2013/03/20(水) 00:30:11.63 ID:LkafsmS50
傭兵(あの子が子供だって思っていたのに……ずっとずっと忘れていた)

傭兵(すぐに勝てるからと思っていた油断なのか……勝てないと諦めて、負け続けてやればいいと思うようになってしまったせいなのか……ともかく、忘れてしまっていた)


傭兵(俺はそもそも、あんな小さな女の子が、あんな薄暗いところで眠ってしまっている現状をどうにかするべきだと、考えないといけなかったんだ)


傭兵(すぐに勝てるから良いとかじゃなくて……)

傭兵(負け続けてやれば良いなんて考えは論外で……)

傭兵(報酬なんてものは、二の次にして……)


傭兵(あの子があそこに囚われていると知った瞬間には、あの子を救うために頑張ってやらないと、いけなかったんだ)


 ――大人は子供の前に立ち、後ろを歩く子を守り、時には転ぶであろう子供に手を差し伸べてやる――


傭兵(……俺の生まれた村で、俺の前に立っていた大人全員が身をもって教えてくれたそれを……)

傭兵(俺は守るために、誇りとして胸に秘め、燃やし、実行していこうと誓っていたはずだ)

傭兵(それなのに……俺は……!)


傭兵「くっそ……!」


傭兵(負けるのには慣れている……? 何を言ってるんだ大バカ野郎っ!)

傭兵(んなこと今は関係ねぇ! 重要なのは……あの子のために、なんとしても勝つことだ……!)

傭兵(あの女の子のために……! あの子に手を差し伸べてやるために……!)

傭兵(俺が己の内に宿した、誇りのために……!)

43: 2013/03/20(水) 00:36:35.81 ID:LkafsmS50
~~~~~~

 依頼挑戦
十二回目の後

~~~~~~

◇ ◇ ◇

 街の中

◇ ◇ ◇

傭兵(とかなんとか昨日は息巻いていたのになぁ……)

傭兵(結局今日も負けてしまった)

傭兵(全力で戦ったのに呆気なく)

傭兵(……これじゃあいつになったらあの子を救えるのやら……)


傭兵(というかどうもあの子、ただ単に相手の少し上の実力を出してくるだけじゃないらしい)

傭兵(……正直、今日は自分でも集中力が散漫になっているのが分かった)

傭兵(救うための方法に意識が向きすぎていたせいだ)

傭兵(でも、そのおかげで気付けた)


傭兵(あの子はたぶん……一度上がった実力を、元に戻せていない)


傭兵(アレはたぶん、今日みたいに集中力が乱れる前の俺の、少し上だ)

傭兵(……その日の全力を出してさえいれば、拷問される心配は無いってことか……)


傭兵「…………」


傭兵(……いや、思考に耽るのは家に帰ってからの夜でも出来る)

傭兵(今はともかく、勝てるための手段を講じないといけない)

傭兵(そのために、まずは……!)

44: 2013/03/20(水) 00:38:27.74 ID:LkafsmS50
今日はここまで
また明日の夜にでも続きを投下していきます

乙とか本当ありがとうございます
読んでくれてるのが分かるだけでモチベーション上がるわマジで

52: 2013/03/21(木) 00:29:47.55 ID:svCEfDWx0
◇ ◇ ◇

  王城

◇ ◇ ◇

傭兵(ま、普通に戦場視察だわな。息巻いておいて地味過ぎるが)

傭兵(でもあの空間に何か仕掛けでも出来ればあるいは……)


門番「あれ? お疲れさん」


傭兵「おう。むしろそっちの方がお疲れさん」


門番「今日はもう中に入ったよな?」


傭兵「まぁ、な。ついでにいうと、今日はとっくに一度殺されたよ」


門番「いきなり外からやって来たってことはそうだろうな」

門番「で、じゃあどうしたんだよ?


傭兵「もう一度入って、ちょっと中を見ておきたくてさ」

傭兵「そろそろ、本気で勝ちに行こうかと思って」


門番「へ~……今まで依頼請けた奴らの中で、そこまで真剣に戦おうとしたやつなんていなかったな……」

門番「ま、兵の訓練はまだだし、それまでなら入ってもいいぜ」


傭兵「そりゃありがたい」

傭兵「もしかしたら『一日一回だけの通行だ』って突っぱねられるかもと思ってたところだったんだ」


門番「まだ昼前だろ? それまでなら入れていいって話しだし、回数の制限も無いからいいだろ」


傭兵「知り合いになったアンタが融通の利くやつで助かったよ」

53: 2013/03/21(木) 00:35:31.68 ID:svCEfDWx0
門番「にしても、よくあの姫相手に何度も戦えるな」


傭兵「姫?」


門番「あっ……」


傭兵「……あ~……口滑らせちまった感じか」

傭兵「良いよ。聞かなかったことにしておく。融通利かせてくれたしな」


門番「わりぃな……ちっ、やっちまったぜ……」


傭兵「それよりもその口ぶり、まるであの子と一度戦ったことがあるみたいだな」


門番「まるで、じゃなくて実際にあるんだよ」

門番「っていうか、ここに勤める兵士は全員最低一度は戦ってる」

門番「本当は何度も戦っていいことになってるんだが、あの勝てそうで勝てない感じが続くとな……みんな五回目ぐらいでリタイアしてるんだよ」

門番「だからお前とか、今まで依頼を請けてたやつとか、よく何十回もチャレンジ出来るなって思うわけよ」

門番「尊敬するわ、ホント」


傭兵「なるほどね……」

傭兵(訓練の一環、みたいな感じか)

傭兵「……で、その兵士達の中で勝てた奴はいるのか?」


門番「騎士長だけだよ。俺も含めて他は全然。途中で心折れるし」

門番「だからって訓練して強くなっても再挑戦する気は起きないしな」


傭兵「なんで再挑戦しないんだ? 強くなってる実感があるんなら試してみたくなるだろ」


門番「なるにはなるんだが……あの子相手にはどうもな」

門番「それになんていうか……あの子に対して、ある噂があるんだ」

門番「そのせいでどうにもな……勝てない気しか起きなくなっちまう」


傭兵「噂?」





門番「なんでもあの子は、王が作り上げてる人間兵器らしいんだよ」

54: 2013/03/21(木) 00:39:17.58 ID:svCEfDWx0
傭兵「人間兵器?」

傭兵「なんか、えらく突拍子もない話だな」


門番「そうかもしれないけど、でもよく考えてもみろよ」

門番「氏んでも蘇ることができる、一対一の戦いで無敗を誇る強さを持った人間」

門番「人間兵器ってのはつまりそういうことだぞ」

門番「もし戦争になって城攻めにあった場合、あの子と城の中にいる神父と一緒に逃げてれば、何度もその強い人間兵器を戦わせることが出来るだろ?」


傭兵「なるほど……つまり、人間自身を使っての堅牢な盾、ってことか」

傭兵(それも、相手を傷つけることが出来る、剣も併せ持った攻撃的で強力な盾)


門番「そういういこと。だからま、そもそも兵器として育てられてるのが相手だと勝てないだろう、って思っちまって、挑めねぇんだよ」

55: 2013/03/21(木) 00:56:02.30 ID:svCEfDWx0
◇ ◇ ◇

 訓練所

◇ ◇ ◇

傭兵「さて……」


傭兵(戦場となる部屋はとっくに鍵がかけられてる、か……)

傭兵(ふむ……ま、ぶっちゃけ中には何も無いことは知ってるからな。用は無い)

傭兵(伊達に、何度も中で戦っちゃいない)

傭兵(仕掛けが施せるかどうかの確認をジックリとしたかったが……仕方が無い)

傭兵(この周りからどうにか出来ないか調べるか……穴でも開けれたら言うこと無いんだが)


ザッ、ザッ、ザッ…


傭兵(にしても……人間兵器、か……)

傭兵(もしその噂が本当なら……俺や兵士が戦わされてるのって、実は彼女を強くするためだけだったりするのか……?)

傭兵(この依頼を含めたその全てが……上手く使われてしまってるだけ、だったり……?)

傭兵(それに……あの門番が口を滑らした内容……)

傭兵(姫……っていうのが、もし王女のことを指すのだとすれば……)



傭兵(この国の王が、自分の子供を盾にしようとしていることに他ならない、ってことになる)



傭兵(……まぁ、姫って言葉だけでそこまで考えるのは早計か……)

傭兵(当初の推理どおり、どっかの貴族の娘さんかもしれない)

傭兵(日頃の雰囲気がお姫様みたいにキレイだから、とかそんなかもしれないし)

傭兵(口止めだってまぁ、貴族だとバレたくないから、ってだけの理由かもしれないし)

傭兵(……それにまぁ、人間兵器にせよ王女にせよ、今はあの副作用からあの子を助けてやるのが先であることに変わりは無い)

傭兵(加護を受けたことを後悔してるからこその副作用なわけだから、副作用を一時的に解除してやってもなんの解決にもならないが……)

傭兵(解除させればもしかしたら、正常な状態のあの子と話が出来るかもしれないし)

傭兵(そこから後悔している理由も聞き出して、助けてやればいい)

56: 2013/03/21(木) 00:58:05.90 ID:svCEfDWx0
???「……本当にいらっしゃるとは……」


傭兵「えっ?」


メイド「どうも」


傭兵「あ、これはどうも。初日以来ですね、メイドさん」


メイド「そうですね」


傭兵「で、どうかしましたか?」


メイド「どうしたもこうしたも……門番からあなたがやって来たと報告を受けたので、様子を見に来たのです」


傭兵「あれ? もしかして追い出される感じですか?」


メイド「いえ。あの子を倒してくれるための視察という話ですし、そんなことはしません」

メイド「むしろ、そこまで真剣になってくれて、感謝しているぐらいです」


傭兵「そうですか。それは良かった」


メイド「とはいっても、兵の訓練の邪魔にはならないで欲しいので、時間は厳守してもらいますが」


傭兵「分かってますよ」

57: 2013/03/21(木) 01:02:16.17 ID:svCEfDWx0
メイド「…………」


傭兵(さて……メイドさんも来たことだし、余計な思考ばっかりしてないで、なんとか勝つための方法を見つけ出さないとな……)

傭兵(……いやでも、今の内にあの子の副作用について気付いたことを話しておくべきか……?)


メイド「その……」


傭兵「あ、はい?」


メイド「お忙しいところすいません。ですが、訊かせていただいてもよろしいですか?」


傭兵「え? なんですか?」


メイド「どうして、そこまでしてくれるのですか?」


傭兵「そこまで?」


メイド「今まで依頼を請けてくれた方は、そこまではしてくれませんでした」

メイド「戦って負けて、負け続けて折れて、そのまま辞めていった……」

メイド「それなのにあなたは、その人たちと同じぐらい負けているのに、折れるどころかさらに必氏になってくれています」

メイド「それは、どうしてですか?」

58: 2013/03/21(木) 01:08:52.69 ID:svCEfDWx0
傭兵(どうして、か……)

傭兵(……この場合、大人だから当たり前、って返したところで、あんま理解してもらえないんだよなぁ……)

傭兵(なんか、見知らぬ誰かのために頑張る、ってのは、例えその対象が子供のみであったとしても、どうも裏があるように思われるみたいだし)

傭兵(……俺の村って特殊だったのかなぁ……世界を見てた時もなんとなく思ってたけど……)


傭兵「……まぁ、理由は色々ありますよ」

傭兵「ただ、子供が副作用を想定して、寝るときからあんな薄暗いところに行って眠って、起きてその日の副作用を終えて意識を取り戻したら誰かの氏体が転がってる……」

傭兵「なんて、不幸な出来事に見舞われ続けるのは、あまりにも可哀想だからですよ」


メイド「ですが……あの子はあなたにとって、この依頼を請けるまではなんの関係もなかった人でしょ? それなのに……」


傭兵「確かにそうだけど……だから、それだけが理由じゃないんですよ。色々あるんですよ、色々」

傭兵「それこそほら、傭兵としての報酬とか、ね」


メイド「…………」

メイド「……そう、ですか……」


傭兵「そうなんです」


メイド「……ありがとうございます」


傭兵「いえ、ですからその……頭を下げる理由なんて無いんですよ? 報酬が出るからやってるだけで……」


メイド「そういうことにしておきます」


傭兵「そういうことにって……」


メイド「ですが、そういうことにする前に……一言だけお礼を言っておきたかったのです」

メイド「見知らぬあの子の為に頑張ってくれて、本当、ありがとうございました」


傭兵「ですから――」


メイド「いえいえ、これは私の勝手な勘違いです」

メイド「勘違いで勝手にお礼を言ってきただけのバカ女、とでも思って、てきとうに受け止めておいてください」


傭兵「――…………」

傭兵「……はぁ……」

傭兵「分かりました。では互いに、そういうことにしておきましょう」

59: 2013/03/21(木) 01:10:47.05 ID:svCEfDWx0
傭兵「それよりも、ここ最近戦っていて、あの子の副作用について気付いたことがあるのですが」


メイド「副作用について……? どうされました?」


傭兵「あの子、『一日に一人、誰かを殺さないと理性が切れる』って副作用ではないみたいです」


メイド「えっ?」


傭兵「アレはどちらかというと、『一日に一回、戦わないと気が済まない』――いや、『一日に一回、“戦い”という遊びをしたい』って方が正しいかもしれません」


メイド「それは……! でも……。……いえ……どうしてそう思われるのですか?」


傭兵「こちらが手を抜いた時、いたぶるような、拷問じみたことをされたんです」

傭兵「まるで手を抜くなって叱ってるみたいに」


メイド「そういえば……勝手に辞めて行った人がいたことがありましたが……まさか……」


傭兵「たぶん、それのせいでトラウマにでもなったんでしょう」


メイド「ですが、それだけでそう決め付けるのは早計なような……」


傭兵「でも『誰かを殺さないと理性が切れる』っていうんなら、手を抜いた瞬間に俺を頃してないとおかしいですし」

傭兵「だって頃していないと理性が切れている、ってことはつまり、戦っている段階では理性が切れてるってことですよね?」

傭兵「となったら、そんな手加減じみたことが出来るはずもありません」

傭兵「それと他にも、あの子の力加減もそう思わせる要素の一つです」


メイド「力加減?」

60: 2013/03/21(木) 01:16:36.66 ID:svCEfDWx0
傭兵「最初は、段々とあの子が強くなっているのかと思ってましたけど……冷静になって考えてみれば、それはあり得ないんです」

傭兵「あれは段々と、抜いていた手を加えていっていただけだと思います」


メイド「それはまた……どうしてですか?」


傭兵「俺の前に十一人、この依頼を請けて辞めている人がいたからです」


メイド「……どういうことです?」


傭兵「単純に、俺が弱いってことですよ」

傭兵「段々と強くなっていってるから勝てない、っていうんなら、そもそもその十一人の傭兵が俺より弱くないと話しにならない」

傭兵「それは絶対にありえない」

傭兵「まさか十一人もいてそんなことがあるはずもない」

傭兵「となると、あの子自身が最初は力を加減し手を抜いていることになる」


メイド「だから……手加減をしていたのは、出来るだけ長く戦っていたいから……と、そういうことですか」


傭兵「そうだと思います」

傭兵「相手より少し強くなるように加減しているのはまぁ、子供だからでしょう」

傭兵「遊びだと思っていても負けたくないんだと思います」


メイド「ですが……それこそどうして、今までの十一人の傭兵は気付いてくれなかったのでしょうか……」

メイド「副作用に関しては仕方ないにしても、せめて手加減されていることぐらいは気付いても良さそうなものですが……」


傭兵「そりゃまぁ、俺みたいに『自分は弱い』なんて認めてる傭兵のほうが少ないですし」

傭兵「まして、女の子に手加減されているなんて認めたくないでしょう」

傭兵「よしんば認めていたとしても、それは結局あの子に勝てないって形にしか作用しない」

傭兵「で、作用したらしたで、報酬のために手を抜いて戦って、それにあの子が怒って拷問されて恐怖して逃げ出して……ってなってりゃ、まぁ気付かないでしょう」

61: 2013/03/21(木) 01:20:15.53 ID:svCEfDWx0
傭兵「それでまぁ、あの子が手加減してくれてるなら、ってことで、一つ俺みたいなザコでも勝つ方法を一つ思いついて、こうしてココにやってきたのですが……」

傭兵「……ちょっと確認ですが、ココで戦うことって出来ないですか?」


メイド「ココって……訓練場で、ってことですか?」


傭兵「はい」


メイド「それは……ちょっと、難しいかと思います」

メイド「そもそもあの子をこの中で戦わせているのは、外に見られたくないからなんです」


傭兵「見られたくない?」


メイド「はい……その、少々事情がありまして……あまり明るみにはしたくないのです。あの子の存在は」


傭兵(人間兵器としてか……それか、姫として、か……)


メイド「ですので、あの外で戦うのはちょっと……」


傭兵「そうですか……じゃあまた、別の方法を考えないとな……」

傭兵(やっぱ壁か床に小さな穴開けるしかないか……なんとか違和感なく開けれる場所は無いものか)


メイド「…………」

メイド「……ですが……」


傭兵「ん?」


メイド「もし、なんとかなるのなら、絶対に勝っていただけますか?」

メイド「あの子を、少しの間だけでも、副作用から救ってくれますか?」


傭兵「……もちろん」


メイド「そうですか…………」

メイド「…………少々、お待ちください」

62: 2013/03/21(木) 01:22:03.85 ID:svCEfDWx0
~~~~~~

メイド「お待たせいたしました」


女騎士「どうしたのさメイドさん。ボクをこんなところに連れてきて」

女騎士「っていうか、コイツ誰?」


メイド「お忙しいところすいません。こちら、今あの子の相手をしてくださっている、傭兵さんです」

メイド「それで傭兵さん、こちら、この国の騎士長をしている、女騎士さんです」


女騎士「ふ~ん……」


傭兵「どうも」


女騎士「……で、コイツがどうしたの?」


メイド「実は彼が、この訓練場であの子と戦わせていただけないかとおっしゃってまして……」


女騎士「はぁ!? なんでまた」


傭兵「それは――」


女騎士「どうせ外に出たって勝てないんだからさ、面倒なことさせないでくれない?」


傭兵「――…………」


女騎士「アンタは知らないのかもしれないけどさ、あの子はあんまり明るみに出したくない子なの」

女騎士「あ、なんで? とかは聞かないでね。説明するのも面倒だから」

女騎士「でね、その子を外に出して戦わせるってことは、あの子と戦ったことがある信用できる兵だけで、訓練場に誰も近付かないように見張らないといけないの」

女騎士「そこまでのことをさぁ……勝つ見込みのないアンタのためにするのって、正直やってられないのよ」

女騎士「環境が変われば勝てるとか、そんなことないんだからさ」

63: 2013/03/21(木) 01:23:56.49 ID:svCEfDWx0
傭兵「…………」


女騎士「分かった? 分かったらこの話はおしまいっ」


傭兵「……………………」


女騎士「っていうかアンタ、見ただけで分かるよ。あんまり強くないよね」

女騎士「ある程度は鍛えてるみたいだけど、そもそもそんなに才能ないんじゃない?」

女騎士「大人しく魔導書でも読んで細々と魔法の勉強してた方が強くなれてたんじゃない?」


傭兵「………………………………」


女騎士「あ、それとも魔法覚えられるほどの頭も魔力もないとか? だから仕方なしにそんな肉付きで傭兵なんてやってるの?」

女騎士「だったらもう辞めて畑でも耕してなって。才能無いやつが加護を受けて無理して戦ってても、悲しいだけだよ?」


傭兵「…………………………………………」

傭兵(………………………………………………うっぜぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!)

傭兵(なんだこのチビは……! ちゃんと成長しきった顔してるからコレもう絶対成長止まってるだろっ!!)

傭兵(なんでテメェみたいなお子ちゃま体型にそんな全存在否定みたいなこと言われねぇといけねぇんだよクソがっ!!)

傭兵(氏ねっ! 無残に氏ねっ!! 溝にハマって抜けなくなってそのまま餓氏しろっ!!!! 巨人にでも踏みつけられてしまえこのガキがああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!)

64: 2013/03/21(木) 01:27:27.03 ID:svCEfDWx0
傭兵「…………」

ス~…ハ~……


傭兵(……いやいや、仮にも騎士長だぞ?)

傭兵(落ち着こう、落ち着こう)

傭兵(俺みたいなザコが見ても隙が無いのは分かってるぐらいには強いわけだし)

傭兵(っていうか今もいつでも腰の剣に腕を伸ばせる自然体だし)

傭兵(確実に戦ったら負けるだろうし)

傭兵(そんな相手から見たら確かに俺はザコな訳だし)

傭兵(本当のことしか言われて無いわけだし)

傭兵(……うん……そうだ。そうだよそうだよ)

傭兵(だから、落ち着け……落ち着け…………)


傭兵(言ってることも間違ってないんだ)

傭兵(確かに俺には接近戦の才能はほとんど無い)

傭兵(だから、言われても仕方がない……仕方がないことなんだ……うん)

傭兵(本当のことを言われて図星を突かれただけでキレて襲って反撃されて殺されたら話しにならないからな……うん)


傭兵(今必要なのは……そうしてキレることじゃなくて……)

傭兵(冷静に……冷静に……)





傭兵「女騎士、一つ聞いていいか?」


女騎士「は? 呼び捨て?」


傭兵「テメェなんて呼び捨てで十分じゃこらぁっ!!」

68: 2013/03/23(土) 00:20:30.04 ID:tj58TBUr0
再開します

69: 2013/03/23(土) 00:24:09.38 ID:tj58TBUr0
傭兵「……ごほん。え~……一瞬取り乱した、ごめんごめん」


女騎士「いや、許さないけどね」


傭兵「じゃあ無視する」

傭兵「んで、聞きたいんだけど」


女騎士「え? まさか答えてもらえると思ってるの? ボクはまだ許してないんだけど??」


傭兵「オマエって、あの子に勝てたことあるのか?」

傭兵「あ、無様に負けたんなら答えなくていいよ。答えるのも恥ずかしいもんね。まさかこの国の騎士の長が一人の女の子にも勝て無いってなるとさすがに――」


女騎士「勝てたわよっ! 何勝手に決めつけてんのっ!?」


傭兵「そっか勝てたか……で、どうやって勝ったの?」


女騎士「ふんっ。それは答えないわよ」


傭兵「まぁ大方、あの子が合わせられないほど強いから勝てたんだろうけど」


女騎士「合わせる……? なんのこと……??」


傭兵「力バカらしい勝ち方だってこと」


女騎士「おいこら頃すぞ」

70: 2013/03/23(土) 00:26:30.52 ID:tj58TBUr0
傭兵「でまぁ、俺の場合はその力が無いから勝てないと見込んで協力できないってことだろ?」


女騎士「ちょっと、ちゃんと謝れってよさっきから」


傭兵「でもさ、そんな力任せじゃない別の方法で勝てるとしたら、どう?」


女騎士「え? んな方法あるわけないじゃん。バカじゃないの?」


傭兵「それがあるんだよ」

傭兵「で、それを今から証明する」


女騎士「さっきから都合のいい部分ばっかで返事しないでよちょっと」

女騎士「っていうか証明なんてどうやるつもり? 出来るわけないじゃん」


傭兵「じゃあ、出来たら協力しろよ?」


女騎士「ふんっ。出来たらね。見張りぐらいやってやろうじゃないの」


傭兵「というわけでメイドさん、聞いていましたよね?」


メイド「あ、はい」


傭兵「では、これから証明します」

傭兵「ですので、女騎士が言葉を覆した場合の証人、お願いしますね」


メイド「分かりました」


傭兵「では、いきます――」

71: 2013/03/23(土) 00:36:02.96 ID:tj58TBUr0
~~~~~~

傭兵「――とまぁ、こんな具合でどうだろう?」


女騎士「…………」

メイド「…………」


傭兵「今まで接近戦しかしてこなかったのに、突然これだけの威力を持った魔法も絡めれば、さすがに対応できないだろ?」

傭兵「といっても実際はこれほどの威力をぶつけるつもりはないけどさ

傭兵「でもまぁ、あの子を打倒できる証明にはなるだろ?」


女騎士「……ふんっ。……つまり、力で超えられないから魔法を使おうってこと?」


傭兵「厳密にはちょっと違うけど、ま、そういうことだ」


女騎士「……分かった。いいよ。そういうことなら協力してあげる」


傭兵「やけにあっさりだな……てっきり駄々をこねられるかと……」


女騎士「アンタはボクのことをなんだと思ってるんだよ……さすがに、こんなに訓練場をメチャクチャにされるほどの魔法を見せられたら納得もするよ」

女騎士「アンタの力をある程度認めるしかないかな、ってさ」

女騎士「それにボクだって、出来ればあの子の副作用をどうにかしてあげたいんだし」

女騎士「仕事さえなかったらボク自身がするってのに……」


傭兵(……周りに愛されてるんだな……あの子)

傭兵「……ま、ともかく協力してくれるんならありがたい」


女騎士「といっても、これだけ出来てもボクには勝てないだろうけどねっ」


傭兵「そのドヤ顔止めろ」

傭兵(とはツッコむけど……俺もそんな気はしている)

傭兵(例え魔法を使っての総合力で戦っても、一対一で戦ったら負ける)

傭兵(そんな雰囲気が彼女にはある)

傭兵(間違いなく彼女は……強い)

傭兵(子供みたいな見た目に反して相当な実力があるのが分かる)

傭兵(あの子に勝ったという話も納得だ)


傭兵(……っていうか実際にはいくつなんだ……? こんなガキっぽいのに騎士長なんて位の高さだから結構な年齢なのか……??)

傭兵(……って、今はそんなこと関係ないな)

傭兵(重要なのは、明日だ)

傭兵(明日……本当にあの子に勝てるかどうか……)

傭兵(そこに全てが、懸かってる)

72: 2013/03/23(土) 00:37:11.57 ID:tj58TBUr0
~~~~~~

 依頼挑戦
 十二回目

~~~~~~

◇ ◇ ◇

 訓練所

◇ ◇ ◇

傭兵「さて……」


傭兵(ギャラリーはこれといっていないように見えるが……どうも囲まれている感じがする)

傭兵(ちゃんと見張りはいてくれてるってことか……)


傭兵「……よしっ」


傭兵「それじゃあ、今日で終わりといこうか」


ガラガラガラ…

…コツ


傭兵(ともかく、まずは当初の予定通り外へと出さないと――)


傭兵「――っ!」ザッ!


ヒュンッ…!

ダンッ!!


???「…………」


傭兵(っぶねぇ……入ってすぐ上から一撃とか……初日にされた攻撃の再現かよ……!)

傭兵(……まぁ、決着をつけるには相応しいか……)

傭兵(それにこの方が――)


ザッ!


傭兵(――外へと誘き出しやすいっ!!)

73: 2013/03/23(土) 00:38:42.18 ID:tj58TBUr0
傭兵「さぁ――」スッ…

傭兵「――来い」ジャキ


???「……っ」ザザザ…!


キィン!


傭兵(かかった……!)グググ…!


傭兵「さぁ……差を、広げようかっ……!」ギィィ…ン!

74: 2013/03/23(土) 00:41:15.95 ID:tj58TBUr0
 鈍い音と共に、あの子の剣が俺の剣から離れる。

 何十回もの戦いで分かっていた。
 単純な力だと、瞬間的にはこちらが上回れると。

 だからこうして相手との鍔迫り合いを中断し、バックステップを繰り返し大きく距離を取り――



 ――あの子が再び距離をつめるよりも早く、こちらは剣を上へと投げ、力強く地面を踏みつけた。

75: 2013/03/23(土) 00:50:16.11 ID:tj58TBUr0
 魔法とは、大地の力を天へと届かせる際に発生するもの。

 大地のエネルギーを天へと放出する際に発生する余波エネルギー。
 それこそが魔力の正体だ。

 
 だからこそあの『倉庫の中(けっとうじょう)』では使えなかった。
 こうした屋外でしか、魔法は使えないのだ。



 ダァン! と響く足音と共に、その踏み締めた箇所から円形に、泥沼のような水溜りが広範囲に出来上がる。

 その範囲は俺の周囲からこの訓練場の果てまで。
 これで高速に動くあの子の足を、確実に遅くできる。
 戦場が広くなったからと不利になることもなくなる。


 これが俺の第一の狙い。
 そう、第一だ。当然これだけで勝てるとは思っていない。
 これはあくまでも、昨日まで戦っていた場所とイーブンにするための手段でしかない。

 広さは素早い向こうが有利だろう。
 だが足を捕らわれるこの場所は不利になるだろう。

 そうすることで一対にしようという考えだ。


 だから、次の手を打つ。プラスマイナスゼロで終わらせないための手を。

 俺は目の前を通り過ぎ、重力に導かれ泥沼へと落ちる剣をそのまま見送り、次の魔法を発動するためにしゃがみ込む。


 先ほどのように、足で魔法を発動させることは出来る。
 が、一番良いのはやはり手で触れること。

 広範囲に大雑把に効果を及ぼすことしか、足では出来ない。
 細やかな指示を送るのは、やはり直接地面に手を触れさせ、天高くと手を掲げるのが一番だ。


 ……俺の属性は水だ。
 属性とは、その人が使える魔法の系統。

 天へと打ち上げた際の余波エネルギーは、この属性へと姿を変える。
 そして人は、この属性のみを自由に操れる。
 それこそが魔法だ。

 伝承に残る勇者は複数の属性を使いこなせ、さらには勇者限定の属性まで使っていたようだが、俺のような一般人は基本五属性のうち一つだけが当たり前となる。

 しかし、こんなものは応用でどうとでもなる。
 水しか製造・操作できないからといって、勝てないことにはならない。


 俺は自らの周囲に水の触手を五本生み出し、自らの左右に一本ずつと、背後に三本配置した。

77: 2013/03/23(土) 00:54:26.95 ID:tj58TBUr0
 触手……といっても、ウネウネとは動かない。
 いや、動かすほどの腕が俺には無い
 故に、直立不動の柱と同等。


 だが俺の意思で動かし、突進させることは出来る。
 それは矢を超える速度で、槍を上回る威力を誇る。


 水の塊でありながら、人を壊せるほどの力を発揮させられる。


 ……が、当然欠点はある。
 大きな理由としては自動で動いてくれこと。
 だから自分の身体を動かしながら、この柱触手へと指示を出すよう並列して脳を動かさなければならない。

 つまり、かなりの集中力が必要だということ。


(……短期決戦だな……)


 いつもは三本で戦っている。
 だがそれよりも二本増やしている。

 全盛期の頃の自分の全力に等しい。
 鈍った集中力でやるには持て余してしまうかもしれない。


 だがそれでも、昔のように扱いこなせないと、彼女には勝てない。


 それは何十回も氏んだ俺だからこそ、一番分かっている。

78: 2013/03/23(土) 00:56:24.38 ID:tj58TBUr0
>>77 ×→大きな理由としては自動で動いてくれこと。
   ○→大きな理由としては自動で動いてくれないこと。

治したいとこが他にも見つかったけどこのミスは大きいので

79: 2013/03/23(土) 00:58:13.62 ID:tj58TBUr0
 先ほどは見送り、泥へと半分以上沈んでいる剣を抜いて、立ち上がる。


 ……俺は女騎士のように、単純な力ではあの子に勝てない。
 こうして昔の全力を出して、おそらくはようやくといったところ。
 それほどまでに俺は弱い。
 一対一の戦いに圧倒的に向かないのだ。俺は。


 だがそんな俺でも、勝てる方法を見つけ出した。


 ……あの子は、こちらといい勝負をしながらも勝てるような手加減をしている。


 だがもしその目測よりも圧倒的に強い力を、突然俺が出してきたなら?



 それは確実に、対応が出来ない攻撃となる。

 それがこの魔法なのだ。

 俺は今まで、魔法を使わずにあの子と戦ってきた。
 そんな俺に合わせていたあの子が、突然魔法を使えるようになった俺に合わせられるはずも無い。

 ……いや、きっとすぐには合わせてくる。
 だが合わせるにも時間は掛かる。


 その時間こそが、勝負。


 その間ならば、俺でもあの子に勝つことが出来る。
 だから、一瞬でもいいのだ。俺が全力を出せるのは。

 その一瞬で、あの子を仕留める事が出来るのなら……それで……。

80: 2013/03/23(土) 00:59:01.34 ID:tj58TBUr0
 そう……勝てる方法は、二つ。



 女騎士のように、あの子に合わせられないほど強い力で立ち向かうか……。

 俺が今やろうとしているように、瞬間的にでも彼女の目測を超えるか……。



 その二つだ。



「……さぁ……勝負だ。……俺が一度でも、頃してやるよ」

81: 2013/03/23(土) 01:09:31.18 ID:tj58TBUr0
~~~~~~

???「」


傭兵「はぁ……はぁ……はぁ……」


傭兵(勝てた……)

傭兵(……っていうかおい……勝てたのが奇跡に感じるって……本当、ただの偶然の産物にしか思えないって……あの子、どんだけ強いんだよ……)



傭兵(まさか全力を出したってのに、腹を貫かれるとは思いもしなかった)



傭兵(本当に、一瞬だった)

傭兵(真正面から一本・上空から二本・背後に回って一本……)

傭兵(その攻撃の包囲網をすり抜け迫る彼女に攻撃されながらも、なんとか足止めして……)

傭兵(こっちの攻撃を避けられた瞬間、カウンターで刺されて……)

傭兵(でもなんとか、その攻撃で腕を掴んでいる隙に、最後の一本を頭上から落として……)


傭兵(……ったく……相打ちじゃねぇか、これじゃあ)


メイド「……お疲れ様です」


傭兵「……あぁ……どうも……」


メイド「……勝っていただき、ありがとうございました」


傭兵『いえいえ、どういたしまして』パクパク

傭兵(っ……! くっそ……もう声が出ないか……)

傭兵(っていうか、もう……瞼がすっげぇ重いし……)

傭兵(力も……抜けてきてるし……)


メイド「……また、明日で構いません」

メイド「本日は本当に……ありがとう、ございました」ペコ


傭兵(ああ……そうかい)

傭兵(それはありがたい)

傭兵(こんなもん。蘇らせてもらっても、すぐに戻ってこれるほどの体力がねぇからな)

傭兵(明日で良いってんなら……相打ちだってのは、明日言わせてもらおうか……)


メイド「これであの子は……少しの間でも、救われます」

メイド「本当、あなたのおかげです」

メイド「できればまた……よろしくお願いいたします」


傭兵(ああ……当たり前だろ。むしろこちらからお願いしたいぐらいだ)

傭兵(何より、そういう契約だろ? 大事な大事な、食い扶持さ……)

傭兵(だから……明日からもまた、任されたよ……――)



第一部・終了

82: 2013/03/23(土) 01:12:16.22 ID:tj58TBUr0
キリが良いので今日はここまで
第一部終了です
本当はプロローグにしようと思ったけど長かったのでもう第一部ってことで


前回戦闘シーンがセリフと音だけでよく分からなかったのでそこだけ実験的に文章形式にしてみた
でも俺ド下手だから、あんまり文章形式はやりたくないんだ…
だから次もまたこうするかどうかは分からない



傭兵「死ぬだけの簡単なお仕事です……?」【第二部】

83: 2013/03/23(土) 01:15:29.31 ID:TOyQtEkfo
おつ

引用: 傭兵「死ぬだけの簡単なお仕事です……?」