540: 2013/04/27(土) 00:39:18.22 ID:lD1ToEId0
再開しまっす
第四部は加速度的に早い

理由はもう起承転結でいうと「結」だからって理由が二割
残り八割がゴールデンウィークまでに終わらせないと投下出来なくなるからです


傭兵「死ぬだけの簡単なお仕事です……?」【第一部】
傭兵「死ぬだけの簡単なお仕事です……?」【第二部】
傭兵「死ぬだけの簡単なお仕事です……?」【第三部】
傭兵「死ぬだけの簡単なお仕事です……?」【第四部】



541: 2013/04/27(土) 00:42:12.65 ID:lD1ToEId0
~~~~~~

  三年後

~~~~~~

◇ ◇ ◇

 田舎の村
 傭兵の家

◇ ◇ ◇

傭兵「さて……と……」

傭兵(随分この村にも慣れたけど……やっぱ物足りないな……)

傭兵(ずっと農作業と一人訓練ばっかってのもな……さすがに)

傭兵(つい最近税を増やそうとした貴族を神官と一緒に脅しに行ったときは久しぶりに楽しかったな……)

傭兵(……なんだかんだで俺、弱いくせに戦うのが好きなんだな……)

傭兵(……ま、腕が錆び付いて無くて良かったと思うしかないか)

傭兵(……こんなことならまた東の大陸に行って、勇者候補者として復活すればいいのに……)


少年「おじちゃん!」


傭兵「おっ」


少年「きょうも剣のけいこつけてくれるのっ?」


傭兵「ああ、そうだな……」

傭兵「……ま、今日も特に作業が大変でも無いし、やってやるよ」


少年「やったぁ!」
葬送のフリーレン(1) (少年サンデーコミックス)
542: 2013/04/27(土) 00:46:12.96 ID:lD1ToEId0
傭兵(剣の稽古……か……)

傭兵(俺みたいなのでも教えられることがあるとはな……)


傭兵「…………」


傭兵(でも……そろそろ辞めないとな……)

傭兵(この前の貴族への脅しのせいで、俺も神官も、村の人から避けられるようになっちまったし……)

傭兵(ここじゃあ争いも無いから神官がいてもありがたいと思われないのも大きい)

傭兵(そろそろ村を離れるべきかと話している以上、この子をあまり俺たち二人に近づけないようにしていかないとな)


少年「?」

少年「どうしたの? おじちゃん」


傭兵「……いや。なんでも」

傭兵「ただお前も、そろそろ一人前かな、って思って」


少年「えっ!?」


傭兵「俺がこれ以上剣術を教えると、変な癖をつけてしまうかもしれないからな」

傭兵「俺の戦い方は、俺にしか出来ないぐらい“おかしい”ってのは最初に話しただろ?」

傭兵「だから誰しもが歩く基本しか、教えられないんだよ」

傭兵「で、お前はそろそろソレを終えようとしている。だからな」


少年「どういうこと? おじちゃん、ここからいなくなるのっ?」


傭兵「いや、いなくはならないよ」

傭兵(すぐには、な……)


少年「じゃあどういうこと!? ボク、分からないよっ!」


傭兵「そうだな……そうだよな……どう説明したもんかな……」


??「もし」


傭兵「ん?」

543: 2013/04/27(土) 00:49:22.99 ID:lD1ToEId0
??「傭兵さま、でいらっしゃいますね」


傭兵「……ああ」

傭兵(誰だ……? 黒いローブを羽織った……全身鎧……?)

傭兵(……まさか……!)

傭兵「……ちょっと待ってくれ」


??「どうぞ」


傭兵「少年、お母さん達のところに行ってるんだ」


少年「えっ?」


傭兵「……もしかしたら今日は、もう訓練をつけてやれないかもしれない」


少年「そんな……! ねえどうして!? ねぇっ!」


傭兵「それは……また会えたら、答えるよ」


少年「っ!」

少年「そんな! そんなの、もう会えないみたいじゃ――」


傭兵「聞け」


少年「っ!」


傭兵「……いいか? ちゃんと、お母さんのお手伝いをするんだぞ」

傭兵「強くなりたかったら、教えたことを復習して……そして、俺じゃない強い人を見つけろ」

傭兵「その人に弟子入りをしろ」

傭兵「それが……一番早く、強くなる道だ」


少年「……おじちゃん……」


傭兵「俺が教えられることはもう、無くなったんだ」

傭兵「卒業、おめでとう」

傭兵「お前はもう、立派な剣士への一歩を踏み出したんだ」

傭兵「俺に認められたこと、誇りに思え」

傭兵「その思いと共に、強くなれ」


少年「……うん……!」

544: 2013/04/27(土) 00:50:56.63 ID:lD1ToEId0
~~~~~~

傭兵「……さて」

傭兵「これで、あの子は巻き込まないでくれるんだろ?」


??「…………」


傭兵「……だんまり、か」

傭兵(大方、この前脅しをかけた貴族の差し金だろう)

傭兵「で、なんの用だ?」


??「あなたを……不幸にするものですよ……」スッ


ザッ、ザッ


傭兵「っ……!」

傭兵(人の気配が森の中からするかと思っていたが……まさか、村側にまでいたとはな……)

傭兵(……囲まれていた、か……)

545: 2013/04/27(土) 00:53:14.12 ID:lD1ToEId0
 そのことを理解すると同時、腰に差しておいた中剣を二本共、抜く。

 相手の総数は目の前に立つ全身鎧を含めて十一人。

 今までのように一本を操り一本を予備にしている戦い方では無理だ。


 右手に順手で一本。

 そして……同じく右手に、逆手で一本。

 左手は魔法を精度良く扱えるよう空手。


 周囲にいる人間は鎧を纏っているのかどうか分からない。

 全身覆う黒ローブの奥がどうなっているのかまでは見えない。

 だからこそ、剣だけではダメージを与えられないことを前提にしなければならない。


 それ故の、魔法主体の戦い方だ。


 そう……足からのエネルギー吸収でも、精度を上げて魔法を使えるように特訓し、可能となったこの戦闘方法。

 片手空手の二刀流。


 その、珍しい構えが意外だったのか――


「…………」


 ――声をかけてきた全身鎧が、黙したまま俺を見ていた。

546: 2013/04/27(土) 00:56:48.34 ID:lD1ToEId0
 この隙に仕掛けるか……?

 そう算段を立て、実行に移そうとしたその時、相手が先に動いた。


「行けっ!」


 号令一家。

 単純な一言の命令を下すと同時、当の本人は後ろに飛び退き俺と距離を取る。


 そして周囲を囲っていた十人が、一斉に襲い掛かってきた。


 ……俺はその姿を一度、全て視界に収めた後……足を振り上げ地面を鳴らす。

 大地から吸い上げたエネルギーを、天へと掲げた左手から放出する。

 余波エネルギーを精度良く体内に残し、実行したい魔法をイメージ。

 そして、余波エネルギーを解放。


 俺を中心として、水の刃が広がるように放たれた。


 ……この敵は必ずしも、殺さない方がいいということはない。

 こうして一斉に襲いかかれるタイミングなんて早々作り出せない以上、次来るとなってもだいぶ間が開くことだろう。


 それに……だ。

 何度も来てもらった方が、こちらの暇つぶしにもなる。

 段々と人数を増やしてくれるのなら尚更だ。

 どうせ俺が殺されたところで神官が復活させてくれるし、拷問されてしまったとしても、俺の苦しむ姿を見るために神官が駆けつけてくれる。


 だからこのまま、敵を頃してしまっても問題が無かった。

 放たれたこの高水圧の水の刃は、そのまま敵を真っ二つにする。










 ……はずだった。

547: 2013/04/27(土) 00:58:49.02 ID:lD1ToEId0
 どういうわけか、一斉にコチラへと駆け出していた中の一人がその場にしゃがみ込み、地面を叩いて反対側の手を天へと掲げていた。


 その魔法動作。

 それによって俺の魔法が全て、敵に当たる直前で防がれてしまった。


 ……『結界』の魔法……!


 見えない壁に当たると同時、ただの水になったかのように、ただ相手のローブを塗らしただけに終わってしまった。


「っ!」


 驚きを隠せた自信は無い。


 そう……まるでこちらが『水』属性の魔法を使うのが分かっていたようなその対応……。

 ……いやそれ以上に、“こうして一斉に襲い掛かれば俺が魔法を使って対抗してくる”ことを知っていたようだった。


 ……やはり、前回襲った貴族の差し金なのだろう。

 それ故の情報能力で対抗してきている。

 前に戦った時の俺の情報を分析し、戦術として組み込んで挑んできた……。


 これは、相当に厄介な敵になる。


 ……が、勝てないということは無い。

 何故なら敵の数が、これだけいるのだから。


 いればいるほど強くなる俺だからこそ、まだまだこれだけでは負ける要素にはなり得ない。


 戦い方? 戦術? 弱点?

 ……その全ては、俺が長年かけて身に付けたものだ。

 一瞬で敵全ての戦い方を見抜き、隙を作り出す戦術を組み立て、弱点を作り上げる。

 ソレを行ってきた俺が……負けるわけが無い。


 単純な戦闘能力では弱い俺でも……これだけは弱いと、認めるわけにはいかなかった。

 だから負けるわけが無いと、自分の中で言い聞かせた。

548: 2013/04/27(土) 01:01:42.57 ID:lD1ToEId0
 得物を抜いて襲い掛かってくる敵。

 その手には王国正式採用の剣。

 貴族が雇っている傭兵ではなく、貴族が呼び寄せたお抱えの兵士なのだろう。


 だからこその、リズムの違う完璧な連携攻撃。

 互いの隙を埋めるよう訓練された、四方八方からの連続攻撃。

 何人かは俺に近付くことなく散らばり魔法攻撃に専念する、その役割分担。


 それを認識しながら、まずは近付いてきた敵からの攻撃に対処する。

 全てを躱し、順手に持った中剣で受け止め、逸らし、逸らした先で攻撃の邪魔になるようにし、しゃがみ、避けていく。


 だがさすがにこれだけでは限界が来る。

 このままだと魔法による攻撃も来るだろう。


 だからこちらも魔法を発動する。


 しゃがんだ拍子に左手で地面を叩き、発動。

 空手の左掌の中に、高圧縮の水球を作り出す。


 そうしてしゃがんだ俺に背後から攻撃をしようとしてくる敵に向け、逆手に持った中剣を投げて牽制。


 だが当然のように、その単調な攻撃は避けられる。

 しかし避けられるのとほぼ同時、足を軽く鳴らして左手の中にある水球を操作。

 そこから水の鞭を作り出し、避けられたナイフを掴ませ、投げ返させる。


「っ!」


 後ろからの攻撃なのに、驚きながらもその攻撃をしっかりと避ける敵。

 が、こちらとて無駄に投げ返した訳ではない。

 その避けた先には別の敵がいて、その敵へと突き刺さる軌道となっている。

549: 2013/04/27(土) 01:03:37.47 ID:lD1ToEId0
 もちろんこちらとて、その結果をただ傍観していたわけではない。


 足を何度も鳴らし、左手の中にある水球から鞭を伸ばし、敵を牽制し、時には隙を見せてそこへと誘導し、反撃し、一度躱して同士討ちを狙わせて……。


 そうして一人で、踊るような足音共に、敵を次々と戦闘不能へと追い込んでいく。


 ただ、敵はまだ一人も氏んでいない。

 傷つき、動きは鈍くなっているが、そこまでだ。


 頃してもいい敵なのに、殺せない……。

 そう……こちらは数が減れば減るほど不利になるのだ。


 こうして複数相手に戦ってみて分かった。

 この敵全て、誰一人漏れることなく、全力の俺よりも強い。


 『結界』の魔法を使って援護をしているヤツ。

 他の属性の魔法を使おうとして俺に妨害されているヤツ。

 その全員がおそらく、近接戦闘も遠距離戦闘も、俺より強い実力をもっている。


 だから極力傷つけて、全力を出せないようにもっていく。


 そこまでしてからようやく、相手の数を減らしていける。

550: 2013/04/27(土) 01:06:22.51 ID:lD1ToEId0
 その考えの元動き、段々と敵の動きも鈍くなってきて……そろそろかと思い始めたとき。


「もういい!」


 例の、司令塔と思われる全身鎧の命令が飛んだ。


 その命令に応えるように、俺を武器で攻撃してきていた敵が一斉に飛び退いた。


 ただそれは命令というよりかは「お願い」に近い形の声だった。

 その思ってもいなかった声に、思わず身体が強張ってしまい、追いかけることが出来なかった。


「……やはり、複数で襲っては勝てない、か……」

「……昔と同じ強さのままで、安心しました」


「?」


 その、風に乗って届いた呟きに……懐かしさが込み上げる。


「ただ……わたくしは、昔のままではありませんが」


 込み上げてきて、分かる。

 その鎧によって曇っていた声が、女性のものであることに。


 そう、認識して都合が良くなったのか……その言葉遣いに、さらに懐かしい顔がよぎる。


「少し……お見せします」

551: 2013/04/27(土) 01:08:25.54 ID:lD1ToEId0
 記憶にある身長とは違う。

 声も、体格も、その全てが合わない。

 ただ……ああ、そうだ。当たり前だ。



 だってあれから……三年も経っているんだ。



 成長していない方が、おかしい。



「……まさか……」


 己の口から出た声は掠れ、自分のものとは思えないほどだった。


 だから、聞こえなかったのだろう。


 その全身鎧は、背中に引っ掛け隠し持っていたソレを取り出し、勢いよく振るう。



 折り畳み式の中刃槍。



 昔は正式採用剣で身の丈に合っていなかったのに、今はその長さの三分の一が刃となっている、槍とほぼ同じ長さを誇る武器で、同じ長さほど身の丈に合っていなかった。

 ああ……そうだ。彼女の戦い方は、そうした武器じゃないと行えない。



 ……女騎士から教わっていた、あの戦い方は……。



「では……いきます」



 構える。

 尾の近くを持ち、片手で持つ形。



 迫る。

 一息に間合いを詰められて。



 ……突きつけられる。

 あまりにも突然で、いきなりで……頭の中がこんがらがって……。

 感動とか動揺とか疑問とか、色々な感情が入り混じってしまっていて……動くことが、出来なかった。

552: 2013/04/27(土) 01:10:49.88 ID:lD1ToEId0
「…………」


 首元に突きつけられた刃。

 あと一押しで氏んでしまうその状況を……何故か、少し喜ばしい感情で迎え入れている、自分がいた。


 ……追ってきて欲しかった訳ではない。

 会いたかった訳でもない。


 それなのに……その姿を見て……何故か、自分は……。



 自分から、離れたくせに……図々しくも、俺は……。



「……避けないのですか?」


「……避けられなかった」



 言葉を口にした途端、内側にあった感情すらも、表に一緒に出てきてしまって……自分でも分かるぐらい、笑ってしまっていた。



「……もう俺じゃあ、動くことも出来なくなったよ……その攻撃」

「前から強かったけど……さらに強くなったな――」

「――お姫さまは」





「……ふふっ、ありがとうございます」





 突きつけた刃を下ろし、地面に突き立てて、その顔を覆っていた鉄の面を外す。

 その向こうには……昔の面影を残しながらも、確かに成長した、お姫さまの顔があった。











「お久しぶりです。……傭兵さま」

560: 2013/04/28(日) 00:28:36.69 ID:PXseO4vR0
◇ ◇ ◇

傭兵の家

◇ ◇ ◇

傭兵「本当に貴族の差し金じゃあないのか?」


姫「違いますよ。当たり前じゃないですか」

姫「わたくし達は貴族達と敵対しているのですし」

姫「というか、何をしたんですか? そこまで警戒するなんて」


傭兵「いや~……ちょっと、この村の収穫率に対しての税率がおかしいから暴力的文句を言いに……ね」


姫「ああ……なるほど」

姫「だから兵を連れて一応の挨拶に言った時、いつも以上に怯えていたんですね……」


傭兵「挨拶……?」


姫「村の中に兵を招き入れるわけですからね。一応の礼儀です」

姫「その時にいつもとは違って動揺露だったのが気になっていたのですが……そういうことだったんですね」

姫「おそらく、あなたが国に告げ口をして、その調査に来られたとでも思ったのでしょう」


傭兵「それじゃあ、あの貴族だけ特別に親しい相手だったとかでは……」


姫「全く無いですね」

561: 2013/04/28(日) 00:34:03.54 ID:PXseO4vR0
姫「それにしても、村のためにそんなことまでしてあげてるんですね」


傭兵「俺とか神官ぐらいしか出来ないからな。この村だと」

傭兵「あの貴族達、連れてる兵士を使って脅して、こっちが反抗できないのをいいことに好き放題やってたから我慢できなくなってさ」

傭兵「せっかく受け入れてくれたんだから恩返しでも、と思って」

傭兵「……ま、そのせいで貴族からの仕返しを恐れてる村の人たちが、俺たちを遠ざけるようにはなっちまったけど……」

傭兵「仕方ないかな、って思ってる」


姫「傭兵さまたちに怯えているのではないですか?」


傭兵「ああ……それもあるだろうなぁ……たぶん」

562: 2013/04/28(日) 00:40:02.06 ID:PXseO4vR0
傭兵「……って、こんな話をしに来たんじゃないんだろ?」

傭兵「どうしてこんなところに?」

傭兵「まさかこんな辺鄙なところに、王女が出向かないと行けないほどの何かがあったわけでも無いだろ?」

傭兵「わざわざ兵士まで引き連れてるんだ。一体どうしたんだ?」


姫「……言わずとも、わかっておられるでしょう?」


傭兵「……………………」

傭兵「……さあ?」


姫「そうですか? てっきり誤魔化すために、饒舌になっておられるのかと思ったのですが」


傭兵「…………」


姫「……兵を連れてきたのは、傭兵さまの腕が鈍っていないのかどうかの確認です」

姫「わたくし一人では確認しようがありませんからね。傭兵さまの場合」

姫「それにしても、昔は見えてくれなかった戦い方をしてましたね?」


傭兵「ああ……あれはつい最近出来た戦い方なんだ」

傭兵「……お姫さまと魔法を勉強しているときに、ヒントを得てな……」


姫「そうですか……少し、ビックリしました」


傭兵「…………」


姫「それで……改めて、言う必要はありますか? ここを訪れた理由」


傭兵「……いや……」

傭兵「……図々しいことかもしれないけど……もしかして、俺を城へと連れ戻すために、とか?」


姫「はい」

姫「もう無断欠勤が三年ほど続いてますよ?」

姫「そろそろ、仕事に復帰していただこうかと思いまして」


傭兵「それは……」


姫「無理、ですか?」


傭兵「……はい」

563: 2013/04/28(日) 00:46:37.21 ID:PXseO4vR0
姫「……どうして、ここが分かったか。分かりますか?」


傭兵「えっ?」

傭兵「それはもちろん……俺が貴族の屋敷を襲ったから、とか……?」


姫「それはあり得ませんよ」

姫「もし屋敷を襲った人がいたと報告が上がった場合、国の兵が直接赴くことになります」

姫「そうなると、貴族達にとって害とも呼べるわたくし達に、屋敷に手を付ける絶好の機会を与えてしまうことになる」

姫「そんな報告、私設兵を雇っている以上、するわけが無いんですよ」


傭兵「じゃあ……?」


姫「わたくしの魔法です」


傭兵「え……? でも確か、お姫さまの魔法は……」


姫「……わたくしだって、魔法ぐらい鍛えますよ」

姫「傭兵さまがいなくなってからもずっと、魔力の磨ぎ方を学び続けました」

姫「その結果、傭兵さまも『探索』出来るほどの魔法が、使えるようになったのです」

姫「もし国外に出られていたとしても、見つけられる自信がありますよ」


傭兵「それで……」

傭兵「……でも、それをどうしていきなり?」


姫「分かりませんか?」
















姫「逃げても無駄、ということです」

564: 2013/04/28(日) 00:50:26.12 ID:PXseO4vR0
姫「これは要求ではありません」

姫「脅迫です」

姫「わたくし達は、傭兵さまを制圧できる力がある」

姫「逃げても逃げても追いかけ、捕まえるという術もある」





姫「だから、大人しくついてきて下さいという、そういう脅しなんです」





傭兵「っ……!」


姫「ですのでもし、城に戻ってくるのを拒絶されるというのでしたら……わたくし達は、実力行使に出ます」

姫「傭兵さまを拘束し、連れ戻します」

姫「それだけです」


傭兵「……随分と、手荒くなりましたね」


姫「言ったじゃないですか」















姫「わたくしは、傭兵さまを不幸にしに来た、と」

565: 2013/04/28(日) 00:53:38.76 ID:PXseO4vR0
姫「ただ……わたくしの本心を告げるのなら、傭兵さまには自分から戻ってきて欲しいのですけれど」


傭兵「……拒否しても連れて帰るのに?」


姫「そうですね……出来れば、無理矢理支えるような形は取りたくないですので」


傭兵「支える……?」


姫「昔、傭兵さまは言っておりました。子供を助けるのが大人の役目だと」


傭兵「ああ……」


姫「今もきっとそうなのでしょう。それは分かります」

姫「それが不幸を呼び込む上での言葉だとしても、わたくしは立派だと思います」


傭兵「…………」


姫「ですがそれで、その大人を支えることをしてはいけないということはないはずです」

姫「わたくしは、その支える人になりたい」

姫「まだまだ未熟で半人前ではありますが、守られてばかりの子供ではなくなったのです」

姫「そのためにここまで強くなりました」

姫「それならせめて、支えるぐらいはしたいじゃないですか」

姫「無理矢理に、ではなく。望まれる形で」


傭兵「……………………」

566: 2013/04/28(日) 00:56:17.91 ID:PXseO4vR0
傭兵「……一国の王女に、そこまでのことはさせられませんよ」

傭兵「お姫さま……あなたはその考えを、国民に向けるべきですよ」

傭兵「もう、立派な大人になろうというのなら、尚更です」


姫「わたくしの役目は、ただ表に立ち続けることだけです」

姫「ですから尚のこと、傭兵さまを支え、傭兵さまに支えられたいのです」


傭兵「表に立ち続ける……? それは……どういうことですか?」


姫「……傭兵さま。もしわたくしが第一王女だったとして、既に成人の儀を終えて一年経ち、十六歳になった今、こうして田舎に兵を引き連れてやってこれると思いますか?」


傭兵「それは……」

傭兵「……っ! それじゃあお姫さまは……もしかして……王女じゃ、ない……?」


姫「いえ。わたくしはれっきとした、この国の王女です」

姫「王である父上から生まれた、子供です」

姫「ただ……“第一”ではないだけ」





傭兵「……え?」





姫「わたくしは妹」
















姫「……第二王女なんです」

567: 2013/04/28(日) 00:59:10.95 ID:PXseO4vR0
傭兵「第……二……?」


姫「はい」

姫「わたくしは第一王女の影であり光」

姫「政(まつりごと)を行う姉に代わり、表に立ってあらゆる危険を引き付ける」

姫「暗殺者に狙われるのも、民衆の前に立って顔になるのも。全てがわたくし」



姫「いわば、影武者です」



傭兵「なっ……!」


姫「ですからこうして、わたくし本人が、足を運ぶことも出来たのです」

姫「本当の第一王女ではありませんからね」

姫「まぁ、偽りとはいえ第一王女ですから、お忍びではありますが」

姫「第一王女として表に出る前の最後の我侭、と言うことにして、なんとか」


傭兵「そんな大事なこと……なんで俺にっ!?」

傭兵「その口ぶりだと、外に待機させたままの兵士も――」


姫「はい。わたくしが第一王女だと思っております」


傭兵「――っ」


姫「先程傭兵さまに見せた一瞬の戦いも、本当はしてはいけない約束だったんですけれどね……」

姫「第一王女は武術も魔法もからっきし、という設定でしたから」

姫「まあ、傭兵さまがいなくなってからの三年間、あなたを支えるためにと行っていた特訓で、限界を迎えた設定ですけれど」


傭兵「設定って……いや、それよりもだから、どうして俺に教えたんですっ!」





姫「傭兵さまを、不幸にするためですよ」





傭兵「えっ!?」





姫「傭兵さまは、信頼されることを避けていらっしゃるようでしたから」

568: 2013/04/28(日) 01:01:51.76 ID:PXseO4vR0
姫「まあ、それは当然ですよね……幼馴染を頃すことになってしまったのは、いわば自分が信頼されていたから」

姫「もう同じ目に遭いたくない。同じことをしたく無い」

姫「だから誰にも信頼されたくない」

姫「だからあんなにも、自分を信じさせまいと振舞ってきたのですよね?」


傭兵「っ」


姫「だからわたくしは、傭兵さまを信頼し、国の秘密を打ち明けます」


傭兵「なっ……! それがどうして“だから”につながるんですかっ!!」


姫「傭兵さまを信頼し、その重圧による不幸を与える」

姫「城にいればさらにその不幸が待っている」

姫「そのことを、あなたを連れ去った神官さまにお教えすれば、あなたを城に置いてもらえるかもしれない」

姫「そんな、あなたを傍に置いておきたい、独り善がりな考えですよ」


傭兵「それで無理だったら……無駄に俺に……!」


姫「ええ。国家機密を教えたことになりますね」


傭兵「だったら!」


姫「ですが、お教えしたら傭兵さま、一度は城に戻ってきてくれるのではないですか?」


傭兵「っ!」


姫「……その優しいところが、傭兵さまの良いところです」

姫「何も、責任を感じることなんてないですのに……」

569: 2013/04/28(日) 01:06:15.35 ID:PXseO4vR0
姫「……では、傭兵さまを信頼し、さらに追い詰めるために、これから国家機密を全て、お話ししていきます」


傭兵「……いや、別にいいよ」

傭兵「そこまでされるぐらいなら、もう戻ろうと思うから」


姫「ですが、これだと脅迫みたいじゃないですか」


傭兵「いや、十分脅迫されてるんだけど……」


姫「それにわたくし、本当に傭兵さまのことを信用しておりますので」


傭兵「それも……俺にとっては酷いぐらいの脅迫だから」

傭兵「ここで止めてもらえると助かるんだけど……」


姫「三年間、無断欠勤された報いですよ」

姫「それに、気になりません? 第一王女が誰なのか」


傭兵「俺の会ったこと無い人だろ?」


姫「いえ。わたくしが姉と呼んでいた方ですよ」





傭兵「……………………」





傭兵「…………えっ!? メイドさんっ!?」





姫「はい」

姫「ちなみに女騎士さんは、騎士長であると同時に、姉の専属の護衛も務めている方です」


傭兵「そんな……そんな気配は、微塵も……」


姫「そうですか?」

姫「では逆に聞きますが、姉が召使いの格好をして、その仕事をしているところを見たことはありました?」


傭兵「そういえば……無い……いや、確か魔力も集中力も切れた俺を看病をしてくれていたような……」


姫「あれはかなり特殊でしたよ」

姫「いつもはほとんどの時間、父上の傍にいる姉が、その時だけは傭兵さまの傍にいたのですから」

570: 2013/04/28(日) 01:14:45.45 ID:PXseO4vR0
姫「いつも姉は、父上の公務を手伝っていました。そうすることで、将来国を動かすときのための知識を蓄えていたんです」

姫「その間姉のことは、父の護衛である宮廷魔法使いさんが一緒に守ってくれておりました」

姫「そしてその姉が父の傍にいる時間こそ、女騎士さんが表向きの第一王女であるわたくしを守ってくれていた時間なのです」


傭兵「適度な隙を見せることで敵に仕留める為の計画を練らせると、そういうことですか」


姫「その通りです」

姫「ちなみにこれは、わたくしの提案です」

姫「影武者をすると手を挙げたのも、戦闘兵器の噂をワザと流したのも、ですが」


傭兵「戦闘兵器の噂……そういえばあったな……」

傭兵「あれ……? でもそれって昔話してくれた、魔法を使えることに目を向けさせないためのものと矛盾してません?」


姫「はい。明らかに矛盾しております」

姫「ですが噂話など、色々と飛び交うものではないですか」

姫「それにこの戦闘兵器としての噂が広まれば、周りから恐怖されている姫、となって、女騎士さんが傍にいなくても違和感が少なくなります」

姫「もちろんこれもまた、敵を誘き寄せるために嘘を吐いていたことと、矛盾します」

姫「ですがそうしてあらゆる情報を織り交ぜ・絡ませ・流すことによって、姉が本当の第一王女かも、と別の方向へと目を向け疑うことすらさせないようにしておりました」


傭兵「その中には当然、戦闘が行えないという噂も広げ続けてある……」

傭兵「……でもそれ失敗すれば最悪、お姫さまが魔法を使えることを隠している、ということはバレていたように思うんですが……」


姫「あの時も話しましたが、別に魔法が使えることはバレても良いのです」

姫「バレてはいけないのはあくまで、戦闘用の魔法が使えないということ」

姫「戦闘兵器としての噂があって、魔法を使えることを隠しているのでは、と疑われれば、まず攻撃魔法だろうと繋げるでしょう? 一番の狙いは、実はそれだったのです」


傭兵「なるほど……」

571: 2013/04/28(日) 01:17:22.92 ID:PXseO4vR0
姫「それにしても……嬉しいものですね」


傭兵「?」


姫「傭兵さまが、三年経ってもわたくしの話を覚えていてくれているというのは」


傭兵「っ……! それは――」


姫「ああ、言い訳は止めて下さい。ちょっとこの幸せを噛み締めたままでいたいので」

姫「それに昔も話しましたが、その言い訳をされたところで、わたくしは自分に都合のいいことを信じたままですよ」


傭兵「――っ……そういえば……そんなことも話していましたね……」


姫「はい……」


傭兵「……そういえば、女騎士がメイドさんの専属護衛ということは……お姫さまの副作用が女騎士さんの手で中々解除されていなかったのって……」


姫「はい。暇が中々無かった、というのが本音ですね」

姫「わたくしが人間兵器の噂の元孤立していたので、姉は守れたのですが……そのせいでわたくしに近付く理由も中々作り辛かったのです」

姫「まして、姉の専属護衛を、コッソリと務めていたのですからね」


傭兵「そうか……専属護衛なのがバレたら、メイドさんに何かあるのがすぐに分かるからな……」


姫「そういうことです」

姫「ですから実は城内での女騎士さんの評判、凄く悪いんです」


傭兵「えぇっ!?」


姫「サボって知人の召使いと駄弁ってばかりの給金泥棒」

姫「何も無いところでボーっと外を眺めているサボリ魔」

姫「そんなことを言われてました」

姫「……まあ、実力はあったし、親戚筋なだけではない上に、ちゃんと騎士長としての公務も行っていたので、面と向かっては訴えられなかったそうですが」

姫「本当、迷惑をかけっぱなしでした……宮廷魔法使いさんにもお暇を与えないといけない都合とか、色々と頑張ってくれましたし……」

姫「女騎士さんがいなければ、この方法は取れていなかったでしょう」

572: 2013/04/28(日) 01:20:09.68 ID:PXseO4vR0
姫「それに、わたくしが強くなれることもありませんでした」

姫「わたくしを鍛えるのもコッソリとでないといけませんでしたからね」


傭兵「……大変な役割だったんだな……あんな小柄な体型で……」


姫「そうですね……実は一番楽な役回りは、わたくしですしね」

姫「姉もいずれ、跡継ぎのために隠れて結婚することになる日が来るでしょう」

姫「その時、その結婚相手に国を取り仕切らせないようにするために、必氏に勉強してくれていたのですから」


傭兵「……結婚相手が貴族の差し金で、また国を腐敗させられたらいけないから、か……」


姫「結婚しても政は自分でする」

姫「そのために姉は一人、頑張ってくれていました」

姫「わたくしは、勉強も礼儀作法もそこまで好きではありませんでしたので。今のような役割を引き受けました」


傭兵「……でもそれだって、戦闘訓練を受けたり、毎日命の危険に晒されたりと、大変なことには変わり無いでしょ」

傭兵「お姫さまが日常の一部だと思っているほど溶かし込んでいるだけの話で、それが楽だってことはありませんよ」


姫「……そうでしょうか?」


傭兵「そうですよ」


姫「……でしたら、そんな大変なわたくしを、少しでも助けてくれませんか?」

姫「お願いします」

姫「独り善がりなお願いですが……どうか……」















姫「城に……戻ってきてください」
















傭兵「…………」

573: 2013/04/28(日) 01:28:49.98 ID:PXseO4vR0
~~~~~~

◇ ◇ ◇

 王城
姫の自室

◇ ◇ ◇


姫「予定通り、傭兵さまをお連れ出来ました」


女騎士「っし!」グッ


メイド「……城の内情も、ちゃんと説明しました?」


姫「はい。……あ」


女騎士「ん?」


姫「わたくしが影武者だと知っている人が誰なのかを教えるのを忘れてた……」


女騎士「ま、それぐらいなら良いんじゃない?」

女騎士「たぶん、本人もなんとなく察しがついてるだろ」


メイド「宮廷魔法使いさんは知ってそうですが……さすがに、城に仕えている神官長も、とは気付いていないかもしれませんね……」


女騎士「だったら、後で話せばいい」

女騎士「どうせ今回の作戦に、その件は――っていうか、アイツ自体あんま絡んでこないんだからさ」


姫「……それもそうですね」

574: 2013/04/28(日) 01:32:33.39 ID:PXseO4vR0
女騎士「で、姫さん。ちゃんと置手紙は残してきてくれた?」


姫「もちろん。家も傭兵さまに聞いて、ちゃんと置いてきましたよ。ここに連れ戻すと言う内容のものを」

姫「すぐに出発したとして、おそらく本日の真夜中には来るかと」


女騎士「本来なら、すぐに来てくれるとは限らないが……」


メイド「相手が相手ですし、来てくれると見て作戦を立てておくべきでしょう」


姫「その辺、女騎士さんはどう?」


女騎士「任せてくれ」

女騎士「兵にも指示を出してある」

女騎士「一人の賊が忍び込んだら、ちゃんと訓練場に誘導してもらえるようになってある」


メイド「……どうやって誘導するつもりですか?」


女騎士「小隊を組んで見回りをしているフリをさせる」

女騎士「さすがに、五人ほどが固まっているのを相手取ろうとは思わないだろう」

女騎士「正面入口以外は『結界』の威力を高めてもらうようにしているし、魔法を使える補助の兵も渡しておくつもりだ」

女騎士「だから後はルート通りに移動させることが出来れば……」


メイド「それなら……大丈夫そうですね」


女騎士「ああ」

女騎士「そして訓練場で……このボクが、傭兵を連れ出したアイツの相手をしてやる」

583: 2013/04/29(月) 00:50:37.03 ID:LQztpkmP0
~~~~~~

 静かな……夜の空気の中を割く声。

 侵入者がやってきたことを知らせる兵の声。


 ボクは立ち上がり、傍に置いてあった剣を手に取り、腰に差す。


 ついに……時が来た。


 約三年前……自分を頃した相手との再戦。


 ……あれから、特別なことをしてきたつもりは無い。

 今まで通りの訓練を、今まで通りこなしていただけ。

 強さはあの頃より変わっていないと思う。


 だからこそ……再戦することに意味がある。


 ……不意打ちで殺されてしまったあの情け無い自分と、決別するために……。


 真正面から戦い、勝ってみせる。


「…………」


 自然、鞘を握る手にも力がこもる。

 ……不自然な力は動きを鈍らせる。

 それを自覚していながらも……力が、入ってしまう。


 ……けれども、例の男が走ってこの訓練場へとやってきたのを見た瞬間……。


 闘いの時の力に、自然と戻っていた。

584: 2013/04/29(月) 00:53:07.84 ID:LQztpkmP0
「ちっ……どうにも誘導されている気がしたが……なるほどな。誘き寄せられたってわけだ」


 抜き身の剣を肩に担ぎながら、男はボクの姿を見据える。


「で……どうも周りの気配が遠ざかってんだが……お前を倒せば仕舞い、ってわけじゃねぇんだろ?」


「いや……ボクを倒せばそれでいい」

「だってそこの中に、お前のゴールがあるんだから」


 そう言って、昔道具を仕舞っていた倉庫――姫さんが魔法の訓練で使っていた場所を顎で示す。


「へぇ~……なんだ? どういうことだ?」

「なんのワナを仕掛けてやがるんだ?」


「ワナなんてものはない」

「あるのはただ、納得のいっていない決着を付けたいという、ボクの我侭だけさ」


「納得のいってない?」


「……そうか……」


 その反応で、分かった。

 アイツは三年前、ボクを不意打ちで頃したことを、覚えていないんだ。

 ……それだけ軽く見られていることに、少なからずのショックが積み重なる。

586: 2013/04/29(月) 00:59:57.72 ID:LQztpkmP0
「……お前は、この城にいる傭兵を連れ戻しに来たんだろ?」


「ああ……」

「……そうか……お前あの時、傭兵の家にまで来て連れ戻そうとしていたヤツの一人か……」


「思い出してもらえて光栄だ」


「あれから三回ほど街か村に移動していたからな。忘れちまってた」


「すぐにこの国から出なかったのは、訪れたボク達が城からの使いと知っていて警戒していたからか?」


「その通り。アイツが城で働いてたのは知ってたからな。となれば、すぐに国を出ようとしたところで、関所に連絡が行っていれば出られないよう足止めされる可能性が大きかったからな」

「だから、大人しく国の中に留まって、年数が過ぎれば出るつもりだった」

「そろそろ忘れられてそうだから出られると思ってたんだがな……まさかこうして、また城に戻ってくることになるとはな」

「そこまでアイツに執着して……何の利益がある?」


「別に、お前はそんなことを聞きたいわけじゃないだろ?」

「ただ傭兵が連れ戻されるほど幸福なのが許されない……そうだろ?」


「はっ……分かってんじゃねぇか」

「それで? 俺に一撃で殺されたお前が、俺に勝てるのか?」


「確かに……このボクが不意打ちをされた。それだけで、お前が相当な実力者なのは裏づけされている」

「だが、それでもお前に、ボクの実力が証明されていないのが、ボクは納得できていない」

「ボクをザコだと思っている評価を上げてもらう」

「そのための戦いだ。これは」


「へっ……だからこその一対一、か」


「そういうことだ」


 そう言ってボクは、剣を抜く。

 身の丈に合っていない、国の正式採用剣・長剣型を。

587: 2013/04/29(月) 01:02:00.84 ID:LQztpkmP0
「勝てばあの空間へと一直線」

「悪い話じゃないだろ?」

「勝負を受ける条件としては上等だと思うけど」


「確かにな……いいだろう。来な」


「負けたときに油断していた……なんて言い訳、通じないよ?」


「油断? するわけねぇだろ。一撃で終わらせてやるよ」


 肩に担いでいた剣を片手に持ち、構える。

 その構えを見たと同時、ボクは一気に間合いを詰めた。

588: 2013/04/29(月) 01:04:44.07 ID:LQztpkmP0
 大振りの振り上げる一撃。

 そのバレバレの攻撃は当然とばかりに躱される。


 がら空きになった腹に向けて斬撃。


 それでこの戦いは終わり。


 ……素人なら、そう思って攻撃してきたことだろう。


 だが相手はその隙を衝いてくることなく、こちらに向けて牽制の素早い攻撃をしてくるだけ。


 その攻撃を、攻撃後の隙を物ともしない動きでボクも躱す。


 両者共に、あえて隙を見せた攻撃を行い、相手を誘い込みながらも、互いにその誘いには乗らず、ただただ牽制の攻撃を繰り返す。


 互いに一撃も当てることが出来ず、全ての攻撃を躱し続けていく。

 刃を刃で受け止めることもせず、避けて躱して攻撃に転じての攻守逆転ばかり。


 ……やはり強い。ここまでボクの動きについてきた人は初めてだ。


 左腕が使えないことは姫さんから聞いている。

 だからこの男の攻撃は全て、右手一本で握られた武器から放たれている。


 評価すべきは、左腕が動かないというハンデを物ともしないその動き方。

 後天的に左腕が動かなくなった人間とは思えないほどの滑らかさだ。

 ……血の滲むような特訓をしてきたのだろう。

 もちろん、持ち前のセンスもあるに違いない。

 もし両腕が使えたとしたら、武器による戦いでは負けていたかもしれない。


 そんなことを考えてしまうほど、相手は強かった。

589: 2013/04/29(月) 01:07:14.60 ID:LQztpkmP0
 ボクの戦い方は、基本大振りによる一撃必殺を主体としている。

 だがこの基本的な大振りは、あくまでオトリ。

 そうしてどうしても生まれる隙を衝いてくる敵を狩り取る。

 それが“本当の”狙いだ。


 ボクは見た目が細く見える。

 だがその中にある筋肉は、女性特有のしなやかさと見えざる太さがある。

 残念なことに、そのせいで小柄なまま成長してしまったとも言える。

 子供の頃から鍛えてきてしまっていたせいで、筋肉による重みで身長が伸びなかった。

 ……ただでさえ母親の遺伝子的に背が低いのが確定したのに、さらに低くなってしまった。


 でも、だからこその戦い方とも言える。

 もし背が高くなれば、姫さんのように特注の武器を作ってもらわなければいけなくなった。

 今の騎士長の立場なら可能だろうが、もし一般兵のままならそれも叶わなかったことを思うと、普通の長剣を持つだけで振り回されているように見えるのはかなり良かった点だ。


 その筋力によって振り回す剣の威力は約七割。

 そして隙を衝いてきた敵の攻撃をあっさりと避けるため、一度剣を手から放し、再び掴んで再び振るう際に十割の力を使う。

 もしそれすら避けられたとしても、武器を手放し逃げればいい。


 振り回した武器を離す反射神経と筋力。

 再び掴む握力としなやかさ。


 その二つがあってこそ、この戦い方は出来るのだ。

590: 2013/04/29(月) 01:09:49.06 ID:LQztpkmP0
 だがこのままでは、埒が明かない。

 変化が必要だ。

 ……仕方が無い。

 魔法を使おう。


 ダンッ! と足を踏み鳴らす


 手を地面へと着けない分、簡単なものしか使えないが……この互角の状況なら、その小さな変化でも十分だ。


「っ!」


 魔法を使われたことを悟り男は足元を警戒する。

 なるほど。さすが傭兵と一緒に勇者候補者をしていただけのことはある。

 その読みは当たりだ。


 ボクがしたことは単純。足元の一部を、広範囲に、バラバラに、あらゆる場所を金属へと変えただけだ。


 それに何の意味があるのかと問われれば、ほとんど意味は無い。

 ただ踏み込んだ際に違和感が生まれてしまうだけだ。


 しかしこの所々の変化によって何かがあるかもと敵は警戒しなければいけない。

 そこの隙を衝いて、少しでも傷を付けられれば、それでいい。

 そこから先は、段々と差は広がっていく一方だ。


 互角な戦いは、ほんの少しの行動で崩れる。

 崩れた先は、ただただ滑り落ちていくだけ。


 その証拠に男の左肩を浅く斬ってからは……こちらにとって有利な状況が続いた。

 段々と相手が完璧に避けられなくなってきて……右腕に、脚に、腹に、頬に、胸に……浅いながらも傷を増やしていく。

591: 2013/04/29(月) 01:12:20.93 ID:LQztpkmP0
「くっ……!」


 このままだと負けてしまうと悟ったのだろう。

 相手は飛び退いてボクと距離を置く


 だがせっかく掴んだ流れだ。そう安々とは手放さない。

 こちらもすぐに距離を詰め――


 ――ようとするボクの行動を読んでか、剣を地面に突き刺して手を天へと掲げ、その場で足を踏み鳴らした。


 魔法を使われる……!

 このまま距離を詰めるのは危険と判断して、足を止めてこちらも距離を取る。


 せっかく掴んだ流れが、相手に掴まれてしまった……だがここで相手の魔法を避けることが出来れば、さらに強く、勝負の流れを掴むことができる。


 ……相手の魔法は分からない。

 だが……避けるしかない……!


 ここで避けられないのならどちらにせよ……負けることは決まっている……!


 そう覚悟して、相手を見据える。

 向こうもこちらの意図を理解したのだろう。

 それでも攻撃を止める気配は無い。

 魔法に対して圧倒的な自信がある故だろう。


「…………」


 ……姫さんの話で、腕を振り上げられただけで氏んだって話だったけど……一体……。


 その答えに辿り着くよりも速く、敵が動きを見せた。

 地面に突き刺した剣を抜き、上体を曲げて振り上げる前の体勢を取る。

 全身を身体の中心に丸めるように力を込め……。

 そして……その身体の中心へと集めたバネを解放するかのように、その場で剣を振り上げた――















 ――刹那、ボクの左腕が文字通り、吹き飛んだ。

592: 2013/04/29(月) 01:19:38.29 ID:LQztpkmP0
「っ~~~~~~~~~~~~っっっっっ!!!!!!!!!!」

 上がりそうになった悲鳴を噛み頃す。

 唇を閉ざし必氏に堪える。

 言葉では表せられないほどの激痛を、どんな言葉でも軽々しくなるほどの痛みを、ただただ意識から外すことに集中する。


 何があるのか分からない。

 ただ構えから、刃の直線上に立つのは危険と判断し、横へと跳ぼうとした。

 それが少しだけ遅かった。


 それだけで……左肩から先の片腕全てが、切断された。


 ……相手の属性が、なんとなくだけれど分かった。

 切断された時に耳についた大きな風の音。

 おそらくは『風刃』。

 間違いなく五属性外のものだろう。


 基本五属性ではないものの、数が多い『風』属性の亜種。

 『風』属性は人を傷つける際、ここまでの攻撃力は持てないと聞く。

 そしてこの切断面。吹き出る血と鋭い切れ口は間違いなく、刃で斬られたもの。

 骨と肉がむき出しのソレは、痛いからと残った片腕で押さえるのすら躊躇うほどのものだった。

 ここまでのものとなれば、見えざる刃で腕を切断された、と考えるのが妥当だろう。


 故に『風刃』だと当たりをつけた。


「ぐっ……!」


 足をつき、何とか踏ん張る。

 そう……避け切る事は出来なかったが、一撃で氏ぬことも無かった。

 ならここから、反撃すべきだ。

 血が抜け切って、氏んでしまう……その前に……!


 それに相手も、魔法を放ってから膝をついている。


 ……復活の儀を修得する際、利き腕を犠牲にしたのだと思う、と姫さんから聞いた。

 だが実際は、その体内もほとんどボロボロになっていたのかもしれない。

 大地のエネルギーを通すために魔力で覆っても傷ついてしまうぐらい、その中身は既に……。

593: 2013/04/29(月) 01:22:46.56 ID:LQztpkmP0
 たぶん、魔法を使うのにダメージを受けない身体だったなら、目測よりも武器の射程を長くして、相手を翻弄する戦いをしたのだろう。

 その使い方こそ、あの魔法の正しい使い方だったに違いない。


 それが出来ないのに、ボクをここまで追い詰めるほどの強さ……。


 ……つくづく、その強さに感服する。


 だからこそこちらも、本来出来る自分の戦い方を見せてやりたかった。

 ……負けず嫌いなんだ。ボクは。

 だから……例え五体満足だったとしてもボクには敵わない――最悪互角だったと、思わせてやりたい。


「はああぁぁぁぁぁーーーーー……!」


 気合を入れ、痛みを気合で誤魔化し、イタイイタイと訴える情け無い自分を頃しながら、走り、相手との間合いを詰める。


 武器を手放し空手にし、残った右手を天に掲げ、大地を踏み締める一歩一歩で魔法を発動させていく。


 相手に近付けば近付くほど、相手は追い込まれていく。


 地面から生えてくるように、背中に、左手側に、右手側に、天に、地面に……次々と鉄の板が現れていく。

 そうして相手を閉じ込めてからは、こちらとあちらの一本道を作るように、壁を作り上げていく。


 そう……鉄の板を生み出して、細い路地を作り上げていくような形。



 これでもう……逃げることは敵わない。



 そうして追い詰められながら、フラフラとしながらも何とか抵抗しようとしている男の心臓目掛けて、ボクは最後の踏み込みをする前に生み出した槍を手にし、突き刺――




















 ――さずに、寸でて止めていた。

594: 2013/04/29(月) 01:26:14.63 ID:LQztpkmP0
神官「……なんで、止めたんだ……?」

神官「そのまま一突きすりゃ、俺を殺せただろ?」


女騎士「……お前は、ボクに勝てないと思うか?」


神官「あん?」


女騎士「もし、そんな身体になっていなかったとして、ボクに勝てなかったと……そう思う?」


神官「…………」

神官「……さあ、どうだろうな?」

神官「正直、ここまでのことをされるとな……戦う前の評価は覆った」

神官「少なくとも、いい勝負はしたんじゃねぇの?」

神官「お前だって、手加減してたみたいだし」


神官「こんな走りながら俺を閉じ込めていくことが出来るんなら、いきなり地面から金属の槍を生み出して突き刺すことも出来るんだろ?」

神官「それをされなかっただけで……されてたらどうなってたことか……」


女騎士「ははっ……そっか」

女騎士「その答えを聞けただけで、うん。もう十分」


タンッ

ザバァ…


女騎士「……行って」


神官「は?」


女騎士「お前がボクの評価を改めてくれた」

女騎士「それだけで、十分」


神官「……なに?」

595: 2013/04/29(月) 01:27:43.91 ID:LQztpkmP0
神官「俺を頃して、傭兵を匿うつもりじゃなかったのか?」


女騎士「そんなつもりはないよ」

女騎士「最初に言っただろ? これはボクの我侭だって」

女騎士「ここでお前を頃したら……姫さんのしたいことを、させてあげられなくなる」

女騎士「本当は……こんな負けず嫌いもしないで欲しかったみたいなんだけど……どうしてもやりたくってさ」

女騎士「お前が城に残った時のことも考えて、ね」


神官「俺が……城に残る……?」


女騎士「その辺の疑問は、中で聞いて」

女騎士「姫さんが待ってるから」

596: 2013/04/29(月) 01:29:38.06 ID:LQztpkmP0
ギィ…

ガラガラガラ…


神官「…………」


姫「……よく来てくださいました。神官さま」


神官「……傭兵はいないのか」


姫「ここにはおりません」


神官「ちっ……なら用はねぇな」


姫「少し、お話を聞いていきませんか?」


神官「用はねぇって言ってるだろ」


姫「この城は広いですよ」

姫「もしわたくしの話を全て聞いてくれたのなら、傭兵さまの場所までご案内致します」


神官「しらみつぶしに探せば見つかるだろ」


姫「……今頃、先程戦った女騎士さんが復活している頃でしょうか」


神官「は?」


姫「その傷だらけの身体で、五体満足になった女騎士さんと戦って、勝てますか?」


神官「…………」


姫「次、この城へと来た時は、そう易々と入れることはなくなりますが……それでも構いませんか?」


神官「……………………ちっ」


姫「賢明な判断です」

597: 2013/04/29(月) 01:31:56.99 ID:LQztpkmP0
姫「ですが本当は……こんな脅しみたいな方法、取りたくありませんでしたけれどね」

姫「あなたとは、話し合いで解決できると思っていますので」


神官「はん! おめでたい頭してんな、おい。そうやって脅してなけりゃ今頃、お前の首を刎ねてるかすぐ外に出てアイツを探してるところだぜ」

神官「感謝しろよ? そうやって交渉材料があることをな」


姫「…………」


神官「それで、そのおめでたい頭で話したことってのはなんだ? 聞いてやるよ」


姫「……傭兵さまを、城に置いていて欲しいという話です」


神官「なら却下だ」

神官「俺はアイツの不幸を望んでる」

神官「だからココにはいさせられない」


姫「どうしてですか?」


神官「ココは、アイツにとって幸福が溢れてる」

神官「お前、昔傭兵が借りてた家で俺に殺されたガキだろ?」

神官「三年経っても傭兵を連れて行こうとするほど好いているヤツがいる場所に、アイツを置けねぇ」





姫「……本当に、そうでしょうか?」





神官「あん?」










姫「確かにわたくしは、傭兵さまに対して好意を抱いております」

姫「ですがそれが、本当に幸福なのでしょうか?」










神官「……何が言いたい?」


姫「信頼されている。信用されている。愛されている」

姫「……あなたはそれが、傭兵さまにとって幸福だとおっしゃいます」

姫「ですが、本当にそうでしょうか?」


神官「……なに?」

598: 2013/04/29(月) 01:34:26.49 ID:LQztpkmP0
姫「傭兵さまは昔から、自分が本当に信頼されないように振舞ってきました」

姫「それは確かに、幸福から逃げているように見えるでしょう」

姫「ですが傭兵さまは、信頼されていたからこそ、お仲間を頃すことになってしまったのでしょう?」


神官「…………」


姫「その時のことをお話されたとき、思い出しているだけで辛そうでした」

姫「それだけの辛い出来事があって、本当に信頼されることが幸福だと思われているでしょうか?」

姫「……わたくしはこう思うのです」



姫「自らを不幸に見せるため、というのを盾にして、本当に自分が不幸になることを遠ざけていただけなのでは、と」



神官「……………………」


姫「傭兵さまは、信頼されるという重圧から逃れようとしていたのです」

姫「信頼された結果、幼馴染を失ってしまったのですからね」

姫「当然です」


姫「ですから、本当に傭兵さまの不幸を望むのなら、沢山の人に信頼されなければいけません」

姫「現状の傭兵さまの言動は全て、神官さまを騙し欺き、自分にとって本当に不幸となることを気付かせないようにしているだけに過ぎません」

姫「本当に傭兵さまに与えなければいけない環境は、沢山の人に信頼され、頼まれ事ばかりをされて、一つのミスで信頼を失うかもしれないと言う恐怖の元、何かを行い続けることじゃないですか」

姫「それこそが、傭兵さまにとって一番の不幸な環境です」


姫「あなたの望みは、傭兵さまの不幸ですよね?」

姫「だったら傭兵さまをこの城に置いておくのが、一番だと思いませんか?」

姫「ここにはわたくしも含めて少なく見積もっても三人、彼に全幅の信頼を寄せている人がいます」

姫「あらゆることを頼まれて・苦労して・悩んで・辛そうになる彼を見ることが出来る」

姫「不幸を見たいというのなら、これ以上無い条件ではないですか」

姫「ですから、提案します」










姫「神官さま、あなたもこの城に仕えませんか?」

599: 2013/04/29(月) 01:36:16.36 ID:LQztpkmP0
神官「お前……何を、言ってるんだ……?」


姫「何を? そうですね……スカウト、ですかね」

姫「戦いもこなせ、復活の儀だけとはいえ行える」

姫「これだけの逸材が城にいれば、助かるじゃないですか」

姫「確かに敵対していた人を勧誘するのはおかしいかもしれませんが――」


神官「違う……そうじゃねぇ……それじゃねぇだろ……」


姫「――それではない?」

姫「では、傭兵さまのことでしょうか」


神官「どう考えてもそうだろうが……!」

神官「お前……傭兵のことが好きなんだろっ……?」


姫「はい。大好きです」

姫「ですからこうして、傭兵さまを城に残せるよう、手を打とうとしています」


神官「それがおかしいっつってんだよ!」

神官「好きならそんな……! アイツがさらに不幸になるような提案を――」










姫「あれ? おかしいですね」

姫「神官さまも、傭兵さまを不幸にすることを望んでいるのでしょう?」

姫「それなのにそんな……“本当の傭兵さまの不幸を望んでいない”と仰るのですか?」










神官「――っ!!」

600: 2013/04/29(月) 01:38:43.55 ID:LQztpkmP0
姫「……傭兵さまのことを好きなヤツが、傭兵さまをさらに不幸にするようなことを提案をするのはおかしい……」

姫「そう、言いたいのでしょう? 神官さまは」


神官「…………」


姫「……本当は神官さまも、気付いていらしたのでしょう?」

姫「傭兵さまが“自分のために不幸なフリを続けてくれているだけに過ぎない”と」

姫「そしてあなたも、傭兵さまに本当の辛い目に遭わせたくないから気付いていないフリをしているだけ」

姫「本当は、信頼され始めて、辛くなる傭兵さまから離すために、わたくし達の前から傭兵さまを連れ去ったのでしょう?」


神官「……俺が、そんなお人よしに見えるのか……?」


姫「正直、見えません」

姫「ですが、傭兵さまが大好きだといった方です」

姫「自分の身を犠牲にしてまで、あなたを生かし続けようとした方です」

姫「そんな方が……本当に傭兵さまを不幸にしたいと思えるかと問われると……ちょっとおかしいなと、思っただけです」


神官「…………」


姫「最初、傭兵さまを連れ去られたときは、神官さまのことを酷い人だと思っていました」

姫「ですが、わたくしの大好きな傭兵さまが大好きと言った方が、本当に傭兵さまの不幸のために、こんなことをしたのかと、一年ほど経ってから疑問に思いました」

姫「それまでは本当、酷い人だと思い続けていましたが……」


姫「……たぶん、神官さまも最初はそうだったのでしょう」

姫「本当に、生きる希望を傭兵さまに殺されたときは、傭兵さまを恨んで、傭兵さまの不幸を望んでいたのだと思います」

姫「それが無ければきっと、傭兵さまの言っていた通り、本当に氏んでいたのだと思います」


神官「……………………」

601: 2013/04/29(月) 01:40:13.07 ID:LQztpkmP0
姫「ですがわたくしと一緒で、年数が経って、ふと気付いたのではないですか?」

姫「彼は自分のために不幸のフリを続けてくれている、と」

姫「そして、彼が避けている本当の不幸にも気付いて……今まで救ってもらった恩に報いるためにも、その不幸から遠ざけてやらないと、と」

姫「そう……」


神官「…………んなわけ……ねぇだろうが……」


姫「……お互いがお互いのためを想って行動している」

姫「ですがそれは……本当の、互いのためにはなっていないと、そう思います」

姫「ちゃんとした仲直りをすべきだと……そう、思います」

姫「ですからこれは、提案です」










姫「神官さま、あなたもこの城に仕えませんか?」










姫「そしてこれを……お二人の仲直りのキッカケに、してください」


神官「…………」

602: 2013/04/29(月) 01:41:49.45 ID:LQztpkmP0
神官「……ガキ」

神官「俺と、殴り合いの喧嘩をしよう」


姫「…………えっ?」


神官「殴り合いだ」

神官「武器の使用は禁止。魔法は……この建物の中なら使えないだろう」

神官「ルールはそんなところで、どうだ?」


姫「…………」


神官「お前が勝ったら、お前の条件を呑んでやる」

神官「俺が勝ったら……アイツを連れて行く」

神官「それで、どうだ?」



姫(……ああ、なるほど……)



姫「……いいでしょう。引き受けます」


神官「そうか……分かった」


姫(片腕が使えないのに……勝てるわけないじゃないですか。あなたが)

姫(……素直じゃないですね)

姫(ですが……構いませんよ)

姫(負けて、言うことを聞かされたという形を取らないと、踏ん切りがつかないと言うのなら……引き受けましょう)


神官「それじゃあ……始めるか」


姫「……はいっ」





姫(殴り合いの喧嘩なんて……生まれて初めてですが……勝ってあげましょう)



第四部・終了

603: 2013/04/29(月) 01:43:26.71 ID:LQztpkmP0
エピローグ

◇ ◇ ◇

 牢屋

◇ ◇ ◇


姫「傭兵さま……」


傭兵「ああ、お姫さま」


姫「すいません。犯罪者、という形で連行するしかなくて……」


傭兵「いえ、構いませんよ」

傭兵「それで、どうしました?」


姫「決着が、着きましたよ」


傭兵「……そうですか……」


姫「傭兵さまも神官さまも、この城に残ることになりました」


傭兵「っ! アイツが……!」


姫「えぇ」


傭兵「説得するとだけしか聞いてなかったけど……一体……どうやって……」


姫「ここで傭兵さまを苦しめるという話をしただけです」

姫「それで、納得していただけました」

604: 2013/04/29(月) 01:45:46.75 ID:LQztpkmP0
姫「これで傭兵さまも、遠慮なく城に仕えることになりますね」


傭兵「……そう、ですね……」


姫「……信頼されるのは、怖いですか?」


傭兵「…………」


姫「……大丈夫です。わたくしがちゃんと、支えますから」

姫「ただ……言ってくださいね?」

姫「本当に辛くなった時や……もう、信頼されても苦痛じゃなくなったら……」



姫(神官さまと、仲直りが出来たら……)



傭兵「……お姫さま」


姫「はい?」


傭兵「お姫さまは、どうしてそこまでするんですか?」

傭兵「もう魔法でそこまでのことが出来るようになったんなら、無理に俺を雇う必要も無いでしょう?」

傭兵「俺なんて、お姫さまの足元にも及ばない強さです」

傭兵「隣に立ったところで、守れるほどの人間じゃない」

傭兵「それなのに……――」















姫「好きだからですよ」















傭兵「――……えっ?」


姫「わたくしが傭兵さまのこと、大好きだからです」

姫「ですから、傭兵さまが不幸になることであっても、自分の傍に置きたい」

姫「そう、独り善がりな想いで、ここまでのことをしました」

605: 2013/04/29(月) 01:47:31.88 ID:LQztpkmP0
姫「昔、五日間来てくれなかっただけで、男さまの代わりに傭兵さまのことを好きになったんじゃない、と思って安堵しました」

姫「だからこそ、傭兵さまを連れ出されそうになったとき、神官さまに戦いを挑みました」

姫「ですが、負けてしまって……傭兵さまは、本当に遠くに行ってしまいました」


姫「それから、何週間も塞ぎ込んでしまって……けれどもふと、副作用が一度も訪れていないことに気付きました」

姫「自分はまだ、やっぱり傭兵さまに出会えたことを後悔していないんだなと、その時自覚しました」

姫「そして、思ったのです」

姫「これから必氏に修行をして、魔力も武術も磨き上げ、その過程をずっと続けることが出来たなら、自分は本当に傭兵さまのことが大好きだったんだと証明できるな、と」

姫「苦しい中でも、傭兵さまを取り戻すため、という目標だけで頑張れたのなら……辛い中でも、足掻き続けることが出来たのなら……それは確かな気持ちがあるのだろうと、そう思えました」

姫「もし本当は代わりとして見ていたのなら、そこまでのことは出来ないだろうと、そう……」


姫「……それから三年間、修行して、それまでの挫けそうな全てを、ぶち当たってきた壁を、その全てを傭兵さまのために頑張れて、自分はここまで来れました」

姫「……ですからわたくしは、自信を持って言えます」

姫「恥ずかしいですけれど……自分は、傭兵さまのことが大好きだと、そう……確かに言えるのです」






姫「ですから、もう一度言います」











姫「わたくしは傭兵さまのことが……大好きです」

606: 2013/04/29(月) 01:48:52.41 ID:LQztpkmP0
傭兵「そ……それは……――」


姫「いえ、今すぐ答えを言わなくても構いません」


傭兵「――……えっ……?」


姫「今はただ、辛い出来事を乗り越えることだけを考えてください」

姫「信頼されることの辛さを、克服してください」

姫「この告白だって、そのための試練だと思ってください」





姫「そして……克服してから改めて、考えてください」





姫「それで、構いません」


傭兵「…………」


姫「わたくしの言う“支える”とは、そういうことですから」

姫(それに……わたくしだけ告白して、女騎士さんが何も言っていないままなのは……平等じゃありませんから)

607: 2013/04/29(月) 01:49:52.77 ID:LQztpkmP0
姫「ただ……これだけは、言わせてください」

姫「わたくしはただ、あなたに守ってもらえる――姉を守ると誓った自分を守ってくれる……それが、とてつもなく嬉しかったのだ、と」

姫「だからその気持ちを、あなたにも与えてあげたいのです」

姫「あなたの過去を聞いて、わたくしがその時抱いた気持ちと同じものを、与えたいと思った」



姫「それこそが……あの時言った、支え合いの持論です」



姫「ですから、ちゃんと教えてくださいね?」

姫「不幸でなくなったら」

姫「不幸の中で生きていかないといけない今は、ちゃんと支えますけれど……もう、その必要がなくなったら……」






姫「その手を引っ張って、幸せに連れて行ってあげますからっ」






終わり

610: 2013/04/29(月) 01:53:55.52 ID:LQztpkmP0
というわけで終わりです
中途半端ですか? 曖昧なままですよね
でもしょうがない



そもそもの予定では姫は○されて病んでたんだもの



それを癒していく傭兵の物語の予定だった
だから当初は傭兵と姫はちゃんとくっついたけど…なんかくっつけるところまで書けなかった
というか書いたら不自然かなと思っちゃった


第三部から路線変更したらこうなった
まぁでも満足です

第一部~第二部

第三部~第四部

でやってることが同じだけど気にしない



質問などがあれば明日にでも答えます



それでは本当
約一ヶ月半、こんな駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました

614: 2013/04/29(月) 02:16:21.30 ID:Z0YtlTlqo
おつでした 面白かった
確かにその後のおまけは欲しいかもしれない

615: 2013/04/29(月) 02:37:28.47 ID:yhDEdycXo

616: 2013/04/29(月) 02:57:09.58 ID:HuxIcNNV0
乙。面白かった。

650: 2013/05/01(水) 00:36:01.15 ID:cQrx9v6J0
なんか無駄に期待値高くて困る数レスの後日談投下します
これで本当に終わり

651: 2013/05/01(水) 00:37:46.69 ID:cQrx9v6J0
~~~~~~

 三ヵ月後

~~~~~~



神官「傭兵を楽にしてあげたい」

メイド「……はあ」

652: 2013/05/01(水) 00:41:19.40 ID:cQrx9v6J0
神官「最近、どうも疲れすぎているように見えてな……」

神官「やはり、信頼が重過ぎるように思うんだ……」


メイド「…………」


神官「……なあ、どうしたら良いと思う?」


メイド「……それを私に聞きますか?」


神官「お前だから聞いてんだよ」

神官「書類受け取りに来たついでだし、女騎士には話せないし、あの姫なんてもっと話せない」

神官「となったら、俺が話せる中だと後はお前と神官長と宮廷魔法使いだけだろ?」

神官「だからって宮廷魔法使いは王の護衛で忙しいし……」


メイド「一般兵にも知り合いぐらいいるでしょう?」


神官「嫌味が過ぎるだろオイ……」

神官「こちとら二月で今の立場だぞ」

神官「傭兵とは違って満足に実力を披露したわけでも無いんだ」

神官「どっかの貴族が復活の儀の力を得て調子乗って上の立場に居ついてる」

神官「なんて噂されてるんだからよ」


神官「……貴族を倒してる時だって、割りと前線に立ってても俺のところまで敵がこねぇしな……」

神官「つうかここの兵が真面目過ぎんだよ」

神官「俺のことなんて放っておけばいいのにわざわざ守ってくれやがるから……これじゃあ馬鹿な貴族が自分の実力も知らず無謀に前線に立っていて守るのに苦労するって言われるだけじゃねぇか――」

神官「――って兵への愚痴を言いに来たんじゃねぇんだよっ!!」


メイド「……はぁ……」

653: 2013/05/01(水) 00:43:06.09 ID:cQrx9v6J0
メイド「あのですね、私これでも公務で忙しいんですけれど?」

メイド「今もほら、書類を書いているの、見えません?」


神官「俺の目を見てくれてないのは分かる」


メイド「だったら愚痴に対しての一人突っ込みなんて見せに来ないでください」


神官「そんなつもりはねぇってこっちは!」

神官「割りと真剣にアイツのことを心配して――」


メイド「それなら尚のこと、そんなくだらないことを訊かないで下さい」


神官「――く、くだらないって……」


メイド「くだらないでしょう?」

メイド「だってそんなものは、あなたがさっさと謝って、お礼言って、それで終わることじゃないですか」

655: 2013/05/01(水) 00:45:31.68 ID:cQrx9v6J0
神官「それが出来ないから相談してんだろうがよ~……」


メイド「出来ないことでもしてください」

メイド「私にこれ以上仕事を増やさないで下さい」

メイド「以上、私から神官さまに送れるありがたいアドバイスです」


神官「くっ……!」

神官「……はあ~あ……こりゃもう、城を出て行くしかねぇかなぁ……」


メイド「出て行きます?」


神官「え? いいの?」


メイド「ま、あなたは出て行かないでしょうけれど」

メイド「もし本当に出て行く気なら、私に話をしないでしょう?」


神官「……ごもっともで」


メイド「それに、あなたも分かっているはずですよ」

メイド「これだけ恵まれた仲直りの機会をフイにして、これから先仲直りできる機会なんてないってことぐらい」


神官「…………」

656: 2013/05/01(水) 00:47:32.77 ID:cQrx9v6J0
メイド「よしっ、と」

メイド「終わりましたよ」


神官「……おう」


メイド「……はぁ……そう落ち込まないで下さい」

メイド「傭兵さまのことが心配なのは分かりますけれど、私の妹が彼をしっかりと支えてくれてるでしょう?」

メイド「それでも崩れそうだって不安なら、本当……あなたがどうにかするしかないんですよ?」


神官「……分かってるよ」


メイド「……ま、二人きりになれる機会を作るしかないですね」

メイド「もしくは、下手にかしこまらないように謝るか、ですよ」


神官「下手にかしこまらずに……」


メイド「まずは、気軽にでも良いんです」

メイド「そうするだけで傭兵さまも、きっと安心してくれます」

メイド「それだけで十分、助かるはずですから」

657: 2013/05/01(水) 00:49:26.96 ID:cQrx9v6J0
ガチャ

キィ…


メイド「おまたせしました、女騎士さん」


女騎士「ああ」


神官「…………」


女騎士「……なんだ? なんか書類持って来た時より暗くなってないか?」


メイド「さあ? なんでしょうね」

メイド「それではあの子のところに行きましょう」


…パタン

カツカツカツ…


女騎士「あ、ああ……」


神官「…………」

658: 2013/05/01(水) 00:53:12.13 ID:cQrx9v6J0
女騎士「……おいお前、どうしたんだ?」


神官「……いや、別に」


女騎士「別にじゃないだろ」

女騎士「ボクを追い出してまでメイドさんに相談事を持ち掛けたんだ」

女騎士「何を悩んでるんだ? ボクにも話してみろよ」


神官「……お前に話したら、傭兵の耳にも入るだろ?」

神官「なんのためにお前を追い出したのか考えろよ……」


女騎士「はあ!? せっかくこっちは相談に乗ってやろうと気を――」

女騎士「――って、はは~ん……なるほどなるほど」

女騎士「傭兵絡みのことか」


神官「っ! なんでっ……!」


女騎士「いや、分からない方が難しいっていうか……普通に言ってるようなもんだろ、アレは」

女騎士「お前、今自分が思ってるより冷静じゃないぞ」


神官「くっ……」


女騎士「でも……ああ……なるほど、ね」


神官「……なんだ?」


女騎士「ま、確かにボク達が傭兵に頼っている部分が多いのは確かで、その信頼が重圧になって彼を苦しめてるのも確かだからね」

女騎士「それがイヤなんだろ?」


神官「なっ……!」

659: 2013/05/01(水) 00:59:23.23 ID:cQrx9v6J0
神官「ど、どうしてそれをっ!?」


女騎士「いや、それも考えなくても分かるだろ」

女騎士「お前と傭兵のトラブルなんて今のところ、城に正規雇用される前からズルズルひきずってるものしかないだろ?」

女騎士「それ以外がもしあるってんなら、それはまさしくめでたい出来事だよ」


神官「…………」


…カツン


メイド「ではお二人とも、私は少しあの子と話してきますので」


女騎士「ん? 誤魔化すためにボクも入らなくていいのか?」


メイド「外の警備を任せます。中に傭兵さまもいらっしゃいますし、次は執務室で用事がありますので」

メイド「それを呼びに来た、という形ですし」


女騎士「ああ、なるほど。了解」

女騎士「ま、中は傭兵も姫さんもいるからな。大丈夫か」


メイド「そうですね。おそらくこの城の中で一番の安全地帯でしょうし」

メイド「では」


コンコン


メイド「失礼致します」


ガチャ


メイド「執務室で王がお呼びです。お支度のほどお願いいたします、姫様」


キィ…

…パタン


神官「…………」


女騎士「…………」


神官「……………………で」


女騎士「で?」


神官「どうすれば良いと思う?」

660: 2013/05/01(水) 01:02:03.21 ID:cQrx9v6J0
女騎士「どうすればって……そんなもの、早く仲直りすれば良いだけじゃない」


神官「それが出来たらこんなに悩んでねぇっての……」


女騎士「なに? 謝れないの?」


神官「謝れないだろ……あんなに重く受け止めて、今まで必氏に俺のためにと犠牲になってくれてたんだ……」

神官「そんな軽い言葉だけで許してもらおうなんて、図々しいだろ……」


女騎士「そうかな?」


神官「は?」


女騎士「傭兵なら、許してくれると思うけど」


神官「なんだ? そりゃ」

神官「なんの根拠があって言ってんだ?」


女騎士「根拠……根拠ねぇ……」

女騎士「ま、なんとなく、かな」


神官「なんとなく……」


女騎士「そ。なんとなく」

女騎士「なんとなく傭兵なら、謝るだけでお前のことを許しそうな気がする」

女騎士「だって、幼馴染で、大親友だったんでしょ?」


神官「それは……昔の話だ」


女騎士「傭兵は、そうは思ってないよ。たぶん」


神官「なんとなくの次はたぶんかよ……」

661: 2013/05/01(水) 01:05:23.79 ID:cQrx9v6J0
女騎士「でも、もしお前の言うとおり、傭兵が幼馴染も大親友も昔の関係だって思ってるんなら、お前に付き添ってこの城には勤めてない」

女騎士「アイツだって気付いてるよ」

女騎士「この場が、お前との仲直りの場だってね」


神官「…………」


女騎士「それにさ……謝った後、それっきりって訳でも無いだろうしさ」

女騎士「お前たち二人は、ずっとこの城にいるんだ」

女騎士「だからこの城で、すれ違っていた時間を取り戻せばいい」

女騎士「それがたぶん傭兵にとっても、一番の嬉しい贈り物のはずだよ」


神官「……………………」


女騎士「ま、男らしく酒にでも誘って、その流れで謝ればいいだろ」


神官「……傭兵、酒飲めないんだよ」


女騎士「ああ~……そっか……そういえばそうだったな……」

女騎士「ボクが誘っても全く来てくれなかったし」


神官「だからキッカケがな……」


女騎士「キッカケね……」

女騎士「だったらもう、アレしかない」


神官「アレ?」


女騎士「出てきたら腕でも引っ張って、人気の無いところに無理矢理連れて行け」

662: 2013/05/01(水) 01:09:06.07 ID:cQrx9v6J0
~~~~~~

ガチャ


メイド「お待たせいたしました」


女騎士「で、これからどこに行くの?」


姫「とりあえずは、父上の元へ」

姫「そこでこの貴族の処遇を決めます」

姫「決断されるのでしたら、神官長補佐の神官さまも来てくれますし、その書類も出来ましたので、その辺も大丈夫でしょう」


ガシッ


傭兵「え?」


神官「ちょっと来い」


傭兵「えっ? ちょっ、神官!?」


神官「女騎士! 少し二人のことを頼むっ!」


女騎士「ああ! 頼まれたよっ!!」


傭兵「ちょっ、なんだよ、おい!」


神官「うるせえ! いいから大人しくついてこりゃ良いんだよ!」

663: 2013/05/01(水) 01:11:10.92 ID:cQrx9v6J0
姫「…………」


メイド「……ふぅ~ん……」

メイド「やっと仲直りをする、ということですか……」


姫「もしかして女騎士さん、焚き付けたんですか?」


女騎士「まさか」

女騎士「ただ方法に悩んでたみたいだから、フォローしてやるから無理矢理連れ出せ、って話しただけ」


姫「なるほど……」


メイド「……まぁ、これで傭兵さまも、少し気が楽になると良いのですけれど……」


女騎士「ま、大丈夫でしょ」

664: 2013/05/01(水) 01:14:57.98 ID:cQrx9v6J0
女騎士「にしても、これでようやく傭兵にアプローチ出来るなぁ~……」


姫「えっ!? アレだけのことをしておいて、まだしてないつもりだったんですか!?」


女騎士「いや、してないって」

女騎士「だってまだ結婚すら申し込んで無いし」


姫「ちょっ、ちょっと女騎士さん……!」

姫「それはいくらなんでも話が飛びすぎではないですか……?」


女騎士「いやいや姫さん」

女騎士「あなたこそちょっとノンビリしすぎでしょう」

女騎士「え? もしかしてアレですか?」

女騎士「ちょっと自分専属の護衛に出来たからって、安心に胡坐かいてました?」


姫「わたくしは! 傭兵さまの負担にならぬように配慮していただけです!」


女騎士「ほほ~ん。自分の消極性を傭兵のせいにすると」

女騎士「だからまぁだなんです。本当」


姫「ぐぬぬ……」

姫「この行き遅れが!」


女騎士「はぁっ!? まだ二十一だし! この国の成人の儀がちょっと早すぎるだけだし!」

女騎士「だいたい若けりゃいいってもんじゃ――」


メイド「そこまでです、お二方」

メイド「良いですか? あの二人が今から仲直りしようとも、今手をつけている仕事は勝手に無くなってはくれないんですからね?」

メイド「まずは、これを片付けてください」

メイド「というか、廊下ということを忘れて大声上げ過ぎです」

メイド「もうちょっとレディとしての慎みを――」


女騎士「……神官がフリーだからって他人事みたいに……」


メイド「――あん?」


女騎士「いえ別に」

665: 2013/05/01(水) 01:18:03.48 ID:cQrx9v6J0
姫「でも神官さまって、確実に氏んだ幼馴染のこと好きなままですよね?」


女騎士「あ~、確かに」


姫「アレを超えるのは……大変そうですね」


女騎士「氏んだ人は高いよ、本当」


メイド「……あなた方が何を言っているのか分かりませんね」


女騎士「……そういえば宮廷魔法使いさんが言ってたんですが」

女騎士「メイドさん、神官さまのような人がタイプだと仰っていたとか」


メイド「…………なんのことやら」


姫「あ、わたくしは神官長に聞きました」

姫「氏んでも一途に思ってくれるような人と結婚したいと話していたそうな」


メイド「……………………」


スタスタスタ…


女騎士「あ、無視っ!?」


メイド「これ以上の無駄話に付き合っていられないだけですよ」

メイド「姫様も、王を待たせているのをお忘れですか?」

メイド「早く移動しますよ」

666: 2013/05/01(水) 01:20:18.36 ID:cQrx9v6J0
◇ ◇ ◇

訓練所・倉庫

◇ ◇ ◇


神官「……よしっ、ここなら大丈夫か」


傭兵「……なんだ? こんなところに呼び出して」


神官「あ~……その、だな……」


傭兵「仕事があるんだ……分かるだろ?」


神官「分かるが……まぁ聞けよ」


傭兵「……なんだ?」


神官「その……なんだ……」


神官(くそっ……! 改めると、やっぱり辛い……!)

神官(すっげぇ言い辛い……!)

神官(今まで傭兵を苦しめてたのが分かるだけに……それ以上に――いや、それよりは下だろうけれど、それでも苦しさが、胸の中に広がってきやがる……!)

神官(なんだよ……謝るって、こんなに辛いのかよ……!)

神官(軽くすら……言葉に、できねぇ……!)

神官(ここは誤魔化して一旦……――)

667: 2013/05/01(水) 01:22:10.93 ID:cQrx9v6J0















――だってそんなものは、あなたがさっさと謝って、お礼言って、それで終わることじゃないですか――















神官(――……いや、違う。そうじゃない)

神官(それ“だけ”のことが出来ないで、どうするんだ……俺は……!)

神官(これから先……また……昔みたいに……傭兵と仲良く、なりたかったら……!)






神官(せめてこれぐらい出来ないと、昔みたいにコイツと肩を並べることなんて、出来ねぇじゃねぇか……っ!!)





神官「……傭兵!」


傭兵「……ん?」


神官「……すまなかった」

668: 2013/05/01(水) 01:23:47.74 ID:cQrx9v6J0
――今まで、お前一人に、責任を押し付け過ぎた――



――だから……ありがとう――



――俺を、支えてくれて――



――あの子の願いを、聞いてくれて――



――だからこれからは……俺にも、持たせてくれ――



――あの子がお前に持たせた……その願いを――



――好きなあの子の、お願いを……――

669: 2013/05/01(水) 01:25:55.64 ID:cQrx9v6J0
 ~~~~~~

さらに、三ヵ月後

 ~~~~~~



姫「……傭兵さまと神官さまの二人が、ホ○かと思われるほど仲が良くなってしまった……」



女騎士「どうしたら良いと思うっ!?」



メイド「……さあ」

670: 2013/05/01(水) 01:33:27.92 ID:cQrx9v6J0
姫「さあって!」
女騎士「さあって!」



メイド「仲直り出来たんですから、良いじゃないですか」


女騎士「そうなんだけど……そうなんだけど……!」


姫「ですがさすがに休みを合わせてお二人で出かけられるなんて……!」


女騎士「こりゃもうカップルだよ本当っ!」

女騎士「ボクだって告白したのになんか困った表情浮かべられたままだし!」

女騎士「っていうか姫さんに邪魔されたしっ!」


姫「わたくしだって返事を聞いてなかったんですから当然ですよ!」

姫「何勝手に一人だけ返事もらおうとしてるんですか! 図々しいですよっ!!」


ギャアギャアギャア…!


メイド「……はぁ……」

メイド「騒がしくするなら、せめて私の執務室外でしてくれませんかねぇ……」

メイド「まぁ、王女であるあなたがココいることに違和感は無いのですが……ちょっと五月蝿過ぎますよ」



姫「傭兵さまが神官さまと出かけられて、わたくしはここで女騎士さんに守ってもらわないといけないんですよっ!」


女騎士「ボクだって二人を守るために仕方なくここにいるだけだって!」



メイド「ああ……もう、そうでしたね。すいません」

メイド「ですがせめて、もう少しお静かにお願いします」

メイド(まあおそらく、あの二人は私達に対して、お礼の品でも買いに行ったのでしょうが……)


ギャアギャアギャア…!


メイド(……今お二人に言ったところで、無駄でしょうね……)

メイド(それに、あの二人が今まで一緒の休みが取れないぐらい立て込んでいて、あの仲直りから期間が開いていた以上、気付けという方が難しいですか……)

メイド(進んで前線に立っていてさらに忙しかった二人なら、尚更でしょう)

メイド(というか二人とも、嬉し過ぎてテンションがおかしいんですよ……)

メイド(自分のことのように、二人が仲良くなったのを喜んで……肩を並べて戦ってる姿に喜んで……)

メイド(ですがまあ……悪い気は、しませんね)

メイド(私だってきっと、その姿を見れたら……同じぐらい高揚していたでしょうしね……)


女騎士「だいたい姫さんは――」


姫「それでしたら女騎士だって――」


メイド(それにしても……)

メイド(氏ぬだけの簡単なお仕事……では、無くなってしまいましたね。傭兵さん)

メイド(あなたにはこれからも、まだまだ頑張っていただかないと……ね)

671: 2013/05/01(水) 01:36:19.89 ID:cQrx9v6J0
終わり
「終わり」の一行が入らないぐらい改行しすぎた

急ごしらえだから矛盾出てるかも…まぁ仕方ないよね

ということで今度こそ終わり
傭兵はこのまま三角関係で苦しめばいいよ
この年齢になってやっと青春が遅れてきたと思えばそれで

677: 2013/05/01(水) 03:01:40.75 ID:Utj44hjU0
乙でした!

引用: 傭兵「死ぬだけの簡単なお仕事です……?」