1: 2009/07/20(月) 07:42:32.76 ID:4KUCR4cU0
第一部

真紅「ハッ!?」

翠星石「真紅…この気配は…!」

雛苺「うゆー…」

ジュン「な、なんだどうした?」

ドールたちが殺気立っている。
こんなに目の鋭い翠星石と雛苺を見たのは初めてだ。

真紅「あなたたちも感じるの…このすごくひよこめいた気配を…!」

ジュン「へ?ひよこ?」

翠星石「はい。でも、これは…」

雛苺「数が…多すぎるの…」

ジュン「うーん…なんのことやらさっぱり分からん」

真紅「まったく…いいでしょう。説明してあげるわ」
ローゼンメイデン 愛蔵版 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
3: 2009/07/20(月) 07:44:12.09 ID:4KUCR4cU0
真紅「まず、ひよこってのは…ずばり金糸雀のことよ」

ジュン「最初からそう言えばいいじゃないか…」

翠星石「あだ名みたいなもんですぅ。金糸雀だと鳥の方かひよこの方か分からんのです」

ジュン「そうかなぁ?」

雛苺「ヒナはたまご鳥って呼んだりもするの!」

ジュン「結局鳥じゃないか」

真紅「まあ、ひよこの呼び方なんて何でもいいの。おでこでも不人気でもいいのよ」

一同「んん~?」

真紅「…なによ」

翠星石「ちなみに、水銀燈は白髪、小皺。私は草女。蒼星石は帽子、あるいは野郎と呼ばれていて…」

雛苺「真紅は不人気、あるいは年増、赤だるま、赤ずきん崩れ、パツキン、もみあげがもはやバネ…」

雛苺「…悪女、紅茶臭い、目が青い、前髪もさ、ちっさい、赤、怖がり屋さん、緑ボン…」

雛苺「…ステッキがババくさい、靴がピアノの発表会のヤツみたい、フラッシュバックメイデン…」

ジュン「おい、もうやめてやってくれ!真紅がし…泡吹いちゃってるじゃないか!」

真紅「…」ファー

6: 2009/07/20(月) 07:46:41.87 ID:4KUCR4cU0
しかし雛苺は止まらない。

雛苺「…傲岸不遜、竜頭蛇尾、羊頭狗肉、苦肉の策、五女…などと呼ばれているの!」

ジュン「そのさ…特徴を羅列するのはあだ名としてどうなんだ?もみあげがもはやバネはねーよ…」

ジュン「それに、悪女とかにいたってはもはや単なる悪口じゃないか…」

雛苺「ちなみにヒナは桃、あるいは小桃、Non子、桃代、うにゅー狂いと呼ばれているわ!」

ジュン「小桃は結構かわいいな…それと」

ジュン「翠星石…お前はもれなく、くさおんなと呼ばれているというのか…」

翠星石「さいです!」

ジュン「いいのか?」

翠星石「?結構気に入ってますけど?」

ジュン「うん…それなら言うことはないんだ…」

8: 2009/07/20(月) 07:49:00.44 ID:4KUCR4cU0
真紅が起きない。翠星石が本題を引き継いだ。

翠星石「そして、本題に戻るのですが…」

翠星石「単刀直入に言います。ひよこの気配が強すぎる!です!」

ジュン「気配?」

翠星石「はい。私たちローゼンメイデンは、互いの気配を常に感じています」

翠星石「…細かい説明がめんどくさいです。つまりドラゴンボールにおける気のことです」

ジュン「すっげー分かりやすい」

翠星石「ありがとです。そして、さっき急にひよこの気配がすごく強くなったのです」

雛苺「でも、たまご鳥ひとりが急に強くなったとかではなくて…さっきもちょっと言ったんだけど…」

雛苺「…まるで、たまご鳥の数が急に増えたみたいな、そんな気配なのー…」

ジュン「なるほど…どうも金糸雀が増殖しちまった、そんな感じなんだな?」

翠星石「え?鳥の方ですか、ひよこの方ですか?」

ジュン「…ひよこの方」

雛苺「あー、たまご鳥の方だったの…」

ジュン「(絶対わざとだコイツら…)」

9: 2009/07/20(月) 07:51:35.17 ID:4KUCR4cU0
真紅「こ、これは異常事態なのよ…?」ムクリ

ジュン「真紅!もう大丈夫なのか?し…泡吹いてたぞ?」

真紅「潮は吹いてないわよ!レディに向かってなんてこと…!」

雛苺「そうそう。真紅は何か知らんけど潮レディとも呼ばれているの」

真紅「…」ファー

ジュン「あぁ!またし…泡吹いちゃってるし!」

翠星石「(潮って単語はどっから出てきたんですか…)」

雛苺「えー、そうそう。これは妙に異常事態なの」

ジュン「そうだな、ひよこがそんなに増えちゃあたいへんだ…」

翠星石「いえ、そんなに単純なお話ではないのです」

ジュン「?」

10: 2009/07/20(月) 07:53:07.50 ID:4KUCR4cU0
翠星石「ひよこの増殖…それはパワーバランスの崩壊を意味します」

翠星石「この気配の強さなら、今のひよこ集団は戦力的には…」

雛苺「ざっと100体分、てとこなの…」

ジュン「そうか。どのぐらいの数かではなくて、どのくらいの戦力かが重要なのか」

翠星石「はい。そして薔薇乙女それぞれの戦力比なんですが…一気に言います」

翠星石「契約なしの水銀燈を100とすると、真紅が90、蒼星石が70、私が50…」

雛苺「あの腐れ蜘蛛女が120、ヒナが30、そしてたまご鳥が…」

翠星石&雛苺「75」

ジュン「あいつ、そんなに強いのか!?」

翠星石「そうなんですよ…あのひよこ妙に強いんです…」

雛苺「オールレンジ対応で攻守のバランスも取れていて、結構手ごわいの」

ジュン「蒼星石よりも強いんだな…」

翠星石「蒼星石は単なる見掛け倒し、要するにかませです」

翠星石「まあ、雪華綺晶、水銀燈、真紅までとそれ以外ではちょっと格が違うんですが…」

12: 2009/07/20(月) 07:54:27.43 ID:4KUCR4cU0
翠星石「…それで、個人個人ではなくて集団で比べますと…」

翠星石「我が桜田軍は、私たち3人に同盟者のひよこと蒼星石を加えて315」

翠星石「あとはそれぞれ水銀燈と雪華綺晶が一匹狼で100、120」

ジュン「ほう、こう見るとうちを頂点とした一強二弱なんだな」

雛苺「でも、単独で脅威の戦闘力を持つあの二人には…」

雛苺「私たち諸侯の足並みがよっぽど揃わない限り勝てないの」

ジュン「しょ、諸侯…いや、でも要するに連合軍てことだから間違っちゃいないか…」

翠星石「エースの真紅を要として、私たちが上手く援護しないと完全な勝ちはないのです」

ジュン「よくできた状況だな…誰が勝つかはいまだ分からないという…」

13: 2009/07/20(月) 07:56:25.79 ID:4KUCR4cU0
翠星石「しかしです!今回、何だか知らないけどひよこの数が100倍!」

翠星石「こうなってしまった以上、抑えは効きません!よって、ひよこ集団を仮想敵とみなすとすると…!」

翠星石「ひよこ軍団が7500!対して我が桜田軍はひよこが抜けて240!」

翠星石「その戦力比たるやおよそ30対1!あとのふたりは言うまでもありません!」

ジュン「…結構やばいんじゃないか」

雛苺「そうなのよ。今改めて数字で確認して、ヒナも冷や汗が止まらないの…」

翠星石「圧倒的な武力の出現です…猟銃持った人間一人vs熊三匹くらいの戦力差ですぅ…」

ジュン「お前たちの思い違いという可能性は?」

翠星石「おそらくは、ないです…」

ジュン「まじか…」

14: 2009/07/20(月) 07:58:44.33 ID:4KUCR4cU0
ジュン「しかし状況が分からんと如何ともしがたいな…」

真紅「わ、私が偵察してくるわ…」ムクリ

ジュン「真紅!潮レディ!」

真紅「…」ファー

ジュン「よし。ふたりのどっちが偵察に行く?」

翠星石「私しかいませんね…まぁ、鞄で飛んで見に行くぐらいならなんとかなります」

雛苺「ヒナはもう少し戦況を分析してみるの」

ジュン「気をつけろよ…お前は戦闘向きじゃないんだから」

翠星石「やばくなったらすぐ逃げてきます…それじゃあ、行ってきますです!」パリーン

ジュン「大丈夫かな…」

雛苺「それ、ジュンのぼりー!」ポア

ジュン「わぁー!」モヘ

16: 2009/07/20(月) 08:00:40.76 ID:4KUCR4cU0
翠星石は気配のする方へと慎重に飛んでいった。
そして…。

翠星石「(ここにいましたか…なんて数…!)」

近所の公園。柱の影からそーっと覗く。
やはり100体ほどに金糸雀が増えている。
全員、思い思いに遊具で遊んでいるようだ。

翠星石「(まさに…ひよこの巣…!)」ガクガク

かしらの大合唱である。やかましいことこの上ない。

翠星石「(敵か味方かはまだ分かりませんが…近づくのはまずそうです)」

翠星石「(今は一旦退きます…翠星石単独じゃ手が出ません…)」ススス

17: 2009/07/20(月) 08:02:27.24 ID:4KUCR4cU0
金糸雀37「あー!翠星石かしら!みんな、ひっ捕らえるかしら!」

翠星石「げっ…まずいです!」バッ

翠星石はすぐさま飛び立った。近くにいた5体ほどの金糸雀が追ってきた。
しかし傘で飛んでいるので風に流されてしまい、追撃にはなっていない。

金糸雀×5「かしら~」フワフワ

翠星石「知能が低いのは変わらないようですね…これが分かっただけでも十分な成果です」ピュー

だが、翠星石の震えはなかなか止まらなかった。
本当にあんなに増えていた。どうしよう…。

19: 2009/07/20(月) 08:03:49.08 ID:4KUCR4cU0
翠星石「ただいま…」スタッ

ジュン「おぉ!翠星石、よくぞ無事で帰ってきた!」ギュッ

翠星石「ふぇ…ジュン…///」

ジュン「おっと、ごめん…それで、どうだった?」ワクワク

雛苺「(ジュンがいちばん楽しそうね…)」

翠星石「は、はい。それが…」

ジュン「…やっぱり本当に増えていたのか」

雛苺「公園って…すぐ近くなのよ!」

翠星石「しかも、どうもあれは敵性ですね…一応追われました」

ジュン「やべーな…」

雛苺「いきなり滅亡寸前なの…」

真紅「…」ムクリ

ジュン「おっと真紅、生きてたか」

20: 2009/07/20(月) 08:05:20.71 ID:4KUCR4cU0
真紅「あなたたち…みんなで私を馬鹿にして…うぅ…」グス

ジュン「し、真紅…つい悪ノリしちまって…ほら、こっちおいで」

真紅「うわぁぁぁん!」ギュッ

ジュン「ごめんよ…」ナデナデ

ジュン「(あぁ…泣いてる真紅はなんでこうもかわいいのか!)」

あとのふたりは何コイツ泣いてんのみたいな顔をしていた。

真紅「ありがとう、ジュン…」グス

ジュン「本当に悪かった。ごめん」

真紅「もういいわ。許してあげる」ニコ

ジュン「(あれ?なんか今日の真紅はかわいいな…)」

ジュン「興奮してきたぞ…服を脱げ」

このジュンの悪ふざけでまたぐちゃぐちゃした。
あとの1日中ずっとぐちゃぐちゃしていた。

21: 2009/07/20(月) 08:07:05.00 ID:4KUCR4cU0
一方その頃、水銀燈が蒼星石を奇襲していた。

水銀燈「弱いわ!弱すぎるわよ帽子!」バビバビ

蒼星石「うわぁ!」ムヒ

水銀燈「くっ…何よそのむかつく顔!馬鹿にしてるの!?」

蒼星石「いや、小皺の羽根攻撃がこけおどしなのは良く知ってるからね」

水銀燈「…やっぱそう思う?」

蒼星石「うん。命中精度をもうちょっと上げたほうがいいと思うよ」

水銀燈「そっか…」

蒼星石「今だ!それ!」プッ

水銀燈「きゃあ!何よコレ!」ベチャ

蒼星石「僕がなめてた梅干の種だよ。甘いやつ」

水銀燈「いやあ!汚い!」バッ

水銀燈は、服にペチャリと張り付いた梅干の種をすぐさま投げ捨てた。

金糸雀21「いたいかしらー!」コイン

水&蒼「!?」

22: 2009/07/20(月) 08:08:30.97 ID:4KUCR4cU0
金糸雀78「かしら」ピケ

蒼星石「…ひよこが来た!これで勝つる!」

水銀燈「くっ…これは分が悪いわぁ…」

水&蒼「…?」

よく見ると金糸雀が10人ほどいるように見える。

蒼星石「ねぇ水銀燈…」

水銀燈「うん…何かたくさんいるわね…」

ひよこたちは気が立っているらしい。
尻を振って威嚇してくる。

金糸雀×10「かしら!かしら!」フリフリ

24: 2009/07/20(月) 08:09:38.23 ID:4KUCR4cU0
水銀燈「な、なんかまずそうね…蒼星石…」

蒼星石「一時休戦だ!逃げよう水銀燈!」バッ

金糸雀×10「まてまてかしら~!」フワ

ふたりはすぐさま飛び立った。10人の金糸雀全員が追ってきた。
しかし傘で飛んでいるので風に流されてしまい、追撃にはなっていない。

金糸雀×10「かしら~」フワフワ

水銀燈「ちょっとぉ…なんなのコレ…!?」

蒼星石「とりあえずは撒けたけど…何かが起きているみたいだね…」

25: 2009/07/20(月) 08:11:01.24 ID:4KUCR4cU0
ふたりは水銀燈の教会にひとまず逃げ込んだ。

水銀燈「ふぅ…蒼星石、紅茶飲む?」

蒼星石「あ、お願いします」

水銀燈「…はい、どうぞ」コト

蒼星石「ありがとう…うわ、この紅茶すっごく美味しい!ファンタみたい!」

水銀燈「あら、そう?良かったわ」ニコ

ティータイムは乙女のたしなみ。
ふたりは紅茶をぐびぐび飲み、せんべいをばりばり頬張った。

蒼星石「あぁ、美味しかった…」

水銀燈「それで、さっきのことなんだけど…」

蒼星石「うん。よくわからないけどひよこが増えてるみたいだ」

水銀燈「戦いに夢中で気づかなかったけど、向こうの方に90体分の気配があるわ」

蒼星石「これは…結構危険な情勢だね」

水銀燈「うかつに外も歩けないわ…」

26: 2009/07/20(月) 08:12:59.35 ID:4KUCR4cU0
しばし沈思黙考にふけるふたり。
そして水銀燈が口を開いた。

水銀燈「蒼星石、やっぱり私たちだけじゃどうしようもないわ」

水銀燈「それで、考えてみたんだけど…これしか策が思いつかないのよねぇ…」

水銀燈「イヤだけどここは仕方ない。蒼星石、真紅たちと合流しましょう」

蒼星石「いや…だめだ」

水銀燈「え?な、何で?」

蒼星石「水銀燈、良く考えてごらん。今回のピンチは最大のチャンスなんだ」

水銀燈「チャンス…?」

蒼星石「このまま行けば遅かれ早かれ桜田軍の天下統一は確実だった」

蒼星石「確実だった。でも今は違う」

水銀燈「たまご鳥軍団の出現のせい、ね」

蒼星石「そう、不確定要素だけど、ひよこ軍団の出現により桜田軍の優位は消滅したんだよ」

27: 2009/07/20(月) 08:14:19.34 ID:4KUCR4cU0

蒼星石「この混沌とした状況を利用しない手はない」

蒼星石「もちろんリスクはある。というより、かなり分の悪い賭けだ」

蒼星石「ひよこ軍団の武力はおそらく圧倒的。正面からぶつかっては手も足もでないだろう」

蒼星石「しかし、いくら数が増えても所詮ひよこはひよこなんだ。君もさっきも見ただろう?あの頭の弱さを」

水銀燈「たまご鳥、知力18って感じだからねぇ…」

蒼星石「そう。馬鹿のままなんだ。強大だけど御しやすい勢力。それがあのひよこ軍団なんだ」

蒼星石「それで、まずひよこを上手く利用して桜田軍にぶつける」

蒼星石「そして桜田軍壊滅後、自衛隊なり米軍第七艦隊なりをひよこ軍団にぶつける」

蒼星石「そうすれば、ほら、最後に立っているのは僕らだけ、ってわけさ」

水銀燈「なるほどね…たまご鳥のおかげで、ほぼ決まりかけていた状況が…」

水銀燈「…一気に流動化したってわけね」

蒼星石「上手くやれば一気に天下を取れる。僕には現状がそう見えてならないんだよ」

蒼星石「さっきも言ったけど、分の悪い賭けであることは間違いない」

蒼星石「だけど、座して桜田の天下を待つよりましだ。そう思わないかい?」

30: 2009/07/20(月) 08:16:53.53 ID:4KUCR4cU0
水銀燈「でも…肝心のあなたは桜田軍の一員なんじゃないの?」

蒼星石「そうだけどさ…桜田軍は文治主義が過ぎるんだよ。武辺の者である僕には…」

水銀燈「ぬるくてしょうがない」

蒼星石「そう。とりあえず勝ち馬に乗っていただけさ」

蒼星石「だから今の状況は僕にとっては千載一遇のチャンスなんだよ。独立の」

蒼星石「そこでだ。水銀燈…ともに戦ってくれるかい?」

水銀燈「…ふふ。あなたもなかなか救えない野郎ね…」

蒼星石「君こそ。さっきから身体がうずうずしてしょうがないんじゃないのかい?」

水銀燈「その通りよ。所詮、あなたも私も乱世の梟雄なの」

水銀燈「戦乱を望んでいるのよ。ただし、勝てる戦乱を」

蒼星石「…君とは馬が合う気がしてしょうがない」

水銀燈「私もよ。いいわ、手を組みましょう」

蒼星石「ありがたい」

31: 2009/07/20(月) 08:18:38.66 ID:4KUCR4cU0
水銀燈「でも、これだけははっきりさせましょう。天下統一の暁には…」

蒼星石「…君が皇帝。ぼくは元帥で結構だ」

水銀燈「よろしい。ちゃんと分かってるじゃないの」

蒼星石「僕はただ戦争をしたいだけだ。一心不乱の大戦争を」

蒼星石「それに、自分の分ぐらいはわきまえてるつもりさ」

水銀燈「よし。あなたは私のプレーンとして思う存分働きなさい」

蒼星石「分かった。よろしく頼むよ」ニコ

水銀燈「こちらこそ」ニコ

しかし、蒼星石は考えていた。
最後にただひとり立っているのは僕だ。
ブレーンをプレーンとか言ってる馬鹿が僕を御しきれるわけがない。
全てを総取りするのは、この僕だ。

なにはともあれ、馬鹿大隊は結成された。
これで、戦力比は桜田軍:馬鹿大隊:雪華綺晶:ひよこ軍団で170:170:120:7500となった。
数の上ではひよこの圧勝だが、水銀燈が言ったように知力が18しかないため、殆ど動物の集まりに近い。
誰でも天下に手が届く、混迷した情勢である。時代はまたも戦国の様相を呈してきた。

第一部 完

32: 2009/07/20(月) 08:21:04.89 ID:4KUCR4cU0
第二部

ひよこ軍団出現から1日が過ぎた。
ひよこ軍団は未だ明確な軍事行動はとらず、公園で遊び続けている。

翠星石「何もしてこないのが逆に不気味ですねぇ…」

真紅「でも、こちらからうかつに手は出せないわ…」

雛苺「た、大変なの!」

真紅「どうしたの!?」

雛苺「悪い知らせがふたつあるの!」

翠星石「こ、これ以上状況が悪くなるというのですか…」

真紅「…いいわ。雛苺、言ってちょうだい」

雛苺「まず、蒼星石が謀叛!水銀燈と手を組んで馬鹿大隊を結成したわ!」

翠星石「な、なんですとぉ!?」

真紅「…いえ、驚くことではないわ」

34: 2009/07/20(月) 08:22:22.43 ID:4KUCR4cU0
真紅「あの子はいつも何か企んでいる感じがしていたわ。下卑た目つきで」

翠星石「…そういえば昔から腹黒いやつでした、あいつは…」

真紅「不穏分子を抱えたままでひよこ軍団と対峙するのは危険だった」

真紅「戦力低下は痛いけど、今は私たちが一枚岩になれたことを喜ぶべきよ」

翠星石「そう、かもしれませんね…」

雛苺「それに、どうせ正攻法では勝てない以上、知略を尽くすことが今は重要なの」

雛苺「だから帽子程度の戦力は、今となってはさほど重要じゃないわ」

真紅「そうね、それも一理あるわ」

雛苺「そして、あの馬鹿ふたりをいかに上手く利用していくかが今後は大切なのよ」

雛苺「冷静になれば、必ずしも悪い知らせではないかもしれないの」

36: 2009/07/20(月) 08:23:30.60 ID:4KUCR4cU0
翠星石「あなたたちふたりの戦略眼は大したもんですぅ…」

真紅「で?あとひとつは?」

雛苺「…ジュンがひよこ軍団に捕まったわ」

翠&紅「なあああああ!?」

雛苺「いえ、正確には捕まりにいった、というべきかも…」

翠星石「は、はやく詳細を教えるですぅ!」

真紅「な、なにが起きたの!?雛苺、言いなさい!」

雛苺「ヒナ…うにゅーが食べたいな…」ボソリ

真紅「!?」

翠星石「まさかここにきての賂要求とは…!」

37: 2009/07/20(月) 08:24:41.02 ID:4KUCR4cU0
真紅「しょうがないわね…ほら」ヒョイ

翠星石「え…?」

雛苺「わーい、うにゅーなのー!」ムシャムシャ

翠星石「真紅…?今靴から…」

真紅「私の靴は、実は食料保管庫になっているの。知らなかった?」

翠星石「知りませんでしたよ…そんなトンデモ設定…」

真紅「あなたも食べる?」

翠星石「いえ、結構ですぅ…」

雛苺「~♪」ムシャムシャ

翠星石「雛苺…美味しいですか?」

雛苺「うん!ヒナ、うにゅーだーい好き!」

翠星石「そ、そうですか…それは良かったです…」

38: 2009/07/20(月) 08:26:17.01 ID:4KUCR4cU0
真紅「さあ、教えなさい。状況を」

雛苺「分かったの。実は、こういうことなの…」

~1時間前~

ジュン「雛苺」ボソ

雛苺「うゆ?ジュン、どうしたの…」

ジュン「しー。小さい声で頼む」

雛苺「…どうしたの。何か用なの?」

ジュン「僕と一緒に偵察に行こう」

雛苺「ふぇ?ヒナと?」

ジュン「うん。本当はひとりでいきたいんだけど、なんか不安だし…」

ジュン「かと言ってあのふたりはそもそも行かせてくれないだろうし…」

雛苺「…それでヒナに?」

39: 2009/07/20(月) 08:27:19.67 ID:4KUCR4cU0
ジュン「そうなんだ。どうかな、雛苺?」

雛苺「(完全に軍人気取りね…中二が)」

雛苺「うにゅー10個。それが条件よ」

ジュン「よし、分かった。今買ってくるよ」

雛苺「さっさとしてね」

40: 2009/07/20(月) 08:28:16.62 ID:4KUCR4cU0
不氏屋へと向かうジュン。

ジュン「プップップーっと…あ、あれは!?」

ひよこの群れる公園。ここだったのか。

金糸雀たち「かしらかしらー♪」ピヨピヨ

ジュン「(本当にたくさんいるな…)」

でも何故だろう。すごく心が惹かれてしまうのは。

ジュン「(あぁ…あの中に突っ込みたい…そしてもふもふしたい…!)」

ジュンは自分の内なる衝動を抑え切れなかった。

ジュン「や、やあ!金糸雀たち!」

金糸雀56「あっ、ジュンかしら!」

金糸雀27「こっちに来るかしら!カナたちと一緒に遊ぶかしら!」

ジュン「(良かった…人は襲わないみたいだ…)」

42: 2009/07/20(月) 08:29:24.54 ID:4KUCR4cU0
ジュン「あ、あぁ…今行くよ」

金糸雀たち「わーいわーい!よく来てくれたかしらー!」キャイキャイ

ジュン「(…すごくうざいのにすごく癒される…!)」キラキラ

金糸雀3「何して遊ぶかしら!」

ジュン「あ、遊び?そうだなぁ…うーん…」

ジュン「…そうだ!今日は特別にジュン登りをしていいぞ!」

一瞬金糸雀たちの動きが止まる。そして、歓声の嵐。

43: 2009/07/20(月) 08:30:24.46 ID:4KUCR4cU0
金糸雀89「じゃあ早速!ジュン登りかしら~!」ピョン

金糸雀74「あっ、ずるいわ!カナもカナも!」ヨジヨジ

たくさんの金糸雀がジュンをいっせいに登り始める。
ジュンはたまらず仰向けに倒れた。

ジュン「(し、幸せすぎる!なんか柔らかいしいい匂いが…!)」フワフワ

かしらかしらに包まれて、ジュンはただされるがままになった。
特におしりがふわふわしている。顔がおしりとおしりに挟まれたときなど最高に気持ちいい。
ジュンはいつの間にか上半身裸になっていた。素肌ならより柔らかさを感じられる。

断じて変な意味はない。

ジュン「(もうこのまま氏んでもいいや…)」ポケー

栄光のハッピーバードの異名は伊達ではなかった。

46: 2009/07/20(月) 08:32:04.06 ID:4KUCR4cU0
雛苺「…と、いうわけなのよ」ムカムカ

真紅「…」ビキビキ

翠星石「それじゃあ何ですか?ジュンは私たちよりもひよこの尻にまみれている方がいいと?」ヒクヒク

雛苺「そういう意味だと思うわ」ブチブチ

一同「…」プルプル

真紅「…あなたたち!すぐに出撃するわ!目標はもちろん…!」

翠&雛「鳥軍団!」

真紅「そう!あとあのバカメガネも取り返すわ!あれは私たちのものよ!」

翠&雛「おおー!」

真紅「それじゃあ行きましょう!」ダッ

それぞれの戦力が、私ならもっといいことしてあげるのにという思いによって簡単にインフレした。
どいつもこいつも変Oばかりだ。ちなみにそれぞれの戦力は、真紅が700、翠星石が400、雛苺が1200。
しばらくはひよこ軍団とも渡り合えるだろう。桜田軍の出撃である。

ちなみに、この時点で馬鹿大隊は壊滅している。雪華綺晶と戦って敗れたのだ。
局地戦、しかも緒戦でつまずいた上に、雪華綺晶に情けをかけられるというひどい有様だった。
現在ふたりはそれぞれの家で泣いているため、無念の敗退となった。

第二部 完

48: 2009/07/20(月) 08:33:54.95 ID:4KUCR4cU0
第三部~地獄の3104丁目~

真紅「絆パンチ!」ビュン

金糸雀33「ぶべら!」ボベ

翠星石「ノスタルジック・クレセント・プリズム・プラズマ!」ホワ

金糸雀92「はべら!」ボベ

雛苺「スタンドアップ・プレジデント!」マフ

金糸雀64「もぐら!」ボベ

それぞれが思い思いの技で金糸雀たちをやっつける。

翠星石「はぁはぁ…真紅、キリがないです…!」

真紅「くっ…どうやらこれは…!」

どんなに倒しても、100体ちょうどを保つようになっているらしい。
後から後から沸いてくるのだ。とんだアンデッド・バードである。

雛苺「これ以上の交戦は無用よ、真紅!」

翠星石「ぜぇぜぇ…」

特に翠星石が辛そうにしている。全体的に技名が長いためだ。

真紅「ひよこは蹴散らすだけでいいわ!あのメガネ男子を奪還するのよ!」

49: 2009/07/20(月) 08:35:19.90 ID:4KUCR4cU0
しかし、今戦っているのが前衛の50体。
この陣を突破しないと、金糸雀まみれのジュンには到達できない。

真紅「…私が囮になるわ!ふたりはがむしゃらにジュンのところに突っ込んで!」

翠星石「えっ!?で、でも…!」

真紅「私なら大丈夫よ。まだそんなに疲れてないし…突撃役は雛苺が適任だから」

雛苺「…分かったわ。任されたのよ、真紅」

真紅「ええ。お願いするわね、雛苺」ニコ

翠星石「ひ、雛苺!?」

真紅「…いいから早く行って!うかうかしてる余裕はないの!」

真紅「翠星石!ひよこ風情に馬鹿にされてあなたは我慢できるの!?」

翠星石「…!」

真紅「悔しいんでしょ!?ならジュンを取り返してみせなさい!それでようやく私たちは…!」

真紅「…誇りを取り戻せるのだから!」

翠星石「うぅ…真紅ぅ…」グス

50: 2009/07/20(月) 08:36:25.66 ID:4KUCR4cU0
真紅「また後で、会いましょう。泣き虫なお姉さん?」ニコ

翠星石「…絶対に、また会いましょうね真紅!」

翠星石「雛苺!行きますよ!」バッ

雛苺「うん…真紅、後で!」バッ

真紅「ふふ、後で!」

ふたりは群がる金糸雀を突破して、さらに陣の奥深くへと突撃していった。

真紅「私はいい姉妹を持ったものね。優しい姉と信頼してくれる妹」

真紅「でも、ひよこめいた姉はいらないの。しかもこんなにたくさんならなおさら」

金糸雀×50「かしら~、かしら~…」

金糸雀たちは異様な雰囲気を感じ取ったのか、手を止めてこちらを睨んでいる。

真紅「いまの私はあなたたちの10倍は強いわ」

真紅「あなたたちごときに簡単に敗れる私ではないの。分かる?分かんないでしょうね」

金糸雀×50「かしら~!かしら~!」フリフリ

金糸雀たちがいっせいに威嚇行動を始めた。

52: 2009/07/20(月) 08:37:54.16 ID:4KUCR4cU0
真紅「あら、なんのつもり?おしりなんて振ってはしたない…」クスクス

真紅「かかってらっしゃい。引導を渡してあげる」

金糸雀×25「かしら!」ブワッ

真紅「(やはりそう来るのね…)」

金糸雀たちは、半分を近接戦闘、残りを支援に回した。
馬鹿な姉だが、戦闘センスはそれなりに昔からあった。
挑発は失敗に終わったようだ。

真紅「(まずは後衛をつぶすわ!)」ダッ

遠距離からの音波攻撃は厄介だ。先に叩く必要があった。
それに、一度敵の配置を崩せば、復活してきても連携が取りにくくなるという利点もあった。
低い姿勢で走り、迫る金糸雀をいなしつつ後衛へと迫る真紅。

金糸雀×25「攻撃の…」ブワッ

真紅「させないわ!キラー・ウェーブ!」ザザザ

金糸雀×25「か、かしら~?」

真紅の手からなんかの波がほとばしる。
ダメージはほとんどないが、後衛の攻撃態勢は崩れた。
チャンスだ。

53: 2009/07/20(月) 08:39:31.66 ID:4KUCR4cU0
真紅「今よ!ケロッグ・コーン・フレーク!!!」モチ

牛乳とシリアルの濁流。8匹ほどは仕留めた。
これで敵の陣形はズタズタだ。ただ緩慢に真紅を取り囲むのみとなった。

真紅「ふぅ…ここまでは順調ね…」

本当にきついのはここからだ。延々と襲い来るひよこを、捌き続けなければならない。
この50体を引き付けておかないと、姉妹ふたりが自由に動けないのだ。
そしてさらに退路確保の意味合いも兼ねていたため、この小さな点は氏守する必要があった。

金糸雀×50「かしーら!」プンスカ

もう欠けた人数は補充されたらしい。
さらに、そろそろ向こうも本格的に怒り始めたようだ。

金糸雀76「怒ったかしーら!」プンスカ

55: 2009/07/20(月) 08:40:48.45 ID:4KUCR4cU0
真紅「ふふ…怒った、ですって?」」

真紅「なめた口きいてんじゃないわよ。人の主人をたぶらかしておいて…!」

真紅「…今度はこっちから行くわ!」バッ

真紅は自分から突っ込んだ。力の続く限りの機動戦。
敵の力を集中させないためには、これしかない。

真紅「ローズテイル!!」バラ

氏地でひとり気を吐く真紅。
しかしそう長くは保たないだろう。そこは、あのふたりを信用するしかなかった。

56: 2009/07/20(月) 08:42:01.85 ID:4KUCR4cU0
一方、翠星石・雛苺は、金糸雀たちをなぎ払いながら前進していた。

雛苺「ジュン!ジュン!どこなの!?」ガビ

翠星石「ジュン…!ど、どこですか…!」ノセ

ジュンがいない。返事もない。

雛苺「くっ…!」

ここいらが攻勢の限界点だろう。
これ以上進むと戻れなくなる可能性があった。

翠星石「はぁ…!はぁ…!」

雛苺「(翠星石の消耗がひどいの…)」

57: 2009/07/20(月) 08:43:11.03 ID:4KUCR4cU0
翠星石はもともと気が小さく、こういった氏闘には特に向いていないのだった。
それは戦力的にというよりも、むしろ気迫の問題だった。

雛苺「(やはりこれ以上は無理なの…何か策は…!)」

雛苺「…そうだ!翠星石、ふっといツタを出して上から索敵するの!」

雛苺「それであの馬鹿ジュンを見つけ出して!下はヒナが守るから!」

翠星石「わ、分かりましたです…スィドリーム!」バババ

ふっといツタが生えてくる。翠星石はそれに乗って高所へと上がっていった。

58: 2009/07/20(月) 08:44:18.23 ID:4KUCR4cU0
翠星石「(どこですか…ジュン…!)」キョロキョロ

どうも公園内にはいないようだ。もう少し視野を広げて探す翠星石。

翠星石「(いない…いない…な、なんで…!?)」

向こうでは真紅が押され始めている。もうあまり時間がない。
翠星石は祈るような気持ちでひたすら探し続けた。

翠星石「(あれ?あれですか?い、いた…!?)」

見つけた。でも何故あんな遠くにいるのか。
翠星石は混乱する頭をフル回転させた。まさかあの方角は。
まさか。いや、それ以外には考えられない。
答えは簡単に見つかった。

ジュンは、帰宅しているのだ。

翠星石「…はぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?何ですかそれ!?」

翠星石は怒りのあまりふっといツタを直に飛び降りた。

59: 2009/07/20(月) 08:45:56.23 ID:4KUCR4cU0
雛苺「翠星石!どうだったの!?」

雛苺は、金糸雀たちの相手をしながら訪ねた。

翠星石「…あんにゃろー、家に帰っていやがります!!!」

雛苺「…へ?」

翠星石「いま!!ちょうどいま!!帰宅の途についてやがるのです!!」

雛苺「な、なんで!?」

翠星石「知りませんよ!!…とにかく、こうなった以上は!!」

雛苺「そ、そうね!離脱するまでなのよ!!」

60: 2009/07/20(月) 08:47:05.12 ID:4KUCR4cU0
もはやここに居る意味はなくなった。
ふたりは、苦労して突破してきた道を戻り始めた。
当然、新手が配置されている。

翠星石「ざっけんじゃねーです!!どけです!!」バビン

雛苺「(すごいの翠星石…)」

もう長ったるい名前の技など使ってもいない。
翠星石は、単なるキックでどんどん金糸雀を蹴散らしていた。
行きのときよりもよっぽど強くなっている。

翠星石「ひよこが!!邪魔ですどけです!!」ボビン

雛苺「(真紅…!もう少し持ちこたえて!もうすぐ行くわ!)」

61: 2009/07/20(月) 08:48:17.05 ID:4KUCR4cU0
そろそろ限界だ。
もう足は止まってしまった。
あとは力尽きるまで、集中攻撃を集中防御で凌ぐしかない。
数の差が露骨に出始めた。

真紅「シールド・オブ!!」ボワン

金糸雀×50「かしーら!」バイン

弾く。一体一体の攻撃ならどうということはない。
しかし集団の一斉攻撃なのだ。
最大出力でぎりぎり防ぎきれるかどうかというところだった。

62: 2009/07/20(月) 08:49:15.69 ID:4KUCR4cU0
真紅「ひよこも…集まれば牙を剥く…」

また、あの幸せな時間に還れたらいい。
また、あのぬるくてまずい紅茶を皆で飲みたい。
しかし、それはもう叶わないようだ。

真紅「(さようなら…翠星石、雛苺…そして私の愛しい人…)」

50人分の音波攻撃が迫る。真紅は目を閉じた。
そのときだった。

翠星石「おりゃあああ!!」ポムス

真紅「す、翠星石…雛苺…!」

雛苺「もう大丈夫よ!翠星石が覚醒したの!」

たしかにさっきとは打って変わって、積極的に打って出る翠星石。
というか、衝撃波の進行方向をキックで捻じ曲げてすらいた。

真紅「じゅ、ジュンは…?」

雛苺「…その話は後よ!翠星石、殿軍をお願い!ヒナは真紅を守りながら先に脱出するわ!」

翠星石「任せとけですぅ!おっしゃああああ!!」ヌメン

金糸雀86「かすぃーら!!」ボジュ

こうして、3人はなんとか公園を脱出した。
近所の雑木林に逃げ込む。

64: 2009/07/20(月) 08:50:59.13 ID:4KUCR4cU0
雛苺「…もう、大丈夫?」

真紅「えぇ、なんとか…」

真紅は、公園を脱出したと同時に気絶してしまったのだった。

翠星石「とんでもねー氏闘でした…何故3人全員が生き残ってるのかが不思議なほどです…」

真紅「それで…ジュンは…」

翠星石「…そのことについては雛苺、お願いします。翠星石には冷静に語れる自信がないです…」プルプル

雛苺「わかったの。真紅、落ち着いて聞いて。ジュンは…」プルプル

雛苺は訥々と語った。あいつは家に帰ってしまったのさ。
真紅の額に青筋が浮かび始める。

66: 2009/07/20(月) 08:52:42.92 ID:4KUCR4cU0
雛苺「…と、いうわけなの」

真紅「まったく…どこまで私たちをコケにすれば気が済むのかしら…」ピクピク

真紅「ふたりとも…早速行くわよ…」ムクリ

雛苺「真紅!まだ安静にしてないと…」

真紅「いえ…精神衛生のほうが大切よ。今は一刻も早く…」

真紅「…家に帰ること。それが最優先だわ」

翠星石「…本当に大丈夫ですか?真紅…」

真紅「大丈夫よ。それに、あなたたちだってさっきから小刻みに震えてるじゃない」

真紅「あいつをボコりに行きましょう。私たちの名誉のために」ニコ

翠&雛「…うぉおおおおお!!」ウォオ

天高く突き上げられる拳。もう誰も我慢などできない。いや、しない。
3人はもはや夜叉と化した。100m3秒のスピードで街を疾走する。
待っていろ。制裁を加えてやる。でも頭撫でてくれたら許しちゃうかも。
抱きしめてくれたら惚れ直しちゃうかも。

第三部 完

67: 2009/07/20(月) 08:54:14.70 ID:4KUCR4cU0
第四部~北上~

家へと帰る道を大幅に間違えた3人は、南下してしまった。

ジュン「ホッ…」

水銀燈「いえ、まだ油断はならないわ」

ジュン「どういうことだ?」

蒼星石「南下したのなら北上すればいい。つまり、あの3人はいずれ戻ってくるよ」

ジュン「あわ、あわわわわわ」ガクガク

水銀燈「でも大丈夫よ。だって、あなたには私たちが居るわ」

蒼星石「僕らとあの桜田軍の戦力はまったく互角。上手く戦えば勝てる」

ジュン「あ、ありがとうお前たち…」

水銀燈「いいのよ。わが大隊は強きを挫き、弱きを助く。それがモットーだから」ニコ

ジュン「水銀燈…お前はまるで堕天使のようだ!ありがとう、ありがとう…」

水銀燈「ちょ、ちょっとぉ、引っ付かないでよぅ…///」

69: 2009/07/20(月) 08:55:40.11 ID:4KUCR4cU0
蒼星石「よし。遠路はるばる出撃して迎え撃とう」

ジュン「え?打って出るのか?」

蒼星石「うん」

水銀燈「蒼星石は私の頼れるプレーンなのよ。この子の言う事に従っとけば勝てるわ」

ジュン「でも、この家の守りが…」

蒼星石「まず、ここに敵を到達させないために出撃するんだからその心配は無用なんだけど…」

蒼星石「いざとなったら雪華綺晶が助けてくれるかもしれないじゃないか」

ジュン「あっ、そっか」

水銀燈「もう、ジュンったらあわてんぼさんねぇ…えい!」コツン

ジュン「えへへ、叩かれちゃった」

水銀燈「あはは…」

70: 2009/07/20(月) 08:57:07.31 ID:4KUCR4cU0
蒼星石「さて、僕らはそろそろ出陣するよ」

ジュン「もう行くのか…気をつけてな」

水銀燈「ジュン…もしこの戦いに勝ったら…」モジモジ

ジュン「…なんだ」

水銀燈「わ、私と契約して…くれる?」

ジュン「あぁ、いいよ。喜んで」ニコ

水銀燈「やったぁ!」ピョンピョン

ジュン「ふふ、そんなに小躍りするほど嬉しかったのか」

水銀燈「あ…///」

蒼星石「…」

蒼星石「(僕だって…キミのことが…)」

ジュン「ん?どうした蒼星石」ナデナデ

蒼星石「…しばらく、こうしていてくれるかい」

ジュン「ああ。いいぞ」ナデナデ

72: 2009/07/20(月) 08:58:23.69 ID:4KUCR4cU0
こうして、ふたりは北上する桜田軍を撃破すべく出撃した。
しかし、困った問題がひとつ出てきた。

蒼星石「桜田軍がどのルートを通って進撃してくるかなんだけど…」

山陽道と山陰道。どちらで来るかがわからない。

水銀燈「そうね…困ったわぁ…」

蒼星石「あ…四国方面から海路で来ることも有り得るのか…」

水銀燈「いや、何手かに分かれて進撃してくるかもよ…」

蒼星石「…一旦退こう。中国・四国地方は放棄だ」

水銀燈「致し方ないわね…」

蒼星石「かなり押し込まれてしまうことになるけど…今は戦力の集中が肝要だ」

水銀燈「私はあなたを信頼してるわ…全部やりたいようにやりなさい」

蒼星石「水銀燈」

水銀燈「なあに?」

蒼星石「…ありがとう」ボソ

水銀燈「ふふ、いいのよ」

73: 2009/07/20(月) 08:59:59.71 ID:4KUCR4cU0
退却することで、戦力の再結集を狙った馬鹿大隊。
しかし京の都は譲れないとして、和歌山に絶対防衛線を敷いた。

蒼星石「ここは守り通す。なにがあってもだ」

水銀燈「腕が鳴るわぁ…」

しかし一通の電報がふたりを喫驚させた。

水銀燈「どうしたのぉ?」

蒼星石「…これを見てくれ」

水銀燈「なになに…キ、ヨ、ウ、カ、ン、ラ、ク、ス…京、陥落す!?」

蒼星石「やられた…」ギリギリ

水銀燈「ど、どうして?」

蒼星石「桜田軍は僕らの守っていない地域を通過しながら京に到達したんだ…」

水銀燈「くっ…なんて卑怯な…」

蒼星石「彼女らはただ戦争の常道に従っただけだよ…」

水銀燈「でも、正面から戦わないなんて…!」

蒼星石「仕方ないさ。近畿地方は放棄だ。かくなる上は…」

蒼星石「家康公ゆかりの地、静岡で迎え撃つ!」

74: 2009/07/20(月) 09:01:33.97 ID:4KUCR4cU0
ふたりは、昼夜兼行で退却した。
桜田軍がなぜか近畿地方でまごついたこともあり、先に静岡に到達することができた。

水銀燈「蒼星石、この地に戦略的な価値はあるの?」

蒼星石「いや、単なる験担ぎだよ。それに…」

水銀燈「それに?」

蒼星石「う、うなぎが食べたいんだ…」ボソ

水銀燈「へ?」

蒼星石「だから、うなぎが…」

水銀燈「…うなぎ?」

蒼星石「…」コクリ

水銀燈「あらぁ、意外と食いしん坊なのね、蒼星石!」

蒼星石「…///」

水銀燈「ふふふ、照れなくってもいいのに」ニコニコ

76: 2009/07/20(月) 09:02:29.92 ID:4KUCR4cU0
蒼星石「わぁぁ…これがうなぎ…これがうな重!」

水銀燈「おおげさねぇ…」

蒼星石「だって、こんなにてかってるんだよ!?」ジュルリ

水銀燈「はいはい、よだれ垂れちゃってるから早くお食べなさい」ニコニコ

蒼星石「いっただきまー…」

鳴り響く電話のベル。

水銀燈「何かしら?私が出てくるわぁ…」

蒼星石「いや、水銀燈は電話の使い方知らないでしょ。僕が出るよ」

水銀燈「ご、ごめんねぇ…」

蒼星石「はい、蒼星石です…はい、はい…わ、分かりました…」ガチャ

77: 2009/07/20(月) 09:03:51.33 ID:4KUCR4cU0
水銀燈「どうしたの?」

蒼星石「ここを除く中部地方全域が敵の手に落ちたらしい…」

水銀燈「なんですって!?」

蒼星石「敵は…桜田軍は…なんて戦巧者なんだ…クソッ!」ダン

水銀燈「そ、それでもこの地を守り抜くの?」

蒼星石「いや、今はもうここを守る意味は無い…撤退しよう」

水銀燈「じゃあ、とりあえずうなぎ食べちゃいなさいよ」

蒼星石「…今はそんなことしてる余裕はないんだ…このまま出発しよう」

水銀燈「…本当にいいの?」

蒼星石「し、仕方ないじゃないか…だ、だって…」

水銀燈「…ほら、こっちにおいでなさい」

蒼星石「うぅ…水銀燈…」シクシク

水銀燈「うなぎが食べられないのがそんなに悔しいのね…」

78: 2009/07/20(月) 09:05:20.20 ID:4KUCR4cU0
関東地方は、北陸を抜けるルートがあるため守る価値は無い。
ふたりは恐山まで一気に退いた。

蒼星石「僕が狙っていたのはこれなんだ」

水銀燈「どういうこと?」

蒼星石「ここ、本州最北端にくれば、敵はこちらを避けられない」

水銀燈「なるほど、敵に会戦を強制するってわけね!」

蒼星石「そう。水銀燈も兵法ってやつが分かってきたみたいだね」

水銀燈「そ、そうよ!私だってこれぐらい分かるようになったのよ!」

そうこうしているうちに、恐山以南の本州全土が桜田軍の手に落ちた。

蒼星石「これじゃあ不利だな…敵地で戦っているようなものだ」

水銀燈「函館五稜郭あたりが次の拠点としてはいいんじゃないの?」

蒼星石「…水銀燈、キミは本当に成長したね」ニコ

水銀燈「よ、よしてよ…照れるわぁ…」

こうして馬鹿大隊は本州全てを失った。

79: 2009/07/20(月) 09:06:50.69 ID:4KUCR4cU0
しかし、撤退時のゴタゴタで、情報が十分に行き渡らなかった。
そのため、本来の撤退ルートが海路だったのに対し、水銀燈が青函トンネルに行ってしまった。
蒼星石が気づいたときにはもう遅い。蒼星石ひとりを乗せたフェリーは出発してしまっていた。

蒼星石「(まずい…まずいぞ…ここに来て大隊が分断されてしまった…!)」

蒼星石「(北海道についてから、トンネルに戻ろう…それまで無事でいてくれ水銀燈…!)」

しかし、桜田軍がこの齟齬を見逃すはずが無かった。
まず、全戦力を以って水銀燈を敗走させた。
そして、そこにのこのことやって来た蒼星石を返す刀で撃破した。
まさに各個撃破である。惨憺たる敗北であった。

わずかな情報の食い違い。
しかし、そのほんの少しの差で馬鹿大隊は全滅した。

第四部 完

80: 2009/07/20(月) 09:08:19.55 ID:4KUCR4cU0
最終部~キミにまた、遭える~

雛苺「ただいまなのー!」

ジュン「おっ!お帰り!」

雛苺「ジュン登り!」ピョイン

ジュン「ふふ、久し振りの登り心地はどうだ!」

雛苺「最高なの~!」

ジュン「あはは…!?」

翠星石「雛苺…ちょっとぐらい荷物持ちましょうよ…」ゼェゼェ

真紅「ふぅ…あら、ジュン」

ジュン「お帰り」ニコニコ

翠星石「ただいまですぅ!」ニコニコ

真紅「…ただいま」ニコ

久し振りに合う面々。和やかな時間が流れる。

81: 2009/07/20(月) 09:09:48.80 ID:4KUCR4cU0
ジュン「そういえばお前たち…ちょっと背が伸びたんじゃないのか?」

雛苺「えっ!?ほんと!?」

翠星石「そんなはずはねーのですが…真紅、ちょっと背比べしてみましょうよ」

真紅「えぇ、いいわよ」

雛苺「ヒナもヒナもー!」

久方ぶりに流れる空気。あぁ、この空気だよ。
やっぱり、こいつらがいなきゃ楽しくないな。
ジュンはどうしても笑顔がこぼれて仕方が無かった。

そして、背のほうは全員20センチちょうどずつ伸びていたのだ。
しかし、背比べをしてもお互いの差はちっとも変わっていない。みんな同じ長さ伸びたのだから。
ジュンはこれのせいでペテン師呼ばわりをされた。

82: 2009/07/20(月) 09:11:17.85 ID:4KUCR4cU0
ジュン「でもさ、お前ら…ずっと一緒に行動してたんだろ?」

真紅「そうよ?」

ジュン「真紅は焼けたのにあとのふたりはそうでもないんだな…」

真紅「そうなの…私肌が弱くてすぐ黒くなっちゃうのよ…」

ちょうど良く焼けた肌。金髪があいまってとてもエキゾチックな雰囲気だ。

ジュン「なんというか…真紅はセクシーになったな」ナデナデ

真紅「あら、ありがとう」ニコ

翠星石「はい!翠星石はどうですか?」ヒョコ

ジュン「お前は…」

翠星石は、どっちかというと寒いほうの影響を受けたのか、肌が逆に白くなっている。
より清楚さが増し、どことなく大人びて見えた。

ジュン「ますます可憐になったというか、お嬢様みたいな上品さが備わってきたな」

翠星石「わーい!ジュンに褒められたですぅ!」

ジュン「よしよし。ご褒美に頭を撫でてあげよう」ナデナデ

翠星石「えへへ…」ニコニコ

84: 2009/07/20(月) 09:12:28.99 ID:4KUCR4cU0
雛苺「はーい!ヒナはどうですか!」ピョコ

ジュン「…」

足だけが20センチも伸びたらしい。変な体型になってしまっている。

ジュン「お前は…」

ジュン「…長くなった」

雛苺「長くなった?どーゆー意味?」

翠星石「長くなったということはいいってことです!」

雛苺「わーい!ありがとなの!」

ジュン「おぉ!」

雛苺「…あれ?頭撫でてくれないの?」

ジュン「…」

雛苺「…」

翠星石「…」

真紅「…」

85: 2009/07/20(月) 09:13:39.54 ID:4KUCR4cU0
その後、3人は思い出話をたくさんしてくれた。
馬鹿大隊が次々と退いて行くので、罠を警戒して近畿で一度進撃を止めたこと。
馬鹿大隊が全然兵法を心得ていないということ。
馬鹿大隊の些細なミスを見逃さず、勝ちを掴んだこと。
馬鹿大隊はただの馬鹿だということ、などなど。

ジュンは、その全てをしっかりと聞いてやった。

翠星石「それでですね…」

ジュン「…今日はもう遅いぞ。そろそろ寝なさい」ニコ

翠星石「…そうですね」

雛苺「はーい…」

真紅「それじゃあおやすみなさい、ジュン…」

ジュン「あぁ、おやすみ」

翠星石と真紅とは一緒に寝たいぐらいだった。

91: 2009/07/20(月) 09:25:19.00 ID:4KUCR4cU0
寝る前にわけも無く、窓から顔を出して月を眺める。

ジュン「あいつら、成長したな…」

本州戦役を経て、本当に成長した。
雛苺があまつさえという言葉を使ったときは本当にびっくりした。

ジュン「今夜は…」

よく見たら月が出ていない。ジュンは空に向かってツバを吐き掛けた。

ジュン「うわ…」ベチャ

しかし、これが娘の成長を見守る父親の気持ちなのだろうか。
嬉しいが、なぜかとてもさびしい。

ジュン「別に、娘でもないのになあ…」

14にて何かを悟ってしまいそうになり、あわてて首を振るジュン。
首を振りすぎて、近くにあった花瓶をぶち割った。

ジュン「血が…」

滴る血液。ジュンはその全てを舐めとって綺麗にした。

93: 2009/07/20(月) 09:31:37.60 ID:4KUCR4cU0
ジュン「でも…」

時々でいいから、いなくなった奴らのことを思い出してやりたい。
しかし、もう忘れてしまいそうだ。今日寝たら間違いなく忘れる。

ジュン「いや…」

いなくなったわけではなく、存在が曖昧になっただけだ。
ならば、わざわざ覚えておくこともないか。
だって、この世のどこかにはいるのだから。

そのとき、突風が吹いた。メガネが飛ばされた。
腹いせにパソコンのディスプレイをコナゴナにしてやった。

ジュン「血が…」

滴る血液。ジュンはその全てを舐めとって綺麗にした。

95: 2009/07/20(月) 09:34:59.52 ID:4KUCR4cU0
ジュン「あぁ…」

もうイヤだ。寝よう。布団に入るジュン。

ジュン「…」

血液が足りない。
睡眠というより昏睡に近い。
それでもジュンは大丈夫なのだ。若いから。

街を吹きぬける風は暴風雨によるものだ。
それでも、雨は塵などを洗い流してくれる。
明日になればいい天気になるだろう。
しかし、明日が台風本番なのだ。明日のちびっ子涙相撲大会は中止だろう。
いや、そうはならない。なぜなら、屋内で決行するのだから。

ジュンは、色々思っていた。
そして願わくば明日雛苺の足の長さが戻っていますように。
そんなことを考えていたけどそれは意識の混濁というか、本当はただ気絶していただけなのだった。


96: 2009/07/20(月) 09:38:08.90 ID:4KUCR4cU0
支援してくださった皆様。拙文を読んでくださった皆様。
氏ぬほど感謝しています。どうもありがとうございます。
初投下SSですが実は7作目にして最新作です。書き溜めました。
ということで、このまま次のを投下させていただきます。
よろしければお付き合いください。



引用: 真紅「ハッ!?」