204: 2009/07/20(月) 13:01:02.67 ID:4KUCR4cU0


桜田家。
夏休み。

翠星石「ジュン、起きてください…」ユサユサ

ジュン「zzz…」

翠星石「ジュン、起きて…」ユサユサ

ジュン「ふが?…おぉ、翠星石…今何時?」

翠星石「9時ですよ」

ジュン「9時か…よし、起きるか…」ムクリ

朝だというのに蒸し暑い。

翠星石「朝ごはんができてますよ?」

ジュン「あぁ、分かった…先行っててくれ」

翠星石「…」ジー

ジュン「はいはい、抱っこね…ほれ」ヒョイ

翠星石「♪」
ローゼンメイデン 愛蔵版 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
207: 2009/07/20(月) 13:05:45.72 ID:4KUCR4cU0
リビングへと降りていくふたり。

のり「おはよう、ジュン君」

ジュン「おはよう…ふぁぁ…」

真紅「おはよう」

雛苺「おはようなのよ、ジュン!」

ふたりは先に朝食を始めていた。

ジュン「あぁ、おはよう…翠星石、そろそろ降ろすぞ」

名残惜しそうな顔の翠星石を降ろし、席に着く。

ジュン「いただきます」

適当に喋りながら朝食を済ませる。

のり「おいしい?」

ジュン「うん、おいしいよ」

のり「よかった」ニコニコ

208: 2009/07/20(月) 13:10:35.57 ID:4KUCR4cU0
ジュン「ごちそうさま」

のり「ねぇ、ジュン君?」

ジュン「ん?」

のり「お姉ちゃんね、そろそろアレをやろうと思うんだけど」

ジュン「あぁ、もうやっちゃうの?」

真紅「…何の話?」

ジュン「あぁ、お前らは知らないんだっけか…」

ジュン「実は姉ちゃんは毎年、部屋にこもって一気に夏休みの宿題をやっつけるんだ」

ジュン「そりゃあもう、飲まず食わずでちぎっては投げの大奮闘!」

ジュン「でも、宿題の多い少ないに関わらず、なぜか必ず48時間きっかりかかってしまうんだよ」

ジュン「だから僕はこれを姉部屋ごもりと呼んでるんだけど…今年はなんか早くないか?」

のり「うん、今年の夏は気兼ねなく遊び呆けようと思ってるの」

ジュン「ふーん、そう…と、いうわけだ」

真紅「な、なんだか良く分からなかったけど…」

のり「じゃあ、後はよろしくね?ジュン君」

209: 2009/07/20(月) 13:11:40.40 ID:4KUCR4cU0
ジュン「ごちそうさま」

のり「ねぇ、ジュン君?」

ジュン「ん?」

のり「お姉ちゃんね、そろそろアレをやろうと思うんだけど」

ジュン「あぁ、もうやっちゃうの?」

真紅「…何の話?」

ジュン「あぁ、お前らは知らないんだっけか…」

ジュン「実は姉ちゃんは毎年、部屋にこもって一気に夏休みの宿題をやっつけるんだ」

ジュン「そりゃあもう、飲まず食わずでちぎっては投げの大奮闘!」

ジュン「でも、宿題の多い少ないに関わらず、なぜか必ず48時間きっかりかかってしまうんだよ」

ジュン「だから僕はこれを姉部屋ごもりと呼んでるんだけど…今年はなんか早くないか?」

のり「うん、今年の夏は気兼ねなく遊び呆けようと思ってるの」

ジュン「ふーん、そう…と、いうわけだ」

真紅「な、なんだか良く分からなかったけど…」

のり「じゃあ、後はよろしくね?ジュン君」

213: 2009/07/20(月) 13:17:55.28 ID:4KUCR4cU0
翠星石「行っちまいましたね…」

ジュン「まぁ、飯は出前で事足りるから何とかなるさ」

翠星石「そうですね…ハッ!?この気配は!?」

ジュン「え?」

蒼星石「やあ」

翠星石「蒼星石!もう大丈夫なんですか?」

蒼星石「うん、なんとかね」

ジュン「ん?どうかしてたのか?」

蒼星石「それがね…」

214: 2009/07/20(月) 13:20:07.33 ID:4KUCR4cU0
ジュン「鼻にせんべいをつめたのか…」

蒼星石「そうなんだよ…つい…」

翠星石「お前は昔からそういうところがあったです…意味のない暴挙に時々出てしまう」

蒼星石「まあ、こういう性分に生まれてしまったんだからしょうがないよ。配られたカードで勝負するしかないのさ」

ジュン「おっ、スヌーピーだな」

蒼星石「スヌーピーなんだよ」

翠星石「スヌーピーですか…おーい、真紅」

真紅「なあに?…あら蒼星石、いらっしゃい」

蒼星石「真紅、スヌーピーは好きかい?」

真紅「スムーピー?」

蒼星石「スヌーピー。君の大好きな二足歩行の犬だよ」

真紅「それはいいわね。スムーピーね…今度チェックしてみるわ」

蒼星石「そうしなよ」

215: 2009/07/20(月) 13:28:41.62 ID:4KUCR4cU0
翠星石「ハッ!?この気配は!?」

ジュン「え?」

金糸雀「かしら」

翠星石「金糸雀!もう大丈夫なんですか?」

金糸雀「えぇ、なんとかね…」

ジュン「んん?お前もどうかしてたのか?」

金糸雀「それがね…」

216: 2009/07/20(月) 13:38:20.08 ID:4KUCR4cU0
ジュン「ひよこ饅頭になってたのか…」

金糸雀「そうなのよ…つい…」

翠星石「お前はいつもそうでしたよね…なにかとひよこめいてしまう」

金糸雀「まあ、こういう性分に生まれついた以上は仕方ないかしら」

ジュン「おっ、スヌーピーだな」

金糸雀「スヌーピーかしら」

翠星石「スヌーピーですか…おーい、真紅」

真紅「なあに?…あら金糸雀、いらっしゃい」

金糸雀「真紅、スヌーピーは好きかしら?」

真紅「スナフキン?」

ジュン「おっ、ムー民だな」

金糸雀「ムー民はなんかカバみたいな素敵な生物かしら。それに、あなたの大好きな二足歩行なのよ」

真紅「それはいいわね。スナフキンね…今度チェックしてみるわ」

金糸雀「それがいいかしら」

219: 2009/07/20(月) 14:00:24.57 ID:4KUCR4cU0
ジュン「もぐらだったのか…」

水銀燈「そんなこと一言も言ってないんだけど…」

翠星石「お前はいつももぐらでしたよね…」

水銀燈「そ、そうだったっけ…?」

ジュン「おっ、スヌーピーだな」

水銀燈「スヌーピーなの?何が?」

蒼星石「スヌーピーなんだね」

金糸雀「スヌーピーかしら」

翠星石「スヌーピーですか…おーい、真紅」

真紅「何かしら…あら水銀燈、来てたのね。いらっしゃい」

水銀燈「お、おはよう…」

真紅「…」

ジュン「…」

水銀燈「(すごい睨んでくる…なんか怖いんだけど…)」

水銀燈が嫌な汗をかくなか、ただ雛苺ひとりだけが我関せずという風でお絵かきをしていた。

221: 2009/07/20(月) 14:06:25.64 ID:4KUCR4cU0
急に賑やかになる桜田家。水銀燈と真紅はプロレス、いや女子プロレスをしている。
金糸雀と蒼星石と雛苺はモノポリーに興じている。

ジュン「こいつら、さては昼飯をたかる気だな…」

翠星石「昔から姉妹たちの食への嗅覚…食覚はすごかったですもん」

ジュン「今日はピザでも取ろうと思うんだけど…いつもより多めに注文しないとな」

翠星石「そこでジュン、ひとつ提案があるんですけど…耳を貸してください」

翠星石「実は…」ゴニョゴニョ

ジュン「…そりゃあいい!翠星石、是非やってくれ!僕も協力するから!」

翠星石「よし!じゃあ食事のときに決行です!」

ジュン「こりゃあ面白くなるぞ…」ニヤリ

翠星石「きっと、大騒ぎですぅ…」ニンマリ

ジュン&翠星石「あははははは!」ヌワッ

水銀燈「うわぁ…何なのかしら一体…」

真紅「隙あり!」ゴバン

水銀燈「うぐぅ!…よくもやってくれたわね!それ!」ゴイン

ふたりはゼロ距離でのエルボー合戦を延々と繰り広げている。

222: 2009/07/20(月) 14:14:32.33 ID:4KUCR4cU0

インターホンが鳴る。

ジュン「おっ、お昼が来たみたいだな」

翠星石「じゃあ私は今のうちに準備しときます…」ニヤリ

ジュン「あぁ、頼んだぞ…」ニヤリン

翠星石は皆に感づかれないようにキッチンへと移動した。

雛苺「あっ、おひるごはん!今日はなあに?」

蒼星石「ちょ…逃げる気かい雛苺!」

ジュン「今日のは…なんと、麺類だぞ!」

雛苺「担担麺なの!?」

ジュン「いや、ジャージャー麺だ!」

雛苺「うわーい、やったなのー!」

ジュン「お前らの分もあるから、睨むのはやめなさい」

金糸雀「…私たちの絆は揺るぎなかったかしら!」

水銀燈「遠慮はしないからね?」ジュルリ

ジュン「(フン…そう言ってられるのも今のうちだぞ…!)」

223: 2009/07/20(月) 14:18:09.68 ID:4KUCR4cU0
ジュン「よし、みんな席に着いたな」

真紅「あれ?そういえば翠星石は?」

そのとき。キッチンからけたたましい破裂音が。

ジュン「なんだなんだ!?みんな、ついてこい!」

皆でキッチンへと駆けつける。
そして、その光景を見て息を呑む一同。

蒼星石「翠星石…あれほどダメだといったのに!」

翠星石「へへ…また、やっちまったですぅ…」

翠星石は、またもレンジでゆでたまごを作ろうとしてしまったらしい。
あたりにはたまごの破片が飛び散っている。


224: 2009/07/20(月) 14:23:44.20 ID:4KUCR4cU0
蒼星石「怒らないであげて!翠星石はジュン君のためを思ってやったんだよ?」

ジュン「わかっているとも…翠星石、ケガは?」

翠星石「はい。…いてて」クタ

ジュン「こりゃあひどい、全身がたまごまみれだ…翠星石負傷のため昼食は中止!」

一同「えー!?」ブーブー

水銀燈「べ、別にご飯は関係ないじゃない!」

ジュン「だまらっしゃい!お前はたまごまみれの妹を措いてでももやしそばを食いたいのか!?」

水銀燈「う…」

ジュン「そこまでもやしが好きか!?…だとしたらお前はもやしそのものだ!」

水銀燈「わ、わかったわよう…お昼はあきらめるわよう…」

ジュン「(しめた!)」

225: 2009/07/20(月) 14:30:15.47 ID:4KUCR4cU0
ジュン「お前らも異存はないな?」

蒼星石「もちろんだよ」

金糸雀「し、仕方ないかしら…」

真紅「まぁ、そういうことなら…」

翠星石「みんな…ありがとうですぅ…」

ジュン「よし、お昼は取りやめだ!」

こうして、昼食は中止となった。

ジュン「じゃあ僕は翠星石を部屋まで連れて行くから」

翠星石「おめーら…すまなかったですぅ…」

水銀燈「いいのよ…ゆっくり休んでらっしゃい」

金糸雀「かわいそうに…」

蒼星石「僕が後始末をしておくから。安心して」

ジュン「よし、じゃあ行くか」

ジュンと翠星石は、笑いをこらえながら2階のジュンの部屋へと向かった。
そんななか、ただひとり雛苺だけが席からも動かず、淡々と食事を終えていた。
よって、いちばんの被害者は真紅ということになった。

227: 2009/07/20(月) 14:36:22.32 ID:4KUCR4cU0
翠星石「あぁ…面白かった…」

ジュン「やばい…腹筋が痛い…」

ふたりは、部屋で思う存分笑った。

ジュン「もやしそばじゃないのにな…」

翠星石「もやしそのものって言われたときの水銀燈の顔は傑作でしたね…」

ジュン「いやぁ…お前が体を張ってくれたおかげだよ」

翠星石「いいんです。笑いという刹那の快楽に身を委ねるためなら労力は惜しまない」

翠星石「それが私こと翠星石です!」バーン

ジュン「さすがだ…さすがだよ翠星石!」

翠星石「ありがとです!ジュン、頭撫でてくれますか!?」

ジュン「いや、それは無理だ。お前たまごまみれだし」

翠星石「…」

翠星石は微妙に後悔した。

228: 2009/07/20(月) 14:42:55.09 ID:4KUCR4cU0
翠星石「じゃあ…私はお風呂に入りますね…」グッタリ

ジュン「おお。いってらっさい」

翠星石「…」ジー

ジュン「はいはい、抱っこね…ほれ」ベチャ

翠星石「♪」

ジュン「あれ…でもお前、服は?」

翠星石「あ…」

ジュン「仕方ない、あれを出すか…」

ちなみにこのふたりも腹ペコである。

229: 2009/07/20(月) 14:48:50.75 ID:4KUCR4cU0
そういって一着の洋服を棚から取り出すジュン。

翠星石「…それは?」

ジュン「この前の洗濯のとき真紅に着せたヤツさ。サイズもちょうどいいかなーって」

翠星石「あの時?…私は下着のままでしたよ?」

ジュン「そうか」

翠星石「そうかですって…?」

翠星石「…その服じゃイヤです!他のにしてくださいです!」

ジュン「えっ、なんで?」

翠星石「うるせーです!会話の流れで察しろです!おばか!」ポカポカ

ジュン「あ、暴れないでくれ…わかった、わかったから!」

ジュン「まったく…なんなんだよ一体…」ブツブツ

翠星石「フンだ!」プイ

230: 2009/07/20(月) 14:51:51.36 ID:4KUCR4cU0
結局、同じヤツの色違いで落ち着いた。

翠星石「じゃあ入りますからね!覗くんじゃねーですよ!」

ジュン「あぁ、ゆっくり入れ」

翠星石「ちょっと…普通に返さないで…」

困惑気味の翠星石を置いてジュンは洗面所を出る。
そのとき、リビングが騒がしかったが、面倒くさかったので無視しようとは思った。

ジュン「なんだなんだ…」

真紅「あら、ジュン」

蒼星石「翠星石は?」

ジュン「今、風呂に入ってるよ…これは?」

ギターやらベースやら楽器が散乱している。

水銀燈「うん、なんか今かわいい女の子が楽器演奏するとどんどん人が集まってくるらしいのよ…」

金糸雀「それが本当なのかどうか検証しようってことになったの!すでに企画倒れの感が強いんだけど!」

ジュン「ホントに暇なんだな…」

真紅「しょうがないじゃない…永遠のインドア派なんだから…」

233: 2009/07/20(月) 15:00:33.06 ID:4KUCR4cU0
ジュン「それで、お前ら楽器なんて扱えるのか?」

蒼星石「まあね…昔、ローゼンクロイツっていうバンドも組んでたぐらいだし」

ジュン「もろビジュアル系って感じの名前だな…」

蒼星石「僕ら自身、そもそもビジュアル系っぽい格好してるしね」

それぞれがおもむろに楽器を拾い始める。
真紅がテレキャス、金糸雀もテレキャス、蒼星石もテレキャス、水銀燈はストラト、雛苺はV八丸。

ジュン「雛苺…それはなんの楽器なんだ?」

雛苺「V八丸はね、ギターとドラムとベースの音を同時に出せるスグレモノなのよ!」

ジュン「だからそんな、この世のものじゃないような形をしているのか…キマイラみたい」

あえて形容するなら、バッタとウサギと深海魚をかけ合わせたような形をしていた。

雛苺「本当は翠星石がベース担当でヒナはギター担当なんだけど、翠星石はお風呂だし」

雛苺「誰かがV八丸をやんなきゃ演奏が成立しないし…でもこれを扱えるのはヒナだけだから…」

ジュン「そうか…えらいぞ、雛苺」ナデナデ

雛苺「ありがとうなの!ちなみにヒナはレスポール使いなのよ!」ニコ

235: 2009/07/20(月) 15:06:09.87 ID:4KUCR4cU0
演奏が始まる前のあの音だしとかをしている感じだった。

蒼星石「ふーん…それ、いい音出すね…何年製?」キュイーン

真紅「えーと…見たことないやつだわ」ボローン

蒼星石「テレキャス愛好家の君でも知らないモデルがあるのかい?」

真紅「なんか妙に軽いし、これきっとパチモンじゃないかしら」

蒼星石「あ、なるほどね」

雛苺「でも、どんな楽器でも最高の音をひねり出すのが真のロックンローラーなのよ」

蒼星石「雛苺…良いこと言うね!」

金糸雀「カナのも、どうもパチモンみたいなんだけど…その言葉で俄然やる気が出てきたかしら!」ピヨ

雛苺「それは良かったの!」

ジュン「(雛苺の言葉で皆の表情が引き締まった…さすがだな)」

237: 2009/07/20(月) 15:11:56.13 ID:4KUCR4cU0
演奏が始まる前のあの音だしとかをしている感じだった。

蒼星石「ふーん…それ、いい音出すね…何年製?」キュイーン

真紅「えーと…見たことないやつだわ」ボローン

蒼星石「テレキャス愛好家の君でも知らないモデルがあるのかい?」

真紅「なんか妙に軽いし、これきっとパチモンじゃないかしら」

蒼星石「あ、なるほどね」

雛苺「でも、どんな楽器でも最高の音をひねり出すのが真のロックンローラーなのよ」

蒼星石「雛苺…良いこと言うね!」

金糸雀「カナのも、どうもパチモンみたいなんだけど…その言葉で俄然やる気が出てきたかしら!」ピヨ

雛苺「それは良かったの!」

ジュン「(雛苺の言葉で皆の表情が引き締まった…さすがだな)」

239: 2009/07/20(月) 15:15:10.68 ID:4KUCR4cU0
真紅「水銀燈、調子はどう?」

水銀燈「ええ、上々よ。やっぱりニセモノみたいだけど」

真紅「さすがエレキギターが似合うドールナンバーワンね…絵になるわ」

水銀燈「ありがとう。あなたの真っ赤なニセテレキャスも似合ってるわよ?まるで一体化してるみたい」

真紅「ふふ、ありがとう。…ところで、今日もあなたのトリプルハンド奏法が見られるのよね?」

水銀燈「もちろんよぉ。それどころか、今日はもしかしたら…」

真紅「まさか…!?」

水銀燈「そう。いくら練習してもたどり着けなかったあの四手観音奏法」

水銀燈「何故なんでしょうね、いまさら出来るような気がしてるのは」

真紅「なんてこと…今日この場に居合わせていることを何となく金糸雀に感謝しなきゃね」

ジュン「(さっきから感じる…)」

ジュン「(あの、そこそこ以上に楽器を扱えるやつら特有の、こいつら妙に出来ると思わずにはいられない雰囲気を…)」

ジュン「(こりゃあ面白くなってきたぞ…!)」ゴクリ

240: 2009/07/20(月) 15:20:17.74 ID:4KUCR4cU0
金糸雀「それじゃあ、そろそろはじめるわ!」

ジュン「(あ、アイツがボーカルだったのか)」

金糸雀「末法、末法、世紀末…」

金糸雀「荒んだこの世に救いの手、すぐに差し込む綺麗な光」

ジュン「(アイツ何言ってんだ…あ、前口上か)」

金糸雀「仏が来るとき迫ってる、薔薇の仏がやってくる」

金糸雀「聞いてください…『薔薇之仏様』!」ジャラーン

ジュン「うわぁ…」

皆がいっせいにギターを弾き始める。

ジュン「な、なんだコレは…!?」フワ

なかなかの音圧がジュンを襲う。

ジュン「すごい…!」

同じフレーズに計5人分のギターが被さっているのだ。
単純にすごくうるさいが、迫力だけはあった。

241: 2009/07/20(月) 15:25:56.76 ID:4KUCR4cU0
ジュン「!?水銀燈…なんて速弾きだ…」

水銀燈がものすごいスピードでニセストラトをかき鳴らしている。
あまりの速さのため、当然2本のはずの腕が3本半ぐらいに見える。

水銀燈「まだ…まだぁ!」ギュラギュラ

ジュン「まだ速くなるって言うのか…!?」

さらに加速した水銀燈の腕は、もはや4本弱ぐらいには見えた。
だが、水銀燈のギターだけがどんどんずれていくので、演奏のほうは残念なことになってしまった。
真紅が苦々しい表情で水銀燈のことを見ている。

金糸雀「♪ローゼン仏陀!」ピヨ

金糸雀の声は滑舌が悪く、ほとんどピヨピヨとしか聞こえない。
真紅と蒼星石の演奏には、特筆すべきことはなかった。

243: 2009/07/20(月) 15:31:19.12 ID:4KUCR4cU0
ジュン「うをおおお!」ウォォ

いつの間にかジュンは無意識のうちに声を上げていた。座ったままだったが。
その声には、騒音による近所迷惑への警告が少なからず含まれていたことは言うまでもない。

そして、雛苺のソロパートである。

雛苺「なあああ!」スカチャンポン

ジュン「なんて速さだ…!」

水銀燈より余程速い。腕が5本半ぐらいに見えた。完全に水銀燈の十八番を食ってしまっている。
しかし、ソロパートとはいえ結局は同じフレーズをやっているだけなのだ。
よって単にギターの音が小さくなっただけであり、迫力には欠けた。

そしてよく見るとV八丸には、バッタ部分に当たるであろう触覚のようなものがついており、それが絶え間なく上下に動いている。
雛苺はさっきからそれに気をとられて、凡ミスを連発していた。

ジュン「(だから最初、微妙にアレを嫌がってたのか…)」

結局、この疑問が解消した瞬間が、演奏中におけるジュンのいちばんのカタルシスとなった。

244: 2009/07/20(月) 15:37:20.65 ID:4KUCR4cU0
ついにラストが近いらしい。
ずっと同じフレーズばかりだったが、ちょっとだけ違うフレーズに突入した。
皆の表情が上気してくる。

ジュン「ガンバレー!最後までやることにはとりあえず意義があるぞー!」

渾然一体となる各パート。
相変わらずギターの音しか聞こえない。
グルーヴ感というものはまるでない。

金糸雀「♪薔薇の…仏様かしら~!」ジャラーン

ジュン「あぁ…最後に唯一聞こえたところでかしらとか言ってるし!」

終わった。
2分30秒のほぼギターのみによる鈍角サウンドは、ジュンの脳裏にはほとんど残らなかった。
しかし、満足そうに余韻に浸る5人。
あの出来る人っぽいオーラはますます増幅しており、今はただ腹立たしいのみだ。

真紅「…どう、だった?」

蒼星石「ジュン君の感想を聞かせてよ!」

いちばん印象の薄かったふたりが聞いてくる。
うっとうしいったらありゃしない。

ジュン「…お前たちこそが真のパンクロッカーだよ!!」

246: 2009/07/20(月) 15:48:30.25 ID:4KUCR4cU0
真紅「ジュン…!」ガバ

ジュン「おいおい…!」

真紅が、ニセテレキャスをかなぐり捨てて抱きついてくる。
ほとんど投げ捨てられたに近い形の真っ赤なニセテレキャスは、いとも簡単に粉々に砕け散った。

蒼星石「ジュン君…!」ダッ

なぜか一拍おいて蒼星石が飛びついてきた。水銀燈も金糸雀も一人時間差で突っ込んでくる。
その際、それぞれのパチモンは例外なくうち捨てられ、粉微塵になった。
そのため、床はニセエレキギターの残骸でいっぱいになってしまった。

雛苺は雛苺で、ジュンの胸に飛び込んではこないが、心底忌々しいといった様子でV八丸を床に叩きつけていた。
異様な形の破片が飛ぶ。また床が汚れてしまった。

4人はというと、感極まってジュンの胸の中で泣いていた。

ジュン「お前らってやつは…!」

内容はともかくとして、たしかに一所懸命に演奏していたのは認められる。
でも泣くほどじゃないし、たった2分30秒でなんでこんなに汗をかくのか。ドールのくせに。
まるで滝のようだ。水溜りができて破片が浮いているじゃないか。
服が汗で濡れて最高に気持ち悪い。しかもいい匂いとかはなく無臭なのがまたイヤだった。
真紅、僕の顔に頬ずりしないでくれ。べたつくから。

ジュン「お前ら…風呂に入っておいで?」ニコ

雛苺を含めた5人が、すごい汗とともに風呂に向かう。
ジュンは、ひとりただ力なく口角をわずかにあげて笑った。

248: 2009/07/20(月) 15:51:54.21 ID:4KUCR4cU0
一方、風呂場。

翠星石「はぁ、良いお湯ですぅ…ようやっと外も静かになったみたいですし」

翠星石「でも微妙に気分が晴れないのは何故なんでしょう…」

翠星石「ジュン…真紅のお下がりなんて…ひどいですぅ…」プクプク

この話題はつい10分ほど前の話である。

翠星石「真紅真紅って…翠星石と一緒のときぐらい翠星石だけを見てほしいですぅ…」

力なくうなだれる翠星石。そのときである。

翠星石「あれ、なんか…?」

風呂場の扉が開く。

蒼星石「やあ!翠星石!」

翠星石「あれ、おめーらもお風呂に…?」

翠星石「ていうか…な、なんでそんなに汗かいてるんですか!?」

249: 2009/07/20(月) 16:00:16.11 ID:4KUCR4cU0
蒼星石「うん、あの曲を演ったんだよ、久し振りに」

翠星石「へ?アレを?」

真紅「そうなのよ」

水銀燈「雛苺が、欠けてるあなたの分も補ってくれたのよ?感謝してあげてね?」

翠星石「そうでしたか…雛苺、ありがとうです」

雛苺「構わないの!」

金糸雀「それじゃあ早速入るかしら!」

翠星石「はっ…そんなこと言ってる場合じゃなかった!」

翠星石「翠星石はもう出ます!」ザバァ

翠星石「(こんなに汗まみれのやつらが入ってきたら油風呂になっちまいます…!)」

蒼星石「えー、いっしょに入ろうよー」

翠星石「くっ…!」

もう遅い。全員が入ってきてしまった。

250: 2009/07/20(月) 16:05:42.23 ID:4KUCR4cU0
翠星石「あー…そんなことより、先に体を洗ったらどうですか?意外と汗かいてるみたいですし…」

真紅「それはイヤ!」

翠星石「な、なんで…?」

真紅「それはね…」

真紅が、体を洗ってから湯船に入ると溺れる確率が高いという迷信じみた話を黒魔術の知識を絡めて懇々と語っている。
まったくもって興味をそそられなかったが、皆は聞き入っているようだ。脱出のチャンスは今しかなかった。

金糸雀「へー、すごいかしらー」

翠星石「(頼むから…誰も動かないでくださいよ…!)」

幸いなことに、誰にも触れずに通れる隙間が確実に存在している。体をくねらせながら、翠星石は徐々に出口へと近づいていった。
真紅の話はまだまだ終わりそうにない。

翠星石「(よし!なんとかたどり着けました!)」

気づかれないように扉を開け、そっと洗面所に出る。

翠星石「(こいつら…ただの馬鹿の香りがぷんぷんするですぅ…)」

姉妹たちに向けて呆れ気味に一瞥を加え、扉を閉める。脱出はなんとか成功した。翠星石は安堵の息をついた。

翠星石「さて、着替えるとしますか…?」

洗面所の入り口にジュンが立っていた。

251: 2009/07/20(月) 16:12:05.06 ID:4KUCR4cU0
翠星石「…?」

ジュン「…」

目が合う。

翠星石は自分の下を見る。
なぜか何も着ていない。

翠星石「…」

だんだん事態が飲み込めてくる。
私は裸。なのにジュンがそこにいる。

ジュン「…す、」

翠星石「い…いやぁぁぁぁぁ!!」

翠星石の悲鳴がこだまする。
翠星石はその場にへたり込んでしまった。

真紅「なに!?どうしたの!?」ガラッ

真紅「…?」

風呂場の中の真紅とジュンの眼が合う。
ジュンはその瞬間に耐え切れずに気絶した。

253: 2009/07/20(月) 16:19:25.46 ID:4KUCR4cU0
ジュン「ここは…?」

リビングのソファの上に寝かされているようだ。
記憶が徐々によみがえってくる。

ジュン「…ぼっ、僕は何てことを!!…ハッ!?」ガバ

ドールたちがものすごい形相でこちらを睨んでいる。

真紅「ジュン、あなた…覚悟は出来てるんでしょうね…?」パキ

水銀燈「薔薇乙女の湯浴みを覗こうなんて、いい度胸してるわぁ…」ポキ

蒼星石「血の雨ってヤツを…見せてあげるよ…」パキポキ

ジュン「ちっ、違うんだ!話を聞いてくれ!」

金糸雀「何が違うのかしら?命乞いは止しなさい…」ブチブチ

雛苺「…みんな、ジュンのお話、聞いてあげようよぉ…」

ジュン「ひ、雛苺?」

雛苺「ヒナは、ジュンは意味もなくこんなことをするひとじゃないと思うのよ…」

真紅「そ、そうね…私の知っているジュンは無暗にこんなことしないはず…」

真紅「ジュン。正直に答えるのよ?…何があったの?」

ジュン「(助かった…)」

255: 2009/07/20(月) 16:25:51.85 ID:4KUCR4cU0
ジュン「まず、いちばん最初に断っておくが、僕はお前らの裸は見ていない」

ジュン「真紅と目があった瞬間に気絶しちまったんだよ…あんまりな状況だったから」

金糸雀「ほんとかしら~?」ジトー

皆が疑いの目を向けてくる。

ジュン「ほ、本当だよ!お前らの裸なんて全然興味ないよ!」

水銀燈「それはそれで失礼ねぇ…」

真紅「分かった。信じるわ。…それから?」

ジュン「それで、僕がなんであのとき洗面所にいたかってことだけど…」

ジュン「いま、お前ら着てるじゃないか。代わりの服を」

ジュン「それを持ってってやっただけだよ。下着を持ってくのは正直恥ずかしかったけどな。そしたら…」

真紅「そういうことなのね…私たちも気が動転してたから…こんな簡単なことすら見落として」

真紅「ジュン。あなたはちっとも悪くなかった。ごめんなさい、疑ったりして」

蒼星石「ごめんねジュン君…」

皆が次々と頭を下げる。

ジュン「よ、止してくれ…やっぱりこの件については僕が悪い。僕自身の間の悪さが悪い」

256: 2009/07/20(月) 16:30:31.52 ID:4KUCR4cU0
ジュン「それで…翠星石はどこだ!?」

ジュン「あいつの裸はじっくり見ちまったんだよ…」

蒼星石「上のジュン君の部屋にいるよ…」

金糸雀「(それでもジュンの部屋に居るのね…)」

ジュン「…悪い、僕行ってくるよ!」

どたどたと階上に向かうジュン。

蒼星石「よかった…ジュン君がまともな人で」

金糸雀「でも雛苺はちゃーんと分かってたんでしょ?ジュンが無実だったこと」

雛苺「ううん。口からでまかせだったのよ」

雛苺「もしうそ臭いことを言ったら…」ペカー

水銀燈「ひ、雛苺?そこから先は言っちゃダメよ?」

雛苺「うぃ、むっしゅ」

蒼星石「(恐るべし末っ子…)」

真紅「あのふたり…大丈夫かしら…」

257: 2009/07/20(月) 16:36:57.05 ID:4KUCR4cU0
自分の部屋のドアをノックすることになった。

ジュン「翠星石…入ってもいいか」コンコン

ジュン「…開けるぞ」ガチャ

翠星石は、ジュンのベッドの上に倒れこんでいた。

翠星石「…ジュン」グッタリ

ジュン「う…」

翠星石「私の裸…」

ジュン「はい…」

翠星石「見ましたね…?」

ジュン「み、見ました…」

翠星石「わりと長いこと…見てましたね…」

ジュン「…本当にすまなかった!」ガバ

翠星石「いえ、いいんです…頭を上げてください…」

翠星石「ジュンはのりのかわりにすべきことをしただけですぅ…だからそのことについて責めはしません…」

ジュン「ありがとう、翠星石…」

258: 2009/07/20(月) 16:42:28.67 ID:4KUCR4cU0
翠星石「それで…どうでした?」

ジュン「…え?」

翠星石「グッと…来ましたか?」

ジュン「え、ええ~?」

翠星石「乙女の裸体を見たのです、健全な中学生男子なら来るものがあるんじゃないんですか!?」

ジュン「翠星石!」

翠星石「はい!?」

ジュン「…正気か!?」

翠星石「正気です!ほら、私でムラッと来たかって聞いてるんです!さっさと答えろです!」

ジュン「(マジかよ…ムラッとってお前…)」

翠星石はもはや痴女とあまり変わりがなくなってしまっていた。

260: 2009/07/20(月) 16:48:16.04 ID:4KUCR4cU0
ジュン「…いいか、翠星石。よく聞いてくれ」

翠星石「なんですか!?」

ジュン「ものすごくぶっちゃけてくれたお前に対しては、僕もぶっちゃけなきゃ失礼だと思う」

ジュン「だから、全部正直に言うぞ…これから言うのは全部僕の本音だ…覚悟はいいか?」

ジュン「…相当えぐいぞ?」

翠星石「…あったりめーです!ドンとこいです!」

ジュン「よし…まず、お前は人形なんだ。それに、雛苺ほどじゃないがやはり幼いと思う」

翠星石「そうです!その通りです!」

ジュン「さらに僕はつい1年前まで姉ちゃんと一緒に風呂に入ってたんだ」

翠星石「えぇ…?」

ジュン「だからな、わりとその、なんだ…ふくらみやへこみを知ってるんだよ、乙女ってヤツの…」

翠星石「な、生々しい…ちょっと、すごく気持ち悪いですぅ…」

ジュン「それと比べたら、お前は…言っちゃあ悪いが…板だ」

翠星石「うぅ…分かってはいたけど改めて言われるとキツイですぅ…板とは…」

262: 2009/07/20(月) 16:53:57.98 ID:4KUCR4cU0
ジュン「しかし、知ってのとおり僕は思春期真っ只中だ」

翠星石「またヤな言葉ですねぇ…」

ジュン「女体が嫌い?そんなわけないだろう。好きに決まってる」

翠星石「そ、そうですよ。そりゃあそうです」

ジュン「それに…僕は結構お前のことが好きなんだよ、普段から」

翠星石「!?ちょ、ちょっと待って!…今のところもう1回お願いできますか?」

ジュン「…僕は普段からお前のことが結構好きなんだよ…恥ずかしいから2回も言わせないでくれ」

ジュン「それらを鑑みてだな…総合的に考えてだな…お前の裸は…」

ジュン「き、…来たんだよ、ちょっとだけ…す、翠星石?」

翠星石「(ジュンが私のことを好きと言った?…夢?)」

翠星石はいきなりベッドから降り、危ない足取りでふらつき始めた。

ジュン「おい…」

翠星石「あれ?あれれ?」クラクラ

翠星石「(ま、まずいです…ちょっとこれはまずい…)」

ジュン「翠星石…ついに頭が!?」

264: 2009/07/20(月) 17:00:16.08 ID:4KUCR4cU0
ジュン「あ、危ない…」ポス

ジュンは転ぶ寸前だった翠星石を抱きとめた。

翠星石「ジュン…?」

ジュン「翠星石…お前酔ってんのか?」

翠星石「そ、そんなわけ…あなたのせいですぅ…」

翠星石「ジュン…さっきの言葉に偽りはないですか?」

ジュン「ま、また言わせる気かよ…だから、ちょっとだけムラッと…」

翠星石「そっちじゃねーです!私のことを、その、好きって言った方です!」

ジュン「……そっちか………本当だよ……」

翠星石「わ、私のどこが!?」

ジュン「全部」

翠星石「…」

翠星石の意識が一瞬トんだ。

ジュン「おい、今一瞬白目剥いてたぞ…大丈夫か…?」

265: 2009/07/20(月) 17:06:15.72 ID:4KUCR4cU0
翠星石「ジュン…」

翠星石はもう夢でも現実でもどうでも良くなった。

翠星石「もう一度、聞きますね?…私のこと、好きですか?」

ジュン「…うん」

翠星石「本当に?」

ジュン「…うん」

翠星石「…真紅、よりも?」

ジュン「僕はお前のことがいちばん好きだ」

その瞬間、翠星石はすごい笑顔で完全に気絶した。

267: 2009/07/20(月) 17:12:37.55 ID:4KUCR4cU0
翠星石「んん…ジュン…?」

ジュン「まさかお前まで気絶するとは…」

翠星石「ジュンがあんなこと言うからです…」

ジュン「し、仕方ないだろ…お前のせいで洗いざらい吐かなきゃいけなくなっちゃったんだから」

翠星石「ジュン…私…」

翠星石「…嬉しい!」ガバ

翠星石は思わずジュンに抱きついた。
そして、そのままジュンの胸で泣き始めてしまった。
ジュンはその頭を優しく撫でてやる。

翠星石「わ、私は、ジュンが私のことあんまり好きじゃないんじゃないかって、ずっと不安だったんです…」

ジュン「そんなこと考えてたのか…」ナデリナデリ

翠星石「だ、だってジュンは真紅とばっかりいつもベタベタして…」

翠星石「いつも真紅の話ばかりするし…さっきだって私に真紅の着た服を着せようとしたじゃないですか…」

ジュン「もちろん真紅も好きなんだけどさ…なんというか、お前は僕の中で別格なんだよ」

翠星石の泣き声がいっそう大きくなった。

一方その頃、リビングでは仮装大会が行われていた。
真紅は鼻メガネとかをつけていた。

268: 2009/07/20(月) 17:18:11.73 ID:4KUCR4cU0
しばらく翠星石のうれし泣きが続いた。

ジュン「…もう大丈夫か?」

翠星石「…ありがとです、もう大丈夫です…」グス

ひとたび落ち着くと、翠星石にものすごい幸福感が襲ってきた。

翠星石「…ジュン?」ニンマリ

ジュン「(うっ…満面の笑み…)」

翠星石「いつから?いつから私のことが『大好き』だったんですか?」

翠星石「もしや一目ぼれ?一目ぼれですか?」

ジュン「いや、残念ながら一目ぼれじゃない」

ジュン「…そう。きっかけはあの事件だった…」

翠星石「?」

269: 2009/07/20(月) 17:23:59.58 ID:4KUCR4cU0
~ある日~

ジュン「おっ、何やってるんだ?」

翠星石「ちょっとお庭が殺風景だったもので…お花を育てようかなと」

ジュン「ほほう…そっか、お前は庭師なんだもんな」

翠星石「です。実はこれは何の球根だかよくわからないのですが…」

翠星石「翠星石の手にかかれば、絶対きれいなお花が咲くに決まってます!」

ジュン「どれどれ…お前、こりゃあ…」

翠星石「?」

ジュン「球根じゃなくてにんにくだぞ…」

翠星石「…?」

~ある日終わり~

270: 2009/07/20(月) 17:25:20.73 ID:4KUCR4cU0
翠星石「あ、あれで…?」

ジュン「いや、あれは反則だった…だってお前…」

ジュン「花を育てるぞって意気込んでおきながら、にんにくに直に水やってんだぞ?土にも埋めないで」

ジュン「そこに、僕が指摘したときのあの何がなんだかわからんという表情だよ…ドタマを鉄球でぶん殴られたような衝撃…」

ジュン「あぁ、こいつは僕が守ってやらないとダメなんだ…と冗談抜きで思った」

ジュン「そしてその瞬間から僕はお前に首ったけ、ってワケさ」

翠星石「…///」

ジュン「それからというものの、僕はお前のことが愛おしくてたまらないんだ」

ジュン「いたずらに奔走するお前も、真剣に菓子作りに励むお前も、拗ねるお前も大好きなんだよ、僕は」

ジュン「翠星石、お前は正直可愛すぎんだよ…」

翠星石「ま、真顔で言わないで…///」

翠星石は、顔を真っ赤にしてもじもじと照れている。
その頃のリビングでは、真紅の鼻メガネが火を噴いている。

272: 2009/07/20(月) 17:35:23.85 ID:4KUCR4cU0
ジュン「だから僕はお前の裸で…」

翠星石「!?…も、もうその話はやめてください…///」

今となっては逆に恥ずかしい。

ジュン「あぁ…全部勢いで言っちゃった…は、恥ずかしい…」

翠星石「じゅ、ジュン?」

ジュン「何だ…」

翠星石「ジュンは私が好き」

翠星石「そして私もジュンが大好き」

翠星石「それなら…これから堂々と、その…」

翠星石「…もっといちゃいちゃしませんか?」

ジュン「い、いちゃいちゃ?」

翠星石「わ、私は!大好きなジュンと1秒でも長くくっついていたいんです!」

翠星石「だから…!ねぇ、いいでしょう…?」ジー

ジュン「……お前にそんなに見つめられちゃあ、断る理由はないな」

翠星石「じゃあ早速!」ガバ

273: 2009/07/20(月) 17:41:59.64 ID:4KUCR4cU0
ジュン「うわ!…いきなりきたな…」

翠星石「…ダメでしたか?」

ジュン「そんなわけあるか!」ニコ

翠星石「ジュン、大好きですぅ!」ニコニコ

ジュン「僕もだよ、翠星石!」

ジュン&翠星石「あはははは!」アハハ

ようやく互いの気持ちに素直になれたふたり。それは実に微笑ましい光景だった。
しかし残念なことに、両者とも単なる馬鹿かもしれないという線は、いっそう濃くなってしまった。
全裸とにんにくによってつむがれたふたりの仲。

一方その頃、真紅はとあるオコジョさんの声真似をしていた。上手すぎた。

275: 2009/07/20(月) 17:49:56.67 ID:4KUCR4cU0
ジュン「ただいま」

翠星石「心配かけたですぅ!」

蒼星石「翠星石!…元気そうだね!」

翠星石「ばっちしです!」ブイ

真紅「遅かったのね。でも、その様子なら…?」

ジュンが翠星石を抱っこしているだけだ。
しかし何かがおかしい。仲が良くなりすぎていやしないか。

真紅「ず、随分仲良くなったのね…雨降って地固まるって感じなのかしら?」

翠星石「それどころかジュンは私のことを…むぐ」

ジュン「そ、それ以上は言うな…恥ずかしいにもほどがある」

金糸雀「なんだか…ふたりとも恋人同士みたいかしら…」

水銀燈「何かあったんじゃないのぉ?」

真紅「(やはりおかしいわ…ふたりとも手を握ってるだなんて…)」

翠星石「そうです!なんとジュンが…むぐぐ」

ジュン「だから言うなって…」

雛苺「そういうことなのね」

276: 2009/07/20(月) 17:54:45.50 ID:4KUCR4cU0
その後も、これ見よがしにふたりはベッタリくっついている。

真紅「な、何でなの…」

雛苺「…真紅」

真紅「雛苺…あ、あれはなんだと思う?」

雛苺「真紅…さっき、あなたは何してたっけ?」

真紅「鼻メガネを…ハッ!?」

雛苺「あなたが鼻メガネをして小躍りしてる間、あのふたりはふたりきりだった。そして今、あんなに仲良くなっているの」

雛苺「これがどういうことだか、分かるよね?」

真紅「ひ、雛苺…私…」ウル

雛苺「上等な日本酒があるの。飲みましょう、真紅…」

蒼星石「何でかな…向こうから負け犬の匂いがしてくるぞ…」

277: 2009/07/20(月) 17:55:33.68 ID:4KUCR4cU0
…そうこうしてるうちに夜になった。
あの5人はリビングで寝ているようだった。
ジュンは、昼間のライブの恨みがあるので、そのままにしておいた。
翠星石も疲れ果てたのか、早々と眠ってしまったようだ。

ジュン「11時か…僕も疲れたし、今日はもう寝ちゃおうかな」

ガチャ。

ジュン「ん?ガチャ?」

翠星石「よ…ようやくですか…」ヨロリ

ジュン「おわ!…翠星石、まだ起きてたのか?」

翠星石「一緒に寝ようと思って…でもジュンに迷惑かけたくなくて…」

ジュン「それで僕が寝るまで鞄の中でずっと待ってたのか…しかしすげー眠たそうだな…」

翠星石「ふ、ふぇ…」フラフラ

ジュン「ふらふらじゃないか…いじらしいやつめ」ヒョイ

翠星石「あぅ…」

翠星石を抱っこしてベッドまで運ぶジュン。

278: 2009/07/20(月) 18:00:15.54 ID:4KUCR4cU0
ジュン「なんか僕ら今日一日で随分仲良くなったよなぁ…翠星石?」

翠星石「zzz…」

ジュン「もう寝とる…」

すぅすぅと寝息を立てる翠星石。
今は彼女のことがただただいとおしい。

ジュン「おやすみ、翠星石」ニコ

翠星石「zzz…ジュン…」

ほっぺたを軽く突っつく。
翠星石が小さな手でジュンの指を軽く握る。
ジュンは少し微笑んで、しばらくその可愛らしい寝顔を見ていた。
そのままずっと見ていたいと思いながら、ジュンは次第にまどろんでいった。
寄り添うように眠るふたり。

夏の夜が更けていく…。

完~おまけにつづく~

279: 2009/07/20(月) 18:01:48.58 ID:4KUCR4cU0
おまけその1~涙の酒~

リビングの隅の方で、陰鬱な酒盛りが始まった。

真紅「鼻メガネして小躍りしているうちにジュンを寝取られてしまうなんて…うう…」

雛苺「よしよし…」

水銀燈「あれ、どうしたのぉ?」

雛苺「それがね…」

金糸雀「…そう、そんなことになっていたの…」

蒼星石「僕らも付き合うよ、真紅」

真紅「あなたたち…ありがとう…」グス

水銀燈「よーし…今日は涙酒よぉ!」

雛苺は真紅の泣き言を優しく辛抱強く聞いてあげた。
ほかの3人も、だいたい半分ぐらいはちゃんと聞いてあげた。
しかし酔いも回り、いつしか雛苺を除く4人の愚痴の言い合いが始まった。
ずっと鼻メガネのことを猛烈に叩くだけの真紅と、出番が少ないとかなんとかゴチャゴチャ言ってるその他。
さすがの雛苺も業を煮やし、ついに酒に睡眠薬を混ぜ4人を眠らせてしまった。

280: 2009/07/20(月) 18:05:12.30 ID:4KUCR4cU0
おまけその2~のり姉ちゃん~

あの姉部屋ごもりから二日。
のり姉ちゃんの部屋の前でジュンは待つ。

ジュン「そろそろか…来た!」

のり姉ちゃん「じゅ、ジュン君…」ガチャ

ジュン「真紅は塩をもってこい!雛苺はこってりとした食べ物を!

翠星石「わ、私は?」

ジュン「翠星石は休んでていいよ。全部こいつらと僕でやっちゃうからさ」

翠星石「なんて優しい…ありがとうですジュン!」

282: 2009/07/20(月) 18:06:47.82 ID:4KUCR4cU0
紅&雛「…」ブチブチ

真紅と雛苺の作業がはかどらない。

ジュン「お前ら…このままじゃ姉ちゃんが!」

のり姉ちゃん「ジュン君…」

ジュン「姉ちゃん、今すぐ塩とこってりとした食べ物が来るからな!もうちょっと待っててくれ!」

のり「み、みずを…」

ジュン「ミミズを…?」

のり姉ちゃん「…く…」ガクリ

ジュン「ね、姉ちゃーん?」

つづく

283: 2009/07/20(月) 18:08:58.95 ID:4KUCR4cU0
おまけその3~のり姉ちゃん~

ジュン「くそう、このままじゃ…ハッ!?」

ジュン「お、お前ら!?帰ったんじゃなかったのか!?」

真紅「のりのピンチとあっちゃあしょうがないわ」

雛苺「ほら!今は敵味方でいがみ合ってる場合じゃないのよ!これを持っていってあげて!」

ジュン「コレは…真紅、雛苺、恩に着るよ!」ダッ

真紅「あのまっすぐな眼差し…ジュンったら、うざいわ」

雛苺「わずか2日であそこまでうざくなるなんて…正直思いもしなかったの」

ジュン「姉ちゃん!水分が手に入ったぞ!」

のり姉ちゃん「ジュンくん…あ、ありが…?」

養命酒だった。

のり姉ちゃん「…」ガク

ジュン「ね、姉ちゃーん?」

つづく

284: 2009/07/20(月) 18:10:20.88 ID:4KUCR4cU0
おまけその4~のり姉ちゃん~

それでも養命酒を飲んだのり姉ちゃんは、なんとか自力で水場にたどり着いた。
そしてがぶがぶと水を飲んだ後、さらに水を飲んだ。

ジュン「ふふ、姉ちゃんたら…あんなに水を飲んで」

水を飲みに飲んだあと、のり姉ちゃんはトイレに駆け込んだ。

ジュン「ふふ、姉ちゃんたら…あんなに水を飲んだからさ」

そしてトイレから出てきたのり姉ちゃんは、真っ先にジュンに向かってきた。

のり姉ちゃん「ふう…あらジュン君?」スタスタ

ジュン「(ふふ、ここまでか…)」

覚悟を決めるジュンに予想外の言葉が!

のり姉ちゃん「なんだか、急にジュン君とお風呂に入りたくなっちゃった…入ろ?」

ジュン「はい…りますか!」

のり姉ちゃんとジュンがふたり仲良く肩を並べて風呂場に向かう。もちろん合言葉は…?

ジュン「ね、姉ちゃーん?」

のり姉ちゃん「はーい♪」

翠星石「え?なにがどうなったんですかコレ?」

285: 2009/07/20(月) 18:11:33.55 ID:4KUCR4cU0
おまけその5~本編ラストの没バージョン~

ジュンと翠星石のふたりは幸せそのものといった感じでいちゃついている。
真紅たち4人を睡眠薬で眠らせた雛苺は、それを苦々しげな眼で見ていた。

ジュン「翠星石はかわいいなぁ…ほんとうにかわいいなぁ!」

翠星石「ありがとです!…それに、ジュンだってなかなかのおっとこまえですよ?」

ジュン「じゃあ、僕らは美男美女のカップルってことになるな!」

翠星石「カップルですか!しかも美男美女の!いいこと言いますねジュン!」

ジュン&翠星石「うっふっふっふ!」ウフフ

雛苺「…チッ」

時刻は午後3時。雛苺は庭に出る。
見上げた空は紫色。こりゃあ、一雨来るわね。
案の定、すぐにポツポツと水滴が落ちてきた。
まあ、いいわ。今宵は雨に濡れたい気分なの。
襲い掛かる雪華綺晶をものの一撃で退けた雛苺は、何となく天を仰いだ。
ふるさとのロシアは今どんな天気なのかしら…そんな取り留めのない思考が頭の中をめぐる。
いよいよ強くなる雨。どうか私の汚れをすべて洗い流してくれますように。

雛苺はどしゃ降りのなか、長いことただ立ち尽くしていたのだった。


288: 2009/07/20(月) 18:19:50.60 ID:4KUCR4cU0
これにて終了です。また最後は一気に貼らせて頂きました。
初のスレ立てで途中手間取り、お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした。
全部無事終えることができたのは皆様のおかげです。
何度も繰り返しますが、読んでくださった皆様、本当に有難うございました。
少しでも楽しんでいただけたなら望外の喜びです。

最後に長文、乱文失礼しました。
また機会があればお目にかかりたいと思います。

それでは、これにて失礼させていただきます。

引用: 真紅「ハッ!?」