13: 2010/08/24(火) 08:48:44.15 ID:0HthNfco
――――9月01日(Tue)
――7時58分
午前八時。
朝食の時間が終わった頃だ。
慌てて部屋に戻る者、余裕を持ってロビーへと向かう者。
寝坊でもしたのか、寝癖が直りきっていない者。
学生寮の廊下は新学期初日の慌ただしさに包まれていた。
そんな中、人一倍急いだ様子で部屋へと向かう少女がいた。
(いけないいけない。ちょっとのんびりしすぎたわね……)
学園都市第三位の超能力者。
御坂美琴。
もう五分もすれば『学舎の園』に向かうバスがやってくる。
それまでに支度を済ませて部屋を出なければならない。
気は急くばかりだ。
それでも階段で、廊下で、すれ違う生徒らとの挨拶を省いたりはしない。
彼女らは皆、美琴を見て違和感を覚えた様子だった。
きっと髪型がいつもと少し違ったからだろう。
適当にそんなことを考えて歩く。
ほんの一分弱の部屋への道のりは、妙に長く感じた。
――7時58分
午前八時。
朝食の時間が終わった頃だ。
慌てて部屋に戻る者、余裕を持ってロビーへと向かう者。
寝坊でもしたのか、寝癖が直りきっていない者。
学生寮の廊下は新学期初日の慌ただしさに包まれていた。
そんな中、人一倍急いだ様子で部屋へと向かう少女がいた。
(いけないいけない。ちょっとのんびりしすぎたわね……)
学園都市第三位の超能力者。
御坂美琴。
もう五分もすれば『学舎の園』に向かうバスがやってくる。
それまでに支度を済ませて部屋を出なければならない。
気は急くばかりだ。
それでも階段で、廊下で、すれ違う生徒らとの挨拶を省いたりはしない。
彼女らは皆、美琴を見て違和感を覚えた様子だった。
きっと髪型がいつもと少し違ったからだろう。
適当にそんなことを考えて歩く。
ほんの一分弱の部屋への道のりは、妙に長く感じた。
14: 2010/08/24(火) 08:49:26.50 ID:0HthNfco
部屋の中央に並べられた二つのベッドは対照的だった。
向かって右のベッドは綺麗に直されている。
対して左のベッドは掛け布団が足元の方で丸められていて、
空いたスペースを陣取るかのように緑の水玉系のパジャマが脱ぎ捨てられていた。
ぱたん、と静かにドアが閉まる。
ようやく部屋に戻った美琴だが、その歩みは緩まない。
ぐちゃぐちゃのベッドをスルーし、二つのそれの間を抜けて、奥に設置された自分の机へと向かう。
机の上には学生用の鞄が横たわっていて、隅の方には小さな立て鏡が置かれていた。
(コイツはこれでよしっと)
学生鞄は既に準備が済んでいる状態だ。
美琴はそれのハンドルを掴んでベッドの方を向くと、軽く姿勢を落としてそれを放った。
わずか数十センチの距離だが、鞄が小さな放物線を描く。
ぼふっ! と布団の中に鞄が沈み、反動でパジャマが跳ねた。
ようやくベッドの惨状を認識した美琴は、少し悔いるように声を漏らす。
「あー」
最低限の状態くらいにはべッドを直しておくべきだろう。
学校に行っている間に寮監が部屋を見回ることがある。
この状態のまま出発した場合、学校から帰ってきた時に、
寮監が不気味な笑顔と共に手招きしてくるという事態が待っている可能性がある。
15: 2010/08/24(火) 08:49:52.98 ID:0HthNfco
とはいえ、多少の御小言をもらう程度だ。
限度はあるだろうが、罰をいただくような例は美琴の記憶にはない。
「うん、しょうがない」
時間があったらやろう、といい加減な感じで決意する。
今は先にやらなきゃならないことがある。
机の一番上の引き出しを開く。
一度整えてからひっくり返したような状態の中で、ヨレヨレの紙袋だけが妙に浮いていた。
それも何故か妙に綺麗に折りたたまれている。
中身を取り出そうとしてそれを手に取ると、
「あれっ?」
思っていたよりもずっと軽い。
少しだけ思考を巡らせると、朝食の前に中身を取り出したことを思い出した。
(そうだった、寮監が来ちゃったんだった。……えーっと?)
再び引き出しの中を探してみると、目的のものはすぐに見つかった。
紙袋があった位置のすぐ下で、それはわずかに埋もれかけていた。
今度こそ。
それを手に取る。
小さな、花の飾りのついたヘアピン。
昨日、半ば勢い任せに購入したばかりのものだ。
朝食前の身支度をしている時間の内につけようとして、忘れてしまっていたようだ。
16: 2010/08/24(火) 08:50:23.10 ID:0HthNfco
不意に。
かすかに自動車の駆動音が聞こえた。
バスが到着したのだろう。
続けてドアが開くブザーの音が部屋まで届く。
(っとっと、急がなきゃ)
五分も経たないうちに出発してしまうはずだ。
バスならば二、三分程度で学校に到着するが、それを逃せば約十分間のランニングだ。
実に健康的なお話だが、流石に新学期早々朝っぱらから走りたくはない。
ましてや九月だ。日が昇り始めたこの暑さの中、走りたいとはやはり思えない。
改めて手のひらに視線を落とす。
その上で軽く転がったヘアピンが光を受けて一瞬きらめいた。
美琴は机の端の立て鏡そのものは動かさずに、覗き込むような前傾体勢を作る。
そのまま自身の髪を確認すると、慣れた手つきでヘアピンを装着する。
ぱち、と小さな音が鳴った。
「よし」
小さく微笑んだ美琴は、そのまま手で軽く手で髪を整えた。
鏡に映る右前頭部には、小さな花飾り。
「ま、おかしくはないかな」
少し安堵する。
17: 2010/08/24(火) 08:50:52.23 ID:0HthNfco
身支度の中で開封した時は少々ながら慌てたものだった。
記憶していたよりもずっと可愛らしい感じのする花飾りだ。
(なんか勢いだけ買っちゃったから、きちんと見てなかったし)
こういう代物が自分に似合うとはあまり思っていなかった。
実際に今、鏡越しに見ていても違和感がある気がする。
(黒子は先に行っちゃうし、どうしようかと思ったけど……)
ルームメイトの後輩少女、白井黒子は既に出ている。
風紀委員に所属する彼女は朝一番にかかってきた電話を受けると、ずいぶんと慌てた様子で出発してしまった。
白井の話によると、違法侵入者が紛れ込んだらしい。
結局、『どうせ人手が足りなくなるはずですので』と飛び出して行ってしまった。
その言い方から察するに、恐らくは先走った行動に出たのだろう。
(まったくあの子は……)
また始末書やら何やらに追われるのかと思うと、自業自得とは言え少々可哀そうだ。
その行動の根底にある強い正義感を美琴は知っていた。
そもそも、昨日も侵入者がいたはずだ。
それ以外にも大小合わせて数件、事件があったと白井から聞かされている。
美琴が遭遇した建設現場での件も、その中には含まれていた。
そういえば、あの時ツンツン頭の少年と喧嘩していた偽物の海原光貴は一体誰だったのか。
(おっとっと)
そこで、美琴は軽く頭を振った。
ひどく思考が逸れていたようだ。
18: 2010/08/24(火) 08:51:27.79 ID:0HthNfco
もう一度前屈みに鏡を覗き込む。
やはり、まぁ、おかしくはない。
「ま、1週間もすりゃ慣れるわよね」
見慣れない光景に違和感を覚えるのは仕方のないことだろう。
馴染むまでちょっとの辛抱だ、と結論づけて美琴は姿勢を直す。
思いきったイメージチェンジ的な行動に抵抗がある訳ではない。
だがこういう行動に対して、冷やかし半分に追求されたりするのは少しだけ苦手だった。
そもそも、この髪飾りを購入したのに大した理由はない。
安かったから勢いで買っただけで、気まぐれ以外の何物でもないのだ。
こういうアイテムは話の種としては優秀なだけに複雑な思いになる。
基本的には誰かに気づいてもらえるというのは嬉しいことなのだ。
(アイツも気づくかしらね)
ぼんやりとツンツン頭の少年を思い浮かべる。
「って、いやいやいやいや!」
ブンブン、と頭を振りながら、
(なんで!? なんでここでアイツが出てくるのかしら!?)
とりあえず、否定する。
否定したのに。
(つーかアイツの場合、気付かないんじゃ)
勝手に幻想もとい妄想が膨らんでいってしまう。
知らない自分がもう一人、自分の中にいるかのような気になる。
いくら否定しようと、美琴の中で、彼の存在が大きくなりつつあるのは確かだった。
19: 2010/08/24(火) 08:52:03.22 ID:0HthNfco
もし気付いたら。
彼だったら、どんな反応をするだろう。
『それどうしたんだ? 似合ってんじゃん』
そんな様子でじっと視線を送って来る彼の様子が容易に想像できてしまった。
どんなに恥ずかしい言葉でも、さらっと言ってのける少年。
『へえ、可愛いな』
(うっわ! 言いそう! すごい言いそう!)
部屋に届くバスの駆動音の調子が少し変わった。
美琴はそれに気付かない。
(っ!? ってか、べ、別に可愛いってのは私のことじゃなくてコレのことであって私は!)
「って、そうじゃなくって!」
またも、思い切り頭を振る。
勢いがありすぎたのか、ヘアピンが軽くずり落ちる。
そうやってセルフでツッコミを入れたところで、軽く暴走しかけていた思考が止まる。
理由は、立て鏡。
美琴の緩んだ口元がしっかり映し出されていた。
誰かに見られているわけでもないのに異常な気恥ずかしさを覚える。
鏡に映る唇の右端がぴくりと痙攣して、
ばちーん!! と、良い音が部屋に響いた。
20: 2010/08/24(火) 08:52:32.61 ID:0HthNfco
時刻は八時十分。
右の頬をわずかに(手の平の形に)染めて、美琴は玄関を飛び出す。
建物の影から出ると、後方からまだまだ厳しい日差しが降り注ぐ。
『学舎の園』に向かうバスはもうない。
ドアが閉まるときのブザー音を聞いたのは、部屋の中でのことだ。
間に合うはずもなかった。走らなければ学校も遅刻だ。
結局、ベッドもあのままだった。
一度外したヘアピンは、右手にある。
「はぁー、しゃーない」
ひとつ溜息をついた美琴は、慣れた手つきで髪を留めていく。
それが終わると車の通りを確認して、車道を自身の影を追うようにして斜めに渡っていく。
反対の歩道まで到着すると、
「さて」
軽く、屈伸運動。
「いきますか!」
一人宣言をして、
勢いよく美琴は走り出した。
少女の長い一日が始まる。
21: 2010/08/24(火) 08:53:19.94 ID:0HthNfco
数分後。
昨晩に引き続き、彼女は叫ぶ羽目になる。
「こら、ローテンションのままスルーしてんじゃないわよアンタ!」
あっさり幻想をぶち壊された美琴なのでした。
◇どうでもいい前作的な何か
超電磁砲のオシャレ事情(※「まとめ」様に感謝)
○頂いた設定
・朝の集合時間と門限などの時間設定。
・漫画、アニメより室内の家具の配置等。
・アニメより、美琴のパジャマの柄。
○勝手に設定
・学生寮の玄関が北向きだったり。
妄想のシーンはフィルターを通した某AAにてお楽しみくだs。がんばれ美琴!
さてさて、続くの? 続かないの? わかりませんが、ここいらで失礼を。
それでは、ありがとうございましたー。
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