300: 2018/04/07(土) 00:11:14.20 ID:+CwkHpRJ.net

【ラブライブ】 リリーのアトリエ【前編】

映画『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 完結編 第2章』(特装限定版) [Blu-ray]
 昼食後、それぞれの役割をこなすために梨子ちゃん達は別行動です

 しかしその一報は防衛線へ向かう馬車に乗り込むところだった梨子ちゃん達のところにやってきました


花丸「え、防衛ラインのモンスターが引いた?」

梨子「…………」


花丸「勢いが衰えて、徐々に撤退しているって報告ずら」

梨子「それは……あきらめたってことかな?」

花丸「じゃあ、マル達の勝ちずら?」

梨子「んー……」


 突然のモンスター撤退という知らせに素直に安堵できない梨子ちゃん
 それまでの計画性から、そんなに簡単ですむのかなと考えます
 

301: 2018/04/07(土) 00:12:29.65 ID:+CwkHpRJ.net
花丸「と、とりあえずこの爆弾は部隊に届けて欲しいずら」


 状況はまだ油断できないとし、予定通りに爆弾は届けさせますが視察はいったん取り止めます


善子「あれ、あんた達なにしてんの?」

梨子「それがどうも状況が不明瞭なの」

花丸「さすがのマルにもわかるずら。これだけ手のこんだことをしておいてあっさり終わりなんてやっぱりおかしい」


 聞くだけの状況だと、攻めてきたモンスターが撃退されて帰っていったという構図です
 しかしそれだけで終わらせられないのも事実


花丸「どういう事ずらー……うぅ……」

梨子「……………」

善子「爆弾制作は続けてていいのよね?」

花丸「それはお願いするずら、でもちょっと対応方法を……」

梨子「……………」
 

302: 2018/04/07(土) 00:13:42.54 ID:+CwkHpRJ.net
善子「梨子、どうしたの?」

梨子「んー……どういう意図なのかなーと……」

花丸「……………」

善子「単純に作戦失敗だと思って諦めたってことじゃダメなの?」

梨子「諦めるとするなら群れを引き上げる必要がわからないのだけど…」

善子「余計な手駒を減らしたくないとかじゃ?」

梨子「囮に使ったりすると考えた場合にそれは考えにくいかなー…」


花丸「ねぇ、梨子ちゃんならどうする?」


梨子「ん?」

花丸「梨子ちゃんがもし、この町を攻め落としたいとしたら、どういう作戦にするずら?」

善子「あんた梨子をなんだと思ってるのよ…」

花丸「ゴメン…。でもマルが持ってる知識じゃどうしても偏っちゃって無理ずら……」

梨子「………………」
 

303: 2018/04/07(土) 00:15:21.78 ID:+CwkHpRJ.net
 正直梨子ちゃんにもそんな妄想をする事はないので、どう攻め落とすのかというのには難色を示します

 だけど状況に対して考えるのならそれは別です


梨子「私が町を攻めるなら今とは最初からやり方が違うはずだから、ちょっとわからないかな……」

花丸「そう……」

梨子「ただ、初日に失敗した後なら、少しは……」

花丸「ホントずら!?」

梨子「でもそれは私の考えであって、正解じゃないよ?」

花丸「何もしなくてもやもやしてるよりは仮説を立てて行動するずら」

善子「仮説ねぇ……」


 ここ数日のあいだに梨子ちゃんに対する花丸ちゃんの評価はすごく上がりました
 きっと採取のさいには無償で付き合ってくれるでしょう


梨子「じゃあ、えっとね……」


 梨子ちゃんは今回の襲撃計画の重要性を示唆します
 最終目的が不明なままですが、町にモンスターの群れを導こうとする事に意味を持たせて思案する
 

304: 2018/04/07(土) 00:17:01.77 ID:+CwkHpRJ.net
梨子「町を破壊したいのか、どこかにターゲットがあるのか、とにかく目的地をここにするのなら…」

花丸「ん……」ゴクッ

梨子「撤退させた群れの一部を別ルートから接近させての再突入。そこに数を用いるなら襲撃時刻は日中」

善子「え!?」

梨子「夜間警備に効果があったとする場合、どうして効果があったのか。それは手数が足りなかったから…」

花丸「…………」

梨子「では手数が足りないのに何がしたいのか…。そうなると町をどうこうするよりも何かターゲットがあって、そこを襲撃する必要があった…」


 そして梨子ちゃんは、モンスターの群れが再突入するであろうタイミングも示します。それは……


花丸「え……今日!?」ドキッ

善子「日中て、今じゃないの?」

梨子「だって、これ以上時間をかけるとせっかく引き剥がしたレッテン廃鉱の主力が戻っちゃうから」

善子「そういえばいつ頃帰ってくるのよ」
 

305: 2018/04/07(土) 00:18:11.61 ID:+CwkHpRJ.net
花丸「順調にいけば6日後だったから、明日ずら……」

梨子「そこに何かあって時期がはやまれば作戦は失敗。その何かある前に行動するなら今日……」

善子「で、でもなんで日中なのよ」

梨子「手数が少なくて攻め入る事が出来なかったのなら、群れの中から必要分の数を用意してからの奇襲が当然だからね」

花丸「じ、じゃあ……」

梨子「そして夜間警備をしている人数もそんなに満足じゃない。だったら警備隊が休むであろう日中に数で攻めるのが一番」


善子「……………」

花丸「……………」

梨子「……というのが私だったらそうするかなって。でもこれは相手の最終目標が町への侵入を第一にしてる場合だから」


善子「花丸……私ちょっと店に戻るから」タッ

花丸「うん、後で寄るね」
 

306: 2018/04/07(土) 00:19:35.13 ID:+CwkHpRJ.net
梨子「ヨハネさん?」

善子「冗談でなく可能性としてあるのならっ」タタッ

花丸「何もしないのは愚の骨頂ずらっ!」


 梨子ちゃんの話を聞いてから善子ちゃんが自分の店へと走り出します
 花丸ちゃんも何かを決めたようです


花丸「緊急警戒態勢を取るずら、家から出ないようにして!」

梨子「で、でもホントに私の妄想でしかないよ?」

花丸「妄想だからって何もしないの?」

梨子「何もしないってことじゃないけど……」

花丸「梨子ちゃんは自分の妄想にもうちょっと自信を持ってもいいずらよ」

梨子「なんの確証もないのに……」

花丸「確証なんてものは後からついてくればいいずら」タタッ
 

307: 2018/04/07(土) 00:21:15.05 ID:+CwkHpRJ.net
 -それから10分後
 町に大きく鳴り響く鐘の音。緊急警戒態勢が町中に発令されました

 それとほぼ同時刻、自警団詰所に駆け込む一人の伝令が報告します
 西の方角、ピルツの森方面からモンスターの群れを確認

 そしてもう一つ、東のヘーベル湖方面からもモンスターの群れを確認したとする報告
 そのすべてが町に向かって迫っているのでした


 

ルビィ「梨子さん、警戒態勢中だから追加の材料がこないです」

梨子「そうだね。いつまで続くのかな~これ…」

ぱな「おしごとおわりです?」

梨子「うん。材料の供給もひとまず止まってるからね、今日はどうしようか?」

まき「…………」ムスッ

りん「きゅうか」

ルビィ「モンスターの群れがいなくなって、このまま無事に終わるといいです」

梨子「ルビィちゃんのお姉さんも明日には戻ってくるしね」

ルビィ「う……」ピクッ
 

308: 2018/04/07(土) 00:22:12.29 ID:+CwkHpRJ.net
梨子「大丈夫?」

ルビィ「ぅぅ……なんて言えばいいのか……」

梨子「想っている気持ちは全部伝えたほうがいいよ?」

ルビィ「そうなんですけど、お姉ちゃんきっと怒ってると思うし…」

梨子「自分のためとはいえ、家を飛び出して盗賊のお手伝いをしてたなんて言われたらねぇ」

ルビィ「あう…そこをなんとか隠せないでしょうか……」

梨子「言うも言わないも、ルビィちゃん次第じゃないかな?」

ルビィ「梨子さぁん……」

梨子「悪い事をしていたのならちゃんと償う。私はそう思うよ?」

ルビィ「ぅぅ……」


梨子「お姉さんて怖いの?」

ルビィ「いつもはホントに優しいです。でも怒る時はとっても怖いです……」
 

309: 2018/04/07(土) 00:23:00.52 ID:+CwkHpRJ.net
梨子「なるほどね……」

ルビィ「…………」


梨子「よし、ルビィちゃん! おやつ作ろうか」

ルビィ「おやつ!」

梨子「ケンカしていても仲良くなれる魔法のおやつ、一緒に作ろう」

ルビィ「それって……ルビィとお姉ちゃんに……?」

梨子「色々とお手伝いしてくれたお礼に、ね?」

ルビィ「ぅぅ……ありがとうございます」


梨子「というわけでまきちゃんりんちゃんぱなちゃん、準備するよ!」グッ

ぱな「しあわせのあじです?」

まき「……………」ムスッ


りん「………」チョイチョイ
 

310: 2018/04/07(土) 00:23:56.74 ID:+CwkHpRJ.net
梨子「あれ、りんちゃん?」


 りんちゃんが工房の窓から外を指さします
 妖精さんの表情はいつも読み取りにくいものですが、少しだけ驚いているようにも見えます


梨子「りんちゃんどうしたの?」ヒョコッ


 梨子ちゃんも同じように窓の外を眺めます


 梨子ちゃんの住む工房は町の中でいうと東側。外周に面しています
 その方角から少し前に見た姿を確認します


梨子「あら……」

ルビィ「どうかしたんですか?」ヒョコッ


 ルビィちゃんも同じように窓の外を眺めます。そしてその姿はハッキリと確認されました


梨子「モ、モンスター……かな?」
 

311: 2018/04/07(土) 00:24:53.57 ID:+CwkHpRJ.net
 それは狼のようなモンスター、ウォルフでした
 普段まずこんな場所ではお目にかからないモンスターです

 数にしておよそ10匹ほど……しかしその後ろに広がる茂みにも何かいそうです


ルビィ「ぴぎゃあぁぁぁ!!」

梨子「」ビクッ


ルビィ「りりりり、梨子さん、あ、あれ、あれっ!」

梨子「お、落ち着こう、とりあえず落ち着こう、ね?」

ルビィ「でも、でも! モンスターがどうして?」

梨子(うーん……さっきの妄想、当たってたのかなぁ)


ルビィ「ひゃぁぁ! 目があっちゃったー!!」ビクッ

梨子「と、とりあえず離れて!」
 

312: 2018/04/07(土) 00:25:52.46 ID:+CwkHpRJ.net
 突如現れたモンスターに梨子ちゃんの工房はあっという間に囲まれてしまいました
 ウォルフは凶悪とまではいきませんが戦闘に慣れていないと危険なモンスターです

 もちろん梨子ちゃんに戦闘なんてできません


梨子「ということでお願いねルビィちゃん」グイ

ルビィ「無理無理、ルビィにだって無理ですよー!」グイグイ

梨子「盗賊やってたじゃないの!」グイ

ルビィ「下っ端も下っ端です、雑用メインです! 押さないでっ!」グググ…

梨子「フラムはあるから、スリングで投げつけるんでしょ?」

ルビィ「スリングないですよね?」

梨子「適当に投げつけてやればいけるよっ!」

ルビィ「じゃあ梨子さんもやってくださいよー!」
 

313: 2018/04/07(土) 00:27:29.81 ID:+CwkHpRJ.net
 ギャーギャー騒ぐ間にウォルフ達が家の玄関ドアを爪で引っ掻く音が聞こえてきます
 窓は少し高い位置にあるおかげでまだ無事ですが、それでもいつ破られるかわかりません

 妖精さん達は危険を察知すると同時に一瞬で隠れます


梨子「えっと、とりあえずテーブルとかをドアの前に置いてバリケードを作ろう」

ルビィ「わ、わかりました!」

梨子「手持ちのフラムでなんとか窓から攻撃して撃退できればいいんだけど……」


 しかし梨子ちゃんは同時に嫌な想像もします


梨子「決して大群じゃないけど西からこの数……もしかして他の場所も襲われているかも…」

ルビィ「え!? じゃあ善子ちゃんや花丸ちゃんも……」

梨子「警戒態勢を取っているんだから自警団の人がもうじき全部追い出してくれるよ」

ルビィ「町全体が襲われたらとても人手が足りないかも…」

梨子「足りないねぇ……」
 

314: 2018/04/07(土) 00:28:21.38 ID:+CwkHpRJ.net
訂正ずら
梨子「決して大群じゃないけど西からこの数……もしかして他の場所も襲われているかも…」

梨子「決して大群じゃないけど東からこの数……もしかして他の場所も襲われているかも…」

315: 2018/04/07(土) 00:29:22.59 ID:+CwkHpRJ.net
 ガンッ ガンガンッ!


ルビィ「きゃ~~!! ド、ドアが破られます!!」

梨子「入ってきたらがんばってルビィちゃん!!」グイ

ルビィ「戦え~!!」


 ガァゥ! ドンドン! キャイン!


梨子「ん、誰か戦ってる!?」

ルビィ「え!?」


 ドンッ ドンッ ガンッ


善子「ど~けどけ~~!!」

花丸「あっちいくずら~~!!」
 

316: 2018/04/07(土) 00:30:33.19 ID:+CwkHpRJ.net
ルビィ「善子ちゃんと花丸ちゃん!!」

梨子「ルビィちゃん、テーブルどけて!」

ルビィ「は、はい!」ガガガ…


善子「梨子、聞こえてるなら入り口開けて!」

花丸「えーーい!」ガンッ


梨子「3秒後に開けるから急いで入って!!」

ルビィ「だ、大丈夫ー?」


 工房の周りにいたモンスターに爆弾を投げつけ、威嚇しているスキに二人が合流しました
 

317: 2018/04/07(土) 00:31:52.32 ID:+CwkHpRJ.net
善子「ふぅ、無事でよかったわ」

花丸「武器持ってきたずら!」ドサッ

ルビィ「花丸ちゃん、町はどうなってるの?」

花丸「梨子ちゃんの予想通りずら! 別の方角からも小規模だけど迫ってきてる」


 工房に到着した二人は全身をそこそこ良さげな装備で固めていました
 善子ちゃんが先日仕入れてきたものでした


善子「ほらルビィ、ダブルスリングよ」

ルビィ「おーすごい……え、ルビィに!?」

善子「このままここにいたら危ないから、自警団詰所に行くわよ」

ルビィ「ええぇ……で、でもルビィは……」

花丸「後の事は後に考えるの! 今は防衛に徹するずら!」
 

318: 2018/04/07(土) 00:33:57.72 ID:+CwkHpRJ.net
 そんな話をしている時でも梨子ちゃんは善子ちゃん達が持ってきたお高い装備に興味津々です


梨子「すごい、これルナスタッフですよね? こっちはエレミア銀ナイフ……」

善子「好きなの使っていいわよ」

梨子「え、くれるの?」キラキラ

善子「貸すだけよ! 高いんだからねコレ!」

梨子「むぅ……でも私武器なんて使ったことないし…」

善子「まぁ武闘派には見えないわよね、梨子は」

梨子「たぶんこの中で最弱ですよ私」

花丸「それでも自衛のために持っておくずらよ」


 ガンッ!  ガガッ!


梨子「」ビクッ

善子「チッ、また集まってきたか」

花丸「追い払うだけじゃ厳しいね、仕留めないと」

ルビィ「ほ、ほんとにいくのー?」
 

319: 2018/04/07(土) 00:35:28.74 ID:+CwkHpRJ.net
梨子「えっと、とりあえず確認なんだけど…」

善子「後じゃだめ?」

梨子「大事な確認、花丸ちゃん」

花丸「なんずら?」

梨子「ここに来たのが二人という事は、他の場所は自警団やなんとか戦える人で手がいっぱいという事だよね?」

花丸「ん………そうずら。ルビィちゃんの事もあるからこっちはマル達がきたずら」

ルビィ「ぅゅ……」

梨子「それでも二人だけということはもう人手は回せない状況。ということは……」

花丸「一番手薄なここから侵入を許してしまうずら。だから外にでてる部隊が戻るまで詰所に籠城する作戦を…」

梨子「一か所が崩れたら他の場所も後方から襲われて連鎖的に瓦解するよ」

花丸「でも、だからってここをマル達だけで氏守するのは厳しいし……」


 このままここにいては危険。詰所で籠城すればここから侵入され他の場所が危険になる
 状況は一刻の猶予もありません
 

320: 2018/04/07(土) 00:37:55.27 ID:+CwkHpRJ.net
善子「なんとか全員が詰所に入れれば……」

ルビィ「でも防衛してる人全員はさすがに……」

花丸「とにかくまずはここを脱出しないと!」


梨子「…………んー」


 危機的状況を前にして梨子ちゃんは考えます。そして都合のいい事を妄想します
 その妄想がもしも可能ならこの状況をなんとかできるかもしれないからです

 そしてそのために必要なのは……


梨子「ねえ花丸ちゃん。もしかしたら人手を確保できるかもしれないんだけど……」

花丸「え、どこに?」

梨子「それは花丸ちゃんが知ってる場所」

花丸「んん?」


 

梨子「数日前に盗賊達が捕まえられて、連行されてきてないかなぁ?」
 

340: 2018/04/08(日) 15:45:34.99 ID:TW42DzwC.net
 梨子ちゃんは数日前に曜ちゃんが捕まえた盗賊たちに手伝わせる事を提案します
 帰り札の連絡を受け、数人の自警団が盗賊たちを確保しに出ています
 それはレッテン廃鉱の事故の後に町に帰還し、任務に戻っているはずと考えます


梨子「牢屋みたいなところにいるんじゃない?」

花丸「た、確かにいるずら……でも」

善子「盗賊に防衛をさせようっていうの!?」

ルビィ「………」

梨子「人手が必要なんだったら、けっこうな数を確保できると思うのだけど…」

花丸「でも盗賊なんかが素直に言う事聞くとは思えないずら!」

梨子「そこは条件を提示すればいいんじゃないかな」
 

341: 2018/04/08(日) 15:46:37.79 ID:TW42DzwC.net
 梨子ちゃんが提示する案というのは……


花丸「盗賊の罪を全部無罪にする~~!?」

善子「な、なかなかギルティね……」

梨子「それに町で仕事も紹介してあげれば乗ってくると思うんだけど、無理かな?」

花丸「そんな事、マルの権限だけじゃ決められないずら……」


ルビィ「わっ、外にいるモンスター、だんだん増えてきてるよ!?」


梨子「花丸ちゃん、もし盗賊達が無罪放免になれば、それは当然……」チラッ

花丸「そうか、ルビィちゃんを堂々と無罪に出来るってことずらね!」

ルビィ「ぅゅ?」

梨子「今はまだ一部の人しか知らないルビィちゃんの問題だけど、権力者が決めた事なら広まることもないかなって」

花丸「………わかったずら、マルが責任を持って交渉するずら」
 

342: 2018/04/08(日) 15:49:02.43 ID:TW42DzwC.net
 こうして詰所に籠城する作戦から、町の本格的な防衛のために盗賊達に手を借りる作戦に移行します

 罪人を入れておく牢屋は詰所とそう遠く離れていない場所にあります
 梨子ちゃん達はまずはここのモンスター達を可能な限り抑えつつ、花丸ちゃんが交渉に走る時間を稼ぎます


梨子「時間にしてどれくらいで戻ってこれそう?」

花丸「盗賊達全員がすんなり納得すればすぐすむだろうけど……」

梨子「話に乗らなければどのみち極刑だしそのままでも町が襲われたら結局一緒、だから安全を約束すればいけるかも」

花丸「とにかくやってみるずら」

梨子「モンスターに囲まれている状況だから、逃亡を考えても無駄だっていうのも追加ね」

花丸「どのみち逃亡防止のアクセを全員につけてあるからそっちは平気ずら」


善子「話はまとまった? じゃあいくわよ?」グッ

ルビィ「こうなったらとことん、がんばルビィ!」ググッ

花丸「ここはまかせたずら!」

梨子「私はほんと役に立たないからね!」
 

343: 2018/04/08(日) 15:50:11.19 ID:TW42DzwC.net
 勢いよくドアを開け放つと同時に善子ちゃんが前面にフラムの束を投げつけます


 バババババ! ドン ドン!


善子「花丸、行って!」

花丸「がってん~~!!」ダダダッ

ルビィ「えーーい!」ブンッ


 新型のスリングでルビィちゃんもウォルフ達に攻撃
 善子ちゃんは剣、花丸ちゃんは槍、それぞれ得意武器で応戦します

 梨子ちゃんはいちおう持てる範囲で選んだルナスタッフを装備します
 しかし……


梨子「え、えっと……えいっ!」ブンッ スカッ

 グルルルル… バッ

梨子「きゃー!」

善子「っんしょ!」ザシュッ


梨子「あ、ありがとう……」

善子「適当に振り回してもあたらないわよ」タッ
 

344: 2018/04/08(日) 15:52:02.71 ID:TW42DzwC.net
梨子「か、体動かすのは……苦手だよぅ……」


 頭ではわかっていても体がついていかない
 貧弱もやしっこには辛い状況でした


ルビィ「善子ちゃん、このナイフ借りるね!」

善子「いいわよ、どんどん使いなさい!」

ルビィ「ここを守って、許してもらったら……ちゃんとお姉ちゃんに……!」ダッ


 盗賊の罪を償えるということでルビィちゃんが気合をいれます
 スリングは元々得意ですが近距離には向かないと、ルビィちゃんが選んだ武器は短剣です

 スピードはもともとあるルビィちゃんには小回りがきく武器は扱いやすいものでした


ルビィ「う、うゅっー!」ザンッ

善子「へぇ、けっこうやるじゃない」

ルビィ「逃げてばかりじゃダメだから…今はっ!」

善子「強くなったわね、ルビィ………それにひきかえ……」チラッ


梨子「いたたた! 噛まないで!!」ガブリ
 

346: 2018/04/08(日) 15:54:00.37 ID:TW42DzwC.net
善子「なにやってるのよ、ルナスタッフは殴るための武器じゃないわよ」ドスッ キャイン!

梨子「あいたた……え、そうなんですか?」

善子「それは魔力増強を目的としたものなんだから、魔法で攻撃しなさいよ」

梨子「名前くらいしか知らなかったので……んしょ」


 錬金術士はみなその体内に魔力を形成します
 魔法とはそれをエネルギーに変えて攻撃する錬金術士独特のものでした

 善子ちゃんのように魔力があっても戦闘では使わないタイプもいますが、梨子ちゃんは魔法派です


梨子「えっと、授業でやったのはたしか……」スッ

善子「先端に意識を集中して、目標に飛んでいくイメージを持つのよ」

梨子「やってみます………えいっ!」ドン


 ゴォォォォォ!


梨子「わぁ!」

善子「ちょっと、いきなり全力でださないでよ!」

梨子「え、そんなつもりは……」
 

347: 2018/04/08(日) 15:54:52.62 ID:TW42DzwC.net
善子「なに…武器のブーストもあるけど、梨子ってけっこう魔力高いの?」

梨子「たしか適性試験の時はA判定だったような……」

善子「なによ、十分戦えるじゃない」

梨子「この杖があれば…なんとか?」


ルビィ「善子ちゃ~~~ん、助けて~~!」ガウッ ガウッ


善子「ルビィ!」ダッ


梨子「集中……集中……」

 ガルルルル…

梨子「えいっ!」ドンッ

 バシュ! キャインキャイン…


梨子「やった、倒したー!」

善子「浮かれてないで次の攻撃!」

梨子「は、はい!」


 ギリギリでなんとか戦う手段を得た梨子ちゃん
 その後三人で援護しあいながらウォルフの数を確実に減らしていくのでした
 

348: 2018/04/08(日) 15:57:38.84 ID:TW42DzwC.net
 戦闘開始から20分が経過……


梨子「はぁ、はぁ……もーダメっ」バタン

善子「な、なんとか……片付いた……わね……」

ルビィ「目がまわルビィ……」グルグル


 ウォルフの群れをなんとか退けた三人ですが、さすがに体力が持ちません
 それぞれがその場でへたり込んでしまいます

 そんな三人に現実は容赦なく襲い掛かるのでした


 ガサッ ガサガサッ…


善子「ん……向こうの茂みに何か……って」

ルビィ「あわわ……」

梨子「おっきい……ウォルフ……?」
 

349: 2018/04/08(日) 15:58:47.90 ID:TW42DzwC.net
 茂みから現れたのは数匹のウォルフを従えた巨大ウォルフでした
 それはあきらかに群れのボスクラスですといわんばかりの迫力です


善子「ようやく本命のご到着ってわけね……くっ」ヨロッ

ルビィ「うぅ……ルビィ…もう……」

梨子「おなじくー……」

善子「少し休んでなさい……私が…っ」


 巨大ウォルフはゆっくりと梨子ちゃん達に近づいてきます
 立ち上がる気力もない梨子ちゃんとルビィちゃんの前に善子ちゃんが立つ

 善子ちゃん自身も満身創痍でしたが二人よりかはレベルが少し上な分、わずかながら体力があります
 それでも迫る巨大ウォルフを倒すことなど到底できそうにありません


善子「どうにかして時間を稼いで……」


<ヨシコチャーーン!


善子「え……あっ!」


花丸「おまたせずら~~!!」ダダダタッ

善子「花丸! いいところに来たわね!」
 

350: 2018/04/08(日) 16:00:42.50 ID:TW42DzwC.net
花丸「梨子ちゃんの作戦、うまくいった……って、なんずら~~!!?」ビクッ

善子「親玉のおでましってやつよ」

花丸「そんな、こっちにも……」

善子「なによ、他にもこんなのが来てるってわけ?」


 花丸ちゃんが盗賊達に出した条件は梨子ちゃんが提示したもの
 それを了承した盗賊達に各ポイントの防衛に加わる事を支持します

 しかし同時刻、各ポイントに大型のモンスターが現れたとの報告を受け、その対処に必要人数を割きます


花丸「だからこっちには誰もこないずら、マル達でなんとかしようと思ったんだけど……」

善子「ふふ、残念ね……ここが一番危険かもしれないわ……」


 ルビィちゃんもがんばりましたがやはり体力が続きません。梨子ちゃんはそれ以前に魔力が枯渇すると役に立ちません
 善子ちゃんも満足には戦えるとは言い難く、状況がピンチなのは変わりませんでした


花丸「こ、こいつをマル達で……」グッ
 

351: 2018/04/08(日) 16:02:54.84 ID:TW42DzwC.net
花丸「梨子ちゃん、なにか作戦ないずらか?」

梨子「無茶言わないで~」パタパタ…


 グロッキーな梨子ちゃんはすでに白旗を振って降参状態です


ルビィ「それでも、ここで……がんばらないと……」ヨロッ

花丸「ルビィちゃん、いけるずらか?」

ルビィ「負けない……もん…」グッ

善子「それでこそ我がリトルデーモンよ!」


梨子(リトルデーモン?)


 最後の力を振り絞って三人が巨大ウォルフと対峙します
 

352: 2018/04/08(日) 16:04:26.36 ID:TW42DzwC.net
 巨大ウォルフの前に配下のウォルフがそれぞれ襲い掛かります
 左右からの攻撃にルビィちゃんと花丸ちゃんが応戦し、善子ちゃんは巨大ウォルフから視線をはずさない

 そしてさらにもう一匹が倒れている梨子ちゃんに襲い掛かろうとしています


梨子「え、嘘でしょ!?」


 襲い掛かろうとしています


梨子「ちょっとまって、参りました、降参です!」


 襲い掛かりました


梨子「きゃ~~!!」ババッ ブン!

 バシュ! キャイン


善子「なによ、まだいけるじゃない…」

梨子「今放置しようとしてませんでした!?」ガバッ

花丸「梨子ちゃんはまだやれるずら!」ガッ

梨子「信頼がすぎます」
 

353: 2018/04/08(日) 16:05:47.67 ID:TW42DzwC.net
 よくわからない間に梨子ちゃんに多大な信頼が寄せられます


善子「さあ、行くわよ梨子!」グッ

梨子「ふえぇ……」


 こうなったらもうヤケクソです


梨子「どうせあたっても効果なさそうだし、足元におもいっきり叩きつけます」

善子「いいわ、目くらましにはなるでしょう!」タッ


 自分自身の限界だと思っていたそのもう一段階先へ、梨子ちゃんはありったけの魔力を込めます

 そして巨大ウォルフの正面、足元に爆風を巻き起こそうと構える……しかし、


 プスッ シュウク……


梨子「あ………」ガクッ

花丸「不発……MPがなくなったずら!?」

善子「えぇ!? ちょっ……!」タタ…


 すでに飛び出していた善子ちゃんは巨大ウォルフに突撃してしまいます


花丸「善子ちゃん!」
 

354: 2018/04/08(日) 16:07:19.92 ID:TW42DzwC.net
善子「くそっ、でりゃ~~!!」グォン!


 こうなっては突撃あるのみと、善子ちゃんがウォルフに斬りかかります


 ガキィン! バキッ


善子「ちょ……嘘でしょ!?」


 巨大ウォルフは善子ちゃんの攻撃を避けることなくその身で受けます
 しかしあまりに堅いその体に、剣のほうが折れてしまいました
 

ルビィ「よ、善子ちゃん!」タッ

善子「やば………」ジリッ


 武器を失い立ち尽くす善子ちゃんにウォルフの剛爪が襲い掛かります!


 グオォォォ!! ババッ


善子「っ………!!」ビクッ
 

355: 2018/04/08(日) 16:09:01.92 ID:TW42DzwC.net
善子「………………っ?」


 振り下ろされた剛爪は善子ちゃんには届きませんでした

 善子ちゃんと巨大ウォルフの間に割って入った人物がいたのです


善子「え……なんで………?」

ルビィ「あ…ああ……」

花丸「そんな、どうして……!?」


??「よくもこのわたくしを欺こうとしてくれましたね……」


梨子(い、いつのまに……自警団の人かな?)


??「しかも町を襲うなどという愚行……もはや見過ごせるものではありません」


 カキン! バッ ヒュッ

 謎の人物はその手に持つ大きな薙刀を豪快に振り抜き、ウォルフの爪をはじき返します

 そして怯んだウォルフに一閃…………軽やかな風を切る音だけを残し、その巨大な体を一文字に切り伏せたのです
 

356: 2018/04/08(日) 16:10:38.04 ID:TW42DzwC.net
梨子「すごい……」


 梨子ちゃん達がその光景に圧倒されている中、謎の人物は何事もなかったように振り返ります
 そして、ルビィちゃんが大きく叫ぶ


ルビィ「お姉ちゃん!!」

梨子「お姉ちゃん……じゃああの人が?」


 善子ちゃんのピンチを救ったのは、ヌマヅタウン御三家の一つ、黒澤の次期頭首

 黒澤家長女、黒澤ダイヤその人でした


ダイヤ「怪我はないようですね、善子さん」

善子「は、はい……平気……です……」

ダイヤ「そうですか。では……」サッ


花丸「ダイヤさんがどうして……まだ戻るには時間が…」

ルビィ「そんなのわかんないけど、お姉ちゃんが来てくれたんだよ!」
 

357: 2018/04/08(日) 16:12:01.21 ID:TW42DzwC.net
 ひさしぶりに見る姉の姿にはしゃぐルビィちゃん
 しかしダイヤさんは手にした薙刀の切っ先をゆっくりと突きつけます……妹、ルビィちゃんに


ルビィ「お姉ちゃ……?」ドキッ

ダイヤ「現在に至る経緯、そしてこのわたくしを欺き、起こした今回の計画……」ジリッ

善子「な、ちょ……」

花丸「ダイヤさん!?」


 そこにはルビィちゃんのよく知る優しい姉の姿はありませんでした


ダイヤ「すべて話してもらいますよ、ルビィ!!」カッ

ルビィ「え、ええぇっ!?」


梨子(なんだかややこしい事になってそうだなぁ…)
 

371: 2018/04/09(月) 22:32:41.70 ID:pOQFDq+Y.net
 颯爽と登場し、善子ちゃんのピンチを救った姉の姿にルビィちゃんは興奮状態でした
 しかし敵を射貫くするどい眼光は今……自分に向けられている

 どうしてと考える前にルビィちゃんは盗賊に身を落としていた事が脳裏に浮かぶ
 姉が言う事がその事を追求しているのなら、言い訳なんてできません


ルビィ「おね………」

ダイヤ「さあ、答えなさい……ルビィ!」

ルビィ「………………それは…」


善子「ど、どういう事なの、これ?」コソコソ

花丸「わからないずら…ルビィちゃんが犯人なんて事はないと思うけど…」

梨子「……………」


 ダイヤさんの剣幕に圧され三人は寄り添います。ちょっと怖いから
 

372: 2018/04/09(月) 22:33:43.37 ID:pOQFDq+Y.net
ダイヤ「あなたが家をでてから盗賊に成り下がったというのは……本当ですか?」

ルビィ「………はい」

ダイヤ「っ!? 嘘ではなかった………本当なのですね……」ギリッ


梨子「………………?」


ルビィ「あ、あのお姉ちゃん……ルビィは…」

ダイヤ「黙りなさい! 人の上に立つ黒澤の人間がなんたる愚行……許せるものではありません!!」

ルビィ「ぁぅ……」ビクッ

ダイヤ「なぜわたくしがここに一人で来たのか、わかりますかルビィ」スッ


 一度も視線を外すことなく、ダイヤさんはルビィちゃんの目の前に立ちます
 その手に持つ薙刀の刃がゆっくりとルビィちゃんの首筋にあてられる……
 

373: 2018/04/09(月) 22:36:38.23 ID:pOQFDq+Y.net
花丸「ま、まずいずら……」

善子「と、止めに入らないとヤバイんじゃ?」

花丸「だけど、ルビィちゃんのやってきた事は事実だし、それは覆せないずら……」


梨子(あれ、ちょっと食い違ってるんだけど、そこはいいのかな?)


 梨子ちゃんはダイヤさんとルビィちゃんとの間で交わした言葉に差異があるのをを感じます
 突きつける問答は真実。だけどその前後には明確な間違いがある

 それ以前に明日帰る予定だったダイヤさんがどうして今ここにいるのか、梨子ちゃんは考えます


ダイヤ「ルビィ………わたくしの可愛いルビィ……」チャキッ

ルビィ「ぅぅ……おねぇちゃ……」

ダイヤ「ずっと…守ってあげたかった……だけど、あなたはわたくしの手を放れ……堕ちてしまった……」

ルビィ「……………」
 

374: 2018/04/09(月) 22:39:16.91 ID:pOQFDq+Y.net
 正面で対峙するルビィちゃんにはハッキリとそれが目に入りました


ダイヤ「ならせめて……わたくしの手で止めてあげたい……他の誰にも…あなたを……」ジワッ

ルビィ「っ!?」


 厳格で、曲がった事が大嫌いで、自分自身にさえいつも厳しかった姉が……自分の事で泣いている
 それを見たルビィちゃんは、自分のしてしまった事を初めて………心の底から後悔したのです


ルビィ「ごめんなさい……お姉ちゃん……」スッ


 大好きな姉にこんな辛い想いをさせた自分の浅はかさを悔やみながらも、ルビィちゃんは受け入れる事を決めました

 そしてゆっくりと目を閉じ、膝をつきます


ダイヤ「ルビィ……っ……ルビィィィ!!」バッ


花丸「ああっ……!」

善子「ま、まっ……!」
 

375: 2018/04/09(月) 22:40:07.41 ID:pOQFDq+Y.net
 しかしそんなシリアスは勘弁願いたいのが、我らが主人公です


梨子「あ~~~~手がすべった~~~~!」ポイッ


ダイヤ「なっ!?」バッ  ドン!

ルビィ「ぴぎっ!?」


花丸「な、なにごとずら!?」

善子「梨子!? あんたなにやってんのよ!」


 ダイヤさんの足元にうっかり手がすべってフラムを投げつけてしまった梨子ちゃん
 達人の成せる技なのか、ダイヤさんは瞬時にその気配を察知し一歩飛びのいて回避します


梨子「ごめんなさい、手がすべりました」

ダイヤ「…………」キッ

梨子「あと少しいいですか、ちょっと聞きたい事があるんですけど……」

ダイヤ「なんですかあなたは?」


梨子(う、怖い……いきなり刺してこないよね?)
 

376: 2018/04/09(月) 22:41:12.48 ID:pOQFDq+Y.net
花丸「ダ、ダイヤさん、この子は桜内梨子ちゃんと言って…」

ダイヤ「ああ、あなたが最近やってきた新しい錬金術士の方ですか」

梨子「初めまして黒澤ダイヤさん。よろしくお願いします」

ダイヤ「…………それで、聞きたい事と先の悪ふざけは関係あるのでしょうか?」ジッ

梨子「すいません、あんまり睨まれると萎縮しちゃいます…」


ルビィ「ぁ…………」ヘタ…

花丸「ルビィちゃん!」タッ

善子「大丈夫!?」


 不意の出来事に緊張の糸が切れたルビィちゃんはその場にへたりこんでしまいました
 すかさず二人がルビィちゃんを支えます
 

377: 2018/04/09(月) 22:43:15.61 ID:pOQFDq+Y.net
梨子「えっと、少し話を整理したいのですけどいいですか?」

ダイヤ「今の状況に必要な事なのでしょうか?」

梨子「はい。とっても大事です」

ダイヤ「そうですか。それでは話していただけますか?」スッ


 ダイヤさんの最初の言葉とここに至るまでの経緯を自分なりに妄想して、一本のスジを作る梨子ちゃん
 その考えを花丸ちゃん達にも聞こえるように、少し声を大きくして話します


梨子「まず最初に今回のこの騒動、ルビィちゃんは関係ありません」

ダイヤ「なっ……!?」ドキッ

梨子「盗賊をやっていたというのは事実ですが、町をどうこうするなんて盗賊風情ができるものではないからです」

ダイヤ「どういう事ですか?」
 

378: 2018/04/09(月) 22:44:41.27 ID:pOQFDq+Y.net
梨子「ダイヤさん、予定より早く帰って来たのって、曜ちゃ……渡辺さんに言われたからですか?」

ダイヤ「そうです。ルビィがいるというレッテン廃鉱近辺で曜さんに声をかけられたのです」

花丸「曜ちゃん?」


梨子「あぁ、やっぱり曜ちゃんはダイヤさんと顔見知りでしたか」

ダイヤ「どういう意味ですか?」

梨子「ダイヤさんがこっちを優先して戻ってくる理由ってルビィちゃんの事だろうし、曜ちゃんは事態の重さをまだわかってないから…」

ダイヤ「曜さんに言われました。なぜ黒澤衆がこんなところにいるのかと」

梨子(まるでルビィちゃんの事以外だとダイヤさんが動くことは無いような言い方だなぁ)

ダイヤ「それについて答えたところ、盗賊の仲間になったルビィを捕まえて今頃黒澤家にいるはずだと言われて……」

梨子「……………」


 今回の事件を引き起こしている犯人は梨子ちゃんの存在を知らないと考えます
 すると梨子ちゃんの行動によって動いた人物にもまた不確定要素が混じる

 まさかダイヤさんの知り合いである曜ちゃんが梨子ちゃんと一緒にルビィちゃんを捕まえるなんて事を犯人は予想もしていなかった可能性
 そして誘い出した先でその情報が嘘、誤報であるという事を知らされる


梨子「たぶん……おそらく……私の妄想ですけれど……」
 

379: 2018/04/09(月) 22:45:58.33 ID:pOQFDq+Y.net
梨子「曜ちゃんにルビィちゃんの居場所を聞かされた後、報告がはいったりしていないですか?」

ダイヤ「……………」

花丸「ん?」

善子「報告?」


梨子「その報告とは、黒澤ルビィが盗賊と画策して町をモンスターの群れと共に襲撃する計画を立てている……」


ルビィ「え!?」

ダイヤ「……………」

花丸「そんな事……」

善子「ルビィは関係ない……わよね?」

ルビィ「知らないよぅ」


梨子「ダイヤさん。一つだけ確実に言えることがあります」

ダイヤ「…………なんですの?」
 

380: 2018/04/09(月) 22:47:28.84 ID:pOQFDq+Y.net
梨子「ルビィちゃんがレッテン廃鉱にいるという情報と、ルビィちゃんが町を襲撃するという情報を持ってきた人物……」

ダイヤ「…………うちの伝令?」

梨子「その人が今回の犯人か、あるいはその仲間です」

ダイヤ「なっ……!?」

梨子「唐突すぎるその情報。傍でダイヤさんを誘き出す役目を受けていて、曜ちゃんのせいでダイヤさんが町に戻る事になる状況に咄嗟にでた判断…」


 ルビィちゃんのために家中の兵力を引き連れて行動するほどなのだから、違う場所にいるとなれば即移動するのは当然です
 梨子ちゃんはそれが犯人側にとっての不都合だと考えます


花丸「そうか、町の防衛力を可能な限り削りたいんだから、黒澤家に戻られたらたまったもんじゃないずら」

善子「なるほどね……」


ダイヤ「しかし、もし本当にルビィに罪を着せようとしたとして、それでもわたくし達が町に戻るのは変わりませんよ」
 

381: 2018/04/09(月) 22:49:33.17 ID:pOQFDq+Y.net
梨子「そこなんですよねぇ……あきらかな時間稼ぎなんですよ、これ」

花丸「町に戻ったダイヤさん達は……」

善子「当然ルビィがいると言われていた黒澤家に向かうわよね?」

ダイヤ「ええ。わたくしは最初に家に行きましたが、どこにもルビィの姿はなく、それ以前に町が襲撃を受けている状況に驚きました」

善子「それでルビィが襲撃計画を立てているってのを信じちゃったのね…」

花丸「でも実際に襲撃されているんだから、無理もないずら……」

ルビィ「ぅゅ……」


 ダイヤさんの誤解も解けたという事で、梨子ちゃんはこのよくわからない時間稼ぎのようなものに意味を見出そうと考えます

 そしてダイヤさんは……


ダイヤ「ルビィ……この方の言う通り……あなたは犯人ではないのですね?」

ルビィ「…………うん」

ダイヤ「では盗賊になったというのは……」

ルビィ「ごめんなさい……それはホントなの……」

ダイヤ「…………」
 

382: 2018/04/09(月) 22:50:56.90 ID:pOQFDq+Y.net
ダイヤ「どうして……?」

ルビィ「それは……」


花丸「待つずら、ルビィちゃんはダイヤさんのためにやってたことずら!」

善子「そうよ、私も事情を聞いた。全部大好きなお姉ちゃんを自由にしたいからって理由だったのよ!」

ルビィ「で、でもそれは……やっぱり間違ってたんだって、梨子さんに教えられた」

ダイヤ「ルビィ……?」


ルビィ「ルビィはただ、お姉ちゃんと……前みたいに遊びたかった……前のように笑っていて欲しかった……」


ダイヤ「………っ!」

ルビィ「だからって、黒澤家の名に傷をつけたって……お姉ちゃんは自由になんてなれなかったのに…」

ダイヤ「まさかルビィ……家の方針に……反発していたのですか?」

ルビィ「だって、お姉ちゃんばっかり毎日毎日稽古や勉強だーって……なんの自由もなくなって……」

ダイヤ「っ!?」ドキッ


梨子(町の防衛は今のところ対応できている……計画としては失敗?)ブツブツ…
 

383: 2018/04/09(月) 22:52:10.42 ID:pOQFDq+Y.net
 カラン…と、ダイヤさんが手にした薙刀を落とす音が響く
 そしてゆっくりとルビィちゃんの元に歩み寄ると、ダイヤさんは優しくルビィちゃんを抱きしめました


ダイヤ「ありがとう……ありがとうルビィ……」

ルビィ「お姉………ちゃん……?」

ダイヤ「わたくしだって、もっとルビィと遊びたいに決まってます、好きな事もやりたいに決まってます!」


梨子(短期決戦なら元より方法がおかしい……これは違うかな……)ブツブツ…


ダイヤ「でも、仕方ありませんでした。お父様は町の事を第一に考え、次期頭首であるわたくしにすべてを託そうと……」

ルビィ「うん………」

ダイヤ「嫌だなんて、言えるはずありません……西木野家におこった事もあって、わたくしは……!」

ルビィ「うん……お姉ちゃんも、辛かったんだね……」

ダイヤ「当たり前です! でも……何も言えませんでした……だから……」


梨子「あっ、ダイヤさん、さっきの伝令……むぐっ」ギュッ

花丸「梨子ちゃん、今は黙るずらよ~」グイー

梨子「~~~~~っ」

善子「空気読みなさいよっ」
 

384: 2018/04/09(月) 22:53:22.97 ID:pOQFDq+Y.net
ダイヤ「ありがとうルビィ……何も言えないわたくしの代わりに、反発してくれて……」

ルビィ「ルビィは……それでも………悪い事をしちゃって……ごめんなさい、お姉ちゃん~」

ダイヤ「あぁルビィー!!」ギュー

ルビィ「お姉ちゃ~ん!!」ギュー


花丸「でもルビィちゃんの罪は許されるずらよ」パッ

梨子「ぷはっ……も~」


ダイヤ「!? どういう事ですの?」

ルビィ「今町を襲っているモンスターの防衛に協力すれば、盗賊さん達の罪を免除するって、花丸ちゃんが」

ダイヤ「どうしてあなたが………まさか……」

花丸「国木田の名前をだしたずら」


ダイヤ「…………そう。という事は、後を継ぐことをようやく決心したのですね、花丸さん」

花丸「いつかはやるべきことだったずら~」
 

385: 2018/04/09(月) 22:54:50.32 ID:pOQFDq+Y.net
ルビィ「だからね、お姉ちゃん。ルビィはまだやらなきゃいけない事があるの」

ダイヤ「そうですか。でもそれはわたくしも同じ……一緒に、町を守りましょう?」

ルビィ「うん!」


善子「よかったわね、ルビィ…」

花丸「取り敢えず落ち着いてよかったずら」

梨子「えと、話を戻していいかな?」


ダイヤ「ごめんなさい梨子さん。大事な話の途中で……」

梨子「いえいえ。えっとそれでですねダイヤさん。その伝令の人は一緒じゃないんですか?」

ダイヤ「家に戻るところまではみな一緒でしたが、ルビィがいない事と町の状況を見て、手分けして事にあたるよう指示をしましたから、町のどこかにいるかと…」

梨子「そうですか。それなら可能な限りすぐにその人を拘束してください」


ダイヤ「……………そうですね。もしもと考えるよりも、まずは行動しましょう」
 

386: 2018/04/09(月) 22:56:53.14 ID:pOQFDq+Y.net
花丸「目的はいまいち不明だけど、このままいけば防衛は成功ずらね」

善子「こっち方面は大丈夫だし、町に火の手もあがってないようだしね」

梨子「………………」


ルビィ「梨子さん、やっぱりスッキリしないと気になる?」


梨子「んー……気になるというか、雑な計画のわりに不可解な部分は今だ見えてこないしで、気持ち悪いかな」

ダイヤ「不可解な部分というと、わたくしとルビィを衝突させようとした事でしょうか?」

梨子「させたところで、ダイヤさんはルビィちゃんと結局は仲直りしてた気がするし、不確かな手段でしかないから…」

善子「だからさっきも言ったように、咄嗟にどうにかしようとして適当に言ったんじゃないの?」


梨子「そうかもしれないけど、他にもあるの……」

花丸「もしかして盗賊のアジト?」

梨子「うん。しかも話によると盗賊のアジトを奪うためにアポステルなんて強力なモンスターを使っているのに、町にはその姿はない」
 

387: 2018/04/09(月) 22:58:11.74 ID:pOQFDq+Y.net
 先の巨大ウォルフはウォルフのボスで強力なモンスターですが、それでも魔法生物アポステルには及びません
 それほど強力なモンスターを従えている可能性があるのに襲撃には使わない理由……


ダイヤ「盗賊のアジト?」

花丸「ルビィちゃんがしばらく潜伏してた盗賊団のアジトがモンスターに襲撃されて、アジトを奪われちゃったずら」

ダイヤ「そうでしたか……それはどこに?」

ルビィ「日時計の草原の少し北にいったところにある洞窟だよ」

ダイヤ「ああ、あんなところにアジトがあったのですか」

花丸「ダイヤさん知ってるずらか?」

梨子「っ!」


ダイヤ「おそらくその洞窟は、捨てられた資源採掘場だと思います」


ルビィ「そういえば錆びてはいたけど、鉄枠はしっかりとしてたから、崩れる心配はないって……」

梨子「そ、そこには他に何かありませんか? 犯人が重要視している可能性があるんです」

ダイヤ「何といわれましても、すでに採れる資源はもうありませんし、井戸も機能していないから長期滞在にも……」

梨子「井戸?」
 

388: 2018/04/09(月) 22:59:52.64 ID:pOQFDq+Y.net
花丸「あんなところに井戸があったずらか?」

ダイヤ「もう何年も前に使われなくなって、封印されていますから」

梨子「あの……それって、どこから引いている井戸ですか?」

ダイヤ「ヘーベル湖です」

善子「関係なさそうね」


梨子「…………………」


 ずっと気になっていたピースがカチッと、静かにはまる音がする
 錬金術士なのになぜか探偵のマネごとばかりしてきた梨子ちゃんの脳がフル回転します


<オーイ!


花丸「ん、自警団の人ずら。他の場所もなんとかなったずらね」

「た、大変ですー! 町が!!」


 そしてこの自警団の人の報告を耳にし、梨子ちゃんはようやくすべてが繋がるのを確信します
 しかし同時にこれまでの事が茶番に思えるほど、この計画の恐ろしさを知ることになりました


 


梨子「やられた………」


 梨子ちゃんは相手の作戦にうまく対応してこれたと思っていたのは間違いだったと、一言呟くのでした……
 

404: 2018/04/11(水) 00:07:01.94 ID:yfsi+8Iy.net
 -夜 自警団詰所


 ヌマヅタウンは崩壊の危機にありました


花丸「こっちもダメだった!」

善子「同じくダメよ……」


ダイヤ「ではやはり……黒澤家だけ……?」

ルビィ「ぅぅ………」


梨子「……………」


 ヌマヅタウンの水源は、南のストルデル川と東のヘーベル湖の二つがあります
 町に作られた井戸は地下水のものもありますが、大半はヘーベル湖と繋がっています


善子「ホント……冗談じゃないわ……」


 堕天使も真っ青になる今回の計画
 誰か個人を狙ってのことなのか、それとも不特定多数なのか……それは今だ不明のまま
 しかし、今この町の水源はその水質を毒へと変化させていたのでした
 

405: 2018/04/11(水) 00:07:53.69 ID:yfsi+8Iy.net
ダイヤ「つまり、町を襲う目的というよりかは、どこかの場所、誰か個人を狙っていた可能性が高いと?」

梨子「実際町から人手を遠ざけて襲撃しようとしたのは事実で、それがうまくいけばそれでよかったんだと思います」

花丸「でもそれは失敗に終わった……」

梨子「次に夜間に少数での奇襲があると予想して対応する。町を守るためには当然……」


 今にして思えばこの辺りから、ヌマヅは籠城戦をしているようなものでした
 町の外から絶え間なく襲われる可能性を考慮し行動する

 近くの森などには足を運べるかもしれませんが、それ以外の場所に出かける余裕なんてない

 盗賊のアジトに強力なモンスターを配置しているのなら、それは毒素を送り込むための時間、アジトを守るため
 アジトの使われていない井戸からヘーベル湖へと流された毒素はゆっくりと、確実にヌマヅタウンの井戸にも影響を及ぼす


梨子「そうまでして、絶対に狙いたい相手ってなんなのかな?」

花丸「……………」

ダイヤ「ただ町を壊滅させたいわけではないと?」
 

406: 2018/04/11(水) 00:09:48.84 ID:yfsi+8Iy.net
梨子「その可能性がさっき調べてもらった黒澤家周辺の井戸です」

ダイヤ「なるほど……」


 梨子ちゃんが時間稼ぎだと予想した伝令の行動はその通りで、黒澤家周辺の井戸は破壊されていました
 まるで黒澤家……もしくは黒澤ダイヤが誤って井戸水を口にしてしまわないような処置……


梨子「でも、曜ちゃんがルビィちゃんは黒澤家にいると伝えたのにそこにルビィちゃんはいなかった……」

ダイヤ「結果わたくしはすぐさま町へと飛び出す事になりましたね……」

花丸「まって……じゃあ町の戦力を削いだ目的って……」


梨子「無差別ではなく、襲いたい相手とそうでない相手を分けたかった?」

ルビィ「そんな……」

善子「なによそれっ! ムチャクチャじゃない!」

花丸「落ち着くずら……それより……」チラッ
 

407: 2018/04/11(水) 00:12:34.57 ID:yfsi+8Iy.net
 コポコポ… シュー


梨子「できました、これを!」

「ありがとう!」タッ


 町は今たくさんの人が毒素の強い井戸水を口にし、高熱や嘔吐などで苦しんでいます
 正直即氏級の毒ではなかったのが幸いですが、ほとんどの人が倒れこむ事態に騒然としています


善子「っと、こっちも出来そうかな……んーやっぱり効率が……」

梨子「同じく……慣れないっていうのもあるけど、品質より今は時間優先ですから」


 町の診療所も被害にあい、西木野医院も今は満足に稼働していません
 そんな中で最低限の解毒薬を作れるのは梨子ちゃんと善子ちゃんだけ。二人は詰所に集められた病人の看病につきっきりです

 しかもこの毒の特徴が、加熱することで毒素を濃縮するという厄介なものでした


花丸「くっ………ぅぅ………」


 すでに入り込んでいた場所から順番に……毒水を用いて作られた料理は猛毒となります
 花丸ちゃんが良く知る町のお年寄りの中でついに犠牲者がでてしまいました


ルビィ「ぐすっ………ぅぅぅぅ……」ギュッ

ダイヤ「気をしっかり……まだわたくし達にはやるべきことがあるのです」ポンッ

ルビィ「…………うん」
 

408: 2018/04/11(水) 00:13:42.58 ID:yfsi+8Iy.net
「きたぞー!」

「西門に敵襲ー!」


ダイヤ「ルビィ、いきますわよ!」ダッ

ルビィ「うんっ!」タタッ


 一度は退けたモンスターの群れがまた町を襲い始めたため、動ける人数で対応するしかありません
 ここまでが計画なのか、それとも目標を達成するまで諦めるつもりはないのか、襲撃はなおも続きます


梨子「ヨハネさんここをお願いします、工房に戻って必要なものをもう一度整理してきます」

善子「わかったわ、でもなるべく早く戻ってね」


 梨子ちゃんが怪しいと睨んだ黒澤家の伝令は姿を隠してしまいました
 どこでこちらの存在を認識したのか不明ですが、隠れるという事はもう計画も仕上げに近いのかもと梨子ちゃんは考えます


花丸「梨子ちゃん、マルも手伝うずら!」

梨子「ありがとう」タッ
 

409: 2018/04/11(水) 00:15:41.60 ID:yfsi+8Iy.net
 解毒薬に使われる素材はいくつかありますが、効能によって成分は細かく違います
 一番必要な蒸留水は少し前に梨子ちゃんが善子ちゃんの依頼で大量に作ったばかりものが津島工具店にあったので間に合いました


花丸「お礼を言うのはこちらのほうずら、梨子ちゃん」タタタ…

梨子「え…?」タッタッタ…

花丸「梨子ちゃんがすぐに井戸水を使うのをやめるように言ってくれたから、被害はまだ少なかったんだよ」

梨子「……………」


 それでも現実に被害はでていて、それはなおも続いています
 井戸水が飲めないという事はそのうち貯蓄された家庭の蒸留水が無くなり、命に係わる問題もでてきます

 その先に待つ困難な状況を想像すると梨子ちゃんは素直にその言葉を受け止められません
 今はその問題よりも明確にしないといけない問題があるのです


梨子「ねえ花丸ちゃん…」タッタッタ…

花丸「なんずら?」タタ…


梨子「花丸ちゃん、犯人について心当たりないかな?」

花丸「え、マルが?」

梨子「そういう話をこの前にしていたでしょ?」

花丸「でも…それは結局マルの考え違いというか、実際には不可能で……」

梨子「…………」
 

410: 2018/04/11(水) 00:16:54.74 ID:yfsi+8Iy.net
 -梨子ちゃんの工房


 ガチャッ

梨子「二階から必要なもの取ってくるので、花丸ちゃんは奥の台所にある魔法の草をっ!」

花丸「わかったずら~!」


ぱな「ぴゃあっ! ぴゃあっ!」オロオロ

りん「おたすけ」


梨子「ぱなちゃん、りんちゃん! 良かった、あなた達も手を貸してくれる?」

ぱな「ぴゃあ~~!!」オロオロ

りん「おたすけ」

梨子「ど、どうしたの?」


花丸「り、梨子ちゃ~~~~ん!!」バッ

梨子「花丸ちゃんどうし……」

花丸「妖精さんがっ!!」

梨子「っ!?」
 

411: 2018/04/11(水) 00:18:12.37 ID:yfsi+8Iy.net
まき「……………」


梨子「まきちゃん!!」ギュッ

花丸「だ、台所の傍で倒れていたずら……」

梨子「まきちゃんしっかりして! どうして……あ………」


 テーブルの上に広げられていた道具を見て、梨子ちゃんは胸がしめつけられる


梨子「まきちゃんまさか……おやつ作りの準備をしてくれていたの?」

まき「……………」

梨子「ルビィちゃんと作るおやつのための……下準備を……まきちゃん……」グッ

まき「…………っ」ピクッ

花丸「あ、梨子ちゃん! まだ生きてるずら!」

梨子「っ!!?」バッ


まき「…………っ!」ヨロッ
 

412: 2018/04/11(水) 00:19:28.63 ID:yfsi+8Iy.net
梨子「まきちゃん!良かった、無事……ってわけでもないよね……えっと……」スッ


 まきちゃんはおやつ作りのお手伝いをと、その準備をしている最中に井戸水に触れてしまいました
 妖精さんはデリケートなので、毒素には触れるだけで危険があります


梨子「ごめん花丸ちゃん、先にまきちゃんに薬を作るからっ」

花丸「え、でも……」

梨子「善子ちゃんに素材を届けてあげて!」サッ

花丸「善子ちゃん一人じゃ……」

梨子「ぱなちゃん、りんちゃん、手伝って!」


ぱな「ぜんしんぜんれいつくすです?」

りん「ぎょい」


花丸「梨子ちゃん! 今は優先すべきことを…っ」
 

413: 2018/04/11(水) 00:20:13.33 ID:yfsi+8Iy.net
梨子「だからやるんです。ぱなちゃん、フラスコ持ってきて」

ぱな「おまかせです?」パタパタ


花丸「梨子ちゃん、善子ちゃん一人じゃ追いつかないよ! このままじゃまた手遅れになる人が……!」


梨子「でもっ…まきちゃんの衰弱具合から見て、ここから動かすのも危険です。だから……」

花丸「梨子ちゃんっ!」

梨子「私は……まきちゃんを助けたい。花丸ちゃんは早く素材を届けて……」

花丸「…………っ」


まき「…………」ヨロヨロ…
 

414: 2018/04/11(水) 00:20:59.78 ID:yfsi+8Iy.net
梨子「まきちゃん? ダメだよ寝てなきゃ、今薬を作ってあげるから……?」

まき「…………」ヨタヨタ… カサッ

花丸「魔法の草……え」


 テーブルの上に寝かされていたまきちゃんがゆっくり起き上がると、魔法の草を手にします
 そしてそれを梨子ちゃんのもとに運びます


梨子「まきちゃん……なにして……」

まき「…………」ムスッ グイ

花丸「運べって……梨子ちゃんに?」

まき「…………」コクッ グイグイ


 コンコンッ ゴメンクダサーイ


梨子「私に…行けって言うの……まきちゃん……?」

まき「…………」ムスッ グイ
 

416: 2018/04/11(水) 00:23:00.40 ID:yfsi+8Iy.net
花丸「梨子ちゃん、妖精さんが自分の事よりも優先して欲しい事があるって……」

梨子「まきちゃん……あなたっ!」ギュッ


 ガチャ ハイリマスヨー


花丸「行こう梨子ちゃん! 妖精さんの想いに答えるずらよ!」グッ

梨子「ん………まきちゃん………すぐに戻ってくるから……待っててね」ナデナデ

まき「……………」ムスッ


??「ああいた。もしもーし」


梨子「ぱなちゃんりんちゃん、まきちゃんを診ててあげて。すぐに戻るから!」スッ

ぱな「かきゅうてきすみやかです?」

りん「たいやく」

花丸「いい子達ずらぁ……」


??「ちょっと、おーい」


花丸「もう、さっきからなんずら!?」クルッ
 

417: 2018/04/11(水) 00:24:02.91 ID:yfsi+8Iy.net
絵里「お取り込み中悪いのだけど、ちょっと急用があってね」

花丸「へ…………?」

梨子「えっ!?」


絵里「ここ、桜内さんの工房でしょ?」


花丸「え、絵里ちゃ~~~~ん!!」

梨子「エリー先輩!!?」


絵里「花丸ちゃんがここにいるのはちょっと驚いたわ」

花丸「な、なんでここに!? レッテン廃鉱に閉じ込められたって…!?」

絵里「ええ、危うくアカデミーの前に人生を卒業するところだったわ。ふふ」

梨子「いや、そこを軽く笑い話にされても……」
 

418: 2018/04/11(水) 00:25:56.73 ID:yfsi+8Iy.net
絵里「でもこうして無事に救出してもらったから、そこはみんなにお礼を言わないとね」

花丸「じゃあ廃鉱近辺のモンスターは?」

絵里「なにかいたらしいわね。私が外に出た頃にはもうなんにもいなかったけど……ん?」

梨子「自警団の主力が向かったそうだから、やっぱりすごかったんですね」

絵里「ちょっと、その子見せて」グッ

梨子「あっ」

まき「………」グデ…


絵里「…………この子も毒素にやられたのね、ちょっと待ってて」サッ

梨子「え、あの……」


 ぱなちゃん達が看病していたまきちゃんの症状を一瞬で見抜いた絵里ちゃんは、ポーチからボトルをいくつか取り出します
 それを別に取り出した空のフラスコに少量ずつ加えていきます


梨子(今の薬品なんだろ……それに、あれただの中和剤じゃない……)

絵里「妖精用ならこれくらいかな」シャカシャカ
 

419: 2018/04/11(水) 00:27:13.46 ID:yfsi+8Iy.net
絵里「はい出来たわ。これを飲ませてあげて」スッ

梨子「え……もしかして解毒薬ですか?」

絵里「妖精さん専用のね」

花丸「もうできたずらか?」

絵里「元々ある解毒剤をラフ調合しただけだから時間はかからないわよ」

梨子「……………」


 異なる薬品を軽量もしないで完璧な配合で混ぜ合わせた手法
 そこに一切の器具も使わないであっさりと完成させた絵里ちゃんのレベルの高さを梨子ちゃんは痛感しました


梨子(すごい……これがエリー先輩のレベル……ううん、先輩にとって今のは片手間でできるレベルだ)


花丸「大丈夫ずらかー?」

ぱな「………」グイッ

まき「‥‥……」コクッ


 絵里ちゃんの調合した解毒剤はすぐにその効果を発揮し、まきちゃんの顔色はみるみる良くなっていきました


りん「かんしゃ」
 

420: 2018/04/11(水) 00:29:25.95 ID:yfsi+8Iy.net
梨子「まきちゃん……よかった……」

絵里「妖精さん用の中和剤がまだ残っていてたすかったわ」

梨子「あの、ありがとうございますエリー先輩!」

絵里「いいわよこれくらい。それよりも時間がおしいわ」


花丸「あっ、そういえば絵里ちゃんはどうしてここに?」

絵里「どうしてって、町の状況を解決するためよ」

梨子「それでどうして私のところに?」

絵里「あなたを迎えにきたのよ、桜内さん」

梨子「え、私?」

絵里「町の状況はだいたい聞いたわ。そしてあなたのおかげでこれまで町は守られてきたという事も」

花丸「そうだね。梨子ちゃんがいなかったら最初の襲撃で大きな被害がでていたはずだよ」

梨子「でも……私は結局相手の手の内をすべて読み取れなかった……今の事態を防げなかった」
 

421: 2018/04/11(水) 00:30:12.58 ID:yfsi+8Iy.net
絵里「何言ってるの、十分すぎる活躍よ」

花丸「そうずら、どこに梨子ちゃんを攻めるところがあるずらか」

梨子「ん…………」


絵里「そもそもそれ、あなたの仕事じゃないでしょ?」


梨子「え? 仕事……」

絵里「卒業試験まっ最中の錬金術士が町を守るのに責任を感じる必要なんてないし、そこに重荷を感じる事もない」

梨子「先輩…でも……」

絵里「あなたは錬金術士でしょ?」

梨子「…………はい」

絵里「だったら錬金術士として出来る事を考えて、可能な事に全力をだせばいいのよ」

梨子「だけど……」
 

422: 2018/04/11(水) 00:31:20.22 ID:yfsi+8Iy.net
絵里「本当なら今頃この町は壊滅していてもおかしくなかった。元々その役目だった皆が出し抜かれたの」

花丸「ホント……なさけないずら……」

絵里「それを救ったのはまぎれもなくあなたで、頼ったのは私達。この場合花丸ちゃんが一番大きいかな」

梨子「エリー先輩…そんな……」

絵里「だからそこに責任を感じないで。そしてその事で目の前の目的を見失わないで」

梨子「目的………」

絵里「あなたは犯人探しがしたいの? それとも町を守りたいの?」

梨子「それは……もちろん町を守りたいです。だからそのために犯人を……」

絵里「私達にしか、錬金術士にしかできない事が、もっとも必要な部分にあるでしょう」

花丸「それって……なんずらか?」


絵里「犯人を探し出すのは他の人に任せて、まずは原因である水源の浄化。今はなによりそれが最優先でしょ?」

梨子「っ!?」ドキッ


梨子(そうだ……このままだと町に甚大な被害がでる。その未来を想像していたのに私は犯人の目的とか、違う事ばかりに……)
 

423: 2018/04/11(水) 00:34:27.84 ID:yfsi+8Iy.net
絵里「周辺のモンスターは自警団の主力部隊が戻ったからもう平気。そちらの被害は取り敢えず抑えられている」

花丸「ほっ…よかったずら……」

絵里「すでにでている毒素の被害者にも対応できるだけの人員が戻ってきているから、安心して」

花丸「あ、じゃあマルもこうしてはいられないずら! 盗賊さん達のこともあるし、町にでないと」

絵里「こっちの事はお願いするわ。私達はこれから行くところがあるから」


梨子「…………ヘーベル湖ですね」

絵里「そうよ、目的はわかっているわね?」

梨子「毒に侵された湖の浄化。だけどあれだけの水源の毒素をどうにかできるものなんですか?」


絵里「出来るわ。私と鞠莉と、あなたがいればね」
 

424: 2018/04/11(水) 00:35:35.67 ID:yfsi+8Iy.net
梨子「私?」


花丸「じゃあマルは行くずら、梨子ちゃん、絵里ちゃん、よろしく頼むずら」

絵里「ええ、まかせて」

梨子「と、とりあえず行きの道中説明してもらえますか?」

絵里「勿論。東門のところで鞠莉が馬車を用意して待機してるから行きましょう」

梨子「……はい! 行ってくるね、ぱなちゃんりんちゃん、まきちゃん!」


ぱな「ごかつやくきたいするです?」

りん「おうえん」

まき「…………」ムスッ
 

425: 2018/04/11(水) 00:36:52.47 ID:yfsi+8Iy.net
続く…っ!

447: 2018/04/11(水) 23:18:40.41 ID:yfsi+8Iy.net
 -ヌマヅタウン東門前


 町のあちこちから聞こえていた戦闘の音も今ではすっかり落ち着いています
 それでも襲撃規模が不明のまま防衛するしかない現状に、自警団の人達にはまだまだ緊張状態が続く

 そんな中、普通のモノよりひと際大きい馬車を待機させている鞠莉ちゃんがいました


絵里「鞠莉っ! 準備はできてる?」タタッ

鞠莉「エリー、こっちはオッケーよ! それと……」チラ

梨子「はぁ、はぁ……ふぃ……」


鞠莉「梨子……」

梨子「え、あっはい!」


 そこにいたのはヌマヅタウントップクラスの錬金術士鞠莉ちゃん
 絵里ちゃんから一緒に行動するという事は聞いていた梨子ちゃんですが、やはり緊張するものがあります

 てっきり作戦について重要な事を話すのだと思い身構える梨子ちゃんに、鞠莉ちゃんはゆっくりと頭を下げるのでした
 

448: 2018/04/11(水) 23:19:41.96 ID:yfsi+8Iy.net
鞠莉「ありがとう」

梨子「マ、マリーさん!?」

鞠莉「今回の話、ここまでの経緯も聞いたわ。町を守ってくれて、本当にありがとう」

梨子「そ、そんな……私は自分に出来る事をやっていただけで…」

鞠莉「それがとても大きな事で、私にとってなによりありがたい事だったから、お礼はさせて」

梨子「マ……はい。それでも被害はまだ続いています、今は……」

鞠莉「そう、まだ終わっていないわ。これから向かう場所は聞いているわね?」

梨子「ヘーベル湖での浄化作業ですね」

鞠莉「オッケー、じゃあ詳しい説明は移動しながら伝えるから、二人とも乗って!」

絵里「鞠莉、頼んでいたものは用意してある?」

鞠莉「当然バッチリよ!」

梨子「お、お邪魔しますー…」


 町で見かける一般的な馬車よりも遥かに大きい高級キャラバン仕様の馬車に乗るのは初めての梨子ちゃん
 少し違う緊張感を味わいながら乗り込むと、そこには見知った顔がありました
 

449: 2018/04/11(水) 23:20:33.54 ID:yfsi+8Iy.net
曜「お、きたきた」

ダイヤ「お待ちしていましたわ」

ルビィ「梨子さーん」


梨子「曜ちゃんにダイヤさん、ルビィちゃんまで……あ、と……」


果南「直接話すのは初めてだね。私は松浦果南、あらためてよろしく」

梨子「桜内梨子です、よろしくお願いします」


 馬車にはたくさんの荷物とともにダイヤさん達も乗り込んでいました
 果南ちゃんとは一度会ってはいますがどういう人なのかはまだ知りません


絵里「よっと、あれ…曜が来たのね」

曜「絵里ちゃんひさしぶり」

ダイヤ「!?」ドキッ
 

450: 2018/04/11(水) 23:21:59.88 ID:yfsi+8Iy.net
 最後に鞠莉ちゃんも乗り込むと、馭者さんに一言告げる
 そして馬車はヌマヅタウンからヘーベル湖に向けて出発しました


鞠莉「今からヘーベル湖だと、到着は朝方ね。それまでに準備をしましょう」

果南「先にこっちじゃない?」ゴソゴソ…

絵里「あ、頼んでおいたものね」キラッ

梨子(なんだろう、新兵器とかそういうのかな?)


 普通の食事でした


絵里「あ~~やっとまともに食べられるぅ♪」ハムッ

鞠莉「廃鉱ではロクに食べれなかったみたいね」

絵里「調査団の人らとなんとか工夫して凌いでたのよ、もう大変だったわ~」ムグムグ


梨子(エリー先輩、さっきと雰囲気が違う。フランクなところもあるんだ)


ルビィ「はい、梨子さんもしっかり食べておかないと」

梨子「ありがとうルビィちゃん」
 

451: 2018/04/11(水) 23:23:39.08 ID:yfsi+8Iy.net
絵里「そういえばどういう人選なの?これ」

曜「さぁ? 私も団長がいくんだとばかり思ってたけど、私に行けって」

鞠莉「町への襲撃がまだ終わったわけではないし、敵の本命が来るかもしれないからね、指揮系統を重視したのよ」


梨子(おそらくヘーベル湖にもモンスターがいる可能性がある。それは盗賊のアジトを襲った……)


果南「それでダイヤはどうして? ってかルビィちゃんも見つかったのに一緒だなんて」

ダイヤ「わたくしが申し出たのです。鞠莉さんからこちらの方にも襲撃が予想されるから人手を貸して欲しいと言われましたので」

鞠莉「次期頭首みずから来るなんてね」

ダイヤ「今の状況に頭首もなにもありません。家のものにも自警団の方々と協力するようには言ってあります」

果南「な~んか違う目的もまじってない?」クスッ

ダイヤ「そそ、そんな事ありません。それにルビィの事もありますし、すべて終わってからでないと余計な混乱をまねくと思ったのです」

ルビィ「ルビィはまだ捜索届がでていて、行方不明扱いだから…」

鞠莉「事情を説明するにしても確かに今は違うのはわかるけど、いいの?」

ダイヤ「ええ。それにルビィも立派に戦えます、わたくしが保証しますわ」

ルビィ「ぅゅ、がんばルビィ!」
 

452: 2018/04/11(水) 23:25:12.16 ID:yfsi+8Iy.net
梨子(マリーさんはダイヤさん達とすごく親しい感じなのかな)チラチラ…


曜「鞠莉ちゃん達は幼馴染なんだよ」サッ

梨子「曜ちゃん、そうなんだ」

曜「三人とも同い年でね、昔からよくそろって騒動をおこしてたよ」

梨子「ということは曜ちゃんも?」

曜「うん。鞠莉ちゃん達とは一個下だけど、私もよく遊んでたなー」

梨子「え……曜ちゃんの一個上って、マリーさんとダイヤさんて私の一個上なの!?」

曜「そだよー?」

梨子「マ、マリーさんていつから錬金術始めたのかな……?」

曜「さぁ? 最初は遊びでやってたと思ったらいつのまにか本格的にやってたんだよね」


梨子(それってもうほとんど天性の素質かも……)
 

453: 2018/04/11(水) 23:26:28.58 ID:yfsi+8Iy.net
曜「で、私の一個下にルビィちゃんや花丸ちゃんに善子ちゃん達がいて、こっちも昔からよく一緒に遊んでたね」

梨子「そうなのね…………ん?」

曜「年が近いから、みんな昔から仲良しなんだよ」

梨子「ちょっとまって、善子ちゃんて、ヨハネさんよね?」

曜「ああ、そういえば錬金術やってた頃はなんかよくわかんないけど堕天使ヨハネを名乗ってたかな」

梨子「と、年下だったのね…ヨハネさん……」

曜「善子ちゃんけっこう大人っぽいからね~」


 梨子ちゃんは善子ちゃんが昔錬金術士をやっていた事を知り、爆弾制作も手伝ってもらいました
 そしてその丁寧な技術に見習う部分もあり、すごい人だとも思っていました


梨子(ヌマヅって、錬金術そんなに盛んだったの? みんなすごいな……)

曜「だから、私からも言わせて…」

梨子「ん?」

曜「町と…それからルビィちゃんの事もありがとう」

梨子「曜ちゃん……」


 曜ちゃんとルビィちゃんの間にあったただならぬ空気の理由も今なら理解できます
 

454: 2018/04/11(水) 23:29:09.77 ID:yfsi+8Iy.net
鞠莉「さてと、じゃあエリーと梨子、食事しながらでいいから聞いてちょうだい」

絵里「むぐ………ん」コクッ

梨子「はい」


 ヘーベル湖の浄化作戦。することは単純明快ですが、その規模がとても大きい今回の作戦
 鞠莉ちゃんは三人の錬金術士がいて初めて可能になる方法を選びました


梨子「三か所からの同時浄化……?」

絵里「エリキシル剤と超純水を元に作った天結晶をマテリアブースターで放出するのよ」

梨子「エ、エリキシル剤に超純水!? そんなものを用意するのにどれくらい……」

鞠莉「もう数は揃えてあるわ、そこは心配ナッシングよ」

梨子「え……」

果南「はいこれ」ゴソゴソ…


 果南ちゃんが積んであった荷物の一つをみなの中央に取り出す
 そこには錬金術の中でも高難度のレア度を誇るアイテムが大量にありました

 梨子ちゃんにとってはエリキシル剤1つ作るのに何日かかるかわからない代物なのに、今では大安売りができそうです
 

455: 2018/04/11(水) 23:31:13.63 ID:yfsi+8Iy.net
鞠莉「梨子、あなたエリキシル剤と超純水を作った事はある?」

梨子「ないです。作る技量も今の私にはありません」


 問題が重要な部分なのでためらうことなく正直に答えます


鞠莉「オッケー、じゃあこの二つのラフ調合は私とエリーでやるわ」

絵里「今からやれば十分間に合うわ」

梨子「こ、ここでやるんですか?」

鞠莉「他にないし、おそらく現地で作ってる余裕なんてないからね」

果南「やっぱり湖周辺にモンスターいるのかな?」

鞠莉「いるでしょうね。湖の水質を完全に変化させるまでは手を出されたくないはずだし」

ダイヤ「果南さん、くれぐれも無茶はしないように」

果南「心配性だな~ダイヤは」

曜「果南ちゃんの場合、無茶されるとこっちに被害がでちゃうからね~」ハハ

果南「そうかなー?」


梨子「?」
 

456: 2018/04/11(水) 23:32:30.27 ID:yfsi+8Iy.net
鞠莉「梨子、この地図を見て」ガサッ

梨子「これはヘーベル湖を上から見た地図ですね」

鞠莉「ええ。とても大きいこの湖を完全に浄化するにはどこから作業をはじめればいいか、わかる?」

梨子「えっと……」


 これは鞠莉ちゃんからのテストのようなものだと梨子ちゃんは瞬時に理解します
 期待に応えるためにも適当には考えません。自分がやるならと、思考を回転させます


梨子「北のここと、東のここ、あとは南西のこのポイント……かな?」

鞠莉「理由は?」

梨子「同時に浄化するという事は浄化のマテリアエネルギー同士が干渉しないようにする必要があります」

絵里「……………」カチャカチャ

梨子「拡散範囲が円形に広がっていくのなら、もっとも干渉部分を少なく湖すべてをカバーできるのがここだからです」

鞠莉「なるほどね」
 

457: 2018/04/11(水) 23:34:38.00 ID:yfsi+8Iy.net
鞠莉「エリーもそれでいい?」

絵里「問題ないわ」

梨子「えっと、正解でしたか?」

鞠莉「ん? 正解もなにも、私はよくわかんないから聞いたのよ」

梨子「へ?」


絵里「鞠莉ったら、三か所から同時に浄化するのがいい、でもどこが一番効率いいかなって悩んでたのよ」

梨子「え……?」

鞠莉「一人でできる範囲はわかってたから、三人いればいけるってのはわかるんだけどねぇ」

絵里「まぁでも私にも聞いてたし、答えはほぼ一緒。だから自信持っていいわよ、桜内さん」

梨子「そ、そうなんですか……」

鞠莉「二人が同じ答えなら間違いないわ。これでいきましょう」


 鞠莉ちゃんは直感的にあれこれ閃くタイプで、論理的に理詰めしていくのは苦手です
 

458: 2018/04/11(水) 23:35:26.42 ID:yfsi+8Iy.net
鞠莉「さっすがエリーの後輩ね、見事よ」

梨子「で、でもどうして私なんですか?」

鞠莉「ん、どういう意味?」


梨子「錬金術の技術的な問題なら、私よりヨハネさんのほうがうまくいくと思うんですけど…」


鞠莉「ヨハネ?」

絵里「津島さんでしょ」

鞠莉「ああ、善子か。んーそうねぇ……あの子には無理かなぁ」

絵里「無理でしょうね」

梨子「え……でも」
 

459: 2018/04/11(水) 23:36:49.62 ID:yfsi+8Iy.net
鞠莉「なんというか、あの子はブレ幅が大きすぎるのよ」

絵里「それにもうやめたって聞いたけど?」

梨子「で、でもモンスターの撃退用に爆弾制作をする時に手伝ってもらって、それもすごくて……」

鞠莉「あの子、素質はすごいもの持ってるのに力の使い方が極端なのよねぇ」

絵里「物を破壊する分野に関しては天才だったわ」

梨子「そ、そうなんですか……」

鞠莉「それに、善子がダメだから梨子を選んだわけじゃないわ」


絵里「ごめんなさいね、鞠莉のやつが気になるっていって、オトノキでのあなたの成績を調べさせてもらったの」

梨子「へ………ええっ!?」

鞠莉「だってオトノキからきたって、またエリーみたいな天才なのかなって思うじゃない?」

絵里「別に私は天才でもなんでもないわよ」


梨子「……………」
 

460: 2018/04/11(水) 23:38:11.19 ID:yfsi+8Iy.net
鞠莉「で、あなたの書いた論文を見せてもらったの」

絵里「たいしたものね、あれ」

梨子「あれを……先輩達が……」


鞠莉「あれを見て、あなたの見ている想像の世界、空間における認識力が飛びぬけているのはわかったわ」

梨子「マリー……さん」


 すでにレベルの差は歴然。ただただ二人に憧れだけを抱いていた梨子ちゃんにその言葉は心に響きました


鞠莉「だから、今回の作戦を成功させるのには、私達三人でなければダメなのよ」

梨子「は、はいっ!」

絵里「浄化の力は強すぎても駄目、弱すぎても駄目な繊細なものだからね」
 

461: 2018/04/11(水) 23:40:54.46 ID:yfsi+8Iy.net
鞠莉「ってことで梨子にはこれの使い方とエネルギー調整を現地に到着するまでにやってもらうわ」ゴトッ

梨子「えっと……ホース……あ、これがマテリアブースターですか?」

絵里「鞠莉が作った強力なやつね。組み込んだ媒体をマテリアエネルギーとして放出するものよ」

鞠莉「ボーっとしてるとブースターに意識を持っていかれるから、扱いは慎重にね」

梨子「は、はい……」ゴクッ


 


曜「それで、現地での私達の役目って護衛だよね?」

ダイヤ「そうです。浄化作業中のみなさんは無防備になり、とても危険なのです」

果南「ということは三か所それぞれの場所を護衛するんだね」

ルビィ「えっと、担当箇所は……」
 

462: 2018/04/11(水) 23:43:03.84 ID:yfsi+8Iy.net
曜「果南ちゃんの担当は鞠莉ちゃんだよね」

果南「んー別に私は誰でもいいけど、まぁ気楽なのは鞠莉かなぁ」

ダイヤ「わ、わたくしは絵里さんを……守らせていただきますわ!」

ルビィ「じゃあルビィも一緒に…」


鞠莉「あールビィには別の役割をお願いしたいの」カシャカシャ

ルビィ「ぅゅ?」


 エリキシル剤と超純水の精密配合という超難易度の作業をよそ見しながらこなす鞠莉ちゃん
 素材一つとってもその金額は梨子ちゃんのこれまでの生活費を賄えるほどのもの…

 横目にそれをわかっている梨子ちゃん一人がハラハラする
 絵里ちゃんは慣れているようで、同じように軽やかに作業をこなしていきます


ルビィ「ん、わかりました!ルビィは馬車と馭者さんを守ります」

鞠莉「それと、長時間の作業になるから各ポイントに物資の配達と状況の伝達も頼むわね」

ダイヤ「重要な役目ですよ、ルビィ」

ルビィ「うん。お姉ちゃんに負けないくらいがんばルビィ!」
 

463: 2018/04/11(水) 23:44:36.60 ID:yfsi+8Iy.net
曜「ってことで、私が梨子ちゃんを護衛するね」

梨子「曜ちゃんなら安心よ。よろしくね」


 こうして現地での作業担当が決まりました


 鞠莉果南ペア 北のポイント
 絵里ダイヤペア 東のポイント
 梨子曜ペア  南西ポイント
 ルビィ馭者さんペア 走り回る


 役割を決めたらそれぞれ揺れる馬車の中で順次休息を取ります


梨子「ふぅ………んっ…」ブブブブ…

鞠莉「ほっ……よっ……はい66個目」カシャカシャ

絵里「く、追いついてきたわね……69個目」カシャカシャ


 あまり緊張感のない二人と機器の調整に全神経を集中する梨子ちゃん
 結局ヘーベル湖に到着するまで一度も休憩することはありませんでした
 

475: 2018/04/12(木) 23:11:33.19 ID:0IA3O+pU.net
 -ヘーベル湖 朝方


曜「おー、やっぱりいるねぇ」

果南「だね。でも思っていたよりかは少ないね」

ダイヤ「あれだけ町を襲っておいてこちらにも同じだけいるだなんて、考えたくもありませんわ」サッ


鞠莉「果南、一度このあたりの掃除をしてくれる?」

果南「はいよっ」

曜「あ、私も行く~!」

果南「曜、ひさしぶりに勝負しよっか?」サッ

曜「おっいいね!」バッ

ダイヤ「二人とも、遊びではありませんのよ!」
 

476: 2018/04/12(木) 23:12:52.78 ID:0IA3O+pU.net
絵里「もう一回、集中して」

梨子「はいっ!!」ブブ……キュイィィィィン


 現場に到着しましたが、梨子ちゃんの調整は難航していました


鞠莉「どうエリー、いけそう?」

絵里「稼働は問題ないけど、安定性にちょっとかけるわね」

梨子「はぁ……んっ……んん!」キィィィィィン… パシュッ

鞠莉「……………」


ダイヤ「ルビィ、馬車の周辺はわたくし達でカバーしますわよ!」

ルビィ「うん!」
 

477: 2018/04/12(木) 23:14:24.16 ID:0IA3O+pU.net
梨子「うぅ……どうして…ある一定の出力までいくとプツっと切れる感じで……」

鞠莉「梨子、稼働時には目を閉じて、指先ではなくお腹の中から吐き出すように」

絵里「まだ心のどこかでオーバー出力になるのを恐れているようだけど、そんなヤワなものじゃないから安心しなさい」

梨子「は、はい……」スッ


 カチッ キュイィィィィィィン…


鞠莉「体をブースターに合わせるように、ラインを超えれば負担は一気に軽くなるわ」

梨子「……んん…………は、あ……」キュィィィィィィ……

絵里「………もう少しよ、がんばって」


 キュィィィン パシュッ パキィン


梨子「んんん……!」ググ…


鞠莉「梨子、目を開けていいわよ」

梨子「え……?」

絵里「おつかれさま」


 梨子ちゃんが手にするマテリアブースターがほのかに光り輝きます
 ブースターと梨子ちゃんの魔力が同調したのです


梨子「や、やった……ふぅ」
 

478: 2018/04/12(木) 23:15:16.72 ID:0IA3O+pU.net
 ドガアァァァァァン!!


梨子「」ビクッ

絵里「あいかわらずうるさいわねー」

鞠莉「爽快でいいじゃな~い」


 突如響く爆音に梨子ちゃんが驚きます
 その音は馬車の外、モンスター退治をしている一人によるものでした


果南「そーっれ!」ブンッ ドゴォン!

曜「くあぁぁ、追いつかない!!」ガッ

果南「それもーらいっ」ヒョイ

曜「ぬあぁ!」


 そこには、まるで子供がおもちゃの取り合いをするかのようなやり取りが見て取れました


梨子「曜ちゃんと、え、松浦さん!?」
 

479: 2018/04/12(木) 23:16:37.69 ID:0IA3O+pU.net
絵里「果南は鞠莉の専属護衛みたいなものだけど、元々は自警団だったのよ」

梨子「あ……曜ちゃんが言っていたすごく強い護衛って……」

鞠莉「ね、バカな戦い方でしょーあれ?」


 うふふと笑いながら果南ちゃんの戦い方を見つめる鞠莉ちゃん
 梨子ちゃんはそこに二人の間にある絶対的な信頼関係を感じます


鞠莉「以前はおっきな剣だったり斧を振り回してんだけど、いつからかあっちのが楽でいいって」

梨子「楽って、そういう問題ですか?」


果南「ほっ、そーーら!」ブンッ バガァァン!


 いつの頃からか、武器を振り回すのも持ち運ぶのも面倒になった果南ちゃんは現地調達でいい事に気が付きます
 そう、果南ちゃんが武器として選んだのは……
 

480: 2018/04/12(木) 23:17:54.28 ID:0IA3O+pU.net
果南「お、こいつおっきい!」ガッ キャイン!


 襲い掛かるモンスターを直接捕まえて、そのまま力まかせにブン投げる
 とてもシンプルですが、それを突き詰めた一つの最終形態ともいえる豪快な技


曜「むー、バカ力めぇ」バスッ

果南「嵩張らないし、楽でいいじゃ~ん」ブンッ ドガアァン


 果南ちゃんに捕らえられたモンスターは直後大砲の弾となり、モンスターの群れに撃ち込まれる
 ある程度知性や本能で察せるモンスターはこの段階でほぼ逃げ出します


果南「なんだかやる気のある子ばっかりだねぇ」ブンッ ガッ ブンッ!

曜「これはあれかな、やっぱり鞠莉ちゃんが言ってた……」バッ ドスッ


鞠莉「操るというよりも、強制的に活動させられているのか…‥」

絵里「魔力反応はないから、本能部分に直接撃ち込まれているのかもね」

梨子「ほえー……」
 

481: 2018/04/12(木) 23:19:48.98 ID:0IA3O+pU.net
 ものの数分でモンスターの群れを蹴散らした果南ちゃんと曜ちゃん
 初めて見る豪快な戦闘に梨子ちゃんはただ見惚れるしかありませんでした


曜「むぅ、負けたぁ」

果南「はっはっは~」

鞠莉「ご苦労様。さてと、それじゃ本題にはいりますか」


 鞠莉ちゃんが馬車に積まれた荷物から小さな砂時計を取り出す


絵里「桜内さん、これを一つ持っていて」サッ

梨子「これは……浄化開始のタイミングですか?」

鞠莉「そうよ、各ポイントに待機するとお互いに正確なタイミングを計るのが難しいからねっ」

絵里「この砂時計、最後の10秒前になると音がなる仕掛けがしてあるから、より正確にあわせられるわ」

梨子「おーすごい」

鞠莉「そしてこっちも大事なもの、よっ」ゴロゴロ


 次に鞠莉ちゃんが取りだしたのはいくつかの小瓶


絵里「私これあんまり好きじゃないのよねぇ」

鞠莉「私だって嫌よ。でもそうも言っていられないでしょ?」

梨子「………?」
 

483: 2018/04/12(木) 23:21:04.86 ID:0IA3O+pU.net
 それは持続性栄養剤。飲むとしばらく疲れ知らずになり、まったく疲労がたまらなく薬
 しかしその効力が切れた時に、副作用としてそれまでごまかしていた疲労が一気にくるというものでもあります


梨子「これ実物を見るのは初めてです」

絵里「効果は数日続くから、必要なのはわかるけど」

鞠莉「一度作業にはいったら途中で回復アイテム使ってる余裕もないからね、梨子も覚悟してね」

梨子「は、はい……」


 その他にもいくつかのアイテム、食料を受け取ります

 そして馬車は南西のポイントに到着しました


曜「んしょっと、必要な荷物はこれで全部かな?」

梨子「うん、ありがとう」
 

484: 2018/04/12(木) 23:22:52.54 ID:0IA3O+pU.net
鞠莉「それじゃ梨子、エリー、今からこの砂時計を動かすわよ」

絵里「ええ」

梨子「はい!」


鞠莉「次に会う時は終わった後だから、みんなでおいしいものでも食べにいきましょ」サッ

絵里「私はひたすら眠りたいわ」サッ

梨子「………よいしょっ」サッ


 浄化作戦開始の合図となる砂時計が動き始めます
 ここからはのんびりしているわけにもいかないので、馬車は次の目的地に向かって走り出しました


曜「わぁ、湖の色が……」

梨子「ここまで汚染されているなんて…」
 

485: 2018/04/12(木) 23:24:01.03 ID:0IA3O+pU.net
 生活用水にも使われるほど綺麗な水で満たされたヘーベル湖は、今や毒素のたまり場となっています

 梨子ちゃんは指定ポイントの中で自分がやりやすそうな場所を探すと、そこにシートを広げます


曜「天気もいいし、湖がこんなんじゃなかったらいいピクニック日和なのにね」

梨子「終わってからまたゆっくりしたいね」


 二人は軽く食事をとりますが、睡眠はとりません
 そのあたりの体調は鞠莉ちゃんからもらった回復アイテムで無理やり押し上げ、持続性栄養剤で乗り切ります

 そのため作戦開始までの時間、特にする事もなくただ待つしかありません


曜「どれくらいで開始なの?」

梨子「砂時計で見ると、4時間11分後かな」

曜「ふむ、見晴らしもいいから警戒もしやすいし、このままここで待機しておくね」

梨子「今のうちにブースターに慣れておこ」
 

486: 2018/04/12(木) 23:24:57.05 ID:0IA3O+pU.net
曜「………………」


梨子「よ……ん………」カチッ ブブ… キュィィィン


曜「……………」


梨子「ん、いい感じっ」キュィィィィィィン


曜「………ねえ梨子ちゃん」


梨子「ん、なにー?」シュィィィン ギュルギュル…


曜「梨子ちゃんは、事件の犯人って誰だと思ってるの?」

梨子「え?」シュイイン…… シュウー


曜「ルビィちゃんが梨子ちゃんの推理がすごいって言ってたからさ、どう見てるのかなって」

梨子「……………犯人か」
 

487: 2018/04/12(木) 23:25:56.62 ID:0IA3O+pU.net
梨子「私にはどれだけ考えても絶対にわからないかな」

曜「そうなの?」

梨子「だって犯人は、私の知らない人だと思うから」

曜「ん、どういう事?」

梨子「犯人像は特定できた。だけどそこから考えられる人物に思い当たる人はいない」

曜「それはしょうがないよ、梨子ちゃんまだヌマヅにきてそんなに経ってないし…」

梨子「うん。だから犯人がわかるのは、町の内情に詳しい人…‥」チラッ


曜「ん、私?」


梨子「曜ちゃんでもダイヤさんでも、花丸ちゃんでも。私よりもこの町に昔からいるみんなにしかわからない」

曜「えーでも、私も知ってる人にこんな事する人なんて……」
 

488: 2018/04/12(木) 23:27:05.92 ID:0IA3O+pU.net
梨子「花丸ちゃんがね、犯人像にあてはまる人はいるっぽい事を言ってたんだけど」

曜「え、わかったの?」

梨子「でも、絶対にありえない、不可能だって事も言ってたよ」

曜「………………」


梨子「これだけの被害をだした犯人を私は許せないと思ってる。でも後はみんなにまかせる」

曜「………梨子ちゃんのいう、犯人像って?」


梨子「何かの事情で動けない誰か」

曜「…!?」ピクッ

梨子「そして、何かの事情で動けない誰かを狙っているのかもって考えてる」

曜「どうして?」
 

489: 2018/04/12(木) 23:28:12.00 ID:0IA3O+pU.net
梨子「これだけ手の込んだ作戦なのに、無差別でもなければ成り行き任せでもない」

曜「それは、絵里ちゃん達は巻き込まないようにしてたって話?」

梨子「実際に誰を巻き込みたくなかったのかはわからないけど、単純に邪魔されたくなかったのもしれないし」

曜「その……誰かを狙うため?」


梨子「どういう方法かはわからないけど、モンスターを動かせても状況の変化にすぐに対応できていない」


曜「ん、それは相手が?」

梨子「私が対応できたのは相手も想定していなかったからだと思うの」

曜「梨子ちゃんの事を知らない町の誰か……」


梨子「ヌマヅって昔から錬金術が身近にあって、錬金術士も自然と生活に溶け込んでいるよね、私の事もすぐ知れ渡っていたし」

曜「そうだね」
 

491: 2018/04/12(木) 23:29:18.25 ID:0IA3O+pU.net
梨子「それでも知らない状況っていうと、知らされない立場、知り得ない状況、環境の人物…」

曜「…………」

梨子「可能性としてあるなら、隔離されているか、寝たきりで動けないか…とかね」

曜「…………」

梨子「井戸水の毒にしたって、致氏毒ではないあたりやっぱりどこかに余計な犠牲者はだしたくないと考えているのかなと」

曜「でも、犠牲者はでたって聞いたよ?」

梨子「うん。私も甘い事をいうつもりはないよ、犯人は絶対許せない」

曜「じゃあ、犯人が狙っているのが動けない誰かというのは?」

梨子「そっちはモンスターに襲撃させてることから、容易に手がだせない人物から連想したの」

曜「それだとたくさんいる気がするけど?」

梨子「後半のなりふり構ってられない状況に、焦ってたんじゃないかな」

曜「それは、梨子ちゃんがことごとく邪魔したから?」

梨子「最初の計画から後になるにつれて、すごく雑になってるのよ」
 

492: 2018/04/12(木) 23:33:54.48 ID:0IA3O+pU.net
梨子(協力者なのかどうかわからないけど、黒澤家の伝令ももしかしたら…)


曜「それはやっぱり、梨子ちゃんの存在を知らなかったっていう事?」

梨子「そうだね。それとあの毒の特性も判断材料にはなるかな」

曜「飲んじゃダメなだけじゃないの?」

梨子「それだけだと体調不良を起こすだけ。体の弱いお年寄りには十分脅威だけど…」


 井戸水を侵した毒素は、熱を加えると猛毒に変化するという特性がありました


曜「熱を加える……あ、料理に使うとか?」

梨子「もうムチャクチャな方法だと思うけどね、可能性としてあるならやっぱりそういう事なのかなって」


 隔離されている誰か、生きている誰か。接触の可能性は、食事の供給のみ


梨子「そんなのまず成功しないし、作戦としてはお粗末にもほどがあるけど、動かせるのがモンスターのみならって」

曜「………………」


梨子「最終的にそれでも目的が達成できないのなら、湖の水質を完全に猛毒に切り替えて、全員を狙う…」

曜「そ、そんなの!?」

梨子「これが相手側の今継続している作戦のようなものなのかな?」
 

493: 2018/04/12(木) 23:34:41.77 ID:0IA3O+pU.net
 ここまで話を聞いて、途中から曜ちゃんの表情が険しく変化するのを梨子ちゃんは見ていました


梨子「最初は町全体を狙ったものとして対応していて、そこはまんまと騙されたけど…」

曜「梨子ちゃんは、誰かが誰かを狙って……ただそれだけの理由でここまでの事をおこしたって思うの?」

梨子「私には考えられないかな。犯人じゃないもの」

曜「……………」


梨子「花丸ちゃんへの質問もちゃんとしていればまた変わっていたのかもしれないけど」

曜「………?」

梨子「犯人に心当たりはあるか、じゃなくて、狙われそうな個人はいるかって聞けばよかったよ」

曜「…………」


梨子「ま、その答えはかわりに曜ちゃんから聞かせてもらおうかな」


曜「っ!?」ドキッ

梨子「心当たり、あるみたいだね」
 

494: 2018/04/12(木) 23:37:49.95 ID:0IA3O+pU.net
曜「……………………」

梨子「………………」


 梨子ちゃんの言葉にあきらかに動揺する曜ちゃん。ここで梨子ちゃんは確信します


梨子「花丸ちゃんも、思い当たる人物しかいないって思ってたのかな」

曜「………それは………」


梨子「……………」

曜「…………」


梨子「言いたくないなら無理に聞かないけど」

曜「え……?」

梨子「私は犯人は許せないと思っているけど、それはみんな同じだと思う。花丸ちゃんも、曜ちゃんだって」

曜「それは……そうだよ」

梨子「でも私は町の事情をすべて知っているわけじゃないから、その判断は全部一方通行」

曜「………」
 

496: 2018/04/12(木) 23:38:51.52 ID:0IA3O+pU.net
梨子「町の人達が犯人を見つけてどうするかは、町の人達にまかせるよ」

曜「いいの? それで……」

梨子「幸いうちの子達も無事だったから。もし何かあったんなら私自身が動くけどっ」


曜「………………」


梨子「……っていうのが私のスタンス」

曜「……ん、なるほどね………そっか」

梨子「……………」


曜「わかった、梨子ちゃんには話しておくよ」

梨子「え……」
 

497: 2018/04/12(木) 23:39:45.29 ID:0IA3O+pU.net
曜「犯人かもしれない人物……確定じゃないけど、目的がそうなのだとしたら一人しかいないから」

梨子「花丸ちゃんが言ってるのも……」

曜「おそらく同じ人物だよ。私もよくわかってない部分が多いけど、他にいない…」

梨子「……………」


曜「梨子ちゃんは町の中央にある旅館は知ってる?」


梨子「旅館て……あ、酒場と隣接してるところ?」

曜「うん、十千万旅館。この町で一番大きな宿屋さんだね」

梨子「とちまん旅館……」

曜「旅館は女将さんと三人の娘さんが切り盛りしていたんだけど……ちょっと色々あって……」

梨子「ん?」

曜「三姉妹の末っ子、千歌ちゃんっていうんだけど……その……」

梨子「チカ…ちゃん?」
 

498: 2018/04/12(木) 23:40:39.12 ID:0IA3O+pU.net
曜「もうずっと寝たまま起きてこないんだ、千歌ちゃん」

梨子「え……病気かなにかなの?」

曜「ううん。原因不明……お医者さんにもわからないって」

梨子「それって……」

曜「鞠莉ちゃんが言うにはね、強力な呪いのようなものだって」

梨子「呪い………」ゴクッ


曜「鞠莉ちゃんは今でも千歌ちゃんの呪いをどうにかしようと、がんばってくれてるけど…」

梨子「マリーさんにも解呪できないような呪いって……」

曜「専門じゃない分野だから難航してるって果南ちゃんが言ってたよ」

梨子「呪いの専門家なんて……」
 

499: 2018/04/12(木) 23:42:04.02 ID:0IA3O+pU.net
曜「花丸ちゃんや私が梨子ちゃんの話を聞いて思い浮かんだのはその子だよ」

梨子「チカちゃん? でも……」

曜「そして千歌ちゃんが狙っている……ううん、頃したいって思っているのは、一人の女の子」

梨子「殺……って」


曜「――高坂穂乃果さん。この町を救った事もある英雄的存在の人だよ」


梨子「英雄……?」

曜「千歌ちゃんと穂乃果さんは本当に仲のいい姉妹のようで、いつも一緒だったんだけど……っ!」スッ


 シートで座りながら話していた曜ちゃんがサっと立ち上がると遠くを見つめる


梨子「曜ちゃん?」

曜「そのうち来るとは思ってたけど、話の途中でくるなんて」


 遠くから向かってくるのはモンスターの群れでした


梨子「な、なんだかすごい数がいるようなんだけど?」
 

500: 2018/04/12(木) 23:43:26.62 ID:0IA3O+pU.net
曜「ん…っしょ」ゴトッ

梨子「あれ、曜ちゃんも武器扱うんだ」

曜「私は果南ちゃんみたいな筋肉ヨーソローじゃないよ~?」ガッ ガンッ

梨子「なにそれ……ってさっきも格闘戦してたから…」ヨーソロー?

曜「周りに誰かいると危ないからね~」スラッ


 自分の荷物からいくつかに分かれた金属の部品を手際よく組み合わせていく曜ちゃん
 完成したそれは、長さにして2メートルは越える長物でした


曜「梨子ちゃんはここでじっとしててねっ」

梨子「て、曜ちゃん! あれ、アポステルじゃない!?」

曜「ん?」


 梨子ちゃんが指さす方向に魔法生物アポステルの姿がありました
 それも複数確認できます


曜「ホントだね~」

梨子「だ、大丈夫なの? 図鑑で見たけど、あれって強いんでしょ?」

曜「あの群れの中じゃ一番強いっぽね……でも」ザッ


 先端に両刃がついた槍、反対側に鉄球がついた武器を軽く振り回す
 曜ちゃんにとってそれは脅威でもなんでもありませんでした


曜「アポステルはもう、狩り飽きたよ」
 

513: 2018/04/13(金) 23:30:59.07 ID:5Ysb61OA.net
 -ヘーベル湖 東のポイント


 基本梨子ちゃんに焦点を合わせていますが、ちょっと他のペアも覗いてみましょう


絵里「さて、あとは時間まで待機ね」


ダイヤ「………………」


絵里「えーっと……」キョロキョロ


ダイヤ「………………」


絵里「ねぇ、ダイヤ~?」

ダイヤ「は、はい!?」ドキ

絵里「そんなに離れていたら護衛もしにくくない?」

ダイヤ「大丈夫です。ここでも十分周囲の気配は探れますから」
 

514: 2018/04/13(金) 23:31:32.64 ID:5Ysb61OA.net
絵里「そう。そこで十分という事はこっちに来ても大丈夫よね?」

ダイヤ「え…あ、いえ、それは……」

絵里「作戦開始までまだ時間あるし、お茶でも飲んでゆっくりしましょ」カチャッ

ダイヤ「……………むぅ」

絵里「それに、ちょっと話したいこともあるしね」ゴソッ

ダイヤ「お話し……ですか」

絵里「ほら、もうダイヤの分も用意してるんだから」ポンポン

ダイヤ「し、仕方ありませんね……」ポリポリ
 

516: 2018/04/13(金) 23:34:44.46 ID:5Ysb61OA.net
ダイヤ「それで、お話しというのは?」

絵里「まま、こちらをどうぞ」スッ

ダイヤ「ありがとうございます…」スッ

絵里「スイートパイでいい?」カサッ

ダイヤ「い、いただきます……」

絵里「これ甘さ控えめでいい感じにできたのよ」

ダイヤ「絵里さんがお作りになったのですか?」

絵里「ここに来るまで、準備も早くできて時間があったからね」

ダイヤ「ほんとうに手際が良いというか、はやいですね…では…」ハムッ

絵里「どうかしら?」

ダイヤ「……とても、おいしいですわ」モムモム…

絵里「そう、良かった」ニヘッ

ダイヤ「……っ」ドキッ
 

517: 2018/04/13(金) 23:35:29.81 ID:5Ysb61OA.net
絵里「後ろがこんなんじゃなければもう少し風情もあったのにね」

ダイヤ「あの綺麗なヘーベル湖がこうも変わるなんて……」

絵里「まったく手の込んだ事をするものよね」ズズ…

ダイヤ「許されるものではありませんわ」


絵里「で、話というのはその許されない奴についてなんだけど…」

ダイヤ「今回の犯人について……ですか?」

絵里「あなたは心当たりはないの?」

ダイヤ「どうしてわたくしに?」

絵里「ある程度の流れは聞いたけど、話の中で明確に動かされたのがあなただけだから、かな?」

ダイヤ「……………」
 

518: 2018/04/13(金) 23:36:21.92 ID:5Ysb61OA.net
絵里「家の中にも協力者がいるかもしれない……」

ダイヤ「……………」

絵里「次期頭首としての立場からなのかは不明。妹のルビィは都合よく利用するに留まっている」

ダイヤ「……………」

絵里「それが敵の作戦のために必要なのかどうかがわからないから、ここから先はおまかせ」

ダイヤ「……………」


絵里「あなたは、身内に犯人がいると思う?」


ダイヤ「いいえ、思いませんわ」

絵里「…………」
 

519: 2018/04/13(金) 23:37:07.11 ID:5Ysb61OA.net
絵里「協力者がいないという事は、何を意味するかわかっている?」

ダイヤ「…………ええ」


絵里「モンスターを操るのとはまた違う意味を持つ」

ダイヤ「トロイヤの丸薬……ですわね」

絵里「そう。錬金術士のみが作る事のできる薬。人の意思を奪い、操る魔薬」

ダイヤ「敵に協力しているのか、または敵自身がそうなのかはわかりませんが、間違いなく言える事は…」


絵里「敵は、錬金術士ね………」
 

520: 2018/04/13(金) 23:37:55.26 ID:5Ysb61OA.net
 -ヘーベル湖 北のポイント


 一方こちらは果南鞠莉ペア


鞠莉「それじゃ後は頼んだわよ」

ルビィ「うん、鞠莉ちゃんも果南ちゃんも気をつけて!」サッ

果南「ありがと、ルビィも無茶するんじゃないよ」


ルビィ「さぁ次は南西ポイントに向かって、爆進すルビィ~!!」ドドドド…!!


鞠莉「色々あったようだけど、元気でなによりね」

果南「あんなに荒ぶるルビィは初めて見るよ」

鞠莉「元々ダイヤの後ろで隠れがちだけど、あの子だって黒澤の血を引いているもの」

果南「血は争えないってことかな~」
 

521: 2018/04/13(金) 23:39:04.50 ID:5Ysb61OA.net
鞠莉「よっと、これで準備おっけーっと」ドン

果南「開始時間は?」

鞠莉「後1時間30分ほどね」

果南「そっか。それじゃサクっと行ってこようかな」

鞠莉「何か持って行く?」

果南「あーじゃあ飲み物だけ」

鞠莉「果南のその余裕と落ち着きは羨ましいわ」

果南「私は私にしか出来ないことに必氏なだけだよ」

鞠莉「可能性は低いけど、もしも例の素材を見つけられたら……」

果南「わかってる。最優先でしょ?」

鞠莉「お願い。あの子を救うためにどうしても必要だから……」
 

522: 2018/04/13(金) 23:40:11.50 ID:5Ysb61OA.net
 鞠莉ちゃんをその場に残し、果南ちゃんは北に向かって走り出します
 目的は元盗賊団のアジトである資源採掘場に巣くうモンスターの殲滅と井戸の完全破壊
 モンスターの群れはほぼ湖に移動していると思われますが念のためにと、鞠莉ちゃんが計画したものです

 湖の北のポイントを自分達のペアにしたのもこのためでした
 果南ちゃんの脚なら北のアジトに向かって戻ってくるまで、1時間もあれば十分であると判断しての計画です


 鞠莉ちゃん自身は戦闘はからっきしなので、自衛のアイテムを使い安全を確保します


鞠莉「はいはいっと、じゃ、よろしくね~」パッパッ


 ウネウネ… パサパサ… ガタゴトガタゴト……


 鞠莉ちゃんが放ったのは「生きてるナワ」「生きてるホウキ」「生きてる台車」
 錬金術で作り出した疑似生命体に、モンスターの好む香料を染み込ませた布をくくりつける
 それを囮として野に放ち、拠点の安全を確保する方法です
 

523: 2018/04/13(金) 23:43:34.04 ID:5Ysb61OA.net
 さらに念のためにと鞠莉ちゃんは自作のオリジナル調合で作り上げた、フェーリング陣・シャイニーも使います
 包み込んだものをどこか知らない場所へ飛ばしちゃうフェーリング陣を改良したものです


鞠莉「それじゃ、時間まで寝よっと」バッ  パサッ


 頭上に広げたフェーリング陣・シャイニーが鞠莉ちゃんを包むと、鞠莉ちゃんの姿がパっと、瞬時に消えます
 いつもどこに飛んでいるんだろうと長年謎だったフェーリング陣の仕組みを改良し、いつもこれで隠れます

 隠れるというか、どこか知らない場所へ飛んで行ってます

 そこがどこなのか、どうやって戻ってくるのか……それは鞠莉ちゃんにしかわからないのです


 ――――


梨子「…………ぅぅぅぅ」フルフル…

曜「そういう問題もどうにかするもんだと思ってたけど……」

梨子「ないよぅ…どうしよう……」キョロキョロ

曜「私あっち向いてるから、もうそのへんでやっちゃおう」

梨子「ひーん………」


 梨子ちゃんはおトイレ問題で悩んでいました

 そうこうしているうちに作戦開始の時間がくるのでした
 

537: 2018/04/14(土) 22:55:03.50 ID:fk+zGAb/.net
 -ヘーベル湖浄化作戦開始から5時間経過


曜「ほっ、はっ、っと!」バキ ドカ ゲシッ


 規模こそ収まってきましたがモンスターの襲撃は続く…
 曜ちゃんは動けない梨子ちゃんにモンスターが寄り付かないように、早めに処理にでます


曜「っと、こんなもんかな。はー…ちょっと休憩しよ」ドサッ


梨子「………………」キュィィィィィィン


曜「ほんとに動けないんだねー。大変だなぁ」


 開始と同時に意識をすべてブースターに集中し、安定させた後はひたすら維持することに集中
 周囲からはただじっとして動かない人にしか見えないですが、事情を知る曜ちゃんは邪魔しないように離れて見守ります


梨子「……………」キュィィィィィン
 

538: 2018/04/14(土) 22:57:12.04 ID:fk+zGAb/.net
梨子(どれくらい時間たったかな……)


 ブースターと同調している梨子ちゃんの視界に映るのは眼下の水面のみです
 集中しているためか、後方で暴れる曜ちゃんも吹き抜ける風も今は感じません

 時間の経過もわからず、いつ終わるとも知れない浄化作業にひたすら意識を向ける


梨子(今で……全体の何割くらいかな……ん、少しならいけそうかな…)チラッ


 同調にも慣れてきた梨子ちゃんは少しなら視線を動かしても大丈夫だと思い、周囲の様子を確認します

 湖は梨子ちゃんを中心に浄化の光が放射されていて、範囲にして半径50メートルほどが浄化に成功していました
 しかし汚染濃度の高い中心部から押し寄せる毒素を押し退けてすすむ浄化の光は、意識が途切れるとすぐに四散してしまいます


梨子(まだ対岸の光は見えない……まだまだかかりそうかな……んっ)シュィィィイン


 確実に進んでいる事を確認した梨子ちゃんはもう一度目を閉じ、作業に集中しようとします

 そこへ……
 

539: 2018/04/14(土) 22:58:43.05 ID:fk+zGAb/.net
 ユラ……


梨子(……………ん?)チラッ


 梨子ちゃんの正面、10メートルほどの水面に陽炎のようにゆらめくものが見えます
 それは白く、とても薄いロウソクの炎のようにその場にゆっくりと漂っていました


梨子(……………な、なに?)


 いつからそこに在るのか、気づいていないあいだに流れてきたのか
 梨子ちゃんはそれらの可能性をすべて否定しました

 それは、今そこに現れたのです


梨子(これは………本で見た事ある……確か……)ジ…


 ゆらめく白い炎の正体に意識が向けられた時、手にしたブースターが小さく震えるのを感じる


梨子(いけない……今は浄化作業に集中しないと……余計な事は考えちゃダメ……)グッ キュィイィン
 

540: 2018/04/14(土) 23:00:15.04 ID:fk+zGAb/.net
 『そうか、キミが色々と邪魔してくれた錬金術士さんなんやね』


梨子「」ドキッ


 突然脳裏に響く声に、梨子ちゃんの意識が激しく動揺します
 危うく手にしたブースターを落としそうになるのを堪え、今一度意識を集中します


梨子(今の……でも、これ……)グッ


 『邪魔なのはあの子達だけだと思ってたのに、大誤算やわ』


梨子(自分の精神体だけを飛ばして、遠く離れた場所を視ることができる薬……でも、意識に語り掛けてくるこれは…!?)


 『ん、そう。湖の浄化してるんやね……』


梨子(見えてる……やっぱり……)


 『ほんと……イライラするなぁ。せっかく準備したのになぁ……』


梨子(そしてこの感じ……間違いない……今私を見ている相手が、犯人だ!)グッ


 『キミはどこまで事情を知ってるん? それとも何も知らないで手を貸してるんかな?』


梨子(なにを……)ググッ… シュィィン……
 

541: 2018/04/14(土) 23:01:33.65 ID:fk+zGAb/.net
 『って語り掛ける余裕もなさそうやね。じゃあいいわ……今回はどうせキミらの勝ちやし』


梨子(く………待って、あなたは……!?)


 『でも覚えとき……。穂乃果ちゃんは絶対に取り戻して見せる。団長さんにもそうゆっといて』


梨子(穂乃果……高坂穂乃果!? 取り戻すって……く、ぅぅ……)


 『じゃーね、せいぜい浄化がんばってな…………』


梨子(待って……あなたは………ダ……)  コチャン…


 リコチャン…  リコチャン……!


 


曜「梨子ちゃん!!」ガッ

梨子「!!?」
 

542: 2018/04/14(土) 23:03:16.60 ID:fk+zGAb/.net
曜「しっかりして、どうしたの!?」

梨子「な……あ、あれ……曜……ちゃ……?」

曜「浄化まだ終わってないよね、何か問題が?」

梨子「浄化………あ、私……っ!」バッ


 突然接触してきた犯人に対して意識を向けてしまった梨子ちゃん
 手に持つブースターの出力は不安定になり、小さな振動を繰り返しています


梨子「しまった、出力が……んん!」グッ キュィィ……ブブブ……

曜「大丈夫なの?」

梨子「魔力の流れが……くっ、流れに介入できない……んんっ!」ブブブブブ……

曜「がんばって!」


 ブブブ……ガッ ガガガガ!!


梨子「止まって、んんん~!!」グググ…!

曜「梨子ちゃん! ブースターの先端が!!」

梨子「えっ………大変! 綺麗な筋にならないから先端で行き場を失ってる!!」ガガガガ!!


 暴れるブースターを抑え込もうと送り込んだ魔力がブースター内で膨張します


曜「やばっ、梨子ちゃんゴメン!」バッ

梨子「え…きゃあ!!」ドサッ
 

543: 2018/04/14(土) 23:05:03.72 ID:fk+zGAb/.net
 ガガガガ……! ガンッ! バキィィィイン………


 膨張して膨れ上がった魔力が破裂すると同時に、ブースターの先端は折れてしまいました


梨子「あ………………」

曜「大丈夫、梨子ちゃん!」


 曜ちゃんは本能的に危険を察知し、梨子ちゃんを地面に伏せさせると爆発から梨子ちゃんを庇いました


梨子「ブ、ブースターは!?……あ」バッ

曜「……………」


 魔力を放出するための水晶球を取りつけた部分がポッキリと折れて転がっています
 それを見た梨子ちゃんはここでようやく、浄化に失敗したことを理解しました


梨子「………………」

曜「怪我がなくて良かったよ……」
 

544: 2018/04/14(土) 23:05:55.30 ID:fk+zGAb/.net
梨子「良くない………良くないよ曜ちゃん……」グッ

曜「……………」


梨子「失敗しちゃった……私が……ちゃんとやれなかったから……」

曜「……………」


 梨子ちゃんは俯き、力なく項垂れる
 浄化が進んでいた湖はその力を失い、みるみるその色を毒素に浸食されていきます


梨子「マリーさんやエリー先輩が……私とならできるって言ってくれたのに……ぅぅ」

曜「よくわかんないけど、すぐに再開すれば大丈夫なんじゃ……」

梨子「無理よ……ただ浄化薬を投下すればいいものじゃないの……ブースターで効力を上げて放出しないと……でも…」


 傍に転がっているブースターの破片を見ながら、梨子ちゃんはこの先の惨状を想像してしまいます
 

545: 2018/04/14(土) 23:07:26.10 ID:fk+zGAb/.net
曜「もう湖は治せないの?」

梨子「………今日治せなかったら、またものすごく準備に時間がかかっちゃう……」

曜「どれくらい?」

梨子「年内には無理……」

曜「え、そんなに!?」

梨子「エリー先輩達が気軽に扱っていたから解り難いけど、これだけのエリキシル剤を用意するだけでもとても時間がかかるの」


 用意するのはそれだけではありません。エリキシル剤の材料である素材も高価なものや制作に時間が必要なもの
 それだけではなく超純水も同じだけ必要。持続性栄養剤などの回復アイテムだって簡単には作れません

 そしてそれらを用意する間にヘーベル湖は毒素によりその水質を完全に変容させ、そのうち毒沼になります
 それは湖だけの問題では終わらず、毒が大地を蝕み、そこに生きる生物にも影響を与える

 今浄化できないという事はそれだけ多くの問題にも繋がる。それがわかる梨子ちゃんはくやしくてたまりません


曜「……………」

梨子「ごめんなさい……みんなが協力してくれたのに……」

曜「どうしてあやまるの……そんなの私だって…」

梨子「でも……これは私のミスで……せっかく先輩達が期待してくれたのに……」
 

546: 2018/04/14(土) 23:08:58.88 ID:fk+zGAb/.net
曜「私はあきらめたくないかな」

梨子「曜ちゃん……でも……」

曜「とりあえず次にルビィちゃんが来た時、一緒に鞠莉ちゃんのところに行こう」

梨子「……………」

曜「ブースターも持ってって、もしかしたら治るかもしれないし、他の方法があるかもしれない」

梨子「曜ちゃん…それは……」

曜「一回失敗したからってもう終わりだなんて、私は嫌だよ」

梨子「……………」

曜「梨子ちゃんは諦めちゃうの?」

梨子「そんなの……私だって嫌………」

曜「だったら行動しよう」

梨子「………でも他に方法なんて………」


 ここまで時間をかけて浄化していた湖もまた元の毒素を含む水色に戻ってしまいます
 だけど諦めたくない気持ちは本当です。自分のミスですべてを終わらせるのなんてくやしいのです


梨子「………………」


 だったら足掻くしかない。考えるしかない。くやしさに押しつぶされて泣き崩れるのはそれらをやってからです
 

547: 2018/04/14(土) 23:11:15.03 ID:fk+zGAb/.net
梨子「方法………浄化する方法………」

曜「ブースターと先っちょの壊れたやつ、こっちに集めておくね」サッ

梨子「壊れた…………部品……」

曜「綺麗に折れちゃってるなぁ」ゴソッ


 ブースターと壊れた先端、放出部分を見て曜ちゃんが呟く
 それを聞いた梨子ちゃんの頭に、一つの……たった一つの光が差します


梨子「曜ちゃん、先端部分ちょっと見せて!」

曜「ん、これ?」スッ

梨子「……………っこれ……!」キラン


 ――妄想の錬金術師 桜内梨子

 アカデミーの友達につけられた梨子ちゃんの異名
 思い描く妄想だけは論理的で、すばらしいもの
 しかし現実的であるかは別問題で、いつも妄想の産物と言われてきました


 だけど今、理論上は可能。可能であれば…………なにがなんでもやるしかありません
 

548: 2018/04/14(土) 23:12:10.08 ID:fk+zGAb/.net
梨子「曜ちゃん………お願いがあるの」

曜「お、何かいい方法が?」

梨子「方法はある。だけどかなりムチャクチャな方法」

曜「それで浄化はできるの?」

梨子「できる」

曜「じゃあ何でもやるよ」

梨子「まだ説明してないけど……」

曜「私がやるべきことだけ言って。後は梨子ちゃんにまかせるから」

梨子「じゃあもう何を言ってもやってもらうからね。すぐに始めないといけないから」サッ

曜「なんでもこ~い!」


 梨子ちゃんは妄想します。そんなことが出来たらなーという、そんなことの部分を曜ちゃんを使って実現する
 そこには大きな危険だってあります。突然の事態に対応できないかもしれない

 だけど今この場で考えられる可能性で一番確率の高い方法を迷わず選びました
 すべてはこの浄化作戦を成功させるため


梨子「ん…………大丈夫、絶対これでやれるはず」
 

549: 2018/04/14(土) 23:13:50.47 ID:fk+zGAb/.net
 梨子ちゃんはまず自分の荷物から絶賛借りパク中の武器、ルナスタッフを取り出します


梨子「曜ちゃん、この杖の先端部分だけうまく折って欲しいの」

曜「いいけど、これ梨子ちゃんの武器じゃ?」

梨子「武器というよりも魔力増強を目的としたもので、構造はマテリアブースターとよく似ているの」

曜「あ、もしかして折れた部分の代用品?」

梨子「の、ようなものかな。ブースター側のホース部分は壊れてないから、スタッフを間に組み込んで補強するの」

曜「今ここでできるんだね、じゃあ…」スッ

梨子「けっこう丈夫なスタッフだけど、あまり力をこめすぎないよう慎重に……」 ポキッ

曜「はい、とれたよ」

梨子「そんな気がした。ありがとう」


 ブースターの放出部分とホース部分を繋げている部分だけが壊れていたので、梨子ちゃんはそれを繋ぐ目的でスタッフを組み込む
 さすがは鞠莉ちゃん特性なのか、確かに丈夫で他の部分……特に放出部分の水晶球まわりは無傷でした
 

550: 2018/04/14(土) 23:16:47.60 ID:fk+zGAb/.net
梨子「これで稼働はできるはず……」カチッ ブブブ……

曜「おっすごい、治った?」

梨子「ううんダメ。魔力の循環がやっぱりスムーズじゃない」

曜「あれ、じゃあ……」

梨子「でもいいの、今から追いつくには多少出力オーバー気味でないとダメだから」

曜「ん? というと、梨子ちゃんが強めに放出し続けるってこと?」

梨子「ここから追いつくだけの出力は無理。そんな事したら私の体が持たないわ」


 今も他の二か所から浄化の力場は広がっています
 力場はそれぞれが同程度の速度で広がり、最後に重なった部分、中央部分で干渉し合ったところで力が散らばって完了します

 その瞬間、他に一か所でも毒素が残って居ると、そこからまた徐々に毒は広がる
 だから最後に完全浄化をする必要があるのです
 

551: 2018/04/14(土) 23:18:54.71 ID:fk+zGAb/.net
梨子「出力は少しだけ強めにして、今から先輩達と同程度の浄化範囲を得る方法……これを」サッ

曜「ん、これは……持続性栄養剤?」


梨子「曜ちゃん、それ飲んで私を湖のとあるポイントまで運んで」

曜「それって……私に梨子ちゃんを担いで泳いで行けって事?」

梨子「私泳げないもん」

曜「えっと、毒の湖なんだよね?」

梨子「妖精さんみたいにデリケートなら触れるだけでも危険だけど、曜ちゃんなら平気」

曜「ぇぇ……」


 たしかにムチャクチャでした
 

552: 2018/04/14(土) 23:21:10.84 ID:fk+zGAb/.net
梨子「曜ちゃんや松浦さんのように強靭な肉体をしてる人なら少しの間触れていても耐えれる」グッ

曜「すごい自信だね。まぁでも丈夫な体ってのはわかるけど」

梨子「でも絶対に飲んじゃダメだよ、体内臓器まで強靭な人なんていないから」

曜「ん………でもどうして湖に入るの?」

梨子「浄化の放出が360度流れるようにするためだよ」


 梨子ちゃん達が放出している力はその場から全方位に広がります
 実際梨子ちゃん浄化作業中も、その力は湖に広がると同時に足元の土にも広がっています

 0から50までの距離を歩くとして、全員が同時に50となるポイントに達するための方法
 梨子ちゃんは25の地点から0方面と50方面、両方同時に浄化をはじめればいけると考えました


曜「つまり梨子ちゃんがブースターを担いで、私はその梨子ちゃんを担いで一滴も水を飲まないように泳いでいくと」

梨子「そう」

曜「しかも浄化完了までずっと泳いでいないといけない……」

梨子「毒に関しては安心して。浄化が始まれば私達のところから綺麗になっていくから」

曜「そのためのドーピングをするわけだね……でも丁度中間ポイントにどうやって行くの?」

梨子「そこは進んでる間に計算するから、曜ちゃんは指示する方角に進んで」

曜「……………」
 

553: 2018/04/14(土) 23:23:29.84 ID:fk+zGAb/.net
 正直細かい疑問はありましたが、それで行けるという錬金術士の言葉を曜ちゃんは信じます


曜「わかった、がんばる!」

梨子「じゃあ他に必要なのもリュックにいれて私が背負っていくから、曜ちゃんはひたすら泳いでてね」

曜「ヨーソロー!」ビシッ

梨子「あとルビィちゃんへの書置きもここに……っと」ヨーソロー?


 いきなりいなくなると当然問題が起きたと考えられるので、ルビィちゃんには経緯を簡単にまとめて知らせる
 一つ残っている問題点もこれでどうにかしてくれるだろうという期待を込めてある一文の付け加えます


梨子「よしじゃあすぐに行こう……ってきゃ~!」

曜「そんなに驚かなくても……」ヌギヌギ…


 行くと決めた曜ちゃんは着ている服を全部脱ぎ棄てます
 泳いでいくのだから当然ではあるのですが、突然だった梨子ちゃんには赤面ものです


梨子「せ、せめて下着くらい……」

曜「それも邪魔になるし、いいよ。見られて困る相手もいないし」

梨子「うぅ……ここでああだこうだ言ってる時間も惜しいし、仕方ないかな」


 こうして梨子ちゃんと曜ちゃん(全裸)は浄化作戦を成功させるため、毒に染まるヘーベル湖に入っていくのでした
 

567: 2018/04/15(日) 23:44:34.97 ID:nUIfYIX9.net
―――――――


 王国歴874年 6の月 ヌマヅタウンを襲った大事件
 原因不明のモンスターの襲撃により、町は大きな被害を受けました

 町の周辺設備の被害は言うまでもなく、農作物も荒らされました
 建物への被害は自警団の防衛により損害は比較的軽微です
 しかし町民への被害は多く、怪我人多数……数名ですが亡くなった方もいます


 20年前と同様今回の事件も原因不明として発表され、国に報告されました
 後日国から派遣された調査団が来る予定です

 不明な事だらけの今回の事件でしたが、それでもみんなが知っている事もあります


 それは、町の危機を救ったのが三人の錬金術士だという事です
 

568: 2018/04/15(日) 23:45:16.62 ID:nUIfYIX9.net
 -梨子ちゃんの部屋


 モゾモゾ…… ゴソッ…


梨子「……………ん」


 モゾモゾ…… ジュウリョウカタデス? ダキョウ ……


梨子「…………ぁ」パチッ


善子「ああ、やっと起きたのね」

梨子「……………」

善子「大丈夫? どこか痛むところはある?」

梨子「………いえ、でも………」
 

569: 2018/04/15(日) 23:46:05.60 ID:nUIfYIX9.net
ぱな「おはようです?」ズシッ

りん「しゅくふく」ズシッ

まき「…………」ムスッ ノシッ


梨子「重いです………」

善子「でしょうね。ほら、あんた達は水でも汲んできなさい」サッサッ

ぱな「だいしきゅうです?」

りん「しょうち」

まき「…………」ムスッ


梨子「………………」
 

570: 2018/04/15(日) 23:47:00.47 ID:nUIfYIX9.net
善子「意識もしっかりしているようだし、取り敢えずは大丈夫ね」

梨子「えっと………ここは……私の部屋……ですね」

善子「初めて梨子に会ったときは私の部屋で目が覚めていたわね」

梨子「ああ……その節はお世話になりました」

善子「いいわよ別に。それに言ったでしょ、私は錬金術士の味方だって」

梨子「……………」


善子「起きれるようだったら何か食べたほうがいいわ、用意してあげる」

梨子「ん……ありがとうござい……っ!」ムクッ


梨子「って、な、なな、なん…!?」


 梨子ちゃんはまた全裸でした


善子「服がボロボロだったから」サッ

梨子「着替えありますよね?」バッ
 

571: 2018/04/15(日) 23:48:11.43 ID:nUIfYIX9.net
善子「ふふ、先に目を覚ました曜さんのイタズラよ」

梨子「曜ちゃん!? も~……」ゴソゴソ

善子「曜さんも最初は全裸のままずっと眠っていたからね、それを知ってちょっとくやしいって」

梨子「むぅ………確かに全裸になるような事をお願いしたのは私ですけど……」


 善子ちゃんの用意した服に着替え、そっと窓の外を眺める梨子ちゃん
 そこに見える光景にどこか閉じていた思考が一気に回転します


梨子「浄化作戦……うまくいったんですね……」


 そこに見えるのは壊れた家の外壁を治す人の姿、畑の手入れをする人の姿
 それをお手伝いする子供達の元気な姿。梨子ちゃんはそれだけで気持ちが晴れやかになるのを感じます


善子「覚えてないの?」

梨子「途中からほとんど無意識でやってたから、そのまま反動で……」
 

572: 2018/04/15(日) 23:49:53.99 ID:nUIfYIX9.net
 記憶の中薄っすらと覚えてるのは曜ちゃんの声
 がんばれとか、あと少し~とか、そういう励ましの言葉の中ひたすら魔力を放出し続けていた

 途中怪鳥アードラが襲い掛かってきたような気もします
 ルビィちゃんが果南ちゃんに知らせてくれたのか、遠くから何かが飛んできてそれらを撃ち落としてくれていた気もします

 それほどまでに意識は浄化にのみ集中していて、自分を肩車したままずっと泳いでくれた曜ちゃんにも本当に感謝です


梨子「ふぅ………」


 それでも今はやり遂げられた事を素直に喜びます
 外で遊ぶ子供達の姿、井戸水を使い洗濯するおばあちゃんの姿

 何かを必氏に守りたいとか誰かのためとか、そんな大層な理由はありません
 ただ嫌な事は嫌だと全力で抗った結果です

 それでも今のこの光景に、心が穏やかになるのは本当の気持ちでした


梨子「よかった……」
 

573: 2018/04/15(日) 23:51:55.46 ID:nUIfYIX9.net
善子「あ、そうだ。花丸のやつが梨子が起きたら酒場に来てって言ってたわ」

梨子「花丸ちゃん?」

善子「みんなそれぞれ事後処理に忙しいからね、あいつも昨日までお見舞いにきてたけど今日は午前中は動けないって」

梨子「……………」


善子「ご飯食べて落ち着いたら行ってあげるといいわ」


梨子「あの………」

善子「ん?」


梨子「私、どれくらい寝ていたんですか?」


善子「今日でちょうど一月よ」

梨子「…………へ?」


善子「だから一月、一か月。ちなみに全裸なのは数日前から」

梨子「いっ…!?」
 

574: 2018/04/15(日) 23:53:53.41 ID:nUIfYIX9.net
 サラっとでた事実に衝撃を受ける梨子ちゃん
 まず最初に善子ちゃんから受けた仕事の納品ができていない分、期日の心配をします


善子「あの状況でそんな事言わないわよ……まぁそのうち頼むわ」

梨子「ほっ……お仕事を始めて二回目にして経歴に穴があくところでした」

善子「どこを気にしてるのよ」

梨子「お仕事する上で信頼、評判は大事だよ。善子ちゃん」

善子「そりゃそうだけど……って、善子ちゃん?」


梨子「え、だってヨハネは錬金術士の頃の名前だって言うから」

善子「んん、そ、そうなんだけど、別に無理して名前で呼ばなくたっていいのよ?」

梨子「んー私もみんなみたいに呼びたいなって、善子ちゃん」

善子「だ、だからヨハネよー!!」

梨子「可愛いと思うけど善子ちゃん。後私より年下だったのねー」

善子「え、そうなの?」

梨子「私善子ちゃんの一個上みたいだよ」

善子「ぬ、そうだったのね……り、梨子さん……」
 

575: 2018/04/15(日) 23:55:31.51 ID:nUIfYIX9.net
梨子「いいよ今までの呼び方で。実際お世話になっているし、錬金術士としての善子ちゃんも尊敬してるから」

善子「ぐ……そういうならまぁ……」

梨子「また錬金術はじめるんだよね?」

善子「そのうちね……」

梨子「いつでも言ってね、そうしたら私はどこか違うところに……」

善子「何言ってんのよ、ここはあなたの工房よ」

梨子「でもここは元々善子ちゃんが…」


善子「今はあなたの工房よ。名実ともにね」


梨子「どういうことですか?」

善子「後でわかるかもね」

梨子「んー?」
 

576: 2018/04/15(日) 23:57:05.48 ID:nUIfYIX9.net
 ぱなちゃん達の用意してくれたご飯を食べ、梨子ちゃんは町へ出ます
 ひさしぶりという感覚は、一月の間眠っていた事を痛感させます

 季節の移り変わりなのか、肌を指す風が気持ちいい
 しかしそれ以上に変化を感じたのが……


「あ、梨子ちゃんだ! もう体は大丈夫なの?」

「梨子ちゃん、うちの店にいい野菜が入ってるよ、後で寄っていきな!」

「梨子ちゃんや…今度うちの孫の嫁に……」

「梨子ちゃん~!」

「りこちゃん」

 リコチャン…


梨子「な、なんなのー!?」


 いつもはここまで声をかけられる事なんてありませんでした
 ところが今日にいたってはすれ違う町の人、おじいちゃんおばあちゃんだけでなく、若い人達も声をかけてくれます
 

577: 2018/04/15(日) 23:58:27.29 ID:nUIfYIX9.net
 -酒場クニッキー


花丸「あはは、梨子ちゃんとても人気ものずらね~」

梨子「正直初めて会う人もいて、どう対応していいのかわからないよぅ」

花丸「それだけ梨子ちゃんに感謝してるんだよ、みんな」

梨子「私だけで出来たわけじゃないのに……」

花丸「勿論町のためにみんながやれることをがんばったよ。でも、それでもっていうのはあるずら」

梨子「これでお仕事の依頼が増えてくれるならいいんだけど……」

花丸「梨子ちゃんがアトリエを本格的に再開すればもう大忙しずら~」

梨子(……アトリエ?)


花丸「それにしても一か月って、長い事寝てたずらね」

梨子「え、私だけなの?」

花丸「絵里ちゃんと鞠莉ちゃんは二日くらいで動けるようになってたよ」

梨子「…………むぅ」
 

578: 2018/04/15(日) 23:59:41.55 ID:nUIfYIX9.net
 それは根底にある錬金術士としてのレベルの差だというのを理解した梨子ちゃん
 同じ立場、同じ役割をこなしたはずですがこの結果に少しだけくやしく感じるものもあります


花丸「まぁあの二人は別格だからね」

梨子「でも、いつか私も……」

花丸「梨子ちゃんだって努力を続ければなれるずら」

梨子「うん。ありがとう」


花丸「っと、それじゃそろそろ行こうか」

梨子「そういえば用事があって呼び出したって…?」

花丸「ちょっとついてきて~」サッ


 花丸ちゃんは梨子ちゃんを酒場のカウンターの中へと招きます
 そのままお店の厨房横を通り抜け、裏口に案内します
 

579: 2018/04/16(月) 00:01:12.58 ID:aVShxkJt.net
梨子「へぇ、ここってこうなってるのね」

花丸「これでも町で一番大きい酒場の厨房だからね」

梨子「いいなぁ大きなキッチン。工房のは小さくて…」

花丸「そのうちリフォームするずら?」

梨子「なるほど、リフォームという手もあるのね……」

花丸「ほら、こっちずら」ガチャ

梨子「あ、まだ奥へ行くのね」


 さらに奥へ進み、細い渡り廊下を渡り隣の建物へ移動
 そこから階段を上がり二階へ……陽の光も満足に入らない薄暗い廊下を進みます
 

580: 2018/04/16(月) 00:03:01.21 ID:aVShxkJt.net
 場所は酒場から隣の旅館へと移動しています
 建物の構造上、花丸ちゃんがどこに連れて行こうとしているのはわかりました


花丸「ここずら」

梨子「…………」


 それは廊下の一番奥の扉……そこに待つ……いえ、眠っている女の子がいる部屋


花丸「ここに、高海千歌ちゃんがいるずら」ガチャ

梨子「チカ……ちゃん……」


 話には聞いていた女の子。今回の事件においてとても重要な位置づけの子
 その女の子がすぐそこにいる。不思議な緊張感とともに梨子ちゃんは部屋に入りました

 そしてそこにいたのが……
 

581: 2018/04/16(月) 00:04:41.15 ID:aVShxkJt.net
曜「あ、梨子ちゃ~ん! 目が覚めたんだね!」


梨子「曜ちゃん? あれっ?」

花丸「ああ、曜ちゃんもきてたずらね」


 出迎えてくれたのは曜ちゃんでした


花丸「曜ちゃんはよく千歌ちゃんの様子を見にここに来てるんだよ」

梨子「そうなのね…」

曜「梨子ちゃんも会いに来てくれたんだね……」


 そういって曜ちゃんが脇へ移動する
 その奥……窓から差し込む光の中、彼女は眠っていました


梨子「この子が………」


 ベッドで静かに眠る少女、それが高海千歌ちゃんでした


千歌「………………」スゥ…
 

582: 2018/04/16(月) 00:06:01.69 ID:aVShxkJt.net
曜「穏やかでしょ。ほんとにただ眠ってるだけみたい」

梨子「……………うん」


花丸「でも、ずっと起きないまま。呪いによるものだって……」

梨子「……………」


 千歌ちゃんは何者かにかけられた呪いでずっと目を覚まさない状態
 鞠莉ちゃんがすぐに解除できないようなレベルの呪いをどうしてこの子が受ける事になったのかなと、梨子ちゃんは考えます


梨子「チカちゃんてこの旅館の子だよね。一体何があったの?」

曜「詳しい事はわからないけど、ある日突然千歌ちゃんが変な事いいだして…」

花丸「穂乃果さんを出せって……その……」

梨子「頃してやるって?」

花丸「ん………うん……でも千歌ちゃんがそんな事言うなんて絶対におかしい……」

曜「穂乃果さんがその少し前から行方不明になっていて、それに関係しているのかなって……」

花丸「そのうち手がつけられないくらいに暴れるようにもなって……」

梨子「…………ふむ……あっ」


 ここで梨子ちゃんはとても大事な事を思い出しました
 

583: 2018/04/16(月) 00:07:30.24 ID:aVShxkJt.net
梨子「そういえば犯人も穂乃果さんを探しているようだったけど…」

花丸「え………?」

曜「犯人?」


梨子「浄化作戦の時にね、私の前に現れたの。私それに気を取られて最初失敗しちゃったから」

曜「き、聞いてないよ!?」

梨子「だって状況的にそれどころじゃなかったから」

花丸「で、そいつは誰ずら!?」

梨子「姿は見えないけど、私に話しかけてきたの。錬金術でそういう事が可能な薬があるの」

曜「錬金術………?」

花丸「え、犯人は錬金術士ずらか!?」

梨子「その薬を本人が作ったのかどうかは知らないけど、犯人側にいるのは確実ね」
 

584: 2018/04/16(月) 00:09:09.18 ID:aVShxkJt.net
曜「犯人が錬金術士の可能性があるっていうの、他のみんなは知らないのかな?」

花丸「だって……知っていたら………」

梨子「もしかしてだけど、エリー先輩やマリーさんは知っているかも」

曜「え、そうなの?」

梨子「推測だけどね、モンスターをたくさん操る能力はあるけど人はたくさん操れないみたいだし」

花丸「そういえば黒澤の伝令は操られていた可能性があるってダイヤさんが……あれって錬金術で?」

梨子(錬金術………トロイヤの丸薬かな? 確か短時間だけど人の意識を……)


曜「………………」

花丸「と、とにかくこれで犯人の明確な目的がハッキリしたずらね!」

梨子「人探し……っていうよりかは隔離されているのかもね、穂乃果さん」

曜「…………どうして?」
 

585: 2018/04/16(月) 00:11:14.36 ID:aVShxkJt.net
梨子「犯人が言ってたの、かならず取り返すって。それであの方法を取るのなら、生半可な場所にはいないって事でしょ?」

花丸「取り返す……」

曜「………………まさか」ボソッ

梨子「……………」


 明確になった事とさらに深まる謎の部分
 梨子ちゃんはそのあたりの人間関係に詳しくないので判断材料がありません

 けれど、一つだけあるとすれば……


梨子「曜ちゃん、団長さんって呼ばれてる人って自警団の団長さん?」

曜「っ!?」ドキッ

花丸「団長さんがどうかしたずらか?」

梨子「穂乃果さんのいる場所、もしくはそれに関わる何かしらの情報を知ってるっぽいから」

花丸「え、どうして?」

梨子「犯人がね、かならず取り返す、団長にもそう言えって……」
 

586: 2018/04/16(月) 00:12:30.79 ID:aVShxkJt.net
曜「団長……………」

花丸「曜ちゃん、団長さんって……あの人だよね?」


梨子(この辺りも顔見知りなのかな?)


曜「私、ちょっと行ってくるっ」バッ

花丸「曜ちゃん! 明日の約束忘れないでね!」


 部屋を飛び出す曜ちゃんに慌てて声をかける花丸ちゃん
 その背中を見送ってからあらためて眠る千歌ちゃんに視線を落とす


花丸「千歌ちゃん………ホントに何があったずらか……」

梨子「……………」
 

587: 2018/04/16(月) 00:13:45.28 ID:aVShxkJt.net
 -酒場クニッキー


梨子「え、明日?」

花丸「うん。ここでちょっとした発表をするので、来てほしいずら」

梨子「花丸ちゃんがなにかするのね」

花丸「それは明日来てのお楽しみずら」

梨子「私も花丸ちゃんに用事あるし、明日なら大丈夫よ」

花丸「ん、マルに用事? 今じゃダメずらか?」

梨子「報酬の件で、津島工具店に一緒に行きましょっ」ニコニコ

花丸「あ、そういえばまだだったずらね。今日はもう遅いし…わかったずら」

梨子「もう頂くものは決めてあるからすぐにすむよ」

花丸「ま、新しいアトリエにはなにかと必要だしね、協力させてもらうずらよ」

梨子(またアトリエ……ま、どっちでもいいけど)
 

588: 2018/04/16(月) 00:14:39.23 ID:aVShxkJt.net
花丸「明日は絵里ちゃんや鞠莉ちゃんも来るからその時にまた今日の話をしよう」

梨子「エリー先輩達が!? わかった!」

花丸「ちょっとテンションかわりすぎじゃないずら?」

梨子「だってあれから会えてないし、いろいろお世話になったお礼もはやくしたいから」

花丸「それらも明日にまとめてするずらよ。お昼くらいに来てくれればいいから」

梨子「わかった、じゃあ明日ね」


花丸「がんばってね、ヌマヅの新しい錬金術士さん」クスッ


梨子「?」


 別れ際によくわからない応援をされる梨子ちゃん
 自分はとうにここでがんばっていると思っていたけど、何か意味はあるのだろうかと考えます


 しかしその言葉の意味はすぐに判明するのでした
 

589: 2018/04/16(月) 00:17:26.08 ID:aVShxkJt.net
善子「お、ようやく帰って来たわね」

梨子「善子ちゃん、どうしたの工房の前で……って、え……?」


 工房兼自宅に戻ると玄関前に善子ちゃんがいました
 ぱなちゃん達もなぜか並んで待っているようでした


ぱな「ごしゅじんのきかんです?」

りん「てきかく」

まき「…………」ムスッ


 どうしてそこにみんながいるのかと考える前に梨子ちゃんの目に飛び込んでくるものがあります


梨子「…………これ……………え……」

善子「今日でかける時気づかなかったみたいだったから、どうせなら綺麗にしておこうって、この子達が言うもんで」

梨子「え、じゃあこれ………」

善子「梨子が寝てる間に作っといたのよ」
 

590: 2018/04/16(月) 00:18:33.85 ID:aVShxkJt.net
 それを見て梨子ちゃんはようやく花丸ちゃんや善子ちゃんの言葉の意味を知ります


梨子「………………」ポロッ

ぱな「ぴぃ!?」

善子「大丈夫、喜んでもらえたみたいよ、よかったわね」


 自分は試験のためにやってきたよそ者。心のどこかにそんな気持ちがあったかもしれません
 町のためにがんばる人達の中であっても、自分は自分に出来る事をただがんばるだけ


梨子「……っ……ぅぅ……」ポロポロ…

まき「…………」ムスッ スッ


 しかし今日出会った町の人達の反応から、変化はありました


梨子「まきちゃ………ありがとっ……ズズ」


 工房の玄関扉の上に、新しく取り付けられた看板があります
 それはオトノキからやってきた梨子ちゃんがヌマヅの仲間入りをしたという確かな証としてありました


善子「名前は私が考えてあげたわ、感謝しなさい!」ビシッ

梨子「善子ちゃん……………ありがとぅ……」


 少し装飾が悪魔ちっくなデザインではありましたが、看板にはこう書かれていました
 

591: 2018/04/16(月) 00:19:18.76 ID:aVShxkJt.net
 

   


  ~ リリーのアトリエ ~


    

 

609: 2018/04/16(月) 23:37:09.62 ID:aVShxkJt.net
 

 ―――梨子ちゃんが新しい看板の前で妖精さん達と記念撮影をしている頃…‥
 

610: 2018/04/16(月) 23:37:38.07 ID:aVShxkJt.net
 タッタッタ… ガチャ


曜「失礼しますー、団長!」タタタ…


「あら渡辺さん、今日はこっちにも仕事が?」

曜「ううん、ないけどちょっと団長に用事が……」

「団長ならしばらく出張中よ」

曜「え、どこに行ったの?」

「この間のモンスター襲撃事件の調査報告書を国に提出しにいくとかで、一週間は戻らないよ」

曜「調査団の人このあいだ来たばっかりじゃん。それに提出だけなら団長がいかなくても…」

「防衛戦力の補強案も一緒に提案するからって言ってたかな」

曜「むぅ………」

「団長に急ぎの用事だったの?」
 

611: 2018/04/16(月) 23:38:25.59 ID:aVShxkJt.net
曜「うん……仕方ないし、出直すよ」

「伝言預かろうか?」

曜「大丈夫、また顔だしまーす」タタッ

「あ、そうだ! ねえねえ曜ちゃんてさ、桜内さんと親しいんだって?」

曜「梨子ちゃん? 一緒に仕事はしたけど、個人的付き合いはまだそんなに…」

「どんな人なの? 桜内さん」

曜「どんなって……アカデミーの卒業試験のためにここに来てて…」

「もうっそういうのは知ってるわよ! どういう生活してるのかとか、恋人はいるのかとかよ~」

曜「い、いやそこまではさすがに……」

「そっかぁ…でも、いいわよねー桜内さん」

曜「いいというのはどういう意味で?」

「すっごい可愛くない? いい意味でヌマヅっぽくない美少女って感じで」

曜(よくわからない……)
 

612: 2018/04/16(月) 23:39:33.87 ID:aVShxkJt.net
「それにこっちに来たばかりの頃、町のあちこちで迷子になってたじゃない」

曜「毎日いろんなところで泣いてたのは聞いた事あるね」

「もうさ、可愛いよね~」

曜「そこなんだ」

「いいなあ曜ちゃん。私もお近づきになりたい」

曜「工房やってるんだし、何か依頼をすればいいんじゃないですか?」

「桜内さんって何系の錬金術やってるのかな?」

曜「んーそういえば何が得意とかは聞いてないなー」

「マリーちゃんが薬品関係、特に美容関係の類が得意だったよね」

曜「だね。絵里ちゃんは貴金属とか、アクセサリーが得意だって言ってた」

「桜内さんはあんな美少女なんだから、可愛い服とか作ってくれそうじゃない?」

曜「それは錬金術関係ないような」
 

613: 2018/04/16(月) 23:40:36.45 ID:aVShxkJt.net
 -夜 梨子ちゃんの部屋


梨子「まきちゃ~ん、寝るよ~」パチッ

まき「…………」ムスッ トテトテ ボフッ


 梨子ちゃんは毎日日替わりで妖精さん達と一緒に寝ています
 最初はみんなで寝ようとしましたがさすがに狭く、気が付くと上に乗っかられるのでやめました

 今日はまきちゃんの番です


梨子「明日はお昼から花丸ちゃんのとこに行って、それから工具店にも行って……」ソワソワ

まき「…………?」ムスッ

梨子「んふふ……んふふふ……♪」

まき「…………」ムスッ

梨子「嬉しいね、こんな風に町に溶け込んでいくのを実感すると」

まき「…………」ムスッ

梨子「アトリエ………私のアトリエ………んふふ~♪」

まき「…………」ムスッ
 

614: 2018/04/16(月) 23:42:56.01 ID:aVShxkJt.net
 尊敬する先輩達と同じように工房を構えるのは分かっていましたが、その名前までは考えていませんでした
 リリーのアトリエという善子ちゃんのセンスには脱帽です


梨子「マリーのアトリエ……エリーのアトリエ………リリーのアトリエ……」

まき「…………」ムスッ

梨子「えへへ、いいなぁ~♪」ムギュッ

まき「………っ!」ムスー


 経験、技術、実績など先輩達にはまだまだ敵わないとしても、同じラインに立ったような気がして気が引き締まる思いです


梨子「私もがんばらないとね」ギュー

まき「………っっ」ムスッ タップ

梨子「やっぱり看板メニューみたいなのは必要かな?」

まき「………?」ムスッ


梨子「メガフラムやメガクラフトもいいけど、そのうちギガフラムも作りたいよね」

まき「…………!?」ムスッ


 大量に作っていたせいか、梨子ちゃんは爆弾作りが得意になっていました
 

615: 2018/04/16(月) 23:44:24.34 ID:aVShxkJt.net
 -次の日 酒場クニッキー


 ザワザワ…… ガヤガヤ……


梨子「わっ、すごい人……」


 お昼になにか発表をするという事で呼ばれていた梨子ちゃん
 酒場には日中というのにすでにたくさんの人が集まっていました


梨子(ん、でもなんだか大人ばかり……)チラチラ


鞠莉「リリー!」


梨子「あれ、あそこにいるのって確か網元の頭領……」チラチラ

鞠莉「リリー?」

梨子「え?」

鞠莉「元気になったのね、よかったわリリー!」ギュムー

梨子「わっ、マリーさん!?」オモイ…


 まだあまり呼ばれ慣れていないのですぐには反応できませんでした
 

616: 2018/04/16(月) 23:45:34.15 ID:aVShxkJt.net
鞠莉「もう平気なのね?」ギュー

梨子「は、はい。その、色々ありがとうございました」

鞠莉「それはこっちのセリフ。リリーがいてくれて本当に良かったわぁ」

梨子「リリー………」

鞠莉「アトリエの名前、決まったんでしょ?」

梨子「あ、はい。善子ちゃんがつけてくれて」

鞠莉「エリーと合わせてなんだか三姉妹みたいね~」

梨子「三姉妹……」ドキッ


絵里「何言ってるのよ」ポンッ


鞠莉「oh-エリーもきたわね」

梨子「エリー先輩!」
 

617: 2018/04/16(月) 23:46:36.72 ID:aVShxkJt.net
絵里「ひさしぶりね梨子。元気になって良かったわ」

梨子「え…………はいっ!」


 昨日も十分感じられましたが、絵里ちゃんが自分を名前で呼ぶ事にまた一つ心が温かくなる梨子ちゃんでした


絵里「それで、今日の発表というのは?」

鞠莉「おそらく例の件でしょうね」ギュー

梨子「?」オモイ…


 酒場の残り少ない空きテーブルに三人で座ります
 いつもならウェイトレスさんが注文を取りに来ますが、今日は酒場としての営業はまだのようでした


鞠莉「んー……」チラッ

絵里「…………」

梨子「………?」
 

618: 2018/04/16(月) 23:47:33.03 ID:aVShxkJt.net
鞠莉「やっぱり姿は見えないわね、ダイヤ達」

絵里「そうみたいね」

鞠莉「やっぱり何かあった……という事で決まりみたいね」

梨子「なにかあったんですか?」


 酒場には町の権力者の姿も見受けられます
 それがこの後の発表が重大であることを意味するのはわかります


鞠莉「私達が浄化作戦を成功させてから、色々町でもバタバタしていたみたいでね」

絵里「黒澤さんとこの……ルビィが見つかったという事でお家の方でも何かあったみたいなの」

梨子「それは、親御さん達との間にという事ですか?」

鞠莉「正確な事はわからないけど、それから表にでてこないのよ、ダイヤとルビィ」

梨子「……………」
 

619: 2018/04/16(月) 23:48:59.68 ID:aVShxkJt.net
 厳格な家の生まれであるダイヤとルビィ。二人の間にあった問題は梨子ちゃんも知るところです
 しかしその問題は良い方向へ向かっていたと思っていました


梨子「ルビィちゃん………」


 すべてが終わったら、大好きなお姉ちゃんのために一緒におやつ作りをするという約束を思い出す
 家の事情もあるとは思いますが、梨子ちゃんは何か嫌な予感がします


絵里「ん、来たみたいね」

梨子「……花丸ちゃん」


 酒場がより一層騒がしくなると同時に、カウンターの奥からやってきたのはいつもの花丸ちゃん
 その隣には初めてお目にかかるご老人。雰囲気から花丸ちゃんの祖父だと思われました


絵里「初めて見るわ」

鞠莉「私も子供の頃に一度見かけたきりよ」

梨子(確か町のご意見番……表舞台には立つことはないけど影から町を支えてきた人……)
 

620: 2018/04/16(月) 23:50:17.28 ID:aVShxkJt.net
 酒場に集まった人々が花丸ちゃんとその隣に立つご老人に注目します
 花丸ちゃんは一歩前にでると、その視線を一人で受け止める

 そして語られる今回町を襲った事件の事
 町のみんなで守り通した偉業を称えます。そして花丸ちゃんは一つの宣誓をします


梨子「花丸ちゃん…やるんだね……」


 それは、人の上に立つ者の覚悟を現したものでした

 これまで町を収めてきたのは南家、黒澤家、西木野家です
 しかしそのバランスは崩れつつあり、次代にその役目を引き継げない状況にあります

 その危うい状況を今一度統一、修正する事で安定した次代に対応するのが目的でした


絵里「やっぱりそういう家だったのね、この酒場」

鞠莉「そうね。でもあの子ならいいわ」
 

621: 2018/04/16(月) 23:51:33.70 ID:aVShxkJt.net
 花丸ちゃんは正式に国木田として町の統制に関与するとし、町長代理として南家と行動する事になりました
 その決定はスムーズに決まり、現町長である南家の頭首もそれを受け入れます


梨子「なんだか新しくかわったというより、元に戻ったって感じがしっくりくるんですけど」

絵里「この流れに誰も何も言わないのはそういう事なんでしょ」

鞠莉「もう随分前だけど、ここの町長は元は国木田一族ただ一つだったからね」

絵里「どうして一線を退く事になったの?」

鞠莉「退くというより、継げなかったからよ。花丸の両親は二人とも亡くなっているの」

梨子「そうだったんですね……」


 重大な発表という内容にしては十分でしたが、今回はそれで終わりませんでした
 花丸ちゃんは次に梨子ちゃんを指名し、前に出てくるようにと告げます


 こうして町を救った新たな錬金術士として正式にリリーが皆にお披露目されるのでした


梨子「ひ~ん……恥ずかしいよぅ」
 

640: 2018/04/17(火) 23:25:39.71 ID:w6QlFN+V.net
 重大発表とリリーのお披露目会も終わり、梨子ちゃん達はそのまま酒場で昼食をとることにします

 酒場の看板娘という役職(?)から町長代理へとクラスチェンジした花丸ちゃん
 もう以前のような華やかに料理を運ぶ姿は見れないのかなと、梨子ちゃんは少し寂しくなりましたが…


花丸「ピルツ定食おまちどう~ずらっ」シュタッ

梨子「あれー?」


 そこにはいつもの割烹着姿の花丸ちゃんがいました


鞠莉「やっぱりその姿が一番キュートね」

花丸「ありがとずら~」

梨子「あれ、いいの? 花丸ちゃん」

花丸「町長代理の事を言ってるのなら、それは勿論ちゃんと務めるし、本業も疎かにしないずらよ」

絵里「それ本業だったんだ」
 

641: 2018/04/17(火) 23:26:32.74 ID:w6QlFN+V.net
花丸「まぁ今までのように毎日来れるわけではないけど、ここが一番の情報収集源なのはかわらないし」

梨子「そうなんだ。ちょっと安心」

花丸「これからもご贔屓によろしくずら」


 三人がそれぞれ昼食をすます頃、曜ちゃんが酒場にやってきました
 それに合わせて花丸ちゃんもお仕事を休憩し、合流します

 今日のもう一つの目的。それはこれからの対応策についてです


曜「団長捕まらなかった……」

絵里「あれだけの事件だもの、事後処理もまだまだあるんでしょ」

鞠莉「組織って大変そうね~」

梨子「軽いですね」
 

642: 2018/04/17(火) 23:28:21.64 ID:w6QlFN+V.net
 犯人の目的、狙っている相手、用いる手段。これらから推測できる次の展開を予想します


絵里「つまり狙われていたのは高海さんで、別の目的で探しているのが高坂さんって事?」

梨子「不明瞭な部分はまだあるんですけど、何か答えを当てはめていくのならそうなるかなーと」

鞠莉「チカっちが目覚める事を良しとしない状況、存在。可能性とするなら一つしかないわね」

梨子「はい。チカちゃんが穂乃果さんの居場所を知っていて狙っているとするなら、犯人にとってそれは障害です」チカッチ?

曜「じ、じゃあ千歌ちゃんに呪いをかけた相手は今回の犯人とは別ってこと?」

絵里「そうでしょうね。そもそもそんな面倒な呪いを行使できるならもっと違う手段もとれたはずだわ」

花丸「そして穂乃果ちゃんが現在いるところは誰も知らない。唯一知っているかもしれないのが……」


曜「団長……」


梨子「私は団長さんの事は良く知らないのだけど、知っている可能性はありそうなの?」

曜「いや、正直私にもよく……」

花丸「あの人、穂乃果ちゃんと接点あったかな?」

鞠莉「それはそのうち戻ってきてから直接聞けばいいんじゃない?」
 

643: 2018/04/17(火) 23:29:17.52 ID:w6QlFN+V.net
梨子「では次にチカちゃんの事だけど……」

曜「狙われているなら警備とか強化したほうがいいんじゃないかな?」

花丸「そうずらねぇ……」


梨子「それなんだけど、犯人ってこの町の構造にあまり詳しくないのかもしれないって思うんだけど」

鞠莉「それ以前に、本人が直接この町に来ているのかどうかも怪しいわね」

曜「え、どういう意味?」

絵里「モンスターを操っているのはもうあきらかとして、黒澤家の人間を使っての伝令工作、これも少し回りくどいわよね」

花丸「ダイヤさんを町から遠ざけたかったって推理はどうなったずら?」

梨子「それはそうだと思うけど、具体的な目的と手段が噛みあってない気がするの」

曜「んー……こんがらがってきた」


梨子「そもそも、いくつか目的があったとして、どうしてそれらを一度にする必要があったのか……」
 

644: 2018/04/17(火) 23:30:31.39 ID:w6QlFN+V.net
花丸「穂乃果ちゃんの確保と千歌ちゃんという障害の排除はイコールじゃないずら?」

梨子「犯人は穂乃果さんの居場所を知らないし、探し出すことも困難なのかもしれない」

絵里「あれだけ使役できてるわりにはって気もするけどね」

梨子「モンスターの群れは単純な命令でしか動いていないと思いますし、騒ぎを大きくして混乱に乗じてという要素もあったと思います」


鞠莉「つまり、犯人にとっても今回の襲撃は念入りに準備したもの、まさに一発勝負の大一番ってワケね」

絵里「障害の排除と対象の確保、あるいは居場所の特定……同時にする意味であるとすれば…」

梨子「穂乃果さんを隔離、あるいは所在を隠している人に悟られたくなかった事も考えられます」

花丸「千歌ちゃんになにかあったら事情に詳しい人ならそのまま穂乃果ちゃんの事も連想するずらね」

曜「そうなったら、穂乃果さんへの警備……この場合は…えっと……」

梨子「より警戒するために隠匿工作が強められるかな」

絵里「まあ、そうなるわよね」
 

645: 2018/04/17(火) 23:31:14.95 ID:w6QlFN+V.net
梨子「でもこの二つと黒澤家の事はよくわからないんですよねぇ…」

鞠莉「そういえばさっき頭領と何か話してなかった?」

花丸「うん。挨拶ついでにダイヤさんやルビィちゃんの事を聞いたけど、家で稽古しているとだけ……」

絵里「あの人がルビィの処遇を簡単に済ませるなんて想像つかないけど」

梨子「そうなんですか?」

鞠莉「私も仕事で話す機会があったけど、堅物の見本みたいな人ね」

花丸「ルビィちゃんの罪はちゃんと償ったのに…」


梨子「罪は罪として償った。後は家庭の……躾の問題ってことなんじゃないかな」


鞠莉「簡単に口は挟めない問題ね」

花丸「ぅぅ…………」
 

646: 2018/04/17(火) 23:32:26.25 ID:w6QlFN+V.net
絵里「それで、梨子が話したという犯人についてだけど…他には何かある?」

梨子「言葉は丁寧でしたけど、相当くやしそうでした」

鞠莉「またくるって宣言してるくらいだし、しつこそうよね~」

曜「え、じゃあすぐに防衛対策しないと!」

梨子「んーでも、さすがにすぐにはこないと思う」

花丸「何か言ってたずらか?」


梨子「これだけ用意周到に計画した不意打ちだらけの作戦が失敗したんだから、次は根本的なとこから変えてくるかなって」

絵里「直後はしばらく警戒態勢だったけど、むこうもそうとうの痛手だったんでしょ」

鞠莉「こちらも狙われているという意識でいる限り中途半端なマネは出来ないからね」

曜「そうか、向こうも今度はこっちが千歌ちゃんを守ってくるのはわかってるんだ」

梨子「それでも最優先が穂乃果さんみたいだから、もしかしたらそっちに集中する可能性もあるよ」


花丸「んー、結局マル達はどうすれば……」


絵里「しばらくは町の復興に専念して、日常を取り戻すことね」

花丸「それでいいずらか?」

鞠莉「人に直接干渉してくるトロイヤの丸薬は私のほうで対策してるから、もう少し待ってね」
 

647: 2018/04/17(火) 23:33:49.41 ID:w6QlFN+V.net
曜「こっちから何かできるとしたら、やっぱり穂乃果さんを見つけ出すことかな?」

梨子「んーどうなのかな」

絵里「もし団長さんが必氏に隠している事なのだとしたら、下手に探るとこっちが危険になるかもしれないわよ」

鞠莉「まぁ軽く話題にだしてみて、反応を見るしかないわ」

曜「ぅぅ……団長………」


花丸「犯人だけでも手ぇいっぱいなのに団長問題もでてくるずらか……」

梨子「個人的には黒澤家も気になるけど」

鞠莉「お家の事情には外野がどうこう言うべきじゃないわよ」


梨子「んー……襲撃の時、犯人の目的の一つになっている気がして、どうにも……」

花丸「そっちはこれからマルのほうで調べてみるずら」
 

648: 2018/04/17(火) 23:34:49.58 ID:w6QlFN+V.net
絵里「とりあえず敵が錬金術士である以上、こっちで対抗できるのは今のところ私達だけね…」

曜「力押し的な部類なら自警団もやれるんだけど、頭使うのは苦手~」

鞠莉「ふふ、曜も勉強してみれば才能あったりするかもよ?」

曜「えー無理無理、本を読んだことあるけどあれは絶対無理だよ~」


花丸「錬金術かぁ………」


鞠莉「あら、興味がでてきたの?」

花丸「マル自身はもとより適正となる魔力がないから無理ずら。それよりもっと気軽にみんな学べたらいいなって」

絵里「オトノキアカデミーのように?」

花丸「あの規模ほどじゃないにしろ、学校みたいなのはあると良さそうだなって思って」


梨子(学校か………)
 

649: 2018/04/17(火) 23:36:13.12 ID:w6QlFN+V.net
花丸「さて、あんまり時間かけても現状できることは変わらないずらね」ガタッ

曜「あ、私もそろそろ役場の交代勤務の時間だ」

鞠莉「あいかわらずなんでも屋やってるのね」

絵里「私も帰って作業に戻ろうかな」


梨子「花丸ちゃん、津島工具店行こう!」

花丸「わかってるずらよ」

鞠莉「やけに嬉しそうね、何かあるの?」

梨子「花丸ちゃんが好きな器具を二つ買ってくれるんです。今回の報酬のようなもので」

絵里「そういうところはしっかりしてるのね」

梨子「まだまだ必要な器材も生活用品も足りないものはたくさんあるんです! 貰えるものならなんでもいただきます!」グッ

花丸「たくましいずら」
 

650: 2018/04/17(火) 23:37:07.31 ID:w6QlFN+V.net
梨子「じゃあさっそく行くずら~♪」

花丸「マルの癖をマネしないでずら~」

鞠莉「ふふ、仲いいわね」


梨子「……あ、そういえば」ピタッ


花丸「なんずら?」

梨子「犯人の錬金術士さん、なんだか特徴的な話し方をしていたなって」

鞠莉「話し方?」

絵里「どういうの?」


梨子「やんわりした口調で、なになにやね~とか、なになにやわーって、方言……なのかな?」


絵里「…………え?」ドキッ

鞠莉「ん?」

花丸「?」
 

651: 2018/04/17(火) 23:38:32.71 ID:w6QlFN+V.net
 -津島工具店


善子「よくきたわねっ!」ビシッ

梨子「善子ちゃんこんにちはっ!」

花丸「お買い物にきたずらよー」

梨子「買うものはもう決めてあるからね、えっと……」


善子「それはいいけど梨子、あなた早くルナスタッフ返しなさいよ」

梨子「え?」ドキッ

善子「あれも立派な売り物なのよ、けっこう高いんだから」

梨子「………あれは、浄化作戦の時に……こ、壊れちゃって」

善子「あらそうなの。ん、じゃあ弁償してくれるのね?」

梨子「弁………」

花丸「あいかわらずそういうところ細かいずらね……」

善子「だから生活かかってるって言ってるでしょ!」
 

652: 2018/04/17(火) 23:39:33.24 ID:w6QlFN+V.net
梨子「ち、ちなみにおいくらでしょうか……?」ドキドキ

善子「ん……」スッ


梨子「」ゾワワッ


花丸「ボッタクリじゃないずらかこれ?」

善子「なんでよっ、あれすごい精密構造で手間かかってるやつなのよ」

花丸「一本くらいあげてもバチはあたらないずらよ」

善子「他の物なら多少はいいけど、あれ仕入れがあがらないと赤字なのよ……」
 

653: 2018/04/17(火) 23:41:36.21 ID:w6QlFN+V.net
梨子「ん、わかりました!」

花丸「梨子ちゃん……」

梨子「じゃあ花丸ちゃん、一つはルナスタッフを買ってください!」

花丸「マルの報酬で片付けるずらね……まぁいいけど」

善子「毎度あり~♪」


梨子「もう一つは多機能ガラス器具セットをお願いします」

花丸「おぉ、あの棚の上でずっとホコリかぶってるやつずらね、いくらずら?」

善子「ん……」スッ


花丸「」ゾワワッ
 

654: 2018/04/17(火) 23:43:10.91 ID:w6QlFN+V.net
 目的の物が一つ変わりましたが梨子ちゃんは今回の報酬を無事頂きました

 工具店を出たところで梨子ちゃんは花丸ちゃんにもう一か所行きたいところがあると告げます
 それはこの町に住む一人として、新たに生まれた気持ちを確認するためでもある場所でした


梨子「突然ごめんね」

花丸「ううん、ちょっと嬉しいずら」


 -ヌマヅ共同墓地


 梨子ちゃんが訪れたのは、先の事件で亡くなった方のお墓
 町にきてまだ間もなかった頃は、どこか他人事のように意識していた部分もありました

 しかし今はヌマヅタウンに住む一人として、お墓参りをしたいと思ったのです
 

655: 2018/04/17(火) 23:44:19.98 ID:w6QlFN+V.net
花丸「あれ…‥新しい花がある」

梨子「先に誰か来ていたんだね」


 墓前には新しい花束が供えられていました
 その横に梨子ちゃんも花屋さんで購入したものをお供えします


花丸「あ、ごめん梨子ちゃん。マルこの後用事があるから先に帰るずら」

梨子「うん。今日はありがとう」

花丸「一人で帰れる?」

梨子「少しいけば知ってる通りにでるから大丈夫だよぅ」

花丸「また迷子になっても誰かが助けてくれるずら」

梨子「んもぅ…」
 

656: 2018/04/17(火) 23:45:19.83 ID:w6QlFN+V.net
 花丸ちゃんと別れた梨子ちゃんは、墓前で一人…ある決意をします


梨子「………………」


 それはこの町の住人として、もしも何かあった時には全力で立ち向かう事
 町のみんなと協力して守り抜く事。二度と被害者をださないようにできる事を最大限に努める事


梨子「ここはもう、私が住む町だから……」


 大好きな町を守りたい。卒業試験のためだけじゃなく、一人の住人として、錬金術士として
 

657: 2018/04/17(火) 23:46:15.84 ID:w6QlFN+V.net
 お墓参りを済ませた梨子ちゃんはアトリエに帰ろうと歩き出します
 しかし初めて訪れる共同墓地。少しいけば知っている通りにでるはずでしたが……


梨子「あれぇ?」


 その少しの間で案の定迷子になってしまいました


梨子「さっき花丸ちゃんがあのお店がどうとか行ってたからそっちに気を取られて…えっと」


 誰も聞いていない言い訳をしながらトボトボ歩く梨子ちゃん
 いつもならこの辺りで町の人に助けられますが、今日は違いました


 


??「そこのお嬢さん」

梨子「え?」
 

658: 2018/04/17(火) 23:47:06.60 ID:w6QlFN+V.net
 声をかけてきたのは若い女性……かと思われる人物
 全身すっぽりと黒いローブに身を包み、フードで顔も良く見えません


??「そうそう、あなた」

梨子「えと、なんでしょう?」

??「よかったら、占いやっていかへん?」

梨子「占い?」


 その女性は小さなテーブルに水晶球とタロットカードを用意していました
 どうしてこんなところでと思いますが、どこか占いという部分での雰囲気はあります


??「なにかお困りのよーやねぇ、道にでも迷ったんかな?」

梨子「あ、はい……お恥ずかしながら……」

??「ふーん、そう。じゃあちょっと占ってあげよう」

梨子「あ、でも私今持ち合わせが……」
 

659: 2018/04/17(火) 23:48:22.34 ID:w6QlFN+V.net
??「初回サービスで一回タダにしてあげる」

梨子「は、はぁ……」

??「何を占って欲しいん? 正解の道? これからの人生?」

梨子「じ、じゃあ……えっと……」


 梨子ちゃんは女性に近づくと、ローブごしに相手の顔をじっと見つめます
 そして、一言口にしました


梨子「あなたを捕まえるにはどうしたらいいですか?」

??「………………」
 

660: 2018/04/17(火) 23:49:09.80 ID:w6QlFN+V.net
??「うちを捕まえるんかあ……難しいなぁ…」

梨子「占いでも正解はわかりませんか?」

??「そもそもどうしてうちなん?」


梨子「どうしてって……その声と口調でわからないはずないし、そもそも隠す気もないですよね?」

??「そーやねー、キミならわかるかな~って思ってたんよ」

梨子「いつもここで占い屋さんをしていたんですか?」

??「ううん、ただの気まぐれ。さすらいの占い師や」

梨子「私に会いに来たんですか?」

??「うちの計画をあれだけ邪魔してくれた子に、一度会っておこうと思ってね」


梨子「随分と余裕なんですね」
 

661: 2018/04/17(火) 23:50:20.63 ID:w6QlFN+V.net
??「そんなことあらへんよ……もうカツカツやわ」

梨子「なら素直に自首でもして、ゆっくり休めばいいと思います」

??「それはできないかな~」

梨子「穂乃果さんを取り戻すためですか?」

??「そうや」

梨子「一体穂乃果さんというのはどういう人なんですか?」


??「何も特別な事はない、一人の女の子……」


梨子「あれだけの事をしておいて目的が普通の子だっていうのはちょっと……」

??「ううん、普通の子。ただ、誰よりも優しい子……うちはあの子を助けたいねん」

梨子「…………」
 

662: 2018/04/17(火) 23:51:42.39 ID:w6QlFN+V.net
??「キミこそうちを前にして随分余裕やない?」

梨子「ちゃんと驚いてますよ。まさかこんなに早く接触があるとは思っていませんでしたし」

??「その割に何もしようとしないんやね」

梨子「どうせ捕まえようとしたって、いくらでも逃げる準備はできてるだろうし」

??「まぁ、そうやね」

梨子「それに私、貧弱なんです。力づくとかそういうのには無縁なので」

??「そんな事うちにバラしてもいいん? いちおう敵という認識なんやろ?」

梨子「でも、あなたは余計な被害はだしたくない……そう考えてますよね…」


 

梨子「東條希さん」


??「…………」
 

663: 2018/04/17(火) 23:52:42.24 ID:w6QlFN+V.net
梨子「エリー先輩が言っていました。アカデミーでは同期だったそうですね」

??「…………」

梨子「いつも誰かのために行動する、とても心優しい、言うなれば聖母のような人だって」


??「エリチったら、恥ずかしい表現してくれるわぁ……」


梨子「それがどうして……」

??「そんな昔の事で、キミが安全であるという保障にはならないよ?」

梨子「いいえ、あなたは優しいですよ、東條さん」

??「……?」
 

664: 2018/04/17(火) 23:53:56.91 ID:w6QlFN+V.net
梨子「うっすらとあなたからまだ感じるこの香り……墓前にあった花と同じものです」

??「………………」


梨子「どうして……被害がでるかもしれないってわかって……それで心を痛めてまで……」

??「ふふ、なんのことかわからんけど……キミは怖いなぁ」

梨子「私を本当にどうにかするつもりならとっくにやってます」

??「そんな風になんでもうまくいけば、うちもキミもここにはおらんよ……」

梨子「…………」


??「んー…実を言うと、キミだけは話次第で仲間になってくれるかもって思ったから接触したんよ」


梨子「どうして私なんですか?」

??「仲間にするなら錬金術士がいいのと、他の二人は絶対に動かんのわかってるし…」
 

665: 2018/04/17(火) 23:55:08.06 ID:w6QlFN+V.net
梨子「えっと、なにかバカにされてるようなので言っておきますけど…」

??「ん?」

梨子「私も他のみんなと同様、あなたを許すつもりなんてありません。絶対にいつか捕まえてみせます」

??「……………」

梨子「確かに私はすべての事情を知っているわけではないです。だけど例え知っていてもあんな方法は取らない」

??「……………」

梨子「穂乃果さんにどんな事情があっても、チカちゃんに何があったのかわかっていても、あなたは間違っています」


??「……………そうか」


梨子「どうせこれ以上何を言っても自首なんてしないだろうから、先に宣戦布告です」

??「それはうちも同じや」
 

666: 2018/04/17(火) 23:56:16.74 ID:w6QlFN+V.net
梨子「東條希……私達はかならずあなたを捕まえます。そしてすべてを話してもらいます」

??「うちもかならず穂乃果ちゃんを取り戻す。例えこれ以上の犠牲をだしたとしても、止まらないよ」


梨子「…………」

??「…………」


??「うちがここで心変わりして攻撃してくるとは思わない?」

梨子「きたらきたで、私は護身用にフラム等を持ち歩いていますから」サッ

??「…………ふふ、ほんま怖いわ~」

梨子「…………」
 

667: 2018/04/17(火) 23:57:31.67 ID:w6QlFN+V.net
??「じゃあそういうことで、うちは帰ろうかな」

梨子「あなたはこの町に住んでいるの?」

??「いーや、用事があったから今日初めてちゃんと町をうろついたんよ…」

梨子「いつもはどの辺りに?」

??「さぁ……だいたい放浪してるからなぁ」

梨子「次はいつ襲撃する予定です?」

??「んーと……ってなんでもかんでも答えへんよ」

梨子「……ノリで答えるかなーと」


??「ふふ、やっぱりキミは怖い子やわ。名前、教えてくれる?」

梨子「……………」
 

668: 2018/04/17(火) 23:58:54.28 ID:w6QlFN+V.net
??「名前が知られると呪い殺されるとでも思ってる?」

梨子「近いことはありそうかなと…」

??「そんなんできたら今ごろ他の子にも使ってるよ。小原鞠莉ちゃんにも、高海千歌ちゃんにも……」

梨子「……………」

??「ま、言いたくないならいいけど」


梨子「リリーです」


??「ん……」

梨子「アトリエやってます。錬金術士のリリーです」

??「そう……リリー、またそのうちな……」スッ

梨子「あ、まって! まだ聞きたい事が…!」


??「うちは東條希。気軽にのんたんって呼んでくれてえーよー……」スゥー


梨子「まっ………………」


 事件についての謎を聞き出すチャンスでしたが、もうのんたんはいませんでした
 ついでに梨子ちゃんは帰り道も聞きそびれてしまいました
 

669: 2018/04/18(水) 00:01:21.72 ID:KetLZ5Y2.net
―――――


 ――リリーのアトリエ

 これは、オトノキアカデミーからやってきた一人の女の子があれこれするほのぼの(?)物語


 卒業試験としての彼女の生活はまだまだ始まったばかりです
 これからたくさんの事を学び、技術を磨き、無事に卒業できるその日まで彼女の戦いは続きます


 憧れの錬金術士として、一人羽ばたくその日まで……



 


 コンコン…

 ガチャッ

 

670: 2018/04/18(水) 00:01:57.99 ID:KetLZ5Y2.net
 

梨子「ようこそ、リリーのアトリエへ!」


  おわり
 

671: 2018/04/18(水) 00:03:07.13 ID:9Bo5VY7u.net
乙でした

672: 2018/04/18(水) 00:03:49.69 ID:KetLZ5Y2.net
長々と保守ありがとございました
短編2つやって最終を考えておりますので、またその時はよろしくです


次回短編予定

 リリーのアトリエ2 ~ まきりんぱな ~
 リリーのアトリエ3 ~ ヨハネ召喚 ~

最終

 リリーのアトリエ4

683: 2018/04/18(水) 05:50:36.79 ID:/8fR65G5.net
おつ
続き待ってるぞ

引用: 【SS】 リリーのアトリエ