702: 2014/03/27(木) 13:46:37.17 ID:Q4oRBneE0
隼鷹「なんで、今日はこんなに晴れているんだろうなぁ……」
佐世保の港は、熱い日差しの下にさらされていた。
港を見下ろす高台に、軍服とも巫女服とも取れるような恰好をした女性が佇んでいた。
傍らには松葉杖があり、落下防止のための木の柵に立てかけられている。
並んで立つ軍服の男性は、女性の言葉をただ聞いていた。
隼鷹「なぁ……提督」
提督「なんだ?」
隼鷹「戦いは……終わっちまったな」
提督「……ああ、終わった」
昭和20年(1945年)8月15日。ポツダム宣言の受諾により、日本は無条件降伏をし、これを玉音放送で知らせた。
終戦であった。
703: 2014/03/27(木) 13:48:25.15 ID:Q4oRBneE0
商船改装空母 隼鷹。軍用に改装されることを前提に設計された商船“橿原丸”がもとになって生まれた空母だ。
いくつかの戦いに身を投じたが、機関の損傷により、自力航行ができなくなり佐世保に停泊したままとなっていた。
機関の損傷が影響してか、艦艇の魂である艦娘の体にも影響が出て、隼鷹は杖を突かねば歩けない体になっていた。
普通の人間には見えない彼女を見れるのは、彼女と長い付き合いの提督だけであった。
提督「無事だった船は、復員任務に就くそうだ。鳳翔や北上、雪風は無事だったからな」
隼鷹「お艦は結局無事だったか」
提督「空襲の被害も受けなかったから、外洋航行できるように改装を受けることが決定した」
隼鷹「でも、あたしは行けないのか……」
提督「すまん」
言葉に詰まった提督は、視線をまた港の方へと向けた。
隼鷹「良いって良いって……あたしの機関は結構手が込み過ぎてるんだし」
隼鷹の機関部は修復のめどが立たず、おそらく復員任務に就けないと推測されていた。
何しろ、資源もなく、整備をする人間もなく、そして時間もなかった。
あっけらかんと言う隼鷹だったが、提督は包帯が巻かれた足にちらりと目が行ってしまった。
それを悟ってか、隼鷹は気にするな、と笑みを浮かべた。
隼鷹「提督だって、いろいろ手を尽くしてくれたんだろ?それでもできないなら仕方ない」
隼鷹「今なら、提督と酒も飲めるしぃ」
提督「……そうだな」
昼酒を飲めるほど、提督には余裕はない。降伏したら降伏したで、やることは山ほどあるからだからだ。
だが、息が詰まるような提督を楽にしてくれるのが、この隼鷹だった。
提督「また、来る」
隼鷹「ん、待ってるよ」
ひらひらと手を振る隼鷹に見送られ、提督は石段を下りて行った。
隼鷹の視線の先は、遠いマリアナを見ていた。
いくつかの戦いに身を投じたが、機関の損傷により、自力航行ができなくなり佐世保に停泊したままとなっていた。
機関の損傷が影響してか、艦艇の魂である艦娘の体にも影響が出て、隼鷹は杖を突かねば歩けない体になっていた。
普通の人間には見えない彼女を見れるのは、彼女と長い付き合いの提督だけであった。
提督「無事だった船は、復員任務に就くそうだ。鳳翔や北上、雪風は無事だったからな」
隼鷹「お艦は結局無事だったか」
提督「空襲の被害も受けなかったから、外洋航行できるように改装を受けることが決定した」
隼鷹「でも、あたしは行けないのか……」
提督「すまん」
言葉に詰まった提督は、視線をまた港の方へと向けた。
隼鷹「良いって良いって……あたしの機関は結構手が込み過ぎてるんだし」
隼鷹の機関部は修復のめどが立たず、おそらく復員任務に就けないと推測されていた。
何しろ、資源もなく、整備をする人間もなく、そして時間もなかった。
あっけらかんと言う隼鷹だったが、提督は包帯が巻かれた足にちらりと目が行ってしまった。
それを悟ってか、隼鷹は気にするな、と笑みを浮かべた。
隼鷹「提督だって、いろいろ手を尽くしてくれたんだろ?それでもできないなら仕方ない」
隼鷹「今なら、提督と酒も飲めるしぃ」
提督「……そうだな」
昼酒を飲めるほど、提督には余裕はない。降伏したら降伏したで、やることは山ほどあるからだからだ。
だが、息が詰まるような提督を楽にしてくれるのが、この隼鷹だった。
提督「また、来る」
隼鷹「ん、待ってるよ」
ひらひらと手を振る隼鷹に見送られ、提督は石段を下りて行った。
隼鷹の視線の先は、遠いマリアナを見ていた。
704: 2014/03/27(木) 13:50:19.50 ID:Q4oRBneE0
数か月後に提督が隼鷹の元を訪れたとき、隼鷹は港にいた。
既に夜も更け、やや蒸し暑い中に月だけが静かに浮かび、埠頭は寄せては返す波に洗われ、少し涼しさがあった。
足を投げ出すようにして、隼鷹は腰かけている。
提督は、少しためらいを感じ、しかしいつものように彼女を呼んだ。
提督「隼鷹、酒を持ってきたぞ」
隼鷹「お、待ってたよ」
相変わらず、隼鷹の傍らには松葉杖があった。
それを一度だけちらりと見た提督は、隣へと腰を下ろした。
隼鷹「提督、それって……」
提督「秘蔵の大吟醸だ……祖父が屋敷の地下に隠していた物を拝借した」
提督「隠し事の多い祖父だったからな、これに気が付いたのもつい昨日のことだ」
用意していた猪口の一つを隼鷹の手に押し付けると、提督は静かに酒を注いでいく。
芳醇な香りが鼻孔を刺激し、思わず隼鷹の口もほころんだ。
提督「駆けつけ三杯とはいうが、一気に飲むのももったいないな」
隼鷹「つまみが欲しいねぇ」
提督「そんな贅沢はできないな。月を肴に、と洒落こんでみろ」
隼鷹「あたしはそこまでできないなぁ」
ケラケラと隼鷹は笑う。笑って、猪口を呷った。
暫くは、酒が酌み交わされた。
その沈黙を守って、不意に隼鷹が提督を呼んだ。
隼鷹「復員任務、終わったんだって?」
提督「一部ではな。まだ帰って来る人間は多い……退役した私すら駆り出される有様だ」
隼鷹「そっか……それでさ、提督」
隼鷹「あたしへの沙汰、決まったんだろ?」
提督「……」
無言のまま、提督の手は軍服の内側へと向かう。
取り出された書簡を開け、提督は中身を読み上げた。
提督「元日本海軍第二航空戦隊所属 隼鷹。その任を遂行する能力なく、既にその任の大義なく、これを明朝午前零時を以て解任し……」
提督「……解体処分とする」
既に夜も更け、やや蒸し暑い中に月だけが静かに浮かび、埠頭は寄せては返す波に洗われ、少し涼しさがあった。
足を投げ出すようにして、隼鷹は腰かけている。
提督は、少しためらいを感じ、しかしいつものように彼女を呼んだ。
提督「隼鷹、酒を持ってきたぞ」
隼鷹「お、待ってたよ」
相変わらず、隼鷹の傍らには松葉杖があった。
それを一度だけちらりと見た提督は、隣へと腰を下ろした。
隼鷹「提督、それって……」
提督「秘蔵の大吟醸だ……祖父が屋敷の地下に隠していた物を拝借した」
提督「隠し事の多い祖父だったからな、これに気が付いたのもつい昨日のことだ」
用意していた猪口の一つを隼鷹の手に押し付けると、提督は静かに酒を注いでいく。
芳醇な香りが鼻孔を刺激し、思わず隼鷹の口もほころんだ。
提督「駆けつけ三杯とはいうが、一気に飲むのももったいないな」
隼鷹「つまみが欲しいねぇ」
提督「そんな贅沢はできないな。月を肴に、と洒落こんでみろ」
隼鷹「あたしはそこまでできないなぁ」
ケラケラと隼鷹は笑う。笑って、猪口を呷った。
暫くは、酒が酌み交わされた。
その沈黙を守って、不意に隼鷹が提督を呼んだ。
隼鷹「復員任務、終わったんだって?」
提督「一部ではな。まだ帰って来る人間は多い……退役した私すら駆り出される有様だ」
隼鷹「そっか……それでさ、提督」
隼鷹「あたしへの沙汰、決まったんだろ?」
提督「……」
無言のまま、提督の手は軍服の内側へと向かう。
取り出された書簡を開け、提督は中身を読み上げた。
提督「元日本海軍第二航空戦隊所属 隼鷹。その任を遂行する能力なく、既にその任の大義なく、これを明朝午前零時を以て解任し……」
提督「……解体処分とする」
705: 2014/03/27(木) 13:52:27.75 ID:Q4oRBneE0
非情な宣告が、提督の口から絞り出された。
くしゃりと、提督の手に合った書類が形を失う。
隼鷹「そっか……」
空になった猪口に、隼鷹は酒を注ぎながら、ただ呟いた。
隼鷹「ま、覚悟はしていたんだけどねぇ……なんだよ提督、泣くなって」
提督「すまないな……お前を元の商船に戻したかった……」
隼鷹「謝るなって……て、酒がこぼれてるぞ!勿体ない」
慌てて、隼鷹が提督の手を支え、瓶を手に取って継ぎ足した。
隼鷹「あたしに責任感じてんの?」
提督「いや……そうではなくだな」
ぐっと猪口を空けた提督は、言葉を探した。
隼鷹「あのさ、提督。そんな責任取ろうなんて考えないでくれよ」
提督「だが……!」
隼鷹「あたしのことも考えてくれよ……動けなくても、戦えなくても、あたしは軍艦なんだ」
隼鷹「もう太平洋の夢は諦めてる。それなら、軍艦として、もう終わらせてくれよ」
サンフランシスコ-横浜間の北米航路を駆ける、豪華客船となるはずだった隼鷹と飛鷹。
しかし、戦争の開始によって彼女らはその夢をあきらめた。それに、思うところは、あったのだろう。
提督「……」
隼鷹「あたしだって、未練はある。けど、軍に身を置いて戦ったのは覚悟があったからだよ」
隼鷹「いつか戦いが終わった時には、また改装を受けて、本当の自分の役を果たせると信じていたのさ」
隼鷹「まぁ……それは叶わなかったし、一緒にいるはずの飛鷹も沈んじまったけどさ……」
口を湿らせるようにして、隼鷹は酒をもう一度呷る。
提督「なら……もう、いいのか?」
絞り出すような提督の言葉。
隼鷹「十分さ」
それに、隼鷹は静かにうなずき、猪口を傾ける。
隼鷹「みんな、あたしを置いて行っちまった……」
提督「そうだな……」
隼鷹「終わってみるとさ、どいつもこいつも、氏に急いでいるみたいだったな」
提督「氏に急いだわけじゃない……生きようとして、結果的に氏んでしまっただけだ」
隼鷹「……っと、もう無くなったな。互いに最後の一杯だな」
提督「ああ……」
提督は猪口を目線の高さまで持ち上げた。
そして、目を細めて口を開いた。
くしゃりと、提督の手に合った書類が形を失う。
隼鷹「そっか……」
空になった猪口に、隼鷹は酒を注ぎながら、ただ呟いた。
隼鷹「ま、覚悟はしていたんだけどねぇ……なんだよ提督、泣くなって」
提督「すまないな……お前を元の商船に戻したかった……」
隼鷹「謝るなって……て、酒がこぼれてるぞ!勿体ない」
慌てて、隼鷹が提督の手を支え、瓶を手に取って継ぎ足した。
隼鷹「あたしに責任感じてんの?」
提督「いや……そうではなくだな」
ぐっと猪口を空けた提督は、言葉を探した。
隼鷹「あのさ、提督。そんな責任取ろうなんて考えないでくれよ」
提督「だが……!」
隼鷹「あたしのことも考えてくれよ……動けなくても、戦えなくても、あたしは軍艦なんだ」
隼鷹「もう太平洋の夢は諦めてる。それなら、軍艦として、もう終わらせてくれよ」
サンフランシスコ-横浜間の北米航路を駆ける、豪華客船となるはずだった隼鷹と飛鷹。
しかし、戦争の開始によって彼女らはその夢をあきらめた。それに、思うところは、あったのだろう。
提督「……」
隼鷹「あたしだって、未練はある。けど、軍に身を置いて戦ったのは覚悟があったからだよ」
隼鷹「いつか戦いが終わった時には、また改装を受けて、本当の自分の役を果たせると信じていたのさ」
隼鷹「まぁ……それは叶わなかったし、一緒にいるはずの飛鷹も沈んじまったけどさ……」
口を湿らせるようにして、隼鷹は酒をもう一度呷る。
提督「なら……もう、いいのか?」
絞り出すような提督の言葉。
隼鷹「十分さ」
それに、隼鷹は静かにうなずき、猪口を傾ける。
隼鷹「みんな、あたしを置いて行っちまった……」
提督「そうだな……」
隼鷹「終わってみるとさ、どいつもこいつも、氏に急いでいるみたいだったな」
提督「氏に急いだわけじゃない……生きようとして、結果的に氏んでしまっただけだ」
隼鷹「……っと、もう無くなったな。互いに最後の一杯だな」
提督「ああ……」
提督は猪口を目線の高さまで持ち上げた。
そして、目を細めて口を開いた。
706: 2014/03/27(木) 13:53:27.22 ID:Q4oRBneE0
提督「杯の酒に映る月も、綺麗なものだな」
隼鷹は、一瞬、お茶らけた何時もの表情を失った。
代わりに浮かんだのは、儚げな乙女の、太平洋を夢見た少女の顔だった。
だが、すぐにそれは消え去る。わずかに口角が上がって隼鷹はいつもの調子で言い返した。
隼鷹「ははっ、氏んでも悔いがないね」
707: 2014/03/27(木) 13:55:28.50 ID:Q4oRBneE0
最後の一杯は、提督と隼鷹が奇しくも同時に飲み干した。
暫く、二人は掛け合いの余韻に浸る。
言葉が、まだ酒の酔いと共に体を回っている気がした。
提督「有難う、橿原丸」
隼鷹「あたしは隼鷹だっての……まったく、仕方がないなぁ」
提督「もう、そう呼ぶ機会なんてのはないからな」
提督がよろりと立ち上がると、隼鷹の手を取って立ち上がらせた。
提督「晩酌、家に来て付き合うか?」
提督の言葉に、少し沈黙を挟んだ隼鷹は、やがて上品な笑みを浮かべ、答えた。
隼鷹「この私でよろしければ、如何様にも」
怪我を抱え、軍服じみた格好をしながらも、優雅に誘いを受ける様は、太平洋の華となりえた艦娘に相応しいものだった。
連れ立った二人は、ゆっくりと足を海からそむけた。
提督の自宅で、男と女の一夜はひそやかに激しく始まり、月だけがそれをやさしく見守っていた。
1947年(昭和22年)8月1日、空母 隼鷹 解体完了
暫く、二人は掛け合いの余韻に浸る。
言葉が、まだ酒の酔いと共に体を回っている気がした。
提督「有難う、橿原丸」
隼鷹「あたしは隼鷹だっての……まったく、仕方がないなぁ」
提督「もう、そう呼ぶ機会なんてのはないからな」
提督がよろりと立ち上がると、隼鷹の手を取って立ち上がらせた。
提督「晩酌、家に来て付き合うか?」
提督の言葉に、少し沈黙を挟んだ隼鷹は、やがて上品な笑みを浮かべ、答えた。
隼鷹「この私でよろしければ、如何様にも」
怪我を抱え、軍服じみた格好をしながらも、優雅に誘いを受ける様は、太平洋の華となりえた艦娘に相応しいものだった。
連れ立った二人は、ゆっくりと足を海からそむけた。
提督の自宅で、男と女の一夜はひそやかに激しく始まり、月だけがそれをやさしく見守っていた。
1947年(昭和22年)8月1日、空母 隼鷹 解体完了
708: 2014/03/27(木) 13:57:09.27 ID:Q4oRBneE0
終わり。
艦娘達の戦後っていうタグのイラストを見て、突発的に書いてみた。
駄作&長文失礼した。
艦娘達の戦後っていうタグのイラストを見て、突発的に書いてみた。
駄作&長文失礼した。
718: 2014/03/27(木) 20:30:03.19 ID:Q4oRBneE0
提督「なあ、隼鷹」
隼鷹「ん?」
丑三つ時。草木が眠りについたころ、隼鷹と提督は窓から降り注ぐ月明かりの下で同じベットに横と会わっていた。
提督「いや、橿原丸か?もう、零時を過ぎているし、隼鷹の名前は返上したことになるか?」
隼鷹「どっちでもいいんじゃね?」
あっけらかんという隼鷹に、提督は少し眉を顰める。
提督「……少しは慎ましくしゃべらないのか?もう『隼鷹』じゃないんだ」
隼鷹「いや、一度しみつくと抜けないっていうかさ……そんなもんだ」
提督「そうか」
洋風の寝室で、隼鷹はシーツで体を隠しながら視線を逸らしていた。
乱れたベットの上には独特の匂いがこびりつくようにして残っており、体には倦怠を感じる。
提督「……それより、足は大丈夫か?何か障りがあったら大変だ」
隼鷹「解体待ちの艦娘に言うセリフじゃないっての……一応大丈夫さ」
提督「すまん、気が回らなかった」
手を伸ばした提督は、テーブルから水の入ったグラスをとる。
二人きりの夜戦に入る前に氷を入れていたものだが、すでに溶けて温くなっていた。
だが、水分を体が欲しているため、それで十分だった。
提督「隼鷹」
隼鷹「ん?……んむぅ!?」
提督は水を口へ含むと、隼鷹の名を呼んだ。
隼鷹の顔がこちらを向いた瞬間に、提督は唇を重ね、水を舌と共に隼鷹の中へと滑り込ませた。
隼鷹「んぅ……ちゅ……て、ていふぉ、く……」
不意打ちに隼鷹は抗えず、しばらくなすがままに口の中を蹂躙される。
提督が満足すると、静かに唇は離れ、銀の橋が二人の間に架かった。
提督「まだ、飲むか?」
隼鷹「……い、いきなり何をすると思ったらぁ……」
顔を赤くし抗議する巡洋に、提督は素知らぬ顔でコップを差し出した。
それをしばらく見つめて考えた隼鷹は、大人しくそれを受け取った。
隼鷹「あれだな、間接的に接吻してるって考えると、少し変な気分になるなぁ」
提督「接吻……育ちが言い方に出るな」
提督の笑みに、隼鷹は唸ったが、結局は何も言わなかった。
719: 2014/03/27(木) 20:31:11.41 ID:Q4oRBneE0
ところで、と提督はコップをテーブルに戻して居住まいを正した。
提督「輪廻思想って、知っているか?」
隼鷹「あー、人並みには知っているけど?氏んだら別な世界に生まれて、何度も何度も生まれ変わっていくやつでしょ?」
提督「ああ。その輪から抜け出せずに人間は苦しみ続けるという仏教の思想だ」
提督「隼鷹が、命を全うして眠ったらどうなるかと、少し考えていた」
隼鷹「提督……」
艦娘は、艦艇に宿った魂であり、艦艇そのものだ。体は鋼鉄の塊であろうとも、その魂は人のものだ。
提督「氏んだ後の世界なんて、誰もわからない。だが、隼鷹のことだから少し気になってしまった」
暫く提督の言葉を聞いていた隼鷹だが、やがて不意に反応した。
隼鷹「……っぷ、アハハハハ!」
提督「な、なんだ!」
思わず声を上げた提督に構わず、隼鷹は笑う。
隼鷹「アハハハッ!さっきまでずっと考えていたのか?ヤってる最中も?」
提督「そ、それが悪いか!?これでも私は真剣にだな」
図星を疲れた提督の頬に赤みがさす。
隼鷹「あたしを大破させるような勢いで襲ってきたのに、そんなこと考えていたのかよ……プ……」
提督「お、おい」
隼鷹「わかってるって。あたしと提督の仲だ、提督の考えた意味くらい分かるって」
弾んだ息を整えながらも、隼鷹は提督を制する。
720: 2014/03/27(木) 20:32:29.45 ID:Q4oRBneE0
隼鷹「あれだろ?もしかしたら、輪廻の果てに再会できるんじゃないかって、考えてるわけだろ?」
提督「ま、まあ、そうなるな」
提督「おかしいと思うなら、別にかまわんが……少なくとも、私はそう願ってる」
隼鷹「うれしいこと言ってくれるじゃん。さっすが惚れ込んだ提督だよ」
提督「むぅ……」
からかったかと思えば、いきなり褒めてきた態度に少し困惑する。
そんな提督に寄り添った隼鷹は、表情を改め、じっと目を覗き込んだ。
考えを見透かされそうな視線に思わずたじろいだが、隼鷹は有無を言わせぬ口調で迫る。
隼鷹「いいか、提督」
提督「う、うむ」
隼鷹「確かに、提督の考えも間違いじゃない。あたしら艦娘の元となる魂は、多分船として一生を全うすれば輪廻の輪に乗る」
隼鷹「だけど、あたしらは提督と違って、人が生み出した魂だ。モノが祀られるうちに神や人になるっつう神道の考えにもよるあたしの解釈だ」
隼鷹「つまり、そんな出自の違う魂同士が同じような輪廻をめぐるかといえば、多分そうじゃない」
少ないが確かな希望を知り、浮かれかけた提督に隼鷹は釘を刺す。
隼鷹「分かるだろ?」
提督「次に生まれ変わって逢う可能性はあるが、保証はないと、そういうことか」
隼鷹「そう。たぶん、あたしは『隼鷹』か『橿原丸』にしか生まれ変わることはない」
隼鷹「多分それ以外だと、魂と体が反発する」
721: 2014/03/27(木) 20:33:14.37 ID:Q4oRBneE0
そうか、と提督は深くうなずいた。
少なからず、予想していたことだった。
生物というくくりの中で、自分は輪廻をめぐる。
だが一方で、隼鷹は艦艇というくくりの中で輪廻をめぐる。
その二つが重なり合うのは、どれほど先になるのだろうか?
だとするなら、と提督は腹をくくった。
提督「なら隼鷹」
隼鷹「ん?」
少なからず、予想していたことだった。
生物というくくりの中で、自分は輪廻をめぐる。
だが一方で、隼鷹は艦艇というくくりの中で輪廻をめぐる。
その二つが重なり合うのは、どれほど先になるのだろうか?
だとするなら、と提督は腹をくくった。
提督「なら隼鷹」
隼鷹「ん?」
722: 2014/03/27(木) 20:36:02.75 ID:Q4oRBneE0
提督「私は、隼鷹と再会できるまで、輪廻の果てまで船乗りか提督になろう」
提督「どれほど先になるか、どういう形になるかはわからん」
提督「だが、いずれ逢えると信じて、私は生きよう」
ゆるぎない意志が固まった言葉は、しばらく寝室に余韻を残していた。
暫く、隼鷹は提督の言葉に呆気をとられたかのように、固まったままだった。
固まってから時計の秒針が一周してから、漸く隼鷹は復活した。
見る見るうちに隼鷹の顔が赤く染まり、ついでに体もボイラーがあるかのように熱を帯びた。
提督「じゅ、隼鷹?」
隼鷹「あ、あ、あの……あの……提督?」
提督「うん?」
隼鷹「埠頭でお酒を酌み交わしながら、漱石のような告白をされて受けましたが……」
隼鷹は、混乱してか素の口調へと、何時もの砕けた口調ではなく、上品な言葉づかいへと戻っていた。
たどたどしく言葉を選ぶ様子に新鮮さを感じながら、提督は隼鷹の言葉を待った。
隼鷹「ええっと……さすがにいきなりそんなことを言われますと、流石に恥ずかしいというかうれしいというか……」
隼鷹「あー……なんといえばいいのでしょう!」
手で顔を覆い隠した隼鷹は、そのまま提督の胸へと縋り付くようにして身を沈めた。
それを自然と抱き寄せながらも、提督は隼鷹の答えを待った。
暫くして、隼鷹は提督の名を呼んだ。
身を離し、隼鷹はややあってから、まっすぐに提督を見つめた。
隼鷹「提督のお覚悟、この胸に刻みました」
身を起こし、隼鷹はベットの上で正座をした。
隼鷹「いつしか……那由多の果てになろうとも、輪廻の巡りあうその時まで、この隼鷹、提督をお待ち申し上げます」
提督「……隼鷹」
そのまま、三つ指をついた隼鷹は静かに頭を下げる。
そして身を起こした隼鷹は、提督を再び抱き寄せ、提督もそれに抗うことなく倒れこんんだ。
いずれ訪れる別れの時まで、この刹那を感じていたかった。
隼鷹の解体が始まり、逢えなくなる、その日まで。
提督「どれほど先になるか、どういう形になるかはわからん」
提督「だが、いずれ逢えると信じて、私は生きよう」
ゆるぎない意志が固まった言葉は、しばらく寝室に余韻を残していた。
暫く、隼鷹は提督の言葉に呆気をとられたかのように、固まったままだった。
固まってから時計の秒針が一周してから、漸く隼鷹は復活した。
見る見るうちに隼鷹の顔が赤く染まり、ついでに体もボイラーがあるかのように熱を帯びた。
提督「じゅ、隼鷹?」
隼鷹「あ、あ、あの……あの……提督?」
提督「うん?」
隼鷹「埠頭でお酒を酌み交わしながら、漱石のような告白をされて受けましたが……」
隼鷹は、混乱してか素の口調へと、何時もの砕けた口調ではなく、上品な言葉づかいへと戻っていた。
たどたどしく言葉を選ぶ様子に新鮮さを感じながら、提督は隼鷹の言葉を待った。
隼鷹「ええっと……さすがにいきなりそんなことを言われますと、流石に恥ずかしいというかうれしいというか……」
隼鷹「あー……なんといえばいいのでしょう!」
手で顔を覆い隠した隼鷹は、そのまま提督の胸へと縋り付くようにして身を沈めた。
それを自然と抱き寄せながらも、提督は隼鷹の答えを待った。
暫くして、隼鷹は提督の名を呼んだ。
身を離し、隼鷹はややあってから、まっすぐに提督を見つめた。
隼鷹「提督のお覚悟、この胸に刻みました」
身を起こし、隼鷹はベットの上で正座をした。
隼鷹「いつしか……那由多の果てになろうとも、輪廻の巡りあうその時まで、この隼鷹、提督をお待ち申し上げます」
提督「……隼鷹」
そのまま、三つ指をついた隼鷹は静かに頭を下げる。
そして身を起こした隼鷹は、提督を再び抱き寄せ、提督もそれに抗うことなく倒れこんんだ。
いずれ訪れる別れの時まで、この刹那を感じていたかった。
隼鷹の解体が始まり、逢えなくなる、その日まで。
723: 2014/03/27(木) 20:42:20.55 ID:Q4oRBneE0
深海棲艦と人類が争うようになって数年。
ここ佐世保鎮守府にも多くの提督が集い、日夜艦娘達を率いて戦いに身を投じていた。
そして、その一角の執務室の電話が、けたたましい音を立てた。
すぐさまそれをとった人物が、部屋の主に何事かを告げる。
すると、手にした紅茶をうっちゃり、部屋の主は扉を蹴破らんばかりの勢いで部屋を飛び出していた。
紅茶を入れた艦娘の抗議の声も無視し、その足は工廠へと向いていた。
弾む息と、胸を打つ鼓動。
抑えようとしても、抑えきれない高翌揚が体を走り抜けた。
広い鎮守府の敷地を突っ切り、まったく勢いを[ピーーー]ことなく走りこむ。
建造の様子を見ていた妖精さんたちが驚きの声をあげ、連鎖的に何かがひっくり返る音がした。
だが、それでも足は止まらない。
船体が完成したことを知らせる鐘が鳴り、作業を終えた妖精さんたちがわっと船体から降りてきた。
見覚えのある船体。
アメリカのそれを参考に作られた傾斜煙突。
飛龍型を凌駕する24000トンの船体。
提督「あ……」
そして、視線の先、見覚えのある衣装を身にまとった艦娘が佇んでいた。
特徴的な頭髪、胸元の勾玉のような飾り。
そして、あの時誓い合った瞳が、こちらを捉えた。
提督「やっと……」
絞り出せた声は、かすれていた。
だが、艦娘にはきちんと届いていた。
724: 2014/03/27(木) 20:43:00.00 ID:Q4oRBneE0
「お待ちしていました、提督」
725: 2014/03/27(木) 20:45:39.85 ID:Q4oRBneE0
艦娘は、一礼するとにこやかにほほ笑んだ。
提督は言葉をすこし躊躇したが、すぐに表情を引き締めて、しかし万感の思いを込めて尋ねた。
提督「君のことを、どう呼んだらいいだろうか」
「お好きなように……どちらでも、構いません」
提督「なら……好きなように呼ばせてもらう」
「はい……では、ご挨拶を」
互いに身だしなみを整え、提督と艦娘は向かい合った。
提督(ずいぶんかかった……)
(けれども、こうして逢えた)
あれから、どれほどかかっただろうか。
覚えていない。
だが、この一瞬の為に乗り越えてきた。
だから、今は喜びを分かち合うのみだ。
那由多の果て、何処までも続く輪廻は、ここに交わった。
提督「やっと、逢えたな。隼鷹」
隼鷹「はい、お待ち申し上げていました。私だけの提督。軽空母隼鷹、またの名を橿原丸でございます」
FIN
提督は言葉をすこし躊躇したが、すぐに表情を引き締めて、しかし万感の思いを込めて尋ねた。
提督「君のことを、どう呼んだらいいだろうか」
「お好きなように……どちらでも、構いません」
提督「なら……好きなように呼ばせてもらう」
「はい……では、ご挨拶を」
互いに身だしなみを整え、提督と艦娘は向かい合った。
提督(ずいぶんかかった……)
(けれども、こうして逢えた)
あれから、どれほどかかっただろうか。
覚えていない。
だが、この一瞬の為に乗り越えてきた。
だから、今は喜びを分かち合うのみだ。
那由多の果て、何処までも続く輪廻は、ここに交わった。
提督「やっと、逢えたな。隼鷹」
隼鷹「はい、お待ち申し上げていました。私だけの提督。軽空母隼鷹、またの名を橿原丸でございます」
FIN
726: 2014/03/27(木) 20:47:34.33 ID:Q4oRBneE0
これで本当に終わり。
ヒャッハーな隼鷹さんも好きだけど、出自を考えたらおしとやかな橿原丸もありだと思った(小並感)。
読了感謝する。
ヒャッハーな隼鷹さんも好きだけど、出自を考えたらおしとやかな橿原丸もありだと思った(小並感)。
読了感謝する。
引用: 艦これSS投稿スレ
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります