1: 2012/04/21(土) 10:51:37.20 ID:UJ/N6D8h0
「ファーストキスは、レモン味」


「初恋の色は、レモン色」


「甘酸っぱいあの味は、いつまでもこの中に残りつづけて」


「レモンを見るたび味わうたびに、いつまでも鮮明によみがえる」


「消えない、魔法」


「それって素敵なことじゃない?」
ゆるゆり: 23【イラスト特典付】 (百合姫コミックス)
2: 2012/04/21(土) 10:55:13.67 ID:UJ/N6D8h0
――――――

私たちの歩みは遅い。

でも、やっと。

やっとここまでたどりついたんだ。

この関係がこわれないように。

やさしく、ゆっくり。


「……どうか、私と」

「これからも一緒にいてください」


「…………ええ」

「もちろんですわ」

3: 2012/04/21(土) 10:58:37.65 ID:UJ/N6D8h0
最初は彼女は泣き虫で、

私がいないとだめだったのに。

いつしか彼女はおおきくなって、

私は彼女がいないとだめになった。


彼女は何でも上手にこなし、

私は彼女に頼りっきり。


そんなの恥ずかしい。


ちょっとぐらい、かっこつけたっていいじゃない。


―――とある雨の日。

私は柄にもなく図書室なんか入ってみて。

柄にもなく、手にとった一冊。

「これだ!」

4: 2012/04/21(土) 11:02:30.53 ID:UJ/N6D8h0
――――――

櫻子「…………」とぼとぼ

レモン、レモン。

頭の中にはそれしかなかった。

最後にレモンを食べたのはいつだっけ。

そもそも、レモンなんてうちは全然食べない。

たぶんアイスティーのグラスについてるあれが最後なんじゃないかな。


そんな有様ではあるのだが、頭の中はレモン一色なのだった。

「ファーストキスは、レモンの味。」

想像しかできないけど、きっと素晴らしいものに違いない。

もっとも、最後に食べたのもいつかわからない有様であるから、味もよく思い出せないのだけれど、とても魅力的に感じている。

7: 2012/04/21(土) 11:05:46.30 ID:UJ/N6D8h0
櫻子(やっぱり、こういうときのは飴なんだよね)


櫻子(レモンの飴、レモンの飴……)

櫻子「…………」


櫻子(良いのがない……)


櫻子(流石にVC3000のど飴なんか使ったら嫌な思い出が残っちゃうし……)

櫻子(フルーツアソートからレモンだけ抜こうか? いやいやそれも子供っぽい……)

櫻子(ピンとくるものがないなぁ……)

9: 2012/04/21(土) 11:09:08.65 ID:UJ/N6D8h0


櫻子「はぁ……」

櫻子(やっぱり、綺麗事でしかないのかな)

櫻子(所詮は本の中のお話ってわけ?)

櫻子(……いや、あきらめない!)


櫻子「……よし、次はどこに行ってみようかなー」


「もしもし、そこの人」

櫻子「……? え、私……?」

櫻子(なんだろ……この小さい子。迷子かな?)


「キス用の飴を探しているのね?」

櫻子「はっ……はぁぁっ!?///」

11: 2012/04/21(土) 11:13:19.53 ID:UJ/N6D8h0
突然現れた少女。

長い綺麗な髪の女の子だ。……ちょっと花子に似ている。

日本人……なのかな?

薄紫が基調の、フリルのついた服を着ている。少し派手なんじゃないだろうかと思うくらいだが、小柄な身体には何故か合っているような気もした。

なんだか、見ればみるほど花子に似ている。背丈はほとんど同じだから、花子を垂れ目にして、髪をゆるく巻くようにしたら……たぶんこの子が出来上がるのかもしれない。


この辺りじゃ見かけない子だ。というか……

櫻子「き、キスって……なんで……?///」

「うふふふ……私こういうものです」サッ

櫻子(名刺!?)

櫻子「あ、飴宮……??」

あめ「はい……飴職人をやらせてもらっております。あめちゃんとでもお呼びくださいね?」クスクス

櫻子「あめしょくにん……!?」

13: 2012/04/21(土) 11:16:44.95 ID:UJ/N6D8h0
あめ「飴職人です。あなたのお望みの飴を作って差し上げましょう」

櫻子「……え? 待って待って……えーっと……」

櫻子(ま、まずこの子はなんなんだ……)


櫻子「あ、あのー君迷子かなっ? お母さんとはぐれちゃったの?」

あめ「あらあら……この期に及んで子供扱いとは。 これでも数百年の時を……」

櫻子「え?」

あめ「あっ……ああいえ、なんでもありません」



あめ「それより話を戻しますけど、キス用の飴が欲しいのでしょう?」

櫻子「あゎっ……/// な、なぜそれを……?」

あめ「……ふふ、恋する乙女は皆同じ顔をして、皆同じ道を歩んでいくものだから」

櫻子(そんな理由で……?)

14: 2012/04/21(土) 11:20:09.55 ID:UJ/N6D8h0
あめ「作って差し上げようと言っているのです。どうですか?」

櫻子「つ、作るって……飴を?」

あめ「どうせレモンの飴が欲しいとかおもってるんでしょう? でもなかなか見つからないから途方に暮れていた……違うかしら?」

櫻子(なんなんだこの子は……普通の子供じゃない……)


櫻子「…………」


櫻子「えーっと、あめちゃん?」

あめ「はい?」

櫻子「どんな飴でもつくれるの?」

あめ「……まだ疑っていますか。では……これをどうぞ」さっ

櫻子「これ……」

あめ「私の自信作です。さあ、おひとつ」

櫻子「えっ、これ飴なの!? 宝石みたい……///」

あめ「飴職人の、飴ですから」

15: 2012/04/21(土) 11:23:24.20 ID:UJ/N6D8h0
ぱくっ

櫻子「………………!!!」

あめ「ふふふ……」


見た目もそうだが、これは果たして飴なのか。

何味とか、そういうことではない。おいしいかまずいか、そういう次元の問題ではなかった。

櫻子「なに……これ……」

心に何か入ってくる。口の中で溶けてゆくそれから出る何かが。

少しの熱を散らしながらなくなっていく宝石。

立ち尽くすことしかできない。身体に意識が届かない。

頭がすぐにいっぱいになり、しかしそれは頭の中でまた消えてゆく。

いつのまにか宝石は溶け切っていた。それすらに気づかなかったのだ。

18: 2012/04/21(土) 11:28:01.72 ID:UJ/N6D8h0
あめ「どうかしら?」

櫻子「す……すごい……」


これが、飴職人の飴。

この子が何者かはわからないけど、今の自分に溢れる "これ" は本物だ。


櫻子「お、おねがい! 作って欲しい飴があるの!」

あめ「ええ、いいでしょう。……そうね、ここではなんだから、私の家にこない?」

櫻子「家?」

あめ「そう……そこで作ってあげるわ」


やけに話がうますぎやしないか?

そんな疑問は、恋する乙女には届かない。

19: 2012/04/21(土) 11:31:45.56 ID:UJ/N6D8h0
――――――

櫻子「……あのー」

あめ「はい?」

櫻子「こっちの方角って、結構深い森しかないんですけど……」

あめ「ええ。森の中にあるの」


櫻子「…………」


この子は人間なのか?

ずっと後をついていて、そんなことを考えていた。

物珍しい服装、大人びた口調、よく通る声。

この子の声を、私はちゃんと耳で受け取っているかと言われたら、ちょっと悩む。

まるで……そう、ヘッドホンを使っている時の感覚。

頭の中に直接届いてるような声なのだ。

20: 2012/04/21(土) 11:37:02.40 ID:UJ/N6D8h0
そして、この暗い森をずんずんと進んでいく姿。

この森は隣の県との県境にあり、本当に山道しかない、いわば「歩いて来る場所」ではないのだ。それを道沿いはおろか森の奥深くへ向かっているのだから……

櫻子(ちゃ、ちゃんと帰れるかな……)

櫻子(クマとか出るかもしれない……)

あめ「心配しないで。帰りも私がなんとかするわ」

櫻子「…………」


あと、これだ。

喋ってもいないことにこの子は応えてくるのだ。


心が読めるとか?

…………まさかね。

21: 2012/04/21(土) 11:43:50.05 ID:UJ/N6D8h0
本当なら、怖がったりするところなのかもしれない。

しかし、この子の後ろ姿を見ていると、どうもそんな気さえ出てこないのだった。

あめ「着いたわ」

櫻子「え……ここ!?」

あめ「ここよ。扉があるでしょ?」

櫻子「いや、あるにはあるけどさ……」

この扉、木にくっついてるだけじゃないの?


てっきり、小屋みたいなものぐらいあるのかと思っていた。

なんだろう……木の中をくり抜いて部屋にしたみたいな、いわゆるおとぎ話の中の世界観ならまだしもというか……

あめ「入って?」ガチャ

櫻子「…………」

23: 2012/04/21(土) 11:49:36.57 ID:UJ/N6D8h0
本当に中に入れるらしい。この薄暗い森の中で、この木の中は明るい光を漏らしている。誰かが住んでいる証だ。

櫻子(これって……もしかして夢なのかな)

だとしたらいつからが夢なのだろう。


あめ「こっちよ、サクラコ」

櫻子「うん……」(あれ、私いつ名乗ったんだっけ……)


夢かどうかなんて、どっちでもいいのかな。

私はこの子のペースに流されているだけでいいのかもしれない。

ちょうどいい飴が手に入るというのなら、この夢を見つづけていよう。

そんな、軽い気持ちでいる自分が、なんだか楽しかった。

24: 012/04/21(土) 11:53:08.65 ID:UJ/N6D8h0
櫻子「わっ、わぁ……!」

中はごちゃごちゃしているようで、物全体が光を放つ幻想的な部屋だった。

櫻子「な、なんなのこれは……」


あめ「あまり物に触らないでね? 大切なものなの。」


櫻子「あ、これ……さっきみたいな飴?」


あめ「……そうね。でも食べちゃだめよ?」


四方から鳴る時計の音、オルゴールの音、


垂れ下がるガラス類は光を放ち、

あたりの小瓶からは良い香りが漂う。


25: 2012/04/21(土) 11:56:47.68 ID:UJ/N6D8h0
あめ「よいしょ……」

部屋の中央の小高いイスに、あめちゃんは座った。

彼女はここの主だ。

ここは彼女の秘密基地で、飴細工はランジェリーだ。


櫻子「というか……ここ地中なのかな。結構部屋が広いんだけど……」

あめ「細かいことは気にしなくていいわ。それより、飴でしょう?」

櫻子「あ、うんっ」

あめ「キス用で、レモンの飴ね……」サラサラ

櫻子「…………///」


キス用ってそもそも言わなくても良いような気がするけど……ここは黙っているしかない。

何かメモをとっているあめちゃん。今更だけど飴職人ってこういうのじゃないんじゃないか。

27: 2012/04/21(土) 12:01:01.22 ID:UJ/N6D8h0
あめ「だいたいの構想はできたわ。ちょっと待ってね……」ゴソゴソ

櫻子「早いな……」


あめ「これを使います」ゴトッ

櫻子「これは……?」

あめ「私なりのやり方です。ここに、あなたは相手への想いをたくさん言ってほしいのです」

櫻子「この中に?」

あめ「私は想いを込めることを大切にします。これもその一貫。声は漏れないようになってるから、好きなだけ言ってね。普段から伝えたいこと、普段なかなか伝えられないようなこと、自分の気持ち、なんでもいいわ。その人に関することなら」

櫻子「へぇ………」

28: 2012/04/21(土) 12:09:47.90 ID:UJ/N6D8h0
あめ「あ、忘れてた。 あなたの相手のお名前は?」


櫻子「……向日葵」

あめ「あら……女性かしら」

櫻子「やっぱり、変……かな」

あめ「そんなことはないわ。性別なんて関係ない。そんなものに想いは左右されない」


あめ「ヒマワリ……ね。太陽の花だわ」

あめ「ヒマワリとサクラコ……いいじゃない」

櫻子「あ、ありがと……///」


あめ「ああ、私のことは気にしなくていいわ。それじゃ、好きなだけやって頂戴」

29: 2012/04/21(土) 12:12:56.00 ID:UJ/N6D8h0
櫻子(これに吹き込む?)


なにやらよくわからない、くねくね曲がったビンのようなものを渡された。グラスの美術館とかに置いてありそうな工芸品に似ている。いや、実際見たことはないが、なんかそんか感じがする。


櫻子(……やってみるしかないか)


櫻子(言いたいことなら、いっぱいあるもんね)スゥ


「向日葵、あのね――――」

30: 2012/04/21(土) 12:16:13.93 ID:UJ/N6D8h0

――
―――
――――――

「なにやってんのさ、起きなよ」

櫻子「ぅ……ん……??」


撫子「アンタこんなとこで寝てるってマジでやばいよ? せめて家に入りなよ」

櫻子「あ、あれっ!? ここどこ!?」


撫子「……ほんとに頭おかしくなった? 家の前だよ」

櫻子「う、うそ……だって私……!」


櫻子(あ)

櫻子「やっぱり……夢だったんだ……」

31: 2012/04/21(土) 12:20:43.56 ID:UJ/N6D8h0
撫子「なに、なんでここで寝てたか覚えてないの?」

櫻子「うん……ぜんっぜん覚えてない……」

撫子「バカ。道端で寝る中学生なんていないよ普通……いくら田舎だからってね、危ないことに変わりはないんだから。誘拐とかされたらどうすんの?」

櫻子「わ、わかってるよそんなのっ」

撫子「わかってないから言ってんでしょ」

櫻子「うるさいなぁ!」

撫子「ちょっと!」


バタン!

撫子(何かあってからじゃ遅いんだよ……!)

撫子「……はぁ」

32: 2012/04/21(土) 12:29:04.70 ID:UJ/N6D8h0


もやもやしている。

まだ頭がいっぱいだ。

あれは果たして夢だったのか?


どこまで……そう、あのビンにいろいろ吹き込むところまでは覚えている。

鮮明に。

櫻子「まだ思い出せるよ……あの部屋のにおいも、音も……」

櫻子「夢なわけないじゃん……」

すんすん

櫻子(ん……?)

がばっ

櫻子「!」

33: 2012/04/21(土) 12:37:33.35 ID:UJ/N6D8h0
なにか "違う匂い" がすると思った……ポーチの中のそれが、夢ではないことを教えてくれた。

銀色のケースに入った、宝石。

櫻子「レモンの飴……!」

櫻子「す、すっごい綺麗! やば!」

櫻子(夢じゃなかったんだ……作ってくれてたんだ!)


櫻子「あめちゃん……」

ぽろっ

櫻子「あっ……」

34: 2012/04/21(土) 12:42:26.30 ID:UJ/N6D8h0
一緒にカードが入っていた。大人みたいな字で、


注文通りのものが作れたわ。
あなたの想いが強いから、その分これも輝きを増しているみたいね。

私は、別の国へ行くわ。
ただもう少しだけ、日本にいてみようとは思うけど、私を追いかけてはダメよ。
あの森にも近づかないこと。家は壊したわ。帰れなくなっても知らないから。

うまくいくことを願っています。ヒマワリにもよろしくね。



櫻子「そ、そんな……つーか家壊したっておかしいだろ……」

櫻子(……もしかしたら、最初から家なんてなかったのかもしれない)

35: 2012/04/21(土) 12:46:12.20 ID:UJ/N6D8h0
櫻子「すごいなー、この飴。ほんとにレモンの香りが強い。この下に敷いてある草も……なんていうんだっけ」

そう、レモングラス。

櫻子「作り物……合成のレモンじゃないんだろうな。あめちゃんのことだから」


櫻子(これで……)

櫻子(いけるかな)

櫻子(カッコ良く、できるかな)

櫻子「向日葵……///」ぎゅっ

――――
―――
――


36: 2012/04/21(土) 12:51:19.81 ID:UJ/N6D8h0
――――この国では、どんな想いが見られるのかしら。

ジャパン。

期待していたわ。最初は。

でも、トーキョーに降りてきたときはびっくり。

花の都と聞いていたのだけれど、どこが?

どこもかしこも、急いで歩き回る人ばかり。

くだらない欲望とどうでもいい不安とが渦巻いていて。

ロクな想いが感じられなかった。

37: 2012/04/21(土) 12:56:40.53 ID:UJ/N6D8h0
それでも、諦め半分でこんなところに来てみたのだけれど。

上物の当たりがいるじゃない。

屈託のない純粋な想い。

完全な恋心じゃないところが、またいいわね。

ふむふむ……あら、そんなことがしたいの? なかなか大胆なのね……でも楽しそう。

飴……飴……レモンの飴。

いけるわ。この子に決めた。

「もしもし、そこの人」

38: 2012/04/21(土) 13:00:22.14 ID:UJ/N6D8h0
――――――

私は魔法使い。

生き物の想いを具現化するために、あちこちを飛び回っているの。

特技は瞬間生成。あと心も読めるわ。

物事は全て属性で成り立つものなのだけど……この具現化した感情だけはなにものでもない。面白いでしょう?

中でも、恋心は特に輝いていて。

その輝きは人それぞれなのだけれど、

想いは留まることを知らずに膨らむの。

私はそれを追い求めてる。

39: 2012/04/21(土) 13:04:49.33 ID:UJ/N6D8h0
今回は、とてもうまく事が進んだわ。

サクラコには、期待できるものがある。

ヒマワリはどんな娘なのかしら。

この国では同性間の恋愛は育みにくいと聞いたのだけれど。

だからこそ、あんな想いを持った子がいるのかもね。

飴なんて作ったのは初めてだったけれど。

原理は想いの具現化と同じよ。

レモンなんて本当にオマケでしかないわ。

あなたの想いは全てそこに込めたから。

全て、あなた次第なのよ。サクラコ。

40: 2012/04/21(土) 13:11:41.89 ID:UJ/N6D8h0
――――――

あめ(ここね、サクラコのスクールは)

目的の二人は、中庭にいた。

どうやら間に合ったみたいだ。

あめ(ちゃんと持ってるわね……飴)

あめ(なるほど、あれがヒマワリ……いい娘じゃない)

あめ(しっかり見ていてあげるわ)


二人の想いは、互いの足りないところを埋め合うようにできているような。

とても強くて……優しいもの。

あめ(あの飴と、サクラコの想いと、ヒマワリの想い)

あめ(3つが重なるその部分に意識を集中させる……)


あめ(最高の想いが結晶化できるわ!)

41: 2012/04/21(土) 13:16:48.76 ID:UJ/N6D8h0


櫻子(いくよ……)

向日葵「櫻子………///」

あめ(…………)


二人は、手を取り合い、


唇を重ね――――



向日葵「!?」ばっ

櫻子「んむっ!?」

あめ(えっ!?)


――――二人は離れた。

42: 2012/04/21(土) 13:22:09.38 ID:UJ/N6D8h0
――――――

なんでこんな簡単なことに気付けなかったのだろう。

目の前の綺麗事に目を取られて、

大事なことを忘れていた。


―――初めてなのに。

大切なことだったのに。

飾る必要なんて、なかったのに……!


向日葵「…………」

櫻子(やめて……見ないで……)

43: 2012/04/21(土) 13:28:36.56 ID:UJ/N6D8h0
嫌だったんだ。

飾ってほしくなかったんだ。


やっちゃった。

もう、戻れない。


櫻子「っ……!!」ダッ!

向日葵「あっ、櫻子……!」

44: 2012/04/21(土) 13:33:35.88 ID:UJ/N6D8h0
――――――

びっくりしただけだった。

そんなことするなんて、思ってなかった。

―――あの味は、レモン。

それも、とても優しい味。

向日葵(……まだ、ちょっと残ってる)

急に手紙なんかで呼びだすから、何かと思ったけど。

これがやりたかったのか。


向日葵「ふふふふ……」


本当に、 "大人ぶりたい子供" のままの彼女。

嫌われたとか、思ってるんじゃないだろうか。

だとしたら、それは違ってるということを教えてあげなくちゃ。

こういうことをするところも含めて、彼女が好きなのだから。

追いかけよう。

45: 2012/04/21(土) 13:37:50.34 ID:UJ/N6D8h0
――――――

あめ(どういうこと……?)

なんで二人は、あのとき反発するように引き離れたのか。

突き放したのは、ヒマワリの方に見えた。

でも、先に思いが変わったのは、間違いなくサクラコの方だった。

あめ(まったくわからないわ……)

あめ(ヒマワリの持つ優しさはさっきより強くなった。でもサクラコは、恐れを抱いて逃げたした……)

あめ(どういう変化なの……?)


あめ(……そっか)

あめ(人間やめた私には、わからないのかもね)

46: 2012/04/21(土) 13:43:07.78 ID:UJ/N6D8h0
すたっ

あめ「…………」

櫻子「あ……あめちゃん……」ぐすっ

あめ「サクラコ……」

櫻子「……見てたの?」

あめ「ええ。何故こうなってしまったの? ことは全てうまく行っていたはずなのに」

櫻子「…………」


櫻子「私が……バカだから……」

櫻子「まだまだ子供のままで……変われていないから……」ポロポロ

47: 2012/04/21(土) 13:47:15.79 ID:UJ/N6D8h0
櫻子「ほんとは、飴なんていらなかったんだよ」

あめ「何故? あなたは飴を探していたじゃない」

櫻子「だから、気づけなかったのっ!」

あめ「…………」


櫻子「初めて、だったんだよ……?」

櫻子「ゆっくりゆっくり、やっとここまで来たのに……」

櫻子「大切な初めてだったのに……」

櫻子「台無しにしちゃったんだぁ……!」


あめ(……そういう、ことか)

あめ(今のあなたがこんなにも優しい理由)

50: 2012/04/21(土) 13:53:17.58 ID:UJ/N6D8h0
あめ「でもそれなら、早く戻ってあげて。ヒマワリはあなたに会いたがっているわ」

櫻子「無理だよ……そんなの」


あめ(……怖くて会えないのね)

あめ(この二人は……そんなにお互いを大切に思っているのに)

あめ(それがうまく伝わらないから、こうして恐れながら少しずつ歩みを進めている)

あめ(こういうこと、初めてじゃないんだ)


あめ「…………」

あめ(私じゃサクラコを動かせない)

51: 2012/04/21(土) 13:56:50.78 ID:UJ/N6D8h0


あめ「ヒマワリ」

向日葵「えっ? ……誰?」

あめ「私のことはどうでもいいわ。サクラコの元に向かってあげて」

向日葵「なっ! なぜそれを……」

あめ「お願い、早く……サクラコは泣いているわ」

向日葵「…………」

あめ「私の……私のせいでもあるかもしれないし」


あめ「私は今あの子に何かしてやりたいと思っている……こんなの初めてだわ」

52: 2012/04/21(土) 14:00:23.06 ID:UJ/N6D8h0
向日葵「……ええ、大丈夫。すぐに見つけ出しますわ」

あめ「…………!」

あめ「……不思議ね。あなた普通の人間なのにサクラコの心がわかるのね」

向日葵「えっ?」

あめ(流石だわ……ヒマワリ)

あめ「こっちよ、着いてきて」

53: 2012/04/21(土) 14:04:29.45 ID:UJ/N6D8h0
――――――

私の心配なんていらなかったよう。

最初から、この子達は無問題だった。

片方が崩れ落ちそうになったときは、

もう片方がしっかりと支えててあげられるのだ。

今までも、そうやってきたのだろう。

今回は、たまたまその一部に関わっただけ。

あめ(とても良いものを見せてもらえたわ)


しぼみゆく桜は、太陽に当てられ、またその身を咲かせる。

54: 2012/04/21(土) 14:09:10.52 ID:UJ/N6D8h0
櫻子「ごめんね……向日葵」

向日葵「謝ることなんて……何もありませんわ」


支え合うようなキスをした。

いびつな想いに、ぴったりと合う想い。


あめ「…………」(綺麗ね、とても……)

シャッターを押すように、

想いを、形に。

55: 2012/04/21(土) 14:13:44.86 ID:UJ/N6D8h0
――――――

向日葵「あれ、本当になんだったんですの? レモン?」

櫻子「ただの飴だよ……というか恥ずかしいからあんまりその話しないで……///」

「ただの飴とは失礼ね」

櫻子「あっ……!」


向日葵「あなたはさっきの……」

あめ「サクラコ、ヒマワリ。突然だけど、私はもうここを出るわ」

櫻子「出るって……外国にいくの?」

あめ「そうね。そんなところかしら」


向日葵(だ、誰なんですのこの子……知り合い?)ヒソヒソ

櫻子(や、それは……あの……///)

向日葵(ちょっと花子ちゃんに似てますわね……)

56: 2012/04/21(土) 14:16:53.88 ID:UJ/N6D8h0
あめ「とりあえず今は、飴職人でいいわ。本当は違うけど」

櫻子「さっきの……飴を作ってくれた人なんだ」

向日葵(こんな子が……?)


あめ「では、最後も飴職人らしく……」スッ

ポウッ……

櫻子「これ……!」

あめ「見てたわよ、さっきのキス。それを形にしたの」

櫻子「うそ、見られてたの!?」

向日葵(え……///)

あめ「恥ずかしいなんて思わないで。とても美しかったわ……あなたたちらしくて」

あめ「この飴は、その証拠」

向日葵「これが飴……!?」

57: 2012/04/21(土) 14:20:50.64 ID:UJ/N6D8h0
あめ「さあ、おひとつ」


この味を、忘れないでね。

いつまでも、二人一緒で。

あなたたちの中に、残り続ける、

レモンの味の、消えない魔法。


~fin~

58: 2012/04/21(土) 14:25:55.17 ID:UJ/N6D8h0
<後付け設定>

「あめちゃん」

属性魔法を専門とする魔法使い。母親から受け継いだ能力を使い、物事の想いを具現化、結晶化するために世界中を飛び回っている。
ただ集めることが目的ではないので、結晶化してその場で人に渡したり、自分に取り込んだりすることもある。
想いの具現化の延長線の技術として、瞬間生成や心を読むことができる。
魔女狩りの際の生き残りの娘。名前もなく育てられたが、特に関わりを持つ関係の者もいないために不自由していない。自分が元人間の子であることも理解している。
目的のために名前を作り、設定をつくってターゲットに近づくのはいつものこと。
自分に人間らしい感情が生まれないことに気づいているが、様々な人との関わりの中ですこしずつ身につけている。
今回は櫻子を見つけて、飴職人という設定で近づいた。

59: 2012/04/21(土) 14:29:30.92 ID:2bsdMIc70
乙!

61: 2012/04/21(土) 14:33:48.47 ID:UJ/N6D8h0

65: 2012/04/21(土) 14:51:41.13 ID:UJ/N6D8h0

引用: 櫻子「レモン味のキッス」