1: ◆rsH9FLRPiM 2013/12/09(月) 23:36:15 ID:YKjzJuhQ
2: 2013/12/09(月) 23:37:41 ID:YKjzJuhQ
850年
トロスト区
補給所奪還作戦準備中
カツ カツ カツ
コニー「けどよぉ、立体機動装置もなしで、巨人を仕止めきれるか?」
ライナー「いけるさ。相手は3、4メートル級だ。的になる急所は狙いやすい」
ジャン「あぁ。大きさにかかわらず、頭から下、うなじにかけての」
サシャ「縦1メートル、横10センチ!」
3: 2013/12/09(月) 23:39:17 ID:YKjzJuhQ
コニー「そういやサシャ、座学の時間の時、縦1メートル横20センチって答えたことあったよな」
サシャ「なっ、なんでそんなこと覚えてるんですかコニー!」
コニー「え、いや、それは」
ライナー「サシャのことならなんでも覚えてる、ってか?」ニヤ
コニ・サシャ「「ライナー!!」」
ジャン「お前らここに来てまで夫婦漫才かよ……」ハア
サシャ「ジャンまで何言ってるんですか! こんな時にふざけないで下さい!」カアッ
4: 2013/12/09(月) 23:42:04 ID:YKjzJuhQ
ミカサ「気を引き締めていこう。アルミンの言う通り、私たちに全員の命がかかってる」
ベルトルト「うん。皆の命も……僕らの命もね」
サシャ「!」ドクン
サシャ(私たちの命……ここにいる、皆の)
サシャ(……コニーの、命も)
アニ「ここから分かれる形になりそうだね」
ジャン「あぁ。失敗は出来ねぇぞ。気合いを入れろ」
サシャ(失敗は、出来ん――)
5: 2013/12/09(月) 23:50:54 ID:YKjzJuhQ
補給室
ドクン…ドクン…
サシャ(私が狙うんは、あの巨人やね)
サシャ(皆の命がかかっとる)
サシャ(失敗は……)
もし、失敗したら。
マルコ「用意……打てぇー!」
ダダダダダダダダ!!!
サシャ(今やっ!)バッ
ズルッ
サシャ(!!)
6: 2013/12/09(月) 23:51:49 ID:YKjzJuhQ
ザシュッ!
サシャ(しまった、浅く入って――)バッ
おめめ巨人「……」
サシャ「あ……あの……」
おめめ巨人「」ズシン ズシン
コニー「お、おい――」
ベルトルト「サシャとコニーだ!」
ジャン「急げ援護ォ!」
7: 2013/12/09(月) 23:52:33 ID:YKjzJuhQ
頭に入ってこない仲間の叫び声。
耳に響く足音。
目の前にいる巨人。
近づいてくる。
怖い。
サシャ「すみませんでしたぁあああ!!」ズザァアア!!
8: 2013/12/09(月) 23:53:24 ID:YKjzJuhQ
ザンッ!
ザンッ!
サシャ(……え?)
アニ「……」スタッ
コニー「す、すまねぇな、アニ」
ミカサ「……」スタッ
サシャ「みーかーさぁあー!!」ガバッ!
ミカサ「怪我はない?」
サシャ「おかげさまで……」ガクガク
ミカサ「ならすぐに立つ!」
サシャ「……」
9: 2013/12/09(月) 23:54:56 ID:YKjzJuhQ
サシャ(私……私は)
サシャ「……っ」
コニー「サシャ、早くガス補給しろ! 脱出するぞ!」
サシャ「巨人に……屈伏してしまった」
コニー「は?」
サシャ「みんなに会わせる顔がぁ~!」
コニー「あーもう! 後でたっぷり軽蔑してやる! とにかく脱出だ!」
サシャ「!」
10: 2013/12/10(火) 00:02:37 ID:JplxdZ3Y
「一斉に行くぞ!」
「壁の上に上れ!」
サシャ「うっ……ううっ」バシュウウウ
サシャ(私は――皆の命を背負っておいて)
サシャ(こんなにも簡単に、巨人に屈伏するなんて)
『大丈夫ですよ! 土地を奪還すればまた、牛も羊も飼えますから』
自分で言ったはずなのに。
サシャ「……」グスッ
コニー「……」バシュウウウ
11: 2013/12/10(火) 00:07:38 ID:JplxdZ3Y
とりあえずここまで。初めましての方もお久しぶりですの方も、読んでくださってありがとうございます。
<読んでも読まなくても構わない、今までのシリーズ一行まとめ>
コニサシャ(成就)→ベルユミ(成就?)→アルクリ(失恋)→マルクリ(氏別)→ベルユミ(離別)→コニサシャ
<読んでも読まなくても構わない、今までのシリーズ一行まとめ>
コニサシャ(成就)→ベルユミ(成就?)→アルクリ(失恋)→マルクリ(氏別)→ベルユミ(離別)→コニサシャ
14: 2013/12/11(水) 00:21:33 ID:/ckK6vis
ウォールローゼ壁内
サシャ「……」
塀の上に腰を下ろすと、荷馬車が目の前を通りすぎる。
おそらく負傷兵が乗っているのだけれど、視界に映るのは荷馬車の車輪だけ。視線を持ち上げることがどうしても出来なかった。
彼らの顔を、見ることが出来ない。
15: 2013/12/11(水) 00:27:24 ID:/ckK6vis
「サシャ」
上から声が降ってきた。いつもなら一番嬉しいはずの声。
「サシャ、さっきは軽蔑するなんて言って悪かった」
顔を上げられない。
「あん時はその、焦ってて。本気で言った訳じゃないんだ」
「そんなに落ち込むなよ。俺だって失敗した。巨人に屈服したのは、お前だけじゃないんだ」
耳に届いているのに、頭に入らない。
16: 2013/12/11(水) 00:33:09 ID:/ckK6vis
「サシャ」
呼ばれているのに返事が出来ない。どんな顔をして答えたらいいのかわからない。
頭の中がぐちゃぐちゃで、何を言えばいいのかわからない。
「サシャ!」
不意に肩を掴まれ、揺さぶられた。きびきびとした声が脳内に響く。
「ちゃんと、こっち向け」
17: 2013/12/11(水) 00:34:05 ID:/ckK6vis
耐え切れなくなって、勢いよく顔を上げる。
コニー「サシャ」
顔を見た途端、一気に視界が曇ってきた。涙が溢れるのを止められない。
サシャ「うっ……うぇえっ」ポロポロ
振るえる声で、すがりつくような目で、感情のすべてを訴えた。
18: 2013/12/12(木) 23:34:36 ID:7dGaHsZ2
サシャ「私、私っ、あの時、怖くなって」
コニー「うん」
サシャ「皆の命がかかってるって、分かっとるのに――分かってるから」グスッ
コニー「うん」
サシャ「失敗したら、皆がっ……コニーが氏んでしまうから」ヒッグ
コニー「……」
サシャ「怖くなってしまった自分が情けなくて……皆に顔向け出来なくて、私」
コニー「サシャ」グイッ
サシャ「え?」グラ
トンッ
19: 2013/12/12(木) 23:39:20 ID:7dGaHsZ2
唐突にコニーが私の肩を抱いて、私の頭を抱え込んだ。座っていた体制が横に崩れて、そのまま立っている彼にもたれかかる形になる。
サシャ「な、に」
コニー「じっとしてろ」
右耳に、コニーの胸が押し当てられる。コニーの温もりを感じる。
あったかい。
あったかい。
心臓の鼓動が聞こえる。
20: 2013/12/12(木) 23:47:33 ID:7dGaHsZ2
コニー「俺達、生きてるよな」
サシャ「……!」
コニー「巨人、すっげぇ怖かったし……もう駄目かと思ったけど」
コニー「……生きてるよな、俺達」
サシャ「――はい」
サシャ「はい……!」ポロポロ
22: 2013/12/14(土) 22:10:15 ID:KiRtAjz6
どのくらいの時間そうしていただろう。
気づけば私の方からも、すがりつくように彼に抱きついていた。コニーは私が泣き止むまで、ずっと頭を撫でてくれた。
コニー「落ち着いたか?」
サシャ「ん……はい。ありがとうございます」
コニー「よし」
サシャ「あ、でも」
コニー「ん?」
24: 2013/12/14(土) 22:22:27 ID:KiRtAjz6
サシャ「食べ物があったら、もっと元気になります」
コニー「ぶっ!」
お腹を抱えて笑うコニー。眉を下げて無邪気に笑う、この表情が何よりも私のお気に入り。
コニー「お前、こんな時でも食いもんのことかよ!」
サシャ「いけませんか?」
コニー「いいや。お前らしいと思うぜ」
25: 2013/12/14(土) 22:31:40 ID:KiRtAjz6
コニー「しょうがねぇな。何か食えるもんがねぇか見てくる。ここで待ってろよ」
背中を向けられると、無性に寂しさがこみ上げた。
今はまだ、離れたくない。
サシャ「待って下さい」
コニー「あん?」
サシャ「私も、一緒に行きます」
塀から降りて、コニーのすぐ隣に立つ。こうすると彼は私より小さいのだけれど、私よりもずっと逞しいのだ。
サシャ「手、繋いでくれませんか?」
26: 2013/12/14(土) 23:08:52 ID:KiRtAjz6
彼は少し驚いたような表情をした後、戸惑うように視線を泳がせた。
その行動の真の意味を察することは出来なかった。ただ何となく周りに気を使って、気まずそうにしているようだった。
それでも彼はいつものように、私の手をとってくれた。
サシャ(やっぱりあったかい……)
ずっと、ずっとこうして
あなたの隣にいられたら
この上なく幸せだから
コニー「じゃあ行くか、サシャ」
サシャ「はいっ!」
これからもずっと、傍にいさせて。
27: 2013/12/14(土) 23:13:21 ID:KiRtAjz6
サシャ編終わり
次からコニー編です。このシリーズはコニーから始まったので最後もコニーで締めます。
また上がってたら読んでもらえると嬉しいです。支援ありがとうございます。
次からコニー編です。このシリーズはコニーから始まったので最後もコニーで締めます。
また上がってたら読んでもらえると嬉しいです。支援ありがとうございます。
28: 2013/12/15(日) 00:31:18 ID:/HdX.fQ6
おつでしたー^^
あっさりしてて良かった。
やっぱりこのふたりには笑顔が似合うよなぁ……
本編でもなんとか生き残って欲しい……
あっさりしてて良かった。
やっぱりこのふたりには笑顔が似合うよなぁ……
本編でもなんとか生き残って欲しい……
30: 2013/12/19(木) 00:50:06 ID:MhDW3vDo
トロスト区奪還作戦開始
「無理な戦闘は避けろ!」
「今だ! 離脱!」
「きゃぁあああ!!」
コニー「……」
コニー(戦闘を避けたところで、巨人は俺達を避けちゃくれねぇんだよな)
壁上には次々と負傷兵が運ばれる。すでに殉職した者の数と合わせると、ここで待機している兵士の数よりも多い。
あちらからも、こちらからも叫び声が聞こえる。この当てのない作戦のために、確実に兵士は失われている。
31: 2013/12/19(木) 00:52:51 ID:MhDW3vDo
ジャン「エレンの奴、何があったんだ」
マルコ「アルミンが一人で向かってる。多分、大丈夫だろう」
壁を上ってきたジャンがマルコと会話する。俺はそれを聞きながら、ぼんやりと思考を巡らせた。
コニー「巨人を街の隅に集めるなんて、無駄としか思えねぇよ」
独り言のような俺の言葉に反応を示したのはジャンだった。
ジャン「巨人との戦闘は、必ず消耗戦になる。今の段階で、兵の損失は避けたいんだろう」
32: 2013/12/20(金) 23:17:18 ID:2JYz1ID2
コニー「……今の段階で亡くなる兵士は、無駄氏にってことか?」
ジャン「いずれ総力戦になる! その時まで、兵を温存しておくのは当然だ! 俺は正しい」
コニー「……」
正しい、か。
マルコ「コニー?」
コニー「ま、損失にならねぇようにしようぜ」
コニー「お互いに――」
33: 2013/12/20(金) 23:28:23 ID:2JYz1ID2
なぁ、ジャン。
俺はバカだから、お前の言う正しい考え方がわからねぇ。
ここに横たわる兵士達は、お前から見れば、この戦いの損失って言える奴らなんだろうけど、
でも、そいつらだって人間なんだろ?
一人一人違う――人間なんだろ?
34: 2013/12/20(金) 23:36:52 ID:2JYz1ID2
お前は多分、考えたことないんだろうな。
もし次に聞こえてくる悲鳴が、ミカサだったらって。
ミカサは強い。お前もミカサの強さを信用してる。きっとミカサはこんなところで氏なない。
けど俺は、俺は怖くて仕方ないんた。
次に聞こえてくる悲鳴がもしかしたら、
補給所で隣で聞いた、あの場違いに敬語の悲鳴じゃないかって。
――サシャ。
「キルシュタイン班、前進!」
35: 2013/12/20(金) 23:38:42 ID:2JYz1ID2
ジャンに対する見解が大きく変わったのは、作戦終了から二日後、あいつの口からマルコの氏を告げられた時だった。
38: 2013/12/24(火) 00:24:52 ID:pMU6hHV2
その報告を俺は、サシャと一緒に聞いた。近くにはクリスタ、ユミル、アルミンもいた。
みんなの無事を知ってようやく落ち着いてきた気持ちが、一気に叩き落された。
俺はどうしても信じられなくて、ジャンに詰め寄った。クリスタは俺がわめき散らしている間、茫然としていた。
6位、8位、9位、10位。
7位が氏んだ。
もう、誰が氏んでもおかしくない。
39: 2013/12/24(火) 00:28:12 ID:pMU6hHV2
俺達は何のために兵士になったんだ?
巨人を倒すため?
訓練兵団でも特に優秀と認められた兵士でも、勝てなかった相手だというのに。
壁を守るため?
簡単に壊されてしまうことが、今回のことで分かったというのに。
中途半端な技術と知識を植え付けられて、
過度な任務と期待を背負わされて、
氏んでもそれは、ただの「損失」。
なぁ、
俺達は、
何のために――――
40: 2013/12/24(火) 00:44:52 ID:pMU6hHV2
作戦終了より四日後
夜
戦氏者火葬
大きな炎が、天にも届くような勢いで燃え盛る。俺はしゃがみこんで、その火元をじっと見据えていた。
サシャ「コニー」
サシャがおそるおそる、といった感じで近づいてくる。あの日以来、まともに会話を交わしていないせいだ。
隣に腰を下ろしたのが分かっていたのに、俺はサシャの顔を見ることが出来なかった。今までこんなこと、一度もなかった。
41: 2013/12/24(火) 01:03:58 ID:pMU6hHV2
サシャ「コニー、最近元気ないですよね」
サシャ「そりゃあこんな状況ですし、元気でいる方がおかしいかもしれませんけど」
サシャ「でも何だか、ご飯もちゃんと食べてないみたいですし」
サシャ「その……心配で」
何か俺に喋って欲しくて、彼女は今日も俺に語りかける。分かっているのに、俺はどうしても返事が出来ない。
その時、不意にジャンの声が耳に入った。
ジャン「俺は、調査兵団になる」
42: 2013/12/24(火) 01:06:27 ID:pMU6hHV2
そこでようやく、俺は声を発した。
コニー「は……?」
立ち上がる。ふらふらとジャンに近づく。
コニー「ジャン、お前……今何て?」
ジャン「調査兵団になる、って言ったんだ」
コニー「何言ってんだお前。お前はずっと、憲兵団にって――マルコと一緒に」
43: 2013/12/24(火) 01:29:22 ID:pMU6hHV2
ジャン「あぁ」
コニー「じゃあ何で……何でそんなことが言えるんだよ? お前氏にたいのか?」
思わずジャンの肩に掴みかかる。ただならぬ気配を察して、サシャが立ち上がるのが目の端に映った。
ジャン「そうじゃねぇ」
コニー「じゃあ何で」
ジャン「俺がやるべきことをやるためだ」
コニー「それは、自らお前の言う損失って奴になることかよ」
ジャン「そうじゃねぇって言ってんだろ!」
コニー「何が違うんだよ!」
サシャ「コニー、やめてください!」
44: 2013/12/24(火) 01:38:32 ID:pMU6hHV2
ジャンの肩を強く揺さぶる俺を見兼ねて、サシャが止めに入った。それも俺には、苛立ちを増す材料にしかならなかった。
遠くでクリスタの泣き叫ぶ声が聞こえる。ベルトルトがバカ夫婦の遺品を見つめている。
ジャンの目に迷いはない。
何でだよ?
誰だって氏にたくないだろうし、氏んだら悲しむ奴がいるはずだ。
なのに何でお前は、そんな選択が出来る?
どうしてお前はいつもいつも、俺より先にいるんだよ。
45: 2013/12/24(火) 01:44:20 ID:pMU6hHV2
サシャ「コニー……」
サシャの手が、俺の手まで伸びてくる。ゆっくりと、何かを探るように。
俺は。
その手を、振り払った。
47: 2013/12/25(水) 00:39:39 ID:BnU/kJgs
作戦終了より六日後
今日、所属兵団が決まる。もうどんなに迷ってても決めなくてはいけない。
俺は誰もいなくなった男子寮で自分のベッドに腰掛け、頭を抱え込んでいた。
あと一時間。
それがタイムリミットだ。
48: 2013/12/25(水) 00:41:44 ID:BnU/kJgs
コンコン、コン。
ためらいがちなノック音。俺は返事が出来なかった。誰が来るかは分かっていた。
本当は、俺から会いに行くべきだった。けど自分の答えが見つかっていないのに、訪ねに行く勇気は出なかった。
ドアノブの小さな金属音を鳴らして、サシャがこちらに顔を覗かせる。扉の向こう側から、手引きした男子の声がする。
ジャンの声だ。
俺は頬を引きつらせた。
結局俺はこのつまらない嫉妬心に、最後までつきまとわれるのか。
――最後。
49: 2013/12/25(水) 00:49:51 ID:BnU/kJgs
サシャ「コニー」
二段ベッドの下に腰かける俺に近づいて、サシャの声が上から降ってくる。俺は俯いたまま黙り込んだ。
サシャ「何も答えたくないのなら、このまま聞いて下さい。私が話します」
サシャ「もう……これが最後かもしれませんから」
そうだ。
最後なんだ。
希望する兵団が違えば、もう今までのように会うことはない。
サシャにはもう、終わりが見えているのか――俺達の。
52: 2013/12/28(土) 01:03:49 ID:Pp4Q51gY
サシャ「ずっと考えていたんです。最近、コニーの様子がおかしい原因は何なのか」
サシャ「最初は、仲間が一度にたくさん亡くなってしまって、虚しさを感じているのかと思ってましたけど……だんだん、それだけじゃないように思えてきて」
サシャ「火葬の時、ジャンと口喧嘩したでしょう? あの時コニーが言ってた言葉が気になって、ジャンに聞いてみたんです」
サシャ「……コニーは、損失になるのが怖いんですか?」
一息つく。少しの間の沈黙。
サシャ「私も、まだ怖いです。補給所の時も、奪還作戦の時も、私は運よく生き残っただけです」
53: 2013/12/28(土) 01:05:12 ID:Pp4Q51gY
それは、と、声になるかならないかの声が出た。サシャは俺が言い終わるまで待つ気でいるようだった。
コニー「……それは、俺も同じだ」
サシャ「そうですよね。でも、私達は生きてるんです。生きてるだけでも、よかったじゃないですか」
コニー「……」
サシャ「コニー?」
コニー「氏んだ奴らにも、同じこと言えるのかよ」
サシャ「え?」
54: 2013/12/28(土) 01:12:27 ID:Pp4Q51gY
言葉に出してみてようやく、俺が未だサシャの顔を見られない理由が分かった。
コニー「お前の言う通り、俺達が生きてるのは運がいいだけだ」
コニー「ほんの少し何かが変わってたら、俺らだって損失の一員になっていた」
コニー「でも、それでも生き残ってるってことは、俺らの代わりに誰かが氏んで、俺らの代わりに損失になったってことだ」
コニー「それなのに自分がまだ生き残ってることを、ただ喜んでるだけでいいのか?」
コニー「氏んだ奴らの前で、それを言葉にして言ってもいいのか?」
自分の代わりに誰かが氏んでいるのに、生きてよかったと思っていいのか。
55: 2013/12/28(土) 01:15:11 ID:Pp4Q51gY
『手、繋いでくれませんか?』
思えばあの時サシャの手をすぐに取れなかったのも、似たような感情のせいだった。
そう、俺は――後ろめたいんだ。
今生きている自分が、氏者の前で恋人の傍にといようとすることが。
生きて恋人にすがりながら、もう物も言えぬ氏者と向き合おうとすることが。
自分の中の葛藤が認識できたその時、サシャがさっきの問いかけの答えを出した。
サシャ「……私は、言ってもいいって、思ってます」
56: 2013/12/28(土) 01:17:17 ID:Pp4Q51gY
サシャ「皆が無念に思ったこと、私は皆の代わりに全部やってあげます」
サシャ「皆の夢、皆の希望、全部全部背負います」
サシャ「だって、私達は生きてるんですから。私達にしか出来ないんですから」
サシャ「皆のおかげで私達の命が繋がっているのなら、皆のためにも精一杯生きたい」
サシャ「コニーがあの時言ってたことは、そういうことだって、私は思っていたんですけれど」
『生きてるよな、俺達』
サシャ「あれは……自分がまだ氏んでないことを、確認したかっただけなんですか?」
57: 2013/12/28(土) 01:18:37 ID:Pp4Q51gY
俺は言葉が続かなかった。代わりにサシャは、今までで一番語気を強めて言った。
サシャ「私、調査兵団に行きます」
サシャ「ついてきてほしいとは言いません。兵団を決めるのは、自分の意志ですから」
サシャ「でも……コニーが憲兵団か駐屯兵団を選ぶなら、ここでお別れになってしまうから……だから」
声が少しずつ、震えを帯びてきている。一呼吸おいて、彼女は一気に吐き出した。
58: 2013/12/28(土) 01:20:07 ID:Pp4Q51gY
サシャ「絶対、氏なないで下さいね」
サシャ「私が見てないところで、氏んだりしないでください」
サシャ「兵団が違うんじゃ私、コニーに何も出来ないのに、勝手に氏なれるなんて嫌ですからね」
サシャ「あと、ご飯はちゃんと食べて下さいよ? 私が近くにいないからって、嫌いなもの残さないで下さいね」
サシャ「新しい配属先で上官に頭掴まれるようなこと、ないようにして下さいね」
サシャ「それから――」
サシャ「それから……」
サシャ「どうか、いつまでも元気で」
59: 2013/12/28(土) 01:21:17 ID:Pp4Q51gY
その言葉に、俺はようやく顔を上げた。
彼女はもう踵を返していた。ドアノブをひねり、扉の向こうへと消えていく。
かつて彼女に買ってあげた、白い花の髪飾りが遠ざかる。
一番欲しいと心から望んだ、彼女の笑顔が脳裏に浮かぶ。
60: 2013/12/28(土) 01:22:30 ID:Pp4Q51gY
俺は
どこまで馬鹿なんだ
コニー「――サシャ!!」
61: 2013/12/28(土) 01:29:30 ID:Pp4Q51gY
◇
エルヴィン「――ではここにいる者を、新たに調査兵団に迎え入れる!」
エルヴィン「これが本物の敬礼だ。心臓を捧げよ!」
一同「はっ!!」バッ
コニー「……」
サシャ「……」
62: 2013/12/28(土) 01:30:42 ID:Pp4Q51gY
結局俺は、調査兵団に入ってしまった。
もう後戻りは出来ない。震える心臓を右手の拳で上から抑える。
すると、喉を引きつらせて出しているような声が聞こえた。右隣に視線を向ける。
サシャ「っく……うぇ、えっ」
彼女が、泣いていた。
63: 2013/12/28(土) 01:32:51 ID:Pp4Q51gY
コニー「サ、シャ……?」
サシャ「怖いよぉ……村に帰りたい……っ」
我慢していたものが、一気に溢れているというような涙だった。顔をくしゃくしゃにして、頬を濡らしている。
今度こそ俺は、サシャの手をとって握りしめた。
心臓を捧げた右手を伸ばし、背中に回されたサシャの左手を掴んで引き寄せた。
サシャはびっくりした顔でこちらを見た。俺はふさがった右手の代わりに、左手の拳で心臓を捧げた。
懐かしい姿勢だ。
64: 2013/12/28(土) 01:36:46 ID:Pp4Q51gY
エルヴィン団長が俺達の様子に気づいて近づいてくる。サシャももちろんだが、他の奴らの空気も一気に変わった。
丁度、隣のこいつが教官の前で芋を食ってた時みたいだ。
団長は小さく含み笑いをしながら言った。
エルヴィン「君の心臓は右にあるのか?」
たまらず吹き出す声が、あちこちから聞こえてきた。
65: 2013/12/28(土) 01:38:08 ID:Pp4Q51gY
それから俺達は
何度も傷つけたし
何度も傷つけられたし
何度も氏線をくぐり抜けた。
66: 2013/12/28(土) 01:39:04 ID:Pp4Q51gY
巨人に加えかつての104期の仲間と戦うのは精神的にも堪えた。
氏んだ奴もいたけれど、生き残った奴もいた。
誰かが氏ぬたびに誰かが泣いた。
俺も泣いた。サシャも泣いた。
67: 2013/12/28(土) 01:39:46 ID:Pp4Q51gY
そして
戦いを終えて
俺達はまた幾月も共にいて
幾年も傍にいるのがあたり前になって
そして
そして――……
68: 2013/12/28(土) 01:40:58 ID:Pp4Q51gY
「怖くなかったか」
「怖くはないですよ」
「痛くないか」
「すごく痛いです」
「うっ、悪りい……止まんなくて」
「大丈夫ですよ。私もそう望んでたんですから」
69: 2013/12/28(土) 01:43:04 ID:Pp4Q51gY
「今、どんなこと考えてる?」
「コニーも大きくなったんやな~、と」
「ぶっ、何だよそれ」
「そのまんまですよ。身長は結局私を抜かせられませんでしたけど、心が大きくなりました」
「俺は抜かしたかったんだけどな」
「残念ながら無理のようですね」
70: 2013/12/28(土) 01:44:22 ID:Pp4Q51gY
「サシャ、もう俺に遠慮しなくなったよな」
「遠慮してましたか?」
「あぁ」
「そうですか……でももう私、例え自分がどんなことをしても、コニーにはきっと軽蔑されないっていう自信がつきましたから」
「当たり前だろ」
「ふふっ……ありがとう」
「俺の方こそ……お前のおかげで」
今、すごく幸せだ。
71: 2013/12/28(土) 01:46:32 ID:Pp4Q51gY
「父ちゃん! 勝負だ!」
「おっ、いいぜ。何の勝負がしたいんだ?」
「かけっこ!」
「よし、じゃああの木まで競争だ」
「うん!」
「行くぞマーティン。よーい、どん!」
72: 2013/12/28(土) 01:47:26 ID:Pp4Q51gY
「ママー、なに作ってるの?」
「お洋服ですよ。生まれてくる赤ちゃんのために」
「サニーも! サニーも作る!」
「じゃあ、そこにある布をハサミで切ってくれますか。線に沿って」
「はーい!」
「サニーは優しい子ですね」
「だってうれしいんだもん!」
「そうですね。私も嬉しいです。また家族が増えることが」
73: 2013/12/28(土) 01:50:00 ID:Pp4Q51gY
これから先、どんな未来が待っているのか
それは誰にもわからないけれど
みんなに守られた、この魂が尽きるまで
十年後も、二十年後も、二千年後も
「コニー」
「サシャ」
一緒に生きよう。
終わり
74: 2013/12/28(土) 01:52:58 ID:Pp4Q51gY
読んでくださった方、支援してくださった方ありがとうございました。
これにて終了とさせていただきます。
これにて終了とさせていただきます。
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